説明

排ガス浄化装置

【課題】パティキュレートフィルタの再生効率を向上でき且つ耐久性に優れる排ガス浄化装置を提供すること。
【解決手段】内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置は、排ガスが流通するガス流路と、このガス流路に設けられ且つ多数の細孔が形成されたDPF17と、を備える。排ガスに接触するDPF17の導入面171は、その略全体が、細孔よりも小さい孔径を有する微細孔が形成された微多孔体18で被覆されている。この微多孔体18は、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する酸素貯蔵・放出性酸化物からなる担体と、この担体に担持されAgを含有する触媒と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気系には、パティキュレート(以下、PMともいう)を捕集するパティキュレートフィルタ等を備えた排ガス浄化装置が設けられている。DPFを排気ガスが通過すると、排ガス中に含まれるPMがパティキュレートフィルタに捕集されるが、その過程でPMがDPFに堆積して圧損を生じるために、燃費が悪化する。そこで、定期的にあるいは連続的に、DPFからPMを除去する必要がある。
【0003】
PMは、主として燃料に由来し、易燃焼成分である可溶性有機成分(SOF)、及び難燃焼成分である煤(soot)からなる。排ガス温度は一般的に200℃〜450℃であるところ、燃焼開始温度が200℃〜550℃である可溶性有機成分は効率良く除去されるが、燃焼開始温度が550℃〜700℃である煤はほとんど除去されない。
【0004】
そこで、排気系に燃料を定期的に噴射して燃焼させ、その際に発生する燃焼熱でパティキュレートフィルタを煤の燃焼温度まで昇温させる、強制的な再生処理が行われている。しかし、再生処理では、圧損レベルを充分に回復するためには、約600℃という高温状態を10〜20分間維持する必要があり、燃費の悪化やパティキュレートフィルタの溶損が懸念される。従って、PM、特に煤の燃焼開始温度を低下させる必要がある。
【0005】
かかる要請に応えるべく、PMの燃焼開始温度を低下させる種々の触媒を用いる技術が開発されている。例えば、特許文献1には、銀、銅、及びこれらの酸化物と、セリアとからなる触媒材料を含有する水性スラリー中に、DPFを浸漬し、乾燥、焼成すること(ディップコート法)で製造される排ガス浄化装置が開示されている。
【特許文献1】特開2001−73748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示される排ガス浄化装置は、従来よりも低下したとは言え、いまだ高水準(450℃〜600℃)にある温度状態を約10分間維持する必要があるため、依然として燃費の悪化は避けられないし、構造破壊等の劣化に伴う触媒性能の低下が懸念される。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、パティキュレートフィルタの再生効率を向上でき且つ耐久性に優れる排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、パティキュレートフィルタの導入面を微多孔体で被覆することで、再生時における圧損の急激な低下が予防されて排ガスの局所的な流通を抑制できること、及び銀系触媒がPMの燃焼開始温度の低下機能及び耐熱性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
排ガスが流通するガス流路と、このガス流路に設けられ且つ多数の細孔が形成されたパティキュレートフィルタと、を備え、
排ガスに接触する前記パティキュレートフィルタの導入面は、その略全体が、前記細孔よりも小さい孔径を有する微細孔が形成された微多孔体で被覆され、
前記微多孔体は、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素の酸素貯蔵・放出性の酸化物からなる担体と、この担体に担持されAgを含有する触媒と、を備える排ガス浄化装置。
【0010】
(2) 前記触媒は、1種以上の遷移金属元素(Agを除く)を更に含有する(1)記載の排ガス浄化装置。
【0011】
(3) 前記遷移金属元素は、Ru、Pd、及びPtからなる群より選ばれる1種以上である(2)記載の排ガス浄化装置。
【0012】
(4)前記酸化物は、複合酸化物を含む(1)から(3)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0013】
(5) 前記複合酸化物は、フルオライト、ペロブスカイト型、スピネル型、ルチル型、デラフォサイト型、マグネトプランバイト型、及びイルメナイト型からなる群より選ばれる1種以上である(4)記載の排ガス浄化装置。
【0014】
(6) 前記微細孔の95%以上は、孔径の水銀ポロシメトリ法での測定値が7μm未満である(1)から(5)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0015】
(7) 前記微多孔体は、前記パティキュレートフィルタよりも大きい気孔率を有する(1)から(6)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、導入面の略全体を、パティキュレートフィルタの細孔よりも小さい孔径を有する微細孔が形成された微多孔体で被覆したので、再生時における圧損の急激な低下が予防される。
しかも、酸素貯蔵・放出能酸化物からなる担体を用いたので、触媒によるPM燃焼開始温度の低下を補助できる。また、かかる担体にAg含有触媒を担持したので、PMの燃焼開始温度を大幅に低下させて燃費を飛躍的に向上できる。これら温度低下性能及び補助性能は、再生処理等の高温条件下においても、経時的に大きくは低下しにくい。これにより、パティキュレートフィルタの再生効率を向上でき且つ浄化装置の耐久性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
<排ガス浄化装置>
図1は、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置10の設置態様を示す図である。図2は、排ガス浄化装置10の概略構成図である。
【0019】
図1に示されるように、排ガス浄化装置10は、内燃機関としてのディーゼルエンジン2の排気管3の途中に設けられている。かかるディーゼルエンジン2から排出された排ガスはPM等を含有しているが、導入口11から排ガス浄化装置10の内部に導入され、導出口13から排ガス浄化装置10の下流へと導出される過程で浄化される。この機構について、以下詳細に説明する。
【0020】
図2に示されるように、排ガス浄化装置10は中空のケーシング12を有し、このケーシング12の内部にはガス流路14が形成されている。ガス流路14にはパティキュレートフィルタとしてのDPF17が設けられており、導入口11から導入された排ガスはDPF17を経た後に導出口13から導出される。
【0021】
DPF17には多数の細孔(図示せず)が形成されているため、DPF17は排ガス中のPMを捕集する能力を有する。かかるDPF17の材料としては、特に限定されないが、例えば、コージェライト、シリコンカーバイド、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0022】
図3はDPF17の全体斜視図であり、図4は図3の部分拡大断面図である。図3に示されるように、DPF17はハニカム構造を有しており、ガスの流通方向に沿って多数のセル16が設けられている。セル16の各々は隔壁161で互いに仕切られるとともに、ガスの流通方向について上流側及び下流側の端部が交互に封止材19で閉塞されている。これにより、導入口11から導入された排ガスは、まず、上流側端部が開放されたセル16aの流入流路15aに流入し、隔壁161の導入面171に接触する。この導入面171は、その略全体が微多孔体18で被覆されている。なお、略全体とは、PMの除去効率を所望の程度まで向上できるよう適宜設定されてよいが、通常、導入面の90%以上である。
【0023】
ここで、導入面171が微多孔体18で被覆されていない場合を想定する。図5は、DPFへのPM堆積量と圧損との関係を示すグラフである。排ガス中のPMは優先的にDPFの細孔内(深層濾過領域)に捕捉される結果、細孔が急速に閉塞されて、圧損が急上昇する。捕捉量が増加すると、やがてPMはDPFの表面(表層濾過領域)に堆積し始め、微細な孔を有するケーキ層を形成する。すると、排ガス中のPMがケーキ層に堆積し、DPFの細孔に閉塞されにくくなる結果、圧損の上昇が鈍化する。
【0024】
このようなDPFを再生するべく昇温すると、PMの燃焼開始温度に到達した到達部の近傍に捕捉されたPMが燃焼し始める。これにより、到達部では細孔の閉塞状態が解消されるため、到達部での圧損が急低下し、他の部分での圧損に比べて格段に小さくなる。すると、到達部近傍では排ガスが優先的に通過するため、排ガス中の酸素を利用して徐々にPMが燃焼するが、DPFの大部分には排ガスが通過しにくくなるため、到達部の周辺では他の部分では酸素不足のためにPMの燃焼は低水準にとどまる。この結果、堆積したPMの90%を除去するまで、十〜数十分という長時間を要することになる。
【0025】
これに対して、本発明に係る排ガス浄化装置では、前述のように導入面171が微多孔体18で被覆されており、微多孔体18、DPF17を順次通過することでPMが除去されたガスは、セル16bの流出流路15bに流出され、やがて浄化ガスとして導出口13から排ガス浄化装置10の下流へと導出される。
【0026】
そして、微多孔体18には微細孔が形成され、これら微細孔は細孔よりも小さい孔径を有する。このため、流入流路15aに流入した排ガス中のPMは微細孔に侵入しにくく、結果的に微多孔体18の表面に堆積する傾向が強まる。なお、孔径の測定手順や条件は、従来周知のものであってよく、例えば水銀ポロシメトリ法が使用できる。
【0027】
かかるDPF17を再生するべく昇温すると、PMの燃焼開始温度に到達した到達部の近傍に捕捉されたPMが燃焼し始めるが、微細孔に捕捉されたPMが少ないため、到達部での圧損は緩やかに低下し、他の部分での圧損との差異が小さく維持される。これにより、到達部のみならず他の部分にも排ガスが充分に供給され、PMの燃焼がDPF17全体に亘って進行するため、堆積したPMが迅速に除去されることになるものと推測される。
【0028】
このように、排ガス浄化装置10によれば、DPF17の略全体を微多孔体18で被覆したので、DPF17の再生効率を向上できる。ここで、DPF17の微細孔の孔径は、PMの粒径及び組成、DPFの加熱温度等に応じて、DPF17再生時における圧損低下を均等化して所望速度でPMが除去されるよう適宜設定されてよい。微細孔へのPMの侵入を充分に抑制できる点では、DPF17の微細孔の95%以上が7μm未満の孔径(水銀ポロシメトリ法での測定値)を有することが好ましい。
【0029】
また、排ガス浄化処理の初期における圧損上昇をより抑制できる点で、微多孔体18はDPF17よりも大きい気孔率を有することが好ましく、微多孔体18の気孔率は、好ましくは45%以上、より好ましくは55%以上である。気孔率の測定手順や条件は、従来周知のものであってよいが、例えば水銀ポロシメトリ法が利用できる。
【0030】
[微多孔体]
微多孔体18は、担体と、この担体に担持された触媒と、を備える。
【0031】
(担体)
担体は、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する酸素貯蔵・放出性の酸化物からなる。これら酸化物は、酸素貯蔵・放出性能を有し、触媒によるPM燃焼開始温度の低下を補助できる。また、上記元素を含有する酸化物は耐熱性に優れるので、補助性能が再生処理等の高温条件下においても、経時的に大きくは低下しにくい。なお、酸化物の酸素貯蔵・放出性は、通常、酸素の貯蔵・放出に伴って原子価が増減できるという特質に基づく。
【0032】
アルカリ土類金属元素としては、Mg、Ca、Sr、Ba等が好ましく、Sr、Baがより好ましい。遷移金属元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の希土類金属元素、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au等の貴金属元素、Mn、Fe、Co、Ni、V、Cu、Mo、W等が挙げられる。これらの中でも、La、Ce、Ru、Pd、Pt、Rh、及びMnが好ましい。
【0033】
このような酸化物は、再生処理等における高温における構造変化が小さく、長期間に亘って微細孔構造を維持できる点で、複合酸化物を含むことが好ましい。また、複合酸化物は、より長期間に亘って微細孔構造を維持できる点で、フルオライト、ペロブスカイト型、スピネル型、ルチル型、デラフォサイト型、マグネトプランバイト型、及びイルメナイト型からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0034】
(触媒)
触媒は、Agを含有する。かかる触媒は、PMの燃焼開始温度を大幅に低下させて燃費を飛躍的に向上できる。しかも、この温度低下性能は、再生処理等の高温条件下においても、経時的に大きくは低下しにくい。なお、触媒を構成する具体的な化合物としては、酸化銀(AgO)等が挙げられる。
【0035】
触媒は、種々の条件に対する適応性を向上できる点で、1種以上の遷移金属元素(Agを除く)を更に含有することが好ましい。かかる遷移金属元素は貴金属元素であることが好ましく、Ru、Pd、及びPtから選ばれる1種以上であることがより好ましい。また、遷移金属元素系の化合物の含有量は、触媒の全質量に対して0.1質量%以上0.3質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
なお、微多孔体18の厚みは、小さすぎると斑なく微多孔体18を形成することが困難である(特に、ディッピング法を用いる場合)一方、大きすぎると排ガス浄化処理の初期における圧損上昇が大きくなることから、0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0037】
微多孔体18は、従来周知の方法で得られるが、スプレードライ法、凍結乾燥法、又は噴霧熱分解法のいずれかを用いて造粒された粒子を焼結することで得られたものであることが好ましい。これにより、粒径分布の狭い粒子が作製されるため、微細孔の95%以上が7μm未満の孔径(水銀ポロシメトリ法での測定値)を有し且つ気孔率が45%以上の微多孔体を容易に作製できる。
【0038】
このような微多孔体18を備える排ガス浄化装置10によれば、PM(特に煤)の燃焼開始温度が大幅に低下されるので、排ガス(通常、200℃〜450℃)通過に伴ってDPFが自然に再生される。これにより、排気系への燃料噴射による強制的なDPF再生処理の程度又は頻度を低減し得るため、燃費及び耐久性の双方を更に向上できるという相乗的効果が得られる。
【0039】
<製造方法>
以上の排ガス浄化装置10は、従来公知の方法を適宜組み合わせて製造してよいが、排ガス浄化装置10の製造方法の好ましい一態様を次に説明する。まず、セル16がガスの流通方向に沿うように、DPF17をケーシング12内に設置する。次に、スプレードライ法、凍結乾燥法、又は噴霧熱分解法等を用いて造粒された粒子が分散されたキャリアガスをガス流路14に流通させる。このとき、DPF17を高温に加熱することで、導入面171に堆積した粒子を焼結させ、導入面171の略全体を微多孔体で被覆する。このようにして製造された排ガス浄化装置10は、任意の内燃機関の排気管に設けることで、内燃機関からの排ガスの浄化に使用できる。なお、導入面171上に微多孔体を配置できる限りにおいて、その手順は、スプレードライ法、凍結乾燥法、又は噴霧熱分解法に限られるものではない。
【0040】
例えば、スプレードライ法を用いる場合、微多孔体18を構成すべき元素(つまり、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素、並びにAg)を含む溶液又はスラリーを霧状化し、キャリアガスにのせて、昇温したDPF17へと噴出すればよい。これにより、DPF17に噴出された溶液又はスラリーが瞬間的に乾燥されて、粒径分布の狭い微細な粒子が造粒される。これら粒子が導入面171に堆積し、焼結されると、酸素放出性能を有する担体と、この担体に担持された銀触媒とを備える微多孔体18が形成される。
【0041】
なお、スラリーに含有されるAg系出発原料としては、硝酸銀(AgNO)、塩素酸銀(AgClO)、過塩素酸銀(AgClO)、酢酸銀(Ag(CHCOO))、4−シクロへキシルブタン酸銀(C11(CHCOOAg)等のように水に可溶であるものが挙げられ、硝酸銀が好ましい。また、酸化銀(AgO)、銀粉、硫酸銀(AgSO)等を硫酸、硝酸等の強酸で溶解させたものを銀化合物として使用してもよい。
【0042】
かかる方法によれば、キャリアガスがDPF17の低圧部分に優先的に流れて、粒子を堆積させるため、DPF17内部の圧力分布が狭まる。これにより、再生時におけるDPF17内部の圧力分布も狭まるため、PMの燃焼、除去をより迅速化できる。
【0043】
また、ガス流路14内にガスが滞留し、微多孔体18によるDPF17の被覆の制御が困難となる事態を抑制できる点で、ガス流路14内のガスを出口へと吸引することが好ましい。
【実施例】
【0044】
(参考例)
硝酸アルミニウム九水和物を純水に溶解した溶液を、ネブライザ(オムロン社製)で霧状化させた。この霧をガスにのせ、セラミックヒータで1050℃に保持した、ハニカム構造且つウォールフロー型の目封じされたSiC製DPF(気孔率41.7%、平均気孔径11.2μm、300セル、12mil)の一端面(34mm四方、長さ40mm)へと流入させた。ここで、ガスがDPF内で滞留することを防止するため、ポンプを稼動させてDPFの他端側からガスを吸引して外部へと排出した。DPFの質量を測定し、アルミナの堆積量が1.85gとなるまでガスの流通を行うことで、排ガス浄化装置を製造した。
【0045】
<実施例1>
硝酸セリウム98質量部及び硝酸銀2質量部を混合した後、純水に溶解した。得られた溶液をネブライザ(オムロン社製)で霧状化させた。セラミックヒータでのSiCの保持温度を800℃とし、銀及びセリアの堆積量が1.85gとなるまでガスの流通を行った点を除き、参考例と同様の条件で排ガス浄化装置を製造した。
【0046】
<実施例2>
硝酸ランタン0.01モル及び硝酸マンガン0.01モルを、適量の蒸留水に溶解した。この溶液に、LaMnO98質量部及び硝酸銀2質量部となるように硝酸銀を溶解した。その後、銀及びランタンマンガンの堆積量が1.85gとなるまでガスの流通を行った点を除き、実施例1と同様の条件で排ガス浄化装置を製造した。
【0047】
(比較例1)
参考例で使用した未処理のSiC製DPFの一端面で排ガス浄化装置を製造した。
【0048】
(比較例2)
酸化セリウム98質量部及び硝酸銀2質量部を純水に溶解し、混合溶液を得た。この混合溶液をエバポレータで蒸発乾固し、得られた固体を200℃にて3時間乾燥した後、700℃で2時間焼成処理を行った。生成された粉末をボールミルで湿式整粒してスラリーとし、このスラリー中に参考例で使用したSiC製DPFの一端面を浸漬した。余分なスラリーを取り除いたDPFに、700℃にて3時間の焼成処理を行うことで、排ガス浄化装置を製造した。
【0049】
<評価>
[観察]
参考例及び比較例2で製造した排ガス浄化装置におけるフィルタの導入面(ガス流路の上流側部分)を電子顕微鏡で観察した。この結果を図6に示す。
【0050】
参考例では、フィルタの導入面が、銀及びセリアからなる微多孔体で均一に被覆されていた(図6(a))。これに対し比較例2では、銀及びセリアからなると考えられる触媒層(図6(b)中の丸で囲んだ部分)がフィルタの導入面に斑に形成され、触媒層によってフィルタの細孔が閉塞されている部分も存在した。これにより、スプレードライ法を用いることで、フィルタの導入面を均一に微多孔体で被覆できることが確認された。なお、実施例1及び2で製造した排ガス浄化装置におけるフィルタの導入面も、参考例と同様の構造を有していた(図示せず)。
【0051】
[孔径、気孔率]
参考例で製造した排ガス浄化装置における微多孔体、及び比較例2で製造した排ガス浄化装置におけるDPFの各々について、水銀の接触角140°、表面張力480dyne cm−1の条件にて孔径分布を解析した。この結果を図7に示す。
【0052】
図7に示されるように、参考例では、孔径5μm未満の細孔が多数存在していた。これに対し比較例2では、孔径5μm未満の細孔はほとんど確認されなかった。参考例については気孔率も測定したところ、76.7%であった。図7には示していないが、比較例1では孔径7μm未満の細孔もほとんど確認されなかった。なお、実施例1及び2で製造した排ガス浄化装置における微多孔体も、参考例と同様の孔径分布及び気孔率を有していた(図示せず)。
【0053】
[フィルタ再生]
(前処理)
参考例、実施例及び比較例で製造した排ガス浄化装置を、定常状態のディーゼルエンジン(回転数:2500rpm、トルク:110N・m)の排気管に設置し、PM堆積量が0.09g(4g/L)となるまで排ガスの流通を行った。
【0054】
(再生試験1)
図8は、再生試験で使用した試験装置の概略図である。まず、上記排気管から排ガス浄化装置を取り外したうえで、送風装置を排ガス浄化装置に取り付けた。続いて、排ガス浄化装置のフィルタを加熱炉にて窒素雰囲気下600℃(通常状態でのPMの燃焼開始温度)に保持した後、フィルタに酸素15%及び窒素85%の混合ガスを流通させた(流速:12.8L/分)。排ガス浄化装置から導出されるガス中のCO及びCOの濃度を、測定装置「MWXA−7500D」(堀場製作所社製)を用いて測定し、次の式に基づいて、フィルタに残存するPMの割合を経時的に測定した。
PM残存率={0.09-(CO導出積算値×12/28)+(CO2導出積算値×12/44)}/0.09×100
この結果を図9に示す。なお、図9のグラフの横軸は酸素ガスの流通開始後の経過時間を意味する。
【0055】
図9に示されるように、実施例1及び2では、流通開始直後からPM残存率が急低下し、開始約30秒後にはDPFが充分に再生していた。これに対し、参考例ではDPF残存率が10%を下回るのに約200秒かかり、比較例1では約700秒かかり、比較例2でも約400秒かかっていた。
【0056】
これにより、フィルタの導入面を、セリアやマンガンランタンといった酸素貯蔵・放出性能を有する担体と、銀触媒とからなる微多孔体で被覆することで、フィルタの再生効率を飛躍的に向上できることが分かった。
【0057】
(再生試験2)
排ガス浄化装置のフィルタを600℃ではなく500℃に保持した点を除き、上記と同様の条件で、フィルタに残存するPM量を経時的に測定した。この結果を図10に示す。なお、図10のグラフの横軸は酸素ガスの流通開始後の経過時間を意味する。
【0058】
図10に示されるように、実施例1及び2では、流通開始約750秒後にPM残存率が10%を下回り、DPFが充分に再生していた。これに対し、参考例では、PMの除去の進行が遅く、PM残存率が10%を下回るのに約1300秒後かかり、比較例1では、開始2500秒後においても約35%ものPMが残存していた。また、比較例2では、PMの除去が銀及びセリアの触媒機能によって開始約500秒後まではある程度迅速になされたが、その後鈍化したため、開始2500秒後においても約20%のPMが残存していた。
【0059】
これにより、フィルタの導入面を、セリアやマンガンランタンといった酸素貯蔵・放出性能を有する担体と、銀触媒とからなる微多孔体で被覆することで、通常状態でのPMの燃焼開始温度よりも低温の条件下であっても、フィルタの再生効率を飛躍的に向上できることが分かった。
【0060】
(再生試験3)
実施例1、比較例1〜2で製造した排ガス浄化装置のフィルタを600℃ではなく450℃に保持した点を除き、上記と同様の条件で、フィルタに残存するPM量を経時的に測定した。この結果を図11に示す。なお、図11のグラフの横軸は酸素ガスの流通開始後の経過時間を意味する。
【0061】
図11に示されるように、実施例1では、酸素ガスの流通開始直後からPM残存率が急速に低下し、約2500秒後にはPM残存率が10%を下回っていた。これに対し、比較例1及び2では、酸素ガスを流通してもPM残存率がほとんど低下せず、開始2500秒後においても約65%以上ものPMが残存していた。
【0062】
本再生試験で採用した450℃という温度は通常の排ガス温度であることを踏まえると、実施例1の排ガス浄化装置によれば、排気系に燃料を定期的に噴射して燃焼させる等の昇温処理を行わなくとも、フィルタを充分に再生できることが示された。これにより、燃費の飛躍的な向上が期待できる。
【0063】
[変形例]
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0064】
例えば、前記実施形態ではウォールフロー型構造を採用したが、三次元網目構造やハニカム構造で両端面が交互に目封じされた構造、繊維状材料を複数積層させてフェルト状に成型された構造等を採用してもよい。
【0065】
また、前記実施形態では内燃機関としてディーゼルエンジンを採用したが、ガソリンエンジンとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置の設置態様を示す図である。
【図2】前記実施形態に係る排ガス浄化装置の概略構成図である。
【図3】前記実施形態に係る排ガス浄化装置を構成するパティキュレートフィルタの全体斜視図である。
【図4】図3の部分拡大断面図である。
【図5】パティキュレートフィルタへのパティキュレート堆積量と、圧損との関係を示すグラフである。
【図6】参考例に係る排ガス浄化装置を構成するパティキュレートフィルタの導入面を示す電子顕微鏡像である。
【図7】参考例に係る排ガス浄化装置を構成する微多孔体の孔径分布を示す図である。
【図8】本発明の実施例に係る排ガス浄化装置の評価に用いた試験装置の概略図である。
【図9】本発明の実施例に係る排ガス浄化装置の再生効率を示す図である。
【図10】本発明の実施例に係る排ガス浄化装置の再生効率を示す図である。
【図11】本発明の実施例に係る排ガス浄化装置の再生効率を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
2 ディーゼルエンジン(内燃機関)
3 排気管
10 排ガス浄化装置
11 導入口
12 ケーシング
13 導出口
14 ガス流路
15a 流入流路
15b 流出流路
16 セル
17 DPF(パティキュレートフィルタ)
18 微多孔体
161 隔壁
171 導入面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化装置であって、
排ガスが流通するガス流路と、このガス流路に設けられ且つ多数の細孔が形成されたパティキュレートフィルタと、を備え、
排ガスに接触する前記パティキュレートフィルタの導入面は、その略全体が、前記細孔よりも小さい孔径を有する微細孔が形成された微多孔体で被覆され、
前記微多孔体は、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する酸素貯蔵・放出性の酸化物からなる担体と、この担体に担持されAgを含有する触媒と、を備える排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記触媒は、1種以上の遷移金属元素(Agを除く)を更に含有する請求項1記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記遷移金属元素は、Ru、Pd、及びPtからなる群より選ばれる1種以上である請求項2記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記酸化物は、複合酸化物を含む請求項1から3いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記複合酸化物は、フルオライト、ペロブスカイト型、スピネル型、ルチル型、デラフォサイト型、マグネトプランバイト型、及びイルメナイト型からなる群より選ばれる1種以上である請求項4記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記微細孔の95%以上は、孔径の水銀ポロシメトリ法での測定値が7μm未満である請求項1から5いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項7】
前記微多孔体は、前記パティキュレートフィルタよりも大きい気孔率を有する請求項1から6いずれか記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−112962(P2009−112962A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289930(P2007−289930)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】