説明

排気ガス中の成分測定方法

【課題】 排気ガス中の成分を総合的にかつ簡便に測定することができる、排気ガス中の成分測定方法を提供する。
【解決手段】 本発明の排気ガス中の成分測定方法は、部材の表面を排気ガスに曝す工程と、前記排気ガスに曝された前記表面を溶媒で洗浄する工程と、前記洗浄する工程により得られた前記溶媒のpHを測定する工程と、を含む。また、排気ガス中の成分測定方法は、部材の表面を排気ガスに曝す工程と、前記排気ガスに曝された前記表面を溶媒で洗浄する工程と、前記洗浄する工程により得られた前記溶媒の電気伝導度を測定する工程と、
を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOxやNOxなどの各種有害化学物質および微粒子状物質(PM)を含む排気ガス中の成分測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題への関心が高まるなかで、自動車や保線車両などの内燃機関からの汚染物質の排出量を規制する動きが活発化している。例えば、ディーゼルエンジン車が排出する微粒子状物質(PM),NOx,SOxなどの排出量の規制が実施され、この規制は次第に強化される方向にある。
【0003】
PMとは、微粒子状物質の総称であり、その成分は固体スス、SOF(Soluble Organic Fraction)、硫酸ミスト(サルフェート)、窒素酸化物などで、その構成割合はエンジンタイプ、運転条件、燃料性状等により異なる。固体ススは炭素の固まりで、エンジンの高負荷時に多く発生する。また、SOFは、C15〜C35程度の粒子状炭化水素であって、ジクロロメタンで抽出できるものをいい、エンジンの低負荷時や低温始動時に多く発生する。硫酸ミストは、燃料中の硫黄分が酸化されてその生成物(硫黄酸化物)が水分に溶けてミスト化したものである。より具体的には、PMは、固体ススのまわりにSOF、硫酸ミスト、窒素酸化物などの物質が付着されて形成されている。
【0004】
PMの大きさは通常数十μm以下であるが、大気汚染の原因物質といわれる直径10μm以下の粒子を浮遊粒子状物質(SPM)といい、この中でも特に小さい直径2.5μm以下のものをPM2.5という。上述したように、PM2.5はSPMよりも格段に小さく、SPMよりも肺の奥まで入り込むため、喘息や気管支炎などのアレルギー疾患を起こす確率が高いといわれている。
【0005】
また、NOxはいわゆる窒素酸化物であり、大気中の窒素(N)および酸素(O)が高温状態で結合して生成する。NOxとしては、例えばNO,NO,NOが挙げられる。SOxはいわゆる硫黄酸化物であり、燃料中の硫黄分が酸化されて生成する。SOxとしては、例えばSO,SO,SO2−が挙げられる。
【0006】
近年、排気ガス中の汚染物質の排出量を規制する動きが活発化している中で、排気ガス中の成分をより簡便に測定する方法が求められている。
【非特許文献1】ヘルス エフェクツ インスティチュート(Health Effects Institutes) 著,小林剛 訳,ディーゼル排気の健康影響−米国HEIディーゼル・ワーキング・グループ特別報告書,社団法人 産業環境管理協会,1999年12月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、排気ガス中の成分を簡便に測定することができる、排気ガス中の成分測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の排気ガス中の成分測定方法は、
部材の表面を排気ガスに曝す工程と、
前記排気ガスに曝された前記表面を溶媒で洗浄する工程と、
前記洗浄する工程により得られた前記溶媒のpHを測定する工程と、
を含む。
【0009】
例えば自動車、ディーゼル機関車、保線車両などの一般的な内燃機関から排出される排気ガス中の主な酸性物質としては、NOxやSOxが挙げられる。上記本発明の排気ガス中の成分測定方法によれば、前記排気ガスに曝された前記表面を洗浄する際に得られた前記溶媒のpHを測定する工程を含むことにより、排気ガス中の酸性物質(例えば、NOxやSOx)を総合的にかつ簡便に定量することができる。
【0010】
また、本発明の排気ガス中の成分測定方法は、
部材の表面を排気ガスに曝す工程と、
前記排気ガスに曝された前記表面を溶媒で洗浄する工程と、
前記洗浄する工程により得られた前記溶媒の電気伝導度を測定する工程と、
を含む。
【0011】
上記本発明の排気ガス中の成分測定方法によれば、前記排気ガスに曝された前記表面を洗浄する際に得られた前記溶媒の電気伝導度を測定する工程を含むことにより、排気ガス中に含まれる電解質(例えば、NOxやSOx)を総合的にかつ簡便に定量することができる。
【0012】
なお、上記本発明の排気ガス中の成分測定方法において、部材の表面が排気ガスに曝されるのと同様に、実際にはヒトや動物の目の表面は排気ガスに曝される。すなわち、上記本発明の排気ガス中の成分測定方法において部材の表面を排気ガスに曝す工程は、ヒトや動物の目の表面が排気ガスに曝された状態を模倣したものであるといえる。したがって、上記本発明の排気ガス中の成分測定方法によれば、ヒトや動物の目が排気ガスに曝されたときに目の表面で起こる現象を再現して、目の表面で起こる酸性物質や電解質の付着を分析することができる。
【0013】
また、上記本発明の排気ガス中の成分測定方法によれば、従来の測定装置と比較して、より簡便に排気ガス中の成分(酸性物質および/または電解質)を測定することができる。
【0014】
また、排気ガスは圧力が変化することによって、その組成が変化しやすい。しかしながら、上記本発明の排気ガス中の成分測定方法によれば、排気ガスの圧力を変えずに排気ガス中の成分を測定することができる。これにより、組成が変化していない排気ガスの成分を測定することができる。
【0015】
上記排気ガス中の成分測定方法において、前記部材は無色透明であることができる。この構成によれば、前記排気ガスによる前記表面の付着物の状態を目視によってより簡便に認識することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本実施の形態の排気ガス中の成分測定方法について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施の形態の排気ガス中の成分測定方法の各工程を説明するフローチャートである。図2は、本発明の一実施の形態の排気ガス中の成分測定方法に用いる部材を模式的に示す斜視図である。図3〜図5はそれぞれ、本発明の一実施の形態の排気ガス中の成分測定方法の一工程を説明する図である。
【0017】
本実施の形態の排気ガス中の成分測定方法は、部材100の表面104,105を排気ガスに曝す工程(図1のステップS1,図3および図4参照)と、前記排気ガスに曝された表面104,105を溶媒120で洗浄する工程(図1のステップS2および図5参照)と、前記洗浄する工程により得られた溶媒120のpHおよび/または電気伝導度を測定する工程(図1のステップS3参照)と、を含む。以下、各工程について具体的に説明する。
【0018】
まず、図3に示すように、排気ガスの排出口130の近傍に部材100を設置し、この部材100の表面104,105を排気ガスに曝す(図1のステップS1)。より具体的には、排気ガスの排出口130の近傍に部材100の排気ガス導入口101が設置される。これにより、排出される排気ガスの少なくとも一部が排気ガス導入口101から部材100内に導入されて、貫通孔103を通過した後、排気ガス排出口102から排出される。
【0019】
本実施の形態において、排気ガスは、内燃機関や、プラントや工場等の施設から排出される気体(ガス)をいう。内燃機関としては、特に限定されないが、例えばガソリンエンジン,ディーゼルエンジン,ジェットエンジンが挙げられる。このうち、ディーゼルエンジンから排出されるNOx,SOxを規制する動きが近年活発化している。このため、本実施の形態の排気ガス中の成分測定方法は例えば、ディーゼルエンジンから排出されるNOx,SOxを定量するために用いることができる。内燃機関を含む装置としては、特に限定されないが、例えば、自動車、発電機、船舶、電車(例えば、旅客用電車、貨物用電車、保線車両)が挙げられる。
【0020】
部材100は、表面の少なくとも一部が排気ガスに曝されるように設置される。部材100の形状は、排気ガスに曝してpHおよび/または電気伝導度を測定するために十分な量の付着物を堆積させるために十分な面積の表面を有しているものであれば特に限定されない。また、部材100の材質は、後述の洗浄工程にて使用される溶媒について耐性を有するものであれば、特に限定されない。例えば、無色透明の部材100を用いてもよい。これにより、排気ガスに曝すことによって表面に付着した付着物が目視により認識しやすくなる。
【0021】
この部材100は貫通孔103を有することができる。この構成によれば、部材100は、内表面105および外表面104にて排気ガスと接触することができるため、排気ガスと接触する表面の面積を増加させることができる。より具体的には、この部材100は排気ガス導入口101と、排気ガス排出口102と、排気ガス導入口101から排気ガス排出口102に貫通する貫通孔103とを含み、貫通孔103の径は排気ガス導入口101の径および排気ガス排出口102の径より大きくてもよい。この構成によれば、この部材100を排気ガスの排出口103の近傍に配置した場合、排気ガス中の付着物が表面104,105により付着しやすくなるため、排気ガス中の成分をより確実に分析することができる。
【0022】
上記工程により、図4に示すように、部材100の表面104,105に付着物106が形成される。この付着物106は、排気ガス中の汚染物質が表面104,105に接触して形成されたものである。この付着物106はPMを主成分とする。このPMには、固体スス、SOF、硫酸ミスト(サルフェート)などのSOx、窒素酸化物(NOx)などが含まれる。付着物106のうち酸性物質および電解質の主成分は通常、SOx,NOxである。
【0023】
次いで、図5に示すように、排気ガスに曝された表面104,105を溶媒120で洗浄する(図1のステップS2)。ここで洗浄に用いられた溶媒122は回収される。
【0024】
溶媒120としては、付着物106を溶解させることができるのであれば特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、または上記溶媒と水との混合溶媒などが挙げられる。
【0025】
次いで、上記洗浄する工程により得られた溶媒122について、pHおよび/または電気伝導度を測定する(図1のステップS3)。pHの測定には公知のpHメータを、電気伝導度の測定には公知の電気伝導度計をそれぞれ使用することができる。
【0026】
本実施の形態の排気ガス中の成分測定方法によれば、排気ガスに曝された表面104,105を洗浄する際に得られた溶媒122のpHを測定する工程を含むことにより、排気ガス中の酸性物質(例えば、NOxやSOx)の濃度を簡便に測定することができる。また、本実施の形態の排気ガス中の成分測定方法によれば、排気ガスに曝された表面104,105を洗浄する際に得られた溶媒122の電気伝導度を測定する工程を含むことにより、排気ガス中に含まれる電解質(例えば、NOxやSOx)を総合的に定量することができる。
【0027】
なお、異なる排気ガスについて、同じ大きさおよび形状の部材100を使用し、かつ、洗浄に用いる溶媒120の量を同じにして本実施の形態の方法を適用して、測定されたpH(および/または電気伝導度)を比較することにより、排気ガス中の酸性物質(および/または電解質)の濃度を比較することができる。すなわち、この場合、pHが大きいほど排気ガス中の酸性物質(例えばSOx,NOx)の濃度が大きいということができ、電気伝導度が大きいほど排気ガス中の電解質(例えばSOx,NOx)の濃度が大きいということができる。
【0028】
本実施の形態の排気ガス中の成分測定方法によれば、排気ガスに曝された表面を洗浄する際に得られた溶媒のpHおよび/または電気伝導度を測定する工程を含むことにより、排気ガス中の酸性物質および電解質(例えば、NOxやSOx)を総合的にかつ簡便に定量することができる。
【0029】
また、本実施の形態の排気ガス中の成分測定方法によれば、ヒトや動物の目が排気ガスに曝されたときに目の表面で起こる現象を再現して、目の表面で起こる酸性物質や電解質の付着を分析することができる。
【0030】
さらに、本実施の形態の排気ガス中の成分測定方法によれば、従来の測定装置と比較して、より簡便に排気ガス中の成分(酸性物質および/または電解質)を測定することができる。
【0031】
そのうえ、本実施の形態の排気ガス中の成分測定方法によれば、排気ガスの圧力を変えることがないため、排気ガスの組成を変化させずに排気ガスの成分を測定することができる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、以下の記載は、本発明の態様を概括的に示すものであり、特に理由なく、かかる記載により本発明は限定されるものではない。
【0033】
1.実験例1
図2に示される形状を有する無色透明のガラス製部材を、4トントラックの排気ガス排出口の近傍に設置して、排気ガスに3時間曝した(図3,図4参照)。排気ガスに3時間曝した後の部材の写真を図6に示す。次に、排気ガスに曝したこの部材の表面(外表面および内表面)を、溶媒(溶離10%エタノール)を用いて洗浄した(図5参照)。次いで、洗浄後に回収された溶媒のpHおよび電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
2.実験例2
図2に示される形状を有する無色透明のガラス製部材を、保線車両の排気ガス排出口の近傍に設置して、排気ガスに2時間曝した(図3,図4参照)。排気ガスに2時間曝した後の部材の写真を図7に示す。次に、排気ガスに曝したこの部材の表面(外表面および内表面)を、溶媒(溶離20%エタノール)を用いて洗浄した(図5参照)。次いで、洗浄後に回収された溶媒のpHおよび電気伝導度を測定した。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1において、比較例1は溶離10%エタノールのpHおよび電気伝導度の測定結果を示し、比較例2は溶離20%エタノールのpHおよび電気伝導度の測定結果を示す。表1より、実験例1,2において洗浄後に回収された溶媒のpHはいずれも、洗浄前の溶媒のpHより低かった。この結果から、実験例1,2において排気ガスに曝されて部材に付着した付着物は酸性物質を含むことが確認された。また、実験例1,2において洗浄後に回収された溶媒の電気伝導度はいずれも、洗浄前の溶媒の電気伝導度より大きかった。この結果から、実験例1,2において排気ガスに曝されて部材に付着した付着物は電解質を含むことが確認された。
【0037】
以上の結果から、実験例1,2において排気ガスに曝されて部材に付着した付着物は、酸性でかつ電解質である物質を含む。このような物質はNOx,SOxと推測される。したがって、実験例1,2によって、排気ガス中のNOx,SOxの濃度を検出することができた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施の形態の排気ガス中の成分測定方法の各工程を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の一実施の形態の排気ガス中の成分測定方法に用いる部材を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態の排気ガス中の成分測定方法の一工程を説明する図である。
【図4】本発明の一実施の形態の排気ガス中の成分測定方法の一工程を説明する図である。
【図5】本発明の一実施の形態の排気ガス中の成分測定方法の一工程を説明する図である。
【図6】本発明の実験例1の排気ガス中の成分測定方法において、排気ガスに曝された部材を示す写真である。
【図7】本発明の実験例2の排気ガス中の成分測定方法において、排気ガスに曝された部材を示す写真である。
【符号の説明】
【0039】
100 部材
101 排気ガス導入口
102 排気ガス排出口
103 貫通孔
104 表面(外表面)
105 表面(内表面)
106 付着物
120 溶媒
122 洗浄により得られた溶媒
130 排気ガス排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材の表面を排気ガスに曝す工程と、
前記排気ガスに曝された前記表面を溶媒で洗浄する工程と、
前記洗浄する工程により得られた前記溶媒のpHを測定する工程と、
を含む、排気ガス中の成分測定方法。
【請求項2】
部材の表面を排気ガスに曝す工程と、
前記排気ガスに曝された前記表面を溶媒で洗浄する工程と、
前記洗浄する工程により得られた前記溶媒の電気伝導度を測定する工程と、
を含む、排気ガス中の成分測定方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記部材は無色透明である、排気ガス中の成分測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−90890(P2006−90890A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277847(P2004−277847)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(598112453)株式会社ジュオン (11)
【Fターム(参考)】