説明

押出成形セメント板用水切り材およびこれを用いた防水構造

【課題】縦張りの押出成形セメント板の目地部内に浸入した雨水を当該押出成形セメント板の前面より確実に外部に排出することができる水切り材を提供する。
【解決手段】上下端面で開口する複数の中空部100が並設された押出成形セメント板Sを縦張りする際の横目地部に設けられる押出成形セメント板用水切り材1。押出成形セメント板Sの下端面102と対向して配置される帯板状の水平部2と、この水平部2の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板Sの背面103と対向して配置される起立部3と、前記水平部2の前方辺2a、左辺2bおよび右辺2cの3辺に沿って設けられた溝部4と、前方辺2aに沿った溝部と連通し、当該溝部内の雨水を外部に排出するための排水路5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は押出成形セメント板用水切り材(以下、単に「水切り材」ともいう)およびこれを用いた防水構造に関する。さらに詳しくは、中空部を有する押出成形セメント板を当該中空部が垂直方向となるように縦張りして建物の外壁を構成する際に、当該押出成形セメント板間の横目地部に設けられる水切り材、およびこれを用いた、建物外壁の防水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上下端で開口する複数の中空部を有する押出成形セメント板は軽量で高強度であることから、建物の外壁材として広く用いられている。このような押出成形セメント板を用いた外壁では、一般に、建物の躯体にアングルなどの下地鋼材を取り付け、押出成形セメント板の背面に設けたZクリップなどの取付金具を用いて当該押出成形セメント板を前記下地鋼材に取り付けている。
【0003】
このような押出成形セメント板で外壁を構成する場合、上下に隣接する押出成形セメント板間に横目地が形成され、また、左右に隣接する押出成形セメント板間に縦目地が形成される。これら横目地および縦目地にパッキング材(バックアップ材)を挿入し、ついでシーリング材を充填することで、これらの目地部から建物の室内側への雨水の浸入を阻止している(一次防水)。
また、押出成形セメント板が上下に連続する縦張りの場合においてより高い防水性能が目地部に要求されるときは、前記横目地部に水切り材が設けられる(二次防水)。
【0004】
このような水切り材を用いた防水構造として、特許文献1には、中空部を有する押出成形セメント板の横目地内に、当該押出成形セメント板の内面側から挿入されて前記中空部を横目地に沿って延びる樋状部と、この樋状部の先端から下方に屈曲されて前記樋状部で集水された水を前記中空部の下方に導く案内部とを有する水切り材を設けた止水構造が記載されている。
【0005】
特許文献1記載の止水構造では、押出成形セメント板で構成された外壁の上側の押出成形セメント板上部の目地部の欠損などによって中空部に浸入した雨水は中空部内を下方に流れるが、下側の目地部では、前記水切り材の樋状部と当該水切り材の内面側の起立辺とで室内側への雨水の浸入が阻止され、この雨水は、樋状部の先端から下方に屈曲された案内部により下側押出成形セメント板の中空部へと導かれ、最終的に最下部の押出成形セメント板の中空部から外部に排出される。
【0006】
しかし、特許文献1記載の止水構造では下側の押出成形セメント板の中空部に雨水を流す構成であるため、押出成形セメント板と窓などの開口部のサッシとの取り合い部(押出成形セメント板下部とサッシ上部との境界部)には当該止水構造を用いることができず、サッシ側に防水構造を設けるか、または中空部からサッシを避ける部位まで雨水を逃がすなどの措置が必要であった。
【0007】
これに対し、特許文献2には、中空部を有する押出成形セメント板を縦置き配列して形成される外壁の排水構造が開示されており、水抜縦穴を有するバックアップ材を、水切板の下部垂下片の前面に一体的に取付固定した第1内水切板と、上部に横溝を有するバックアップ材を水切板の下部垂下片の前面に一体的に取付固定した第2内水切板とを前記外壁の横目地内に並列して取り付けることが記載されている。
【0008】
特許文献2記載の排水構造において、押出成形セメント板で構成された外壁で上下に押出成形セメント板が連続する目地部には前記第1内水切板が取り付けられ、目地部の欠損などにより上側押出成形セメント板の中空部に浸入した雨水は、この第1内水切板の水抜縦穴より下側押出成形セメント板の中空部に導かれる。また、開口部における押出成形セメント板とサッシ部の取り合い部(押出成形セメント板下部とサッシ上部)においては、前記第2内水切板が取り付けられる。目地部の欠損などにより上側押出成形セメント板の中空部内に浸入した雨水は、この第2内水切板により、サッシ側への浸入が防水されるとともに開口部のない第1内水切板へと導かれる。
【0009】
【特許文献1】実用新案登録第3018587号明細書
【特許文献2】特開平11−229543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2記載の排水構造の場合、前記取り合い部においては第2内水切板から第1内水切板まで浸入した雨水を導く必要があり、開口幅が大きい場合には浸入した雨水の流れる距離が大きくなる。この場合、内水切板を複数接合することになるが、接合部の数が多くなると内水切板の接合部などから下部に雨水が漏れる惧れがある。また、内水切板の取付け状態や施工精度によっては、雨水の流れが悪くなる部分が発生し、内水切板の上に雨水が滞留するなどの不具合が生じる惧れがある。特に連窓のように開口幅が大きくなる場合(数十mにも及ぶ場合もある)は、雨水が流れる部分に適切な勾配を与えるのが困難であり、雨水が滞留し易くなる。さらに、内水切板上に雨水が滞留すると、押出成形セメント板の下部が常時湿潤状態となる可能性もあり、これが長期間に亘る場合には、押出成形セメント板中空部や裏面側にカビが発生する原因にもなり、このカビが室内環境に影響を及ぼす惧れもある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、縦張りの押出成形セメント板の目地部内に浸入した雨水を当該押出成形セメント板の前面より確実に外部に排出することができる押出成形セメント板用水切り材およびこれを用いた防水構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点に係る水切り材は、上下端面で開口する複数の中空部が並設された押出成形セメント板を縦張りする際の横目地部に設けられる押出成形セメント板用水切り材であって、
押出成形セメント板の下端面と対向して配置される帯板状の水平部と、
この水平部の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板の背面と対向して配置される起立部と、
前記水平部の前方辺、左辺および右辺の3辺に沿って設けられた溝部と、
前方辺に沿った溝部と連通し、当該溝部内の雨水を外部に排出するための排水路と
を備えたことを特徴としている。
【0013】
本発明の第1の観点に係る水切り材では、押出成形セメント板の下端面と対向して配置される帯板状の水平部の3辺に沿って溝部を設けるとともに、この溝部のうち前記水平部の前方辺に沿った溝部と連通し、当該溝部内の雨水を外部に排出するための排水路を設けている。これにより、目地部から浸入した雨水は押出成形セメント板の中空部を経由するなどして水切り材の水平部に達し、ついで溝部に流れ込む。そして、この溝部に流れた雨水は当該溝部と連通している排水路によって押出成形セメント板の前面より外部に排出される。このため、押出成形セメント板と開口部の取り合い部においても、従来のように開口部を避けて雨水を左右に流すことなく、この開口部だけで雨水の排水を完結させることができ、サッシとの取り合い部においても十分な二次防水構造とすることができる。これにより、連窓のように開口幅が大きい場合でも目地部における二次防水の信頼性を向上させることができる。
【0014】
また、水切り材のサイズや排水路の数を調整することで雨水が流れる距離を短くすることができ、その結果、溝部に容易に勾配を与えることができ、当該溝部での雨水の滞留を確実になくすことができる。
さらに、本発明の水切り材を上下の押出成形セメント板の横目地部に用いる場合、水切り材の幅を、押出成形セメント板1枚分、または2〜3枚分程度に限定することにより、万一シーリング材が欠損するなどして漏水が発生したとしても、排水路からの排水を確認することにより漏水の位置を容易に特定することができる。これにより、シーリング材の補修を迅速且つ容易に行うことができる。
なお、本明細書において「前方」とは、水切り材を外壁の横目地部に使用する場合において室外側をいい、また、「後方」または「背面」とは室内側をいう。
【0015】
左右の各端部に、押出成形セメント板の背面側肉厚部と当接する折り返し部が設けられているのが好ましい。この場合、中空部から流れてきた雨水が室内側に浸入するのをより確実に阻止することができ、また起立部を補強することができる。
【0016】
前記溝部を、水平部の前方辺、左辺および右辺から下方に延設された垂下部と、この垂下部の下端から水平方向に延びる底部と、この底部の先端から上方に延設された立壁部とで構成することができる。この場合、水切り材の水平部と、溝部を構成する垂下部、底部および立壁部とを金属薄板を成形加工することで作製することができ、水切り材を簡単かつ低コストで作製することができる。
【0017】
前記底部のうち前記水平部の前方辺に沿って設けられた底部に、前記排水路に向かって下降する勾配が形成されているのが好ましい。この場合、溝部に流れ込んだ雨水をより確実に排水路に導くことができる。本発明では、水切り材の幅を所望により小さく設定することができる、すなわち雨水が溝部を流れる距離を短く設定することができるので、容易に勾配をつけることができる。
【0018】
前記立壁部のうち前記水平部の左辺および右辺に沿って設けられた立壁部の高さが、押出成形セメント板用水切り材の左右の各端部において当該端部と密接して前後方向に配設されるガスケットの高さ以下となるように設定されているのが好ましい。この場合、左右の押出成形セメント板間の縦目地部から浸入した雨水を、前記ガスケットから溝部に流入させることができ、当該雨水が室内側へ浸入するのを確実に阻止することができる。
【0019】
本発明の第2の観点に係る水切り材は、上下端面で開口する複数の中空部が並設された押出成形セメント板を縦張りする際の横目地部に設けられる押出成形セメント板用水切り材であって、
左側部、中間部および右側部から構成されており、
前記左側部は、押出成形セメント板の下端面と対向して配置される左側水平部と、この左側水平部の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板の背面と対向して配置される左側起立部と、前記左側水平部の前方辺および左辺の2辺に沿って設けられた左側溝部とを備えており、
前記中間部は、押出成形セメント板の下端面と対向して配置される中間水平部と、この中間水平部の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板の背面と対向して配置される中間起立部と、前記中間水平部の前方辺に沿って設けられた中間溝部とを備えており、
前記右側部は、押出成形セメント板の下端面と対向して配置される右側水平部と、この右側水平部の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板の背面と対向して配置される右側起立部と、前記右側水平部の前方辺および右辺の2辺に沿って設けられた右側溝部とを備えており、
前記左側水平部の前方辺に沿った左側溝部、前記中間水平部の前方辺に沿った中間溝部、および前記右側水平部の前方辺に沿った右側溝部の少なくとも一つと連通し、当該溝部内の雨水を外部に排出するための排水路が設けられていることを特徴としている。
【0020】
本発明の第2の観点に係る水切り材では、水切り材が3つの部分、すなわち左側部、中間部および右側部から構成されているので、前記第1の観点に係る水切り材により得られる効果に加え、中間部の幅を適宜変更することで押出成形セメント板のサイズ(幅)に応じた水切り材を簡単に且つ低コストで提供することができる。
【0021】
前記左側部の左側端部および前記右側部の右側端部に、押出成形セメント板の背面側肉厚部と当接する折り返し部がそれぞれ設けられているのが好ましい。この場合、中空部から流れてきた雨水が室内側に浸入するのをより確実に阻止することができ、また起立部を補強することができる。
【0022】
本発明の防水構造は、前述した押出成形セメント板用水切り材を用いた、上下端面で開口する複数の中空部が並設された押出成形セメント板を縦張りする際の横目地部の防水構造であって、前記押出成形セメント板を支持するための下地アングルに当接するように前記押出成形セメント板用水切り材を配設することを特徴としている。
【0023】
本発明の防水構造では、前述した水切り材を用いているので、目地部から浸入した雨水は押出成形セメント板の中空部を経由するなどして水切り材の水平部に達し、ついで溝部に流れ込む。そして、この溝部に流れた雨水は当該溝部と連通している排水路によって外部に排出される。このため、押出成形セメント板と開口部の取り合い部においても、従来のように開口部を避けて雨水を左右に流すことなく、この開口部だけで雨水の排水を完結させることができ、サッシとの取り合い部においても十分な二次防水構造とすることができる。これにより、連窓のように開口幅が大きい場合でも目地部における二次防水の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の水切り材およびこれを用いた防水構造によれば、縦張りの押出成形セメント板の目地部内に浸入した雨水を当該押出成形セメント板の前面より確実に外部に排出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の水切り材およびこれを用いた防水構造の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る水切り材1の斜視説明図であり、図2は図1に示される水切り材1の横断面図である。水切り材1は、上下端面で開口する複数の中空部100が並設された押出成形セメント板S(図3参照)を縦張りする際の横目地部に設けられる。
【0026】
水切り材1は、押出成形セメント板Sの下端面102(図4〜5参照)と対向して配置される水平部2と、押出成形セメント板Sの背面103と対向して配置される起立部3と、前記水平部2の前方辺2a、左辺2bおよび右辺2cの3辺に沿って設けられた溝部4と、この溝部4内の雨水を外部に排出するための排水路である排水孔5とを備えている。また、水切り材1の左右の各端部には、押出成形セメント板Sの背面側肉厚部101と当接する折り返し部6が設けられている。
【0027】
水平部2は帯板状であり、その長手方向の寸法は水切り材1が使用される押出成形セメント板Sの幅の大きさ(通常、592〜1185mm程度である)に合わせて設定される。本実施の形態では、この水平部2の後方辺に、上昇する傾斜部7が当該水平部2に連続して設けられており、この傾斜部7から起立部3が略垂直方向に立設されている。本実施の形態では、後述するように押出成形セメント板Sを建物の躯体に取り付ける下地鋼材としてアングル材を用いているので、このアングル材の内面側の隅部のアールを避けて前記水平部2と起立部3を当該アングル材の内面と密接させるために傾斜部7が設けられている。しかし、この傾斜部7は下地鋼材の形状によっては省略が可能であり、この場合は水平部2の後方辺から直接に起立部3が略垂直方向に立設される。
【0028】
前記溝部4は、水平部2の前方辺2a、左辺2bおよび右辺2cから下方に延設された垂下部8と、この垂下部8の下端から水平方向に延びる底部9と、この底部9の先端から上方に延設された立壁部10とで構成されている。立壁部10の高さh1は、後述する受けアングルの平面部と押出成形セメント板Sの下端面102との間に水切り材1を配設する際に当該立壁部10の先端が押出成形セメント板Sの下端面102と接触するのを回避するために、垂下部8の高さh2よりも若干(例えば、5mm程度)低くなるように設定されている。また、前記底部9のうち前記水平部2の前方辺2aに沿って設けられた底部に、前記排水孔5に向かって下降する勾配が形成されているのが好ましい。この場合、溝部4に流れ込んだ雨水をより確実に排水孔5に導いて当該溝部4に滞留するのを阻止することができる。なお、本発明では水切り材の幅を所望により小さく設定することができる、すなわち雨水が溝部4を流れる距離を短く設定することができるので、容易に勾配をつけることができる。
【0029】
排水孔5は、前記立壁部10のうち水平部2の前方辺2aに沿った立壁部10aに取り付けられている。短円筒体からなる排水孔5の軸方向の長さは、水切り材1を横目地内に配設したときに当該排水孔5の先端面が押出成形セメント板Sの外表面よりわずかに突出する程度に設定される(図4参照)。
【0030】
水切り材1は、アルミニウム、ステンレスなどの金属や、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂により作製することができる。図1に示される形状の場合、水切り材1の水平部2と、溝部4を構成する垂下部8、底部9および立壁部10とを厚さ0.4mm程度の金属薄板を成形加工することで作製することができ、水切り材1を簡単かつ低コストで作製することができる。
【0031】
図3は図1に示される水切り材の使用状態説明図であり、この例では、簡単のために3枚の押出成形セメント板Sが左右方向に並設されているが、実際の外壁においては上下方向にも複数枚の押出成形セメント板Sが設けられ、また左右方向にも複数枚の押出成形セメント板Sが並設されるのが一般的である。水切り材1は、押出成形セメント板Sの下端面と、下地鋼材である受けアングル12の内側水平面12aとの間において、水切り材1の水平部2が押出成形セメント板Sの下端面と対向するように配設される。図3に示される例では、1枚の押出成形セメント板Sに1つの水切り材1が使用されているが、水切り材1の長さを適宜変更することによって、複数の押出成形セメント板Sにまたがる構成とすることも可能である。
【0032】
図4は図1に示される水切り材をサッシ上部の横目地部に設けたときの断面説明図であり、簡単のために建物躯体の構造材の図示は省略している。
図4において、13は開口補強用アングルであり、この開口補強用アングル13に溶着された棒状の開口取付材14に、開口部(窓)を構成するサッシ15が取り付けられる。押出成形セメント板Sは、その上部が、建物の躯体に取り付けられた下地鋼材であるL型アングル(図示せず)にZクリップなどの取付金具によって中空部100が垂直方向となるように取り付けられ、その下部は、開口補強用アングル13に取り付けられた下地鋼材である受けアングル12の内側水平面12a上に載置される。
【0033】
水切り材1は、その水平部2および起立部3がそれぞれ前記受けアングル12の内側水平面12aおよび内側垂直面12bに当接するように当該受けアングル12の上側に配設される。そして、押出成形セメント板Sは、その背面103に水切り材1の起立部3との間に出入り調整用のパッキング材16を挟みこんだ状態で受けアングル12上に載置される。すなわち、押出成形セメント板Sは水切り材1を挟んで受けアングル12上に載置される。このとき水切り材1の水平部2は押出成形セメント板Sの下端面102と対向した位置にあり、また起立部3は押出成形セメント板Sの背面103と対向した位置にある。
【0034】
水切り材1の溝部4のうち水平部2の前方辺2aに沿った溝部が、押出成形セメント板Sとサッシ15との間に形成される横目地部に配設される。そして、この溝部を構成する立壁部10aの前面に接するようにバックアップ材17が挿入され、ついでこのバックアップ材17の前面にシーリング材18が打設される。排水孔5は、前記バックアップ材17およびシーリング材18を貫通して、その先端がシーリング材18の表面から外部に突出している。
【0035】
左右の押出成形セメント板S間の縦目地部では、図5に示されるように、水切り材1の溝部4のうち水平部2の左辺2bまたは右辺2cに沿った溝部が配設され、また水切り材1の両端部に設けられた折り返し部6が押出成形セメント板Sの背面側肉厚部101と接している。なお、図5では、簡単のため縦目地部における片方の押出成形セメント板Sしか図示していない。
【0036】
左右の水切り材1の溝部と押出成形セメント板Sの背面側肉厚部101との間にはガスケット20が挿入されており、このガスケット20は、上下方向に沿って配設される縦ガスケット21と、前記溝部に沿って前後方向に配設される横ガスケット22とからなっている。立壁部のうち水平部2の左辺2bまたは右辺2cに沿って設けられた立壁部の高さは、前記横ガスケット22の高さh3以下となるように設定されている。これにより、左右の押出成形セメント板間の縦目地部から浸入した雨水を、前記横ガスケット22から溝部に流入させることができ、当該雨水が室内側へ浸入するのを確実に阻止することができる。
【0037】
横目地部では、例えば目地部を構成するシーリング材の欠損などによって押出成形セメント板Sの中空部100に雨水が浸入した場合、当該中空部100から下方へ雨水が流れるが、この雨水は水切り材1の水平部2によってサッシ15側へ流入するのが阻止される。また、押出成形セメント板Sの背面側に廻った雨水も水切り材1の起立部3によって室内側へ流入するのが阻止される。流入した雨水は水平部2から溝部4へと流れ、最終的に排水孔5から外部へと排出される。
【0038】
一方、縦目地部では、押出成形セメント板Sの背面側肉厚部101に設けられた縦ガスケット21によって室内側への雨水の浸入が阻止され、縦目地部を下方に流れた雨水は横ガスケット22によってサッシ15側へ流入するのが阻止され、水切り材1の溝部4へと流れ、同じく最終的に排水孔5から外部へと排出される。
【0039】
本実施の形態に係る水切り材1によれば、目地部から浸入した雨水は押出成形セメント板Sの前面から排出されるので、押出成形セメント板Sとサッシ15の取り合い部においても、従来のようにサッシ15を避けて雨水を左右に流すことなく、このサッシ15だけで雨水の排水を完結させることができ、サッシ15との取り合い部においても十分な二次防水構造とすることができる。これにより、連窓のように開口幅が大きい場合でも目地部における二次防水の信頼性を向上させることができる。
【0040】
また、水切り材1のサイズや排水孔5の数を調整することで雨水が流れる距離を短くすることができ、その結果、溝部4に容易に勾配を与えることができ、当該溝部4での雨水の滞留を確実になくすことができる。
【0041】
なお、前述した目地部からの雨水の浸入は、例えばシーリング材が長に亘って繰り返される温度変化などで劣化し、押出成形セメント板Sとシーリング材との接着剤力がなくなり、界面剥離することにより、その部分から雨水が浸入することが考えられる。ただし、シーリング材が丸ごと欠損することは通常ありえないことであるので、目地部の欠損による雨水の浸入といっても大量の雨水が流れ込むものではなく、したがって雨天時に水切り材の排水孔5から大量の雨水が常に排水されることはない。そして、排水孔5から大量に雨水が排水されることはないので、排水孔5が開口部の上にあっても当該排水孔5からの雨水の流れが開口部に影響を及ぼすことはない。
【0042】
図6は、本発明の他の実施の形態に係る水切り材30の斜視説明図であり、図7は図6に示される水切り材30の左側部31の斜視説明図である。水切り材30は、左側部31、中間部41および右側部51の3つの部分から構成されている。
左側部31は、押出成形セメント板の下端面と対向して配置される左側水平部32と、この左側水平部32の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板の背面と対向して配置される左側起立部33と、前記左側水平部32の前方辺および左辺の2辺に沿って設けられた左側溝部34とを備えている。また、左側部31の左側端部には、押出成形セメント板の背面側肉厚部と当接する左側折り返し部36が設けられている。さらに、左側溝部34と連通し、当該左側溝部34を含む溝部内の雨水を外部に排出するための排水孔35が設けられている。
【0043】
中間部41は、押出成形セメント板の下端面と対向して配置される中間水平部42と、この中間水平部42の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板の背面と対向して配置される中間起立部43と、前記中間水平部42の前方辺に沿って設けられた中間溝部44とを備えている。
【0044】
右側部51は、押出成形セメント板の下端面と対向して配置される右側水平部52と、この右側水平部52の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板の背面と対向して配置される右側起立部53と、前記右側水平部52の前方辺および右辺の2辺に沿って設けられた右側溝部54とを備えている。また、右側部51の右側端部には、押出成形セメント板の背面側肉厚部と当接する右側折り返し部56が設けられている。
【0045】
図6に示される水切り材30では、水切り材30が3つの部分、すなわち左側部31、中間部41および右側部51から構成されているので、前述した図1〜5に示される水切り材1により得られる効果に加え、中間部41の幅を適宜変更することで押出成形セメント板のサイズ(幅)に応じた水切り材30を簡単に且つ低コストで提供することができる。
【0046】
なお、本発明の水切り材を上下の押出成形セメント板の横目地部に用いる場合、水切り材の幅を、押出成形セメント板1枚分、または2〜3枚分程度に限定することにより、万一シーリング材が欠損するなどして漏水が発生したとしても、排水路からの排水を確認することにより漏水の位置を容易に特定することができる。これにより、シーリング材の補修を迅速且つ容易に行うことができる。従来のように雨水を押出成形セメント板の中空部に順次導く方法では、最下部の押出成形セメント板から雨水が排出されるので、漏水位置を特定するのが困難である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の水切り材の一実施の形態の斜視説明図である。
【図2】図1に示される水切り材の横断面図である。
【図3】図1に示される水切り材の使用状態説明図である。
【図4】図1に示される水切り材をサッシ上部の横目地部に設けたときの断面説明図である。
【図5】水切り材の左側端部の防水構造を示す斜視説明図である。
【図6】本発明の水切り材の他の実施の形態の斜視説明図である。
【図7】図6に示される水切り材の左側部の斜視説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1 水切り材
2 水平部
3 起立部
4 溝部
5 排水孔(排水路)
6 折り返し部
7 傾斜部
8 垂下部
9 底部
10 立壁部
12 受けアングル
15 サッシ
16 パッキング材
17 バックアップ材
18 シーリング材
20 ガスケット
21 縦ガスケット
22 横ガスケット
30 水切り材
31 左側部
32 左側水平部
33 左側起立部
34 左側溝部
35 排水孔
36 左側折り返し部
41 中間部
42 中間水平部
43 中間起立部
44 中間溝部
51 右側部
52 右側水平部
53 右側起立部
54 右側溝部
56 右側折り返し部
100 中空部
102 下端面
103 背面
S 押出成形セメント板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下端面で開口する複数の中空部が並設された押出成形セメント板を縦張りする際の横目地部に設けられる押出成形セメント板用水切り材であって、
押出成形セメント板の下端面と対向して配置される帯板状の水平部と、
この水平部の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板の背面と対向して配置される起立部と、
前記水平部の前方辺、左辺および右辺の3辺に沿って設けられた溝部と、
前方辺に沿った溝部と連通し、当該溝部内の雨水を外部に排出するための排水路と
を備えたことを特徴とする押出成形セメント板用水切り材。
【請求項2】
左右の各端部に、押出成形セメント板の背面側肉厚部と当接する折り返し部が設けられている請求項1に記載の押出成形セメント板用水切り材。
【請求項3】
前記溝部が、水平部の前方辺、左辺および右辺から下方に延設された垂下部と、この垂下部の下端から水平方向に延びる底部と、この底部の先端から上方に延設された立壁部とで構成されている請求項1または2に記載の押出成形セメント板用水切り材。
【請求項4】
前記底部のうち前記水平部の前方辺に沿って設けられた底部に、前記排水路に向かって下降する勾配が形成されている請求項3に記載の押出成形セメント板用水切り材。
【請求項5】
前記立壁部のうち前記水平部の左辺および右辺に沿って設けられた立壁部の高さが、押出成形セメント板用水切り材の左右の各端部において当該端部と密接して前後方向に配設されるガスケットの高さ以下となるように設定されている請求項3または4に記載の押出成形セメント板用水切り材。
【請求項6】
上下端面で開口する複数の中空部が並設された押出成形セメント板を縦張りする際の横目地部に設けられる押出成形セメント板用水切り材であって、
左側部、中間部および右側部から構成されており、
前記左側部は、押出成形セメント板の下端面と対向して配置される左側水平部と、この左側水平部の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板の背面と対向して配置される左側起立部と、前記左側水平部の前方辺および左辺の2辺に沿って設けられた左側溝部とを備えており、
前記中間部は、押出成形セメント板の下端面と対向して配置される中間水平部と、この中間水平部の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板の背面と対向して配置される中間起立部と、前記中間水平部の前方辺に沿って設けられた中間溝部とを備えており、
前記右側部は、押出成形セメント板の下端面と対向して配置される右側水平部と、この右側水平部の後方辺から立設され、前記押出成形セメント板の背面と対向して配置される右側起立部と、前記右側水平部の前方辺および右辺の2辺に沿って設けられた右側溝部とを備えており、
前記左側水平部の前方辺に沿った左側溝部、前記中間水平部の前方辺に沿った中間溝部、および前記右側水平部の前方辺に沿った右側溝部の少なくとも一つと連通し、当該溝部内の雨水を外部に排出するための排水路が設けられていることを特徴とする押出成形セメント板用水切り材。
【請求項7】
前記左側部の左側端部および前記右側部の右側端部に、押出成形セメント板の背面側肉厚部と当接する折り返し部がそれぞれ設けられている請求項6に記載の押出成形セメント板用水切り材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の押出成形セメント板用水切り材を用いた、上下端面で開口する複数の中空部が並設された押出成形セメント板を縦張りする際の横目地部の防水構造であって、前記押出成形セメント板を支持するための下地アングルに当接するように前記押出成形セメント板用水切り材を配設することを特徴とする防水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−53591(P2010−53591A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219488(P2008−219488)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000135335)株式会社ノザワ (52)
【Fターム(参考)】