説明

成形性を改善したデンプン組成物

【課 題】簡便で経済的な方法を用いてデンプンの物性を著しく改善することにより、より広い用途に使用可能なデンプン組成物を提供すること。
【解決手段】結晶水を持った水溶性無機塩又は結晶水を持った水溶性有機塩をデンプン中に共存させ、架橋剤で架橋することにより、機械的性質の著しく改善されたデンプン組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性物質であるデンプンを含む組成物とそれを用いた成形品に関する。
すなわち、本発明は、可塑剤として塩及び架橋剤をある種の条件でデンプン溶液に添加して得られるデンプン組成物とそれを用いた成形品に関する。
さらに詳しくは、本発明は、デンプンを原料として極めて簡便で経済的な手段によりデンプンの本来有する機械的特性を著しく改善してデンプン用途を大幅に広げるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、デンプンは、食品としては勿論、工業材料としても非常に広く用いられている天然高分子の一つであり、生分解性の観点からも最も好ましい生分解性高分子材料であり、デンプンに限らず生分解性高分子材料への期待は、昨今の環境負荷低減の観点からも非常に高く期待され、デンプン等の天然高分子による合成高分子の代替が精力的に検討されてきているが、現状では、多くの問題が存在し、その解決は容易でない。
【0003】
合成高分子材料の代替としてデンプンを原料にした場合、最も大きな問題点の一つが、柔軟性等の機械的特性の著しい欠如である。すなわち、多糖類(ポリサッカライド)であるデンプンは、乾燥した固体状態では酸基同士が水素結合して結晶を形成しているために、硬くて脆い性質を示す。デンプン本来の伸長率は、通常、10%程度以下である。
【0004】
上述するようにデンプンには機械的特性の不足の問題があり、実用性に乏しいので、環境上の問題を考慮して種々の生分解性の合成高分子材料が報告されている。例えば、APIC社のVINEX、ノバモント社のマタビー、ワーナー・ランバート社のNOVON等が挙げられる。しかし、これらの高分子材料は、製造時にかなり高度の化学的操作を必要とし、製造コストも経済性をかくものであった。また、これらはデンプン等の天然高分子と比較すると、生分解性も劣っている。
【0005】
従来から、デンプンを含む組成物の物性改善を図るための先行技術は数多く発表されている。例えば、糊剤及び接着剤としてのデンプンに塩を添加することは、特開昭50−16726号公報(特許文献1)、特開昭56−143279号公報(特許文献2)、特開平3−12470号公報(特許文献3)、特開平7−119042号公報(特許文献4)、特開平8−291276号公報(特許文献5)、特表平8−502951号公報(特許文献6)等に述べられている。
また、農業用薬剤としてデンプンに塩を加えたものは、特開昭51−1649号公報(特許文献7)、特開昭51−54931号公報(特許文献8)等に、固型製剤としてデンプンと塩を共存させたものは、特開昭49−47169号公報(特許文献9)、特開昭53−6432号公報(特許文献10)、特開昭53−86095号公報(特許文献11)、特表2002−505269号公報(特許文献12)、特開2002−180098号公報(特許文献13)等に、デンプンと潮解性塩を共存させたものは、特開2000−5553号公報(特許文献14)、特開昭57−82576号公報(特許文献15)に、デンプンをアルデヒド類等で架橋する例としては、特開2003−160694号公報(特許文献16)、特開2005−226011号公報(特許文献17)等があり、デンプンを架橋した架橋デンプンも上市されており、公知である。
このように、デンプンと塩を共存させる例、あるいはデンプンを架橋する例は数多く知られているが、デンプンに対して無機又は有機の塩を一種の可塑剤として添加し、さらに得られたデンプン組成物を架橋することによって機械的特性を改善した例は知られていない。
【0006】
【特許文献1】特開昭50−16726号公報
【特許文献2】特開昭56−143279号公報
【特許文献3】特開平3−12470号公報
【特許文献4】特開平7−119042号公報
【特許文献5】特開平8−291276号公報
【特許文献6】特表平8−502951号公報
【特許文献7】特開昭51−1649号公報
【特許文献8】特開昭51−54931号公報
【特許文献9】特開昭49−47169号公報
【特許文献10】特開昭53−6432号公報
【特許文献11】特開昭53−86095号公報
【特許文献12】特表2002−505269号公報
【特許文献13】特開2002−180098号公報
【特許文献14】特開2000−5553号公報
【特許文献15】特開昭57−82576号公報
【特許文献16】特開2003−160694号公報
【特許文献17】特開2005−226011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、極めて簡便で経済的な手段により機械的特性を著しく改善したデンプン組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく研究を重ねた結果、経済的な各種塩類をデンプンに添加するという簡便で経済的な手段によりデンプンの機械的特性を改善することができ、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明では、デンプンに可塑剤としてのある種の塩及び架橋剤を添加して乾燥するという極めて簡便で手段によって従来のデンプンの柔軟性等の機械的特性を大幅に向上させ、その用途を大幅に広げることが可能となった。
本発明によれば、水に溶けた状態又はスラリー状態又は糊化の状態にあるデンプンに、ある種の塩及び架橋剤を添加したものを乾燥、固化させることにより、機械的特性が著しく改善されたデンプン組成物を提供することができる。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成を特徴とする。
(1)(a)デンプン、(b)結晶水を持った水溶性無機塩又は結晶水を持った水溶性有機金属塩、(c)架橋剤からなるデンプン組成物。
(2)デンプンが水に溶けた状態、糊化の状態又は水系エマルジョンの状態にあるとき、(A)水が存在すると結晶水を持った水和物になる性質を有する無水無機塩、(B)同上の性質を有する無水有機金属塩、(C)結晶水を持った無機塩水和物又は(D)結晶水を持った有機金属塩水和物のいずれか一つ又は二つ以上及び架橋剤を添加した後、乾燥することによって得られることを特徴とする(1)に記載のデンプン組成物。
(3)前記デンプンが、コーンスターチ、バレイショデンプン、コメデンプン、コムギデンプン、サツマイモデンプン、タピオカデンプンなどの植物由来のデンプン、α化デンプン、β化デンプン、デキストリン、可溶性デンプンなどの変性デンプン(修飾デンプン)であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のデンプン組成物。
(4)前記塩が潮解性を有する無機塩であって、MgCl2、CaCl2、AlCl3、Mg(NO3)2、Ca(NO3)2、Al(NO3)3、Na2CO3、Na2SiO3、Na2HPO4、NaH2PO4及び/又はそれらの水和物であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のデンプン組成物。
(5)前記塩が、潮解性を有する有機金属塩であって、シュウ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩及びそれらの水和物から選ばれる少なくとも1成分であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のデンプン組成物。
(6)前記塩の添加量が、0.1〜300wt%(デンプン量基準)である(1)〜(5)のいずれかに記載のデンプン組成物。
(7)前記架橋剤が、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グルタルアルデヒド、グルオキサール、ヘキサメチレンジイソシアネート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、無水リン酸、オキシ塩化リン、トリメタリン酸塩、アクロレイン、エピクロルヒドリン、アジピン酸である(1)〜(6)のいずれかに記載のデンプン組成物。
(8)前記架橋剤の添加量が、0.1〜50wt%(デンプン量基準)である(1)〜(7)のいずれかに記載のデンプン組成物。
(9)また、必要に応じて塩酸、硫酸等の鉱酸又は蟻酸、酢酸等の有機酸から選択される架橋促進剤を添加することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のデンプン組成物。
(10)前記架橋促進剤の添加量が、0.1〜10wt%(デンプン量基準)である(1)〜(9)のいずれかに記載のデンプン組成物。
(11)さらに、炭酸カルシウム、ガラス繊維、セルロース粒子、セルロース繊維等の無機又は有機の粒子状及び繊維状物質から選択された物性改善剤を添加することを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載のデンプン組成物。
(12)前記物性改善剤の添加量が、0.1〜100wt%(デンプン量基準)である(1)〜(11)のいずれかに記載のデンプン組成物。
(13)前記デンプン組成物を含有する液をゲル化、キャスト、流延、湿式紡糸、乾式紡糸、ゲル紡糸、押し出し成形、射出成形、型成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形又はシート成形のいずれかの方法により、フィルム、シート、糸、繊維、棒状、その他任意の成形品とすることを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載のデンプン組成物。
(14)前記デンプン組成物を他の天然物又は合成物でコーテイングするか、あるいはこれらの天然物又は合成物とラミネート化することを特徴とする(1)〜(13)のいずれかに記載のデンプン組成物。
【0010】
本発明において添加塩は、水溶性であり、水和物であるか水の存在により水和物になる性質を有する潮解性無機塩又は潮解性有機金属塩を用いることができる。
用いることのできる潮解性無機塩としては、MgCl2、CaCl2、AlCl3、Mg(NO3)2、Ca(NO3)2、Al(NO3)3、Na2CO3、Na2SiO3、Na2HPO4、NaH2PO4又はそれらの水和物、及びそれらの組合せを好ましく用いられる。
一方、潮解性有機金属塩としては、シュウ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩又はそれらの水和物、及びそれらの組合せを好ましく用いることができる。
【0011】
また、本発明において架橋剤は、水酸基を架橋できる物質、好ましくはホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グルタルアルデヒド、グルオキサール、ヘキサメチレンジイソシアネート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、無水リン酸、オキシ塩化リン、トリメタリン酸塩、アクロレイン、エピクロルヒドリン、アジピン酸などを用いることができる。
【0012】
本発明の目的とするデンプン組成物を得るためには、デンプンが水に溶けた状態、糊化の状態又は水系エマルジョンの状態にあるとき、水が存在すると結晶水を持った水和物になる性質を有する水溶性無水無機塩あるいは水溶性無水金属塩、又は結晶水を持った水溶性無機塩水和物もしくは結晶水を持った水溶性有機金属塩、及び架橋剤を添加した後、乾燥することによって達成される。
上記の水溶性無水無機塩又は水溶性無水有機金属塩を添加した場合にも、これらはそれぞれ結晶水を持った無機塩水和物又は結晶水をもった有機金属塩水和物に変化するため、いずれの場合にもデンプン中には結晶水を持った塩水和物として取り込まれる。
【0013】
本発明では、デンプン、塩及び架橋剤からなる組成物に、必要に応じて架橋促進剤を添加することができる。架橋促進剤の添加により、より効率のよい架橋反応が達成される。架橋促進剤として、塩酸、硫酸等の鉱酸又は蟻酸、酢酸等の有機酸を用いることができる。
さらに、本発明では、デンプン、塩及び架橋剤からなる組成物に必要に応じて物性改善助剤を添加することができる。物性改善剤の添加により、さらなる物性の改善が可能となる。物性改善剤として、炭酸カルシウム、ガラス繊維、セルロース粒子、セルロース繊維等の無機又は有機の粒子状及び繊維状物質を用いることができる。
【0014】
本発明におけるデンプン組成物を含有する液を調製するには、任意の濃度に調製されたデンプン水溶液又はスラリーに前記塩を、デンプン基準で0.1〜300wt%、好ましくは5〜100wt%、前記架橋剤をデンプン基準で0.1〜50wt%、好ましくは2.5〜25wt%添加し、攪拌すればよい。この液を調製するためのデンプン及び塩の添加順序はさして重要ではない。
また、デンプン及び塩を水に溶解させる温度は、通常、常温であるが、溶解速度を高めるために、例えば、30〜50℃に加熱することもできる。さらに、架橋促進剤を添加する場合は、デンプン、塩、架橋剤の混合物にデンプン基準で0.1〜10wt%、好ましくは0.25〜5wt%、また、物性改善剤を添加する場合は、デンプン、塩、架橋剤の混合物に、デンプン基準で0.1〜100wt%、好ましくは0.25〜50wt%添加し、攪拌すればよい。
本発明では、加える前記塩の量と架橋剤の量を調整することにより、デンプン成型体の軟らかさをコントロールすることができる。すなわち、前記塩の量を多くすると軟らかくなり、架橋剤の量を増加すると硬くなる傾向がある。
【0015】
本発明では、前記デンプン組成物を含有する液をゲル化、キャスト、流延、湿式紡糸、乾式紡糸、ゲル紡糸、押し出し成形、射出成形、型成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、又はシート成形のいずれかの方法により、成形と同時に又は必要に応じて成形後にも乾燥させてフィルム、シート、糸、繊維、棒状、その他任意の成型品とする。成形又は乾燥温度は、150℃以下、好ましくは100℃以下である。
【0016】
本発明の方法で得られるデンプン組成物は、他の天然物例えば多糖類、セルロース類、タンパク質類などでコーテイングするか又はこれらの物質とラミネート化することによって、実用に供することができる。また、本発明で得られるデンプン組成物は他の合成物特に生分解性合成物例えば、ポリビニールアルコール、ポリ乳酸、ポリカプロラクタムなどでコーテイングするか又はこれらの物質とラミネート化することによっても実用に供される。これらの方法により、本発明のデンプン組成物の耐水性が付与される。
【0017】
本発明で得られるデンプン組成物からなる成型品は、デンプン単独と比較して、柔軟性等の機械的特性が著しく向上する。先に述べたように、本発明のデンプン組成物は添加する前記塩の量及び前記架橋剤の量の調整によって、その物性をコントロールすることが可能である。その具体例については後述の実施例で示す。
本発明のデンプン組成物における柔軟性等の機械的特性が著しく向上する理由としては、乾燥後のデンプン組成物中に塩が水和物(結晶水を持った状態)として存在することにある。これまでの種々の試験及び分析から、(1)塩水和物はデンプン中に極めて微細に分散されている、(2)塩水和物はデンプン中で単に物理的に分散されているのではなく、ある種の化学的結合によってデンプン分子と結び付いている、(3)塩水和物に含まれる結晶水が重要な役割を果たしている、ことが明らかになっている。しかしながら、詳細なメカニズムはまだ十分に解明されていない。
【発明の効果】
【0018】
本発明のデンプン組成物は、主要成分が、デンプンという生分解性の材料であり、これまでにも多糖類を用いた多くの生分解性材料が開発されているが、これらはかなり高度の化学的な処理を必要とするため、製造工程が複雑で高コストである。これに対し、本発明のデンプン組成物は極めて簡便に低コストで製造することが可能である。
また、本発明のデンプン組成物はデンプン単独の材料と比較して、機械的性質の他に、電気的性質、誘電特性、光学的特性等が変化することは言うまでもない。
本発明によれば、極めて簡便な方法を用いることにより柔軟性等の機械的特性を著しく向上させたデンプン組成物が従来法より極めて低コストで提供される。このデンプン組成物は、生分解性材料として工業用途の各種成形材料として利用することができる。
すなわち、本発明におけるように可塑剤としての塩の添加と架橋との組み合わせにより、デンプンの機械的性質が大幅に改善されるのが本発明の特徴である。実施例に示すように、本発明で得られるデンプン組成物の機械的特性は従来のデンプン組成物と比較して大幅に向上している。
以上の観点から、優れた機械的特性及び生分解性を有するデンプン組成物を極めて簡便、かつ経済的に提供することは本技術分野における長足の進歩である。
【0019】
[実施例]
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0020】
各種無機塩の添加効果(実施例1、比較例1):
デンプンとしてデキストリン、潮解性のある無機塩としてMgCl2・6H2O、CaCl2・2H2O、AlCl3・6H2O、Mg(NO3)2・6H2O、Ca(NO3)2・4H2O又はAl(NO3)3・9H2Oを選び、デンプンに添加する無機塩の種類による機械的特性への効果を試験した。
デキストリン5gに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。このデンプン溶液に無機塩を1.5g、グルタルアルデヒド25%溶液を2.0g(正味0.5g)添加し、溶解するまで攪拌した後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
各種有機金属塩の添加効果(実施例2、比較例2):
デンプンとしてデキストリン、有機金属塩としてシュウ酸マグネシウム2水和物、酢酸マグネシウム4水和物、クエン酸マグネシウム9水和物、酒石酸カルシウム4水和物、乳酸カルシウム5水和物、グルコン酸カルシウム1水和物を選び、デンプンに添加する有機金属塩の種類による機械的特性への効果を試験した。
デキストリン5gに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。このデンプン溶液に有機金属塩を1.5g、グルタルアルデヒド25%溶液を2.0g(正味0.5g)添加し、溶解するまで攪拌した後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で、約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
各種デンプンへの塩及び架橋剤の添加効果(実施例3、比較例3):
デンプンとして、コーンスターチ、タピオカデンプン、デキストリン及び可溶性デンプンを選び、添加する塩としてはMgCl2・6H2O、架橋剤としてはグルタルアルデヒドを用い、デンプンの種類による機械的特性への影響を試験した。
デンプン5gに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。
得られたデンプン溶液にMgCl2・6H2Oを1.5g、グルタルアルデヒド25%溶液を2.0g(正味0.5g)添加し、溶解するまで攪拌した後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機で約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びをJIS K6251により測定した。
結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
各種架橋剤の添加効果(実施例4、比較例4)
デンプンとしてデキストリン、添加する塩としてMgCl2・6H2Oを選び、架橋剤としてグルタルアルデヒド、グルオキサール、ヘキサメチレンジイソシアネート、エチレングリコールジグリシジルエーテルを用いて、添加する架橋剤の種類による機械的特性への効果を試験した。
デキストリン5gに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。
このデキストリン溶液にMgCl2・6H2Oを1.5g、架橋剤を0.5g添加し、溶解するまで攪拌した後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
塩及び架橋剤の添加量による機械的特性の変化(実施例5、比較例5):
デンプンとしてデキストリン、添加する塩としてMgCl2・6H2O、添加する架橋剤としてグルタルアルデヒドを選び、塩及び架橋剤の添加量の効果について試験した。
デキストリン5gに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。このデキストリン溶液にMgCl2・6H2O及び架橋剤を所定量添加し、溶解するまで攪拌した後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表5に示す。
【0029】
【表5】

【0030】
各種架橋促進剤の添加効果(実施例6、比較例6):
デンプンとしてデキストリン、添加する塩としてMgCl2・6H2O、架橋剤としてグルタルアルデヒドを選び、架橋促進剤として、塩酸、硫酸、蟻酸、酢酸を加え、架橋促進剤の添加の効果について試験した。
デキストリン5gに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。このデンプン溶液にMgCl2・6H2Oを1.5g、グルタルアルデヒド25%溶液を2.0g(正味0.5g)、溶解するまで攪拌した後、さらに架橋促進剤0.1g添加して攪拌した。その後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で、約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表6に示す。
【0031】
【表6】

【0032】
各種物性改善剤の添加効果(実施例7、比較例7):
デンプンとしてデキストリン、添加する塩としてMgCl2・6H2O、架橋剤としてグルタルアルデヒドを選び、物性改善剤として炭酸カルシウム、セルロース微粒子、セルロース繊維又はガラス繊維を加え、物性改善剤の添加の効果について試験した。
デキストリン5gに濃度が10%になるように水を加え、攪拌して溶解した。このデンプン溶液にMgCl2・6H2Oを1.5g、グルタルアルデヒド25%溶液を2.0g(正味0.5g)、溶解するまで攪拌した後、さらに物性改善助剤1.0g添加して攪拌した。その後、全量を型に流し込み、50℃に保たれた乾燥機にて約48時間乾燥した。
得られたキャストフィルムを23℃、60%RHの条件で、約24時間調製した後、引張最大応力及び破断伸びを測定した。
結果を表7に示す。
【0033】
【表7】

【0034】
デキストリンに各種無機塩を添加した時の機械的特性(実施例8,比較例8):
架橋剤添加の効果を明確にするため、デキストリンに各種塩を加え、これに架橋剤を加えた場合と加えない場合を比較した。すなわち、デキストリン5gに対し1.5gの各種塩を加えたサンプルと、さらにこれに0.5gのグルタルアルデヒドを加えたサンプルの引っ張り強さ(MPa)と破断伸び(%)を測定した。
結果を表8及び表9に示す。
数字はグルタルアルデヒドを加えない場合、( )内は0.5gのグルタルアルデヒドを加えた場合を示す。
【0035】
【表8】

【0036】
【表9】

【0037】
(試験結果の総括)
1)潮解性を有する結晶水を持った無機塩又は有機金属塩を混合した組成物を架橋剤により架橋することにより、デンプン単独あるいはデンプンと塩からなる組成物と比較して機械的特性が大幅に向上する。
2)上記塩を加えることなく、デンプンのみを架橋すると、極めて脆い物質が生成し、シート状にすることはできず、割れて小片になってしまう(性状分析は不可能)。
3)添加したいずれの塩及び架橋剤においても物性改善効果は見られるが、それらの種類による効果の差は認められる。最大応力と破断伸びのバランスを考慮すると使用目的に応じた塩及び架橋剤の選択及びそれぞれの添加量の選択が望ましい。
4)デンプンに対する塩の添加量を増加すると、最大応力は低下し、破断伸びは増大する。逆に、架橋剤の添加量を増加すると、最大応力は増大し、破断伸びは低下した。
5)物性改善助剤の添加により、最大応力は増加し、破断伸びは低下する。
6)本発明のデンプン組成物では最大応力、破断伸びにおいて大幅にすぐれ、より広い用途に使用される可能性がある。
7)本発明で使用する原材料はいずれも経済的素材であり、しかも温和な条件で作成可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプン、結晶水を持った水溶性無機塩又は結晶水を持った水溶性有機金属塩及び架橋剤からなるデンプン組成物。
【請求項2】
デンプンが水に溶けた状態、糊化の状態又は水系エマルジョンの状態にあるときに、水が存在すると結晶水を持った水和物になる無水無機塩、同じ性質を持つ無水有機金属塩、自体、結晶水を持った無機塩水和物又は自体、結晶水を持った有機金属塩水和物のいずれか1又は2以上及び架橋剤を添加した後、乾燥することによって得られることを特徴とする請求項1に記載のデンプン組成物。
【請求項3】
前記デンプンが、植物由来のデンプン及び/又は変性デンプン(修飾デンプン)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のデンプン組成物。
【請求項4】
前記塩が、MgCl2、CaCl2、AlCl3、Mg(NO3)2、Ca(NO3)2、Al(NO3)3、Na2CO3、Na2SiO3、Na2HPO4、NaH2PO4及び/又はそれらの水和物から選ばれた潮解性無機塩の少なくとも1成分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のデンプン組成物。
【請求項5】
前記塩が、シュウ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、グルコン酸塩及びそれらの水和物から選ばれた潮解性無機塩の少なくとも1成分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のデンプン組成物。
【請求項6】
前記塩の添加量が、0.1〜300wt%(デンプン量基準)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のデンプン組成物。
【請求項7】
前記架橋剤が、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グルタルアルデヒド、グルオキサール、ヘキサメチレンジイソシアネート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、無水リン酸、オキシ塩化リン、トリメタリン酸塩、アクロレイン、エピクロルヒドリン又はアジピン酸から選ばれたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のデンプン組成物。
【請求項8】
前記架橋剤の添加量が、0.1〜50wt%(デンプン量基準)である請求項1〜7のいずれかに記載のデンプン組成物。
【請求項9】
前記架橋剤による架橋促進のために、無機酸又は有機酸から選ばれた架橋促進剤を添加することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のデンプン組成物。
【請求項10】
前記架橋促進剤の添加量が、0.1〜10wt%(デンプン量基準)であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のデンプン組成物。
【請求項11】
追加的に無機又は有機の充填剤から選択された1以上の物性改善剤を添加することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のデンプン組成物。
【請求項12】
前記物性改善剤の添加量が、0.1〜100wt%(デンプン量基準)であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のデンプン組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のデンプン組成物自体を成形加工して得られる又は該組成物をコーティングもしくはラミネートして得られることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2007−277426(P2007−277426A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106450(P2006−106450)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(592015802)赤穂化成株式会社 (29)
【Fターム(参考)】