説明

抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対して耐性を示す患者における腫瘍細胞成長を阻害、予防又は低減するための方法及び組成物

【課題】 本発明は、癌治療用の医薬を提供することに関する。
【解決手段】 癌治療用の医薬の製造におけるGP88アンタゴニスト及び抗エストロゲン化合物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対して耐性を示す患者における腫瘍細胞成長を阻害、予防又は低減するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多細胞生物における細胞の増殖及び分化は高度に調節されたプロセスに委ねられている。癌細胞の際立った特徴は、このプロセスに対する制御が無いことであり、増殖及び分化が調節されなくなって、成長が統制されなくなる。正常な細胞と腫瘍細胞とのこの違いを更に良く理解するために、多大な研究努力が行われてきた。研究の焦点の1つの領域は成長因子、より具体的にはオートクリン成長刺激である。
【0003】
成長因子は、成長、分化、移動及び遺伝子発現に関するメッセージを細胞に運ぶポリペプチドである。典型的には、成長因子はある細胞内で産生され、他の細胞に働きかけて増殖を刺激する。しかし、ある悪性細胞(培養中のもの)は、オートクリン成長機構に対して大きなもしくは完全な依存性を示す。このオートクリン作用を保つ(observe)悪性細胞は、他の細胞による成長因子の産生の調節を回避するので、その成長は調節されない。
【0004】
オートクリン成長制御の研究は、細胞成長機構の理解を進め、癌の診断及び治療の重要な進歩につながる。この目的のために、インスリン様成長因子(「IGF1」及び「IGF2」)、ガストリン放出ペプチド(「GRP」)、トランスフォーミング成長因子α及びβ(「TGF-a」及び「TGF-b」)及び上皮成長因子(「EGF」)を含む多数の成長因子が研究された。
【0005】
本発明は、最近発見された成長因子に関する。この成長因子は、腫瘍形成性の高い「PC細胞」、奇形腫由来脂質生成細胞系1246から単離したインスリン依存型変異体の培地中で初めて発見された。この成長因子を本明細書中において「GP88」と呼ぶ。GP88を精製し、構造的に特徴付けた。GP88のアミノ酸配列決定分析は、GP88がマウスグラニュリン(granuline)/エピセリン(epithelin)前駆体とアミノ酸配列類似性を有することを示す。
【0006】
グラニュリン/エピセリン(「grn/epi」)は6kDaのポリペプチドであり、2重システインリッチ・ポリペプチド(double cysteine rich polypeptide)の新規ファミリーに属する。米国特許第5,416,192号(Shoyabら)は、6kDaエピセリン、特にエピセリン1及びエピセリン2に関する。Shoyabによると、これらのエピセリンはいずれも共通の63.5kDa前駆体によってコードされる。この63.5kDa前駆体は合成されるとすぐに更に小さな形態へとプロセッシングされるので、生物学的サンプルの中に見られる天然産物のみが6kDa形態である。Shoyabらは、このエピセリン前駆体は生物学的に不活性であると教示している。
【0007】
Shoyabらの教示とは対照的に、本発明者の研究室は、この前駆体は合成されると常にすぐプロセッシングされるわけではないことを示した。本発明者によって一部行われた研究は、この前駆体(すなわち、GP88)は20kDaのN-結合炭化水素部分を持つ88kDa糖タンパク質として実際は分泌されることを示すものであった。GP88のN-末端配列を分析すると、GP88はgrn/epi前駆体の第17位アミノ酸から始まることが分かり、このことは、前駆体cDNAから推定されるタンパク質配列の最初の17個のアミノ酸が、膜局在化又は分泌のためのターゲッティングと適合する(compatible with)シグナルペプチドに相当することを示している。Shoyabらの教示に反して、GP88は生物学的に活性であり、特に産生細胞のオートクリン成長因子として、成長促進活性を持つ。
【0008】
乳癌は、女性の間で罹病及び死亡の世界的に主な原因である。エストロゲンは、in vivo及びin vitroにおいてエストロゲン受容体陽性(ER+)ヒト乳癌細胞成長の主な刺激因子であることが知られている。エストロゲンは胸部腫瘍の確立及び増殖にとって最初に必要であるが、乳癌の行程中でのエストロゲン独立型腫瘍の発生は、予後が不十分であることを暗示している。乳癌細胞におけるエストロゲンの分裂促進作用は、少なくとも一部分には、オートクリン成長因子(エストロゲンにより調節される成長因子を含む)によって媒介されるとされた。したがって、エストロゲン反応性遺伝子(特に成長因子をコードする遺伝子)の同定及び特徴付けが、乳癌細胞におけるエストロゲンの作用の理解に役立つ。
【0009】
クエン酸タモキシフェン(「タモキシフェン」)は、乳癌患者に対して一般的に処方される非ステロイド系抗エストロゲン薬であり、強力な抗エストロゲン特性及び抗新生物特性を示す。米国特許第4,536,516号を参照されたい。タモキシフェンは、エストロゲン受容体への結合でエストロゲンと競合するエストロゲン受容体アンタゴニストである。他の抗エストロゲン薬としては、ラロキシフェン(raloxifene)、アロマターゼ阻害薬(例えばアリミデックス[Arimidex、登録商標](アナストロゾール(anastrozole))、フェメラ[Femera、登録商標]等)、及びエストロゲン受容体ダウンレギュレーター(estrogen receptor down-regulator)(例えばファスロデックス[Faslodex、登録商標]等)が挙げられる。タモキシフェンの抗エストロゲン作用は、標的組織中の結合部位でエストロゲンと競合する能力と関係があると思われる。アロマターゼ阻害薬等の他の抗エストロゲン薬は、利用可能なエストロゲンを阻害するまたはその量を低下させる。例えば、アロマターゼ阻害薬は、アンドロゲンがエストロゲンへと変換されるのを妨げることにより、利用可能なエストロゲンの量を低下させる。エストロゲン受容体ダウンレギュレーターは、細胞上のエストロゲン受容体を阻害する又はその数を減少させる。
【0010】
タモキシフェンは現在、アストラゼネカ(AstraZeneca)及びバー・ラボラトリーズ(Barr Laboratories)よりノルバデックス[Nolvadex、登録商標]というブランド名で10mg及び20mgの錠剤として入手可能であり、転移性乳癌、乳癌のアジュバント療法、インサイチュー(in situ)腺管癌、及び乳癌の危険率の高い女性における乳癌の発病率の低下のために効果があるとされている。従ってタモキシフェンは、様々な癌及び特に乳癌を治療及び予防するために使用することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、タモキシフェンの投与は、その患者にとって潜在的に大きな危険(serious risk)を伴う。例えば、タモキシフェンの投与は、卵巣癌の危険率の上昇と関係付けられている。さらに、ある患者はタモキシフェンの意図される薬効に対する耐性を示す。従って、その薬効に対して耐性である患者へのタモキシフェンの投与は、卵巣癌の危険率を上昇させると同時に、その患者が効果的な治療を受けるのを回避(forego)させる又は遅らせることにより、その患者に不要な害をもたらす。
【0012】
よって、タモキシフェンの投与は、タモキシフェンを用いた治療により最も利益を受けると思われる患者に限るべきである。このような治療行程に乗り出す前に、患者がタモキシフェン投与の抗新生物作用を受け易いか又は当該作用に対して耐性であるかを正確に決定することは、重要な診断ツールとなるであろう。
【0013】
当技術は現在、患者におけるエストロゲン受容体の不在がタモキシフェン耐性に対応する、と教示している。癌患者は慣例的に、その患者がタモキシフェン療法に対して耐性であるか反応性であるかを予測するために、エストロゲン受容体の存在又は不在についてテストされる。現行のテストに基づき、エストロゲン受容体の存在についてテストで陽性である癌患者(「ER+」又は「エストロゲン受容体陽性患者」)には典型的にはタモキシフェンが処方される。
【0014】
しかし、ER+患者のうちの多数は、実際にはタモキシフェンに対して耐性がある。従って、ER+患者に常套的にタモキシフェンを処方することは有害であろうし、その患者が卵巣癌又は他の形態の癌を発症する危険率を高め得る。
【0015】
ここで本発明者は予想外なことに、糖タンパク質(GP88)(正常な細胞内において厳密に調節されて発現される)が正常細胞に由来する腫瘍形成性の高い細胞内において過剰に発現されて調節されないこと、GP88が腫瘍形成性細胞にとって厳格に(stringently)必要とされる成長刺激因子として働くこと、及び腫瘍形成性細胞内においてGP88の発現又は働きを阻害すれば該過剰産生細胞の腫瘍形成特性が阻害されることを見出した。さらに、細胞内のGP88のレベルは、その細胞の腫瘍形成性と直接相関している。
【0016】
本発明者はさらに予想外なことに、GP88発現のレベルが、患者がタモキシフェン等の抗エストロゲン化合物の薬理学的作用に対して耐性であるか否かを示すことを見出した。乳癌患者の腫瘍細胞のエストロゲン受容体の状況(status)は、乳癌患者においてタモキシフェンが適当もしくは好ましい治療コースであるか否かを決定するための十分な情報を提供しない。本発明は、被験者がタモキシフェン耐性であるか否かを決定するためのより正確なツールを提供し、よって、癌の治療における価値ある進歩を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の好適な実施形態は、患者から細胞を含む生物学的サンプルを得る工程、そのサンプルの細胞の中のGP88を検出する工程、そのサンプルの中のGP88陽性細胞すなわちGP88染色細胞の数を決定する工程、及び前記生物学的サンプルの中の細胞の総数に対するGP88陽性細胞すなわちGP88染色細胞の比率を決定する工程を含む、腫瘍形成性を診断するための方法を提供する。この比率は腫瘍形成性を示す。
【0018】
また本発明は、被験者が抗エストロゲン薬の抗新生物作用に対して耐性であるか否かを決定する方法も提供する。特に好適な実施形態によれば、患者から得た細胞を含む生物学的サンプルの中のGP88を検出し、そのサンプル中のGP88の量を決定する。生物学的サンプル中のGP88の量は、抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対する耐性を示す。他の好適な実施形態では、生物学的サンプルの中のGP88陽性細胞すなわちGP88染色細胞の数を決定し、そしてその生物学的サンプルの中の細胞の総数に対するGP88陽性細胞すなわちGP88染色細胞の比率を決定する。この比率は抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対する耐性を示す。
【0019】
また本発明の好適な実施形態は、腫瘍形成性を診断し、そして患者が抗エストロゲン薬の抗新生物作用に対して耐性であるか否かを決定するためのキットも提供する。このようなキットは、好ましくは容器、及びGP88を検出するための1以上の化合物(例えば抗GP88抗体及び抗GP88ヌクレオチドプローブ)を含む。
【0020】
本発明の他の好適な実施形態は、癌を治療又は予防する方法を提供する。1つの好適な実施形態によると、患者から得た生物学的サンプルの中のGP88の量を決定し、そしてそのサンプル中のGP88の量が約5%未満であればその患者に対して抗エストロゲン療法を行う。あるいは、生物学的サンプル中のGP88の量が約10%未満である場合は、エストロゲン受容体陽性患者に抗エストロゲン療法が行われる。他の好適な実施形態において、患者から得た生物学的サンプルの中のGP88陽性細胞のパーセンテージを測定し、そしてその生物学的サンプルの中のGP88陽性細胞すなわちGP88染色細胞のパーセンテージが約5%未満である場合に、その患者に対してその癌を治療もしくは予防するのに十分な量で、抗エストロゲン療法が行われる。あるいは、生物学的サンプルの中のGP88陽性細胞すなわちGP88染色細胞のパーセンテージが約10%未満である場合、エストロゲン受容体陽性患者に対して抗エストロゲン療法が行われる。
【0021】
本発明は、細胞がGP88発現量の変化又はGP88に対する反応の変化を示す癌(ただしこれに限定されない)等の疾患の診断及び治療のための組成物を提供する。本明細書中で「発現量の変化」という用語を使用した場合、mRNAもしくはタンパク質のレベルに基づいて、対応する正常細胞又は周りの周辺細胞に比べてGP88が少なくとも2倍及びしばしば10倍以上発現量が増加する又は過剰発現されることを意味する。また「発現量の変化」という用語は、必ずしも上昇するという訳ではなく、調節されなくなったまたは構成的となった発現を意味する。GP88に対する「反応」が増す又は変化するという用語を用いる場合、GP88により付与された生物学的機能(例えば成長、分化、ウイルス感染力等)のうちのいずれかの強化により、GP88の発現量の変化と同じ又は同等の状態となる状態を意味する。
【0022】
「新形成」とは、最初の(original)成長刺激が無くても続く異常細胞もしくは腫瘍細胞の成長をさす。「抗新生物作用」という用語は、新形成を逆行させる又は阻害する特性をさす。「癌」という用語は、異常細胞の成長により引き起こされるあらゆる疾患を指し、例えば胸、卵巣、腎臓、骨、膵臓、精巣、肝臓、脳及び皮膚の癌を含むがこれらに限定されない。「腫瘍形成性」という用語は、細胞又は組織が新形成の特徴を示す程度を指す。
【0023】
本明細書中で使用される「ER」とは、特に断らない限りエストロゲン受容体をさす。「PR」は特に断らない限りプロゲステロン受容体をさす。
【0024】
「GP88陽性細胞」すなわち「GP88染色細胞」とは、GP88が検出されるこれらの細胞をさす。本明細書中で使用される「GP88陰性細胞」とは、GP88が検出されないこれらの細胞をさす。細胞がGP88陽性であるかGP88陰性であるかは、検出方法(すなわち免疫染色法、インサイチュー・ハイブリダイゼーション、画像診断(imaging)等)の感度に一部よる場合がある。「細胞の総数」とは、生物学的サンプル中の分析される細胞の総数をさし、生物学的サンプルの特定の部分に存在する細胞の全て又は一部を含み得る。
【0025】
「生物学的サンプル」という用語は、脊椎動物の身体(血液、血清、血漿、尿、乳頭吸引液(nipple aspirate)、脳脊髄液、肝臓、腎臓、胸、骨、骨髄、精巣又は卵巣及び脳、結腸、及び肺を含むがこれらに限定されない)から得た物質をさす。
【0026】
本明細書で使用される、抗エストロゲン療法に対して「耐性」である被験者とは、抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対して非反応性である又は当該作用に対する反応が低下もしくは限られた患者である。
【0027】
「抗エストロゲン療法」という用語は、エストロゲンもしくはエストロゲン類似体の形成を妨げる又はこれらの機能を妨害する化合物の投与をさす。抗エストロゲン療法で使用される化合物の例は本明細書中で「抗エストロゲン薬」と呼ばれ、例えばタモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害薬(例えばアリミデックス[Arimidex、登録商標]、フェメラ[Femera、登録商標]等)、及びエストロゲン受容体ダウンレギュレーター(例えばファスロデックス[Faslodex、登録商標])が挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
本明細書中において「GP88」という用語を使用した場合、細胞抽出物及び細胞外液の中のエピセリン/グラニュリン前駆体を意味し、図8又は図9に含まれるアミノ酸配列のGP88(これらはマウス及びヒト起源のものである)だけでなく、他の種のGP88も含むものとする。さらにこの用語は、糖タンパク質又は他の修飾構造を含む炭化水素部分等の追加的な成分を有するそれらの機能的誘導体も含む。「GP88」及び「PCDGF」という用語は、本明細書中において交換可能に使用される。また、GP88という用語が意図するものとしては、上記配列の中に存在する少なくとも10アミノ酸を有する任意のポリペプチドフラグメントが挙げられる。この長さの配列は、抗原として、及び該タンパク質全体の様々なエピトープに対して特異的な抗体を産生するための担体との免疫原性コンジュゲートを作製するために、有用である。このようなポリペプチドは、このような抗体のスクリーニング、及び生物学的液体中のGP88の検出のための方法において有用である。当分野において、ペプチドがより大きなタンパク質に対する抗体の作製において有用であることは周知である。本発明の1つの実施形態において、全長GP88を認識する抗体を発生させるために、12〜19アミノ酸長のペプチドを使用することに成功したことが証明されている。
【0029】
本発明のポリペプチドは、他の分子に共有結合又は非共有結合により結合された状態で存在するものであってもよい。例えば本発明のポリペプチドは、グルタチオントランスフェラーゼ、ポリヒスチジン、緑色蛍光タンパク質、mycタグ、又は他のタグ(例えばビオチン等)が付いた化合物等の、1以上のペプチド結合を介して1以上の他のポリペプチドに融合されたものであってもよい。
【0030】
このポリペプチドは、GP88又はその機能的誘導体に対する抗体を再生(reproduce)又はテストするための免疫原として使用することができる抗原性が異なる(antigenetically distinct)決定基もしくはエピトープを含むのに十分な大きさのものである。
【0031】
1つの実施形態は、他の哺乳動物ペプチドを実質的に含まないポリペプチドを含む。本発明のGP88は、細胞、組織又は生物学的液体から生化学的もしくは免疫化学的に精製することができる。あるいは、該ポリペプチドは、原核生物又は真核生物の発現系及び宿主細胞の中で組換え法により産生することができる。
【0032】
GP88の「フラグメント」とは、その分子の中のより小さなペプチドである任意のサブセットをさす。これは例えばマウスGP88の場合はK19T及びS14RならびにヒトGP88の場合はE19V及びA14R(それぞれマウスK19T及びS14Rに相当)等の領域に相当するが、これらに限定されない。
【0033】
GP88の「変異体」とは、そのペプチド全体又はそのフラグメントに実質的に類似した分子をさす。変異体ペプチドは、当分野で公知である方法を用いて変異体ペプチドを直接化学合成することにより調製することができる。
【0034】
あるいは、ペプチドのアミノ酸配列変異体は、合成されたタンパク質又はペプチドをコードするDNAを修飾することにより調製することができる。このような変異体は、例えばGP88のアミノ酸配列の中の残基の欠失、挿入、又は置換を含む。また最終構築物が所望の活性を保有する限り、その最終構築物に到達するため欠失、挿入及び置換の任意の任意の組合せを行うことができる。変異体ペプチドをコードするDNAの中に作製される突然変異は、リーディングフレームを変更するものであってはならず、好ましくは、二次mRNA構造を作製し得る相補的領域を作製するものではない。遺伝子レベルでこれらの変異体は、当該ペプチド分子をコードするDNA中でヌクレオチドの部位特異的突然変異誘発(8)を起こすことにより該変異体をコードするDNAを作製し、その後そのDNAを組換え細胞培養中で発現させることにより調製される。変異体は典型的には非変異体ペプチドと同じ質の生物学的活性を示す。
【0035】
GP88タンパク質の「類似体」とは、当該分子全体またはそのフラグメントに実質的に類似した非天然分子をさす。
【0036】
本発明の抗体(中和抗体等)は、好ましくは癌又は他の疾患の治療としてGP88の発現量の増加を示す細胞において使用される。「中和」という用語によって、実験動物及びヒトにおいてその抗体がGP88の正常な生物学的活性(細胞増殖を刺激する、細胞生存率を高める、アポトーシスを遮断する、または腫瘍成長を誘導するGP88の能力を含むが、これらに限定されない)を阻害又は遮断する能力を有するものと理解されたい。有効量の抗GP88抗体は、様々な経路でヒト等の動物に投与される。他の実施形態において、抗GP88抗体は、癌等(ただしこれに限定されない)の疾患で生じるようなGP88の発現量の変化(増加)を示す細胞を検出するため、ならびにその成長がGP88に依存する疾患細胞及びGP88拮抗療法に反応する疾患細胞を同定するための診断上の特徴として使用される。さらに他の実施形態において、抗GP88抗体は、GP88を発現する又はこれに反応する細胞に細胞傷害性因子またはアンチセンスオリゴヌクレオチド等の化合物を送達するために使用される。
【0037】
本発明の教示を特定の問題または環境に適用することは、本明細書中に含まれる教示を照らし合わせれば、当業者の能力の範囲内でできることであることを理解されたい。添付の図面(この明細書中に組み込まれその一部を成す)は、本発明の実施形態を図示し、その説明と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。本発明の製品及びそれらの使用方法の例を、後の実施例に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1A】図1Aは、1246、1246-3A及びPC細胞系中におけるGP88タンパク質の発現レベルを比較している。2%ウシ胎児血清(FBS)を加えたDME-F12培地の中で細胞を培養した。抗K19T抗体を用いて免疫沈降法及びウェスタンブロット分析によりGP88発現レベルを測定した。
【図1B】図1Bは、1246、1246-3A及びPC細胞系中におけるGP88 mRNAの発現レベルを比較している。同量のRNA負荷についての内部対照としてRPL32のmRNAを使用する。
【図1C】図1Cは、血清を含まない培地及び血清含有培地の中の1246細胞(左側のパネル)及びPC細胞(右側のパネル)の中におけるGP88 mRNAの発現を比較している。これらの結果は、ウシ胎児血清を加えることにより1246細胞内でのGP88発現が阻害されるが、このような阻害は腫瘍形成性の高いPC細胞内では観察されないことを示している。
【図2】図2は、抗GP88中和抗体の濃度を次第に上げながら腫瘍形成性の高いPC細胞を処置した効果を表す。
【図3】図3は、106アンチセンスGP88でトランスフェクトしたPC細胞(下側)及び空ベクターでトランスフェクトした対照PC細胞(上側)を皮下注射したC3Hマウスを表す。
【図4】図4は、C3Hマウス腫瘍組織及び周辺の正常組織におけるin vivoでのGP88発現レベルを表す。
【図5】図5は、エストロゲン受容体陽性及びエストロゲン受容体陰性のヒト乳癌細胞系におけるGP88 mRNA発現レベルを表す。
【図6】図6は、マウス乳腺上皮細胞系C57の成長に対してGP88の濃度増加が及ぼす影響を表す。
【図7】図7は、アンチセンス方向にGP88を含むサイトメガロウイルスプロモーターにより制御される発現ベクターでトランスフェクトしたPC細胞及び空のベクターでトランスフェクトしたPC細胞の成長特性及び腫瘍形成能を表す。
【図8A】図8A〜Cは、マウスGP88のヌクレオチド配列及び推定アミノ酸配列を表す。抗GP88抗体K19T及びS14Rを作製するための抗原として使用されるペプチド領域には下線が付してある。pCMV4哺乳動物発現ベクター中でアンチセンス方向にクローニングされた領域を括弧内に示す。配列は図8Bに続く。
【図8B】図8Bは、マウスGP88のヌクレオチド配列及び推定アミノ酸配列の図8Aの続きである。配列は図8Cに続く。
【図8C】図8Cは、マウスGP88のヌクレオチド配列及び推定アミノ酸配列の図8Bの続きである。
【図9A】図9Aは、ヒトGP88 cDNAのヌクレオチド配列を表す。括弧内に示されたものは、pcDNA3哺乳動物発現系中にアンチセンス方向にクローニングされた領域である。
【図9B】図9Bは、ヒトGP88の推定アミノ酸配列を表す。抗ヒトGP88中和抗体を発生させるための抗原として使用されるE19V領域には下線を付してある。また、マウスS14R領域と同等の領域A14Rも下線で示している。
【図10】図10は、グラニュリンg、f、B、A、C、D及びe(右側)として定義される7つ及び1/2の反復(the 7 and one-half repeats)を表すためにアレンジされたマウスGP88のアミノ酸配列を表す。この表示は、抗GP88中和抗体を発生させるためにGP88抗体を作製するために使用される領域K19T及びS14Rが、変異型領域と考えられる領域の中の2つのエピセリン/グラニュリン反復配列の間に見られることを示す。右手側に示したのは、Batemanらによる反復配列のグラニュリン分類である(6)。またグラニュリンB及びグラニュリンAも、Plowmanら(1992(5))によると、エピセリン2及びエピセリン1としてそれぞれ定義される。
【図11】図11は、pCMV4及びGP88 cDNAクローンを図で表わしたものであり、発現ベクター中にGP88アンチセンスcDNAをクローニングするために使用される制限部位を示している。
【図12】図12は、CCL-64細胞上のGP88細胞表面受容体への125I-rGP88の架橋を表す。この架橋反応は、スベリン酸ジスクシンイミジル(disuccinimidyl suberate, DSS)を用いて行った。反応生成物は、7%ポリアクリルアミドゲル上でSDS-PAGEにより分析した。
【図13】図13は、3T3線維芽細胞、PC細胞及びC57MG乳腺上皮細胞上のGP88細胞表面受容体への125I-rGP88の架橋を表す。これらの結果は、これらの様々な細胞系がCCL64細胞上のもの(図12)と似た分子量のGP88細胞表面受容体を提示することを示している。
【図14】図14は、非腫瘍形成性MCF10A及び悪性(MCF7、MDA-MB-468)ヒト乳腺上皮細胞におけるGP88発現レベルを表す。
【図15】図15は、ヒト乳癌のエストロゲン受容体陰性MDA-MB-468細胞内においてGP88発現がアンチセンスGP88 cDNAトランスフェクションにより阻害されることを表わしている。
【図16A】図16は、MCF-7細胞の増殖に対してPCDGFが及ぼす影響を表す。図16(A)は、17β-エストラジオール(E2)の不在下においてPCDGFがMCF-7細胞のDNA合成を刺激することを示している。
【図16B】図16は、MCF-7細胞の増殖に対してPCDGFが及ぼす影響を表す。図16(B)は、抗PCDGF抗体がE2の分裂促進作用を特異的に阻害することを示している。結果は、三重測定を行った平均±SDとして表される。
【図17A】図17は、E2の分裂促進作用に対してPCDGF発現の阻害が及ぼす効果を表す。図17(A)は、MCF-7細胞におけるアンチセンスPCDGF cDNAのトランスフェクションによるPCDGF発現の阻害を示す。
【図17B】図17は、E2の分裂促進作用に対してPCDGF発現の阻害が及ぼす効果を表す。図17(B)は、MCF-7細胞内におけるPCDGF発現の阻害がE2の分裂促進活性を阻害することを示す。
【図18A】図18は、MCF-7細胞内においてPCDGFが過剰発現すると、E2の不在下で増殖することができ且つタモキシフェンに対して耐性である細胞ができることを表す。図18(A)は、O4細胞及び対照MCF-7C細胞におけるPCDGF発現を表す。
【図18B】図18は、MCF-7細胞内においてPCDGFが過剰発現すると、E2の不在下で増殖することができ且つタモキシフェンに対して耐性である細胞ができることを表す。図18(B)は、エストロゲン枯渇PFMEM培地中におけるO4及び対照MCF-7細胞の増殖を表す。
【図18C】図18は、MCF-7細胞内においてPCDGFが過剰発現すると、E2の不在下で増殖することができ且つタモキシフェンに対して耐性である細胞ができることを表す。図18(C)は、タモキシフェンに対するMCF-7及びO4細胞の反応の比較を表す。結果は平均±SDで表される。
【図19A】図19は、MCF-7細胞内におけるPCDGFシグナル伝達経路の決定を表す。図19(A)は、PCDGFの分裂促進作用に対してMAPキナーゼ阻害薬が及ぼす効果を示す。
【図19B】図19は、MCF-7細胞内におけるPCDGFシグナル伝達経路の決定を表す。図19(B)は、PCDGFによるMAPキナーゼの活性化を示す。
【図20】図20は、MCF-7細胞におけるサイクリンD1及びc-myc発現に対してPCDGFが及ぼす影響を表す。図20(A)は、PCDGFによるサイクリンD1発現の刺激を表す。図20(B)は、c-myc発現に対してE2及びPCDGFが及ぼす影響を表す。
【図21】図21は、免疫組織化学(IHC)によるパラフィン埋込み乳癌生検材料上での抗G88抗体を用いたGP88染色強度を表す。
【図22】図22は、浸潤性腺管癌(IDC)腫瘍におけるエストロゲン受容体の状況とGP88染色強度との相関関係を表す。
【図23】図23は、ER+IDC腫瘍のタモキシフェン反応性とGP88染色強度との相関関係を表す。GP88染色強度が増加するにつれ、エストロゲン受容体陽性腫瘍は、抗エストロゲン療法に対して耐性を有するようになる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
これから本発明の現在好適な実施形態について詳しく言及する。これらの実施形態は、その後の実施例と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【0040】
GP88の生物学的活性
本発明は、GP88、ならびにGP88の発現量の変化(増加)に関係する疾患を治療及び診断するのに有用な抗腫瘍組成物及び抗ウイルス組成物に関する。あるいは本発明は、GP88に対する反応性の増大に関係する疾患を治療及び診断するために使用される。3つの細胞系からなるマウスモデル系を用いて、本発明者は、GP88を過剰発現する細胞が腫瘍を形成することを証明した。親細胞系1246は、インスリンによるストリンジェントな調節下において決まった培地内で増殖して脂肪細胞へと分化するC3Hマウス脂質生成細胞系である。1246細胞は、高い細胞密度で注入された場合であっても、同系動物(C3Hマウス)内で腫瘍を形成することができない。インスリン独立型細胞系1246-3Aは、インスリンを含まない培地内に維持された1246細胞から単離された。1246-3A細胞は、同系マウスの皮下に106個を注射した場合に、分化して腫瘍を形成する能力を失った。腫瘍形成性の高い細胞系PCは、in vitro-in vivoシャトル技法により1246-3A細胞から開発された。PC細胞は、同系マウスに104個の細胞を注射したときに、腫瘍を形成した。
【0041】
GP88は、親非腫瘍形成性インスリン依存型細胞系に比べてインスリン独立型腫瘍形成性細胞系の中で過剰発現される。さらに、GP88の過剰発現の程度は、これらの細胞の腫瘍形成性の程度と正の相関関係があり、このことは、GP88が腫瘍形成性において重要であるということを示す初めてのものである(図1)。図1を参照すると、GP88は、細胞によって合成されるだけでなく、培地中にも分泌されるので、GP88のレベルは、細胞溶解物及び培地(CM)において決定した。全ての細胞は、2%ウシ胎児血清を加えたDME/F12栄養培地中で培養した。細胞がコンフルエントに達したときに、培地(CM)を回収し、界面活性剤を含む緩衝液中でインキュベートした後に10,000×gで遠心分離することにより、細胞溶解物を調製した。細胞溶解物及び馴化培地を細胞数により正規化した。細胞溶解物及び馴化培地から得たサンプルを、以下に説明するように、抗GP88抗体を用いたウェスタンブロット分析により分析した。
【0042】
中和抗体の開発(development)により、腫瘍発生におけるGP88の重要な役割を確認した。マウスGP88のK19T領域に対する抗GP88抗体を培地に加えると、腫瘍形成性の高いPC細胞の成長は用量依存的に阻害された(図2)。図2を参照すると、PC細胞を、96ウェルプレートの中で、ヒトフィブロネクチン(2μg/ml)及びヒトトランスフェリン(10μg/ml)を加えたDME/F12培地の中で2×104細胞/ウェルの密度で、培養した。細胞を付着させた後、徐々に濃度を増加させた抗GP88 IgG画分をウェルに加えた。対照細胞を等濃度の非免疫IgGで処理した。2日後、ウェルあたり0.25mCiの3H-チミジンを6時間加えた。次に細胞を回収して、DNA中に取り込まれた3H-チミジンを細胞増殖の測度としてカウントした。
【0043】
さらに、PC細胞内でGP88の発現がアンチセンスGP88 cDNAにより特異的に阻害されたとき、GP88の産生は低下し、これらのPC細胞は同系C3Hマウスにおいてもはや腫瘍を形成することができなくなった。さらに、これらのPC細胞はインスリンに対する反応性を取り戻した。図3並びに表1及び表2を参照すると、C3H雌マウスの皮下に、106個のアンチセンスGP88でトランスフェクトしたPC細胞(以下に説明)又は106個の空ベクターでトランスフェクトしたPC細胞を注射した。腫瘍の発現についてマウスを毎日モニターした。細胞を注射してから45日後に写真を撮った。結果は、対照として使用した空ベクターでトランスフェクトしたPC細胞を注射したマウスとは対照的に、アンチセンスGP88 PC細胞を注射したマウスが腫瘍を発生しないことを表している。
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
GP88の発現を比較すると、腫瘍中でのin vivo GP88レベルが正常組織内に比べて非常に高いことが分かる(図4)。C3Hマウスに106個のPC細胞を注射した。腫瘍保有マウスを安楽死させた。腫瘍、脂肪パッド及び結合組織を回収した。図1について先に記載したように、界面活性剤を含む緩衝液中でインキュベートすることにより、細胞溶解物を調製した。組織抽出物のタンパク質濃度を決定し、サンプル毎に等量のタンパク質を、SDS-PAGEの後に抗GP88抗体を用いてウェスタンブロット分析を行うことにより組織抽出物中のGP88の含有量を測定することにより、分析した。これらの結果は、腫瘍抽出物中のGP88のレベルが周りの結合組織及び脂肪組織中に比べて少なくとも10倍高いことを示した。
【0046】
正常細胞(1246細胞、線維芽細胞)内において、GP88の発現は特にインスリンによって調節され、ウシ胎児血清によって阻害される。腫瘍形成性細胞内において、正常な成長の調節が失われると、GP88の発現量の増加及び成長のためのGP88依存性の獲得につながる。したがって、GP88発現及び/又は作用の阻害は、腫瘍形成性の抑制のための効果的なアプローチである。生検材料内でのGP88発現の上昇の検出は、GP88阻害療法に反応性である腫瘍の診断分析を提供する。
【0047】
GP88は、ヒト癌の腫瘍誘導因子でもある。1246-3A細胞系中で見られるように、インスリン(又はIGF-I)に対する反応性の低下及びそれと共に起こる悪性病変の増加は、幾つかのヒト癌(乳癌を含むがこれに限定されない)において詳しく記載されている(13、14)。特に乳癌は、インスリン/IGF-Iオートクリンループ(上記のようなマウスモデル系において腫瘍形成特性の発生の出発地点でもある)の獲得を伴う。さらに、GP88発現はヒト乳癌において上昇する。より具体的には、図5を参照すると、ヒトGP88はエストロゲン受容体陽性及びエストロゲン受容体陰性のインスリン/IGF-I独立型の悪性度の高い細胞の中においても、発現量が高かった。また、GP88は乳腺上皮細胞の強力な成長因子でもある(図6)。図5のデータは、10%ウシ胎児血清(FBS)を加えたDME/F12培地中でMCF7、MDA-MB-453及びMDA-MB-468細胞を培養することによって得た。RNAzol法により各細胞系からRNAを抽出し、及びポリA+RNAを調製した。32P標識GP88 cDNAプローブを用いて、各細胞系について3μgのポリA+RNAを用いたノーザンブロット分析によってGP88 mRNA発現を調べた。
【0048】
げっ歯類細胞又は組織(マウス及びラット)におけるGP88 mRNA発現のノーザンブロット分析のために、本発明者は、第551位ヌクレオチドから第862位ヌクレオチド(アミノ酸配列160〜270に対応する)までの311bp長のマウスGP88 cDNAプローブを用いた。RNAは、当業者に周知である様々な方法(Sambrook, Molecular Biology Manual: 35)によって抽出することができる。選ばれた方法は、イソチオシアン酸グアニジニウム及びフェノール-クロロホルムによる単一工程の抽出からなる、RNAzol(Cinnabiotech)又はTrizol(Gibco-BRL)溶液を用いてRNAを抽出することであった。
【0049】
ヒト細胞系におけるGP88 mRNA発現のノーザンブロット分析のために、ヒトGP88の第1002位から第1674位までのヌクレオチド(アミノ酸配列334〜558に対応)に相当する672bpヒトGP88 cDNAプローブを開発した。好適な実施形態で使用したノーザンブロット分析法についての詳細且つ具体的な説明については実施例8を参照されたい。
【0050】
図6を参照すると、徐々に濃度を増加させた、PC細胞馴化培地から精製したGP88(上側パネル)及び昆虫細胞中で発現させた組換えGP88(下側パネル)の存在下で、C57MG細胞を培養し、マウス乳腺上皮細胞系C57MGの成長に対してGP88の濃度の増加が及ぼす成長刺激効果を示した。
【0051】
また、神経膠芽細胞腫、奇形癌及び乳癌について、IGF-1オートクリン産生と悪性病巣の増加との相関関係もしっかりと確立された。またこれらの癌においても、非腫瘍形成性ヒト線維芽細胞及び他のヒト細胞系と比較してヒト腫瘍においてGP88発現が上昇している。GP88は、乳癌細胞の成長を促進する。
【0052】
抗GP88抗体
本発明は、GP88の発現量の増加に関連する疾患を治療及び診断するための組成物を提供する。この方法は、GP88に対する反応性の増大に関係する疾患の治療及び診断にも適用できる。本発明の組成物は、GP88の生物学的活性を中和する抗GP88抗体を含む。
【0053】
また本発明は、GP88のエピトープに特異的な抗体、ならびに細胞、細胞抽出物、組織抽出物、培地又は生物学的液体の中のGP88分子、その機能的誘導体、もしくは異なる動物種に由来する相同体の存在を検出するあるいはその量又は濃度を測定するためのこのような抗体の使用にも関する。さらに、特定の部位に細胞傷害性分子をターゲッティングするために抗体を使用することができる。
【0054】
抗体を発生させるための抗原として使用するには、天然に生成されるGP88タンパク質、組換え形態で発現されるGP88タンパク質、又はそれらの機能的誘導体(好ましくは少なくとも9アミノ酸を有する)を得て、ポリクローナルもしくはモノクローナル抗体を産生するために動物の免疫化に使用する。抗体は、ある分子に反応することによりその分子を該抗体に結合させることができる場合に、その分子に結合することができると言われる。特異的反応とは、その抗原がそれに対応する抗体と非常に選択的に反応し、他の抗原により誘起され得る多数の他の抗体とは反応しないことを意味する。
【0055】
本明細書中「抗体」という用語は、ヒト及び非ヒトポリクローナル抗体、ヒト及び非ヒトモノクローナル抗体(mAbs)、キメラ抗体、抗イディオタイプ抗体(抗IdAb)、ならびにヒト化抗体を含むがこれらに限定されない。ポリクローナル抗体は、抗原で免疫した動物の血清に由来する又はニワトリの卵に由来する抗体分子で構成される不均一集団である。モノクローナル抗体(「mAbs」)は、特定の抗原に対する抗体で構成される実質的に均一な集団である。mAbsは、当業者に公知の方法により得ることができる(例えば米国特許第4,376,110号)。このような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD及びそれらの任意のサブクラスを含む、任意の免疫学的クラスのものであってよい。GP88に対するヒト及び非ヒト抗体を産生するハイブリドーマをin vitro又はin vivoで培養してもよい。大量のmAbsを産生するためには、in vivoが現在好適な産生方法である。簡単に説明すると、プリスタンで初回抗原刺激を受けたBalb/cマウス又はヌードマウスの腹膜内に、個々のハイブリドーマに由来する細胞を注射して、所望のmAbsを高濃度で含む腹水を作製する。mAbsは、このような腹水又は培養上清から当業者に周知の標準的なクロマトグラフィー法を用いて精製することができる。
【0056】
ヒトGP88に対するヒトモノクローナルAbは、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを免疫することにより調製することができる。これらのトランスジェニック動物から得たリンパ球を用いて作製されたハイブリドーマは、マウス免疫グロブリンの代わりにヒト免疫グロブリンを産生する。
【0057】
多くのモノクローナル抗体はマウス起源及び他の非ヒト起源に由来するので、これらの臨床的有効度は、ヒトに投与されたげっ歯類mAbsの免疫原性、エフェクター機能の弱い漸増(recruitment)及び血清からの急速な排除のせいで、制限され得る。これらの問題を回避するために、ヒト化と呼ばれるプロセスによりマウス抗体の抗原結合特性をヒト抗体に付与することができる。ヒト化抗体は、ヒト抗体のフレーム枠に移植される親マウスmAbの6つの相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含む。ヒト化抗体の中の非ヒト配列の含有量が低い(約5%)と、ヒトにおける免疫原性を低下させ且つ血清半減期を長くするのに効果的であることが分かった。1価ファージ展示(monovalent phage display)及びモノクローナル抗体のヒト化のためのコンビナトリアルライブラリー戦略を用いるもの等の方法は、様々な抗体のヒト化に現在広く適用されており、当業者に公知である。上記のようにトランスジェニック動物を用いて発生させたこれらのヒト化抗体及びヒト抗体は、癌を含む(ただしこれに限定されない)幾つかの疾患に対して治療的利用性が高い。
【0058】
当分野で周知であるドットブロット及び標準的な免疫測定法(EIA又はELISA)を含む様々な免疫測定法により、GP88に特異的な抗体の存在についてハイブリドーマ上清及び血清をスクリーニングする。上清が目的の抗体を有すると同定されたら、この上清をウェスタンブロットによりさらにスクリーニングして、抗体が結合する抗原のサイズを同定することができる。当業者であれば、所望のポリクローナル抗体又はmAbを得るために過度の実験を行うことなくこのようなハイブリドーマを調製及びスクリーニングする方法が分かるであろう。
【0059】
キメラ抗体は、異なる動物種に由来する異なる部分を有する。例えば、あるキメラ抗体は、マウスmAbに由来する可変領域及びヒト免疫グロブリンの定常領域を有する。キメラ抗体及びそれらの産生方法も、当業者に公知である。
【0060】
抗イディオタイプ(抗IdAb)とは、抗体の抗原結合部位と一般に会合した独特の決定基を認識する抗体である。抗IdAbは、調製しようとする抗IdAbの標的となるmAbの起源と種及び遺伝子型が同じである動物(例えばマウス株)をそのmAbで免疫することによって調製することができる。免疫された動物は、免疫化抗体のイディオタイプ決定基に対する抗体(抗IdAb)を産生することによって、これらのイディオタイプ決定基を認識しこれに反応する。またこの抗IdAbは、更に他の動物において免疫反応を生じさせる(いわゆる抗-抗IdAbを産生する)免疫原としても使用することができる。この抗-抗IdAbは、抗IdAbを誘導した元のmAbとエピトープが同じである場合がある。このように、mAbのイディオタイプ決定基に対する抗体を用いることにより、同一の特異性を有する抗体を発現する他のクローンを同定することが可能である。
【0061】
従って、GP88に対して作製されたmAbsは、適当な動物においてヒト及び非ヒト抗IdAbsを誘導するために使用することができる。このように免疫したマウスに由来する脾臓細胞を用いて、ヒトもしくは非ヒト抗Id mAbsを分泌するハイブリドーマを作製する。さらに、この抗Id mAbsは、キーホール・リンペット・ヘモシアニン(KLH)又はウシ血清アルブミン(BSA)等の担体に結合させて、更なるマウスを免疫するために使用することができる。これらのマウスから得た血清は、GP88ポリペプチドエピトープに特異的な元のmAbの結合特性を有するヒト又は非ヒト抗-抗IdAbを含む。このようにこの抗Id mAbsは、評価されるエピトープに構造が類似したそれら独自のイディオタイプエピトープ又はイディオタイプを有する。
【0062】
また「抗体」という用語は、抗原に結合することができる無傷の分子及びそれらのフラグメント(例えばFab及びF(ab')2等)の両方を含むことも意味する。Fab及びF(ab')2フラグメントは、無傷の抗体のFcフラグメントを持たず、循環からより早く排除され、そして無傷の抗体に比べて低い非特異的組織結合性を有する場合がある。このようなフラグメントは典型的には、(Fabフラグメントを作製するための)パパイン及び(F(ab')2フラグメントを作製するための)ペプシン等の酵素を用いて、タンパク質分解による切断により作製される。本発明において有用な抗体のFabやF(ab')2及び他のフラグメントは、本明細書中において無傷の抗体分子について開示される方法に従って、GP88の検出又は定量のため及びGP88発現に関係する病的状態の治療のために使用することができることを理解されたい。
【0063】
本発明に従って、GP88活性をin vitroで中和する抗体を用いて、GP88発現量の増加又はGP88に対する反応性の増大に関係する疾患(癌及びウイルス感染症等、ただしこれらに限定されない)を治療するためにGP88活性をin vivoで中和することができる。GP88発現量の増加に関係する疾患を患う被験者(好ましくはヒト被験者)は、GP88に対する抗体を用いて治療される。このような治療は、他の抗癌もしくは抗ウイルス療法と組み合わせて行うことができる。典型的な養生法は、1〜数週間(約1〜6ヶ月を含む)かけてGP88に特異的な抗体を有効量投与することを含む。本発明の抗体は、それが意図する目的を達成する任意の手段によって投与することができる。例えば、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内及び経口経路(ただしこれらに限定されない)を含む様々な経路により投与を行うことができる。非経口投与は、ボーラス注射により又は時間をかけて徐々に潅流することにより、行うことができる。非経口投与用の調製物としては、滅菌した水溶液、非水溶液、懸濁液及びエマルジョン(当業者に公知である補助剤又は賦形剤を含み得る)が挙げられる。常用法に従って、錠剤及びカプセル剤等の医薬組成物を調製することもできる。投薬量は、受容者の年齢、性別及び体重、(あれば)併用療法の種類、治療頻度及び所望の効果の性質によって異なることを理解されたい。以下に挙げる効果的用量の範囲は本発明を限定するものではなく、好適な用量範囲を単に表わすものである。しかし、最も好適な投薬量は、当業者が理解し及び決定することが可能なので、個々の被験者に合わせて決められる。各治療に必要な総用量は、複数回の投薬又は一回の投薬により投与することができる。抗体の有効量は、約0.01μg〜約100mg/kg体重、及び好ましくは約10μg〜約50mg/kgである。抗体は、単独で、又は同じ疾患用の他の治療薬と一緒に投与してもよい。
【0064】
本発明に従い及び中和抗体に関して、GP88中和抗体は、GP88発現量の変化が必ずしもあるわけではなくても、GP88の生物学的活性を阻害することが必要である全ての治療ケース(GP88細胞表面受容体が過剰発現しているために生物学的活性が増大するケース、またはGP88シグナル伝達経路または受容体に変化がありそのシグナル伝達経路が常に「オン」である状態につながるケースを含む)において使用することができる。成長因子及び成長因子受容体に対する中和抗体を、その増殖をこの成長因子に依存している細胞の成長を阻害するために使用することに成功した。これは、ヒト乳癌細胞におけるIGF-I受容体及び肺癌のボンベシンのケースで成功した。またGP88に対する抗体は、トキシン、オンコトキシン(oncotoxin)、マイトトキシン(mitotoxin)及びイムノトキシン等の細胞傷害性試薬やアンチセンスオリゴヌクレオチド等の化合物(ただしこれらに限定されない)を、GP88を発現するもしくはこれに反応性である細胞に特異的にターゲッティングするために、これらを送達するために使用することもできる(30)。
【0065】
GP88に対する中和抗体を抗原に発生させる(develop)1つの領域は、マウスGP88においてK19T及びヒトGP88においてE19Vとして定義される19アミノ酸領域であり、この領域は、エピセリン/グラニュリン6kDa反復配列の中ではなくこれらの反復配列の間、特に可変領域と考えられる領域の中のグラニュリンA(エピセリン1)とグラニュリンC(5)との間に位置する(図10を参照されたい)。理論により限定したいわけではないが、GP88の生物学的活性にとって重要なこの領域はエピセリン反復配列の外に存在すると考えられる。
【0066】
また本発明において有用な抗体又は抗体のフラグメントは、GP88タンパク質を発現する細胞の存在を定量的もしくは定性的に検出するために使用することもできる。これは、蛍光顕微鏡検出、フローサイトメトリー検出、又は蛍光定量検出による蛍光標識した抗体を用いた免疫蛍光法(以下参照)によって行うことができる。本発明の抗体及びポリペプチドの反応は、当分野で周知である免疫測定法によって検出することができる。
【0067】
本発明の抗体は、組織サンプル又は生検材料中のGP88タンパク質のインサイチュー検出のために、光学顕微鏡法、免疫蛍光顕微鏡法、又は免疫電子顕微鏡法におけるように、組織学的に使用することができる。インサイチュー検出は、患者から組織検体を取り出し、適当に標識した本発明の抗体を適用することによって、行うことができる。抗体(又はフラグメント)は、好ましくは、標識した抗体(又はフラグメント)を生物学的サンプルに塗布するもしくは載せることによって提供される。このような手法を使用して、GP88タンパク質の存在だけでなく、検査組織内におけるその分布も決定することが可能である。本発明を用いて、当業者は、このようなインサイチュー検出を達成するために任意の種々の組織学的方法(染色手法等)を改造することができることが簡単に認識できるであろう。
【0068】
GP88のアッセイは、典型的には、生物学的液体、組織抽出物、回収もしくは培養したばかりの細胞、又はそれらの培地等の生物学的サンプルを、GP88タンパク質を同定することができる検出可能に標識した抗体の存在下でインキュベートすること、ならびに当分野において周知である多くの技法のうちのいずれかにより抗体を検出すること、を含む。
【0069】
細胞、細胞粒子、又は可溶性タンパク質を固定化することができるニトロセルロースや他の固相支持体等の固相支持体又は担体で生物学的サンプルを処理することができる。次に支持体を洗浄した後、検出可能に標識した抗GP88抗体で処理してもよい。その後、支持体を洗浄して未結合抗体を除去する。次に、前記支持体に結合した標識の量を従来手段により検出することができる。固相支持体とは、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン、改質セルロース、又はポリアクリルアミド等(ただしこれらに限定されない)の、抗原又は抗体を結合することができる任意の支持体を含む。
【0070】
周知方法に従って、GP88タンパク質に対する所与のロットの抗体の結合活性を決定することができる。当業者であれば、常套的実験を用いることにより、決定毎に機能的に作用する最適なアッセイ条件を決定することができるであろう。
【0071】
GP88タンパク質又はその機能的誘導体及び該タンパク質に特異的な抗体の検出は、当分野において周知である様々な免疫測定法(固相酵素免疫測定法(ELISA)又は放射性免疫測定法(RIA)等)によって行うことができる。このようなアッセイは当分野において周知であり、当業者であれば、本発明の抗GP88抗体及びGP88タンパク質を用いてこのようなアッセイをどのように実行するかは簡単に分かるであろう。
【0072】
このような免疫測定法は、血清や他の生物学的液体の中、及び組織、細胞、細胞抽出物、又は生検材料の中のGP88タンパク質を検出及び定量するために有用である。好適な実施形態において、GP88の発現量の増加に関係する癌又は他の疾患を診断するための手段として、組織試料の中のGP88の濃度を測定する。
【0073】
あるタイプの癌の存在及び悪性の度合いは、GP88タンパク質のレベルの増加に「比例する」と言われる。本明細書中で使用される「比例する」という用語は、タンパク質のレベルと癌の悪性特性との線形関係(linear relationship)又は定値関係(constant relationship)に限定されるものではない。本明細書中で使用される「比例する」という用語は、GP88タンパク質のレベルの上昇が、当業者により簡単に決定することができるタンパク質濃度の範囲におけるGP88の発現量の増加に関係する癌又は他の疾患の悪性特性の出現、再発又は表れと関連していることを示すものとする。
【0074】
本発明の他の実施形態は、抗癌性もしくは抗ウイルス性の薬物又は作用物質がGP88の発現又は産生を阻害する能力を測定することによりその薬物又は作用物質の効力を評価することに関する。本発明の抗体は、上記免疫測定法のうちの1つにおいてGP88タンパク質の量を決定するために使用することができるので、抗癌性もしくは抗ウイルス性の薬物を評価する方法において有用である。あるいは、産生されるGP88タンパク質の量は、本明細書中に記載されるバイオアッセイ(細胞増殖アッセイ)によって測定される。このバイオアッセイ及び免疫測定法は、より正確な評価を行うために組み合わせて使用することができる。
【0075】
更なる実施形態は、好ましくはRNA-DNAハイブリダイゼーションアッセイを用いて、組織又は生物学的液体の中に存在するGP88又はその機能的誘導体をコードするmRNA配列の量の測定に基づいてGP88発現量の増加に関係する癌又は他の疾患を診断するためのアッセイに関する。ある種の癌の存在及び悪性の度合いは、存在するこのようなmRNAの量に比例する。このようなアッセイのためのmRNAの起源は、生検材料及び周辺組織である。mRNAの量を測定するための好適な技法は、相補性塩基配列からなるDNAを用いたハイブリダイゼーションアッセイである。
【0076】
他の関連する実施形態は、抗GP88中和抗体での処理がその成長又は他の生物学的活性を阻害するか否かについての組織生検材料の測定に基づいた、GP88反応性の増大に関係する癌又は他の疾患を診断するためのアッセイに関する。
【0077】
他の関連する実施形態は、抗癌性もしくは抗ウイルス性の薬物又は作用物質の効力を測定するための方法であって、その作用物質がGP88のmRNAの発現の阻害に対して及ぼす影響を測定する工程を含む上記方法である。同様に、このような方法は、GP88 mRNAの産生を阻害するGP88拮抗物質の能力を測定することによって前記物質の効力を同定又は評価するために使用することができる。
【0078】
核酸検出アッセイ(特にハイブリダイゼーションアッセイ)は、核酸分子の任意の特性(そのサイズ、配列、又は制限エンドヌクレアーゼによる消化され易さ等)に基づくものであってよい。このようなアッセイの感度は、検出が観察者に報告もしくは表示される様式を変えることによって増すことができる。酵素標識、放射性同位元素標識、蛍光標識、化学標識及び修飾塩基を含む種々の標識が、当業者により多数開発され使用されている。
【0079】
検出用核酸の感度の限界を克服するための1つの方法は、アッセイを行う前に核酸を選択的に増幅することである。この方法は、「ポリメラーゼ連鎖反応」即ちPCRと呼ばれる(米国特許第4,683,202号及び第4,582,788号)。PCR反応は、特定の核酸配列の濃度を、たとえその配列が前もって精製されておらず特定のサンプル中にたった1つのコピーとして存在する場合であっても、選択的に増加させるための方法を提供する。
【0080】
GP88アンチセンス成分
また本発明は、GP88アンチセンス成分も提供する。細胞内におけるアンチセンスRNAの構成的発現は、20を超える遺伝子の発現を阻害することが分かっており、そのリストは増え続けている。アンチセンス効果について考え得るメカニズムは、翻訳の遮断又はスプライシングの妨げであり、これらはいずれもin vitroで観察されている。スプライシングの妨げにより、あまり保存されるべきではないイントロン配列の使用が可能になるので、特異性が増し、1つの種の遺伝子産物の発現を阻害するが他の種のその相同体の発現は阻害しないようになる。
【0081】
アンチセンス成分という用語は、それをコードするRNA配列及びDNA配列に対応し、これらは、アンチセンスRNAの特異性の対象となる特定のmRNAの翻訳が阻害されるように、該アンチセンスRNAと該mRNAとの間で分子のハイブリダイゼーションを生じさせる程度にそのmRNA分子に十分相補的なものである。このようなハイブリダイゼーションはin vivo条件下で起こり得る。このアンチセンスRNAの働きは、細胞内における遺伝子発現の特異的阻害をもたらす。
【0082】
本発明に従って、GP88 cDNAに対するDNAアンチセンスでの腫瘍形成性細胞のトランスフェクションは、内因性GP88発現を阻害し、及びアンチセンスcDNAでトランスフェクトした細胞の腫瘍形成性を阻害する。このアンチセンスDNAは、その働きがスプライシング、転写又は翻訳レベルであるかにかかわらず、アンチセンスRNAがGP88遺伝子(又はmRNA)にハイブリダイズしてGP88遺伝子発現を阻害することができるように、GP88遺伝子と十分な相補性(約18〜30ヌクレオチド長)を持つものでなければならない。阻害の度合いは、本明細書中の教示を与えれば過度の実験を行うことなく当業者が容易に認識できるものであり、好ましくは、GP88の発現にその増殖を依存する細胞の成長を阻害するのに十分なものである。当業者であれば、このアンチセンスRNAアプローチが、特定の遺伝子発現を遮断するために使用することができる幾つかの公知のメカニズムであることが分かるであろう。
【0083】
本発明のアンチセンス成分は、標的GP88cDNAの幾つかの部分(コード配列、3'側もしくは5'側の非翻訳領域、又は他のイントロン配列を含む)のうち任意のもの又はGP88 mRNAにハイブリダイズすることができるものであってもよい。当業者により容易に認識されるように、本発明により必要とされる相同性の最低量は、好ましくは他のmRNA分子の機能及び他の関係のない遺伝子の発現に影響を及ぼすことなく、GP88 DNAもしくはmRNAへのハイブリダイゼーション、及びDNAの転写又はmRNAの翻訳もしくは機能の阻害をもたらすのに十分な量である。
【0084】
アンチセンスRNAは、アンチセンスRNAをコードするDNAがこのアンチセンスRNAを宿主細胞の中で発現させるための適当な調節配列(プロモーターを含む)と一緒に中に配置されたレトロウイルスベクター及びプラスミドを含むベクターを介した形質転換又はトランスフェクションにより細胞に送達される。GP88 cDNAフラグメントをアンチセンス方向で含む様々なアンチセンス発現ベクターの安定なトランスフェクションを行った。レトロウイルスベクターを用いてアンチセンス成分を細胞に送達することもできる。送達はリポソームによって行うこともできる。
【0085】
in vivo療法のためのアンチセンス技術の目的のために現在好適な方法は、構築されたアンチセンスcDNAフラグメントを発現ベクター中に安定にトランスフェクトする代わりにアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用するものである。15〜30塩基長のサイズを有し且つ標的GP88 cDNAの幾つかの部分(コード配列、3'側もしくは5'側の非翻訳領域、又は他のイントロン配列を含む)のうちの任意のもの又はGP88 mRNAにハイブリダイズすることができる配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドが好ましい。GP88に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの配列は、好ましくは、最も強力なアンチセンス作用を有するものとして選択される。アンチセンスオリゴヌクレオチド配列の標的部位に影響する因子は、オリゴヌクレオチドの長さ、結合親和性、及び標的配列のアクセスし易さと関係がある。GP88タンパク質の翻訳及びGP88に関連する表現型の阻害(例えば培養中の細胞における細胞増殖の阻害など)を測定することによって、これらのアンチセンス活性の効力について、配列をin vitroでスクリーニングすることができる。一般に、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、RNAの多くの領域(5'側及び3'側の非翻訳領域、AUG開始領域、コード領域、スプライス部位及びイントロン)をターゲッティングすることができることが知られている。
【0086】
好適なGP88アンチセンスオリゴヌクレオチドは、安定であり、ヌクレアーゼ(オリゴヌクレオチドを分解する可能性がある酵素)に対する高い反発性(resilience)を有し、非毒性用量でこれらが疾患組織に運ばれるのに適した薬物動態を保有し、及び膜を通過する能力を有するこれらのオリゴヌクレオチドである。
【0087】
ホスホロチオエート・アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用してもよい。ホスホジエステル結合及び複素環又は糖を修飾しても、効率を高めることができるであろう。ホスホジエステル結合の修飾に関しては、ホスホロチオエートを使用することができる。N3'-P5'ホスホルアミデート(phosphoramidate)結合は、ヌクレアーゼに対してオリゴヌクレオチドを安定化させ、及びRNAへの結合を増大させるものと記載されている。ペプチド核酸(PNA)結合は、リボース及びホスホジエステル骨格の完全な置換であり、ヌクレアーゼに対して安定であり、RNAへの結合親和性を増大させ、そしてRNアーゼHによる切断をさせない。その塩基構造は、アンチセンス成分としてのその最適化を可能とする修飾にも影響を受け易い。複素環の修飾に関して、ある種の複素環修飾は、RNアーゼH活性を妨げることなくアンチセンス作用を促進することが分かった。このような修飾の例は、C-5チアゾール修飾である。最後に、糖の修飾も考えられる。2'-O-プロピル及び2'-メトキシエトキシリボースの修飾は、細胞培養及びin vivoにおいてヌクレアーゼに対してオリゴヌクレオチドを安定化させる。c-raf-1にターゲッティングされたこれらのタイプのオリゴヌクレオチドを用いた細胞培養及びin vivoでの腫瘍実験の結果、効力の増強が得られた。
【0088】
送達経路は、上記基準に従って測定したときに最も良いアンチセンス効果をもたらすものであろう。アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたin vitro細胞培養アッセイ及びin vivo腫瘍成長アッセイにより、陽イオンリポソームによって媒介される送達、レトロウイルスベクターによって媒介される送達、及び直接送達が効率的であることが明らかとなった。他の可能な送達モードは、腫瘍細胞の細胞表面マーカーに対する抗体を用いたターゲッティングである。GP88又はその受容体に対する抗体は、この目的を果たすことができる。
【0089】
組換えGP88
また本発明は、他の哺乳動物DNA配列を実質的に含まない、組換えGP88ポリペプチド又はその機能的誘導体を発現するためのDNA発現系にも関する。このようなDNAは、二本鎖のものであっても一本鎖のものであってもよい。このDNA配列は、他のポリヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを可能にするために、好ましくは約20以上のヌクレオチドを有するべきである。特異性の高いハイブリダイゼーション(GP88タンパク質又はその相同体もしくは機能的誘導体をコードする配列以外の配列へのハイブリダイゼーションがないことを特徴とする)を達成するために、少なくとも50ヌクレオチド長が好ましい。
【0090】
また本発明は、上記DNA分子、発現可能なビヒクルもしくはベクター、及び該ビヒクルでトランスフェクトもしくは形質転換した、該ポリペプチドを発現することができる宿主にも関する。このような宿主は原核生物(好ましくは細菌)、又は真核生物(好ましくは酵母又は哺乳動物)の細胞であってもよい。好適なベクター系としては、昆虫細胞内で発現されるバキュロウイルスが挙げられる。DNAは、形質転換、形質導入、トランスフェクション、感染、又は当分野で公知である関連プロセスによって、宿主生物中に導入することができる。また本発明は、GP88ポリペプチドをコードするDNA及びmRNA配列以外に、その核酸配列を発現させる方法も提供する。更に、これらの遺伝子配列及びオリゴヌクレオチドは、本明細書中に記載されるポリペプチドGP88との配列相同性を有する更なるポリペプチドの同定及びクローニングを可能にする。
【0091】
発現ベクターは、(適当な転写及び/又は翻訳制御配列が存在することにより)そのベクター中にクローニングされたDNA(もしくはcDNA)分子を発現することができ、これによりポリペプチド又はタンパク質を産生する、ベクターである。クローニングされた配列の発現は、発現ベクターが適当な宿主細胞の中に導入されると生じる。原核生物発現ベクターを使用する場合、適当な宿主細胞は、クローニングされた配列を発現することができる任意の原核細胞である。同様に、真核生物発現系を使用する場合は、適当な宿主細胞は、クローニングされた配列を発現することができる任意の真核細胞である。例えばバキュロウイルスベクターは、GP88 cDNAをクローニングした後に昆虫細胞内でこのcDNAを発現させるために使用することができる。
【0092】
連結のために平滑末端化もしくは付着末端化された末端、適当な末端を作製するための制限酵素消化、必要に応じて付着末端を埋めること、望ましくない結合を避けるためのアルカリホスファターゼ処理、及び適当な酵素リガーゼを用いた連結を含む従来技法に従って、GP88ポリペプチド又はその機能的誘導体をコードするDNA配列をベクターDNAと組み換えることができる。このような操作を行うための技法は(35)に説明されている。
【0093】
核酸分子は、転写及び翻訳の調節情報を含むヌクレオチド配列を含み、且つこのような配列が、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に機能し得る形で結合している場合、そのポリペプチドを発現することができる。「機能し得る形の結合」とは、調節DNA配列及び発現させたいDNA配列が遺伝子発現を可能とするような形で結合している結合である。遺伝子発現に必要な調節領域の正確な性質は、生物によって異なり得るが、一般には、プロモーター領域(原核生物ではRNAの転写開始を指令するプロモーター及びRNAへと転写されたときにタンパク質の合成開始を合図するDNA配列の両方を含む)を含むべきである。このような領域は、通常は、転写・翻訳の開始に関係するこれらの5'側非コード配列(TATAボックス等、キャッピング配列(capping sequence)、CAAT配列等)を含む。
【0094】
該タンパク質をコードする遺伝子配列の3'側非コード領域を得たい場合は、記載された方法(適当なcDNAライブラリーのスクリーニング又はPCR増幅)によって得ることができる。この領域は、終結及びポリアデニル化等の転写終結調節配列を存在させるために保持してもよい。従って、タンパク質をコードするDNA配列にもともと隣接している3'側領域を保持することにより、転写終結シグナルを提供することができる。発現宿主細胞の中に転写終結シグナルがない又は十分機能しない場合は、他の遺伝子に由来する3'側領域を置換することができる。
【0095】
プロモーター領域配列及びGP88コード配列等の2つのDNA配列は、これらの配列の間の結合の性質がフレームシフト突然変異の導入をもたらさない又はポリペプチド遺伝子配列の転写を指令するプロモーター配列の能力を妨げない場合、機能し得る形で結合しているという。
【0096】
プロモーター配列は、原核生物、真核生物又はウイルスのものであってもよい。適当なプロモーターは、誘導的、抑制的、又は構成的なものである。好適な原核生物プロモーターの例は概説されている。
【0097】
真核生物のプロモーターとしては、マウスメタロチオネインI遺伝子のプロモーター、ヘルペスウイルスのTKプロモーター、gal4遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、マウス乳腺癌ウイルス(MMTV)プロモーター、及びサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。強力なプロモーターが好ましい。このようなプロモーターの例としては、T3、SP6及びT7ポリメラーゼを認識するもの、バクテリオファージλのPLプロモーター、recAプロモーター、マウスメタロチオネインI遺伝子のプロモーター、SV40プロモーター、ならびにCMVプロモーターが挙げられる。
【0098】
診断方法
また本発明は、腫瘍形成性を決定するためのGP88診断方法、及び抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対して患者が耐性であるか否かを決定するための診断方法も提供する。上記のように、GP88レベルの上昇は、腫瘍形成性の上昇を示す。さらに、本発明者らは、予期せぬことに、GP88レベルの上昇が、抗エストロゲン薬の抗新生物作用に対する耐性を示すことを見出した。
【0099】
抗エストロゲン療法は、エストロゲンの機能もしくは合成を妨げる又は阻害する。例えば、タモキシフェンは、エストロゲンがその受容体に結合するのを妨げる。アナストロゾール等のアロマターゼ阻害薬は、エストロゲンへのアンドロゲンの変換を触媒する酵素を妨げることによって、エストロゲンのレベルを低下させる。
【0100】
理論により限定したい訳ではないが、本発明者は、GP88レベルの上昇が、エストロゲン依存型成長からエストロゲン独立型成長への細胞の変換に貢献すると考えている。エストロゲン独立型細胞は、エストロゲンの存否により影響を受けないので、抗エストロゲン療法の影響を受けない。以前は、エストロゲン受容体の存在が、抗エストロゲン療法に対する耐性についてのとても必要な予後マーカーとして使用されていた。しかし、GP88レベルが上昇するにつれ細胞はエストロゲン独立型成長になるので、エストロゲン受容体の存在又は不在は、その患者が抗エストロゲン療法に対して反応性であるか否かを示すにはもはや十分ではない。エストロゲン受容体の存在ではなく、GP88のレベル及び(付随的且つ理論的に)エストロゲン独立性が、抗エストロゲン療法に対して患者が耐性であるか反応性であるかを示す、感度が高くより正確な早期の信頼できる予後マーカーとして役立つ。上記に説明した通り、この新しい予後マーカーは、タモキシフェン等の抗エストロゲン薬が患者(特に本発明以前は抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対して耐性であるとは分からなかった患者)に卵巣癌を引き起こす周知の性質を考えれば、特に価値がある。
【0101】
本発明の好適な実施形態は、抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対して患者が耐性であるか否かを決定する方法に関する。患者から得た生物学的サンプル中のGP88タンパク質又はGP88をコードするポリヌクレオチドを検出し、そのサンプル中のGP88陽性細胞の数及び細胞の総数に対するGP88陽性細胞の比率を決定する。細胞の総数に対するGP88陽性細胞の比率は、その患者が抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対して耐性であるか否かを示す。あるいは、生物学的サンプルの中のGP88の量は、生物学的サンプルの中のGP88を検出し、既知の量のGP88タンパク質又は核酸を検出して作製された標準曲線(「標準曲線技法」)からGP88の量を推定することにより、決定することができる。標準曲線技法は、ばらばらな数(a discrete number)の細胞の中のGP88検出によっては簡単には分析できない生物学的サンプル中のGP88の量を測定するための好適な方法である。例えば、生物学的液体(例えば血清又は脳脊髄液等)中のGP88の量を、標準曲線技法を用いて決定することができる。生物学的サンプル中のGP88の量は、その患者が抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対して耐性であるか否かを示す。
【0102】
好適な生物学的サンプルとしては、血液、脳脊髄液、血清、血漿、尿、乳頭吸引液、肝臓、腎臓、胸、骨、骨髄スミア、精巣、脳、卵巣、皮膚又は肺が挙げられるがこれらに限定されない。生物学的サンプルは、任意のサイズ、形状又は組織型のものであってよく、細胞及び/又は細胞型を幾つ含んでも良い。生物学的サンプルは、非腫瘍形成性細胞及び腫瘍形成性細胞を含むことができる。非腫瘍形成性細胞は、正常組織、周辺組織、良性小葉癌、上皮過形成及び任意の他の良性病巣から得た間質もしくは上皮細胞を含み得るが、これらに限定されない。生物学的サンプルは、細胞又は組織を含む生物学的液体を含み得る。
【0103】
上記のように、GP88タンパク質は、抗GP88抗体を用いた免疫染色(例えば免疫組織化学染色等)、ウェスタンブロット、クロマトグラフィー、マイクロアレイ、細胞選別装置を含む任意の好適な方法によって検出することができる。好ましくは、抗GP88抗体は好適な検出システムで使用するために標識される(例えば蛍光色素、ビオチン、酵素、放射性同位元素、蛍光、及び化学標識等)。またGP88タンパク質又はその機能的誘導体の検出は、様々な画像診断技法によって行うこともできる。「画像診断法」という用語は、画像形成システム(例えば磁気共鳴映像法、超音波等)においてマーカータンパク質又は核酸を検出するために標識した分子を使用して疾患を診断するための任意の技法をさす。放射能標識したモノクローナル抗体を用いた抗体のイメージングは、様々な癌(例えば大腸、前立腺、肺及び卵巣癌)の診断に有用である。画像診断システムの例としては、癌の診断のために身体をスキャニング又はイメージングするために現在使用されているOncoScint(登録商標)モノクローナル抗体イメージングシステム(monoclonal antibody imaging system)等のモノクローナル抗体イメージングシステムが挙げられる。モノクローナル抗体は、GP88を特異的に検出し、生物学的サンプル中のGP88の量又はGP88陽性細胞の数を決定するために、MRI又は超音波等の従来のスキャニング技術において使用することができる。
【0104】
抗GP88核酸(例えばGP88 cDNAプローブ等)を用いた任意の好適な検出アッセイ(例えばインサイチュー・ハイブリダイゼーション、蛍光インサイチュー・ハイブリダイゼーション、逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応、ノーザンブロット、サザンブロット、サウスウェスタンブロット、RNアーゼプロテクション法、マイクロアレイ等)によってアンチセンスGP88核酸を用いてGP88核酸を検出することができる。好ましくは、抗GP88核酸は、例えば酵素標識、放射性同位元素標識、蛍光標識又は化学標識を用いて標識される。
【0105】
当業者に公知である任意の好適な方法(例えば顕微鏡検査、MRI、超音波、FACS分析、ルミネックス検出、抗体マイクロアレイ、ディジタルスキャナ、及び細胞選別装置等)によって、GP88陽性細胞をカウントすることができる。例えば、生物学的サンプル中のGP88陽性細胞の数は、Ki-67インデックス(Ki-67 index)に似た方法でGP88インデックスを構築することによって、決定することができる。Ki-67は、組織の増殖率を示すDNAポリメラーゼマーカーである。Ki-67陽性細胞の数を決定し、カウントした細胞1000個あたりのKi-67陽性染色細胞のパーセンテージとして表わす。好ましくは、GP88について陽性染色であった細胞をカウントし、カウントした細胞1000個あたりのGP88陽性染色細胞のパーセンテージとして表わす。しかし、任意の数の細胞をカウントすることができる。例えば、患者から得た細胞のより代表的なサンプルを得るためには、1000個を超える細胞をカウントすることが好ましい。サンプルが様々な細胞型を示すものと思われ且つ分析に使用できるサンプルの量が限られている場合、1000個未満の細胞をカウントすることが好ましいであろう。
【0106】
患者が抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対して耐性であるか否かを決定する方法のために、生物学的サンプル中のGP88染色の存在及び強度を以下のように等級付けることが好ましい: GP88陽性細胞が約5%未満である場合は、陰性と考えられる; GP88陽性細胞が約10〜25%である場合、弱い陽性であると考えられる(1+);GP88陽性細胞が約25〜50%である場合(2+)、中程度の陽性である考えられる;GP88陽性細胞が約50%を超える場合、GP88について強い陽性(3+)であると考えられる。等級毎のGP88陽性細胞のパーセンテージは、生物学的サンプルのプールのサイズ及び/又はGP88を同定するために使用される検出技法(例えば免疫染色、インサイチュー・ハイブリダイゼーション、蛍光インサイチュー・ハイブリダイゼーション(FISH)、逆ポリメラーゼ連鎖反応、ノーザンブロット、ウェスタンブロット、サウスウェスタンブロット等)に応じて再調節することができる。例えば、等級毎のGP88陽性即ち染色細胞のパーセンテージは、より感度の高いGP88検出技法又はより大きな生物学的サンプルのプールを用いる場合、低く調節することができる。本発明の好適な実施形態に従って、GP88陽性即ち染色細胞のパーセンテージが少なくとも約5%、より好ましくは10%、及び最も好ましくは25%であれば、抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対する耐性を示す。他の好適な実施形態において、エストロゲン受容体陽性患者におけるGP88陽性即ち染色細胞のパーセンテージが少なくとも約10%であれば、抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対する耐性を示す。
【0107】
また本発明は、患者から得た生物学的サンプルを得る工程、生物学的サンプル中のGP88タンパク質又はGP88をコードするポリヌクレオチドを検出する工程、そのサンプル中のGP88陽性即ち染色細胞の数及び所与のサンプル中の細胞の総数に対するGP88陽性即ち染色細胞の比率を決定する工程を含む、腫瘍形成性の診断方法も提供する。細胞の総数に対するGP88陽性即ち染色細胞の比率は、腫瘍形成性を示す。生物学的サンプル中のGP88の検出は、好ましくは、抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対して患者が耐性であるか否かを決定する方法について上記に記載したように、実行される。
【0108】
本発明の好適な実施形態において、GP88染色強度の等級付けスケール(grading scale)は、当分野で公知である標準強度スケール技法(standard intensity scale technique)に従って、GP88陽性細胞のパーセンテージに基づいて構築される。腫瘍形成性を診断する方法のために、生物学的サンプル中のGP88染色の強度は、好ましくは以下のように等級付けされる:GP88染色細胞が約1%未満である場合、負もしくは0と考えられる;GP88染色細胞が約1〜5%である場合、GP88について弱い陽性であると考えられる(1+);GP88染色細胞が約5〜25%(2+)である場合、中程度の陽性であると考えられる;及びGP88染色細胞が約25%を超える(3+)場合、GP88について強い陽性であると考えられる。等級毎のGP88染色細胞のパーセンテージは、生物学的サンプルのプールのサイズ及びGP88を同定するために使用される検出技法(例えば免疫染色、インサイチュー・ハイブリダイゼーション、蛍光インサイチュー・ハイブリダイゼーション(FISH)、逆ポリメラーゼ連鎖反応、ノーザンブロット、ウェスタンブロット、サウスウェスタンブロット等)に応じて、再調節される。例えば、より感度の高いGP88検出技法を用いる場合又は生物学的サンプルのプールが大きい場合は、等級毎の染色細胞のパーセンテージを低く調節することができる。本発明の好適な実施形態に従って、GP88染色細胞のパーセンテージが少なくとも約1%であれば、腫瘍形成性を示す。
【0109】
また本発明は、腫瘍形成性を診断するため又は抗エストロゲン療法の抗新生物作用に対して患者が耐性であるか否かを決定するためのキットにも関する。本発明の好適なキットは、容器及びGP88検出用分子(例えば抗GP88抗体、GP88 cDNAプローブ、GP88オリゴマープローブ)を含む。またキットは、生物学的サンプルの免疫染色又はインサイチュー・ハイブリダイゼーションのための試薬も含み得る。好適な実施形態において、本発明のキットは、固相酵素免疫測定法(「ELISA」)を実施するための試薬(例えば抗GP88抗体、標準曲線のために作成された複合もしくは非複合組換えGP88、及び検出用基質等)を含む。他の好適な実施形態は、GP88ポリヌクレオチドの存在を検出する逆ポリメラーゼ連鎖反応法を実施するための試薬を含む。
【0110】
また本発明は、乳癌等の癌を治療又は予防する方法であって、患者から得た生物学的サンプル中のGP88の量又はGP88陽性細胞のパーセンテージを決定する工程、及び、前記胸部組織サンプル中のGP88陽性即ち染色細胞のパーセンテージが約5%未満である場合に、乳癌を治療又は予防するのに十分な量のタモキシフェンを投与する工程を含む上記方法も提供する。本発明の他の好適な実施形態において、生物学的サンプル中のGP88陽性即ち染色細胞のパーセンテージが約10%未満である場合、タモキシフェン又は他の抗エストロゲン薬をエストロゲン受容体陽性患者に投与する。GP88陽性即ち染色細胞のパーセンテージが5%を超える場合、抗エストロゲン療法に対する感受性を回復するために、抗GP88療法(即ち抗GP88抗体又はアンチセンスGP88ポリヌクレオチドの使用)を施すことができる。癌を治療又は予防するのに十分な抗エストロゲン薬の量は、ケース・バイ・ケースで決定される。患者への抗エストロゲン薬(例えばノルバデックス[Nolvadex、登録商標]、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害薬、エストロゲン受容体ダウンレギュレーター等)の投与についてのガイダンスは、治療にあたる医師の知るところであり、簡単に入手できるものである。
【0111】
また、本発明は、患者における癌の再発を治療又は予防する方法であって、患者から得られた生物学的サンプル中のGP88量を同定し、生物学的サンプル中のGP88量が約5%以上であった場合、癌を治療又は予防するのに十分な量のGP88アンタゴニストを投与することを含む方法を提供する。GP88アンタゴニストとしては、限定されるものではないが、抗GP88抗体、アンチセンスGP88ポリヌクレオチド、抗GP88小分子、抗GP88受容体抗体、細胞傷害性分子に結合されたGP88アンタゴニストが挙げられる。GP88アンタゴニストを用いて、GP88の生物学的活性に干渉することにより、GP88レベルが上昇して発現している細胞において癌を治療又は予防することができる。
【0112】
本発明の他の実施形態は、患者において、エストロゲン非感受性細胞の成長を阻害、予防又は低減させる方法であって、患者から採取した生物学的サンプル中のGP88量を決定し、生物学的サンプル中のGP88量が約5%以上である場合、癌を治療又は予防するのに十分な量のGP88アンタゴニストを投与することを含む方法を提供する。上述したように、GP88レベルの上昇は、エストロゲン感受性からエストロゲン非感受性の成長へと細胞を変換することに貢献する(すなわち、抗エストロゲン療法に耐性を有する)。GP88アンタゴニストは、GP88の生物学的活性に干渉し、従って、エストロゲン非感受性細胞の成長を低減させる。
【0113】
GP88アンタゴニストを、上述したように及び米国特許第6,309,826号(本明細書に参照によりその全体が組み込まれる)に記載されるように製造し、投与することができる。1つの実施形態において、抗GP88アンタゴニストは、抗GP88抗体又は抗体フラグメントである。当該抗GP88抗体又は抗体フラグメントは、動物(例えばマウス、ウサギ、イヌ)、ヒトに由来するものであってよく、又は任意の適切な技術に従ってヒト化したものであってよい。患者から採取された生物学的サンプルは、例えば、血液、血清、血漿、尿、乳頭吸引物、脳脊髄液、肝臓、腎臓、乳房、骨、脳、結腸、肺、精巣又は卵巣組織に由来する物質を含み得る。
【0114】
また、本発明は、患者におけるエストロゲン非感受性腫瘍成長を阻害、予防又は低減させる方法であって、抗エストロゲン化合物及びGP88アンタゴニストの組み合わせを患者に投与することを含む方法を提供する。GP88レベルの上昇は、抗エストロゲン耐性の発生に寄与するので、抗GP88アンタゴニスト及び抗エストロゲン薬の共投与は、抗エストロゲン耐性を低減又は予防し、抗エストロゲン療法の有効性を増加させる。本発明の1つの実施形態において、患者は、抗エストロゲン療法耐性腫瘍を有している。本発明のその他の実施形態において、患者は、抗エストロゲン感受性腫瘍を有している。抗エストロゲン療法耐性腫瘍は、例えば、乳房、卵巣、腎臓、骨、膵臓、精巣、肝臓、脳、結腸、肺、及び皮膚の腫瘍に由来するものであってよい。抗エストロゲン療法耐性腫瘍は、エストロゲン非依存性成長を示すか及び/又は上昇したGP88レベルを示す腫瘍である。また、本発明は、患者におけるエストロゲン非感受性腫瘍成長を阻害、予防又は低減するための組成物であって、抗エストロゲン化合物及びGP88アンタゴニストを含む組成物を提供する。
【0115】
上述の治療法に関する実施形態のように、抗エストロゲン治療薬としては、限定されるものではないが、タモキシフェン、ノルバデックス[Nolvadex、登録商標]、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害薬、エストロゲン受容体アンタゴニストが挙げられ、またGP88アンタゴニストとしては、限定されるものではないが、抗GP88抗体、アンチセンスGP88ポリヌクレオチド、抗GP88小分子、抗GP88受容体抗体及び細胞傷害性分子に結合したGP88アンタゴニストが挙げられる。上述のように及び米国特許第6,309,826号に記載のように、GP88アンタゴニストを製造し、投与することができる。抗エストロゲン療法を患者に施すことに関するガイダンスは、容易に利用可能であり、治療にあたる医師の知るところである。
【0116】
(実施例)
本発明の教示を具体的な問題又は環境に当てはめることは、本明細書中に含まれる教示を照らし合わせれば、当業者の能力の範囲内でできることであることを理解されたい。以下の非限定的な実施例によって、本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0117】
ヒト乳癌MCF-7細胞におけるPC細胞由来増殖因子(GP88)によるエストロゲン細胞分裂促進効果の媒介
エストロゲン受容体陽性細胞において、エストロゲン代替化合物である17-β-エストラジオール(E2)は、用量および時間依存的にPCDGFの転写による発現を刺激した。本発明者らは、本明細書において、PCDGFがMCF-7細胞におけるエストラジオール(E2)の細胞分裂促進効果を媒介することを証明する。PCDGFはE2に代わってDNA合成を促進する。E2の細胞分裂促進効果は抗PCDGF中和抗体によって用量依存的に阻害された。アンチセンストランスフェクションによるMCF-7細胞でのPCDGF発現の阻害もまた、E2の細胞分裂促進効果を阻害した。一方、MCF-7細胞におけるPCDGFの過剰発現は、エストロゲン非存在下で増殖可能なタモキシフェン耐性の細胞を生じさせた。E2と同様に、PCDGFはマイトジェン活性化プロテインキナーゼの活性を刺激した。PCDGFはE2に代わってサイクリンD1の発現を刺激できた。E2によるサイクリンD1刺激は、抗PCDGF抗体によって50%阻害された。一方、PCDGFは別のE2標的分子であるc-myc発現を刺激しなかった。本発明者らは、オートクリンPCDGFがサイクリンD1の刺激を介してE2の細胞分裂促進効果を媒介するとの結論に至った。
【0118】
PCDGF発現に対するヒト腫瘍細胞系のスクリーニングは、それがエストロゲン受容体陰性(ER-)のヒト乳癌において高発現していることを示した。アンチセンスPCDGF cDNAのトランスフェクションによるこれらの細胞でのPCDGF発現の阻害は、ヌードマウスに注入した場合、腫瘍の発生率および腫瘍の大きさを90%阻害した。これらのデータは腫瘍の表現型の維持にPCDGFが関与することを示した。上述のように、ER+細胞では、エストロゲン受容体刺激に応答して産生されたPCDGFがE2の細胞分裂促進活性を媒介する。PCDGFが過剰発現になった場合、その細胞はエストロゲン非依存性になり、抗エストロゲン薬の抗新生物効果に耐性を示す。
【0119】
結果
PCDGFはエストロゲン非存在下でMCF-7細胞のDNA合成を刺激する
本発明者らは最初に、PCDGFの添加がE2非存在下で維持したMCF-7細胞のDNA合成を刺激するかどうかを調べた。これらの条件下において、内因性のPCDGFの産生は非常に低かった。10 ng/ mlのPCDGFで、対照(E2およびPCDGF非存在下で維持した細胞)(p<0.01)より2倍の3H-チミジン取り込みの増加が観察された(図16A)。図16AはPCDGFがE2非存在下においてMCF-7細胞のDNA合成を刺激することを図示している。MCF-7細胞(105細胞/ウェル)をDMEMおよびHam's F-12培地の1:1(5% FBS添加)混合培地中に播種した。48時間後、培地をPFMEMに交換し、24時間後無血清α-MEM培地に交換した。ヒトPCDGFの濃度を勾配をつけて培地に添加した(三重)。陰性および陽性の対照としてそれぞれ、EtOH のみ(CON)または10-9 M E2(E2)を用いた。5時間後、3H-チミジン(1μCi/ml)を24時間添加した。結果は三回の測定の平均値±SDとして示した。10-9 M E2によって観察されるものと同様に、100 ng/mlのPCDGFによって最大4倍の刺激が観察された(p<0.001)。PCDGFは別のER+細胞系であるT47DのDNA合成を刺激した。100 ng/ mlのPCDGFによって2.9±0.3倍の DNA合成刺激が観察された。
【0120】
E2の細胞分裂促進効果は抗PCDGF抗体で細胞を処理することによって阻害される。これらの結果およびMCF-7細胞においてE2がPCDGF発現を刺激することに基づいて、本発明者らは内因性のPCDGFがオートクラインループを介してE2の細胞分裂促進効果を媒介できるかどうかを決定した。このために本発明者らはまず、MCF-7細胞によって産生されるPCDGFを遮断する抗PCDGF抗体による処理が、E2の細胞分裂促進活性を阻害するかどうかを調べた。アフィニティー精製した抗ヒトPCDGF抗体の添加は、E2によって刺激される細胞の増殖を用量依存的に阻害した(図16B)。図16Bは抗PCDGF抗体が特異的にE2の細胞分裂促進効果を阻害することを図示している。MCF-7細胞を10-9 M E2(E2)単独または増加していく濃度のアフィニティー精製抗PCDGF抗体:50μg/ml(Ab1)、100μg/ml(Ab2)、200μg/ml(Ab3)および300μg/ml(Ab4)とともに処理した。対照として、10-9 M E2および300μg / mlの免疫前 IgG(preIgG)で処理した細胞ならびに10 ng /mlのIGF-II(IGF)単独または300μg/ml抗PCDGF抗体存在下(Ab+IGF)で処理した細胞を用いた。結果は三重測定の平均値±SDとして図中に示した。300μg / mlの抗PCDGF抗体によってE2の細胞分裂促進効果の74%阻害が観察された(P<0.003)が、同様の濃度の非免疫IgGは影響しなかった。この抗体濃度は細胞毒性を示さなかった。PCDGF(200 ng/ml)の添加は抗PCDGF抗体で処理した細胞の増殖を回復させた。PCDGF抗体は既知のMCF-7細胞の増殖刺激因子であるインスリン様増殖因子-IIの刺激効果を阻害できなかったため、その効果の特異性もまた実証された。これらの結果は、MCF-7細胞に対するE2の細胞分裂促進効果を媒介するためにPCDGFがオートクリン増殖因子として作用することを示す。
【0121】
PCDGF発現の阻害はE2存在下でのMCF-7細胞の増殖を阻害する。本発明者らは次に、MCF-7細胞におけるPCDGF発現の阻害がE2の成長刺激効果を妨げるかどうかを実証しようと試みた。このために、本発明者らはアンチセンスPCDGF cDNAトランスフェクションによってPCDGF発現が阻害されたMCF-7細胞におけるE2の細胞分裂促進効果を調べた。2つの代表的なアンチセンスクローンAs13およびAs22ならびに空ベクター対照をトランスフェクトしたMCF-7細胞(MCF-7C)でのPCDGFレベルを、同一の細胞数を用いて調製されたサンプルのウェスタンブロット解析によって決定した(図17A)。図17AはMCF-7細胞へのアンチセンスPCDGF cDNAトランスフェクションによるPCDGF発現の阻害を示している。アンチセンス(As13およびAs22)ならびに空ベクター対照をトランスフェクトした細胞(MCF-7C)におけるPCDGF発現をウェスタンブロット解析によって調べた。AS13(レーン1)、AS22(レーン2)およびMCF-7C細胞(レーン3)をPFMEMの中で10-9 MのE2で処理した。24時間後、馴らし培地を回収し、同一細胞数(4x106細胞)で標準化し、PCDGF発現を測定した。As13細胞はPCDGF発現の80%の阻害を示した一方、As22はMCF-7C細胞と比較して50%の阻害を示した。
【0122】
その後、これらのアンチセンスおよび対照MCF-7C細胞におけるE2のDNA合成に対する効果を調べた。[-3H]チミジン取り込みアッセイにより、MCF-7C細胞におけるE2の刺激効果がAS13およびAS22においてはPCDGF発現の阻害の程度と相関して減少したことが示された(図17B)。図17BはMCF-7細胞におけるPCDGF発現の阻害がE2の細胞分裂促進活性を阻害することを図示している。E2の細胞分裂促進効果をアンチセンスおよび対照MCF-7C細胞で調べた。AS13(黒塗りの棒グラフ)、AS22(斜線の棒グラフ)、およびMCF-7C細胞(白抜きの棒グラフ)を10-9 MのE2(E2)、100 ng/mlの組換えPCDGF(PCDGF)または0.1% EtOHのみ(Con)で処理した。上述のようにして3H-チミジン取り込みを測定した。結果は平均値±SDとして図中に示した。AS13はE2効果の最も強い阻害を示した。E2によって媒介されるDNA合成は、それぞれ、AS13ではMCF-7C細胞において観察されるそれのわずか25%(p<0.001)であり、AS22では60%(p<0.001)であった。PCDGFの添加はアンチセンスクローンの増殖をE2存在下で培養された対照MCF-7細胞で見られる水準にまで回復させた。
【0123】
PCDGFの過剰発現はエストロゲン非依存性およびタモキシフェン耐性を引き起こす
上述の結果に基づき、本発明者らはER+ MCF-7細胞においてそれらのエストロゲンおよびタモキシフェン応答に対するPCDGFの構成的過剰発現の効果を調べた。サイトメガロウイルスプロモーターの制御下にPCDGF cDNAを包含するpcDNA3発現ベクターを用いて、MCF-7細胞をトランスフェクトした。O4と名付けられた代表的なクローンを含むいくつかのPCDGF過剰発現クローンが得られた。図18Aは、E2の枯渇した培地における対照MCF-7C細胞と比較して、O4細胞がより高いレベルのPCDGFを産生することを示す。図18AはO4細胞および対照MCF-7C細胞でのPCDGF発現を図示している。O4および空ベクター対照MCF-7細胞をPFMEM中で培養した。24時間後、馴らし培地を回収し、PCDGF発現を測定した。
【0124】
O4細胞のチミジン取り込みはMCF-7C細胞のそれより2.2倍高く(p<0.01)、E2非存在下で増殖するO4細胞の能力を証明した(図18B)。図18Bはエストロゲンを枯渇したPFMEM培地中でのO4および対照MCF-7細胞の増殖を示す。細胞をエストロゲンを枯渇したPFMEM培地に三連で播種した。細胞をE2非存在下(対照:Con)で維持し、または10-9MのE2もしくは200 ng/mlのPCDGFで24時間処理した。その後3H-チミジンを添加しDNA合成を測定した。結果は平均値±SDとして表した。更に、E2を枯渇した培地中のO4細胞とPCDGFまたはE2のいずれかで処理されたMCF-7C細胞のチミジン取り込みレベルとの間に有意差はなかった(P>0.05)。MCF-7Cとは異なり、O4細胞へのE2またはPCDGFの添加は有意な付加的効果を持たなかった。持続的な増殖アッセイにおいて、MCF-7C細胞はE2非存在下で増殖できなかったが、一方、O4細胞は、E2存在下におけるMCF-7C細胞の倍加時間(doubling time)である36時間に近似する42時間の倍加時間で増殖した。これらのデータはPCDGFの過剰発現がE2非存在下で増殖効果を与えることを示す。
【0125】
これらの結果に基づいて、O4およびMCF-7C細胞のタモキシフェン反応性を調べた。図18Cはタモキシフェンに対するMCF-7およびO4細胞の応答の比較を示す。MCF-7C細胞(黒塗りの棒グラフ)およびO4細胞(白抜き棒グラフ)に、それのみまたは増加していく濃度のタモキシフェン存在下で10-9 MのE2を与えた。200 ng/mlのヒトPCDGFおよび1μMのタモキシフェン(T+P)によって処理したMCF-7C細胞も調べられた。図16に記述したようにしてDNA合成を測定した。E2のみで処理した細胞におけるDNA合成値の割合として結果を表した。タモキシフェンは、100 nMでE2の効果の60%阻害、500 nMで80%阻害、1μMのタモキシフェンで最大90%阻害のように、用量依存的にMCF-7C細胞の増殖を阻害した(図18C)。その一方、O4細胞の増殖は100 nMのタモキシフェンによって影響を受けず、500 nMおよび1μMのタモキシフェンでそれぞれE2の効果のわずか20%および55%の阻害が観察されるので(P< 0.001)、O4細胞はタモキシフェン反応性の著しい減少を示した。興味深いことに、MCF-7細胞へのPCDGFの添加はタモキシフェンの阻害を90%から38%に減少させた(P<0.0001)。これらのデータは、PCDGFがタモキシフェンの阻害を克服でき、MCF-7細胞におけるPCDGF発現の増加がタモキシフェン耐性を引き起こすことを示す。
【0126】
すべてのトランスフェクトされた細胞において、エストロゲン受容体の発現、E2によるエストロゲン応答エレメントの活性化、およびE2によるプロゲステロン受容体mRNA発現の刺激など、エストロゲン応答に関与する他のパラメーターの状態を評価した。これらのアッセイにおいて、アンチセンス、対照、およびPCDGF過剰発現細胞の間での差異は見られなかった(データは示さない)。これらのデータは、アンチセンスまたは過剰発現細胞で観察されたE2の増殖応答における変化が、ERの数もしくは機能の総合的な変化によるものではなく、むしろPCDGF発現の変化と相関することを示す。
【0127】
PCDGFはマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(「MAPキナーゼ」)経路の活性化を介してMCF-7細胞におけるDNA合成を刺激する
本発明者らは次に、E2と比較して、MCF-7細胞でPCDGFによって刺激されるシグナル伝達経路を調べた。E2は細胞周期のG1期の通過を刺激することが示されている。現在、いくつかの基礎となる標的分子が解明されている。E2はMCF-7細胞においてMAPキナーゼ活性を刺激することが知られている。下流において、E2はc-myc経路およびD-型サイクリン/cdk複合体を活性化する。最近の研究では乳癌細胞においてc-mycおよびサイクリンD1経路が独立にE2によって活性化されることが示された。従って、本発明者らはMCF-7細胞においてPCDGFがE2に代わってMAPキナーゼ、サイクリンD1および/またはc-myc経路を刺激できるかどうかの決定を試みた。
【0128】
2つのアプローチによってMCF-7細胞におけるPCDGF作用へのMAPキナーゼの関与が示された。第一に、DNA合成に対するPCDGFの刺激効果はMEK阻害剤PD098059によって用量依存的に阻害された(図19A)。図19AはPCDGFの細胞分裂促進効果に対するMAPキナーゼ阻害剤の影響を示す。MCF-7細胞を図16で述べたように培養した。溶媒のみ(Con)または100 ng/mlのヒト組換えPCDGFのみ(P)を添加する前に、細胞を10μM(PD10)または30μM(PD30)のPD098059で60分間前処理した。チミジン取り込みのデータは平均値±SDとして示した。PCDGFの効果は10μMのPD098059によってほぼ完全に阻止された。他の系において完全にMAPキナーゼ活性を阻害することが知られている濃度、30μMのPD098059によって、完全な阻害が観察された。第二に、in vitroでのMAPキナーゼアッセイによって、本発明者らはPCDGF(200ng/ml)がMCF-7細胞におけるMAPキナーゼ活性を3倍に増加させることを示した(図19B)。この効果はPD098059(30μM)によって阻止された。図19BはPCDGFによるMAPキナーゼの活性化を図示している。細胞をPFMEM培地中で24時間培養し、続いて無血清α-MEM培地で培養した。調べられたサンプルは、0、50ng/mlおよび200ng/mlのヒトPCDGFで10分間処理したMCF-7細胞(それぞれレーン1-3)ならびに200 ng/mlのPCDGFおよび30μMのPD098059で10分間処理したMCF-7細胞(レーン4)であった。キナーゼアッセイは本明細書に記述したように実施された。リン酸化されたMBPバンドの強度をデンシトメトリー走査法によって解析した。MAPキナーゼ活性を標準化する内部対照として、MAPキナーゼ(Erk1およびErk2)の発現を確認するために、等量の当初の上清を用いた。
【0129】
PCDGFはMCF-7細胞でのサイクリンD1発現を刺激するがc-myc発現を刺激しない
サイクリンD1発現に対するPCDGFの効果を判定するための実験を行った。PCDGFはMCF-7細胞において時間依存的にサイクリンD1発現を刺激し、5時間後には最大で無処理の対照の4倍に達した(図20A)。サイクリンD1刺激効果はPCDGFの細胞分裂促進効果の阻害と同一の方法でPD98059によって阻止された。図20AはPCDGFによるサイクリンD1発現の刺激を示す。MCF-7細胞をPFMEM培地中で三連で培養し、1μMタモキシフェン処理によって同調させた。培地を200ng/ml PCDGF単独または30μM PD98059(上)もしくは10-9M E2(下)を添加した新しい培地に交換した。細胞を表示した時間に溶解し、60μgの全細胞溶解物と抗サイクリンD1抗体を用いたウェスタンブロット解析によってサイクリンD1発現を測定した。サンプルは、200ng/ml PCDGFで0時間(レーン1)、3時間(レーン2)、5時間(レーン3)および12時間(レーン4)処理したMCF-7細胞、無処理で5時間目のMCF-7細胞(レーン5)、200ng/ml PCDGFおよびPD98059で5時間処理したMCF-7細胞(レーン6)、ならびに10-9M E2で0、3時間および5時間処理したMCF-7細胞(それぞれレーン7〜9)であった。
【0130】
PCDGFによるサイクリンD1発現の刺激は、G1期の進行に絶対必要とされるpRbのリン酸化および発現の増加を伴っていた。PCDGF処理の6時間後、pRbは過剰リン酸化状態になった。24時間後、すべてのpRbは過剰リン酸化型になり、無処理細胞と比較してタンパク質発現は5倍に増加した。この効果もまたPD98059によって阻害された(データは示さない)。
【0131】
本発明者らは次に、MCF-7細胞におけるエストロゲン作用の別の標的であるc-myc発現を刺激するE2およびPCDGFの能力を比較した。図20Bに示されたように、E2(10-9 M)はステロイドを除去したMCF-7細胞において3時間以内に最大4倍の誘導を伴うc-myc発現の急速な増加を刺激した。E2によるc-myc誘導のレベルは10時間以上持続した。対照的に、PCDGFは同一時間ではc-mycタンパク質の発現に影響を与えなかった(図20B)。図20Bはc-myc発現に対するE2およびPCDGFの効果を図示している。MCF-7細胞を1μMタモキシフェン処理によって同調させた。細胞を10-9M E2(上)または200 ng/ml PCDGF(下)で表示した時間処理した。60μgの全細胞溶解物と抗mycポリクローナル抗体を用いて、c-myc発現のウェスタンブロット検出を行った。
【0132】
PCDGFはサイクリンD1を誘導するがc-myc発現を誘導しなかったので、本発明者らは内因性のPCDGFの増加がE2のサイクリンD1発現を刺激する能力に関与するかどうかを決定した。抗PCDGF中和抗体(300μg/ml)によるMCF-7細胞の処理は、抗体添加後5時間で、E2によるサイクリンD1の刺激を52±8%阻害した。この阻害の程度は抗体添加後12時間持続した。これらのデータは、MCF-7細胞においてサイクリンD1を刺激するE2の能力が、少なくとも部分的には、内因的に産生されるPCDGFによって媒介されることを示している。
【0133】
考察
本発明者らは以前に、ER+ヒト乳癌細胞がPCDGFを発現し、E2が用量および時間依存的にPCDGF発現を刺激することを報告した。本発明者らは本明細書においてPCDGFがE2の増殖刺激効果を媒介することを証明する。本発明者らはPCDGFがE2非存在下で維持されたヒト乳癌細胞MCF-7およびT47Dの増殖を刺激することを示す。本発明者らは次に、抗PCDGF抗体によるPCDGFオートクライン経路の遮断がE2の細胞分裂促進効果を阻害することを示す。抗体は、IGF-IIの細胞分裂促進効果を阻害できなかったため、この効果はPCDGFに特異的であった。更に、アンチセンスcDNAトランスフェクションによるPCDGF発現の阻害が、PCDGF発現の阻害の程度と相関したMCF-7細胞におけるE2の細胞分裂促進効果の低減を示したことによって、E2の細胞分裂促進効果へのPCDGFの関与を実証した。外因性PCDGFの添加は、これらのアンチセンス細胞の増殖を回復させた。更に、MCF-7細胞におけるPCDGF発現の増加はE2非存在下での細胞の増殖とタモキシフェン耐性を引き起こした。ER発現、エストロゲン応答エレメント-ルシフェラーゼリポーター遺伝子の活性化、またはプロゲステロン受容体発現の刺激などの、E2応答の他のパラメーターに変化がなかったという事実は、トランスフェクトされた細胞におけるE2の細胞分裂促進効果の変化がE2受容体の変化によるものではなく、PCDGF発現の変化に特異的なものであることを示した。
【0134】
本発明者らの結果は、PCDGFがヒト乳癌細胞におけるE2の細胞分裂促進効果を媒介するためにサイクリンD1をアップレギュレートさせることを示す。この仮説を支持するように、サイクリンD1発現の刺激を阻害したE2は、抗PCDGF中和抗体によるMCF-7細胞の処理後5〜12時間以内で52%まで阻害された。結論として、本明細書に記載された研究は、ヒト乳癌細胞系MCF-7に対するE2の細胞分裂促進効果の少なくとも一部の新規伝達物質としてPCDGFを同定する。
【実施例2】
【0135】
タモキシフェン耐性の判定
本発明者らは、アンチセンスcDNAトランスフェクションによるER陰性乳癌細胞でのGP88発現の阻害が腫瘍形成の阻害を引き起こすことを示し、乳癌細胞の腫瘍形成特性におけるGP88過剰発現の重要性を示している。乳癌は本質的に不均一であり、乳腺の多様な機能性細胞区画に影響を及ぼすことができるので、進行モデルの様々な段階のGP88発現の生検代表値を調べることが望ましい。腫瘍マーカーの検出は診断または初期治療の際に乳癌の臨床経過を評価・予測するために望ましい方法であり、治療法の選択の判断に重要であることが示されている。これらの研究は乳癌の潜在的な予後マーカーとしての新規増殖因子PCDGFの解析を提供するので、女性の健康に直接関連している。
【0136】
GP88発現に次いで、アフィニティー精製した抗ヒトGP88抗体を用いて、パラフィン包埋した生検の切片の免疫組織化学的解析を行った(図21)。検査される疾患の進行段階は、良性過形成→異型乳管過形成(ADH)→(非浸潤性乳管癌)DCIS→浸潤性乳管癌(IDC)→転移性疾患を含む。並行して、乳癌進行の間に起こる遺伝学および生物学的変化の代表的な選択マーカーも検査した。
【0137】
検査した疾患の各段階(すなわち、上皮過形成および線維嚢胞性変化を含む良性段階、異型乳管過形成、非浸潤性乳管癌、浸潤性乳管癌ならびに転移性乳癌)で、Ki-67(増殖マーカー)、p53(腫瘍抑制因子)、ER/PR(反応性)、cerbB2発現(増殖因子受容体)などの他のマーカーの検出と並行して、GP88発現を検出し、疾患の程度・段階およびリンパ節の状態と相関させた。
【0138】
病巣の段階および種類の病理組織学的診断ならびにKi-67およびER/PR状態のような他のいくつかの予後マーカーの検査によって、生検を分類した。結果は予後不良の腫瘍に相当するgrade 3のER-/PR乳腺癌の上皮細胞におけるGP88発現を示した。正常組織または良性小葉癌の上皮細胞におけるGP88発現は陰性であった。
【0139】
方法
組織の調製。パラフィンブロックから厚さ4μmの組織切片を切り、電荷を帯びたスライドグラスに載せた。標準的な方法によって、切片の脱パラフィン、固定、抗原の回復および再水和を行った。
【0140】
抗ヒトGP88抗体の調製。GP88発現を検出する望ましい方法はアフィニティー精製した抗ヒトPCDGF抗体を用いた免疫染色によるものである。発明者の研究室において発現および精製されたヒト組換えPCDGFを用いて、ウサギもしくはマウスを免疫し、ポリクローナルまたはモノクローナル抗ヒトGP88抗体を開発した。ポリクローナル抗体のために、硫酸ナトリウム沈殿および透析によって、ウサギ抗血清から抗GP88 IgG画分を分離した。CNBr活性化セファロースに純粋なヒトGP88を結合させることによって作製した、GP88結合セファロースカラムでのクロマトグラフィーによって、この画分をアフィニティー精製した。この高純度の抗体画分をSDS-PAGEクロマトグラフィーによって解析してIgGに対応する単一バンドを包含することを示し、免疫染色によって、固定した細胞および組織切片においてバックグラウンドのない非常に特異的な染色を提供することを示した。代替として、抗GP88モノクローナル抗体を使用してもよい。
【0141】
上述のように作製した組織切片を特異的抗体とともに室温で1時間加湿器内でインキュベートし、次いで抗GP88抗体とともにインキュベートして、免疫染色を行った。抗体の結合はビオチン化二次抗体およびストレプトアビジン-ペルオキシダーゼ複合体(Ventana kit)とともにインキュベートすることによって検出されることが望ましい。発色現像は切片を3,3'-ジアミノベンジジン溶液(3%過酸化水素とともに0.25 mg/mL)に浸すことによって得られることが望ましい。次いで、スライドをヘマトキシリンで対比染色し、カバースリップで封入することが望ましい。
【0142】
顕微鏡検査によって免疫染色データの解析を行った。以下に示すように公開された方法を用いて、選択したマーカーのスコアリングを行った。先行技術の染色強度スコアリング法は以下を包含する。すなわち、ERおよびPRの状態ならびにp53変異型の存在は、一般に使用される方法による核染色の等級付けによって測定される(5%以下の核染色は陰性。陽性染色は弱(1+)から中程度(2+)強(3+)まで強度スコアを割り当てられる)。c-erbB-2染色は膜染色の存在および強度によって評価され、以下のように等級付けされる。すなわち、5%以下の染色は陰性。陽性染色は弱(1+)から中程度(2+)強(3+)まで等級付けされる。ストロメリシン-3発現は腫瘍細胞および周囲の基質で独立に等級付けされ、そのスコアリングは望ましくはER/PR、p53およびc-erbB-2に用いられた方法によって行われる。染色強度の等級付けの方法論はGP88の検出に直接適用できる。
【0143】
本発明者らの結果は、正常組織および良性の病巣の上皮細胞がGP88の染色を受けないことを示す。一方、ER-/PR-浸潤性乳管癌の上皮細胞は、非常に強いGP88の陽性染色を示す。GP88陽性の上皮細胞の存在をスコアリングし、他の乳癌の予後マーカーをスコアリングし指標化するために通常用いられる方法に従って等級付けをすることができる。GP88染色を評価するために、以下のスコアリングおよび指標化の尺度を用いた。すなわち、約5%以下の染色は陰性。約10-25%の陽性染色の弱(1+)から、50%以上の陽性細胞を含む強(3+)までに等級付けする(中程度(2+)は25-50%の陽性細胞)。各等級に対する陽性細胞の割合は、多数のサンプルの解析が得られた場合は下方に再修正される。
【0144】
上述の方法および生物学的サンプルの種類に加えて、抗エストロゲン療法の反応性を予測するためのGP88発現の検出は、血清または血漿、尿または乳頭吸引液のような体液でのGP88発現増加の測定に拡張することができる。抗エストロゲン療法の反応性を予測するためのGP88発現の検出はまた、細胞抽出液でのGP88発現増加の測定にも容易に拡張することができる。
【0145】
検出方法は、酵素(限定されるものではないが、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ビオチンなど)もしくは蛍光タグを直接結合させた抗体、または(限定されるものではないが、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ストレプトアビジンもしくは蛍光タグなどの)結合二次抗体の使用のような、酵素免疫測定法を包含するがそれに限定されない。
【0146】
選択されたマーカーのスコアリングのための望ましい方法は、当技術分野において既知であり、以下の参照に記載され、その内容は参照により本出願に組み入れられる。すなわち、(1)Ferno, M. (1998) Prognostic factors in breast cancer, Anticancer Research, 18, 2167-2172;(2)Harbeck N., Dettmar, P., Thomssen, C., Henlselmann, B., Kuhn, W., Ulm, K., Janicke, F., Hofler, H., Graeff, H., Schmitt, M. (1998), Prognostic impact of tumor biological factors on survival in node-negative breast cancer, Anticancer Res.18, 2187-2198;(3)Allred, D.C., Harvey, J.M., Berardo, M., Clark, G.M. (1998), Prognostic and predictive factors in breast cancer by immunohistochemical analysis, Mod. Pathol. 11,155-168;および(4)Thor, A.D., Moore, D.H., Edgerton, S.M., Kawasaki, E.S., Reihsaus, E., Lynch, H.T., Marcus, J.N., Scwartz, L., Chen, L.C., Mayall, B.H. (1992), Increased accumulation of the p53 suppressor gene product is an independent prognostic variable for breast cancer, J. Natl. Cancer. Inst., 84, 845-855である。
【0147】
抗GP88抗体によるGP88染色
パラフィン包埋した乳癌患者からの乳房組織の生検を、免疫組織化学的手法を用いて抗GP88抗体によって染色した。図21に示したように、良性の病巣はGP88染色を示さず、一方、浸潤性乳管癌(「IDC」)のサンプルはGP88陽性細胞の強い染色を示した。GP88発現は良性の病巣と比較して発癌性の浸潤性乳管癌において上昇している。
【0148】
エストロゲン受容体陽性(ER+)およびエストロゲン受容体陰性(ER-)の浸潤性乳管癌(IDC)腫瘍におけるGP88染色強度
IDC腫瘍の生物学的サンプルを抗GP88抗体で免疫染色し、それらのエストロゲン受容体状態(ER+ =エストロゲン受容体陽性、ER- =エストロゲン受容体陰性)およびGP88染色強度の等級によって分類した。図22に示すようにGP88染色強度の増加はIDC腫瘍におけるエストロゲン受容体の減少と直接相関している。染色強度0の際、解析したすべてのIDC腫瘍サンプルはER+であった。染色強度1の際、IDC腫瘍の80%がER+、20%がER-であった。染色強度2の際、IDC腫瘍の50%がER+、50%がER-であった。染色強度3の際、IDC腫瘍の20%がER+であるのに対して、80%はER-であった。このように、GP88染色強度が増加するに従って、ER+ IDC腫瘍の割合は減少する。
【0149】
GP88染色強度によって分類されたER+ IDC腫瘍のタモキシフェン反応性
GP88染色強度の増加は、細胞が増殖に対するエストロゲン依存性を喪失し、エストロゲン非依存性になったことを示す。細胞の増殖はもはやエストロゲンのようなホルモンからの外部シグナルによって制御されず、むしろGP88からの自己分泌増殖シグナルによって制御される。以前は、エストロゲン受容体の存在が、細胞が抗エストロゲン療法に応答できるかどうかの指標であると考えられた。しかし、細胞がエストロゲン依存性からエストロゲン非依存性の増殖に転換した時、細胞増殖シグナルは構成的であり、エストロゲンまたは抗エストロゲン薬の存在又は不在によって制御されないので、エストロゲン受容体の存在は抗エストロゲン療法が有効かどうかと無関係である。従って、高レベルのGP88(+2以上)を有するエストロゲン受容体陽性腫瘍は、細胞がエストロゲン受容体を提示するにも関わらず、抗エストロゲン療法耐性である。
【0150】
抗エストロゲン薬耐性に対するGP88レベル増加の影響を調べるために、タモキシフェン治療耐性の患者およびタモキシフェン治療に反応性の患者からIDC腫瘍サンプルを得た。腫瘍サンプルを上述のように抗ヒトGP88抗体で免疫染色した。図23に示したように、IDC腫瘍をGP88染色強度に従って0から3までの等級(x-軸)に分類した。エストロゲン受容体陽性(ER+)の全IDC腫瘍の割合を決定し、y-軸にタモキシフェン反応性(白い棒グラフ)またはタモキシフェン耐性(黒い棒グラフ)として分類した。染色強度の等級が0の際、すべてのER+ IDC腫瘍(全腫瘍数の40%)はタモキシフェン反応性の患者由来であった。染色強度の等級が1の際、すべてのER+ IDC腫瘍(全腫瘍数の60%)はタモキシフェン反応性の患者由来であった。しかし、染色強度が等級1から等級2に動くにつれて、すべてのER+ IDC腫瘍(全腫瘍数の80%)はタモキシフェン耐性の患者由来となった。染色強度の等級が3の際には、すべてのER+腫瘍(全腫瘍数の30%)はタモキシフェン耐性の患者由来であった。従って、ER+ IDC腫瘍であっても、GP88強度が等級0から等級3に増加するに従って、次第にタモキシフェンの効果に対して耐性になる。更に、染色強度が等級1から等級2に増加した時、ER+ IDC腫瘍は完全にタモキシフェン反応性からタモキシフェン耐性に転換した。仮説に制約されることは望ましくないが、第3段階から第4段階でのタモキシフェン耐性腫瘍の割合の二次的な減少は、GP88レベルの増加に伴うエストロゲン受容体(すなわち、ER+ IDC腫瘍の割合)の減少に起因すると思われる。従って、図23はGP88レベルの増加が、エストロゲン受容体の喪失の前にでも、細胞を抗エストロゲン療法反応性(等級0および1)から抗エストロゲン療法耐性(等級2および3)段階に切り換えることを証明している。従って、エストロゲン受容体の存在と比較して、GP88は、患者が抗エストロゲン療法に応答するか、またはそれによって不当に被害を被るかどうかの、より正確で信頼性のある予後指標として役立つ。
【0151】
上記の記述および添付図面は、本発明の特性および利点を実現することができる、典型的な実施形態の説明にすぎない。本発明が本明細書において詳細に示され記述された実施形態に限定されることを意図していない。本発明は、前述のではなく、本発明の精神および範囲に相当する任意の変化、修正、置換または同等の改変を組み入れるために変更することができる。本発明は以下の特許請求の範囲によってのみ制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌治療用の医薬の製造におけるGP88アンタゴニスト及び抗エストロゲン化合物の使用。
【請求項2】
前記癌が乳癌である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記GP88アンタゴニストが抗GP88抗体、抗GP88抗体の抗原結合性フラグメント及びアンチセンスGP88ポリヌクレオチドから成る群より選択されるものである、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記抗GP88抗体又は抗GP88抗体の抗原結合性フラグメントがキメラ化されたものである、請求項3記載の使用。
【請求項5】
前記抗GP88抗体又は抗GP88抗体の抗原結合性フラグメントがヒト化されたものである、請求項3記載の使用。
【請求項6】
前記抗エストロゲン化合物がタモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害薬及びエストロゲン受容体ダウンレギュレーターから成る群より選択されるものである、請求項1記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−215302(P2009−215302A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−113155(P2009−113155)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【分割の表示】特願2003−504895(P2003−504895)の分割
【原出願日】平成14年6月14日(2002.6.14)
【出願人】(503457758)エイ アンド ジー ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】