説明

探傷装置

【課題】プローブを管の周方向に回転しなくても管の内周面を探傷でき、かつ、内径の異なる複数の管の内面を探傷できる探傷装置を提供する。
【解決手段】探傷装置1は、鋼管50に挿入される探傷ヘッド20を備える。探傷ヘッド20は、棒状のヘッド本体B0と、複数のプローブP1〜P12と、昇降機構30を備える。複数のプローブP1〜P12は、ヘッド本体B0の軸周りに配置される。昇降機構30は、アーム機構A1〜A12を備える。アーム機構A1〜A12は、ヘッド本体B0と複数のプローブP1〜P12との間に取り付けられ、プローブP1〜P12を鋼管50の径方向に昇降可能に支持する。複数のプローブP1〜P12が昇降機構30により降ろされたとき、ヘッド本体B0の正面から見て隣り合うプローブPn同士は重複して配置され、かつ、ヘッド本体B0の軸方向に互いに離れて配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探傷装置に関し、さらに詳しくは、管の内面を探傷する内挿型の探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2004−251839号公報(特許文献1)は、管内表面傷検査装置を開示する。管内表面傷検査装置は、管内に挿入される検出ヘッドを備える。検出ヘッドの周囲には、渦流探傷機能を有する複数のセグメントプローブが配置される。管内表面傷検査装置は、検出ヘッドを周方向に回転することなく、管全長の内面を検査できる。そのため、検査される管又はプローブを回転する機構が不要である。
【0003】
特開2007−163178号公報(特許文献2)は、ガス容器や円筒体の内面を検査する円筒体検査装置を開示する。円筒体検査装置は、傘状の拡張機構と探触子(以下、プローブという)とを備える。円筒体検査装置は、円筒体に挿入された後、拡張機構を拡張してプローブを円筒体内面に近接する。そして、円筒体検査装置は、プローブを円筒体の中心軸周りに回転させるとともに、中心軸方向に移動させる。これにより、プローブは円筒体内面を螺旋状に走査する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−251839号公報
【特許文献2】特開2007−163178号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2004−251839号公報に開示された管内表面傷検査装置は、所定の内径を有する管の内面を容易に探傷できる。しかしながら、所定の内径と異なる他の内径を有する管の内面を探傷できない。つまり、管内表面傷検査装置は、内径の異なる管の内面を探傷できない。
【0006】
一方、特開2007−163178号公報に開示された円筒体検査装置は、プローブを円筒体の周方向に回転する機構を必要とする。
【0007】
本発明の目的は、プローブを管の周方向に回転しなくても管の内周面を探傷でき、かつ、内径の異なる管の内面を探傷できる探傷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明による探傷装置は、管の内面を探傷する内挿型の探傷装置である。本発明による探傷装置は、棒状の本体と、複数のプローブと、昇降機構とを備える。複数のプローブは、本体の軸周りに配置され、各プローブは、管の内面と対向する表面を有する。昇降機構は、本体とプローブとの間に取り付けられ、プローブを管の径方向に昇降可能に支持する。そして、昇降機構は、プローブの表面を、本体の表面に最も近い最下点と本体の表面から最も遠い最上点との間の所定の高さに調整する。昇降機構により複数のプローブの表面が最下点まで降ろされたとき、本体の正面から見て隣り合うプローブ同士の表面は互いに重なり、かつ、隣り合うプローブ同士は、本体の軸方向に互いに重なりなく配置される。
【0009】
この場合、複数のプローブの表面は、管の内面全周を覆う。そのため、探傷装置は、本体を回転することなく、管の内面全周を全長にわたって探傷できる。探傷装置はさらに、昇降機構によりプローブを上昇又は下降すれば、内径が異なる管の内面も探傷できる。
【0010】
好ましくは、複数のプローブは、前記本体の正面から見て前記本体の軸周りに等間隔に配置され、かつ、前記本体の軸方向に沿って螺旋状に配置される。
【0011】
好ましくは、昇降機構は、アーム部材を備える。アーム部材は、本体とプローブとの間に配置される。アーム部材は、第1及び第2の端部を含む。第1の端部は、本体の軸方向に揺動可能に本体に取り付けられる。第2の端部は、プローブと連結される。
【0012】
この場合、アーム部材が回転すれば、プローブが昇降する。
【0013】
好ましくは、昇降装置はさらに、アーム部材を起こす方向に回転する力をアーム部材に付与する機構を含む。
【0014】
この場合、プローブが鋼管の内面に接触する。
【0015】
好ましくは、プローブは、台座と、探傷シートとを備える。台座は、昇降機構と連結される。探傷シートは、台座上に配置される。探傷シートは、シート基材と、探傷コイルとを含む。シート基材は可撓性を有する。探傷コイルは、シート基材に取り付けられる。
【0016】
この場合、シート基材は曲がりやすく、たわみやすい。そのため、プローブの表面は、内径の異なる鋼管の内面の曲率に合わせることができる。
【0017】
好ましくは、プローブはさらに、弾性部材を含む。弾性部材は、探傷シートと台座との間に配置される。
【0018】
この場合、弾性部材が縮む。そのため、プローブの表面は、内径の異なる鋼管の内面の曲率に合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態による探傷装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示した探傷ヘッドの正面図である。
【図3】図1中の探傷装置のうち、複数のプローブの配置を示す図である。
【図4】図1中のプローブ及び昇降機構を示す斜視図である。
【図5】図4に示すプローブ及び昇降機構の側面図である。
【図6】図4に示す昇降機構の動作を説明するための模式図である。
【図7】図4中のプローブに含まれる探傷シートの斜視図である。
【図8】図7中のVIII−VIII線における断面図である。
【図9】図7中のIX−IX線における断面図である。
【図10】曲率の小さい内径を有する鋼管内面に接触したプローブの模式図である。
【図11】曲率の大きい内径を有する鋼管内面に接触したプローブの模式図である。
【図12】図6と異なる、昇降機構の他の動作を説明するための模式図である。
【図13】昇降機構により複数のプローブが降ろされたときの探傷装置の正面図である。
【図14】図5と異なる、昇降機構の他の例の側面図である。
【図15】図14の昇降機構の動作を説明するための模式図である。
【図16】図5及び図14と異なる、昇降機構の他の例の一部断面を含む側面図である。
【図17】図16の昇降機構の動作を説明するための模式図である。
【図18】図7と異なる、探傷シートの他の例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
[探傷装置の全体構成]
図1は本実施の形態による探傷装置の全体構成を示す図である。図1を参照して、探傷装置1は、信号処理装置10と、探傷ヘッド20とを備える。
【0022】
探傷ヘッド20は、検査対象となる鋼管50内に挿入される。つまり、探傷装置1は、内挿型の探傷装置である。探傷ヘッド20の先端にはワイヤ12が取り付けられる。ワイヤ12は図示しない牽引車に取り付けられる。探傷ヘッド20は、牽引車により、鋼管50の後端から先端まで、鋼管50内を鋼管50の軸方向(図1中のFWD方向)に移動する。
【0023】
探傷ヘッド20は複数のプローブP1〜P12を備える。各プローブPn(nは1〜12)は、鋼管50の内面と対向する表面を有し、各表面は鋼管50の内面と接触する。各プローブPnは探傷コイルを備え、鋼管50の内面を渦流探傷する。具体的には、プローブPnは励磁コイルと検出コイルとを備える。励磁コイルは磁束を発生する。磁束により鋼管50の内面には渦電流が発生する。内面にきずが存在するとき、きずにより渦電流に乱れが生じる。検出コイルは、渦電流の乱れをインピーダンスや電圧変化により検出し、検出信号を生成する。各プローブPnは、生成された検出信号を伝送ケーブル11を介して信号処理装置10に出力する。
【0024】
信号処理装置10は、各プローブPnから出力された検出信号を受信する。そして、信号処理装置10は検出信号に基づいて、鋼管50の内面におけるきずの発生位置とその程度とを求める。探傷コイルを用いた渦流探傷方法及び信号処理装置10の構成は周知であるため、ここでは説明を省略する。
【0025】
[探傷ヘッド20の構成]
探傷ヘッド20は、上述のとおり、複数のプローブP1〜P12を備える。探傷ヘッド20はさらに、棒状のヘッド本体B0と、昇降機構30を備える。探傷ヘッド20が鋼管50内に挿入されるとき、ヘッド本体B0は鋼管50の長手方向に延び、鋼管50と同軸に配置される。
【0026】
昇降機構30は、複数のアーム機構A1〜A12を備える。複数のアーム機構An(nは1〜12)は、対応するプローブPnとヘッド本体B0との間に配置される。アーム機構Anは、プローブPnをヘッド本体B0の表面に対して昇降可能に支持する。より具体的には、アーム機構Anは、プローブPnを鋼管50の径方向に昇降する。そして、アーム機構Anは、ヘッド本体B0の表面に最も近い最下点と、ヘッド本体B0の表面から最も離れた最上点との間の所定の高さにプローブPnの表面を配置する。
【0027】
図2は、図1に示した、鋼管50内に挿入された探傷ヘッド20の正面図である。図2を参照して、複数のプローブP1〜P12は、ヘッド本体B0の軸(中心軸)周りに30度おきに等間隔に配置されている。ヘッド本体B0の正面から見て、(つまり、ヘッド本体B0の正面視において)、隣り合うプローブPnとPn−1とは互いに一部が重なり合っている。その結果、図2では、複数のプローブP1〜P12の表面は、鋼管50の内面全周を覆う。
【0028】
図3は、図1中の探傷ヘッド20のうち、プローブP1〜P12のみを表示した模式図である。上述のとおり、ヘッド本体B0の正面視において、隣り合うプローブPnとPn−1とは互いに一部が重なり合っている。一方、ヘッド本体B0を側面から見た場合(つまり、ヘッド本体B0の側面視において)、隣り合うプローブPnとPn−1とは前後(ヘッド本体B0の軸方向)に互いに離れて配置される(重なりなく配置される)。たとえば図3では、プローブP2はプローブP1と離れて(重ならず)プローブP1よりも後ろ又は前に配置される。プローブP3はプローブP2と離れて(重ならず)プローブP2よりも後ろ又は前に配置される。同様に、プローブPnはプローブPn−1と離れて(重ならず)プローブPn−1よりも後ろ又は前に配置される。したがって、図3では、プローブP1〜P12は、ヘッド本体B0の軸周りに螺旋状に配置される。
【0029】
このように、ヘッド本体B0の正面視において、隣り合うプローブPnとPn−1とは互いに重なり合い、複数のプローブP1〜P12の表面は鋼管50の内面の全周を覆う。そして、ヘッド本体B0の側面視において、隣り合うプローブPnとPn−1とは互いに重なりなく前後に配置される。
【0030】
複数のプローブP1〜P12をこのように配置すれば、昇降機構30が複数のプローブP1〜P12を昇降したとき、各プローブPnは他のプローブPnの動作を干渉しない。そのため、探傷ヘッド20は、昇降機構30によりプローブPnを昇降して、異なる内径を有する複数種類の鋼管50の内面に、プローブPnの表面を接触することができる。以下、昇降機構30の構成について詳述する。
【0031】
[昇降機構30の構成]
上述のとおり、昇降機構30は複数のアーム機構A1〜A12を備える。各アーム機構Anは各プローブPnに対応して配置される。図4は、アーム機構An及びプローブPnの斜視図である。図4を参照して、プローブPnの裏面61には、板状の連結部材62が立てて配置される。連結部材62はヘッド本体B0の長手方向に延びる。
【0032】
アーム機構Anは、一対のフロントアーム部材71と、一対のリアアーム部材72と、連通部材73と、ストッパ79とを備える。連結部材73は板状であり、ヘッド本体B0の表面B01に立てて配置される。連結部材73は、ヘッド本体B0の中心軸方向に延び、その下端は、ヘッド本体B0の内部に配置される。本実施の形態では、ヘッド本体B0は筒状である。
【0033】
一対のフロントアーム部材71は、連結部材62の前部と連結部材73の前部との間に配置される。一対のフロントアーム部材71の上端部は連結部材62を挟み、下端部は連結部材73を挟む。同様に、一対のリアアーム部材72は、連結部材62の後部と連結部材73の後部との間に配置される。一対のリアアーム部材72の上端部は、連結部材62を挟み、下端部は、連結部材73を挟む。
【0034】
各フロントアーム部材71及びリアアーム部材72の上端部及び下端部には、ヘッド本体B0の幅方向(ヘッド本体B0の中心軸と直交する方向)に図示しない貫通孔が形成されている。また、連結部材62及び73の前部及び後部にも、ヘッド本体B0の幅方向に貫通孔が形成されている。
【0035】
一対のフロントアーム部材71の上端部と連結部材62の前部とは、それぞれに形成された貫通孔に挿入されたピン81Uにより連結される。ピン81Uはヘッド本体B0の幅方向に延びる。同様に、一対のフロントアーム部材71の下端部と連結部材73の前部とは、ヘッド本体B0の幅方向に延びるピン81Lにより連結される。これにより、一対のフロントアーム部材71は、ピン81U及び81Lを軸として回転する。
【0036】
要するに、一対のフロントアーム部材71は、ヘッド本体B0の軸方向に揺動可能に取り付けられ、かつ、プローブPnと連結される上端部を含む。
【0037】
同様に、リアアーム部材72の上端部と連結部材62の後部とは、本体B0の幅方向に延びるピン82Uにより連結され、リアアーム部材72の下端部と連結部材73の後部とは、ヘッド本体B0の幅方向に延びるピン82Lにより連結される。これにより、一対のリアアーム部材72は、ピン82U及び82Lを軸として回転する。つまり、一対のリアアーム部材72も、一対のフロントアーム部材71と同様に、ヘッド本体B0の軸方向に揺動可能に取り付けられ、かつ、プローブPnと連結される上端部を含む。
【0038】
ストッパ79は、板状であり、連結部材73の上面に立てて配置される。ストッパ79はピグ本体B0の軸方向と直交して配置される。フロントアーム部材71が回転して直立すると、ストッパ79に当たる。ストッパ79は、フロントアーム部材71が直立したとき、フロントアーム部材71がより前方に倒れるのを防ぐ。
【0039】
[昇降機構30の機能]
以上の構成により、昇降機構30内の各アーム機構Anは、プローブPnを鋼管50の径方向に昇降する。図5は、プローブPn及びアーム機構Anの側面図である。図5を参照して、フロントアーム部材71がピン81Lを軸として反時計回りに回転したとき、リアアーム部材72もピン82Lを軸として反時計回りに回転する。その結果、図6に示すように、アーム機構AnはプローブPnを上方(表面B01から離れる方向)に持ち上げる。つまり、プローブPnはヘッド本体B0の前方に移動しながら、鋼管50(又は、ヘッド本体B0)の径方向に上昇する。
【0040】
フロントアーム部材71のピン81Uと81Lとの間の距離は、リアアーム部材72のピン82Uと82Lとの間の距離と等しい。そのため、プローブPnが上昇しても、プローブPnの表面66はヘッド本体B0の表面とほぼ平行を維持する。要するに、プローブPnが昇降しても、プローブPnの表面66は常に、鋼管50の内面と対向する。
【0041】
アーム機構Anはさらに、アーム部材を起こす方向に回転する力をアーム部材に付与する機構74(以下、「付与機構74」という。)を備える。付与機構74は弾性体であり、本例ではばねである。付与機構74の一端は、連結部材73の下方後部75に取り付けられ、その他端は、フロントアーム部材71の下端71Lと接続される。付与機構74は、下端71Lに、連結部材73の後方に向かう力を付与する。これにより、付与機構74は、ピン81Lを支点としてフロントアーム部材71を起こす方向に回転する力を付与する。本例(図4〜図6)では、フロントアーム部材71及び連結部材73のうち、ばね74が配置された部分はヘッド本体B0内部に配置される。図4に示すように、表面B01は開口76を有する。フロントアーム部材71は開口76に挿入され、その下端はヘッド本体B0内部に配置される。
【0042】
フロントアーム部材71が表面B01に対して垂直に配置されたとき、つまり、図6に示すように、フロントアーム部材71が起き上がったとき、フロントアーム部材71はストッパ79に当たり、回転を停止する。
【0043】
以上のとおり、昇降機構30は、プローブP1〜P12を所定の高さに調整できる。そのため、検査対象となる鋼管50の内径に応じて、昇降機構30はプローブP1〜P12の高さを調整し、プローブP1〜P12を鋼管50の内面に接触する。つまり、探傷装置1は、昇降機構30により、内径の異なる複数種類の鋼管の内面を探傷することができる。
【0044】
[プローブPnの構成]
図4を参照して、プローブPnは、連結部材62と、台座63と、弾性部材64と、探傷シート65とを備える。
【0045】
台座63は、直方体状であり、連結部材62が取り付けられた裏面61を有する。裏面61と反対側の面には、弾性部材64が取り付けられる。
【0046】
弾性部材64は板状であり、台座63と探傷シート65との間に配置される。弾性部材64はたとえば、低反発弾性を有する発泡体であり、ばねのような弾性と粘土のような粘性とを有する。発泡体はたとえば、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等であり、周知の素材が適用される。弾性部材64は、外力を受けると、力を受けた部分が縮み、凹む。
【0047】
探傷シート65は、弾性部材64上に配置される。図7に探傷シート65の斜視図を示す。図7を参照して、探傷シート65は、シート基材601と、複数の探傷コイル602とを備える。
【0048】
シート基材601はシート状であり、可撓性を有する。要するに、シート基材601は曲げやすく、たわみやすい。シート基材601は可撓性を有する樹脂からなる。可撓性を有する樹脂はたとえば、シリコーン樹脂やフッ素樹脂、アクリル系樹脂である。シート基材601の面のうち、弾性部材64と対向する面と反対側の表面が、プローブPnの表面66に相当する。
【0049】
図8は、図7中のVIII−VIII線での探傷シート65の断面図であり、図9は、図7中のIX−IX線での探傷シート65の断面図である。図8及び図9を参照して、2つの探傷コイル602は、ヘッド本体B0の軸方向に並んで配置される。そして、各探傷コイル602は、ヘッド本体B0の軸方向にコイル軸を有する。探傷コイル602をこのように配置すれば、鋼管50の軸方向と垂直な方向に渦電流が発生する。そのため、鋼管50の軸方向に延びた内面きずが検知されやすい。2つの探傷コイル602は、励磁コイル及び検出コイルとして機能する。
【0050】
図8及び図9に示すとおり、各探傷コイル602は、探傷シート65の表面66よりもシート基材601の内部側に配置される。そのため、表面66が鋼管50の内面に接触するとき、探傷コイル602は鋼管50の内面に接触しない。その結果、探傷コイル602が鋼管50と接触することにより切断されるのを抑制できる。
【0051】
[プローブPnの機能]
プローブPnの表面66は、鋼管50の内面と接触して湾曲し、内径の異なる種々の鋼管50の内面と同じ曲率になる。たとえば、図10に示すとおり、曲率の小さな(内径の大きい)鋼管50の内面にプローブPnの表面66が接触する場合、弾性部材64の両端は縮み、探傷シート65は緩やかに凸に湾曲する。これにより、プローブPnの表面66は凸に湾曲し、鋼管50の内面と同程度の曲率となる。
【0052】
一方、図11に示すように、曲率の大きな(内径の小さな)鋼管50の内面にプローブPnの表面66が接触する場合、弾性部材64の両端は図10の場合よりも大きく縮み、探傷シート65は図10の場合よりも大きく凸に湾曲する。これにより、表面66は鋼管50の内面と同程度の曲率となる。
【0053】
プローブPnの表面66は、上述の仕組みにより、異なる内径の鋼管50の内面の曲率と同程度の曲率にできる。そのため、プローブPnの表面66と鋼管50の内面との間の距離のばらつきを低減することができ、いわゆるリフトオフの影響を低減できる。
【0054】
[探傷ヘッド20の機能]
上述の昇降機構30及びプローブPnを備える探傷装置1は、内径の異なる複数種類の鋼管50の内面を探傷できる。探傷装置1はさらに、探傷ヘッド20を軸周りに回転することなく、鋼管50の内面全周を全長にわたって探傷できる。以下、この点を詳述する。
【0055】
[昇降機構によりプローブPnを下降した場合]
図5に示すアーム機構AnがプローブPnを最下点まで降ろしたとき、つまり、プローブPnを表面B01に最も近づけたとき、プローブPnの表面66は、図12に示すとおり、高さHminの位置に配置される。全てのアーム機構A1〜A12がプローブP1〜P12を高さHminまで下降したとき、探傷ヘッド20は正面視で図13に示すとおりとなる。正面視において、隣り合うプローブPnは互いに重なり合う。より具体的には、隣り合うプローブPnの表面66に形成された探傷コイル602は互いに重なり合う。したがって、複数のプローブP1〜P12の探傷コイル602は、高さHminに対応した内径R1を有する鋼管50の内面の全周を覆う。さらに、図1及び図3に示すとおり、正面視で隣り合うプローブPnは、ヘッド本体B0の軸方向に互いに離れて配置される。そのため、各アーム機構AnがプローブPnを高さHminの位置に配置した場合も、正面視で隣り合うプローブPn同士は、ヘッド本体B0の軸方向に互いに離れて配置される。したがって、隣り合うプローブPnは互いに干渉しない。
【0056】
以上の結果、プローブPnの表面66を高さHminに配置した場合、図13に示す内径R1を有する鋼管50の内面全周を全長に渡って探傷できる。
【0057】
[昇降機構によりプローブPnを上昇した場合]
一方、アーム機構AnがプローブPnを最上点まで持ち上げたとき、つまり、プローブPnを表面B01から最も離したとき、プローブPnの表面66は、図6に示すとおり、高さHmaxの位置に配置される。高さHmaxは高さHminよりも高い。
【0058】
全てのアーム機構A1〜A12がプローブP1〜P12を高さHmaxまで持ち上げたとき、探傷ヘッド20は正面視で図2に示すとおりとなる。この場合も、正面視において、隣り合うプローブPnの表面66は互いに一部が重なり合い、より具体的には、表面66内の探傷コイル602は互いに重なり合う。また、各プローブPnは、ピン81L(又はピン82L)を支点として、同じ回転角だけ回転(揺動)して持ち上げられているため、隣り合うプローブPn同士は、ヘッド本体B0の中心軸方向に互いに離れて配置される。したがって、隣り合うプローブPnは互いに干渉しない。
【0059】
以上より、プローブPnの表面66を高さHmaxに配置したときも、複数のプローブP1〜P12の探傷コイル602は、図2に示すとおり、高さHmaxに対応した内径R0を有する鋼管50の内面の全周を覆う。そのため、プローブPnを高さHmaxに配置した場合、内径R1よりも大きい内径R0を有する鋼管50の内面全周を全長に渡って探傷できる。
【0060】
このように、探傷装置1は、アーム機構A1〜A12により、プローブP1〜P12の表面66を高さHminと高さHmaxとの間の所定の高さに配置できる。そのため、探傷装置1は、内径R1〜内径R0の範囲内の内径を有する種々の鋼管50の内面全周を全長にわたって探傷できる。さらに、各高さにおいて正面視での隣り合うプローブPnのコイル602は互いに重なり合う。そのため、各高さにおけるプローブP1〜P12のコイル602は、探傷ヘッド20の正面視において、鋼管50の内面全周を覆う。その結果、探傷装置1は、探傷ヘッド20を回転することなく、鋼管50の中心軸方向に移動するだけで、異なる内径を有する複数種類の鋼管50の内面全周を全長にわたって探傷できる。
【0061】
[探傷方法]
上述の探傷装置1を用いた鋼管50の内面の探傷方法は次のとおりである。初めに、検査対象となる鋼管50を準備する。続いて、鋼管50内に探傷ヘッド20を挿入する。このとき、たとえば作業者により、傘を閉じるようにアーム機構A1〜A12を縮めて、図12に示す状態とする。そして、探傷ヘッド20を鋼管50に挿入する。探傷ヘッド20を鋼管50に挿入した後、傘を開くように、アーム機構A1〜A12を広げる。具体的には、図12から図5の状態とする。アーム機構Anの付与機構74の作用により、フロントアーム部材71及びリアアーム部材72が回転し、図5及び図6のように起きあがる。その結果、プローブPnの表面66が鋼管50の内面に接触する。このとき、付与機構74により付与される力により、プローブPnの表面66は鋼管50の内面に接触しやすい。また、弾性部材64及び可撓性を有する探傷シート65により、プローブPnの表面66は、鋼管50の内面に沿って凸に湾曲する。
【0062】
続いて、探傷ヘッド20の先端のワイヤ12を牽引車に取り付ける。そして、牽引車により探傷ヘッド20を引っ張る。これにより、探傷ヘッド20は鋼管50の後端から先端まで移動する。このとき、探傷ヘッド20は鋼管50のヘッド本体B0の軸周りに回転する必要はない。複数のプローブP1〜P12が鋼管50の内面全周を覆うためである。
【0063】
探傷ヘッド20が鋼管50の軸方向に移動している間、各プローブPnは、検出信号を信号処理装置10に出力する。信号処理装置10は各プローブPnからの検出信号を受け、検出信号に基づいて、探傷結果を出力する。
【0064】
[他の実施の形態]
[アーム機構An]
アーム機構Anは上述の構成に限られない。たとえば、アーム機構Anは図14に示す構成であってもよい。図14を参照して、アーム機構Anは、一対のフロントアーム部材71と、一対のリアアーム部材72と、フロント取付部材77Fと、リア取付部材77Rと、レール78と、付与機構74とを備える。
【0065】
フロント取付部材77Fは、ヘッド本体B0の表面B01上に固定される。一対のフロントアーム部材71の下端部は、ヘッド本体B0の幅方向に延びるピン81Lにより連結される。これにより、一対のフロントアーム部材71は、ヘッド本体B0の軸方向に揺動可能に取り付けられる。さらに、一対のフロントアーム部材71の上端部は、ピン81UによりプローブPnの連結部材62に連結される。
【0066】
レール78は、表面B01上に固定され、ヘッド本体B0の軸方向に延びる。リア取付部材77Rはレール78上にスライド可能に取り付けられる。一対のリアアーム部材72の上端部は、ピン82Lにより、対応するフロントアーム部材71の中央部に揺動可能に連結される。一対のリアアーム部材72の下端は、ピン82Lによりリアアーム部材72に連結される。これにより、リアアーム部材72は、ヘッド本体B0の軸方向に揺動可能に取り付けられる。
【0067】
付与機構74は本例では弾性体であり、より具体的には、ばねである。付与機構は、その一端をフロント取付部材77Fの後端に取り付けられ、その他端をリア取付部材77Rの前端に取り付けられる。これにより、付与機構74は、フロントアーム部材71に対して、ピン81Lを支点として、フロントアーム部材71を起こす方向に回転する力を付与する。
【0068】
以上の構成によるアーム機構Anも、図5と同様に、プローブPnを鋼管50の径方向に昇降する。たとえば、図15に示すように、付与機構74が縮むと、リア取付部材77Rが前方にスライドする。そのため、フロントアーム部材71がピン81L周りを回転し、起き上がる。その結果、プローブPnは持ち上げられる。
【0069】
また、アーム機構Anは図16に示す構成であってもよい。図16を参照して、アーム機構Anは、連結部材62の下面と、ヘッド本体B0の表面B01との間に接続される付与機構74と、筒体91とを備える。付与機構74は、本例ではばねである。筒体91は、表面B01上に立てて配置され、内部に付与機構74を含む。筒体91の上端の開口には、連結部材62が挿入される。外力を受けた付与機構74が縮むと、図17に示すように、プローブPnが鋼管50の径方向に下降する。そして、付与機構74が外力から解放されると、図16に示すように、付与機構74は伸び、プローブPnが鋼管50の径方向に上昇する。このような構成のアーム機構Anも、図5や図14のアーム機構と同様に、プローブPnを鋼管50の径方向に昇降できる。
【0070】
[プローブPn]
探傷装置1は、図7に代えて、図18に示すいわゆるパンケーキ型のプローブPnを用いても良い。図18を参照して、パンケーキ型の探傷シート65内のコイル602は、シート基材601の法線方向に延びるコイル軸を有する。この場合、鋼管50の内面に対して渦電流が渦状に流れる。このようなプローブPnを用いた場合であっても、探傷装置1は、鋼管50の内面のきずを探傷できる。パンケーキ型のプローブPnにおいてコイル602はたとえば、印刷により形成される。なお、図示していないが、プローブ表面上(コイル602の上)には保護被膜が形成されている。保護被膜は、表面が鋼管50の内面と接触して摩耗したり、コイルが破損したりするのを防止する。
【0071】
[その他]
上述の実施の形態では、図6に示すように、昇降機構30がプローブPnを最上点に持ち上げた場合でも、図2に示すように、正面視で隣り合うプローブPn同士の表面が重複する。しかしながら、昇降機構30がプローブPnを最上点に持ち上げたときに、正面視で隣り合うプローブPn同士の表面が重複しなくてもよい。最上点(Hmax)から最下点(Hmin)のうち、正面視で隣り合うプローブ同士の表面66が重複する高さの範囲において、本発明の効果は得られる。要するに、少なくとも昇降機構30によりプローブPnが最下点まで降ろされたとき、ヘッド本体B0の正面から見て、隣り合うプローブPn同士の表面が重複していれば、本願発明の効果はある程度得られる。好ましくは、昇降機構30によりプローブPnが最上点に持ち上げられたとき、正面視で隣り合うプローブPn同士の表面が重複する。この場合、最上点と最下点との間のいずれの高さにおいても、本発明の効果が得られる。
【0072】
上述の実施の形態では、牽引車がワイヤ12を引っ張ることにより探傷ヘッド20を移動する。しかしながら、牽引車に代えて、作業者がワイヤ12を引っ張って探傷ヘッド20を移動してもよい。
【0073】
また、上述の実施の形態では、プローブPnは可撓性を有する探傷シート65と弾性部材64とを備える。しかしながら、プローブPnは可撓性を有する探傷シート65を備え、弾性部材64を備えなくてもよい。この場合であっても、探傷シート65がある程度、鋼管50の内面に応じて凸に湾曲する。
【0074】
さらに、プローブPnの探傷シート65は可撓性を有さなくても良い。この場合、プローブPnの表面66は凸に湾曲しているのが好ましい。このようなプローブPnでは、表面66が鋼管50の内面に合わせて湾曲しないため、コイル602と鋼管50の内面との間隔を一定に保てない、いわゆるリフトオフの問題が生じうる。しかしながら、このようなプローブPnを用いた場合であっても、ある程度の精度の探傷を行うことができる。
【0075】
図5では、付与機構74を連結部材73の下方後端とフロントアーム部材71の下端との間に接続する。しかしながら、付与機構74は他の位置に配置してもよい。要するに、フロントアーム部材71を起こすように回転する力を付与機構74がフロントアーム部材71に付与できれば、付与機構74の配置位置は限定されない。
【0076】
また、上述の実施の形態では、加圧装置として付与機構74を用いて、フロントアーム部材71に力を付与する。しかしながら、他の加圧装置として、付与機構74に代えて、油圧シリンダやエアシリンダ等を用いてもよい。
【0077】
上述の実施の形態では、プローブPnは2つの探傷コイル602を備える。しかしながら、探傷コイル602は1つであってもよい。この場合、1つの探傷コイルが励磁コイルとして機能し、かつ、検出コイルとして機能する。
【0078】
上述の実施の形態では、探傷装置1は鋼管を探傷する。しかしながら、探傷装置1は鋼管に限らず、他の金属管を探傷することもできる。また、中心に貫通穴を設けた鋼管に成形前の中空ビレットや、製管途中の中空素管も探傷することができ、これらビレットや素管も本発明の管状の被探傷材に含まれる。
【0079】
上述の実施の形態では、プローブP1〜P12が螺旋状に配置される。しかしながら、プローブP1〜P12の配置はこれに限られない。たとえば、プローブP1とP7が同一円周上に配置され、プローブP2とP8、P3とP9、P4とP10、P5とP11、P6とP12とがそれぞれ同一円周上に配置されてもよい。また、P1、P3、P7、P9及びP11が同一円周上に配置され、P2、P4、P6、P8、P10及びP12がP1等が配置される円周と異なる同一円周上に配置されてもよい。要するに、正面視において隣り合うプローブPn同士が、側面視においてヘッド本体B0の軸方向に互いに離れて配置されていれば、プローブPnの配置は制限されない。
【0080】
上述の実施の形態では、プローブ数を12としたが、プローブ数は12個に限定されず、複数あればよい。好ましいプローブ数は3以上であり、より好ましくは4以上である。
【0081】
さらに、上述の実施の形態では、探傷装置1は、渦流探傷用のプローブPnに代えて、超音波探傷用のプローブを備えてもよい。この場合も、鋼管50の内面を探傷できる。
【0082】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 探傷装置
10 信号処理装置
20 探傷ヘッド
30 昇降機構
50 鋼管
62 連結部材
63 台座
64 弾性部材
65 探傷シート
71 フロントアーム部材
72 リアアーム部材
73 連結部材
74 付与機構
81L,81U,82L,82U ピン
601 シート基材
602 探傷コイル
A1〜A12 アーム機構
B0 ヘッド本体
P1〜P12 プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の被探傷材の内面を探傷する内挿型の探傷装置であって、
棒状の本体と、
前記本体の軸周りに配置され、前記管の内面と対向する表面を有する複数のプローブと、
前記本体と前記プローブとの間に取り付けられ、前記プローブを前記管の径方向に昇降可能に支持し、前記プローブの前記表面を、前記本体の表面に最も近い最下点と、前記本体の表面から最も離れた最上点との間の所定の高さに配置する昇降機構とを備え、
前記昇降機構により前記複数のプローブの前記表面が前記最下点まで降ろされたとき、前記本体の正面から見て隣り合う前記プローブの前記表面は互いに重なって配置され、かつ、前記隣り合うプローブは、前記本体の軸方向に互いに重なりなく配置される、探傷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の探傷装置であって、
前記複数のプローブは、前記本体の正面から見て前記本体の軸周りに等間隔に配置され、かつ、前記本体の軸方向に沿って螺旋状に配置される、探傷装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の探傷装置であって、
前記昇降機構は、
前記本体と前記プローブとの間に配置されるアーム部材を備え、
前記アーム部材は、前記本体の軸方向に揺動可能に前記本体に取り付けられ、かつ、前記プローブと連結される端部を含む、探傷装置。
【請求項4】
請求項3に記載の探傷装置であって、
前記昇降機構はさらに、
前記アーム部材を起こす方向に回転する力を付与する機構を含む、探傷装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の探傷装置であって、
前記プローブは、
前記昇降機構と連結される台座と、
前記台座上に配置される探傷シートとを備え、
前記探傷シートは、
可撓性を有するシート基材と、
探傷コイルとを含む、探傷装置。
【請求項6】
請求項5に記載の探傷装置であって、
前記プローブはさらに、
前記探傷シートと前記台座との間に配置される弾性部材を含む、探傷装置。
【請求項7】
請求項6に記載の探傷装置であって、
前記弾性部材は、弾性発泡体である、探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−128077(P2011−128077A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288296(P2009−288296)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】