説明

排気還流率計測装置

【課題】 排気還流通路を備える内燃機関に吸入される新気と還流排気との混合ガスに含まれる還流排気の比率、すなわち排気還流率を精度よく求めることができる排気還流率計測装置を提供する。
【解決手段】 検出される新気湿度Ha1及び新気温度Ta1に基づいて新気中の水蒸気濃度MCWを算出し、水蒸気濃度MCW及び新気と還流排気の混合ガスの温度Tinに基づいて温度Tinにおける新気の音速Va2を算出する(S12〜S16)。水蒸気濃度MCW及び還流排気に含まれるガス成分の比率、並びに温度Tinに応じて温度Tinにおける還流排気の音速Vfを算出する(S17,S18)。超音波センサにより検出される混合ガスの音速Vin、新気の音速Va2、及び還流排気の音速Vfを用いて排気還流率REGRを算出する(S19)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気還流通路を備える内燃機関において排気還流率を計測する排気還流率計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関の吸入空気中の特定成分の濃度を測定するガス濃度センサが示されている。このガス濃度センサは、被測定ガス(測定対象ガス)中において超音波が一定距離を伝播するのに要する伝播時間、換言すれば被測定ガスの音速に基づいて、特定成分の濃度を検出するものである。
【0003】
【特許文献1】特開2000−241399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関に吸入されるガス中には、濃度測定の対象となる特定成分(例えば蒸発燃料)以外の他の成分(水蒸気、還流される排気)が含まれており、被測定ガスの音速は、他の成分の影響も受ける。そのため、他の成分の濃度が変化すると、被測定ガスの音速と特定成分の濃度との関係も変化し、特定成分濃度の測定精度が低下する。内燃機関に吸入される新気中には少なからず水蒸気が含まれており、排気系から還流される還流排気中には燃焼により生成された水蒸気も含まれる。
【0005】
特許文献1は、ガス濃度センサを、吸気通路に供給される蒸発燃料の濃度の測定に適用する例と、水蒸気の濃度を測定する例とを示しているが、蒸発燃料濃度と水蒸気濃度との関係(被測定ガスにおける両者の比率)に着目して、正確な蒸発燃料濃度を測定する手法を示していない。したがって、特許文献1に示されたガス濃度センサ及びそのセンサを用いたガス濃度測定手法を、新気と還流排気との混合ガス中の還流排気の割合である排気還流率の測定にそのまま適用することはできない。
【0006】
本発明は上述した点を考慮してなされたものであり、排気還流通路を備える内燃機関に吸入される新気と還流排気との混合ガスに含まれる還流排気の比率、すなわち排気還流率を精度よく求めることができる排気還流率計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、排気還流通路(7)を備える内燃機関に吸入される新気と還流排気との混合ガスに含まれる前記還流排気の割合である排気還流率(REGR)を計測する排気還流率計測装置であって、前記新気の音速(Va2)を求める第1音速取得手段と、前記還流排気の音速(Vf)を求める第2音速取得手段と、前記混合ガスの音速(Vin)を求める第3音速取得手段と、前記新気の音速(Va2)と前記還流排気の音速(Vf)と前記混合ガスの音速(Vin)とに基づいて前記排気還流率(REGR)を算出する排気還流率算出手段とを備えることを特徴とするものを提供する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の排気還流率計測装置において、前記混合ガスの温度(Tin)を検出する混合ガス温度検出手段(14)と、前記新気中の水蒸気濃度(MCW)を取得する水蒸気濃度取得手段とを備え、前記第1音速取得手段は、前記混合ガスの温度(Tin)と前記新気中の水蒸気濃度(MCW)とに基づいて、前記新気の音速(Va2)を算出することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の排気還流率計測装置において、前記混合ガスの温度(Tin)を検出する混合ガス温度検出手段(14)と、前記新気中の水蒸気濃度(MCW)を取得する水蒸気濃度取得手段と、前記新気中の水蒸気濃度(MCW)に基づいて前記還流排気中の水蒸気濃度(n(5)+0.944)を推定する水蒸気濃度推定手段とを備え、前記第2音速取得手段は、前記混合ガスの温度(Tin)と前記還流排気中の水蒸気濃度(n(5)+0.944)とに基づいて、前記還流排気の音速(Vf)を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の排気還流率計測装置において、前記水蒸気濃度取得手段は、前記新気の温度(Ta1)を検出する新気温度検出手段(12)と、前記新気の湿度(Ha1)を検出する新気湿度検出手段(11)とを有し、検出した新気温度(Ta1)及び新気湿度(Ha1)に基づいて前記新気中の水蒸気濃度(MCW)を算出することを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1項に記載の排気還流率計測装置において、前記第3音速取得手段は、超音波を送信する超音波送信手段と、前記混合ガスを介して前記超音波を受信する超音波受信手段とを有し、前記超音波の送信時点から受信時点までの伝播時間(TL)に基づいて、前記混合ガスの音速(Vin)を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、新気の音速、還流排気の音速、及び新気と還流排気の混合ガスの音速が求められ、これらの音速に基づいて排気還流率が算出される。機関に吸入される混合ガスの音速は、混合ガスの構成要素である新気と還流排気の音速、及び新気と還流排気の比率に依存して変化する。したがって、混合ガス、新気、及び還流排気の各音速を用いることにより、混合ガスに含まれる還流排気の割合である排気還流率を精度良く算出することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、新気中の水蒸気濃度が取得され、混合ガスの温度と新気中の水蒸気濃度とに基づいて、新気の音速が算出される。新気の音速は、水蒸気濃度及び温度によって変化するので、混合ガスの温度と新気中の水蒸気濃度とに基づいて新気の音速を算出することにより、還流排気と混合された状態での新気の音速を正確に算出することができる。また新気の音速を求めるために超音波センサを用いる必要が無く、コストを低減することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、新気中の水蒸気濃度に基づいて還流排気中の水蒸気濃度が推定され、混合ガスの温度と還流排気中の水蒸気濃度とに基づいて、還流排気の音速が算出される。還流排気に含まれる成分のうち、水蒸気以外の成分の比率は、標準的な燃料の完全燃焼を前提とすることにより算出可能であるが、水蒸気の比率は新気中の水蒸気濃度に依存して変化する。したがって、新気中の水蒸気濃度に基づいて推定された還流排気中の水蒸気濃度と、混合ガスの温度とを用いることにより、新気と混合された状態での還流排気の音速を正確に算出することができる。また還流排気の音速を求めるために超音波センサを用いる必要が無く、コストを低減することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、検出した新気温度及び新気湿度に基づいて新気中の水蒸気濃度が算出される。空気中の飽和水蒸気圧は、テテンスの式を用いることにより、新気温度から算出できるので、飽和水蒸気圧と検出湿度から、正確な水蒸気濃度を得ることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、超音波の送信時点から受信時点までの伝播時間に基づいて混合ガスの音速を精度良く算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、例えば4気筒を有し、エンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。
【0018】
燃料噴射弁6は図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共に電子制御ユニット(以下「ECU」という)5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0019】
エンジン1の排気管4と吸気管2のスロットル弁下流側との間には、排気還流通路7が設けられており、排気還流通路7には排気還流量を制御する排気還流制御弁(以下「EGR弁」という)8が設けられている。EGR弁8がECU5に接続されており、ECU5によりEGR弁8の弁開度が制御される。
【0020】
吸気管2のスロットル弁3の上流側には、エンジン1に吸入される新気の湿度Ha1を検出する湿度センサ11及び新気の温度Ta1を検出する新気温度センサ12が設けられている。また吸気管2と排気還流通路7との接続部の下流側には、新気と還流排気の混合ガスの音速Vinを検出する超音波センサ13と、混合ガスの温度Tinを検出する混合ガス温度センサ14とが設けられている。これらのセンサ11〜14の検出信号は、ECU5に供給される。またECU5には大気圧PAを検出する大気圧センサ15が接続されており、その検出信号がECU5に供給される。
【0021】
ECU5は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理回路(以下「CPU」という)、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路、EGR弁8及び燃料噴射弁6に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。ECU5は、各種センサの検出信号に基づいて、燃料噴射弁6の開弁時間の制御、及びEGR弁8の開度制御(EGR流量制御)を行うとともに、排気還流率REGRの算出を行う。
【0022】
本実施形態では、上記センサ11〜15及びECU5によって、排気還流率計測装置が構成される。
【0023】
図2は、本実施形態における排気還流率REGRの算出手法の概要を説明するための図である。新気GAが、還流排気GEGRと混合され、混合ガスGMXが生成される。混合ガスGMXには燃料噴射弁6により燃料が噴射され、燃料空気混合気として燃焼室1aに供給される。すなわち、本明細書においては「混合ガス」は、新気と還流排気とが混合したガスであって、燃料が噴射(混合)される前のガスを意味するものとする。
【0024】
燃焼室1aからは、燃料空気混合気が燃焼した後のガス(既燃ガス)がフィードガスGFとして排出される。フィードガスGFの一部が排気還流通路7を介して還流排気GEGRとして吸気管2に還流される。
【0025】
本実施形態では、混合ガス温度Tinにおける新気GAの音速(新気中における音の伝播速度)Va2、還流排気GEGRの音速Vf、及び超音波センサ13により検出される混合ガスGMXの音速Vinを用いて、排気還流率REGRが算出される。新気の音速Va2は、検出される新気湿度Ha1、新気温度Ta1、及び混合ガス温度Tinに応じて算出され、還流排気の音速Vfは、フィードガス(還流排気)に含まれる成分の比率及び混合ガス温度Tinに応じて算出される。
【0026】
図3は、排気還流率REGRを算出する処理のフローチャートであり、この処理はECU5のCPUで所定時間毎に実行される。
ステップS11では、センサにより検出される新気温度Ta1、新気湿度Ha1、混合ガス温度Tin、混合ガス音速Vin、及び大気圧PAを読み込む。ステップS12では、下記式(1)に新気温度Ta1[℃]を適用して、温度Ta1における空気(標準大気圧)中の飽和水蒸気圧Esat[hPa]を算出する。式(1)はテテンス(Tetens)の式として周知のものである。
【数1】

【0027】
ステップS13では、ステップS12で算出した飽和水蒸気圧Esat及び検出した新気湿度Ha1[%]を下記式(2)に適用し、新気中の水蒸気圧PWを算出する。
PW=East×Ha1/100 (2)
【0028】
ステップS14では、水蒸気圧PW及び大気圧PAを下記式(3)に適用して新気中の水蒸気モル濃度MCWを算出し、さらに水蒸気モル濃度MCW[%]を下記式(4)に適用して、新気中の乾燥空気(湿度0%の空気)のモル濃度MCA[%]を算出する。
MCW=(PW/PA)×100 (3)
MCA=100−MCW (4)
【0029】
ステップS15では、混合ガス温度Tin[℃]を下記式(5)及び(6)に適用し、温度Tinにおける新気中の水蒸気の音速VW[m/s]及び新気中の乾燥空気の音速VA[m/s]を算出する。式(5)のκW及びMWは、それぞれ水蒸気の比熱比及び分子量であり、式(6)のκA及びMAは、それぞれ乾燥空気の比熱比及び等価分子量(乾燥空気の各成分の分子量及び各成分のモル比率から算出される)である。また式(5)及び(6)のRは気体定数である。
【数2】

【0030】
ステップS16では、ステップS14で算出したモル濃度MCW,MCA、及びステップS15で算出した音速VW,VAを下記式(7)に適用し、温度Tinにおける新気の音速Va2を算出する。
Va2=(VW×MCW+VA×MCA)/100 (7)
【0031】
ステップS17では、モル濃度MCW及びMCAに応じてフィードガスの成分比率、すなわちフィードガスに含まれる各成分のモル比率を算出する。以下この算出手法を詳細に説明する。
【0032】
先ず温度20℃、湿度30%で窒素(N2)、酸素(O2)、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)、水蒸気(H2O)を成分とする空気中で燃料が燃焼したときに理論空燃比が14.7となる標準的なガソリンの組成式をCH1.888とする。このガソリンCH1.888の燃焼の反応式は下記式(8)で与えられる。
CH1.888+1.472O2 → CO2+0.944H2O (8)
【0033】
空気を構成する窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素、及び水蒸気のモル比率を示すモル比率パラメータをそれぞれn(1),n(2),n(3),n(4),及びn(5)で表すものとすると、ガソリンCH1.888が燃焼するときの反応式は下記式(9)で与えられる。
【0034】
n(1)N2+n(2)O2+n(3)Ar+n(4)CO2+n(5)H2O+CH1.888
→ n(1)N2+n(3)Ar+(n(4)+1)CO2+(n(5)+0.944)H2
(9)
ここで、乾燥空気を構成する成分のモル比率はほぼ下記式(10)で示される。
2:O2:Ar:CO2=78.06:21:0.9:0.04 (10)
【0035】
空気中の水蒸気モル濃度CMW[%]が既知であると、下記式(11)により、乾燥空気濃度CMAを示す係数aを算出し、係数aと式(10)の関係を用いて、水蒸気を含む空気を構成する成分のモル比率は下記式(12)で与えられる。
a=(100-MCW)/100=MCA/100 (11)
2:O2:Ar:CO2:H2
=78.06a:21a:0.9a:0.04a:MCW (12)
【0036】
ここで、燃焼反応を示す式(8)の酸素の係数1.472に着目し、式(12)の「21a」が1.472となるように(1.472/21a)を乗算すると、下記式(13)が得られる。
2:O2:Ar:CO2:H2
=5.472:1.472:0.063:0.003:7.01MCW/MCA (13)
【0037】
よって式(9)に含まれるモル比率パラメータn(1)〜n(4)は下記のようになり、n(5)は下記式(14)で与えられる。
n(1)=5.472,n(2)=1.472,n(3)=0.063,n(4)=0.003
n(5)=7.01×MCW/MCA (14)
【0038】
図3のステップS18では、混合ガス温度Tinを用いて、フィードガス(還流排気)の成分である窒素、アルゴン、二酸化炭素、及び水蒸気の音速V(1),V(3),V(4),及びV(5)を算出する。水蒸気の音速V(5)は、ステップS15で算出した音速VWである。音速V(1),V(3),及びV(4)は、式(5)の比熱比κ及び分子量Mをそれぞれの成分に対応する数値を適用することにより、算出される。
【0039】
そして、モル比率パラメータn(1),n(3)〜n(5)及び音速V(1),V(3)〜V(5)を下記式(15)に適用し、還流排気(フィードガス)の音速Vfを算出する。
【数3】

【0040】
ステップS19では、ステップS16で算出した新気の音速Va2、ステップS18で算出した還流排気の音速Vf、及び検出された混合ガスの音速Vinを下記式(16)に適用し、排気還流率REGRを算出する。
【数4】

【0041】
式(16)は以下のようにして導出される。混合ガス中の新気と還流排気のモル比率をx:yとすると、混合ガスの音速Vinは下記式(17)で与えられ、排気還流率REGRは下記式(18)で与えられる。これらの式(17)及び(18)から式(16)が得られる。
Vin=(Va2×x+Vf×y)/(x+y) (17)
REGR=y/(x+y) (18)
【0042】
本実施形態では、図3の処理により算出された排気還流率REGRがエンジン運転状態(エンジン負荷及びエンジン回転数)に応じて設定される目標排気還流率REGRTと一致するように、EGR弁8の開度制御が行われる。
【0043】
次に超音波センサ13の構成及び音速の検出手法ついて説明する。図4は、超音波センサ13の構成を示すブロック図であり、超音波センサ13は、信号発生部21と、送信部22と、受信部23と、増幅部24と、整流部25と、ローパスフィルタ(LPF)26,29と、トリガ信号生成部27と、FV変換部28とを備えている。送信部22及び受信部23は、吸気管2の内壁に互いに対向する位置に取り付けられている。
【0044】
信号発生部21は、図5(d)に示すトリガ信号STGに応じて図5(a)に示すバースト状の送信信号ST(ST1,ST2,ST3,…)を発生する。送信部22は、送信信号STを音波に変換して出力する。受信部23は、送信部22から距離Lを隔てて設けられており、送信される音波を図5(b)に示す受信信号SR(SR1,SR2,SR3,…)に変換する。受信信号SR1,SR2,及びSR3は、それぞれ送信信号ST1,ST2,及びST3に対応する。すなわち送信信号STは、距離Lを音波が伝播するのに要する伝播時間TLだけ遅れて受信部23で受信される。
【0045】
増幅部24は、受信信号SRを増幅し、整流部25は受信信号SRを全波整流する。LPF26は全波整流された受信信号の高周波成分を除去し、図5(c)に示す検波信号SRFを出力する。トリガ信号生成部27は、検波信号SRFを閾値VTHで二値化し、トリガ信号STGを生成する。このトリガ信号STGは、信号発生部21に供給されるとともに、FV変換部28に供給される。
【0046】
FV変換部28は、トリガ信号STGの周波数FTを、その周波数FTに比例する電圧に変換して出力する。LPF29は、FV変換部28から出力される信号の高周波成分を除去し、周波数FTを示す周波数信号VFTを出力する。
【0047】
伝播時間TLは周波数FTの逆数として求められ、混合ガスの音速Vinは、(L/TL)であって周波数信号VFTに比例する。したがって、周波数信号VFTに適当な係数を乗算することにより、音速Vinが得られる。このとき伝播時間TLに信号処理に伴う遅延時間が含まれないように補正を行うことにより、正確な音速Vinが得られる。
【0048】
以上のように本実施形態では、新気の音速Va2及び還流排気の音速Vfが算出されるとともに、新気と還流排気の混合ガスの音速Vinが検出され、これらの音速に基づいて排気還流率REGRが算出される。混合ガスの音速Vinは、混合ガスの構成要素である新気と還流排気の音速Va2,Vf、及び新気と還流排気の比率(すなわち排気還流率)に依存して変化する。したがって、混合ガス、新気、及び還流排気の音速Vin,Va2,Vfを用いることにより、混合ガスに含まれる還流排気の割合である排気還流率REGRを精度良く算出することができる。
【0049】
また新気中の水蒸気濃度CMWが、新気温度Ta1及び新気湿度Ha1に応じて算出され、混合ガスの温度Tinと新気中の水蒸気濃度CMWとに基づいて、新気の音速Va2が算出される。新気の音速は、水蒸気濃度及び温度によって変化するので、混合ガスの温度と新気中の水蒸気濃度とに基づいて新気の音速を算出することにより、還流排気と混合された状態での新気の音速Va2を正確に算出することができる。また新気の音速Va2を求めるために超音波センサを用いる必要が無く、コストを低減することができる。
【0050】
さらに新気中の水蒸気濃度CMWに基づいて還流排気中の水蒸気濃度を示すモル比率パラメータ(n(5)+0.944)が算出され、混合ガスの温度Tinに応じて還流排気中の各成分の音速V(1)〜V(5)が算出される。そして、音速V(1)〜V(5)とモル比率パラメータ(n(5)+0.944)とを用いて、式(15)により還流排気の音速Vfが算出される。還流排気に含まれる成分のうち、水蒸気以外の成分のモル比率パラメータn(1),n(3),及び(n(4)+1)は、空気成分の標準的な比率及び標準的な燃料であるガソリンCH1.888の燃焼式(8)を前提とすることにより算出可能であるが、水蒸気の比率は新気中の水蒸気濃度に依存して変化する。したがって、新気中の水蒸気濃度MCWに基づいて推定された還流排気中の水蒸気濃度を示すモル比率パラメータ(n(5)+0.944)と、混合ガス温度Tinとを用いることにより、新気と混合された状態での還流排気の音速Vfを正確に算出することができる。また還流排気の音速Vfを求めるために超音波センサを用いる必要が無く、コストを低減することができる。
【0051】
また新気中の水蒸気濃度CMWは空気中の飽和水蒸気圧Esatと検出新気湿度Ha1から算出される。飽和水蒸気圧Esatは、テテンスの式(式(1))を用いることにより、新気温度Ta1から算出できるので、正確な水蒸気濃度を得ることができる。
【0052】
また超音波センサ13を用いることにより、超音波の送信時点から受信時点までの伝播時間TLに基づいて混合ガスの音速Vinを精度良く算出することができる。
【0053】
本実施形態では、湿度センサ11が新気湿度検出手段に相当し、新気温度センサ12が新気温度検出手段に相当し、混合ガス温度センサ14が混合ガス温度検出手段に相当する。また湿度センサ11、新気温度センサ12、混合ガス温度センサ14及びECU5が第1音速取得手段及び第2音速取得手段を構成し、超音波センサ13が第3音速取得手段を構成し、ECU5が排気還流率算出手段及び水蒸気濃度推定手段を構成する。また湿度センサ11、新気温度センサ12、及びECU5が水蒸気濃度取得手段を構成する。より具体的には、図3のステップS11〜S16が第1音速取得手段に相当し、ステップS11〜S14,S17,及びS18が第2音速取得手段に相当し、ステップS19が排気還流率算出手段に相当し、ステップS11〜S14が水蒸気濃度取得手段に相当し、ステップS17が水蒸気濃度推定手段に相当する。また図4の信号発生部21及び送信部22が超音波送信手段に相当し、受信部23が超音波受信手段に相当する。
【0054】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、図3の処理では、ステップS12〜S16の演算により、温度Tinにおける新気の音速Va2を算出するようにしたが、図6に示すように空気の温度Ta1及び湿度Ha1から音速Va1を算出するマップを予め作成しておき、このマップを用いて検出された温度Ta1及び湿度Ha1から音速Va1を算出し、この温度Ta1における音速Va1を下記式(20)により温度Tinにおける音速Va2に換算するようにしてもよい。
【数5】

【0055】
また音速の算出式は、下記式(21)〜(24)のように成分毎に知られている近似式を用いてもよい。算出される音速の単位は[m/s]である。
V(1)=337+0.85Tin (21)
V(3)=319+0.57Tin (22)
V(4)=258+0.87Tin (23)
V(5)=404.8+0.68Tin (24)
【0056】
また吸気管2のスロットル弁3の下流側に超音波センサを設けて、新気温度Ta1における音速Va1を検出し、音速Va1を温度Tinにおける音速Va2に変換するようにしてもよい。還流排気の音速Vfも同様に求めることができる。例えば排気還流通路7に超音波センサ及び温度センサを設けて、音速Vf1及び還流排気温度TEGRを検出し、検出した音速Vf1を温度Tinにおける音速Vfに変換するようにしてもよい。
【0057】
また特許文献1に記載されているように、超音波センサを用いて被測定ガス中の水蒸気濃度を検出することができるので、吸気管2のスロットル弁3の下流側に設けた超音波センサにより新気中の水蒸気濃度を検出するようにしてもよい。また排気還流通路7に設けた超音波センサにより還流排気中の水蒸気濃度を検出するようにしてよい。
【0058】
また上述した実施形態では、大気圧PAを検出して式(3)に適用したが、式(3)のPAを平均的な大気圧、例えば「101.3kPa」に設定してもよい。
【0059】
また本発明は、ガソリン内燃機関だけでなく、ディーゼル内燃機関にも適用可能である。さらに本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】排気還流率の算出手法を説明するための図である。
【図3】排気還流率を算出する処理のフローチャートである。
【図4】超音波センサの構成を示すブロック図である。
【図5】超音波センサの動作を説明するための波形図である。
【図6】湿度及び温度から音速を算出するためのマップを示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 内燃機関
2 吸気管
4 排気管
5 電子制御ユニット(第1音速取得手段、第2音速取得手段、排気還流率算出手段、水蒸気濃度取得手段、水蒸気濃度推定手段)
6 排気還流通路
11 湿度センサ(新気湿度検出手段)
12 新気温度センサ(新気温度検出手段)
13 超音波センサ(第3音速取得手段)
14 混合ガス温度センサ(混合ガス温度検出手段)
21 信号発生部(超音波送信手段)
22 送信部(超音波送信手段)
23 受信部(超音波受信手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気還流通路を備える内燃機関に吸入される新気と還流排気との混合ガスに含まれる前記還流排気の割合である排気還流率を計測する排気還流率計測装置であって、
前記新気の音速を求める第1音速取得手段と、
前記還流排気の音速を求める第2音速取得手段と、
前記混合ガスの音速を求める第3音速取得手段と、
前記新気の音速と前記還流排気の音速と前記混合ガスの音速とに基づいて前記排気還流率を算出する排気還流率算出手段とを備えることを特徴とする排気還流率計測装置。
【請求項2】
前記混合ガスの温度を検出する混合ガス温度検出手段と、
前記新気中の水蒸気濃度を取得する水蒸気濃度取得手段とを備え、
前記第1音速取得手段は、前記混合ガスの温度と前記新気中の水蒸気濃度とに基づいて、前記新気の音速を算出することを特徴とする請求項1に記載の排気還流率計測装置。
【請求項3】
前記混合ガスの温度を検出する混合ガス温度検出手段と、
前記新気中の水蒸気濃度を取得する水蒸気濃度取得手段と、
前記新気中の水蒸気濃度に基づいて前記還流排気中の水蒸気濃度を推定する水蒸気濃度推定手段とを備え、
前記第2音速取得手段は、前記混合ガスの温度と前記還流排気中の水蒸気濃度とに基づいて、前記還流排気の音速を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の排気還流率計測装置。
【請求項4】
前記水蒸気濃度取得手段は、前記新気の温度を検出する新気温度検出手段と、前記新気の湿度を検出する新気湿度検出手段とを有し、検出した新気温度及び新気湿度に基づいて前記新気中の水蒸気濃度を算出することを特徴とする請求項2または3に記載の排気還流率計測装置。
【請求項5】
前記第3音速取得手段は、超音波を送信する超音波送信手段と、前記混合ガスを介して前記超音波を受信する超音波受信手段とを有し、前記超音波の送信時点から受信時点までの伝播時間に基づいて、前記混合ガスの音速を求めることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の排気還流率計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−264237(P2009−264237A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114706(P2008−114706)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】