説明

成膜方法および成膜装置

【課題】成膜方法および成膜装置において、成膜に用いる真空槽を大型化することなく、効率よく容易に多元系の薄膜の成膜を行うことができるようにする。
【解決手段】真空槽2内で被処理体3上に多元系の薄膜を成膜する成膜方法であって、構成元素あるいは組成が異なる2種類以上のターゲット片を有するターゲット組立体6を、独立に出力調整可能な複数の電源10a、10b、10c、10dの陰極に電気的に接続されたバッキングプレート7上に設置し、2種類以上のターゲット片のそれぞれに対して電圧印加するため、電源10a、10b、10c、10dの陽極に個別の配線を介して電気的に接続された電極を配置して、電源10a、10b、10c、10dの各出力電力をそれぞれ0%〜100%の範囲で個別に調整して、ターゲット片からの原子または分子の放出量を変化させて、前記被処理体上に多元系の薄膜を成膜する方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の成膜方法および成膜装置に関する。例えば、所望の組成比を有する多元系の薄膜を成膜する成膜方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜を成膜する方法として、例えば、スパッタリング法、アークイオンプレーティング法、アークプラズマデポジッション法等の成膜方法が広い分野で利用されている。これらの成膜方法によって薄膜を形成する場合、単物質材料からなるターゲットや、混合材料を固体化させたターゲットを用いる。そして、このターゲットに電子を衝突させる、あるいは、このターゲットを溶解して蒸発させることによって、ターゲットの構成材料を被処理体に堆積させて薄膜を形成する。
また、複数の元素を含む混合薄膜(多元系の薄膜)により表面処理されたものは、耐熱性、耐摩耗性、導電性等が向上することから、摺動機械部品や半導体LSI、光磁気ディスク等の幅広い分野で用いられている。
しかしながら、従来の成膜装置の真空槽内にはターゲットが一つ設置してある形態が一般的であり、化合物あるいは合金の混合薄膜を高精度な組成比で成膜する場合、粉末焼結などにより構成材料を所望の組成比で配合した一つのターゲットを用いて混合薄膜を成膜していた。
ところが、このような成膜方法では、構成材料の組成比を変更して成膜を行う際に、構成材料が所望の組成比に配合された新たなターゲットを用意する必要があり、混合薄膜の組成比の調整や変更が容易にはできないという問題があった。また、混合薄膜の組成比を膜厚方向に傾斜的に調整して成膜することができないという問題もあった。
このため、特許文献1に記載の多孔質金属化合物薄膜の成膜方法では、所望の組成比の混合薄膜を成膜する手段として、異なる材料からなるターゲットを真空槽内に複数設置し、それぞれのターゲットは、電圧印加の制御が独立して可能なスパッタリング源を用いて、各ターゲットヘ印加電圧を適宜調整し、各ターゲットからのスパッタリング量の調整を行うことで、被処理体上に所望の組成比の混合薄膜を容易に成膜することや、混合薄膜の組成比を膜厚方向に傾斜的に調整して成膜することを可能にしていた。
また、特許文献2に記載のスパッタリング装置および薄膜成膜方法では、平板状ターゲットと被処理体とを平行に対向設置し、平板状ターゲット上方に平板状ターゲットとは異なる材料からなる格子状ターゲットを平行にして平板状ターゲットと重なるように設置し、平板状ターゲットと格子状ターゲットには独立制御可能な電源を接続し、各電源の出力の比率や格子状ターゲットの格子の本数を変えることで、被処理体上に所望の組成比の混合薄膜を形成することや、混合薄膜の組成比を膜厚方向に傾斜的に調整して成膜することを可能にしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−39013号公報
【特許文献2】特開平9−78232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の成膜方法および成膜装置には、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、異なる材料からなる複数のターゲットに、それぞれ独立して電圧印加が可能な複数のスパッタリング源を用いてスパッタリングを行うため、混合薄膜の成膜を行うことができるが、この場合、複数のターゲットおよびスパッタリング源を真空槽内に設置するため、ターゲットおよびスパッタリング源を1対設置して成膜を行う従来の成膜装置に比べて、真空槽を大型化する必要があるという問題がある。
また、特許文献2に記載の技術では、平板状ターゲット上方に平行して重なるように格子状ターゲットを設置し、ターゲットと対向設置している被処理体の間の中空に格子状ターゲットを配置することで設備の大型化は回避しているが、平板状ターゲットからスパッタリングされたターゲットは格子状ターゲットにより遮断されることになる。このような構造上の制約から、平板状ターゲットからスパッタリングされたターゲットの被処理体への成膜量は、格子状ターゲットの面積分だけ少なくなってしまう。このため、ターゲットの使用量に対し成膜エリアに供給されるスパッタリング粒子の量が少なくなり、成膜効率が悪いという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、成膜に用いる真空槽を大型化することなく、効率よく容易に多元系の薄膜の成膜を行うことができる成膜方法および成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の成膜方法は、真空槽内で被処理体上に多元系の薄膜を成膜する成膜方法であって、構成元素あるいは組成が異なる2種類以上のターゲット片を有するターゲット組立体を、独立に出力調整可能な複数の電源の陰極に電気的に接続された共用部電極上に設置し、前記2種類以上のターゲット片のそれぞれに対して電圧印加するため、前記複数の電源の陽極に個別の配線を介して電気的に接続された複数の電極を配置して、前記複数の電源の各出力電力をそれぞれ0%〜100%の範囲で個別に調整して、前記ターゲット片からの原子または分子の放出量を変化させて、前記被処理体上に多元系の薄膜を成膜する成膜方法とする。
【0007】
また、本発明では、前記ターゲット片からの原子または分子の放出量、組成、および成膜速度のうちの少なくとも1つを測定または算出し、この測定結果または算出結果に基づいて、前記複数の電源の前記出力電力を調整することが好ましい。
【0008】
本発明の成膜装置は、真空槽内で被処理体上に多元系の薄膜を成膜する成膜装置であって、構成元素あるいは組成が異なる2種類以上のターゲット片を配置してなるターゲット組立体と、0%〜100%の範囲で出力電力を独立に調整可能な複数の電源と、該複数の電極の陰極に電気的に接続され、前記ターゲット組立体を保持する共用部電極と、前記2種類以上のターゲット片の周囲に設置され、前記複数の電源の陽極に個別の配線を介して電気的に接続された複数の電極と、を備える構成とする。
【0009】
また、本発明の成膜装置では、前記ターゲット片からの原子または分子の放出量、組成、および成膜速度のうちの少なくとも1つを測定または算出し、この測定結果または算出結果に基づいて、前記複数の電源の前記出力電力を調整する出力制御部を有することが好ましい。
【0010】
また、本発明の成膜装置では、前記ターゲット組立体は、前記構成元素あるいは組成が同じ扇形状のターゲット片が径方向に対向するターゲット対が2以上設けられ、前記複数の電極は、前記扇形状のターゲット片の円弧部の周囲において、該円弧部に沿って湾曲された円弧状電極からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成膜方法および成膜装置によれば、共用部電極上に設置されたターゲット組立体の2種類以上のターゲット片のそれぞれに対して電圧印加するための電極に接続された複数の電源の出力電力を個別に調整することができるため、成膜に用いる真空槽を大型化することなく、効率よく容易に多元系の薄膜の成膜を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す模式的な正面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置によって成膜された薄膜の一例を示す模式的な断面図である。
【図3】図1におけるB視図、およびB視図におけるC−C断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置のターゲット組立体上で電子密度の高くなる領域を示す模式的な平面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置のターゲット組立体上に形成されるスパッタリング領域を示す模式的な平面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置を用いた成膜方法により形成された傾斜層の膜厚分布の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置を用いた成膜方法により形成された傾斜層の膜厚分布の他例を示すグラフである。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置を用いて製造された金型の構成を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す模式的な正面図である。
【図10】図9におけるE視図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る成膜装置における電源の出力電力と成膜速度との関係の例を示すグラフである。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す模式的な正面図である。
【図13】図12におけるF視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0014】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る成膜装置について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す模式的な正面図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係る成膜装置によって成膜された薄膜の一例を示す模式的な断面図である。図3(a)は、図1におけるB視図である。図3(b)は、図2(a)におけるC−C断面図である。
なお、各図は模式図のため、寸法関係や形状は誇張されている(以下の図面も同様)。
【0015】
本実施形態のスパッタリング装置1は、図1に示すように、DCマグネトロンスパッタ法により多元系の薄膜を成膜するため成膜装置である。
スパッタリング装置1によって成膜可能な薄膜は、後述するターゲット組立体6の構成材料に応じて、適宜の原子または分子によって構成される薄膜や、適宜の原子または分子が一定の組成比を有する薄膜や、適宜の原子または分子の組成比が膜厚方向に連続的に変化する傾斜層を有する薄膜や、これらの薄膜を適宜順序に積層させた薄膜などである。
以下では、このような多元系の薄膜の一例として、図2に示すように、被処理体3の表面に、耐熱性、耐酸化性、耐磨耗性に優れたTiAlN(窒化チタンアルミ)の組成を表面に有し、かつ耐熱衝撃性を高めるために中間層の界面を連続的に組成傾斜させた多層膜で構成された薄膜50を成膜する場合の例で説明する。
【0016】
薄膜50は、被処理体3側から、Ti(チタン)層L、TiN(窒化チタン)傾斜層L、TiN層L、TiAlN傾斜層L、TiAlN層Lが、それぞれ膜厚200nm、100nm、100nm、100nm、100nmとなるように順次積層された多層膜である。
Ti層L、TiN層L、TiAlN層Lは、それぞれ各構成材料の組成比が一定の薄膜である。また、TiN傾斜層Lは、膜厚方向において、Ti層Lの組成からTiN層Lの組成に組成比が傾斜する(連続的に変化する)ことにより、Ti層LとTiN層Lとを、界面を形成することなく接続する傾斜層である。また、TiAlN傾斜層Lは、膜厚方向において、TiN層Lの組成からTiAlN層Lの組成に組成比が傾斜することにより、TiN層LとTiAlN層Lとを、界面を形成することなく接続する傾斜層である。
このように、薄膜50は傾斜的3層多層膜からなる。
【0017】
スパッタリング装置1の概略構成は、スパッタリングを行うための真空槽2と、真空槽2内の上部において被処理体3を支持する被処理体支持部4と、被処理体支持部4を不図示の回転軸駆動部により水平方向に回転させる回転軸5と、被処理体支持部4に支持された被処理体3に向けて薄膜を形成する原子または分子を構成材料とするターゲット組立体6と、真空槽2内の被処理体支持部4の下方においてターゲット組立体6を保持するバッキングプレート7と、バッキングプレート7の下面に配置されたマグネットユニット8と、ターゲット組立体6に電圧を印加する電極部9と、を備える。
真空槽2の側面には、真空槽2内にN(窒素)ガスを導入するNガス導入口11aと、真空槽2内にAr(アルゴン)ガスを導入するArガス導入口11bと、真空槽2内の減圧を行うための排気口11cが設けられている。排気口11cには、不図示の真空ポンプが接続され、排気口11cから真空槽2内の空気Aを排気できるようになっている。
【0018】
ターゲット組立体6は、被処理体支持部4に支持された被処理体3と一定の間隙をあけて下方側に対向して配置されている。本実施形態では、間隙の大きさは、一例として、150mmとしている。
真空槽2内において、被処理体3とターゲット組立体6との間の中空部には、堆積した膜厚を測定する水晶振動子型の膜厚モニタ12a、12b、12c、12dが設置されている。これら膜厚モニタ12a、12b、12c、12dは、電極部9に電圧を印加する4つの電源10a、10b、10c、10dのそれぞれの出力電力の制御を個別に行うフィードバック制御部13に電気的に接続されている。
【0019】
膜厚モニタ12a、12b、12c、12dは、それぞれ、Tiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dと被処理体3との間の中空部に配置されている。このため、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dの膜厚測定値は、それぞれTiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dからのスパッタリング粒子が寄与する膜厚に対応している。これらの膜厚測定値は、実際に被処理体3上に形成される膜厚とは異なるが、被処理体3上の膜厚とは、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dの配置位置に応じた一定の相関があるため、予め実験を行うなどして得た換算データによって、被処理体3上の膜厚値に換算することができる。膜厚の換算は、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dの校正で実現してもよいが、本実施形態では、このような換算データは、フィードバック制御部13に記憶されている。
このため、フィードバック制御部13は、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dからの膜厚測定値を、被処理体3上の膜厚に換算し、これらの和を算出することによって、被処理体3上の膜厚を算出することができる。
【0020】
電源10a、10b、10c、10dは、本実施形態では、最大電圧0.1kV、最大出力電力が1.0kWのDC電源であり、それぞれの出力電力は、いずれも0%〜100%の範囲で調整可能になっている。
フィードバック制御部13には、薄膜50を成膜する場合に必要な膜厚の制御目標値が記憶されており、これにより、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dの膜厚の測定値がこの制御目標値に一致するように電源10a、10b、10c、10dの出力電力を制御できるようになっている。
【0021】
次に、ターゲット組立体6、およびターゲット組立体6周りの主要部の構成について詳細に説明する。
ターゲット組立体6の形状は、図3(a)に示すように、中心角90度の扇形の板状に形成された4つのターゲット片が隣り合って並べられた円盤状に形成されている。本実施形態では、4つのターゲット片は、図示時計回りに、Tiを構成元素とするTiターゲット片6a、Alを構成元素とするAlターゲット片6c、Tiターゲット片6aと同材質のTiターゲット片6b、Alターゲット片6cと同材質のAlターゲット片6dが、この順に配列されている。
以下では、Tiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dを区別する必要がなく誤解のおそれがない場合には、個々を指してターゲット片と称したり、各ターゲット片などと称したりする場合がある。
【0022】
このような配列により、各ターゲット片は、異なる材料のターゲット片と隣り合っているとともに、同材料のターゲット片は、それぞれターゲット組立体6の直径方向に対向して配置されている。すなわち、Tiターゲット片6a、6bはターゲット組立体6の1つの直径方向に対向して配置されたTiターゲット対6Aを構成している。また、Alターゲット片6c、6dは、Tiターゲット対6Aの対向方向と直交する直径方向に対向して配置されたAlターゲット対6Bを構成している。
本実施形態におけるターゲット片の寸法は、一例として、各ターゲット片の半径が50.8mm、厚さが5mmとされている。このため、ターゲット組立体6は外径が101.6mm、厚さが5mmの円盤状とされている。
【0023】
バッキングプレート7は、図3(a)、(b)に示すように、ターゲット組立体6の外径よりもわずかに大きな外径を有するCu(銅)製の円板状部材であり、Tiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dは、バッキングプレート7の一方の板面に直接ボンディングされている。
【0024】
マグネットユニット8は、バッキングプレート7においてターゲット組立体6が固定されたのと反対側の板面に配置された円板状の部材であり、図3(b)に示すように、その中心部にS極8bが設けられ、外周部にN極8aが設けられている。本実施形態では、N極8a、S極8bはいずれも永久磁石を採用している。
このようなマグネットユニット8の構成により、ターゲット組立体6上には、径方向に沿う断面において、ターゲット組立体6の外周側から中心部側に向かうとともにターゲット組立体6の表面から凸状の弓形をなすような磁界34が形成されている。
【0025】
電極部9は、Tiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dのそれぞれの円弧形状に沿って平面視円弧状に湾曲された4つの電極9a、9b、9c、9dから構成される。電極9a、9b、9c、9dは、各ターゲット片の円弧状の外周の領域においてターゲット組立体6の上方における一定の円周上に設置されている。
本実施形態では、各ターゲット片が円を4分割する扇形であるため、電極9a、9b、9c、9dの平面視形状は、図3(a)に示すように、いずれも中心角θが鋭角の円弧とされ、平面視では、各ターゲット片の円弧部の周方向の中央部に配置されている。
本実施形態では、電極9a、9b、9c、9dの中心角θは、いずれも75度に設定されている。このため、電極9a、9b、9c、9dは、周方向には、各ターゲット片の境界部を挟んで、配置円周上で中心角15度の円弧に相当する一定長さだけ離間されている。
電極9a、9b、9c、9dは、電源10a、10b、10c、10dの陽極に、それぞれ陽極配線31a、31b、31c、31dを介して電気的に接続されている。
また、電源10a、10b、10c、10dの陰極は、バッキングプレート7にそれぞれ陰極配線32a、32b、32c、32dを介して電気的に接続されている。
このため、バッキングプレート7は、Tiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dを等電位とする共用部電極を構成している。
【0026】
次に、スパッタリング装置1の動作について、スパッタリング装置1を好適に用いて行うことができる本実施形態の成膜方法を中心として説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態に係る成膜装置のターゲット組立体上で電子密度の高くなる領域を示す模式的な平面図である。図5は、本発明の第1の実施形態に係る成膜装置のターゲット組立体上に形成されるスパッタリング領域を示す模式的な平面図である。図6は、本発明の第1の実施形態に係る成膜装置を用いた成膜方法により形成された傾斜層の膜厚分布の一例を示すグラフである。図7は、本発明の第1の実施形態に係る成膜装置を用いた成膜方法により形成された傾斜層の膜厚分布の他例を示すグラフである。図6、7において、横軸は膜厚[nm]、縦軸は含有量[原子%]を表す。
【0027】
スパッタリング装置1を用いて被処理体3上に薄膜50を成膜するには、まず、成膜準備工程を行う。
本工程では、真空槽2を大気に開放した状態で、ターゲット組立体6がボンディングされたバッキングプレート7をマグネットユニット8上に設置し、被処理体支持部4に被処理体3を支持させる。
ターゲット組立体6のTiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dと電極9a、9b、9c、9dとの位置関係は、上記に説明した位置関係に配置する。
次に、不図示の真空ポンプを用いて、排気口11cから排気を行い、真空槽2内が1×10−4Paとなるまで排気して真空槽2内を高真空状態にする。その後、不活性ガスであるArガスをArガス導入口11bより導入し、真空槽2内を7×10−1Paとする。
以上で、成膜準備工程が終了する。
【0028】
次に、被処理体3上にTi層Lを形成する第1の成膜工程を行う。
本工程では、回転軸5の回転を開始するとともに、電源10a、10bから電極9a、9bに電圧印加を開始する。本実施形態では、約0.04kVを印加する。ただし、電源10c、10dの出力電力は0%に設定し、電極9c、9dには電圧が印加されない状態にしておく。
これにより、電極9aとTiターゲット片6aとの間、および電極9bとTiターゲット片6bとの間で放電が始まる。この放電により、電極9a(9b)とTiターゲット片6a(6b)との間に空間放電によって電流が流れ、電子が流動する。このように電子が流動することによって電子とArが衝突してArがイオン化され、Tiターゲット片6a、6bがスパッタリングされる。これにより、Tiターゲット片6a、6bから、被処理体3に向かってTi原子のスパッタリング粒子が飛び出していく。
【0029】
Arイオンが高密度で生成される領域は電子密度の高い領域である。本実施形態では、マグネットユニット8により発生するターゲット片上の磁界34は、図3(b)に示すように、ターゲット組立体6の外周から中心に向かって発生している。
このようなターゲット片上の磁界34の磁力線分布では、電子密度は、ターゲット片上の磁界34とターゲット組立体6とが略水平になっている位置で高くなる。したがって、電子密度が高い領域は、平面視では、図4に示すように、ターゲット組立体6の半径の1/2の同心円36の近傍の輪帯状の領域37となる。
さらに、電子密度の高い領域37は、図3(b)に示すように、電極9a(9b)と、Tiターゲット片6a(6b)との間に発生する電界33a(33b)の影響を受けて、陽極である電極9a(9b)の方向、すなわち、ターゲッ卜片の外周側へ引きよせられる。
このため、Tiターゲット片6a(6b)上で放電が発生してスパッタリングが起こるスパッタリング領域35a(35b)は、周方向には、図5に示すように、ターゲット組立体6の中心からそれぞれ電極9a、9bを見込む角度範囲よりもわずかに大きな角度範囲となり、径方向には、同心円36と電極9a(9b)との同心円弧状の帯状領域となる。
【0030】
このようにしてArイオンの進む方向は、マグネットユニット8により発生するTiターゲット片6a(6b)上の磁界34と、電極9a(9b)とTiターゲット片6a(6b)との間の電界33a(33b)により整流され、電極9a(9b)に対応したTiターゲット片6a(6b)は、電極9a(9b)に供給される電源10a(10b)の出力電力に応じて個別にスパッタリングされる。
また、スパッタリングを行う際は、電源10a(10b)から陽極配線31a(31b)を通り、陽極である電極9a(9b)へ電流が供給される。電極9a(9b)から放電された電流は、Tiターゲット片6a(6b)に流れ、さらにTiターゲット片6a(6b)を直接ボンディングした陰極であるバッキングプレート7へと流れる。バッキングプレート7へ流れた電流は、陰極配線32a(32b)を介して電源10a(10b)に戻ってくる。
このとき、バッキングプレート7は、電源10a、10bの陰極側の電気回路の共用部であり、電源10a、10bから供給された電流が、それぞれ同時に流れる。これらの電流の大きさは電源10a、10bの陽極から流れた電流の合算値であり、電源10a、10bが陰極配線32a、32bを介して回収する電流量も、それぞれ陽極から出力した電流と同量となる。そのため、電源10a、10bの陽極から供給する電流量を調整することで、電極9a、9bとターゲット片6a、6b間の放電電流量を独立して制御することができる。
【0031】
また、電源10a(10b)により電極9a(9b)に供給される電流は、空間放電によってTiターゲット片6a(6b)に流れる。このように空間を電流が流れる過程で、電子がAr原子と衝突してAr原子をプラズマ化させる。
よって、空間を流れる電流量、すなわち、電極9a、9bに供給される電流量によりArプラズマの発生量が決まる。そして、このArプラズマが、Tiターゲット片6a、6bの表面に衝突してスパッタリング粒子を発生させるため、電源10a、10bからそれぞれ供給される独立に制御された電流により、Tiターゲット片6a、6bからそれぞれ発生するスパッタリング粒子の量を独立に制御することができる。
【0032】
このようにしてTiターゲット片6a、6bから飛び出したスパッタリング粒子は、回転軸5によって回転される被処理体3に衝突して、被処理体3の表面に満遍なく堆積していきスパッタリング粒子による均一厚さの薄膜が形成されていく。上記のように、電源10a、10bから電極9a、9bに電流を供給して、電極9c、9dには電流を供給しない状態では、Alターゲット片6c、6dではスパッタリングが起きないため、薄膜はTiのみからなるTi層Lとして形成される。
スパッタリング装置1では、膜厚モニタ12a、12bによって膜厚測定を行い、フィードバック制御部13によってTiターゲット片6a、6bが寄与する薄膜の膜厚を監視することができる。
そこで、フィードバック制御部13は、膜厚モニタ12a、12bで測定される膜厚の和を監視して、被処理体3上での膜厚値が200nmとなるまで、電極9a、9bのみに電流を供給する。これにより、被処理体3上に膜厚200nmの単層のTi層Lが成膜される。
以上で、第1の成膜工程が終了する。
【0033】
このようにして、膜厚200nmのTi層Lが成膜されたら、続けて、Ti層L上に膜厚100nmのTiN傾斜層Lを成膜する第2の成膜工程を行う。
本工程では、電源10a、10bの出力電力を、第1の成膜工程の終了時の出力電力に固定し、膜厚モニタ12a、12bによる膜厚測定を行いながら、反応性ガスであるNをNガス導入口11aから導入する。
このとき、Nガスは、Ti層L上の膜厚が100nmになるまで、導入されるNのガス流量を0sccm〜30sccmまで連続的に上昇させていく。ここで、sccmは、1気圧(1.013hPa)、0℃における流量を、ccm、すなわち、cm/minで表した単位である。
これにより、Nの導入量に応じて、スパッタリングされたTiと反応したTiNが増大し、Tiのスパッタリング粒子とともにTiNの粒子が被処理体3のTi層L上に堆積していく。
このため、Ti層L上には、TiとNとの組成比が変化したTiN傾斜層Lが形成されていく。
【0034】
本実施形態のスパッタリング装置1では、膜厚モニタ12a、12bにより取得した膜厚測定値がフィードバック制御部13に送出される。ここで、膜厚測定値は、TiおよびTiNにより膜厚モニタ12a、12b上に形成される膜厚であり、フィードバック制御部13によって被処理体3上に膜厚に換算される。
フィードバック制御部13では、膜厚モニタ12a、12bの膜厚測定値から換算される被処理体3上の膜厚から、Tiターゲット片6a、6bからのTiの寄与による成膜速度を逐次算出する。そして、フィードバック制御部13は、これらの成膜速度の和が0.4nm/sとなるように、電源10a、10bの出力電力を調整するフィードバック制御を行う。
このため、TiN傾斜層Lの成膜を開始してから250秒後に膜厚100nmに達する。
この場合、Nガスは、Nガスの導入を開始してから250秒後にNのガス流量が30sccmになるように、Nのガス流量を一定勾配で増大させればよい。
このようにして、第2の成膜工程が終了する。
【0035】
上記第2の成膜工程の条件で形成されたTiN傾斜層Lの膜厚方向の組成変化のグラフを図6に示す。図6において、曲線100は、TiN傾斜層LにおけるTiの含有量[原子%]の変化を示している。また、曲線101は、TiN傾斜層LにおけるNの含有量[原子%]の変化を示している。横軸の膜厚は、被処理体3の表面を0nmとしている。このため、膜厚200nmはTi層Lの表面に相当している。
図6に示すように、上記のようにして形成されたTiN傾斜層Lは、膜厚200nmの位置で、Tiが100原子%とされ、膜厚が増大するにしたがって、Tiの含有量が直線的に減少するとともにNの含有量が直線的に増大して、膜厚300nmの位置で、Ti:Nの組成比が1:1になっていることが分かる。
【0036】
このようにしてTiN傾斜層Lを形成した後、続けて、TiN層Lを成膜する第3の成膜工程を行う。
本工程では、Nのガス流量を30sccmに保った状態で、他の条件は第2の成膜工程と同様にして、さらに100nmだけ成膜を行う。これにより、被処理体3のTiN傾斜層L上に、組成比が一定値1:1に保たれた膜厚100nmのTiN層Lが成膜される。
以上で、第3の成膜工程が終了する。
【0037】
次に、TiN層L上に、膜厚100nmのTiAlN傾斜層Lを成膜する第4の成膜工程を行う。
本工程では、第3の成膜工程の成膜を行う状態を保ちつつ、さらに、電源10c、10dからそれぞれ電極9c、9dに電圧を印加し、Alターゲット片6c、6dに対しスパッタリングを行う。
Alターゲット片6c、6dでのスパッタリングは、ターゲット片の構成材料がAlであるため、スパッタリング粒子がAl原子になる以外は、Tiターゲット片6a、6bでのスパッタリングと同様である。したがって、Alターゲット片6c、6dのスパッタリング粒子の放出量は、フィードバック制御部13により電源10c、10dの出力電力を個別に制御することによって、同様に調整することができる。また、電源10c、10dによって電極9c、9dとAlターゲット片6c、6dとの間に形成される電気回路も同一の原理で成り立つ。
したがって、バッキングプレート7を介して電源10a、10bと陰極配線32a、32bを共有していても、電源10a、10b、10c、10dの出力を個別に制御することにより、Tiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dからのそれぞれのスパッタリング粒子の放出量を個別に制御することができる。
【0038】
本工程では、スパッタリング装置1は、第2の成膜工程で、Tiによる成膜速度をフィードバック制御したのと同様にして、膜厚モニタ12c、12dにより取得した膜厚測定値をフィードバック制御部13に送る。フィードバック制御部13は、Alターゲット片6c、6dからのAlによる成膜速度の和が、0.2nm/sから0.4nm/sまで直線的かつ連続的に上昇するように、電源10c、10dの出力電力を調整するフィードバック制御を行う。この時、Tiターゲット片6a、6bによる成膜速度は0.4nm/sで固定した。よって、Tiターゲット片6a、6bとAlターゲット片6c、6dからの成膜による成膜速度の総和は、第4の成膜工程開始時は0.6nm/s、第4工程終了時は0.8nm/sであり、第4工程開始時から終了時までの成膜速度の総和は直線的かつ連続的に変化させた。
このようにして、成膜を行うことにより、TiN層L上には、膜厚の増大に伴って、Ti、Nの組成比が減少するとともにAlの組成比が増大し、膜厚100nmで組成比Ti:Al:Nが1:1:1となるTiAlN傾斜層Lが形成される。以上で、第4の成膜工程が終了する。
【0039】
上記第4の成膜工程の条件で形成されたTiAlN傾斜層Lの膜厚方向の組成変化のグラフを図7に示す。図7において、曲線102(◇:菱形印)は、Tiの含有量[原子%]の変化を示している。また、曲線103(△:三角印)は、Nの含有量[原子%]の変化を示している。また、曲線104(□:四角印)は、Alの含有量[原子%]の変化を示している。横軸の膜厚は、被処理体3の表面を0nmとしている。このため、膜厚400nmは、TiN層Lの表面に相当している。
図7に示すように、上記のようにして形成されたTiAlN傾斜層Lは、膜厚400nmの位置で、Ti、Nがそれぞれ50原子%とされ、膜厚が増大するにしたがって、Ti、Nの含有量が減少するとともに、Alの含有量が増大して、膜厚500nmの位置で、Ti:Al:Nの組成比が、1:1:1になっていることが分かる。
【0040】
このようにしてTiAlN傾斜層Lを形成した後、TiAlN層Lを成膜する第5の成膜工程を行う。
本工程では、Alによる成膜速度を0.4nm/sに保った状態として、他の条件は第4の成膜工程と同様にして、組成比を固定し、さらに100nmだけ成膜を行う。膜厚の監視は、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dの膜厚測定値の和をとることによって行う。
このようにして、被処理体3のTiAlN傾斜層L上に、組成比が一定値1:1:1に保たれた膜厚100nmのTiAlN層Lが成膜される。
以上で、第5の成膜工程が終了する。
【0041】
このようにして、スパッタリング装置1を用いることにより、被処理体3上に、膜厚200nmのTi層Lと、膜厚100nmの間でTiの組成比が100原子%から50原子%、Nの組成比が0原子%から50原子%に変化するTiN傾斜層Lと、膜厚100nmで組成比が1:1で一定のTiN層Lと、膜厚100nmの間で、TiおよびNの組成比がそれぞれ50原子%から33.3原子%、Alの組成比が0原子%から33.3原子%に変化するTiAlN傾斜層Lと、膜厚100nmで組成比が1:1:1で一定のTiAlN層Lとが、この順に積層された薄膜を成膜することができる。
【0042】
スパッタリング装置1において、フィードバック制御部13と膜厚モニタ12a、12b、12c、12dは、ターゲット片からの原子または分子の放出量および成膜速度を測定または算出し、この測定結果または算出結果に基づいて、複数の電源の出力電力を調整する出力制御部を構成している。
【0043】
次に、本実施形態の成膜方法により成膜された薄膜50の品質評価を行った結果について説明する。
薄膜50の品質評価は、薄膜50を図8に示すような種々の光学機器に使用するガラス光学素子を成形によって製造する金型組み20に成膜し、実際にガラス光学素子の成形を繰り返して、薄膜50の耐久性を評価することにより行った。
金型組み20は、ガラス光学素子の表面形状を形成する上金型14および下金型15を、ガラス光学素子の厚さを規定する円筒状の内部胴型16に挿入し、さらにこれらの組立体の外周部を円筒状の外部胴型17の内周部に挿入して組み立てたものである。
このような金型組み20は、窒素雰囲気の高温環境下で成形を行うため、耐熱性が求められる。また、特に、内部胴型16は、上金型14および下金型15の間に挿入された硝材を加圧成形する際に、内周部に挿入された上金型14および下金型15と、外周部に外嵌された外部胴型17とが上下に摺動するため、表面の耐摩耗性が求められている。
そこで、内部胴型16の表面に、本実施形態の成膜方法により薄膜50を成膜した。
このような金型組み20を用いて、L−BAL42(株式会社オハラ製)を硝材として、580℃で2分間かけてガラス光学素子を成形する工程を繰り返し行ったところ、成形回数が25000回まで、酸化による劣化や摺動による薄膜50の剥離は発生せず、ガラス光学素子の成形が可能であった。
この結果より、本実施形態の成膜方法による薄膜50は、良好な耐摩耗性を有していることが分かる。
【0044】
このように、本実施形態のスパッタリング装置1、およびこれを用いた成膜方法によれば、Tiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dにより構成されたターゲット組立体6を用いて電源10a、10b、10c、10dの出力調整を行ってスパッタリングを行うことで、傾斜的な組成調整を行うことが可能になり、多層膜間に境界面のない薄膜を成膜することができる。これにより薄膜の耐久性を向上することができる。
また、ターゲット組立体6は共用部電極であるバッキングプレート7上に一体に設けられ、かつスパッタリングを行うための電極部9は各ターゲット片をそれぞれスパッタリングするための複数の電極9a、9b、9c、9dがターゲット組立体6の外周側に配置されている。このため、従来の1元系のターゲット設置部を複数設けて、同様の多元系の薄膜の成膜を行う場合に比べて、ターゲット片および電極の占有スペースを省スペース化することができる。この結果、真空槽2を大型化することなく、被処理体3に複数種類の構成材料によって、傾斜層や組成比を調整した成膜を行うことができる。
【0045】
また、スパッタリング装置1では、ターゲット組立体6と被処理体3との間に、スパッタリング粒子をさえぎる構造物がないため、平板状ターゲットの上方に格子状ターゲットを重なるように配置した従来技術に係る成膜装置に比べて、スパッタリング粒子の損失が少なくなる。このため、ターゲットの使用効率を落とさずに成膜を行うことができる。
【0046】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る成膜装置について説明する。
図9は、本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す模式的な正面図である。図10は、図9におけるE視図である。図11は、本発明の第2の実施形態に係る成膜装置における電源の出力電力と成膜速度との関係の例を示すグラフである。横軸は電極の出力電力[kW]、縦軸は成膜速度[nm/s]を示す。
【0047】
本実施形態のスパッタリング装置25は、図9に示すように、上記第1の実施形態のスパッタリング装置1の膜厚モニタ12a、12b、12c、12d、フィードバック制御部13に代えて、プラズマエミッションモニタ26、フィードバック制御部13Aを備える。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
なお、スパッタリング装置25によって成膜可能な薄膜の構成は、ターゲット組立体6の構成材料等に応じて適宜構成が可能であるが、以下では、一例として、上記第1の実施形態と同様に、図2に示す薄膜50を成膜する場合の例で説明する。
【0048】
プラズマエミッションモニタ26は、被処理体3とターゲット組立体6との間の中空部で、スパッタリングによりTiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dから飛び出したスパッタリング粒子の放出量を、それぞれプラズマ発光強度を検出することにより測定するものである。
本実施形態のプラズマエミッションモニタ26は、Tiターゲット片6a、Alターゲット片6cからのスパッタリング粒子の放出量を測定するセンサヘッド26aと、Tiターゲット片6b、Alターゲット片6dからのスパッタリング粒子の放出量を測定するセンサヘッド26bを備える。
センサヘッド26aは、図10に示すように、Tiターゲット片6aの側方において、Tiターゲット片6a、Alターゲット片6cを検知範囲に捉える位置に配置されている。これにより、Tiターゲット片6a、Alターゲット片6c上での成膜物質のプラズマ発光強度を検出できるようになっている。
また、センサヘッド26bは、Alターゲット片6dの側方において、Alターゲット片6d、Tiターゲット片6bを検知範囲に捉える位置に配置されている。これにより、Alターゲット片6d、Tiターゲット片6b上での成膜物質のプラズマ発光強度を検出できるようになっている。
センサヘッド26a、26bは、それぞれフィードバック制御部13Aに電気的に接続され、それぞれの測定値をフィードバック制御部13Aに送出できるようになっている。
【0049】
スパッタリング現象が起きている時、ターゲット組立体6から放出されたスパッタリング粒子のうち、一部のTi原子およびAl原子には、ある割合で高い量子位置への励起が起こり、これらが基底の量子位置に戻る際に各原子に固有な波長の励起光を放射する。そして、TiとAlとの固有のプラズマ発光波長は異なるため、それぞれのプラズマ発光強度を同時に測定しても、プラズマ発光強度をそれぞれの波長ごとに分離して測定することができる。
このため、センサヘッド26aでは、Tiターゲット片6a、Alターゲット片6cから放出されるスパッタリング粒子によるプラズマ発光強度から、それぞれTi、Alの放出量を検出することができる。また、センサヘッド26bでは、Tiターゲット片6c、Alターゲット片6dから放出されるスパッタリング粒子によるプラズマ発光強度から、それぞれTi、Alの放出量を検出することができる。
センサヘッド26a、26bの測定範囲は、Tiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dから放出されるスパッタリング粒子の移動経路の一部であるが、センサヘッド26a、26bのターゲット組立体6に対する位置関係を固定しておくことにより、一定範囲のスパッタリング条件において、センサヘッド26a、26bで検出されたプラズマ発光強度と、被処理体支持部4に支持された被処理体3に到達するスパッタリング粒子の量との相関をとることができる。
このため、センサヘッド26a、26bによるプラズマ発光強度の測定値を、予めとられた相関データに基づいて、Tiターゲット片6a、6b、Alターゲット片6c、6dから放出され被処理体3に到達するスパッタリング粒子の量に換算することで、被処理体3に成膜される膜の組成を算出することができる。
【0050】
図11に、スパッタリング装置25における電源10a、10b、10c、10dの出力電力と被処理体3上の成膜速度との関係の例を示した。
曲線111(◇:菱形印)は、Nの供給量が0sccmである場合のTiの成膜速度を示している。曲線111によれば、Tiの成膜速度は、出力電力が、成膜が可能となる最低出力電力である0.08kWから1kWに増大するにつれて、0.0068nm/sから0.85nm/sまで略直線的に変化する関係にあることが分かる。
曲線112(△:三角印)は、Nの供給量が30sccmである場合のTiによる成膜速度を示している。曲線112によれば、Tiによる成膜速度は、出力電圧が、成膜が可能となる最低出力電力である0.08kWから1kWに増大するにつれて、0.0034nm/sから0.425nm/sまで略直線的に変化する関係にあることが分かる。
このように、Nの供給が増えると、Tiによる成膜速度は減少する。したがって、Nが0sccmから30sccmまで変化する間におけるTiによる成膜速度は、Nのガス流量に基づいて、曲線111、112とのデータを比例配分することによって容易に求められる。
曲線113(□:四角印)は、Nの供給量が30sccmである場合のAlによる成膜速度を示している。曲線113によれば、Alによる成膜速度は、出力電力が、成膜が可能となる最低出力電力である0.08kWから1kWに増大するにつれて、0.016nm/sから2nm/sまで略直線的に変化する関係にあることが分かる。
【0051】
フィードバック制御部13Aは、センサヘッド26a、26bから送出される成膜物質ごとのプラズマ発光強度の測定値に基づいて、TiおよびAlのスパッタリング粒子の放出量とその組成比を計算し、これらの放出量の和から成膜速度を算出し、これら組成比と成膜速度とが、薄膜50を形成するために必要な時間変化をするように、各電源10a、10b、10c、10dの出力電力をフィードバック制御するものである。
このため、フィードバック制御部13Aには、予め薄膜50を形成するために必要なTiおよびAlによる組成比、成膜速度の時間変化の制御目標値と、図11に示すような出力電力と成膜速度との関係が記憶されている。
【0052】
次に、スパッタリング装置25の動作について、スパッタリング装置25を好適に用いて行うことができる本実施形態の成膜方法を中心として説明する。
スパッタリング装置25を用いた成膜方法は、上記第1の実施形態と同様に成膜準備工程を行った後、上記第1の実施形態と略同様にして第1〜第5の成膜工程を行う。
上記第1の実施形態における第1〜第5の成膜工程と異なるのは、各成膜工程において、プラズマエミッションモニタ26によって、各ターゲット片からのプラズマ発光強度をリアルタイムに測定し、これをフィードバック制御部13Aによって被処理体3上の組成比と成膜速度とに換算し、これらの成膜速度の時間変化が薄膜50の膜構成に応じて、フィードバック制御部13Aに予め記憶された制御目標値になるように、電源10a、10b、10c、10dの出力電力をフィードバック制御する点である。
【0053】
スパッタリング装置25において、フィードバック制御部13Aとプラズマエミッションモニタ26は、ターゲット片からの原子または分子の放出量、組成比、および成膜速度を測定または算出し、この測定結果または算出結果に基づいて、複数の電源の出力電力を調整する出力制御部を構成している。
【0054】
本実施形態のスパッタリング装置25によれば、上記第1の実施形態と同様に、真空槽2内に1つのターゲット組立体6を設置するだけで、多元系の薄膜50を成膜することができるため、上記第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
さらに、本実施形態では、スパッタリング装置25のプラズマエミッションモニタ26の測定値に基づいて、薄膜50の組成比をフィードバック制御しながら、成膜を行うことができる。このため、膜厚方向においる組成比の変化が高精度に制御された薄膜50を形成することができる。
【0055】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係る成膜装置について説明する。
図12は、本発明の第3の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す模式的な正面図である。図13は、図12におけるF視図である。
【0056】
本実施形態のスパッタリング装置27は、図12、13に示すように、上記第1の実施形態のスパッタリング装置1のフィードバック制御部13に代えて、フィードバック制御部13Bを備え、さらに上記第2の実施形態と同様の構成および配置を有するプラズマエミッションモニタ26を追加したものである。
プラズマエミッションモニタ26のセンサヘッド26a、26bは、フィードバック制御部13Bに電気的に接続され、センサヘッド26a、26bの測定値をフィードバック制御部13Bに送出できるようになっている。
以下、上記第1および第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
なお、スパッタリング装置27によって成膜可能な薄膜の構成は、ターゲット組立体6の構成材料等に応じて適宜構成が可能であるが、以下では、一例として、上記第1の実施形態と同様に、図2に示す薄膜50を成膜する場合の例で説明する。
【0057】
フィードバック制御部13Bは、成膜時に膜厚と膜の組成比とを制御するものであり、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dと、プラズマエミッションモニタ26と、電源10a、10b、10c、10dとに電気的に接続されている。
すなわち、フィードバック制御部13Bは、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dからの膜厚の測定値を受信して、これらの測定値の和から成膜された膜厚を算出し、この膜厚値が予め記憶された膜厚の制御目標値に一致するように、電源10a、10b、10c、10dの出力電力をフィードバック制御することができるようになっている。
また、フィードバック制御部13Bは、プラズマエミッションモニタ26のセンサヘッド26a、26bから送出される成膜物質ごとのプラズマ発光強度の測定値に基づいて、TiおよびAlのスパッタリング粒子の放出量とその組成比を計算し、この組成比が、予め記憶された膜厚方向の組成比の制御目標値に一致するように、電源10a、10b、10c、10dの出力電力をフィードバック制御することができるようになっている。
このため、フィードバック制御部13Bには、予め、薄膜50を形成するために必要な膜厚方向におけるTiおよびAlによる組成比の制御目標値と、図11に示すような出力電力と成膜速度との関係とが記憶されている。
【0058】
次に、スパッタリング装置27の動作について、スパッタリング装置27を好適に用いて行うことができる本実施形態の成膜方法を中心として説明する。
スパッタリング装置27を用いた成膜方法は、上記第1の実施形態と同様に成膜準備工程を行った後、上記第1の実施形態と同様にして第1〜第3の成膜工程を行い、上記第1の実施形態と略同様にして第4および第5の成膜工程を行う。
上記第1の実施形態における第4、第5の成膜工程と異なるのは、これらの成膜工程において、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dによって膜厚を逐次測定するとともに、プラズマエミッションモニタ26によって、各ターゲット片からのプラズマ発光強度を逐次測定し、これらの測定値が予め記憶されたそれぞれの制御目標値に一致するように、フィードバック制御部13Bによって電源10a、10b、10c、10dの出力電力をフィードバック制御する点である。
以下では、第4および第5の成膜工程について、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0059】
第3の成膜工程が終了後、TiN層L上に、膜厚100nmのTiAlN傾斜層Lを成膜する第4の成膜工程を行う。
本工程では、Nのガス流量を30sccmに保持して、第3の成膜工程と同条件で、Tiのスパッタリングを行うとともに、Alのスパッタリングを開始する。
すなわち、本工程の開始時には、Tiターゲット片6a、6bからTiをスパッタリングして、成膜速度0.4nm/sの成膜を行うために、図11の曲線112に示す関係に基づいて、電源10a、10bの出力電力が0.94kWに設定されている。
また、Alターゲット片6c、6dからAlをスパッタリングして、成膜速度0.2nm/sの成膜を行うために、図11の曲線113に示す関係に基づいて、電源10c、10dの出力電力を0.1kWに設定する。これにより、合計成膜速度が0.6nm/sの成膜が開始される。
またこれと同時に、スパッタリング装置27では、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dによる膜厚の測定を第3の成膜工程から継続するとともに、プラズマエミッションモニタ26のセンサヘッド26a、26bによる組成比の測定を開始する。これらの測定による膜厚の測定値と各成膜物質の組成比の測定値は、逐次、フィードバック制御部13Bに入力される。
【0060】
組成比の成膜速度における制御目標値は、図11の曲線112、113に示される関係から得られる。
第4工程の成膜開始時の設定組成比は、Ti:Al=2:1となるように電源10a、10bの出力電力を0.94kW、電源10c、10dの出力電力を0.1kWに設定し、成膜を開始する。
成膜開始後、フィードバック制御部13Bは、センサヘッド26a、26bの測定値に基づいて、上記第2の実施形態と同様にしてターゲット片6a、6cおよびターゲット片6b、6dの組成比を計算し、被処理体3の表面を0nmとしたとき、第4工程の終了時の到達膜厚500nmまで成膜する過程で、Ti:Alの組成比が2:1から1:1まで直線的かつ連続的に組成変化するように、電源10a、10b、10c、10dの出力電力を調整する制御を行う。
具体的には、例えば、電源10a、10b、10c、10dの出力値の制御を0.001kWのステップとし、センサヘッド26aで測定されたTiターゲット片6a、Alターゲット片6cから放出されるスパッタリング粒子の組成比において、Tiが設定された組成比よりも多かった場合には、電源10aの出力電力を0.001kW下降させ、これと同時に電源10cの出力電力を0.001kW上昇させ、再度センサヘッド26aで組成比を解析する。さらに補正が必要な場合は、同じことを繰り返す。
そのとき、電源10a(10b)と電源10c(10d)への電源出力値の補正は、一方の補正と他方の補正を必ずしも同時に行わなくても良く、組成比を、その時点の組成比の制御目標値に調整できれば良い。本実施形態では、フィードバックによる電源の出力調整が0.001kWステップなので、目標組成比に対して1.15原子%の誤差範囲があり、組成制御は、この誤差範囲内に入れば、目標組成比に到達したと判定する。
【0061】
また、フィードバック制御部13Bでは、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dの測定値の総和によって、成膜される合計の膜厚と成膜速度とを算出する。
フィードバック制御部13Bは、測定された成膜速度と、設定値0.6nm/sとの差を算出して、成膜速度が0.6nm/sとなるように、膜厚モニタ12aおよび膜厚モニタ12cの測定値から算出された合計成膜速度と、膜厚モニタ12bおよび膜厚モニタ12dの測定値から算出された合計成膜速度を、逐次フィードバック制御部13Bに入力し、電源10a、10b、10c、10dの出力電力の大きさを、センサヘッド26a、26bの測定値に基づく組成比の制御で決定されたTiの組成に対応する電源10a、Alの組成に対応する電源10cの出力電力の和と、Tiの組成に対応する電源10b、Alの組成に対応する電源10dの出力電力の和との差が少なくなるように調整する。
補正の動作は、前述したような膜厚モニタ12a、12b、12c、12dの膜厚測定値から換算される被処理体3上の膜厚から、Tiターゲット片6a、6bおよびAlターゲット片6c、6dからのTiおよびAlの寄与による成膜速度を逐次算出する。そして、フィードバック制御部13Bは、これらの成膜速度の和が0.6nm/sとなるように、電源10a、10b、10c、10dの出力電力を調整するフィードバック制御を行う。
その後、膜厚モニタ12a、12cによるTiターゲット片6a、Alターゲット片6cの合計成膜速度を算出し、また膜厚モニタ12b、12dによりTiターゲット片6b、Alターゲット片6dの合計成膜速度を算出し、Tiターゲット片6a、Alターゲット片6cの合計成膜速度とTiターゲット片6b、Alターゲット片6dの合計成膜速度がそれぞれ0.3nm/sになるように、電源10a、10b、10c、10dの出力値の制御を行う。
この組成比制御と合計成膜速度の制御を繰り返し行うことで、組成比と成膜速度を所望の目標値に合わせこむ。
【0062】
フィードバック制御部13Bは、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dにより、膜厚が測定開始時から500nm(第3の成膜工程の終了時から100nm)に到達したことを確認し、かつ、センサヘッド26a、26bにより、Tiターゲット片6a、Alターゲット片6c、およびTiターゲット片6b、Alターゲット片6dのそれぞれのTiとAlの組成比の測定値が1:1であることを確認したら、TiAlN傾斜層Lの成膜プロセスを終了と判定し、第4の成膜工程を終了する。
【0063】
続いて、TiAlN層Lを成膜する第5の成膜工程を行う。
本工程では、成膜速度および組成比を、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dおよびプラズマエミッションモニタ26で監視し、それぞれ第4の成膜工程の終了時の一定の成膜速度および組成比が保持されるように、フィードバック制御13Bによって電源10a、10b、10c、10dの出力電力を制御する。
膜厚が600nm(第4の成膜工程の終了時から100nm)になったら、フィードバック制御部13Bは、電源10a、10b、10c、10dの出力電力を0%にする。
以上で、第5の成膜工程が終了する。
【0064】
スパッタリング装置27において、フィードバック制御部13Bと、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dと、プラズマエミッションモニタ26とは、ターゲット片からの原子または分子の放出量、組成比、および成膜速度を測定または算出し、この測定結果または算出結果に基づいて、複数の電源の出力電力を調整する出力制御部を構成している。
【0065】
本実施形態のスパッタリング装置27によれば、上記第1の実施形態と同様に、真空槽2内に1つのターゲット組立体6を設置するだけで、多元系の薄膜50を成膜することができるため、上記第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
さらに、本実施形態では、スパッタリング装置27の膜厚モニタ12a、12b、12c、12dによる膜厚の測定値に基づいて、薄膜50の成膜速度をフィードバック制御し、プラズマエミッションモニタ26の測定値に基づいて、薄膜50の組成比をフィードバック制御しながら、成膜を行うことができる。このため、膜厚方向における組成比の変化がより高精度に制御された薄膜50を形成することができる。
【0066】
なお、上記第1の実施形態の説明では、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dの測定値に基づいて、成膜速度をフィードバック制御する場合の例で説明したが、成膜に使用する材料の被処理体3への成膜速度と、電源10a、10b、10c、10dの出力電力の関係を、膜厚モニタ12a、12b、12c、12dを用いて予め実験的に求めておき、このような出力電力と成膜速度との関係に基づいて、出力電力を変化させ、フィードバック制御なしで同様の成膜を行ってもよい。この場合、スパッタリング装置1におけるフィードバック制御部13は、開ループの制御部に置き換えることができる。
【0067】
また、上記各実施形態の説明では、薄膜50として、Ti層LとTiN層Lとの間、TiN層LとTiAlN層Lとの間に、それぞれ、傾斜的な組成調整を行って、TiN傾斜層L、TiAlN傾斜層Lを形成して多層膜間に境界面のない混合薄膜を成膜する場合の例で説明したが、本発明の成膜装置および成膜方法では、組成比が一定の層膜の間は、傾斜的な組成調整に限らず、段階的に組成調整を行った混合薄膜を成膜することが可能である。
【0068】
また、上記各実施形態の説明では、反応性ガスにNガス、不活性ガスにArガス、ターゲット片として、Ti、Alを用いた例で説明したが、これらは1例であって、反応性ガス、不活性ガス、ターゲット片の構成材料は、いずれも、目的の膜種、構成に応じて、適宜の材料に変更することが可能である。
【0069】
また、上記各実施形態の説明では、DCスパッタリング法に分類されるDCマグネトロンスパッタ法を採用した場合の例で説明したが、真空槽内で被処理体上に多元系の薄膜を成膜する適宜の成膜方法に適用することができる。例えば、RFスパッタリング法、電子ビームを用いた真空蒸着法等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。
【0070】
また、上記第1および第3の実施形態の説明では、膜厚および成膜速度を測定または算出する手段として、水晶振動子型の膜厚モニタ12a、12b、12c、12dを採用した場合の例で説明したが、他の膜厚測定手段や成膜速度測定手段を採用してもよい。例えば、光を透過できる成膜材料を用いる場合や、膜厚寸法が光を透過できる寸法である場合には、透過率測定型の膜厚モニタに変更することも可能である。
【0071】
また、上記各実施形態の説明では、ターゲット組立体を等分割して、各ターゲット片の面積を等しくした場合の例で説明したが、各ターゲット片の面積が等しくない設定とすることも可能である。
例えば、多元系の混合薄膜において、主成分材料と添加成分材料とで、組成比率に差がある場合、ターゲット使用量に応じてターゲット片の面積を使用量に応じて設定すると、各ターゲット片の消費率が略等しくなるため、ターゲットの使用効率を向上することができる。
【0072】
また、上記各実施形態の説明では、ターゲット組立体を4等分割して、構成材料の異なる2種類のターゲット片を2個ずつ設けた場合の例で説明したが、ターゲット片の全数や構成材料ごとの個数は、これらの個数、数量比には限定されない。
例えば、ターゲット片の個数は、構成材料の種類ごとに変えることも可能である。
特に、多元系の混合薄膜において、主成分材料と添加成分材料とで、組成比率に差がある場合、ターゲット使用量に応じてターゲット片の個数を設定すると、ターゲット組立体内の構成材料ごとのターゲットの消費率が略等しくなるため、ターゲットの使用効率を向上することができる。
また、ターゲット組立体6の分割数を増やし、それぞれに対して電極や電源を設けることにより、ターゲット組立体6上の異なる種類のターゲット片を増やし、スパッタリング可能な構成材料の種類を増やすことができる。
この場合、各ターゲット片に対応する電極に対する電源の出力電力を調整することによって、より多くのターゲット片から、異なる構成材料を選択してスパッタリングを行うことができる。例えば、予めターゲット組立体6上に、種々の成膜に必要なすべての構成材料のターゲット片を設けておくことにより、薄膜の膜構成が代わっても、装置構成を変更することなく、異なる材質の成膜を続けて行うことができる。このため、多元系の薄膜の成膜を効率的かつ容易に行うことができる。
【0073】
また、上記の各実施形態の説明では、出力制御部が、ターゲット片からの原子または分子の放出量および成膜速度を測定または算出する場合と、放出量、組成比、および成膜速度を測定または算出する場合の例で説明したが、薄膜に要求される膜厚や組成比の精度に応じて、放出量、組成比、成膜速度のうち少なくともいずれかを測定または算出できればよい。
例えば、膜厚誤差の許容範囲が大きいが組成比を高精度にしたいような場合には、組成比を測定または算出できるようにしておき、膜厚や成膜速度を測定せず、成膜時間を管理して成膜を行うことができる。
【0074】
また、上記の各実施形態に説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせたり削除したりして実施することができる。
【符号の説明】
【0075】
1、25、27 スパッタリング装置(成膜装置)
2 真空槽
3 被処理体
4 被処理体支持部
5 回転軸
6 ターゲット組立体
6A、6B ターゲット対
6a、6b Tiターゲット片(ターゲット片)
6c、6d Alターゲット片(ターゲット片)
7 バッキングプレート(共用部電極)
8 マグネットユニット
9a、9b、9c、9d 電極
10a、10b、10c、10d 電源
11a Nガス導入口
11b Arガス導入口
11c 排気口
12a、12b、12c、12d 膜厚モニタ(出力制御部)
13、13A、13B フィードバック制御部(出力制御部)
16 内部胴型
26 プラズマエミッションモニタ(出力制御部)
26a、26b センサヘッド
50 薄膜
Ti層
TiN傾斜層
TiN層
TiAlN傾斜層
TiAlN層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内で被処理体上に多元系の薄膜を成膜する成膜方法であって、
構成元素あるいは組成が異なる2種類以上のターゲット片を有するターゲット組立体を、独立に出力調整可能な複数の電源の陰極に電気的に接続された共用部電極上に設置し、
前記2種類以上のターゲット片のそれぞれに対して電圧印加するため、前記複数の電源の陽極に個別の配線を介して電気的に接続された複数の電極を配置して、
前記複数の電源の各出力電力をそれぞれ0%〜100%の範囲で個別に調整して、前記ターゲット片からの原子または分子の放出量を変化させて、前記被処理体上に多元系の薄膜を成膜する
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記ターゲット片からの原子または分子の放出量、組成、および成膜速度のうちの少なくとも1つを測定または算出し、この測定結果または算出結果に基づいて、前記複数の電源の前記出力電力を調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
真空槽内で被処理体上に多元系の薄膜を成膜する成膜装置であって、
構成元素あるいは組成が異なる2種類以上のターゲット片を配置してなるターゲット組立体と、
0%〜100%の範囲で出力電力を独立に調整可能な複数の電源と、
該複数の電極の陰極に電気的に接続され、前記ターゲット組立体を保持する共用部電極と、
前記2種類以上のターゲット片の周囲に設置され、前記複数の電源の陽極に個別の配線を介して電気的に接続された複数の電極と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
前記ターゲット片からの原子または分子の放出量、組成、および成膜速度のうちの少なくとも1つを測定または算出し、この測定結果または算出結果に基づいて、前記複数の電源の前記出力電力を調整する出力制御部を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記ターゲット組立体は、
前記構成元素あるいは組成が同じ扇形状のターゲット片が径方向に対向するターゲット対が2以上設けられ、
前記複数の電極は、
前記扇形状のターゲット片の円弧部の周囲において、該円弧部に沿って湾曲された円弧状電極からなる
ことを特徴とする請求項3または4に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−111974(P2012−111974A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259149(P2010−259149)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】