説明

排水ポンプ装置

【課題】立軸渦巻ポンプを用いながらも水に浮かぶ排水ポンプ装置を実現させ、従来、より高い揚程やより多量排水が可能な、洪水等の大災害にも対応できる排水ポンプ装置を提供する。
【解決手段】モータMを含む立軸渦巻ポンプ6がフロート7が下となる起立姿勢で水面に浮遊自在に構成されるとともに、フロート7の仕様は、立軸渦巻ポンプ6が水面に浮遊した使用状態においては、吸込み口部5の吸込み口8が水面下に位置しての排水作動が可能となる状態に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急災害時や土木工事等に用いる排水ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の排水ポンプ装置としては、図2に示すように、横向きの主軸(図示省略)を有する横型の水中ポンプ25をフロート26に吊下げて水中に浮かせて使用することにより、泥やゴミの混入割合の高い底付近を避けて、比較的クリーンな部分の水から排水できるように構成されたものがある。この従来の排水ポンプ装置Aに使用される水中ポンプ25は、前記主軸をケーシング27の一端に内装されているモータ(図示省略)によって回転させ、主軸に取付けられた羽根車を回転させることにより、ケーシング27の長手方向における中間部に設けられた周状の吸い込み口28から水を吸い込み、ケーシング27の他端部(図2においては左端部)に装着された吐出しカバー29に連結される排水ホース30を介して水を吐出させるように構成されている。尚、このような水中ポンプ25の詳細な構造については、特許文献1等において開示されている。
【0003】
上記の排水ポンプ装置Aは、洪水時の内水排除といった非常時において好適に使用できるものであり、図2に示すように、洪水場所に排水ポンプ装置Aを投入して駆動させ、所定の排出場所31に排水することができる。このように、従来の排水ポンプ装置Aは非常時において、その非常対象場所に迅速に搬送して一刻も早く排水作動を開始させることが要求されることから、取扱い性に優れる小型で軽量な可搬型のものに構成されていた。
【0004】
従って、災害場所への迅速な運搬性よりも、大規模な洪水や堤防の決壊といった多量の排水を行わねばならないとか、より遠い、或いはより高い箇所に排水させねばならないといった具合の厳しい排水条件の場合には、従来の排水ポンプ装置では排水容量や揚程が不足であった。それ故、従来に比べて大型の緊急排水ポンプ装置を実現することへの要求も出てきたのである。
【特許文献1】特開2003−3985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況において、軸流ポンプや斜流ポンプよりも高い揚程が得られる立軸渦巻ポンプを用いることが考えられるが、運搬や取扱いの点で、比較的大きな既存の立軸渦巻ポンプは洪水現場などで使用できるものではない。
【0006】
本発明は、立軸渦巻ポンプを用いながらも水に浮かぶ排水ポンプ装置を実現させることで、洪水等の大災害にも対応でき、より高い揚程やより多量排水が可能な排水ポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、立軸渦巻ポンプと、前記立軸渦巻ポンプを駆動する駆動機と、前記立軸渦巻ポンプの下端側に装備されるフロートとを有し、前記立軸ポンプが前記フロートが下となる起立姿勢で水面に浮遊自在に構成されるとともに、少なくとも前記駆動機は水没しない大気中に配置され前記立軸渦巻ポンプが水面に浮遊した使用状態においては、前記吸込み口部の吸込み口が水面下に位置している排水ポンプ装置である。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の排水ポンプ装置において、前記ポンプを落し込み配置する下方凹入部と、前記吸込み口部を挿入するための前記下方凹入部から下方に貫通形成される開口部とを有する環状のものに構成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の排水ポンプ装置において、前記吸込み口を下方から覆うストレーナが装備されており、前記ストレーナは、前記立軸渦巻ポンプを起立姿勢で接地させるための支持脚となることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の排水ポンプ装置において、前記ストレーナは、多数の濾過用孔を有して前記フロートの底面から下方に延びる状態に形成されるとともに底面が接地自在な筒状部と、この筒状部の開口を覆うように前記筒状部内に装備される濾過用板状体とを有して構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の排水ポンプ装置において、前記フロート下面は、ストレーナの筒状部から吸い込まれた水を羽根車へ誘導する案内面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、フロートを立軸渦巻ポンプの下端側に装備して、少なくとも駆動機は水没しない大気中に配置されているので、立軸渦巻ポンプが起立姿勢で水面に浮かんだ状態で、洪水現場などにおいての排水作動が行えるようになる。また陸上において使用する構造の立軸渦巻ポンプを用いた場合でも、ポンプを水中に沈めることなく良好に作動させることができる。この場合、吸込みカバーだけが水中に沈むといった具合に吸込み口付近あるいは渦巻状のポンプケーシングが水面下に位置するようにすることで、水による問題なく陸上用の立軸渦巻ポンプを動かすことができる。
【0013】
このように立軸渦巻ポンプが使えることにより、単位時間当りの吐出量(排水量)が多いとか、より高い揚程を出せるといった排水ポンプ装置が実現できる。
【0014】
請求項2に係る発明では、環状のフロートにポンプを落し込み配置する下方凹入部を設けることで、排水ポンプ装置の重心位置を低くすることができる。従って、本請求項2の排水ポンプ装置においては、バランスよく安定的に水に浮かんでの排水作動が行える利点がある。
【0015】
請求項3に係る発明では、ストレーナが、立軸渦巻ポンプ等を起立姿勢で接地させるための支持脚に兼用されているので、排水作動中に水位が下がっても、倒れるとか傾くといった不都合なく正しい起立姿勢でもって水底に接地することが可能になる。また、吸込み口へのゴミや異物の浸入を規制することができるとともに、排水ポンプ装置専用の支持脚を別途作成して装備する必要が無く、部品点数の削減やそれによるコストダウンが可能になる、という効果を奏することができる。
【0016】
請求項4に係る発明では、多数の濾過用孔を有してフロートの底面から下方に延びる筒状部が、支持脚としての強度も備えているので、ストレーナと支持脚とフロートとの三者の構造兼用化が図れており、請求項3の発明による前記効果を強化することができる利点がある。また筒状部から水を吸込めるため、水底に接地した状態であっても、より低水位まで排水することができる。
【0017】
請求項5に係る発明では、フロート下面が、ストレーナの筒状部から吸い込まれた水を羽根車へ誘導する案内面であるので、フロート周囲での吸込速度を低減し、空気吸込渦の発生を抑制できるので、さらにより低水位までの排水が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基いて説明にする。
図1は本施形態である排水ポンプ装置の一例を示す縦断面図である。
【0019】
排水ポンプ装置Aは、図1に示すように上端部に入力部1aが形成されて駆動回転される立向きの主軸1と、主軸1の下端部に取付けられた羽根車2と、羽根車2を回転自在に収容するとともに横向きの吐出口部3が形成される渦巻状のポンプケーシング4と、下向きに開口する状態でポンプケーシング4の下端部4aに設けられる吸込み口部5とを有して成る立軸渦巻ポンプ6、入力部1aを介して主軸1を駆動回転させるモータM(駆動機の一実施例)、及び立軸渦巻ポンプ6の下端側に装備されるフロート7を有して構成される。フロート7の仕様は、モータMを含む立軸渦巻ポンプ6がフロート7が下となる起立姿勢で水面に浮遊自在に構成されるとともに、立軸渦巻ポンプ6が水面に浮遊した使用状態においては、吸込み口部5の吸込み口8が水面下に位置しての排水作動が可能となる状態に設定されている。また吸込み口8はポンプの定格運転時において、空気吸込渦が発生しない位置に設定されている。
【0020】
ポンプケーシング4の上側にはケーシングカバー部9が接続され、ケーシングカバー部9の上側には軸受ケーシング10が接続されている。ポンプケーシング4の側部(図1においてはポンプケーシング4の左側)には吐出口部3が設けられている。この吐出口部3から、羽根車2の回転により、吸込み口8から吸い込んだ水等の流体を吐出す。吸込み口部5の上側には径方向外側に向ってカバーフランジ5aが形成され、カバーフランジ5aはポンプケーシング4の下端部4aにボルトで締結固定されている。
【0021】
羽根車2の上側の主軸1にはポンプケーシング4と軸受ケーシング10との間をシールすべくシール部11が取付けられている。シール部11はシールハウジング12に収容され、シールハウジング12はケーシングカバー部9に一体形成されている。ケーシングカバー部9はポンプケーシング4の上側開口を塞いでおり、その外周部9aはポンプケーシング4の上端部4bに戴置されている。ポンプケーシング4とケーシングカバー部9と軸受ケーシング10とは、ケーシングカバー部9の外周部9aをポンプケーシング4の上端部4bと軸受ケーシング10の下端部10aとで挟持した状態でボルトで締結固定されている。
【0022】
シール部11上側の主軸1は中間軸受13によって回転自在に支持されている。中間軸受13は中間軸受ハウジング14に収容され、中間軸受ハウジング14の上部開口は軸受カバー15によって塞がれている。中間軸受ハウジング14には径方向外側に接続フランジ14aが形成され、接続フランジ14aは、軸受ケーシング10に支持固定された軸受支持部16にボルトによって締結固定されている。軸受ケーシング10上端面には、軸受ケーシング10の上側開口を塞いだ状態で上部軸受ハウジング17がボルトで締結されている。上部軸受ハウジング17は、主軸1を回転自在に支持する上部軸受18を収容している。上部軸受ハウジング17の上側開口は上部軸受カバー19によって塞がれている。
【0023】
モータMは立軸渦巻ポンプ6とは別体で、フロート7に設けられた支持部20によって着脱自在に取付けられている。支持部20は、主軸1の上端部に形成された入力部1aを挿通するための挿通孔21を備えた支持板部20aと、フロート7の上面の外周縁部7aに設けられ、かつ支持板部20aを立軸渦巻ポンプ6の上方に位置付ける円錐面状の支持側部20bとから構成される。支持側部20bは支持板部20aを支持できればよく、例えば籠状のフレームによって構成されてもよい。なお排水ポンプ装置AはモータMの取付けが立軸渦巻ポンプ6とは独立に着脱自在な構成であるので、立軸渦巻ポンプ6に使用できる範囲内でモータMをより高出力なモータに交換することが可能である。支持側部20bにはワイヤロープを取り付ける複数のロープ取付け部22が設けられている。河川や洪水現場において排水ポンプ装置Aを運搬する場合にはロープ取付け部22に取り付けたワイヤロープを船で引張って排水ポンプ装置Aを水上において移動させ、排水ポンプ装置Aを固定する場合にはこれらワイヤロープを川岸や桟橋に結び着けることで排水ポンプ装置Aを移動しないように固定する。特に、ポンプが大形である場合には、吐出反力により排水ポンプ装置が移動しないように複数のワイヤロープで複数の方向に固定することが望ましい。
【0024】
フロート7は樹脂製又は金属製であり、立軸渦巻ポンプ6を落し込み配置する下方凹入部7bと、吸込み口部5を挿入するための下方凹入部から下方に貫通形成される開口部7cとを有する円環状のものに構成される。フロート7と立軸渦巻ポンプ6とは、主軸1の軸心がフロート7の中心に一致(又はほぼ一致してもよい)状態に連結されている。フロート7の体積は、モータMを含む立軸渦巻ポンプ6を装備した状態でフロート7の上面を水面F上に位置させる浮力を有するように設定されている。実施例1における前記フロート7の仕様とは、フロート7の形状が、下方凹入部7bと開口部7cと有する円環状であること、及び、フロート7の体積が、モータMを含む立軸渦巻ポンプ6を装備した状態でフロート7の上面を水面F上に位置させるに足りる浮力を有する値に設定されることである。
【0025】
フロート7の下方凹入部7bの上端開口の径はポンプケーシング4および吐出口部3が挿入可能に設定され、フロート7の下方凹入部7bから下方に貫通形成された開口部7cの径は吸込み口部5が挿入可能に設定されている。吸込み口部5の吸込み口8は開口部7cから下方に突出した状態に位置している。開口部7cの外周部7dには、ポンプケーシング4から下方に延出形成されたケーシング支持脚部4cがボルト締結によって着脱自在に取付けられている。なおフロート7は内部室23を有し、その内部室23には空気あるいは発泡体が充填されている。上記構成において駆動機の一実施例であるモータは水没しない大気中に配置されているので、水没対策を行う必要がない。また、こうすることで、エンジンやタービンといった機関を駆動機として用いることもできる。
【0026】
フロート7の底面には、吸込み口8を下方から覆うストレーナ24が装備されており、ストレーナ24は、モータM及びフロート7を含む立軸渦巻ポンプ6を起立姿勢で接地させるための支持脚にもなる。ストレーナ24は、多数の濾過用孔を有してフロート7の底面の外周縁7eから下方に延びる状態に形成されるとともに底面が接地面Gに接地自在な筒状部24aと、この筒状部24aの開口を覆うように筒状部内に装備され、かつ、並列に配置された多数の棒状部材24bと棒状部材24bに交差して配置された多数の棒状部材24cとから構成されたクロス状のバースクリーン(濾過用板状体の一例)とを有して構成されている。筒状部24aはモータM及びフロート7を含む立軸渦巻ポンプ6を起立姿勢で支持できる強度を有しており、支持脚として機能するとともにストレーナ24の側方からも水を吸込めるようになっている。なお図1は排水ポンプAの使用状態を示しており、仮想線のGは水位が下がって筒状部24aの底面が接地した状態を示している。またフロート7の下面が、ストレーナ24の筒状部24aから吸い込まれた水を羽根車へ誘導する案内面となるため、フロート周囲の吸込速度を低減し、空気吸込渦の発生を抑制できるので、より低水位での排水が可能になる。また、この案内面としての機能を向上させるために、吸込み口8の下面(吸込み口部5の下面)とフロート7の下面とを面一としても良い。
【0027】
上記筒状部24aはフロート7の一部から構成されているが、モータM及びフロート7を含む立軸渦巻ポンプ6を支持できる強度を有していれば、例えばバースクリーンやパンチングメタルを用いてもよい。また濾過用板状体の一例としてはクロス状のバースクリーンを用いているが、これに限定されず、パンチングメタルを用いてもよい。
【0028】
実施例1におけるフロート7の形状は円環状であったが、フロートの形状は円環状に限定されることなく、例えば正六角形状であってもよい。またフロート7の一部であるストレーナ24の筒状部24aは支持脚として機能しているが、専用の支持脚を別途作成し、フロート7に取付けてもよい。
【0029】
また駆動機の設置位置はポンプ上部に限定されるものではなく、下方凹入部にポンプと並設する構造であってもよい。こうすることで排水ポンプ装置の重心位置を低くし、浮遊状態でのバランスをより良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態である排水ポンプ装置の一例を示す縦断面図である。
【図2】従来の排水ポンプ装置を示した図である。
【符号の説明】
【0031】
M モータ
1 主軸
2 羽根車
3 吐出口部
4 ポンプケーシング
5 吸込み口部
6 立軸渦巻ポンプ
7 フロート
7b 下方凹入部
7c 開口部
24 ストレーナ
24a 筒状部
24b,24c 濾過用板状体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
立軸渦巻ポンプと、前記立軸渦巻ポンプを駆動する駆動機と、前記立軸渦巻ポンプの下端側に装備されるフロートとを有し、
前記立軸渦巻ポンプが前記フロートが下となる起立姿勢で水面に浮遊するように構成されるとともに、少なくとも前記駆動機は、水没しない大気中に配置され、前記立軸渦巻ポンプが水面に浮遊した使用状態においては、前記吸込み口部の吸込み口が水面下に位置している排水ポンプ装置。
【請求項2】
前記フロートは、前記ポンプを落し込み配置する下方凹入部と、前記吸込み口部を挿入するための前記下方凹入部から下方に貫通形成される開口部とを有する環状のものに構成されている請求項1に記載の排水ポンプ装置。
【請求項3】
前記吸込み口を下方から覆うストレーナが装備されており、前記ストレーナは、前記立軸渦巻ポンプを起立姿勢で接地させるための支持脚となる請求項1又は2に記載の排水ポンプ装置。
【請求項4】
前記ストレーナは、多数の濾過用孔を有して前記フロートの底面から下方に延びる状態に形成されるとともに底面が接地自在な筒状部と、この筒状部の開口を覆うように前記筒状部内に装備される濾過用板状体とを有して構成されている請求項3に記載の排水ポンプ装置。
【請求項5】
前記フロート下面は、ストレーナの筒状部から吸い込まれた水を羽根車へ誘導する案内面である請求項4に記載の排水ポンプ装置。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−262999(P2007−262999A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89757(P2006−89757)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】