説明

抗癌治療の間の免疫系の栄養支援

本発明は、抗癌療法の間の免疫機能の損傷を阻止し、それによって、治療のより良好な有効性を達成するための方法及び免疫栄養組成物に関する。より特定すると、本発明は、抗癌療法誘導性アポトーシス及び腫瘍細胞増強性免疫原性を経験している対象の免疫細胞の免疫能及び腫瘍細胞の免疫原性を一過性に増大又は増強することができる方法及び免疫栄養組成物に関し、したがって、免疫細胞の自然免疫機能及び適応免疫機能並びに正常な生理が保存され、続いて、(i)抗癌療法のより良好な耐性及び有効性の増加、(ii)免疫細胞の免疫能及び腫瘍細胞の免疫原性の一過性の増大又は増強、並びに(iii)抗癌療法によって弱まっている免疫細胞の作用の最適化及び免疫能の増加がもたらされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌治療の間に免疫系を支援するための方法及び免疫栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アポトーシスは、細胞のホメオスタシスを、不必要な細胞又は正常に機能しない細胞を排除することによって促す、多細胞生物体内で発生するプログラム細胞死機構の1つの型である。アポトーシス機構の異常は、腫瘍形成、例えば、腫瘍細胞によるアポトーシスシグナルの回避、並びに放射線療法及び化学療法等の抗癌療法に対する抵抗性の一因となる場合がある。
【0003】
腫瘍細胞は、自然免疫応答及び適応免疫応答(免疫監視)を、免疫選択(immunoselsction)(若しくはマウスモデルの場合には免疫編集(immunoediting)としても知られている)(非免疫原性腫瘍細胞変異体の選択)又は免疫破壊(immunosubversion)(免疫応答の積極的な抑制)によって逃れる。Zitvogel,L.、J.Clin.Invest.、118:1991〜2001、2008;Koebel,C.M.、Nature、450:903〜907、2007;Zitvogel,L.ら、Nat.Rev.Immunol.、6:715〜727、2006。しかし、腫瘍細胞は、抗腫瘍免疫応答を妨げることができる、腫瘍由来因子が関与するその他の機構を通しても、免疫制御を回避することができる。
【0004】
慢性及びくすぶり型の炎症は、新生物のリスクを増加させる。感染病原体が世界全体で、悪性腫瘍の15%超に関与することが推定されている。Balkwill,F.ら、Cancer Cell、7:211〜217、2005。炎症を起こした組織の環境が、癌細胞の発生を促す場合があり、免疫抑制が、宿主を腫瘍の発生から防御する「免疫監視」を相殺するのに必要な構成成分である場合があろう(Koebel、C.M.ら、上記)。さらに、腫瘍が発生すると、腫瘍は、炎症状態を維持し、単核球等の、炎症促進性であり免疫抑制性である骨髄由来細胞を動員することができる。「骨髄サプレッサー細胞(MSC)」と呼ばれている、癌患者の骨髄由来細胞及び骨髄細胞のその他の免疫コンパートメントの蓄積が、T細胞の活性化に対するサプレッサー活性と関連がある(Galina,G.ら、J.Clin.Invest.、116:2777〜2790、2006)。
【0005】
上記で論じたように、抗腫瘍防御、すなわち、免疫系は、通常、形質転換した腫瘍細胞の存在及び異常増殖を制御する能力が損なわれている。さらにまた、免疫系は、抗癌療法の毒性により、さらなる機能の損傷も被っている。
【0006】
放射線療法及び化学療法等の抗癌療法の成功は、腫瘍細胞に対する抗癌療法の細胞傷害作用のみならず、また同時に、治療の間の免疫能に対する抗癌療法の細胞傷害作用にも依存する。抗癌治療の間の免疫機能の必要なロバスト性には、抗癌薬又は放射線療法と協力して働く自然免疫応答及び適応免疫応答が関与する。Apetoh、L.ら、Nature Med.、13:1050〜1059、2007。
【0007】
最近の研究から、化学療法又は放射線療法により誘導されたアポトーシスを経験している腫瘍細胞は、一過性の免疫原性活性の増加に起因して、強力な免疫応答を誘導することができることが明らかになっている。腫瘍細胞は、免疫原性決定基を誘導することによって、「危険シグナル」をそれらの細胞表面上に一過性に発現することができ、これらのシグナルは、樹状細胞(DC)による腫瘍細胞の食作用を促し、DCの成熟及び免疫応答の賦活を誘発する。死滅しつつある腫瘍細胞上で誘導される免疫原性決定基の例として、これらに限定されないが、熱ショックタンパク質(HSP70及びHSP90)、ナチュラルキラー受容体(例えば、NKG2D)のリガンド、高移動度グループボックス1タンパク質(HMGB1)が挙げられ、これら免疫原性決定基の全てが、免疫系を活性化する「危険シグナル」となる。例えば、HMGB1は、TL4R(TLR−4)との反応を通して、免疫細胞を活性化することができる。しかし、免疫応答を増強することができないその他の危険シグナルもある。例えば、カルレティキュリンは、抗癌治療による細胞死の誘導により腫瘍細胞表面上に発現し、DCによる食作用を促すことができる。しかし、カルレティキュリンによるDCシグナル伝達は、抗腫瘍免疫応答を活性化するには不十分である。Toll様受容体(TLR)のリガンドによって(おそらくまた、その他の受容体によっても)引き起こされる追加のシグナル伝達経路も必要である。Gardai,S.J.ら、Cell、123:321〜334、2005。
【0008】
Toll様受容体(TLR)は、免疫系の調節において重要な役割を果たす。Toll様受容体は、微生物を認識し、宿主防御に警告する特異的なシグナル伝達経路を直接開始する能力を有する。TLRリガンドは、非自己の細菌モチーフ及び内因性の「危険シグナル」の両方に関与する。内因性の危険シグナルの例が、高移動度グループボックス1(HMGB1)タンパク質であり、このタンパク質は、TLR4と反応すると、DCを活性化し、死滅しつつある腫瘍細胞に対する免疫応答を発生させ、抗癌治療、すなわち、化学療法及び放射線療法の有効性を補うことができる(Apetoh,L.ら、Nature Med.、13:1050〜1059、2007)。HMGB1は、照射した腫瘍細胞から、照射の数時間後に放出されるので、死滅しつつある腫瘍細胞の免疫原性に寄与する主要な「危険シグナル」のうちの1つであるようである。
【0009】
細胞活性化を誘発する潜在的な能力を有するTLR4のその他のリガンドは、ヒアルロナン(細胞外マトリックス)、熱ショックタンパク質(HSP)及びフィブロネクチンである。HSP70及びHSP90は、ストレスを受けた死滅しつつある細胞の、免疫原性の主要な決定基である(Tesniere,A.ら、Cell Death & Differentiation、15:3〜12、2008)。
【0010】
尿酸、RNA、DNA、カリウム(K)、ヌクレオチド等の、アポトーシス性/壊死性の細胞から放出されるその他の危険シグナルは、自然免疫応答、及びその後の適応免疫応答を活性化することができる。
【0011】
DNAの傷害は、細胞に、NK細胞及び活性化されたCD8T細胞上に発現するNKG2D受容体のリガンドの発現を上方制御させ、この上方制御は、細胞傷害性応答を起こすことができる(Gasser,S.ら、Cancer Res.、66:3959〜3962、2006)。腫瘍細胞は、NKG2Dリガンドを下方制御し、それによって、免疫検出を回避する傾向を示す。しかし、癌細胞は、抗癌治療によって誘発された遺伝毒性ストレスの間は、NKG2Dリガンドを上方制御し、細胞傷害性のNKリンパ球又はCD8リンパ球にとって、「目に見える」標的となる。
【0012】
ストレスを受けた癌細胞が発現又は放出するその他の危険シグナルは、カスパーゼ−1を活性化し、それによって、IL−1β及びIL−18等の炎症促進性サイトカインの放出に寄与する、NOD/NACHT−LRH(NLR)又はインフラマソームと呼ばれている一群の細胞質タンパク質に結合することができる(Martinon,F.、Trends in Immunol.、26(8):447〜454、2005)。
【0013】
さらに、HMGB1等の危険シグナルとDNA(CpG)との組合せが、TLR4及びTLR9を通して、インターフェロン−αシグナル伝達の発生を誘発することができることが報告されている(Ivanov,S.ら、Blood、110:1970〜1981、2007)。
【0014】
「危険シグナル」を代表する上記の分子のうちの多くが、長期間の腫瘍の静かな増殖とは対照的に、抗癌治療の結果として、腫瘍細胞及び腫瘍組織から放出され得る。抗癌治療による腫瘍細胞死誘導の結果として、これらの腫瘍細胞は、免疫原性が一過性に高まる。しかし、腫瘍細胞の免疫原性のそのような一過性の増加は、免疫細胞機能も抗癌治療によって誘発された毒性を同時に被る場合には、宿主にとって都合が悪い。この毒性は、抗癌療法がまた、骨髄抑制及び/又は胸腺崩壊(thymolysis)も頻繁に誘発することによる。骨髄抑制及び/又は胸腺崩壊は、それに続いて、免疫系が死滅しつつある腫瘍細胞の抗原性及び免疫賦活能を治療の間に一過性に増加させる機会を失う原因となる。さらに、抗癌療法は、腫瘍細胞、活発に分裂しているリンパ球及び自然免疫細胞を標的にするが、これらの細胞はいずれも、免疫応答を開始する必要がある。このジレンマを克服するために、抗癌療法によって誘発される一過性の免疫抑制を相殺するための免疫療法が提案されている。まさしくこの理由によって、抗癌療法と免疫とは、拮抗するものであると理解されている。van der Most,R.G.ら、Cell Death Differentiation、15:13〜20、2008。残念なことに、免疫療法単独では、非腫瘍性の分裂細胞を、抗癌療法の細胞傷害作用から防御するには十分でない。アポトーシス、自己貪食及び活性化能力の損傷等の多くの型の毒性が、抗癌治療により、免疫系の異なる細胞のサブセットに対して誘発される。免疫細胞は、抗癌療法の副作用を被るので、免疫原性増加のこのウィンドウから利益を得る機会が大幅に低下する。また、癌療法誘導性アポトーシスの副作用を経験するプロセスにおいて、宿主中の抗原提示細胞の機能、自然の細胞殺傷及び抗原特異的な腫瘍細胞殺傷も影響を受ける。癌療法誘導性細胞死において免疫原性が一過性に増強される期間は、免疫系が、形質転換した細胞に対する制御を回復し、残りの生存可能な腫瘍細胞を抑制状態に保つ代表的な機会である。抗原性又は免疫原性の発現の増強のこのウィンドウから利益を得るために、本発明は、方法及び免疫栄養組成物を提供し、これらの方法及び免疫栄養組成物は、ストレス誘導性アポトーシス性癌療法を受けている患者に適用又は投与した場合、患者の自然免疫応答及び抗腫瘍免疫応答をさらに増強するであろう。したがって、化学療法及び放射線療法による治療のサイクルに沿った免疫系の(免疫栄養を介した)栄養馴化によって、そのような治療によって誘発された急性免疫毒性を修正することができ、この修正された状態は逆説的なことに、腫瘍細胞の免疫原性の増強の時期にも同時に対応する。
【0015】
細胞ストレスを経験し、「危険シグナル」を発現している腫瘍細胞、及び抗癌治療により誘導された死は、自然応答にとっては、より「目に見える」標的になり、それによって、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、ガンマ−デルタ(γδ)T細胞及びキラー樹状細胞(KDC)等の自然のエフェクター細胞によってより容易に攻撃され得る。Pillarisetty,V.G.ら、J.Immunol.、174:2612〜2618、2005。さらに、活性化されたDCは、腫瘍抗原特異的細胞溶解性T細胞応答を賦活することもできる。自然免疫応答の活性化を、外来性の薬剤若しくはアジュバント、共刺激性タンパク質のリガンド、サイトカイン又は薬物を投与することによって増強することができる。例えば、DCによる、エンドソームに位置するTLR(TLR3、TLR9)を通しての核酸(例えば、二本鎖RNA、ヌクレオチド)の認識は、DCの活性化及びそれに続く抗原特異的抗腫瘍免疫応答に役立ち得る。Blattman,J.N.ら、Science、305:200〜205、2004。別の例である、オリゴヌクレオチドであるCpGは、DCによるNK様活性を達成する能力を増強することができ、DCの活性化の状況を増加させ、それによって、腫瘍及び選択的に活性化されたマクロファージのような腫瘍によって馴化された免疫細胞が発生させた「免疫寛容誘発」シグナルを阻止することができる。
【0016】
自然免疫機能を増加させる活性を示している多くのその他の栄養素(免疫栄養素)がある。例えば、いくつかの非病原性プロバイオティクス細菌が、抗原提示の改善及び腫瘍細胞の自然破壊をもたらすであろう、マクロファージ、樹状細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞を活性化する能力を有する。上記したように、代理の危険シグナルとして作用するヌクレオチドは、免疫系を活性化することができる。DNA、RNA及びCpGによる免疫反応性の賦活が、いくつかの研究によって確認されている。
【0017】
アルギニン及びシトルリン並びに分枝鎖アミノ酸が、タンパク質合成を、mTORシグナル伝達を通して賦活することができ、続いて、この賦活により、抗癌治療のストレスを誘導する場合がある、免疫細胞に対する自己貪食プロセスが阻止される。グルタミンが、NKの自然細胞溶解活性を増加させることができ、マクロファージ及びキラー樹状細胞は、腫瘍細胞に対するCD8T細胞の抗原特異的細胞溶解活性に寄与することができる。いくつかの細菌又は酵母の分子パターンが、細胞傷害活性を有する自然リンパ球集団、例えば、NK、NKT及びガンマ−デルタT細胞の活性を賦活し、抗原提示細胞の活性化の増強を促して、腫瘍抗原を、プロセシングし、CD4T細胞及びCD8T細胞に提示することができる。
【0018】
免疫調節特性を有するこれらの免疫栄養素のうちの1つ又は複数を補ったいくつかの栄養製剤が開発されている。
【0019】
米国特許第6,210,700号は一般に、低下した宿主防御機構を増強し、同種移植片の生存率を改善するための、改善された免疫調節療法を記載しており、この療法は、臓器移植と関連がある免疫応答を変化させるためのオメガ−9不飽和脂肪酸の使用を含む。この療法は、場合により、アルギニン及びその塩、又はアルギニンの代謝前駆体を含む免疫調節性の食餌と共に、シクロスポリン又はその他の免疫抑制薬の投与を含む免疫抑制治療と一緒に投与され、場合によっては、ドナー特異的輸血を行うことも又は行わないこともある。オメガ−9不飽和脂肪酸のとりわけ好ましい供給源は、菜種油である。
【0020】
米国特許第5,330,972号は一般に、ヒト免疫不全ウイルスに感染した人におけるCD4細胞のアポトーシスを、大豆タンパク質加水分解産物を含有する栄養製品を感染した人に経腸的に与えることによって妨げることができることを記載している。この加水分解産物は、約14〜17の範囲の加水分解度、及び分子ふるいクロマトグラフィーにより決定した分子量画分を有し、30%〜60%の粒子が、1500〜5000ダルトンの範囲の分子量を有する。また、この栄養製品は、未変化のタンパク質及び食物繊維の供給源も含有する。この栄養製品は、約1.3:1〜2.5:1のn−6脂肪酸対n−3脂肪酸の重量比を有する。
【0021】
米国特許第第5,576,351号は、アルギニン若しくはオルニチン、又はアルギニン若しくはオルニチンの機能性類似体、或いはそれらの混合物を、損なわれた免疫応答を被っているヒト又は損なわれた免疫応答を被るリスクがあるヒトに投与することによる、損なわれたヒト免疫応答の治療又はヒト免疫応答の劣化の重症度の低下に関する。そのような治療は、患者に対するアルギニン若しくはオルニチン又はアルギニン若しくはオルニチンの機能性類似体を補った組成物の経腸的投与、或いはアルギニン若しくはオルニチン又はアルギニン若しくはオルニチンの機能性類似体を補ったアミノ酸液剤の非経口投与によって行われる。
【0022】
米国特許出願公開第2008/0231525号は、危篤状態の患者に非経口送達される、又はミトコンドリアの機能を改善するための栄養素組成物を記載している。この栄養素組成物は、グルタミン前駆体分子と、抗酸化剤、例えば、セレニウム、ビタミンC、亜鉛、ビタミンE及びベータ−カロテンとの組合せを含む。
【0023】
米国特許出願公開第2005/0090451号は一般に、治療有効量のグルタミン又は薬学的に許容できる塩を含む組成物の投与を介して、非粘膜組織を放射線療法からの傷害から防御する方法を記載している。
【0024】
米国特許出願公開第2005/0238660A1号は、水中油型乳剤等のその他の治療用製剤と組み合わせた免疫賦活性の核酸の方法及び組成物に関する。この治療薬の組合せは、非ヒト対象に、疾患及び癌等の障害の治療のために、種々の投与量又は種々の時間スケジュールで投与される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかし、引用した先行技術の中には、本明細書で論じるような、死滅しつつある腫瘍細胞が、抗原性又は免疫原性の発現の増強のウィンドウを経験している時期に、癌療法誘導性のアポトーシス及び/壊死を経験している癌患者に対する免疫栄養素の追加の記載や示唆があるものが1つもない。結局は、免疫栄養の目標は、抗癌療法誘導性の細胞死又は傷害の間に、腫瘍誘導性免疫寛容を無効にし、これによって、宿主−腫瘍のバランスを、宿主防御の補強に向けて傾けることを目指すべきである。同時に、免疫栄養は、癌患者に提供する場合には、抗原提示細胞の機能、並びに形質転換した細胞の自然細胞破壊及び抗原特異的腫瘍細胞破壊も増強し得る。最終的には、免疫栄養の主要な標的は、本明細書で提案するように、抗癌療法による治療によって一過性に弱っている非腫瘍細胞に対してであるべきである。
【0026】
上記に基づくと、抗癌治療の間に癌患者の免疫機能の損傷を阻止して、治療のより良好な有効性を達成するために製剤化することができる方法及び免疫栄養組成物の必要性がある。また、抗癌療法と組み合わせて適用又は投与した場合に、癌患者に対してより少ない有害な副作用を生じるであろう方法及び免疫栄養組成物の必要性もある。より重要なことには、死滅しつつある腫瘍細胞が免疫原性のウィンドウを経験している時期に利用することができる、処方された抗癌療法と協力して作用し、宿主の自然免疫プロセス及び適応免疫プロセスをさらに増強して、腫瘍細胞殺傷を増強する方法及び免疫栄養組成物が、長年にわたり必要性とされている。また、免疫細胞及びその他の造血細胞(すなわち、骨髄)の正常な生理を保存し、抗癌療法によって傷害されたそれらの細胞の免疫能を救済することができる方法及び免疫栄養組成物の緊急の必要性もある。
【0027】
これらの方法及び組成物、並びに上記の必要性のそれぞれを達成する手段等は、以下に続く詳細な説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、抗癌療法を受けている癌患者の免疫機能の損傷を阻止して、そのような治療のより良好な有効性を得、治療の望ましくない副作用を最小化し、したがって、患者が療法(治療に対する服薬遵守)を維持し、生活の質の改善を得ることを可能にするための方法及び免疫栄養組成物を提供する。
【0029】
この目的のために、本発明は、抗癌療法誘導性アポトーシス及び腫瘍細胞増強性免疫原性を経験している対象の免疫細胞の免疫能を一過性に増大又は増強するための方法を提供し、この方法は、免疫細胞の自然免疫機能及び適応免疫機能並びに正常な生理を保存することができる少なくとも1つの免疫増強剤を含む免疫栄養組成物に、免疫細胞を曝露するステップを含む。免疫機能の保存の結果、抗癌療法の有効性が増加し、免疫細胞の免疫能が一過性に増大又は増強する。
【0030】
一実施形態では、また、本発明は、抗癌療法誘導性アポトーシスを経験している対象の腫瘍細胞の免疫原性を一過性に増大又は増強する方法も提供し、この方法は、腫瘍細胞において少なくとも1つの免疫原性決定基を誘導することができる少なくとも1つの免疫増強剤を含有する免疫栄養組成物に、対象の腫瘍細胞を曝露するステップを含む。少なくとも1つの免疫原性決定基の誘導の結果、腫瘍細胞の免疫原性が一過性に増大又は増強する。
【0031】
別の実施形態では、本発明は、抗癌療法誘導性アポトーシスを経験している対象の免疫細胞の免疫能及び腫瘍細胞の免疫原性を一過性に増大又は増強する方法をさらに提供し、この方法は、(1)免疫細胞の自然免疫機能及び適応免疫機能並びに正常な生理を保存することと、(2)腫瘍細胞において少なくとも1つの免疫原性決定基を誘導することとができる少なくとも1つの免疫増強剤を含む免疫栄養組成物に、対象の免疫細胞及び腫瘍細胞を曝露するステップを含む。免疫細胞の免疫機能及び正常な生理の保存の結果、抗癌療法のより良好な耐性及び有効性の増加が得られ、免疫細胞の免疫能が一過性に増大又は増強する。同様に、少なくとも1つの免疫原性決定基の誘導の結果、腫瘍細胞の免疫原性も一過性に増大又は増強する。
【0032】
一実施形態では、本発明による免疫増強剤は、(1)抗癌療法により弱まっている免疫細胞の作用を最適化し、そうした細胞の免疫能を増加させることと、(2)免疫細胞及び腫瘍細胞の両方のうちの少なくとも1つの免疫原性決定基を誘導することとができる。
【0033】
本発明の別の実施形態では、1つの抗癌療法サイクル前10日〜3日の間から、そのサイクル後10日〜7日の間までに、免疫栄養組成物を患者に投与することができる。
【0034】
本発明の別の実施形態では、1つの抗癌療法サイクル前10日〜3日の間から、腫瘍の全部又は一部の外科的除去後10日〜7日の間までに、免疫栄養組成物を患者に投与することができる。
【0035】
本発明の別の実施形態では、1つの抗癌療法サイクル前10日〜3日の間から、腫瘍の全部又は一部の外科的除去の10日〜直前の間までに、免疫栄養組成物を患者に投与することができる。
【0036】
別の実施形態では、少なくとも1つの免疫増強剤は、プロバイオティクス、プロバイオティクスバイオマス、非複製性の生物体、タンパク質供給源、脂肪酸、アミノ酸、核酸、カリウム、尿酸、一本鎖オリゴヌクレオチド、病原体/微生物関連分子パターン(PAMP/MAMP)、活性ヘキソース相関化合物、カロテノイド、ビタミンD(ビタミンD前駆体、ビタミンDの活性型、アゴニスト又は合成類似体、及びそれらの種々のヒドロキシル化状態(25−OH D若しくは1,25−OH D)を含む)、ビタミンD受容体、分枝鎖アミノ酸、テアニン、ビタミンE、EPA及びDHA又はEPA/DHA等の必須脂肪酸、並びに鉄強化の任意の状態(例えば、アポ−ラクトフェリン、ホロ−ラクトフェリン及び鉄飽和ラクトフェリン)を含めた、ラクトフェリンタンパク質であり得る。
【0037】
その上別の実施形態では、プロバイオティクスは、Bifidobacterium lactis、Bifidobacterium longum、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus reuterii又はそれらの混合物等の微生物であり得る。タンパク質供給源は、乳清、カゼイン又は大豆タンパク質であり得る。乳清タンパク質供給源は、天然の乳清、未変化の加水分解されていない乳清、乳清タンパク質濃縮物、乳清タンパク質単離物又は乳清タンパク質加水分解産物に由来する。カゼイン及び大豆タンパク質は、カゼイン及び大豆タンパク質の加水分解産物の形態をとり得る。
【0038】
本発明の追記の実施形態では、免疫増強剤は、少なくとも1つのアミノ酸、例えば、分枝鎖アミノ酸、例として、ロイシン、イソロイシン及びバリン;グルタミン、アルギニン、シトルリン、システイン並びにスレオニンであり得る。免疫増強剤は、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)又は少なくとも1つのオリゴデオキシヌクレオチド、例えば、CpGオリゴデオキシヌクレオチドであり得る。
【0039】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つの免疫原性決定基は、熱ショックタンパク質70(hsp70)、熱ショックタンパク質90(hsp90)、ナチュラルキラー細胞受容体リガンド(例えば、NKG2Dリガンド)、カルレティキュリン及び高移動度グループボックス1タンパク質(HMGB1)からなる群から選択される。
【0040】
本発明の利点は、治療の作用に起因する、アポトーシス性腫瘍細胞の免疫原性の一過性の増大の間に、抗原提示細胞、その他の自然免疫細胞、NK、NKT、γδT及びKDCの細胞生存率及び活性化能力を保存することである。
【0041】
本発明の1つの特定の実施形態では、対象の腫瘍細胞の免疫原性の増大の間の抗原提示細胞及び自然の細胞傷害性細胞の免疫能の一過性の保存は、1つの抗癌療法サイクル前10日〜3日の間から、そのサイクル後10日〜7日の間までに発生する。別の実施形態では、抗原提示細胞及び細胞傷害性細胞は、マクロファージ、樹状細胞、キラー樹状細胞又はナチュラルキラー細胞(例えば、NK、NKT)、及び細胞傷害性CD8T細胞(CTL)であり得る。
【0042】
また、本発明は、上記及び以下の本明細書に記載する方法によって使用する少なくとも1つの免疫増強剤を含む免疫栄養組成物も提供する。
【0043】
本明細書に記載する方法又は組成物はいずれも、本明細書に記載する任意のその他の方法又は組成物に関して実行することができることを企図する。さらに、実施形態を、適合する限りは相互に組み合わせることができることも明らかに企図する。
【0044】
本発明のその他の特色及び利点は、以下の詳細な説明から明らかとなる。しかし、詳細な説明及び具体的な実施例は、本発明の実施形態を示す一方で、制限的ではなく、例証のためのみに示すものであることを理解しなければならない。当業者には、詳細な説明から、本発明の範囲に属する種々の変化形態及び改変形態が明らかとなるであろう。
【0045】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の態様をさらに実証するために含まれている。本明細書に提示する特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて図面を参照することにより、本発明をより良好に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】無腫瘍動物においては、腫瘍担持動物においてよりも、脾臓細胞及びB細胞の増殖により、LPSに対する応答が高まっていることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本方法及び組成物を記載する前に、本発明は、記載する特定の方法、組成物及び実験条件に限定されず、したがって、それらの方法及び化合物は変化させることができることを理解されたい。また、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲のみに限定されることから、本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定するためのものではないことも理解されたい。本明細書で言及する全ての刊行物は、それらの刊行物が関連して引用される方法及び/又は材料を開示及び記載するために、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0048】
本発明を記載する前に、本発明をより良好に理解するために、以下の用語を定義する。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「癌」及び「腫瘍」を、本明細書では互換的に使用し、これらの用語は、細胞集団が未調節の細胞増殖によって特徴付けられる哺乳動物の生理学的状態を指すか又は描写する。癌の例として、これらに限定されないが、細胞癌、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病が挙げられる。そのような癌のより特定の例として、扁平上皮細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮細胞癌、腹膜癌、肝細胞癌、消化器癌、膵臓癌、神経膠芽腫、子宮頸部癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞腫、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜又は子宮の細胞癌、唾液腺細胞癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝臓細胞癌、並びに種々の型の頭頸部癌が挙げられる。
【0050】
本明細書で使用する場合、動物には、これらに限定されないが、哺乳動物があり、それらの哺乳動物として、これらに限定されないが、げっ歯類、水性哺乳動物、イヌ及びネコ等のペット動物(domestic animal)、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマ等の家畜(farm animal)、並びにヒトが挙げられる。また、動物若しくは哺乳動物の用語又はそれらの複数形を使用する場合、上記したことは、論述の内容が示す作用又は示すことを意図する作用が可能である任意の動物にも適用されることを企図する。
【0051】
本明細書で使用する場合、「骨髄麻痺」は、これらに限定されないが、免疫機能及び造血における骨髄の役割を含めた、骨髄活性の抑制又は中断を含むことを意味する。
【0052】
本明細書で使用する場合、「完全栄養」は、好ましくは、十分な型及びレベルの主要栄養素(タンパク質、脂肪及び炭水化物)を含有する栄養製品、並びに投与対象である動物にとって栄養の唯一の供給源となるのに十分である主要栄養素を含有する栄養製品である。
【0053】
本明細書で使用する場合、「不完全栄養」は、好ましくは、主要栄養素(タンパク質、脂肪及び炭水化物)を十分なレベルでは含有しない栄養製品、又は投与対象である動物にとって栄養の唯一の供給源となるのに十分には主要栄養素を含有しない栄養製品である。
【0054】
本明細書で使用する場合、「長期投与」は、好ましくは、6週間超の連続的な投与である。
【0055】
本明細書で使用する場合、「微生物」は、細菌、酵母及び/又は真菌、微生物を有する細胞増殖培地、微生物が培養された細胞増殖培地を含むことを意味する。
【0056】
本明細書で使用する場合、「プレバイオティクス(Prebiotic)」は、好ましくは、腸内で、有益な細菌の増殖を選択的に促す又は病原性細菌の増殖を阻害する食品物質である。プレバイオティクスは、プレバイオティクスを摂取した人の胃及び/又は腸上部で不活性化されることも、消化管中に吸収されることもないが、消化管細菌叢及び/又はプロバイオティクスによって発酵する。プレバイオティクスは、例えば、Glenn R.Gibson及びMarcel B.Roberfroid、Dietary Modulation of the Human Colonic Microbiota:Introducing the Concept of Prebiotics、J.Nutr.1995 125:1401〜1412によって定義されている。
【0057】
本明細書で使用する場合、プロバイオティクス微生物体(以下、「プロバイオティクス」)は、好ましくは、適切な量で投与する場合に、宿主に対して健康上の利益を付与することができるであろう、より具体的には、宿主の腸の微生物バランスを改善することにより宿主に有益な影響を及ぼして、宿主の健康又は生活状態に対して作用をもたらす微生物(半生存可能な若しくは弱まっている状態を含めた、生存状態の微生物、及び/又は非複製性の微生物)、代謝産物、微生物細胞調製物、又は微生物細胞の構成成分である(Salminen S、Ouwehand A. Benno Y.ら“Probiotics: how should they be defined” Trends Food Sci.Technol.1999:10 107〜10)。一般に、これらの微生物体は、腸管内の病原性細菌の増殖及び/又は代謝を阻害する又はそれに影響を及ぼすと考えられている。また、プロバイオティクスは、宿主の免疫機能を活性化することもできる。この理由から、プロバイオティクスを食品製品中に含ませるための多くの異なるアプローチが登場している。
【0058】
本明細書で使用する場合、「短期投与」は、好ましくは、6週間未満の連続的な投与である。
【0059】
本明細書で使用する場合、「経管栄養」は、好ましくは、動物の消化器系に、これらに限定されないが、経鼻胃チューブ、経口胃チューブ、胃チューブ、経皮空腸瘻チューブ(J−チューブ)、経皮内視鏡下胃瘻造設(PEG)、胃、空腸への接近をもたらす胸壁ポート等のポート及びその他の適切な接近ポートを含めて、経口投与以外によって投与する、完全又は不完全な栄養製品である。
【0060】
本明細書内の全ての投与量範囲は、前記範囲内に含有される全ての数、すなわち、整数又は分数を含むことを意図する。
【0061】
本明細書で使用する場合、用語「対象」は、特定の治療のレシピエントとなるはずである任意の動物(例えば、哺乳動物)を指し、それらとして、これらに限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類等が挙げられる。典型的には、用語「対象」及び「患者」は、本明細書では、ヒト対象に関しては互換的に使用する。また、「対象」は、抗癌治療の間又は後のいずれかに抗癌療法誘導性アポトーシスを経験している癌患者を指す場合もある。
【0062】
本明細書で使用する場合、用語「治療」、「治療する」及び「軽減する」は、好ましくは、予防又は阻止のための処置(標的の病理学的な状態又は障害の発症を阻止及び/又は緩慢化する)、並びに根治、治療又は疾患改変のための処置の両方である。後者には、診断された病理学的な状態若しくは障害の症状の治癒、緩慢化、低下及び/又はそうした状態若しくは障害の進行の停止をもたらす治療の方策;並びに疾患に罹患するリスクがある患者又は疾患に罹患していることが疑われる患者、及び病気である患者又は疾患若しくは医学的状態に罹患していると診断されている患者の治療がある。また、用語「治療」、「治療する」及び「軽減する」は、疾患に罹患していないが、窒素の不均衡又は筋肉の喪失等の不健康な状態を発生させやすい個体における健康の維持及び/又は促進も指す。また、用語「治療」、「治療する」及び「軽減する」は、1つ又は複数の一次の予防的又は療法的な方策の強化又は別の場合には増強を含むことも意図する。
【0063】
特許請求の範囲における用語「又は(or)」の使用は、代替のみを指すこと又は代替が相いれないことが明確に記載されない限り、「及び/又は(and/or)」を意味するために使用するが、本開示は、代替と「及び/又は(and/or)」とに限って指す定義を支持する。
【0064】
本明細書全体を通して、用語「約(about)」は、ある値が、その値を決定するために利用する装置又は方法についての誤差の標準偏差を含むことを示すために使用する。
【0065】
実施例のセクションにおいて記載する実施形態はいずれも、本発明の実施形態として含まれることを具体的に企図する。
【0066】
用語「ある(a)」及び「ある(an)」は、特許請求の範囲又は明細書において、単語「含む(comprising)」と併せて使用する場合、具体的な記載がない限り、1つ又は複数を意味する。
【0067】
免疫栄養剤又は免疫栄養素は、免疫系に対して特異的な作用をもたらす、又は飢餓、疾病若しくは手術及び抗癌療法誘導性アポトーシスの有害作用を受けている患者に追加の利益を付与することができる食餌構成成分である。これらの薬剤は、経腸的又は非経口的に患者に投与した場合、免疫機能を賦活することが知られており、手術前又は癌療法による治療前の期間の治療成果を改善し、手術後の感染の機会を低下させ、入院期間を短縮するのに潜在的に有効であることが見出されている。免疫増強作用を有する市販の経腸的免疫栄養投与計画の例には、インパクト(Impact)(登録商標)(Novartis Nutrition、Minneapolis)、及びイミューン−エイド(Immune−Aid)(登録商標)(McGaw,Inc、Irvine CA)、イムネックス−プレックス(Immunex−Plex)(登録商標)(Victus, Inc.、Miami、FL)、及びアリトラQ(AlitraQ)(登録商標)(Ross laboratories、Columbus OH)がある。これらの投与計画は、グルタミン、w−3脂肪酸、アルギニン及び/又はリボ核酸等の主要栄養素を含有するが、組成及び分量が異なる、異なる製剤として市販されている。これらの主要栄養素の作用が、Heys,S.D.ら、Nutr.Hosp.19:325〜332、2004の表1に要約されている。癌手術、例えば、消化器癌手術及び膵臓癌手術若しくは抗癌療法を受けたことがある患者又はそのような手術若しくは治療を受けるための過程にある患者のために、免疫栄養素を、標準的な栄養製剤に追加することができる。Braga,M.ら、Nutritional Therapy & Metabolism、24:115〜119、2006;McCowen,K.C.ら、Am.J.Clin.Nutr.77:764〜770、2003;Slotwinski,R.ら、Centr.Eur.J.Immunol.、32(3):147〜154、2007。これらの栄養製剤は、好ましくは、経腸製剤として癌患者に投与される。これらの栄養製剤は、手術の前、付近及び後、又は抗癌療法による治療の前、付近及び後の間に与えることができる。しかし、研究から、免疫栄養素の手術前及び手術付近の補給が、手術後の処置よりも、GI癌患者の臨床治療成果を改善するのに有効であることが示されている。免疫栄養が手術後に与えられた場合、おそらく、手術後の最初の5日間に癌患者に与えられた基質の量が、適切な組織及び血漿濃度に、活性となるのに十分急速に到達するのには不十分であったことから、結果が矛盾した。実際に、免疫栄養素が、宿主組織中に組み込まれ、したがって、炎症メディエーター及び脂肪酸プロファイルを調節するには約5日を要する。Braga,M.ら、上記;McCowen,K.C.ら、上記。しかし、今日まで、手術の前、付近又は後のいずれかの間に投与された、経腸的免疫栄養の癌患者に対する免疫調節作用に関する疑問はまだ答えが得られていない。
【0068】
「免疫増強剤」又は「免疫栄養」という用語は、癌療法若しくは抗腫瘍療法を受けている患者又は免疫機能の損傷を有する患者の全体的な免疫系に対する「免疫増強」性、「免疫強化」性又は「免疫増大」性を有する特異的な栄養化合物を、上記で例示したように、腫瘍誘導性の細胞傷害作用を変化させ、臨床治療成果を改善し、免疫宿主の自然免疫プロセス及び適応免疫プロセスをさらに保存及び増強して、免疫原性決定基の誘導に応答する腫瘍細胞殺傷を活性化する目的で投与することに関する。免疫増強性の栄養化合物の例として、L−アルギニン、シトルリン、システイン、グルタミン、スレオニン等のアミノ酸、オメガ−3脂肪酸、及びヌクレオチドが挙げられる。免疫増強剤のその他の例として、プロバイオティクス、プロバイオティクスバイオマス、非複製性の生物体、タンパク質供給源、脂肪酸、アミノ酸、核酸、カリウム、尿酸、一本鎖オリゴヌクレオチド、病原体/微生物関連分子パターン(PAMP/MAMP)、活性ヘキソース相関化合物、カロテノイド、ビタミンD受容体、分枝鎖アミノ酸、テアニン、ビタミンE、EPA及びDHA又はEPA/DHA等の必須脂肪酸が挙げられる。
【0069】
免疫増強性栄養組成物を、胃内栄養を介して投与することができる。
【0070】
本明細書で使用する場合、用語「手術付近の期間」は、患者の手術手順の周囲の時期を指す。この時期は通常、病棟への入院、麻酔、手術及び回復を含む。手術付近は一般に、手術の3つの相、すなわち、手術前、手術中及び手術後を指す。手術付近の看護の目標は、ネオアジュバント治療を含めて、手術の前、手術の間及び手術の後により良好な状態を患者に提供することである。同様に、抗癌療法による治療の前、付近及び後は、癌の化学療法又は放射線療法の前、間及び後の期間を指す。
【0071】
本明細書で使用する場合、用語「ネオアジュバント」又は「ネオアジュバント治療」は、腫瘍の集中化(収縮させる工夫)及び/又は腫瘍の収縮を起こし、外科的除去の間の癌細胞播種のリスクを低下させること等、新生物/腫瘍をより積極的な治療により適するようにすることを目指す治療を指す。
【0072】
本明細書で使用する場合、用語「積極的な治療」は、伝統的な手術及び放射線を利用する手術を含めた外科的治療、化学療法による治療、ホルモン治療、並びに放射線療法による治療を指すことを意図する。
【0073】
本発明による細胞死の機構は、化学療法誘導性又は放射線療法誘導性の細胞死又はアポトーシスを介する。そのような治療によって誘導されたアポトーシス細胞死は、腫瘍細胞の全てが死滅する前に細胞ストレスに曝露されることから、免疫原性細胞死であろう。
【0074】
抗原性又は免疫原性の一過性の増加は、抗癌療法誘発性の細胞死を経験している腫瘍細胞に当てはまる。本発明による免疫栄養組成物の影響及び標的は、治療のストレスの間に、対象の全体的な免疫細胞に対してより好ましく作用して、免疫細胞の免疫能を保存することである。しかし、グルタミン等の栄養素が、ストレスを受けた腫瘍細胞上のHSPの発現を増強し、それによって、それらの腫瘍細胞の免疫原性をさらにより増加させることができるであろうことを除外することはできない。一般に、アポトーシスは、自然の適応免疫応答を引き起こすには効率が悪い、細胞死の1つの型である。しかし、場合によっては、アポトーシス細胞死は、「危険シグナル」の発現を伝え、それによって、免疫系の賦活能を得ることができる。さらに、この特異的な時期の間に潜在的に発生した免疫応答は、腫瘍が、免疫応答を回避する腫瘍自身の利益のために誘導した免疫寛容誘導応答を相殺することもできる。
【0075】
したがって、免疫療法において使用する1つの戦略は、非活性化状態の抗原提示細胞、例えば、樹状細胞による腫瘍抗原のプロセシング及び提示が引き起こすことができる、免疫寛容の阻止である。いくつかの研究から、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)及びその他のヌクレオチド等の腫瘍アゴニスト、RNA、DNA、並びにその他の危険シグナルが、抗癌免疫反応をより良好に賦活することができることが示されている。
【0076】
CpG ODNは、Toll様受容体9を発現する細胞を賦活し、Toll様受容体9は、Bリンパ球及びTリンパ球、ナチュラルキラー細胞、単核球、マクロファージ並びに樹状細胞の活性化をもたらす免疫調節カスケードを開始する。CpG ODNは、自然免疫応答及び適応免疫応答の誘導を加速及び改善することによって、感染に抵抗する宿主の能力を改善する。Klinman,D.M.ら、Expert Opin.Biol.Ther.、4(6):937〜946、2004。
【0077】
さらに、樹状細胞(DC)は、より原始的な自然免疫細胞機能、すなわち、形質転換した(癌)細胞を死滅させる能力を発揮することもできる。この機能は、他者らがキラー樹状細胞(KDC)と呼んでいる型の樹状細胞に帰するとされている。KDCは、「抵抗性の」腫瘍細胞が、単一の死滅機構に向かって回避するのを阻止する多様な機構を通して腫瘍細胞を死滅させる能力を有する。
【0078】
治療の間の二重のDC機能、すなわち、抗原提示及び腫瘍細胞殺傷の機能の不全を、DC集団を免疫栄養素による介入を通して活性化することによって阻止することができる。化学療法及び/又は放射線療法等の抗癌治療と免疫栄養とを組み合わせたアプローチは、免疫能を保存することができ、保存された免疫能は、サイクルをより効率的にし、粘膜傷害(粘膜炎)及び感染のより高い発生率につながる恐れがある治療の免疫毒性に対する耐性を改善する潜在的な利益をもたらすであろう。
【0079】
また、ナチュラルキラー細胞及びナチュラルキラーT細胞も、腫瘍細胞の自然の細胞殺傷に関与する。それらの細胞の機能の容量が、抗癌治療の間には大幅に損なわれる。しかし、これらの細胞が、腫瘍細胞殺傷の機能を達成するためには、活性化され、細胞周期を経て、それらの細胞集団を拡大増殖することができる状態を維持する必要がある。
【0080】
選択されたプロバイオティクス及びその他の微生物関連分子パターン(MAMP)は、この細胞集団を賦活し、それによって、腫瘍細胞殺傷を発揮する能力を有する。
【0081】
細胞標的上の特異抗原を認識するCD8細胞傷害性リンパ球(CTL)は、免疫反応を開始するための抗原提示の間に枯渇し、また、細胞傷害活性を発揮する治療によっても抑制される。グルタミン、アルギニン及びシトルリン等のアミノ酸は、CTLによって産生される細胞傷害性分子を生成する代謝経路を増強し、それによって、治療の間の細胞死の誘導によって腫瘍抗原がより容易に曝露される場合、腫瘍細胞殺傷に寄与することができる。
【0082】
好ましくは、本発明による免疫栄養組成物は、少なくとも1つのプロバイオティクス又はプロバイオティクスの組合せを含む。プロバイオティクスは、適切な量で投与した場合に、健康上の利益を宿主に付与する生存微生物である。プロバイオティクスは、商業的に入手する場合、又は一般に、発酵プロセス及び場合により乾燥によって産生する場合のいずれであってもよい。特定の株がしばしば、特定の培地又は基質を好み、このことは、当業者に知られている。微生物体は、乾燥形態をとってもよく、又は例えば、胞子を形成する微生物体については、胞子の形態をとってもよい。発酵による産生後の微生物体の乾燥は、当業者に知られている。例えば、微粉化乾燥プロセス(drying process of pulverisation)が記載されているEP0818529(Societe Des Produits Nestle)、又は国際公開第0144440号パンフレット(INRA)を参照されたい。通常、細菌微生物体は、培地から濃縮し、スプレー乾燥、流動層乾燥、凍結乾燥(lyophilisation)(凍結乾燥(freeze drying))又は別の適切な乾燥プロセスにより乾燥する。例えば、乾燥の間又は前に、微生物体を、炭水化物、例えば、スクロース、ラクトース若しくはマルトデキストリン、脂質、又はタンパク質、例えば、粉末ミルク等の担体材料と混合する。しかし、これらの微生物体は必ずしも乾燥形態で存在する必要はない。また、これらの微生物体を、発酵後に、例えば、粉末の栄養組成物と直接混合し、場合により、その後に乾燥プロセスを、好ましくは低い温度(70℃未満)で実施するのが適切な場合もある。そのようなアプローチが、国際公開第02065840号パンフレット(Societe Des Produits Nestle)に開示されている。
【0083】
選択されるプロバイオティクスは、ビフィズス菌株又は乳酸菌株であり得る。好ましくは、選択されるプロバイオティクスは、Bifidobacterium lactis(German Culture Collection:DSM20215)、Bifidobacterium longum(CNCM I−2170)、Lactobacillus paracasei(CNCM I−2116、CNCM I−1292)、Lactobacillus johnsonii(CNCM I−1225)、Lactobacillus salivarius、Lactobacillus reuterii、又はそれらの混合物である。
【0084】
また、用語「プロバイオティクス」は、非複製性(死滅)プロバイオティクス細菌、発酵基質及び/又はプロバイオティクス由来材料も含む。本発明の免疫栄養組成物は、重度の免疫低下患者の場合には、熱により殺傷した又は死滅しているプロバイオティクスを含有することができる。
【0085】
CD8T細胞による防御免疫応答の活性化は、生ワクチンによってのみ達成されると一般に想定されている。しかし、死菌由来の抗原が、主要組織適合複合体クラスI経路に導入されると、CD8T細胞によって認識される。Stimulation of protective CD8 T lymphocytes by vaccination with non−living bacteria。Szalay, G.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、92(26):12389〜12392、1995。
【0086】
Lactobacillus casei等の乳酸菌は、栄養不良の動物において、腸内感染を阻止し、IgAを賦活することが示されている。また、IgA産生細胞及びTリンパ球(TL)も、異なる飼養期間の間に大腸内で増加した。IgAの増加は、プロバイオティクスが腫瘍の発達を阻害する機構が、炎症応答の減少を通してであり得るであろうことを示している可能性がある。他方、ヨーグルトは、プロバイオティクスマスの形態をとり、2つの型の細菌、すなわち、Streptoccus thermophilus及びLactobacillus bulgaricusのみならず、また、ビフィズス菌及び時にはLactobacillus caseiも含有する。ヨーグルトは、IgA、T細胞及びマクロファージの活性の増加を通して、腸の細胞癌の増殖を阻害することができる。Perdigon,G.ら、J. Dairy Sci.、78(7):1597〜1606、1995。
【0087】
本発明の免疫栄養組成物に追加するプロバイオティクスの1日用量は、10〜1010CFU(コロニー形成単位)の範囲に及ぶことができる。
【0088】
用語「活性ヘキソース相関化合物(AHCC)」は、担子菌(Basidiomycete)キノコのうちのいくつかの種を同時培養した菌糸体に由来する多糖、アミノ酸、脂質及び鉱物の混合物を指す。AHCCは、免疫調節及び感染に対する防御と関係があるとみなされている。AHCCは、自然免疫応答及び適応免疫応答の両方を調節することによって、腫瘍免疫監視を増強することができる(Gao,Y.ら、Cancer Immunol.Immunother.、55(10):1258〜1266、2006;Ritz,B.W.ら、J.Nutr.136:2868〜2873、2006)。AHCCは、Amino Up Chemical Co.Ltd、Japanから商業的に供給されている。AHCCは、マクロファージの抗原提示活性、及び腫瘍由来の免疫抑制因子の阻害を増加させ、マクロファージの増殖及び活性化を増強し、Th1細胞の分化を促し;マクロファージのIL−12産生を増加させ、NK活性を増加させ;癌細胞のアポトーシスを促すことができる。癌患者において、AHCCが、TNF−α、γ−インターフェロン、インターロイキン−12を増加させ、免疫抑制性の酸性タンパク質(IAP)及び腫瘍増殖因子(TGF)−αを減少させることが報告されている。免疫系に対するAHCCのこれらの可能な作用を考慮すると、AHCCを、癌治療の援助において使用して、化学療法の負の副作用のうちのいくつかを寛解させることができる。
【0089】
用語「未変化のタンパク質」は、本明細書で使用する場合、好ましくは、化学的加水分解及び酵素的加水分解のいずれも受けておらず、好ましくは、タンパク質の自然の状態に実質的に類似する形態をとっているタンパク質を指す。本発明によれば、「未変化のタンパク質」を、カゼイン、乳清タンパク質、大豆タンパク質、コラーゲン又はコムギタンパク質のうちの少なくとも1つから選ぶことができる。
【0090】
本発明の状況では、用語「タンパク質供給源」は、例えば、未変化の又は加水分解された食餌性タンパク質等、任意のアミノ酸に基づくタンパク質新生物質(proteinogenic matter)、並びに追加されたペプチド又は遊離のアミノ酸及びこれらの混合物を含む。
【0091】
タンパク質供給源は、酸又は酵素によって処理された動物性及び植物性のタンパク質から調製された、広範に加水分解されたタンパク質加水分解産物、例として、カゼイン加水分解産物、乳清加水分解産物、カゼイン/乳清の加水分解産物、大豆加水分解産物、及びそれらの混合物を含むことができる。「広範に加水分解された」タンパク質加水分解産物によって、未変化のタンパク質がペプチド断片に加水分解され、それによって、大半のペプチド断片が1000ダルトン未満の分子量を有することを意味する。より好ましくは、少なくとも約75%(好ましくは、少なくとも約95%)以上のペプチド断片が、約1000ダルトン未満の分子量を有する。また、遊離のアミノ酸及び合成の短いペプチド鎖を、窒素供給源として、タンパク質加水分解産物の代わりに使う場合、又はそれらの加水分解産物に追加する場合のいずれもが可能である。但し、栄養組成物は、栄養製剤の分野に精通している当業者の技術範囲内で、標的集団に適したアミノ酸プロファイルを有する場合に限る。
【0092】
本発明による免疫栄養組成物の好ましい実施形態では、タンパク質供給源は、動物、植物又は野菜のタンパク質であり得る。したがって、タンパク質供給源は、乳清タンパク質、カゼインタンパク質又は大豆タンパク質及びそれらの加水分解産物の組合せを含むことができる。
【0093】
乳清タンパク質供給源は、天然の乳清、未変化の加水分解されていない乳清、乳清タンパク質濃縮物、乳清タンパク質単離物又は乳清タンパク質加水分解産物に由来することができる。
【0094】
カゼインは、遊離の形態又は塩、例えば、ナトリウム塩の形態で提供することができる。また、カゼインを、カルシウム塩又はカリウム塩として提供することも可能である。
【0095】
用語「アミノ酸」は、本明細書で使用する場合、別段の記載がない限り、必須アミノ酸、例えば、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリン若しくはヒスチジン、条件付き必須アミノ酸、例えば、チロシン、システイン、アルギニン若しくはグルタミン、又は非必須アミノ酸、例えば、グリシン、アラニン、プロリン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン、タウリン若しくはカルニチンのうちの少なくとも1つから選ばれた、遊離の形態及び/又は塩の形態をとるアミノ酸を指す。免疫機能におけるアミノ酸の役割については、British J.Nutr.、98(2):237〜252、2007にPeng Liらによって総説されている。
【0096】
また、本発明は、分枝鎖アミノ酸、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン又はそれらの混合物をさらに含む免疫栄養組成物にも関し、これらのアミノ酸は、遊離及び/若しくは塩の形態、並びに/又は未変化のタンパク質の形態をとる。BCAAは、ジペプチド、トリペプチド、ポリペプチド、BCAAに富むタンパク質及び/又はBCAA含有量を強化するように操作されたタンパク質として、遊離の形態をとることができる。ジペプチド、トリペプチド及びポリペプチドは、2つ以上のBCAAを含むことができる。本発明の栄養製品は、同様に、BCAAの前駆体及び/又は代謝産物も含むことができる。
【0097】
免疫細胞は、BCAAをタンパク質中に組み込み、BCAAを酸化することができる。免疫系の機能は、宿主を、病原性の感染病原体及びその他の有害な侵襲から防御することである。感染すると、免疫系による基質の要求が著しく増加する。これらの基質は、エネルギーを提供し、新しい細胞、エフェクター分子及び防御分子の合成のための前駆体でもある。研究から、BCAAは、リンパ球がタンパク質、RNA及びDNAを合成し、賦活に応答して分裂するために絶対的に不可欠であることが示されている。マウス実験では、食餌性BCAAの制限が、免疫機能のいくつかの局面を損ない、病原体に対する感受性を増加させる。BCAAの静脈内剤型を提供された手術後の患者又は敗血症の患者が、治療成果の改善に関係し得る免疫の改善を示した。したがって、BCAAは、リンパ球の応答性にとって絶対的に不可欠であり、その他の免疫細胞の機能を支援するのにも必要である。
【0098】
また、BCAAは、グルタミン合成も促し、Th1免疫応答、細胞型又は細胞媒介型の適応免疫応答を賦活することができる。強力な長期間の運動が、免疫抑制と関連があり、この抑制された免疫は、それに続いて、ナチュラルキラー細胞、リンホカイン活性化キラー細胞及びリンパ球に影響を及ぼすことが示されている。グルタミンは、マクロファージ及びリンパ球のための重要な燃料であり、免疫賦活性を提示することが報告されている。持久力の必要な運動選手において、運動後の経口用補給物質としてのグルタミンの提供が、運動に続く感染レベルに対して有益な作用を有する。しかし、運動選手における血漿グルタミン濃度は、ストレス後、例えば、一時的な運動後に減少する。しかし、グルタミン濃度に対する低下作用は、BCAAの補給によって消失し、この消失には、末梢血単核球における増殖性の応答の増加が続いた。BCAAの補給は、運動後に、IL−2及びINFの産生を賦活し、IL−4の産生のより顕著な減少も賦活し、こうした賦活は、Th1免疫応答への転換を示している。また、BCAAの補給は、血漿グルタミン濃度を一定に保つのにも有効である。Bassit、R.A.ら、Nutrition、18(5):376〜379、2002。
【0099】
代謝パラメータの改善以外に、経口によるBCAA強化性の補給は、大部分の肝臓の摘出及び化学塞栓術を受けている患者における死亡率及び生活の質も改善する。しかし、BCAAの潜在的に有益な生物学的特性にもかかわらず、ストレスを受けた外科的手術患者及び癌患者の栄養支援におけるBCAAの役割は、明瞭に定義されていない状態である。Choudry,H.A.ら、J.Nutr.、136(1 Suppl.):314S〜8S、2006。
【0100】
免疫応答は、より多くの分量のBCAAを必要とし、実際に、賦活時のリンパ球は、細胞の拡大増殖のために、ロイシン、イソロイシン及びバリンを含めて、BCAAの取り込みの増加を示す。さらに、ロイシンは、タンパク質合成及び分解を調節し、また、ストレス又は飢餓の下にある細胞の自己貪食プロセスに拮抗もするmTORシグナル伝達経路の活性化物質でもある。BCAAを、本発明に従って免疫栄養組成物中に、1日当たり約2〜30gの範囲に及ぶ量、優先的には、1日当たり約3gの分量で追加する。
【0101】
本発明の免疫栄養組成物は、グルタミン(Gln)及び/又はアルギニン及び/又はシトルリン及び/又は分枝鎖アミノ酸(BCAA)をさらに含むことができる。
【0102】
グルタミンは、免疫系細胞のための主要栄養素の基質である。グルタミン酸の主要供給源である以外に、Glnは、グルタチオン合成を調節し、リンパ球増殖に必要なプリンヌクレオチド及びピリミジンヌクレオチドの前駆体でもある。抗癌活性におけるGlnの役割においては、Glnは、NK、マクロファージ、キラー樹状細胞による自然の細胞溶解活性を増加させることができる。また、Glnは、腫瘍細胞に対する、CD8T細胞の抗原特異的細胞溶解活性にも寄与する。
【0103】
グルタミンは、追加されたアミノ酸の形態をとることができる。「追加されたアミノ酸」は、本発明の状況では、タンパク質に結合していないが、別個に、ミルク、肉及び植物性タンパク質等の典型的な食餌性のタンパク質供給源から追加されているアミノ酸を指す。追加されたアミノ酸は、遊離のアミノ酸、並びに/又はアミノ酸を含むジ−及び/若しくはトリ−ペプチドとして存在することができる。例えば、グルタミンを、L−アラニルグルタミン等のジ−ペプチドの形態で追加することができる。遊離のグルタミンは、液体環境では安定ではなく、したがって、組成物を液体として販売しようとする場合には、グルタミンを、ジペプチド又はその他の液体で安定な形態として追加しなければならないであろう。組成物を液体として供給しようとする場合のさらなる可能性として、適切な分量の粉末状のグルタミンをモジュール式の剤型中に含めて、消費する直前に液体と混合する場合がある。
【0104】
グルタミンの量は、1日当たり約5g〜約30、より好ましくは、1日当たり約6g〜約9gの範囲に及ぶことができる。
【0105】
上記に加えて、Glnは、腸の正常上皮細胞におけるHSPの発現を増加させることもできる。抗癌治療の間の腫瘍細胞におけるHSPの発現の結果として、腫瘍細胞の免疫原性を増強することができる。抗癌治療が、腫瘍細胞に対してストレスを誘発し、それに続いて、このストレスは、腫瘍塊の排除において、自然免疫系の有効性を増加させて、形質転換した細胞に対する細胞傷害作用に寄与し、薬物と一緒になって働く。Glnの量は好ましくは、約5g〜約30g、より好ましくは、約6g〜9gである。
【0106】
アルギニンは、多くの組織において、より重要なことには腎臓において、直近の前駆体としてのシトルリンから合成される。この場合、シトルリンは、腸レベルで、グルタミン、グルタミン酸及びプロリンから合成される。シトルリン及びアルギニンのレベルが、栄養不良、絶食、異なる型の損傷、腫瘍、抗癌治療及び敗血症の間に、血漿中では著しく減少する。こうしたシトルリン及びアルギニンのレベルの減少が、癌に存在する免疫欠損に寄与することが提案されている。
【0107】
免疫機能に対するアルギニンの生物学的活性を、直接及び間接のカテゴリーに分けることができるであろう。したがって、また、シトルリンも、アルギニンの合成におけるシトルリンの役割の結果として、アルギニンと同じ作用を惹起するであろうと想定される。
【0108】
免疫系に対する多くの直接的な活性がT細胞の機能に関係し、T細胞受容体の構成成分のうちの1つの発現の誘導によって主として説明されている。実際に、アルギニンの生理的レベル(150μM)が、T細胞の機能に必要なT細胞受容体ξ鎖を調節する。興味深いことに、シトルリンが、CD3ξ鎖の発現について、CD3ξ鎖mRNAの半減期を延長させる、アルギニンとの相乗的な活性を有することが示されている。
【0109】
いくつかの型の腫瘍が、免疫細胞中で、アルギナーゼを発現させるか又はアルギナーゼの発現を誘導し、その結果、宿主−腫瘍の相互作用において通常観察される免疫欠損の根底にある機構のうちの1つが生じる。この免疫欠損は、CD8の抗原特異的細胞傷害機能にも、また、形質転換した細胞の、NK及びマクロファージの自然細胞傷害性にも影響を及ぼす。腫瘍関連マクロファージは、アルギナーゼを産生することによっても、さらに、免疫系の細胞傷害活性を阻止する調節性T細胞を誘導することができる表現型を発現することによっても免疫抑制プロセスに直接関与する。これらの観察は、総合すると、シトルリン及びアルギニンの同時投与が、抗腫瘍活性において、免疫欠損を償うことができるという主張を支持している。
【0110】
骨髄サプレッサー細胞におけるL−アルギニンの代謝が、T細胞活性化の阻害について重要な意味をもつ(Bronte,V.ら、Nat.Rev.Immunol.、5:641〜654、2005)。MSC中の異なる代謝経路が、T細胞活性化のための必須条件である、T細胞についてのアルギニン消費の増強及びこのアミノ酸の欠乏について記載されている。或いは、活性化マクロファージが、アルギニン枯渇に関与する酵素であるアルギナーゼの発現の増加によっても特徴付けられている。
【0111】
本発明の免疫栄養組成物中に含まれるアルギニンの1日用量は、1日当たり5g〜約30gの間、好ましくは、濃度は、1日当たり約10g〜約15gの範囲に及ぶことができる。
【0112】
本発明の免疫栄養組成物中に含まれるシトルリンの1日用量は、1日当たり1g〜約30gの間、好ましくは、濃度は、1日当たり約2g〜約15gの範囲に及ぶことができる。
【0113】
3〜4グラムを1日2回摂取すると、シトルリンの補給に関する種々の臨床適用において有効であることが証明されている。投与すると、結果が一般に、3〜5日の期間以内に発生する。ここで、先行技術のうちのいくつかに注目すると、米国特許第5,576,351号は一般に、免疫応答の損傷を被っているヒト又は免疫応答の損傷を被るリスクがあるヒトに対するアルギニン若しくはオルニチン又はそれらの混合物の投与による、ヒト免疫応答の損傷の治療を記載している。しかし、そのような状態の作用を緩和する又は和らげる場合に、いずれかの利益がアルギニンの投与から得られるという開示はない。
【0114】
国際公開第WO/2007/114903号パンフレットの発明が、血中アルギニンレベルの増加又は維持から利益を得るであろう状態を治療又は維持するための方法及び製剤を提供しており、現在のアルギニン補給を上回る味覚特性の改善を達成している。さらに、血中アルギニンレベルのこの維持は、シトルリンに対するアルギニンの産生比の損傷を伴う急性及び慢性の疾患においても有益であろう。さらに、この発明は、個体において満腹及びディスペプシアのうちの少なくとも1つを治療するための方法も提供している。一実施形態では、この方法は、有効量のL−シトルリンを個体に投与するステップを含む。
【0115】
上記したように、これら2つの引用した文献には、免疫栄養素を、癌療法誘導性アポトーシスを経験している癌患者に対して、死滅しつつある腫瘍細胞が抗原性又は免疫原性の発現の増強のウィンドウを経験している時期に追加し、免疫栄養素のそのような追加は、抗原性の増強のこの短い期間の間に癌療法が誘導した患者の免疫細胞の免疫能を増大又は増強し、腫瘍細胞の免疫原性を増加させるであろうことについては記載も示唆もない。
【0116】
茶飲料に特有の非タンパク質性アミノ酸であるテアニンは、エチルアミノの食餌性供給源である。テアニン及びカテキンを含有するカプセル剤を投与された対象が風邪及びインフルエンザの症状の発生率の減少を示し、この減少には、γδT細胞の機能の増強が伴った。ヒトγδTリンパ球は、T細胞のサブセットであり、微生物及び腫瘍に対する第一選択の防御である。これらのγδT細胞を、ビスホスホネート及び特定の短鎖アルキルアミンによって予備刺激して、ex vivoにおいて多種多様な微生物及び腫瘍細胞に曝露すると、増殖し、γδT細胞の、サイトカインを分泌する能力を増強することができる。エチルアミンは、アルキルアミンであり、腸内におけるL−テアニンの酸加水分解及び肝臓内におけるアミダーゼにより媒介される酵素加水分解によって産生される(Asatoor,A.M.、Nature、210(5043):1358〜1360、1966)。酸により加水分解されたL−テアニンを、培地中に希釈することにより、末梢血単核球由来のγδT細胞(5%〜75%)の15倍の拡大増殖を引き起こした。Bukowski,J.F.ら、Nutr.Rev.、66(2):96〜102、2008。
【0117】
したがって、また、本発明の組成物を、放射線療法及び化学療法の副作用を治療、阻止又は軽減するための経口投与療法の栄養製剤、医薬品又はその他の形態の調製物として使用することもできる。
【0118】
本発明による免疫栄養組成物は、従来法に従って、例えば、タンパク質供給源、炭水化物供給源及び脂質供給源を一緒にして混ぜることによって生成することができる。乳化剤を、ブレンド中に含めることができる。ビタミン及び鉱物を、この時点で追加してもよいが、また、熱分解を回避するために後から追加してもよい。任意の親油性ビタミン、乳化剤等を、脂質供給源に溶解させてから混ぜることができる。次いで、逆浸透にかけてある水を混入して、液体混合物を形成することができる。水の温度は、成分の分散を援助するためには、約50℃〜約80℃であるのが好都合である。市販の液体製造装置を使用して、液体混合物を形成することができる。
【0119】
ビタミンA及びその誘導体又はカロテノイド等のビタミンが、in vivo及びin vitroの両方において免疫系に対する刺激作用を有することが記載されている(Blomhoff,H.K.(1994)、Vitaimin A in Health and Disease(Blomhoff,R.編)、pp.451〜483、Marcel Dekker、New York)が、そのような作用に関与する機構は、今のところ確立されていない。これらの作用は、レチノイン酸受容体(RAR)及びレチノイドX受容体のメンバーを通して媒介され得る。例えば、レチノイン酸受容体−γは、免疫細胞の発生については欠失可能であるが、CD8T細胞のIFN−γ産生には必要である。Dzhagalov,I.ら、J.Immunol.、178(4):2113〜2121、2007。カロテノイドの例として、これらに限定されないが、β−カロテン、α−カロテン、γ−カロテン、リコピン、ゼアキサンチン、カプサンシン及びルテインが挙げられる。β−カロテン治療の免疫調節作用は、プロ−ビタミンAの特性に起因し得る。この観察は、ヘルパー細胞の数の増加が観察された、ヒトにおいて実施された以前の研究に対応し、また、CD3細胞、CD4細胞及びCD8細胞の数の増加を実証した実験とも一致する(Garcia,A.L.ら、Immunology、110:180〜187、2003)。さらに、β−カロテンが、独立した経路、すなわち、APC細胞の細胞表面の発現、例えば、接着分子、細胞間接着分子−1及び白血球機能関連抗原−3の増強を介して免疫機能を増強することも証明されている。ビタミンA及びその誘導体が関与する別の可能な機構は、シクロオキシゲナーゼ活性又はリポオキシゲナーゼ活性に対するβ−カロテンの阻害作用を介してであり得る(Garcia,A.L.ら、上記)。
【0120】
免疫系の器官及び機能に対するβ−カロテン及びカロテノイドの類似の作用が、以前に記載されたことがある(Bendich,A.、J.Nutr.、119:112〜115、1989;Bendich,A.、J.Nutr.、134:225S〜230S、2004)。
【0121】
免疫増強性の機能を有し得るその他のビタミンには、ビタミンD及びビタミンEがある。例えば、ビタミンDは、従来のT細胞応答を調節するが、T細胞の発達は調節しないことが示されている栄養素/ホルモンである。インバリアントT細胞受容体Vα14の再構成を有するCD1d−反応性ナチュラルキラーT(NKT)細胞は、リンパ球の特殊なサブセットであり、免疫調節、腫瘍監視及び病原体に対する宿主防衛において重要な役割を果たす。研究から、ビタミンD受容体(VDR)の発現がiNKT細胞の正常な発達及び機能に必要であることが示されている。(Yu,S.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、105(13):5207〜5212、2008)。
【0122】
ビタミンEに関しては、癌患者に対する短期の高い1日用量のビタミンE治療がNK細胞の機能を増強し得ることが報告されている。癌患者に与えられたビタミンEの量は、1日当たり約750mgで2週間であった。Hanson,M.G.ら、Cancer Immunol.Immunother.、56(7):973〜984、2007。短期のビタミンE治療は、NK細胞の細胞溶解活性を顕著に改善した。患者の末梢血単核球中のNK細胞の活性の増加は、NK細胞の数の増加にも、CD56(dim)NK細胞の亜集団の比率の増加にも起因しなかった。さらに、ビタミンE治療は、研究された全ての患者の間において、わずかではあるが一貫性のあるNKG2D発現の誘導とも関連があった。腫瘍誘導性免疫抑制は、適応T細胞の系、並びに樹状細胞(DC)及びNK細胞の機能における欠陥に限定されない。ビタミンEは、ヒスタミンの機構とは異なる可能性が非常に高い機構によって、Th1サイトカインであるIL−2及びIFN−ガンマの産生を増加させ、NK活性を増加させる能力を有する。Hanson,M.G.ら、上記。
【0123】
タンパク質は、乳タンパク質(カゼインと組み合わさった乳清又は乳清タンパク質)であり、アミノ酸によって、製品のエネルギー含有量の約20〜40%、優先的には製品のエネルギー含有量の約30%が提供される。また、タンパク質は、大豆タンパク質、カゼインタンパク質、及び加水分解産物も含むことができる。
【0124】
脂質供給源は、飽和脂肪酸(SFA)、モノ不飽和脂肪酸(MUFA)及び/又はポリ不飽和脂肪酸(PUFA)を含むことができる。SFAは一部、中鎖トリグリセリド(MCT)として存在することができる。MCTは、本明細書で論じる場合、C〜C12脂肪酸を含むトリグリセリドを指す。脂質供給源の全ての脂肪酸が、n−3脂肪酸の形態で存在することができる。好ましくは、n−3脂肪酸は、α−リノレン酸(18:3n−3)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5n−3)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5n−3)若しくはドコサヘキサエン酸(DHA、22:6n−3)、又はこれらの混合物から選択される。
【0125】
脂質から、25〜40%の範囲に及ぶ製品のエネルギー含有量、好ましくは、全エネルギーの約30%を得ることができ、脂質のうちの50%が中鎖トリグリセリドからである。6未満、好ましくは、約2〜3のn6:n3比の範囲を有する、植物油、魚油由来のポリ不飽和脂肪酸(例えば、エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA))。
【0126】
必須脂肪酸(EFA)が、in vitroにおけるリンパ球の反応性の調節及び種々の腫瘍細胞の破壊において役割を果たすことが示されている。Purasiri,P.ら、Eur.J.Surg.Oncol.、21(3):254〜260。短期の必須脂肪酸(EFA)の経口補給(15日間)では、EFAは、局在性癌を有する患者において、NK細胞及びLAK細胞の細胞傷害活性を顕著に変化させることはなかった。しかし、進行した疾患を有する群においては、NK細胞及びLAK細胞の細胞傷害活性の低下が、15日目に生じ、着実に低下し、補給の6ヵ月後には最小レベルに達した。進行した癌群においては、NK及びLAKの細胞傷害活性の変化はなかった。しかし、長期の補給は、悪性の疾患を有する患者においては、自然の抗癌細胞傷害機構に対して有害な作用を有する場合がある。Purasiri,P.ら、上記。
【0127】
ω−3脂肪酸の例には、EPA及びDHAがある。EPA及びDHAの両方からそれぞれ、エイコサノイド及びドコサノイドが生じ、これらのエイコサノイド及びドコサノイドは、アラキドン酸由来エイコサノイドとは異なる特性を有し得る。EPA及びDHAから、レソルビンが生じる。Calder,P.C.ら、Prostaglandins Leukot.Essent.Fatty Acids、77(5〜6):327〜335、2007。他方、レソルビンは、炎症細胞及び化学物質の産生及び炎症部位への輸送を阻害することによって、細胞の炎症を低下させることが知られている。レソルビンは、腎臓において、急性腎不全に対するツールとしての免疫学的な役割を有する。Serhan,C.N.ら、J.Exp.Med.、196(8):1025〜37、2002。
【0128】
EPAが、シクロオキシゲナーゼ酵素及びリポオキシゲナーゼ酵素の基質として作用することができることから、免疫細胞のリン脂質内へのEPAの組込みの増加から、プロスタグランジンE3(PGE3)及び5−系列ロイコトリエン(LT)等のEPA由来エイコサノイドの産生の増加が生じる可能性がある。魚油を与えたマウス由来のマクロファージ、魚油を含有する脂質乳剤を数日間注入されたヒト対象由来の好中球、及び経口魚油を数週間補給されたヒト由来の好中球を使用して、5−系列LTの生成の増加が実証されている。
【0129】
上記に基づくと、脂肪酸は、免疫細胞内において多様な役割を果たす。脂肪酸は、エネルギー生成のための燃料;細胞膜の物理的及び機能的な特性に寄与する細胞膜リン脂質の構成成分;タンパク質の細胞における場所及び機能に影響を及ぼすタンパク質構造の共有結合性の改変物質;受容体活性、細胞内シグナル伝達プロセス又は転写因子の活性化に対する作用のいずれかを通しての遺伝子発現の制御因子;並びにプロスタグランジン(PG)、ロイコトリエン(LT)、リポキシン及びレソルビンのような生理活性脂質メディエーターの合成のための前駆体として作用することができる。
【0130】
膜リン脂質の脂肪酸組成の変化が、以下に示すように、免疫細胞機能に影響を及ぼすことができ、そうした変化は、(1)膜の秩序及びラフト構造等の膜の物性を変化させるステップと;(2)膜受容体の発現、活性若しくはアビディティーの変化又は細胞内シグナル伝達機構の改変のいずれかを通して細胞のシグナル伝達経路に対する作用を変化させるステップと;(3)脂質メディエーター(PGE2)のパターンを変化させるステップとを含む。これらの種々の変化の結果として、転写因子の活性化が変化し、遺伝子発現が改変される。異なるメディエーターから、異なる生物学的な活性及び強度が生じ得る。Calder,P.C.ら、上記。
【0131】
【化1】

【0132】
炭水化物は、約30〜50%の範囲に及ぶ、好ましくは、約40%の製品のエネルギー含有量を提供することができる。
【0133】
炭水化物供給源は、任意の適切な消化できる炭水化物又は炭水化物の混合物であり得る。例えば、炭水化物供給源は、マルトデキストリン、例えば、タピオカ、トウモロコシ、米、その他の穀類、ジャガイモ由来の天然の若しくは改変されたデンプン、又は高アミロースデンプン、スクロース、グルコース、フルクトース、及び/或いはそれらの混合物であり得る。
【0134】
本発明による免疫栄養組成物は、臨床的にラクトースを含有しない。用語「臨床的にラクトースを含有しない」は、本発明の状況では、組成物100kcal当たり最大0.2gのラクトースを有する栄養組成物を指す。この組成物は、組成物100kcal当たり、好ましくは0.2g未満、より好ましくは、0.17g未満のラクトースを有する。
【0135】
また、本発明による免疫栄養組成物は、グルテンを含有しない場合もある。
【0136】
また、本発明の免疫栄養組成物は、その他の栄養補給物質、例えば、ビタミン、鉱物、微量元素、並びに追加の窒素供給源、炭水化物供給源及び脂肪酸供給源を有してもよい。それらの物質は、患者の経口摂取物に追加してもよく、又は1日当たりに必要な全必須量のビタミン、鉱物、炭水化物、脂肪酸等の栄養補給の唯一の供給源となるように、栄養完全製剤の形態として供給してもよい。
【0137】
本発明の免疫栄養組成物を、非経口又は経腸による投与に適した様式に製剤化することができる。これらの組成物は、経腸による使用、例として、経口投与及び/又は経管栄養に特に適切である。そのような組成物は、好都合には、水性の液体の形態で投与する。したがって、経腸による適用に適した本発明の組成物は、好ましくは、水性の剤型、又は粉末の剤型であり、後者の場合、好都合には、使用前にこの散剤を水に添加する。経管栄養として使用するためには、添加すべき水の量は、患者の体液要件及び状態に依存する。
【0138】
用語「薬学的に許容できる塩」は、妥当な医学的判断の範囲内で、ヒト組織と接触させて、過度の毒性、刺激、アレルギー応答等を起こすことなく使用するのに適し、合理的な利益/リスクの比に相応する塩を指す。
【0139】
数値範囲は、本明細書で使用する場合、具体的な開示の有無にかかわらず、その範囲内に含有される全ての数及びサブセットの数を含むことを意図する。さらに、これらの数値範囲は、その範囲内の任意の数又はサブセットの数を対象とする主張を支持すると解釈すべきである。例えば、1〜10という開示は、2〜8、3〜5、6、7、1〜9、3.6〜4.6、3.5〜9.9等の範囲を支持すると解釈すべきである。
【0140】
本発明の、単数の特徴又は限界への言及は全て、別段に特定するか又はその言及がなされている文脈からそうでないことが明瞭に伝えられない限り、対応する複数の特徴又は限界を含み、逆も真なりとするものとする。
【0141】
方法又はプロセスのステップの組合せは全て、本明細書で使用する場合、別段に特定するか又はその組合せについての言及がなされている文脈からそうでないことが明瞭に伝えられない限り、任意の順序で実施することができる。
【0142】
パーセント、部及び比は全て、本明細書で使用する場合、別段の特定がない限り、全組成物に対する重量による。列挙する成分に関するそのような重量は全て、活性なレベルに基づき、したがって、別段の特定がない限り、市販されている材料中に含まれ得る溶媒及び副産物を含まない。
【0143】
本発明の組成物及び方法は、本明細書に記載する本発明の必須の要素及び限界、並びに本明細書に記載するか、又は別の場合には、本明細書の記載に従う一般的な型の組成物及び方法において有用である、いずれかの追加又は任意の成分、構成成分又は限界を含む、それらからなる、又はそれらから本質的になることができる。
【0144】
「治療」は、患者に罹患又は欠損がある場合に、虚弱質若しくは病弊若しくは欠損を予防(阻止)する又はそれを治癒する若しくは寛解させる若しくは正常化させる、のいずれかのための、ヒトを含めた哺乳動物に関する医薬品若しくは組成物若しくは製剤の投与又は医学的手順の実施を指す。
【0145】
「患者」又は「対象」は、本出願に記載する栄養素の組成物及び方法から利益を得ることができるヒト又は非ヒト哺乳動物を意味する。
【0146】
「治療有効量」又は「栄養有効量」は、所望の治療効果を達成するのに十分な薬剤、組成物又は製剤の量である。
【0147】
「非経口」は、通常は、静脈内(IV)、筋肉内(IM)又は皮下(SC)の手段による、ヒト身体の上皮層を越える又は実質的に通る材料の経路を指す。
【0148】
用語「経腸的」は、本明細書で使用する場合、消化管を通しての投与を指す。当業者であれば、この投与は、口腔から経鼻胃チューブを通って胃内に至る、又は当技術分野で知られているその他の手段を通して、腸内で生じることができ、腸は、小腸及び大腸に分けられる胃から肛門まで通る管であることを認識する。
【0149】
「薬学的に許容できる」は、動物及びより特定するとヒトにおいて使用するために、連邦政府若しくは州政府の規制当局によって承認されている手段又は米国薬局方若しくはその他の一般に認められている薬局方に収載されている手段を意味する。
【0150】
「担体」は、それと共に治療薬を投与する希釈剤、アジュバント、賦形剤又はビヒクルを指す。そのような薬学的担体は、水及び油等の無菌の液体であり得、油としては、石油、動物、植物又は合成を起源とするもの、例として、落花生油、大豆油、鉱油、胡麻油等が挙げられる。また、生理食塩水並びに水性のデキストロース及びグリセロールの溶液も、液体の担体、特に、注射用液剤として利用することができる。適切な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等がある。
【0151】
本明細書で使用する場合、用語「癌療法」は、化学療法、手術、放射線照射、遺伝子療法、免疫療法、生物学的療法、分化剤、化学予防剤、又はそれらの組合せを指す。いくつかの実施形態では、化学療法は、細胞に対して細胞傷害性である薬物又は薬剤を指す。
【0152】
本明細書で使用する場合、用語「化学療法」は、細胞傷害剤を使用して、増殖細胞を死滅させるプロセスを指す。句「化学療法の間」は、投与した細胞傷害剤の作用が続く期間を指す。他方、句「化学療法の後」は、組成物の任意の以前の投与にも、また、投与した細胞傷害剤の作用の持続にもかかわらず、細胞傷害剤の投与後に組成物が投与される全ての状況を網羅することを意味する。
【0153】
本発明の方法を化学療法に適用する場合、少なくとも1つの免疫栄養組成物を、化学療法の前、間又は後(すなわち、細胞傷害剤の投与の前、間又は後)に投与することができる。例えば、本発明の免疫栄養組成物を、1つの化学療法サイクル前(前化学療法又は化学療法の前)10日〜3日の間から、そのサイクル後(後化学療法又は化学療法の後)10日〜7日の間までに対象に投与することができる。
【0154】
甘味剤の例として、これらに限定されないが、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビオシド、ステビア抽出物、パラ−メトキシ桂皮アルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン等が挙げられる。
【0155】
医薬品として有用な投与剤型として、これらに限定されないが、経口調製物(液体調製物、例として、エキス剤、エリキシル剤、シロップ剤、チンキ剤及びリモナーデ剤;固体調製物、例として、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤及び錠剤)、注射剤、注入剤、点鼻剤、点眼薬、坐剤、スプレー剤、並びに経皮投与のための投与剤型、例として、軟膏剤及びパッチ剤が挙げられる。
【0156】
本発明によれば、本発明の組成物は、食餌手段、例えば、サプリメントの形態で提供してもよく、或いは栄養製剤、例えば、医学的な食品製品若しくは飲料製品の形態で、例えば、完全な食事、食事の一部の形態で、食品添加剤として、又は溶解のための粉末として提供してもよく、或いは医薬製剤の形態で、例えば、錠剤、丸剤、サシェ剤又はカプセル剤の形態で提供してもよい。
【0157】
本発明のさらなる態様では、本発明の免疫栄養組成物を含む医学的な食品製品若しくは飲料製品、栄養補助食品、又は栄養製剤若しくは医薬製剤を提供する。
【0158】
食餌手段の形態をとる本発明の組成物、例えば、サプリメント、又は医薬製剤は、本発明の組成物からもっぱらなってもよく、場合により薬学的又は栄養的に許容できる担体とからもなってもよい。
【0159】
本発明の組成物は、医学的な食品製品若しくは飲料製品の形態、例えば、溶解のための粉末の形態をとってもよい。この粉末を、液体、例えば、水、又はミルク若しくは果汁等のその他の液体と、例えば、約1対約5の粉末対液体の比で組み合わせて、消費する準備のできた組成物、例えば、即座に飲める組成物又はインスタント飲料を得ることができる。
【0160】
場合により、本発明による組成物は、栄養的に完全である場合があり、すなわち、ビタミン、鉱物、微量元素、さらに、窒素供給源、炭水化物供給源並びに脂肪及び/又は脂肪酸の供給源を含んでもよく、したがって、本発明による組成物は、1日当たりに必要な全必須量のビタミン、鉱物、炭水化物、脂肪及び/又は脂肪酸、タンパク質等の栄養供給の唯一の供給源となり得る。したがって、本発明の組成物を、栄養のバランスが完全な食事、例えば、経口、或いは例えば、経鼻胃チューブ、経鼻十二指腸チューブ、食道瘻造設チューブ、胃瘻造設チューブ若しくは経皮空腸瘻チューブ、又は末梢栄養若しくは完全非経口栄養による経管栄養に適した形態で提供することができる。好ましくは、本発明の組成物は、経口投与のためのものである。
【0161】
本発明は、化学療法又は放射線療法のいずれかの抗癌治療の間に免疫系を支援する方法を提供する。
【0162】
本発明は、細胞ストレス分子(「危険シグナル」)の腫瘍細胞における発現の増加を利用し、それによって、ナチュラルキラー細胞(NK)、ナチュラルキラーT細胞(NKT)、マクロファージ(Mac)及びキラー樹状細胞(KDC)等の自然免疫細胞による細胞の認知及び殺傷を促すための方法を提供する。自然免疫細胞は、抗癌治療の間の腫瘍細胞中の「危険シグナル」に遭遇すると、強力に活性化される。
【0163】
以下の実施例は、化学療法を受けている場合又は受けていない場合の、自然免疫応答及び適応免疫応答の損傷を経験している腫瘍担持動物の免疫サプレッサー細胞の存在及び免疫機能を説明する。さらに、抗腫瘍療法を受けている腫瘍担持マウスに対する免疫栄養の有益な作用を説明する実施例も提供する。さらに、以下に、5つの例示的な免疫栄養組成物も提供し、これらの組成物は全て、存在する免疫増強剤の型及び量の観点から相互に異なる。
【実施例】
【0164】
実施例1
腫瘍担持動物における免疫抑制機構の存在−自然免疫応答及び適応免疫応答の損傷。
【0165】
マウス 同系交配、8週齢のC57BL/6(H−2b)マウスを実験に使用した。マウス左側腹部に、1×10個の腫瘍細胞を皮下(s.c.)接種し、腫瘍の増殖を、ノギスによる測定によって2日毎にモニターし、腫瘍接種の6日後に、動物をオキサリプラチン又はドキソルビシンのいずれかを用いて治療した。化学療法による治療後、腫瘍の増殖を2日毎にモニターし、腫瘍移植の2週間後に動物を屠殺した。いくつかの実験は、化学療法の28日後まで実施して、腫瘍の増殖をより十分に評価した。
【0166】
体重を、屠殺まで2日毎に評価した。
【0167】
血液試料を、化学療法による治療後の第2及び4日、第10日、並びに屠殺時(第14及び28日)に入手した。剖検を実施し、腫瘍塊を評価した。
【0168】
癌細胞株 卵白アルブミン(OVA)についての外来抗原を発現する、メチルコラントレン(MCA)誘発性肉腫細胞株を、2mM L−グルタミン、10mM HEPES、20μM 2−メルカプトエタノール、150U/mLストレプトマイシン、200U/mLペニシリン及び10%熱不活性化FBSを補ったDMEM又はRPMI1640中で増殖した。化学療法の6日前に、1×10個の腫瘍細胞を、マウス側腹部中に注射した。
【0169】
血液学的評価 赤血球数、ヘモグロビン及びヘマトクリットを、第2、4、10、14及び28日に測定した。
【0170】
白血球数及び白血球百分率を、同じ時点で調べた。血液試料をさらに、免疫細胞集団を決定するためにも使用した。
【0171】
フローサイトメトリーによる解析 CD11c、CD11bGr−1及びCD11bGr−1、CD14、CD19、CD16、CD56、CD3、CD8、CD4の細胞のサブセットの解析を実施した。使用した一連の抗体により、B細胞のサブセット及びT細胞のサブセット、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、樹状細胞、顆粒球の評価が可能となった。
【0172】
腫瘍の増殖の評価
腫瘍の増殖を、ノギスを使用することによって2日毎にモニターし、腫瘍体積を、長さ×幅×幅×0.52mmの式を使用することによって計算した。
【0173】
結果
マウス内に腫瘍細胞をs.c.接種した後、腫瘍は、ノギスを用いた評価に従うと、増殖を開始するのに5〜6日を必要とする。最初の6日間は、腫瘍の増殖には体重減少を伴わなかった。
【0174】
オキサリプラチン及びドキソルビシンを用いた治療は、試験した全ての用量において、治療後の6日間に体重減少を伴った。より高い用量は、より顕著な体重減少を誘発したが、ほとんどの場合、体重減少は、最初の体重の10又は15%以下であった。最大体重減少は、ドキソルビシン(2.5、5、7.5及び10mg/kg)を用いて試験した全ての用量についてはおよそ10パーセントであり、最大用量のオキサリプラチン(10mg/kg。試験したその他の用量は、5及び7.5mg/kgであった)ではおよそ15%であった。
【0175】
より重要な体重減少(15%超)を示した孤立した動物は屠殺した。その後、体重は、安定な状態に留まるか又は若干の回復を示した。第28日まで追跡した実験では、体重減少の新しい相が、化学療法による治療後の第20日付近で始まり、屠殺するまで持続した。
【0176】
赤血球数により評価した赤血球毒性、ヘモグロビン及びヘマトクリットのレベルは、独特のパターンを示した。両方の化学療法剤がレベルの減少を誘発し、この減少は、化学療法後の第6日まで進行して安定なレベルに達し、減少が、第16日には再度始まって進行した。
【0177】
白血球数は、化学療法の直後に低下を示し、7日後に回復し始める。興味深いことに、オキサリプラチン治療動物は、ベースラインの数よりも高い白血球数を示す傾向があった。
【0178】
白血球及び免疫細胞のサブセットのフローサイトメトリー研究から、リンパ球の全体的な減少が、化学療法によって治療後の第10日まで誘発されることが示された。その後、リンパ球数は、増加し始め、ベースラインの線を回復するか又はベースラインを上回りさえした。
【0179】
一過性のリンパ球減少が、CD3及びCD19(B細胞)、NK;(Lyサブセット)に生じた。抹消血は、少数の樹状細胞及び単核球を含む。
【0180】
腫瘍の増殖を、sc細胞移植の5〜6日後に観察することができた。化学療法後、腫瘍サイズは、顕著な変化を示さないが、増殖が、化学療法のおよそ8〜10日後に再度開始するのが観察される。その後、腫瘍サイズの増加が屠殺まで進行する。化学療法を用いて治療しなかった対照の腫瘍担持マウスにおいては、増殖のペースが、実験終了(動物の屠殺)までより速い。
【0181】
図2は、適応免疫応答が、化学療法による治療によって促された免疫原性によって賦活される様子を示す。化学療法が、癌細胞を傷害し、したがって、免疫系に対する癌細胞の感受性が増加する。図2中、第14日における2つの治療群(oxa−10;oxa−12.5)と対照群との分岐は、免疫応答の増強に関係する。腫瘍は、増殖し続けるが、増殖速度は、対照(化学療法なし)よりも緩慢である。
【0182】
【化2】

【0183】
実施例2
化学療法を受けている腫瘍担持動物における免疫サプレッサー細胞機構の存在。自然免疫応答及び適応免疫応答の状況。
【0184】
マウス 同系交配、8週齢のC57BL/6(H−2b)マウスを実験に使用した。動物を、7つの異なる群の飼料に分配した。対照群には、成体げっ歯類のための飼料AIN93を与えた(維持)。試験飼料を、動物モデルにとって適切な用量で投与した:Ctrl飼料において、(a)1%(w/w)L−アルギニンを補い、(b)タンパク質の25%をグルタミンで置換し、(c)1%(w/w)L−シトルリンを補い、(d)1g/Kg体重の活性ヘキソース相関化合物を補い、(e)20mg/日のRNAヌクレオチドを補い、(f)25mg/日のラクトフェリンを補った。1週間後、マウス左側腹部に、1×10個のMCA−OVA腫瘍細胞を皮下(s.c.)接種し、腫瘍の増殖を、ノギスによる測定によって2日毎にモニターした。腫瘍接種の6日後に、動物をオキサリプラチン又はドキソルビシンのいずれかを用いて治療した。化学療法による治療後、腫瘍の増殖を2日毎にモニターし、化学療法による治療の2週間後に動物を屠殺した。化学療法による治療を施さなかった対照動物を、全ての試験飼料について並行して試験した。体重を2日毎に評価した。血液試料を、化学療法による治療後の第2、4及び10日、並びに屠殺時(第14及び28日)に入手した。剖検を実施し、腫瘍塊を評価した。
【0185】
癌細胞株 外来性抗原である卵白アルブミン(OVA)を発現する、メチルコラントレン(MCA)誘発性肉腫細胞株を、2mM L−グルタミン、10mM HEPES、20μM 2−メルカプトエタノール、150U/mLストレプトマイシン、200U/mLペニシリン及び10%熱不活性化FBSを補ったDMEM又はRPMI1640中で増殖した。化学療法の6日前に、1×10個の腫瘍細胞を、マウス側腹部中に注射した。
【0186】
血液学的評価 赤血球数、ヘモグロビン及びヘマトクリットを、第2、4、10、14及び28日に測定した。
【0187】
白血球数及び白血球百分率を、同じ時点で調べた。血液試料をさらに、免疫細胞集団を決定するためにも使用した。
【0188】
フローサイトメトリーによる解析 CD11c、CD11bGr−1及びCD11bGr−1、CD14、CD19、CD16、CD56、CD3、CD8、CD4の細胞のサブセットの解析を実施した。使用した一連の抗体により、B細胞のサブセット及びT細胞のサブセット、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、樹状細胞、顆粒球の研究が可能となった。
【0189】
腫瘍の増殖の評価 腫瘍の増殖を、ノギスを使用することによって2日毎にモニターし、腫瘍体積を、長さ×幅×幅×0.52mmの式を使用することによって計算した。
【0190】
結果。
全ての試験飼料が、腫瘍の移植前の8日間、類似の体重増加を誘発する。マウス内に腫瘍細胞をs.c.接種した後、腫瘍は、ノギスを用いた評価に従うと、増殖を開始するのに5〜6日を必要とする。腫瘍細胞移植後及び化学療法前には、腫瘍重量の変化は観察されなかった。動物は、化学療法後の最初の数日間に体重減少を示した。最大の体重減少には、化学療法後の第4日と第10日との間に達し、その後、動物は、安定な体重を維持するか又は体重を回復し始めさえした。異なる飼料間での差は観察されなかった。
【0191】
最大体重減少は、ドキソルビシン(2.5、5、7.5及び10mg/kg)を用いて試験した全ての用量についてはおよそ10パーセントであり、最大用量のオキサリプラチン(10mg/kg。試験したその他の用量は、5及び7.5mg/kgであった)ではおよそ15%であった。
【0192】
赤血球数により評価した赤血球毒性、ヘモグロビン及びヘマトクリットのレベルは、独特のパターンを示した。両方の化学療法剤がRBCの減少を誘発し、この減少は、化学療法後の第6日と第10日との間に最も低いレベルに達し、第16日までに安定なレベルに達した。アルギニンを補った飼料は、第6日と第10日との間に観察された赤血球の著しい低下を阻止した(図3)。この群は、対照とも、また、その他の治療とも異なった。さらに、アルギニンと化学療法による治療との組合せは、化学療法単独の使用と比較して、腫瘍サイズをさらに低下させた(図4)。
【0193】
【化3】

【0194】
【化4】

【0195】
白血球数は、化学療法後の最初の週に減少した。WBC数は、第10日以前に回復し始め、次いで、第10日以降には元々のベースライン値を上回り、実験終了までより高い状態を維持する傾向を示す。化学療法剤を用いて治療されなかった対照動物は、実験の間、より安定なレベルのWBCを有し、第15日以降には増加に向かう傾向を示した(図5)。オキサリプラチン治療動物においては、白血球の増加は、ラクトフェリンを補った飼料を与えた群がより高い傾向を示した。
【0196】
【化5】

【0197】
白血球及び免疫細胞のサブセットのフローサイトメトリー研究から、リンパ球の全体的な減少が、化学療法によって、治療のおよそ10日後に誘発されることが示された。CD3細胞の喪失が、アルギニンを補った飼料を与えた動物においては部分的に調節された。アミノ酸であるグルタミン及びシトルリン、並びにラクトフェリンを与えた群においては、化学療法に続く全体的なリンパ球集団の抑制はより少なかった。食餌性ヌクレオチドを与えた治療群においては、腫瘍サイズが、化学療法が不在の場合でさえ低下することが観察された(図6)。さらに、また、食餌性ヌクレオチドの投与の結果、白血球も増加した(図7)。
【0198】
【化6】

【0199】
【化7】

【0200】
以前の記載と同様、また、腫瘍細胞の移植に続いて、腫瘍の増殖が観察され、腫瘍の増殖を、細胞移植の5〜6日後にノギスによる測定を使用することによって測定することができる。化学療法後に、腫瘍の増殖は、化学療法後の第10日付近までは弱まり、その後、腫瘍の増殖速度は実験終了まで増加した。化学療法を用いて治療しなかった対照の腫瘍担持マウスにおいては、増殖のペースは、実験終了(動物の屠殺)までより速かった。各飼料の作用は、腫瘍の増殖とも、飼料と化学療法による治療との相互作用とも関係があり、治療しなかった対照においても同様の結果を得た。実際に、アルギニンを補った飼料を消費した群は、その他の群と比較して、移植した腫瘍の進行が遅延するように見えた。さらに、ヌクレオチドは、化学療法剤を投与しなかった対照動物においてさえ、腫瘍の増殖の遅延を誘導するようである。
【0201】
実施例3
化学療法を受けている腫瘍担持動物における免疫サプレッサー機構の存在を、特異的に設計した免疫栄養によって部分的に償うことができる。
【0202】
マウス 8週齢のC57BL/6マウスを実験に使用した。マウス左側腹部に、腫瘍細胞をs.c.接種し、腫瘍の増殖を、ノギスによる測定によって2日毎にモニターした。剖検を、腫瘍移植の第10日と第20日との間で実施し、腫瘍塊を評価した。細胞腫瘍を、アポトーシスを経験している細胞及び有糸分裂を経験している細胞並びに細胞周期を経過している細胞(Ki67免疫組織化学的染色)の頻度について評価した。腫瘍移植の10日後に、動物を、化学療法剤を用いて治療した。実験動物に、個々の又は組み合わせた以下の薬物の週1回の腹腔内(i.p.)注射を4回投与した:シトキサン(Cytoxan)(シクロホスファミド一水和物)、100mg/kg;メトトレキサート、RNX−0396、25又は50mg/kg;アドリアマイシン(ドキソルビシン塩酸塩)、5mg/kg;5−FUra、4、25又は50mg/kg。動物を、治療の投与の2、4及び10日後に屠殺した。
【0203】
動物は、腫瘍移植の5日前に試験飼料を開始した。飼料は、グルタミン、シトルリン、システイン、スレオニン及びアルギニン、ヌクレオチドを補った乳清タンパク質に基づき、飼料1グラム当たり10個の細胞数のプロバイオティクス(ビフィズス菌と乳酸菌とのブレンド)を含有した。対照群の動物には、通常の固形飼料を与えた。
【0204】
組織試料採取、細胞の単離及び培養 腫瘍担持マウスを屠殺し、屠殺動物の脾臓及びs.c腫瘍を、ブアン固定剤中に固定するか又は無菌条件下で収集した。固定組織を、パラフィン中に包埋し、切片とし、ヘマトキシリン及びエオシン、又は免疫組織化学的技法を用いて染色して、アポトーシスによる細胞死及び細胞増殖(Ki67)を評価した。単一細胞懸濁液を調製した。CD11bGr−1細胞及びCD11bGr−1細胞である脾細胞のサブセットの解析を、脾臓及び腫瘍のホモジネート中で実施した。
【0205】
さらに、同じ2つの細胞のサブセットを、腫瘍塊担持組織の組織切片中でも解析した。CD11c樹状細胞及びCD8細胞傷害性リンパ球が、脾臓、及び移植した腫瘍の周囲の組織中で染色された。
【0206】
H−TdRの組込み CD8T細胞(1ウエル当たり2×10個の細胞)を、96ウエル平底プレート中で培養し、3μg/ml抗CD3及び2μg/ml抗CD28を用いて賦活した。腫瘍担持動物及び無腫瘍動物由来のCD11b細胞を、全細胞の20%をなすように培地に添加した。2日間のインキュベーションの後、培地に、1μCi/ウエルH−TdRを加えて18時間パルスを与え、H−TdRの組込みをシンチレーション測定によって測定した。
【0207】
CTL応答の評価 アロ反応性のCTLを生成するために、試験飼料又は対照飼料を与えた腫瘍担持BALB/cマウス由来の脾細胞(3×10個)を、3×10個のγ−照射C57BL/6脾細胞と共にインキュベートした。5日後、培養物を、5時間の51Cr放出アッセイ中で、100μCiのNa51CrOを用いて60分間あらかじめ標識した2×10個の標的細胞を使用して、同種の(allogenic)標的(MBL−2)を溶解させる能力について試験した。特異的溶解パーセントを、3つ組みの試料から、以下に従って計算した:(実験cpm−自然cpm)/(最大cpm−自然cpm)×100。溶解単位(LU)を、10個のエフェクター細胞当たり、2,000個の同種の(allogeneic)標的細胞(MBL−2細胞)の30%の特異的溶解を示す細胞数として計算した(LU30/10細胞)。CT26対照標的の非特異的溶解が存在する場合には、非特異的溶解のパーセントを、MBL−2標的細胞について得たパーセントから減じた。
【0208】
結果
クロム放出アッセイ、及び抗CD3抗CD28による賦活における増殖性の応答は、化学療法を受けたが、免疫栄養飼料を与えた腫瘍担持動物においてより高値を示した。
【0209】
より少ない骨髄サプレッサー細胞が、脾臓及び腫瘍周辺組織において観察された。
【0210】
化学療法を受け、試験飼料を消費した腫瘍担持動物由来の脾臓細胞及びB細胞は、対照群と比較して、LPSに対する応答能力を回復した。
【0211】
全体的に、試験飼料を与えた動物が、対照の固形飼料を与えた動物の免疫能のレベルよりも高まった免疫能のレベルを示した。
【0212】
実施例4
【表1】


【表2】

【0213】
実施例5
【表3】


【表4】

【0214】
実施例6
【表5】


【表6】



【0215】
実施例7
【表7】


【表8】

【0216】
実施例8
【表9】


【表10】

【0217】
抗癌治療によって誘発された骨髄麻痺、とりわけ、好中球減少を阻止する及び/又は抑えるための栄養介入の臨床的証拠の実施例
【0218】
発熱性好中球減少及び感染は、悪性腫瘍について治療を受けた患者に頻繁に生じる合併症である。好中球減少、発熱性好中球減少及び感染の阻止によって、生活の質、治療プロトコールに対するアドヒアランス、治療に対する腫瘍の応答、治療の失敗並びに全体的な生存及びその他の有害作用の改善が得られる。予測される時期に意図する用量を適用することによって、治療に対する腫瘍の応答、及び生存が改善されるはずである。対照的に、用量の強度を低下させること又は時間を延長させることは望ましくない。
【0219】
ホジキン病の治療の間の細胞傷害薬の骨髄抑制作用
増殖因子を用いた治療及び免疫栄養支援を用いた二次的な阻止
二次的な予防
症例報告
【0220】
26歳の患者が、2ヵ月にわたる再発性の発熱及び体重減少の後、ホジキン病(HD)、混合細胞型(mixed cellularity variant)と診断される。2つの頸部腺腫が、最初の臨床での検査の間に発見され、生検では、組織学的診断は、HD、混合細胞型である。複数の縦隔洞の腺腫がX線スキャナー検査の下で観察される。横隔下の併発は、画像からは検出することができなかった。患者を、アドリアマイシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン(ABVD)を含む標準的な化学療法プロトコールを用いて治療する。最初の治療の15日後に、患者は、発熱、低い白血球数及び重要な好中球減少(800/μL)を示した。患者を、抗生物質と顆粒球コロニー刺激因子との組合せを用いて治療した。
【0221】
4週間後に、患者は、次の化学療法サイクルを受けることを予定しており、白血球百分率は、5500顆粒球/μLの正常限界内であった。治療の1週間前に、12.5gのアルギニン、3.3gのn−3脂肪酸及び1.2gのRNAを含有するサプリメントを患者に毎日与える。患者には、1リットルのサプリメントを経口により与える。患者には、通常の食事に追加して1リットルのこの製品を摂取することを勧める。
【0222】
栄養補給によって、化学療法誘発性の好中球減少が弱まり、患者が顆粒球コロニー刺激因子を用いた治療を受ける必要性が低下するか又はなくなる。同じ栄養介入を化学療法の以降のサイクルの前にも繰り返すと、わずかな好中球減少性の応答を観察するに過ぎず、この状態であれば、追加の増殖因子による治療も治療の遅延も必要としない。
【0223】
固形腫瘍に対する細胞傷害薬の、消化器及び骨髄に対する毒性 免疫栄養支援を用いた一次的な阻止 実験的研究
【0224】
皮下にヒト結腸DLD−1腫瘍を担持するマウス(1群当たり20匹)に、5−フルオロウラシル(50mg/kg)を、腫瘍細胞移植後の第17、24及び31日に腹腔内注射する(腫瘍移植は、実験チャートの第1日である)。腫瘍移植後の第10日に、動物に、アルギニン、n−3脂肪酸及びヌクレオチドを補った完全制御飼料からなる栄養介入を開始する。類似のプロトコールに従う対照群の動物には、遊離のアルギニン、n−3FA及びヌクレオチドを欠く完全制御飼料を投与する。生存及び体重を毎日モニターした。第20及び33日に採血し、全血球数及び白血球百分率を得た。腫瘍重量を第35日の実験終了時に評価した。
【0225】
動物の生存率は、試験飼料群では75%、対象飼料群では66%であった。動物の死亡は、腫瘍の増殖によるものではなく、薬物の毒性の結果であると理解されている。実際に腫瘍重量は、研究の間には増加することなく、減少し、免疫栄養素を補った試験飼料を消費する動物においては、より小さな腫瘍塊が残るのが見出される傾向がある(化学療法の開始直前の腫瘍重量と比較すると、−25%対−18%)。この差は、統計学的有意性には達しない。
【0226】
抹消血要素を、第20及び33日に測定する。第20日に、好中球数が低下し、対象群においては、低下は、第16日(抗腫瘍治療の1日前)に記録した平均値の50%に達し、免疫栄養素を補った試験飼料を与えた動物においては28%に達した。血小板数の変化は、群間で異なることなく、20%に達した。
【0227】
腸病理組織診断からは、屠殺時の動物において、繊毛の短縮化及び融着、腺窩における有糸分裂活性の低下、並びに固有層における炎症性浸潤の上昇を含む、中等度の変化が示される。試験飼料を与えた群においては、腸の傷害はより軽度であった。
【0228】
頭頸部の実験的な癌に対する細胞傷害薬の、消化器及び骨髄に対する毒性 免疫栄養支援を用いた一次的な阻止
【0229】
雄のCB6F1−Tg rasH2@Jclマウス(Tg)を8週齢で入手し、プラスチック製ケージ中で飼育する。粉末の基礎飼料のCRF(チャールズリバー処方(Charles River Forumla))−1を自由に摂取させる。この研究では、発癌物質である4−ニトロキノリン1−オキシドを使用して、舌及び/又は食道の腫瘍を誘発する。
【0230】
100%のマウスが、舌上に腫瘍を(複数の腫瘍さえも)発生させ、60%が、食道中に腫瘍を発生させる。いくつかの形成異常の病変が、腫瘍病変を巨視的には示さない領域において観察される。
【0231】
舌及び食道の腫瘍を有する動物を、残りの実験のために保持する。
【0232】
これらの動物に対して、シスプラチン、パクリタキセル及びドキソルビシンの組合せを用いて治療を開始する。化学療法による治療の最初のサイクルの7日前に、動物を2つの群に無作為抽出し、1つの群には、アルギニン、n−3脂肪酸及びヌクレオチドを補った飼料を与え、一方、対照群には、遊離のアルギニン、n−3脂肪酸及びヌクレオチドを欠く、等カロリー、等栄養価(isonutrogenous)の飼料から栄養を与える。相互に2週間の間隔を置いて3サイクルを実施した。栄養介入は、動物を屠殺する第55日まで、研究の全体を通して進める。
【0233】
抹消血細胞を、第1及び2サイクルの10日後並びに屠殺前に調べた。好中球数は、対照群においては、化学療法を開始する前日に記録した平均値の43%であり、免疫栄養素を補った試験試料を与えた動物においては70%であった。これら2つの異なる飼料群間で、腫瘍の退縮の差は観察されない。両群において、腫瘍塊の低下が測定される。残りの巨視的な腫瘍病変及び形成異常病変の組織学的研究からは、類似の有糸分裂活性又は細胞周期(PCNA標識指数)に入る細胞が示される。
【0234】
癌療法及び腫瘍の両方によって引き起こされた骨髄及び免疫コンパートメントの毒性に対する治療
【0235】
癌治療の間の免疫能の維持によって、体内の癌細胞を自然に同定及び破壊する身体の能力が増加する。したがって、免疫系の産生、成熟又は維持に関与するコンパートメントに対するいずれかの侵襲が起これば、癌が進行するリスクが増加する。化学治療及び放射線治療は、癌細胞を破壊するように設計されており、それらの治療のうちのいくつかは、腫瘍の増殖速度を低下させるのに非常に有効である(図8)。
【0236】
【化8】

【0237】
化学療法及び/又は放射線療法の積極的な使用を通して、腫瘍の増殖を緩慢化させること、又は腫瘍サイズを低下させることまでもが、外科的介入前のネオアジュバント戦略の一部である。しかし、抗癌療法によって、例えば骨髄が産生するその他の迅速に分裂する細胞も等しく、負の影響を受け、癌細胞と同様に破壊される可能性が高い。
【0238】
骨髄は、血液細胞が製造される部位であることから、(いずれかの理由による)骨髄毒性の結果、血液細胞の欠損を生じる。この結果としての骨髄毒性には、侵入する細菌及びウイルスに応答して身体が白血球を産生することができないことによる、生命を危うくする感染が含まれる。さらに、毒性の結果、低い赤血球数に起因した貧血、及び血小板の欠損によって引き起こされた重度の出血さえもが生じる。
【0239】
以前に記載したように、ネオアジュバント治療によって傷害された癌細胞は、免疫系が認識する構成成分を発現することができるが、身体は、免疫系がその同じ癌療法によって過度には重度の損傷を負っていない場合に限って応答を開始することができる。したがって、治療の有効性を増加させるためには、骨髄毒性を低下させることを通して免疫能を維持する必要がある。免疫系が形質転換した細胞に対する制御を回復し、残りの腫瘍細胞を抑制するための「機会のウィンドウ」が、化学療法に続く数日間に生じる。抗原性又は免疫原性の発現の増強のこの期間を利用するために、本発明は、自然免疫応答及び抗腫瘍免疫応答を増強することができる(栄養性及びその他の)方法を記載する。化学療法及び放射線療法による治療のサイクルの前、間及び後に免疫系を馴化するための栄養(しかしまた、薬学的化合物も)の選択的な使用によって、これらの癌療法によって誘発された急性免疫毒性を修正することができる。
【0240】
本発明者らのデータから、癌療法は、骨髄に対して、したがってまた、血液及び免疫細胞の産生に対しても、最初の侵襲を生み出すことが示されている。癌療法由来のこの侵襲又は毒性は、化学療法剤の投与の直後から始まり、数日間続く。本発明者らのデータからは、また、低い血液細胞数によって実証されるように、腫瘍自体も、骨髄活性を抑制することが示されている。図(図9及び10)は、毒性が、迅速に開始し、低下がおよそ1週間続く様子を示す。しかし、癌療法の投与の1週間後には、血液細胞の測定値の改善から明らかなように、身体は、回復し始める。この時期には、腫瘍の増殖速度が抑制されているが、腫瘍は依然として生存可能である。腫瘍が引き起こす骨髄毒性の第2相が生じ、血液細胞の測定値の低下が再度観察される。
【0241】
【化9】

【0242】
【化10】

【0243】
伝統的な癌療法は、化学療法、放射線療法及び/又は免疫療法の複数回の投与を含む。ネオアジュバント戦略は、腫瘍の増殖速度又はサイズを低下させることを目指して、主要な介入(例えば、手術、又はより積極的な化学療法投与計画)の前に化学療法又は放射線療法のより少ない用量を使用するものである。しかし、癌専門医は、感染、出血、及び呼吸困難さえのリスクが増加した状態に個体を置く、患者の血液細胞(例えば、ヘマトクリット、血小板、免疫細胞)の数が低すぎる場合には、これらの主要な介入を遅延させる。本明細書に記載する新規の介入戦略によって、これらの問題に対する解決策を模索し、対処する。
【0244】
本発明者らのデータは、二相性の毒性を示す:第1は、癌療法が引き起こす毒性、第2は、腫瘍自体が誘発する毒性。したがって、癌療法と腫瘍とによって引き起こされる骨髄毒性を治療及び/又は阻止するためには、二相性のアプローチを使用することが提案される。
【0245】
免疫細胞賦活活性を有する化合物の組合せを含む栄養介入は、1)第1相においては、重度の骨髄毒性を阻止し、2)腫瘍誘導性の毒性の相の間は、免疫学的応答を増加させることによって、個体に利益をもたらすことが予想される。
【0246】
実施例:本発明者らのデータに従い、且つ以前に記載した仮説の路線に沿って、ラクトフェリン(化合物5)を投与した結果、化学療法による治療群において、対照と比較した場合、毒性の低下が生じた(図11)。
【0247】
【化11】

【0248】
ラクトフェリン治療群は、第2相の間に、免疫細胞集団の増加を経験した。さらに、食餌性ヌクレオチド(飼料4)及びアルギニン(飼料2)の両方についても、第2相の間の免疫細胞濃度の増加が報告された。したがって、これらの化合物を含む組合せを経口投与することによって、この二相性の毒性の両方の相と関連がある骨髄抑制が低下すると考えられる。こうした証拠によって、特異的な栄養化合物の投与が骨髄毒性を低下させることができ、骨髄毒性を低下させることによって、癌治療プロトコールに対する患者のアドヒアランス及び生活の質を改善し、併存症のリスクを低下させることができるという本発明者らの仮説が支持されている。
【0249】
ネオアジュバント療法
以下の発明の実施例は、これに限定されないが、ネオアジュバント癌療法を含むことができる、癌療法の栄養支援に基づいている。ネオアジュバント療法は、食道及び直腸の腫瘍等の消化器癌、並びに頭頸部癌及びその他の癌を治療する新たな方法である。ネオアジュバント療法は、主要な療法に先立つ、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、又はこれらの組合せを用いる前処置であり、主要な療法は、手術、又はより積極的な化学療法若しくは放射線療法である。主要な治療前のそのような前処置についての理論的根拠は、治療の可能性の改善である。ネオアジュバント癌療法、及び栄養支援の提案される利益として、これらに限定されないが、腫瘍サイズの低下、完全な腫瘍摘出(外科的介入)のより良好な機会、手術の間の腫瘍播種のリスクの低下、局所性又は全身性の再発の阻止、及びより良好な全体的な患者の治療成果が挙げられる。さらに、このアプローチによって、急性及び慢性の治療毒性並びに手術及び手術付近に生じる死亡率が減少し、患者の生活の質が改善することも考えられる。
【0250】
本発明は、本明細書において例示及び記載する厳密な形態に限定されるものではないことを理解されたい。したがって、当業者であれば、明細書に記載する開示から又は日常的な実験によって容易に達成可能な全ての目的にかなった改変形態を、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲に属するものとみなす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫細胞の免疫能を一過性に増大又は増強するための免疫栄養組成物であって、
少なくとも1つの免疫増強剤及び薬学的に許容できる担体を含み、
前記少なくとも1つの免疫増強剤が、前記免疫細胞の自然免疫機能及び適応免疫機能並びに正常な生理を保存することができ、
前記免疫機能及び正常な生理の前記保存の結果、前記抗癌療法のより良好な耐性及び有効性の増加、並びに前記免疫細胞の免疫能の一過性の増大又は増強をもたらす
免疫栄養組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの免疫増強剤が、前記抗癌療法によって弱っている前記免疫細胞の作用を最適化し、免疫能を増加させることができる、請求項1に記載の免疫栄養組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの免疫増強剤が、前記免疫細胞の少なくとも1つの免疫原性決定基を誘導することができる、請求項1に記載の免疫栄養組成物。
【請求項4】
前記免疫細胞が、マクロファージ、樹状細胞、キラー樹状細胞、抗原特異的細胞溶解性リンパ球、細胞傷害性CD8T細胞(CTL)及びナチュラルキラー細胞からなる群から選択される抗原提示細胞である、請求項1に記載の免疫栄養組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの免疫増強剤が、前記抗原提示細胞の抗原提示機能、自然細胞殺傷及び抗原特異的腫瘍細胞殺傷を改善する、請求項1に記載の免疫栄養組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの免疫増強剤が、プロバイオティクス、プロバイオティクスバイオマス、非複製性の生物体、タンパク質供給源、脂肪酸、アミノ酸、核酸、カリウム、尿酸、一本鎖オリゴヌクレオチド、病原体/微生物関連分子パターン(PAMP/MAMP)、活性ヘキソース相関化合物、カロテノイド、ビタミンD受容体、分枝鎖アミノ酸、テアニン、ビタミンE、EPA及びDHA又はEPA/DHA等の必須脂肪酸、並びにラクトフェリンタンパク質からなる群から選択される、請求項1に記載の免疫栄養組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つのプロバイオティクスが、Bifidobacterium lactis、Bifidobacterium longum、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus reuteri又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項6に記載の免疫栄養組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1つのタンパク質供給源が、乳清、大豆又はカゼインである、請求項6に記載の免疫栄養組成物。
【請求項9】
前記乳清タンパク質供給源が、天然の乳清、未変化の加水分解されていない乳清、乳清タンパク質濃縮物、乳清タンパク質単離物又は乳清タンパク質加水分解産物に由来する、請求項8に記載の免疫栄養組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1つのアミノ酸が、分枝鎖アミノ酸、グルタミン、アルギニン、シトルリン、システイン又はスレオニンである、請求項6に記載の免疫栄養組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1つの核酸が、リボ核酸(RNA)又はデオキシリボ核酸(DNA)である、請求項6に記載の免疫栄養組成物。
【請求項12】
前記少なくとも1つのオリゴデオキシヌクレオチドが、CpGオリゴデオキシヌクレオチドである、請求項6に記載の免疫栄養組成物。
【請求項13】
前記少なくとも1つの免疫原性決定基が、熱ショックタンパク質70(hsp70)、熱ショックタンパク質90(hsp90)、ナチュラルキラー細胞受容体リガンド(例えば、NKG2Dリガンド)、カルレティキュリン及び高移動度グループボックス1タンパク質(HMGB1)からなる群から選択される、請求項3に記載の免疫栄養組成物。
【請求項14】
抗癌治療の間に免疫細胞の免疫能を一過性に増大又は増強する方法であって、
前記免疫細胞の自然免疫機能及び適応免疫機能並びに正常な生理を保存することができる少なくとも1つの免疫増強剤を含む免疫栄養組成物に、対象の前記免疫細胞を曝露するステップを含み、
免疫機能及び正常な生理の前記保存の結果、前記抗癌治療のより良好な耐性及び有効性の増加、並びに前記免疫細胞の免疫能の一過性の増大又は増強をもたらす
方法。
【請求項15】
前記免疫栄養組成物が、請求項1から13に記載の組成物のいずれか1つから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記免疫栄養組成物が、腫瘍細胞の免疫原性を誘導する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記免疫栄養組成物が、腫瘍細胞の免疫原性を増強する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの免疫増強剤による前記免疫細胞の免疫能の前記一過性の増大が、前記対象において、抗原提示細胞の活性化及び殺腫瘍活性の開始をさらにもたらす、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの免疫増強剤が、前記抗原提示細胞の抗原提示機能、自然細胞殺傷、及び抗原特異的腫瘍細胞殺傷を改善する、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの免疫増強剤が、前記抗癌治療によって弱っている前記免疫細胞の作用を最適化し、免疫能を増加させることができる、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの免疫増強剤が、前記抗癌によって弱っている前記免疫細胞の作用を最適化し、能力を増加させることができる、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの免疫増強剤が、前記免疫細胞の少なくとも1つの免疫原性決定基を誘導することができる、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
抗癌治療の間に前記免疫細胞が、抗癌治療誘導性のアポトーシス若しくは壊死又はその他の細胞傷害を経験している、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
抗癌治療の間に前記免疫細胞が、抗癌治療誘導性のアポトーシス若しくは壊死又はその他の細胞傷害を経験しており、前記免疫栄養組成物が、腫瘍細胞の免疫原性を誘導する、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
ネオアジュバント治療の一部として使用される、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
前記免疫栄養組成物が、手術の間及び後の癌細胞の播種を阻止する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記免疫栄養組成物が、1つの抗癌療法サイクル前10日〜3日の間から、積極的な治療後約10日〜7日の間までに、対象に投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項28】
前記積極的な治療が手術である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記積極的な治療がホルモン治療である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記積極的な治療が、放射線療法による治療である、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記積極的な治療が、化学療法による治療である、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記免疫栄養組成物が、手術の間及び後の癌細胞の播種を阻止する、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
前記免疫栄養組成物が経管栄養である、請求項14に記載の方法。
【請求項34】
前記免疫栄養組成物がゲルである、請求項14に記載の方法。
【請求項35】
前記免疫栄養組成物が完全栄養性である、請求項14に記載の方法。
【請求項36】
請求項1から13に記載の組成物のいずれか1つを含むネオアジュバント治療において使用するための栄養組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2012−502996(P2012−502996A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527881(P2011−527881)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/056583
【国際公開番号】WO2010/033424
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】