説明

排ガスダストの処理方法

【課題】真空精錬炉から排出され捕集された可燃性ダストを、低温発火をしない安全なものにして設備コストの低減を実現する。
【解決手段】真空精錬炉1から排出される可燃性の排ガスダストを、排ガス流路2に設けた集塵装置33で捕集し、捕集された当該排ガスダストをダストボックス5内の水中に浸漬してスラリーとなし、当該スラリーを脱水して難燃性のスラッジとする。スラッジは酸洗スケール等と共に造粒ライン6へ供給されてペレット化され、ペレットは還元用電気炉へ搬送されて有価金属が回収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガスダストの処理方法に関し、特に真空精錬炉から排出される非酸化の可燃性ダストの発火を防止するための排ガスダストの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AOD炉に真空排気系を設けたような真空精錬炉では、排出される排ガスダストは、200?300℃程度の比較的低温で酸化発熱し自然発火して燃え広がる性質の可燃性ダストである。従来は、真空排気系のサイクロンセパレータ、ガスクーラ、集塵装置等にそれぞれ付設されたホッパーに集積されたダストを、ボックスで受けて電気炉に搬送し投入して有価金属を回収している。しかし、搬送途中で往々にして排ガスダストが発火して操業効率を低下させていた。なお、特許文献1には、集塵機で捕集した電気炉の不燃性の排ガスダストを造粒機でペレットに成形し、このペレットを電気炉へ気体輸送で戻して処理するダスト処理方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−86845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に示されている方法ではダストの搬送は自動化されるものの、真空精錬炉からの可燃性ダストにこの方法を適用する場合には、搬送途中での発火を防止するために、集塵機から有価金属回収用の還元炉までの搬路全てを不活性ガス雰囲気でシールする必要があるため設備コストが甚大になるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、真空精錬炉から排出され捕集された可燃性ダストを、低温発火をしない安全なものにして設備コストの低減を実現した排ガスダストの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本第1発明の処理方法では、真空精錬炉から排出される可燃性ダストを捕集し、捕集された当該可燃性ダストを水中に浸漬してスラリーとなし、当該スラリーを脱水して難燃性のスラッジとすることを特徴としている。
【0007】
本第1発明の処理方法によって得られたスラッジはその発火温度が400℃以上となって難燃化される。したがって、スラッジとしてから造粒し還元用電気炉等へ搬送するまでの工程は不活性ガス雰囲気でシールする必要がなくなるから設備コストの増大が抑えられる。
【0008】
また、本第2発明の処理方法では、真空精錬炉から排出される可燃性ダストを捕集し、捕集された当該可燃性ダストを燃焼させて不燃化した粉体とすることを特徴としている。
【0009】
本第1発明の処理方法によって得られた粉体は不燃化したものとなる。したがって、可燃性ダストを上記粉体としてから造粒し還元用電気炉等へ搬送するまでの工程は不活性ガス雰囲気でシールする必要がなくなるから設備コストの増大が抑えられる。
【0010】
ここで、本第1および第2発明の処理を施した後の粉体は、粒径が1μm以下の金属、酸化物、水酸化物からなる粒子を合計90質量%以上含有するダストに、MnO,MgO成分を70重量%以上含有し、結晶構造が岩塩型、スピネル型、ないし非晶質であり、金属はMn,Mg,Fe,Cr成分のうちいずれか1種ないし2種以上を含有する有価金属原料である。そして、本第1発明の処理を施した後のスラッジは、全体の50重量%以下の水分を含有したものである。また、本第2発明の処理を施した後の粉体は水分含有量が5%以下である。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明の排ガスダストの処理方法によれば、真空精錬炉から排出され捕集された可燃性ダストが、低温発火をしない安全なものになるから、有価金属回収用の還元炉までのダストの搬路全てを不活性ガス雰囲気でシールする必要は無くなり、これにより設備コストを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態における処理方法を実施するための装置構成を示す系統図である。
【図2】第1実施形態の方法で排ガスダストから得られたスラッジの加熱時温度変化を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態における処理方法を実施するための装置構成を示す系統図である。
【図4】第2実施形態の方法で排ガスダストから得られた粉体の加熱時温度変化を示す図である。
【図5】従来の排ガスダストの加熱時温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
図1には本発明のダスト処理方法を実施するための装置構成の一例を示す。図1において、AOD炉に真空排気系を設けた真空精錬炉1には伸縮継手21を介して、エジェクタに至る排ガス流路2が接続されており、排ガス流路2には上流側よりサイクロンセパレータ31、ガスクーラ32、およびバグフィルタ331を内蔵した集塵装置33が設けられている。そして、これらサイクロンセパレータ31、ガスクーラ32、集塵装置33で捕集された可燃性の排ガスダストが、それぞれの下部に設置されたホッパ311,321,322,332を経てスクリューコンベア41上に排出される。
【0014】
上記排ガスダストは凡そ、MnOおよびMgOの酸化物微粒子と、数十nm以上のMn−Fe−Cr−Mg系の金属微粒子とで構成されている。このようなダストが発火するメカニズムは、Mnリッチな金属微粒子が発火源となってMnOを主体とする酸化物微粒子が燃焼するものと推定され、その発火温度は後述のように木材よりも低く、可燃性のダストである。また、この燃焼反応は連鎖的に起こり、ダスト全体に広がる傾向がある。
【0015】
スクリューコンベア41上へ排出された排ガスダストは、後段のスクリューコンベア42を経て、水を貯留したダストボックス43内へ搬送されてその水中へ投入される。ダストボックス43の容量の一例は約1.2m3であり、これに約半分の水を貯留しておく。そして当該ダストボックス43が満杯になる程度に排ガスダストを投入して、水中に1時間程度浸漬させる。ここで、ダストボックス43の容積は1〜3m3とし、これに水を50〜70体積%貯留した状態で排ガスダストを水と同体積投入して1時間以上浸漬すると良い。なお、上記スクリューコンベア41,42は実際には気密性のカバーで覆われ、その内部は不活性ガス雰囲気として搬送途中での非ガスダストの発火を防止している。
【0016】
水中に浸漬されることによって排ガスダストは以下の反応を生じる。
M+2H2O=M(OH)2+H2
3Fe+4H2O=Fe3O4+4H2
Fe+Cr2O3+H2O=FeCr2O4+H2
Fe+2Cr+4H2O=FeCr2O4+4H2
MO+H2O=M(OH)2
3FeO+H2O=Fe3O4+H2
上記反応式中でMはMnないしMgである。反応式より知られるように、水中に浸漬されることによって、排ガスダスト中の発火源となる金属微粒子や酸化物微粒子が消失する。これにより、後述のような難燃性のスラッジが得られる。
【0017】
ここで、上記反応式によれば反応後は水素ガスが生じるが、発明者の実験によれば、その濃度は水面から2,3cm上方の、水面に近い位置でも1〜2体積%程度であり、水素爆発限界濃度である4〜75体積%の範囲に入ることは無い。この場合、水との反応は大気開放雰囲気で行われるから、水素ガスが充満することは無く、水素爆発のおそれは全く無い。
【0018】
排ガスダストを水に浸漬したスラリーはその後、図1に示すように排水処理設備5に投入されて、ここで廃硝弗酸が添加されてCr6+が還元され、続いてフィルタープレスによって水分が50質量%以下になるように脱水される。脱水して得たスラッジは酸洗スケール等と共に造粒ライン6へ供給されてペレット化される。ペレットは還元用電気炉へ搬送され、ここへ投入されて有価金属が回収される。
【0019】
水中浸漬の後、脱水して得たスラッジの難燃性の程度は、スラッジを縦型抵抗炉内に装入してその発火温度を測定することによって確認した。これを図2に示し、発火温度は400℃程度(図中の矢印点)になっている。これに対して、水中浸漬する前の排ガスダストの発火温度は図5に示すように、試料温度が急上昇する直前の237℃(図中の矢印点)と木材の発火温度(260℃)よりも低い。このように、可燃性の排ガスダストを水中浸漬処理することによってその発火温度を十分高くすることができるから、排ガスダストから得た脱水スラッジをペレット化して還元用電気炉へ搬送し投入するまでの工程は不活性ガス雰囲気でシールする必要がなくなり、設備コストの高騰を抑えることができる。
【0020】
(第2実施形態)
図3には本発明のダスト処理方法を実施するための装置構成の他の例を示す。図3において、第1実施形態と同様の真空精錬炉1(図1参照)の排ガス流路2に設けたサイクロンセパレータ31、ガスクーラ32、集塵装置33で捕集された排ガスダストが、それぞれの下部に連結されたホッパ311,321,322,332を経てスクリューコンベア44上に排出される。排ガスダストはフライトコンベア45を経て回転炉46に投入され、ここで発火温度(237℃)以上に加熱されて燃焼させられる。ここで、回転炉46の装入側の温度は300〜800℃とし、排出側の温度は300℃以下とするのが良い。加熱処理後の粉体は直接、ないしダストボックス47を経て圧空搬送管71内に供給される。なお、上記スクリューコンベア44およびフライトコンベア45は実際には気密性のカバーで覆われ、その内部を不活性ガス雰囲気として搬送途中でのダストの発火を防止している。
【0021】
圧空搬送管71には一端にコンプレッサー72が連結されて、管内に圧縮空気が流通させられており、その途中にサイクロンセパレータ73と、バグフィルタを内蔵した集塵装置74が直列に設けられている。圧空搬送管71内に供給された粉体は圧縮空気によってサイクロンセパレータ73および集塵装置74へ搬送され、ここで捕集される。捕集された粉体は、一端にコンプレッサー82が連結された圧空搬送チューブ81によって造粒ライン6へ送られ、ここで酸洗スケール等と共にペレット化される。ペレットは還元用電気炉へ搬送され、ここへ投入されて有価金属が回収される。
【0022】
加熱処理後の粉体の難燃性の程度は、燃焼後の排ガスダストを縦型抵抗炉内に装入してその発火温度を測定することによって確認した。これを図4に示す。これによると、400℃以上に加熱しても発火は認められない。このように、可燃性の排ガスダストを加熱処理することによって不燃性のものにすることができるから、排ガスダストを加熱処理して得た粉体をペレット化して還元用電気炉へ搬送し投入するまでの工程は不活性ガス雰囲気でシールする必要がなくなり、設備コストの高騰を抑えることができる。
【符号の説明】
【0023】
1…真空精錬炉、2…排ガス流路、31…サイクロンセパレータ、32…ガスクーラ、33…数人装置、43…ダストボックス、46…回転炉、5…排水処理設備、6…造粒ライン、71…圧空搬送管、73…サイクロンセパレータ、74…集塵装置、81…圧空搬送チューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空精錬炉から排出される可燃性ダストを捕集し、捕集された当該可燃性ダストを水中に浸漬してスラリーとなし、当該スラリーを脱水して難燃性のスラッジとすることを特徴とする排ガスダストの処理方法。
【請求項2】
真空精錬炉から排出される可燃性ダストを捕集し、捕集された当該可燃性ダストを燃焼させて不燃化した粉体とすることを特徴とする排ガスダストの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−98264(P2011−98264A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253104(P2009−253104)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【出願人】(000232793)日本冶金工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】