説明

排水処理システム

【課題】 汚泥減容効果の高い排水処理システムを提供する。
【解決手段】 曝気槽3に汚泥減容剤13を添加し、また活性汚泥沈殿槽4、凝集沈殿池8または濃縮槽11の少なくとも1つにバイオ製剤14を沈ませ、更に濃縮槽11に有機物を水と炭酸ガスに分解する酵素15を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、余剰汚泥の減容化に優れた排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場、トイレ或いは厨房などからの排水を微生物を利用して分解し、最終的に残る汚泥の量を減少させることが従来から行われている。尚、微生物には酸素の存在下で繁殖する好気性微生物と、酸素の存在を嫌う嫌気性微生物に分けられ、どちらか一方を利用した処理またはこれらを連続して行う提案が多数なされている。
【0003】
特許文献1には、余剰汚泥を好気処理の後に嫌気処理を行って減容化するにあたって、好気性処理の前にpHを9〜13(アルカリ処理)とし、更に好気・嫌気の処理温度を40〜80℃の間に保つことで、汚泥の減容化を促進することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、原水中のアンモニア性窒素(NH4−N)を、硝化菌によって硝酸性窒素(NOx−N)に変換し、この硝酸性窒素(NOx−N)を嫌気性微生物にて脱窒し窒素ガス(N2)として排出する内容が開示されている。
【0005】
特許文献3には、汚泥を微生物で効率よく分解できるように、微生物で処理する前に汚泥を加圧しその後減圧する処理を施し、汚泥を可溶化させておくことが開示されている。
【0006】
特許文献4には、余剰汚泥に可溶化剤を添加し、超音波を作用させ、更に減圧膨張処理を施した後に微生物処理を行うことが開示され、特に可溶化剤として、NaOH、KOH、Mg(OH)2、Ca(OH)2などのアルカリ、及び微生物の細胞を破壊する作用を発揮する過酸化水素、次亜塩素酸ソーダ、オゾンなどの溶菌剤が挙げられている。
【0007】
特許文献5には、余剰汚泥を減容させる手段として、汚泥濃縮槽に微生物培養槽を付設し、更にこの微生物培養槽に腐食物質と微生物との混合物を添加した微生物混合装置を付設した構成が開示されている。
【0008】
特許文献6には、一連の微生物処理工程の、脱窒槽の上流側にメタン発光槽を下流側に硝化槽を、更に硝化槽の下流側に脱酸素槽を配置し、メタン発光槽で生じたバイオガスを脱酸素槽に供給し、このバイオガスと溶存酸素とを反応させて両者を無害化することが開示されている。
【0009】
特許文献7には、廃水を、好気性接触消化部の底面に送入し、上向流として流動させて、曝気と好気性微生物処理を行い、この処理廃水を上向流のまま沈殿分離部に導入し、ここで分離した汚泥を再度好気性接触消化部に沈殿誘導する構成の装置が開示されている。
【0010】
特許文献8には、汚泥減容化処理工程の後に、減容化された汚泥中に含まれる有機性成分をメタンガスの形態で取り出す回収工程を設け、回収したメタンガスを汚泥減容化処理工程において再利用することが開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開2000−185299号公報
【特許文献2】特開昭63−72398号公報
【特許文献3】特開2003−305499号公報
【特許文献4】特開2005−230582号公報
【特許文献5】特開2003−225694号公報
【特許文献6】特開2003−24980号公報
【特許文献7】特開平1−168395号公報
【特許文献8】特開2002−35779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の排水処理では、最終的に残る汚泥はセメントの原料などとして再利用を図っているが、それでも過剰に汚泥が残ると処分しきれないことになる。したがって、余剰汚泥はできるだけ少ないことが望まれているが、上記した従来技術では十分とは言えない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決すべく本発明に係る排水処理システムは、曝気槽、活性汚泥沈殿槽、硝化槽、脱窒槽、沈殿槽および濃縮槽を備えた排水処理システムにおいて、以下の(1)〜(3)のうちの少なくとも2つを実施するようにした。
(1)曝気槽の排水に汚泥減溶剤を添加する。
(2)活性汚泥沈殿槽、沈殿槽および濃縮槽の少なくとも1つでバイオ製剤を用いる。
(3)濃縮槽に有機物を水と炭酸ガスに分解する反応を促進する酵素を添加する。
【0014】
酵素には最適な温度範囲が存在し、前記濃縮槽では水温を25℃〜35℃に維持して、酵素の活性化を図るようにする。
【0015】
前記汚泥減溶剤としては、NaOH、KOH、Mg(OH)2、Ca(OH)2などのアルカリまたは/及び過酸化水素、次亜塩素酸ソーダ、オゾンなどの溶菌剤が好適であり、例えば栗田工業(株)製のクリデュースS100(商品名)が挙げられる。
また前記バイオ製剤としては、麦飯石などの多孔質体に水中或いは土から採取した微生物を繁殖させたものが好ましく、例えば菊水プロテック(有)製のエンヴァイロザイン(商品名)が挙げられる。
また前記酵素としては、有機物を水と炭酸ガスに分解する反応を促進するものを選定する。例えば、アクアサービス(株)製のアクアリフト700P(商品名)が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、汚泥減容剤、酵素およびバイオ製剤のうち、少なくとも2つを用いて排水を処理することで、汚泥減容剤、酵素およびバイオ製剤を単独で用いた場合よりも、それぞれの添加物を用いた場合の相乗効果によって汚泥を減容することができる。
【0017】
具体的には以下の(表)に示すように、BOD、SS、油分、T−P(燐)が大幅に減少し、汚泥発生量も年間160トンであったものが48トンまで減少した。なお表中、「原水」は汚泥減容剤、酵素およびバイオ製剤のいずれも用いない処理、「活性汚泥処理水」は汚泥減容剤を用いた処理水、「処理水」はバイオ製剤を用いた処理水を表す。
【0018】
【表1】

【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る排水処理システムの全体図であり、排水処理システムは最上流部を排水の前処理槽1とし、この前処理槽1から下流側に順次、原水調製槽2、曝気槽3、活性汚泥沈殿槽4、硝化槽5、脱窒槽6、窒素除去沈殿池7、凝集沈殿池8、滅菌槽9、ろ過器10が設けられ、更に前記窒素除去沈殿池7および凝集沈殿池8からの沈殿物が送られる濃縮槽11、この濃縮槽11からの沈殿物を脱水する脱水機12を備えている。
【0020】
前記曝気槽3ではエアレーションによって、BOD、COD、SS及び油分の除去が行われ、硝化槽5においては硝化菌によってアンモニア性窒素(NH4−N)を硝酸性窒素(NOx−N)に変換し、脱窒槽6においては嫌気性微生物にて前記硝酸性窒素(NOx−N)を脱窒し窒素ガス(N2)として排出する。
【0021】
本発明にあっては、前記曝気槽3に汚泥減容剤13を添加する。汚泥減容剤としては例えば、NaOH、KOH、Mg(OH)2、Ca(OH)2などのアルカリまたは/及び過酸化水素、次亜塩素酸ソーダ、オゾンなどの溶菌剤を用いる。
【0022】
また本発明にあっては、前記活性汚泥沈殿槽4、凝集沈殿池8または濃縮槽11の少なくとも1つにバイオ製剤14を沈ませている。このバイオ製剤14は例えば麦飯石などの多孔質体に水中或いは土から採取した微生物を繁殖させたものが好ましい。このバイオ製剤14が汚泥と接触することで、多孔質体表面に繁殖している微生物が汚泥を栄養源として消費し、汚泥の減容化が図れる。
【0023】
また本発明にあっては、前記濃縮槽11に酵素15を添加する。この酵素15としては濃縮槽11中の有機物(炭化水素)を水と炭酸ガスに分解する反応を促進する機能を持つ酵素を選択する。
【0024】
図2は汚泥減容剤のみを用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフ、図3は酵素のみを用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフ、図4はバイオ製剤のみを用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフである。一方、図5は汚泥減容剤と酵素を用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフ、図6は汚泥減容剤とバイオ製剤を用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフ、図7はバイオ製剤と酵素を用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフである。
【0025】
図2から、減容剤のみを用いた場合には汚泥除去率は6%付近であることが分かる。また図3は、酵素のみを用いた場合の汚泥除去率を示し、水温(濃縮槽内の水温)が20℃では酵素の活性が十分ではなく、水温は25℃〜35℃の範囲が好ましいことが分かる。また図4からはバイオ製剤のみを用いた場合には汚泥除去率は20%程度が限度であることが分かる。
【0026】
また、図5,6及び7の結果から、汚泥減容剤、バイオ製剤及び酵素を単独で用いるよりは2種類以上を用いた場合の方が減容効果が高いと言える。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る排水処理システムの全体図
【図2】汚泥減容剤のみを用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフ
【図3】酵素のみを用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフ
【図4】バイオ製剤のみを用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフ
【図5】汚泥減容剤と酵素を用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフ
【図6】汚泥減容剤とバイオ製剤を用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフ
【図7】バイオ製剤と酵素を用いた場合の汚泥除去率の経時変化を示すグラフ
【符号の説明】
【0028】
1…前処理槽、2…原水調製槽、3…曝気槽、4…活性汚泥沈殿槽、5…硝化槽、6…脱窒槽、7…窒素除去沈殿池、8…凝集沈殿池、9…滅菌槽、10…ろ過器、11…濃縮槽、12…脱水機、13…汚泥減容剤、14…バイオ製剤、15…酵素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曝気槽、活性汚泥沈殿槽、硝化槽、脱窒槽、沈殿槽および濃縮槽を備えた排水処理システムにおいて、前記曝気槽の排水に汚泥減溶剤を添加するとともに前記活性汚泥沈殿槽、沈殿槽および濃縮槽の少なくとも1つでバイオ製剤を用いることを特徴とする排水処理システム。
【請求項2】
曝気槽、活性汚泥沈殿槽、硝化槽、脱窒槽、沈殿槽および濃縮槽を備えた排水処理システムにおいて、前記曝気槽の排水に汚泥減溶剤を添加するとともに前記濃縮槽に有機物を水と炭酸ガスに分解する反応を促進する酵素を添加することを特徴とする排水処理システム。
【請求項3】
曝気槽、活性汚泥沈殿槽、硝化槽、脱窒槽、沈殿槽および濃縮槽を備えた排水処理システムにおいて、前記活性汚泥沈殿槽、沈殿槽および濃縮槽の少なくとも1つでバイオ製剤を用いるとともに前記濃縮槽に有機物を水と炭酸ガスに分解する反応を促進する酵素を添加することを特徴とする排水処理システム。
【請求項4】
曝気槽、活性汚泥沈殿槽、硝化槽、脱窒槽、沈殿槽および濃縮槽を備えた排水処理システムにおいて、前記曝気槽の排水に汚泥減溶剤を添加し、前記活性汚泥沈殿槽、沈殿槽および濃縮槽の少なくとも1つでバイオ製剤を用い、更に前記濃縮槽に有機物を水と炭酸ガスに分解する反応を促進する酵素を添加することを特徴とする排水処理システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の排水処理システムにおいて、前記濃縮槽における水温を25℃〜35℃の間に維持することを特徴とする排水処理システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の排水処理システムにおいて、前記汚泥減溶剤は、NaOH、KOH、Mg(OH)2、Ca(OH)2などのアルカリまたは/及び過酸化水素、次亜塩素酸ソーダ、オゾンなどの溶菌剤であり、前記バイオ製剤は麦飯石などの多孔質体に水中或いは土から採取した微生物を繁殖させたものであり、前記酵素は有機物を水と炭酸ガスに分解する反応を促進するものであることを特徴とする排水処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−12476(P2008−12476A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188107(P2006−188107)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】