説明

抗アレルギー性化粧料組成物及びその製造方法

【課題】 比較的安価に製造することができ、安全性が高く、優れた抗アレルギー効果及び保湿効果を有する抗アレルギー性化粧料組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 抗アレルギー性化粧料組成物の有効成分として、ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料に乳酸菌及び必要に応じて酵母を添加して発酵して得られる発酵物、あるいはその上清を含有させる。上記抗アレルギー性化粧料組成物は、ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を粉砕して溶液状にし、これに乳酸菌及び必要に応じて酵母を添加して発酵させることにより得ることができる。前記ソバは、ソバの新若芽であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー性を有する化粧料組成物に関し、詳しくは、ソバの葉、茎、根等に、乳酸菌及び必要に応じて酵母を添加して発酵させた発酵物を有効成分とする化粧料組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外食や加工食品を中心とした食生活、大気汚染の悪化、アレルゲン物質への暴露等の様々な原因により、敏感肌、皮膚かぶれ、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性皮膚炎に悩む人が増加している。
【0003】
このようなアレルギー性皮膚炎の治療には、ステロイド剤や非ステロイド剤等の外用製剤、抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤等の服用等が行われている。これらの薬剤は優れた抗アレルギー効果を有するものの、副作用も強いため、長期間の使用は好ましいものとは言えない。
【0004】
そのため、より安全性が高く、日常的に使用しても副作用等の心配のない天然物由来の成分を有効成分とする抗アレルギー性皮膚外用剤や化粧料組成物が数多く提案されている。例えば、ソバは、日本人の食生活の中で古くから親しまれた食材であるが、このソバの抽出物を利用した外用剤として、下記特許文献1には、ゴマ、レンギョウ、シナレンギョウ、チョウセンレンギョウ、チョウセンゴミシ、マツブサ、エンジュ、イヌエンジュ、ハネミイヌエンジュ、シャジクソウ属に属する植物、ハリエンジュ属に属する植物、レンゲソウ、ソバ、ダッタンソバ、シャクチリソバ、ウラジロガシ以外のコナラ属に属する植物,ヤマモモ及びシロヤマモモの各抽出物より選ばれる1種又は2種以上を含有して成る、抗アレルギー性皮膚外用剤が開示されている。
【特許文献1】特開平11−180885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、天然物由来の成分を有効成分とする従来の抗アレルギー性皮膚外用剤や化粧料組成物は、その抗アレルギー効果が十分満足できるとは言い難く、より高い抗アレルギー効果を有するものが求められていた。
【0006】
また、天然物を原料とする場合、原料の安定した確保の問題の他、原料からの有効成分の抽出に多量の溶媒が必要であったり、手間がかかるため、コストが高くなってしまうという問題もあった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、比較的安価に製造することができ、安全性が高く、優れた抗アレルギー効果及び保湿効果を有する抗アレルギー性化粧料組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ソバの生理活性効果を研究する過程で、ソバ全草を粉砕して乳酸発酵して得られる発酵物が優れた抗アレルギー効果及び保湿効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一つは、ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を乳酸菌により発酵して得られる発酵物を有効成分として含有することを特徴とする抗アレルギー性化粧料組成物を提供するものである。
【0010】
本発明の抗アレルギー性化粧料組成物は、ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を乳酸菌により発酵して得られる発酵物を有効成分として含有することにより、未発酵のソバの抽出物に比べて優れた抗アレルギー効果を有しており、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性皮膚炎に対して高い治療効果が期待できる。また、優れた保湿効果も有しているので、乾燥肌の改善効果も期待できる。
【0011】
本発明の抗アレルギー性化粧料組成物においては、ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を酵母及び乳酸菌により発酵して得られる発酵物を有効成分としてもよい。酵母によるアルコール発酵を行うことにより、有害菌が除去されるので殺菌温度を低下させることができ、更に酵母の代謝物によって乳酸菌の発酵を促進させることができる。
【0012】
また、本発明の抗アレルギー性化粧料組成物は、前記発酵物の上清を有効成分として含有することが好ましい。これによれば、不溶物を含まないので様々な化粧料に配合することができる使い勝手のよい抗アレルギー性化粧料組成物を提供できる。
【0013】
また、前記ソバは、ソバの新若芽であることが好ましい。これによれば、より優れた抗アレルギー効果及び保湿効果を有する抗アレルギー性化粧料組成物を提供できる。
【0014】
更に、前記発酵物は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)を用いて乳酸発酵させたものであることが好ましい。ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)は、植物乳酸菌とも呼ばれており、ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を効率よく発酵させることができるので、さらに優れた抗アレルギー効果及び保湿効果を有する抗アレルギー性化粧料組成物を提供できる。
【0015】
本発明のもう一つは、ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を粉砕して溶液状にする粉砕工程と、得られた粉砕物に乳酸菌を添加して発酵させる発酵工程とを含むことを特徴とする抗アレルギー性化粧料組成物の製造方法を提供するものである。
【0016】
本発明の製造方法によれば、安全性が高く、優れた抗アレルギー効果及び保湿効果を有する抗アレルギー性化粧料組成物を安価に製造することができる。
【0017】
本発明の製造方法においては、ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を粉砕して溶液状にする粉砕工程と、得られた粉砕物に酵母及び乳酸菌を添加して発酵させる発酵工程とを含むことが好ましい。これによれば、酵母によるアルコール発酵によって、有害菌が除去されるので殺菌温度を低下させることができ、更に酵母の代謝物によって乳酸菌の発酵を促進させることができる。
【0018】
本発明の製造方法においては、前記発酵工程の後、得られた発酵物から上清を回収する工程を含むことが好ましい。これによれば、様々な化粧料に配合することができる使い勝手のよい抗アレルギー性化粧料組成物を得ることができる。
【0019】
また、前記ソバとして、ソバの新若芽を用いることが好ましい。これによれば、より優れた抗アレルギー効果及び保湿を有する抗アレルギー性化粧料組成物を得ることができる。
【0020】
更に、前記乳酸菌として、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)を用いることが好ましい。これによれば、前述したように、ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を効率よく発酵させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料に、乳酸発酵及び必要に応じて酵母を添加して発酵させることにより得られる発酵物を有効成分として含有するので、未発酵のソバの抽出物に比べて優れた抗アレルギー効果を有しており、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性皮膚炎に対して高い治療効果が期待できる。また、優れた保湿効果も有しているので、乾燥肌の改善効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の抗アレルギー性化粧料組成物の原料として用いられるソバは、タデ科ソバ属の一年生草本であり、その葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部が用いられ、ソバの葉、茎及び根を含む全草を用いることもできる。本発明においては、ソバの新若芽の葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部、あるいはソバの新若芽の全草が好ましく用いられる。なお、本発明において、ソバの新若芽(スプラウト)とは、通常、発芽してから5〜14日目のソバを意味し、草丈が5〜20cmのものが好ましく用いられる。また、ソバには、普通ソバ(学名:ファゴピルム・エスクレンツム(Fagopyrum esculentum))の他、ダッタンソバ(学名:ファゴピルム・タータリクム(Fagopyrum tataricum))やシャクチリソバ(宿根ソバ)(学名:ファゴピルム・サイモスム(Fagopyrumcymosum)等があるが、本発明においては上記いずれのソバを用いることができる。
【0023】
また、ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を発酵する際に用いられる乳酸菌としては、ラクトバチルス属やストレプトコッカス属に属する乳酸菌を用いることができる。具体的には、ラクトバチルス属に属する乳酸菌として、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillusacidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillusplantarum)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)等が例示できる。また、ストレプトコッカス属に属する乳酸菌として、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcuslactis)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcusthermophilus)等が例示できる。これらの乳酸菌は、ヨーグルト、乳酸菌飲料、チーズ等の製造に用いられている菌であり、一般に入手可能な菌である。本発明においては、上記乳酸菌の中でも、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillusplantarum、例えばATCC 8014, IFO 3074, IFO 12006, IFO 12011, IFO 12519等)が特に好ましく用いられる。
【0024】
本発明の抗アレルギー性化粧料組成物の有効成分である発酵物は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0025】
ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部、あるいはソバ全草を、65〜80℃のお湯に5〜10分間浸漬して殺菌とブランチングを行った後、必要に応じて適量の水を加えてミキサー等により粉砕して溶液状にする。ブランチングを行うことにより、光過敏症というアレルギー様の症状を引き起こす、葉緑素に由来するフェオフォルバイトの生成を抑えることができる。なお、他の原料として、ソバの実、ソバの柄、ソバの花、糖類等を加えてもよい。例えば、ソバの実や糖類を加えることにより、発酵を促進することができる。
【0026】
得られた溶液を必要に応じて加熱殺菌した後、常法にしたがって培養した乳酸菌の前培養液を添加して乳酸発酵を行う。加熱殺菌は100℃以下で行うことが好ましく、70〜85℃で5〜10分間行うことがより好ましい。また、乳酸発酵は、発酵液のpHが3.5程度になるまで行うことが好ましく、通常、15〜37℃、好ましくは20〜28℃で3〜14日間発酵させる。
【0027】
なお、乳酸発酵する前に、酵母を添加してアルコール発酵させてもよい。アルコール発酵は、粉砕後、適宜加熱殺菌した上記原料に、常法にしたがって培養した酵母の前培養液を添加し、25〜30℃で3〜20日間発酵させればよい。アルコール発酵を行うことにより、有害菌の除去が可能となるので、殺菌温度を低下させることができ、更には、酵母の代謝物により、乳酸菌の発酵を容易に行うことができるようになる。酵母菌としては、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などが使用できる。
【0028】
こうして得られた発酵物は、必要に応じて加熱殺菌(通常、60〜85℃で2〜60分間)した後、そのまま抗アレルギー性化粧料組成物として用いることができる。また、遠心分離等の手段により、該発酵物から不溶物を除去して、その上清を用いることもできる。さらに、ろ過により菌体等を除いた上清を用いることもできる。
【0029】
本発明の抗アレルギー性化粧料組成物は、上記発酵物あるいは該発酵物の上清以外に、他の成分として、化粧料に一般に用いられている成分、例えば、保湿剤、油性成分、界面活性剤、防腐剤、香料等を含むことができる。
【0030】
本発明の抗アレルギー性化粧料組成物は、様々な化粧料に配合することができ、具体的には、化粧水、乳液、クリーム、パック、ローション、入浴剤、石鹸等が例示できる。
【0031】
上記化粧料における本抗アレルギー性化粧料組成物の配合量は、通常、発酵物の固形分換算で1〜10質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0033】
実施例1
ソバの新若芽(葉、茎、根を含む。発芽後10日目)1000gを水洗して、85℃のお湯に20分間浸漬して殺菌とブランチングを行った後、滅菌水2Lを加えてミキサーで粉砕した。これに、乳酸菌(ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum))の前培養液を適量加え、32℃で14日間発酵を行った(発酵終了時の発酵物のpH:3.48)。
【0034】
この発酵物を75℃で30分間殺菌して抗アレルギー性化粧品組成物を得た。また、該発酵液の一部を遠心分離して不溶物を除去し、上清を回収した。
【0035】
試験例1
アトピー性の皮膚疾患をもつボランティア30名を、各群10名ずつ3群に分け、試験群1には、上記実施例1で得られた発酵物を、試験群2には、該発酵物の上清を、それぞれ患部に1日2回塗布してもらった。一方、比較群には、上記実施例1において、乳酸発酵を行う前の原液を同様に患部に塗布してもらった。なお、試験期間は3日間とし、最終日に各ボランティアに患部のかゆみが軽減されたかどうかについてアンケートを行った。その結果を表1に示す。



【0036】
【表1】

【0037】
表1から、比較群に比べて、試験群1、2の方がかゆみが軽減された人の割合が多いことが分かる。したがって、ソバの新若芽の乳酸発酵物の方が、未発酵物に比べて優れた抗アレルギー効果を有していることが分かる。
【0038】
試験例2
牛乳1Lに、乳酸菌(ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei))の前培養液を加え、30℃で72時間発酵させた後、遠心分離(8000rpm)してその上清を回収した。得られた上清を75℃で10分間殺菌して牛乳の乳酸発酵液の上清を調製した。
【0039】
乾燥肌のボランティア40名を、各群10名ずつ4群に分け、試験群1には、上記実施例1で得られた発酵物を、試験群2には、該発酵物の上清を、それぞれ患部に1日2回塗布してもらった。一方、コントロール群には、精製水を、比較群には、上記牛乳の乳酸発酵液の上清を同様に患部に塗布してもらった。なお、試験期間は3日間とし、最終日に各ボランティアに症状の改善度合いについてアンケートを行った。その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2から、試験群1、2は、コントロール群に比べて、乾燥肌の症状が軽減された人の割合が多いことが分かる。また、優れた保湿成分を含むことが知られている牛乳の乳酸発酵液の上清(比較群)と同等以上の乾燥肌の改善効果が得られており、ソバの新若芽の乳酸発酵物、あるいはその上清が、優れた保湿効果を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の抗アレルギー性化粧料組成物は、例えば、化粧水、乳液、クリーム、パック、ローション、入浴剤、石鹸等などの様々な化粧品の原料として利用できる。そして、この化粧料組成物を含有する化粧品を利用することにより、アトピー性皮膚疾患等の予防、治療効果や、保湿性付与効果などが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を乳酸菌により発酵して得られる発酵物を有効成分として含有することを特徴とする抗アレルギー性化粧料組成物。
【請求項2】
ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を酵母及び乳酸菌により発酵して得られる発酵物を有効成分として含有する、請求項1記載の抗アレルギー性化粧料組成物。
【請求項3】
前記発酵物の上清を有効成分として含有する、請求項1又は2に記載の抗アレルギー性化粧料組成物。
【請求項4】
前記ソバは、ソバの新若芽である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の抗アレルギー性化粧料組成物。
【請求項5】
前記発酵物は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)を用いて発酵させたものである、請求項1〜4のいずれか一つに記載の抗アレルギー性化粧料組成物。
【請求項6】
ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を粉砕して溶液状にする粉砕工程と、得られた粉砕物に乳酸菌を添加して発酵させる発酵工程とを含むことを特徴とする抗アレルギー性化粧料組成物の製造方法。
【請求項7】
ソバの葉、茎及び根から選ばれた少なくとも一部を含む原料を粉砕して溶液状にする粉砕工程と、得られた粉砕物に酵母及び乳酸菌を添加して発酵させる発酵工程とを含む、請求項6記載の抗アレルギー性化粧料組成物の製造方法。
【請求項8】
前記発酵工程の後、得られた発酵物から上清を回収する工程を含む、請求項6又は7に記載の抗アレルギー性化粧料組成物の製造方法。
【請求項9】
前記ソバとして、ソバの新若芽を用いる、請求項6〜8のいずれか1つに記載の抗アレルギー性化粧料組成物の製造方法。
【請求項10】
前記乳酸菌として、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)を用いる、請求項6〜9のいずれか一つに記載の抗アレルギー性化粧料組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−76903(P2006−76903A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260610(P2004−260610)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(396020279)三生医薬株式会社 (11)
【Fターム(参考)】