説明

手切れ性、ひねり性の優れたポリエステル系樹脂フィルムおよびその製造方法。

【課題】 耐熱性、耐寒性、防湿性、透明性、保香性等を失うことなく、良好な引き裂き性とひねり性を具備した、包装用フィルムやテープ用フィルムとして、或いはスティック包装やPTP包装、薬袋、又は折りたたみ包装や蓋材、飲料のパックの開封口として有用なポリエステル延伸フィルムを安価に提供するもの。
【解決手段】 2種類以上の融点或いは融解温度の異なるポリエステル樹脂原料を混合、押出してフィルムを作成する方法に於いて、それぞれの原料を別々の押出機に投入し、溶融した後に、溶融状態のまま、1つの混合装置に供給し、混合、押出することにより得られるシートを少なくとも一軸方向に延伸後、 最も融点或いは融解温度の低い樹脂原料の、融点或いは融解温度より3℃低い温度以上で熱処理することを特徴とする手切れ性、ひねり性の優れたポリエステル系樹脂フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は易引き裂き性及び易折り曲げ性ポリエステルフィルムに関する。更に詳しくは、ポリエステル延伸フィルムの優れた特性である強度、耐熱性、保香性、耐水性等を失うことなく実用面の特性を維持し、良好な手切れ性と折り曲げ性、ひねり固定性を具備した包装用フィルムとして有用なポリエステル延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、手切れ性やひねり性の優れたフィルムとしては、セロハンが知られている。セロハンは、その優れた透明性と易切断性、ひねり性等の特性により各種包装材料、粘着テープ用として重用されている。しかしセロハンは吸湿性を有する為、特性が季節により変動し一定の品質のものを常に供給することは困難であった。
【0003】
或いは、包装用袋としては、延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムが用いられており、強靱性、耐熱性、耐水性、透明性などの優れた特性を有しているが、これらの優れた特性を有する反面、易引き裂き性や折り曲げ性やひねり性が無くこれらの包装に用いることができないという欠点があった。
【0004】
上記の問題点である易引き裂き性や折り曲げ性を改良する方法として、ポリエステル樹脂層(A)の少なくとも片面に、ポリエステル樹脂層(A)の融点よりも10℃以上高い融点を有し、かつ全厚みに対し、5%以上、60%以下の厚みのポリエステル樹脂層(B)を積層した未延伸積層フィルムを少なくとも一軸延伸後にポリエステル樹脂層(A)の融点より10℃低い温度以上、かつポリエステル樹脂層(B)の融点未満の温度で熱処理することを特徴とする引き裂き性とひねり性の良好なポリエステルフィルムの製造方法が提案されている。
【特許文献1】特許第3561919号公報
【0005】
しかしながら、ポリエステル樹脂層(A)の少なくとも片面に、ポリエステル樹脂層(A)の融点よりも10℃以上高い融点を有し、かつ全厚みに対し、5%以上、60%以下の厚みのポリエステル樹脂層(B)を積層した未延伸積層フィルムを少なくとも一軸延伸後にポリエステル樹脂層(A)の融点より10℃低い温度以上、かつポリエステル樹脂層(B)の融点未満の温度で熱処理する方法では、融点の高いポリエステル樹脂層(B)の影響により充分な易引き裂き性、易折り曲げ性が得られないことがあり、易引き裂き性や易折り曲げ性を得る為にポリエステル樹脂層(B)の厚みを薄くすると、引き裂き性やひねり性は充分であるものの、ひねり包装の際に引きちぎられたりして、易開封包装とひねり包装の両方に用いることは困難であった。
【0006】
或いは、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との混合物からなるポリエステルフィルムであって、ポリエステル樹脂(A)の酸成分が主としてテレフタル酸、ジオール成分が主としてエチレングリコールであり、ポリエステル樹脂(B)の酸成分が主としてテレフタル酸であり、ジオール成分としてシクロヘキサンジメタノールを含有し、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との質量比A/Bが、95/5〜30/70であることを特徴とする手切れ性に優れたポリエステルフィルムが提案されている。
【特許文献2】特開2003−155403
【0007】
しかしながら、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との混合物からなるポリエステルフィルムであって、ポリエステル樹脂(A)の酸成分が主としてテレフタル酸、ジオール成分が主としてエチレングリコールであり、ポリエステル樹脂(B)の酸成分が主としてテレフタル酸であり、ジオール成分としてシクロヘキサンジメタノールを含有し、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との質量比A/Bが、95/5〜30/70であることを特徴とする手切れ性に優れたポリエステルフィルムは、手切れ性は優れているものの易折り曲げ性を有しておらず、セロファンの代替品として用いることは困難であった。
【0008】
また、ポリエステルの優れた強度、耐熱性、保香性等を保持させるには適度な結晶性を有することが必要となり、そのためには、エステル交換反応による異なるポリエステルの共重合化を防ぐ必要がある。
【0009】
そのため、このような2種類のポリエステル樹脂の混合からなるフィルムにすることにおいては、たとえば樹脂の溶融温度や滞留時間によって樹脂混合物にかかる熱量を下げるような工夫が必要となる。
【0010】
更に、酸成分が主としてテレフタル酸、ジオール成分が主としてエチレングリコールからなるポリエステル樹脂(A)と、酸成分が主としてテレフタル酸であり、ジオール成分としてシクロヘキサンジメタノールを含有するポリエステル樹脂(B)の混合物は、押出機の温度は生産の安定性などを考慮し、ポリエステル樹脂(A)の融点以上に設定される。この際、融解温度の低いポリエステル樹脂(B)は分解しやすいようであり、分子量がより小さくなる傾向にある。その結果、ポリエステル樹脂(A)との相溶性が向上し、より均一化の方向に進みやすくなり、本来の構成である、酸成分が主としてテレフタル酸、ジオール成分が主としてエチレングリコールからなるポリエステル樹脂(A)と、酸成分が主としてテレフタル酸であり、ジオール成分としてシクロヘキサンジメタノールを含有するポリエステル樹脂(B)との混合物ではなく、ポリエステル樹脂(A)由来のテレフタル酸とエチレングリコール、及びポリエステル樹脂(B)由来のテレフタル酸とシクロヘキサンジメタノールの共重合物となる為に、安定した品質を得ることが困難であった。
【0011】
特に、工業的にポリエステルフィルムを製造する場合、テンター延伸機により生じた掴み代部分や、製品を巻き取る際に生じた端部分を回収原料として用いることは必須である。回収原料を造粒する際にはこれら混合物からなるフィルムを粉砕し、再度溶融して造粒する方法が用いられることが多い。
【0012】
このような、フィルムを再度溶融、混練する造粒工程に於いて、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との混合物からなるポリエステルフィルムであって、ポリエステル樹脂(A)の酸成分が主としてテレフタル酸、ジオール成分が主としてエチレングリコールであり、ポリエステル樹脂(B)の酸成分が主としてテレフタル酸であり、ジオール成分としてシクロヘキサンジメタノールを含有し、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との質量比A/Bが、95/5〜30/70であることを特徴とする手切れ性に優れたフィルムは、融解温度の低いポリエステル樹脂(B)の分解がさらに進行し、ポリエステル樹脂(A)との相溶性がなお一層向上し、ポリエステル樹脂(A)由来のテレフタル酸とエチレングリコール、及びポリエステル樹脂(B)由来のテレフタル酸とシクロヘキサンジメタノールの共重合物となる為に、安定した品質を得ることが困難であった。
【0013】
また、このような回収原料を用いない場合、販売価格に於いて競争力のない商品とならざるを得ず、工業的に成り立つものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、特に易折り曲げ性、ひねり性に注目し、紙のように折り曲げられるという特性を有し、且つポリエステルフィルムの優れた特性である強度、耐熱性、防湿性、透明性、保香性等を合わせて有するフィルムを工業的に安定的に得ることを目的として研究しこれを達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決する為、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、2種類以上の融点或いは融解温度の異なるポリエステル樹脂原料を混合、押出してフィルムを作成する方法に於いて、それぞれの原料を別々の押出機に投入し、溶融した後に、溶融状態のまま、1つの混合装置に供給し、混合、押出することにより得られるシートを少なくとも一軸方向に延伸後、最も融点或いは融解温度の低い樹脂原料の、融点或いは融解温度より3℃低い温度以上で熱処理することを特徴とするポリエステル系樹脂フィルムの製造方法である。
【0016】
この場合において、前記フィルムにおける熱処理温度より3℃高い温度以下の融点の樹脂の割合が20重量%以上65重量%以下であることが好適である。
【0017】
また、この場合において、前記フィルムにおける最も高い融点を有する樹脂の融点が245℃以上であることが好適である。
【0018】
さらにまた、この場合において、前記最も融点の高い樹脂と、最も融点或いは融解温度の低い樹脂の、融解温度差が15℃以上であることが好適である。
【0019】
さらにまた、この場合において、前記フィルムが手切れ性、ひねり性に優れることが好適である。
【0020】
また、もう一つの本発明は、2種類以上の融点或いは融解温度の異なるポリエステル樹脂原料を混合、押出してフィルムを作成する方法に於いて、それぞれの原料を別々の押出機に投入し、溶融した後に、溶融状態のまま、1つの混合装置に供給し、混合、押出することにより得られるシートを少なくとも一軸方向に延伸することによって得られ、かつ突刺し強度が8.0N以下であることを特徴とする易引裂き性2軸延伸ポリエステルフィルムである。
【0021】
この場合において、前記フィルムの熱処理温度より3℃高い温度以下の融点の樹脂の割合が20重量%以上65重量%以下であることが好適である。
【0022】
また、この場合において、前記フィルムにおける熱処理温度より3℃高い温度以下の融点の樹脂の割合が20重量%以上65重量%以下であることが好適である。
【0023】
また、この場合において、前記フィルムにおける最も高い融点を有する樹脂の融点が245℃以上であることが好適である。
【0024】
さらにまた、この場合において、前記最も融点の高い樹脂と、最も融点或いは融解温度の低い樹脂の、融解温度差が15℃以上であることが好適である。
【0025】
さらにまた、この場合において、前記フィルムが手切れ性、ひねり性に優れることが好適である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によるポリエステル系樹脂フィルムは、耐熱性、耐寒性、防湿性、透明性、保香性等のポリエステル本来の特性を有しながらも、易引き裂き性、易折り曲げ性に優れた積層フィルムである。易開封性が改善されることにより、包装袋にノッチを設けることも無く、また鋏等を用いる事も無く任意の位置から開封する事が可能となる。さらに、易折り曲げ性が優れることにより、チョコレート、キャンディ、ガム等の折り曲げ包装やひねり包装に好適に使用できるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に於いて用いられるフィルムの製造方法は、2種類以上の融点或いは融解温度の異なるポリエステル樹脂原料を混合、押出してフィルムを作成する方法に於いて、それぞれの原料を別々の押出機に投入し、溶融した後に、溶融状態のまま、1つの混合装置に供給し、混合、押出することにより得られることを特徴とするものである。
【0028】
本発明に用いられるポリエステル樹脂は、高融点側のポリエステル樹脂としては例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、あるいはそれらの構成成分を主成分とする共重合体等が挙げられ、例えば共重合体としての酸成分として、イソフタル酸、ナフタレン酸、セバシン酸、アジピン酸、ダイマー酸など、グリコール成分としてはトリメチレングリコール(プロピレングリコール)、ブタンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサノンジメタノール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等が用いられる。また、ランダム重合樹脂、ブロック重合樹脂など設計に応じて使用することができる。
【0029】
本発明に於いて、高融点側のポリエステル樹脂の融点は、フィルムの耐熱性、剛性、防湿性、透明性を保持する為には融点が245℃以上であることが好ましく、更に好ましくは250℃以上である。
【0030】
高融点側のポリエステル樹脂の融点が245℃未満の場合、フィルムの耐熱性、例えば加工時に変形したり、溶融したりして不具合が生じる。
【0031】
本発明に於いて、低融点、或いは低融解温度のポリエステル樹脂としては、酸成分としてテレフタル酸、グリコール成分としてエチレングリコールを主成分とし、例えば酸成分として、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、ダイマー酸など、或いはグリコール成分としては、トリメチレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサノンジメタノール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等を共重合して得られるポリエステル樹脂が用いられる。また、ランダム重合樹脂、ブロック重合樹脂など設計に応じて使用することができる。
【0032】
本発明に於ける低融点、或いは低融解温度のポリエステル樹脂の融点、或いは融解温度は、本発明に用いられる最も高い融点を有するポリエステル樹脂の融点より15℃以上低いことが好ましく、さらに好ましくは20℃以上低いことである。
【0033】
また、本発明に用いられるポリエステル樹脂のガラス転移温度は65℃以上が好ましく、更に好ましくは70℃以上である。
【0034】
本発明において用いられるポリエステル樹脂は、溶融重縮合反応、あるいは引き続いて固相重合されたものである。極限粘度は好ましくは0.55〜1.55であり、より好ましくは、0.58〜1.20である。極限粘度が0.55未満では、フィルムが脆くなりすぎる為フィルムとしての強度不足となり、1.55を超えるとフィルムの製膜が困難となる。
【0035】
本発明に於いては、最も融点或いは融解温度の低い樹脂原料の、融点或いは融解温度より3℃低い温度以上で熱処理することができ、より好ましくは融点或いは融解温度以上の温度で熱処理することである。
【0036】
本発明に於いては、少なくとも2種類の融解温度の異なるポリエステル樹脂が層状或いは粒状に分散してなる構成をしており、少なくとも一軸延伸後にそれらのポリエステル樹脂の内、最も融点或いは融解温度の低い樹脂原料の、融点或いは融解温度より3℃低い温度以上で熱処理することにより該樹脂原料が溶融することで延伸の配向が消失し、本発明の目的である手切れ性、ひねり性が発現すると考えられる。
また、このような構造を有するフィルムは下記の方法で測定される突刺し強度が8.0N以下であることがわかった。突き刺し強度は、6.5N以下が好ましく、さらに5.5N以下が好ましく、特に4.5N以下が好ましい。
「突刺し強度」の測定法は以下の通り。
長手方向200mm、幅方向20mmの試料を切出す。引張試験機(島津製作所社製オートグラフAGC−1KNG型)を用い、図1(a)に示す測定用治具の上端部を図1(b)に示すように、引張り試験器の上側チャックに挟持する。一方、試料を長手方向に二つ折にして100mm×20mmとし、折り目部分を図1(a)に示す測定用治具の中央部棒状体の先端0.7mmφの鋼球に当て、二つ折試料の反対側端部を測定用治具の下方で突刺し棒先端からの距離が50mmになる位置で下側チャックに挟む。ついで、試料試料の二つ折部が棒状体先端の直径0.7mmの鋼球に突刺さるように、50mm/minの速度にてチャックを引張り、突刺して試料に穴が開いときの荷重を求めた。測定はn=5でおこない、最高値と最低値を除いた3点の平均値とした。
【0037】
本発明に於いては、熱処理温度より3℃高い温度以下の融点の樹脂の割合が20重量%以上65重量%以下とすることができ、好ましくは25重量%以上50重量%以下、更に好ましくは30重量%以上45重量%以下である。
【0038】
本発明に於いて、熱処理温度より3℃高い温度以下の融点の樹脂の割合が20重量%未満の場合、配向消失の影響が小さく、手切れ性、ひねり性を得ることができない。また、65重量%を超える場合、ポリエステルフィルムの特徴である強靱性、耐熱性、バリア性を得ることが困難となるばかりか、熱処理工程でフィルム溶融が発生し、フィルム生産が困難となる。
【0039】
通常、2種類以上のポリエステル樹脂を使用して、フィルムを作成する場合、両者の混合状態を制御する必要がある。例えば本発明のような手切れ性やひねり性を有するポリエステル系樹脂フィルムの場合、フィルムの強靭さと脆さや切れ性、或いは弾性とデッドホールド性という相反する特性を両立しなければならない。その為に、結晶化速度および結晶化度を制御するため、高融点側のポリエステルと低融点側のポリエステルが共重合しないように両者のエステル交換反応を抑制する必要がある。
【0040】
高融点側のポリエステルと低融点側のポリエステルとの間でエステル交換反応が生成すると、高融点側のポリエステルと低融点側のポリエステルの共重合体が生成することになり、高融点側のポリエステルの主成分構造であるエチレンテレフタレート構造がランダム化し、その特徴である剛直性が損なわれ、一方、生成した共重合体は構造、分子量がランダムである為、剛性が低く、本発明の特徴である熱処理温度との関係が不明であることから、手切れ性、ひねり性の発現が不安定なものとなる。
【0041】
また、レベルの高い加工適性と意匠性を考慮した場合は、エステル交換反応の抑制だけでは満足しない。その理由としては以下の現象であると推測している。エステル交換反応を抑制した場に於いても、例えばポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)中にポリ−テレフタル酸−エチレングリコール−ネオペンチルグリコール共重合体(以下CHDM共重合体と略す)がより細かく分散、或いは相溶した場合には、PETとCHDM共重合体とでエステル交換反応が生じ、結晶化が遅くなる部分が生じ、白化しやすいようである。その為には、PETとCHDM共重合体との分散かつ/または相溶性を低くする、つまり粗い混ざりにすることが好ましいようである。
【0042】
よって上記の点を満足するために、本発明においては、以下のような製造方法をとることが好ましい。
【0043】
製造方法としては、2種類以上の融点或いは融解温度の異なるポリエステル樹脂原料をそれぞれの適温(融点以上、融点+30℃以下)で溶融することができる点から、ポリエステル樹脂原料をそれぞれ別々の押出機に投入し、溶融したそれぞれのポリエステルをダイから押出す前に混合してダイに導き、混合、押出する方法である。
【0044】
通常のポリエステルフィルムの製造において、単一の層を構成する材料は単一の押出機に投入し、溶融、押出されフィルムが成形される。従来の技術の項で例示した特許においても、2種類以上の異なる材料を用いているが押出機は単一の押出機を使用している。これは、従来の技術による製膜時の安定性および経済性を考慮した結果と推察される。そのため、より高い品質のフィルムは困難であったようである。しかし、後で述べる方法を採ることにより、製膜の安定性を維持しつつ、品質の向上したフィルムが得られることがわかった。
【0045】
この方法が品質性、生産性によい理由は、以下のとおりと推察する。例えば、通常用いられている方法である一軸または二軸スクリューを有する単一の押出機のみを使用してPET(融点255℃)とCHDM共重合体(融解温度約180℃)を混合してフィルムを作成する場合では、両者の融点の差が70℃以上あることから、両者を樹脂チップの段階からブレンドすると押出機の温度は、PETの融点以上に設定する必要がある。通常は、生産の安定性などを考慮し280℃以上に設定されている。CHDM共重合体はPETに比べ分解速度が速い為、押し出しは低温で行なうことが好ましいが、融点の高いPETの溶融条件に合わせざるを得ず、CHDM共重合体の分子量の低下が生じたり、低分子量物が生成したりする。
【0046】
その結果、PETとCHDM共重合体との相溶性が向上し、より均一化の方向に進むため、共重合化しやすくなり、また例え両ポリエステルが共重合化せず、独立に近い状態と示唆される結晶性を有していても、均一化の影響を受けるためか、より高いレベルでの結晶性の独立性が維持されず、ポリエステルフィルムの特徴である、強靱性、耐熱性が悪化したと推察された。
【0047】
本発明に於いて、それぞれ溶融したポリエステル樹脂を混合する機台としては、通常の一軸押出機、二軸押出機、ダイナミックミキサー、スタティックミキサーなどが挙げられる。特に別々に溶融した樹脂を混合する場合は、あまり両者が均一に混合、相溶しないように、通常の一軸や二軸押出機を使用する場合は、圧縮比の小さいもの、押出機スクリュー全体および圧縮部のL/Dが小さいものが求められる。
【0048】
スタティックミキサーはたとえばノリタケカンパニー製のように、樹脂流路に長方形の板を180度ねじった形のエレメントを交互に繰り返し配列させたもので、このエレメントをひとつ通過するごとに層数が2倍になる。よって論理上は、n個のエレメントを通過すると2n層になるが、実際には流路径、吐出量および各樹脂の粘度や表面張力などの関係で変化することもある。本発明においては、少なくともフィルムの厚み方向での中央部、2μm厚みの領域の層数が、5層以上、好ましくは50層以上であることが好ましい。
【0049】
この混合工程において、より最適な分散度を得るために、スタティックミキサーを用いることが好ましい。スタティックミキサーのエレメント数を8以上32以下とすることが好ましく、12以上28以下とすることがより好ましい。
【0050】
このようなエレメント数のスタティックミキサーを用いることによって、適度に粗い分散度が得られやすく、白化が生じることなく、突き刺し強度にも優れ、且つへき開の問題も起こらない良好なフィルムが得られる。
【0051】
本発明において、それぞれの押し出し機に供給されるポリエステル原料は単一原料であっても、混合物であってもよい。また、二酸化珪素、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、テレフタル酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、シリコーン粒子、必要に応じて、安定剤、着色剤、酸化防止剤、消泡剤、帯電防止剤、等の添加剤を含有させることができる。また混合物であっても、各原料の主成分が60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上が単一原料であることが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により具体的に説明する。尚、実施例におけるポリエステルの各特性値は、次のようにして測定した。
【0053】
1.極限粘度(dl/g)
ポリマー0.125gをフェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)25mlに溶解しウベローデ粘度管を用いて25℃で測定した。
【0054】
2.ガラス転移温度(℃)
島津製作所社製DSC−60型示差走査熱量計を用いて、試料約5.0mgを調製し、30℃〜280℃の範囲を10℃/minの昇温速度で測定しDSC曲線を得た。それよりガラス転移の変極点を読み取った。
【0055】
3.融点(℃)
島津製作所社製DSC−60型示差走査熱量計を用いて、試料約5.0mgを調製し、30℃〜280℃の範囲を10℃/minの昇温速度で測定しDSC曲線を得た。それより融解ピークを読み取った。或いは、融点が確認されない樹脂については、JIS−K7206「ビカット軟化温度測定」に準じて測定し、軟化温度とした。
【0056】
4.手切れ性
官能テストで行い、当該ポリエステルフィルム/エステル系接着剤/9μmアルミニウム箔/15μm押出しLDPEとラミネートして積層体を作成した後、ヒートシールにて製袋し、シール部分を手で切断した時の開封性で評価した。尚、袋を両手で持つ際には、3mm程度の間隔を持ち、長手方向、幅方向の両方で行った。
○:爪を立てることなく容易に開封できる
△:爪を立てることで容易に開封できる
×:爪を立てても容易に開封できない
【0057】
5.折り曲げ性:サンプル全幅を3等分した後、それぞれの位置の中央部分からn=2ずつ、フィルムの長手方向に60mm、幅方向に10mmの測定用サンプルを採取し、ガラス板の上にシリコンシートを敷いた上で、端から20mmのところで180度折り曲げ、折り曲げた部分に0.5Kg/cm2となるように10秒間荷重を掛け、取り除いて30
秒後の回復角度を読み取った。この角度が小さいほど折り曲げ性に優れており、紙の測定値は20度であった。
◎:回復角度 30度未満
○:回復角度 30度以上 50度未満
△:回復角度 50度以上、70度未満
×:回復角度 70度以上
【0058】
6.耐熱性
サンプル全幅を3等分した後、それぞれの位置の中央部分から、フィルムの長手方向に250mm、幅方向に10mmのサンプルを切り出し、200mm間隔で印をつけ、5gの一定張力で間隔Aを測る。続いて、150℃の雰囲気中のオーブンに無荷重で30分間放置した。オーブンから取り出し室温まで冷却後に、5gの一定張力で間隔Bを求め、以下の式によりそれぞれの熱収縮率を求め、それらの平均値を得た。
熱収縮率=(A−B)/A×100(%)
○:熱収縮率 3%未満
△:熱収縮率 3%以上、5%未満
×:熱収縮率 5%以上
【0059】
7.突刺し強度
長手方向200mm、幅方向20mmの試料を切出す。引張試験機(島津製作所社製オートグラフAGC−1KNG型)を用い、図1(a)に示す測定用治具の上端部を図1(b)に示すように、引張り試験器の上側チャックに挟持する。一方、試料を長手方向に二つ折にして100mm×20mmとし、折り目部分を図1(a)に示す測定用治具の中央部棒状体の先端0.7mmφの鋼球に当て、二つ折試料の反対側端部を測定用治具の下方で突刺し棒先端からの距離が50mmになる位置で下側チャックに挟む。ついで、試料試料の二つ折部が棒状体先端の直径0.7mmの鋼球に突刺さるように、50mm/minの速度にてチャックを引張り、突刺して試料に穴が開いときの荷重を求めた。測定はn=5でおこない、最高値と最低値を除いた3点の平均値とした。
【0060】
(実施例1)
1:リサイクルペレット(1)の作成
ポリエステル樹脂(A)として、予め二酸化珪素(富士シリシア製 サイリシア310)を2000ppm重合時に添加したポリエチレンテレフタレート樹脂(極限粘度0.62、融点255℃、東洋紡績社製 RE554)を用い、60mmφ押出機(I)に投入し、285℃で溶融した。
【0061】
またポリエステル樹脂(B)としてシクロヘンサンジメタノールを30mol%含有するテレフタル酸−エチレングリコール−シクロヘンサンジメタノール共重合体(極限粘度0.75、樹脂の軟化温度180℃、東洋紡績社製 FP301)を別の60mmφ押出機(II)に投入し、250℃で溶融した。
【0062】
その後に押出機(I)および押出機(II)のそれぞれの吐出比を重量比で(I)/(II)=65/35となるように溶融状態のまま90mmφ押出機(III)に導き混合し、26
5℃にてT−ダイから押出し、厚さ300μmの未延伸シートを得た。
【0063】
得られた未延伸シートを粉砕し、45mmφ二軸押し出し機を用いて285℃にてストランド状に押し出し、水冷後カットしてリサイクルペレット(1)を得た。
【0064】
2:フィルムの作成
ポリエステル樹脂Aを60mmφ押出機(I)に投入し、285℃で溶融した。
【0065】
またポリエステル樹脂(B)と前述のリサイクルペレット(1)を重量比で(B)/(1)=55/45となるように調整し、60mmφ押出機(II)に投入し、260℃で溶融した。
【0066】
その後に押出機(I)および押出機(II)のそれぞれの吐出比を重量比で(I)/(II)=45.5/54.5となるように溶融状態のまま260℃にて90mmφ押出機(III)に導き混合し、T−ダイから押出し、厚さ235μmの未延伸シートを得た。
【0067】
この未延伸シートを、ロール延伸機に導き、縦方向に95℃で3.5倍に延伸し、さらにテンターにて横方向に105℃で4.2倍に延伸し、そのままテンター内で横方向に3%緩和しながら220℃で熱固定を行うことにより、厚さ16μmのフィルムを得た。特性値を表1に示す。
【0068】
(実施例2)
実施例1において押出機(III)の替わりにスタティックミキサー(エレメント数12、シリンダ温度260℃)とした以外は同様の方法においてリサイクルペレット及びフィルムを得た。
【0069】
(実施例3)
実施例1に於いて、ポリエステル樹脂(B)に替えてポリエステル樹脂(C)として、イソフタル酸を15mol%含有するテレフタル酸−イソフタル酸−エチレングリコール共重合体(極限粘度0.67、融点217℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、リサイクルペレット、及びフィルムを得た。
【0070】
(比較例1)
実施例1におけるポリエステル樹脂(A)および(B)を重量比にて(A)/(B)=65/35に調整し、押出機(I)にペレットで投入し、285℃でT−ダイから押出し
、厚さ300μmの未延伸シートを得た。
【0071】
得られた未延伸シートを粉砕し、45mmφ二軸押し出し機を用いて285℃にてストランド状に押し出し、水冷後カットしてリサイクルペレット(2)を得た。
【0072】
またポリエステル樹脂(A)、(B)と前述のリサイクルペレット(2)を重量比で(A)/(B)/(2)=45.5/24.5/30となるように調整し、押出機(I)に投入し、285℃で溶融し、T−ダイから押出し、厚さ235μmの未延伸シートを得た。
【0073】
得られたシートを用い、実施例1と同様にして厚さ16μmのフィルムを得た。特性値を表1に示す。
【0074】
(比較例2)
実施例1の熱固定温度を180℃とした以外は実施例1と同様にして、厚さ16μmのフィルムを得た。特性値を表1に示す。
【0075】
(比較例3)
実施例1と同様に押し出し機(I)、(II)、(III)を用い、押出機(I)および押出機(II)のそれぞれの吐出比を重量比で(I)/(II)=90/10となるように吐出し、溶融状態のまま260℃にて押出機(III)にて混合した未延伸シートを用いてリサイクルペレット(3)を作成した。
【0076】
次いで、ポリエステル樹脂(A)を60mmφ押出機(I)に投入し、285℃で溶融
した。
【0077】
またポリエステル樹脂(B)と前述のリサイクルペレット(3)を重量比で(B)/(1)=74/26となるように調整し、60mmφ押出機(II)に投入し、260℃で溶融した。
【0078】
その後に押出機(I)および押出機(II)のそれぞれの吐出比を重量比で(I)/(II)=59.5/40.5となるように溶融状態のまま260℃にて押出機(III)に導き混合し、T−ダイから押出し、厚さ235μmの未延伸シートを得た。
【0079】
得られたシートを用い、実施例1と同様にして厚さ16μmのフィルムを得た。特性値を表1に示す。
【0080】
(比較例4)
実施例1と同様に押し出し機(I)、(II)、(III)を用い、押出機(I)および押出機(II)のそれぞれの吐出比を重量比で(I)/(II)=20/80となるように吐出し、溶融状態のまま260℃にて90mmφ押出機(III)にて混合した未延伸シートを用いてリサイクルペレット(3)を作成した。
次いで、ポリエステル樹脂(A)を60mmφ押出機(I)に投入し、285℃で溶融
した。
【0081】
またポリエステル樹脂(B)と前述のリサイクルペレット(4)を重量比で(B)/(1)=35/65となるように調整し、60mmφ押出機(II)に投入し、260℃で溶融した。
【0082】
その後に押出機(I)および押出機(II)のそれぞれの吐出比を重量比で(I)/(II)=14/86となるように溶融状態のまま260℃にて押出機(III)に導き混合し、T−ダイから押出し、厚さ235μmの未延伸シートを得た。
【0083】
得られたシートを用い、実施例1と同様に延伸したところ、熱固定ゾーンで溶融し、製膜できなかった為、熱固定温度を160℃として製膜して厚さ16μmのフィルムを得た。特性値を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例1〜3、比較例1〜4より明らかなように、2種類以上の融点或いは融解温度の異なるポリエステル樹脂原料を混合、押出してフィルムを作成する方法に於いて、それぞれの原料を別々の押出機に投入し、溶融した後に、溶融状態のまま、1つの混合装置に供給し、混合、押出することにより得られるシートを少なくとも一軸方向に延伸後、 最も融点或いは融解温度の低い樹脂原料の、融点或いは融解温度より3℃低い温度以上で熱処理することを特徴とする手切れ性、ひねり性の優れたポリエステル系樹脂フィルムの製造方法により製造されたポリエステル樹脂フィルムは、優れた手切れ性とひねり性を有することが解る。また、実施例1、2、3のフィルムは突刺し強度が8.0N以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明により得られるフィルムは、易引き裂き性と優れたひねり性を有しており、易開封性を求められるスティック包装やPTP包装、薬袋に或いは、ひねり包装や折りたたみ包装、又は蓋材として幅広い分野に好適に使用でき、産業界に寄与する事が大である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】突刺し強度測定治具および突刺し強度の測定方法を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の融点或いは融解温度の異なるポリエステル樹脂原料を混合、押出してフィルムを作成する方法に於いて、それぞれの原料を別々の押出機に投入し、溶融した後に、溶融状態のまま、1つの混合装置に供給し、混合、押出することにより得られるシートを少なくとも一軸方向に延伸後、最も融点或いは融解温度の低い樹脂原料の、融点或いは融解温度より3℃低い温度以上で熱処理することを特徴とするポリエステル系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
熱処理温度より3℃高い温度以下の融点の樹脂の割合が20重量%以上65重量%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
最も高い融点を有する樹脂の融点が245℃以上であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
最も融点の高い樹脂と、最も融点或いは融解温度の低い樹脂の、融解温度差が15℃以上であることを特徴とする請求項1、2または3記載のポリエステル系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
手切れ性、ひねり性に優れる請求項1、2、3または4記載のポリエステル系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
2種類以上の融点或いは融解温度の異なるポリエステル樹脂原料を混合、押出してフィルムを作成する方法に於いて、それぞれの原料を別々の押出機に投入し、溶融した後に、溶融状態のまま、1つの混合装置に供給し、混合、押出することにより得られるシートを少なくとも一軸方向に延伸後、最も融点或いは融解温度の低い樹脂原料の、融点或いは融解温度より3℃低い温度以上で熱処理することによって得られ、かつ突刺し強度が8.0N以下であることを特徴とするポリエステル系樹脂フィルム。
【請求項7】
少なくとも一軸延伸後、最も融点或いは融解温度の低い樹脂原料の、融点或いは融解温度より3℃低い温度以上で熱処理することを特長とする請求項6に記載のポリエステル系樹脂フィルム。
【請求項8】
熱処理温度より3℃高い温度以下の融点の樹脂の割合が20重量%以上65重量%以下であることを特徴とする請求項7記載のポリエステル系樹脂フィルム。
【請求項9】
最も高い融点を有する樹脂の融点が245℃以上であることを特徴とする請求項7または8記載のポリエステル系樹脂フィルム。
【請求項10】
最も融点の高い樹脂と、最も融点或いは融解温度の低い樹脂の、融解温度差が15℃以上であることを特徴とする請求項6、7、8または9記載のポリエステル系樹脂フィルム。
【請求項11】
手切れ性、ひねり性に優れる請求項6、7、8、9または10記載のポリエステル系樹脂フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2006−182021(P2006−182021A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343328(P2005−343328)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】