説明

成膜装置

【課題】本発明の目的は、装置の大幅な改造を必要とせずに、所望の物理量を高精度かつ均一に有する薄膜の製造を可能にする薄膜の膜厚制御装置を提供することである。
【解決手段】成膜装置において、成膜中の薄膜の物理量を測定する物理量測定素子と、前記薄膜の物理量と所望の物理量とを比較する比較部と、前記比較部の比較結果に基づいて成膜条件及び/または成膜時間を制御する制御部とを備えることを特徴とする。これにより、所望の物理量を有する薄膜の製造において、所望の物理量を膜内に均一に有する薄膜の製造を可能とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の成膜装置に係わり、特に薄膜の膜質および膜厚の制御を行う成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の薄膜抵抗体の作成技術としては、TaやNiCrといった金属材料を、スパッタ及び蒸着等により薄膜を形成し、膜厚とともに変化するシート抵抗が所望の抵抗となるように膜厚を制御し、抵抗体を作成する技術が一般に知られている。この従来薄膜抵抗体の作成技術においては、例えばTaを任意のN2雰囲気下でスパッタリングする事により、TaをスパッタターゲットとしてTaNを成膜する反応性スパッタリングを行い、または、NiCrを使用して抵抗体を作成する場合には、Ni及びCrの元素比率を変化させる手法を取る等、所望の抵抗及びその他の物性を得るために元素構成に改良を加えることが多い。この様に抵抗体作成において、成膜の膜厚、構成元素の制御を行うことは、重要であるといえる。
【0003】
NiCr抵抗体をスパッタ法で作成する場合、一般的には予め所望の合金比率で作成されたNiCrをターゲットとして成膜を行うことになる。しかし、同一のターゲットを使用して成膜を重ねると、Ni、Crのそれぞれのスパッタリングレートの差により、成膜されたNiCrの合金比率が変化してしまう。結果として同じ膜厚のNiCr抵抗体であっても、スパッタリングターゲット取り付け直後に成膜したものとその後数回成膜した後に成膜したものとでは、抵抗値が変化してしまう現象がおきていた。これはスパッタ法のみならず、蒸着においても、また、どのような合金及び化合物を使用しても、発生する現象であり、この現象が、安定に所望の抵抗値を有する抵抗体を作成することを困難にしている。
【0004】
この問題に対し、成膜バッチ間の抵抗値の差を軽減する技術として特許文献1に開示された技術が知られている。特許文献1に開示された技術は、スパッタ法において、直前のバッチで成膜された抵抗体の抵抗値を、成膜チャンバに隣接した抵抗測定ステージ上で迅速に読み取り、成膜条件にフィードバックし、成膜条件を制御するものである。これにより、スループットも落とすことなく、製造される抵抗体の抵抗値を安定に保つことができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、成膜条件にフィードバックされる情報は、1バッチ前の成膜における情報であり、現在成膜中の薄膜に関する情報になり得ない。よって例えば、成膜中に成膜レートが大きく変動した場合、その成膜バッチで作製される薄膜の膜厚は目的膜厚とは異なるものとなり、抵抗値、電気特性も目的のものとは異なるものとなる。
【0006】
この問題に対し、成膜中の薄膜の抵抗値をモニターする技術として、特許文献2に開示された技術がある。特許文献2に開示された技術は、成膜されるサンプル上に電極を設置し、成膜中における電極間の抵抗値を経時的に読み取ることにより、目的の抵抗値に達するまで成膜し、目的の抵抗値に達した時点で成膜を終了するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−9719号公報
【特許文献2】特開平6−80498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示された技術では、薄膜の抵抗値は、目的の抵抗値を有するものが得られるが、成膜条件の制御が行われていないため、成膜される薄膜の物性分布は、例えば成膜レート変動など、成膜状況の影響を受けたものとなり、薄膜中のいずれの深さ位置においても均一な膜質を有する薄膜を形成することは難しい。このような膜質が均一でない薄膜が起こす悪影響としては、CMOSプロセスにおけるゲート電極形成プロセスが挙げられる。ゲート電極にAlを使用する場合、まずウエハ全面にAlをスパッタリングで成膜する。その後にゲート電極として残したい部分をレジストで保護し、ウエハ全面をドライエッチングすることによりゲート電極として使用される部分以外のAlを除去する工程を行う。このゲートプロセスにおいて、始めにスパッタリングで形成されるAl薄膜に、上述した様な膜質が均一ではないAl薄膜が形成されると、その後のドライエッチング時に膜質に応じたサイドエッチングが発生する。その結果、目的のゲート形状とは異なるゲート電極形状となり、トランジスタ性能の悪化、バラつきの増大などを引き起こすことになる。
【0009】
また、特許文献2に開示された技術を実施する場合には、成膜サンプルの抵抗を測定するため、サンプルに配線を行う必要があり、このためサンプルに成膜する際に、サンプルを自転または公転させることができないため、薄膜の膜厚の面内バラつきは、大きいものとなる。また、サンプルに抵抗値測定用のパターンを必要とするため、歩留まりが低下するという問題も生ずる。
【0010】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、装置の大幅な改造を必要とせずに、所望の物理量を高精度かつ均一に有する薄膜の製造を可能にする薄膜の膜厚制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、成膜装置の構成を特性の公正にする事で目的を達成できることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。すなわち、成膜チャンバ内に成膜サンプルとは別に薄膜が成膜され、成膜中薄膜の物理量を読み取る物理量測定素子と、その物理量と所望の物理量とを比較する比較部と、比較結果に基づいて成膜条件及び/または成膜時間を制御する制御部とを設けることを特徴とする。
【0012】
また、物理量は、成膜中の薄膜の抵抗値、成膜中の薄膜の電子移動度、又は成膜中の薄膜の電気容量であってもよい。また、物理量測定素子は、絶縁性基板上に2つ以上の電極を有するものとしてもよく、また、成膜中の薄膜は、2種類以上の元素からなる膜であるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所望の物理量を有する薄膜の製造において、所望の物理量を膜内に均一に有する薄膜の製造を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による成膜装置における、成膜条件の制御を行う成膜フローを示すフローチャートである。
【図2】本発明による成膜装置の一例として、EB蒸着機の構成と配置を示す図である。
【図3】本発明における物理量測定素子の構造の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、EB蒸着機を使用したNiCr(80:20)薄膜成膜を例に取り、図1、図2、図3を使用して説明する。
【0016】
図1は、本発明による成膜装置における、成膜条件の制御を行う成膜フローを示すフローチャートである。
ステップS101において、成膜レートと目標膜厚の設定を行う。ここでは、例として、成膜レートを成膜レート下限R0と成膜レート上限R1の間に設定し、膜厚をy0まで成膜を行う場合を示す。この設定内容を使用して、以降のステップにおいて比較、制御を行う。次に、ステップS102において、EB電源のエミッションを開始し、成膜が開始される。次に、ステップS103において、物理量測定素子による抵抗測定を行う。ここでは抵抗値の変化から薄膜膜厚yと膜厚変化量を算出し、経過時間との関係から成膜レートRを算出する。
【0017】
ステップS104において、算出した膜厚yと、ステップS101において設定した設定膜厚y0とを比較し、膜厚yが設定膜厚y0に達していれば、ステップS107に進み、EB蒸着は終了する。また、ステップS104において、膜厚yが設定膜厚y0に達していない場合は、ステップS105、ステップS106に進み、成膜レートRの比較を行う。
【0018】
ステップS105において、成膜レートRがステップS101において設定した成膜レート下限R0に達していない場合、ステップS108に進み、EB電源のPOWERを上げて成膜レートRが上昇される。また、ステップS105において、成膜レートRが成膜レート下限R0に達している場合には、ステップS106に進む。
【0019】
ステップS106において、成膜レートRが成膜レート上限R1以下である場合には、EB電源のPOWERは適量と判断され、ステップS109に進み、EB電源のPOWERは維持したままとなる。また、ステップS106において、成膜レートRが成膜レート上限R1より高い場合には、ステップ110に進み、EB電源のPOWERは下げられ成膜レートRが低下される。ステップS108乃至ステップS110に続いて、ステップS111に進み、ステップS111において一定時間成膜を行い、再びステップ103に進む。
【0020】
以上のように、EB電源のPOWER制御を行いながら、成膜を行うことにより、ステップS101で設定した成膜レートを維持しつつ、目的の膜厚まで成膜を行うことができ、膜質が均一な成膜を行う事が可能となる。より厳密な制御を行う場合には、R0、R1の幅を狭くし、ステップ111の成膜時間及びサイクル時間を短縮し、物理量測定素子に、高分解能の測定器を使用すればよい。また、成膜装置は、EB蒸着機だけではなく、MBE、PCVD、CVD、MOCVD、スパッタを使用してもよい。
【0021】
図2は、本発明による成膜装置の一例として、EB蒸着機200の構成と配置を示す図である。
成膜条件としては、成膜チャンバ201の真空度は、1×10-7Torrとし、サンプル204は、GaAs基板を使用した。サンプル204は、サンプル204と蒸着源202との距離を一定にするため、プラネタリホルダ208にセットした。このプラネタリホルダ208は公転を行う。蒸着源202は、NiCr(80:20)φ30mm、厚み3mmのタブレットを使用し、タングステン製のハースに充填した。
【0022】
図2において、EB蒸着機200は、物理量測定素子205を備える。物理量測定素子205は、ホルダ208上に配置する場合には、公転による配線のねじれを起こさない公転軸直下に設置する。この際、配線ケーブル206が接続される面を蒸着源202がある面とは反対に配置するように配置する。また、物理量測定素子205をホルダ208上ではなく、例えばチャンバ201内壁上に設置する場合には、物理量測定素子205は、蒸着源202からの距離が蒸着源202とサンプル204との間の距離と同じとなり、かつその距離で蒸着源202を中心に球を描いた時に、物理量測定素子205の面がその球の法線に向き、かつ配線を接続する面が蒸着源202とは反対側となるように配置する。
【0023】
このように、設置した物理量測定素子205は、チャンバ201外部の物理量計測器207に接続され、物理量測定器207によって成膜された膜の電気特性を測定する。このとき、物理量測定器207は、薄膜の抵抗を測定する機器だけでなく、例えば電子移動度や電気容量などの他の電気特性を測定する機器であってもよい。また、物理量測定器207の分解能が高いほど、成膜制御性が高くなるため、分解能が高い物理量測定器を使用することが望ましい。
【0024】
図3は、本発明における物理量測定素子の構造の詳細を示す図である。図3aは、物理量測定素子の上面図を示す。
図3aにおいて、物理量測定素子の構造として具体的には3cm×5cm、厚み3mmのガラス板301の両端5mmの部分に金を蒸着し電極302としたものを使用する。ただしこの寸法、材質には決まりはなく、絶縁性平板上に電極を備えたものなら何でも良い。
【0025】
図3bは、配線ケーブル303により物理量測定素子と物理量計測器とを接続した場合の側面図を示す。図3bにおいて、物理量測定素子は、背面の電極部302において測定器に接続する為の配線ケーブル303と接続する。
【0026】
図3cは、配線ケーブル303で物理量測定素子と物理量計測器とを接続する別の形態の側面図を示す。図3cにおいて、物理量測定素子の電極は、コネクタ形状306とし、さらにチャンバ内壁304に、物理量計測器と電気的に接続されたソケット部305を設ける。物理量測定素子の電極コネクタ306をチャンバ内壁のソケット部305に装着できる構造とすることにより、物理量測定素子を再現性良く設置でき、取り外しが容易で使い勝手が良い形状とすることができる。
【0027】
図3dは、成膜を行い、物理量測定素子に薄膜が成膜された様子を示す側面図である。物理量測定素子は、使い捨てとし、成膜バッチごとに新たなものを調製することが望ましいが、例えば、PCVDで成膜する場合に、使用した物理量測定素子について、その物理量測定素子に成膜された薄膜307を同じPCVDでプラズマエッチングし、薄膜307を剥離する構成とすることもできる。この場合には、物理量測定素子は、成膜バッチごとに取り替える必要がなくなる。また、この場合、成膜装置と薄膜を除去する装置は、必ずしも同一とする必要はなく、別の装置とすることも可能である。
【0028】
また、物理量測定素子の電極数、配置については、4端子等の多端子構造に改良することができる。この場合には、4端子測定等の、より精度の高い成膜制御を行うことができる。さらに、電極に磁場を発生させる機構を物理量測定素子近傍に備えることにより、ホール測定、ファン・デア・ポー測定を行うことができ、これにより確認できる測定パラメータを使用して成膜制御を行う事も可能である。
【符号の説明】
【0029】
201 成膜チャンバ
202 蒸着ハース
203 飛行金属粒子
204 GaAsウエハ
205 物理量測定素子
206 配線ケーブル
207 物理量計測器
301 ガラス板
302 金電極
303 配線ケーブル
304 チャンバ内壁
305 ソケット
306 コネクタ
307 成膜された薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜中の薄膜の物理量を測定する物理量測定素子と、
前記薄膜の物理量と所望の物理量とを比較する比較部と、
前記比較部の比較結果に基づいて成膜条件及び/または成膜時間を制御する制御部と
を備えることを特徴とした成膜装置。
【請求項2】
前記物理量は、成膜中の薄膜の抵抗値であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記物理量は、成膜中の薄膜の電子移動度であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記物理量は、成膜中の薄膜の電気容量であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記物理量測定素子は、絶縁性基板上に2つ以上の電極を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記成膜中の薄膜は、2種類以上の元素からなる膜であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−236040(P2010−236040A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86341(P2009−86341)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】