説明

抗菌性多孔質薄膜の製造方法

【課題】 膜内部に均一に分散した銀微粒子を効率的に活用でき、抗菌効果の長期持続性に優れた抗菌性多孔質薄膜の製造方法を提供する。また、銀コロイドによる着色のない透明性に優れた抗菌性多孔質薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 シリコンアルコキシド、触媒および非イオン性界面活性剤を含むシリカ前駆体溶液に、銀化合物を添加して膜形成溶液を調製し、該膜形成溶液を基材に塗布して、焼成することを特徴とする抗菌性多孔質薄膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性多孔質薄膜の製造方法に関し、特に銀を含む抗菌性多孔質薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌材料は、製品における細菌の増殖を抑制する効果を有するものであり、一般的に、銀、銅、酸化チタン等などの無機系材料、第4級アンモニウム塩のような有機系材料、およびヒバ油等のような天然系材料の3つに分類される。この中でも、銀は抗菌効果が非常に強く、特に、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus)、白癬菌などの細菌に対して効力を発揮する。また、銀は暗所でも抗菌効果を有するため、使用環境を選ばない。さらには、銀は極めて安全性の高い材料であるため、人体への影響も少ない。そして、銀は比較的安価であり、入手も容易であるという利点を有する。そこで、近年、ガラスを含めた種々の基材に対して、銀を含む抗菌材料による加工を施した抗菌製品が実用化されている。
【0003】
銀の抗菌効果を利用したガラス製品の製造方法としては、樹脂やケイ素含有バインダー中に銀含有抗菌剤粒子を分散させる方法、イオン交換によりガラス内に銀を拡散させる方法、ゾルゲル法を利用する方法などがある。このうち、ゾルゲル法を利用する方法であれば、比較的容易に銀微粒子を含む膜を形成できるので、好適に用いられている。
【0004】
特開平5−213621号公報には、ゾルゲル法を利用した銀成分含有ガラスの製造方法について開示されている。
特開平8−27404号公報には、銀イオンを有する無機粒子からなる充填剤を用いて抗菌性コーティング用組成物を製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5−213621号公報
【特許文献2】特開平8−27404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、次のような問題点があった。
ゾルゲル法で銀微粒子を含む膜を形成した場合、膜表面に比較して膜内部に存在する銀微粒子の方が圧倒的に多くなる。一般的には、抗菌効果を発揮するのは、膜表面に存在する銀微粒子に限られる。膜内部に存在する銀微粒子のごく一部は、拡散により表面へ移動して抗菌効果を発揮するが、全体的にみれば、有効に機能しないものの方が多い。結果として、使用時間とともに抗菌効果が低下、消失していくことになり、元々の銀の添加量に対して得られる抗菌効果は限られたものであった。
【0006】
また、ゾルゲル法において、金属酸化物の前駆体溶液に銀化合物を添加すると、前駆体溶液中で銀イオンは凝集して、コロイドを形成する傾向がある。銀コロイドは可視光域に吸収帯を有するため、コロイド粒子径に応じて様々な色を発する。この結果、基材がガラスのような透明体の場合には、得られる膜を着色して、基材の透明性を損なうことがある。このような銀コロイドの形成を防止する手段としては、銀を含むシリカなどの微粒子を前駆体溶液に分散させる方法がある。しかし、この方法では、原材料費が高価になり、製造コストを引き上げる要因となるため、好ましくない。
【0007】
そこで、本発明は、以上の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、膜内部に均一に分散した銀微粒子を効率的に活用でき、抗菌効果の長期持続性に優れた抗菌性多孔質薄膜の製造方法を提供することにある。また、銀コロイドによる着色のない透明性に優れた抗菌性多孔質薄膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明に係わる抗菌性多孔質薄膜の製造方法は、シリコンアルコキシド、触媒および非イオン性界面活性剤を含むシリカ前駆体溶液に、銀化合物を添加して膜形成溶液を調製し、この膜形成溶液を基材に塗布して、焼成することを特徴とするものである。
【0009】
そして、本発明の抗菌性多孔質薄膜の製造方法は、前記非イオン性界面活性剤として、トリブロックコポリマー型の非イオン性界面活性剤を用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のような構成により本発明は、細孔径の揃ったメソ孔を有する膜中に、銀微粒子が均一に分散した抗菌性多孔質薄膜を製造できる。このような抗菌性多孔質薄膜であれば、膜内部の銀微粒子を効率的に活用でき、抗菌効果の長期持続性に優れた抗菌製品を提供できる。また、本発明の製造方法によれば、銀コロイドの形成を抑制して膜の着色を防止できる。したがって、ガラスのような透明な基材に対しても、基材の持つ光透過性を損なうことがないので、透明性に優れた抗菌製品を提供できる。さらに、本発明の製造方法は、抗菌材料として比較的安価な銀を使用しているので、安価な抗菌性多孔質薄膜を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の抗菌性多孔質薄膜の製造方法は、図1に示した工程で構成される。以下、本発明について、図1に示した工程に従って詳細に説明する。
【0012】
[膜形成溶液の調製]
本発明の抗菌性多孔質薄膜の製造に用いる膜形成溶液は、シリコンアルコキシド、触媒および非イオン性界面活性剤を含むシリカ前駆体溶液と、銀化合物を含んで構成される。膜形成溶液の調製方法としては、まず、シリコンアルコキシド、触媒および非イオン性界面活性剤を含むシリカ前駆体溶液を調製する。具体的には、水とアルコール類からなる混合溶媒に、シリコンアルコキシド、触媒および非イオン性界面活性剤を加えることにより、混合溶液を調製する。この混合溶液を、25℃〜60℃で30分〜24時間攪拌することにより、シリコンアルコキシドの部分重合体を含むシリカ前駆体溶液が得られる。
【0013】
本発明の製造方法はゾルゲル法を利用するため、前記シリカ前駆体溶液には、水とアルコール類の混合溶媒を用いる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロキシフルフリルアルコールなどの脂環式アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールエチルエーテルなどのグリコール類、などを好適に使用できる。
【0014】
シリコンアルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシランなどを使用できる。また、必要に応じて、複数のシリコンアルコキシドを混合して用いてもよい。なお、本発明に用いるシリコンアルコキシドは、上述したものに限定されない。
【0015】
触媒としては、酸触媒が好適に用いられる。具体例としては、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、蟻酸、酢酸、クエン酸、メタクリル酸などが挙げられる。
【0016】
非イオン性界面活性剤は、溶液中でミセルを形成し、さらにミセル同士が相互作用により自己組織化して、周期構造を有するミセルとなる。このようなミセルは、2〜10nmという均一な大きさのメソ孔を形成するための鋳型として機能する。
また、非イオン性界面活性剤は、保護コロイドとして働き、膜形成溶液中の銀イオンを均一に分散させて、銀コロイドの形成を抑制する。
【0017】
非イオン性界面活性剤としては、トリブロックコポリマー型の非イオン性界面活性剤が好ましく用い得る。トリブロックコポリマーとしては、2つのエチレンオキサイド(EO)鎖の間に、プロピレンオキサイド(PO)鎖を有するもの(EOxPOyEOx)や、2つのエチレンオキサイド(EO)鎖の間に、ブチレンオキサイド(BO)鎖を有するもの(EOxBOyEOx)が挙げられる。
【0018】
BASF社や株式会社ADEKAから、以下のようなトリブロックコポリマー型の非イオン性界面活性剤が製造販売されている。
・Pluronic(登録商標) Lシリーズ(液状):L31(EO2PO15EO2)、L34(EO7PO15EO7)、L44(EO10PO20EO10)、L61(EO3PO30EO3)、L62(EO6PO30EO6)、L64(EO13PO30EO13)、L71(EO3PO35EO3)、L72(EO9PO35EO9)、L101(EO6PO50EO6)、L121(EO7PO60EO7
・Pluronic(登録商標) Pシリーズ(ペースト状):P65(EO20PO30EO20)、P84(EO20PO40EO20)、P85(EO25PO40EO25)、P103(EO20PO50EO20)、P105(EO37PO44EO37)、P123(EO20PO70EO20)、
・Pluronic(登録商標) Fシリーズ(フレーク状):F68(EO80PO30EO80)、F108(EO141PO106EO141)、F127(EO106PO70EO106
以下、「Pluronic(登録商標)」を省略して、単に型番のみを記す。
【0019】
このなかでも、質量平均分子量が2100〜8800の範囲で、EO/PO比が0.28〜1.3の範囲にあるトリブロックコポリマー型の非イオン性界面活性剤を用いるとよい。ここで、EO/PO比とは、EOxPOyEOxという構造式のトリブロックコポリマーにおける、xとyの比である。このような界面活性剤を用いるならば、細孔径の揃った多孔質薄膜が得られる。
トリブロックコポリマーの質量平均分子量およびEO/PO比が、細孔径分布に影響する原理については、必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように考えている。トリブロックコポリマーの質量平均分子量が、所定の範囲であれば、メソ孔を形成するのに適した大きさのミセルとなる。また、EO/PO比が、所定の範囲にあれば、溶液中におけるミセルの安定性が増して、均一な大きさのミセルとなる。これらの複合的な効果により、特に細孔径の揃ったメソ孔を形成できる。
なお、トリブロックコポリマーの質量平均分子量は、2900〜6000の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは、4000〜6000の範囲である。また、トリブロックコポリマーのEO/PO比は、0.3〜0.85の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは、0.4〜0.85の範囲である。
【0020】
本発明の製造方法において、ペースト状およびフレーク状の界面活性剤を使用する場合には、溶媒が必要となる。また、液状の界面活性剤を使用する場合にも、その粘性が高いので、溶媒が必要となる。溶媒としては、水やアルコール類が望ましく、それぞれ単独で用いてもよいし、水とアルコールの混合溶媒として用いてもよい。アルコール類としては、シリカ前駆体溶液の調製に用いられるものと同様でよい。
【0021】
つぎに、銀化合物を溶媒に添加して、銀化合物溶液を調製する。銀化合物としては、例えば、硝酸銀、過塩素酸銀、チオ硫酸銀錯体などを使用できる。溶媒としては、水が好ましい。
【0022】
前記前駆体溶液と前記銀化合物溶液を混合することにより、銀イオンを含む膜形成溶液を調製する。この膜形成溶液に含まれる非イオン性界面活性剤は、保護コロイドとして作用するため、膜形成溶液中おける銀イオンのコロイド形成を抑制できる。
ここで、前記膜形成溶液中の、シリコンアルコキシド(シリカ換算)に対する銀イオンの質量比は、得られる膜の性能に影響する。より高い抗菌性能を有する膜を製造するためには、前記質量比を0.015以上とすることが望ましい。また、より透明性に優れた膜を製造するためには、前記質量比を0.25以下とすることが望ましい。
【0023】
また、前記膜形成溶液中の、シリコンアルコキシド(シリカ換算)、水、アルコール類、酸および界面活性剤の質量比を、シリコンアルコキシド(シリカ換算):水:アルコール類:酸:界面活性剤=1:(0.3〜1):(4.4〜20):(0.2〜1):(0.3〜3)の範囲にすることが望ましい。このような膜形成溶液であれば、界面活性剤のミセル径、シリコンアルコキシドの加水分解反応の速度、塗布膜の乾燥、焼成速度などの制御がさらに容易になる。この結果、さらに安定性に優れた製造方法となるため、均質な細孔径を有する多孔質薄膜を再現性良く製造できる。
【0024】
さらには、前記膜形成溶液に含まれる、シリコンアルコキシドの固形分量(シリカ換算)を、20質量%未満とすることが望ましい。前記固形分量が、20質量%未満であれば、基材上に形成した塗布膜を焼成する際に、膜にクラックが発生する可能性はさらに低くなる。
【0025】
[膜形成溶液の塗布]
前記膜形成溶液を基材表面に塗布して、塗布膜を形成する。基材への塗布方法は、公知の方法を用いて行えばよい。例えば、スピンコート法、フローコート法、ディップ法、スプレー法などを利用できる。この中で、スピンコート法を用いれば、より均一な膜厚が得られる。
基材としては、ガラス、セラミックス、金属、プラスチック、木材、繊維、紙などが挙げられる。この中でも、特にガラスが適している。基材がガラスであれば、大面積の表面にも密着性に優れた均質な膜を形成できる。
塗布膜中の有機溶媒や水分を揮発させ、また、塗布膜の脱水縮合反応を促進させる目的で、前記塗布膜を焼成する前に、乾燥してもよい。乾燥方法としては、特に制限はなく、例えば、5℃〜25℃にて5分〜48時間という条件で実施するとよい。
【0026】
[塗布膜の焼成]
つづいて、前記塗布膜を焼成する。この焼成の過程で、塗布膜中に含まれる界面活性剤が分解、気化する。これにより、界面活性剤の存在していた箇所にメソ孔が形成されて、周期構造を有するシリカ多孔質膜が得られる。前記焼成は、350℃〜650℃という温度で実施するとよい。焼成温度が350℃以上であれば、界面活性剤の熱分解が容易に行われる。650℃以下であれば、基材がガラスの場合には、ガラスのアルカリ成分とのイオン交換により、銀微粒子がガラスの内部に拡散することがないので、添加した銀を有効に使用できる。
【0027】
本発明の製造方法により得られる抗菌性多孔質薄膜は、銀微粒子が均一に分散しているので、高い抗菌効果が得られる。
また、前記多孔質薄膜は、2〜10nmという均一な大きさのメソ孔を有するものである。メソ孔は、細孔の毛細管凝縮現象による吸湿特性を有しているため、表面から細孔内への水の吸収および排出が起こる。このような吸湿特性は、細孔径が揃っているほど、効果的に働く。
したがって、本発明の製造方法により得られる抗菌性多孔質薄膜であれば、膜内部に存在する銀微粒子も、銀イオンとして水とともに徐々に放出されるため、長期間に亘り安定して抗菌効果を発揮できる。加えて、メソ孔の調湿効果により、自律調湿膜、防曇膜としての機能も発揮できる。
【0028】
前記多孔質薄膜はゾルゲル法によるシリカ膜であるため、膜の屈折率は1.4以下となる。この値は、一般的なガラスの屈折率よりも小さい。したがって、ガラスのような基材の反射率を低減できる。例えば、この多孔質薄膜をフロートガラス上に形成した場合、反射率は4%以下になる。
【0029】
また、本発明の製造方法によれば、銀コロイドの形成を抑制できるため、得られる多孔質薄膜は、着色のない透明性に優れたものとなる。このような膜であれば、ガラスのような透明な基材に対しても、基材の持つ光透過性を損なうことなく、抗菌性を付与できる。例えば、本発明の製造方法による抗菌性多孔質薄膜をガラス基板に形成した場合には、全光線透過率は90%以上となり、ヘーズは0.5%以下になる。透過光色は、CIELAB表色系(L***表色系)で表して、90≦L*、a*=−5〜5、b*=−5〜5となる。透過光色が前記数値の範囲内であれば、十分に透明性を有していると判断される。参考までに、厚さ2mmの透明なフロートガラスの透過光色は、L*=96.3、a*=−0.6、b*=0.3である。
【0030】
引き続き、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、シリカ多孔質薄膜およびシリカ多孔質体(粉末状)の性能評価は、以下の方法で行った。
【0031】
[メソ孔形成の確認]
メソ孔形成の確認は、呼気試験により行った。一般的に、メソ孔を有する膜が形成された基板に呼気を吹きかけても、メソ孔の調湿効果により、基板は曇らない。したがって、呼気をあてて曇りが生じなければ、メソ孔が形成されていると判断できる。逆に、呼気をあてて曇りが生じれば、メソ孔が形成されていないか、界面活性剤が残っていると判断できる。
【0032】
[細孔径]
細孔径の測定試料としては、粉末状のシリカ多孔質体を用いた。
自動比表面積/細孔分布測定装置(日本ベル製、BELSORP−mini型)を用いて、N2ガス吸着法により測定試料の等温吸着曲線を測定した。この等温吸着曲線にBJH法(Barrett-Joyner-Halenda法)を適用して、細孔容積分布を求めた。この細孔容積分布について、細孔の形状を真球と仮定して、細孔個数分布に換算した。
【0033】
[空孔率]
エリプソメトリ(溝尻光学工業所製、DVA−FL型)を用いて、シリコンウエハ基板に形成した多孔質シリカ膜の屈折率を測定した。この屈折率に、Lorentz-Lorenzモデルを適用して、空孔率を求めた。
【0034】
[色むらの有無]
色むらの有無は、目視観察により判定した。
【0035】
[ヘーズ、全光線透過率]
ヘーズおよび可視光全光線透過率は、ヘーズメータ(スガ試験機製、HGM−2DP型)によりC光源を用いて測定した。
【0036】
[反射率、透過光の色]
反射率および透過光色は、分光光度計(日立製作所製、U−4100型)にて測定した。反射率は、入射角12°の波長600nmの光を用いて測定した。透過光の色は、D65光源による視野2°の条件で測定し、CIELAB表色系(L***表色系)で表示した。
【0037】
[抗菌性能]
抗菌効果の評価は、JIS Z 2801に準拠して行った。ここで、試験菌としては、黄色ぶどう球菌および大腸菌を用い、また、各試験片への試験菌液の滴下量は、0.1mLとした。なお、JIS Z 2801では、無加工試験片(試験菌接種直後の生菌数測定用)、無加工試験片(24時間培養後の生菌数測定用)および抗菌加工試験片を、各3枚準備するところを、各1枚にして試験した。抗菌活性値は、以下の式により求めた。
R=log(B/A)−log(C/A)=log(B/C)
R:抗菌活性値
A:無加工試験片の接種直後の生菌数
B:無加工試験片の24時間培養後の生菌数
C:抗菌加工試験片の24時間培養後の生菌数
この抗菌活性値が2以上であれば、抗菌効果を有すると判断される。
【0038】
最初に、銀を含まない膜形成溶液を用いて作製した試料について、細孔の性能評価を行った。
【0039】
(予備実験1)
水4.5g、エタノール20.2g、1mol/Lの塩酸溶液0.3g、水4.5gを混合した溶液中に、テトラエトキシシラン(以下、TEOS)5.2gを添加して、60℃で2時間攪拌することにより、TEOSの部分重合体を含む前駆体溶液を調製した。
つぎに、トリブロックコポリマー型の非イオン性界面活性剤3gをエタノール27gに混合して、界面活性剤溶液を調製した。この界面活性剤溶液に前記前駆体溶液を滴下し、60℃で30分間攪拌して、膜形成溶液を調製した。
前記膜形成溶液5gを、セラミックス皿上に滴下して25℃にて24時間乾燥した後、500℃で2時間焼成して、粉体状のシリカ多孔質体を得た。
トリブロックコポリマー型の非イオン性界面活性剤の種類を変えながら、上述の操作を繰り返して行い、複数のシリカ多孔質体を得た。
【0040】
図2に、予備実験1のシリカ多孔質体の細孔個数分布を例示した。また、表1には、実施例1のシリカ多孔質体の、細孔径の評価結果を示した。図3には、細孔径の均一性と、界面活性剤のEO/PO比および分子量との関係を示した。ここで、分散率Sは、細孔個数分布の標準偏差とピーク径との比率(百分率)である。均一性については、分散率Sが10%以下のものを○(非常に均一である)、10%を超えて30%以下であるものを△(均一である)、30%を超えるものを×(均一でない)とした。分散率Sの値が小さいほど、細孔径のばらつきが小さいといえる。
【0041】
表1から分かるように、界面活性剤としてトリブロックコポリマーのような非イオン性界面活性剤を用いることにより、細孔径の揃ったメソ孔を有する多孔質体が得られた。実施例1のシリカ多孔質体は、いずれも細孔のピーク径が、ほぼ2〜4nmの範囲に入っていた。また、分散率Sは、いずれも30%以下であった。したがって、予備実験1のシリカ多孔質体には、メソ孔が形成されており、その細孔径は均一であることが確認された。
【0042】
また、表1および図3から分かるように、界面活性剤の質量平均分子量およびEO/PO比を調整することにより、細孔径の均一性がさらに向上する。具体的には、質量平均分子量が2100〜8000の範囲であり、EO/PO比が0.28〜1.3の範囲であれば、分散率Sが10%以下のシリカ多孔質体が得られる。分散率Sが10%以下であれば、細孔孔の均一性に特に優れたものとなる。質量平均分子量は、2900〜6000の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは、4000〜6000の範囲である。EO/PO比は、0.3〜0.85の範囲にあることがより好ましく、さらに好ましくは、0.4〜0.85の範囲である。また、トリブロックコポリマー型非イオン性界面活性剤の形態としては、ペースト状であること好ましい。
【0043】
以上のように、本発明であれば、細孔径の揃ったメソ孔を有するシリカ多孔質体を製造できる。細孔径の揃ったメソ孔であれば、細孔の吸湿特性はより優れたものとなる。このようなシリカ多孔質体に銀微粒子が分散していれば、膜内部に存在する銀微粒子が、銀イオンとして水とともに徐々に放出されるため、長期間に亘り安定して抗菌効果を発揮できる。
また、2〜4nmの細孔径を有する多孔質体であれば、相対湿度58〜76%の範囲で毛細管現象により吸湿し、これ以下の湿度では排湿する。したがって、細菌類の増殖が特に活発になる相対湿度80%以上の環境にはならないので、多孔質体内部から細菌が増殖することもない。
【0044】
【表1】

【0045】
(予備実験2)
水4.5g、エタノール20.2g、1mol/Lの塩酸溶液0.3g、水4.5gを混合した溶液中に、TEOS5.2gを添加して、60℃で2時間攪拌することにより、TEOSの部分重合体を含む前駆体溶液を調製した。
つぎに、トリブロックコポリマー型の非イオン性界面活性剤を0.75〜3gの範囲でエタノール27gに混合して、界面活性剤溶液を調製した。トリブロックコポリマー型の非イオン性界面活性剤としては、P105およびL64を用いた。この界面活性剤溶液に前記前駆体溶液を滴下し、60℃で30分間攪拌して、膜形成溶液を調製した。ここで、この膜形成溶液のTEOS(シリカ換算)に対する界面活性剤の質量比は、0.5〜2であった。
前記膜形成溶液を、スピンコータに装着したガラス基板上に滴下し、ガラス基板を約17回転/秒で15秒間回転させて、塗布膜を形成した。基板としては、ガラス基およびシリコンウエハ基板を用いた。この塗布膜付きのガラス基板を、25℃にて24時間乾燥した後、500℃で2時間焼成して、多孔質シリカ膜付き基板を得た。
【0046】
図4に、予備実験2のシリカ膜の、空孔率と、TEOS(シリカ換算)に対する界面活性剤の質量比との関係を示した。P105の場合には、前記質量比が1〜1.5の範囲で、シリカ膜の空孔率が最も大きくなっている。また、L64の場合には、前記質量比の増大に伴って、シリカ膜の空孔率も大きくなっている。図4から明らかなように、界面活性剤の種類および前記質量比により、シリカ膜の多孔質構造が変化することが確認された。
【0047】
(実施例1)
水およびエタノールをそれぞれ1.1gと、1mol/Lの硝酸溶液0.1gとを混合した溶液中に、界面活性剤として、P123 0.5gを添加した。この溶液に、TEOS1.7gを添加して、60℃で24時間攪拌することにより、TEOSの部分重合体を含む前駆体溶液を得た。
【0048】
つぎに、硝酸銀0.1gと水0.4gを混合して、硝酸銀水溶液を調製した。この硝酸銀水溶液を前記前駆体溶液に添加して、膜形成溶液を調製した。この膜形成溶液中のTEOS(シリカ換算)に対する銀イオンの質量比は、0.13であった。
つづいて、前記膜形成溶液を、スピンコータに装着したガラス基板上に滴下し、ガラス基板を8.33回転/秒で15秒間回転させて、塗布膜を形成した。この塗布膜付きのガラス基板を500℃で2時間焼成して、シリカ多孔質薄膜付きガラス基板を得た。このシリカ多孔質膜の膜厚は、250nmであった。
【0049】
実施例1のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板は、目視にて色むらは認められず、呼気試験にて曇りを生じなかった。このガラス基板の、全光透過率は90.8%であり、ヘーズは0.1%であった。また、透過光色は、L*=96.8、a*=0.4、b*=−0.2であり、反射率は2.9%であった。さらには、実施例1のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板の、黄色ぶどう球菌に対する抗菌活性値は4.1であり、大腸菌に対する抗菌活性値は5.7であった。
【0050】
(実施例2)
実施例1において、水0.7gおよびエタノール6.0gと、1mol/Lの硝酸溶液0.1gとを混合したこと、また、硝酸銀0.2gと水0.8gを混合して、硝酸銀水溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ多孔質薄膜付きガラス基板を得た。この膜形成溶液中のTEOS(シリカ換算)に対する銀イオンの質量比は、0.26であった。
実施例2のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板は、目視にて薄い茶褐色の色むらが認められたが、呼気試験にて曇りは生じなかった。このガラス基板のヘーズは、0.6%であった。
【0051】
(実施例3)
実施例1において、水1.4gおよびエタノール5.3gと、1mol/Lの硝酸溶液0.1gとを混合したこと、硝酸銀1.3gと水11.5gを混合して、硝酸銀水溶液を調製したこと、スピンコータの回転数を16.67回転/秒としたこと、400℃で15分焼成したこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ多孔質薄膜付きガラス基板を得た。このシリカ多孔質薄膜の膜厚は、150nmであった。
実施例3のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板は、目視にて色むらは認められず、呼気試験にて曇りを生じなかった。このガラス基板の透過光色は、L*=97.3、a*=−0.2、b*=1.1であった。
【0052】
(実施例4)
実施例3において、450℃で15分焼成したこと以外は、実施例3と同様にしてシリカ多孔質薄膜付きガラス基板を得た。
実施例4のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板は、目視にて色むらは認められず、呼気試験にて曇りを生じなかった。このガラス基板の透過光色は、L*=97.2、a*=−0.2、b*=1.1であった。
【0053】
(実施例5)
実施例3において、500℃で15分焼成したこと以外は、実施例3と同様にしてシリカ多孔質薄膜付きガラス基板を得た。
実施例5のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板は、目視にて色むらは認められず、呼気試験にて曇りを生じなかった。このガラス基板の透過光色は、L*=96.9、a*=0.0、b*=1.0であった。
【0054】
(実施例6)
実施例3において、水0.5gおよびエタノール7.2gと、1mol/Lの塩酸溶液0.1gとを混合したこと、硝酸銀水溶液を混合しなかったこと、350℃で1時間焼成したこと以外は、実施例3と同様にしてシリカ多孔質薄膜付きガラス基板を得た。このシリカ多孔質薄膜の膜厚は、150nmであった。
実施例6のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板は、呼気試験にてわずかに曇りを生じた。
【0055】
(実施例7)
実施例6において、200℃で1時間焼成したこと以外は、実施例6と同様にしてシリカ多孔質薄膜付きガラス基板を得た。
実施例7のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板は、呼気試験にて曇りを生じた。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、硝酸銀水溶液の代わりに水を前駆体溶液に添加したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ多孔質薄膜付きガラス基板を得た。
比較例1のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板は、目視にて色むらは全く認められず、呼気試験にて曇りを生じなかった。このガラス基板の、全光透過率は91.2%であり、ヘーズは0.2%であった。また、透過光色は、L*=96.9、a*=−1.1、b*=0.3であり、反射率は3.6%であった。さらには、比較例1のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板の、黄色ぶどう球菌に対する抗菌活性値は0.5であり、大腸菌に対する抗菌活性値は1.0であった。
【0057】
(比較例2)
実施例1において、界面活性剤の代わりにエタノールを添加したこと以外は、実施例1と同様にしてシリカ多孔質薄膜付きガラス基板を得た。
比較例2のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板は、目視にて茶褐色の色むらが認められ、呼気試験にて曇りを生じた。このガラス基板の、全光透過率は53.5%であり、ヘーズは10.1%であった。また、透過光色は、L*=96.5、a*=−0.6、b*=0.0であり、反射率は3.8%であった。さらには、比較例2のシリカ多孔質薄膜付きガラス基板の、黄色ぶどう球菌に対する抗菌活性値は3.8であり、大腸菌に対する抗菌活性値は5.7であった。
【0058】
前記実施例および比較例の結果から、以下のことが分かる。
銀化合物を添加しなかった比較例1の場合、抗菌活性値は2未満であり、抗菌効果が低かった。これに対して、銀化合物を添加した実施例1の場合、抗菌活性値は2を大幅に超えており、黄色ぶどう球菌や大腸菌などの細菌に対する、極めて高い抗菌効果が確認された。
【0059】
界面活性剤を添加しなかった比較例2の場合、銀コロイドの形成により、色むらを生じて膜の透明性が低下した。これに対して、界面活性剤を添加した実施例1の場合、銀コロイドの形成が抑制されて、色むらのない透明性に優れた膜が得られた。
また、膜形成溶液中のTEOS(シリカ換算)に対する銀イオンの質量比が、0.25を超えた実施例2に比較して、0.25以下であった実施例1の方が、膜の透明性が高かった。したがって、前記質量比が0.25以下であれば、より透明性の高い膜が得られることが確認された。
【0060】
界面活性剤を添加しなかった比較例2の場合、呼気試験にて曇りを生じ、メソ孔が形成されなかった。これに対して、界面活性剤を添加した実施例1の場合、呼気試験にて曇りを生じず、メソ孔の形成が確認された。
また、焼成温度が350℃未満であった実施例7の場合、呼気試験にて曇りを生じた。これに対して、焼成温度が350℃以上であった実施例3〜6の場合、呼気試験にて曇りを生じなかった。したがって、焼成温度が350℃以上であれば、界面活性剤が完全に分解されて、確実にメソ孔が形成されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の工程を説明するブロック図である。
【図2】実施例1の細孔個数分布を示す図である。
【図3】細孔径の均一性と、界面活性剤のEO/PO比および分子量との関係を説明する図である。
【図4】空孔率と、TEOS(シリカ換算)に対する界面活性剤の質量比との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンアルコキシド、触媒および非イオン性界面活性剤を含むシリカ前駆体溶液に、銀化合物を添加して膜形成溶液を調製し、該膜形成溶液を基材に塗布して、焼成することを特徴とする抗菌性多孔質薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤として、トリブロックコポリマー型の非イオン性界面活性剤を用いる請求項1に記載の抗菌性多孔質薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記トリブロックコポリマーとして、2つのエチレンオキサイド鎖の間にプロピレンオキサイド鎖を有する構造を有し、質量平均分子量が2100〜8800であり、前記プロピレンオキサイドの繰り返し数に対する前記エチレンオキサイドの繰り返し数の比が0.28〜1.3であるトリブロックコポリマーを用いる請求項2に記載の抗菌性多孔質薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記膜形成溶液中における、シリコンアルコキシド(シリカ換算)に対する非イオン性界面活性剤の質量比を、0.3〜3とする請求項1に記載の抗菌性多孔質薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記膜形成溶液中における、シリコンアルコキシド(シリカ換算)に対する銀イオンの質量比を、0.015〜0.25とする請求項1に記載の抗菌性多孔質薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記焼成の温度を、350℃〜650℃とする請求項1に記載の抗菌性多孔質薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記基材を、ガラスとする請求項1に記載の抗菌性多孔質薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−260718(P2008−260718A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104811(P2007−104811)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】