説明

掘削機用グリース組成物及び掘削機用転がり軸受

【課題】水分が混入した場合でも、白色組織剥離及び腐食の発生を抑制し、良好な潤滑を長時間維持することが可能な掘削機用グリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入してなり、耐水性に優れる掘削機用転がり軸受を提供する。
【解決手段】鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の潤滑油からなり、40℃における動粘度が70〜250mm/sである基油と、増ちょう剤とを含み、かつ、カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆添加剤から選ばれる少なくとも1種をグリース全量の0.1〜20質量%の割合で含有する掘削機用グリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入してなる掘削機用転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削機の転がり軸受に封入されるグリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入してなる掘削機用転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル等の掘削に使用される掘削機は、掘削機の全面に配置したカッターヘッドを土砂面に押し当て、土砂の飛散を抑えるために水を土砂面に噴射しながら旋回させて掘削している。そのため、掘削機には、作業中、掘削した土砂や泥水がかかり、駆動モータに組み込まれる転がり軸受では、封入グリースに水が混入して潤滑不良が誘発されることが多い。
【0003】
このようなグリースへの水分の影響について、例えば、古村らは、潤滑油(#180タービン油)に6%の水分が混入すると、混入しない場合に比べて転がり疲れ寿命が数分の1から20分の1にまで低下することを報告している(古村恭三郎、城田伸一、平川清:表面起点および内部起点の転がり疲れについて、NSK Bearing Journal、No.636、pp.1-10、1977)。また、Schatzbergらは、潤滑油中に僅か100ppmの水分が混入するだけで鋼の転がり強さが32〜48%も低下することを報告している(P.Schtzberg、I.M.Felsen:Effects of water and oxygen during rolling contact lubrication、Wear 12、pp.331-342、1968)。
【0004】
このような寿命低下は、混入した水分から発生した水素が軸受材料に作用し、白色組織剥離と呼ばわれる金属剥離を引き起こすことが考えられている。このような剥離を防ぐために、亜硝酸ナトリウム等の不働態酸化剤を添加したグリース(例えば、特許文献1参照)、有機アンチモン化合物や有機モリブデン化合物を添加したグリース(例えば、特許文献2参照)、粒径2μm以下の無機系化合物を添加したグリース(例えば、特許文献3参照)等のように、グリースを改良することが行われている。これらは、転がり接触部に添加剤に由来する被膜を生成して軸受材料への水素の浸入を防いでいるが、被膜が形成されるまでの間に振動や速度変化による転動体の滑りが起こると、転がり接触部で金属剥離が起こる場合がある。
【0005】
グリースの改良以外の対策として、軸受材料にステンレス鋼を使用したり(例えば、特許文献4参照)、転動体をセラミックス製にすること(例えば、特許文献5参照)等が提案されているが、これら材料からなる軸受は一般に高価となる。
【0006】
また、軸受鋼のような鉄は、水により容易に腐食(錆)が生じ、軸受から異音が発生するという問題がある。水の混入が考えられる軸受では、耐腐食性を有することも非常に重要であり、上記と同様の方法により耐腐食性を同時に付与することがなされているが、錆の発生を抑制する効果が十分に得られていない。
【0007】
【特許文献1】特許第2878749号公報
【特許文献2】特許第3512183号公報
【特許文献3】特開平9−169989号公報
【特許文献4】特開平3−183747号公報
【特許文献5】特開平4−244624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、水分が混入した場合でも、白色組織剥離及び腐食の発生を抑制し、良好な潤滑を長時間維持することが可能な掘削機用グリース組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、このようなグリース組成物を封入してなり、耐水性に優れる掘削機用転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の掘削機用グリース組成物及び掘削機用転がり軸受を提供する。
(1)掘削機に組み込まれる転がり軸受に封入されるグリース組成物であって、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の潤滑油からなり、40℃における動粘度が70〜250mm/sである基油と、増ちょう剤とを含み、かつ、カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆添加剤から選ばれる少なくとも1種をグリース全量の0.1〜20質量%の割合で含有することを特徴とする掘削機用グリース組成物。
(2)掘削機に組み込まれる転がり軸受であって、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配設してなり、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空間内に請求項1記載の掘削機用グリース組成物が封入されていることを特徴とする掘削機用転がり軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明の掘削機用グリース組成物は、特定動粘度の基油を用いることで潤滑性を良好に維持するとともに、防錆添加剤としてカルボン酸塩系防錆添加剤とエステル系防錆添加剤とを併用することで優れた耐腐食性及び白色組織剥離に対する耐性を発現する。
【0011】
また、本発明の掘削機用転がり軸受は、このようなグリース組成物を封入したことにより、水分が混入した場合でも優れた潤滑寿命を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0013】
本発明の掘削機用グリース組成物(以下、単に「グリース組成物」という)において、基油は、鉱油及び合成油から選ばれ、その40℃における動粘度が70〜250mm/sである。動粘度を前記範囲とすることで、低温起動時の異音の発生や、高温での油膜切れ等の不具合を解消することができる。このような効果をより確実にするために、40℃における動粘度は、75〜185mm/sが好ましい。
【0014】
鉱油は、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。
【0015】
合成油としては、炭化水素系油、芳香族基油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンコオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物等が挙げられる。芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、更にはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、更にはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。これらの潤滑油は、単独または混合物として用いることができ、上述した好ましい動粘度に調整されるが、中でも40℃における動粘度が120〜185mm/sのエステル油を単独使用した基油が好ましい。
【0016】
増ちょう剤は、有機系及び無機系の何れの増ちょう剤も使用できるが、環境への影響を考慮すると重金属を含まないものが好ましい。具体的には、リチウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、マグネシウム石けん、ナトリウム石けん等の金属石けんまたはこれらの複合石けん、ウレア化合物、ベントナイト、シリカ、カーボンブラック等を好適に使用できる。中でも、金属石けん及びウレア化合物が好ましい。また、これらは単独でも、混合して使用してもよい。
【0017】
増ちょう剤の配合量は、上記基油とともにグリースを形成し維持できる範囲であれば制限はないが、グリース全量の5〜35質量%とすることが好ましく、5〜25質量%がより好ましい。尚、混合使用の場合は、合計量でこの範囲とする。
【0018】
本発明では、カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆添加剤から選ばれる少なくとも1種を添加する。添加量は、単独使用、混合使用の場合ともグリース全量に対して0.1〜20質量%である。添加量が0.1質量%未満では、白色組織剥離や腐食を抑制する効果が十分に得られない。一方、添加量が20質量%を超えると、軸受部材表面への防錆剤の付着量が多くなりすぎ、本発明のグリース組成物に由来する酸化膜等の生成を阻害して白色組織剥離が発生するおそれがでてくる。防錆性能を確かにし、白色組織剥離を考慮すると、添加量はグリース全量に対して0.25〜15質量%とすることが好ましい。
【0019】
カルボン酸系防錆剤としては、モノカルボン酸では、ラウリン酸、ステアリン酸等の直鎖脂肪酸、並びにナフテン核を有する飽和カルボン酸が挙げられる。また、ジカルボン酸では、コハク酸、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸イミド等のコハク酸誘導体、ヒドロキシ脂肪酸、メルカプト脂肪酸、ザルコシン誘導体、並びにワックスやペトロラタムの酸化物等の酸化ワックス等が挙げられる。
【0020】
カルボン酸塩系防錆添加剤としては、脂肪酸、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸、アミノ酸誘導体の各金属塩等が挙げられる尚、金属元素としては、コバルト、マンガン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、バリウム、リチウム、マグネシウム、銅等が挙げられる。
【0021】
エステル系防錆添加剤としては、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ショ糖、グリセリン等の多価アルコールとオレイン酸、ラウリン酸等のカルボン酸との部分エステルや、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール等の高級脂肪酸アルコール等が挙げられる。
【0022】
白色組織剥離の発生を抑制するには、上記の防錆添加剤による作用に加えて、転がり接触部に酸化膜が形成しやすくなれば、より効果的となる。そこで、グリース組成物には、下記の一般式(1)で表されるジアルキルジチオカルバミン酸系化合物、一般式(2)で表されるジアルキルジチオリン酸系化合物、一般式(3)〜(5)で表される有機亜鉛化合物、一般式(6)で表されるアルキルキサントゲン酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種の有機金属塩を添加することが好ましい。
【0023】
【化1】

【0024】
一般式(1)、(2)において、Mは金属種を示し、具体的にはSb、Bi、Sn、Ni、Te、Se、Fe、Cu、Mo、Znから選択できる。また、R、Rは、同一基であっても、異なる基であってもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基から選択される。R、Rとして特に好ましい基としては、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、1,1,3,3−テトラメチルヘキシル基、1,1,3−トリメチルヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−メチルウンデカン基、1−メチルヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−ヘプチル基、4−メチルシクロヘキシル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソプロピル基、イソヘプチル基、イソペンチル基、ウンデシル基、エイコシル基、エチル基、オクタデシル基、オクチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、シクロペンチル基、ジメチルシクロヘキシル基、デシル基、テトラデシル基、ドコシル基、ドデシル基、トリデシル基、トリメチルシクロヘキシル基、ノニル基、プロピル基、ヘキサデシル基、ヘキシル基、ヘニコシル基、ヘプタデシル基、ヘプチル基、ペンタデシル基、ペンチル基、メチル基、第三ブチルシクロヘキシル基、第三ブチル基、2−ヘキセニル基、2−メタリル基、アリル基、ウンデセニル基、オレイル基、デセニル基、ビニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ヘプタデセニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、第三ブチルフェニル基、第二ペンチルフェニル基、n−ヘキシルフェニル基、第三オクチルフェニル基、イソノニルフェニル基、n−ドデシルフェニル基、フェニル基、ベンジル基、1−フェニルメチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、1,1−ジメチルベンジル基、2−フェニルイソプロピル基、3−フェニルヘキシル基、ベンズヒドリル基、ビフェニル基等があり、またこれらの基はエーテル基を有していてもよい。
【0025】
一般式(3)〜(5)において、R、Rは、同一基であっても、異なる基であってもよく、炭素数1〜18の炭化水素基及び水素原子から選択される。特に、R、Rが共に水素原子である、メルカプトベンゾチアゾール亜鉛(一般式(3))、ベンゾアミドチオフェノール亜鉛(一般式(4))、メルカプトベンゾイミダゾール亜鉛(一般式(5))を好適に使用することができる。
【0026】
一般式(6)において、Rは炭素数1〜18の炭化水素基である。
【0027】
上記の有機金属塩の添加量は、単独使用、混合使用ともに、グリース全量に対して0.1〜20質量%である。有機金属塩の添加量が、0.1質量%未満では酸化膜の形成促進に効果がなく、20質量%を超えても増分に見合う効果の向上が得られないばかりか、軸受材料との酸化反応を異常に促進して腐食や異常摩耗を発生させるおそれがある。有機金属塩の添加量は、0.5〜10質量%の範囲が特に好ましい。
【0028】
更に、グリース組成物には、必要に応じて、従来からグリース組成物に添加されているその他の添加剤を添加してもよい。
【0029】
また、本発明は上記のグリース組成物を封入してなる掘削機用転がり軸受に関する。掘削機の構造には制限がないが、例えば図1及び図2(図1のA部分の拡大図)に示す掘削機を例示することができる。図示される掘削機において、掘削機本体1の前部に設けられたカッターヘッド2は、本体側のカッタードラム3がメインベアリング4を介して掘削機本体1と連結されており、このメインベアリング4に形成された駆動歯車4aが図示しない駆動モータ(駆動装置)で駆動されることによって旋回駆動されている。メインベアリング4には、上記のグリース組成物が封入される。尚、図示する掘削機本体1は前胴であり、フロントグリッパ1aが設けられている。また、カッターヘッド2には複数のローラーカッター2aが設けられている。そして、カッタードラム3の内周側とバルクヘッド5(掘削機本体側)との間、および外周側と掘削機本体1との間に、軸受シール装置M1,M2がそれぞれ設けられている。
【0030】
図2に示すように、カッタードラム3とバルクヘッド5との間には小径の軸受シール装置M1が設けられ、カッタードラム3と掘削機本体1との間には大径の軸受シール装置M2が設けられている。これらの軸受シール装置M1,M2は、径は異なるが機能は同等である。軸受シール装置M1は、カッタードラム3とバルクヘッド5との間の半径方向にスリーブリング6を設け、バルクヘッド5とスリーブリング6の外周側に、掘削機本体1の半径方向に2段構成となる第1軸受シールS1と第2軸受シールS2とが設けられている。スリーブリング6は、このスリーブリング6をバルクヘッド5とカッタードラム3との間の定位置で保持するためのスリーブリング保持装置7によって保持されている。このスリーブリング保持装置7はメインベアリング4側に設けられており、スリーブリング6の端部に形成された保持部6aを掘削機本体1の軸心と同心円上に保持している。また、保持部6aのメインベアリング側には減速手段たる歯車機構Gが設けられており、この歯車機構Gは、バルクヘッド5側に設けられた外歯歯車9と、カッタードラム3側に設けられた内歯歯車8とに噛合する遊星歯車10とから構成されている。従って、メインベアリング4でカッタードラム3が旋回させられると内歯歯車8が遊星歯車10を回転させ、この遊星歯車10が外歯歯車9の周囲を公転することによって、この遊星歯車10を設けたスリーブリング6がカッタードラム3の回転数の半分の回転数で回転する。つまり、軸受シールS1,S2を半径方向に2段としてその中間にスリーブリング6を設けることにより、カッタードラム3を旋回させれば遊星歯車10が自転しながら外歯歯車9の周囲を公転し、スリーブリング6がカッタードラム3の半分の回転数で回転させるように構成されている。
【0031】
第1,第2軸受シールS1,S2のシール材11は掘削機本体1の軸方向に3列設けられており、両端の押え部材12,13と中間の押え部材14とでバルクヘッド5とスリーブリング6にそれぞれ固定されている。更に、第2軸受シールS2を設けたバルクヘッド5の軸方向には、掘削機本体1からの給脂配管15が設けられており、この給脂配管15でシール材11の間へ、上記したグリース組成物または他のグリース組成物を常時供給する。この給脂配管15から供給されたグリース組成物は、スリーブリング6に設けられた給脂孔6bを通って第1軸受シールS1側へも供給される。また、この軸受シール装置M1の場合には、第1軸受シールS1の外周側がカッタードラム3に接して摺動するので、第1軸受シールS1と接するカッタードラム3の内面に耐摩耗性鋼板16が設けられている。この耐摩耗性鋼板16は摩耗した場合に取り替え可能に構成されている。
【0032】
このように構成される掘削機では、作業中に泥水がかかるため、メインベアリング4、更には軸受シール装置M1、M2にも泥水が浸入しやすい。しかし、上記のグリース組成物は特定の防錆添加剤を含有するため、メインベアリング4や軸受シール装置M1、M2は、腐食が効果的に抑えられ、白色組織剥離も効果的に抑えることができ、長寿命となる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されることはない。
【0034】
(実施例1〜4、比較例1〜2)
表1に示す配合にて試験グリースを調製した。尚、何れの試験グリースにも、フェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチルクレゾール(東京化成(株)製)、アミン系酸化防止剤(p、p´−ジオクチルジフェニルアミン(東京化成(株)製)、防錆剤(カルシウムスルホネート(King社製「NasulR1−CA」)及び極圧剤(無灰イオウ系;Vanderbilt社製「Vanlube 7723」)をそれぞれ0.5質量%添加してある。そして、調製した試験グリースを、日本精工(株)製円すいころ軸受「HR30205(内径25mm、外径52mm、幅16.25mm)」に封入して試験軸受を作製し、軸受内部に水を封入グリース全量に対して1質量%となるように注入した後、120℃、ラジアル荷重98N、アキシアル荷重1470N、回転速度3500rpmにて100時間連続回転させた。回転後に試験軸受を分解し、錆の発生及び剥離の発生の有無を目視にて観察した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、本発明に従いカルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆添加剤から選ばれる少なくとも1種をグリース全量の0.1〜20質量%の割合で含有する各実施例のグリース組成物を封入することで、防錆性能及び剥離防止効果が極めて良好で、長寿命の転がり軸受となることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】掘削機の一例を示す側断面図である。
【図2】図1の部分Aの拡大図である。
【符号の説明】
【0038】
1 掘削機本体
2 カッターヘッド
2a ローラーカッター
3 カッタードラム
4 メインベアリング
4a 駆動歯車
5 バルクヘッド
6 スリーブリング
6b 給脂孔
6a 保持部
7 スリーブリング保持装置
8 内歯歯車
9 外歯歯車
10 遊星歯車
11 シール材
14 押え部材
15 給脂配管
16 耐摩耗性鋼板
12,13 押え部材
G 歯車機構
S1,S2 軸受シール
M1,M2 軸受シール装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削機に組み込まれる転がり軸受に封入されるグリース組成物であって、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の潤滑油からなり、40℃における動粘度が70〜250mm/sである基油と、増ちょう剤とを含み、かつ、カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆添加剤から選ばれる少なくとも1種をグリース全量の0.1〜20質量%の割合で含有することを特徴とする掘削機用グリース組成物。
【請求項2】
掘削機に組み込まれる転がり軸受であって、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配設してなり、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空間内に請求項1記載の掘削機用グリース組成物が封入されていることを特徴とする掘削機用転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−106858(P2007−106858A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298540(P2005−298540)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】