説明

手術装置

【課題】外科的手術において、重要神経の周辺でも安全、迅速に止血、生体組織の接着をなし得て、術者の負担を手術の本質部分に傾注可能とし高品質な手術を実現し、併せて時間の短縮により患者の負担をも軽減する手術装置の実現を図る。
【解決手段】処置箇所を熱して止血、組織接着をなす作用部と、この作用部へエネルギーを供給する駆動部と、作用部および駆動部の一部を収納する筐体とからなり、前記作用部は受光による発熱により止血、組織接着をなすメス部1と高温状態となったメス部の消熱を短時間になして処置箇所周辺の組織への熱影響を回避するための熱吸収部2とを具え、前記駆動部は光源とこの光源から前記メス部1へ照射される光線の導路とを具えた手術装置を実現して上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、生体における止血、組織の接着等の処置をなすための手術装置に関し、詳しくは、光−熱変換による発熱体により前記処置を安全に行えるようにした手術装置に関するものである。
【発明の背景】
【0002】
従来、例えば脳神経外科領域において、手術中における止血にはバイポーラ電気メスが広く使用されているが、電流による神経障害が発生する危険性があるために、重要な神経周辺での使用は極めて抑制されている。 したがって、術中における実際の止血処理は、ガーゼを出血箇所に押し当てて出血が収まるのを待つことが一般的であり、止血処理に時間を要しているのが実情である。
【0003】
また、一般の外科においても、モノポーラ電気メスが止血に使われているが、上記と同様の理由で重要な神経の周辺での使用は抑制せざるを得ず、止血はガーゼを当てて自然止血を待つと言う時間のかかるものとなっている。
【0004】
したがって、手術は止血という非本質的な作業に時間をとられて、患者、術者に本来は無用とも言える負担がかかっていた。 なお、上記従来技術における電流による危険性を回避するために、ニクロム線などの電気発熱体を使用して止血、生体組織の接着等の処置をなすことも考えられるが、この場合には必要な発熱まで相当の時間を要し、結局上記従来例と同様の不都合を解消できない。
【0005】
なお、本願発明に関連する技術が以下のような文献において開示されている。
【特許文献1】特開2005−000332号公報
【特許文献2】特表2005−516714号公報
【特許文献3】特開2005−328969号公報
【特許文献4】特開平11−318819号公報
【特許文献5】特開平09−038098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明の目的は、外科的手術において、重要神経の周辺でも安全、迅速に止血、生体組織の接着をなし得て、術者の負担を手術の本質部分に傾注可能とし高品質な手術を実現し、併せて時間の短縮により患者の負担をも軽減する手術装置の実現を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、生体における止血、組織の接着等の処置をなすための手術装置を、処置箇所を熱して止血、組織接着をなす作用部と、この作用部へ光によりエネルギーを供給する駆動部と、作用部および駆動部の一部を収納する筐体とを具え、前記駆動部は光源とこの光源から前記メス部へ照射される光線の導路とから構成して、上記従来の課題を解決しようとするものである。
【0008】
また、上記の手術装置において、前記作用部は受光による発熱により止血、組織接着をなすメス部と高温状態となったメス部の消熱を短時間になして処置箇所周辺の組織への熱影響を回避するための熱吸収部を具えるこうせいとなすことがある。
【0009】
さらに、上記いずれかの手術装置において、前記駆動部の光源はレーザ出力装置で構成し、前記メス部へ照射されるレーザ光線の導路は光ファイバーで構成することがある。
【0010】
さらにまた、上記いずれか記載の手術装置において、筐体は一対の把持片を有するピンセット状体で構成し、止血、組織接着をなす作用部と、この作用部へ光エネルギーを供給する駆動部の一部は前記把持片のいずれかに収納したことを特徴とする手術装置。
【0011】
上記の手術装置において、一方の把持片の先端から作用部、駆動部の一部の順で把持片内に収納され、メス部の端部の他方の把持片と対向する内側面は露出して生体に接触し止血、組織接着をなすメス当接部を構成するとともに、その他のメス部、このメス部に連設される熱吸収部、前記メス部へ照射されるレーザ光の導路としての光ファイバーの一部は把持片により被覆される構成となすことがある。
【0012】
さらに、上記の手術装置において、レーザ光はメス当接部の裏面側に照射されるように構成することがある。
【0013】
また、上記いずれか記載の手術装置において、メス部、熱吸収部は金属材で形成するとともにメス当接部における受光面には光反射防止層を形成することがある。
【0014】
さらに、上記いずれか記載の手術装置において、筐体であるピンセットの一対の把持片の先端が閉である場合にのみレーザ出力を可能にするスイッチ機構を設けることがある。
【0015】
上記の手術装置において、前記スイッチ機構にはタイマーを設け、ピンセットの把持片が閉となった後、所定時間だけレーザ出力がなされる構成と為すことがある。
【発明の効果】
【0016】
本願発明にあっては、上記構成により、外科的手術において、重要神経の周辺でも安全、迅速に止血、生体組織の接着をなし得て、術者の負担を手術の本質部分に傾注可能とし高品質な手術を実現し、併せて時間の短縮により患者の負担をも軽減する手術装置の実現を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本願発明において、止血、組織接着をなす作用部は受光による発熱により止血、組織接着をなすメス部と高温状態となったメス部の消熱を短時間になして処置箇所周辺の組織への熱影響を回避するための熱吸収部とを具えている。一方、作用部へエネルギーを供給する駆動部は光源とこの光源から前記メス部へ照射される光線の導路とを具えるが、光源はレーザ出力装置、レーザ光の導路は光ファイバーで構成する。作用部、駆動部は筐体に収納されるが、この筐体は一対の把持片を有するピンセット状体で構成し、止血、組織接着をなす作用部と、この作用部へエネルギーを供給する駆動部の一部は前記把持片のいずれかに収納するようにする。
【0018】
また、メス部は金属材で形成し、生体に接触し止血、組織の接着等の外科的処置をなすメス当接部の裏面にレーザ光を照射して当該部分を瞬時に加熱する構成が望ましい。 このメス加熱が外科処置後に周辺組織へ熱影響を及ぼすのを防止するためにメス部を急速に冷却する必要がある。そこで、メス部に金属材による熱吸収部を連設する。
この熱吸収部はメス部より体積が大きな熱伝導の良好な銅合金等で構成する。そして、熱吸収部は筐体であるピンセット状体のいずれかの把持片の外殻内に収納し生体への熱影響を回避できるようにする。
【0019】
レーザ光はメス当接部の裏面側に照射するようにして前記当接部を局部的に瞬時に加熱できるように構成するのが望ましい。そして、レーザ光の反射を防止するために受光面には光吸収剤により光反射防止層を形成する。
【0020】
レーザ光の出力のオンオフは基本的にレーザ出力装置におけるフットスイッチでなすことになるが、安全性の見地から、筐体であるピンセットの一対の把持片の先端が閉である場合にのみレーザ出力を可能にするスイッチ機構をピンセット状体に設けるのが望ましい。この結果、レーザ光はピンセット状体が閉の場合のみに出力される。そして、さらに前記スイッチ機構にはタイマーを設け、ピンセットの把持片が閉となった後、所定時間だけレーザ出力がなされるように構成することにより、安全性と効率性を実現できるようにする。 なお、レーザの種類は特に限定されないが、CO2レーザーあるいはNdYAGレーザがコスト的に優れているうえ、複雑な調整も不要なので扱い易い利点を有している。
【実施例】
【0021】
図1は、本願発明に係る手術装置の1実施例を示す概略構成図である。図において、Aは、手術装置であり、メス部1と熱吸収部2で構成される作用部と、光ファイバー3とレーザ出力装置4からなり作用部へエネルギーを供給する駆動部とを具えており、作用部、駆動部は筐体5内に収納されている。
【0022】
また、図2は図1に示す実施例におけるメス部1、熱吸収部2、光ファイバー3、筐体5の関連構成の一例を示す図である。 テーパー状の先端部を有する筐体5の端部にはアルミ、ステンレス等の金属材により先端が半球状に形成されたパイプ状のメス部1が装着され先端開口部より生体に接触し止血、組織の接着等の外科的処置をなす半球状のメス当接部1aが露出していてこの当接部1aの裏面はレーザ光Lの受光面になっており、レーザ光Lの反射を防ぐため光吸収剤の塗布により光反射防止層1bが形成されている。熱吸収部2は熱伝導の良好な銅合金で円筒状に形成されこの中空部にメス部1が嵌合されている。レーザ光Lが照射されるとその間は受光面の反対側のメス当接部1aは局部的に瞬時に熱せられて止血、組織の接着が可能な状態となるが、照射がすむと、熱は順次熱吸収部2に移動しメス部1全体の温度は急速に下降し、生体組織への無用な熱影響を生じることがない。
【0023】
図3は、発明の他の実施例を示す側面図である。図において、51は筐体としてのピンセット状体であり、先端で開閉する一対の把持片6,6を有しており、この把持片6の一方にはレーザ出力装置4と結ばれる光ファイバー3が収納されている。 図4は、図3に示す把持片6の先端部分Bの内部構造を示す断面図である。メス部1は把持片6の先端に嵌挿された銅合金による熱吸収部の先端開口部に挿入される状態で両者は連接されている。
メス部1は図5に示すように先端が先細りのテーパー状に形成された管体でパイプ状の熱吸収部3に挿入される端部は開口して光ファイバー3の先端と対向している。また、熱吸収部2も図5に示すようにパイプ状の中空体で形成されている。
【0024】
さて、図4において、メス部1側面の他の把持片6と対向する部分は露出しており、この部分が生体組織に接触して止血、組織の接着等の外科的処置をなすメス当接部1aを構成している。そして、このメス当接部1aの裏側はレーザ光Lを受光すべく光吸収剤が塗布されて光反射防止層1bが形成されている。
レーザ光Lは前記光反射防止層1bに照射され、照射部分を局部的に瞬時に加熱しこの加熱の間に止血、組織の接着等の外科的処置がなされる。そして、この間にメス部1における熱の一部は熱吸収部2に順次移動するが、これによりレーザ光L照射の停止とともにメス部1は急速に消熱され、外科的処置の対象部位周辺の組織に無用の熱影響を及ぼす恐れがなくなる。このような消熱効果を迅速に生起させるには熱吸収部2の金属材の体積はメス部1より充分に大きくする必要がある。
【0025】
図6は、筐体としてのピンセット状体51に安全性を確保するための安全スイッチ機構を設けた実施例を示す側面図である。 本願発明に係る手術装置において、レーザ光Lのオンオフは基本的にレーザ出力装置4近傍に設けたフットスイッチによるが、ピンセット状体51の各把持片6,6が開の状態でレーザ光Lが出力されるとメス部1が発熱しこれが生体のいずこかに接触し思わぬ事故が生じるおそれがある。そこで、この実施例では、メインスイッチである前記フットスイッチ回路に図に示す安全スイッチ本体7とスイッチ作動片8とからなるスイッチ機構を連結してメインスイッチがオンとなっても把持片6,6が互いに離開しているときは、レーザ光Lが出力されないようにしている。
【0026】
すなわち、図6において、7は互いに離間する一対の通電端子を有する安全スイッチ本体であり、一方の把持片6の内側面に設けられている。 また、8は前記安全スイッチ本体7の通電端子間を連結させてレーザ光の出力を可能にするスイッチ作動片であり、スイッチ本体7対向して、反対側の把持片6の内側面に設けられている。 図6のような各把持片6、6が開となり、前記スイッチ作動片8が安全スイッチ本体7から離れている状態では、前記フットスイッチをオンにしてもスイッチ回路全体としては断となっているからレーザ光は出力されない。 逆に、把持片6,6を閉じて、前記スイッチ作動片8が安全スイッチ本体7に動作している状態で、メインスイッチである前記フットスイッチをオンにすれば、レーザ光は出力される。
【0027】
また、フットスイッチをオンにした状態で把持片6,6を閉じればレーザ光は出力される。フットスイッチをオフとすれば、たとえ把持片6,6が閉となっていてもレーザ光は出力されない。レーザ光の出力停止は、フットスイッチをオフとするか、把持片を開にすればよい。なお、安全スイッチ本体7、スイッチ作動片8で構成される安全スイッチ機構にタイマー装置を設けて、把持片は閉じてから設定した所定時間だけ、レーザ光照射が為されるようにして処置対象の条件に応じて正確かつ効率的な処置を実現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本願発明の一実施例を示す概略構成説明図である。
【図2】図1に示す実施例におけるメス部1、熱吸収部2、光ファイバー3、筐体5の関連構成の一例を示す図である。
【図3】発明の他の実施例を示す側面図である。
【図4】図3に示す把持片6の先端部分Bの内部構造を示す断面図である。
【図5】図3におけるメス部1と熱吸収部2の関連構成を示す斜視図である。
【図6】筐体としてのピンセット状体51に安全性を確保するためのスイッチ機構を設けた実施例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1......メス部
1a.....メス当接部
1b.....光反射防止層
2......熱吸収部
3......光ファイバー
4......レーザ出力装置
5......筐体
51.....筐体としてのピンセット状体
6......把持片
7......安全スイッチ本体
8......スイッチ作動片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体における止血、組織の接着等の処置をなすための手術装置であって、処置箇所を熱して止血、組織接着をなす作用部と、この作用部へ光によりエネルギーを供給する駆動部と、作用部および駆動部の一部を収納する筐体とを具え、前記駆動部は光源とこの光源から前記メス部へ照射される光線の導路とからなることを特徴とする手術装置。
【請求項2】
請求項1記載の手術装置において、前記作用部は受光による発熱により止血、組織接着をなすメス部と高温状態となったメス部の消熱を短時間になして処置箇所周辺の組織への熱影響を回避するための熱吸収部を具えことを特徴とする手術装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の手術装置において、前記駆動部の光源はレーザ出力装置で構成し、前記メス部へ照射されるレーザ光線の導路は光ファイバーで構成したことを特徴とする手術装置。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか記載の手術装置において、筐体は一対の把持片を有するピンセット状体で構成し、止血、組織接着をなす作用部と、この作用部へエネルギーを供給する駆動部の一部は前記把持片のいずれかに収納したことを特徴とする手術装置。
【請求項5】
請求項4記載の手術装置において、一方の把持片の先端から作用部、駆動部の一部の順で把持片内に収納され、メス部の端部の他方の把持片と対向する内側面は露出して生体に接触し止血、組織接着をなすメス当接部を構成するとともに、その他のメス部、このメス部に連設される熱吸収部、前記メス部へ照射されるレーザ光の導路としての光ファイバーの一部は把持片に被覆されていることを特徴とする手術装置。
【請求項6】
請求項5記載の手術装置において、レーザ光はメス当接部の裏面側に照射されるようにしたことを特徴とする手術装置。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか記載の手術装置において、メス部、熱吸収部は金属材で形成するとともにメス当接部における受光面には光反射防止層を形成したことを特徴とする手術装置。
【請求項8】
請求項4ないし7いずれか記載の手術装置において、筐体であるピンセットの一対の把持片の先端が閉である場合にのみレーザ出力を可能にするスイッチ機構を設けたことを特徴とする手術装置。
【請求項9】
請求項8記載の手術装置において、前記スイッチ機構にはタイマーを設け、ピンセットの把持片が閉となった後、所定時間だけレーザ出力がなされるようにしたことを特徴とする手術装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−17917(P2008−17917A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190384(P2006−190384)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(593142064)株式会社ミワテック (7)
【Fターム(参考)】