説明

排水加熱分解システム

【課題】 有機物含有排水を過硫酸イオンで加熱分解する際に、薬剤の添加を必要とすることなく、過硫酸イオンを再生して繰り返し処理を行うことを可能にする。又、過硫酸イオン濃度を適切に調節して装置の損傷などを防止する。
【解決手段】 排水に含まれる硫酸イオンを濃縮する濃縮手段5と、濃縮した硫酸イオンから過硫酸イオンを生成する電解反応装置110と、過硫酸イオンを有機物の加熱分解を行う排水に添加する手段7を備える。排水中の過硫酸イオン濃度を検出する過硫酸濃度センサ23と、センサ23で検出された過硫酸イオン濃度に従って定められる注入量に基づいて排水に還元剤を注入する還元剤制御注入装置24を備える。硫酸イオンを繰り返し使用して電解反応装置においてオンサイトで製造することができる。適量の還元剤によって過硫酸イオン濃度を的確に制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料洗浄水などの排水中に含まれる有機物を過硫酸で加熱分解する排水加熱分解システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハなどの電子材料の洗浄水中には、例えばイソプロピルアルコールなどTOCとして10ppmから100ppm程度の有機物を含んでいる。従来、この洗浄水中の有機物は、過硫酸水溶液を添加したうえに130℃までの加熱を行って、分解処理している。この過硫酸水溶液は、高濃度の硫酸に過酸化水素やオゾンを加えると硫酸が酸化されて過硫酸が生成されることにより得られる。過硫酸は自己分解する際に強い酸化力を発するため洗浄能力が高く、上記加熱分解に役立つことが知られている。
ところで、有機物を加熱分解する際に、有機物酸化に必要な過硫酸イオンを予測して添加することが困難で、過剰の過硫酸イオンを添加してしまう場合がある。過剰の過硫酸イオンは加熱分解装置周囲の配管などの金属部材の腐食などを引き起こすという問題がある。
しかし導電性ダイヤモンドは、電位窓が広く金属イオンや様々な有機物を検出するセンサとして利用され、電極上に白金やイリジウムなどを担持させて、グルコースや過酸化水素などを検出する方法も知られており(特許文献1)、過硫酸イオン濃度を検出するセンサとしての使用が期待されている。
【特許文献1】特開2003−121410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、過酸化水素を添加する方法では、過酸化水素水により発生する過硫酸が自己分解し酸化力が低下すると分解する分を補うため過酸化水素水の補給を毎回繰り返すことが必要になり、多くの工程を要するという問題がある。しかも、過酸化水素水中の水で過硫酸溶液が希釈されるため、液組成を一定に維持することが難しいという問題がある。一方、オゾンを加える方法では液が希釈されることがなく、液更新サイクルを長くできるものの、洗浄効果が劣るという問題がある。また、オゾン添加量に対する過硫酸の発生効率が非常に低いという問題もある。
【0004】
また、前記したセンサでは、電極上での酸化電位を利用して水中での濃度を測定しており、過硫酸イオンについてはこのような方法では検出できない。また、白金、イリジウムおよびロジウムなどの白金族を担持させると、水素吸着ピークが小さいながら検出され過硫酸イオン検出には適当でない。
【0005】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、硫酸を繰り返し使用しつつ硫酸の水溶液から電気化学的作用により過硫酸イオンを生成することで過硫酸イオンをリサイクルして排水の有機物を効率よく加熱分解する排水加熱分解システムを提供することを目的とする。また、過硫酸イオンの再生に際し、過硫酸イオン濃度を的確に測定して過剰の過硫酸イオンによる機器の損傷を回避できる排水加熱分解システムを提供することをさらに他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明の排水加熱分解システムのうち、請求項1記載の発明は、排水に含まれる有機物を過硫酸で加熱分解するシステムであって、前記排水に含まれる硫酸イオンを濃縮する濃縮手段と、濃縮した該硫酸イオンから過硫酸イオンを生成する電解反応装置と、該過硫酸イオンを有機物の加熱分解を行う排水に添加する手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の排水加熱分解システムの発明は、請求項1記載の発明において、前記濃縮手段が濃縮膜を用いたものであることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の排水加熱分解システムの発明は、請求項2記載の発明において、前記濃縮膜がRO膜またはイオン交換膜であることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の排水加熱分解システムの発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記濃縮手段がイオン交換樹脂を用いたものであることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の排水加熱分解システムの発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、排水の前記加熱分解に先立って該排水を予熱する予熱手段を有し、該予熱手段は、加熱分解処理後に濃縮手段に移送される高温の排水と熱交換するものであることを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の排水加熱分解システムの発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記電解反応装置は、該装置に備える陽極と陰極との間が隔膜で隔てられていることを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の排水加熱分解システムの発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、電解反応装置に備える電極のうち、少なくとも陽極が導電性ダイヤモンド電極であることを特徴とする。
【0013】
請求項8記載の排水加熱分解システムの発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の発明において、電解反応装置に備える導電性ダイヤモンド電極が、基板上に積層させた後に基板を取り去った自立型導電性ダイヤモンド電極であることを特徴とする。
【0014】
請求項9記載の排水加熱分解システムの発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の発明において、電解反応装置に備える導電性ダイヤモンド電極が、絶縁性材料を基板にして導電性ダイヤモンドを積層させたものであることを特徴とする。
【0015】
請求項10記載の排水加熱分解システムの発明は、請求項1〜9のいずれかに記載の発明において、前記排水中に残留した過硫酸イオン濃度を検出する過硫酸濃度センサを備えることを特徴とする。
【0016】
請求項11記載の排水加熱分解システムの発明は、請求項1〜10に記載の発明において、前記センサで検出された過硫酸イオン濃度に従って定められる注入量に基づいて前記排水に還元剤を注入する還元剤制御注入装置を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項12記載の排水加熱分解システムの発明は、請求項11記載の発明において、前記過硫酸濃度センサは、導電性ダイヤモンド電極に銀を担持した電極と対電極とを用いて、前記ダイヤモンド電極上での過硫酸イオンの還元反応を検出することにより行うことを特徴とする。
【0018】
すなわち、本発明によれば、排水に含まれる硫酸イオンが濃縮膜などの濃縮手段によって濃縮された後、電解反応装置によって硫酸イオンから過硫酸イオンが生成される。電解反応装置では、濃縮された硫酸イオンを対象にして電解が行われ、過硫酸イオンが効率よく生成される。再生された過硫酸イオンは、加熱分解を行う排水に添加される。有機物を含む排水では、添加された過硫酸イオンの自己分解による酸化力によって有機物が効果的に加熱分解される。自己分解によって過硫酸イオン濃度が低下した排水では、上記濃縮手段による濃縮、電解反応装置による過硫酸イオンの生成を行うことで繰り返し過硫酸イオンを再生することができる。
また、排水をシステムに順次導入するとともに、上記濃縮手段で濃縮された排水の残余を系外に排出することで、安定した加熱分解性能に基づいて排水を連続して処理することが可能になる。
【0019】
なお、過硫酸は、温度が高い程、自己分解速度が速くなり高い分解作用が得られる。130℃といった高温では半減期が5分程度と自己分解速度が非常に速くなる。排水を加熱分解する際には、適宜の加熱手段により加熱して適温にすることができる。加熱手段としてはヒータや熱水、蒸気などとの熱交換を利用した加熱器などが例示されるが本発明としては特定のものに限定されない。加熱分解における排水の適温としては、例えば100℃〜150℃を示すことができる。該温度範囲を下回ると、過硫酸による剥離洗浄効果が低下する。一方、160℃を超えると、過硫酸の自己分解速度が極めて大きくなり、イソプロピルアルコールなどの有機物などを十分に酸化できないためである。
【0020】
上記濃縮手段としては、RO膜やイオン交換膜などの濃縮膜やイオン交換樹脂などを例示することができる。該濃縮手段は、硫酸イオンの濃縮を行えるものであればよく、本発明としては特定のものに限定されない。なお、濃縮後は、0.1M〜1Mの硫酸イオンを含んでいるのが望ましい。適度な濃度で硫酸イオンを含んだ排水を後段の電解反応装置で電解することで良好な電解効率が得られる。
なお、濃縮手段に移送する排水は、前段の加熱分解処理によって比較的高温になっており、この熱を加熱分解処理に供する排水の予熱に用いることができる。加熱分解処理に供する排水を予熱する手段としては、種々の加熱手段なども考えられるが、上記のように濃縮手段に移送する排水との間で熱交換を行う熱交換器により構成するのが効率的に望ましい。
【0021】
電解反応装置では、陽極と陰極とを対にして電解がなされる。これら電極の材質は、本発明としては特定のものに限定はしない。しかし、電極として一般に広く利用されている白金を本発明の電解反応装置の陽極として使用した場合、過硫酸イオンを効率的に製造することができず、白金が溶出するという問題がある。これに対し、ダイヤモンド電極は、過硫酸イオンの生成を効率よく行えるとともに、電極の損耗が小さい。したがって、電解反応装置の電極のうち、少なくとも、硫酸イオンの生成がなされる陽極をダイヤモンド電極で構成するのが望ましく、陽極、陰極ともにダイヤモンド電極で構成するのが一層望ましい。
【0022】
導電性ダイヤモンド電極は、シリコンウエハ等の半導体材料を基盤とし、このウエハ表面に導電性ダイヤモンド薄膜を合成させた後に、ウエハを溶解させたものや、基盤を用いない条件で板状に析出合成したセルフスタンド型導電性多結晶ダイヤモンドを挙げることができる。また、Nb、W、Tiなどの金属基板上に積層したものも利用できるが、電流密度を大きくした場合には、ダイヤモンド膜が基板から剥離するという問題が生じやすい。
【0023】
導電性ダイヤモンド電極によって、硫酸イオンから過硫酸イオンを製造することは、電流密度を0.2A/cm程度にした場合については報告されている(Ch.Comninellis et al.,Electrochemical and Solid−State Letters,Vol.3(2)77−79(2000),特表2003−511555号)。しかし、金属基板にダイヤモンド薄膜を担持した電極ではダイヤモンド膜の剥離が生じて、作用効果が短期間で消失するという問題がある。よって、基板上に析出させた後に基板を取り去った自立型導電性ダイヤモンド電極が望ましい。
【0024】
なお、導電性ダイヤモンド薄膜は、ダイヤモンド薄膜の合成の際にボロンまたは窒素の所定量をドープして導電性を付与したものであり、通常はボロンドープしたものが一般的である。これらのドープ量は、少なすぎると技術的意義が発生せず、多すぎてもドープ効果が飽和するため、ダイヤモンド薄膜の炭素量に対して、50〜20,000ppmの範囲のものが適している。
本発明において、導電性ダイヤモンド電極は、通常は板状のものを使用するが、網目構造物を板状にしたものも使用できる。すなわち、本発明としては、電極の形状や数は特に限定されるものではない。
【0025】
この導電性ダイヤモンド電極を用いて行う電解処理は、導電性ダイヤモンド電極表面の電流密度を10〜100,000A/mとし、硫酸イオンを含む溶液をダイヤモンド電極面と平行方向に、通液線速度を1〜10,000m/hrで接触処理させることが望ましい。
【0026】
また、電解反応装置における液温は、10〜95℃が望ましい。上記温度範囲を超えると、電解効率が低下し、電極の損耗も大きくなる。一方、上記温度範囲を下回ると、加熱分解が行われる排水に過硫酸イオンを添加する際に、該排水を加熱するための熱エネルギが大になる。なお、同様の理由により、下限を40℃、上限を80℃とするのが一層望ましい。電解反応装置で電解される溶液は、適宜の冷却手段で冷却して適温にすることができる。冷却手段としては空冷、水冷などの冷却器を例示することができる。また、電解反応装置に導入される排水と、電解反応装置から送出される排水との間で熱交換手段を用いて熱交換を行うことも可能である。該熱交換によって電解反応装置に導入される排水は冷却され、電解反応装置から送出される排水は加熱される。なお、電解反応装置に導入される排水の熱交換は、濃縮手段の上流または下流のいずれで行うものであってもよい。
【0027】
電解反応装置では、該装置に備える陽極と陰極との間を隔膜で隔てて、排水を通液させることができる。隔膜の材料としては、イオンの通過が可能であって、電解反応装置における電解を阻害しないものであればよく、本発明としては特定のものに限定されない。該隔膜によって電解により生成される過硫酸イオンが陰極側で還元されるのを抑止して効率的に過硫酸イオンを生成することができる。また、該隔膜をイオン交換膜で構成することもできる。好適には陽イオンを通過させ、陰イオンの通過を阻止する陽イオン(カチオン)交換膜が好ましい。この隔膜の材質としてはフッ素系樹脂がのぞましい。
【0028】
電解反応装置で生成された過硫酸イオンは、有機物の加熱分解を行う排水に添加される。該添加を行う手段は、上記添加を行うことができるものであればよく、特定の構成に限定されないが、過硫酸イオンを連続して上記排水に添加できるものが望ましく、例えば電解反応装置と加熱分解を行う加熱分解槽などとを連結した送液管などによって構成することができる。
【0029】
また、この発明のシステムでは、排水に残留した過硫酸イオン濃度を検出する過硫酸濃度センサを設けるのが望ましい。過硫酸イオン濃度が高い排水を濃縮手段および電解反応装置に供給すると、送液経路の配管などの金属部材の腐食を招く。しかし、上記センサによって過硫酸イオン濃度を検知することで、過硫酸イオン濃度が高い排水の送液を止めたり(加熱分解を継続するなど)、排水に還元剤を注入したりして上記不具合の発生を未然に防止することができる。
還元剤の投入においては、検出された過硫酸イオン濃度に従って注入する還元剤の量を定めるのが効率的である。還元剤の注入量制御は、還元剤制御注入装置により行うことができる。該装置では、予め過硫酸濃度に対応する還元剤の注入量データを保持しておき、検出された濃度に従って、上記データから還元剤注入量を設定し、該設定量に基づいて排水に還元剤を注入することができる。なお、還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウムなどを例示することができる。
【0030】
なお、過硫酸濃度センサとしては、好適には、ダイヤモンド電極に白金以外の金属、例えば銀を担持させた電極と対電極との間に電圧を印加して、ダイヤモンド電極で過硫酸イオンの還元反応を生じさせ、その際の電流値から過硫酸イオン濃度を決定するものを例示することができる。また、上記電極以外に参照電極を付加したものでもよい。対電極の材料として、白金、金、ロジウムなどの貴金属などを用いることができる。また、参照電極を用いる場合には、該参照電極の材料として、Ag/AgCl参照電極などを用いることができる。
ダイヤモンド電極に担持する金属は、担持量としては表面被覆率で0.5以下であることが望ましい。0.5を超えると過硫酸イオンの濃度検出が難しくなる。電極上での還元反応を検出するためには、電位を走査する必要があり、電位電流曲線上に現れるピークの高さを測定する。0.1M硫酸ナトリウム処理水中に6mg/lの過硫酸イオンを含んだ場合の電位電流曲線を図7に示す。矢印で示すように、0.1M硫酸ナトリウム処理水のみのものに比べて明瞭な還元ピークが観測される。このピークの高さは、図8に示すように処理水中に含まれる過硫酸イオン濃度と良い相関関係がある。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明の排水加熱分解システムによれば、排水に含まれる有機物を過硫酸で加熱分解するシステムであって、前記排水に含まれる硫酸イオンを濃縮する濃縮手段と、濃縮した該硫酸イオンから過硫酸イオンを生成する電解反応装置と、該過硫酸イオンを有機物の加熱分解を行う排水に添加する手段とを備えるので、有機物の加熱分解によって過硫酸イオンから生成される硫酸イオンを濃縮して電解反応装置で効率よく過硫酸イオンに再生して、再度、有機物の加熱分解に供することができる。したがって、必要な過硫酸イオンを薬品添加ではなく、硫酸イオンを繰り返し使用して電解反応装置においてオンサイトで製造することができ、作業効率の向上、材料費の低減の効果がある。
【0032】
また、他の発明では、上記構成に加えて排水中に残留した過硫酸イオン濃度を検出する過硫酸濃度センサを備えるので、過度に濃度が高い過硫酸イオンを含む排水を送液するなどして配管などの腐食、損傷を招くのを未然に防止することができる。特に、前記センサで検出された過硫酸イオン濃度に従って定められる注入量に基づいて前記排水に還元剤を注入する還元剤制御注入装置を備えるものとすれば、適量の還元剤によって過硫酸イオン濃度を的確に制御することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明の一実施形態を図1に基づいて説明する。
排水加熱分解システムは、有機物を含む排水を貯留する貯水槽1を有しており、該貯水槽1内に、排水を撹拌する撹拌装置1aが設けられている。該貯水槽1の下流側に予熱槽2が連結されており、該予熱槽2には、内部の排水を撹拌する撹拌装置2aと、予熱用ヒータ2bとを備えている。また、予熱槽2の下流側には加熱分解槽3が連結されている。該加熱分解槽3には、内部の排水を撹拌する撹拌装置3aと、加熱用ヒータ3bとを備えている。
【0034】
加熱分解槽3には、ポンプ4aを介設した送液管4の一端が連結されており、該送液管4の他端には、濃縮手段としてRO濃縮膜5が接続されている。該RO濃縮膜5の逆浸透側は、透過した排水が回収水として回収され、濃縮側は、濃縮液送液管6を通して電解反応装置10に連結されている。
【0035】
電解反応装置10は、図2に示すように、電解反応槽11を備えており、該反応槽11内では陽極12および陰極13が配置されている。なお、本発明としては電源に直接接続される陽極、陰極以外にバイポーラ電極を備えるものであってもよい。上記陽極12および陰極13には、直流電源15が接続されており、これにより電解反応槽11での直流電解が可能になっている。
電解反応槽11では、上記した濃縮液送液管6を入水側とし、過硫酸送液管7を出水側としてそれぞれの送液管が連結されている。過硫酸送液管7は過硫酸イオン添加手段として前記加熱分解槽3に連結されている。
【0036】
この実施形態では、上記電極12、13はダイヤモンド電極によって構成されている。該ダイヤモンド電極は、基板状にダイヤモンド薄膜を形成するとともに、該ダイヤモンド薄膜の炭素量に対して、好適には50〜20,000ppmの範囲でボロンをドープすることにより製造したものである。また、薄膜形成後に基板を取り去って自立型としたものであってもよい。
【0037】
次に、上記構成よりなる硫酸リサイクル型洗浄システムの作用について説明する。
半導体ウエハなどの電子材料の洗浄に用いられた排水は、洗浄物から剥離されたレジストなどの有機物および硫酸イオンを含んでおり、原水として上記貯水槽1に導入される。硫酸イオンは、上記洗浄に際し利用された過硫酸イオンが自己分解したものを含んでいる。なお、貯水槽1では、撹拌装置1aで排水を撹拌しつつ、順次、予熱槽2に移送する。予熱槽2では、撹拌装置2aで排水を撹拌しつつ予熱ヒータ2bで予熱する。予熱温度は特に限定されるものではなく、加熱分解槽3での加熱負担を軽減できるものであればよい。予熱槽2で予熱された排水は、引き続き加熱分解槽3へと移送される。
【0038】
加熱分解槽3では、撹拌装置3aで排水が撹拌されるとともに、加熱ヒータ3bによって加熱分解に適した温度(例えば130℃)に加熱される。なお、加熱分解槽3では、前記した電解反応装置10から過硫酸送液管7を通して過硫酸イオンが添加されており、該過硫酸イオンの自己分解作用によって排水中の有機物が効果的に酸化分解される。
加熱分解槽3では、過硫酸イオンの自己分解によって過硫酸イオン濃度が次第に低下する。分解槽3内の排水は、送液ポンプ4aによって送液管4を通してRO濃縮膜5に送液される。RO濃縮膜5では、膜を浸透する大部分の水は、回収水として系外に排出される。また、RO濃縮膜5で濃縮された排水は、小流量となり、濃縮された硫酸イオンが含まれている。濃縮液は、濃縮液送液管6を通して電解反応槽11に送液される。
電解反応槽11では、陽極12および陰極13に直流電源15によって通電するとともにRO濃縮膜5から送液された排水がこれら電極間に通水される。この際に通液線速度が1〜10,000m/hrとなるように設定するのが望ましい。なお、上記通電では、ダイヤモンド電極表面での電流密度が10〜100,000A/mとなるように通電制御するのが望ましい。
【0039】
電解反応槽11で濃縮液に対し通電されると、濃縮液中の硫酸イオンが酸化反応して過硫酸イオン(S2−)が生成される。この過硫酸イオンは、過硫酸送液管7を通して加熱分解槽3へと送液され、加熱分解槽3における有機物の酸化分解に寄与する。したがって、加熱分解槽3では、再生された過硫酸イオンが繰り返し添加されて、安定した過硫酸濃度を有している。
上記処理を繰り返すことで排水の連続分解処理が可能になる。
【0040】
なお、電解反応槽11において、濃縮液の液温が適温となるように、電解反応装置10に濃縮液を導入する前に冷却処理を行うこともできる。
図3は、RO濃縮膜5から電解反応装置10に送液する濃縮液送液管6と、電解反応装置10から加熱分解槽3に送液する過硫酸送液管7との間で、熱交換器8を通して熱交換を行う装置を示すものである。なお、図3におけるその他の構成は上記と同様である。
濃縮液送液管6を流れる比較的高温の排水は、過硫酸送液管を流れる比較的低温の排水と熱交換することで冷却され、過硫酸送液管を流れる比較的低温の排水は、逆に加熱されてそれぞれ電解反応、加熱分解における作用を高めることができる。
【0041】
(実施形態2)
次に、他の実施形態を図4に基づいて説明する。なお、上記実施形態と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略または簡略化する。
有機物を含有する排水は、予熱槽20に導入されるように構成されており、該予熱槽20には下流側に加熱槽21が接続され、加熱槽21には下流側に加熱分解装置22が接続されている。上記加熱槽21には、加熱ヒータなどの適宜の加熱手段(図示しない)を備えている。
【0042】
加熱分解槽22では、槽内の過硫酸イオン濃度を検出する過硫酸濃度センサ23が設置されており、該過硫酸濃度センサ23の出力は、後述する還元剤制御注入装置24に加えられている。還元剤制御注入装置24は、過硫酸濃度センサ23の検出結果を受けて適量の還元剤を加熱分解槽22中の排水に注入するように構成されている。これら過硫酸濃度センサ23および還元剤制御注入装置24の詳細は後述する。
加熱分解槽22には、送液管30が接続されており、該送液管30は、送液ポンプ30aおよび予熱槽20との間で熱交換を行う熱交換部(図示しない)を介してRO濃縮膜5に接続されている。RO濃縮膜5では、前記実施形態と同様に、逆浸透側は、透過した排水が回収水として回収され、濃縮側は、濃縮液送液管6を通して電解反応装置100に連結されている。電解反応装置10の送水側は、過硫酸添加手段である過硫酸送液管7を通して加熱分解槽22に接続されている。
【0043】
電解反応装置100は、図5に示すように、電解反応槽110を有しており、該電解反応槽110では、陽極120と陰極130とを備え、該陽極120および陰極130に直流電源150が接続されている。また、上記陽極120と陰極130との間には、隔膜140が配置されて陽極および陰極同士が隔離されるように構成されている。なお、隔膜140はカチオンイオンの通過がカチオンイオン交換膜が好適である。電解反応槽110に導入される排水は、上記陽極120と隔膜140の間および隔膜140と陰極130との間を通液する。
【0044】
次に、上記過硫酸濃度センサ23は、ダイヤモンド電極230と対極232とを有し、前記ダイヤモンド電極230には、表面被覆率0.2で銀231が表面に担持されている。
なお、上記両電極には、両電極間に電圧を印加して電流値を測定するポテンショスタット233が接続されている。なお、ダイヤモンド電極230は、電解反応装置10に備えるダイヤモンド電極と同様に製造することができる。ポテンショスタット233には、上記測定電流値に基づいて、検出結果を出力する出力部234が接続されて過硫酸濃度センサ23が構成されている。
上記出力部234の出力は、還元剤制御注入装置24に備える注入制御部240に加えられている。注入制御部240には、予め過硫酸濃度センサ23における検出データと関連付けた還元剤投入量データが格納されたデータ部241が接続されている。還元剤投入量データは、過硫酸濃度に対応した適量の注入量として設定されている。
また、制御部240には、還元剤を加熱分解槽22内の排水に注入するための注入器242が制御可能に接続されている。注入器42には、還元剤収容部243から還元剤が供給されるように構成されている。
【0045】
次に、上記排水加熱分解システムにおける作用について説明する。
電子材料の洗浄に用いられて有機物を含有する排水は、原水として上記予熱槽20に導入され、予熱される。該予熱に際しては、加熱分解槽22で加熱分解がなされてRO濃縮膜5に送液される高温の排水と熱交換されて加熱される。一方、RO濃縮膜5に送液される排水は、上記熱交換によって冷却されて、より電解に適した温度(例えば10〜95℃)に調整される。
予熱槽20で予熱された排水は、加熱槽21に移送され、さらにここで加熱分解に好適な温度(例えば130℃)にまで加熱され、加熱分解槽22に送液される。なお、加熱分解槽22では、前記電解反応装置100から過硫酸送液管7を通して過硫酸イオンが注入されており、該過硫酸イオンの自己分解作用によって排水中の有機物が効果的に酸化分解される。
【0046】
加熱分解槽22では、過硫酸濃度センサ23のダイヤモンド電極230と対極231とが排水に浸漬されて排水の過硫酸イオン濃度が検出されている。すなわち、ポテンショスタット233で両電極間に印加する電圧を走査しつつ電流値を測定し、図7に示すようにピーク電流値を検出する。このピーク電流値からは図8に示すように過硫酸イオン濃度が推定される。出力部234では、上記測定結果を還元剤制御注入装置24の制御部240に送出する。なお、出力データは、過硫酸イオン濃度を示すものの他、該濃度に対応する他の数値のものであってもよい。注入制御部240では、測定データに基づいて、該データに関連付けられた還元剤注入量データをデータ部241から参照する。注入制御部240では、該注入量データに従って注入器242を制御する。注入器242は、還元剤収容部243から還元剤の供給を受けて上記注入量データに従って、排水中に還元剤を注入する。なお、注入器の構成は本発明としては特定のものに限定されるものではなく、定量供給が可能なホッパなどによって構成することができる。該還元剤の注入によって排水の過硫酸イオンが還元されて硫酸イオンとなり、排水の酸化作用が抑制されて送液管等の腐食を防止する。なお、この際に、過度の過硫酸イオンを還元する量で還元剤を投入するものでもよく、また、過硫酸イオンの全量を還元する目的で還元剤を投入するものであってもよい。
加熱分解槽22で過硫酸イオン濃度が低下した排水は、上記のように過硫酸イオン濃度が調整された後、送液ポンプ30aによって送液管30を通してRO濃縮膜5に送液される。送液に際しては、上記したように、予熱槽20で熱交換された後に、RO濃縮膜5に送液される。
【0047】
RO濃縮膜5では、膜を浸透する大部分の水は、回収水として系外に排出される。RO濃縮膜5で濃縮された排水は、少量の流量となり、硫酸イオンが濃縮される。濃縮液は、濃縮液送液管6を通しての電解反応槽110に送液される。また、濃縮液の一部は、系外に除外して硫酸濃度を調整することができ、また、他のシステムに用いることもできる。
電解反応槽110では、前記実施形態と同様にして濃縮液の電解がなされて、濃縮液中の硫酸イオンから過硫酸イオン(S2−)が生成される。なお、電解に際しては、生成された過硫酸イオンは、隔膜140を通過して陰極側へ移動するのが阻止されるので、陽極側で生成された過硫酸イオンが陰極側で還元されて硫酸イオンとなるのを防止して効率的な過硫酸イオン生成をおこなうことが可能になる。この過硫酸イオンは、過硫酸送液管7を通して加熱分解槽22へと送液され、加熱分解槽22における有機物の酸化分解に寄与する。
【実施例1】
【0048】
次に、本発明の一実施例を説明する。
図1に示す排水加熱分解システムを用いて、次のような性状の洗浄水を通液した。
なお、電解反応装置は、陽極が20cm×20cmの大きさの導電性ダイヤモンド電極 30枚で構成され、陰極が20cm×20cmの大きさのPt電極30枚で構成されている。
排水性状:TOC:20mg/L、 水 量:10m/hr
電解反応装置電流密度:25A/dm
【0049】
上記排水をシステムに導入し、130℃に加熱して有機物を加熱分解した。排水中における硫酸イオン(SO2−)濃度は、400ppmであった。この排水を10m/hrの流量でRO濃縮膜に送液して濃縮した結果、膜を浸透する水は、回収水として9.9m/hrの流量で系外に排出された。一方、RO濃縮膜5で120倍に濃縮された排水は、0.08m/hrの流量となり、硫酸イオンは濃縮されて48000ppmとなった。この濃縮液を電解反応槽11で電解した結果、40000ppmの過硫酸イオン(S2−)が生成され、0.1m/hrの流量で加熱分解槽に添加された。この加熱分解槽には10m/hrで原水が流れ込み排水中のTOCを処理できた。上記においては、安定して排水の連続分解処理が可能になった。
【実施例2】
【0050】
次に、他の実施例を説明する。この実施例では、図4に示す排水加熱分解システムを用いて、次のような性状の洗浄水を通液した。
なお、電解反応装置は、陽極が20cm×20cmの大きさの導電性ダイヤモンド電極 30枚で構成され、陰極が20cm×20cmの大きさのPt電極30枚で構成されており、陽極と陰極との間にカチオン交換隔膜が配置されている。
排水性状:TOC:20mg/L 水量:10m/hr
電解反応装置電流密度:25A/dm
【0051】
上記排水をシステムに導入し、130℃に加熱して有機物を加熱分解した。排水中における過硫酸イオン濃度は、過硫酸濃度センサによる測定の結果、400ppmであった。この排水に、過硫酸イオンの全量に対応して還元剤として、亜流酸ナトリウムを270mg/l(ppm)の量で添加した。その結果、排水中の過硫酸イオンは、硫酸イオンに還元され、その濃度は650ppmとなった。過硫酸イオン濃度が調整された排水は、10m/hrの流量でRO濃縮膜5に送液され、120倍の濃縮倍率で濃縮されて、9.9m/hrの流量で回収水が系外に排出された。一方、RO濃縮膜5で濃縮された排水は、0.08m/hrの流量となり、硫酸イオンは濃縮されて78000ppmとなった。この濃縮液を電解反応槽110で電解した結果、40g/lの過硫酸イオン(S2−)が生成され、0.1m/hrの流量で加熱分解槽に添加された。この加熱分解槽には10m/hrで原水が流れ込み排水中のTOCを処理できた。上記においても、安定して排水の連続分解処理が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態の排水加熱分解システムを示す図である。
【図2】同じく、電解反応装置を示す図である。
【図3】同じく、熱交換器を備える変更例を示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態の排水加熱分解システムを示す図である。
【図5】同じく、電解反応装置を示す図である。
【図6】同じく、過硫酸濃度センサおよび還元剤制御注入装置の詳細を示す図である。
【図7】銀を担持した導電性ダイヤモンド電極を用いた測定による電位電流曲線を示す図である。
【図8】過硫酸イオン濃度と還元ピークにおける電流値との相関関係を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 貯水槽
2 予熱槽
2a 予熱用ヒータ
3 加熱分解槽
3b 加熱用ヒータ
4 送液管
5 RO濃縮膜
6 濃縮液送液管
7 過硫酸送液管
10 電解反応装置
11 電解反応槽
12 陽極
13 陰極
15 直流電源
20 予熱槽
21 加熱槽
22 加熱分解装置
23 過硫酸濃度センサ
24 還元剤制御注入装置
30 送液管
100 電解反応装置
110 電解反応槽
120 陽極
130 陰極
140 隔膜
150 直流電源
230 ダイヤモンド電極
231 銀
232 対極
233 ポテンショスタット
234 出力部
240 注入制御部
241 データ部
242 注入器
243 還元剤収容部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水に含まれる有機物を過硫酸で加熱分解するシステムであって、前記排水に含まれる硫酸イオンを濃縮する濃縮手段と、濃縮した該硫酸イオンから過硫酸イオンを生成する電解反応装置と、該過硫酸イオンを有機物の加熱分解を行う排水に添加する手段とを備えることを特徴とする排水加熱分解システム。
【請求項2】
前記濃縮手段が濃縮膜を用いたものであることを特徴とする請求項1記載の排水加熱分解システム。
【請求項3】
前記濃縮膜がRO膜またはイオン交換膜であることを特徴とする請求項2記載の排水加熱分解システム。
【請求項4】
前記濃縮手段がイオン交換樹脂を用いたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の排水加熱分解システム。
【請求項5】
排水の前記加熱分解に先立って該排水を予熱する予熱手段を有し、該予熱手段は、加熱分解処理後に濃縮手段に移送される高温の排水と熱交換するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の排水加熱分解システム。
【請求項6】
前記電解反応装置は、該装置に備える陽極と陰極との間が隔膜で隔てられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の排水加熱分解システム。
【請求項7】
電解反応装置に備える電極のうち、少なくとも陽極が導電性ダイヤモンド電極であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の排水加熱分解システム。
【請求項8】
電解反応装置に備える導電性ダイヤモンド電極が、基板上に積層させた後に基板を取り去った自立型導電性ダイヤモンド電極であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の排水加熱分解システム。
【請求項9】
電解反応装置に備える導電性ダイヤモンド電極が、絶縁性材料を基板にして導電性ダイヤモンドを積層させたものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の排水加熱分解システム。
【請求項10】
前記排水中に残留した過硫酸イオン濃度を検出する過硫酸濃度センサを備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の排水加熱分解システム。
【請求項11】
前記センサで検出された過硫酸イオン濃度に従って定められる注入量に基づいて前記排水に還元剤を注入する還元剤制御注入装置を備えることを特徴とする請求項1〜10に記載の排水加熱分解システム。
【請求項12】
前記過硫酸濃度センサは、導電性ダイヤモンド電極に銀を担持した電極と対電極とを用いて、前記ダイヤモンド電極上での過硫酸イオンの還元反応を検出することにより行うことを特徴とする請求項11記載の排水加熱分解システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−150320(P2006−150320A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348935(P2004−348935)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】