説明

排気ガス浄化用触媒

【課題】HCトラップ触媒において、触媒層に過度の応力を与えずに、セル通路を流れる排気ガスを乱流状態とする手段を設けることで、上層の浄化触媒層を通過して下層のHC吸着層にまで拡散していく排気ガスの割合を増大させ、下層のHC吸着層に吸着されるHC量を増大させ、冷間時のHC浄化率を向上する。
【解決手段】エンジンの排気通路に配設され、多数のセル通路12…12を有するハニカム担体11と、ハニカム担体11上に設けられたHC吸着層13と、HC吸着層13上に積層された浄化触媒層14とを有する排気ガス浄化用触媒において、浄化触媒層14の表面に、担体セル通路を流れる排気ガスの流れが乱流状態となるように、10〜30μmの高さを有する複数の凸状部31…31及び/又は10〜30μmの深さを有する複数の凹状部32…32が分散配置されてなる乱流生成部30を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排気ガス浄化用触媒、特に、排気ガスに含まれる炭化水素の大気への放出を冷間時に抑制できる排気ガス浄化用触媒に関し、エンジンのエミッション低下の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載されるエンジンの排気ガスを浄化するために、例えば、触媒機能を有する触媒金属としての白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の貴金属類、これらの貴金属類を担持する高比表面積酸化物としてのアルミナ、酸素の吸蔵・放出を行うことで排気ガス空燃比ウインドウの拡張機能を有する酸素吸蔵材(OSC:Oxygen Storage Component)としてのセリウム(Ce)系酸化物等を含有する排気ガス浄化用触媒がエンジンの排気通路に配設されている。
【0003】
この種の排気ガス浄化用触媒は、一般に、エンジンの冷間始動時において、触媒金属が活性化するのに十分な温度に達するまで数十秒の時間を要するので、その間は排気ガスが十分に浄化されずに大気へ放出されるという不具合がある。そして、エンジン始動時には燃料供給量が増量されるのが通例であるから、特に、未燃燃料として排気ガスに含まれる炭化水素(HC)の大気への放出を抑制することが重大な課題となる。
【0004】
この問題に対処する技術として、いわゆるHCトラップ触媒が知られている。このHCトラップ触媒は、低温下でHCを一時的に吸着しておき、触媒温度がある程度の高温に達したときに吸着していたHCを脱離し、脱離したHCを酸化浄化するように構成されたものである。
【0005】
例えば、特許文献1には、ハニカム担体上に上下2層の触媒層を有し、下層をゼオライトを主成分とするHC吸着層とし、上層を触媒金属を担持した浄化触媒層とした構成の低温HCトラップ触媒が開示されている。これによれば、担体セル通路内に流入した排気ガスは、上層の浄化触媒層をセル通路側の面から下層のHC吸着層側の面まで通過して(すなわち層の厚み方向に通過して)HC吸着層へ拡散していき、その結果、低温下で排気ガス中のHCがHC吸着層を構成するゼオライトに吸着される。
【0006】
そして、触媒の温度、より詳しくはHC吸着層の温度が排気ガス温度の上昇に伴ってある程度の高温(例えば120℃〜200℃)にまで上昇すれば、吸着されていたHCが脱離し始め、下層のHC吸着層から上層の浄化触媒層をセル通路側に通過して(すなわち層の厚み方向に通過して)担体セル通路外に流出する。そして、その際、HCは浄化触媒層を通過するときに触媒金属の触媒作用によって水(HO)や二酸化炭素(CO)に酸化浄化されることとなる。
【0007】
このように、HCトラップ触媒は、排気ガス温度が低く触媒金属が未活性な状態のときにHCを吸着して大気への放出を抑制することを目的とするものであり、そのためには、担体セル通路内に流入した排気ガスが乱流状態であるほうが整流状態であるよりも排気ガスが上層の浄化触媒層を厚み方向に通過して下層のHC吸着層にまで拡散し易いので好ましい。
【0008】
ところが、一般に、排気ガスは、担体入口端部から出口側に向かって限られた範囲内(例えば担体入口側10mmの範囲内)でのみ乱流状態を呈し、それより下流側のセル通路の大部分の範囲内では層状の整流状態になっている。これは、排気ガスが担体セル通路内に流入する際に担体入口端部の壁面に衝突してその瞬時だけ乱流状態となるが、その後は排気通路上流側からの排気圧力を受けて直ちに直線的な層状の流れに戻るからである。この結果、従来のHCトラップ触媒では、セル通路内を流れる排気ガスのうち、上層の浄化触媒層を厚み方向に通過して下層のHC吸着層にまで拡散していくガスの割合が比較的小さく、したがって下層のHC吸着層に吸着されるHC量が比較的少なく、それゆえ冷間時にHCの大気への放出を十分満足に抑制できないという不具合がある。
【0009】
この問題に対処する技術として、特許文献2に記載の技術を適用することが考えられる。すなわち、特許文献2には、ハニカム担体において排気ガスが流れるセル通路の壁面上に設けた触媒層の表面に、排気ガスの流れ方向に延びる螺旋状の溝を形成することが開示されている。そして、この螺旋状の溝によって、セル通路を流れる排気ガスの乱流化が促進されると記載されている。
【0010】
また、特許文献3には、ハニカム担体のセル密度の増加に伴い、触媒金属を担持するウォッシュコート層の厚みが減少して耐久性が低下するので、これを防止するために、ウォッシュコート層の下に、触媒金属を担持していないアンダーコート層を設けることが開示されている。そして、アンダーコート層に、有機物の消失により形成された空洞部、又は低膨張セラミックス材を含有させ、これにより、前記空洞部にウォッシュコート層が入り込み、又は前記低膨張セラミックス材がウォッシュコート層に入り込み、アンダーコート層とウォッシュコート層との剥離を防止するアンカー効果が得られると記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開平2−56247号公報(第1図)
【特許文献2】特開2005−246217(段落0024、段落0034、図2)
【特許文献3】特開2004−50062(段落0009、段落0011、図2、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、前記特許文献2に開示の技術は、担体セル通路を流れる排気ガスを乱流状態とする技術として有用であるが、そのための螺旋溝をハンドタップのような工具を用いて形成するため、浄化触媒層の下に嵩高く密度が小さいHC吸着層が設けられたHCトラップ触媒に前記技術を適用した場合は、浄化触媒層の表面にハンドタップで螺旋溝を形成する際の応力を受けてHC吸着層が剥離や脱落を起こし、その結果、上下2層構造の触媒層全体が崩壊する懸念がある。
【0013】
本発明は排気ガス浄化用触媒、特に、冷間時に排気ガス中のHCを吸着する機能を有するHCトラップ触媒における前記のような問題に対処するもので、触媒層に過度の応力を与えることなく、担体セル通路を流れる排気ガスを乱流状態とする手段を設け、これにより、上層の浄化触媒層を通過して下層のHC吸着層にまで拡散していく排気ガスの割合を増大させ、下層のHC吸着層に吸着されるHC量を増大させ、もって冷間時のHC浄化率を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明では次のような手段を用いる。
【0015】
すなわち、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンの排気通路に配設され、多数のセル通路を有するハニカム担体と、このハニカム担体上に設けられたHC吸着層と、このHC吸着層上に積層された浄化触媒層とを有する排気ガス浄化用触媒であって、前記浄化触媒層の表面に、担体セル通路を流れる排気ガスの流れが乱流状態となるように、10〜30μmの高さを有する複数の凸状部及び/又は10〜30μmの深さを有する複数の凹状部が分散配置されてなる乱流生成部が設けられていることを特徴とする。
【0016】
なお、本発明において、「凸状部」とは、例えば粒状突起のように、局所的で散点状に周辺部よりも盛り上がった山状の形状をいい、列状に盛り上がった突条形状は含まない。また、本発明において、「凹状部」とは、例えば粒状欠陥のように、局所的で散点状に周辺部よりも陥没した穴状の形状をいい、列状に窪んだ溝状の形状は含まない。
【0017】
次に、本願の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の排気ガス浄化用触媒であって、前記凸状部は、浄化触媒層のスラリー及び/又はHC吸着層のスラリーに該スラリーの焼成温度で焼失しない複数の微粒子を分散混入した状態で該スラリーをハニカム担体にコートし、前記焼成温度で焼成することにより形成されていることを特徴とする。
【0018】
なお、ここで、下層のHC吸着層のスラリーに非焼失性微粒子を分散混入した場合は、該HC吸着層の表面に形成された凸状部の影響を受けて上層の浄化触媒層の表面に凸状部が現れることとなる。
【0019】
次に、本願の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の排気ガス浄化用触媒であって、前記凹状部は、浄化触媒層のスラリー及び/又はHC吸着層のスラリーに該スラリーの焼成温度で焼失する複数の微粒子を分散混入した状態で該スラリーをハニカム担体にコートし、前記焼成温度で焼成することにより形成されていることを特徴とする。
【0020】
なお、ここで、下層のHC吸着層のスラリーに焼失性微粒子を分散混入した場合は、該HC吸着層の表面に形成された凹状部の影響を受けて上層の浄化触媒層の表面に凹状部が現れることとなる。
【発明の効果】
【0021】
まず、請求項1に記載の発明によれば、多数のセル通路を有するハニカム担体上に上下2層に触媒層を積層し、下層をHC吸着能を有するHC吸着層とし、上層をHC浄化能を有する浄化触媒層とした構成の排気ガス浄化用触媒、すなわちHCトラップ触媒において、前記浄化触媒層の表面に、複数の凸状部及び/又は複数の凹状部が分散配置されてなる乱流生成部を設け、これにより、担体セル通路を流れる排気ガスの流れが乱流状態となるようにしたから、排気ガスが上層の浄化触媒層を厚み方向に通過して下層のHC吸着層にまで拡散し易くなる。
【0022】
したがって、セル通路内を流れる排気ガスのうち、上層の浄化触媒層を厚み方向に通過して下層のHC吸着層にまで拡散していくガスの割合が増大し、その結果、下層のHC吸着層に吸着されるHC量が増大し、冷間時にHCの大気への放出を十分満足に抑制でき、冷間時のHC浄化率が向上することとなる。
【0023】
しかも、そのために設けた乱流生成部は、浄化触媒層の表面に分散配置された複数の凸状部や凹状部(前述したように、列状に盛り上がった突条形状や列状に陥没した溝状の形状ではなく、局所的で散点状の山形状や穴形状をいう)でなるから、その形成は単純・容易であり、乱流生成部を形成する際に触媒層に過度の応力を与えることがなくなる。
【0024】
ここで、凸状部の高さ及び凹状部の深さが10μm未満であると、乱流が生成し難くなり、乱流生成効果が著しく低下してしまう。一方、凸状部の高さが30μmを超えると、セル通路が部分的に狭くなり過ぎ、背圧増加(排気抵抗増加)を招いてしまう。また、凹状部の深さが30μmを超えると、浄化触媒層が部分的に薄くなり過ぎ、浄化性能の低下及び強度の低下を招いてしまう。
【0025】
以上により、本発明においては、触媒層に過度の応力を与えることなく、担体セル通路を流れる排気ガスを乱流状態とする手段(乱流生成部)を設けることが可能となった。
【0026】
次に、請求項2に記載の発明によれば、触媒層のスラリー中に焼成温度で焼失しない複数の微粒子を予め分散混入するだけで、あとは通常通りに触媒層の乾燥・焼成を行えば、前記微粒子が焼失せずに残って凸状部が得られるので、凸状部を形成するために作業工程が増え、ひいては排気ガス浄化用触媒の製造が複雑化する、というような問題が起こらない(例えば、触媒層を乾燥・焼成してハニカム担体上に設けた後に、該触媒層表面に凸状部を形成する、というような追加作業が生じない)。
【0027】
同様に、請求項3に記載の発明によれば、触媒層のスラリー中に焼成温度で焼失する複数の微粒子を予め分散混入するだけで、あとは通常通りに触媒層の乾燥・焼成を行えば、前記微粒子が焼失した跡が残って凹状部が得られるので、凹状部を形成するために作業工程が増え、ひいては排気ガス浄化用触媒の製造が複雑化する、というような問題が起こらない(例えば、触媒層を乾燥・焼成してハニカム担体上に設けた後に、該触媒層表面に凹状部を形成する、というような追加作業が生じない)。
【0028】
以下、発明の最良の実施の形態及び実施例を通して本発明をさらに詳しく説述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1に示すように、本実施形態においては、自動車のエンジン1の燃焼室で混合気が燃焼され、その結果、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等を含有する排気ガスが排気通路2を通って大気に放出されるが、排気通路2には排気ガスを水(HO)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)等に浄化するための触媒コンバータ3が備えられ、この触媒コンバータ3に本発明に係る排気ガス浄化用触媒10が収納されている。
【0030】
図2に示すように、排気ガス浄化用触媒10は、多数のセル通路12…12を有し円柱形の外形を有するコージェライト製のハニカム担体11を含み、この担体11において排気ガスが流れる担体セル通路12の壁面上にHC吸着能を有するHC吸着層(HCT(HC Trap)と記すことがある)13が設けられ、このHC吸着層13の上に、HC、CO及びNOxに対して浄化能を有する浄化触媒層(TWC(Three Way Catalyst)と記すことがある)14が積層された構成である。つまり、この排気ガス浄化用触媒10は、ハニカム担体11上に、上下に積層された触媒層13,14を有し、低温下でHCを一時的に吸着しておき、触媒温度がある程度の高温に達したときに吸着していたHCを脱離し、脱離したHCを酸化浄化するように構成されたHCトラップ触媒である。
【0031】
ハニカム担体11は、例えば、長さが20cm、セル壁厚みが4.5mil(4.5μインチ≒114μm)、セル密度が400cpsi(1平方インチ当たり400個のセル数)、セル形状が正6角形のものが好ましく使用可能である。
【0032】
図3に示すように、上層の浄化触媒層14は、下層のHC吸着層13と接する浄化触媒層下層14aと、担体セル通路12を画成する浄化触媒層上層14bとの2層構造とされている。
【0033】
次に、これらの各層13,14a,14bの詳細な化学的構成を説明する。
【0034】
まず、浄化触媒層上層14bの好ましい配合例の1つとしては、バインダー(硝酸ジルコニル)を7.70(ZrOとして)g/L(ハニカム担体1L当たりの担持量:以下同じ)、酸素吸蔵材(酸化セリウム:CeO)を3.70g/L、パラジウム(Pd)を担持した第1パウダー(酸化ランタン(La)を4質量%含有したアルミナ45.00g/LにPdを0.70g/L担持したもの)、及び、パラジウムを担持した第2パウダー(Ce・Zr(ジルコニウム)・La・Y(イットリウム)・アルミナ複合酸化物22.60g/LにPdを0.30g/L担持したもの)を含んだものである。
【0035】
ここで、前記パウダーは、平均粒子径が0.1μm〜1.0μm程度のものが好ましく用いられる。ここで、平均粒子径は、加重平均粒子径であり、加重平均粒子径は、例えば次のような方法により測定される。まず、測定する各粒子をイオン交換水中で超音波振動装置等を用いて充分に分散させ、得られた分散体をレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて計測することにより各粒子の粒度分布を得て、得られた粒度分布から加重平均粒子径を算出するのである。
【0036】
その場合に、前記Ce・Zr・La・Y・アルミナ複合酸化物の組成比は、好ましくは、CeO:ZrO:La:Y:Al=10.5:7.0:1.5:1.0:80(質量%)等である。
【0037】
また、浄化触媒層下層14aの好ましい配合例の1つとしては、バインダー(硝酸ジルコニル)を11.80(ZrOとして)g/L、ロジウム(Rh)を担持したセリア(Zr・Ce・Nd(ネオジム)複合酸化物66.00g/LにRhを0.15g/L担持したもの)、及び、ロジウムを担持したアルミナ(Zrを10質量%含有したアルミナ42.00g/LにRhを0.05g/L担持したもの)を含んだものである。
【0038】
ここでも、前記パウダー類は、平均粒子径が0.1μm〜1.0μm程度のものが好ましく用いられる。
【0039】
その場合に、前記Zr・Ce・Nd複合酸化物の組成比は、好ましくは、ZrO:CeO:Nd=80:10:10(質量%)等である。
【0040】
ここで、酸化セリウム、Ce・Zr・La・Y・アルミナ複合酸化物、及びZr・Ce・Nd複合酸化物は、いずれもリーン雰囲気で酸素を吸蔵し、リッチ雰囲気で酸素を放出する酸素吸蔵材として機能するものである。また、浄化触媒層下層14aに含まれるZr(10質量%)含有アルミナは、アルミナの表面を10質量%の酸化ジルコニウム(ZrO)で被覆処理したものであって、これにより、担持したロジウムが高温下でアルミナに固溶するのを防止するものである。
【0041】
また、HC吸着層13の好ましい配合例の1つとしては、吸着材としてのβ−ゼオライトを160.00g/Lと、アルミナバインダーとを含んだものである。
【0042】
ここで、HC吸着層13の厚み及び浄化触媒層14の厚みは、残余のセル通路12の径や、コストと触媒能とのバランスの観点から、それぞれ50μm程度が好ましい。
【0043】
そして、図4及び図5に示すように、本実施形態に係る排気ガス浄化用触媒10は、上層の浄化触媒層14の表面(セル通路12側の面)に、複数の凸状部31…31及び/又は複数の凹状部32…32が分散配置されてなる乱流生成部30が設けられている。乱流生成部30は、担体セル通路12を流れる排気ガスの流れを乱流状態とするためのものである。
【0044】
すなわち、図4は、乱流生成部30が凸状部31…31でなる場合を示し、浄化触媒層14の表面に複数の凸状部31…31が散点状に形成されている。
【0045】
図4(a)は、前記凸状部31…31が、上層の浄化触媒層14に分散した状態で含有された複数のコージェライト製粒子21…21で形成される場合、図4(b)は、前記凸状部31…31が、下層のHC吸着層13に分散した状態で含有された複数のコージェライト製粒子21…21で形成される場合、図4(c)は、前記凸状部31…31が、上層の浄化触媒層14に分散した状態で含有された複数のコージェライト製粒子21…21と、下層のHC吸着層13に分散した状態で含有された複数のコージェライト製粒子21…21とで形成される場合を示している。
【0046】
いずれの場合も、粒子21…21は、浄化触媒層14及び/又はHC吸着層13の中で様々な位置にあり、各層13,14に対して浅く位置して突出する場合は、相対的に高さの高い凸状部31が形成され、深く位置して突出する場合は、相対的に高さの低い凸状部31が形成される。
【0047】
特に、下層のHC吸着層13に粒子21…21が分散した状態で含有されたときにも、上層の浄化触媒層14の表面に凸状部31…31が形成され、この場合は、HC吸着層13の表面に形成された凸状部の影響を受けて、上層の浄化触媒層14の表面に乱流生成部30を構成する凸状部31が現れることとなる。
【0048】
ここで、凸状部31は、浄化触媒層14の表面の一部分が周辺部よりも局所的で散点状に盛り上がった比較的単純な山状の形状である。特に、本実施形態では、粒子21…21の形状に起因して粒状突起となっている。
【0049】
また、コージェライト製粒子21は、浄化触媒層14のスラリーの焼成温度(例えば500℃)又はHC吸着層13のスラリーの焼成温度(例えば500℃)で焼失しないものであり、他に、CaO、SiC、SiO等のセラミックス製粒子等が好ましく使用可能である。
【0050】
さらに、図4(a)には、粒子21…21が浄化触媒層14又はHC吸着層13で被覆された状態で突出するように図示したが、これに限らず、浄化触媒層14又はHC吸着層13で被覆されずに露出した状態で突出することもある。
【0051】
乱流生成部30を構成するためには、浄化触媒層14の表面の凸状部31の高さは10〜30μmの範囲内にあることが要求される。その理由は、凸状部31の高さが10μm未満であると、乱流が生成し難くなり、乱流生成効果が著しく低下してしまうからである。また、凸状部31の高さが30μmを超えると、担体セル通路12が部分的に狭くなり過ぎ、背圧増加(排気抵抗増加)を招いてしまうからである。このため、粒子21の粒子径は、10〜30μmの範囲内のものが好適である。
【0052】
さらに、粒子21…21は、各触媒層13,14に対して、3体積%以上、10体積%以下の範囲で含有されるのが好ましい。3体積%未満では、乱流生成部30の量が不足し、浄化触媒層14を通過してHC吸着層13に拡散する排気ガス量が少なくなる。また、10体積%を超えると、触媒層剥離が懸念される。
【0053】
一方、図5は、乱流生成部30が凹状部32…32でなる場合を示し、浄化触媒層14の表面に複数の凹状部32…32が散点状に形成されている。
【0054】
図5(a)は、前記凹状部32…32が、上層の浄化触媒層14に分散した状態で含有された複数の樹脂ビーズ22…22の焼失した跡で形成される場合、図5(b)は、前記凹状部32…32が、下層のHC吸着層13に分散した状態で含有された複数の樹脂ビーズ22…22の焼失した跡で形成される場合、図5(c)は、前記凹状部32…32が、上層の浄化触媒層14に分散した状態で含有された複数の樹脂ビーズ22…22の焼失した跡と、下層のHC吸着層13に分散した状態で含有された複数の樹脂ビーズ22…22の焼失した跡とで形成される場合を示している。
【0055】
いずれの場合も、樹脂ビーズ22…22は、浄化触媒層14及び/又はHC吸着層13の中で様々な位置にあり、各層13,14に対して浅く位置して突出していた場合は、相対的に深さの浅い凹状部32が形成され、深く位置して突出していた場合は、相対的に深さの深い凹状部32が形成される。
【0056】
特に、下層のHC吸着層13に樹脂ビーズ22…22が分散した状態で含有されたときにも、上層の浄化触媒層14の表面に凹状部32…32が形成され、この場合は、HC吸着層13の表面に形成された凹状部の影響を受けて、上層の浄化触媒層14の表面に乱流生成部30を構成する凹状部32が現れることとなる。
【0057】
ここで、凹状部32は、浄化触媒層14の表面の一部分が周辺部よりも局所的で散点状に陥没した比較的単純な穴状の形状である。特に、本実施形態では、ビーズ22…22の形状に起因して粒状欠陥となっている。
【0058】
また、樹脂ビーズ22は、浄化触媒層14のスラリーの焼成温度(例えば500℃)又はHC吸着層13のスラリーの焼成温度(例えば500℃)で焼失するものであり、例えば、ポリエチレン製のもの、ポリプロピレン製のもの、ポリカーボネート製のもの等が好ましく使用可能である。
【0059】
乱流生成部30を構成するためには、浄化触媒層14の表面の凹状部32の深さは10〜30μmの範囲内にあることが要求される。その理由は、凹状部32の深さが10μm未満であると、乱流が生成し難くなり、乱流生成効果が著しく低下してしまうからである。また、凹状部32の深さが30μmを超えると、浄化触媒層14が部分的に薄くなり過ぎ、浄化性能の低下及び強度の低下を招いてしまうからである。このため、樹脂ビーズ22の粒子径は、10〜30μmの範囲内のものが好適である。
【0060】
さらに、樹脂ビーズ22…22は、各触媒層13,14に対して、3体積%以上、10体積%以下の範囲で含有されるのが好ましい。3体積%未満では、乱流生成部30の量が不足し、浄化触媒層14を通過してHC吸着層13に拡散する排気ガス量が少なくなる。また、10体積%を超えると、触媒層剥離が懸念される。
【0061】
前記凸状部31ひいては乱流生成部30はおよそ次のようにして浄化触媒層14の表面に形成される。
【0062】
すなわち、浄化触媒層14のスラリーの焼成温度(例えば500℃)又はHC吸着層13のスラリーの焼成温度(例えば500℃:HC吸着層13の表面にも凸状部を形成する場合)で燃焼焼失しない微粒子(コージェライト製粒子、セラミックス製粒子等)であって、粒子径が10〜30μmのものを、浄化触媒層14のスラリー中又はHC吸着層13のスラリー中(HC吸着層13の表面にも凸状部を形成する場合)に予め分散混入しておき、該スラリーを通常通りにハニカム担体11にウォッシュコートして前記焼成温度で乾燥・焼成すれば、前記微粒子が焼失せずに浄化触媒層14中又はHC吸着層13中(HC吸着層13の表面にも凸状部を形成する場合)に残り、結果的に、浄化触媒層14の表面に複数の凸状部31…31がランダムに分散して配置されることとなる。
【0063】
この方法によれば、触媒層13,14のスラリー中に焼成温度で焼失しない複数の微粒子を予め分散混入するだけで、あとは通常通りに触媒層13,14の乾燥・焼成を行えば、前記微粒子が焼失せずに残って凸状部31…31が得られるので、凸状部31…31を形成するために作業工程が増え、ひいては排気ガス浄化用触媒10の製造が複雑化する、というような問題が起こらない。例えば、触媒層13,14を乾燥・焼成してハニカム担体11上に設けた後に、該触媒層13,14表面に凸状部を形成する、というような追加作業が生じない。
【0064】
また、前記凹状部32ひいては乱流生成部30はおよそ次のようにして浄化触媒層14の表面に形成される。
【0065】
すなわち、浄化触媒層14のスラリーの焼成温度(例えば500℃)又はHC吸着層13のスラリーの焼成温度(例えば500℃:HC吸着層13の表面にも凹状部を形成する場合)で燃焼焼失する微粒子(樹脂ビーズ)であって、粒子径が10〜30μmのものを、浄化触媒層14のスラリー中又はHC吸着層13のスラリー中(HC吸着層13の表面にも凹状部を形成する場合)に予め分散混入しておき、該スラリーを通常通りにハニカム担体11にウォッシュコートして前記焼成温度で乾燥・焼成すれば、前記微粒子が焼失してその跡が浄化触媒層14中又はHC吸着層13中(HC吸着層13の表面にも凹状部を形成する場合)に残り、結果的に、浄化触媒層14の表面に複数の凹状部32…32がランダムに分散して配置されることとなる。
【0066】
この方法によれば、触媒層13,14のスラリー中に焼成温度で焼失する複数の微粒子を予め分散混入するだけで、あとは通常通りに触媒層13,14の乾燥・焼成を行えば、前記微粒子が焼失した跡が残って凹状部32…32が得られるので、凹状部32…32を形成するために作業工程が増え、ひいては排気ガス浄化用触媒10の製造が複雑化する、というような問題が起こらない。例えば、触媒層13,14を乾燥・焼成してハニカム担体11上に設けた後に、該触媒層13,14表面に凹状部を形成する、というような追加作業が生じない。
【0067】
次に、前記排気ガス浄化用触媒10の具体的製造方法の1例を説明する。
【0068】
まず、下層のHC吸着層13はおよそ次のようにして形成される。すなわち、β−ゼオライトの粉体に水とバインダーとしてのアルミナゾルとを加え、ディスパーサを用いて撹拌してスラリーを得る(このとき、HC吸着層13にも凸状部31…31又は凹状部32…32を形成する場合は、このスラリー中に焼成温度で非焼失性又は焼失性の微粒子を混合しておく)。そして、このスラリーにコージェライト製ハニカム担体11を浸し、引き上げて余分なスラリーをエアブローで除去する操作を繰り返すことにより、所定量のスラリーをハニカム担体11にウォッシュコートする。その後、このハニカム担体11を常温から500℃まで一定の昇温速度で1.5時間かけて昇温し、500℃で2時間保持して乾燥・焼成することにより、ハニカム担体11の上にHC吸着層13が形成される。
【0069】
また、浄化触媒層下層14aはおよそ次のようにして形成される。すなわち、バインダーとしての硝酸ジルコニルと、ロジウム担持セリアの粉体と、ロジウム担持アルミナの粉体と、凸状部31…31又は凹状部32…32を形成するための焼成温度で非焼失性又は焼失性の微粒子とを混合し、これに水を加え、ディスパーサを用いて混合撹拌してスラリーを得る。そして、このスラリーにHC吸着層13が形成されたハニカム担体11を浸し、引き上げて余分なスラリーをエアブローで除去する操作を繰り返すことにより、所定量のスラリーをハニカム担体11にウォッシュコートする。その後、このハニカム担体11を常温から500℃まで一定の昇温速度で1.5時間かけて昇温し、500℃で2時間保持して乾燥・焼成することにより、HC吸着層13の上に浄化触媒層下層14aが積層される。
【0070】
ここで、ロジウム担持セリアは、Zr・Ce・Nd複合酸化物に、硝酸ロジウム水溶液を滴下し、500℃で焼成することにより得られる。
【0071】
また、ロジウム担持アルミナは、酸化ジルコニウムを10質量%被覆してなる活性アルミナの粉体に、硝酸ロジウム水溶液を滴下し、500℃で焼成することにより得られる。
【0072】
さらに、浄化触媒層上層14bはおよそ次のようにして形成される。すなわち、バインダーとしての硝酸ジルコニルと、酸素吸蔵材としての酸化セリウムの粉体と、パラジウム担持第1パウダーと、パラジウム担持第2パウダーと、凸状部31…31又は凹状部32…32を形成するための焼成温度で非焼失性又は焼失性の微粒子とを混合し、これに水を加え、ディスパーサを用いて混合撹拌してスラリーを得る。そして、このスラリーにHC吸着層13及び浄化触媒層下層14aが形成されたハニカム担体11を浸し、引き上げて余分なスラリーをエアブローで除去する操作を繰り返すことにより、所定量のスラリーをハニカム担体11にウォッシュコートする。その後、このハニカム担体11を常温から500℃まで一定の昇温速度で1.5時間かけて昇温し、500℃で2時間保持して乾燥・焼成することにより、浄化触媒層下層14aの上に浄化触媒層上層14bが積層される。ここにおいて、最終的に排気ガス浄化用触媒10が完成することとなる。
【0073】
ここで、パラジウム担持第1パウダーは、酸化ランタンを4質量%添加してなる活性アルミナの粉体に、硝酸パラジウム水溶液を滴下し、500℃で焼成することにより得られる。
【0074】
また、パラジウム担持第2パウダーは、Ce・Zr・La・Y・アルミナ複合酸化物の粉体に、硝酸パラジウム水溶液を滴下し、500℃で焼成することにより得られる。
【0075】
その場合に、Ce・Zr・La・Y・アルミナ複合酸化物は、オートクレーブを用いる水熱合成法又は酸アルカリ中和処理による共沈法のいずれによっても調製することができる。共沈法で説明すると、まず、セリウム、ジルコニウム、ランタン、イットリウム及びアルミニウムの各硝酸塩を混合し、水を加えて室温で約1時間攪拌する。次に、この硝酸塩混合溶液とアルカリ性溶液(好ましくは28%アンモニア水)とを室温〜80℃でディスパーサを用いて混合して中和処理を行う。
【0076】
この中和処理により白濁した溶液を一昼夜放置し、生成した沈殿ケーキを遠心分離器にかけた後、十分に水洗する。この水洗したケーキを約150℃の温度で乾燥した後、約600℃の温度におよそ5時間保持し、次いで、約500℃の温度に2時間保持して焼成した後、粉砕することにより、Ce・Zr・La・Y・アルミナ複合酸化物の粉体が得られる。
【0077】
このように、本実施形態の排気ガス浄化用触媒10は、図2及び図3に明示したように、多数のセル通路12…12を有するハニカム担体11上に上下2層に触媒層13,14を積層し、下層をHC吸着能を有するHC吸着層13とし、上層をHC浄化能を有する浄化触媒層14とした構成、すなわちHCトラップ触媒である。
【0078】
そして、上層の浄化触媒層14の表面(セル通路12側の面)に、複数の凸状部31…31及び/又は複数の凹状部32…32が分散配置されてなる乱流生成部30を設け、これにより、担体セル通路12を流れる排気ガスの流れが乱流状態となるようにしたから、排気ガスが上層の浄化触媒層14を厚み方向に通過して下層のHC吸着層13にまで拡散し易くなる。
【0079】
したがって、セル通路12内を流れる排気ガスのうち、上層の浄化触媒層14を厚み方向に通過して下層のHC吸着層13にまで拡散していくガスの割合が増大し、その結果、下層のHC吸着層13に吸着されるHC量が増大し、冷間時にHCの大気への放出を十分満足に抑制でき、冷間時のHC浄化率が向上することとなる。
【0080】
しかも、そのために設けた乱流生成部30は、浄化触媒層14の表面に分散配置された複数の凸状部31…31や凹状部32…32でなるから、その形成は単純・容易であり、乱流生成部30を形成する際に触媒層13,14に過度の応力を与えることがなくなる。
【0081】
その場合に、凸状部31の高さ及び凹状部32の深さを10〜30μmの範囲内としたから、背圧の増加、浄化性能の低下、強度の低下等の不具合を招くことなく、乱流が確実に生成する。
【0082】
以上により、本実施形態に係る排気ガス浄化用触媒10においては、浄化触媒層14やHC吸着層13に過度の応力を与えることなく、担体セル通路12を流れる排気ガスを乱流状態とする手段、すなわち乱流生成部30が設けられている。
【0083】
なお、前記実施形態は、本発明の最良の実施形態ではあるが、特許請求の範囲を逸脱しない限り、さらに種々の修正や変更を施してよいことはいうまでもない。
【0084】
例えば、浄化触媒層14に、触媒金属として白金(Pt)をさらに追加してもよい。あるいは、浄化触媒層14は、下層14aと上層14bとに分けず、1層にまとめてもよい。
【0085】
また、浄化触媒層14及び/又はHC吸着層13のスラリー中に焼成温度で非焼失性の粒子21…21と焼失性の粒子22…22とを共に予め分散混入することにより、乱流生成部30に凸状部31…31と凹状部32…32とを混在させることもできる。
【0086】
つまり、以上を総合すると、浄化触媒層14のスラリー及び/又はHC吸着層13のスラリーに、該スラリーの焼成温度で焼失しない複数の微粒子21…21及び/又は焼失する複数の微粒子22…22を分散混入した状態で、該スラリーをハニカム担体11にコートし、前記焼成温度で焼成することにより、浄化触媒層14の表面に、複数の凸状部31…31及び/又は複数の凹状部32…32を分散配置することができる。
【実施例】
【0087】
前述した排気ガス浄化用触媒10の製造方法及び前述した各層13,14a,14bの化学的構成に従い、図6に示すように、実施例1〜6及び比較例1〜3の排気ガス浄化用触媒10を製造した。図6には、使用したハニカム担体11の主な仕様を併せて示した。なお、実施例1〜6及び比較例1〜3において、非焼失性微粒子21及び焼失性微粒子22は、各触媒層13,14に対して、5体積%の割合で混入した。
【0088】
実施例1は、浄化触媒層14及びHC吸着層13の両層に非焼失性微粒子21…21を混入したもの(乱流生成部30は凸状部31…31のみが存在する)、実施例2は、浄化触媒層14に焼失性微粒子22…22を混入し、HC吸着層13に非焼失性微粒子21…21を混入したもの(乱流生成部30は凸状部31…31と凹状部32…32とが混在する)、実施例3は、浄化触媒層14に非焼失性微粒子21…21を混入し、HC吸着層13に焼失性微粒子22…22を混入したもの(乱流生成部30は凸状部31…31と凹状部32…32とが混在する)、実施例4は、浄化触媒層14及びHC吸着層13の両層に焼失性微粒子22…22を混入したもの(乱流生成部30は凹状部32…32のみが存在する)である。
【0089】
また、実施例5は、浄化触媒層14に非焼失性微粒子21…21を混入し、HC吸着層13には微粒子21…21,22…22を混入しなかったもの(乱流生成部30は凸状部31…31のみが存在する:凸状部31の数は実施例1〜4の凸状部31及び凹状部32の数より少ない)、実施例6は、浄化触媒層14に焼失性微粒子22…22を混入し、HC吸着層13には微粒子21…21,22…22を混入しなかったもの(乱流生成部30は凹状部32…32のみが存在する:凹状部32の数は実施例1〜4の凸状部31及び凹状部32の数より少ない)である。
【0090】
ここで、実施例1〜6においては、浄化触媒層14の表面に、高さが10μm以上の凸状部31及び/又は深さが10μm以上の凹状部32が複数存在し、乱流生成部30が構成されていた。
【0091】
これに対し、比較例1は、浄化触媒層14には微粒子21…21,22…22を混入せず、HC吸着層13に非焼失性微粒子21…21を混入したもの(浄化触媒層14の表面には凸状部31…31のみが存在する:凸状部31の数は実施例5の凸状部31の数と略同等であるが、高さが低い)、比較例2は、浄化触媒層14には微粒子21…21,22…22を混入せず、HC吸着層13に焼失性微粒子22…22を混入したもの(浄化触媒層14の表面には凹状部32…32のみが存在する:凹状部32の数は実施例6の凹状部32の数と略同等であるが、深さが浅い)、比較例3は、浄化触媒層14及びHC吸着層13の両層に微粒子21…21,22…22を混入しなかったものである。
【0092】
ここで、比較例1,2においては、浄化触媒層14の表面の凸状部31は、高さが10μm未満であり、凹状部32は、深さが10μm未満であって、比較例3と共に、乱流生成部30が構成されていなかった。
【0093】
実施例1〜6及び比較例1〜3について冷間HC浄化率の評価試験を行った。この評価試験では、図6に示した仕様のハニカム担体から、直径が25.4mm、長さが50mm、容積が25mlのコアサンプルを切り出し、これを試験用サンプルとした。
【0094】
まず、各試験用サンプル(供試触媒装置)に、排気ガス中の擬似HCとしてトルエンを含有するガス(トルエン濃度2500ppmC、残N)を50℃の温度で900秒間流し、これにより、供試触媒装置にトルエンを吸着させた。このとき、900秒間流したトルエンの総量をAとし、供試触媒装置(より詳しくはそのHC吸着層13)に吸着されたトルエン量をBとして、トルエン吸着量Bを、前記総量Aと、900秒間流したときに供試触媒装置を素通りしたトルエン量とから求めた。
【0095】
次いで、A/F=1.47の模擬排気ガス(CO:13.9%、O:0.6%、CO:0.6%、H:0.2%、NO:1000ppm、HO:10%、N:残、HC成分:含まず)を供試触媒装置に流しながら、そのガス温度を30℃/分の速度で上昇させていき、この間、供試触媒装置から流出するトルエン量Cを測定した。そして、各供試触媒装置の冷間HC浄化率(%)を、[(B−C)×100/A]により求めた。
【0096】
評価結果を図6に示す。浄化触媒層14の表面に存在する凸状部31…31及び凹状部32…32の数が多いほど、また、凸状部31の高さが高いほど、あるいは凹状部32の深さが深いほど、良好な冷間HC浄化率(%)を示しており、浄化触媒層14の表面に複数の凸状部31…31及び/又は複数の凹状部32…32を形成したことで、担体セル通路12を流れる排気ガスの乱流度が増し、排気ガス中のより多くの量のHCが浄化触媒層14及びHC吸着層13を厚み方向に通過、拡散して吸着されたものと考えられる。
【0097】
なお、上層の浄化触媒層14には微粒子21…21,22…22を混入せず、下層のHC吸着層13に非焼失性微粒子21…21及び/又は焼失性微粒子22…22を混入した場合であっても、浄化触媒層14の表面に現れる凸状部31…31の高さ及び/又は凹状部32…32の深さが10μm以上(上限は30μm)あれば、浄化触媒層14の表面に乱流生成部30が構成されたこととなり、本発明の実施例に属することとなる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上、具体例を挙げて詳しく説明したように、本発明は、排気ガス浄化用触媒、特に、冷間時に排気ガス中のHCを吸着する機能を有するHCトラップ触媒において、触媒層に過度の応力を与えることなく、担体セル通路を流れる排気ガスを乱流状態とする手段を設けることにより、上層の浄化触媒層を通過して下層のHC吸着層にまで拡散していく排気ガスの割合を増大させ、下層のHC吸着層に吸着されるHC量を増大させ、もって冷間時のHC浄化率を向上することが可能な技術であるから、エンジンのエミッション低下の技術分野において広範な産業上の利用可能性が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る排気ガス浄化用触媒を充填した触媒コンバータのエンジンに対する配置図である。
【図2】図1のII−II矢印線による断面図であって、前記排気ガス浄化用触媒の物理的構成を示す拡大図である。
【図3】前記排気ガス浄化用触媒の触媒層(HC吸着層、浄化触媒層)の詳細な物理的構成を示す模式図である。
【図4】前記排気ガス浄化用触媒の浄化触媒層の表面に設けられた乱流生成部を示す模式図であって、(a)は乱流生成部が浄化触媒層に混入した非焼失性微粒子で形成される凸状部でなるもの、(b)は乱流生成部がHC吸着層に混入した非焼失性微粒子で形成される凸状部でなるもの、(c)は乱流生成部が浄化触媒層に混入した非焼失性微粒子で形成される凸状部と、HC吸着層に混入した非焼失性微粒子で形成される凸状部とでなるものである。
【図5】前記排気ガス浄化用触媒の浄化触媒層の表面に設けられた乱流生成部を示す模式図であって、(a)は乱流生成部が浄化触媒層に混入した焼失性微粒子の焼失跡で形成される凹状部でなるもの、(b)は乱流生成部がHC吸着層に混入した焼失性微粒子の焼失跡で形成される凹状部でなるもの、(c)は乱流生成部が浄化触媒層に混入した焼失性微粒子の焼失跡で形成される凹状部と、HC吸着層に混入した焼失性微粒子の焼失跡で形成される凹状部とでなるものである。
【図6】実施例1〜6及び比較例1〜3の触媒層の構成と冷間HC浄化率の評価結果とを示す表である。
【符号の説明】
【0100】
1 エンジン
2 排気通路
3 触媒コンバータ
10 排気ガス浄化用触媒
11 ハニカム担体
12 セル通路
13 HC吸着層
14 浄化触媒層
14a 浄化触媒層下層
14b 浄化触媒層上層
21 コージェライト製粒子(焼成温度で非焼失性の微粒子)
22 樹脂ビーズ(焼成温度で焼失性の微粒子)
30 乱流生成部
31 凸状部
32 凹状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路に配設され、多数のセル通路を有するハニカム担体と、このハニカム担体上に設けられたHC吸着層と、このHC吸着層上に積層された浄化触媒層とを有する排気ガス浄化用触媒であって、
前記浄化触媒層の表面に、担体セル通路を流れる排気ガスの流れが乱流状態となるように、10〜30μmの高さを有する複数の凸状部及び/又は10〜30μmの深さを有する複数の凹状部が分散配置されてなる乱流生成部が設けられていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の排気ガス浄化用触媒であって、
前記凸状部は、浄化触媒層のスラリー及び/又はHC吸着層のスラリーに該スラリーの焼成温度で焼失しない複数の微粒子を分散混入した状態で該スラリーをハニカム担体にコートし、前記焼成温度で焼成することにより形成されていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の排気ガス浄化用触媒であって、
前記凹状部は、浄化触媒層のスラリー及び/又はHC吸着層のスラリーに該スラリーの焼成温度で焼失する複数の微粒子を分散混入した状態で該スラリーをハニカム担体にコートし、前記焼成温度で焼成することにより形成されていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−165930(P2009−165930A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5270(P2008−5270)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】