説明

成膜装置

【課題】成膜不良を抑制する成膜装置を提供する。
【解決手段】被処理基板Wを収納する真空容器2と、真空容器2内において被処理基板Wを戴置すると共に、所定の搬送方向に搬送するホルダー3と、搬送される被処理基板Wに対向して真空容器2内に設けられるハース4A,4Bと、ハースにプラズマビームを照射するプラズマガン6,7と、ハースに対向するとともに、被処理基板Wを挟んでハースと反対側に設けられる歪曲手段15Aと、を備え、歪曲手段15Aは、電極と、該電極に接続され電圧を印加する電源装置と、を有し、電極には、ハースから飛来する膜材料が有する電荷と逆の電荷を生じる電位が印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報機器の多様化等に伴い、消費電力が少なく軽量化された平面表示装置のニーズが高まっている。この様な平面表示装置の一つとして、有機発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下「有機EL装置」という)が知られている。
【0003】
有機EL装置は、陽極と陰極との間に有機発光層(発光層)や、電子注入層などの機能層が挟持される構成の有機発光素子(有機EL素子)を複数備えている。これらのうち、陰極や電子注入層は、電子を放出しやすい特性を備える材料で形成することから、大気中に存在する水分と反応し劣化しやすい。これらが劣化すると、ダークスポットと呼ばれる非発光領域を形成してしまう。そのため、有機EL装置では、有機発光素子から大気中の水分を遮断する封止構造が重要となる。
【0004】
上述の封止構造について、近年では、数μmの厚みの薄い無機封止膜を用いて有機発光素子を外部雰囲気と遮断する薄膜封止技術が提案されている。このような封止技術を用いると、内部に気体や液体を封入するための中空構造を備えない完全な固体構造が実現可能となる。固体構造を備える有機EL装置は、大幅な薄型化や軽量化が可能となり、更なる高機能・高品質な有機EL装置とすることが期待できことから、薄膜封止技術には大きな期待が寄せられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−42367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の無機封止膜の成膜には、例えば、図10に示すようなイオンプレーテイング装置が用いられている。
【0007】
このイオンプレーテイング装置1000は、真空容器(成膜室)1001と、この真空容器1001内に配設されるハース1002と、このハース1002にプラズマビームPBを照射するプラズマガン1003と、この真空容器1001内かつハース1002に対向して設けられ被処理基板Wを搬送する搬送機構1004とにより構成されている。このハース1002の貫通孔1005には成膜材料ロッド1006が挿入され、このハース1002の下方には、成膜材料ロッド1006を徐々に突き上げる供給装置1007が設けられている。
【0008】
このイオンプレーテイング装置1000では、プラズマガン1003からプラズマビームPBが真空容器1001中に照射される。このプラズマビームPBは、ハース1002の正電位を適当な値に制御することにより、確実にハース1002に導かれ、このハース1002中の成膜材料ロッド1006の上端部を加熱する。この成膜材料ロッド1006では、その上端部が加熱されることで成膜材料が蒸発し、この蒸発した成膜材料がプラズマビームPB中にてイオン化され、このイオン化した成膜材料粒子が被処理基板Wの表面に付着され成膜される。
【0009】
上述の無機封止膜を形成する有機EL装置の表面には、発光領域を画素毎に分割する隔壁や、駆動素子、あるいは表面に付着した異物等に起因した多くの段差、凹凸がある。しかし、このような表面に上記装置を用いて無機封止膜を成膜すると、ハース1002に対向していない段差部分の側壁部分や、異物や段差の陰となる部分等に成膜材料粒子が付着しにくく成膜不良となりやすい。
【0010】
このような成膜不良部分では、封止が不十分となりやすく、水分が浸入しやすいために非発光領域であるダークスポットが発生しやすい。更に、水分が浸入し続けることでダークスポットが成長し、非発光部分を周囲に広げてしまうため、製品寿命が著しく短くなってしまう。
【0011】
また、例えば半導体基板における層間絶縁膜のように、有機EL装置以外にも薄膜を有する機器は多数存在するが、形成する薄膜に成膜が不十分な箇所が存在すると、絶縁が破られて誤作動を起こすなど、機器の信頼性の低下に繋がる。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、薄膜によるカバレッジ性を改善し、成膜不良を抑制する成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明の成膜装置は、被処理基板を収納する真空容器と、前記被処理基板に対向して前記真空容器内に設けられる材料源と、前記材料源にプラズマビームを照射するプラズマガンと、前記材料源に対向するとともに、前記被処理基板を挟んで前記材料源と反対側に設けられる歪曲手段と、を備え、前記歪曲手段は、電極と、該電極に接続され電圧を印加する電源装置と、を有し、前記電極は、前記材料源から飛来する蒸着粒子が有する電荷と逆の電荷を生じる電位が印加されることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、材料源から飛来する蒸着粒子が有する電荷と、歪曲手段の電極が有する蒸着粒子の電荷と逆の電荷と、によって生じる静電力により、蒸着粒子の飛行経路を歪曲させ、電極と重なる箇所に蒸着粒子を引き寄せることができる。そのため、被処理基板の被処理面に存在する段差部分の側壁部分や、異物や段差の陰となる部分等にも飛来する蒸着粒子が付着しやすくなり、成膜不良なく成膜を行うことが可能な成膜装置とすることができる。
【0015】
本発明においては、前記真空容器内において前記被処理基板を戴置すると共に、所定の搬送方向に搬送する搬送機構を有することが望ましい。
この構成によれば、被処理基板の表面に対して蒸着粒子の飛行経路が歪曲する領域を走査しながら成膜を行うことができるため、被処理基板の表面全面に不良の無い成膜が可能となる。
【0016】
本発明においては、前記電極は、前記搬送方向に交差する方向を長手方向として平面視帯状に延在していることが望ましい。
この構成によれば、帯状に延在する電極に蒸着粒子が引き寄せられるために、蒸着粒子の飛行経路が歪曲する領域が帯状に分布することとなる。このような領域を横切って被処理基板が搬送されるため、被処理基板の表面に対する成膜走査が効果的に行われ、被処理基板の表面全面に不良の無い成膜が可能となる。
【0017】
本発明においては、前記搬送方向に直交する方向における前記電極の幅は、前記搬送方向に直交する方向における前記被処理基板の幅よりも長いことが望ましい。
この構成によれば、蒸着粒子の飛行経路の歪曲が被処理基板の全面に渡って行われるため、被処理基板全面に渡って成膜を均一に行うことが可能となる。
【0018】
本発明においては、前記歪曲手段は、前記蒸着粒子の電荷と逆の電荷を生じる電位が印加される第1の電極と、前記第1の電極と隣り合って配置され、前記蒸着粒子の電荷と同じ電荷を生じる電位またはグラウンド電位が印加される第2の電極と、を含む複数の前記電極を有することが望ましい。
この構成によれば、第2の電極と重なって飛来する蒸着粒子を第1の電極へと効果的に導くことが可能な成膜装置とすることができる。特に、第2の電極に蒸着粒子の電荷と同じ電荷が生じる場合、第2の電極による蒸着粒子の反発と、第1の電極による蒸着粒子の引き寄せが同時に行われるため効果的である。
【0019】
本発明においては、前記歪曲手段は、各々複数の前記第1の電極と前記第2の電極とが、縞状に交互に配置されていることが望ましい。
この構成によれば、被処理基板は、一度の搬送で蒸着粒子の飛行経路が歪曲する領域を複数回通過するため、複数回の成膜を行ったのと同様にムラの無い良好な成膜を実現できる成膜装置とすることができる。
【0020】
本発明においては、隣り合う前記複数の電極は、絶縁性材料を形成材料とする絶縁部材を挟持していることが望ましい。
この構成によれば、隣り合う電極間で生じうる不要な放電を抑制することができ、安定した成膜を実現することができる。
【0021】
本発明においては、前記歪曲手段は、前記被処理基板の法線方向に設定された回転軸周りに、前記被処理基板に対して相対的に回転可能に設けられていることが望ましい。
この構成によれば、被処理基板の被処理面に対して、飛行経路が歪曲する蒸着粒子を全方位的にムラ無く付着させることができ、良好な成膜を実現できる成膜装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明が適用される有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る成膜装置の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る成膜装置の構成を示す概略図である。
【図4】本発明の成膜装置の動作を説明する説明図である。
【図5】本発明の成膜装置の動作を説明する説明図である。
【図6】本発明の成膜装置の動作を説明する説明図である。
【図7】本発明の実施形態に係る成膜装置の変形例を示す概略図である。
【図8】本発明の実施形態に係る成膜装置の変形例を示す概略図である。
【図9】本発明の実施形態に係る成膜装置の変形例を示す概略図である。
【図10】従来の成膜装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1〜図9を参照しながら、本発明の実施形態に係る成膜装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0024】
ここでは、まず図1を用いて、本発明が製造に適用される有機EL装置について説明した後に、図2,3を用いて成膜装置1について説明を行う。
【0025】
図1は、有機EL装置100の構成を示す断面図である。有機EL装置100は、基材101aに素子層101bが設けられた素子基板101と、素子層101b上に設けられた画素電極102と、画素電極102上に設けられた有機発光層103と、有機発光層103を覆って設けられた共通電極104と、を有している。
【0026】
有機発光層103は、複数の隔壁105で分割されており、分割された有機発光層103は、これを挟持する画素電極102,共通電極104と複数の有機EL素子110を形成している。また、素子基板101に対向配置され有機EL素子110を保護する保護基板120を備えており、素子基板101と保護基板120とは、シール層130および接着層135を介して貼り合わされている。
【0027】
また、複数の有機EL素子110は、順に積層して形成される電極保護層107と有機緩衝層108とガスバリア層109と、からなる保護層に覆われている。
【0028】
これらの保護層のうち、有機緩衝層108は、隔壁105の形状を反映して凹凸状に形成された電極保護層107の凹凸部分を埋め平坦化するために設けられ、エポキシ樹脂などの樹脂材料を用いて形成される。また、電極保護層107およびガスバリア層109は、透明性や密着性、耐水性、絶縁性、更にはガスバリア性を考慮し、無機材料を形成材料として形成されており、有機EL素子110への水分浸入を防ぐ機能を有している。本実施形態では、酸化シリコン(SiO)、酸窒化シリコン(SiON)、窒化シリコン(SiN)などのケイ素化合物を用いて形成される。
【0029】
電極保護層107は気相反応を用いて形成されるが、隔壁105の上に形成されるため、図において符号AR1で示す隔壁105の頂面部と重なる領域と比べ、符号AR2で示す隔壁105の側壁部と重なる部分では段差の陰となり成膜不良が生じ易い。また、電極保護層107やガスバリア層109の形成面に異物が付着した状態で成膜を行うと、ピンホールを生じやすく、信頼性が低下する。
【0030】
本発明の成膜装置は、隔壁105、有機EL素子110が形成された素子基板101(被処理基板W)に対し、このような電極保護層107およびガスバリア層109を形成する際に好適に用いられる。
【0031】
図2は、本実施形態の成膜装置1を示す断面図である。図に示すように、成膜装置1は、被処理基板Wを収納する真空容器2と、真空容器2の上部に設けられ被処理基板Wを真空容器2内に搬送するためのホルダー(搬送機構)3と、真空容器2内の底部において被処理基板Wの被処理面Wsに対向して配設されたハース(材料源)4A、4Bと、ハース4Aに高密度プラズマHPを入射させるプラズマガン6と、ハース4Bに高密度プラズマHPを入射させるプラズマガン7と、真空容器2には、窒素ガス(N)等を導入するための配管10と、真空容器2の上部に設けられホルダー3を挟んでハース4A,4Bに対向する歪曲手段15Aと、を備えている。
【0032】
ハース4A、4B各々には、酸化ケイ素(SiO)等の成膜材料が充填され、これらハース4A、4B各々の周囲には、各々に入射する高密度プラズマHPの向きを制御するハースコイル8が設けられている。また、プラズマガン6の高密度プラズマHPの出射側にも高密度プラズマHPの向きを制御するステアリングコイル9が設けられている。
【0033】
プラズマガン6から出射された高密度プラズマHPは、制御装置(図示略)にてハース4Aの放電電圧を適当な値に制御することにより、確実にハース4Aに導かれ、ハース4A中の成膜材料を加熱し蒸発させる。同様に、プラズマガン7から出射された高密度プラズマHPもハース4Bに導かれ、ハース4B中の成膜材料を加熱し蒸発させる。この蒸発した成膜材料は、高密度プラズマHP中にてイオン化するとともに窒素ガス等の雰囲気ガスと反応し、この反応生成物が被処理基板Wの表面に付着し、成膜される。
【0034】
歪曲手段15Aは、ハース4A,4Bから直線状に飛来する成膜材料または反応生成物(以下、両者を併せて膜材料と称する)の飛行経路を、ホルダー3の近傍で歪曲する機能を有する。
【0035】
図3は、歪曲手段15Aの概要を示す模式図である。図に示すように、歪曲手段15Aは、平面視略矩形で帯状に延在する板体であり一方向に延在する複数の電極(第1の電極)15a、電極(第2の電極)15bと、同様に平面視略矩形を呈し一方向に延在する複数の絶縁部材15cと、を有している。電極15a,15bはそれぞれの長辺同士が隣り合うように所定の配列軸に沿って縞状に交互に配列しており、隣り合う電極15a,15bの間には、それぞれの長辺と自身の長辺とが隣り合うように絶縁部材15cが配置されている。
【0036】
電極15a、15bには、電源装置15dが接続されており、電極15aおよび電極15bに異なる電位を印加する。図では、電極15aにはプラス(+)電位を、電極15bにはマイナス(−)電位を印加することとしている。
【0037】
近接する位置に逆電位の電極を配置していると電極間で放電するおそれがあるが、例えば、図2に示す真空容器2内の圧力が成膜時に1E−3Paであるとすると、両電極に±2keVの電位を印加する場合には、電極間の離間距離を1cm以上とすることで放電を抑制することができる。
【0038】
また、絶縁部材15cは上記のような放電を抑制する機能を有する。絶縁部材15cの形成材料としては、窒化ホウ素(BN)、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)などの無機化合物や、セラミック材料を好適に用いることができる。
【0039】
電極15a,15bの長辺の長さL1は、後述する歪曲手段15Aの影響を被処理基板Wの全面に行き渡らせ成膜を均一に行うために、被処理基板Wにおける電極15a,15bの長辺と同方向の長さL2よりも長いことが望ましい。また、電極15a,15b、絶縁部材15cの短辺の長さ(幅)は、成膜レートや被処理基板Wの搬送速度に応じて適宜設定することができる。
【0040】
不図示のホルダーに保持された被処理基板Wは、電極15a,15bの延在方向と交差する方向に移動し、被処理基板Wに対して歪曲手段15Aと反対の方向から飛来する膜材料Mを用いて被処理面に成膜される。
【0041】
このような歪曲手段15Aの近傍においては、飛来する膜材料Mは次のような挙動を示す。図4は、歪曲手段15A近傍の様子について示した概略断面図である。
【0042】
図に示すように、成膜装置内において歪曲手段15Aに向かって飛来する膜材料Mは、加熱に用いられる高密度プラズマの電荷に起因して電荷を有している。ここでは、成膜材料としてSiOを用いた場合を想定し、膜材料Mがマイナスに帯電していることとして図示している。
【0043】
一方、歪曲手段15Aでは、隣り合う電極15a,15bに異なるプラスとマイナスの電位が生じるように印加がされているため、電極間において電界EFが発生している。このような歪曲手段15Aに向かって飛来する膜材料Mは、電界EFの影響により飛行経路が曲がると共に、膜材料Mの帯電電荷と同じ電荷が発生している電極15bから斥力を受けて反発し、膜材料Mの帯電電荷とは逆の電荷が発生している電極15aから引力を受けて引き寄せられる事となる。結果、膜材料Mは、被処理基板に対して斜め方向から付着して成膜が行われる。
【0044】
ここで、図では電極15a,15bの幅を等しいものとして示しているが、互いに幅が異なることとしても良い。図5は、電極15a,15bの幅を変化させた場合の膜材料Mの挙動を示す概略図である。ここでは、飛行経路のみを示すことで膜材料Mを図示している。
【0045】
図5(a)に示すように、電極15aの幅を電極15bの幅よりも短くすると、膜材料Mに対して斥力を生じる電極15bと平面的に重なって飛来する膜材料Mが増えるために、多くの膜材料Mが斥力を受け、結果、電極15a,15bの幅が等しい場合よりも、飛行経路が歪曲する膜材料Mが増える。
【0046】
逆に、図5(b)に示すように、電極15aの幅を電極15bの幅よりも長くすると、膜材料Mに対して引力を生じる電極15aと平面的に重なって飛来する膜材料Mが増えるために、多くの膜材料Mが引力を受け、結果、電極15a,15bの幅が等しい場合よりも、飛行経路が直進する膜材料Mが増える。
【0047】
これら電極の幅に対する膜材料Mの挙動を利用し、膜材料Mが帯電する電荷量、膜材料Mの飛来速度、膜材料Mの飛来密度に応じて好適な幅の電極を設定し、飛来する膜材料Mの向きを歪曲して良好な成膜を行うことができる。
本実施形態の成膜装置1は、以上のような構成となっている。
【0048】
次に、上記の成膜装置1の機能について、例を示して説明する。図6は、被処理基板Wに成膜する様子を示す工程図である。ここでは、図1で示した有機EL装置100の製造工程において、隔壁105、有機EL素子110が形成された素子基板101(被処理基板W)に対し、電極保護層107を形成する様子を示す。
【0049】
図6(a)に示すように、不図示のホルダーに保持された被処理基板Wは、隔壁105や有機EL素子110が形成された側を被処理面Wsとして膜材料Mの飛来する側に向け、歪曲手段15Aと平面的に重なるように移動する。飛来する膜材料Mは、歪曲手段15Aから生じる電界の影響を受けて飛行経路が歪曲しながら被処理面Wsに達する。そのため、膜材料Mが直進して飛来するよりも、符号AR2で示す隔壁105の側壁部と重なる部分に膜材料Mが付着しやすく、結果、成膜不良が生じにくい。
【0050】
被処理基板Wと歪曲手段15Aとの離間距離は、歪曲手段15Aに印加される電圧や膜材料Mの成膜レート等によって任意に決める事が出来るが、上記のような機能を良好に発揮するためには、膜材料Mの飛行経路が曲がり始める位置よりは歪曲手段15Aに近い位置に被処理基板Wを配置する必要がある。
【0051】
また、図6(b)に示すように、被処理基板Wが歪曲手段15Aに対して相対的に移動しながら成膜されるため、被処理面Wsが有する段差部分の全面において膜材料Mが良好に付着し、成膜が行われる。被処理基板Wの近傍では、複数の電極15aと重なる位置において帯状に膜材料Mの引き寄せが行われており、このような帯状に膜材料Mの飛行経路が歪曲している箇所を被処理基板Wが横断することで、1つの電極を用いて被処理基板Wの全面に複数回走査して成膜を行ったのと同様のムラの無い成膜ができる。更に、必要に応じて被処理基板Wを往復させながら複数回の成膜を行うことで、成膜不良が無い良好な電極保護層107が形成される。
以上のようにして、本実施形態の成膜装置を用いた成膜が行われる。
【0052】
以上のような構成の成膜装置1によれば、飛来する膜材料Mが有する電荷と、歪曲手段15Aの電極15aが有する電荷と、によって生じる静電力により、膜材料Mの飛行経路を歪曲させることができる。そのため、被処理基板Wの被処理面Wsに存在する隔壁の側壁部分にも歪曲して飛来する膜材料Mが付着しやすくなり、成膜不良なく成膜を行うことが可能な成膜装置1とすることができる。
【0053】
また、本実施形態では、歪曲手段15Aは、膜材料Mの電荷と逆の電荷を有する電極15aと、電極15aと隣り合って配置され、膜材料Mの電荷と同じ電荷を有する電極15bと、を有することとしている。そのため、電極15bによる膜材料Mの反発と、電極15aによる膜材料Mの引き寄せが同時に行われ、電極15bと重なって飛来する膜材料Mを電極15aへと効果的に導くことが可能な成膜装置1とすることができる。
【0054】
また、本実施形態では、電極15aと電極15bとが縞状に交互に配置されていることとしている。そのため、歪曲手段15Aと重なって搬送される被処理基板Wに対して複数箇所で膜材料Mの引き寄せが行われ、一度の搬送で複数層重ねた成膜を行ったのと同様にムラの無い良好な成膜を実現できる成膜装置とすることができる。
【0055】
なお、本実施形態においては、電極15bには電極15aと反対の電位を印加することとしたが、電極15bの電位がグラウンド電位であることとしても構わない。
【0056】
また、本実施形態においては、電極15a,15bを平面視略矩形の板体としているが、角柱、円柱などの棒状の形状であっても良い。
【0057】
また、本実施形態においては、歪曲手段15Aには電極15a,15bが互いに複数存在することとしているが、電極の数はこれに限らない。図7は、歪曲手段の変形例を示す模式図である。図7では、飛来する膜材料Mの帯電電荷とは反対の電荷を生じる電位に印加される電極を15aとしている。
【0058】
例えば、図7(a)に示すように、2つの電極15aで1つの電極15bを挟持した歪曲手段15Bとしても良い。この場合には、間に挟まれた電極15bで2つの電極15aに膜材料Mが引き寄せられることとなるが、印加する電荷を逆にして、2つの電極15bで1つの電極15aを挟持する構成としても構わない。また、図7(b)に示すように、1つの電極15aのみを用いて歪曲手段15Cとすることもできる。
【0059】
また、本実施形態においては、被処理基板Wの搬送方向と交わる方向に延在する電極を有する歪曲手段を1つ設けることとしているが、複数の歪曲手段を備える成膜装置とすることとしても良い。
【0060】
例えば、図8に示すように、2つの歪曲手段15D,15Eが有する電極15a,15bの延在方向が交わるように配置すると、歪曲手段と重なって行われる成膜毎に膜材料Mの付着する方位が異なるため、被処理基板Wに対して複数の方位から膜材料Mの付着を行う事が出来る。従って、膜材料Mの付着方向の偏りを無くし、成膜不良を良好に防ぐことができる。
【0061】
また、本実施形態においては、被処理基板Wと歪曲手段15Aとは、相対的な直線運動を行うこととしているが、平面的に重なる被処理基板Wと歪曲手段15Aとが、相対的に回転運動を行う構成とすることとしても良い。
【0062】
例えば、図9(a)に示すように、歪曲手段15Fの法線と平行に設定された回転軸R1のまわりを歪曲手段15Fが回転可能とし、歪曲手段15Fを回転させながら本実施形態と同様に歪曲手段15Fに対向する被処理基板Wを移動させる。このような動作を行う成膜装置で成膜を行うと、膜材料Mは、被処理面に対して全方位的に様々な方向から飛来して成膜される。そのため、例えば、凹凸形状が格子状に設けられているような場合であっても、成膜の陰となる箇所がなくなり、好適に成膜を行うことができる。
【0063】
上記のように複数の歪曲手段を用いる場合には、歪曲手段毎に各々回転可能とすることとしても良い。
【0064】
あるいは、図9(b)に示すように、被処理基板Wの法線と平行に設定された回転軸R2のまわりを被処理基板Wが回転可能とし、被処理基板Wを回転させながら、歪曲手段15Aに対向する被処理基板Wを移動させることとしても良い。
【0065】
図9で示した歪曲手段15Fまたは被処理基板Wの回転運動は、一方向に回転し続ける回転運動であっても良く、一方向に一定の角度回転した後に逆方向に一定の角度回転することを繰り返すこととしても良い。この構成だと、例えば90度の角度変更が可能であれば、結果として被処理面に対し全方位的に様々な方向から膜材料Mを付着させて成膜を行うことができる。
【0066】
更に、例えば、被処理基板Wを往復させて複数回の走査により成膜を行う場合には、往復の切り替え時に被処理基板Wと歪曲手段との相対角度を変更することとして、搬送中は互いの相対角度を固定した状態で成膜を行っても良い。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0068】
本実施形態では、膜材料Mがマイナスに帯電していることとしたために、プラスに帯電する電極15aに膜材料Mが引き寄せられるとして記載したが、プラズマにより加熱された膜材料がプラスに帯電している場合には、マイナスに帯電する電極に引き寄せられることとなる。その場合には、上述の電極15a,15bの電位を逆に設定することで、同様の効果が得られる成膜装置とすることができる。
【符号の説明】
【0069】
1…成膜装置、2…真空容器、3…ホルダー(搬送機構)、4A,4B…ハース(材料源)、6,7…プラズマガン、15A〜15F…歪曲手段、15a…電極(第1の電極)、15b…電極(第2の電極)、15c…絶縁部材、15d…電源装置、M…膜材料(蒸着粒子)、W…被処理基板、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板を収納する真空容器と、
前記被処理基板に対向して前記真空容器内に設けられる材料源と、
前記材料源にプラズマビームを照射するプラズマガンと、
前記材料源に対向するとともに、前記被処理基板を挟んで前記材料源と反対側に設けられる歪曲手段と、を備え、
前記歪曲手段は、電極と、該電極に接続され電圧を印加する電源装置と、を有し、
前記電極は、前記材料源から飛来する蒸着粒子が有する電荷と逆の電荷を生じる電位が印加されることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記真空容器内において前記被処理基板を戴置すると共に、所定の搬送方向に搬送する搬送機構を有することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記電極は、前記搬送方向に交差する方向を長手方向として平面視帯状に延在していることを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記搬送方向に直交する方向における前記電極の幅は、前記搬送方向に直交する方向における前記被処理基板の幅よりも長いことを特徴とする請求項2または3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記歪曲手段は、前記蒸着粒子の電荷と逆の電荷を生じる電位が印加される第1の電極と、
前記第1の電極と隣り合って配置され、前記蒸着粒子の電荷と同じ電荷を生じる電位またはグラウンド電位が印加される第2の電極と、を含む複数の前記電極を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記歪曲手段は、各々複数の前記第1の電極と前記第2の電極とが、縞状に交互に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
隣り合う前記複数の電極は、絶縁性材料を形成材料とする絶縁部材を挟持していることを特徴とする請求項5または6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記搬送方向に沿って配列する複数の歪曲手段を有し、
各々の前記歪曲手段が有する前記第1の電極および前記第2の電極は、延在方向が互いに交差する方向に設定されていることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記歪曲手段は、前記被処理基板の法線方向に設定された回転軸周りに、前記被処理基板に対して相対的に回転可能に設けられていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の成膜装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−174361(P2010−174361A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21222(P2009−21222)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】