説明

投影機用計測治具

【課題】 小型の被計測部材に形成されたアール部の寸法を測定するための治具を、簡単かつ安価な構成で実現する。
【解決手段】 被計測部材としての玉軸受内輪10は、その内孔18に挿入部206が挿入されることによって、幅方向計測治具200に装着される。このとき、玉軸受内輪10の一端面12がベース部202の上面204に面接触し、内孔18の内面16が挿入部206の側壁222に当接する。挿入部206は、合焦面に位置する参照用面218を有しており、この参照用面218と玉軸受内輪10の一端面12とこれらの間に挟まれたアール部20とを含む観測対象領域が、観測孔210を介して観測され、ひいては当該アール部20の幅寸法(径方向の寸法)が計測される。なお、挿入部206は、円柱状の頭部を有するネジ状部材212の当該頭部によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、投影機用計測治具に関し、特に例えば、平面部とこの平面部に開口するように設けられ当該平面部に直角な内面を有する中空部とを備えた被計測部材の当該平面部と中空部の内面とを接続するアール部や面取部等の非直角部の寸法を測定するための投影機用計測治具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の投影機用計測治具として、従来、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来技術によれば、幅方向計測用の治具と、奥行き方向計測用の治具とが、提案されている。このうち、幅方向計測治具の具体例として、斜めに配置された平板と、この平板の上面である第1支持面に一端面を当接させた状態で当該平板に固定された短円柱体と、を含む構成が、開示されている。なお、短円柱体には、その一端面から他端面側に向けて延伸するネジ孔が設けられており、このネジ孔に平板の下面側からネジが螺着されることによって、当該短円柱体と平板との固定が実現される。そして、被計測部材として、平坦な端面とこの端面に直角な内周面を有する内孔とを備えこれら端面と内孔の内周面との間にアール部が形成された玉軸受内輪が、例示されており、この玉軸受内輪は、その内孔に当該端面(アール部)側から短円柱体が挿入(嵌合)されることによって、幅方向計測治具に装着される。これにより、玉軸受内輪の当該端面が、平板の第1支持面に面接触し、内孔の内周面が、短円柱体の外周面(母線)によって形成される第2支持部に当接する。さらに、平板には、これら第1支持面に面接触する端面と第2支持部に当接する内孔の内周面とで挟まれたアール部を、当該平板の下面側から観測するための観測穴が設けられている。従って、この観測孔を介してアール部が観測され、当該アール部の拡大像が投影スクリーンに投影される。そして、この投影スクリーンに投影される拡大像から、アール部の寸法、詳しくは玉軸受内輪の端面に沿う方向(換言すれば玉軸受内輪の半径方向)における言わば幅寸法が、測定される。
【0003】
一方、奥行き方向計測治具の具体例として、斜めに配置された平板と、この平板に穿設された円孔に嵌合固定される短円柱状部材と、を含む構成が、開示されている。短円柱状部材は、平板の上面である第3支持面側に突出するように、当該平板の下面側から円孔に嵌合されている。そして、平板の下面には、短円柱状部材の端部周縁に設けられた鍔の上面が当接しており、この鍔をもって、当該短円柱状部材は平板に固定されている。さらに、短円柱状部材内には、鍔側から切削加工によって形成された観測穴が設けられており、この観測穴の内部には、当該短円柱状部材の軸線に対して45度傾けられた平面反射鏡が設けられている。そして、被計測部材としての玉軸受内輪は、その内孔に端面(アール部)側から短円柱状部材が挿入されることによって、奥行き方向計測治具に装着される。これにより、玉軸受内輪の端面が、平板の第3支持面に面接触し、内孔の内周面が、短円柱状部材の外周面(母線)によって形成される第4支持部に当接する。そして、これら第3支持面に面接触する端面と第4支持部に当接する内孔の内周面とで挟まれたアール部が、観測穴および平面反射鏡を介して観測され、その拡大像が、投影スクリーンに投影される。そして、この拡大像から、当該アール部の寸法、詳しくは玉軸受内輪の端面に直角な方向(換言すれば玉軸受内輪の軸方向)における言わば奥行き寸法が、測定される。
【0004】
【特許文献1】特開2002−99044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の従来技術では、次のような問題がある。即ち、幅方向計測治具については、平板に短円柱体を固定するべく当該短円柱体にネジ孔が設けられているため、短円柱体の大きさ、特に直径(外径)が、少なくともネジ孔の直径(内径)よりも大きくなる。具体的には、ネジ孔の大きさにもよるが、短円柱体の直径は、概ね10[mm]以上とされる。従って、従来の幅方向計測治具では、かかる短円柱体が挿入される被計測部材の中空部の寸法(例えば内径)が、当該10[mm]よりも大きくなければならず、この条件を満足しない言わば小型の被計測部材には対応することができない、という問題がある。
【0006】
一方、奥行き方向計測治具については、短円柱状部材内(観測穴)に単体の平面反射鏡が内蔵されているため、この短円柱状部材の大きさ、特に直径として、少なくとも当該平面反射鏡を内蔵し得る寸法が、必要となる。具体的には、平面反射鏡をどのくらいにまで小型化できるかにもよるが、当該短円柱状部材の直径は、概ね10[mm]以上とされる。つまり、奥行き方向計測治具においても、上述の幅方向計測治具と同様、中空部の寸法が10[mm]以下の小型の被計測部材に対応することができない、という問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、従来よりも小型の被計測部材に対応することができ、しかもこれを極めて簡単かつ安価に実現することができる投影機用計測治具を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、第1の発明は、平面部とこの平面部に開口するように設けられ当該平面部に直角な内面を有する中空部とを備えた被計測部材の当該平面部と内面とを接続する非直角部、例えばアール部または面取部、の寸法を測定するための投影機用計測治具において、投影機による観測方向に対して直角を成しかつ当該観測方向と同じ方向に向くと共に被計測部材の平面部と面接触する支持面を有するベース部と、このベース部に固定されており当該ベース部の支持面から観測方向と同じ方向に向かって突出すると共に被計測部材の中空部に挿入される柱状の挿入部と、を具備する。そして、ベース部の支持面を含む面が、投影機の合焦面に設定され、挿入部の側壁が、観測方向に沿う方向おいて被計測部材の中空部の内面と直線的に当接する当接部を形成する。さらに、合焦面に位置し、かつ観測方向とは反対の方向に向くと共に、当接部との間で直角な角部を形成するように当該当接部から挿入部の内側に向かって形成された参照用平面を、備える。なお、当接部と参照用平面とが成す直角な角部、および、被計測部材の平面部と非直角部との接続部分のうち合焦面に沿って当該角部に対向する部分、を含む領域が、この第1の発明による観測対象領域とされる。ベース部は、この観測対象領域を、観測方向に従う方向から観測可能とする状態に構成されており、このための例えば貫通孔または切欠を備えている。さらに、挿入部は、柱状の頭部とこの頭部の一端面から当該頭部の長さ方向に沿って突出したネジ部とを有するネジ状部材の当該頭部によって、形成されている。そして、このネジ状部材のネジ部が、ベース部に螺着されることによって、当該ネジ状部材の頭部により形成された挿入部が、ベース部に固定される。そしてさらに、ネジ部の断面、詳しくは当該ネジ部の突出方向を横切る断面は、頭部の一端面よりも内側にある。つまり、頭部の一端面には、ネジ部が設けられていない部分が存在する。そして、このネジ部が設けられていない部分によって、上述の参照用平面が形成されたことを、特徴とする。
【0009】
即ち、この第1の発明の投影機用計測治具に、被計測部材が装着されると、当該被計測部材の平面部が、ベース部の支持面に面接触する。このベース部の支持面は、投影機の合焦面に位置するので、当該支持面に面接触する被計測部材の平面部もまた、合焦面に位置する。そして、被計測部材の中空部に、柱状の挿入部が挿入され、この挿入部の側壁によって形成された当接部に、当該中空部の内面(母線)が直線的に当接する。なお、当接部は、観測方向に沿う方向に延伸しており、合焦面に位置する参照用平面との間で、直角な角部を形成する。そして、この角部と、被計測部材の平面部と非直角部との接続部分のうち当該角部に対向する部分、換言すれば当該角部に最も近い部分と、を含む領域が、観測対象領域とされる。そして、この観測対象領域が、観測方向に従う方向、言い換えれば合焦面に対して直角な方向から観測され、その観測結果に従う像が、投影機によって投影される。
【0010】
ここで、観測対象領域のうち、合焦面に位置する部分、例えば被計測部材の平面部については、明確な投影像が得られる。一方、合焦面に位置しない部分、例えば被計測部材の非直角部については、明確な投影像が得られず、言わばボケた像となる。従って、これら平面部の投影像および非直角部の投影像から、当該平面部および非直角部の接続部分(境界)、換言すれば非直角部の一端が、分かる。また、参照用平面についても、合焦面に位置するので、明確な投影像が得られる。従って、この参照用平面の投影像と上述の非直角部の投影像とから、これら参照用平面と非直角部との境界、換言すれば参照用平面と当接部との成す角部が、分かる。この角部の位置は、投影像上で、非直角部の他端の位置と重なる。よって、投影像上で、この角部の位置と非直角部の一端の位置との間の距離を測定することにより、当該非直角部の一端および他端間の寸法、厳密には被計測部材の平面部に沿う方向における言わば幅寸法を、求めることができる。
【0011】
さらに、この第1の発明では、柱状の頭部とこの頭部の一端面から当該頭部の長さ方向に沿って突出したネジ部とを有するネジ状部材の当該頭部そのものによって、挿入部が形成されている。即ち、ネジ状部材の頭部が、被計測部材の中空部に挿入され、この頭部の側壁によって、中空部の内面と当接する当接部が形成される。そして、ネジ状部材のネジ部がベース部に螺着されることによって、当該ネジ状部材の頭部により形成された挿入部が、ベース部に固定される。つまり、挿入部そのものに、これをベース部に固定するための手段が設けられている。そして、頭部の一端面、詳しくは当該一端面のうちネジ部が設けられていない部分によって、上述の角部を成す参照用平面が形成される。
【0012】
なお、参照用平面は、被計測部材の平面部と同様の表面状態であるのが、望ましい。即ち、被計測部材の平面部と参照用平面とが互いに同様の表面状態であると、これらの間に挟まれた非直角部の両端が、投影像上でより分かり易くなる。
【0013】
第2の発明もまた、第1の発明におけるのと同様の被計測部材を測定の対象とするものであり、投影機による観測方向に対して直角を成しかつ当該観測方向と同じ方向に向くと共に被計測部材の平面部と面接触する支持面を有するベース部と、このベース部の支持面側において観測方向と同じ方向に向かって突出すると共に被計測部材の中空部に挿入される挿入部と、を具備する。そして、挿入部は、被計測部材の中空部の内面と当接する当接部を、備えている。また、ベース部は、支持面に開口するように設けられ当該支持面に直角な内壁を有すると共に観測方向に沿う方向に貫通する観測孔を、備えている。さらに、この観測孔の内壁は、参照用面を形成する。具体的には、当該参照用面は、当接部を含みかつ観測方向に沿う方向に平行な面と同一平面上に位置する。また、当該観測孔の内壁は、中空部の内面のうち当接部に当接している部分と同じ方向に向いている。そして、この参照用面を含む面が、投影機の合焦面に設定される。なお、この第2の発明では、参照用面とベース部の支持面とで形成される直角な角部と、被計測部材の中空部の内面と非直角部分との接続部分のうち合焦面に沿って当該角部に対向する部分と、を含む領域が、観測対象領域とされる。そして、この観測対象領域を、ベースに設けられた観測孔を介して外部に露出させるための露出空間が、挿入部に設けられている。さらに、この露出空間には、観測方向に従う方向から観測孔および当該露出空間を介して観測対象領域を観測可能とするように、合焦面を光学的に当該観測方向に正対させるための反射鏡が、設けられている。そして、この反射鏡が、露出空間を形成する壁面に所定の処理を施すことによって当該壁面と一体に形成されたことを、特徴とする。
【0014】
即ち、この第2の発明の投影機用計測治具に、被計測部材が装着されると、当該被計測部材の平面部が、ベース部の支持面に面接触する。そして、ベース部の支持面側に突出している挿入部が、被計測部材の中空部に挿入される。このとき、挿入部に備えられた当接部が、中空部の内面に当接する。その一方で、ベース部には、観測孔が設けられており、この観測孔の内壁によって、参照用面が形成されている。そして、この参照用面は、中空部の内面のうち当接部に当接している部分と同一平面上に位置し、かつ当該当接している部分と同じ方向を向いている。さらに、参照用面は、投影機の合焦面に位置するので、当該当接している部分、詳しくは当該当接している部分を含む中空部内面の母線部分もまた、合焦面に位置する。さらに、参照用面とベース部の支持面とで形成される直角な角部と、中空部の内面と非直角部分との接続部分のうち合焦面に沿って当該角部に対向する部分と、を含む観測対象領域が、挿入部に設けられた露出空間および上述の観測孔を介して、外部に露出されている。そして、この観測対象領域は、観測方向に従う方向、換言すれば合焦面に沿う方向から、観測孔および露出空間を介して、観測される。かかる観測を可能とするために、露出空間には、合焦面を光学的に観測方向に正対させるための反射鏡が、設けられている。
【0015】
ここで、観測対象領域のうち合焦面に位置する部分、例えば上述した中空部内面の母線部分については、明確な投影像が得られる。一方、合焦面に位置しない部分、例えば被計測部材の非直角部については、明確な投影像が得られず、ボケた像となる。従って、これら中空部内面(母線部分)の投影像および非直角部の投影像から、当該中空部内面および非直角部の接続部分(境界)、換言すれば非直角部の一端が、分かる。また、参照用面についても、合焦面に位置するので、明確な投影像が得られる。従って、この参照用面の投影像と非直角部の投影像とから、これら参照用面と非直角部との境界、換言すれば参照用面とベース部の支持面との成す角部の位置が、分かる。この角部の位置は、投影像上で、非直角部の他端の位置と重なる。よって、投影像上で、この角部の位置と上述の非直角部の一端の位置との間の距離を測定することにより、当該非直角部の両端間の寸法、厳密には被計測部材の平面部に直角な方向における言わば奥行き寸法を、求めることができる。
【0016】
さらに、この第2の発明では、上述の反射鏡が、露出空間を形成する壁面、換言すれば挿入部そのものに、所定の処理を施すことによって、形成されている。ここで言う所定の処理とは、例えば鏡面研磨処理や、アルミニウム蒸着処理等のことを言う。
【0017】
なお、参照用面は、中空部の内面と同様の表面状態であるのが、望ましい。即ち、これら参照用面と中空部内面とが互いに同様の表面状態であると、これらの間に挟まれた非直角部の両端の像が、投影像上でより分かり易くなる。
【0018】
第3の発明は、第1の発明の言わば幅方向計測治具と、第2の発明の言わば奥行き方向計測治具と、が取り付けられるスライドテーブルを、備えたものである。そして、このスライドテーブルは、これをスライドさせることによって、当該幅方向計測治具および奥行き方向計測治具をそれぞれの使用位置、つまり寸法測定を行うのに適当な所定の位置に、選択的に設置することができるように構成されている。
【0019】
即ち、第3の発明では、幅方向計測治具および奥行き方向計測治具の両方が備えられているので、幅方向の寸法測定および奥行き方向の寸法測定の両方に対応することができる。また、いずれの計測治具を用いて寸法測定を行うのかは、スライドテーブルをスライドさせることによって、任意に選択することができる。
【発明の効果】
【0020】
第1の発明によれば、被計測部材の平面部と中空部内面との間に形成された非直角部の幅寸法を、測定することができる。そして、この測定の際に、被計測部の中空部に挿入部が挿入されるが、この挿入部は、柱状の頭部とこの頭部の一端面に突設されたネジ部とを有するネジ状部材の当該頭部そのものによって形成されている。従って、この挿入部と同様の作用を担う上述の従来の幅方向計測治具における短円柱体に比べて、当該挿入部の寸法を小さくすることができ、ひいてはより小型の(中空部の寸法が小さい)被計測部材に対応することができる。また、挿入部とこれをベース部に固定するための手段であるネジ部とが1つのネジ状部材によって一体形成されているので、短円柱体とは別個に固定用のネジを必要とする従来の幅方向計測治具に比べて、治具全体を極めて簡単かつ安価に構成することができる。
【0021】
第2の発明によれば、被計測部材の平面部と中空部内面との間に形成された被直角部の奥行き寸法を、測定することができる。そして、この測定の際に、反射鏡を有する挿入部が、被計測部の中空部に挿入される。ここで、当該反射鏡は、挿入部そのもの(露出空間の壁面)によって形成されている。従って、挿入部と同様の作用を担う上述の従来の奥行き方向計測治具における短円柱状部材とは異なり、単体の平面反射鏡を内蔵させる必要がないので、その分、当該挿入部の寸法を小さくすることができ、ひいてはより小型の被計測部材に対応することができる。また、治具全体の構成が極めて簡単かつ安価になる。
【0022】
第3の発明によれば、幅方向計測治具および奥行き方向計測治具の両方が備えられており、スライドテーブルをスライドさせるだけで、いずれの計測治具を用いて測定を行うのかを任意に選択することができる。従って、幅方向の寸法測定および奥行き方向の寸法測定を、容易かつ迅速に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明の一実施形態について、図1から図7を参照して説明する。
【0024】
この実施形態では、例えば図1に示すような概略円筒形の玉軸受内輪10が、被計測部材とされる。即ち、この玉軸受内輪10は、平坦な両端面12および14と、これらの両端面12および14に開口し、かつ当該両端面12および14に対して直角な内面16を有する開口形状が円形の内孔18と、を備えている。また、一端面12側(図1において下方側)に位置する内孔18の開口部には、その周縁にわたって、非直角部としてのアール部20が、形成されている。そして、このアール部20の寸法、詳しくは一端面12に沿う方向(換言すれば玉軸受内輪10の半径方向)における言わば幅寸法Wと、当該一端面12に直角な方向(換言すれば玉軸受内輪10の軸方向)における言わば奥行き寸法Dとが、次に説明する投影機30によって、測定される。なお、アール部20の幅寸法Wおよび奥行き寸法Dは、玉軸受内輪10の大きさ(特に内孔18の直径(内径)φs)にもよるが、概ね0.3[mm]〜1.0[mm]である。
【0025】
投影機50は、図2に示すように、土台部52と、この土台部52の上方に設けられたヘッド部54と、を有している。そして、土台部52の前面に当たる部分(図2において右側の部分)には、傾斜した試料設置台56が設けられており、この試料設置台56には、水平方向に沿ってスライド可能なスライドテーブル100が取り付けられている。さらに、このスライドテーブル100には、後述する幅方向計測治具200および奥行き方向計測治具300が取り付けられており、これらの幅方向計測治具200および奥行き方向計測治具300に、被計測部材である上述の玉軸受内輪10が選択的に装着される。
【0026】
例えば、幅寸法Wの測定時には、幅方向計測治具200に玉軸受内輪10が装着される。そして、スライドテーブル100がスライドすることによって、当該幅寸法方向治具200は、その使用位置、つまり幅寸法Wを測定するのに適した所定の位置に、設置される。一方、奥行き寸法Dの測定時には、奥行き方向計測治具200に玉軸受内輪10が装着される。そして、スライドテーブル100がスライドすることによって、当該奥行き方向計測治具200は、その使用位置、つまり奥行き寸法Dを測定するのに適した所定の位置に、設置される。
【0027】
このようにしていずれかの計測治具200または300に玉軸受内輪10が装着されると共に、当該玉軸受内輪10が装着された計測治具200または300がその使用位置に設置され、この状態で、投影機50に電源が投入される(例えば図示しない電源スイッチがONされる)と、図1に実線の矢印58,58,…で示すように、当該投影機30内に設けられた図示しない同軸落射方式の光源から玉軸受内輪10に向けて照明光が照射される。この照明光58,58,…は、玉軸受内輪10の表面によって反射されて、この反射光は、図1に点線の矢印60で示すように、投影レンズ62と3つの平面反射鏡64,66および68とを含む光学系を介して、ヘッド部54の前面に設けられたスクリーン70に照射される。これによって、当該スクリーン70に、玉軸受内輪10の投影像、厳密には後述する観測対象領域の投影像が、映し出される。そして、この投影像から、上述の幅寸法Wまたは奥行き寸法Dが測定される。なお、図には示さないが、スクリーン70には、投影レンズ62の倍率に応じた目盛りが付されており、この目盛りを利用して当該幅寸法Wおよび奥行き寸法Dを測定することもできる。
【0028】
さて、幅方向計測治具200は、例えば図3に示すような構成とされている。即ち、当該幅方向計測治具200は、方形平板状のベース部202と、このベース部202の上面204から当該上面204に対して直角な方向に突出する円柱状の挿入部206と、を有している。また、ベース部202には、その上面204から下面208にわたって貫通するように、概略楕円形の観測孔210が、穿設されている。そして、この観測孔210の周縁の一部を覆うように、挿入部206が、ベース部202に固定されている。
【0029】
ここで、挿入部206は、ネジ状の部材212によって形成されている。厳密に言えば、当該ネジ状部材212は、円柱状の頭部と、この頭部の一端面から当該頭部の長さ方向に沿って突設されたネジ部(雄ネジ)214と、を有しており、このうちの頭部によって挿入部206が構成されている。なお、挿入部206の直径(外径)φaは、ネジ部214の直径(ネジ径)よりも小さく、例えば、当該挿入部206の直径φaはφa=5[mm]とされており、ネジ部214のネジ径はM2.6とされている。また、挿入部206の高さ寸法Haは、少なくとも玉軸受内輪10のアール部20の奥行き寸法Dよりも大きく、例えばHa=8[mm]とされている。そして、ベース部202には、ネジ部214が螺合されるネジ孔(雌ネジ)216が設けられており、この螺合をもって、挿入部206を含むネジ状部材212全体が、当該ベース部202に固定される。このとき、挿入部206の一端面、詳しくは当該一端面のうちネジ部214が設けられていない部分の一部218が、上述の如く観測孔210の周縁の一部を覆う状態になり、換言すれば観測孔210内に露出した状態になる。この露出部分218は、ベース部202の上面204を含む平面と一致し、かつ当該上面204とは反対側(ベース部202の下面208側)に向いている。そして、この露出部分218は、後述するように幅寸法Wの測定時に参照される参照用平面となる。
【0030】
さらに、ベース部202の適宜箇所(3箇所)には、当該ベース部202を含む幅方向計測治具200全体をスライドテーブル100にネジ止めするためのネジ挿通用の貫通孔220,220,…が、設けられている。そして、このベース部202の厚さ寸法tは、例えばt=3[mm]とされている。
【0031】
このように構成された幅方向計測治具200は、スライドテーブル100と共に投影機50(試料設置台56)に取り付けられることによって、図4(a)に示すように、傾斜した状態で設置される。詳しくは、ベース部202の上面204が斜め上方を向き、かつ挿入部206の上方側に観測孔210が位置するように、設置される。そして、スライドテーブル100がスライドすることによって、当該幅方向計測治具200は、その使用位置に設定される。このとき、ベース部202の上面204が、投影機50(投影レンズ62)による合焦面に位置する。そして、このように使用位置に設置された幅方向計測治具200に対して、玉軸受内輪10が、次のように装着される。
【0032】
即ち、玉軸受内輪10は、アール部20が形成されている側から内孔18に幅方向計測治具200の挿入部206が挿入されることによって、当該幅方向計測治具200に装着される。これにより、玉軸受内輪10の一端面12が、ベース部202の上面204(観測孔210が設けられている部分を除く)に面接触する。これと同時に、当該玉軸受内輪10の内面16の一部(母線部分)が、挿入部206の側壁222の一部(母線部分)に直線的に当接する。この状態は、玉軸受内輪10の自重によって、自然に形成され、かつ維持される。
【0033】
そして、このように玉軸受内輪10が装着されることによって、投影レンズ62側から、つまり図4(a)に矢印400で示す言わば観測方向(照明光の照射方向)に従う方向から、観測孔210を介して、当該玉軸受内輪10が観測可能となる。従って、この状態で、投影機50に電源が投入されると、当該観測孔210を介して観測可能な領域、つまり玉軸受内輪10の一端面12の一部と上述した参照用平面218とこれらの間に挟まれたアール部20とを含む言わば観測対象領域、の投影像が、スクリーン70に写し出される。
【0034】
ここで、図4(b)を参照して、当該観測対象領域のうち、例えば玉軸受内輪10の一端面12については、上述したようにベース部204の上面204に面接触する。この上面204は、言わば基準面としての合焦面に位置するので、当然に、玉軸受内輪10の一端面12もまた、当該合焦面に位置する。従って、かかる合焦面に位置する一端面12については、明確(いわゆるシャープ)な投影像が得られる。これに対して、アール部20については、合焦面に位置せず、しかも観測方向に対して傾斜しているので、明確な投影像が得られず、言わばボケた像になる。従って、これら一端面12の投影像とアール部20の投影像とから、当該一端面12とアール部20との接続部分(境界)、換言すればアール部20の一端22が、分かる。
【0035】
そして、参照用平面218についても、玉軸受内輪10の一端面12と同様、合焦面に位置するので、明確な投影像が得られる。従って、この参照用平面218の投影像と上述のアール部20の投影像とから、当該参照用平面218とアール部20との境界、換言すれば参照用平面218と挿入部206の側壁(上述した母線部分)222との成す角部224の位置が、分かる。この角部224の位置は、投影像上で、アール部20の他端24の位置と重なる。よって、投影像上で、この角部224の位置と上述したアール部20の他端24の位置との間の距離を測定することによって、当該アール部20の両端22および24間の寸法、つまり幅寸法Wを、求めることができる。
【0036】
一方、奥行き方向計測治具300は、図5に示すような構成とされている。即ち、当該奥行き方向計測治具300は、鍔状のフランジ(鍔)302を有する概略円盤状(換言すれば短円柱状)のベース部304と、このベース部304の上面306から当該上面306に対して直角な方向に突出する概略円柱状の挿入部308と、を有している。このうち、ベース部304には、その中心部分を上面306から下面310にわたって貫通するように、開口形状が円形の観測孔312が、穿設されている。
【0037】
そして、挿入部308は、これを上方から見たときに、当該挿入部308の側壁314が上述の観測孔312の内壁316に一致するように、形成されている。さらに、この挿入部308の下方部分には、斜め下45度の方向を向いた傾斜面318が形成されている。この傾斜面318は、観測孔312の内部にも連続しており、当該傾斜面318には、鏡面加工が施されている。つまり、観測孔312の上方側の開口部付近に、斜めに傾けられた反射鏡318が設けられた構成となっている。
【0038】
なお、挿入部308の直径(外径)φbは、例えば幅方向計測治具200側の挿入部206の直径φaと略同等とされており、つまりφb=5[mm]とされている。そして、ベース部304の上面306から反射鏡(傾斜面)318の上端までの寸法Hbは、少なくとも玉軸受内輪10のアール部20の奥行き寸法Dよりも大きい寸法とされており、例えばHb=3[mm]とされている。
【0039】
また、挿入部308は、概略L字状の切削加工部材320によって形成されている。この切削加工部材320は、挿入部308と、当該挿入部308に対して直角に設けられた固定部322と、を有している。そして、挿入部308をベース部304の上面306から突出させた状態で、固定部322が2本のネジ324および324によってベース部304に固定されている。なお、上述の反射鏡318を形成するための鏡面加工は、当該切削加工部材320がベース304に固定される前に施される。つまり、切削加工部材320単体の状態で施される。さらに、ベース部304のフランジ302の適宜箇所(2箇所)には、当該ベース部304を含む奥行き方向計測治具300全体をスライドテーブル100にネジ止めするためのネジ挿通用の貫通孔326および326が、設けられている。
【0040】
このように構成された奥行き方向計測治具300は、スライドテーブル100と共に投影機50(試料設置台56)に取り付けられることによって、図6(a)に示すように、傾斜した状態で設置される。詳しくは、ベース部304の上面306が斜め上方を向き、かつ反射鏡318の上端が上方に位置するように、設置される。そして、スライドテーブル100がスライドすることによって、当該奥行き方向計測治具300は、その使用位置に設定される。このとき、観測孔312の内壁316のうち稜線(図6(a)において上方側に位置する当該内壁316を表す線)に相当する部分(母線部分)が、反射鏡318を介しての投影機50の合焦面に位置する。なお、この合焦面に位置する内壁316の稜線部分は、奥行き寸法Dの測定の際に参照される参照用面を形成する。また、挿入部308の側壁314のうち稜線(図6(a)において上方側に位置する当該側壁314を表す線)に相当する部分(母線部分)も、合焦面に位置する。そして、このように使用位置に設置された奥行き方向計測治具300に対して、玉軸受内輪10が、次のように装着される。
【0041】
即ち、玉軸受内輪10は、アール部20が形成されている側から内孔18に奥行き方向計測治具300の挿入部308が挿入されることによって、当該奥行き方向計測治具300に装着される。これにより、玉軸受内輪10の一端面12が、ベース部304の上面306に面接触する。これと同時に、当該玉軸受内輪10の内面16の一部(母線部分)が、挿入部308の側壁314のうち上述した稜線部分に当接する。この状態は、玉軸受内輪10の自重によって、自然に形成され、かつ維持される。
【0042】
そして、このように玉軸受内輪10が装着されることによって、合焦面に位置する部分、つまり玉軸受内輪10の内面16の一部と観測孔312の内壁316の一部とを含む言わば観測対象領域が、当該玉軸受内輪10の内孔18の一部の空間328および観測孔312を介して、ベース部304の下面310側に露出される。また、当該空間328および観測孔312には、上述の反射鏡318が設けられており、この反射鏡318は、合焦面と図6(a)に矢印400で示す観測方向との両方に対して45度の角度を成しており、換言すれば当該合焦面を光学的に観測方向400に正対させている。従って、かかる合焦面に位置する観測対象領域は、反射鏡318を介して、観測方向400に従う方向から観測可能となる。そして、この状態で、投影機50に電源が投入されると、当該観測対象領域の投影像が、スクリーン70に写し出される。
【0043】
ここで、図6(b)を参照して、観測対象領域のうち、基準面としての合焦面に位置する部分、例えば観測孔312の内壁316によって形成された上述の参照用面(稜線部分)については、明確な投影像が得られる。これに対して、当該参照用面316に隣接するアール部20については、合焦面に位置せず、しかも反射鏡318を介しての観測方向に対して斜めに傾いているので、明確な投影像が得られず、ボケた像になる。従って、これら参照用面316の投影像とアール部20の投影像とから、当該参照用面316とアール部20との境界、換言すれば参照用面316とベース部304の上面306との成す角部330の位置が、分かる。この角部330の位置は、投影像上で、アール部20の一端22の位置と重なるので、当該角部330の位置をアール部20の一端22の位置と見なすことができる。
【0044】
そして、玉軸受内輪10の内面16の上述した稜線部分もまた、合焦面に位置するので、その投影像が明確に写し出される。従って、この稜線部分16の投影像と上述のアール部20の投影像とから、これら稜線部分16とアール部20との接続部分(境界)、つまり当該アール部20の他端24が、分かる。よって、投影像上で、このアール部20の他端24の位置と上述した角部330の位置との間の距離を測定することにより、当該アール部20の両端22および24間の寸法、つまり奥行き寸法Dを、求めることができる。
【0045】
なお、上述の角部330は、観測対象領域の中央に設定されている。そして、観測方向400に対して直角な方向における当該角部330から反射鏡318までの距離Lは、上述した幅方向計測治具200のベース部202の厚さ寸法tと同等(L=t)とされている。
【0046】
さらに、スライドテーブル100は、図7に示すような構成とされている。即ち、スライドテーブル100は、投影機50の試料設置台56に固定される概略方形平板状のベース板102と、このベース板102上に互いに距離を置いて平行を成しかつ水平方向に沿って延伸するように設けられた2本のレール104および104と、この2本のレール104および104に沿ってスライドするテーブル部106と、を有している。
【0047】
テーブル部106は、スペーサ108,108,…を介して重ねられた2枚の平板110および112を有しており、このうちの下側の平板110に、レール104および104と係合する複数(ここでは3個)の車輪114,114,…が、設けられている。そして、上側の平板112に、幅方向計測治具200および奥行き方向計測治具300が、概ね横並びの状態で取り付けられる。
【0048】
具体的には、幅方向計測治具200は、その下面208を平板112の上面116に面接触させた状態で、当該平板112の右寄りの部分に固定されている。なお、この固定は、上述した貫通孔220,220,…を介してのネジ止めによる。そして、平板112には、幅方向計測治具200(ベース部202)の観測孔210に対応する当該観測孔210よりも少し大きめの観測孔118が、設けられている。また、下側の平板110にも、同様の貫通孔120が、設けられている。
【0049】
一方、奥行き方向計測治具300は、その上面306が平板112の上面116と同じ高さになるように、当該平板112の左寄りの部分に取り付けられている。このため、平板112の左寄りの位置には、奥行き方向計測治具300のベース部304(円柱部分)を嵌合させるための嵌合孔122が設けられている。そして、奥行き方向計測治具300は、平板112の下面124側からこの貫通孔122にベース部304を嵌合させた状態で、当該平板112に固定されている。なお、この固定は、上述した貫通孔326および326を介してのネジ止めによる。そして、このように奥行き方向計測治具300の上面306の位置を平板112の上面116の位置に合わせることによって、当該奥行き方向計測治具300の上面306の位置が幅方向計測治具200の上面204の位置よりも上述した距離L(=t)だけ低くなり、この結果、各計測治具200および300間で基準面としての合焦面が一様に揃えられる。さらに、下側の平板110には、奥行き方向計測治具300(ベース部304)の観測孔312に対応する当該観測孔312よりもすこし大きめの観測孔126が、設けられている。
【0050】
このようにして各計測治具200および300が取り付けられたテーブル部106が、例えば左側にスライドされると、幅方向計測治具200が、その使用位置、例えばベース板102(試料設置台56)上の略中央の位置に移動される。一方、テーブル部106が右側にスライドされると、奥行き方向計測治具300が、その使用位置、例えば幅方向計測治具200と同様、ベース板102上の略中央の位置に設定される。なお、図7は、奥行き方向計測治具300がその使用位置に設定されている状態を、示す。また、ベース板102には、各計測治具200および300の使用位置を決定するため、つまり位置決め用のストッパ128および130が、設けられている。さらに、ベース板102の略中央部分には、観測用の貫通孔132が、設けられている。
【0051】
以上のように、この実施形態によれば、スライドテーブル100(テーブル部106)をスライドさせるだけで、いずれの計測治具200または300を使用するのかを選択することができる。つまり、アール部20の幅寸法Wの測定および奥行き寸法Dの測定の両方に、容易かつ迅速に対応することができる。
【0052】
そして、幅方向計測治具200については、その挿入部206の直径φaが、5[mm]とされている。従って、この挿入部206が挿入される玉軸受内輪10の内孔18の直径φsは、少なくとも当該5[mm]よりも大きければよく、例えば10[mm]であってもよい。つまり、この実施形態の幅方向計測治具200によれば、従来の幅方向計測治具では対応することができなかった中空部の直径が10[mm]以下の小型の被計測部材にも、十分に対応することができる。これは、挿入部206が、その固定手段としてのネジ部214を有するネジ状部材212(頭部)そのものによって形成されているからである。従って、当該ネジ状部材212として(挿入部206の直径φaが)より小さいものを採用すれば、より小型の被計測部材に対応することができ、例えばφs=2[mm]程度まで対応することができる。また、上述の如く挿入部206とその固定手段としてのネジ部214とが一体に形成されているので、例えばこれら挿入部206と固定手段とが別個に設けられる場合に比べて、幅方向計測治具200全体の構成をより簡素化し、かつ低コスト化することができる。
【0053】
また、奥行き方向計測治具200についても、その挿入部308の直径φbが5[mm]とされているので、従来の奥行き方向計測治具に比べてより小型の被計測部材に対応することができる。これは、観測方向400を言わば屈曲させるための反射鏡318が、挿入部308(切削加工部材320)そのものによって形成されているからである。従って、当該反射鏡318を形成することができる範囲内で挿入部308を小型化すれば、さらに小型の被計測部材に対応することができ、例えばφs=2[mm]程度まで対応することができる。また、従来の奥行き方向計測治具とは異なり、単体の平面反射鏡を設ける必要がないので、奥行き方向計測治具300全体の構成をより簡素化し、かつ低コスト化することができる。
【0054】
なお、この実施形態においては、被計測部材として玉軸受内輪10を例に挙げたが、これに限らない。即ち、平面部と、この平面部に開口するように設けられ当該平面部に直角な内面を有する中空部と、を備えたものであればよい。
【0055】
また、アール部20に限らず、例えば面取り部等の他の態様の非直角部の寸法を、測定することもできる。
【0056】
さらに、幅方向計測治具200については、観測孔210の周縁の一部を覆うように挿入部206を設け、この観測孔210を介して当該挿入部206の一端面218の一部(参照用平面)を含む観測対象領域が観測されるようにしたが、これに限らない。例えば、ベース部202の一側縁の一部を覆うように(つまり当該一側縁ギリギリの部分に)挿入部206を設け、このベース部202の一側縁を介して当該参照用平面206を含む観測対象領域が観測されるようにしてもよい。
【0057】
また、この実施形態におけるネジ状部材212は、例えば切削加工によって特別に形成されたものであるが、これに限らない。即ち、当該ネジ状部材212に代えて、例えば挿入部206と同様の機能を奏する(言わば概略円筒状の)頭部を備えた市販のネジ、或いはネジ付きスペーサ等を、採用してもよい。
【0058】
そして、ネジ状部材212に代えて、言わばピン状の部材を採用してもよい。即ち、ベース部202にネジ止めされるのではなく、嵌合によって当該ベース部202に固定されるピン状部材によって、挿入部206を形成してもよい。ただし、この場合も当然に、上述した参照用平面218が形成されるようにする。
【0059】
また、参照用平面を形成する挿入部206の一端面218を、玉軸受内輪10の一端面12と同様の表面状態に加工してもよい。このようにすれば、これら参照用平面206と玉軸受内輪10の一端面12との間に挟まれたアール部20の両端22および24が、投影像上でより明確になり、当該アール部20の幅寸法Wを測定するのに有効である。
【0060】
そして、奥行き方向計測治具300については、反射鏡318の上にさらにアルミニウム蒸着等の表面処理を施すことによって、当該反射鏡318の反射率を向上させてもよい。また、反射鏡318の上に耐腐食性の被膜を形成することによって、当該反射鏡318の耐食性を向上させてもよい。
【0061】
さらに、上述した参照用面を形成する観測孔312の内壁316を、玉軸受内輪10の内面16と同様の表面状態に加工してもよい。このようにすれば、これら参照用面316と内面16との間に挟まれたアール部20の両端22および24が、投影像上でより明確になり、当該アール部20の奥行き寸法Dを測定するのに有効である。
【0062】
そして、スライドテーブル100の具体的な構造は、図7に示したものに限らず、これ以外の態様であってもよい。
【0063】
また、投影機50として、スクリーン70の代わりにカメラを備えたものにも、この発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の一実施形態における被計測部材としての玉軸受内輪の構造を示す縦断面図である。
【図2】同実施形態における投影機の全体構成を示す概略縦断側面図である。
【図3】同実施形態における幅方向計測治具の概略構成を示す図である。
【図4】図3の幅方向計測治具に図1の被計測部材が装着されている状態を示す図解図である。
【図5】同実施形態における奥行き方向計測治具の概略構成を示す図である。
【図6】図5の奥行き方向計測治具に図1の被計測部材が装着されている状態を示す図解図である。
【図7】同実施形態におけるスライドテーブルの概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
10 玉軸受内輪
12 一端面
16 内面
18 内孔
20 アール部
50 投影機
100 スライドテーブル
200 幅方向計測治具
202 ベース部
204 上面
206 挿入部
210 観測孔
212 ネジ状部材
218 参照用平面
222 側壁
224 角部
300 奥行き方向計測治具
304 ベース部
306 上面
308 挿入部
312 観測孔
314 側壁
316 参照用面
318 反射鏡
328 空間
330 角部
400 観測方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面部と該平面部に開口するように設けられ該平面部に直角な内面を有する中空部とを備えた被計測部材の該平面部と該内面とを接続する非直角部の寸法を測定するための投影機用の計測治具において、
上記投影機による観測方向に対して直角を成しかつ該観測方向と同じ方向に向くと共に上記被計測部材の上記平面部と面接触する支持面を有するベース部と、
上記ベース部に固定されており上記支持面から上記観測方向と同じ方向に向かって突出すると共に上記被計測部材の上記中空部に挿入される柱状の挿入部と、
を具備し、
上記支持面を含む面が上記投影機の合焦面に設定され、
上記挿入部の側壁は上記観測方向に沿う方向おいて上記中空部の上記内面と直線的に当接する当接部を形成し、
上記合焦面に位置しかつ上記観測方向と反対の方向に向くと共に上記当接部との間で直角な角部を形成するように該当接部から上記挿入部の内側に向かって形成された参照用平面をさらに備え、
上記ベース部は、上記角部と、上記被計測部材の上記平面部と上記非直角部との接続部分のうち上記合焦面に沿って該角部に対向する部分と、を含む観測対象領域を、上記観測方向に従う方向から観測可能とする状態に構成され、
上記挿入部は、柱状の頭部と該頭部の一端面から該頭部の長さ方向に沿って突出したネジ部とを有するネジ状部材の該頭部によって形成され、かつ該ネジ部が上記ベース部に螺着されることによって該ベース部に固定され、
上記ネジ部の突出方向を横切る該ネジ部の断面が上記頭部の一端面よりも内側にあり、
上記頭部の一端面によって上記参照用平面が形成されたこと、
を特徴とする投影機用計測治具。
【請求項2】
上記参照用平面は上記被計測部材の上記平面部と略同様の表面状態とされた、請求項1に記載の投影機用計測治具。
【請求項3】
平面部と該平面部に開口するように設けられ該平面部に直角な内面を有する中空部とを備えた被計測部材の該平面部と該内面とを接続する非直角部の寸法を測定するための投影機用の計測治具において、
上記投影機による観測方向に対して直角を成しかつ該観測方向と同じ方向に向くと共に上記被計測部材の上記平面部と面接触する支持面を有するベース部と、
上記ベース部の上記支持面側において上記観測方向と同じ方向に向かって突出すると共に上記被計測部材の上記中空部に挿入される挿入部と、
を具備し、
上記挿入部は上記中空部の上記内面と当接する当接部を備え、
上記ベース部は上記支持面に開口するように設けられ該支持面に直角な内壁を有すると共に上記観測方向に沿う方向に貫通する観測孔を備え、
上記観測孔の内壁は、上記当接部を含みかつ上記観測方向に沿う方向に平行な面と同一平面上に位置すると共に上記中空部の上記内面のうち該当接部に当接している部分と同じ方向に向いた参照用面を形成し、
上記参照用面を含む面が上記投影機の合焦面に設定され、
上記参照用面と上記支持面とで形成される直角な角部と、上記中空部の内面と上記非直角部分との接続部分のうち上記合焦面に沿って該角部に対向する部分と、を含む観測対象領域を、上記観測孔を介して外部に露出させる状態に上記挿入部内に設けられた露出空間と、
上記露出空間に設けられ上記観測方向に従う方向から上記観測孔および該露出空間を介して上記観測対象領域を観測可能とする状態に上記合焦面を光学的に該観測方向に正対させる反射鏡と、
をさらに備え、
上記反射鏡は上記露出空間を形成する壁面に所定の処理を施すことによって該壁面と一体に形成されたこと、
を特徴とする投影機用計測治具。
【請求項4】
上記参照用面は上記中空部の上記内面と略同様の表面状態とされた、請求項3に記載の投影機用計測治具。
【請求項5】
請求項1に記載の投影機用計測治具と請求項3に記載の投影機用計測治具とが取り付けられ、スライドすることによって該請求項1に記載の投影機用計測治具と該請求項3に記載の投影機用計測治具とをそれぞれの使用位置に選択的に設置可能とするスライドテーブルを備える、投影機用計測治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−349605(P2006−349605A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179055(P2005−179055)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000192567)神港精機株式会社 (54)
【Fターム(参考)】