説明

抗微生物ポリマーおよびその使用

非浸出性抗微生物活性を有するポリマーおよび表面被覆剤または医療デバイス用のバルク樹脂としてのそれらの使用。抗微生物ポリマーが、ポリマー鎖末端にまたは側鎖末端にてポリマー主鎖に共有結合された抗微生物部分を用いて調製される。抗微生物部分含有末端基は、ポリマー表面における抗微生物末端基の富化、したがって抗微生物活性表面の形成を促進する表面活性(または表面組織化)部分を含む。組込みの抗微生物末端基を有するポリマーは、医療デバイス(例えば、カテーテル、血管アクセス器具、末梢ライン、IV部位、排液管、経胃栄養チューブ、および他の埋込み可能デバイス)の製造において、バルク樹脂として、抗微生物添加剤として、または感染予防被覆剤として使用され得る。そのような材料はまた、バイオフィルム形成の制御を必要とする環境中の微生物と接触する構造物(例えば、海洋製品)上に抗微生物および防汚被覆剤としても使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、共有結合により分子構造中に組み込まれた抗微生物活性部分を有する新規ポリマーを提供するものである。本明細書においては、そのようなポリマーから作られる新規の有用な医療デバイスおよび被覆剤もまた開示される。
【0002】
[発明の背景]
抗微生物剤は、微生物の増殖または発育を減少または抑制する化合物である。これは、作用様式、組成、活性度、および用途に応じて様々な機序により達成される。抗微生物性化合物の使用は、標的微生物の死または抑制された成長のいずれかに繋がる。1900年代初頭に発見されて以来、抗微生物剤は、感染性疾患の予防および処置に変化をもたらしてきた。現在では、それらは非常に広い用途範囲にわたって使用されている。
【0003】
抗微生物剤にはまた、人類の健康に有害である可能性もある。したがって、使用期間にわたって有効であり続け、かつ適応力のある耐性微生物を生み出す危険を縮小する、非浸出性の抗微生物材料があることが望まれる。理想的には、抗微生物剤は使用実績を有し、患者の健康に悪影響を及ぼすことなく種々の微生物に対して広範な活性を示すものである。抗微生物材料または抗微生物剤を含む他の材料は、商業的に実現可能な製造方法(例えば、成形、押出、および他の全ての熱可塑的な「加工」方法、または溶媒ベースのプロセス、水を担体とする系、および固形分100%(架橋性)液)により、形成された医療製品または他の健康管理製品の表面に適用され得るものでなければならない。また、抗微生物添加剤は、処理された物質の生理化学的および機械的性質に干渉すべきではなく、既存の調合物および製造プロセスに適用され得るものでなければならない。さらに、そして重要なのは、製品への新たな抗微生物特性の組み込みが経済的であるべきだということである。
【0004】
細菌感染は、医療デバイスの使用に関連する一般的な合併症の一つである。医療デバイス(例えば、カテーテル、血管アクセス器具、末梢ライン(peripheral line)、静脈内部位(intravenous(IV)site)、排液管、経胃栄養チューブ、気管チューブ、ステント、ガイドワイヤ、ペースメーカ、および他の埋込み可能なデバイス)の進歩は、医療における診断および処置行為に多大な利益を与えてきた。しかし残念ながら、細菌感染は、留置医療デバイスの使用に関連する最も深刻な合併症の一つになりつつある。例えば、フォーリーカテーテルを10日間より長く所定位置に設置した患者のうちの約20%の患者、そしてそれを25日間より長く所定位置に設置した患者のうちの40%を超える患者において、尿路感染が起こる。Plottら、「Mortality associated with nosocomial urinary−tract infection」,N.Eng.J.Med.,30(11):637(1982)。また、現行の抗生物質処置に対する細菌の耐性は、世界中で重大な健康管理問題となっている。耐性菌株は出現し続けており、人工インプラントが原因となる感染を処置するためにさらに多くの抗生物質が処方されている。
【0005】
デバイス関連の感染症を減らすための1つの一般的なアプローチは、抗微生物性化合物を放出することによって殺菌活性のある表面を作り出すことである。抗微生物剤を組み込むために使われる方法に従い、ほぼ全ての一般的な処置が、以下の3つの分類のうちの一つに分けられる。1)物質表面への抗微生物剤の受動的な付着、または表面活性剤もしくは表面結合ポリマーと組み合わせての付着のいずれか;2)物質表面に塗布されるポリマー被覆剤への抗微生物剤の組み込み;3)デバイスを構成するバルク材料への抗微生物剤の配合。これらのうちで、おそらく最も一般的であると思われる方法には、デバイス表面に塗布されたポリマー結合剤への抗微生物剤の含浸が含まれる。例えば、米国特許第6,939,554号明細書は、第四級アンモニウム化合物、ゲンチアンバイオレット化合物、置換または非置換のフェノール、ビグアニド化合物、ヨウ素化合物、およびそれらの混合物を浸出可能な有効成分として含む架橋性ポリマー配合物を記載している。米国特許第4,612,337号明細書は、有機溶媒に溶解させた有機金属化合物の溶液にデバイスのポリマー材料を浸漬することによって医療デバイス表面を抗微生物性にする方法を開示している。次いでこのポリマー材料は洗浄され、その後乾燥される。米国特許第7,306,777号明細書は、有効成分の放出速度をより良く制御することを目的とした、抗微生物性化合物と結合剤としてポリエチレン−ポリビニルアルコールコポリマーとを含む被覆組成物を記載している。重金属イオン(例えば、亜鉛、銅、および銀)は、活性抗微生物性浸出可能物(active antimicrobial leachable)として機能することが知られており、被覆および配合組成物に用いられてきた。米国特許第4,973,320号明細書は、有機金属化合物と使用期間にわたって金属イオンの放出を制御するためのシリコンソフトセグメントを有するポリウレタンエラストマーとの組成物から作られる医療デバイスを記載している。
【0006】
上記のアプローチは、有効成分が有機化合物であろうと金属イオンであろうと、いずれにせよその有効成分の浸出機序に基づいている。抗微生物性表面の抗微生物効力は、生物活性剤の濃度(配合量)および表面からのその放出速度に依存する。放出様式が接触媒体中への有効成分の溶解もしくは拡散であろうと、抗微生物剤を含んだマトリックスの加水分解もしくは溶解のいずれかにより媒体中にそれが放出されるのであろうと、いずれにせよ活性化合物の浸出量は十分に制御されなければならない。制御されない放出は、それが有毒性レベルを超えた場合には使用者の健康および安全に重大な影響を及ぼし得る。あるいは、放出が抗微生物に有効であるための最小誘導濃度(MIC:minimum induction concentration)に達しないことがあり得る。実際には、通常最初に高レベルの生物活性成分の接触媒体への噴出が観察され、隣接する環境においてこれらの化合物が細胞毒性レベルに近づき、続いて急速に減少し、結果として短期間の抗微生物効力に終わる。放出速度は多くの要因(例えば、バルクポリマー(bulk polymer)中の有効成分の実際の濃度、溶解性、および拡散性)に依存しており、それらの要因もまた使用期間にわたって変化し得るため、放出速度を制御し、表面における濃度を常に一定レベルに維持することは、多くの場合、非常に困難である。
【0007】
Piozziら、「Antimicrobial activity of polyurethanes coated with antibiotics:a new approach to the realization of medical devices exempt from microbial colonization」,International Journal of Pharmaceutics,280(2004),173−183、およびKe’birら、「Use of telechelic cis−1,4−polyisoprene cationomers in the synthesis of antibacterial ionic polyurethanes and copolyurethanes bearing ammonium groups」,Biomaterials,28(2007),4200−4208は、さらなる関連背景を提供する。
【0008】
経済的な観点からは、複雑である場合が多い第2の製造段階が、配合された被覆剤を表面に塗布するために要求される。要求される更なる工程は最終製品収率および製品寸法に影響を与え得る。追加される費用に加え、それらの使用には、精密な寸法制御、光学的透明度、バルク均質性(bulk homogeneity)、または塗布に重要であり得る他の表面要件が求められるため、既存の表面の改質は受け入れられ得ない場合が多くある。さらに、薬物放出に基づく製品の長期にわたる使用は、局所環境に重大な影響を及ぼし得る。重金属(例えば、銀および水銀)は、非常に低濃度で人間の細胞に有毒であることが知られており、神経系および生殖系に悪影響を与えてきた。
【0009】
抗微生物剤(例えば、ペプチド)の固定化は、改善された殺菌安定性を示した。表面上の活性ペプチドの有効量は、主要なペプチドをマトリックス中に閉じ込めることにより制限された。Haynieら、「Antimicrobial activities of amphiphilic peptides covalently bonded to a water insoluble resin」,J.Antimicrob.Chemiother.,39:301,1995。Cooperらは、合成中にN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)イソニコチンアミド(BIN)を連鎖延長剤としてポリマーハードセグメント中に組み込み、その後に第三級アミン連鎖延長剤をハロゲン化アルキルとの第四級アンモニウム塩に転化させたポリウレタンの調製を報告した。Cooperら、「Synthesis and characterization of non−leaching biocidal polyurethanes」,Biomaterials,22:2239,2001。Al−Salahらは、N−アルキルジエタノールアミンを連鎖延長剤として用いてポリウレタンを調製した。この調製においては、60℃で少なくとも5時間、続いて室温で10時間の強力な攪拌下で、ポリマー四級化剤を用いることにより四級化が行われた。Al−Salahら、「Polyurethane cationomers.I.structure−properties relationships」,J.Polym.Sci.:Part A:Polym.Chem.,26,1609−1620(1988)。シュウ酸を用いた四級化は、室温でのみ行われた。次いで、そのポリマー溶液はフィルムへと流延され、乾燥された。これらの方法は全て、複雑な多工程プロセス(溶液合成、四級化、ならびにいかなる残留ハロゲン化アルキルおよび溶媒をも除去するための厳密な精製を含む)から成っていた。加えて、これらの材料は、水和による物理的性質(例えば、引張り強さおよび極限伸び)の喪失を被る。第四級アンモニウム塩はハードセグメントにおいて側基として結合しているため、それらが表面に到達するための易動性は制限されており、抗微生物に有効であるためにはより高い濃度のこれら活性連鎖延長剤が組み込まれなければならない。第四級アミンをソフトセグメントに側鎖として導入することでペンダント第四級アンモニウム塩の表面活性は改善したが、バルク特性(bulk property)は、吸水性の増大および多重ブロックコポリマー(例えば、ポリウレタン)のミクロ相構造の変更を被ることもあり得る。
【0010】
したがって、長時間持続する殺生物効力を有する殺生物性表面を完成デバイス上に創出するための単純で費用効率の高い方法が必要とされる。
【0011】
例えばポリマー鎖中に組込みの抗微生物構造を有するポリウレタンの1つの利点は、抗微生物ポリマー系の分子レベルでの均質性である。先行技術は、無機抗微生物剤(例えば、銀および銅)は、被覆剤として用いられる場合、または熱成形製品である場合に、ポリマー系を退色させる傾向があるということを教示する。例えば、「Antimicrobial Acrylic Polymer」と題された米国特許出願公開第2007/0021528(A1)号明細書を参照されたい。
【0012】
[発明の概要]
前述の課題および制限を解決するにあたり、一般式L−R−Sを有する共有結合された抗微生物剤を含むポリマーから成る抗微生物性表面を創出する新規の改善された方法を、本発明者らは発見した。式中、Lは様々な種類のモノマー、オリゴマー、およびポリマーに反応し得るリンカーであり、Rは抗微生物活性部分であり、Sは高い表面活性を有する末端基である。これらの新規ポリマーは、ポリマー体の接触面で抗微生物活性部分を提示する。代替的な実施形態において、Lは表面組織化部分(surface assembling moiety)であるQと置き換えられ、基Sが省かれる。
【0013】
別の局面において、本発明は、ポリマー材料の物理的性質および加工性を阻害することなく末端基結合によって、ポリマー鎖に組み込まれた抗微生物性化合物の表面活性を固定化し向上させる方法を提供する。
【0014】
別の局面において、本発明は、結合された抗微生物性化合物の表面自己組織化に関し、それにより優れた抗微生物特性を有する感染抵抗性表面を提供する。より具体的には、本発明の抗微生物ポリマーは、高表面活性組成および/または自己組織化組成を有する結合された抗微生物性化合物を含み得、この表面活性組成は物品の製造中または製造後に表面に移動する高い傾向を有し、それにより表面への生物活性部分の移動を促進して、優れた抗微生物特性を有する感染抵抗性表面を提供する。
【0015】
本発明のさらなる目的は、抗微生物末端基の表面富化および/または組織化を加速させて優れた抗微生物特性を有する感染抵抗性医療デバイスを提供する方法を提供することである。
【0016】
本発明はまた、特定条件における物品に対するアニール処理により生物活性表面を創出する方法であって、前記特定条件が、物品を製造するために用いられたポリマーのガラス転移温度よりも10℃高く、かつ融解温度(結晶質である場合)または軟化温度よりも30℃低い温度である方法を包含する。あるいは、共有結合された抗微生物剤を有する本明細書に記載されたポリマーを溶融し、そのポリマーの溶融液を物品へと成形し、クエンチして凝固させることにより、抗微生物性表面が本発明において形成され得る。
【0017】
上記のように生成されたポリマーは、尿道カテーテル、経皮カテーテル、中心静脈カテーテル、血管アクセス器具、末梢ライン、IV部位、薬物送達カテーテル、排液管、経胃栄養チューブ、気管チューブ、コンタクトレンズ、整形外科インプラント、神経刺激リード、ペースメーカリード、血液バッグ、創傷ケア製品、個人防御デバイス(personal protection device)、産児制限デバイス、包装アセンブリ(packaging assembly)からなる群から選択される医療デバイスなどの物品へと加工され得る。そのようなポリマーはまた、細菌付着およびバイオフィルム形成の制御を要する、微生物と接触する病院機器用および海洋船用の被膜剤などの物品へと加工され得る。
【0018】
本発明は、以下に示される詳細な説明から、そして単に説明のために示したものであり、したがって本発明を限定するものではない添付図面から、より十分に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、殺微生物に有効な第四級アンモニウム塩である、C1225(Me)(CHCHO)H ClについてのH NMRスペクトルを示している。
【図2】図2は、殺微生物に有効な第四級アンモニウム塩である、C1837(Me)CHCHOH ClについてのH NMRスペクトルおよびピークの割り当てを示している。
【図3】図3は、殺微生物に有効な第四級アンモニウム塩である、C1837(Me)CHCHOH BrについてのH NMRスペクトルを示している。
【図4】図4は、C1837(Me)CHCHOH Clクオート(quat)についてのH NMRスペクトル、BIONATE(登録商標)80AポリマーコントロールについてのH NMRスペクトル、および本発明に従う前記クオートで改変されたBIONATE(登録商標)80Aポリマーのソックスレー抽出前後両方についてのH NMRスペクトルを示している。
【図5】図5は、0.5重量%の本発明に従う抗微生物性クオートC1837(Me)CHCHOH Brを含むBIONATE(登録商標)80Aポリマーの窒素中および空気中での熱重量分析を、BIONATE(登録商標)80Aポリマーコントロールの熱重量分析と共に示している。
【図6】図6は、本発明に従う0.5重量%の抗微生物性クオートC1837(Me)CHCHOH Brを含むBIONATE(登録商標)80Aポリマーから作られたチューブの和周波発生(SFG)分析を、BIONATE(登録商標)80AポリマーコントロールチューブのSFG分析と共に示している。
【図7】図7は、本発明に従う0.5重量%の抗微生物性クオートC1837(Me)EtOH Clを含むBIONATE(登録商標)80Aポリマーから作られたフィルムに対する60℃でのアニールの効果をSFG分析により示している。
【図8】図8Aは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の培養物中のBIONATE(登録商標)80Aポリマーコントロールチューブを示している。図8Bは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の培養物中の本発明に従う0.5重量%の抗微生物性クオートC1837(Me)CHCHOH Brを含むBIONATE(登録商標)80Aポリマーから作られたチューブを示している。
【0020】
[発明の詳細な説明]
この詳細な説明の結果として本発明の精神および範囲内の種々の変更および改変が当業者に明らかとなるのであり、詳細な説明および後に続く具体的な実施例は、発明の特定の実施形態を示すものではあるが、単に説明のために示したものであると理解されるべきである。
【0021】
本発明は、長時間持続する抗微生物特性を有する表面を有したポリマーを提供する新規アプローチを包含する。本発明の一実施形態において、P−(L−R−S)という一般式を有する抗微生物剤が提供される。式中、Pはポリマー主鎖を表し、Lは部分Rを部分Pと共有結合により連結する脂肪族または芳香族リンカーであり、Rは抗微生物活性部分であり、Sは高い表面活性を有する末端基である。したがって、部分−(L−R−S)はポリマー分子の末端基であり、変数nは、線状ポリマーにおいては1〜2の整数であり、分岐または樹状分岐ポリマーにおいては3〜100の整数である。
【0022】
抗微生物剤の放出に基づく方法とは異なり、本発明における抗微生物剤は、合成中または合成後にベースポリマーに共有結合される。したがって、当該抗微生物剤は、例えば金属(例えば銀)または塩化物イオンまたは他の有機殺生物部分を放出する物質よりはるかに安全である。
【0023】
[発明の特定の実施形態]
本発明の一実施形態は、式P−(L−R−S)を有する抗微生物活性ポリマー分子であって、式中、部分−(L−R−S)は前記ポリマー分子の末端基であり、変数nは、線状ポリマーにおいては1〜2の整数であり、分岐または樹状分岐ポリマーにおいては3〜100の整数である抗微生物活性ポリマー分子である。上記式において:Pは、5000〜1,000,000の数平均分子量を有するポリマー部分を表し、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカルボナート、ポリオレフィン、ポリスルホン、およびそれらのコポリマーからなる群から選択され;Lは、部分Rを部分Pと共有結合により連結する、約1000までの数平均分子量を有する脂肪族または芳香族連結部を表し;Rは、抗微生物活性有機部分または抗微生物活性有機金属部分を表し;Sは、1000までの数平均分子量を有する表面活性末端基を表し、鎖状、分岐、または環状の4〜22個の炭素原子を有するアルキル基、ポリアルキレンオキシド、フッ素化ポリアルキレンオキシド、ポリシロキサン、フッ素化ポリシロキサン、ポリシロキサンポリエーテル、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0024】
本発明によれば、ポリマー分子は、分子に抗微生物特性を付与するのに十分な量の部分−(L−R−S)を含む。典型的に、ポリマー分子の0.1重量%〜20重量%以上が、部分−(L−R−S)により与えられる。一般的に、線状ポリマーは、より低い重量%の上記部分を有するが、分岐または樹状分岐ポリマーではより高い重量%が、その分子中の−(L−R−S)部分に依り得る。多くの場合、ポリマー分子は、0.1〜10重量%の部分−(L−R−S)、または0.25〜10重量%の当該部分を含む。本発明によれば、部分−(L−R−S)は、物品の製造中または製造後に複数の前記ポリマー分子でできた物品の表面に移動し、それにより表面が抗微生物特性を有するポリマー物品を提供する。
【0025】
本発明の抗微生物活性ポリマー分子において、Rは、第四級アンモニウム塩(例えば、ハライド)、ビグアニド、フェノール、アルコール、アルデヒド、カルボン酸エステル、ヨウ素担体、パラベン、イミダゾリジニル尿素、アゾニアアダマンタン、イソチアゾロン、2,3−イミダゾリジンジオン、ブロノポール、フルオロキノロン、β−ラクタム、糖ペプチド、アミノ配糖体、およびヘパリンから選択される抗微生物活性有機部分であり得る。
【0026】
本発明の抗微生物活性ポリマー部分において、Pは、脂肪族ポリオール、脂肪族および芳香族ポリアミン、ならびにそれらの混合物から選択される少なくとも1種の親水性、疎水性、または両親媒性のオリゴマーを含む約5〜75重量%の少なくとも1種のハードセグメントと約95〜25重量%の少なくとも1種のソフトセグメントとを含む、5000〜1,000,000の数平均分子量を有する熱可塑性ポリウレタンであり得る。
【0027】
本発明の抗微生物活性ポリマー部分において、連結部Lは、2〜30個の炭素原子を有する脂肪族アミンまたは脂肪族アルコールの残基を含み得る。連結部Lはまた、1〜30個の−Si(CHO−反復単位を有するシリコーン含有アルコールまたはシリコーン含有アミンの残基を含み得る。
【0028】
本発明の抗微生物活性ポリマー分子は、式P−(L−R−S)の化合物であって、式中、Pは10,000〜300,000の公称数平均分子量を有する熱可塑性ポリウレタンであり、nは2であり、L−R−Sは、式−(OCHCH[(CH](C2x+1)Xを有し、式中、xは6〜22(または8〜18)の整数であり、yは1〜8(または1〜3)の整数であり、Xはハロゲン(例えば塩素)原子である化合物であり得る。本発明の抗微生物活性ポリマー分子は、式P−(L−R−S)の化合物であって、式中、Pは10,000〜300,000の公称数平均分子量を有する熱可塑性ポリウレタンであり、L−R−Sは式−(OCHCH[(CH](C2x+1)Xの部分であり、式中、mは1〜3の整数であり、xは8、12、16、または18であり、Xは塩化物イオンまたは臭化物イオンである化合物を包含する。
【0029】
本発明の抗微生物活性ポリマー分子は、式P−(L−R−S)の化合物であって、式中、Pは10,000〜300,000の公称数平均分子量を有する熱可塑性ポリウレタンであり、nは2であり、L−R−Sは式
【化1】



のビグアニド部分であり、式中、Rは上記ビグアニド部分を熱可塑性ポリウレタンに共有結合により連結する式−O(CH−の基であり、ここで、zは1〜18の整数であり、Rは線状または分岐の2〜22個の炭素原子を有するアルキル基、脂肪族エステル、脂肪族ポリエーテル、フッ素化脂肪族ポリエーテル、シリコーン、およびシリコーンポリエーテルからなる群から選択される化合物であり得る。
【0030】
別の実施形態において、本発明は医療デバイスを提供し、尿道カテーテル、経皮カテーテル、中心静脈カテーテル、血管アクセス器具、静脈内送達部位、薬物送達カテーテル、排液管、経胃栄養チューブ、気管切開チューブ、コンタクトレンズ、整形外科インプラント、神経刺激リード、ペースメーカリード、および血液バッグを包含する。本発明によれば、これらのデバイスは、本願において記載される抗微生物活性ポリマーから作られる。本発明においてはまた、本発明の抗微生物活性ポリマーから作られる病院機器用または海洋船用の被覆剤も企図される。同様に、本明細書に記載される表面改変抗微生物ポリマーを添加剤として含む抗微生物活性ポリマー混合物もまた企図される。
【0031】
本発明は、医療デバイスまたは被覆剤に対し、その医療デバイスまたは被覆剤を製造するために用いられた本発明のポリマーのガラス転移温度より10℃高く、かつその医療デバイスまたは被覆剤を製造するために用いられた本発明のポリマーの融解温度または軟化温度より30℃低い温度でアニール処理を行うことによって医療デバイスまたは被覆剤に抗微生物性表面を付与する方法を提供する。本発明の別の加工実施形態において、本発明に従うポリマーを溶融させる工程;上記ポリマーの溶融液を医療デバイスまたは被覆剤へと成形する工程;および前記医療デバイスまたは被覆剤をクエンチして凝固させて抗微生物性表面を有する医療デバイスまたは被覆剤を得る工程を包含する、医療デバイスまたは被覆剤に抗微生物性表面を付与する方法が提供される。
【0032】
[ポリマー主鎖]
Pは、5000〜1,000,000の数平均分子量を有するポリマー部分を表す。あるいは、ポリマーの数平均分子量は、10,000〜500,000または10,000〜300,000の範囲にわたる。Pは、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカルボナート、ポリオレフィン、ポリスルホン、およびそれらのコポリマーからなる群から選択され得る。
【0033】
本発明において主鎖として使用し得るポリウレタンは、ポリイソシアナートとポリオールとの反応により生成され得る。ポリウレタン主鎖のハードセグメントの調製のためのポリイソシアナートは芳香族または脂肪族ジイソシアナートであり、アルキルジイソシアナート、アリールアルキルジイソシアナート、シクロアルキルアルキルジイソシアナート、アルキルアリールジイソシアナート、シクロアルキルジイソシアナート、アリールジイソシアナート、シクロアルキルアリールジイソシアナート(これらは全て酸素でさらに置換され得る)、およびそれらの混合物を包含する。好適なジイソシアナートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、2,4−トルエンジイソシアナート、2,6−トルエンジイソシアナート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアナート、テトラメチレン−1,4−ジイソシアナート、ナフタレン−1,5−ジイソシアナート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、1,4−ベンゼンジイソシアナート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジフェニルジイソシアナート、m−フェニレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアナート、4,4’−ビフェニレンジイソシアナート、4−イソシアナトシクロヘキシル−4’−イソシアナート、およびそれらの混合物が挙げられる。それらの下位概念(subgenus)は、ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、およびそれらの混合物により構成される。ハードセグメントのジイソシアナート成分の分子量は、典型的に100〜500であり、多くの場合150〜270である。本発明のコポリマーの調製において用いられるハードセグメントの連鎖延長剤は、脂肪族ポリオール、または脂肪族もしくは芳香族ポリアミン(例えば、調製用の公知のもの)であり得、典型的に18〜500であり、多くの場合60〜200であり得る。ハードセグメント中のポリオール成分は、アルキレン、シクロアルキレン、もしくはアリーレンのジオール、トリオール、テトラアルコール、またはペンタアルコールであり得る。ハードセグメントの調製における使用に適したポリオールの例には、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、およびフェニルジエタノールアミンがある。ハードセグメント中のポリアミン成分は、アルキル、シクロアルキル、またはアリールアミンであり得、これらは窒素、酸素、またはハロゲンでさらに置換され得、それらとアルカリ金属塩との錯体、およびそれらの混合物であり得る。ハードセグメントの調製における使用に適したポリアミンは、p,p’−メチレンジアニリンならびにそれとアルカリ金属塩化物、アルカリ金属臭化物、アルカリ金属ヨウ化物、アルカリ金属亜硝酸塩およびアルカリ金属硝酸塩との錯体、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、ピペラジン、2−メチルピペラジン、オキシジアニリン、ヒドラジン、エチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、キシリレンジアミン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、4,4’−メチレンジアントラニル酸のジメチルエステル、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(2−メトキシアニリン)、4,4’−メチレンビス(N−メチルアニリン)、2,4−トルエンジアミン、2,6−トルエンジアミン、ベンジジン、ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、ジアンシジン(diansidine)、1,3−プロパンジオールビス(p−アミノベンゾアート)、およびイソホロンジアミンである。ポリウレタン主鎖のソフトセグメントは、多官能性脂肪族ポリオール、または多官能性脂肪族もしくは芳香族アミン、あるいはそれらの混合物であり得る。脂肪族ポリオールは、線状もしくは分岐のポリアルキレンおよびポリアルケニルオキシド、ポリカルボナートポリオール、ヒドロキシル末端シリコーン、あるいはそれらのランダムまたはブロックコポリマーであり得る。本発明における使用に適したポリオールの例には、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド(PTMO)、ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシドコポリマー、エチレンオキシド末端ポリオール、ポリテトラメチレンオキシド−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリカルボナートジオールおよびトリオール、多官能性ヒドロキシアルキル末端シリコーン、多官能性ヒドロキシアミン末端シリコーン、シリコーン−ポリエチレンオキシドコポリマー、ポリブタジエンジオールおよびトリオール、ポリイソブチレンジオールおよびトリオール、ポリブチレンオキシドジオールおよびトリオール、ならびにそれらの混合物がある。アミン成分ソフトセグメントは、上述のポリオールのアミン末端ホモログであり得る。好適なアミンの例には、多官能性アミン末端ポリテトラメチレンオキシド、多官能性アミン末端ポリエチレンオキシド、多官能性アミン末端ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシドコポリマー、多官能性アミン末端ポリテトラメチレンオキシド−ポリエチレンオキシドコポリマー、多官能性アミン末端シリコーン、アミン末端シリコーンポリエチレンオキシドコポリマー、およびそれらの混合物がある。
【0034】
主鎖ポリシロキサン部分は、25℃にて10,000〜500,000センチポアズの範囲で変わる粘度を有するオルガノポリシロキサンであって、そのオルガノ基が、一価炭化水素ラジカルおよびハロゲン化一価炭化水素ラジカルから選択されるものであり得る。そのような一価炭化水素ラジカルおよびハロゲン化一価炭化水素ラジカルの例には、アルキルラジカル(例えば、メチル、エチル、およびプロピル);アルケニルラジカル(例えば、ビニルおよびアリル);シクロアルキルラジカル(例えば、シクロヘキシル);一価芳香族ラジカル(例えば、フェニル、およびメチルフェニル);ハロゲン化一価芳香族ラジカル(例えば、クロロフェニル);ならびにハロゲン化アルキルラジカル(例えば、トリフルオロプロピル)がある。多くの場合、そのようなジオルガノポリシロキサンポリマーのオルガノラジカルは、1〜8個の炭素原子のアルキルラジカルから、ならびにフェニル、クロロフェニル、テトラクロロフェニル、およびトリフルオロプロピルラジカルから選択される。
【0035】
本発明において主鎖を構成するポリアミドホモポリマーまたはコポリマーは、約10,000〜約300,000の分子量を有する脂肪族ポリアミドまたは脂肪族/芳香族ポリアミドであり得る。そのようなポリアミドとしては、二塩基酸とジアミンとの反応生成物が挙げられる。ポリアミドを生成するのに有用な二塩基酸としては、一般式:HOOC−Z−COOHによって表されるジカルボン酸であって、式中、Zは少なくとも2個の炭素原子を含む二価脂肪族ラジカル(例えば、アジピン酸、セバシン酸、オクタデカン二酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、およびグルタール酸)を表すものが挙げられる。ジカルボン酸は、脂肪族酸、または芳香族酸(例えば、イソフタル酸およびテレフタル酸)であり得る。ポリアミドの生成に適したジアミンとしては、式:HN(CHNH(式中、nは1〜16の整数値を有する)を有するものが挙げられ、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、ヘキサデカメチレンジアミン、芳香族ジアミン(例えば、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン)、アルキル化ジアミン(例えば、2,2−ジメチルペンタメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、および2,4,4−トリメチルペンタメチレンジアミン)、および脂環式ジアミン(例えば、ジアミノジシクロヘキシルメタン)のような化合物、ならびに他の化合物を包含する。他の有用なジアミンとしては、ヘプタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミンなどが挙げられる。有用なポリアミドホモポリマーおよびコポリマーとしては、ポリ(4−アミノ酪酸)、ポリ(6−アミノヘキサン酸)(ポリ(カプロラクタム)としても知られる)、ポリ(12−アミノドデカン酸)、ポリ(ヘキサメチレンアジポアミド)、ポリ(ヘキサメチレンアゼロアミド)、ポリ(テトラメチレンジアミン−コ−シュウ酸)、n−ドデカン二酸とヘキサメチレンジアミンとのポリアミドなどが挙げられる。有用な脂肪族ポリアミドコポリマーとしては、カプロラクタム/ヘキサメチレンアジポアミドコポリマー、ヘキサメチレンアジポアミド/カプロラクタムコポリマーなどが挙げられる。
【0036】
ポリイミド主鎖ポリマーは、テトラカルボン酸二無水物を芳香族または脂肪族ジアミンと縮合させることによって生成され得る。企図されるテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ペルフルオロイソプロピリジンジフタル酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、ビス(3,4−ジカルボキシル)テトラメチルジシロキサン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシルフェニル)ジメチルシラン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、および1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。企図されるジアミンの具体例としては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノ−1,1’−ビフェニル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4−トリレン−ジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−フェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(γ−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、および4,4’−ジアミノジフェニルスルフィドが挙げられる。
【0037】
本発明に従う主鎖ポリマーを構成し得るポリエーテルは、約10,000〜約300,000の分子量を有する、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド(PTMO)、ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシドコポリマーなどであり得る。
【0038】
本発明のポリエステル主鎖ポリマーは、例えば、ジカルボン酸およびジオールからの重縮合生成物であり得る。ジオールは、1種以上のジオール(脂肪族ジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール(octametnylene glycol)、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコール)、脂環式ジオール(例えば、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、および1,1−シクロヘキサンジメチロール)、および芳香族ジオール(例えば、キシレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン)を包含する)から選択され得る。ジカルボン酸は、一般式HOOC−Z−COOH(式中、Zは、少なくとも2個の炭素原子を含む二価脂肪族ラジカルである)により表される二塩基酸から選択され得る。そのようなジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、オクタデカン二酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、およびグルタール酸が挙げられる。ジカルボン酸は、脂肪族酸、または芳香族酸(例えば、イソフタル酸およびテレフタル酸)であり得る。
【0039】
本発明における主鎖ポリマーとして使用し得るポリカルボナートは、ジヒドロキシ芳香族化合物(例えば:2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールAとしても知られる);ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−プロパン;4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン;2,2−(3,5,3’,5’−テトラクロロ−4,4’−ジヒドロキシフェニル)プロパン;2,2−(3,5,3’,5’−テトラブロモ−4,4’−ジヒドロキシフェノール)プロパン;3,3’−ジクロロ−3,3’−ジクロロ−4,4’−ジヒドロキシジフェニル)メタン;2,2’−ジヒドロキシフェニルスルホン;または2,2’ジヒドロキシルフェニルスルフィド)、またはジヒドロキシ脂肪族化合物(例えば:1,4−シクロヘキサンジメタノール;1,2−プロパンジオール;1,3−プロパンジオール;1,4−ブタンジオール;1,6−ヘキサンジオール;1,4−シクロヘキサンジオール;1,2−シクロヘキサンジメタノール;または2,2,4,4−テトラメチルシクロブタン−1,2−ジオール)を、カルボナート前駆体(例えば、ホスゲン、ハロホルマート、または炭酸エステル)と反応させることにより調製され得る。
【0040】
本発明に従う主鎖ポリマーを構成し得るポリオレフィンは、約10,000〜約500,000の分子量を有する、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンとのコポリマー、ポリブテンなどであり得る。
【0041】
本発明に従う主鎖ポリマーを構成し得るポリスルホンは、式[−Ar−SO−]または[−Ar−SO−Ar−O−]の反復単位を有するものであり、式中、Arは、アルキル、ハロアルキル、またはハロゲン置換基で置換され得る、フェニレンまたはナフチレン基である。
【0042】
[抗微生物剤とポリマー主鎖との連結]
本発明に従う抗微生物に有効な末端基「L−R−S」は、ベースポリマー「P」と抗微生物部分「R」との間の共有結合による連結部「L」の形成をもたらす反応によりポリマー「P」に導入される。ベースポリマーがポリウレタンまたは他のイソシアナートから誘導されるポリマーである場合、末端イソシアナート基を、表面活性部分を含む適切な前駆体と好都合に反応させ得る。そのような末端基前駆体は本明細書においてアルコールおよびアミンにより例示されるが、活性水素を含む任意の化合物が表面活性部分をポリマーに導入するために使用され得る。例えば、酸素に結合した水素原子を含むほとんどの化合物(例えばフェノールを包含する)が、適切な条件下でイソシアナートと反応する。本質的に、窒素と結合した水素を含む全ての化合物(例えばアミドを包含する)が反応性に富む。硫黄化合物は、その酸素類似体よりもはるかに遅い速度でではあるが、それらと同様に反応する。したがって、微生物活性部分「R」とベースポリマー「P」との間に共有結合の形成をもたらす任意の方法が、本発明に従って企図される。
【0043】
抗微生物剤の固定化は、抗微生物剤に結合したリンカー中の反応性基の反応により実現される。そのようなリンカーとしては、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド、エポキシド、無水物、イソシアナート、カルボン酸、Si−H基、不飽和官能性部分(例えば、C=C、C≡C)を含む基、および重合において一般的に用いられるポリマーの構成成分(例えば、モノマー、オリゴマー、架橋剤など)と共有結合を形成し得る他の反応性基が挙げられる。
【0044】
本発明によれば、ポリマーの表面活性(本発明の特有に構成されたポリマーの、環境(空気、体液、体組織など)と直接作用するポリマー体表面への生物活性部分「R」の移動および富化を提供する能力によりもたらされる)は、生物活性部分に繋がれた表面活性末端基を導入することによって高められる。そのような表面活性末端基は、式P−(L−R−S)において変数「S」によって表される。末端基は一端でポリマーに結合されているため、通常、ポリマー主鎖よりも動き易い。この際立った易動性は、末端基がバルク(bulk)を通って拡散し、ポリマー表面に集中することを可能にする。表面活性末端基「S」の例には、アルキル鎖、フッ素化アルキル鎖、ポリエーテル、フッ素化ポリエーテル、シリコーン、および共有結合された表面活性末端基を含まないがその他の点では同一であるポリマーの表面の接触角ヒステリシスから少なくとも10%変化した接触角ヒステリシスをポリマー表面にもたらす他の末端基がある。
【0045】
接触角ヒステリシスは周知の方法であり、この方法では、液体(例えば、水)のいわゆる前進接触角が、着滴した液滴(sessile droplet)が同じ表面上を後退するときのその後退接触角と比較される。平滑面上では、多くの場合前進角の百分率として表される前進角と後退角との間の差は、接触角ヒステリシス(界面エネルギーを最小にする表面の能力)の尺度である。関心のある液体に対する表面の接触角ヒステリシスを約10%以上またはそれ以上大きく変化させ得る表面改変末端基が重要である。その差の程度は、SMEを表面に追いやるのに十分であり、かつ改変されたポリマーの表面におけるSMEの存在に由来する利益を得るのに十分である。SMEが液体に改変表面上で90°より大きい(濡らさない)前進角、および90°より小さい(濡らす)後退接触角を示させることになる場合に、特定の用途における特に有用な場合が生ずる。
【0046】
[抗微生物部分]
当業者は、用語「抗微生物(性の)」が何を意味するのか十分に理解している。さらに、当業者は、抗微生物特性を有する種々様々な化学物質に精通している。しかしながら、出願人らは、本発明の文脈における用語「抗微生物(性の)」の定量的な定義を提供する。本発明のポリマーにおける抗微生物性末端基部分は、それを含むポリマーに対し、抗微生物性末端基の代わりにジエチルアミノ末端基を含むその他の点では同様であるポリマーの効果を基準にして、ポリマー表面にて大腸菌(E.coli)の濃度を50%減少させる能力を付与する部分である。
【0047】
本発明に従うポリマーに抗微生物特性を与える抗微生物活性部分Rは、第四級アンモニウム塩、フェノール、アルコール、アルデヒド、ヨウ素担体、ポリクオート(poly quat)(例えば、エチレン性不飽和のジアミンおよびエチレン性不飽和のジハロ化合物から誘導体化されるオリゴマー状のポリクオート)、ビグアニド、ベンゾアート、パラベン、ソルベート、プロピオナート、イミダゾリジニル尿素、1−(3−クロロアリル)−3,5,7−トリアザ−1−アゾニアアダマンタンクロリド(Dowacil 200,クオタニウム(Quaternium))、イソチアゾロン、DMDMヒダントイン(2,3−イミダゾリジンジオン)、フェノキシエタノール、ブロノポール、フルオロキノロン(例えば、シプロフロキサシン)、「強力な」β−ラクタム類(第3および第4世代のセファロスポリン、カルバペネム)、β−ラクタム/β−ラクタマーゼインヒビター、糖ペプチド、アミノグリコシド、抗生物質薬物、ヘパリン、ホスホリルコリン化合物、スルホベタイン、カルボキシベタイン、ならびに銀塩、亜鉛塩、および銅塩から選択される有機金属の塩)およびそれらの誘導体などの有機化合物または有機金属化合物であり得る。これらの抗微生物剤の例としては、薬学的薬物(例えば、ペニシリン、トリクロサン)、官能性ビグアニド、単官能性ポリクオタニウム(polyquaternium)、四級化された単官能性ポリビニルピロリドン(PVP)、シラン第四級アンモニウム化合物、および一般式:
【化2】



(式中、(1)Xは、薬学的に受容可能なアニオン(例えば、硫酸アニオン、リン酸アニオン、炭酸アニオン、ハロゲン化物アニオンなど)であり;(2)R、R、R、Rは、独立して、線状もしくは分岐の1〜22個の炭素原子を有するアルキル基ならびに置換もしくは非置換のフェニルまたはベンジル環、脂肪族エステル、脂肪族ポリエーテル(フッ素化脂肪族ポリエーテルを包含する)、シリコーン、およびシリコーンポリエーテルからなる群から選択され;(3)RおよびRは、(a)Nと一緒になって5〜7個の原子の飽和または不飽和の複素環式環を形成するか;(b)Nと一緒になり、酸素原子と合わせてN−モルホリノ基を形成するかのいずれかであり得;あるいは(4)R、R、RおよびNが一緒になり、キノリン、イソキノリンまたはヘキサメチレンテトラミンを表す)を有する他の四級化アンモニウム塩が挙げられる。下位概念の実施形態において、R、R、RおよびRのうちの少なくとも1つは6〜18個の炭素原子を有するアルキル基である。より狭い範囲に規定された下位概念の実施形態において、RならびにR、RおよびR基のうちの1つの両方は、少なくとも8個の炭素原子を有する脂肪族鎖である。当業者は、6個以上の炭素原子を有するアルキル基が、本発明において式P−(L−R−S)のポリマーにおける表面活性末端基「S」として機能することを認識する。
【0048】
特に有用な実施形態において、抗微生物部分Rは、米国特許第6,492,445(B2)号明細書(参照により本明細書に援用される)に開示される第四級アンモニウム分子である。
【0049】
好適な単官能性抗微生物性化合物の具体例としては、2−ヒドロキシエチルジメチルドデシルアンモニウムクロリド、2−ヒドロキシエチルジメチルオクタデシルアンモニウムクロリド、エステルクオート(esterquat)(例えば、ベヘノイルPG−トリモニウムクロリド(Behenoyl PG−trimonium chloride)(Mason Chemical Company)、フルオロクオート(Fluoroquat))が挙げられる。抗微生物活性中心を有する他の低分子ジオールが、ポリウレタン主鎖に連鎖延長剤として組み込まれ得る。そのような抗微生物性連鎖延長剤の例としては、ジエステルクオート(diester quat)(例えば、メチルビス[エチル(牛脂脂肪酸(tallowate))]−2−ヒドロキシエチル]アンモニウムメチルスルファート(CAS No.91995−81−2)、一般式:
【化3】



(式中、Rは、6個以上の炭素原子を有するアルキル末端基であり、X?1である)を有するエソカード(Ethoquad)が挙げられる。エソカードの具体例としては、オクタデシルメチルビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムクロリド(CAS No.3010−24−0)、オレイル−ビス−(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロリド、ポリオキシエチレン(15)ココアルキルメチルアンモニウムクロリド(CAS No.61791−10−4)(Lion Akzo Co.Ltdから入手可能)などが挙げられる。
【0050】
抗微生物性表面改変末端基として好適であり得る官能性ビグアニドの例としては、一般式:
【化4】



のヒドロキシル官能性構造(式中、RおよびRは、独立して、線状もしくは分岐の2〜22個の炭素原子を有するアルキル基および置換もしくは非置換のフェニルまたはベンジル環、脂肪族エステル、脂肪族ポリエーテル、フッ素化脂肪族ポリエーテル、シリコーン、あるいはシリコーンポリエーテルからなる群から選択される)が挙げられる。
【0051】
[産業上の利用可能性]
異なる構造を有する抗微生物性表面改変末端基「L−R−S」の組み合わせが、殺生物活性(biocidyl activity)に対する相乗効果を創出し、抗微生物効果の範囲を広げるために使用され得る。異なる種類の抗微生物性末端基(例えば、第四級アミン、ビグアニド、および銀イオン)を利用することにより、抗微生物性の有効性および抗微生物性の及ぶ範囲の広さが最適化され得る。
【0052】
さらに本発明の特定の有用な局面において、抗微生物性末端基の表面富化および自己組織化を加速させる方法もまた開示される。本ポリマーの表面組成は、そのポリマーからの有用な物品の製造の方法によって影響され得ることが見出された。アニール、および熱成形方法(例えば、射出成形または押出)は、抗微生物性末端基を有する表面の拡散プロセスおよび飽和速度を加速させる。抗微生物性表面を有する医療製品は、本発明のポリマーでコーティングすることによって生成され得る。
【0053】
コーティング処理の種々の側面(溶媒、溶媒の蒸発速度、被覆剤を基材に塗布する方法(スプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、ロールツーロールコーティング、ウエブコーティングなど)を包含する)に依存するが、そうして生成された表面が、最適な抗微生物特性を得るために必要とされると考えられる平衡状態には未だ達していない場合があり得る。本発明によれば、生成されたそのような表面は、飽和のための抗微生物剤の表面への移動を加速させるために、さらにアニールによって処理され得る。用語「アニール」は、本明細書において用いられる場合、短縮された時間で最大の結果が達成され得るような条件下での物品の処理をいう。本発明の一実施形態において、アニールは、水性または有機溶液の環境が存在するまたは存在しない高温での医療製品の処理である。この処理で用いられた溶媒が工業的な乾燥処理によって容易に除去されるならば、便利である。
【0054】
本発明はさらに、熱成形プロセスから直接得られる、抗微生物剤が表面で飽和した医療デバイスを記載する。用語「熱成形」は、本明細書で用いられる場合、ポリマーを溶融/可塑化すること、ならびに完成形態の製品および部品へと成形することを伴う製造プロセスをいう。典型的な熱成形プロセスとしては、押出、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、溶接、および熱接合が挙げられるが、これらに限定されない。ポリマー鎖に結合された抗微生物剤の易動性は、温度上昇に伴って増大する。低分子の固体から液体への相転移といくらか類似して、ポリマーが溶融されたときにポリマー鎖および結合された末端基の易動性に転移的な増大がある。ポリマーを溶融段階に供することによって表面への抗微生物剤の移動がさらに加速され、凝固すると、抗微生物剤に富む表面がさらなる処理を必要とせず直接生成され得る。表面層の秩序化は、ポリマー表面に自己組織化したセグメントの結晶化によってある程度促進される。
【0055】
[実施例]
[ヒドロキシル官能性抗微生物性第四級アンモニウムハライドの調製]
ヒドロキシル官能基と複数のエチレンオキシド(EtO)から成るスペーサーとを有する例示的な第四級アンモニウムハライド(A)を、以下の反応スキームによって調製し得る。
【化5】



式中、m=1〜3、n=7、11、15、17であり、Xは塩化物イオンまたは臭化物イオンである。
【0056】
[C1225(Me)(CHCHO)H Clとして表される2−ヒドロキシルエトキシエチルジメチルドデシルアンモニウムクロリドの調製]
n=11、m=2である場合の抗微生物性第四級アンモニウムクロリド(A)を、追加の漏斗、還流冷却器およびマグネチックスターラーを備えた500mL三つ口丸底フラスコ中で85.36gのN,N−ジメチルドデシルアミンおよび67.6gの脱イオン水を混合することにより調製した。この混合物を窒素下で70℃に加熱し、次いで、49.83gの2−(2−クロロエトキシ)エタノールを0.5時間かけて反応混合物に加えた。この反応物を還流温度(約100℃)に加熱し、14時間維持した。室温まで冷却後、透明なゲル状の塊を得た。粗生成物をロータリーエバポレーター(rotavap)で80℃にて乾燥させ、温アセトンに溶解させ、約3℃にて再結晶化させた。この工程から得られた白色結晶質粉末を再度温アセトンから再結晶化させて、あらゆる不純物および出発物質を除去した。残留水を除去するために、この結晶質粉末をさらにアセトン/THF(8/3,v/v)溶媒混合物から再結晶化させた。合計収率は約80%であった。FTIRおよびNMRによる特性決定により、その構造および99%以上の純度を確認した。図1を参照されたい。カールフィッシャー水滴定は、0.12%の残留水分を示した。合成においてこの化合物は少量(2%未満)で用いられるため、総含水量への影響は典型的なポリウレタン反応に十分な程度に小さい。
【0057】
[C1837(Me)CHCHOH Clとして表される2−ヒドロキシルエトキシエチルジメチルオクタデシルアンモニウムクロリドの調製]
x=18、m=1である場合の(A)の第四級アンモニウムクロリドを、500mL三つ口丸底ガラス反応器中で21.34gのN,N−ジメチルエタノールアミンおよび43.34gのオクタデシルクロリドを混合し、その混合物を14時間100℃に加熱することにより調製した。反応の終わりには白色蝋状の固体が形成され、この粗生成物をアセトンからの再結晶化により精製した。約20gの薄いフレーク状の精製生成物を得た。カールフィッシャー水滴定は、0.11%の残留水分を示した。この化合物は少量(2%未満)で用いられるため、総含水量への影響は典型的なポリウレタン反応に十分な程度に小さい。FTIRおよびNMRによる特性決定により、その構造および99%以上の純度を確認した。図2を参照されたい。
【0058】
[C1837(Me)EtOH Brとして表される2−ヒドロキシルエチルジメチルオクタデシルアンモニウムブロミドの調製]
x=18、m=1である場合の(A)の第四級アンモニウムブロミドを、500mL三つ口丸底ガラス反応器中で43.34gのN,N−ジメチルオクタデシルアミン(N,N−Dimethyloctadecyllamine)および21.34gの2−ブロモエタノールを混合し、その混合物を14時間100℃に加熱することにより調製した。反応の終わりには白色蝋状の固体が形成され、この粗生成物をアセトンからの再結晶により精製した。約20gの薄いフレーク状の精製生成物を得た。カールフィッシャー水滴定は、0.07%の残留水分を示した。この化合物は少量(2%未満)で用いられるため、総含水量への影響は典型的なポリウレタン反応に十分な程度に小さい。FTIRおよびNMRによる特性決定により、その構造および99%以上の純度を確認した。図3を参照されたい。
【0059】
第四級アンモニウムハライド(A)の他の変形形態を、対応する第三級アミンおよびアルキルハライドから同様に調製し得る。
【0060】
[モノヒドロキシル官能性ビグアニドの一般的調製]
【化6】



モノヒドロキシル官能性ビグアニドの合成を、アルキルアミンヒドロクロリドとナトリウムジシアナミドとを反応させてアルキルジシアンジアミドを得、続いてモノヒドロキシル官能性アルキルアミンヒドロクロリドと反応させることにより実施し得る。上記の構造式において、Rは式−O(CH−の基であり、ここで、zは1〜18の整数であり、Rは、線状または分岐の2〜22個の炭素原子を有するアルキル基、脂肪族エステル、脂肪族ポリエーテル、フッ素化脂肪族ポリエーテル、シリコーン、およびシリコーンポリエーテルからなる群から選択される。具体的な実施例を以下に示す。
【0061】
[N−2−ヒドロキシルエチルフェニル−N−オクタデシルビグアニドヒドロクロリドの調製]
【化7】



中間体オクタデシルジシアンジアミドの合成を、まず、50mLのn−ブタノール中で26.95gのオクタデシルアミンおよび50mLの1N塩酸を60℃にて混合することにより行った。20mLの脱イオン水中8.9gのナトリウムジシアナミドの溶液をこの反応物に加え、100℃にて12時間にわたり反応させた。室温(25℃)まで冷却させるとこの溶液から白色固体が析出し、ガラス濾板(fritted disk filter)を通してこれを濾取した。この固体を水/IPA(4/1,v/v)の混合物から再結晶化させ、次いでIPAから再結晶化させ、真空下で乾燥させて、白色粉末状のオクタデシルジシアンジアミドを73%の収率で得た。その純度および構造を、NMRにより確認した。同様に、2−ヒドロキシルエチルフェニルアミンヒドロクロリドを、イソプロピルアルコール(IPA)中で4−(2−ヒドロキシルエチル)アニリンおよび2N塩酸から調製し、IPAから再結晶化により精製し、乾燥させた。その純度および構造を、NMRにより確認した。次いで、ビグアニドを、n−ブタノール中でオクタデシルジシアンジアミドおよび2−ヒドロキシルエチルフェニルアミンヒドロクロリドから調製した。すなわち、1.68gのオクタデシルジシアンジアミドおよび0.87gの2−ヒドロキシルエチルフェニルアミンヒドロクロリドを、8.5gのn−ブタノール中で混合した。この混合物を115℃に加熱して溶解させ、5時間にわたって反応させた。室温まで冷却すると、IPAから粗固体が再結晶化した。この白色固体を60℃にて真空下で一晩乾燥させた。
【0062】
[抗微生物剤をポリマー末端に共有結合させた熱可塑性ポリウレタンの調製]
抗微生物活性を有する熱可塑性ポリウレタンの例示的な実施例を以下の式で示す。式中、PCUはポリカルボナートウレタンのバルク鎖(bulk chain)である。
【化8】



式中、m=1〜3、n=7、11、15、17であり、Xは塩化物または臭化物である。
【0063】
様々な量の抗微生物剤をポリマー末端に共有結合させた熱可塑性ポリウレタンを、バッチ式反応装置において、または連続反応押出プロセス(continuous reactive extrusion process)により合成し得る。一例として、2工程プロセスにおいて、MDIとポリカルボナートジオール(Mw=1727)との混合物を2時間にわたり60〜100℃で加熱し、続いてブタンジオールとヒドロキシル官能性第四級アンモニウムハライドとの溶液混合物を加えることにより、先ずプレポリマーを得た。溶融した混合物を5〜10分間激しく攪拌した後、これを清潔なPE容器に移し、100℃にて24時間かけて後硬化させた。次いで、溶液調製用または再ペレット化用に、硬化したポリマースラブを小さく粉砕して顆粒にした。抗微生物剤を含まないコントロール試料を、市販のBIONATE(登録商標)80Aから得た。BIONATE(登録商標)80Aは、DSM PTG(Berkeley,California)によって製造される、芳香族ウレタンハードセグメントとポリカルボナートソフトセグメントとを有するポリカルボナートウレタンブロックコポリマーである。
【0064】
抗微生物性ビグアニド末端基を有する熱可塑性ポリウレタンの例示的な実施例を、以下の式で示す。式中、PCUは、ポリカルボナートウレタンのバルク鎖である。
【化9】



【0065】
したがって、MDIとポリカルボナートジオール(Mw=1992)との混合物を2.5時間にわたり55〜100℃で加熱し、続いてブタンジオールとビグアニドヒドロクロリドとの溶液混合物を加えることにより、先ずプレポリマーを得た。溶融した混合物を5〜10分間激しく攪拌した後、これを清潔な容器に移し、80〜100℃にて24時間かけて後硬化させた。次いで、溶液調製用または再ペレット化用に、硬化したポリマースラブを小さく粉砕して顆粒にした。
【0066】
[フィルム試料調製]
15〜20%の固形分を含むポリマー溶液を、ジメチルアセトアミド(DMAc)溶媒にポリマーペレットを溶解させ、続いて20ミクロンステンレス鋼フィルターを用いて濾過することにより調製した。次いで、連続ウェブ塗布機(continuous web coater)を用い、濾過した溶液をポリエチレンテレフタラート(PET)Mylar基材上に流延して0.002〜0.004インチ厚のフィルムにし、50℃にて乾燥させた。次いで、これらのフィルム試料を、室温にて一晩中脱イオン水に浸漬し、風乾させた。フィルム中の残留溶媒は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーを用いて分析すると、検出可能レベル(約10ppm)より低いことが分かった。これらのフィルム試料を、後で、抗微生物試験、和周波発生分光法(SFG)分析、および摩擦係数(COF)試験のために用いた。
【0067】
[物理的性質]
抗微生物性表面改変剤を組み込むことによる物理的性質(例えば、分子量、機械的性質、接触角、吸水度、および摩擦係数)への影響を調査し、標準BIONATE(登録商標)80Aコントロールと比較した。本ポリマーは、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)に典型的に見られる優れた強度および高い弾性を保持した。室温にて24時間にわたって水に浸漬した後、コントロールと比較して、顕著な吸水率(water uptake)の増加は認められなかった。表1にこれらの結果をまとめ、BIONATE(登録商標)80Aコントロールおよび本発明に従う抗微生物活性末端基を含むBIONATE(登録商標)80Aポリマーについての分子量、機械的性質、および吸水率を示す。
【0068】
【表1】



【0069】
接触角ゴニオメーターを用い、流延フィルム試料上で接触角を測定し、5〜10測定値の平均値を報告した。表2に、BIONATE(登録商標)80Aコントロールおよび本発明に従う抗微生物活性末端基で改変されたBIONATE(登録商標)80Aポリマーについての接触角および摩擦係数を示す。
【0070】
【表2】



【0071】
表2にまとめられた結果から、クオートで改変されたBIONATE(登録商標)上およびコントロール上の水の濡れ性は、ほとんど同じであると思われるのに対し、ASTM D1894によってポリエチレン基材上で測定されたクオート改変BIONATE(登録商標)についての摩擦係数は、コントロールと比較して低い。COFの低減は、多くの医療用途(例えば、取扱適性の改善(非粘着性)、可動部分の表面摩耗の減少、および医療デバイスの挿入に関連する組織干渉)にとって望ましい特徴である。
【0072】
[非浸出挙動(non−leaching behavior)および熱安定性]
ポリマー末端に結合された抗微生物性表面改変剤の非浸出性安定性を調べるために、脱イオン水を溶媒として用い、フィルム試料を16時間のソックスレー抽出に供した。抗微生物性クオートが化学的に結合されていないか、または結合が沸騰水に感受性である場合は、クオートはポリマーから抽出された水に溶解する。抽出後、フィルム試料をNMRによって分析した。図4に示されるように、第四級アンモニウム塩の末端メチル基および隣接するメチレン基と関連付けられるプロトンピークが依然として存在し、厳密なソックスレー抽出後もなお量的に同等のままであった。このことは、抗微生物剤がポリマーと共有結合しており、熱湯環境において安定していたという証拠を示している。
【0073】
熱安定性は、従来の熱成形プロセス(例えば、押出および成形)によって加工されることになる医療用プラスチック類にとって重要である。著しい熱崩壊(0.2%を超える)はいずれの場合も深刻なガス発生を引き起こし、製品の粗面および物理的性質の劣化に繋がり得る。典型的なBIONATE(登録商標)製品には、160〜200℃の熱処理窓(thermal processing window)が、押出および射出成形のバレル温度として推奨される。図5から分かるように、第四級アンモニウム末端基を含むBIONATE(登録商標)80Aペレットは、200℃まで0.1%未満の減量という優れた熱安定性を示した。したがって、そのように調製された材料は、標準的な熱成形加工に適している。
【0074】
非浸出特性を、抗微生物剤浸出実験によっても調べた。この試験は、種々の材料から何か毒性のある化合物が浸出するかどうかを決定するためのものである。ポリマー試料を無菌増殖培地に浸漬し、無菌条件下で24時間にわたってインキュベートした。次いで、この培地に表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)または緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のいずれかを接種し、懸濁細菌の生細胞数および死細胞数を経時的に定量した。本質的に、いずれの材料試料も表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)または緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)と同様の結果が得られた)の懸濁増殖に対する影響はなかった。結論として、24時間の期間にわたって材料からは何ら毒性のあるものは浸出しなかった。したがって、細菌付着の阻害が少しでもあるとすれば、それは懸濁細胞を殺す以外の何らかの効果によるものであろう。
【0075】
[チューブ押出]
0.5重量%の抗微生物性第四級アンモニウム塩C1837(Me)EtOH Brをポリマー末端に共有結合させたBIONATE(登録商標)80Aのペレットを、170°Fにて一晩中、二床再生デシカント乾燥機(two−bed regenerative dessicant dryer)において乾燥させた。次いで、内径0.072インチおよび外径0.082インチのチューブを、L/D=25/1のバレル、クロスヘッドダイ、内腔空気制御器(lumen air controller)、脱イオン水冷却槽、引取装置および切断機を備えた1インチ一軸スクリュー押出機ならびに他のオンライン測定用付属品(超音波壁測定、2ヘッドレーザー外径測定を含む)から成る精密チューブ押出ラインから押出した。このチューブを脱イオン水槽中でクエンチし、20インチの長さに切断した。次いで、1.5インチ長の部分を、阻害試験のゾーン(Zone)に直接使用した。チューブを膨らませて気球にすることによってフィルム試料も回収し、後で、抗微生物性試験用に正方形のフィルムに切断した。クオート改変BIONATE(登録商標)80Aから作られたチューブは、全く同じ大きさのBIONATE(登録商標)80Aコントロールチューブと比較して、互いに付着する傾向がはるかに小さいことが見出された。このことは、和周波発生分光法(SFG)によるチューブ表面分析の助けを借りてより良く理解される。
【0076】
SELF−ASSEMBLING MONOMERS AND OLIGOMERS AS SURFACE−MODIFYING ENDGROUPS FOR POLYMERSと題された国際公開第2007/142683(A2)号パンフレットは、様々な種類の表面および界面に成功裏に適用されてきた、単分子層感度を有する表面特異的分析技術について記載している。このパンフレットの段落[0058]〜[0062]を参照されたい。IRおよび可視(レーザー光)和周波発生分光法(SFG)により、表面の分子種の同定を可能とするだけでなく、表面における官能基の配向に関する情報を提供しもする高性能で且つ多用途のインサイチュー表面プローブが創り出された。このプローブは、非破壊的で、感度が高く、優れた空間、時間およびスペクトル分解能を有している。SFGは表面特異的であるため、レーザー光が通る媒体がそのレーザー光を妨げない限り、この技術を用いてどのような界面も調査し得る。SFGによりアクセス可能な界面の例としては、ポリマー/気体の界面およびポリマー/液体の界面が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
図6から分かるように、コントロールチューブのSFGスペクトルに関して観察される目立った特徴は、それぞれポリカルボナートソフトセグメントのメチレン基の対称および非対称の伸縮と関連付けられる、2845cm−1および2905cm−1での2つの主ピークである。これと比較して、クオート改変ポリマーチューブの表面は、末端メチル基の対称性およびフェルミ共鳴と関連付けられる、2870cm−1と2935cm−1での2つのピークにより特徴づけられた。末端メチル基はポリマー重量の約0.02重量%を占めるにすぎないことから、SFG結果から推定されるメチル基の完全被覆(complete coverage)は、末端メチル基が最外層を覆う表面にはオクタデシル末端基が秩序だって配列され、組織化されているということを示している。表面上に組織化されたオクタデシル層は、表面の粘着性を減少させる滑剤のような働きをし得る。
【0078】
[表面に対するアニール効果]
成形された物品の表面へのクオート末端基の移動は、ポリマーの温度および物理的状態に大きく左右される。溶融している間は、ポリマー鎖はより動き易く、より大きな自由体積を得るため、末端基が短時間で表面に移動し平衡状態に達することが可能になる。その結果、溶融状態から押出されたチューブは、飽和した秩序だって配列されたアルキル末端基を特徴として備える。溶液流延フィルムは、それほど優れた表面特徴を示さず、2845cm−1および2905cm−1での主ピークが、メチレン基の対称および非対称の伸縮と関連付けられた。図7を参照されたい。60℃にて一晩中アニールすると、メチル基の対称伸縮およびフェルミ共鳴と関連付けられるピークの増加から示唆されるように末端メチル基が現れた。フィルム成形プロセスの間に、親水性DMAcの蒸気相がポリマー表面のすぐ上に被覆を作り得る。親水性と疎水性との相互作用のせいで、疎水性オクタデシル末端基は表面への出現が抑制され、成形されたフィルムを乾燥させると「閉じ込められた」。この「閉じ込められた」末端基はエネルギーをほとんど必要とせず、高温でアニールすると、短時間のうちに表面に移動し得た。これは、下にある生物活性基にアクセスし、生物学的性能(例えば、抗微生物特性)を最大限に活用する方法を提供することになる。
【0079】
[抗微生物特性]
抗微生物効力を、上記のフィルム試料について試験した。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(ATCC 6538)および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(ATCC 15442)菌株を、それぞれグラム陽性およびグラム陰性試験種として用いた。ASTM E2180「Method for Determining Antimicrobial Activity in Polymer or Hydrophobic Materials」を、試験プロトコールとして用いた。この標準試験には、接種物と抗微生物処理された疎水性表面との比較的均一な接触を与える寒天スラリーの接種物ビヒクルが関与している。この方法は、プラスチックまたは疎水性表面中の抗微生物活性の存在を確認し得、処理されていないプラスチックまたはポリマーと、低水溶性抗微生物剤が結合または組み込まれたプラスチックまたはポリマーとの間の抗微生物活性の量的差異の決定を可能とする。表3に示されているのは、2cm×2cmのフィルム表面上への24時間の暴露後の細胞減少結果である。
【0080】
【表3】



【0081】
コントロールBIONATE(登録商標)80Aフィルムは細胞減少を全く引き起こさなかったが、クオーツ改変ポリマーフィルムは、グラム陽性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対して非常に有効な殺生物効果を示し、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に対していくらかの効果を示した。
【0082】
1%のクオートC1837(Me)(EtO)H Clを含むポリマーフィルムの抗微生物特性は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin Resistant Staphylococcus aureus:MRSA)(ATCC 33592)に対しても試験した。コロニー形成単位(CFU)の4logの減少が観察された。これは、そのポリマー表面がMRSA菌株に対しても有効であることを示唆している。
【0083】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に対する高められた抗微生物効果が、押出フィルムについて観察された(表4)。おそらくこれは、押出の間に表面においてクオート末端基がさらに富化されためである。
【0084】
【表4】



【0085】
[阻害のゾーン]
クオート改変ポリカルボナートウレタンから作られたチューブ試料の細菌増殖に抵抗する能力および接触する環境への殺生物剤浸出の可能性を、阻害ゾーン実験により試験した。結果を図8Aおよび図8Bに示す。本発明に従うクオート改変BIONATE(登録商標)80Aから作られたチューブは、チューブ(0.174インチ×1.50インチ)の投影面積に近い面積の阻害ゾーンにより特徴づけられる、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(ATCC 6538)に対する接触阻害を示した。図8Aを参照されたい。チューブはきれいで透明なままであり、細菌付着はないようであった。浸出殺生物剤を象徴する阻害ゾーンは、チューブの隣接表面領域を超えては発展しなかった。対照的に、コントロールチューブは、細菌コロニーによって表面が完全に覆われた不透明物体へと変わり、接触阻害は全く観察されなかった。図8Bを参照されたい。総合すると、図8Aおよび図8Bに示された結果は、本発明に従って作製された物品が、有用な抗微生物特性を有することを裏付けている。
【0086】
[成形品の製造]
未成形の本発明に従うL−R−S含有ポリマーは、非改変ベースポリマーを加工するために用いられる方法によって成形品に変えられ得る。そのような方法としては、溶融加工法(例えば、押出)、射出成形、圧縮成形、圧延、およびインテンシブ混合が挙げられる。ポリマーはまた、溶液ベースの技術(例えば、吹付、浸漬、流延、および塗り)によっても加工され得る。揮発性液体(例えば、有機溶媒または水)の蒸発は、SMEポリマーの塗膜を後に残す。
【0087】
本発明の組成物から作られたポリマー物品は、多くの場合、約350〜約10,000psiの引張り強さ、約300〜約1500%の破断点伸び、約5〜約100ミクロンの裏なし厚さ(unsupported thickness)、および約1〜約100ミクロンの裏付き厚さ(supported thickness)を有する。
【0088】
本発明に従うポリマーは、心臓補助デバイス(例えば、人工心臓および大動脈内バルーン);カテーテルおよびカテーテル導入器;ペースメーカリード;移植血管;プロテーゼインプラント(例えば、心臓弁、靭帯、腱、および関節置換);コンドームおよびコンドーム用被覆剤;ならびに手袋および手袋用被覆剤などの物品を作製するために使用され得る。本発明はまた、本発明のポリマーから形成された生物適合性フィルムであって、支持体上にコーティングされ得るフィルムを提供する。本発明のフィルムは、軟質シートおよび中空膜もしくは繊維の形態で提供される。典型的に、軟質シートは、約10〜15インチ幅で1〜6フィート長の長い巻取り可能な(rollable)シートとして調製され得る。しかしながら、当業者は、他の寸法も選択され得ることを理解する。
【0089】
軟質シートは、当該技術分野において公知の方法により、典型的には流延により、より好ましくはウェブまたはレリースライナー上への流延により、本発明のブロックコポリマーから調製される。本組成物は、フィルムとして基材上にコーティングされ得る。強化用ウェブ(例えば、布)上に恒久的に支持される場合、フィルムまたは膜はより薄く(例えば、約1ミクロンの薄さに)なり得るが、裏なしで用いられる場合は、その厚さは約5〜10ミクロンの低さにしかなり得ない。膜は、ロール式ナイフ流延によって、レリースペーパー、ウェブ、またはライナー上に、乾燥フィルムの形態で本発明のポリマーから製造される場合、連続コーティングライン上に約1〜100ミクロンの公称厚さを有し得る。
【0090】
本発明の膜は、製造中または製造後に続いて固体に変わる液体(例えば、溶液、分散液、固形分100%のプレポリマー液、ポリマーメルトなど)を利用するプロセスの結果としてもたらされる任意の形状を有し得る。転換された形状はまた、打抜き、ヒートシール、溶剤接着もしくは接着などの方法、または種々の他の一般的に用いられる製造方法のいずれかを用いてさらに変更され得る。例えば、例えばカテーテルとしての使用が意図された中空チューブの形態の場合、この膜は、一般的に、約0.5〜10mm、より好ましくは約1〜3mmの外径および約1〜100ミクロン、より好ましくは約19〜25ミクロンの厚さを有するように調製される。カテーテルの具体的実施例は、抗微生物活性クオートC1225(Me)(EtO)H Clから作られた1重量%の末端基を含むBIONATE(登録商標)80Aポリマーから作られた、厚さ24ミクロンおよび外径2.7mmの膜から作られた中空チューブである。
【0091】
今述べた製造方法は、膜ポリマーの液体溶液または反応性液体プレポリマーを用いる。本発明の線状ポリマーの場合には、熱可塑的な製造方法も使用され得る。上記の塊重合または溶媒を用いない重合方法によって作製される膜ポリマーは、例えば、重合反応の間にテフロン被覆鍋へとキャストされ得る。反応が進み、重合液がゴム状固体になったとき、この鍋はオーブンで、例えば100〜120℃で約1時間かけて、後硬化され得る。冷却すると、このゴム状塊はペレットへと細断され、除湿式ホッパードライヤーで、例えば約16時間にわたり、乾燥させ得る。次いでこの乾燥ペレットは、例えば約175℃で圧縮成形されて、冷却すれば約0.5mmの厚さを残す平膜を形成し得る。押出、射出成形、圧延および当該技術分野において周知の他の加工方法もまた、本発明のポリマーの膜、フィルムおよびコーティング(中実繊維、チューブ、医療デバイスおよびプロテーゼなどを包含する)を形成するために用いられ得る。
【0092】
本発明は上述のように説明されるのであるが、同様のことが何通りにも変更され得ることが当業者には明らかである。そのような変更は本発明の精神および範囲からの逸脱と見なされるべきではなく、当業者には明白であるような改変はすべて、以下の特許請求の範囲内に包含されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式P−(L−R−S)を有する抗微生物活性ポリマー分子であって、式中、部分−(L−R−S)は、前記ポリマー分子の末端基であり、変数nは、線状ポリマーにおいては1〜2の整数であり、分岐または樹状分岐ポリマーにおいては3〜100の整数であり、ここで:
Pは、5000〜1,000,000の数平均分子量を有し、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカルボナート、ポリオレフィン、ポリスルホン、およびそれらのコポリマーからなる群から選択されるポリマー部分を表し;
Lは、部分Rを部分Pと共有結合により連結する、約1000までの数平均分子量を有する脂肪族または芳香族連結部を表し;
Rは、抗微生物活性有機部分または抗微生物活性有機金属部分を表し;
Sは、1000までの数平均分子量を有し、4〜22個の炭素原子を有する線状、分岐、または環状のアルキル基、ポリアルキレンオキシド、フッ素化ポリアルキレンオキシド、ポリシロキサン、フッ素化ポリシロキサン、ポリシロキサンポリエーテル、およびそれらの混合物からなる群から選択される表面活性末端基を表し、
ここで、部分−(L−R−S)は、複数の前記ポリマー分子から作られた物品の表面に前記物品の製造中または製造後に移動し、それにより前記表面が抗微生物特性を有するポリマー物品を提供する
抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項2】
Rが、第四級アンモニウム塩、ビグアニド、フェノール、アルコール、アルデヒド、カルボン酸エステル、ヨウ素担体、パラベン、イミダゾリジニル尿素、アゾニアアダマンタン、イソチアゾロン、2,3−イミダゾリジンジオン、ブロノポール、フルオロキノロン、β−ラクタム、糖ペプチド、アミノ配糖体、およびヘパリンからなる群から選択される抗微生物活性有機部分である、請求項1に記載の抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項3】
Rが第四級アンモニウムハライドである、請求項2に記載の抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項4】
Rがビグアニドである、請求項2に記載の抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項5】
Pが、脂肪族ポリオール、脂肪族および芳香族ポリアミン、アミンまたはヒドロキシル末端シリコーン流体、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の親水性、疎水性、または両親媒性のオリゴマーを含む約5〜75重量%の少なくとも1種のハードセグメントと約95〜25重量%の少なくとも1種のソフトセグメントとを含む、5000〜1,000,000の数平均分子量を有する熱可塑性ポリウレタンである、請求項1または2に記載の抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項6】
連結部Lが、2〜30個の炭素原子を有する脂肪族アミンまたは脂肪族アルコールの残基を含む、請求項1、2、または5のいずれか一項に記載の抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項7】
連結部Lが、1〜30個の−Si(CHO−反復単位を有するシリコーン含有アルコールまたはシリコーン含有アミンの残基を含む、請求項1、2、または5のいずれか一項に記載の抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項8】
Sが、4〜22個の炭素原子を有する線状、分岐、または環状のアルキル基である、請求項1、2、または5〜7のいずれか一項に記載の抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項9】
式P−(L−R−S)の化合物からなる群から選択される請求項1に記載の抗微生物活性ポリマー分子であって、式中、Pは60,000〜100,000の公称数平均分子量を有する熱可塑性ポリウレタンであり、nは2であり、L−R−Sは式−(OCHCH[(CH](C2x+1)Xの部分であり、式中、xは6〜22の整数であり、yは1〜8の整数であり、Xはハロゲン原子である、抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項10】
xが8〜18の整数であり、yが1〜3の整数であり、Xが塩素原子である、請求項9に記載の抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項11】
式P−(L−R−S)の化合物からなる群から選択される請求項1に記載の抗微生物活性ポリマー分子であって、式中、Pは10,000〜300,000の公称数平均分子量を有する熱可塑性ポリウレタンであり、L−R−Sは式−(OCHCH[(CH](C2x+1)Xの部分であり、式中、mは1〜3の整数であり、xは8、12、16、または18であり、Xは塩化物イオンまたは臭化物イオンである、抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項12】
式P−(L−R−S)の化合物からなる群から選択される請求項1に記載の抗微生物活性ポリマー分子であって、式中、Pは10,000〜300,000の公称数平均分子量を有する熱可塑性ポリウレタンであり、nは2であり、L−R−Sは式
【化1】



の部分であり、式中、Rは前記ビグアニド部分を前記熱可塑性ポリウレタンに共有結合により連結する式−O(CH−の基であり、ここで、zは1〜18の整数であり、Rは線状または分岐の2〜22個の炭素原子を有するアルキル基、脂肪族エステル、脂肪族ポリエーテル、フッ素化脂肪族ポリエーテル、シリコーン、およびシリコーンポリエーテルからなる群から選択される、抗微生物活性ポリマー分子。
【請求項13】
尿道カテーテル、経皮カテーテル、中心静脈カテーテル、血管アクセス器具、静脈内送達部位、薬物送達カテーテル、排液管、経胃栄養チューブ、気管切開チューブ、コンタクトレンズ、整形外科インプラント、神経刺激リード、ペースメーカリード、および血液バッグからなる群から選択される医療デバイスであって、請求項1〜12のいずれか一項に記載の抗微生物活性ポリマーを含む、医療デバイス。
【請求項14】
中心静脈カテーテルまたは尿道カテーテルである、請求項13に記載の医療デバイス。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の抗微生物活性ポリマーを含む、病院機器用または海洋船用の被覆剤。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の表面改変抗微生物ポリマーを添加剤として含む抗微生物活性ポリマー混合物。
【請求項17】
医療デバイスまたは被覆剤に抗微生物性表面を付与する方法であって:
請求項13に記載の医療デバイスまたは請求項15に記載の被覆剤に対し、前記医療デバイスまたは被覆剤を製造するために用いられた前記ポリマーのガラス転移温度より10℃高く、かつ前記医療デバイスまたは被覆剤を製造するために用いられた前記ポリマーの融解温度または軟化温度より30℃低い温度でアニール処理を行う工程
を包含する、方法。
【請求項18】
医療デバイスまたは被覆剤に抗微生物性表面を付与する方法であって:
請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリマーを溶融させる工程;
前記ポリマーの溶融液を医療デバイスまたは被覆剤へと成形する工程;および
前記医療デバイスまたは被覆剤をクエンチして凝固させて、抗微生物性表面を有する医療デバイスまたは被覆剤を得る工程
を包含する、方法。
【請求項19】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の抗微生物活性ポリマーの使用であって、前記ポリマーから作られた医療デバイスまたは被覆剤をアニールすることによって医療デバイスまたは被覆剤に抗微生物性表面を付与するための、使用。
【請求項20】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の抗微生物活性ポリマーの使用であって、前記ポリマーを溶融させ、前記ポリマーの溶融液を医療デバイスまたは被覆剤へと成形することによって医療デバイスまたは被覆剤に抗微生物性表面を付与するための、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公表番号】特表2011−525202(P2011−525202A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511751(P2011−511751)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【国際出願番号】PCT/US2009/045140
【国際公開番号】WO2009/148880
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】