説明

抗菌抗カビ消臭機能を備える無機成形体及びその製造方法

【課題】 高い抗菌、抗カビ、消臭性能と調湿性を兼ね備える優れた無機成形体、及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の無機成形体は、炭酸カルシウムと、ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカとを主成分とする無機成形体であって、窒素ガス吸着法により測定した比表面積が80m/g以上250m/g以下であり、直径5nm以下の領域および直径50nm以上1000nm以下の領域にそれぞれピークが存在する細孔径分布を有し、かつ、炭酸カルシウムまたは非晶質シリカに抗菌抗カビ消臭性金属のイオンが担持されているものである。このような無機成形体は、ケイ酸カルシウムを主成分とする原料粉末に抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを接触させてカルシウムイオンを抗菌抗カビ消臭性金属のイオンに置換した後、成形して炭酸ガス雰囲気下で養生(炭酸化処理)することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌抗カビ消臭機能を備える無機成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調湿建材は空気中の湿気を吸着するものであるため、細菌やカビ等の微生物の繁殖が生じにくいものであることが望まれる。また、多孔性であることから悪臭成分を吸着し、シックハウス症候群の予防等に寄与することが期待される。
【0003】
従来、抗菌、抗カビ、消臭性能を付与した調湿建材として、金属イオンを担持したゼオライトをセメントおよび水溶性樹脂と混合して成形したもの(特許文献1)、金属イオンを担持したゼオライトを牡蠣殻粉末およびセピオライトと混合して焼成したもの(特許文献2)等が開発されている。
【特許文献1】特開平3−109244号公報
【特許文献2】特開平8−310881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のようなコンクリート材では、アンモニア等のアウトガスが発生するため、特に美術館や半導体工場等、アウトガスの影響に敏感な場所への適用には不向きである。また、セメント自体は調湿性に乏しいため、必要な調湿性能を確保しようとしてゼオライトの含有量を増やすと、相対的なセメント含有量の低下によって材の強度が低下するおそれがある。
【0005】
また、特許文献2のように高温の焼成プロセスを経る焼結体では、焼結が充分に進行する程度の高温で加熱を行うと、担持される金属の溶融・蒸発、酸化、担持体成分との化学反応等によって、金属の持つ抗菌抗カビ消臭性能が損なわれたり、担持体の持つ細孔構造が変化して調湿性能が損なわれたりすることがある。一方、金属の溶融や化学反応等が起こらない程度の低温で焼成を行おうとすれば、焼結が充分に進行せず充分な強度が得られなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い抗菌、抗カビ、消臭性能と調湿性を兼ね備える優れた無機成形体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ケイ酸カルシウム化合物を炭酸化処理して得られる炭酸硬化体が優れた調湿性能を発揮することを見出し、特許を取得している(例えば特許第3065607号、特許第3212588号)。本発明者らは、高い抗菌、抗カビ、消臭性能と調湿性を兼ね備える優れた無機成形体、及びその製造方法を開発すべく鋭意研究する過程で、この炭酸硬化体に抗菌、抗カビ、消臭性能を有する金属を担持させたところ、極めて優れた抗菌、抗カビ、消臭性能が発揮され、かつ、炭酸硬化体がもともと有する調湿性能、強度などの特性を殆ど損なうことがないことを見出した。
【0008】
抗菌、抗カビ作用のメカニズムは、以下のようである。菌・カビが炭酸硬化体表面に付着ないし細孔内部に進入すると、抗菌抗カビ消臭性金属のイオンが菌・カビの細胞膜および膜タンパク質、酵素、DNAに結合してこれらの立体構造に損傷を与え、機能障害を引きおこすものと考えられる。
また、消臭作用のメカニズムは、以下のようである。抗菌抗カビ消臭性金属のイオンは非常に還元性が高く、硫化物や有機物(特にチオール基、カルボキシル基、フェノール水酸基、スルフォン基)との高い反応性を示して、臭気成分を変質させる。
特に、本発明者らのこれまでの研究により、ケイ酸カルシウム化合物を炭酸化処理することにより得られた炭酸カルシウムと非晶質シリカとを主成分とする炭酸硬化体は、細孔径分布において直径5nm以下のミクロ〜メソ領域と直径50nm以上1000nm以下のマクロ領域にそれぞれピークを示すという特徴的なマクロ/メソ二元細孔構造を有することが分かっている。このような細孔構造を有する無機成形体に抗菌、抗カビ、消臭性能を有する金属を担持させると、きわめて優れた消臭性能を発揮する。そのメカニズムは、以下のようであると考えられる。
【0009】
金属を担持させた無機成形体を臭気成分を含む雰囲気中に置くと、臭気成分が細孔内に進入して細孔内面に吸着され、そこに担持されている金属の消臭作用を受ける。ここで、直径50nm〜1000nmのマクロ孔は、無機成形体の表面における開口面積を増大させ、臭気成分の細孔内への速やかな取り込みに寄与する、という応答性向上の効果を有する。一方、直径5nm以下のミクロ〜メソ孔は、炭酸硬化体の比表面積を増大させ、臭気成分との接触面積を増やすことに寄与する、という臭気成分の無機成形体への吸着量増大効果を有する。
【0010】
すなわち、マクロ孔のみを有する無機成形体であると、表面の開口面積が大きいため臭気成分をすみやかに細孔内に取り込むことはできるが、ミクロ〜メソ孔を含む無機成形体と比べて比表面積が小さいため、単位体積あたりの吸着可能な臭気成分の量は相対的に少なくなる。一方、ミクロ〜メソ孔のみを有する無機成形体であると、比表面積が大きいため単位体積あたりの臭気成分の吸着可能な量は理論的には大きいのであるが、現実には開口面積が小さいため臭気成分が細孔内までなかなか浸透していかず、特に初期における吸着速度が低い。これに対し、マクロ孔とミクロ〜メソ孔との双方を有する炭酸硬化体では、まず、マクロ孔の存在によって表面の開口面積を確保できるため、臭気成分が速やかに細孔内に取り込まれていく。そして、取り込まれた臭気成分は、細孔内面に吸着され、そこに担持されている金属イオンの消臭作用を受ける。このとき、マクロ孔の内表面には多数のミクロ〜メソ孔が開口され、その比表面積が大きくなっているから、臭気成分と担持されている金属との接触面積が大きくなり、単位時間当たりの処理量の増大が期待できる。このように、マクロ孔による応答性の向上とミクロ〜メソ孔による吸着面積増大との相乗効果によって、マクロ孔のみ、あるいはミクロ〜メソ孔のみを有する無機成形体に比べて消臭性能を著しく向上させることができるのである。
本発明は、かかる新規な知見に基づいてなされたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、炭酸カルシウムと、ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカとを主成分とする無機成形体であって、窒素ガス吸着法により測定した比表面積が80m/g以上250m/g以下であり、直径5nm以下の領域および直径50nm以上1000nm以下の領域にそれぞれピークが存在する細孔径分布を有し、かつ、前記炭酸カルシウムまたは前記非晶質シリカに抗菌抗カビ消臭性金属のイオンが担持されていることを特徴とする。
【0012】
ここで、「ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカ」とは、ケイ酸カルシウム化合物から炭酸化反応等によって得られる非晶質シリカであって、元のケイ酸カルシウム化合物の形状をほぼ維持しているものをいう。例えば、トバモライトを炭酸化することで得られる非晶質シリカは六角板状または笹の葉のような細長い板状をなし、低結晶質ケイ酸カルシウム水和物(CSH)から得られる非晶質シリカはアルミホイルをくしゃくしゃにしたような形状をなし、ゾノトライトから得られる非晶質シリカは針状をなす。非晶質シリカがケイ酸カルシウム化合物を起源とするか否かは、得られた非晶質シリカを走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)により観察して、元のケイ酸カルシウム化合物の形状が存在するかどうかを確認することにより知ることができる。
【0013】
このような無機成形体を製造する方法は、例えば以下のようである。まず、ケイ酸カルシウム化合物を主成分とする粉末に抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む水溶液を混合して、ケイ酸カルシウムに含まれるカルシウムイオンの少なくとも一部が金属のイオンに置換された金属担持粉末を得る。この後、この金属担持粉末を単独で、あるいは金属のイオンを担持しないケイ酸カルシウム粉末に添加して水とともに混錬し、成形、炭酸化処理を行うことにより成形体を得る。
すなわち、ケイ酸カルシウム化合物に抗菌、抗カビ、消臭性能を有する金属のイオン含む水溶液を接触させると、ケイ酸カルシウム化合物に含まれるカルシウムイオンがこの金属のイオンに置換される。そして、このケイ酸カルシウム化合物を成形・炭酸化処理すると、非晶質シリカの細孔中に金属イオンが担持された炭酸硬化体を得ることができる。
なお、金属担持粉末を調製する際には、必要に応じて洗浄ろ過を施し、余剰の成分を洗い流しても良い。
【0014】
また、金属担持粉末を調製する際に、ケイ酸カルシウム化合物を主成分とする粉末に代えて、炭酸カルシウムと、ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカとを主成分とする粉末を使用しても良い。この場合、得られた金属担持粉末自体は水硬性および炭酸硬化性を有しないため、この金属担持粉末をケイ酸カルシウム粉末に添加して水とともに混錬し、成形、炭酸化処理を行うことにより成形体を得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明の無機成形体によれば、ケイ酸カルシウム化合物を炭酸化処理して得られる炭酸硬化体を、抗菌、抗カビ、消臭作用を有する金属を担持させたものとすることにより、高い抗菌、抗カビ、消臭性能と調湿性を兼ね備える優れた無機成形体を提供することができる。
特に、この種の炭酸硬化体はマクロ/メソ二元細孔構造を有するから、優れた消臭作用を発揮する。すなわち、マクロ孔の存在によって表面の開口面積を確保できるため、臭気成分が速やかに無機成形体の細孔内に取り込まれていく。そして、取り込まれた臭気成分は、担持されている金属イオンの消臭作用を受ける。このとき、マクロ孔の内表面には多数のミクロ〜メソ孔が開口され、その比表面積が大きくなっているから、臭気成分と担持されている金属との接触面積が大きくなり、単位時間当たりの処理量の増大が期待できる。このように、マクロ孔による応答性の向上とミクロ〜メソ孔による吸着面積増大との相乗効果によって、マクロ孔のみ、あるいはミクロ〜メソ孔のみを有する無機成形体に比べて優れた消臭性能を発揮させることができる。
また、母材が炭酸カルシウムと非晶質シリカとを主成分とする中性の材料であるから、取り扱いが容易であり、コンクリート等のように周囲の環境に悪影響を与える成分を放出することもない。さらに、原料のケイ酸カルシウム化合物は安価であるため、優れた抗菌抗カビ消臭性無機成形体を安価に提供することができる。
さらに、抗菌抗カビ消臭性金属を、成形体を構成する炭酸カルシウムまたは非晶質シリカの構造中に直接に担持させるので、成形体を構成する成分とは別種の担持材の存在によって成形体の強度、調湿性能等を損なうおそれもない。
【0016】
また、本発明の無機成形体の製造方法によれば、原料粉末、または原料粉末に添加される担持体粉末中のカルシウムイオンをイオン交換により抗菌抗カビ消臭性金属に置換しておき、その後に炭酸化処理を施すことにより、抗菌抗カビ消臭性金属を、成形体を構成する炭酸カルシウムまたは非晶質シリカの構造中に直接に担持させる。このため、単に細孔内表面に金属を付着させた場合と異なり、金属イオンの溶出が抑制される。これにより、長期間にわたって抗菌、抗カビ、消臭作用を維持できるとともに、溶出した金属イオンによる周囲環境の汚染を防止できる。また、成形体中への金属のより均一な分散が可能となる。
加えて、炭酸化処理という比較的低温のプロセスを採用するため、焼成等の高温プロセスを経る方法と比較して、担持される抗菌抗カビ消臭性金属の溶融、化学反応等が起こらない範囲で硬化反応を進行させ、充分な強度を有する成形体を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
1. 無機成形体
本発明の無機成形体は、炭酸カルシウムと、ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカとを主成分とする無機成形体であって、窒素ガス吸着法により測定した比表面積が80m/g以上250m/g以下であり、直径5nm以下の領域および直径50nm以上1000nm以下の領域にそれぞれピークが存在する細孔径分布を有し、かつ、炭酸カルシウムまたは非晶質シリカに抗菌抗カビ消臭性金属のイオンが担持されているものである。
【0018】
本発明の無機成形体は、ケイ酸カルシウム化合物を炭酸化処理して得られる炭酸硬化体であって、抗菌、抗カビ、消臭作用を有する金属が担持されているものである。このような無機成形体は、高い抗菌、抗カビ、消臭性能と調湿性を兼ね備えたものである。
特に、この種の炭酸硬化体はマクロ/メソ二元細孔構造を有するから、特に消臭作用が著しく向上する。すわなち、直径50nm以上のマクロ孔が臭気成分を速やかに無機成形体の細孔内に浸透させる役割を果たし、直径2〜50nmのメソ孔、または直径2nm以下のミクロ孔が臭気成分の吸着面積増大の役割を果たす。
【0019】
本発明において、抗菌抗カビ消臭性金属としては、抗菌性、抗カビ性、消臭性を有する金属であれば特に制限はなく、例えば銀、銅、および亜鉛が挙げられる。これらの金属は、1種のみで使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。さらに、銀が安全性の面からもっとも好ましい。無機成形体への抗菌抗カビ消臭性金属の担持率は、無機成形体の全重量に対して0.005重量%以上0.5重量%以下であることが好ましい。
【0020】
2. 無機成形体の製造方法
2.1 材料
1)原料粉末
ケイ酸カルシウム化合物を主成分とする原料粉末としては、トバモライトを主成分としたものを使用することが好ましい。ケイ酸カルシウムは炭酸化によって炭酸カルシウムと非晶質シリカに変化し、特にトバモライトでは、炭酸カルシウムとして、最も安定なカルサイトとともに非常に微細な粒子であるバテライトが生成する。バテライトは微細な生成物であり、これと微細孔を持つ非晶質シリカとによって非常に大きな比表面積を実現する。これにより、得られる無機成形体はマクロ孔とミクロ〜メソ孔を備えるという特徴的な細孔径分布を有することとなり、優れた抗菌抗カビ消臭性能を発揮する。ケイ酸カルシウム原料としては、例えば純合成したトバモライトを使用することもできるが、特に、リサイクルの観点、および品質が安定していることから、軽量気泡コンクリート(ALC)粉末を使用することが好ましい。
【0021】
原料粉末の粒径は、製造工程の効率化、および得られる無機成形体の物性への影響に鑑みて、0.1μm以上1mm以下とすることが好ましい。粒径が1mmを超えると、後述のイオン交換あるいは炭酸化処理において金属イオンあるいは炭酸ガスが粒子の内部に浸透するまでに長時間を要する。一方、0.1μm以下の場合には、工程中に洗浄工程が存在する場合において、洗浄ろ過が困難となる。
【0022】
2)担持体粉末
担持体粉末としては、上記した原料粉末と同種のケイ酸カルシウム化合物を主成分とするものを使用することができる。
また、ケイ酸カルシウム化合物があらかじめ炭酸化されたもの、すなわち、炭酸カルシウムと、ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカとを主成分とする粉末を使用しても良い。特に、リサイクルの観点から、本発明の無機成形体の廃材、あるいは使用中に空気中の二酸化炭素によって経時的に炭酸化されたケイ酸カルシウム建材の廃材等を使用することが好ましい。
【0023】
3)抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む水溶液
抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む水溶液としては、目的の抗菌抗カビ消臭性金属イオンを含む塩の水溶液を使用することができる。金属イオンを含む塩としては、例えば目的の金属が銀である場合には、硝酸銀、硫酸銀、過塩素酸銀、酢酸銀、ジアンミン銀硝酸塩、ジアンミン銀硫酸塩等を、目的の金属が銅である場合には、硝酸銅、硫酸銅、過塩素酸銅、酢酸銅、テトラシアノ銅酸カリウム等を、また目的の金属が亜鉛である場合には、硝酸亜鉛(II)、硫酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、チオシアン酸亜鉛、酢酸亜鉛等を使用することができる。
また、水溶液のpHを3以上10以下に調整しておくことが好ましく、5以上7以下に調整しておくことがより好ましい。このように調整することによって、金属の酸化物がケイ酸カルシウム化合物の表面または細孔内部へ析出することを抑制できる。
【0024】
2.2 製造方法
以下には、上記のような無機成形体を製造する方法について、3つの例を挙げて説明する。
【0025】
2.2.1 第1の製造方法(請求項5の発明に相当)
図1には、無機成形体を得るための第1の製造方法の工程図を示した。
まず、ケイ酸カルシウムを主成分とする原料粉末に抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む水溶液を加えて混合する(混錬工程)。混合は、撹拌容器の内部にアジテータ等の撹拌部材を備えた通常のミキサ等を用いて行うことができる。この工程では、原料粉末の含水率が後述の成形および炭酸化処理を円滑に行わせることが可能な程度に調整されるとともに、ケイ酸カルシウムに含まれるカルシウムイオンの少なくとも一部が、抗菌抗カビ消臭性金属のイオンと陽イオン交換することにより置換される。
【0026】
水溶液に含まれる金属イオンの適切な濃度は、0.01重量%以上5.0重量%以下である。また、このとき、原料粉末に対する水溶液の適切な添加率は、原料粉末の乾燥重量に対し、10〜50重量%であることが好ましい。
炭酸化による若干の重量変動があるものの、得られる成形体における金属の担持率は原料粉末に加えた金属イオンの量にほぼ相関するから、上記の金属イオン濃度および添加率であると、得られる成形体における金属の担持率は最小(金属イオン濃度0.01重量%、添加率10重量%の場合)で約0.001重量%、最大(金属イオン濃度5.0重量%、添加率50重量%の場合)で約2.5重量%となる。さらに、より好ましい金属の担持率は0.005重量%以上0.5重量%であるので、この範囲内に入るように金属イオン濃度および添加率を調整することが好ましい。
また、水溶液の添加率が10重量%以下であると、水分が少な過ぎるためプレス成形において成形物の強度が得られないとともに、炭酸化工程において炭酸化反応が充分に進行しない。一方、添加率が50重量%以上であると、水分が多すぎるためプレス成形に時間がかかるとともに、脱水プレスとなるためカルシウム成分及び金属イオンが流出したり、成形体において層間剥離を発生させる原因となったりする。
【0027】
なお、この混錬工程において、原料粉末中に含まれるカルシウムイオンと水溶液中の金属塩との反応によって、カルシウム塩(例えば、金属塩が硝酸塩である場合には硝酸カルシウム)が生成する。このカルシウム塩は、その種類、性質に応じて形成される無機成形体にさまざまな影響を及ぼすと考えられるため、その影響を考慮して使用する金属塩の種類、水溶液の濃度、原料粉末への添加量等を決定することが好ましい。
【0028】
混合が終了したら、得られた混錬物を成形する(成形工程)。成形方法には特に制限はなく、例えば一軸プレス成形法によって行うことができる。成形圧力は5〜40MPaとすることが好ましい。5MPa未満では成形物の強度が得られず、その後のハンドリングが困難になるとともに、炭酸化処理後の成形体の強度も充分ではない。また、40MPaを超えるとでは大規模なプレス機が必要となるため製造コストが増大し、また成形体において層間剥離が生じやすくなる。
【0029】
次いで、得られた成形物を炭酸ガス雰囲気下で養生する(炭酸化処理工程)。炭酸化処理は、成形物を例えば養生用の釜内において炭酸ガスと接触させ、炭酸化反応を起こさせることにより行なう。
【0030】
ここで、炭酸ガスとしては、純度100%の二酸化炭素を用いてもよく、他の気体と混合された混合ガスを用いてもよい。具体的には、市販の液化炭酸ガスまたはドライアイスを気化したもの、燃焼ガス、排気ガス等を用いることができる。混合ガスを用いる場合には、炭酸ガス濃度が高いほど反応が早く進行するため、二酸化炭素濃度が高いほど好ましい。具体的には、二酸化炭素濃度が3%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。炭酸ガス濃度が3%以下では、反応速度が遅くなりすぎ、工業的には適切でない。混合ガスを用いる場合に、混合される他の気体としては、窒素等の不活性ガス、酸素等が好ましい。また排気ガスを使用する場合には、脱硫・脱硝・集塵処理を行なったものを使用することが好ましい。
【0031】
また、反応温度は特に限定しないが、成形物中の水分が炭酸化反応を促進することから、成形物中に水分が存在する状態、すなわち0℃以上100℃以下とすることが好ましい。特に炭酸化反応が促進されるのは反応温度30〜80℃の場合であるが、炭酸化反応は発熱を伴ない、これにより釜内温度が上昇するため、反応開始時における釜内の温度をおおよそ60℃以下とすることが望ましい。また、炭酸養生中の圧力も反応速度に大きく影響する。圧力が高いほど反応が促進するが、工業的には2MPa以下で行うのが好ましい。
【0032】
さらに、炭酸化反応を効率的に行うには、釜内への炭酸ガスの流入に先立ち予め釜内を真空にする真空工程を設けることで、処理粉粒体中の空気を抜き、この後に高濃度の炭酸ガスを釜内へ流入させるといった方法が適用できる。
【0033】
この炭酸化反応により、ケイ酸カルシウム中のカルシウム成分が炭酸カルシウムとなって抜け出す。炭酸カルシウムとしては、最も安定なカルサイトだけではなく、微細なバテライトも生成する。また、ケイ酸カルシウムにおいてカルシウムイオンが存在していた部分は微細な空隙となり、元のケイ酸カルシウムの骨格を維持するとともに細孔を多数有する非晶質シリカができる。このとき、混錬工程においてカルシウムイオンと置換された金属イオンは、一部がカルシウム成分とともに抜け出すが、多くは非晶質シリカ中に残留する。これにより、細孔径分布において直径5nm以下のミクロ〜メソ領域と直径50nm以上1000nm以下のマクロ領域にそれぞれピークを示すという特徴的なマクロ/メソ二元細孔構造を有し、かつ、炭酸カルシウムまたは非晶質シリカに抗菌抗カビ消臭性金属のイオンが担持されている無機成形体が得られる。
【0034】
なお、この炭酸化工程は、常温〜100℃程度で進行するものである。したがって、焼成等の高温プロセスを経る方法と異なり、担持される抗菌抗カビ消臭性金属の溶融、化学反応等を生じない程度の低い温度で充分に硬化反応を進行させ、建材として充分な強度を有する成形体を形成することができる。
得られた無機成形体は乾燥後、製品として出荷される。
【0035】
この第1の製造方法は最も単純なプロセスであって、既存の炭酸硬化体の製造設備をそのまま用いて行うことができるから、無機成形体を安価に提供することができる。
【0036】
2.2.2 第2の製造方法(請求項7の発明に相当)
図2には、無機成形体を得るための第2の製造方法の工程図を示した。
まず、原料粉末に水を加えてスラリーとし、このスラリーに抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む水溶液を加えて攪拌する。この工程では、ケイ酸カルシウムに含まれるカルシウムイオンの少なくとも一部が、抗菌抗カビ消臭性金属のイオンと陽イオン交換することにより置換される(イオン交換工程)。ここで、原料粉末を流動性の高いスラリーとした状態でイオン交換を行うことにより、金属イオンを原料粉末中に均一に分散させることができる。
【0037】
スラリーの攪拌は、例えば撹拌容器の内部にアジテータ等の撹拌部材を備えた通常のミキサ等を用いて、バッチ式または連続式で行うことができる。混合温度は、10℃以上80℃以下とすることが好ましい。また、混合時間は3時間以上24時間以下とすることが好ましい。なお、水溶液中の金属イオン濃度は、最終的に得られる無機成形体中の金属の担持率が0.005〜0.5重量%となるように適宜調整することが好ましい。
【0038】
イオン交換が終了したら、得られた金属担持原料粉末を吸引ろ過しながら水洗し、余剰の金属塩や、金属塩とカルシウムとの反応により生じたカルシウム塩を除去する(洗浄工程)。洗浄は、例えば抗菌抗カビ消臭性金属のイオンが銀イオンである場合には、ろ液に例えば塩酸や塩化ナトリウム水溶液を滴下して塩化銀による白濁が生じなくなるまで充分に行なうことが好ましい。
【0039】
洗浄が終了したら、金属担持原料粉末を、後述の成形および炭酸化処理を円滑に行わせることが可能な程度の含水率となるまで乾燥する(含水率調整工程)。乾燥は、常圧下で105℃〜110℃、あるいは減圧(1〜30Torr)下で70℃〜90℃で行なうことが好ましい。
【0040】
含水率調整工程が終了したら、金属担持原料粉末を、上記した第1の製造方法と同様にして成形、炭酸化処理した後、乾燥して無機成形体を得る。
【0041】
この方法では、イオン交換工程において、原料粉末に抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む水溶液を加えて流動性の高いスラリーとしているので、金属イオンをスラリー中で均一に分散することができ、原料粉末全体に均等にイオン交換を行なわせることができる。したがって、無機成形体の全体にわたって抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを均一に担持させることができる。
【0042】
また、イオン交換後の金属担持原料粉末を洗浄して成形、炭酸化工程に供しているから、カルシウム塩等の副生成物や残留する金属塩の影響を排除することができ、品質の安定した無機成形体を供給できる。
【0043】
2.2.3 第3の製造方法(請求項8および請求項9の発明に相当)
図3には、無機成形体を得るための第3の製造方法の工程図を示した。
まず、担持体粉末に水を加えてスラリーとし、このスラリーに抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む水溶液を加えて攪拌する。この工程では、ケイ酸カルシウムに含まれるカルシウムイオンの少なくとも一部が、抗菌抗カビ消臭性金属のイオンと陽イオン交換することにより置換され、金属担持粉末が得られる(イオン交換工程)。攪拌は、通常のミキサ等を用いて上記第2の製造方法のイオン交換工程と同様の条件で行うことができる。
【0044】
イオン交換が終了したら、得られた金属担持粉末を洗浄、乾燥する(洗浄乾燥工程)。洗浄及び乾燥は上記した第2の製造方法と同様にして行えばよい。但し、金属担持粉末の含水率については本工程で特に調整する必要はない。
【0045】
次に、得られた金属担持粉末をケイ酸カルシウム化合物を主成分とする原料粉末に添加し、水を加えて混合する(混錬工程)。混合は、通常のミキサ等を用いて、上記した第1の製造方法の混錬工程と同様の条件で行うことができる。なお、原料粉末への金属担持粉末の添加量は、金属担持粉末における金属イオンの担持量、最終的な無機成形体において目標とする金属イオンの担持率を考慮して決定すれば良い。
【0046】
混錬工程が終了したら、得られた混錬物を、上記した第1の製造方法と同様にして成形、炭酸化処理した後、乾燥して無機成形体を得る。
【0047】
この方法は、あらかじめ少量の担持体粉末に金属を担持させて金属担持粉末を調製し、これを原料粉末に混合する方法であるから、大量の水を使用し、設備が大型化しがちなイオン交換工程・洗浄工程を、第2の製造方法に比べて小規模化することができる。これにより、製造工程の複雑化、コストの上昇を回避することができる。また、洗浄・乾燥工程終了後に金属担持粉末における金属イオンの担持量を測定し、その測定値に基づいて原料粉末への金属担持粉末の添加量を決定すれば、最終的な無機成形体における金属イオンの担持率のコントロールを確実に行うことができる。
【0048】
3.作用効果
上記のような無機成形体を調湿性のある建築材として、例えば建物の内装に使用すると、雰囲気中の菌・カビ・臭気成分等の被処理物は無機成形体の表面あるいは細孔中に付着若しくは吸着され、金属の抗菌、抗カビ、消臭作用を受ける。
特に、無機成形体のもつマクロ/メソ二元細孔構造によって優れた消臭作用が発揮される。すなわち、マクロ孔の存在によって表面の開口面積が確保されるため、臭気成分が速やかに無機成形体の細孔中に取り込まれていく。そして、取り込まれた臭気成分は、担持されている金属イオンの消臭作用を受ける。このとき、マクロ孔の内表面には多数のミクロ〜メソ孔が開口し、比表面積が大きくなっているから、担持されている金属と臭気成分との接触面積が大きくなり、単位時間当たりの処理量の増大が期待できる。このように、マクロ孔による応答性の向上とミクロ〜メソ孔による吸着面積増大との相乗効果によって、マクロ孔のみ、あるいはミクロ〜メソ孔のみを有する無機成形体に比べて消臭性能を著しく向上させることができる。
【0049】
また、母材が炭酸カルシウムと非晶質シリカとを主成分とする中性の材料であるから、取り扱いが容易であり、コンクリート等のように周囲の環境に悪影響を与える成分を放出することもない。さらに、原料のケイ酸カルシウム化合物は安価であるため、優れた抗菌抗カビ消臭性無機成形体を安価に提供することができる。
【0050】
さらに、抗菌抗カビ消臭性金属を、成形体を構成する炭酸カルシウムまたは非晶質シリカの構造中に直接に担持させるので、成形体を構成する成分とは別種の担持材の存在によって成形体の強度、調湿性能等を損なうおそれもない。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0052】
[第1の製造方法に対応する実施例群]
<実施例1>
1.無機成形体の作成
(1)原料
原料粉末としては、ALC切削粉体の0.8mmフルイ通過分を使用した。なお、詳細にデータは示さないが、このALC切削粉体はCaO/SiO比が0.45であり、粉末X線回折分析によりトバモライトを含むことが確認されたものである。
抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む塩として、硝酸銀特級試薬(米山化学工業)を使用した。
【0053】
(2)無機成形体の作成
ALC切削粉体100重量部に硝酸銀水溶液35重量部を加えて攪拌した。なお、水溶液中の硝酸銀濃度は、この後の炭酸化処理による重量増加分を鑑み、目的の無機成形体における銀イオンの担持率(無機成形体の全重量に対する銀の重量)が0.005重量%となるように調整した。
得られた混錬物を300mm×300mm型枠に充填してから、20MPaの圧力で厚さ8mmとなるようプレス成形した。
続いて、得られた成形物を炭酸化処理した。成形物を密閉容器中に入れ、真空ポンプで容器内を脱気した後、市販の純度99.5%の炭酸ガスを容器内に圧力0.2MPaとなるまで導入し、初期温度25℃で18時間保持して炭酸化反応を行なわせ、目的の無機成形体を得た。
【0054】
2.試験
(1)分析
得られた無機成形体をメノウ乳鉢で粉砕し、粉末X線回折法による解析を行った。
また、無機成形体の比表面積および細孔径分布をマイクロメリテックス アサップ 2400((株)島津製作所製)を用いて窒素吸着法で測定した。
かさ密度をJIS A 5416に従って測定した。
無機成形体中の銀の担持率は、無機成形体の全重量と銀の重量から下記式(1)によって求めた。
担持率(重量%)=銀の重量/無機成形体の全重量 …(1)
【0055】
(2)調湿試験
JIS A 1324に準じて湿気伝導率を、JIS A 1470−1「吸放湿試験」の中湿域条件に従って吸放湿量を測定した。
【0056】
(3)強度
無機成形体を100mm×25mm×8mmに切り出して試験片とし、JIS A 5209に準じて曲げ強度を測定した。
【0057】
(4)消臭試験
得られた無機成形体を100mm×100mm×8mmに切り出したものを試験片とした。この試験片の表裏両面のうち一面を残して他方の面および側面をアルミニウムシールで被覆して20℃、湿度50%の雰囲気下で重量変動がなくなるまで放置した。
次いで、試験片を100リットルのステンレス製チャンバ内に入れて密閉状態とし、チャンバ内の温度を20℃に保持した状態で、窒素ガスで0.3ppmに希釈した硫化水素の実験標準ガスを注入した。注入時を試験開始時刻とし、試験開始後所定時間ごとにチャンバ内の硫化水素ガス濃度を測定した。また試験開始後2時間後にチャンバ内部の温度を35℃まで昇温し、チャンバ内の硫化水素ガス濃度の上昇の有無を確認した。
また、硫化水素に代えてメチルメルカプタン、アンモニアガスを用いて同様に試験を行なった。なお、初期濃度はメチルメルカプタン1ppm、アンモニアガス5ppmとした。
【0058】
(5)抗菌性試験、かび抵抗性試験
JIS Z 2801に従って抗菌性試験を行った。試験用の菌としては黄色ブドウ球菌および大腸菌を使用し、両者の結果を総合的に判断した。
JIS Z 2911に従ってかび抵抗性試験を行なった。試験用のかびとしてはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)を使用した。
【0059】
<実施例2>
銀の担持率が0.1%となるように水溶液の硝酸銀濃度を調整した他は実施例1と同様にして無機成形体を作成し、試験を行なった。
【0060】
<実施例3>
銀の担持率が0.5%となるように水溶液の硝酸銀濃度を調整した他は実施例1と同様にして無機成形体を作成製し、試験を行なった。
【0061】
[第2の製造方法に対応する実施例群]
<実施例4>
原料粉末としてのALC切削粉体100重量部に水を加えて300重量部のスラリーとし、50℃に保持した状態で攪拌して脱気した。次いで、このスラリーに硝酸銀水溶液100重量部を加え、50℃に保持した状態で18時間攪拌してイオン交換を行い、銀担持ALC切削粉体(以下、「銀担持原料粉末」という)を得た。なお、水溶液の硝酸銀濃度は、この後の炭酸化処理による重量増加分を鑑み、目的の無機成形体における銀イオンの担持率が0.05重量%となるように調整した。
得られた銀担持原料粉末を蒸留水で洗浄ろ過し、乾燥した。
乾燥後の銀担持原料粉末を用いて実施例1と同様にして成形、炭酸化処理を行って無機成形体を得た。得られた無機成形体について、実施例1と同様に試験を行った。
【0062】
<実施例5>
銀の担持率が0.1%となるように水溶液の硝酸銀濃度を調整した他は実施例4と同様にして無機成形体を作成し、試験を行なった。
【0063】
<実施例6>
銀の担持率が0.5%となるように水溶液の硝酸銀濃度を調整した他は実施例4と同様にして無機成形体を作成し、試験を行なった。
【0064】
[第3の製造方法に対応する実施例群−1]
<実施例7>
担持体粉末として原料粉末と同一のALC切削粉体を用いるとともに、0.2Nの硝酸銀水溶液を使用して、実施例4と同様のイオン交換操作にてイオン交換を行なって銀担持ALC切削粉体(以下、「銀担持粉末」という)を得た。この銀担持粉末の単位重量あたりの銀担持量を測定したところ、18.9mg/gであった。
得られた銀担持粉末を銀が担持されていないALC切削粉体(原料粉末)100重量部に添加して混合粉体を得た。銀担持粉末の添加量は、この銀担持粉末の銀担持量、この後の炭酸化処理による重量増加分を鑑み、目的の無機成形体における銀イオンの担持率が0.0025重量%となるように調整した。
この混合粉体100重量部に水35重量部を加えて攪拌し、実施例1と同様にして成形、炭酸化処理して無機成形体を得た。得られた無機成形体について、実施例1と同様に試験を行った。
【0065】
<実施例8>
銀の担持率が0.005%となるように銀担持粉末の添加量を調整した他は実施例7と同様にして無機成形体を作成し、試験を行なった。
【0066】
<実施例9>
銀の担持率が0.1%となるように銀担持粉末の添加量を調整した他は実施例7と同様にして無機成形体を作成し、試験を行なった。
【0067】
<実施例10>
銀の担持率が0.5%となるように銀担持粉末の添加量を調整した他は実施例7と同様にして無機成形体を作成し、試験を行なった。
【0068】
[第3の製造方法に対応する実施例群−2]
<実施例11>
原料粉末と同一のALC切削粉体に水を加えた後、実施例1の炭酸化処理と同様の条件で処理して、炭酸カルシウムとトバモライトを起源とする非晶質シリカとを主成分とする粉粒体を得た。
得られた粉粒体を担持体粉末として使用し、実施例7と同様にして銀担持粉末を調製した。この銀担持粉末の単位重量あたりの銀担持量を測定したところ、11.7mg/gであった。この銀担持粉末を用いて、実施例7と同様にして無機成形体を作成し、試験を行った。なお、目的の無機成形体の銀担持率が0.005重量%となるように銀担持粉末の添加量を調整した。
【0069】
<実施例12>
銀の担持率が0.1%となるように銀担持粉末の添加量を調整した他は実施例11と同様にして無機成形体を作成し、試験を行なった。
【0070】
<実施例13>
銀の担持率が0.5%となるように銀担持粉末の添加量を調整した他は実施例11と同様にして無機成形体を作成し、試験を行なった。
【0071】
<比較例>
ALC切削粉体100重量部に水35重量部を加えて攪拌し、実施例1と同様にして成形、炭酸化処理して無機成形体を得た。得られた無機成形体について、実施例1と同様に試験を行った。
【0072】
[結果と考察]
実施例1〜実施例13、および比較例について、得られた無機成形体の組成及び物性を表1に、抗菌性試験、かび抵抗性試験および消臭試験の結果を表2に示した。また、図4には、実施例1で得られた無機成形体の細孔径分布を表すグラフを示した。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
1.物性
実施例1〜実施例13および比較例の無機成形体について、粉末X線回折により、炭酸カルシウムであるバテライト・カルサイト、および結晶性シリカの明確なピークが確認された。また、非晶質シリカの存在を示す2θ=20〜30°のブロードなピークが確認された。
【0076】
図4に示すように、実施例1の無機成形体は、細孔径約100nm、および3nm以下の領域にそれぞれピークを有していた。また、詳細にデータは示さないが、他の実施例および比較例の無機成形体も、実施例1のものと同様の細孔径分布を示した。細孔径3nm以下のメソ〜ミクロ孔は比表面積を大きくし、吸放湿量を大きくする役割を果たす。一方、細孔径約100nmのマクロ孔は、湿気伝導率を大きくする役割を果たす。本実施例の無機成形体では、両者の相乗効果により高い調湿性が実現される。
【0077】
曲げ強度に関しては、実施例1〜10の試験体では、曲げ強度4MPaと、建材として使用するために充分な強度を有していることが確認された。一方、実施例11〜13では、他の実施例と比較して曲げ強度が僅かに低下していた。これらの実施例では担持体粉末としてALC切削粉体を炭酸化処理したものを使用しており、この炭酸化処理体が水硬性や炭酸硬化性を有しておらず、成形体の強度発現に寄与しないため、成形体の強度が低下するものと考えられる。但し、強度低下は担持体粉末の添加量と相関していると考えられ、担持体粉末の添加量が少量であれば、建材としての使用に耐えうる成形体を製造可能であると考えられる。
【0078】
なお、実施例4〜6において銀の担持率はそれぞれ0.06、0.12、0.42重量%であり、設定値である0.05、0.1、0.5重量%から若干の変動が見られた。このように、第2の製造方法ではイオン交換終了後の洗浄ろ過操作による銀担持粉末からの銀イオンの流失が起こるため、イオン交換工程での銀イオンの添加量と無機成形体の銀担持率との相関性が若干低下する。
これに対し、実施例1〜3(第1の製造方法)では、洗浄ろ過の工程がないこと、炭酸化工程では銀イオンの損失が殆どないことから、混錬工程で添加した銀イオンのほぼ全量が成形体中に残留する。また、実施例7〜13では、洗浄ろ過操作終了後の銀担持粉末の銀担持量を測定し、その値を元に混錬工程での原料粉末への銀担持粉末の添加量を決定しており、その後の炭酸化工程では銀イオンの損失が殆どないことから、混錬工程で添加した銀イオンのほぼ全量が成形体中に残留する。このため、無機成形体の銀担持率をほぼ目標値にコントロールすることができた。
【0079】
2.抗菌性試験
表2より、実施例1〜13ではいずれも菌数の減少が観察され、抗菌性が確認された。特に、銀の担持率0.005重量%以上の実施例1〜6、および実施例8〜13において、黄色ブドウ球菌、大腸菌ともに検知下限を下回り、抗菌効果が確認された。具体的な数値を示すと、実施例8の試験体において、黄色ブドウ球菌を菌数1.7×10接種したものが、保存温度35℃で保存時間24時間後に菌数10以下に減少した。また、大腸菌を4.5×10接種したものも、同様に菌数10以下に減少した。一方、銀の担持率0.0025重量%の実施例7では、黄色ブドウ球菌、大腸菌ともに菌数が著しく減少はしているものの、検知は可能であった。これは抗菌性に寄与する銀の添加量が少なかったためと推測される。
これに対し、比較例1では、黄色ブドウ球菌、大腸菌ともに菌数の減少は認められず、抗菌性は認められなかった。
【0080】
3.かび抵抗性試験
表2より、実施例1〜13では、菌糸の発育が肉眼、さらに顕微鏡でも認められず、かび抵抗性が確認された。一方、銀を含まない比較例1では、肉眼では菌糸の発育が認められなかったものの、顕微鏡では菌糸の存在が確認できた。
【0081】
4.消臭試験
表2より、実施例1〜13において、臭気成分として硫化水素、およびアンモニアを用いて試験した場合には、濃度半減時間(臭気成分の濃度が初期濃度の半分に低下するのに要した時間)が5分〜15分と、試験開始直後に急激な臭気濃度の低下が見られた。また、臭気成分としてメチルメルカプタンを用いた場合でも、濃度半減時間は5分〜30分程度であり、最も銀担持率の低い実施例7でも60分であった。このような試験開始直後の速やかな臭気成分の濃度低下は、マクロ孔の存在によって臭気成分が速やかに無機成形体の細孔中に取り込まれていったためであると考えられ、特に、分子量の小さい硫化水素、アンモニアに対してその効果が大きかったものと考えられる。また、詳細にデータは記載しないが、いずれの実施例でも、いずれの臭気成分を用いた場合でも2時間以内にはほぼ臭気濃度が検出限界以下に到達した。
【0082】
また、2時間後の昇温による臭気成分の濃度上昇も観察されなかった。昇温による臭気成分の濃度上昇が観察されなかったことは、臭気成分が単に物理的に吸着されているのではなく、銀の作用により分解されたことを示すものと考えられる。
【0083】
これに対し、銀を担持していない比較例では、臭気成分がアンモニアの場合には、実施例とほぼ同じように臭気濃度の低下が見られたが、硫化水素、メチルメルカプタンについては120分経過後も濃度の半減値を下回ることができなかった。また、温度を上昇させると、臭気成分の濃度上昇が見られた。これは、臭気成分が単に細孔へ物理的に吸着されたのみで、分解等の作用を受けていないため、温度上昇によっていったん吸着した臭気成分が放出されたことによるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】第1の製造方法の工程図
【図2】第2の製造方法の工程図
【図3】第3の製造方法の工程図
【図4】実施例1で得られた無機成形体の細孔径分布を表すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムと、ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカとを主成分とする無機成形体であって、
窒素ガス吸着法により測定した比表面積が80m/g以上250m/g以下であり、
直径5nm以下の領域および直径50nm以上1000nm以下の領域にそれぞれピークが存在する細孔径分布を有し、
かつ、前記炭酸カルシウムまたは前記非晶質シリカに抗菌抗カビ消臭性金属のイオンが担持されていることを特徴とする無機成形体。
【請求項2】
前記炭酸カルシウムにはバテライトが含まれていることを特徴とする請求項1に記載の無機成形体。
【請求項3】
前記抗菌抗カビ消臭性金属の担持率が前記無機成形体の全重量に対して0.005重量%以上0.5重量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の無機成形体。
【請求項4】
前記抗菌抗カビ消臭性金属が銀、銅、および亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の無機成形体。
【請求項5】
炭酸カルシウムと、ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカとを主成分とするとともに、前記炭酸カルシウムまたは前記非晶質シリカに抗菌抗カビ消臭性金属のイオンが担持されている無機成形体を製造する方法であって、
ケイ酸カルシウム化合物を主成分とする原料粉末に前記抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む水溶液を混合する混錬工程と、
前記混錬工程で得られた混錬物を成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形物を炭酸ガス雰囲気下で養生する炭酸化処理工程と、を経ることを特徴とする無機成形体の製造方法。
【請求項6】
前記混錬工程において、前記水溶液中に含まれる抗菌抗カビ消臭性金属の濃度が0.01重量%以上5.0重量%以下であり、かつ、前記水溶液の原料粉末への添加率が前記原料粉末の乾燥重量に対して10重量%以上50重量%以下であることを特徴とする請求項5に記載の無機成形体の製造方法。
【請求項7】
炭酸カルシウムと、ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカとを主成分とするとともに、前記炭酸カルシウムまたは前記非晶質シリカに抗菌抗カビ消臭性金属のイオンが担持されている無機成形体を製造する方法であって、
ケイ酸カルシウム化合物を主成分とする原料粉末に前記抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む水溶液を混合して前記ケイ酸カルシウム化合物に含まれるカルシウムイオンの少なくとも一部を前記抗菌抗カビ消臭性金属のイオンに置換することで金属担持原料粉末を得るイオン交換工程と、
得られた前記金属担持原料粉末を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程終了後の前記金属担持原料粉末の含水率を調整する含水率調整工程と、
前記含水率調整工程終了後の前記金属担持原料粉末を成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形物を炭酸ガス雰囲気下で養生する炭酸化処理工程と、を経ることを特徴とする無機成形体の製造方法。
【請求項8】
炭酸カルシウムと、ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカとを主成分とするとともに、前記炭酸カルシウムまたは前記非晶質シリカに抗菌抗カビ消臭性金属のイオンが担持されている無機成形体を製造する方法であって、
ケイ酸カルシウム化合物を主成分とする担持体粉末に前記抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む水溶液を混合して前記ケイ酸カルシウム化合物に含まれるカルシウムイオンの少なくとも一部を前記抗菌抗カビ消臭性金属のイオンに置換することで金属担持粉末を得るイオン交換工程と、
得られた前記金属担持粉末を洗浄した後、乾燥する洗浄乾燥工程と、
ケイ酸カルシウム化合物を主成分とする原料粉末に洗浄・乾燥後の前記金属担持粉末および水を添加して混合する混錬工程と、
前記混錬工程で得られた混錬物を成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形物を炭酸ガス雰囲気下で養生する炭酸化処理工程と、を経ることを特徴とする無機成形体の製造方法。
【請求項9】
炭酸カルシウムと、ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカとを主成分とするとともに、前記炭酸カルシウムまたは前記非晶質シリカに抗菌抗カビ消臭性金属のイオンが担持されている無機成形体を製造する方法であって、
炭酸カルシウムと、ケイ酸カルシウム化合物を起源とする非晶質シリカとを主成分とする担持体粉末に、前記抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを含む水溶液を混合して前記ケイ酸カルシウム化合物に含まれるカルシウムイオンの少なくとも一部を前記抗菌抗カビ消臭性金属のイオンに置換することで金属担持粉末を得るイオン交換工程と、
得られた前記金属担持粉末を洗浄した後、乾燥する洗浄乾燥工程と、
ケイ酸カルシウム化合物を主成分とする原料粉末に洗浄・乾燥後の前記金属担持粉末および水を添加して混合する混錬工程と、
前記混錬工程で得られた混錬物を成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形物を炭酸ガス雰囲気下で養生する炭酸化処理工程と、を経ることを特徴とする無機成形体の製造方法。
【請求項10】
前記原料粉末が軽量気泡コンクリート粉末であることを特徴とする請求項5〜請求項9のいずれかに記載の無機成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−22883(P2007−22883A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210511(P2005−210511)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】