説明

手動変速機の操作装置

【課題】作動シャフト25のストローク方向により「ストローク−荷重」特性を異ならせて、この特性の調整の自由度を大きくする。
【解決手段】 手動変速機の操作装置は、複数対の変速ギヤ対を切り換える少数の切換機構と、この切換機構を選択するセレクト機構と、選択された切換機構を作動させるシフト機構を備え、セレクト機構及びシフト機構の少なくとも何れか一方は軸線方向に移動する作動シャフト25を備えている。湾曲して突出し頂部に凹部31aを形成した中央部31と、その両端から平行に延びる両側部32よりなる板ばね30が設けられ、この板ばねは、作動シャフトに軸線方向の力が加えられていない状態において、作動シャフトの外周の一部から半径方向に突出して設けた突出部26に凹部31aが係合するように、その両側部の先端部がハウジング20に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手動変速機の操作装置、特に操作ストロークに対する荷重特性の調整の自由度を大きくすることができる手動変速機の操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
手動変速機においては、例えば特許文献1(特開2004−100741号公報)に示すように、ケーシング内に互いに平行に回転自在にカウンタ軸及び出力軸を設け、この両軸の間に設けた複数対の変速ギヤ対を選択的に切り換えて動力伝達を行うものがある。このような手動変速機の操作装置では、各2対の前記変速ギヤ対の間にこの両変速ギヤ対による前記両軸の間の動力伝達を選択的に切り換える複数の切換機構を設け、この複数の切換機構から何れか1つをセレクト機構により選択し、選択された切換機構をシフト機構により作動させてその両側の変速ギヤ対の何れか一方により前記両軸の間の動力伝達を行っている。
【0003】
このような操作装置としては、例えば図8に示すようなものがある。前述した各2対の変速ギヤ対を切り換える切換装置の切換シャフト(フォ−クシャフト)4は例えば3本であるが、図8では重なっているので1本だけが示されており、何れもハウジング1に軸線方向摺動自在に支持されている。切換シャフト4と直交するシフトアンドセレクトシャフト2はハウジング1に軸線方向摺動及び回動自在に支持され、その一部にはスプラインを介してインナレバー3が固定され、インナレバー3の軸線方向移動により突起部3aの先端部は各切換シャフト4に設けられたシフトピース4aのコ字形切欠きにわずかの隙間をおいて選択的に係合可能である。インナレバー3がシフトアンドセレクトシャフト2と共に回動すれば、その突起部3aが係合されたシフトピース4aの切換シャフト4は軸線方向に移動され、切換機構が作動されて、動力伝達を行う変速ギヤ対の切り換えがなされる。突起部3aと反対側となるインナレバー3の外周の一部には、中央のV形切込みとその両側の三角山形からなるカム面3bが形成されている。このカム面3bと協働してハウジング1に対するインナレバー3の回動位置を規制するデテント装置5は、筒状のケース6と、このケース6の内面に軸線方向摺動自在に支持されてスプリング9によりインナレバー3側に弾性的に付勢されたスライド部材7と、このスライド部材7の先端部に形成された凹球面に互いに距離をおいて配置された多数の小鋼球を介して回転自在に抜け止め保持されたボール8により構成されている。デテント装置5は、そのケース6をシフトアンドセレクトシャフト2の中心軸線と直交するようにハウジング1にねじ込み固定して、先端のボール8がカム面3bに弾性的に押圧されるようになっている。
【0004】
また図示は省略したが、シフトアンドセレクトシャフト2のハウジング1を回動及び摺動自在に通り抜ける部分には、軸線方向に多少の距離をおいて円周方向に延びる3個のV形のノッチが形成され、ハウジング1にはデテント装置5と同様のデテント装置が設けられ、その先端のボールが各ノッチに弾性的に弾性的に押圧されて、ハウジング1に対するシフトアンドセレクトシャフト2の軸線方向位置を規制するようになっている。この例では、手動変速レバー(図示省略)をセレクト方向及びシフト方向に移動すれば、シフトアンドセレクトシャフト2はそれぞれ軸線方向及び回動方向に移動されるように連結されている。カム面3bは、このシフトアンドセレクトシャフト2の軸線方向セレクト運動に対応するように、軸線方向に相当な長さを有している。
【0005】
次に図8の操作装置における変速レバーのストロークに対するそれに必要な荷重の特性を、図9により説明をする。ボール8がカム面3bの中央のV形切込みに係合した図示の中立状態から、変速レバーをシフト方向の一方に移動して変速ギヤを入れる場合の入りストロークでは、その方向と対応する方向にインナレバー3は回動され、デテント装置5のボール8は、先ずスプリング9の付勢力に抗してカム面3bの中央のV形切込みの一方の斜面により押し上げられるので、変速レバーをシフトストロークさせるのに必要な荷重は、先ず図9に示す変速レバーの「ストローク−荷重」特性曲線Qに沿って矢印Cに示すようにストロークの増大につれて増大し、ボール8が中央のV形切込みの一側の三角山形の頂部に達する前に減少し始め、頂部に達した位置で0となり、それを越えれば負の値となり、負の値が増大し再び減少した位置でインナレバー3がストッパ(図示省略)に当接して停止される。また、インナレバー3がストッパに当接した状態から、変速レバーを戻す方向に移動して入った変速ギヤを抜く場合の抜きストロークでは、インナレバー3は変速レバーにより入りストロークの場合と反対方向に回動され、デテント装置5のボール8はカム面3b上を入りストロークの場合と反対方向に移動するので、変速レバーのストロークに必要な荷重は、入りストロークの場合と同じ「ストローク−荷重」特性曲線Qに沿って矢印Dに示すように、反対向きに移動したものとなる。
【0006】
また前述のようにシフトアンドセレクトシャフト2に形成した3個のノッチの何れかにデテント装置のボールが係合して1つの切換機構を選択した状態から隣の切換機構に選択を移すことは、変速レバーをセレクト方向の一方に移動してシフトアンドセレクトシャフト2を軸線方向に移動することにより行うが、この切換機構を選択する場合及びこれを戻す場合の変速レバーをセレクトストロークさせるのに必要な荷重の特性は、上述したシフトの場合と同様、選択する場合と戻す場合とで同じ「ストローク−荷重」特性曲線に沿って反対向きに移動するものとなる。
【0007】
なお図8に示す従来技術では、シフトアンドセレクトシャフト2の軸線方向セレクト運動により切換シャフト4を選択し、シフトアンドセレクトシャフトの回動により切換シャフト4を軸線方向にシフト運動させて変速ギヤ対の切換を行っているが、例えば特許文献2(特開2004−108468号公報)に示すように、シフトアンドセレクトシャフト2の回動方向セレクト運動により切換シャフト4を選択し、シフトアンドセレクトシャフトの軸線方向シフト運動により切換シャフト4を作動させて変速ギヤ対の切換を行うようにしたものもある。
【0008】
また手動変速機の操作装置としては、例えば図10に示すようなものもある。この技術ではセレクトシャフト11はハウジング10に回動のみ自在に支持され、その一部にスプライン及びスプリングピン17を介して固定されたインナレバー12の突起部12aの先端部は図8のシフトピース4aと同様なセレクト部材13のコ字形切欠きにわずかの隙間をおいて常時係合されている。インナレバー12から突出する略T形のアーム部12bの外周には、互いに連結される一端部が谷部となる1対の突出した湾曲面よりなるカム面12cが形成されている。このカム面12cと協働してハウジング10に対するインナレバー12の回動位置を規制するデテント装置14は、セレクトシャフト11と直交するように配置されて一端部がハウジング10にボルト止め固定された板ばね15と、その先端部にセレクトシャフト11と平行な枢支ピン16aにより回転自在に支持されたローラ16からなり、このローラ16が板ばね15によりカム面12cに弾性的に押圧されるようになっている。この図10に示す操作装置では、セレクトシャフト11を軸線方向に移動することはできないので、シフト機構はセレクト機構とは分離されたものとなり、セレクト部材13より先の部分に設けることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−100741号公報(図1)。
【特許文献2】特開2004−108468号公報(図1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図8に示す手動変速機の操作装置では、セレクト機構とシフト機構が一体化されるので、部品点数の削減及び軽量化が達成され、また省スペース及び取付位置の自由化等の効果が得られる。また、V形切込みとその両側の三角山形からなるカム面3bの各傾斜面の角度を変えることにより変速レバーを操作する場合のシフトフィーリングを調整することもある程度は可能である。しかしボール8の径に比してカム面3bの各傾斜面の長さが小さいので各傾斜面を湾曲させてシフトフィーリングを調整することはできず、またセレクトまたはシフトを入れる場合と抜く場合の特性を異ならせることはできないので、シフトフィーリングの調整の自由度が少ないという問題がある。
【0011】
また図10に示す手動変速機の操作装置では、ローラ16の径に比してカム面12cの各傾斜面の長さが大きいので各傾斜面の形状を変えることによりシフトフィーリングを調整することが可能となる。しかしセレクトまたはシフトを入れる場合と抜く場合の特性を異ならせることはできないので、シフトフィーリングの調整の自由度を充分に広いものとすることはできない。
【0012】
本発明はセレクトまたはシフトを入れる場合と抜く場合の特性を異ならせることを可能として操作ストロークに対する荷重特性の調整の自由度を大きくして、このような問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このために、請求項1の発明による手動変速機の操作装置は、ケーシング内に互いに平行に回転自在に支持されたカウンタ軸及び出力軸と、この両軸の間で動力伝達を行う複数対の変速ギヤ対と、各2対の変速ギヤ対の間に設けられてこの両変速ギヤ対による両軸の間の動力伝達を選択的に切り換える少数の切換機構と、この少数の切換機構から何れか1つを選択するセレクト機構と、選択された切換機構を作動させてそれの両側の両変速ギヤ対の何れか一方により両軸の間の動力伝達を行うようにするシフト機構を備えてなる手動変速機の操作装置において、セレクト機構及びシフト機構の少なくとも何れか一方は軸線方向に移動する作動シャフトを備えたものとし、ばね材よりなる帯板の中央部を湾曲して突出させ、その両側部を突出側とは反対向きに互いに平行に延出させるとともに、中央部の頂部を屈曲させて凹部を形成した板ばねをさらに備え、板ばねは、作動シャフトに軸線方向の力が加えられていない状態において、作動シャフトの外周の一部から半径方向に突出して設けた突出部に凹部が係合するように、その両側部の先端部をハウジングに固定したことを特徴とするものである。
【0014】
請求項1に記載の手動変速機の操作装置において、板ばねは複数として作動シャフトの軸線方向から見て点対称に配置し、作動シャフトの突出部は各板ばねの凹部と対応する作動シャフトの外周の各位置に突出して設けることが好ましい。
【0015】
請求項1または請求項2に記載の手動変速機の操作装置において、突出部は作動シャフトと同軸的な回転体とし作動シャフトの全外周に突出して形成することが好ましい。
【0016】
請求項1または請求項2に記載の手動変速機の操作装置において、突出部は作動シャフトの中心軸線から離れた位置に同中心軸線と直交して設けた枢支ピンにより回転自在に支持されたローラを備えたものとすることが好ましい。
【0017】
前各項に記載の手動変速機の操作装置において、ハウジングには半径方向に距離をおいて作動シャフトを囲む筒状の保持部材を設け、各板ばねは保持部材に取り付けることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、セレクト機構及びシフト機構の少なくとも何れか一方は軸線方向に移動する作動シャフトを備えたものとし、ばね材よりなる帯板の中央部を湾曲して突出させ、その両側部を突出側とは反対向きに互いに平行に延出させるとともに、中央部の頂部を屈曲させて凹部を形成した板ばねをさらに備え、板ばねは、作動シャフトに軸線方向の力が加えられていない状態において、作動シャフトの外周の一部から半径方向に突出して設けた突出部に凹部が係合するように、その両側部の先端部をハウジングに固定したので、突出部が板ばねの凹部に係合された作動シャフトに軸線方向の力を加えて軸線方向外向きにストロークさせれば、作動シャフトの突出部は、板ばねの中央部を押し上げると共に、中央部との間に作用する摩擦力によりその両側部を撓ませて中央部をそのストローク方向にも変位させる。これにより作動シャフトのストロークに対する荷重の特性は、中央部がストローク方向に変位しない場合に対してストローク方向にずれたものとなり、このストロークは突出部が凹部から完全に離脱してある程度離れた位置で停止される。
【0019】
このように停止した位置から作動シャフトに逆向きの力を加えて軸線方向内向きにストロークさせれば、作動シャフトの突出部は、板ばねの中央部の凹部から離れた部分を押し上げると共に、中央部との間の摩擦力によりその両側部を撓ませて中央部をそのストローク方向に変位させ、作動シャフトは突出部が両側部の凹部と係合する位置で停止される。このとき作用する摩擦力の向きは軸線方向外向きストロークの場合と逆向きとなるので、このときの作動シャフトのストロークに対する荷重の特性は、中央部がストローク方向に変位しない場合に対して軸線方向外向きストロークのときとは逆向きにずれたものとなる。すなわち、請求項1の発明によれば、作動シャフトの突出部が板ばねの凹部に係合された状態から作動シャフトを外向きにストロークさせる場合と、それを戻す向きにストロークさせる場合とでは、作動シャフトに加える荷重特性は異なるものとなる。従ってこの両者の場合の荷重特性が同一である前述の従来技術に比して、操作ストロークに対する荷重特性の調整の自由度を大きくすることができる。
【0020】
板ばねは複数として作動シャフトの軸線方向から見て点対称に配置し、作動シャフトの突出部は各板ばねの凹部と対応する作動シャフトの外周の各位置に突出して設けた請求項2の発明によれば、各板ばねから作動シャフトに半径方向内向きに加わる力が釣り合って作動シャフトに曲がりが生じることがないので、作動が円滑な手動変速機の操作装置が得られ、また作動シャフト25に対する操作装置における長手方向の取付位置の選択の自由度を増大することができる。
【0021】
突出部は作動シャフトと同軸的な回転体とし作動シャフトの全外周に突出して形成した請求項3の発明によれば、突出部の形状が簡略化されるので製造が容易となり、製造コストを低下させることができる。また作動シャフト及び突出部は板ばねに対し軸線方向移動自在であると共に回動自在となるので、1本のシフトアンドセレクトシャフトを使用することによりセレクト機構とシフト機構を一体化して部品点数の削減及び軽量化を達成し、また省スペース及び取付位置の自由化等の効果が得られる手動変速機の操作装置にも適用することができる。
【0022】
突出部は作動シャフトの中心軸線から離れた位置に同中心軸線と直交して設けた枢支ピンにより回転自在に支持されたローラを備えたものとした請求項4の発明によれば、板ばねの中央部のローラと当接する部分の傾斜角を増大させて、作動シャフトのストロークに対する荷重の特性の調整範囲を広げることができる。
【0023】
ハウジングには半径方向に距離をおいて作動シャフトを囲む筒状の保持部材を設け、各板ばねは保持部材に取り付けた請求項5の発明によれば、複数の板ばねを作動シャフトの軸線方向から見て点対称に配置した場合の板ばねの取付構造を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による手動変速機の操作装置の一実施形態の全体構造を示す長手方向断面図である。
【図2】図1の右側面図である。
【図3】図1及び図2に示す一実施形態の外向きストロークの場合の説明図である。
【図4】図1及び図2に示す一実施形態の内向きストロークの場合の説明図である。
【図5】図1及び図2に示す一実施形態の「ストローク−荷重」特性曲線の一例を記すである。
【図6】作動シャフト25に設ける突出部の変形例を示す図である。
【図7】作動シャフト25に設ける突出部の図6とは異なる変形例を示す図である。
【図8】従来技術による手動変速機の操作装置の一例を示す断面図である。
【図9】図8に示す従来技術の「ストローク−荷重」特性曲線の一例を記す図である。
【図10】従来技術による手動変速機の操作装置の図8とは別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、前述した図8に示す従来技術のシフトアンドセレクトシャフト2または切換シャフト(フォ−クシャフト)4、特許文献2のシフトアンドセレクトシャフトまたはフォ−クシャフトのような、セレクト及び/またはシフト機構が備えた軸線方向に移動する作動シャフトに適用するものである。以下に、図1〜図5により、本発明による手動変速機の操作装置の一実施形態の説明をする。
【0026】
この実施形態は、図1及び図2に示すように、作動シャフト25、4個の板ばね30及び保持部材21により構成されている。作動シャフト25は上述のようにセレクト及び/またはシフト機構が備えた軸線方向に移動する部材であり、その一部にはその全外周から突出するように、作動シャフト25より大径の球形の突出部26が一体的に形成されている。板ばね30は、例えばばね鋼やりん青銅などのばね材よりなる帯板の中央部31を大きく湾曲して突出させ、その両側部32を中央部31の突出側とは反対向きに折り曲げて互いに平行に延出させ、また中央部31の頂部を屈曲させて凹部31aを形成したものであり、凹部31aは略V字状として折曲部は板厚よりも相当大きい内半径で折り曲げられている。各両側部32の先端の取付部は、略T形に形成されている。
【0027】
保持部材21は半径方向に距離をおいて作動シャフト25を同軸的に囲む円筒状の例えばアルミニウムダイカスト製で、変速機のハウジング20にボルト22により固定されている。4個の板ばね30は、凹部31aを作動シャフト25側に向けて、作動シャフト25の軸線方向から見て90度の間隔で点対称に配置し、各両側部32の先端部を保持部材21の各端面に当接して、取付ねじ33により固定されている。作動シャフト25がセレクトの中央位置またはシフトの中立位置(以下単に中央位置という)にあり、軸線方向の力が加えられていない状態では、図1に示すように、突出部26は凹部31aの両側の各1点において突出部26に当接して係合され、この状態では各板ばね30には作動シャフト25から離れる向きに多少の初期撓みが与えられている。
【0028】
次に、図3及び図4により、この実施形態の作動の説明をする。この図3及び図4では、符号31b〜31hは、作動シャフト25及び突出部26のストロークに応じて移動する板ばね30の中央部31の、突出部26と当接する外表面の位置を示している。板ばね30の中央部31の外表面(以下単に中央部31という)は、外力が加わらない自由状態では符号31oで示す位置にあるが、作動シャフト25が中央位置にある状態では、凹部31aは符号26bで示す中央位置にある突出部26に両側部の2点で当接係合され、初期撓みが与えられて符号31bで示す位置にある。
【0029】
図3に示すように、作動シャフト25が中央位置にある状態から、変速レバーを操作して、作動シャフト25に軸線方向右向きの力を加えて軸線方向右外向きにストロークさせれば、作動シャフト25の突出部26は、板ばね30の中央部31を押し上げる。そして突出部26が符号26cで示す位置に達した状態では、突出部26と中央部31は凹部31aの一方の端部のやや内側で当接し、この当接点における法線Ncは作動シャフト25の中心軸線と直交する線に対し右に傾斜しており、また突出部26は中央部31に対し右向きに摺動するので、突出部26が中央部31を押す力Fcは法線Ncに対し摩擦角だけ右向きに傾斜したものとなるので、この力Fcの軸線方向右向き(ストローク方向)の分力は相当大きい値となる。板ばね30の中央部31はこの力Fcの軸線方向分力により右向きに押され、この右向きの分力により板ばね30の両側部32が撓められるので、板ばね30の中央部31は符号31bで示す初期撓みが与えられた位置から押し上げられると同時にある程度右向きにも変位されて符号31cで示される位置に移る。作動シャフト25の突出部26に加わる軸線方向の荷重は力Fcの軸線方向分力の反力であるので左向き(ストロークと反対方向)で、この状態では相当大きい値となる。
【0030】
作動シャフト25が右外向きにさらにストロークして、突出部26が中央部31の最も高い位置に当接する符号26dで示す位置に達すれば、板ばね30の中央部31は突出部26により最も押し上げられる。この状態では当接点における法線Ndは作動シャフト25の中心軸線と直交するので、突出部26が中央部31を押す力Fdの軸線方向右向きの分力は増大から減少に転じ、力Fcの軸線方向右向きの分力よりも相当に減少する。この状態では板ばね30の中央部31は符号31dで示すように、作動シャフト25から最も離れた位置となり、符号31bで示す初期撓みが与えられた位置よりも右向きにも変位されているが、その変位量は符号31cで示す位置の右向きの変位量よりは少なくなる。力Fdの軸線方向分力の反力である作動シャフト25に加わる軸線方向の荷重は、相当に減少する。
【0031】
作動シャフト25が右外向きにさらにストロークし、突出部26が板ばね30の中央部31の最も高い位置よりも外側となる部分に当接した状態では、この当接点における法線Neは作動シャフト25の中心軸線と直交する線に対して左に傾斜したものとなり、突出部26が中央部31を押す力Feの軸線方向分力は多少左向きとなる。この状態では、板ばね30の中央部31は符号31eで示すように、符号31dで示す位置よりは作動シャフト25に接近し、軸線方向においては符号31bで示す初期撓みが与えられた位置よりも多少左向きにずれた位置となる。力Feの軸線方向分力の反力である作動シャフト25に加わるストロークと反対方向の荷重は正の値から負の値に転じる。
【0032】
作動シャフト25が右外向きにさらにストロークすれば、板ばね30の中央部31はさらに作動シャフト25に接近し、突出部26が中央部31を押す力の軸線方向分力はさらに左向きとなって板ばね30の中央部31はさらに左向きに変位される。この状態では、板ばね30の中央部31は符号31eで示す位置よりさらに作動シャフト25に接近し、軸線方向においては符号31eで示す位置よりもさらに左向きに変位され、力Feの軸線方向分力の反力である作動シャフト25に加わるストロークと反対方向の荷重は負の値で増大した後に減少に転じ、作動シャフト25はストッパ(図示省略)に当接した末端位置で停止される。この状態では作動シャフト25の突出部26は板ばね30の中央部31の凹部31aから離れた一部に当接されており、作動シャフト25の停止により突出部26と中央部31の間の摩擦力は消滅してそれらの間に作用する力の向きは法線方向となるので、作動シャフト25はストッパに押し付けられたままとなり、板ばね30の中央部31の軸線方向変位は0、すなわち符号31bの軸線方向位置と同じになる。
【0033】
次に、図4に示すように、作動シャフト25がストッパに当接して末端位置で停止された状態から変速レバーを操作して、作動シャフト25に軸線方向左向きの力を加えて軸線方向左内向きにストロークさせれば、板ばね30の中央部31の凹部31aから外向きに離れた部分に当接された作動シャフト25の突出部26は、板ばね30の中央部31を押し上げる。この場合は突出部26は板ばね30の中央部31に対し左向きに摺動するので、突出部26が中央部31を押す力Ff〜Fhは法線Nf〜Nhに対し摩擦角だけ左向きに傾斜したものとなる。従って突出部26が符号26fで示す位置に達した状態では、突出部26と中央部31の当接点における突出部26が中央部31を押す力Ffの軸線方向左向き(ストローク方向)の分力は比較的大きい値となる。板ばね30の中央部31はこの力Ffの軸線方向分力により左向きに押され、この左向きの分力により板ばね30の両側部32が撓められるので、板ばね30の中央部31は作動シャフト25がストッパに当接して停止された状態における位置から押し上げられると同時にある程度左向きにも変位されて符号31fで示される位置に移る。作動シャフト25に加わる荷重は力Ffの軸線方向分力の反力であるので右向き(ストロークと反対方向)であり、この状態では比較的大きい値となる。
【0034】
作動シャフト25が左内向きにさらにストロークして、突出部26が中央部31の最も高い位置に当接する符号26gで示す位置に達すれば、板ばね30の中央部31は突出部26により最も押し上げられる。この状態では突出部26が中央部31を押す力Fgの軸線方向左向きの分力は増大から減少に転じ、力Ffの軸線方向左向きの分力よりも減少する。従って板ばね30の中央部31の軸線方向の変位量は符号31gで示すように符号31fで示される位置よりも減少し、力Fgの軸線方向分力の反力である作動シャフト25に加わる荷重も減少する。
【0035】
作動シャフト25が左内向きにさらにストロークし、符号26hに示すように板ばね30の中央部31の凹部31aの端部よりやや内側となる部分に突出部26が当接した状態では、突出部26が中央部31を押す力Fhの軸線方向分力は左向きから右向き(ストロークの向きを基準にすれば正から負の値)に転じ、力Fhの軸線方向分力の反力である作動シャフト25に加わる荷重も正から負の値に転じる。
【0036】
作動シャフト25を左内向きにさらにストロークすれば、板ばね30の中央部31は急激に作動シャフト25に接近し、力Fhの軸線方向分力の反力である作動シャフト25に加わる(ストロークと反対方向の)荷重は負の値で増大した後に減少に転じ、突出部26がその両側の2点で凹部31aに当接係合したところで作動シャフト25は前述の中央位置に達して停止される。
【0037】
以上を要するに、図1及び図2に示す実施形態において、作動シャフト25が中央位置にあり、その突出部26が初期撓みが与えられた板ばね30の中央部31の凹部31aに両側部の2点で当接して係合された状態から、作動シャフト25を中央位置から末端位置まで外向きにストロークした場合の「ストローク−荷重」特性は、ストロークに応じて増大してから減少し、負の値となって増大してから減少する特性となり、また末端位置から中央位置まで内向きにストロークした場合の「ストローク−荷重」特性は、ストロークの向きを基準にすれば、同様にストロークに応じて増大してから減少し、負の値となって増大してから減少する特性となり、それぞれは前述した図8及び図9で述べた従来技術における「ストローク−荷重」特性と同様である。しかしながら上述した実施形態では、板ばね30の中央部31は作動シャフト25の突出部26が中央部31を押す力Fc〜Fhの軸線方向分力によりストロークの向きに変位され、このストロークの向きは中央位置から末端位置まで外向きにストロークする場合と、末端位置から中央位置まで内向きにストロークする場合とでは互いに逆向きであるので、中央位置から末端位置まで外向きにストロークする場合の「ストローク−荷重」特性は、図5の符号P1に示すように、前述した図8及び図9で述べた従来技術における「ストローク−荷重」特性Q(図5に破線Qで示す)に対して右向きにずれた特性となり、末端位置から中央位置まで内向きにストロークする場合の「ストローク−荷重」特性は、図5の符号P2に示すように、上述した従来技術における「ストローク−荷重」特性Qに対して左向きにずれた特性となる。これにより作動シャフト25を外向きにストロークさせる場合と、内向きにストロークさせる場合とでは、「ストローク−荷重」特性を異なるものとなるので、この両者の場合の荷重特性が同一で向きのみが異なる前述の従来技術に比して、操作ストロークに対する荷重特性の調整の自由度を大きくすることができる。それぞれの場合における特性の軸線方向の変位は、板ばね30の両側部32の長さ、板ばね30の厚さ、中央部31の各部の傾斜角を変えることにより相当な範囲で調整することができる。
【0038】
上述した実施形態では、突出部26は作動シャフト25の全外周に突出して一体的に形成しており、このようにすれば突出部26の形状が簡略化されるので製造が容易となり、製造コストを低下させることができる。この実施形態では突出部は図1に示すように大径の球形としたが、図6の突出部26Aに示すように厚い円板状として、外周部の断面を円弧状に丸めたものとしてもよい。このようにすれば突出部26,26Aは作動シャフト25の中心軸線を中心とする回転体となり、作動シャフト25及び突出部26,26Aは板ばね30に対し軸線方向移動自在であると共に回動自在となるので、1本のシフトアンドセレクトシャフトを使用することによりセレクト機構とシフト機構を一体化して部品点数の削減及び軽量化を達成し、また省スペース及び取付位置の自由化等の効果が得られる手動変速機の操作装置にも適用することができる。
【0039】
また突出部は図7の突出部26Bに示すように、作動シャフト25の一部に形成した突起部27の円周方向4箇所に軸線方向に延びる収容溝27aを形成し、各収容溝27aの間となる突起部27の外周にそれぞれV形切り込み27bを形成し、各収容溝27a内に突起部27の外周から突出するようにそれぞれローラ28を配置して、作動シャフト25の中心軸線から離れた位置に同中心軸線と直交して設けた枢支ピン28aにより各ローラ28を回転自在に支持し、この各ローラ28が板ばね30の中央部31に当接して転動するようにしてもよい。このようにすれば突出部26Bと中央部31の間の摩擦係数が減少するので、板ばね30の中央部31の突出部26Bのローラ28と当接する部分の傾斜角を増大させて、作動シャフト25のストロークに対する荷重の特性の調整範囲を広げることができる。
【0040】
上述した実施形態では、板ばね30は複数として作動シャフト25の軸線方向から見て点対称に配置し、作動シャフト25の突出部26は各板ばね30の凹部31aと対応する作動シャフト25の外周に突出して設けており、このようにすれば各板ばね30から作動シャフト25に半径方向内向きに加わる力が釣り合って作動シャフト25に曲がりが生じることがないので、作動が円滑な手動変速機の操作装置が得られ、また作動シャフト25に対する操作装置の長手方向の取付位置の選択の自由度が増大するという効果が得られる。しかし本発明はこれに限られるものではなく、作動シャフト25がハウジング20に摺動自在に支持される部分に接近させて板ばね30を設けるようにすれば、作動シャフト25に加わる曲げ力が減少するので、板ばね30を1個として実施することも可能である。この場合は、作動シャフト25に設ける突出部26は、板ばね30と対向する円周方向の1箇所から突出して設けるようにしてもよい。
【0041】
また上述した実施形態では、ハウジング20には半径方向に距離をおいて作動シャフト25を囲む円筒状の保持部材21を設け、各板ばね30は保持部材21に取り付けており、このようにすれば複数の板ばね30を作動シャフト25の軸線方向から見て点対称に配置した場合の板ばね30の取付構造を簡略化することができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、保持部材21は角筒状としてもよいし、あるいは保持部材21を省略して、1個または複数の板ばね30を変速機のハウジング20に直接取り付けるようにして実施することも可能である。
【0042】
なお上述した実施形態では、板ばね30の中央部31に形成する凹部31aが1個の場合につき説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、作動シャフト25の長手方向に沿って所定間隔をおいて2個またはそれ以上の凹部31aを中央部31に形成するようにして実施することも可能である。
【符号の説明】
【0043】
20…ハウジング、21…保持部材、25…作動シャフト(シフトアンドセレクトシャフト)、26,26A,26B…突出部、28…ローラ、28a…枢支ピン、30…板ばね、31…中央部、31a…凹部、32…両側部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に互いに平行に回転自在に支持されたカウンタ軸及び出力軸と、この両軸の間で動力伝達を行う複数対の変速ギヤ対と、各2対の前記変速ギヤ対の間に設けられてこの両変速ギヤ対による前記両軸の間の動力伝達を選択的に切り換える少数の切換機構と、この少数の切換機構から何れか1つを選択するセレクト機構と、選択された前記切換機構を作動させてそれの両側の両変速ギヤ対の何れか一方により前記両軸の間の動力伝達を行うようにするシフト機構を備えてなる手動変速機の操作装置において、
前記セレクト機構及びシフト機構の少なくとも何れか一方は軸線方向に移動する作動シャフトを備えたものとし、
ばね材よりなる帯板の中央部を湾曲して突出させ、その両側部を前記突出側とは反対向きに互いに平行に延出させるとともに、前記中央部の頂部を屈曲させて凹部を形成した板ばねをさらに備え、
前記板ばねは、前記作動シャフトに軸線方向の力が加えられていない状態において、前記作動シャフトの外周の一部から半径方向に突出して設けた突出部に前記凹部が係合するように、その両側部の先端部を前記ハウジングに固定した
ことを特徴とする手動変速機の操作装置。
【請求項2】
請求項1に記載の手動変速機の操作装置において、前記板ばねは複数として前記作動シャフトの軸線方向から見て点対称に配置し、前記作動シャフトの突出部は前記各板ばねの凹部と対応する前記作動シャフトの外周の各位置に突出して設けたことを特徴とする手動変速機の操作装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の手動変速機の操作装置において、前記突出部は前記作動シャフトと同軸的な回転体とし前記作動シャフトの全外周に突出して形成したことを特徴とする手動変速機の操作装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の手動変速機の操作装置において、前記突出部は前記作動シャフトの中心軸線から離れた位置に同中心軸線と直交して設けた枢支ピンにより回転自在に支持されたローラを備えたことを特徴とする手動変速機の操作装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の手動変速機の操作装置において、前記ハウジングには半径方向に距離をおいて前記作動シャフトを囲む筒状の保持部材を設け、前記各板ばねは前記保持部材に取り付けたことを特徴とする手動変速機の操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−154450(P2012−154450A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15634(P2011−15634)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】