説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】高精細パターンを形成したテンションマスクを均一に冷却する。
【解決手段】冷却体4をテンションマスク1のマスク箔3に接触させ、冷却体4をマスク箔上で走査させることにより、マスク箔3の全面を冷却する。冷却体4によってマスク箔3を冷却した後、基板7をマスク箔3に接触させ、シャッター8を開いて、蒸着源6から発生する蒸気を基板7に付着させる。マスク箔3の全面に冷却体4を直接接触させて冷却するため、短時間で均一にテンションマスクの温度調整を行うことが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンションマスクを介して基板に成膜するための成膜装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の有機発光層、電極パターン等を蒸着によって形成する手法として、成膜部位に対応する開口部を形成したシャドウマスクを用いるマスク蒸着法が広く一般に採用されている。
【0003】
特に近年、画素パターンの高精細化の要求にともない、シャドウマスクに数十μm幅の精細パターン開口部を形成する必要が生じている。このような、精細パタ−ン開口部のエッチング加工は、厚みのある金属板では困難なため、数十〜百μmの厚みの金属薄膜がマスク箔として用いられる。
【0004】
マスク箔単体では剛性が保てないため、マスク箔を金属フレームにテンションをかけた状態で接着保持したテンションマスクとして利用される。テンションマスクは、マスク箔への精細パターンの形成加工が可能であるとともに、テンションをかけることで、蒸着中の熱膨張によるマスク箔の撓みを防止できるため、高精度のパターニング成膜が可能であるという利点がある。
【0005】
反面、テンションマスクは、マスク箔が薄いために、蒸着源やスパッタリングターゲット等の熱源の影響を受けやすい。加熱したテンションマスクを使用し、成膜を行うと、特にマスク箔に基板が接触する時に、基板が熱膨張を起こし、成膜パターン形状の変形や、パターニング精度の悪化が生じるという課題がある。
【0006】
このような背景のもと、テンションマスクのマスク箔を冷却するために、例えば特許文献1に開示されたように、マスクフレームに流路を形成し、流路に冷媒を導入することでマスクフレームを冷却する手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−100453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高精細パターンを形成したマスク箔をフレームに接着保持したテンションマスクでは、マスク箔の断面積が小さいため、熱の伝達効率が悪く、マスクフレームを冷却してもマスク箔中央部まで均一に冷却することが困難である。
【0009】
そのため、連続成膜時にマスク箔の温度上昇が生じ、基板にマスクが接触する時に基板が熱膨張を起こし、成膜パターン形状の変形や、パターニング精度の悪化が生じるという課題がある。
【0010】
本発明は、テンションマスクのマスク箔を均一に冷却し、高精度なマスク成膜を効率良く行うことができる成膜方法及び成膜装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の成膜装置は、基板にテンションマスクを介して成膜する成膜装置において、前記テンションマスクのマスク箔の一部分に接触するように構成された冷却体と、前記冷却体を前記マスク箔全体に走査させるための走査機構と、を有し、前記冷却体を前記マスク箔に接触させながら前記マスク箔全体に走査させることにより、前記テンションマスクを冷却することを特徴とする。
【0012】
本発明の成膜方法は、基板にテンションマスクを介して成膜する成膜方法において、前記テンションマスクのマスク箔の一部分に接触する冷却体を前記マスク箔全体に走査させることにより、前記テンションマスクを冷却する工程と、冷却されたテンションマスクを基板に接触させて成膜する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
マスク箔全面を冷却体が直接接触して冷却するため、短時間で、均一にマスク箔全面の温度調整を行うことが可能である。さらに、冷却体内に冷媒を供給することで、冷却効率と温調精度を向上させることがきる。このようなテンションマスクを用いることで、マスク成膜におけるパターニング精度と生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施例による成膜装置を示すもので、(a)はその主要部を示す模式断面図、(b)は冷却体とテンションマスクの位置関係を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、テンションマスク1は、マスクフレーム2に周縁を支持されたマスク箔3を有し、テンションマスク1のマスク箔3に冷却体4を接触させ、冷却体4をマスク箔3の全面で走査させることにより、マスク箔全体を冷却する。
【0016】
冷却体4は、図1(b)に示すように、マスク箔3の一部分に接触するローラーであるが、ローラーに限らず、ワイヤーやブレード等を用いてもよい。
【0017】
冷却体4の材質は、真空チャンバー中で有機EL素子の特性を損なうような脱ガスが発生しないものであれば、金属、有機高分子材料等の任意の材料が使用可能である。冷却体4は、中空構造として内部に配管5を構成し、気体や液体等の流体からなる冷媒を供給することにより、冷却効率と温調精度を高める。
【0018】
冷却体4とマスク箔3の接触部の長さは、マスク箔3の辺長より小さく設計し、冷却体4をマスク箔3の表面に接触させながら走査させる走査機構を設けて、冷却体4の走査により、マスク箔3の全面にわたって冷却を行う。
【0019】
マスク箔3には重力方向に反りが生じているため、冷却体4をマスク箔3に一様に接触させるためには、押し圧を加える必要がある。この押し圧の大きさは、マスク箔3の破損が生じない程度に調整する。
【0020】
また、マスクに付着した蒸着膜の剥がれを防止するために、冷却体4を蒸着源6の反対側のマスク箔面に接触させて冷却処理を行うのが好ましい。マスク箔3と基板7が離れた状態であれば、成膜工程のどの段階でも上記の冷却処理を行うことが可能である。アラインメント時、あるいは、成膜時等、マスク箔3と基板7が密着している時には、冷却体4を成膜装置内のテンションマスク1が保持された領域外に待機させる。
【0021】
連続成膜時において、マスク箔3の温度を一定に保持するために、冷却処理は成膜毎に実施することがより好ましいが、マスク箔3の温度をモニタリングし、マスク箔3の温度が一定温度を超えた段階で処理を行う手法も有効である。
【実施例】
【0022】
図1は、一実施例による成膜装置の主要部を示すもので、真空チャンバー(成膜室)内において、上方から被成膜基板である基板7、テンションマスク1、蒸着源6の順に設置される。蒸着源6には蒸着材料としてAlが充填されている。蒸着源6の上方にはシャッター8が設置されており、成膜時にはシャッター8を開放することでテンションマスク1を介して蒸着膜を基板7に付着させることができる。
【0023】
テンションマスク1は、精細パターン開口が施された厚み50μmのインバー製マスク箔3がステンレス製のマスクフレーム2に溶接された構造である。中空構造を有する銅製のワイヤーローラーで構成された冷却体4とマスク箔3の接触部の長さは、テンションマスク1のマスク箔3の短辺幅に合わせて設計されている。
【0024】
冷却体4の内部の配管5には、冷媒として、25℃に温度調整された冷却水が循環している。冷却体4は、普段はテンションマスク1の保持された領域外に待機しており、冷却処理時にマスク箔3の領域上に移動し、冷却処理を行う構造になっている。
【0025】
本実施例による成膜方法について説明する。まず、真空チャンバー内に基板7を搬送し、テンションマスク1の上方に待機させた。次に、冷却体4をテンションマスク上に移動させ、マスク箔3に接触させて2往復走査させることで、マスク箔3の冷却を実施した。その結果、冷却処理後のマスク箔3の温度分布を25±2.5℃に調整することができた。
【0026】
マスク箔3の冷却処理後、冷却体4をテンションマスク1の保持された領域外に移動させた。しかる後に、基板7とテンションマスク1のアラインメント処理を行った。アラインメント完了後、基板7を降下し、マスク箔3と接触させ、シャッター8を開き、成膜処理を実施した。最後に、成膜処理を完了した基板7を上昇させ、マスク箔3から離し、真空チャンバー外に搬出した。
【0027】
上記の成膜サイクルを連続して100回繰り返し実施したところ、冷却処理を施した直後のマスク箔3の温度分布はいずれも25±2.5℃であり、基板上に成膜された蒸着膜パターンのパターン形状の不良や、パターニング精度の悪化は生じなかった。
【0028】
(比較例)
図1に示した成膜装置と同様の装置を用いて、マスク箔の冷却処理を行わないで成膜した。まず、真空チャンバー内に基板を搬送し、テンションマスク上に待機させた。次に、基板とテンションマスクのアラインメント処理を行った。アラインメント完了後、基板を降下し、マスク箔と接触させ、シャッターを開き、成膜処理を実施した。最後に、成膜処理を完了した基板を上昇させ、マスク箔から離し、真空チャンバー外に搬出した。
【0029】
上記の成膜サイクルを連続して100回繰り返したところ、マスク箔の中央部の温度は60°Cとなり、マスク箔の温度分布は±6℃であった。そして、マスク箔からの伝熱による基板膨張に起因するパターン形状の不良、パターニング精度の悪化が生じた。
【符号の説明】
【0030】
1 テンションマスク
2 マスクフレーム
3 マスク箔
4 冷却体
6 蒸着源
7 基板
8 シャッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にテンションマスクを介して成膜する成膜装置において、
前記テンションマスクのマスク箔の一部分に接触するように構成された冷却体と、
前記冷却体を前記マスク箔全体に走査させるための走査機構と、を有し、
前記冷却体を前記マスク箔に接触させながら前記マスク箔全体に走査させることにより、前記テンションマスクを冷却することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記冷却体が中空構造であり、前記冷却体の内部に冷媒を供給することを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
基板にテンションマスクを介して成膜する成膜方法において、
前記テンションマスクのマスク箔の一部分に接触する冷却体を前記マスク箔全体に走査させることにより、前記テンションマスクを冷却する工程と、
冷却されたテンションマスクを基板に接触させて成膜する工程と、を有することを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−248553(P2010−248553A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97792(P2009−97792)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】