成形型およびその製造方法
【課題】ガラス状炭素部材を用いて、離型性が高く、しかも凹凸部のアスペクト比が大きい場合に適した成形型およびその製造方法を提供する。
【解決手段】成形型1は、ガラス状炭素からなるガラス状炭素部2の内側に黒鉛からなる黒鉛部3が形成されているガラス状炭素部材を用いている。この成形型1は、側部または底部に黒鉛部3およびガラス状炭素部2がともに露出している穴部11,12,13を有している。また、穴部11,12,13は、側部または底部のうちの黒鉛部3が露出している黒鉛エリアがガラス状炭素部2が露出しているガラス状炭素エリアよりも大きく形成されている。
【解決手段】成形型1は、ガラス状炭素からなるガラス状炭素部2の内側に黒鉛からなる黒鉛部3が形成されているガラス状炭素部材を用いている。この成形型1は、側部または底部に黒鉛部3およびガラス状炭素部2がともに露出している穴部11,12,13を有している。また、穴部11,12,13は、側部または底部のうちの黒鉛部3が露出している黒鉛エリアがガラス状炭素部2が露出しているガラス状炭素エリアよりも大きく形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス状炭素からなるガラス状炭素部材を用いた成形型およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の成形加工によって、溝、凹み、凸部といった凹部または凸部のいずれか少なくとも一方からなる凹凸部を成形部材に設けた成形型が知られている。この種の成形型は、凹凸部に樹脂等の成形物を流し込むなどした後、成型物(転写物ともいう)を抜き取ることによって、成型物に対して所望の成形が行えるようになっている。しかしながら、幅や深さ等凹凸部の寸法が微細な場合や、凹みの大きさに比べて深さが深く、凹みのアスペクト比が大きい場合には、成型物自体が溝や凹みの中に残ってしまうことがあった。そのため、この種の成形型では、離型性を高めることが求められていた。
【0003】
従来、成形型の離型性を高める技術として例えば、特許文献1,2,3に開示されている技術があった。特許文献1には、炭素またはフッ素を含有するイオンを処理物表面に注入するとともにフッ素含有炭素膜を形成することにより、潤滑性と離型性を兼備させることについて開示されている。また、特許文献2には、母材表面にイオンを注入することにより、母材表面を結晶が小さく緻密で均一になるようにして摩擦係数を低下させることが開示されている。さらに、特許文献3には、イオン注入によりアルカリ金属元素等を含む離型層を成形面に形成することにより、型に離型性を付与することが開示されている。
【特許文献1】特開2005−048252号公報
【特許文献2】特開2001−179420号公報
【特許文献3】特開平8−119644号公報
【特許文献4】特開平2−51412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、黒鉛は表面の潤滑性が良好であるため、黒鉛からなる成形部材を用いることによって、成形型の離型性を高めることが可能になる。
【0005】
しかし、この成形型は成形部材が黒鉛からなるために脆弱であり、したがって強度が低く、繰り返し使用した場合に凹凸部がかけるなどして破損するおそれがあった。
【0006】
一方、黒鉛とは結晶構造が異なるものの、強度の高い材質としてガラス状炭素が知られている。特許文献4には、ガラス状炭素からなる成形部材の内部を黒鉛にする技術について開示されている。
【0007】
しかし、特許文献4記載の従来技術では、離型性を高めるための黒鉛がガラス状炭素からなる部材(ガラス状炭素部材)の内側に閉じ込められてしまう。そのため、できあがった成形部材の表面に凹凸部を形成しても、離型性を高い成形型が得られない場合があった。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、ガラス状炭素部材を用いた離型性が高く、特に凹凸部のアスペクト比が大きい場合に適した成形型およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型であって、側部または底部に黒鉛部およびガラス状炭素部がともに露出している凹凸部を有する成形型を特徴とする。
【0010】
この成形型は、凹凸部の側部または底部に黒鉛部およびガラス状炭素部がともに露出しているため、離型性が高くなっている。
【0011】
また、本発明は、ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型であって、ガラス状炭素部および黒鉛部がともに露出している凹凸部を有し、凹凸部の側部または底部のうちの黒鉛部が露出している黒鉛エリアが、ガラス状炭素部が露出しているガラス状炭素エリアよりも大きく形成されている成形型を提供する。
【0012】
この成形型は、凹凸部の側部または底部に黒鉛部およびガラス状炭素部がともに露出し、しかも黒鉛エリアがガラス状炭素エリアよりも大きいため、離型性がより高くなっている。
【0013】
また、上記成形型は、凹凸部のガラス状炭素部を通る部分の深さよりも黒鉛部を通る部分の深さが大きいことが好ましい。
【0014】
このようにすると、凹凸部の側部に露出する黒鉛エリアがガラス状炭素エリアよりも大きくなるため、上記成形型は、側部における離型性が高くなっている。
【0015】
さらに、上記成形型は、ガラス状炭素部材として、直方体状に形成された直方体状炭素部材を用い、その直方体状炭素部材における1つの表面部だけに凹凸部が形成されているようにすることができる。
【0016】
そのほか、ガラス状炭素部材として、直方体状に形成された直方体状炭素部材を用い、その直方体状炭素部材を構成する角部を含むガラス状炭素部および黒鉛部の一部が除去されることによって凹凸部が形成されているようにすることもできる。
【0017】
そして、本発明は、ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型の製造方法であって、ガラス状炭素部材におけるガラス状炭素部および黒鉛部の一部を除去して、側部または底部に黒鉛部およびガラス状炭素部がともに露出している凹凸部を形成する成形型の製造方法を特徴とする。
【0018】
この製造方法では、ガラス状炭素部材のガラス状炭素部および黒鉛部の一部を除去することによって、離型性の高い成形型が得られる。
【0019】
また、上記製造方法では、ガラス状炭素で構成される基材を熱間等方圧加圧法(Hot Isostatic Pressing)処理することによって、基材を構成するガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部を形成してガラス状炭素部材を形成することができる。
【0020】
この場合、熱間等方圧加圧法処理を行うときに、160Mpa〜200Mpaの範囲で加圧し、かつ1500℃〜2500℃の範囲で加熱することができ、160Mpa〜180Mpaの範囲で加圧し、かつ1500℃〜2000℃の範囲で加熱することもできる。
【0021】
また、熱間等方圧加圧法処理を行う前に、500℃〜1400℃の範囲で前記基材を加熱する事前熱処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
以上詳述したように本発明によれば、ガラス状炭素部材を用いた離型性が高く、特に凹凸部のアスペクト比が大きい場合に適した成形型およびその製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0024】
第1の実施形態
(成形型の構成)
図1は本発明の実施の形態に係る成形型1の斜視図、図2は図1のI-I線断面図である。また、図3は成形型1の平面図、図4は図2の要部を拡大した断面図である。成形型1は直方体状の本体部10における1つの平面部1aに、3種類の穴部11,12,13がそれぞれ2つずつ並べて形成されている。
【0025】
本体部10は、全表面がガラス状炭素からなるガラス状炭素部2で構成され、その内側に黒鉛からなる黒鉛部3が形成された2層構造を有している。本体部10は、後述する製造方法によって形成されるものである。図2、図3に示すように、本体部10は、黒鉛部3の周囲全体をガラス状炭素部2が被覆していて、黒鉛部3がガラス状炭素部2の内側に閉じ込められている。
【0026】
本体部10は、厚さがLMであり、そのうちの黒鉛部3からみて一方に位置する、すなわち、平面部1aを形成しているガラス状炭素部2の厚さがL0である。また、黒鉛部3の厚さはL2となっている。L0は概ねLMの数%から10%程度の厚さ、L2はLMの80%程度から90%程度を占める厚さとなっている。
【0027】
穴部11,12,13はいずれも開口部の形状が縦横ともにW1の正方形であり、平面部1aからガラス状炭素部2を貫通して黒鉛部3の内部に届く長さを備えた凹部である。穴部11,12,13は、平面部1aと交差する方向に掘削してガラス状炭素部2と黒鉛部3の一部を除去することによって形成されていて、黒鉛部3の内部にそれぞれの底部11a、12a、13aが位置している。
【0028】
そして、穴部11は平面部1aから底部11aまでの深さがL0+D1、穴部12は平面部1aから底部12aまでの深さがL0+D2、穴部13は平面部1aから底部13aまでの深さがL0+D3となっている。D1はL0と同じ大きさ、D2、D3はいずれもL0よりも大きく、しかもD2<D3<L2となっている。穴部11,12,13の深さはW1よりも大きくなっている。
【0029】
穴部11,12,13は、その側部に、黒鉛部3とガラス状炭素部2がともに露出しているが、深さD1が厚さL0と同じ大きさなので、穴部11におけるガラス状炭素部2の部分を通る深さと黒鉛部3を通る部分の深さが同じになっている。そのため、穴部11の側部のうちの、黒鉛部3が露出している黒鉛エリア11cの表面積が、ガラス状炭素部2が露出しているガラス状炭素エリア11dの表面積と同じ大きさになっている。しかし、底部11aは黒鉛部3の内部に形成されているため、穴部11内側全体の表面積を見ると、黒鉛部3の露出している部分の表面積がガラス状炭素部2の露出している部分の表面積よりも大きくなっている。
【0030】
また、深さD2、D3はいずれも厚さL0よりも大きいので、穴部12,13では、側部における黒鉛エリア12c、13cの表面積が、ガラス状炭素エリア12d、13dの表面積よりも大きくなっている。
【0031】
そして、以上の構成を有する成形型1は、図12、図13に示すようにして使用することによって、所望の転写部61を製造することができる。
【0032】
まず、図12に示すように、成形型1が内側に組み込める構造を備えた成型装置50を準備する。成型装置50は分解および組み立て自在の4つの壁部と、1つの底部とを有し、これらによって囲まれる空間(成形用空間ともいう)の底部上に成形型1を載せて成形型1を組み込めるようになっている。図12、図13では、成形用空間に成形型1を納めて成型装置50に成形型1を組み込んだ上、露出している穴部11と穴部13を図示しないカバー部材で塞ぎ、穴部12だけが平面部1a上に露出している状態を想定している。図示の都合上、成形型1と、後述する樹脂60だけを断面で示している。
【0033】
次に、成形用空間に上側から樹脂60を流し込む。すると、図13に示すように、樹脂60は成形型1の平面部1aから穴部12の中に流れ込む。この樹脂60を硬化させた後、成型装置50を分解して、成形型1を樹脂60とともに成型装置50から取り外す。それから、成形型1を樹脂60から取り外すことにより、図14に示すような構造の転写物61を得ることができる。この転写物61は、穴部12に対応した2本の突起部61aを有している。
【0034】
以上のように、成形型1は、3種類の穴部11,12,13を有するが、いずれも側部に黒鉛部3とガラス状炭素部2がともに露出している。そのため、穴部11,12,13の内側に転写物の材料が流し込まれたとき、例えば、前述のように、樹脂60が穴部12に流し込まれたとき、その樹脂60は、穴部12の側部において、黒鉛部3とガラス状炭素部2の双方に接触することになる。すると、樹脂60が黒鉛部3に接触することによって、転写物61を抜き取るときに黒鉛部3における良好な離型性が発揮される。したがって、成形型1は、離型の難しい穴部から転写物をうまく剥がすことができる。特に、穴部11,12,13は、開口部の大きさよりも深さが深くアスペクト比が高いので、成形型1はアスペクト比が高い突起等の凸部の成形用として好適である。
【0035】
その上、穴部11,12,13は、側部または底部のうちの黒鉛エリアの表面積がガラス状炭素エリアの表面積よりも大きく形成されているため、黒鉛部3に接触する部分の面積の方がガラス状炭素部2に接触する部分の面積よりも大きくなる。穴部11の場合は、黒鉛に接触する部分の面積の方が底部の分だけ大きくなる。
【0036】
そのため、穴部11,12,13では、内側に入り込んだ転写物のうちの、黒鉛に接触する表面積の方がガラス状炭素に接触する表面積よりも大きくなり、黒鉛部3のより一層良好な離型性が発揮される。
【0037】
そして、成形型1は、黒鉛部3の外側にガラス状炭素部2が形成されている。ガラス状炭素部2はガラス状炭素から形成され、強度が高い。そのため、成形型1において、他の部材に接触する機会の多い外表面部分の強度を高めることができる。すなわち、成形型1は、繰り返し使用しても摩耗や損傷が生じ難く耐久性が良好になっている。
【0038】
(成形型の製造方法)
次に、成形型1の製造方法について、図11を参照して説明する。まず、ガラス状炭素で構成される本体部10と同じ形状を備えた基材1Aを準備する。基材1Aは例えば、縦幅10mm,横幅20mm、厚さは3〜5mmのものを用いることができる。基材1Aは約1000℃で予め所定の熱処理(事前熱処理)が行われたものを用いる。基材1Aは、上記とは異なる寸法でもよい。例えば、縦幅15mm,横幅25mm、厚さは8〜10mmのものを用いてもよい。また、事前熱処理の温度は約1000℃でなくてもよく、例えば約800℃や約1200℃でもよい。
【0039】
この基材1Aを図11に示すように、所定の密閉炉55の中に収納する。そして、密閉炉55の中にアルゴン等のガスを導入しながら150Mpa〜200Mpaの圧力で加圧するとともに、1500℃〜2500℃の温度(好ましくは1700℃〜2000℃の温度)で加熱して熱間等方圧加圧法(Hot Isostatic Pressing;HIPともいう)処理する。すると、基材1Aの内部が黒鉛になり、前述の本体部10を得ることができる。
【0040】
得られた本体部10は、図15に示すようになっていて、黒鉛部3の周囲全体をガラス状炭素部2が被覆している。また、黒鉛部3は図16に示すような略球状の結晶を有している。図17には、2500℃、200Mpaの条件でHIP処理した場合の本体部10に対するX線を用いた分析結果が示されている。図17に示すように、HIP処理により、本体部10の内部が黒鉛部3になっていることがわかる。なお、(a)はHIP処理していない基材の分析結果、(b)は2500℃、200Mpaの条件でHIP処理した場合の本体部10の外側(ガラス状炭素部2)の分析結果、(c)は同じく本体部10の内部(黒鉛部3)の分析結果を示している。
【0041】
続いて、本体部10の平面部1aにおいて、所定の装置を用いてガラス状炭素部2および黒鉛部3の一部を掘削して除去し、穴部11,12,13を形成すると、成形型1が得られる。
【0042】
上記の製造方法では、HIP処理した後の本体部に穴部を形成して、成形型1を製造しているが、次のようにして成形型1を製造してもよい。まず、図18(a)に示すように、本体部10に穴部25,25を形成し、それからその本体部10にHIP処理を行う。すると、図18(b)に示すように、穴部の側部がガラス状炭素部2で覆われた成形型が得られる。この成形型の穴部の側部および底部におけるガラス状炭素部2を除去すると、図18(c)に示すように穴部の側部にガラス状炭素部2と黒鉛部3が露出している成形型26が得られる。
【0043】
(変形例1)
前述した成形型1は、開口部の形状が正方形の穴部11,12,13が形成されている。本発明は、図5、6に示すように、開口部の形状が横幅W1、縦幅W2(W1<W2)の長方形の穴部21,22,23が形成されている成形型20についても適用がある。穴部21,22,23はいずれも側部における黒鉛エリアの表面積が、ガラス状炭素エリアの表面積よりも大きくなっている。そのため、成形型20も成形型1と同様の良好な離型性を備えている。また、表面がガラス状炭素で覆われているから、繰り返し使用しても摩耗や損傷が生じ難く耐久性が良好になっている。
【0044】
(変形例2)
また、本実施の形態は、図7に示すように、開口部の形状が平面渦巻き状に形成された穴部24(深さはD0+D2)が形成されている成形型25についても適用がある。穴部24も、側部における黒鉛エリアの表面積が、ガラス状炭素エリアの表面積よりも大きくなっているため、成形型25も成形型1と同様の良好な離型性を備えている。また、表面がガラス状炭素で覆われているから、繰り返し使用しても摩耗や損傷が生じ難く耐久性が良好になっている。
【0045】
第2の実施形態
第1の実施形態では、本体部10の平面部1aから平面部1aと交差する方向に掘削することによって、ガラス状炭素部2と黒鉛部3の一部を除去して穴部を設けていた。第2の実施形態では、平面部1aの4つの角部を削り取って除去することで凹部を設けている。図8、図9には、このようにして製造した成形型30が開示されている。
【0046】
成形型30は、図8、図9に示すように、本体部10の4つの角部を縦横W3、W4で深さD5のサイズで除去して凹部40を形成するとともに、角部の間を縦横W3、W3で除去して凹部41を形成することで、凸部31を形成したものである。D5は前述のLMの約40%程度の大きさである。
【0047】
成形型30では、凹部40、41を形成することで得られる側部31a,31bおよび底部31cには、ガラス状炭素部2と黒鉛部3が共に露出している。しかも、側部31a,31b,底部31cの表面積のうち、黒鉛エリアの表面積がガラス状炭素エリアの表面積よりも大きくなっている(黒鉛部3の露出部分にはドットを付している)。
【0048】
このような成形型30を用いて成形加工を行うと、転写物のうちの、黒鉛部3に接触する表面積の方がガラス状炭素部2に接触する表面積よりも大きくなる。したがって、成形型30を用いて成形加工を行うと、転写物をうまく剥がすことができる。凹部40、41において、2つの側部31a,31bおよび底部31cの3つの部分ともに、黒鉛エリアの表面積がガラス状炭素エリアの表面積よりも大きく、しかも、奥まった部分の角部32が黒鉛部3で囲まれているから、剥がし難い部分も剥がれ易くとりわけ良好な離型性を発揮できる。さらに、凸部31の外側部分はガラス状炭素で覆われているから、繰り返し使用しても摩耗や損傷が生じ難く耐久性が良好である。
【0049】
(変形例)
本実施の形態は、成形型30のほか、図10に示す成形型35についても適用することができる。成形型35は、4つの角部のうち、隣り合う角部をまとめて幅W4、深さD5で削り取って凹部43を形成するとともに、凹部43の間の部分を幅W5、深さD5で凹部43と同じ方向に削り取って凹部44を形成して凸部36を形成したものである。
【0050】
この成形型35の場合も、凹部43、44を形成することで得られる側部36aおよび底部36bには、ガラス状炭素部2と黒鉛部3が共に露出し、黒鉛エリアの表面積がガラス状炭素エリアの表面積よりも大きくなっているから、成形型30と同様の良好な離型性を発揮できる。さらに、凸部36の外側部分はガラス状炭素で覆われているから、繰り返し使用しても摩耗や損傷が生じ難く耐久性が良好である。
【0051】
以上の説明は、本発明の実施の形態についての説明であって、この発明を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができる。又、各実施形態における構成要素、機能、特徴あるいは方法ステップを適宜組み合わせて構成される装置又は方法も本発明に含まれるものである。
【0052】
例えば、以上の各実施の形態では、直方体状の本体部10を例にとって説明しているが、平板状の本体部を用いてもよいし、球状の本体部を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1の実施の形態に係る成形型の一例を示す斜視図である。
【図2】図1のI-I線断面図である。
【図3】成形型の平面図である。
【図4】図2の要部を拡大した断面図である。
【図5】変形例に係る成形型の平面図である。
【図6】図5のVI-VI線断面図である。
【図7】別の変形例に係る成形型の平面図である。
【図8】第2の実施の形態に係る成形型の一例を示す平面図である。
【図9】同じく、成形型の斜視図である。
【図10】変形例に係る成形型の斜視図である。
【図11】第1の実施の形態に係る成形型の製造工程の一例を示す図である。
【図12】第1の実施の形態に係る成形型を用いた成形工程の一例を示す図である。
【図13】図12の後続の工程を示す図である。
【図14】第1の実施の形態に係る成形型を用いて製造される転写物の一例を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態に係るガラス状炭素部材の一例を示し、(a)は断面図、(b)は(a)の要部拡大図である。
【図16】黒鉛部の結晶構造を示す図である。
【図17】HIP処理した場合の本体部に対するX線を用いた分析結果を示す図である。
【図18】成形型の別の製造工程の一例を示す図で、(a)は穴部を設けた本体部を示し、(b)はHIP処理した場合の本体部を示し、(c)は完成した成形型を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1、20、25、26、30、35…成形型、2…ガラス状炭素部、3…黒鉛部、11、12,13、21、22,23、24…穴部、11c、12c、13c…黒鉛エリア、11d、12d、13d…ガラス状炭素エリア、31、36…凸部、40、41、44…凹部、50…成型装置、61…転写物。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス状炭素からなるガラス状炭素部材を用いた成形型およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の成形加工によって、溝、凹み、凸部といった凹部または凸部のいずれか少なくとも一方からなる凹凸部を成形部材に設けた成形型が知られている。この種の成形型は、凹凸部に樹脂等の成形物を流し込むなどした後、成型物(転写物ともいう)を抜き取ることによって、成型物に対して所望の成形が行えるようになっている。しかしながら、幅や深さ等凹凸部の寸法が微細な場合や、凹みの大きさに比べて深さが深く、凹みのアスペクト比が大きい場合には、成型物自体が溝や凹みの中に残ってしまうことがあった。そのため、この種の成形型では、離型性を高めることが求められていた。
【0003】
従来、成形型の離型性を高める技術として例えば、特許文献1,2,3に開示されている技術があった。特許文献1には、炭素またはフッ素を含有するイオンを処理物表面に注入するとともにフッ素含有炭素膜を形成することにより、潤滑性と離型性を兼備させることについて開示されている。また、特許文献2には、母材表面にイオンを注入することにより、母材表面を結晶が小さく緻密で均一になるようにして摩擦係数を低下させることが開示されている。さらに、特許文献3には、イオン注入によりアルカリ金属元素等を含む離型層を成形面に形成することにより、型に離型性を付与することが開示されている。
【特許文献1】特開2005−048252号公報
【特許文献2】特開2001−179420号公報
【特許文献3】特開平8−119644号公報
【特許文献4】特開平2−51412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、黒鉛は表面の潤滑性が良好であるため、黒鉛からなる成形部材を用いることによって、成形型の離型性を高めることが可能になる。
【0005】
しかし、この成形型は成形部材が黒鉛からなるために脆弱であり、したがって強度が低く、繰り返し使用した場合に凹凸部がかけるなどして破損するおそれがあった。
【0006】
一方、黒鉛とは結晶構造が異なるものの、強度の高い材質としてガラス状炭素が知られている。特許文献4には、ガラス状炭素からなる成形部材の内部を黒鉛にする技術について開示されている。
【0007】
しかし、特許文献4記載の従来技術では、離型性を高めるための黒鉛がガラス状炭素からなる部材(ガラス状炭素部材)の内側に閉じ込められてしまう。そのため、できあがった成形部材の表面に凹凸部を形成しても、離型性を高い成形型が得られない場合があった。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、ガラス状炭素部材を用いた離型性が高く、特に凹凸部のアスペクト比が大きい場合に適した成形型およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型であって、側部または底部に黒鉛部およびガラス状炭素部がともに露出している凹凸部を有する成形型を特徴とする。
【0010】
この成形型は、凹凸部の側部または底部に黒鉛部およびガラス状炭素部がともに露出しているため、離型性が高くなっている。
【0011】
また、本発明は、ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型であって、ガラス状炭素部および黒鉛部がともに露出している凹凸部を有し、凹凸部の側部または底部のうちの黒鉛部が露出している黒鉛エリアが、ガラス状炭素部が露出しているガラス状炭素エリアよりも大きく形成されている成形型を提供する。
【0012】
この成形型は、凹凸部の側部または底部に黒鉛部およびガラス状炭素部がともに露出し、しかも黒鉛エリアがガラス状炭素エリアよりも大きいため、離型性がより高くなっている。
【0013】
また、上記成形型は、凹凸部のガラス状炭素部を通る部分の深さよりも黒鉛部を通る部分の深さが大きいことが好ましい。
【0014】
このようにすると、凹凸部の側部に露出する黒鉛エリアがガラス状炭素エリアよりも大きくなるため、上記成形型は、側部における離型性が高くなっている。
【0015】
さらに、上記成形型は、ガラス状炭素部材として、直方体状に形成された直方体状炭素部材を用い、その直方体状炭素部材における1つの表面部だけに凹凸部が形成されているようにすることができる。
【0016】
そのほか、ガラス状炭素部材として、直方体状に形成された直方体状炭素部材を用い、その直方体状炭素部材を構成する角部を含むガラス状炭素部および黒鉛部の一部が除去されることによって凹凸部が形成されているようにすることもできる。
【0017】
そして、本発明は、ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型の製造方法であって、ガラス状炭素部材におけるガラス状炭素部および黒鉛部の一部を除去して、側部または底部に黒鉛部およびガラス状炭素部がともに露出している凹凸部を形成する成形型の製造方法を特徴とする。
【0018】
この製造方法では、ガラス状炭素部材のガラス状炭素部および黒鉛部の一部を除去することによって、離型性の高い成形型が得られる。
【0019】
また、上記製造方法では、ガラス状炭素で構成される基材を熱間等方圧加圧法(Hot Isostatic Pressing)処理することによって、基材を構成するガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部を形成してガラス状炭素部材を形成することができる。
【0020】
この場合、熱間等方圧加圧法処理を行うときに、160Mpa〜200Mpaの範囲で加圧し、かつ1500℃〜2500℃の範囲で加熱することができ、160Mpa〜180Mpaの範囲で加圧し、かつ1500℃〜2000℃の範囲で加熱することもできる。
【0021】
また、熱間等方圧加圧法処理を行う前に、500℃〜1400℃の範囲で前記基材を加熱する事前熱処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
以上詳述したように本発明によれば、ガラス状炭素部材を用いた離型性が高く、特に凹凸部のアスペクト比が大きい場合に適した成形型およびその製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0024】
第1の実施形態
(成形型の構成)
図1は本発明の実施の形態に係る成形型1の斜視図、図2は図1のI-I線断面図である。また、図3は成形型1の平面図、図4は図2の要部を拡大した断面図である。成形型1は直方体状の本体部10における1つの平面部1aに、3種類の穴部11,12,13がそれぞれ2つずつ並べて形成されている。
【0025】
本体部10は、全表面がガラス状炭素からなるガラス状炭素部2で構成され、その内側に黒鉛からなる黒鉛部3が形成された2層構造を有している。本体部10は、後述する製造方法によって形成されるものである。図2、図3に示すように、本体部10は、黒鉛部3の周囲全体をガラス状炭素部2が被覆していて、黒鉛部3がガラス状炭素部2の内側に閉じ込められている。
【0026】
本体部10は、厚さがLMであり、そのうちの黒鉛部3からみて一方に位置する、すなわち、平面部1aを形成しているガラス状炭素部2の厚さがL0である。また、黒鉛部3の厚さはL2となっている。L0は概ねLMの数%から10%程度の厚さ、L2はLMの80%程度から90%程度を占める厚さとなっている。
【0027】
穴部11,12,13はいずれも開口部の形状が縦横ともにW1の正方形であり、平面部1aからガラス状炭素部2を貫通して黒鉛部3の内部に届く長さを備えた凹部である。穴部11,12,13は、平面部1aと交差する方向に掘削してガラス状炭素部2と黒鉛部3の一部を除去することによって形成されていて、黒鉛部3の内部にそれぞれの底部11a、12a、13aが位置している。
【0028】
そして、穴部11は平面部1aから底部11aまでの深さがL0+D1、穴部12は平面部1aから底部12aまでの深さがL0+D2、穴部13は平面部1aから底部13aまでの深さがL0+D3となっている。D1はL0と同じ大きさ、D2、D3はいずれもL0よりも大きく、しかもD2<D3<L2となっている。穴部11,12,13の深さはW1よりも大きくなっている。
【0029】
穴部11,12,13は、その側部に、黒鉛部3とガラス状炭素部2がともに露出しているが、深さD1が厚さL0と同じ大きさなので、穴部11におけるガラス状炭素部2の部分を通る深さと黒鉛部3を通る部分の深さが同じになっている。そのため、穴部11の側部のうちの、黒鉛部3が露出している黒鉛エリア11cの表面積が、ガラス状炭素部2が露出しているガラス状炭素エリア11dの表面積と同じ大きさになっている。しかし、底部11aは黒鉛部3の内部に形成されているため、穴部11内側全体の表面積を見ると、黒鉛部3の露出している部分の表面積がガラス状炭素部2の露出している部分の表面積よりも大きくなっている。
【0030】
また、深さD2、D3はいずれも厚さL0よりも大きいので、穴部12,13では、側部における黒鉛エリア12c、13cの表面積が、ガラス状炭素エリア12d、13dの表面積よりも大きくなっている。
【0031】
そして、以上の構成を有する成形型1は、図12、図13に示すようにして使用することによって、所望の転写部61を製造することができる。
【0032】
まず、図12に示すように、成形型1が内側に組み込める構造を備えた成型装置50を準備する。成型装置50は分解および組み立て自在の4つの壁部と、1つの底部とを有し、これらによって囲まれる空間(成形用空間ともいう)の底部上に成形型1を載せて成形型1を組み込めるようになっている。図12、図13では、成形用空間に成形型1を納めて成型装置50に成形型1を組み込んだ上、露出している穴部11と穴部13を図示しないカバー部材で塞ぎ、穴部12だけが平面部1a上に露出している状態を想定している。図示の都合上、成形型1と、後述する樹脂60だけを断面で示している。
【0033】
次に、成形用空間に上側から樹脂60を流し込む。すると、図13に示すように、樹脂60は成形型1の平面部1aから穴部12の中に流れ込む。この樹脂60を硬化させた後、成型装置50を分解して、成形型1を樹脂60とともに成型装置50から取り外す。それから、成形型1を樹脂60から取り外すことにより、図14に示すような構造の転写物61を得ることができる。この転写物61は、穴部12に対応した2本の突起部61aを有している。
【0034】
以上のように、成形型1は、3種類の穴部11,12,13を有するが、いずれも側部に黒鉛部3とガラス状炭素部2がともに露出している。そのため、穴部11,12,13の内側に転写物の材料が流し込まれたとき、例えば、前述のように、樹脂60が穴部12に流し込まれたとき、その樹脂60は、穴部12の側部において、黒鉛部3とガラス状炭素部2の双方に接触することになる。すると、樹脂60が黒鉛部3に接触することによって、転写物61を抜き取るときに黒鉛部3における良好な離型性が発揮される。したがって、成形型1は、離型の難しい穴部から転写物をうまく剥がすことができる。特に、穴部11,12,13は、開口部の大きさよりも深さが深くアスペクト比が高いので、成形型1はアスペクト比が高い突起等の凸部の成形用として好適である。
【0035】
その上、穴部11,12,13は、側部または底部のうちの黒鉛エリアの表面積がガラス状炭素エリアの表面積よりも大きく形成されているため、黒鉛部3に接触する部分の面積の方がガラス状炭素部2に接触する部分の面積よりも大きくなる。穴部11の場合は、黒鉛に接触する部分の面積の方が底部の分だけ大きくなる。
【0036】
そのため、穴部11,12,13では、内側に入り込んだ転写物のうちの、黒鉛に接触する表面積の方がガラス状炭素に接触する表面積よりも大きくなり、黒鉛部3のより一層良好な離型性が発揮される。
【0037】
そして、成形型1は、黒鉛部3の外側にガラス状炭素部2が形成されている。ガラス状炭素部2はガラス状炭素から形成され、強度が高い。そのため、成形型1において、他の部材に接触する機会の多い外表面部分の強度を高めることができる。すなわち、成形型1は、繰り返し使用しても摩耗や損傷が生じ難く耐久性が良好になっている。
【0038】
(成形型の製造方法)
次に、成形型1の製造方法について、図11を参照して説明する。まず、ガラス状炭素で構成される本体部10と同じ形状を備えた基材1Aを準備する。基材1Aは例えば、縦幅10mm,横幅20mm、厚さは3〜5mmのものを用いることができる。基材1Aは約1000℃で予め所定の熱処理(事前熱処理)が行われたものを用いる。基材1Aは、上記とは異なる寸法でもよい。例えば、縦幅15mm,横幅25mm、厚さは8〜10mmのものを用いてもよい。また、事前熱処理の温度は約1000℃でなくてもよく、例えば約800℃や約1200℃でもよい。
【0039】
この基材1Aを図11に示すように、所定の密閉炉55の中に収納する。そして、密閉炉55の中にアルゴン等のガスを導入しながら150Mpa〜200Mpaの圧力で加圧するとともに、1500℃〜2500℃の温度(好ましくは1700℃〜2000℃の温度)で加熱して熱間等方圧加圧法(Hot Isostatic Pressing;HIPともいう)処理する。すると、基材1Aの内部が黒鉛になり、前述の本体部10を得ることができる。
【0040】
得られた本体部10は、図15に示すようになっていて、黒鉛部3の周囲全体をガラス状炭素部2が被覆している。また、黒鉛部3は図16に示すような略球状の結晶を有している。図17には、2500℃、200Mpaの条件でHIP処理した場合の本体部10に対するX線を用いた分析結果が示されている。図17に示すように、HIP処理により、本体部10の内部が黒鉛部3になっていることがわかる。なお、(a)はHIP処理していない基材の分析結果、(b)は2500℃、200Mpaの条件でHIP処理した場合の本体部10の外側(ガラス状炭素部2)の分析結果、(c)は同じく本体部10の内部(黒鉛部3)の分析結果を示している。
【0041】
続いて、本体部10の平面部1aにおいて、所定の装置を用いてガラス状炭素部2および黒鉛部3の一部を掘削して除去し、穴部11,12,13を形成すると、成形型1が得られる。
【0042】
上記の製造方法では、HIP処理した後の本体部に穴部を形成して、成形型1を製造しているが、次のようにして成形型1を製造してもよい。まず、図18(a)に示すように、本体部10に穴部25,25を形成し、それからその本体部10にHIP処理を行う。すると、図18(b)に示すように、穴部の側部がガラス状炭素部2で覆われた成形型が得られる。この成形型の穴部の側部および底部におけるガラス状炭素部2を除去すると、図18(c)に示すように穴部の側部にガラス状炭素部2と黒鉛部3が露出している成形型26が得られる。
【0043】
(変形例1)
前述した成形型1は、開口部の形状が正方形の穴部11,12,13が形成されている。本発明は、図5、6に示すように、開口部の形状が横幅W1、縦幅W2(W1<W2)の長方形の穴部21,22,23が形成されている成形型20についても適用がある。穴部21,22,23はいずれも側部における黒鉛エリアの表面積が、ガラス状炭素エリアの表面積よりも大きくなっている。そのため、成形型20も成形型1と同様の良好な離型性を備えている。また、表面がガラス状炭素で覆われているから、繰り返し使用しても摩耗や損傷が生じ難く耐久性が良好になっている。
【0044】
(変形例2)
また、本実施の形態は、図7に示すように、開口部の形状が平面渦巻き状に形成された穴部24(深さはD0+D2)が形成されている成形型25についても適用がある。穴部24も、側部における黒鉛エリアの表面積が、ガラス状炭素エリアの表面積よりも大きくなっているため、成形型25も成形型1と同様の良好な離型性を備えている。また、表面がガラス状炭素で覆われているから、繰り返し使用しても摩耗や損傷が生じ難く耐久性が良好になっている。
【0045】
第2の実施形態
第1の実施形態では、本体部10の平面部1aから平面部1aと交差する方向に掘削することによって、ガラス状炭素部2と黒鉛部3の一部を除去して穴部を設けていた。第2の実施形態では、平面部1aの4つの角部を削り取って除去することで凹部を設けている。図8、図9には、このようにして製造した成形型30が開示されている。
【0046】
成形型30は、図8、図9に示すように、本体部10の4つの角部を縦横W3、W4で深さD5のサイズで除去して凹部40を形成するとともに、角部の間を縦横W3、W3で除去して凹部41を形成することで、凸部31を形成したものである。D5は前述のLMの約40%程度の大きさである。
【0047】
成形型30では、凹部40、41を形成することで得られる側部31a,31bおよび底部31cには、ガラス状炭素部2と黒鉛部3が共に露出している。しかも、側部31a,31b,底部31cの表面積のうち、黒鉛エリアの表面積がガラス状炭素エリアの表面積よりも大きくなっている(黒鉛部3の露出部分にはドットを付している)。
【0048】
このような成形型30を用いて成形加工を行うと、転写物のうちの、黒鉛部3に接触する表面積の方がガラス状炭素部2に接触する表面積よりも大きくなる。したがって、成形型30を用いて成形加工を行うと、転写物をうまく剥がすことができる。凹部40、41において、2つの側部31a,31bおよび底部31cの3つの部分ともに、黒鉛エリアの表面積がガラス状炭素エリアの表面積よりも大きく、しかも、奥まった部分の角部32が黒鉛部3で囲まれているから、剥がし難い部分も剥がれ易くとりわけ良好な離型性を発揮できる。さらに、凸部31の外側部分はガラス状炭素で覆われているから、繰り返し使用しても摩耗や損傷が生じ難く耐久性が良好である。
【0049】
(変形例)
本実施の形態は、成形型30のほか、図10に示す成形型35についても適用することができる。成形型35は、4つの角部のうち、隣り合う角部をまとめて幅W4、深さD5で削り取って凹部43を形成するとともに、凹部43の間の部分を幅W5、深さD5で凹部43と同じ方向に削り取って凹部44を形成して凸部36を形成したものである。
【0050】
この成形型35の場合も、凹部43、44を形成することで得られる側部36aおよび底部36bには、ガラス状炭素部2と黒鉛部3が共に露出し、黒鉛エリアの表面積がガラス状炭素エリアの表面積よりも大きくなっているから、成形型30と同様の良好な離型性を発揮できる。さらに、凸部36の外側部分はガラス状炭素で覆われているから、繰り返し使用しても摩耗や損傷が生じ難く耐久性が良好である。
【0051】
以上の説明は、本発明の実施の形態についての説明であって、この発明を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができる。又、各実施形態における構成要素、機能、特徴あるいは方法ステップを適宜組み合わせて構成される装置又は方法も本発明に含まれるものである。
【0052】
例えば、以上の各実施の形態では、直方体状の本体部10を例にとって説明しているが、平板状の本体部を用いてもよいし、球状の本体部を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1の実施の形態に係る成形型の一例を示す斜視図である。
【図2】図1のI-I線断面図である。
【図3】成形型の平面図である。
【図4】図2の要部を拡大した断面図である。
【図5】変形例に係る成形型の平面図である。
【図6】図5のVI-VI線断面図である。
【図7】別の変形例に係る成形型の平面図である。
【図8】第2の実施の形態に係る成形型の一例を示す平面図である。
【図9】同じく、成形型の斜視図である。
【図10】変形例に係る成形型の斜視図である。
【図11】第1の実施の形態に係る成形型の製造工程の一例を示す図である。
【図12】第1の実施の形態に係る成形型を用いた成形工程の一例を示す図である。
【図13】図12の後続の工程を示す図である。
【図14】第1の実施の形態に係る成形型を用いて製造される転写物の一例を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態に係るガラス状炭素部材の一例を示し、(a)は断面図、(b)は(a)の要部拡大図である。
【図16】黒鉛部の結晶構造を示す図である。
【図17】HIP処理した場合の本体部に対するX線を用いた分析結果を示す図である。
【図18】成形型の別の製造工程の一例を示す図で、(a)は穴部を設けた本体部を示し、(b)はHIP処理した場合の本体部を示し、(c)は完成した成形型を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1、20、25、26、30、35…成形型、2…ガラス状炭素部、3…黒鉛部、11、12,13、21、22,23、24…穴部、11c、12c、13c…黒鉛エリア、11d、12d、13d…ガラス状炭素エリア、31、36…凸部、40、41、44…凹部、50…成型装置、61…転写物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型であって、
側部または底部に前記黒鉛部および前記ガラス状炭素部がともに露出している凹凸部を有することを特徴とする成形型。
【請求項2】
ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型であって、
前記ガラス状炭素部および前記黒鉛部がともに露出している凹凸部を有し、
前記凹凸部の側部または底部のうちの前記黒鉛部が露出している黒鉛エリアが、前記ガラス状炭素部が露出しているガラス状炭素エリアよりも大きく形成されていることを特徴とする成形型。
【請求項3】
前記凹凸部の前記ガラス状炭素部を通る部分の深さよりも前記黒鉛部を通る部分の深さが大きいことを特徴とする請求項1または2記載の成形型。
【請求項4】
前記ガラス状炭素部材として、直方体状に形成された直方体状炭素部材を用い、該直方体状炭素部材における1つの表面部だけに前記凹凸部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の成形型。
【請求項5】
前記ガラス状炭素部材として、直方体状に形成された直方体状炭素部材を用い、該直方体状炭素部材を構成する角部を含む前記ガラス状炭素部および前記黒鉛部の一部が除去されることによって前記凹凸部が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の成形型。
【請求項6】
ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型の製造方法であって、
前記ガラス状炭素部材における前記ガラス状炭素部および前記黒鉛部の一部を除去して、側部または底部に前記黒鉛部および前記ガラス状炭素部がともに露出している凹凸部を形成することを特徴とする成形型の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス状炭素で構成される基材を熱間等方圧加圧法(Hot Isostatic Pressing)処理することによって、前記基材を構成するガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部を形成して前記ガラス状炭素部材を形成することを特徴とする請求項6記載の成形型の製造方法。
【請求項8】
前記熱間等方圧加圧法処理を行うときに、160Mpa〜200Mpaの範囲で加圧し、かつ1500℃〜2500℃の範囲で加熱することを特徴とする請求項7記載の成形型の製造方法。
【請求項9】
前記熱間等方圧加圧法処理を行うときに、160Mpa〜180Mpaの範囲で加圧し、かつ1500℃〜2000℃の範囲で加熱することを特徴とする請求項7記載の成形型の製造方法。
【請求項10】
前記熱間等方圧加圧法処理を行う前に、500℃〜1400℃の範囲で前記基材を加熱する事前熱処理を行うことを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項記載の成形型の製造方法。
【請求項1】
ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型であって、
側部または底部に前記黒鉛部および前記ガラス状炭素部がともに露出している凹凸部を有することを特徴とする成形型。
【請求項2】
ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型であって、
前記ガラス状炭素部および前記黒鉛部がともに露出している凹凸部を有し、
前記凹凸部の側部または底部のうちの前記黒鉛部が露出している黒鉛エリアが、前記ガラス状炭素部が露出しているガラス状炭素エリアよりも大きく形成されていることを特徴とする成形型。
【請求項3】
前記凹凸部の前記ガラス状炭素部を通る部分の深さよりも前記黒鉛部を通る部分の深さが大きいことを特徴とする請求項1または2記載の成形型。
【請求項4】
前記ガラス状炭素部材として、直方体状に形成された直方体状炭素部材を用い、該直方体状炭素部材における1つの表面部だけに前記凹凸部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の成形型。
【請求項5】
前記ガラス状炭素部材として、直方体状に形成された直方体状炭素部材を用い、該直方体状炭素部材を構成する角部を含む前記ガラス状炭素部および前記黒鉛部の一部が除去されることによって前記凹凸部が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の成形型。
【請求項6】
ガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部が形成されているガラス状炭素部材を用いた成形型の製造方法であって、
前記ガラス状炭素部材における前記ガラス状炭素部および前記黒鉛部の一部を除去して、側部または底部に前記黒鉛部および前記ガラス状炭素部がともに露出している凹凸部を形成することを特徴とする成形型の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス状炭素で構成される基材を熱間等方圧加圧法(Hot Isostatic Pressing)処理することによって、前記基材を構成するガラス状炭素からなるガラス状炭素部の内側に黒鉛からなる黒鉛部を形成して前記ガラス状炭素部材を形成することを特徴とする請求項6記載の成形型の製造方法。
【請求項8】
前記熱間等方圧加圧法処理を行うときに、160Mpa〜200Mpaの範囲で加圧し、かつ1500℃〜2500℃の範囲で加熱することを特徴とする請求項7記載の成形型の製造方法。
【請求項9】
前記熱間等方圧加圧法処理を行うときに、160Mpa〜180Mpaの範囲で加圧し、かつ1500℃〜2000℃の範囲で加熱することを特徴とする請求項7記載の成形型の製造方法。
【請求項10】
前記熱間等方圧加圧法処理を行う前に、500℃〜1400℃の範囲で前記基材を加熱する事前熱処理を行うことを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項記載の成形型の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図18】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図18】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−285938(P2009−285938A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139659(P2008−139659)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】
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