説明

抗酸化剤

【課題】 広範囲の過酸化物に対して分解特性を示す乳酸菌由来の抗酸化剤の提供。
【解決手段】 ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)またはペディオコッカス属(Pediococcus)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物、該培養物から集菌された菌体または該菌体の溶媒抽出物を有効成分とする。ラクトバチルス・プランタラムに属する乳酸菌としては、特にL. plantarum TY1571(NITE P-89)およびL. plantarum TY1572(NITE P-90)が好適である。ペディオコッカス属に属する乳酸菌としては、ペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)TY1573(NITE P-91)が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌を培養して得られる培養物、該培養物から集菌された菌体または該菌体の溶媒抽出物を有効成分とする抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内酸化を防止または低減する抗酸化剤や該抗酸化剤を含有する抗酸化食品は、生体内酸化が原因と目される疾患の予防・治療につながると考えられ、機能性食品あるいは健康食品として注目されている。
【0003】
従来から、天然の抗酸化食品が数多く提案されており、例えば、緑色植物の緑葉から抽出した抗酸化活性画分を配合した飲食品類(特開平11−123071号公報)、ヤマモモ科ヤマモモ属植物から炭素数1〜5までの脂肪族アルコール系有機溶媒および/またはその他の有機溶媒の1種以上を用いて抽出した抗酸化剤(特開平5−156249号公報)、オリーブ植物溶媒抽出物の加水分解物を有効成分とする抗酸化剤(特開平9−78061号公報)等が報告されている。これら天然の抗酸化剤の原料は植物由来が多い。
【0004】
また、植物由来の抗酸化物質のほかにも、乳酸菌の抽出物に抗酸化効果が見出されている(特開平4−264034号公報、特開平5−276912号公報、特開2003−253262号公報)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−123071号公報
【特許文献2】特開平5−156249号公報
【特許文献3】特開平9−78061号公報
【特許文献4】特開平4−264034号公報
【特許文献5】特開平5−276912号公報
【特許文献6】特開2003−253262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの乳酸菌の抽出物は、活性酸素やフリーラジカルにより発生した過酸化物や過酸化脂質のうちいずれか一つを低減もしくは消去する効果を確認したことをもって抗酸化剤として適用可能であることを示しているにすぎない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、種々の発酵食品を入手し、該発酵食品から乳酸菌を分離して過酸化物に対する分解特性について鋭意検討したところ、ラクトバチルス属(Lactobacillus)に属する乳酸菌およびペディオコッカス属(Pediococcus)に属する乳酸菌が広範囲の過酸化物に対して分解特性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)またはペディオコッカス属(Pediococcus)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物、該培養物から集菌された菌体または該菌体の溶媒抽出物を有効成分とする抗酸化剤、
〔2〕 ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する乳酸菌が、TY-1571株と命名され、NITE P-89として寄託された菌株、またはTY-1572株と命名され、NITE P-90として寄託された菌株である、〔1〕記載の抗酸化剤、
〔3〕 ペディオコッカス属(Pediococcus)に属する乳酸菌が、ペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)である、〔1〕記載の抗酸化剤、
〔4〕 ペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)に属する乳酸菌が、TY-1573株と命名され、NITE P-91として寄託された菌株である、〔3〕記載の抗酸化剤、
〔5〕 〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の抗酸化剤を含有する飲食品、飼料または化粧品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、広範囲の過酸化物に対して分解特性を示す乳酸菌由来の培養物、菌体または溶媒抽出物を有効成分とする抗酸化剤を提供することができる。また、前記抗酸化剤を飲食品、化粧品または飼料に含有させることにより、該飲食品などの酸化による品質低下を効果的に防止することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の抗酸化剤は、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する乳酸菌またはペディオコッカス属(Pediococcus)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物、該培養物から集菌された菌体または該菌体の溶媒抽出物を有効成分とするものである。
【0011】
本発明の抗酸化剤の製造に用いられる乳酸菌はラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する乳酸菌またはペディオコッカス属(Pediococcus)に属する乳酸菌であって、広範囲の過酸化物に対して分解特性を示すものをいい、さらに好ましくは前記過酸化物分解特性に加えてヒドロキシルラジカルに対する消去作用を示すものをいう。なお、ペディオコッカス属(Pediococcus)に属する乳酸菌の菌種は、前記過酸化物分解特性を示す限り特に限定されず、例えば、ペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・セレビシェ(Pediococcus cerevisiae)、ペディオコッカス・セレビシェ・バー・デキストリニカス(Pediococcus cerevisiae var. dextrinicus)、ペディオコッカス・クラウセニ(Pediococcus claussenii)、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)、ペディオコッカス・デキストリニカス(Pediococcus dextrinicus)、ペディオコッカス・ハロフィラス(Pediococcus halophilus)、ペディオコッカス・オマリ(Pediococcus homari)、ペディオコッカス・イノピタナス(Pediococcus inopinatus)、ペディオコッカス・パルバラス(Pediococcus parvulus)、ペディオコッカス・サブスピーシーズ・インテルメディウス(Pediococcus pentosaceus subsp. intermedius)、ペディオコッカス・ソヤ(Pediococcus soya)、ペディオコッカス・ソヤエ(Pediococcus soyae)、ペディオコッカス・エスピー(Pediococcus sp.)、ペディオコッカス・ウリナエッキー(Pediococcus urinaeequi)が挙げられる。
【0012】
本発明において「過酸化物」とは、親水性の高い過酸化物から親水性の低い(すなわち、疎水性の高い)過酸化物全般を意味し、具体的には、3種類の過酸化物、すなわち、過酸化水素、有機過酸化物および過酸化脂質を包含したものをいう。有機過酸化物としては、例えば、クメンヒドロペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドなどが挙げられる。また、過酸化脂質としては、不飽和脂肪酸の過酸化物であるリノール酸ヒドロペルオキシドやアラキドン酸ヒドロペルオキシドなどが挙げられる。そして、「広範囲の過酸化物に対して分解特性を示す」とは、上述した過酸化水素、有機過酸化物および過酸化脂質のうち、少なくとも、過酸化水素と、クメンヒドロペルオキシドまたはt−ブチルヒドロペルオキシドのうちいずれか一つと、リノール酸ヒドロペルオキシドに対して分解特性を示すことをいう。
【0013】
広範囲の過酸化物に対して分解特性を示す乳酸菌は次のようにしてスクリーニングすることができる。すなわち、まず、各種発酵食品を分離源とし、該分離源を固形培地で培養して乳酸菌を単離し、該単離した乳酸菌を液体培地で培養して得られる培養物から菌体を回収し、次いで該菌体を含有する菌体懸濁液を被検液として、該被検液が、少なくとも、過酸化水素と、クメンヒドロペルオキシドまたはt−ブチルヒドロペルオキシドのうち少なくとも一つと、リノール酸ヒドロペルオキシドに対する分解特性を有するか否か調べることによりスクリーニングすることができる。
【0014】
本発明において「発酵食品」とは、一般的に乳酸菌が含まれている動物性および植物性の発酵食品をいい、代表的な発酵食品を例示すれば、例えば、散麹、豆麹、餅麹、麹漬、味噌漬け、糠漬、野沢菜漬、すんき漬、ベッタラ漬、味噌、醤油、酒粕、納豆、米酢、バルサミコ酢、リンゴ酢、キムチ、腐乳、ナンプラー、とうふよう、ワイン粕、酒粕、ヨーグルト、ベジマイト、クワス、クミス、ギビヤック、ピクルス、クミス、サワークラウト等が挙げられる。そして、培養に際して、前記発酵食品を破砕し、例えば生理食塩水で希釈した食品懸濁液とすることが好ましい。
【0015】
「固形培地」としては、乳酸菌の培養に通常用いられる培地であればよく、代表的なものを例示すれば、例えば、酵母エキスペプトン培地、ブドウ糖培地、フェネチルアルコール培地、アセテート培地、GYP培地、MRS培地、TITG培地、SL培地、システイン・ミルク培地、LBS培地、TATAC培地、MG培地、食塩18%-硝酸カリ培地、麹汁培地、BCP培地、チオグリコレイト培地、稀釈ブドウ果汁培地、ESY培地、吉栖氏培地、耐塩性乳酸菌用培地、耐塩性乳酸菌用醤油培地、上野培地、飯塚・山里培地、TYG培地、ラクチック培地、M17培地、Lactic streptococciの分別培地、クエン酸を発酵するLactic streptococciの分別培地、PPYL培地、YPG培地、酸性トマト培地、Mayeux&ColmerのLeuconostoc検出培地、浜本らのLeuconostoc検出培地、Pearce&HaliganのLeuconostoc計測培地、APT培地、Briggsのトマトジュース培地、Rogosa培地、NAP培地等に、固形化剤として0.5〜2.0%の寒天を添加したものが挙げられる。また、培地上に乳酸菌を選択的に増殖させるため、好気性菌の発育を阻害する物質(例えば、アジ化ナトリウム)、グラム陰性菌の発育を阻害する物質(例えば、ポリミキシンB)、真菌の発育を阻害する物質(例えば、シクロヘキシミド)などを適宜組み合わせて前記固形培地に含有させてもよい。また、「液体培地」としては、乳酸菌の培養に通常用いられる培地であればよく、代表的なものを例示すれば、例えば、酵母エキスペプトン培地、ブドウ糖培地、フェネチルアルコール培地、アセテート培地、GYP培地、MRS培地、TITG培地、SL培地、システイン・ミルク培地、LBS培地、TATAC培地、MG培地、食塩18%-硝酸カリ培地、麹汁培地、BCP培地、チオグリコレイト培地、稀釈ブドウ果汁培地、ESY培地、吉栖氏培地、耐塩性乳酸菌用培地、耐塩性乳酸菌用醤油培地、上野培地、飯塚・山里培地、TYG培地、ラクチック培地、M17培地、Lactic streptococciの分別培地、クエン酸を発酵するLactic streptococciの分別培地、PPYL培地、YPG培地、酸性トマト培地、Mayeux&ColmerのLeuconostoc検出培地、浜本らのLeuconostoc検出培地、Pearce&HaliganのLeuconostoc計測培地、APT培地、Briggsのトマトジュース培地、Rogosa培地、NAP培地等が挙げられる。
【0016】
乳酸菌の培養は、常法にしたがって行えばよく、例えば、30〜37℃、15〜24時間の条件で好気的培養、静置培養または中和培養などを行えばよい。
【0017】
培養終了後、乳酸菌のコロニーを1コロニーずつ単離し、常法にしたがって純化することが好ましい。そして、前記単離した乳酸菌株を常法にしたがって培養し、得られた培養物を遠心分離して菌体を回収し、該菌体に緩衝液を加えてOD660nm=1.5〜1.7に濃度調節した菌体懸濁液を調製し、該菌体懸濁液が、少なくとも、過酸化水素と、クメンヒドロペルオキシドまたはt−ブチルヒドロペルオキシドのうち少なくとも一つと、リノール酸ヒドロペルオキシドに対する分解特性を示すか否か調べ、前記すべての過酸化物に対して分解特性を示す乳酸菌株を本発明の目的に適した乳酸菌とする。
【0018】
過酸化物に対する分解特性は、前記菌体懸濁液に過酸化物(終濃度1.0〜3.0mM)および糖類(例えば、グルコース)(終濃度30〜100mM)をそれぞれ添加して、37℃で3時間反応させ、反応終了後の反応液を遠心分離し、上清に含まれる過酸化物残量を測定することにより評価される。なお、前記糖類は、乳酸菌株の代謝によるエネルギーを供与するために添加するものである。本発明において、過酸化物残量の測定は、過酸化水素についてはSedewitzらの方法が適用され(Sedewitz et al.,Journal of Bacteriology,160,Oct.273-278. 1984)、有機過酸化物および過酸化脂質については、ヘモグロビン存在下における有機過酸化物(過酸化脂質)とメチレンブルー誘導体の等モル呈色反応を利用した八木別法が適用される。
【0019】
本発明に適した乳酸菌株は、上述した過酸化物分解特性を示すものであるが、さらに好ましくは、該過酸化物分解特性に加えてヒドロキシルラジカルに対する消去活性を示すものである。ヒドロキシルラジカルに対する消去活性の判定には、ヒドロキシルラジカルとデオキシリボースの反応に由来するマロンジアルデヒド(MDA)様物質をチオバルビツール酸と反応させて生成する赤色縮合物を比色定量するB. Halliwelらのデオキシリボース法が適用される(Analytical Biochemistry,Vol.165,pp.215-219 (1987)、Biochem Journal Vol.243,No.3;pp.709-714)。
【0020】
以上のようにして分離した乳酸菌株の過酸化物分解特性などを評価した結果、過酸化物分解特性およびヒドロキシルラジカル消去活性を示すものとして、乳酸菌TY-1571株、乳酸菌TY-1572株および乳酸菌TY-1573株を選択することができた。そして、菌学的性質および遺伝学的特性の結果から、乳酸菌TY-1571株と乳酸菌TY-1572株は、それぞれラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)と、乳酸菌TY-1573株は、ペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)と同定された。なお、これらの菌株は、下記の受託番号により独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されている。
【0021】
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)TY1571(NITE P-89)
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)TY1572(NITE P-90)
ペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)TY1573(NITE P-91)
【0022】
本発明の抗酸化剤は、上述した乳酸菌株を培養して得られる培養物、該培養物を遠心分離して上清を除去して集菌された菌体、または該菌体の溶媒抽出物を有効成分とする。該菌体および溶媒抽出物は、必要に応じて常法にしたがい、凍結乾燥、噴霧乾燥などを行ってもよい。溶媒抽出物は、水またはメタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリルなどの水系有機溶媒を用いて前記菌体を懸濁させて抽出を行い、次いで遠心分離やろ過などの処理をして菌体残渣を除去することにより調製される。さらに、前記培養物、菌体、溶媒抽出物は、そのままで用いてもよいが、過酸化物分解特性をさらに高めたい場合、グルコース等の糖類を配合してもよい。
【0023】
上述のようにして得られた抗酸化剤の有効成分は、そのままで、若しくは食品成分とともに経口摂取するようにしたり、あるいはそのままで、若しくは化粧品成分とともに皮膚へ塗布するようにして用いることができる。該有効成分を食品成分または化粧品成分(以下、「食品成分等」という)とともに用いるにあたっては、前記有効成分を食品成分等に配合して飲食品、飼料または化粧品として用いてもよいし、前記有効成分を飲食品等の使用の前後若しくは使用と同時に用いてもよい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0025】
・ 乳酸菌のスクリーニング
1.1 食品懸濁液の調製
乳酸菌の分離源として、散麹、豆麹、餅麹、麹漬、味噌漬け、糠漬、野沢菜漬、すんき漬、ベッタラ漬、味噌、醤油、酒粕、納豆、米酢、バルサミコ酢、リンゴ酢、キムチ、腐乳、ナンプラー、とうふよう、ワイン粕、酒粕、ヨーグルト、ベジマイト、クワス、クミス、ギビヤック、ピクルス、クミス、サワークラウト、果実、野菜、海藻、魚類を入手し、前記食品をそれぞれ破砕した後、生理食塩水で希釈して食品懸濁液とした。
【0026】
1.2 スクリーニング
GYP培地(1% グルコース,1% 酵母エキス,0.5% ペプトン,0.2% 酢酸ナトリウム・3H20,20ppm MgSO4・7H20,1ppm MnSO4・4H20,1ppm FeSO4・7H20,1ppm NaCl,50ppm Tween80)にアジ化ナトリウム(終濃度30ppm)、ポリミキシンB(終濃度30ppm)およびシクロヘキシミド(終濃度30ppm)を含む選択寒天培地に前記1.1で調製した食品懸濁液をそれぞれ添加し、30℃で16時間静置培養した。培養終了後、前記1.1に記載の分離源から調製した食品懸濁液添加試料からコロニーが生育していることが確認され、1コロニーずつ単離した。そして、得られた乳酸菌株のコロニーをGYP寒天培地上に植菌して常法にしたがい純化した。そして、上記食品群から分離した乳酸菌株をTY-1571株、TY-1572株、TY-1573株と命名した。
【0027】
・ 乳酸菌の菌学的性質
前記1.2で分離した3種類の乳酸菌株(TY-1571株、TY-1573株、TY-1573株)の菌学的性質を、乳酸菌実験マニュアル(小崎道雄監修、内村泰、岡田早苗著、朝倉書店)にしたがって検討した。結果を表1〜表3に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
3.乳酸菌の遺伝学的特性
前記1.2で分離した3種類の乳酸菌株(TY-1571株、TY-1573株、TY-1573株)について、常法にしたがい16S rDNAの塩基配列を決定し、BLASTプログラムおよびClustal Wプログラムを使用して、既存の乳酸菌のうちどの菌種の配列に最も近いか検索した。その結果、
乳酸菌TY-1571株と乳酸菌TY-1572株の16S rDNAの塩基配列がラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)の16S rDNAの塩基配列と100%一致し、乳酸菌TY-1573株の16S rDNAの塩基配列がペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)の16S rDNAの塩基配列と100%一致した。以上の結果から、乳酸菌TY-1571株と乳酸菌TY-1572株はそれぞれラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)と同定され、乳酸菌TY-1573株はペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)と同定された。
【0032】
4.乳酸菌の過酸化物分解特性
前記3.で同定されたTY-1571株、TY-1572株およびTY-1573株の各菌体懸濁液に過酸化水素、有機過酸化物または過酸化脂質を添加し、所定時間経過後の反応液中に残存する過酸化水素等の残量を測定して、過酸化水素等に対する分解特性を調べた。
【0033】
4.1 菌体懸濁液の調製
TY-1571株、TY-1572株およびTY1573株の各菌株をそれぞれGYP培地に接種して37℃で約24時間静置培養した。培養終了後、培養物を8,000rpmで10分間遠心分離し、上清を除去することにより菌体を集菌した。次いで、集菌した菌体をリン酸緩衝液に懸濁し、OD660nm=1.6に濃度調節したものを菌体懸濁液とした。
【0034】
4.2 過酸化水素に対する分解特性
前記4.1で調製した菌体懸濁液に過酸化水素(終濃度3.0mM)とグルコース(終濃度50mM)をそれぞれ加え、水平震盪機にて37℃で3時間反応させた。反応終了後、卓上遠心機にて反応液を遠心処理し、上清に含まれる未反応の過酸化水素を測定した。
【0035】
過酸化水素の濃度測定には、Sedewitzらの方法を用いた(Sedewitz et al.,Journal of Bacteriology,160,Oct.273-278. 1984)。具体的には、まず、前記反応液(上清部分)を50μl、4-アミノアンチピリン(濃度24.4mg/20ml)を400μl、3,5-ジクロロベンゼンスルホン酸(濃度111.4mg/20ml)を400μlそれぞれ混合し、該混合液に西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼを4μl(500unit)添加し、30℃で15分間反応させた。反応終了後、得られた被検液の546nmにおける吸光度を測定し、該被検液中に含まれる過酸化水素の濃度を求めた。そして、得られたデータに基づいて過酸化水素の分解量を算出した。結果を図1に示す。図1より、3種類の乳酸菌株は全て過酸化水素分解特性を有し、特にTY-1571株とTY-1573株の分解特性が大きいことが確認された。
【0036】
4.3 有機過酸化物に対する分解特性
前記4.1で調製した菌体懸濁液にクメンヒドロペルオキシド(終濃度3.0mM)またはt−ブチルヒドロペルオキシド(終濃度3.0mM)(以下、これらの物質を特に区別しない場合、「有機過酸化物」という)とグルコース(終濃度50mM)をそれぞれ加え、水平震盪機にて37℃で3時間反応させた。反応終了後、卓上遠心機にて反応液を遠心処理し、上清に含まれる未反応の有機過酸化物を測定した。
【0037】
有機過酸化物の濃度測定には、ヘモグロビン存在下における有機過酸化物とメチレンブルー誘導体の等モル呈色反応を利用した八木別法を用いた。実際の測定は、デタミナーLPO(協和メデックス社)を使用して、使用マニュアルに記載の反応条件に準じて呈色反応を行った。具体的には、アスコルビン酸オキシダーゼを緩衝液に溶解した前処理液 1,000μlを試験管に分注し、次いでヘモグロビンと10-N-メチルカルバモイル-3,7-ジメチルアミノ-10H-フェノチアジン(MCDP)を緩衝液に溶解した発色液 2,000μlを分注した。そして、前記反応液(上清部分)を100μl前記試験管に分注して30℃で10分間反応させた。反応終了後、得られた被検液の675nmにおける吸光度を測定し、該被検液中に含まれる有機過酸化物の濃度を求めた。そして、得られたデータに基づいて有機過酸化物の分解量を算出した。結果を図2に示す。図2より、3種類の乳酸菌株は全てクメンヒドロペルオキシドとt−ブチルヒドロペルオキシドに対する分解特性を有し、さらに、相対的にクメンヒドロペルオキシドに対する分解特性の方が大きいことが確認された。
【0038】
4.4 過酸化脂質に対する分解特性
前記4.3で使用した有機過酸化物に代えてリノール酸由来の過酸化脂質を実験に供した。過酸化脂質は、リノール酸溶液にリポキシゲナーゼを加えて湯浴中(30℃)で約5分間、酸素を吹き込みながら激しく撹拌して得られたものを使用した。なお、過酸化脂質の確認には薄層クロマトグラフィーを用いた(参考文献:過酸化脂質実験法、金田尚志、植田伸夫編集、医歯薬出版株式会社、Agric.Biol.Chem. 45,P587−593,1981、汎用衛生試験法と解説、日本薬学会編、南山堂、P33、脂質分析法入門、藤野安彦、学会出版センター、P100)。実験に際しては、得られた過酸化脂質(リノール酸ヒドロペルオキシド)を乳化分散させて、過酸化脂質水溶液としたものを使用した。
【0039】
前記4.1で調製した菌体懸濁液に上述した過酸化脂質水溶液(終濃度1mM)とグルコース(終濃度50mM)をそれぞれ加え、水平震盪機にて37℃で3時間反応させた。反応終了後、卓上遠心機にて反応液を遠心分離し、上清に含まれる未反応の過酸化脂質を測定した。過酸化脂質の測定方法は前記4.3と同様に行った。結果を図3に示す。図3より、3種類の乳酸菌株は全てリノール酸ヒドロペルオキシドに対する分解特性を有し、特に、TY-1572株の分解能力が高いことが確認された。
【0040】
5.ヒドロキシルラジカルに対する消去作用
まず、100mM デオキシリボース、100mM Fe2+-EDTA溶液、1% 2-チオバルビツール酸/水酸化ナトリウム溶液および 2.8% トリクロロ酢酸溶液をそれぞれ調製し、前記4.2で述べたように、前記4.1で調製した菌体懸濁液に過酸化水素(終濃度3.0mM)とグルコース(終濃度50mM)をそれぞれ加え、続いて前記デオキシリボースを(終濃度100mM)添加した。次いで、この被検液 50μlを 1.5mlのエッペンチューブに入れ、Fe2+-EDTAを50μl添加して37℃で1時間反応させた。反応終了後、得られた反応液にチオバルビツール酸とトリクロロ酢酸をそれぞれ 500μlずつ添加して湯浴煮沸した。湯浴煮沸後において3種類の乳酸菌株由来の被検液はいずれも黄色を呈した。これに対し、前記菌体懸濁液を添加しない点を除いて同様の試薬を添加した対照サンプルは、湯浴煮沸後において赤色を呈した。このことから、3種類の乳酸菌株はいずれもヒドロキシルラジカルの消去作用を有することが確認された。
【0041】
6.抗酸化剤の用途
6.1 抗酸化乳酸菌液の製造例
水97.5重量部、ブドウ糖1重量部、大豆ペプチド0.5重量部および酵母エキス1重量部から構成される培地にTY-1571株を接種して、30℃で16時間静置培養し、培養後の培養物を抗酸化乳酸菌液とした。この抗酸化乳酸菌液には、果汁、野菜汁、豆乳、乳製品、穀類などを配合することも可能である。
【0042】
6.2 乳性飲料の製造例
水82.35重量部、ペクチン0.3重量部、砂糖10.5重量部、発酵乳5重量部、脱脂粉乳0.5重量部、抗酸化乳酸菌液1.305重量部、乳酸0.04重量部および香料0.005重量部を混合して乳性飲料を得た。なお、抗酸化乳酸菌液は前記6.1で製造したものを使用した。
【0043】
6.3 化粧水の製造例
水70.99重量部、グリセリン5重量部、可溶化剤5重量部、界面活性剤1重量部、エタノール15.0重量部、抗酸化乳酸菌液3重量部、防腐剤0.005重量部および香料0.005重量部を混合して化粧水を製造した。なお、抗酸化乳酸菌液は前記6.1で製造したものを使用した。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】過酸化水素の分解量を示した図である。
【図2】有機過酸化物の分解量を示した図である。
【図3】過酸化脂質の分解量を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)またはペディオコッカス属(Pediococcus)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物、該培養物から集菌された菌体または該菌体の溶媒抽出物を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項2】
ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する乳酸菌が、TY-1571株と命名され、NITE P-89として寄託された菌株、またはTY-1572株と命名され、NITE P-90として寄託された菌株である、請求項1記載の抗酸化剤。
【請求項3】
ペディオコッカス属(Pediococcus)に属する乳酸菌が、ペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)である、請求項1記載の抗酸化剤。
【請求項4】
ペディオコッカス・ペントサス(Pediococcus pentosaceus)に属する乳酸菌が、TY-1573株と命名され、NITE P-91として寄託された菌株である、請求項3記載の抗酸化剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の抗酸化剤を含有する飲食品、飼料または化粧品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−291146(P2006−291146A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117465(P2005−117465)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月30日に日本農芸化学会大会にて発表
【出願人】(000208086)大洋香料株式会社 (34)
【Fターム(参考)】