説明

成膜装置及びこれを用いた成膜方法

【課題】精度よく、成膜対象物に均一な膜を成膜することができる成膜装置を提供する。
【解決手段】成膜材料を加熱し、前記成膜材料の蒸気を放出させるための成膜源と、前記成膜源を、所定の成膜待機位置と成膜位置との間で成膜対象物に対して相対的に移動させる移動手段と、前記成膜源から放出される前記成膜材料の放出量を測定するための測定用水晶振動子と、前記測定用水晶振動子を校正するための前記校正用水晶振動子と、を備える成膜装置であって、前記測定用水晶振動子は、前記移動手段内に設けられ、前記校正用水晶振動子は、前記移動手段が前記成膜待機位置にあるときの前記移動手段の上方に設けられることを特徴とする成膜装置、及びこの成膜装置を用いた成膜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及びこれを用いた成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸着やスパッタリング等で基板等の成膜対象物に薄膜を形成する際には、形成される薄膜の膜厚を制御するために、成膜室内に水晶振動子を配置している。成膜室内に水晶振動子を配置すると、薄膜を形成する際に、水晶振動子と成膜対象物とに薄膜を構成する成膜材料が堆積される。ここで水晶振動子に成膜材料が堆積すると、堆積される成膜材料の量に応じて水晶振動子の共振周波数が変化する。この現象を利用して、共振周波数の変化量から水晶振動子に堆積した膜厚を算出し、予め成膜対象物との膜厚比を求めておくことで、成膜対象物に堆積する成膜材料の膜厚を知ることができる。
【0003】
しかし、水晶振動子に成膜材料が堆積するにつれて、共振周波数の変化量と成膜対象物に堆積する膜厚値との関係にズレが生じてくる。このため、長期間にわたって成膜対象物の膜厚を正確に管理することは困難であった。
【0004】
そこで、特許文献1には、成膜対象物の膜厚管理において問題となる膜厚値の誤差を小さくする方法が開示されている。即ち、特許文献1では、成膜室内に従来通りの測定用の水晶振動子とは別に校正用の水晶振動子を設ける方法を採用している。
【0005】
ところで通常の成膜工程では、先ず成膜対象物を成膜室に搬入し、成膜対象物に成膜を行う。ここで成膜対象物に成膜を行う際は、測定用の水晶振動子に成膜材料を堆積させて、成膜対象物の膜厚を管理している。そして成膜が終了すると成膜対象物を成膜室から搬出して成膜工程を終える。しかし、成膜工程を複数回繰り返すと測定用の水晶振動子に成膜材料が堆積してくるので、成膜工程を繰り返すたびに膜厚管理の精度が低下してくる。そこで、校正用の水晶振動子を用いて校正工程を行う。
【0006】
特許文献1にて開示される成膜方法によれば、校正工程は成膜工程間、即ち、成膜工程が完了してから次の成膜工程が開始するまでに行う。この校正工程では、先ず校正用の水晶振動子及び測定用の水晶振動子にそれぞれ成膜材料を堆積させる。そして、校正用の水晶振動子から求まった成膜対象物上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値P0)と、測定用の水晶振動子から求まった成膜対象物上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値M0)とをそれぞれ測定してから校正係数P0/M0を求める。そして校正工程後に行われる成膜工程では、測定用の水晶振動子が算出される成膜対象物の膜厚値M1に、先に求めた校正係数P0/M0を乗算することで成膜対象物の膜厚を正確に管理している。
【0007】
一方、特許文献2には、成膜対象物の面内に均一な膜厚で成膜する装置及び成膜方法が開示されている。特許文献2にて開示されている薄膜形成装置は、移動可能な成膜源が、固定された成膜対象物の下方を等速運動している。この薄膜形成装置を用いて薄膜を形成することにより、面積が広い成膜対象物においてもこの成膜対象物の面内に均一な膜厚で成膜を行うことができる。
【0008】
また特許文献2の薄膜形成装置では、成膜源からの成膜材料の放出量をモニタするために、成膜源の待機位置の上方に固定された膜厚センサーを設けている。この膜厚センサーにより成膜材料の成膜速度を検出することができるので、所望の成膜速度になった時点で成膜源が成膜位置に移動して、成膜対象物に成膜を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−122200号公報
【特許文献2】特開2004−091919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで特許文献2の成膜装置では、上述したように、成膜源が移動するのに対して膜厚センサーは成膜源の待機位置の上方に固定されている。そうすると、成膜源が移動する際には、成膜源から放出される成膜材料の放出量をモニタすることができない。このため、成膜源が移動する際に成膜材料の放出量が変動したとしても、この変動をモニタすることができないので、成膜材料の放出量を所望の放出量に修正することができない。また成膜材料の放出量をすぐに修正できなければ、実際の成膜材料の放出量が所望の放出量からどんどん乖離してしまう。その結果、成膜対象物に成膜材料を成膜する工程(成膜工程)を続けたときに、各工程において成膜対象物上に成膜される薄膜の膜厚を均一にすることができないという問題が生じていた。
【0011】
また特許文献2の成膜装置では、成膜源が待機位置に戻ってきたときに膜厚センサーが成膜材料の放出量の異常を検知しても、所望の放出量に修正するのに時間を要し、この修正を行っている間は成膜対象物を成膜室内に滞留させることになる。その結果、生産性が低下するという問題が生じていた。
【0012】
一方、特許文献1の成膜装置では、測定用の水晶振動子とは別に校正用の水晶振動子を設けている。そして特許文献1の成膜装置では、成膜工程と成膜工程との間に校正工程を行っている。即ち、校正用の水晶振動子を用いて測定用の水晶振動子における誤差(測定用の水晶振動子でモニタする成膜材料の薄膜の膜厚と、成膜対象物上に形成される成膜材料の薄膜の膜厚との誤差)を校正する工程を行っている。この校正工程を行うことで、成膜対象物上に形成される薄膜の膜厚の管理精度を向上させている。
【0013】
しかし、成膜源が移動可能であって、各水晶振動子(測定用の水晶振動子、校正用の水晶振動子)がいずれも固定されている場合は、特許文献2の成膜装置と同様に、成膜源が移動する際に、成膜源から放出される成膜材料の放出量をモニタすることができない。このため特許文献2の成膜装置と同様に、成膜対象物に成膜材料を成膜する工程(成膜工程)を続けたときに、各工程において成膜対象物上に成膜される薄膜の膜厚を均一にすることができないという問題が生じていた。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、精度よく、成膜対象物に均一な膜を成膜することができる成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の成膜装置は、成膜材料を加熱し、前記成膜材料の蒸気を放出させるための成膜源と、
前記成膜源を、所定の成膜待機位置と成膜位置との間で成膜対象物に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記成膜源から放出される前記成膜材料の放出量を測定するための測定用水晶振動子と、
前記測定用水晶振動子を校正するための前記校正用水晶振動子と、を備える成膜装置であって、
前記測定用水晶振動子が、前記移動手段内に設けられ、
前記校正用水晶振動子が、前記移動手段が前記成膜待機位置にあるときにおいて前記移動手段の上方に設けられることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の成膜方法は、本発明の成膜装置を用いた成膜方法であって、
前記成膜源が前記成膜位置を移動している間に前記成膜対象物及び前記測定用水晶振動子に前記成膜材料を堆積する成膜工程と、
前記測定用水晶振動子に堆積した前記成膜材料からなる膜の膜厚値を算出する工程と、
算出された前記膜厚値に基づいて前記成膜源の加熱温度を調整し、前記成膜源から放出される前記成膜材料の放出量を制御する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、精度よく、成膜対象物に均一な膜を成膜することができる成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の成膜装置における実施形態の例を示す概略図であり、(a)及び(b)は、成膜源が成膜待機位置にあるときの概略図であり、(c)及び(d)は、成膜源が成膜位置にあるときの概略図である。
【図2】図1の成膜装置の制御系を示す回路ブロック図である。
【図3】成膜対象物30上に成膜される成膜材料の膜厚制御フローを示すフロー図である。
【図4】校正工程を行ったときと行わなかったときにおける成膜対象物30上の薄膜の膜厚を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の成膜装置は、成膜源と、この成膜源を移動させるための移動手段と、測定用水晶振動子と、校正用水晶振動子と、を有している。
【0020】
本発明の成膜装置において、成膜対象物上に成膜材料の薄膜を形成する際に、成膜源にて成膜材料を加熱し、成膜材料の蒸気を放出させる。
【0021】
本発明の成膜装置において移動手段は、成膜源を、所定の成膜待機位置と成膜位置との間で、成膜対象物に対して相対的に移動させる手段である。尚、この移動手段内には成膜源に対する相対位置を保持するように測定用水晶振動子が設けられている。
【0022】
本発明の成膜装置において、測定用水晶振動子は、成膜対象物上に形成される成膜材料の成膜量(成膜される薄膜の膜厚)を測定するために設けられている。
【0023】
本発明の成膜装置において、校正用水晶振動子は、測定用水晶振動子を校正するために設けられている。尚、校正用水晶振動子が測定用水晶振動子を校正するタイミングは任意である。
【0024】
一方、この移動手段が成膜待機位置にあるときに、この移動手段の上方に校正用水晶振動子が設けられている。
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の成膜装置について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また本発明は、発明の主旨を変更しない範囲において、適宜変更することが可能である。
【0026】
図1は、本発明の成膜装置における実施形態の例を示す概略図である。図1において、(a)及び(b)は、成膜源が成膜待機位置にあるときの概略図であり、(c)及び(d)は、成膜源が成膜位置にあるときの概略図である。尚、図1(a)、(c)及び(d)は、成膜装置を正面側(幅方向)から見たときの断面概略図であり、図1(b)は、図1(a)のAA’断面を左側面側(奥行方向)から見たときの概略図である。
【0027】
図1の成膜装置1は、成膜室10内に、成膜源21の移動手段である成膜源ユニット20及び2種類の水晶振動子(測定用水晶振動子22、校正用水晶振動子23)がそれぞれ所定の位置に設けられている。尚、各水晶振動子を設ける位置については後述する。
【0028】
以下、図1の成膜装置1の構成部材について説明する。尚、図1の成膜装置1は、例えば、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の製造に用いられる。
【0029】
図1の成膜装置1において、成膜室10は、真空排気系(不図示)と接続されている。この真空排気系により、成膜室10内の圧力が1.0×10-4Pa乃至1.0×10-6Paの範囲になるように真空排気できるようになっている。
【0030】
図1の成膜装置1において、成膜源ユニット20は、成膜室10内に設けられるレール24に沿って、図1(a)の矢印の方向、具体的には、成膜待機位置と成膜位置との間を往復移動することができる。ここで成膜待機位置とは、成膜対象物30上に成膜材料の成膜を行っていないときの成膜源ユニット20の位置をいう。具体的には、図1(a)に示されるように、成膜源21から放出される成膜材料の蒸気が到達できる位置に成膜対象物30がないときの成膜源ユニット20の位置をいう。一方、成膜位置とは、成膜対象物30上に成膜材料の成膜を行っているときの成膜源ユニット20の位置をいう。具体的には、図1(c)及び(d)に示されるように、成膜源21から放出される成膜材料の蒸気が到達できる位置に成膜対象物30があるときの成膜源ユニット20の位置をいう。
【0031】
尚、本発明において、成膜源ユニット20の形状は特に限定されるものではないが、成膜材料の蒸気を所定の位置から選択的に放出させるという観点で、上部に成膜材料の蒸気を放出するための開口部25を設けた筐体にするのが好ましい。成膜源ユニット20を筐体にすることにより、成膜源ユニット20から放出される成膜材料の蒸気の進行方向やその分布を開口部25の形状により制御することができる。特に、開口部25の幅を制御することにより、成膜材料の蒸気の分布や、成膜の効率を良好にすることができる。開口部25の幅の好ましい範囲については後述する。
【0032】
また本発明において、成膜源ユニット20の大きさは、特に限定されるものではない。尚、成膜源ユニット20の大きさは、成膜室10等の他の部材とのバランスを考慮して適宜設定される。
【0033】
図1(a)に示されるように、成膜源ユニット20を、レール24に沿って成膜待機位置と成膜位置との間を往復移動する際には、成膜源ユニット20に移動制御手段(不図示)を設けてもよい。特に、この移動制御手段によって成膜源ユニット20を等速度で移動させることができると、成膜対象物30上に成膜材料が均一に成膜されるので、好ましい。
【0034】
成膜源ユニット20内に設けられる成膜源21の形状は、成膜対象物30の大きさや成膜材料の蒸気の分布を考慮して適宜設定することができる。例えば、図1(a)、(b)に示されるように、成膜室10の幅方向(成膜源ユニットの移動方向)よりも奥行方向(成膜源ユニットの移動方向と面内で垂直な方向)に長い矩形形状とすることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。また成膜源21を成膜源ユニット20内に複数設けてもよい。一方、成膜源ユニット20内に設けられる成膜源21の中には、成膜材料(不図示)が収容されている。成膜源21に備える加熱手段(不図示)で成膜材料を加熱することで、成膜源21から成膜材料の蒸気を放出することができる。
【0035】
本発明において、成膜源ユニット20内には、測定用水晶振動子22が設けられている。ここで測定用水晶振動子22は、成膜源ユニット20内の所定の位置、具体的には、成膜対象物30へ向かう成膜材料の蒸気を遮断しない位置に固定されている。このため成膜源21に対する測定用水晶振動子22の相対的位置は常に所定の位置で保持されている。言い換えれば、成膜源21と測定用水晶振動子22との相対的位置は常に一定である。このように成膜源21と測定用水晶振動子22との位置関係を一定にすることは、成膜源21から放出される成膜材料の蒸気の量を測定水晶振動子22でモニタする上で重要である。また成膜源ユニット20内に測定用水晶振動子22を設けることで、常に、成膜源21から放出される成膜材料の蒸気の量をモニタすることができる。このため、成膜源ユニット20が移動している際にも、測定用水晶振動子22によるモニタ値に応じて成膜材料の蒸気の量を調整し、成膜源21から放出される成膜材料の放出量が一定になるように制御することができる。
【0036】
ところで測定用水晶振動子22上に成膜材料が堆積することにより、測定用水晶振動子22の共振周波数が変化する。図2は、図1の成膜装置の制御系を示す回路ブロック図である。図2に示されるように、測定用水晶振動子22の共振周波数の変化量は、膜厚測定器41が感知する。そして膜厚測定器41から出力される電気信号(測定用水晶振動子22の共振周波数の変化量の情報に関する電気信号)を制御系40が備える温度調節器(不図示)に送信して成膜源21の加熱手段の制御、例えば、成膜材料への加熱温度の調整を行う。こうすることで、成膜源21から放出される成膜材料の放出量が一定になるように制御されている。
【0037】
校正用水晶振動子23は、成膜源ユニット20が成膜待機位置で停止しているときに、成膜源ユニット20の上方に設けられている。即ち、成膜源ユニット20が成膜待機位置で停止しているときに、成膜源21から放出される成膜材料の蒸気が到達できる位置に校正用水晶振動子23が設けられている。ここで校正用水晶振動子23を設ける際には、校正用水晶振動子23と成膜源21との距離(鉛直方向の距離)が、成膜対象物30と成膜源21との距離(鉛直方向の距離)と等しくなる位置に校正用水晶振動子23を設けるのが好ましい。言い換えると、校正工程中の成膜源21と校正用水晶振動子23との位置関係と、成膜工程中の成膜源21と成膜対象物30との位置関係とを等しくすることができる。これにより校正用水晶振動子23における成膜材料の入射量を成膜対象物30における成膜材料の入射量と等しくすることができるので、校正の精度をより向上させることができる。
【0038】
ところで成膜材料が校正用水晶振動子23上に堆積することにより、校正用水晶振動子23の共振周波数が変化する。図2に示されるように、成膜材料の付着に伴う校正用水晶振動子23の共振周波数の変化量は、膜厚測定器42が感知する。そして膜厚測定器42から出力される電気信号(校正用水晶振動子23の共振周波数の変化量の情報に関する電気信号)は、制御系40に送信された後、測定用水晶振動子22へ送信され適宜測定用水晶振動子22の校正を行う。
【0039】
図1の成膜装置において、校正用水晶振動子23の近傍には、センサーシャッター26が設けられている。センサーシャッター26を設けることにより、所定のタイミングで各水晶振動子に成膜材料を付着させたり成膜材料の蒸気を遮断したりすることができる。
【0040】
ところで、成膜源ユニット20の開口部25の大きさや幅を制御することにより、成膜源21から放出される成膜材料の蒸気の到達範囲を制御することができる。ここで成膜源ユニット20を成膜待機位置に静止させているときに、成膜源21から放出される成膜材料の蒸気の到達範囲の中に含まれるように校正用水晶振動子23を設ける。この蒸気の到達範囲内に校正用水晶振動子23を設けると、成膜材料の蒸気の放出量が変化して放出分布が変化しても、成膜対象物30と校正用水晶振動子23に入射する成膜材料の比は変わらない。このため成膜対象物30上に成膜される薄膜の膜厚変化を正確に捉えることができる。その結果、校正を行う際の校正精度が向上する。
【0041】
ここで図1の成膜装置1で示される成膜源ユニット20のように、開口部25が細長い矩形形状である場合、成膜源21から放出される成膜材料の蒸気の到達範囲は、以下のように定められる。
【0042】
即ち、開口部25の短手方向(図1(a))においては、成膜源21の中心及び開口部25の左端部を通る直線と、成膜源21の中心及び開口部25の右端部を通る直線とで挟まれる領域であり、これら二本の直線でなす角27aで定めされる。ここで、角27aは、好ましくは、5°乃至60°、より好ましくは、15°乃至30°である。ここで角27aが5°未満だと、開口部25、特に、開口部25の端部に成膜材料が付着しやすくなるので成膜効率が下がることがある。また、角27aが60°を超えると、成膜源21から生じる成膜材料の蒸気の分布が過度に広くなり、成膜源ユニット20が成膜待機位置に静止したときであっても成膜材料の蒸気の一部が成膜対象物30に付着する可能性がある。
【0043】
一方、開口部25の長手方向においては、図1(b)の符号27bで定められる範囲である。
【0044】
また図1の成膜装置1において、センサーシャッター26は、校正用水晶振動子23の近傍に設けられているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、センサーシャッター26を、さらに測定用水晶振動子22の近傍に設けてもよい。
【0045】
図1の成膜装置1において、基板等の成膜対象物30は、搬送機構(不図示)によって成膜室10へ搬入したり、成膜室10から搬出されたりしている。また成膜対象物30を成膜室10へ搬入する際には、支持部材(不図示)を用いて成膜対象物30を所定の位置で支持する。
【0046】
次に、本発明の成膜装置を利用した成膜方法の具体例について説明する。
【0047】
先ず、成膜の準備段階として、測定用水晶振動子22にある一定時間あたりに堆積する膜厚と、校正用水晶振動子23にある一定時間あたりに堆積する膜厚と、成膜対象物30に堆積する膜厚と、をそれぞれ測定しその測定値を元に膜厚比を求める準備工程を行う。 この準備工程では、先ず成膜対象物30を搬送機構(不図示)で成膜室10内に搬入する。次に、成膜待機位置にて測定用水晶振動子によって計測される成膜源21からの放出量が所望の放出量になった時点で成膜源ユニット20の移動を開始し、成膜対象物30に成膜材料の薄膜を形成する。そして所定の移動条件で所定の回数往復移動した後、搬送機構(不図示)を使用して成膜対象物30を成膜室10から搬出する。
【0048】
ここで搬出した成膜対象物30上に形成された薄膜の膜厚を、光学式や接触式の膜厚測定器で測定し、その測定値(膜厚値)をtとする。一方で成膜対象物30上に成膜材料を成膜する際に、測定用水晶振動子22上に所定時間あたりに堆積する薄膜の膜厚は、測定用水晶振動子22の共振振動数の変化量から算出することができる。ここで測定用水晶振動子22に所定時間あたりに堆積する薄膜の膜厚(膜厚値)をMとする。そうすると、tとMとの比(膜厚比)αが、α=t/Mと求まる。
【0049】
また校正用水晶振動子23でも所定時間蒸気の量を計測し、校正用水晶振動子23の共振振動数の変化量より、校正用水晶振動子23上に所定時間あたりに成膜される薄膜の膜厚(膜厚値)をPを算出する。そうすると、tとPとの比(膜厚比)βが、β=t/Pと求まる。尚、校正用水晶振動子23上に薄膜が成膜されるのと同時に、測定用水晶振動子22にも成膜材料の薄膜が形成される。そこで、このときの測定用水晶振動子22上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値)をM‘すると、βは、β=α×M’/Pと表すことができる。
【0050】
ここで、校正用水晶振動子23を用いて蒸気の量を計測する際には、センサーシャッター26を利用するなりして校正用水晶振動子23に成膜材料が必要以上に堆積するのを防止するのが好ましい。こうすることで、校正用水晶振動子23が有する膜厚測定精度を高いまま維持できる時間を長くすることができる。
【0051】
以上のようにして膜厚比α及びβを求めた後、成膜対象物30上に成膜材料の成膜を行う成膜工程を行う。
【0052】
成膜工程では、先ず成膜対象物30となる基板(例えば、有機EL表示装置を製造する際に使用されるTFT付基板)を成膜室10内に搬入する。次に、成膜源ユニット20を、所定の条件で成膜待機位置と成膜位置とを往復移動させて成膜対象物30上に成膜材料を成膜する。成膜が終了すると成膜室10内から成膜対象物30を搬出する。そしてこの成膜工程を繰り返すことで複数の成膜対象物30に成膜材料の成膜を行うことができる。 図3は、成膜対象物30上に成膜される成膜材料の膜厚制御フローを示すフロー図である。尚、図3のフロー図には、校正工程のフローも併せて示している。以下、図2の回路ブロック図と併せて説明する。
【0053】
先ず、校正工程を行わないときは、校正用水晶振動子23の近傍にあるセンサーシャッター26が閉じられている一方で、測定用水晶振動子22に成膜材料が堆積される。このとき測定用水晶振動子22に電気的に接続された膜厚測定器41で水晶振動子の共振周波数の変化量を測定する。膜厚測定器41で測定された共振周波数の変化量から膜厚測定器41内で、測定用水晶振動子22に所定時間あたりに堆積した膜厚値M0’を算出する。そして膜厚測定器41は、電気的に接続され制御系40が備える温度調節器(不図示)に膜厚値M0’を送信すると共に、成膜対象物30に堆積する膜の膜厚、即ち、膜厚値t0(=α×M0’)を求める。ここでt0が所望の膜厚より厚い場合は、制御系40が備える温度調節器(不図示)によって成膜源21の温度を下げるように、膜厚測定器41から温度調節器へ電気信号が送信される。一方、t0が所望の膜厚が薄い場合は、温度調節器によって成膜源21の温度を上げるように、膜厚測定器41から温度調節器へ電気信号が送信される。他方、t0が所望の膜厚と等しい場合は、温度調節器によって成膜源21の温度を維持するように、膜厚測定器41から温度調節器へ電気信号が送信される。尚、上述したように、測定用水晶振動子22と成膜源21との相対的な位置関係は常に変化しない。このため、成膜源ユニット20が移動しているときでも膜厚値M0’のモニタと、成膜源21の温度制御とを常時行うことができる。従って、成膜源21から放出される成膜材料の放出量を一定に維持することができる。
【0054】
しかし、成膜源21が稼動している間では、常に、測定用水晶振動子23に成膜材料が堆積していくので、徐々に膜厚の測定精度が低下していく。かかる場合には以下に説明する校正工程を行う。
【0055】
校正工程では、校正用水晶振動子23の近傍にあるセンサーシャッター26を、成膜待機工程中、即ち、成膜工程と次の成膜工程の間の任意のタイミングで開放状態にする。ここで所定時間以上の間センサーシャッター26を開放状態にすることで、校正用水晶振動子23に一定量の成膜材料が堆積するため、所定時間あたりに校正用水晶振動子23上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値P1)を求めることができる。同時に、所定時間あたりに測定用水晶振動子22上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値M1)を求めることができる。膜厚値P1及びM1をそれぞれ求めたらセンサーシャッター26を閉めておく。ここで、成膜対象物30上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値)は、膜厚値P1を用いてβP1と求まる一方で、膜厚値M1を用いてαM1とも求まる。
【0056】
ところで、校正用水晶振動子23は、測定用水晶振動子22の測定誤差が大きくなった時に任意のタイミングで行われる校正工程でのみ用いられるため、水晶振動子に堆積される成膜材料の膜の量は極端に少なく膜厚測定誤差が小さい。その一方で、測定用水晶振動子22は成膜源から蒸気が放出されている間は常に蒸気量のモニタに用いられるため、水晶振動子には成膜材料が充分堆積しており膜厚測定誤差が大きい。このため、必ずしもβP1=αM1とはならない。そこで、膜厚値M1に校正係数(βP1/αM1)を乗算する。そうすると、測定用水晶振動子22から求められる膜厚値を、誤差が小さい校正用水晶振動子23から求めた膜厚値(βP1)と等しくすることができるので、誤差の少ない膜厚値を求めることができる。
【0057】
校正工程後は、測定用水晶振動子23に堆積した成膜材料の膜厚値M1’を求める。そして、制御系40にて、M1’に校正係数γ1(=(βP1)/(αM1))とαとを乗算した値αγ11’が、成膜対象物30に堆積させる所望の膜厚値となるよう、成膜源21の温度を制御系40が備える温度調節器(不図示)にて制御する。
【0058】
以上のようにして適宜校正工程を実施して、n回目の校正工程後に行う成膜工程では、測定用水晶振動子22に成膜材料を堆積させ、膜厚測定器41にてある一定時間あたりに堆積する膜厚値Mn’を求める。次にMn’に校正係数(γ1×γ2×…×γn)とαを乗算した値α×(γ1×γ2×…×γn)×Mn’が、成膜対象物30に堆積させる所望の膜厚値となるように、成膜源21の温度を制御系40が備える温度調節器(不図示)にて制御する。
【0059】
校正工程は成膜待機工程の最中に行うことを前提として任意のタイミングで行うことができるが、一定時間ごとに行ってもよいし、ある複数枚の成膜対象物ごとに行ってもよい。また測定用水晶振動子22の共振周波数の減衰量が一定になった時点で行ってもよいし、測定用水晶振動子22の共振周波数がある値になった時点に行ってもよい。
【0060】
図4は、校正工程を行ったときと行わなかったときにおける成膜対象物30上の薄膜の膜厚を比較したグラフである。図4に示されるように、校正工程を適宜行うことで成膜対象物30上の膜厚の誤差を低減できているのがわかる。
【0061】
以上より、本発明の成膜装置は、例えば、図1の成膜装置1に示されるように、成膜源21と測定用水晶振動子22とが成膜源ユニット20内の所定の位置に設けられることで、成膜源21から放出される成膜材料の放出量を一定に保つことができる。またこれにより成膜対象物30上に均一な薄膜を成膜することができる。また校正用水晶振動子23を所定の位置に設けて測定用水晶振動子22にてモニタされる成膜材料の薄膜の膜厚(膜厚値)を校正することによって、高い膜厚精度で成膜を行うことができる。
【実施例】
【0062】
[実施例1]
図1に示される成膜装置を用いて基板上に成膜材料を成膜した。
【0063】
本実施例では、成膜源ユニット20を、搬送距離1000mm、搬送速度5mm/sで一回往復させることで成膜を行った。また、基板(成膜対象物30)の大きさは500mm(長手方向)×400mmであり、基板の厚さは0.5mmである。
【0064】
また本実施例においては、基板(成膜対象物30)上に成膜される成膜材料の薄膜の膜厚が100nmとなるように成膜源21の加熱温度を調整した。
【0065】
また本実施例においては、測定用水晶振動子22及び校正用水晶振動子23には、INFICON社製金電極の6MHz水晶振動子を用いた。
【0066】
一方、本実施例においては、成膜源21と基板(成膜対象物30)との距離を300mmとし、成膜源21が成膜待機位置にあるときの成膜源21と校正用水晶振動子23との距離を300mmとした。
【0067】
先ず、成膜の準備工程を行った。
【0068】
この準備工程では、始めに膜厚測定用の基板(成膜対象物30)を成膜室10内に搬入し、成膜源21から放出される成膜材料の蒸気量が所望の値で安定したことを確認して、成膜源ユニット20を搬送速度5mm/sで移動を開始した。
【0069】
ここで成膜源ユニット20が成膜領域を移動する際に、1分間に測定用水晶振動子22上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値:M(nm))を求める。次に、所定の成膜条件で成膜を行った後、基板搬送機構(不図示)を用いて、基板(成膜対象物30)を成膜室10から搬出した。次に、搬出した基板(成膜対象物30)上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値:t(nm))を、光学式や接触式の膜厚測定器で測定した。すると、基板と測定用水晶振動子22とそれぞれに1分間に堆積する膜厚値の比αは、α=t/Mとなる。
【0070】
次に、一分間あたりに基板(成膜対象物30)上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値)と、一分間あたりに校正用水晶振動子23上に成膜される膜厚(膜厚値)との比を求めた。具体的には、基板(成膜対象物30)上での成膜材料の成膜を終えた後、成膜源ユニット20が成膜待機位置で停止して10秒後に、センサーシャッター26を開放状態にして、校正用水晶振動子23上に成膜材料の薄膜が形成される状態にした。次に、センサーシャッター26を開放状態にしてから30秒後〜90秒後の1分間で、校正用水晶振動子23上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値:P(nm))を求めた。またこの時間帯(センサーシャッター26を開放状態にしてから30秒後〜90秒後の1分間)では、測定用水晶振動子22上にも成膜材料の薄膜が形成されている。このためこの時間帯において測定用水晶振動子22上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値:M’(nm))が求まる。ここで基板(成膜対象物30)上と、校正用水晶振動子22上と、に1分間あたりに成膜される薄膜の膜厚の比をβとすると、βはβ=α×M’/Pと求まる。次に、センサーシャッター26を開放状態にしてから91秒経ったときにセンサーシャッター26を閉鎖状態にして校正用水晶振動子23上への成膜を防止した。尚、準備工程では、M=M’であり、膜厚値t(nm)は、t=αM=βPという関係式を満たしていた。
【0071】
次に、成膜工程に移行した。成膜工程では先ず、成膜対象物30となる基板を成膜室10内に搬入した。搬入が完了した後、成膜源ユニット20の移動を開始した。成膜源ユニット20が移動を終了した後、基板を成膜室10から搬出し成膜工程を終えた。
【0072】
成膜工程を複数回行う内に、測定用水晶振動子22に膜が堆積していくので、膜厚の測定誤差が徐々に大きくなる。そこで、以下に説明する校正工程を行った。
【0073】
1回目の校正工程は、10回目の成膜工程が終わった後に行った。具体的には、成膜源ユニット20が成膜位置から成膜待機位置へ到着し、この成膜源ユニット20が成膜待機位置で停止してから10秒後にセンサーシャッター26を開放状態にした。そしてセンサーシャッター26を開放してから30秒後から90秒後の間に測定用水晶振動子22上に成膜された薄膜の膜厚(膜厚値:M1(nm))、及び校正用水晶振動子23上に成膜された薄膜の膜厚(膜厚値:P1(nm))を測定した。すると、基板(成膜対象物30)上に成膜される薄膜の膜厚(膜厚値)は、αM1(nm)又はβとP1(nm)となる。しかし測定用水晶振動子22上に成膜された薄膜の膜厚から求めた膜厚値αM1(nm)は誤差が大きい一方で、校正用測定振動子23上に成膜された薄膜の膜厚から求めた膜厚値βP1(nm)は誤差が小さい。そのため必ずしもαM1=βP1とはならない。そこで、校正係数γ1=(βP1)/(αM1)を求める。校正係数γ1を求めた後の成膜工程では、測定用水晶振動子22に1分間に堆積する膜厚値M1’に校正係数γ1と膜厚比αとを乗算した値(α×γ1×M1’)が基板に堆積する所望の膜厚100nmになるよう成膜源21の加熱温度の調整を行った。
【0074】
一方、以上に説明した1回目の校正工程を行っている最中に、10枚目の基板の搬出及び11枚目の基板の搬入を行い、校正工程終了後、直ちに11枚目の基板の成膜を開始した。
【0075】
以上のようにして、成膜工程と校正工程とを行い、10n回目の成膜工程後に行うn回目の校正工程において、各水晶振動子上に成膜される薄膜の膜厚を求めた。具体的には、1分間に校正用水晶振動子23上に成膜される成膜材料の膜厚(膜厚値:Pn(nm))、及び測定用水晶振動子22上に成膜される成膜材料の膜厚(膜厚値:Mn(nm))を求めた。そうすると、校正係数γnは、γn=(βPn)/(αMn)と求まる。校正係数γnを求めた後の成膜工程では、1分間に測定用水晶振動子22上に成膜される成膜材料の膜厚(膜厚値Mn’)に1回目乃至n回目の校正工程で求めた校正係数と膜厚比αを乗算した値となるよう成膜源21の加熱温度を調整する。即ち、α×(γ1×γ2×…×γn)×Mn’が100(nm)となるよう成膜源21の加熱温度を調整する。尚、上述したように、成膜源21の加熱温度の変更は成膜源ユニット20の移動が終了した後に行った。このようにして成膜を行った結果、正確な膜厚精度で成膜を行うことができることがわかった。
【符号の説明】
【0076】
1:成膜装置、10:成膜室、20:成膜源ユニット、21:成膜源、22:測定用水晶振動子、23:校正用水晶振動子、24:レール、25:開口部、26:センサーシャッター、30:成膜対象物、40:制御系、41(42):膜厚測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料を加熱し、前記成膜材料の蒸気を放出させるための成膜源と、
前記成膜源を、所定の成膜待機位置と成膜位置との間で成膜対象物に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記成膜源から放出される前記成膜材料の放出量を測定するための測定用水晶振動子と、
前記測定用水晶振動子を校正するための前記校正用水晶振動子と、を備える成膜装置であって、
前記測定用水晶振動子は、前記移動手段内に設けられ、
前記校正用水晶振動子は、前記移動手段が前記成膜待機位置にあるときの前記移動手段の上方に設けられることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置を用いた成膜方法であって、
前記成膜源が前記成膜位置を移動している間に前記成膜対象物及び前記測定用水晶振動子に前記成膜材料を堆積する成膜工程と、
前記測定用水晶振動子に堆積した前記成膜材料からなる膜の膜厚値を算出する工程と、
算出された前記膜厚値に基づいて前記成膜源の加熱温度を調整し、前記成膜源から放出される前記成膜材料の放出量を制御する工程と、を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項3】
前記成膜源が次の成膜工程に前記待機位置にある時に、前記測定用水晶振動子及び前記校正用水晶振動子に前記成膜材料を堆積する工程と、
前記測定用水晶振動子及び前記校正用水晶振動子のそれぞれに堆積した前記成膜材料からなる膜の膜厚値を算出する工程と、
前記膜厚値の比から、次の成膜工程で前記測定用水晶振動子から算出される膜厚値を校正するための校正係数を求める工程と、
をさらに有することを特徴とする請求項2に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−112037(P2012−112037A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211800(P2011−211800)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】