成膜装置および成膜方法
【課題】
スパッタリング法を用い、大面積基材に対して、均質かつ高精度な、所定の膜厚分布の光学薄膜を得ることができる成膜装置を提供する。
【解決手段】
スパッタリング法を用いて基材に薄膜を形成する成膜装置において、スパッタ粒子を放出するターゲットの中心を貫く法線と前記基材の表面とが直交するように前記ターゲットと前記基材とを配置し、前記ターゲットと前記基材の表面との距離を一定にしたまま、前記ターゲットと前記基材とを相対的に移動させて、前記基材に薄膜を形成する。
スパッタリング法を用い、大面積基材に対して、均質かつ高精度な、所定の膜厚分布の光学薄膜を得ることができる成膜装置を提供する。
【解決手段】
スパッタリング法を用いて基材に薄膜を形成する成膜装置において、スパッタ粒子を放出するターゲットの中心を貫く法線と前記基材の表面とが直交するように前記ターゲットと前記基材とを配置し、前記ターゲットと前記基材の表面との距離を一定にしたまま、前記ターゲットと前記基材とを相対的に移動させて、前記基材に薄膜を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学薄膜の作製手法は真空蒸着法、プラズマやイオンビームによるアシスト蒸着法、イオンプレーティング法などが多く用いられてきた。真空蒸着法は小さな蒸発源から蒸発源を取り囲む大きな面積の基材(レンズ)に対して均一な成膜を行うのに適した成膜法である。蒸発源と基材は通常500mm以上の距離を保ち、基材を公転や遊星回転させて成膜の均一化を図っている。そして膜厚を毎回同じようにするために基材ホルダー付近にモニターを設け、直接そのモニターに入る蒸発量を読み取り、成膜速度、堆積量を感知して蒸発源の蒸発量を制御している。様々な蒸着条件に対応して、膜厚分布の均一な光学薄膜を形成するために、様々の工夫がなされている。例えは特許文献1では、自公転可能な基材保持部と蒸着源と基材保持部との相対位置を、水平、垂直、傾斜方向のうち少なくとも1つの方向に変化させる、可変機構を設けた蒸着装置が開示されている。
【0003】
一方スパッタリング法は半導体やフラットパネルディスプレイ、電子部品などの薄膜製造工程における量産装置として使用されている。スパッタリング技術は、低圧のスパッタリングガスをグロー放電によりイオン化(プラズマ状化)し、そのプラズマ状イオンを電極間で加速させ、陰極に配置したターゲット材料に衝突させている。次にイオン衝撃により飛び出されたターゲット材料構成原子は、陽極近傍に設けられた基材上に付着堆積してターゲット材料の薄膜を形成している。このようにスパッタリング法は放電現象を用いるため真空蒸着法よりも高い圧力下で成膜を行わなくてはならない。スパッタリング技術はスパッタリングされたターゲット材料構成原子が高いエネルギーを持って基材に入射するため緻密な膜が得られるという特徴がある。しかし、スパッタリングされたターゲット材料構成原子は、基材上に堆積するまでの間に成膜チャンバー内圧力に応じた頻度でスパッタリングガス等と衝突散乱してスパッタリングされた直後の初期のエネルギーを失って行ってしまう。そのため緻密な膜を得るためにはターゲットと基材の距離を適度に150mm程度に短くする必要がある。またスパッタ粒子の斜入射膜も膜密度が低いので、スパッタ粒子の斜入射成分を極力抑えることが必要である。
【0004】
このためスパッタリング法において、大面積な基材に均質かつ高精度に所定の膜厚分布を得るためには、ターゲットのサイズを基材のサイズに対して十分に大きくする必要がある。あるいは、ターゲットと基材を相対的に移動走査させる等の工夫が必要である。従来のスパッタリング装置では、基材面とターゲット面が平行に配置されていた。そのような従来のスパッタリング装置においては、基材に付着する膜の膜厚分布、組成比分布、不純物分布などを広範囲に均一化するために基材よりも大きな径のターゲットを用いていた。しかし、基材径が大きくなりすぎると、膜厚分布に与えるターゲットの非エロージョン領域の影響が大きくなってくる等の問題が発生した。従って、単にターゲット径を大径化しただけでは膜厚分布、組成比分布、不純物分布を均一化することができなかった。
そこで、特許文献2では基材を適度の早さで回転させると共に、基材の法線に対し、ターゲットの中心軸線の角度θを、15°≦θ≦45°の関係に保つという斜め入射成膜方式が開示されている。この方式によれば、ターゲットの径を基材と同等以下にしても、均一膜厚、膜質を生成できるとしている。また、特許文献3ではターゲットと基材を相対的に移動走査させる方法が開示されている。この方式によれば、堆積量及び堆積形状の基体面内の均一性が向上し、また複数のターゲットを用いることで、ターゲットの径を基体の径より小さくすることができるとしている。
ところが近年の光リソグラフィーの分野においては半導体露光装置の微細化に伴って短波長化や高NA化が進み、基材口径の大型化や基材形状が多様化し、従来にも増して高精度な膜厚制御が要求されるようになった。そこで特許文献4では成膜中に基材とカソードの相対位置関係等を独立に可変出来る制御軸が3軸以上有することを特徴とするスパッタ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−152336号公報
【特許文献2】特開2000−265263号公報
【特許文献3】特開平5−234893号公報
【特許文献4】特開2004−269988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、成膜分布の予測が難しい。粒子の散乱や特に反応を含む複雑なスパッタプロセスにおいて、密度の高い高品質な膜を様々な凹凸形状の基材に対して目標の膜厚ムラに精度良く成膜するには、単に独立に可変ができる制御軸が多いだけでは不十分である。スパッタリングされる時のターゲット材料構成原子の放出分布はどのようになっているのか正確に調べるのは難しい。また仮にそれがわかったとしても、その後の基材に達するまでの輸送過程で、どのような散乱や反応が起こっているのかを正確に予測シミュレーションするのは難しい。そのためいかにして膜厚分布を予想して、成膜中に基材とターゲットの相対位置関係等を制御し決定するかが問題となる。また、密度の高い高品質な膜を成膜するには、スパッタ粒子の斜入射成分を極力抑えることも考慮に入れる必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、スパッタリング法を用い、大面積基材に対して、均質かつ高精度な、所定の膜厚分布の光学薄膜を得ることができる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の成膜装置は、スパッタリング法を用いて基材に薄膜を形成する成膜装置において、スパッタ粒子を放出するターゲットの中心を貫く法線と前記基材の表面とが直交するように前記ターゲットと前記基材とを配置し、前記ターゲットと前記基材の表面との距離を一定にしたまま、前記ターゲットと前記基材とを相対的に移動させて、前記基材に薄膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スパッタリング法を用い、大面積基材に対して、均質かつ高精度な、所定の膜厚分布の光学薄膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態1の成膜装置の概略図である。
【図2】本発明の実施形態1のマスクの模式図である。
【図3】本発明の実施形態1の膜厚分布 を表したグラフである。
【図4】本発明の実施形態1の膜厚分布関数を表したグラフである。
【図5】本発明の実施形態1の膜厚計算のための基材表面の摸式図である。
【図6】本発明の実施形態1の膜厚計算のための基材表面の摸式図である。
【図7】本発明の実施形態1の回転対称な膜厚分布のグラフである。
【図8】図7の膜厚分布の速度と時間の表である。
【図9】図8の条件で成膜した膜厚分布のグラフである。
【図10】本発明の実施形態2の非回転対象な膜厚分布を表したグラフである。
【図11】図10の膜厚分布の速度と時間の表である。
【図12】図11の条件で成膜した膜厚分布のグラフである。
【図13】本発明の実施形態3のマスク効果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態1の成膜装置の模式的断面図を図1に示す。本成膜装置100は球面形状を持った基材にスパッタリング法を用いて薄膜を形成する成膜装置である。以下図面を参照しながらステップ毎に成膜装置100の機能および構造について説明する。
(STEP1)ターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが常に直交するように配置する。ターゲット11と基材21を緻密な膜を得るのに適したある一定の距離で配置し、基材21の中心22と外周23との間でターゲット11を相対的に走査(移動)して成膜し、基材面20内の成膜分布を実験的に確認する。この時ターゲット11は、ターゲット11の中心を貫く法線50に対して回転対称なターゲット構造を持ち、ターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが常に直交するような配置で成膜する。ターゲット11から放出されるスパッタ粒子は、ターゲット11の中心から回転対称に放出され、基材面20に成膜される膜厚も、ターゲット11の中心を貫く法線50と基材面20との交点Qを中心に回転対称な分布を持つ。この様子を図3に示す。ここで、スパッタリングガスや反応性ガスの導入条件によって、回転対称な分布が得られない場合は、ガスの導入条件として、ターゲット11の中心を貫く法線50に対して、回転対称な形状を持つガス導入口18,19を設けるようにしなくてはならない。そのため基材面20内の任意の点の膜厚は、「ターゲット中心を貫く法線50と基材面20の交点Qからの距離Xの関数(膜厚関数)」で表記可能となる。これを図4に示す。膜厚関数としては多項式関数が利用できる。
【0012】
(STEP2)図5に示すように、ターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが常に直交するように配置し、ターゲット11の中心を貫く法線50と基材面20との交点をQとする。Qを含む基材曲面上20において、「交点Q」と「基材面20内の中心から半径rの距離の点P」に注目する。ここで、基材曲面を平面に簡素化して考え、図6に示すように点Q(s,0)と点P(rcosθ,rsinθ)を定義する。ここで基材が自転する際に点P通る軌跡を考えた場合、点Pが通る軌跡の各位置での成膜レートは膜厚関数により点Qと点Pの距離から求まる。すなわち多項式関数である膜厚関数
【0013】
【数1】
に点PQ間の距離
【0014】
【数2】
を代入して得られた値が成膜レートとなることを特徴とする。さらに膜厚関数をθ:0→2πで積分すると、基材が自転して1回転した際に点Pに成膜される膜厚の合計を計算することができる。
【0015】
【数3】
なお、簡素化のため基材曲面20を平面に置き換えて考えたが、曲面であっても同様に点Qと点Pを結ぶ弧または弦の長さを考えればよく、本質的には何ら変わらない。
【0016】
(STEP3)ターゲット11と基材21はターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが常に直交するように配置させる構造を持つ。そのターゲット11と基材21の距離を一定にしたまま基材21の中心22と外周23との間でターゲット11を走査させて成膜する。この場合、基材面20上の任意の点における成膜レートは走査動作をコマ切りにした場合の各位置での交点Qと交点Pの距離(膜厚関数)で表すことができることを特徴とする。
【0017】
(STEP4)外径寸法Fの基材の面20内を径方向にm等分、周方向にn等分すると、基材面内の点Rは極座標を用いて
【0018】
【数4】
(ただしj=0〜m、k=0〜nの整数)
と表すことができる。この座標系を使って所定の膜厚分布を表現しておく。
(STEP5)STEP2とSTEP3において、レンズの自転速度をω(t)としターゲット11の走査速度(ターゲット11の基材21に対する相対速度)をv(t)として速度制御すると、
【0019】
【数5】
と表すことができる。すると、成膜開始時間t0から成膜終了時間t1までの間にR(rj、θk)の点に成膜される膜厚は、前記積分を改良して以下のように表記することができる。(式1)
【0020】
【数6】
上記積分計算をω(t)とv(t)を未知数としてm×n個の点について実施する。m×n個の各点について積分計算した結果が、STEP4で準備した所定の膜厚分布になるように、「積分計算の結果(算出された膜厚)−所定の膜厚」の2乗が最小になるように、レンズの自転速度ω(t)とターゲット11の走査速度v(t)を決定する。レンズの自転速度ω(t)とターゲット11の走査速度v(t)の速度分布の具体的な関数モデルは、所定の膜厚分布の形状に応じて様々な型を考えることができる。(相関がある)
【0021】
実施形態1の成膜装置100について図1にもとづいて説明する。成膜装置100には内部を真空状態に維持する成膜室1、成膜室1を排気する真空ポンプ等からなる排気系2を設けている。成膜室1内の側面には基材21を保持する基材ホルダー3を設けていて、この基材ホルダー3は前後に動作し、さらに基材面20の中心を貫く法線60を回転軸として成膜中に自転する機構となっている。また成膜室1内の基材ホルダー3を設けている別の側面にはターゲット及びマスクユニット駆動系4が設けてある。ターゲット及びマスクユニット駆動系4は前後に動作することができる。またターゲット及びマスクユニット駆動系4の上面に回転駆動が可能で同じ回転軸を持つターゲットユニット5とマスクユニット12が設けられている。ターゲットユニット5には内部に磁石25を収め、外部から供給される冷却水を内部に流通させてターゲット11の冷却を行うことができる冷却ボックス6が設けられている。磁石25はターゲット11の表面に平行な方向に磁場を持ち、かつターゲット11の中心を貫く法線50に対して、回転対称となるように配置されている。この冷却ボックス6の側面にはカソード電極としてバッキングプレート7が配置されている。
【0022】
またバッキングプレート7の側面には、絶縁材8を介し、アノード電極として複数の開孔を持つ仕切り板であるメッシュ板9が、ターゲット11の中心を貫く法線50に対して、回転対称な形状でユニットとして組み込まれている。このバッキングプレート7とメッシュ板9に対して、直流電源10により直流電圧を印加することができる。このメッシュ板9には、スパッタリングガスと反応性ガスの分離性を高める役割もある。バッキングプレート7の側面にはターゲット11の中心を貫く法線50に対して回転対称な構造となっているターゲット11が取り付けられている。ターゲット11の材料としては、電気抵抗の小さい金属やフッ素添加金属等の利用が望まれる。特に、磁石25の配置とターゲット11の形状については、ターゲット11の中心を貫く法線50に対して回転対称としている。またスパッタリングされた基材面20上に堆積することになるターゲット11の材料構成原子のうち、基材上に堆積するまでの距離が、緻密な膜を得るのに適度な距離以上の成分とスパッタ粒子の斜入射成分をカットする。そのために、ターゲット11と基材21の間に配置することができ、ターゲット11の中心を貫く法線50に対して回転対称な構造を持つマスクユニット12(マスク機構)が設けられている。回転対称な構造を持つマスクユニット12の例として、円形の開口を持つマスクの模式図を図2に示す。
【0023】
そして基材ホルダー3とメッシュ板9の間には放電が安定するまで基材21が成膜されないように遮蔽板13が設けられる。この遮蔽板13は高速で開閉可能になっている。また成膜室1はゲートバルブ14を介して、ロードロック室15とつながっている。ロードロック室15には成膜室1とは別に排気系(LL室)16がついており、基材ホルダー3は移動機構17に連結されロードロック室15と成膜室1を自在に移動させることが可能である。そしてスパッタリングガス導入ポート18、反応性ガス導入ポート19よりマスフローコントローラを含むガス供給系(不図示)によってガスを供給できるようになっている。スパッタリングガス導入ポート18、反応性ガス導入ポート19はターゲット11の中心を貫く法線50に対して回転対称な形状を持つ形状となっている。スパッタリングガス導入ポート18からはスパッタリングガスとして不活性ガスAr,He,Ne,Kr,Xe等のガスと水素が導入される。また、反応性ガス導入ポート19からは、反応性ガスとして、フッ素を含むCF4やNF3といったガスや、F2を希ガスで希釈したガスをそれぞれ必要に応じて切り替えて導入することができるようになっている。ここで導入するガスは、不図示のマスフローコントローラやガス純化器によって、流量、純度、圧力を高精度に制限できるようになっている。
【0024】
次に図1の本発明の実施形態1の成膜装置100を用いて、CaF2基材上に高屈折材LaF3と低屈折材MgF2を積層した低吸収な多層膜を形成する方法について詳しく説明する。基材ホルダー3をロードロック室15に移動させ、ロードロック室15をリークする。リークが完了したらCaF2基材を投入し、排気系(LL室)16により排気する。この時、成膜室1内は排気系(成膜室)2により5×10−5乗Pa程度に排気しておく。排気系(成膜室)2はF2など腐食性の高いガスを流すため、耐食性の高いポンプを使用し、軸パージ、排気ガスの不活性ガスによる希釈、排気ガス処理設備(不図示)を設置することが必要である。ロードロック室15の圧力が1×10−4乗Pa程度になったら、ゲートバルブ14を開けて、移動機構17によりCaF2基材を乗せた基材ホルダー3を成膜室1へ移動する。移動が完了したら、遮蔽板13を閉じた状態でArガスを導入し、バッキングプレート7に直流電源10より直流電源を印加すると放電しArガスがイオン化する。このプラズマは成膜室1内の圧力がコンマ数Pa程度でも安定している。このような低い圧力でもプラズマが生成されるのは、冷却ボックス6内に収められた磁石のマグネトロン効果により、電子が磁場に垂直な面内をサイクロトロン運動し、ターゲット11近傍の電子密度を上げることができるからである。
【0025】
そして放電により、ターゲット11表面近傍にシースが形成され、プラズマ中のAr+イオンはシースで加速されてターゲット11に衝突し、ターゲット材料がスパッタされる。ターゲット11は高純度La(99.999%)、Mg(99.999%)を使用している。ターゲット冷却水はチラ−(不図示)によって温度・流量管理され、成膜レートを安定させるためターゲット11の表面温度を一定に保つ。次に反応性ガス導入ポート19よりF2ガスを導入する。LaF3を成膜する場合はArガスを150SCCM、F2ガスを20SCCM、直流電源を400Wに設定する。MGF2を成膜する場合は、Arガスを150SCCM,H2ガスを25SCCM、F2ガスを16SCCM、直流電源を400Wに設定することが好ましい。これ以上フッ素の流量を減らしてしまうと、成膜された膜はそれぞれMgF2とLaF3の化学量論比を満たすことができず、フッ素欠陥の膜になってしまう。また逆に、これ以上フッ素を増やしていくと、スパッタリングガスのArの流量に対して、反応性ガスF2の流量が増えてしまい、ガス分離性が悪化し、その結果(1)ターゲット11近傍のFイオンの量が増えてしまう。質量の大きい負イオンは冷却ボックス6に装備された磁石のマグネトロンではほとんど軌道を曲げることができないため、数百Vのシースにより加速されたF−イオンがCaF2基材に入射して、基材や膜にダメージを与える原因となる。
【0026】
さらにまた(2)ターゲット11表面がフッ化されて絶縁物のフッ化物を形成してしまう。そうすると、この絶縁物がチャージアップされ、それがイオンや電子によって絶縁破壊されて異常放電が起こる。異常放電が発生すると膜中に異物が混入し、表面の粗い膜になる。その対策として、数kHz程度の交流を直流に電圧に重畳するとチャージキャンセルし、異常放電を防ぐことができる。しかし重畳する周波数を上げすぎると、基材セルフバイアス電圧が発生してしまい、今度はプラズマ中の陽イオンがCaF2基材に入射しダメージを与えてしまうことがわかった。ダメージをなくすには20kHz以下の周波数の電圧を重畳する必要がある。またMgF2を成膜する際にはH2を流入した方が良い。Mgはゲッターとして用いられるように、スパッタされたMgは成膜室1の残留水分等に起因するH2O、O2等の気体分子と反応・結合してMgOなどの形で基材に成膜されやすい。MgOは真空紫外領域で大きな吸収を持つため、MgOが取り込まれたMgF2は膜吸収が大きくなってしまう。そこでH2を加えると水素ラジカル等の活性水素による還元反応によりMgOの生成を抑える効果が生まれ、低吸収なMgF2を成膜することができる。
【0027】
次にこの状態のまま直流電源10で確認されるターゲット電圧が安定するまで待つ。この間にターゲット11中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが直交するように前記ターゲット11と前記基材21を正対に配置しておく。この時基材ホルダー3は自転させない。ターゲット電圧が安定したら遮蔽板13を開いて成膜を開始する。このときのターゲット電圧は、LaF3成膜の際は330V程度、MgF2成膜の際は320V程度であった。その後、CaF2基材上に成膜されたLaF3単層膜またはMgF2単層膜の分光特性を分光光度計(不図示)により測定し、基材面20内の膜厚分布を算出する。この結果からターゲット11中心を貫く法線50と基材面20の交点からの距離xの関数(膜厚関数)を決定する。
【0028】
以下、回転対称なMGF2単層膜を成膜する場合について述べる。膜厚関数は図4に示す多項式関数で表現できた。外径300mmの基材21に成膜する回転対称な膜の所定の膜厚分布を、基材の面20内を径方向に40等分、周方向に40等分し図7のように表しておく。この場合、基材面20内で膜厚が一定であることが目標となる。次に基材21の自転速度ω(t)とターゲット11の走査速度v(t)のモデル関数を与える。ターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが直交するように前記ターゲット11と前記基材21を正対に配置する。その正対位置関係と前記ターゲット11と前記基材21の距離を一定にしたまま前記基材21の中心から外周にかけて走査させて成膜する場合を想定して、次のように設定した。基材21の自転速度ω(t)のモデル関数は1回転内で速度分布を持たせ、それを繰り返す周期関数とした。成膜開始時間T0から成膜終了時間T1までの時間をT(=T1−T0)、その間のレンズ自転回数をUとして、1回転あたりの時間T/Uを8分割し、Δt1,Δt2,・・・,Δt8とした。時間Δt1,Δt2,・・・,Δt8の際の基材21の自転速度を、各々ω1,ω2,・・,ω8とした。次にターゲット走査速度v(t)は、成膜開始時間T0から成膜終了時間T1までの時間T(=T1−T0)の間を8分割し、Δu1,Δu2,・・・,Δu8とした。時間Δu1,Δu2,・・・,Δu8の際のターゲット走査速度を、T時間に回転する距離が180mmになるという関係のもと、各々v1,v2,・・・,v8とした。これらΔt1〜Δt8、ω1〜ω8、Δu1〜Δu8、v1〜v8を未知数として[式1]に代入し、所定の膜厚分布図7として注目しているレンズ面内の40×40個の点について連立方程式を立てる。そして40×40個の点について「積分計算(算出された膜厚)−所定の膜厚」の2乗が最小になるように未知数を決定した。具体的な未知数の計算結果は図8のようになった。またこの条件をもとに実際にMgF2を成膜した実験結果は図9のようになった。所定の膜厚分布とのズレは数%程度であった。
【0029】
次に、本発明の実施形態2について述べる。実施形態1の回転対称の例と異なり、非回転対称なMgF2単層膜を成膜する例について説明する。膜厚関数は、同じく図4に示す多項式関数で表現できる。外径300mmの基材21に成膜する非回転対称な膜の所定の膜厚分布を、基材の面20内を径方向に40等分、周方向に40等分し図10のように表しておく。次に基材21の自転速度ω(t)とターゲット11の走査速度v(t)のモデル関数を与える。ターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが直交するように前記ターゲット11と前記基材21を正対に配置する。その正対位置関係と前記ターゲット11と前記基材の距離を一定にしたまま前記基材21の中心から外周にかけて走査させて成膜する場合を想定して、次のように設定した。基材21の自転速度ω(t)のモデル関数は1回転内で速度分布を持たせ、それを繰り返す周期関数とした。成膜開始時間T0から成膜終了時間T1までの時間をT(=T1−T0)、その間のレンズ自転回数をUとする。1回転あたりの時間T/Uを8分割し、Δt1,Δt2,・・・,Δt8とし、時間Δt1,Δt2,・・・,Δt8の際の基材21の自転速度を、各々ω1,ω2,・・・,ω8とした。次にターゲット11の走査速度v(t)は、成膜開始時間T0から成膜終了時間T1までの時間T(=T1−T0)の間を8分割し、Δu1,Δu2,・・・,Δu8とした。時間Δu1,Δu2,・・・,Δu8の際のターゲット走査速度を、T時間に回転する距離が180mmになるという関係のもと、各々v1,v2,・・・,v8とした。これらΔt1〜Δt8、ω1〜ω8、Δu1〜Δu8、v1〜v8を未知数として[式1]に代入し、所定の膜厚分布 図10として注目しているレンズ面内の40×40個の点について連立方程式を立てる。そして40×40個の点について「積分計算(算出された膜厚)−所定の膜厚」の2乗が最小になるように未知数を決定した。具体的な未知数の計算結果は図11のようになった。またこの条件をもとに実際にMgF2を成膜した実験結果は図12のようになった。所定の膜厚分布とのズレは数%程度であった。
【0030】
次に、本発明の実施形態3のマスク効果の例について述べる。LaF3単層膜を成膜した場合の基材面20内の膜厚分布と屈折率分布について、図13にマスクを使用時と未使用時での違いを示す。マスクの開口形状はφ72mmの円形である。φマスクを使用することで、屈折率の不均一度(=((最大値)−(最小値))/((最大値)+(最小値)))は1.84%から1.09%に向上した。
【符号の説明】
【0031】
11 ターゲット
50 ターゲットの中心を貫く法線
20 基材面
21 基材
22 基材の中心
23 基材の外周
100 成膜装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学薄膜の作製手法は真空蒸着法、プラズマやイオンビームによるアシスト蒸着法、イオンプレーティング法などが多く用いられてきた。真空蒸着法は小さな蒸発源から蒸発源を取り囲む大きな面積の基材(レンズ)に対して均一な成膜を行うのに適した成膜法である。蒸発源と基材は通常500mm以上の距離を保ち、基材を公転や遊星回転させて成膜の均一化を図っている。そして膜厚を毎回同じようにするために基材ホルダー付近にモニターを設け、直接そのモニターに入る蒸発量を読み取り、成膜速度、堆積量を感知して蒸発源の蒸発量を制御している。様々な蒸着条件に対応して、膜厚分布の均一な光学薄膜を形成するために、様々の工夫がなされている。例えは特許文献1では、自公転可能な基材保持部と蒸着源と基材保持部との相対位置を、水平、垂直、傾斜方向のうち少なくとも1つの方向に変化させる、可変機構を設けた蒸着装置が開示されている。
【0003】
一方スパッタリング法は半導体やフラットパネルディスプレイ、電子部品などの薄膜製造工程における量産装置として使用されている。スパッタリング技術は、低圧のスパッタリングガスをグロー放電によりイオン化(プラズマ状化)し、そのプラズマ状イオンを電極間で加速させ、陰極に配置したターゲット材料に衝突させている。次にイオン衝撃により飛び出されたターゲット材料構成原子は、陽極近傍に設けられた基材上に付着堆積してターゲット材料の薄膜を形成している。このようにスパッタリング法は放電現象を用いるため真空蒸着法よりも高い圧力下で成膜を行わなくてはならない。スパッタリング技術はスパッタリングされたターゲット材料構成原子が高いエネルギーを持って基材に入射するため緻密な膜が得られるという特徴がある。しかし、スパッタリングされたターゲット材料構成原子は、基材上に堆積するまでの間に成膜チャンバー内圧力に応じた頻度でスパッタリングガス等と衝突散乱してスパッタリングされた直後の初期のエネルギーを失って行ってしまう。そのため緻密な膜を得るためにはターゲットと基材の距離を適度に150mm程度に短くする必要がある。またスパッタ粒子の斜入射膜も膜密度が低いので、スパッタ粒子の斜入射成分を極力抑えることが必要である。
【0004】
このためスパッタリング法において、大面積な基材に均質かつ高精度に所定の膜厚分布を得るためには、ターゲットのサイズを基材のサイズに対して十分に大きくする必要がある。あるいは、ターゲットと基材を相対的に移動走査させる等の工夫が必要である。従来のスパッタリング装置では、基材面とターゲット面が平行に配置されていた。そのような従来のスパッタリング装置においては、基材に付着する膜の膜厚分布、組成比分布、不純物分布などを広範囲に均一化するために基材よりも大きな径のターゲットを用いていた。しかし、基材径が大きくなりすぎると、膜厚分布に与えるターゲットの非エロージョン領域の影響が大きくなってくる等の問題が発生した。従って、単にターゲット径を大径化しただけでは膜厚分布、組成比分布、不純物分布を均一化することができなかった。
そこで、特許文献2では基材を適度の早さで回転させると共に、基材の法線に対し、ターゲットの中心軸線の角度θを、15°≦θ≦45°の関係に保つという斜め入射成膜方式が開示されている。この方式によれば、ターゲットの径を基材と同等以下にしても、均一膜厚、膜質を生成できるとしている。また、特許文献3ではターゲットと基材を相対的に移動走査させる方法が開示されている。この方式によれば、堆積量及び堆積形状の基体面内の均一性が向上し、また複数のターゲットを用いることで、ターゲットの径を基体の径より小さくすることができるとしている。
ところが近年の光リソグラフィーの分野においては半導体露光装置の微細化に伴って短波長化や高NA化が進み、基材口径の大型化や基材形状が多様化し、従来にも増して高精度な膜厚制御が要求されるようになった。そこで特許文献4では成膜中に基材とカソードの相対位置関係等を独立に可変出来る制御軸が3軸以上有することを特徴とするスパッタ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−152336号公報
【特許文献2】特開2000−265263号公報
【特許文献3】特開平5−234893号公報
【特許文献4】特開2004−269988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、成膜分布の予測が難しい。粒子の散乱や特に反応を含む複雑なスパッタプロセスにおいて、密度の高い高品質な膜を様々な凹凸形状の基材に対して目標の膜厚ムラに精度良く成膜するには、単に独立に可変ができる制御軸が多いだけでは不十分である。スパッタリングされる時のターゲット材料構成原子の放出分布はどのようになっているのか正確に調べるのは難しい。また仮にそれがわかったとしても、その後の基材に達するまでの輸送過程で、どのような散乱や反応が起こっているのかを正確に予測シミュレーションするのは難しい。そのためいかにして膜厚分布を予想して、成膜中に基材とターゲットの相対位置関係等を制御し決定するかが問題となる。また、密度の高い高品質な膜を成膜するには、スパッタ粒子の斜入射成分を極力抑えることも考慮に入れる必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、スパッタリング法を用い、大面積基材に対して、均質かつ高精度な、所定の膜厚分布の光学薄膜を得ることができる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の成膜装置は、スパッタリング法を用いて基材に薄膜を形成する成膜装置において、スパッタ粒子を放出するターゲットの中心を貫く法線と前記基材の表面とが直交するように前記ターゲットと前記基材とを配置し、前記ターゲットと前記基材の表面との距離を一定にしたまま、前記ターゲットと前記基材とを相対的に移動させて、前記基材に薄膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スパッタリング法を用い、大面積基材に対して、均質かつ高精度な、所定の膜厚分布の光学薄膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態1の成膜装置の概略図である。
【図2】本発明の実施形態1のマスクの模式図である。
【図3】本発明の実施形態1の膜厚分布 を表したグラフである。
【図4】本発明の実施形態1の膜厚分布関数を表したグラフである。
【図5】本発明の実施形態1の膜厚計算のための基材表面の摸式図である。
【図6】本発明の実施形態1の膜厚計算のための基材表面の摸式図である。
【図7】本発明の実施形態1の回転対称な膜厚分布のグラフである。
【図8】図7の膜厚分布の速度と時間の表である。
【図9】図8の条件で成膜した膜厚分布のグラフである。
【図10】本発明の実施形態2の非回転対象な膜厚分布を表したグラフである。
【図11】図10の膜厚分布の速度と時間の表である。
【図12】図11の条件で成膜した膜厚分布のグラフである。
【図13】本発明の実施形態3のマスク効果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態1の成膜装置の模式的断面図を図1に示す。本成膜装置100は球面形状を持った基材にスパッタリング法を用いて薄膜を形成する成膜装置である。以下図面を参照しながらステップ毎に成膜装置100の機能および構造について説明する。
(STEP1)ターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが常に直交するように配置する。ターゲット11と基材21を緻密な膜を得るのに適したある一定の距離で配置し、基材21の中心22と外周23との間でターゲット11を相対的に走査(移動)して成膜し、基材面20内の成膜分布を実験的に確認する。この時ターゲット11は、ターゲット11の中心を貫く法線50に対して回転対称なターゲット構造を持ち、ターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが常に直交するような配置で成膜する。ターゲット11から放出されるスパッタ粒子は、ターゲット11の中心から回転対称に放出され、基材面20に成膜される膜厚も、ターゲット11の中心を貫く法線50と基材面20との交点Qを中心に回転対称な分布を持つ。この様子を図3に示す。ここで、スパッタリングガスや反応性ガスの導入条件によって、回転対称な分布が得られない場合は、ガスの導入条件として、ターゲット11の中心を貫く法線50に対して、回転対称な形状を持つガス導入口18,19を設けるようにしなくてはならない。そのため基材面20内の任意の点の膜厚は、「ターゲット中心を貫く法線50と基材面20の交点Qからの距離Xの関数(膜厚関数)」で表記可能となる。これを図4に示す。膜厚関数としては多項式関数が利用できる。
【0012】
(STEP2)図5に示すように、ターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが常に直交するように配置し、ターゲット11の中心を貫く法線50と基材面20との交点をQとする。Qを含む基材曲面上20において、「交点Q」と「基材面20内の中心から半径rの距離の点P」に注目する。ここで、基材曲面を平面に簡素化して考え、図6に示すように点Q(s,0)と点P(rcosθ,rsinθ)を定義する。ここで基材が自転する際に点P通る軌跡を考えた場合、点Pが通る軌跡の各位置での成膜レートは膜厚関数により点Qと点Pの距離から求まる。すなわち多項式関数である膜厚関数
【0013】
【数1】
に点PQ間の距離
【0014】
【数2】
を代入して得られた値が成膜レートとなることを特徴とする。さらに膜厚関数をθ:0→2πで積分すると、基材が自転して1回転した際に点Pに成膜される膜厚の合計を計算することができる。
【0015】
【数3】
なお、簡素化のため基材曲面20を平面に置き換えて考えたが、曲面であっても同様に点Qと点Pを結ぶ弧または弦の長さを考えればよく、本質的には何ら変わらない。
【0016】
(STEP3)ターゲット11と基材21はターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが常に直交するように配置させる構造を持つ。そのターゲット11と基材21の距離を一定にしたまま基材21の中心22と外周23との間でターゲット11を走査させて成膜する。この場合、基材面20上の任意の点における成膜レートは走査動作をコマ切りにした場合の各位置での交点Qと交点Pの距離(膜厚関数)で表すことができることを特徴とする。
【0017】
(STEP4)外径寸法Fの基材の面20内を径方向にm等分、周方向にn等分すると、基材面内の点Rは極座標を用いて
【0018】
【数4】
(ただしj=0〜m、k=0〜nの整数)
と表すことができる。この座標系を使って所定の膜厚分布を表現しておく。
(STEP5)STEP2とSTEP3において、レンズの自転速度をω(t)としターゲット11の走査速度(ターゲット11の基材21に対する相対速度)をv(t)として速度制御すると、
【0019】
【数5】
と表すことができる。すると、成膜開始時間t0から成膜終了時間t1までの間にR(rj、θk)の点に成膜される膜厚は、前記積分を改良して以下のように表記することができる。(式1)
【0020】
【数6】
上記積分計算をω(t)とv(t)を未知数としてm×n個の点について実施する。m×n個の各点について積分計算した結果が、STEP4で準備した所定の膜厚分布になるように、「積分計算の結果(算出された膜厚)−所定の膜厚」の2乗が最小になるように、レンズの自転速度ω(t)とターゲット11の走査速度v(t)を決定する。レンズの自転速度ω(t)とターゲット11の走査速度v(t)の速度分布の具体的な関数モデルは、所定の膜厚分布の形状に応じて様々な型を考えることができる。(相関がある)
【0021】
実施形態1の成膜装置100について図1にもとづいて説明する。成膜装置100には内部を真空状態に維持する成膜室1、成膜室1を排気する真空ポンプ等からなる排気系2を設けている。成膜室1内の側面には基材21を保持する基材ホルダー3を設けていて、この基材ホルダー3は前後に動作し、さらに基材面20の中心を貫く法線60を回転軸として成膜中に自転する機構となっている。また成膜室1内の基材ホルダー3を設けている別の側面にはターゲット及びマスクユニット駆動系4が設けてある。ターゲット及びマスクユニット駆動系4は前後に動作することができる。またターゲット及びマスクユニット駆動系4の上面に回転駆動が可能で同じ回転軸を持つターゲットユニット5とマスクユニット12が設けられている。ターゲットユニット5には内部に磁石25を収め、外部から供給される冷却水を内部に流通させてターゲット11の冷却を行うことができる冷却ボックス6が設けられている。磁石25はターゲット11の表面に平行な方向に磁場を持ち、かつターゲット11の中心を貫く法線50に対して、回転対称となるように配置されている。この冷却ボックス6の側面にはカソード電極としてバッキングプレート7が配置されている。
【0022】
またバッキングプレート7の側面には、絶縁材8を介し、アノード電極として複数の開孔を持つ仕切り板であるメッシュ板9が、ターゲット11の中心を貫く法線50に対して、回転対称な形状でユニットとして組み込まれている。このバッキングプレート7とメッシュ板9に対して、直流電源10により直流電圧を印加することができる。このメッシュ板9には、スパッタリングガスと反応性ガスの分離性を高める役割もある。バッキングプレート7の側面にはターゲット11の中心を貫く法線50に対して回転対称な構造となっているターゲット11が取り付けられている。ターゲット11の材料としては、電気抵抗の小さい金属やフッ素添加金属等の利用が望まれる。特に、磁石25の配置とターゲット11の形状については、ターゲット11の中心を貫く法線50に対して回転対称としている。またスパッタリングされた基材面20上に堆積することになるターゲット11の材料構成原子のうち、基材上に堆積するまでの距離が、緻密な膜を得るのに適度な距離以上の成分とスパッタ粒子の斜入射成分をカットする。そのために、ターゲット11と基材21の間に配置することができ、ターゲット11の中心を貫く法線50に対して回転対称な構造を持つマスクユニット12(マスク機構)が設けられている。回転対称な構造を持つマスクユニット12の例として、円形の開口を持つマスクの模式図を図2に示す。
【0023】
そして基材ホルダー3とメッシュ板9の間には放電が安定するまで基材21が成膜されないように遮蔽板13が設けられる。この遮蔽板13は高速で開閉可能になっている。また成膜室1はゲートバルブ14を介して、ロードロック室15とつながっている。ロードロック室15には成膜室1とは別に排気系(LL室)16がついており、基材ホルダー3は移動機構17に連結されロードロック室15と成膜室1を自在に移動させることが可能である。そしてスパッタリングガス導入ポート18、反応性ガス導入ポート19よりマスフローコントローラを含むガス供給系(不図示)によってガスを供給できるようになっている。スパッタリングガス導入ポート18、反応性ガス導入ポート19はターゲット11の中心を貫く法線50に対して回転対称な形状を持つ形状となっている。スパッタリングガス導入ポート18からはスパッタリングガスとして不活性ガスAr,He,Ne,Kr,Xe等のガスと水素が導入される。また、反応性ガス導入ポート19からは、反応性ガスとして、フッ素を含むCF4やNF3といったガスや、F2を希ガスで希釈したガスをそれぞれ必要に応じて切り替えて導入することができるようになっている。ここで導入するガスは、不図示のマスフローコントローラやガス純化器によって、流量、純度、圧力を高精度に制限できるようになっている。
【0024】
次に図1の本発明の実施形態1の成膜装置100を用いて、CaF2基材上に高屈折材LaF3と低屈折材MgF2を積層した低吸収な多層膜を形成する方法について詳しく説明する。基材ホルダー3をロードロック室15に移動させ、ロードロック室15をリークする。リークが完了したらCaF2基材を投入し、排気系(LL室)16により排気する。この時、成膜室1内は排気系(成膜室)2により5×10−5乗Pa程度に排気しておく。排気系(成膜室)2はF2など腐食性の高いガスを流すため、耐食性の高いポンプを使用し、軸パージ、排気ガスの不活性ガスによる希釈、排気ガス処理設備(不図示)を設置することが必要である。ロードロック室15の圧力が1×10−4乗Pa程度になったら、ゲートバルブ14を開けて、移動機構17によりCaF2基材を乗せた基材ホルダー3を成膜室1へ移動する。移動が完了したら、遮蔽板13を閉じた状態でArガスを導入し、バッキングプレート7に直流電源10より直流電源を印加すると放電しArガスがイオン化する。このプラズマは成膜室1内の圧力がコンマ数Pa程度でも安定している。このような低い圧力でもプラズマが生成されるのは、冷却ボックス6内に収められた磁石のマグネトロン効果により、電子が磁場に垂直な面内をサイクロトロン運動し、ターゲット11近傍の電子密度を上げることができるからである。
【0025】
そして放電により、ターゲット11表面近傍にシースが形成され、プラズマ中のAr+イオンはシースで加速されてターゲット11に衝突し、ターゲット材料がスパッタされる。ターゲット11は高純度La(99.999%)、Mg(99.999%)を使用している。ターゲット冷却水はチラ−(不図示)によって温度・流量管理され、成膜レートを安定させるためターゲット11の表面温度を一定に保つ。次に反応性ガス導入ポート19よりF2ガスを導入する。LaF3を成膜する場合はArガスを150SCCM、F2ガスを20SCCM、直流電源を400Wに設定する。MGF2を成膜する場合は、Arガスを150SCCM,H2ガスを25SCCM、F2ガスを16SCCM、直流電源を400Wに設定することが好ましい。これ以上フッ素の流量を減らしてしまうと、成膜された膜はそれぞれMgF2とLaF3の化学量論比を満たすことができず、フッ素欠陥の膜になってしまう。また逆に、これ以上フッ素を増やしていくと、スパッタリングガスのArの流量に対して、反応性ガスF2の流量が増えてしまい、ガス分離性が悪化し、その結果(1)ターゲット11近傍のFイオンの量が増えてしまう。質量の大きい負イオンは冷却ボックス6に装備された磁石のマグネトロンではほとんど軌道を曲げることができないため、数百Vのシースにより加速されたF−イオンがCaF2基材に入射して、基材や膜にダメージを与える原因となる。
【0026】
さらにまた(2)ターゲット11表面がフッ化されて絶縁物のフッ化物を形成してしまう。そうすると、この絶縁物がチャージアップされ、それがイオンや電子によって絶縁破壊されて異常放電が起こる。異常放電が発生すると膜中に異物が混入し、表面の粗い膜になる。その対策として、数kHz程度の交流を直流に電圧に重畳するとチャージキャンセルし、異常放電を防ぐことができる。しかし重畳する周波数を上げすぎると、基材セルフバイアス電圧が発生してしまい、今度はプラズマ中の陽イオンがCaF2基材に入射しダメージを与えてしまうことがわかった。ダメージをなくすには20kHz以下の周波数の電圧を重畳する必要がある。またMgF2を成膜する際にはH2を流入した方が良い。Mgはゲッターとして用いられるように、スパッタされたMgは成膜室1の残留水分等に起因するH2O、O2等の気体分子と反応・結合してMgOなどの形で基材に成膜されやすい。MgOは真空紫外領域で大きな吸収を持つため、MgOが取り込まれたMgF2は膜吸収が大きくなってしまう。そこでH2を加えると水素ラジカル等の活性水素による還元反応によりMgOの生成を抑える効果が生まれ、低吸収なMgF2を成膜することができる。
【0027】
次にこの状態のまま直流電源10で確認されるターゲット電圧が安定するまで待つ。この間にターゲット11中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが直交するように前記ターゲット11と前記基材21を正対に配置しておく。この時基材ホルダー3は自転させない。ターゲット電圧が安定したら遮蔽板13を開いて成膜を開始する。このときのターゲット電圧は、LaF3成膜の際は330V程度、MgF2成膜の際は320V程度であった。その後、CaF2基材上に成膜されたLaF3単層膜またはMgF2単層膜の分光特性を分光光度計(不図示)により測定し、基材面20内の膜厚分布を算出する。この結果からターゲット11中心を貫く法線50と基材面20の交点からの距離xの関数(膜厚関数)を決定する。
【0028】
以下、回転対称なMGF2単層膜を成膜する場合について述べる。膜厚関数は図4に示す多項式関数で表現できた。外径300mmの基材21に成膜する回転対称な膜の所定の膜厚分布を、基材の面20内を径方向に40等分、周方向に40等分し図7のように表しておく。この場合、基材面20内で膜厚が一定であることが目標となる。次に基材21の自転速度ω(t)とターゲット11の走査速度v(t)のモデル関数を与える。ターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが直交するように前記ターゲット11と前記基材21を正対に配置する。その正対位置関係と前記ターゲット11と前記基材21の距離を一定にしたまま前記基材21の中心から外周にかけて走査させて成膜する場合を想定して、次のように設定した。基材21の自転速度ω(t)のモデル関数は1回転内で速度分布を持たせ、それを繰り返す周期関数とした。成膜開始時間T0から成膜終了時間T1までの時間をT(=T1−T0)、その間のレンズ自転回数をUとして、1回転あたりの時間T/Uを8分割し、Δt1,Δt2,・・・,Δt8とした。時間Δt1,Δt2,・・・,Δt8の際の基材21の自転速度を、各々ω1,ω2,・・,ω8とした。次にターゲット走査速度v(t)は、成膜開始時間T0から成膜終了時間T1までの時間T(=T1−T0)の間を8分割し、Δu1,Δu2,・・・,Δu8とした。時間Δu1,Δu2,・・・,Δu8の際のターゲット走査速度を、T時間に回転する距離が180mmになるという関係のもと、各々v1,v2,・・・,v8とした。これらΔt1〜Δt8、ω1〜ω8、Δu1〜Δu8、v1〜v8を未知数として[式1]に代入し、所定の膜厚分布図7として注目しているレンズ面内の40×40個の点について連立方程式を立てる。そして40×40個の点について「積分計算(算出された膜厚)−所定の膜厚」の2乗が最小になるように未知数を決定した。具体的な未知数の計算結果は図8のようになった。またこの条件をもとに実際にMgF2を成膜した実験結果は図9のようになった。所定の膜厚分布とのズレは数%程度であった。
【0029】
次に、本発明の実施形態2について述べる。実施形態1の回転対称の例と異なり、非回転対称なMgF2単層膜を成膜する例について説明する。膜厚関数は、同じく図4に示す多項式関数で表現できる。外径300mmの基材21に成膜する非回転対称な膜の所定の膜厚分布を、基材の面20内を径方向に40等分、周方向に40等分し図10のように表しておく。次に基材21の自転速度ω(t)とターゲット11の走査速度v(t)のモデル関数を与える。ターゲット11の中心を貫く法線50と曲率をもった基材面20とが直交するように前記ターゲット11と前記基材21を正対に配置する。その正対位置関係と前記ターゲット11と前記基材の距離を一定にしたまま前記基材21の中心から外周にかけて走査させて成膜する場合を想定して、次のように設定した。基材21の自転速度ω(t)のモデル関数は1回転内で速度分布を持たせ、それを繰り返す周期関数とした。成膜開始時間T0から成膜終了時間T1までの時間をT(=T1−T0)、その間のレンズ自転回数をUとする。1回転あたりの時間T/Uを8分割し、Δt1,Δt2,・・・,Δt8とし、時間Δt1,Δt2,・・・,Δt8の際の基材21の自転速度を、各々ω1,ω2,・・・,ω8とした。次にターゲット11の走査速度v(t)は、成膜開始時間T0から成膜終了時間T1までの時間T(=T1−T0)の間を8分割し、Δu1,Δu2,・・・,Δu8とした。時間Δu1,Δu2,・・・,Δu8の際のターゲット走査速度を、T時間に回転する距離が180mmになるという関係のもと、各々v1,v2,・・・,v8とした。これらΔt1〜Δt8、ω1〜ω8、Δu1〜Δu8、v1〜v8を未知数として[式1]に代入し、所定の膜厚分布 図10として注目しているレンズ面内の40×40個の点について連立方程式を立てる。そして40×40個の点について「積分計算(算出された膜厚)−所定の膜厚」の2乗が最小になるように未知数を決定した。具体的な未知数の計算結果は図11のようになった。またこの条件をもとに実際にMgF2を成膜した実験結果は図12のようになった。所定の膜厚分布とのズレは数%程度であった。
【0030】
次に、本発明の実施形態3のマスク効果の例について述べる。LaF3単層膜を成膜した場合の基材面20内の膜厚分布と屈折率分布について、図13にマスクを使用時と未使用時での違いを示す。マスクの開口形状はφ72mmの円形である。φマスクを使用することで、屈折率の不均一度(=((最大値)−(最小値))/((最大値)+(最小値)))は1.84%から1.09%に向上した。
【符号の説明】
【0031】
11 ターゲット
50 ターゲットの中心を貫く法線
20 基材面
21 基材
22 基材の中心
23 基材の外周
100 成膜装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法を用いて基材に薄膜を形成する成膜装置において、
スパッタ粒子を放出するターゲットの中心を貫く法線と前記基材の表面とが直交するように前記ターゲットと前記基材とを配置し、前記ターゲットと前記基材の表面との距離を一定にしたまま、前記ターゲットと前記基材とを相対的に移動させて、前記基材に薄膜を形成することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記基材の中心と外周との間で、前記ターゲットを前記基材に対して移動させて、前記基材に薄膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記基材の表面は、球面であることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記ターゲットは、前記ターゲットの中心を貫く法線に対して回転対称な構造を持つことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記基材を保持する基材ホルダーを有し、
前記基材ホルダーは、前記基材の表面の中心を貫く法線を回転軸として前記基材を自転させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記ターゲットの前記基材に対する相対速度および前記基材の自転速度に、膜厚分布と相関がある分布を持たせることを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記ターゲットと前記基材の間に配置されており、前記ターゲットの中心を貫く法線に対して回転対称な開口が設けられたマスクユニットを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
スパッタリング法を用いて基材に薄膜を形成する成膜方法において、
スパッタ粒子を放出するターゲットの中心を貫く法線と前記基材の表面とが直交するように前記ターゲットと前記基材とを配置し、前記ターゲットと前記基材の表面との距離を一定にしたまま、前記ターゲットと前記基材とを相対的に移動させて、前記基材に薄膜を形成することを特徴とする成膜方法。
【請求項1】
スパッタリング法を用いて基材に薄膜を形成する成膜装置において、
スパッタ粒子を放出するターゲットの中心を貫く法線と前記基材の表面とが直交するように前記ターゲットと前記基材とを配置し、前記ターゲットと前記基材の表面との距離を一定にしたまま、前記ターゲットと前記基材とを相対的に移動させて、前記基材に薄膜を形成することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記基材の中心と外周との間で、前記ターゲットを前記基材に対して移動させて、前記基材に薄膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記基材の表面は、球面であることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記ターゲットは、前記ターゲットの中心を貫く法線に対して回転対称な構造を持つことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記基材を保持する基材ホルダーを有し、
前記基材ホルダーは、前記基材の表面の中心を貫く法線を回転軸として前記基材を自転させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記ターゲットの前記基材に対する相対速度および前記基材の自転速度に、膜厚分布と相関がある分布を持たせることを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記ターゲットと前記基材の間に配置されており、前記ターゲットの中心を貫く法線に対して回転対称な開口が設けられたマスクユニットを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
スパッタリング法を用いて基材に薄膜を形成する成膜方法において、
スパッタ粒子を放出するターゲットの中心を貫く法線と前記基材の表面とが直交するように前記ターゲットと前記基材とを配置し、前記ターゲットと前記基材の表面との距離を一定にしたまま、前記ターゲットと前記基材とを相対的に移動させて、前記基材に薄膜を形成することを特徴とする成膜方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−248594(P2010−248594A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101473(P2009−101473)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]