説明

排ガス浄化用酸化触媒装置

【課題】内燃機関の排ガス中のパティキュレートを短時間で酸化、燃焼することができる排ガス浄化用酸化触媒装置を提供する。
【解決手段】排ガス浄化用酸化触媒装置1は、複合金属酸化物を構成する複数の金属の化合物の水溶液を、スプレードライ法、噴霧熱分解法、凍結乾燥法のいずれか1種の方法により、多孔質フィルタ基材2の表面4cに塗布し、焼成することにより形成され、排ガス流入部4aから流入した排ガスが導入される該フィルタ基材2の表面4cを被覆するとともに、該フィルタ基材2の細孔よりも孔径が小さい細孔を有する多孔質体からなる酸化触媒3を備える。酸化触媒3は、化学式YMnO、Y1−xAgMnO(0.01≦x≦0.30)、Y1−xAgMn1−y(0.01≦x≦0.30かつ0.005≦y≦0.30、AはTi、Nb、Ta、Ru、Ce、Feのいずれか1種の金属)で表されるいずれか1種の複合金属酸化物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質フィルタ基材と、該多孔質フィルタ基材に担持された酸化触媒とを備える排ガス浄化用酸化触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、パティキュレートが含まれている。前記パティキュレートは、人体に対する悪影響が懸念されており、大気中への放出を抑制する必要がある。そこで、従来、ディーゼル車の排気系には、パティキュレートを捕集する多孔質フィルタ基材を備える排ガス浄化装置が設けられている。
【0003】
前記排ガス浄化装置では、排気ガスが多孔質フィルタ基材を通過すると、排ガス中に含まれるパティキュレートが該多孔質フィルタ基材に捕集される。しかし、その過程でパティキュレートが多孔質フィルタ基材に堆積して圧力損失を生じることにより、燃費が悪化する。そこで、定期的に或いは連続的に、多孔質フィルタ基材からパティキュレートを除去する必要がある。
【0004】
前記パティキュレートは、主として燃料に由来し、易燃焼成分である可溶性有機成分(SOF)と、難燃焼成分である煤(soot)とからなる。排ガス温度は一般的に200〜450℃の範囲であるので、燃焼開始温度が200〜500℃の範囲である可溶性有機成分は効率よく除去される一方、燃焼開始温度が550〜700℃の範囲である煤は殆ど除去されない。
【0005】
そこで、排気系に定期的に燃料を噴射して燃焼させ、その際に発生する燃焼熱で多孔質フィルタ基材を煤の燃焼温度まで昇温させ、強制的に再生する処理が行われている。しかし、前記処理では、多孔質フィルタ基材に堆積されたパティキュレートを燃焼除去するために、約600℃という高温状態を10〜20分間維持する必要があり、該多孔質フィルタ基材の溶損が懸念される。したがって、パティキュレート、特に煤の燃焼開始温度を低下させる必要がある。
【0006】
そこで、パティキュレートの燃焼開始温度を低下させるために、多孔質フィルタ基材と、該多孔質フィルタ基材に担持された酸化触媒とを備える排ガス浄化用酸化触媒装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1記載の酸化触媒は、銀、銅、及びこれらの酸化物と、セリアとからなる。前記酸化触媒は、触媒金属の化合物とバインダーとを含む水性スラリー中に多孔質フィルタ基材を浸漬し、乾燥、焼成することにより形成される。
【0007】
また、本発明者らにより、多孔質フィルタ基材に担持された酸化触媒を備える前記排ガス浄化用酸化触媒装置として、該酸化触媒が複合金属酸化物Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05からなるものが提案されている(特願2007−316337明細書参照)。前記明細書記載の酸化触媒は、前記複合金属酸化物を構成する各化合物を焼成してなる焼成物と水とバインダーとを混合粉砕して調製されたスラリーを、多孔質フィルタ基材に塗布し焼成することにより形成される。
【0008】
前記各排ガス浄化用酸化触媒装置によれば、パティキュレートの燃焼温度を450〜520℃の範囲に低下させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−73748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記各排ガス浄化用酸化触媒装置では、依然として前記燃焼時間を10〜20分間維持する必要があり、多孔質フィルタ基材の溶損を十分に防ぐことができないという不都合がある。
【0011】
本発明は、かかる不都合を解消して、内燃機関の排ガス中のパティキュレートを短時間で酸化、燃焼することができる排ガス浄化用酸化触媒装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明は、一方の端部を排ガス流入部とし、他方の端部を排ガス流出部とするウォールフロー構造を有する多孔質フィルタ基材と、該多孔質フィルタ基材に担持され複合金属酸化物からなる酸化触媒とを備える排ガス浄化用酸化触媒装置において、該複合金属酸化物を構成する複数の金属の化合物の水溶液を、スプレードライ法、噴霧熱分解法、凍結乾燥法のいずれか1種の方法により、該多孔質フィルタ基材の表面に塗布し、焼成することにより形成され、該排ガス流入部から流入した排ガスが導入される該多孔質フィルタ基材の表面を被覆するとともに、該多孔質フィルタ基材の細孔よりも孔径が小さい細孔を有する多孔質体からなる該酸化触媒を備え、該酸化触媒は、化学式YMnO、Y1−xAgMnO(0.01≦x≦0.30)、Y1−xAgMn1−y(0.01≦x≦0.30かつ0.005≦y≦0.30、AはTi、Nb、Ta、Ru、Ce、Feからなる群から選択される1種の金属)で表されるいずれか1種の複合金属酸化物からなることを特徴とする。
【0013】
本発明の排ガス浄化用酸化触媒装置は、多孔質フィルタ基材に担持され複合金属酸化物からなる酸化触媒を備えている。前記酸化触媒は、前記複合金属酸化物を構成する各金属の化合物の水溶液を、スプレードライ法、噴霧熱分解法、凍結乾燥法のいずれか1種の方法で前記多孔質フィルタ基材の表面に塗布し、焼成することにより、該多孔質フィルタ基材の細孔よりも孔径が小さい細孔を有する多孔質体となっている。
【0014】
本発明の排ガス浄化用酸化触媒装置によれば、前記酸化触媒が、前記多孔質フィルタ基材よりも小さい細孔径を有する多孔質体からなる前記複合金属酸化物であることにより、内燃機関の排ガス中のパティキュレートを短時間で酸化、燃焼することができる。
【0015】
前記化学式Y1−xAgMnOで表される前記複合金属酸化物は、化学式YMOで表される前記複合金属酸化物において、第1の金属であるYの一部を第3の金属であるAgで置換したものである。前記化学式Y1−xAgMnOで表される前記複合金属酸化物において、xが0.01未満では、酸化触媒活性を高める効果が不十分であり、xが0.30を超えると、酸化触媒の耐熱性が低下し十分な性能を得ることができない。
【0016】
また、前記化学式Y1−xAgMn1−yで表される前記複合金属酸化物は、化学式YMOで表される前記複合金属酸化物において、第1の金属であるYの一部を第3の金属であるAgで置換するとともに、第2の金属であるMnの一部を第4の金属であるRuで置換したものである。前記化学式Y1−xAgMn1−yで表される前記複合金属酸化物は、その結晶構造が六方晶、或いは六方晶とペロブスカイト構造との混晶となり、高い触媒活性を有することとなる。
【0017】
前記化学式Y1−xAgMn1−yで表される前記複合金属酸化物において、xが0.01未満では、酸化触媒活性を高める効果が不十分であり、xが0.30を超えると、酸化触媒の耐熱性が低下し十分な性能を得ることができない。また、yが0.005未満では、酸化触媒活性を高める効果が不十分であり、yが0.30を超えると、該複合金属酸化物の結晶構造中に六方晶を十分に得ることができない。
【0018】
また、本発明の排ガス浄化用酸化触媒装置においては、前記酸化触媒は、前記複合金属酸化物に対して5〜20質量%の範囲の酸化ジルコニウムを含むことが好ましい。前記構成によれば、内燃機関の排ガス中のパティキュレートの燃焼温度をさらに低下させることができる。
【0019】
前記酸化ジルコニウムの含有量が5質量%未満の場合には、前記燃焼温度を十分に低下させることができないことがあり、該酸化ジルコニウムの含有量が20質量%を超えても、それ以上の効果を得ることができないことがある。
【0020】
また、本発明の排ガス浄化用酸化触媒装置においては、前記多孔質体は、前記細孔の全数の95%以上が10μm未満の孔径を備えることが好ましい。前記構成によれば、内燃機関の排ガス中のパティキュレートの燃焼温度をさらに低下させることができる。
【0021】
前記多孔質体において、全数の5%を超える細孔が10μm以上の孔径を備える場合には、前記排ガス中のパティキュレートが該細孔の表面に十分に接触することができなくなり、該パティキュレートの燃焼温度を低下させる効果を十分に得られないことがある。
【0022】
また、本発明の排ガス浄化用酸化触媒装置においては、前記多孔質フィルタ基材及び前記多孔質体全体の気孔率が50〜80体積%の範囲であることが好ましい。前記構成によれば、内燃機関の排ガス中のパティキュレートの燃焼温度をさらに低下させることができる。
【0023】
前記多孔質フィルタ基材及び前記多孔質体全体の気孔率が50体積%未満である場合には、前記排ガスが該多孔質体の細孔を通過する際に圧力損失が増大することがある。一方、前記多孔質フィルタ基材及び前記多孔質体全体の気孔率が80体積%を超える場合には、前記排ガスと該多孔質体を形成している酸化触媒との接触確率が低下し、該パティキュレートの燃焼温度を低下させる効果が十分に得られないことがある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の排ガス浄化用酸化触媒装置の説明図。
【図2】実施例1の排ガス浄化用酸化触媒装置の流入セル表面の断面画像であり、図2(a)は倍率50倍の断面画像、図2(b)は図2(a)のA部を拡大して示す倍率500倍の断面画像。
【図3】実施例1の排ガス浄化用酸化触媒装置における多孔質フィルタ基材及び酸化触媒の細孔の孔径を示すグラフ。
【図4】実施例1〜10の排ガス浄化用酸化触媒装置における多孔質フィルタ基材及び酸化触媒全体の気孔率を示すグラフ。
【図5】実施例1〜10の排ガス浄化用酸化触媒装置によるパティキュレート燃焼時間を示すグラフ。
【図6】比較例2の排ガス浄化用酸化触媒装置の流入セル表面の断面画像であり、図6(a)は倍率50倍の断面画像、図6(b)は図6(a)のA部を拡大して示す倍率500倍の断面画像。
【図7】実施例2の排ガス浄化用酸化触媒装置における多孔質フィルタ基材及び酸化触媒の孔径を示すグラフ。
【図8】実施例3の排ガス浄化用酸化触媒装置における多孔質フィルタ基材及び酸化触媒の細孔の孔径を示すグラフ。
【図9】実施例4の排ガス浄化用酸化触媒装置における多孔質フィルタ基材及び酸化触媒の細孔の孔径を示すグラフ。
【図10】実施例5の排ガス浄化用酸化触媒装置における多孔質フィルタ基材及び酸化触媒の孔径を示すグラフ。
【図11】実施例6の排ガス浄化用酸化触媒装置における多孔質フィルタ基材及び酸化触媒の細孔の孔径を示すグラフ。
【図12】実施例7の排ガス浄化用酸化触媒装置における多孔質フィルタ基材及び酸化触媒の細孔の孔径を示すグラフ。
【図13】実施例8の排ガス浄化用酸化触媒装置における多孔質フィルタ基材及び酸化触媒の細孔の孔径を示すグラフ。
【図14】実施例9の排ガス浄化用酸化触媒装置における多孔質フィルタ基材及び酸化触媒の細孔の孔径を示すグラフ。
【図15】実施例10の排ガス浄化用酸化触媒装置における多孔質フィルタ基材及び酸化触媒の細孔の孔径を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1に示すように、本実施形態の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、多孔質フィルタ基材2と、多孔質フィルタ基材2に担持された酸化触媒3とからなる。
【0026】
多孔質フィルタ基材2は、例えば直方体形状であり、軸方向に貫通する複数の貫通孔が断面格子状に配設されてウォールフロー構造を形成している。多孔質フィルタ基材2は、前記ウォールフロー構造の一方の端部が排ガス流入部1aとなっていて、他方の端部が排ガス流出部1bとなっている。多孔質フィルタ基材2は、前記貫通孔からなる複数の流入セル4と複数の流出セル5とを備えている。
【0027】
流入セル4は、排ガス流入部1a側の端部4aが開放されると共に排ガス流出部1b側の端部4bが閉塞されている。排ガスは、流入セル4を介して、排ガス浄化用酸化触媒装置1に導入される。
【0028】
一方、流出セル5は、排ガス流入部1a側の端部5aが閉塞されると共に排ガス流出部1b側の端部5bが開放されている。排ガスは、流出セル5を介して、多孔質フィルタ基材2から排出される。
【0029】
流入セル4及び流出セル5は、断面市松格子状となるように交互に配設されていて、各セル4,5の境界部を形成するセル隔壁6により相互に隔てられている。尚、図示しないが、最外層のセル隔壁6の外周部には、排ガスの流出を規制する金属からなる規制部材が設けられている。
【0030】
多孔質フィルタ基材2は、例えばSiCからなる多孔質体であって、複数の細孔(図示せず)を備えている。多孔質フィルタ基材2は、例えば平均孔径11.2μmの前記細孔を備えている。また、多孔質フィルタ基材2は、それ自体20〜60体積%の範囲の気孔率を備えている。
【0031】
酸化触媒3は、化学式YMnO、Y1−xAgMnO(0.01≦x≦0.30)、Y1−xAgMn1−y(0.01≦x≦0.30かつ0.005≦y≦0.30、AはTi、Nb、Ta、Ru、Ce、Feからなる群から選択される1種の金属)で表されるいずれか1種の複合金属酸化物からなる。
【0032】
酸化触媒3は、前記複合金属酸化物を構成する複数の金属の化合物の水溶液を、スプレードライ法、噴霧熱分解法、凍結乾燥法のいずれか1種の方法により、多孔質フィルタ基材2の表面に塗布し、焼成することにより形成されたものである。
【0033】
ここで、前記スプレードライ法は、前記複数の金属の化合物の水溶液を、超音波式ネブライザ等を用いて霧状化し、熱風中に噴出させて瞬間的に流入セル4上に前記複数の金属の化合物からなる乾燥物を堆積させることにより行うことができる。
【0034】
また、前記噴霧熱分解法は、前記スプレードライ法により流入セル4上に堆積された前記複数の金属の化合物からなる乾燥物を、120〜1200℃の範囲の温度に加熱することにより行うことができる。
【0035】
また、前記凍結乾燥法は、前記複数の金属の化合物の水溶液を多孔質フィルタ基材2の流入セル4に凍結させ、減圧下で該水溶液に含まれる水分を昇華させて、流入セル4上に前記複数の金属の化合物からなる乾燥物を堆積させることにより行うことができる。
【0036】
尚、前記スプレードライ法及び前記凍結乾燥法の場合には、その後で前記水溶液が塗布された多孔質フィルタ基材2を焼成する必要があるが、前記噴霧熱分解法では前記水溶液の塗布及び焼成が同時に行われるため、別途焼成を行う必要がない。
【0037】
酸化触媒3は、上記のようにして形成されたことにより、流入セル4の表面4cを被覆するとともに、多孔質フィルタ基材2の細孔よりも小さい孔径の細孔(図示せず)を有する多孔質体を形成している。
【0038】
前記多孔質体は、前記細孔の全数の95%以上が10μm未満の孔径を備えている。また、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3は、両者を合わせた全体の気孔率が50〜80体積%の範囲となっている。
【0039】
排ガス浄化用酸化触媒装置1では、多孔質フィルタ基材2として、SiCからなる多孔質体を用いているが、Si−SiCからなる多孔質体を用いてもよい。
【0040】
次に、図1を参照して本実施形態の排ガス浄化用酸化触媒装置1の作動について説明する。まず、排ガス浄化用酸化触媒装置1を、排ガス流入部1aが内燃機関の排ガスの流路に対して上流側となるように設置する。このようにすると、流出セル5は端部5aが閉塞されているので、前記排ガスは、図1に矢示するように、端部4aから流入セル4内へ導入される。
【0041】
このとき、流入セル4は排ガス流出部1b側の端部4bが閉塞されているので、流入セル4内へ導入された前記排ガスは、流入セル4の表面4cに付着し、セル隔壁6の細孔を介して流出セル5内へ流通せしめられる。流入セル4の表面4cには、前記多孔質体からなる酸化触媒3が担持されている。そこで、前記排ガスが流通せしめられる間に、該排ガス中のパティキュレートが、酸化触媒3に接触し、該酸化触媒3の作用により酸化、燃焼され、除去される。
【0042】
この結果、前記パティキュレートが燃焼除去された前記排ガスが、流出セル5の排ガス流出部1b側の端部5bから、外部に排出される。
【0043】
本実施形態の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、孔径が小さい細孔を有する多孔質体からなる酸化触媒3を備え、該酸化触媒3は前記複合金属酸化物からなる。また、前記多孔質体の細孔の全数の95%以上が10μm未満の孔径を備えている。また、多孔質フィルタ基材2及び前記多孔質体全体の気孔率が50〜80体積%の範囲となっている。したがって、本実施形態の排ガス浄化用酸化触媒装置1によれば、内燃機関の排ガス中のパティキュレートを短時間で酸化、燃焼することができる。
【0044】
本実施形態の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、酸化触媒3は、前記複合金属酸化物に対して5〜20質量%の範囲の酸化ジルコニウムを含んでいることが好ましい。この場合には、内燃機関の排ガス中のパティキュレートの燃焼温度をさらに低下させることができる。
【0045】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例1】
【0046】
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸銀と、硝酸マンガン6水和物と、硝酸ルテニウムとを、0.95:0.05:0.95:0.05のモル比で混合し、混合物を得た。次に、得られた混合物を、イットリウム濃度が0.04mol/Lとなるように純水に溶解し、水溶液を得た。
【0047】
次に、軸方向に貫通する複数の貫通孔が断面格子状に配設された多孔質フィルタ基材2(日本碍子株式会社製SiC多孔質体、商品名:MSC14)を用意した。多孔質フィルタ基材2は、34×34×50mmの寸法を備える見かけ体積57800mmの直方体形状であり、細孔の平均孔径が11.2μmである。
【0048】
次に、多孔質フィルタ基材2の前記貫通孔の一端部を一つ置きに(すなわち、断面市松格子状となるように)、シリカを主成分とするセラミックス接着剤にて閉塞することにより、流出セル5を形成した。また、多孔質フィルタ基材2のうち、一端部を閉塞していない前記貫通孔の他端部を、前記セラミックス接着剤にて閉塞することにより、流入セル4を形成した。
【0049】
次に、流出セル5及び流入セル4が形成された多孔質フィルタ基材2に対して、噴霧熱分解法により、流入セル4の表面4cに前記水溶液を塗布し、焼成した。前記噴霧熱分解法は、次のようにして行った。
【0050】
まず、多孔質フィルタ基材2の質量を測定した。次に、超音波式ネブライザ(オムロン株式会社製、商品名:オムロン超音波式ネブライザNE−U17)を用いて前記水溶液を霧状化した。次に、得られた前記水溶液の霧を大気雰囲気のキャリヤガスに分散させ、該キャリヤガスを流入セル4に導入した。この結果、前記混合物に含まれる複数の金属の化合物が、流入セル4の表面4cに堆積された。このとき、前記キャリヤガスが多孔質フィルタ基材2に滞留することを防ぐために、排ガス流出部1b側の端部に接続したポンプを稼動し、流出セル5を介して該キャリヤガスを外部へ流出させた。
【0051】
前記キャリヤガスの導入の間、セラミックヒータにより多孔質フィルタ基材2を800℃の温度に保持して加熱した。そして、多孔質フィルタ基材2の質量が2.45g増加した後、前記キャリヤガスの導入を終了した。
【0052】
この結果、多孔質フィルタ基材2の流入セル4の表面4cに塗布された前記水溶液が焼成され、化学式Y0.95Ag0.05Mn0.95Ru0.05で表される複合金属酸化物からなる酸化触媒3が形成された。以上により、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1が得られた。酸化触媒3は、多孔質フィルタ基材2の見かけ体積1Lあたりの担持量が合計40gとなっている。
【0053】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、まず、電子顕微鏡を用いて、流入セル4の表面4cの断面画像を撮影した。図2(a),(b)に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1の断面画像を示す。図2(a),(b)に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1では、流入セル4の表面4cが多孔質体からなる酸化触媒3で均一に被覆されていることが明らかである。
【0054】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、水銀ポロシメトリ法により、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径と、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率とを測定した。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径の測定結果を図3に示す。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0055】
図3に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径は、0.09〜100μmの範囲にあった。ここで、多孔質フィルタ基材2の細孔の平均孔径が11.2μmであることを考慮すると、酸化触媒3の細孔の孔径は0.09〜10μmの範囲にあると考えられる。
【0056】
また、図4に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率は、65.5体積%であることが明らかである。
【0057】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、次のようにして酸化触媒性能評価試験を行った。まず、排ガス浄化用酸化触媒装置1を、エンジンベンチ内に設置したディーゼルエンジンの排気系に搭載した。前記ディーゼルエンジンは、排気量が2.2Lであった。
【0058】
次に、前記ディーゼルエンジンを運転することにより、排ガス浄化用酸化触媒装置1に、排ガス浄化用酸化触媒装置1の見かけ体積1Lあたり4gのパティキュレートを捕集させた。前記ディーゼルエンジンの運転条件は、排ガス浄化用酸化触媒装置1への流入ガス温度300℃、エンジン回転数1500回転/分、トルク80N・mであった。
【0059】
次に、パティキュレートが捕集された排ガス浄化用酸化触媒装置1を前記排気系から取り出し、触媒評価装置内の石英管に固定した。次に、排ガス浄化用酸化触媒装置1を、前記石英管の一端部から窒素を供給しながら加熱し、600℃の温度まで昇温させた。前記加熱は、前記石英管の周囲に設けられた加熱炉により行われた。次に、600℃の温度に達した時点で、窒素に代えて、酸素と窒素との体積比が15:85である混合ガスを、流速12.8L/分で供給した。
【0060】
そして、排ガス浄化用酸化触媒装置1に捕集されたパティキュレートの酸化、燃焼により生じた一酸化炭素及び二酸化炭素を、前記石英管の他端部(排出口)に接続したガス分析装置(株式会社堀場製作所製、商品名:MWXA−7500D)に導入した。次に、前記ガス分析装置により、一酸化炭素及び二酸化炭素の濃度を測定し、排ガス浄化用酸化触媒装置1に捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間を計測した。結果を図5に示す。
【0061】
図5に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、269秒であることが明らかである。
【0062】
〔比較例1〕
本比較例では、本実施例1で用いた多孔質フィルタ基材(日本碍子株式会社製SiC多孔質体、商品名:MSC14)そのものを、排ガス浄化用酸化触媒装置とした。本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置には、酸化触媒が一切担持されていない。
【0063】
次に、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置に対して、実施例1と全く同一にして、前記多孔質フィルタ基材の細孔の孔径と、該多孔質フィルタ基材の気孔率とを測定した。前記多孔質フィルタ基材の細孔の孔径の測定結果を図3に示す。前記多孔質フィルタ基材の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0064】
図3に示すように、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置において、前記多孔質フィルタ基材の細孔の孔径は、5〜100μmの範囲にあることが明らかである。
【0065】
また、図4に示すように、比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置において、前記多孔質フィルタ基材の気孔率は、43.4体積%であることが明らかである。
【0066】
次に、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置に対して、実施例1と全く同一にして、酸化触媒性能評価試験を行った。結果を図5に示す。
【0067】
図5に示すように、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、700秒であることが明らかである。
【0068】
〔比較例2〕
本比較例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸銀と、硝酸マンガン6水和物と、硝酸ルテニウムとを、0.95:0.05:0.95:0.05のモル比で混合し、混合物を得た。次に、前記混合物を混合粉砕した後、800℃の温度に1時間保持して一次焼成を行った。次に、前記一次焼成で得られた結果物を、水と混合し粉砕した後、回転式ボールミルを用いて100回転/分で5時間混合粉砕し、スラリーを調製した。
【0069】
次に、本実施例1で用いた多孔質フィルタ基材(日本碍子株式会社製SiC多孔質体、商品名:MSC14)を用意し、実施例1と全く同一にして、該多孔質フィルタ基材の貫通孔の一端部を一つ置きに閉塞することにより、流出セルを形成した。
【0070】
次に、前記流出セルが形成された多孔質フィルタ基材に、前記端部が閉塞されている側から前記スラリーを流し込むことにより、端部が閉塞されていない貫通孔(すなわち、前記流出セル以外のセル)内に該スラリーを流入させた。次に、前記スラリーが流入された多孔質フィルタ基材から過剰な前記スラリーを除去した。
【0071】
次に、前記スラリーが付着された多孔質フィルタ基材を、800℃の温度に1時間保持して二次焼成を行った。この結果、前記流入セルの表面に、化学式Y0.95Ag0.05Mn0.95Ti0.05で表される複合金属酸化物からなる酸化触媒が形成された。以上により、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置が得られた。前記酸化触媒は、前記多孔質フィルタ基材の見かけ体積1Lあたりの担持量が合計80gとなっている。
【0072】
次に、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置に対して、実施例1と全く同一にして、流入セルの表面の断面画像を撮影した。図6(a),(b)に、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置の断面画像を示す。図6(a),(b)に示すように、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置では、流入セルの表面は、実施例1の排ガス浄化用酸化触媒装置1の酸化触媒3を形成する多孔質体と比較して、細孔の数が少ない酸化触媒で被覆されていることが明らかである。
【0073】
次に、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置に対して、実施例1と全く同一にして、前記多孔質フィルタ基材及び前記酸化触媒の細孔の孔径と、該多孔質フィルタ基材及び該酸化触媒を合わせた全体の気孔率とを測定した。前記多孔質フィルタ基材及び前記酸化触媒の細孔の孔径の測定結果を図3に示す。前記多孔質フィルタ基材及び前記酸化触媒を合わせた全体の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0074】
図3に示すように、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置において、前記多孔質フィルタ基材及び前記酸化触媒の細孔の孔径は、5〜100μmの範囲にあった。ここで、前記多孔質フィルタ基材の細孔の孔径の平均孔径が11.2μmであることを考慮すると、前記酸化触媒の細孔の孔径は20〜100μmの範囲にあると考えられる。
【0075】
また、図4に示すように、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置において、前記多孔質フィルタ基材及び前記酸化触媒を合わせた全体の気孔率は、37.6体積%であることが明らかである。
【0076】
次に、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置に対して、実施例1と全く同一にして、酸化触媒性能評価試験を行った。結果を図5に示す。
【0077】
図5に示すように、本比較例の排ガス浄化用酸化触媒装置において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、1320秒であることが明らかである。
【実施例2】
【0078】
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸銀と、硝酸マンガン6水和物と、チタン(IV)メトキシドとを、0.95:0.05:0.95:0.05のモル比で混合した以外は、実施例1と全く同一にして、水溶液を得た。
【0079】
次に、本実施例で得られた水溶液を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2に該水溶液を塗布し、焼成することにより、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、化学式Y0.95Ag0.05Mn0.95Ti0.05で表される複合金属酸化物からなる酸化触媒3を備えている。酸化触媒3は、多孔質フィルタ基材2の見かけ体積1Lあたりの担持量が合計40gとなっている。
【0080】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径と、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率とを測定した。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径の測定結果を図7に示す。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0081】
図7に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径は、0.1〜100μmの範囲にあった。ここで、多孔質フィルタ基材2の細孔の平均孔径が11.2μmであることを考慮すると、酸化触媒3の細孔の孔径は0.1〜10μmの範囲にあると考えられる。
【0082】
また、図4に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率は、54.0体積%であることが明らかである。
【0083】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例1と全く同一にして、酸化触媒性能評価試験を行った。結果を図5に示す。
【0084】
図5に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、272秒であることが明らかである。
【実施例3】
【0085】
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸銀と、硝酸マンガン6水和物と、硝酸鉄9水和物とを、0.95:0.05:0.95:0.05のモル比で混合した以外は、実施例1と全く同一にして、水溶液を得た。
【0086】
次に、本実施例で得られた水溶液を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2に該水溶液を塗布し、焼成することにより、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、化学式Y0.95Ag0.05Mn0.95Fe0.05で表される複合金属酸化物からなる酸化触媒3を備えている。酸化触媒3は、多孔質フィルタ基材2の見かけ体積1Lあたりの担持量が合計40gとなっている。
【0087】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径と、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率とを測定した。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径の測定結果を図8に示す。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0088】
図8に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径は、0.02〜100μmの範囲にあった。ここで、多孔質フィルタ基材2の細孔の平均孔径が11.2μmであることを考慮すると、酸化触媒3の細孔の孔径は0.02〜10μmの範囲にあると考えられる。
【0089】
また、図4に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率は、60.2体積%であることが明らかである。
【0090】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例1と全く同一にして、酸化触媒性能評価試験を行った。結果を図5に示す。
【0091】
図5に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、300秒であることが明らかである。
【実施例4】
【0092】
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸マンガン6水和物とを、1:1のモル比で混合した以外は、実施例1と全く同一にして、水溶液を得た。
【0093】
次に、本実施例で得られた水溶液を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2に該水溶液を塗布し、焼成することにより、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、化学式YMnOで表される複合金属酸化物からなる酸化触媒3を備えている。酸化触媒3は、多孔質フィルタ基材2の見かけ体積1Lあたりの担持量が合計40gとなっている。
【0094】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径と、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率とを測定した。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径の測定結果を図9に示す。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0095】
図9に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径は、0.02〜100μmの範囲にあった。ここで、多孔質フィルタ基材2の細孔の平均孔径が11.2μmであることを考慮すると、酸化触媒3の細孔の孔径は0.02〜10μmの範囲にあると考えられる。
【0096】
また、図4に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率は、62.3体積%であることが明らかである。
【0097】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例1と全く同一にして、酸化触媒性能評価試験を行った。結果を図5に示す。
【0098】
図5に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、348秒であることが明らかである。
【実施例5】
【0099】
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸銀と、硝酸マンガン6水和物とを、0.95:0.05:1のモル比で混合した以外は、実施例1と全く同一にして、水溶液を得た。
【0100】
次に、本実施例で得られた水溶液を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2に該水溶液を塗布し、焼成することにより、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、化学式Y0.95Ag0.05MnOで表される複合金属酸化物からなる酸化触媒3を備えている。酸化触媒3は、多孔質フィルタ基材2の見かけ体積1Lあたりの担持量が合計40gとなっている。
【0101】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径と、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率とを測定した。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径の測定結果を図10に示す。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0102】
図10に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径は、0.01〜100μmの範囲にあった。ここで、多孔質フィルタ基材2の細孔の平均孔径が11.2μmであることを考慮すると、酸化触媒3の細孔の孔径は0.01〜10μmの範囲にあると考えられる。
【0103】
また、図4に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率は、67.5体積%であることが明らかである。
【0104】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例1と全く同一にして、酸化触媒性能評価試験を行った。結果を図5に示す。
【0105】
図5に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、451秒であることが明らかである。
【実施例6】
【0106】
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸銀と、硝酸マンガン6水和物と、硝酸ルテニウムとを、0.95:0.05:0.95:0.05のモル比で混合し、混合物を得た。次に、得られた混合物を、イットリウム濃度が0.04mol/Lとなるように純水に溶解し、第1の水溶液を得た。第1の水溶液に、ジルコニア濃度が0.01mol/Lとなるように水分散ジルコニア水溶液(ジルコニア濃度が20体積%)を添加し、第2の水溶液を得た。
【0107】
次に、本実施例で得られた第2の水溶液を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2に該水溶液を塗布し、焼成することにより、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、化学式Y0.95Ag0.05Mn0.95Ti0.05で表される複合金属酸化物と該複合金属酸化物に対して5質量%の酸化ジルコニウムとを含む酸化触媒3を備えている。酸化触媒3は、多孔質フィルタ基材2の見かけ体積1Lあたりの担持量が合計40gとなっている。
【0108】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例1と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径と、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率とを測定した。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径の測定結果を図11に示す。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0109】
図11に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径は、0.01〜100μmの範囲にあった。ここで、多孔質フィルタ基材2の細孔の平均孔径が11.2μmであることを考慮すると、酸化触媒3の細孔の孔径は0.01〜10μmの範囲にあると考えられる。
【0110】
また、図4に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率は、62.3体積%であることが明らかである。
【0111】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例1と全く同一にして、酸化触媒性能評価試験を行った。結果を図5に示す。
【0112】
図5に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、258秒であることが明らかである。
【実施例7】
【0113】
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸銀と、硝酸マンガン6水和物と、チタン(IV)メトキシドとを、0.95:0.05:0.95:0.05のモル比で混合した以外は、実施例6と全く同一にして、第2の水溶液を得た。
【0114】
次に、本実施例で得られた第2の水溶液を用いた以外は、実施例6と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2に該水溶液を塗布し、焼成することにより、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、化学式Y0.95Ag0.05Mn0.95Ti0.05で表される複合金属酸化物と該複合金属酸化物に対して5質量%の酸化ジルコニウムとを含む酸化触媒3を備えている。酸化触媒3は、多孔質フィルタ基材2の見かけ体積1Lあたりの担持量が合計40gとなっている。
【0115】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例6と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径と、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率とを測定した。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径の測定結果を図12に示す。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0116】
図12に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径は、0.01〜100μmの範囲にあった。ここで、多孔質フィルタ基材2の細孔の平均孔径が11.2μmであることを考慮すると、酸化触媒3の細孔の孔径は0.01〜10μmの範囲にあると考えられる。
【0117】
また、図4に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率は、59.5体積%であることが明らかである。
【0118】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例6と全く同一にして、酸化触媒性能評価試験を行った。結果を図5に示す。
【0119】
図5に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、267秒であることが明らかである。
【実施例8】
【0120】
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸銀と、硝酸マンガン6水和物と、硝酸鉄9水和物とを、0.95:0.05:0.95:0.05のモル比で混合した以外は、実施例6と全く同一にして、第2の水溶液を得た。
【0121】
次に、本実施例で得られた第2の水溶液を用いた以外は、実施例6と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2に該水溶液を塗布し、焼成することにより、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、化学式Y0.95Ag0.05Mn0.95Fe0.05で表される複合金属酸化物と該複合金属酸化物に対して5質量%の酸化ジルコニウムとを含む酸化触媒3を備えている。酸化触媒3は、多孔質フィルタ基材2の見かけ体積1Lあたりの担持量が合計40gとなっている。
【0122】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例6と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径と、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率とを測定した。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径の測定結果を図13に示す。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0123】
図13に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径は、0.02〜100μmの範囲にあった。ここで、多孔質フィルタ基材2の細孔の平均孔径が11.2μmであることを考慮すると、酸化触媒3の細孔の孔径は0.02〜10μmの範囲にあると考えられる。
【0124】
また、図4に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率は、56.8体積%であることが明らかである。
【0125】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例6と全く同一にして、酸化触媒性能評価試験を行った。結果を図5に示す。
【0126】
図5に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、295秒であることが明らかである。
【実施例9】
【0127】
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸マンガン6水和物とを、1:1のモル比で混合した以外は、実施例6と全く同一にして、第2の水溶液を得た。
【0128】
次に、本実施例で得られた第2の水溶液を用いた以外は、実施例6と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2に該水溶液を塗布し、焼成することにより、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、化学式YMnOで表される複合金属酸化物と該複合金属酸化物に対して5質量%の酸化ジルコニウムとを含む酸化触媒3を備えている。酸化触媒3は、多孔質フィルタ基材2の見かけ体積1Lあたりの担持量が合計40gとなっている。
【0129】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例6と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径と、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率とを測定した。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径の測定結果を図14に示す。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0130】
図14に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径は、0.01〜100μmの範囲にあった。ここで、多孔質フィルタ基材2の細孔の平均孔径が11.2μmであることを考慮すると、酸化触媒3の細孔の孔径は0.01〜100μmの範囲にあると考えられる。
【0131】
また、図4に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率は、55.2体積%であることが明らかである。
【0132】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例6と全く同一にして、酸化触媒性能評価試験を行った。結果を図5に示す。
【0133】
図5に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、338秒であることが明らかである。
【実施例10】
【0134】
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸銀と、硝酸マンガン6水和物とを、0.95:0.05:1のモル比で混合した以外は、実施例6と全く同一にして、第2の水溶液を得た。
【0135】
次に、本実施例で得られた第2の水溶液を用いた以外は、実施例6と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2に該水溶液を塗布し、焼成することにより、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1を製造した。本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、化学式Y0.95Ag0.05MnOで表される複合金属酸化物と該複合金属酸化物に対して5質量%の酸化ジルコニウムとを含む酸化触媒3を備えている。酸化触媒3は、多孔質フィルタ基材2の見かけ体積1Lあたりの担持量が合計40gとなっている。
【0136】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例6と全く同一にして、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径と、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率とを測定した。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径の測定結果を図15に示す。多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率の測定結果を図4に示す。
【0137】
図15に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3の細孔の孔径は、0.01〜100μmの範囲にあった。ここで、多孔質フィルタ基材2の細孔の平均孔径が11.2μmであることを考慮すると、酸化触媒3の細孔の孔径は0.01〜10μmの範囲にあると考えられる。
【0138】
また、図4に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、多孔質フィルタ基材2及び酸化触媒3を合わせた全体の気孔率は、56.3体積%であることが明らかである。
【0139】
次に、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1に対して、実施例6と全く同一にして、酸化触媒性能評価試験を行った。結果を図5に示す。
【0140】
図5に示すように、本実施例の排ガス浄化用酸化触媒装置1において、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間は、448秒であることが明らかである。
【0141】
図5から、実施例1〜10の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、捕集されたパティキュレートのうちの90質量%が燃焼されるまでに要した時間がいずれも460秒未満であることが明らかである。一方、比較例1,2の排ガス浄化用酸化触媒装置は、前記燃焼時間がいずれも700秒以上であることが明らかである。実施例1〜10の排ガス浄化用酸化触媒装置1は、比較例1,2の排ガス浄化用酸化触媒装置と比較して、内燃機関の排ガス中のパティキュレートを短時間で酸化、燃焼することができることが明らかである。
【符号の説明】
【0142】
1…排ガス浄化用酸化触媒装置、 2…多孔質フィルタ基材、 3…酸化触媒、 4a…排ガス流入部、 4c…多孔質フィルタ基材の表面、 5b…排ガス流出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部を排ガス流入部とし、他方の端部を排ガス流出部とするウォールフロー構造を有する多孔質フィルタ基材と、該多孔質フィルタ基材に担持され複合金属酸化物からなる酸化触媒とを備える排ガス浄化用酸化触媒装置において、
該複合金属酸化物を構成する複数の金属の化合物の水溶液を、スプレードライ法、噴霧熱分解法、凍結乾燥法のいずれか1種の方法により、該多孔質フィルタ基材の表面に塗布し、焼成することにより形成され、該排ガス流入部から流入した排ガスが導入される該多孔質フィルタ基材の表面を被覆するとともに、該多孔質フィルタ基材の細孔よりも孔径が小さい細孔を有する多孔質体からなる該酸化触媒を備え、
該酸化触媒は、化学式YMnO、Y1−xAgMnO(0.01≦x≦0.30)、Y1−xAgMn1−y(0.01≦x≦0.30かつ0.005≦y≦0.30、AはTi、Nb、Ta、Ru、Ce、Feからなる群から選択される1種の金属)で表されるいずれか1種の複合金属酸化物からなることを特徴とする排ガス浄化用酸化触媒装置。
【請求項2】
前記酸化触媒は、前記複合金属酸化物に対して5〜20質量%の範囲の酸化ジルコニウムを含むことを特徴とする請求項1記載の排ガス浄化用酸化触媒装置。
【請求項3】
前記多孔質体は、前記細孔の全数の95%以上が10μm未満の孔径を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の排ガス浄化用酸化触媒装置。
【請求項4】
前記多孔質フィルタ基材及び前記多孔質体全体の気孔率が50〜80体積%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の排ガス浄化用酸化触媒装置。

【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−284583(P2010−284583A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139520(P2009−139520)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】