説明

探知測距装置および探知測距方法

【課題】探知測距装置において、角度推定の前段に行われる目標数推定の計算負荷を軽減し、且つ、推定精度を向上させる。
【解決手段】擬似空間平均共分散行列生成部104b−6は、Rf1、Rf2、Rb1、Rb2から、適切な行列を一つ選択するか、適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて、擬似空間平均共分散行列Rを生成する。擬似空間平均共分散行列エルミート共役積生成部104c−1は、目標数推定用行列RRを生成する。目標数推定用行列分解部104c−2は、RRにLU分解を施して下三角行列Lと、上三角行列Uとに分解する。指標生成部104d−1は、この上三角行列Uの要素を用いた指標を生成する。指標パラメータ走査処理部104d−2は、指標生成部104d−1によって生成された指標を用いて目標数mを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信用センサアレイと、n個(2≦n)のセンサ素子から構成される受信用センサアレイとを有し、前記送信用センサアレイから送出された送信信号が目標に反射して到来する反射信号に基づいて前記目標の数である目標数を推定し、前記目標数に基づいて前記反射信号が到来する角度を推定する探知測距装置および探知測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数のセンサ素子から構成されるセンサアレイを受信用アンテナとし、送信用センサアレイからの送出波が目標によって反射される事で生成した反射波に基づいて、目標数および各目標の位置を検出する探知測距装置がある。かかる探知測距装置は、各反射波の数および到来方向をいかに精度よくおこないうるかが、装置性能において重要なポイントとなってくる。
【0003】
例えば、図7に示すように、隣り合うセンサ素子同士の間隔がdとなるようにn個のセンサ素子(センサ素子106a〜106a)をX軸上に並べて構成した等間隔リニアアレイアンテナ(以下、ULA(Uniform Linear Array)と略記)に、m個の目標βによって反射されてきた独立なエコー信号(送出波の反射)が、互いに異なるθβなる角度(センサ素子106aの位置を座標原点、前記X軸に対する垂線をY軸とし、更に、このY軸の正方向(Y軸の矢印方向)を基準に時計回りを角度の正方向として測った角度)をもって入射してきたものとする。ただし、βは目標の番号であり、β=1,2,・・・,mである。
【0004】
このとき、時刻tに於いてα(α=1,2,・・・,n)番目のセンサ素子による受信信号を復調して得られる信号vα(t)は、1番目のセンサ素子106aを位相基準とした場合、ベースバンド信号をxβ(t)、電力σの加法性ガウス雑音信号をnα(t)として、次式の様にあらわせる。
【0005】
【数1】

【0006】
ここで、上記(1)式において、『exp』は、自然対数を底とする指数関数であり、jは虚数単位である。また、φα,βは、次式で定義される。但し、λは送信波のキャリア信号の波長である。
【0007】
【数2】

【0008】
そして、すべてのαについての上記(1)式をベクトルV(t)で表現すると、次式の様になる。
【0009】
【数3】

【0010】
ここで、角度ベクトル(モードベクトル)a(θβ)を次式で定義する。
【0011】
【数4】

【0012】
そして、上記(3)式における行列A、ベクトルX(t)、ベクトルN(t)は、次式の様に定義される。
【0013】
【数5】

【0014】
【数6】

【0015】
【数7】

【0016】
なお、上記(6)式の『[x(t),・・・,x(t)]』、および、上記(7)式の『[n(t),・・・,n(t)]』に現れる上付き添え字の『T』は、ベクトルまたは行列の転置をあらわす。
【0017】
そして、X(t)とN(t)との間に相関がないものとして、上記(3)式から、V(t)の共分散行列Rvvを計算すると、次式のようになる。なお、次式中の『I』は、単位行列をあらわす。また、σは、上記した様に、雑音信号の電力である。
【0018】
【数8】

【0019】
上記(8)であらわされるRvvが、目標の角度推定をおこなう場合の基本的な演算対象となる。ここで、『V(t)』および『A』に付された上付き添え字の『H』は、ベクトルまたは行列のエルミート共役をあらわす。また、Rxxはベースバンド信号の共分散行列で、次式で定義される。
【0020】
【数9】

【0021】
さて、ULAによって受信されたエコー信号は、同じ信号源からの送信信号が目標によって反射されてきたものに他ならないから、n次行列RvvのRank(階数)は、1である。従って、このままでは、逆行列演算や固有値分解などの計算ができない場合がある。
【0022】
そこで、Rvvの主対角線方向に、(n−L+1)個のL次正方部分行列を取り、これらを足し合わせて平均する手法(前方空間平均:Forward Spatial Smoothing(FSS))、または、ULAの基準点を反転させて同様の操作を行う手法(後方空間平均:Backward Spatial Smoothing(BSS))を単独、若しくは組み合わせて(FBSS)利用し、上記問題を解消していた。
【0023】
そして、例えば、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)では、この様にして得たL次の正方行列RvvFBSSを、先ず、次式の様に固有値分解し、雑音固有値に対応する固有ベクトルから構成される行列Eを求める。
【0024】
【数10】

【0025】
ただし、上記(10)式において、反射信号の固有値λβ(β=1,2,・・・,m)からなる行列をΛ、対応する信号部分空間を張るベクトルから成る行列をE、雑音の固有値σのみから成る行列をσ、同じく雑音部分空間を張るベクトルから成る行列をEとすると、Λ、Λ、Eは、それぞれ以下の通りである。なお、Λの式中に現れる『diag[λ,・・・,λ]』は、λ,・・・,λを対角成分とする対角行列をあらわす。
【0026】
【数11】

【0027】
【数12】

【0028】
【数13】

【0029】
そして、次式によって目標βの角度θβの角度推定を行っていた。すなわち、θをパラメータとして、上記(4)式で定義される角度ベクトルa(θ)を用いて、L次の正方行列RvvFBSSに含まれる角度情報を走査し、Pmusic(θ)の値がピークとなる角度を求めることによって、目標β(β=1,2,・・・,m)の角度推定をそれぞれおこなうのである。
【0030】
【数14】

【0031】
ここで、角度推定を正確におこなうためには、目標数mに対して、適切なサイズLの部分行列(FBSSの場合、L≧m+1かつn−L+1≧m)を選んで空間平均を適用し、RvvのRankを回復させ、正しいサイズのEを求める必要がある。
【0032】
ところが、一般に、目標数mは未知数であるから、従来は、適当なLを設定して、RvvFBSSを求め、さらに、その行列Λの対角要素である固有値を求め、例えば、次式で定義される統計的指標AIC(i)(Akaike’s Information Criterion)を導入して、目標数の推定をおこなっていた。なお、次式に現れるNは、データのサンプル数である。
【0033】
【数15】

【0034】
なお、上記(15)式の最小値を与えるパラメータi(自然数)の値pは、次式によってパラメトリックに求められる。なお、次式の『arg min[AIC(i)]』は、パラメータiを走査して『AIC(i)』の最小値を求める操作をあらわす。
【0035】
【数16】

【0036】
勿論、Λの見積もりが妥当でなければ、上記(16)式による結果の妥当性も保証されない。故に、許容範囲内で、上記(15)式中の『L』の値を様々に変えて、上記(16)式の計算を試みなければならなかった。これは、上記(10)式による固有値分解だけでも計算量が多く、処理時間がかかる上に、さらに計算負荷を重くするものであった。
【0037】
さらに、上記(11)式から明らかな様に、Λの対角成分には、信号成分の部分にも必ず雑音成分が重畳されるので、特に、車載レーダの様に、SNR(Signal to Noise Rate、以下、SN比とする)が悪い環境で使用される場合は、目標数推定の信頼性が極めて低くなる。
【0038】
また、目標の角度推定の機能を、センサアレイを用いて実現する探知測距装置では、角度推定を行う前処理として、目標数の正確な推定を必須とするアルゴリズムを採用するケースが多い。しかし、プローブ信号のコヒーレント性を空間平均によって補償し、信号共分散行列のRankを回復させて目標数の推定を成功させるためには、正しく目標数が推定されていなければならない、というリカーシブなアルゴリズム構造問題を内包していた。
【0039】
そのため、信号共分散行列から、そのサイズを一種のパラメータとして適当に取り出した部分行列を用いて空間平均を適用し、得られた空間平均行列の固有値を求め、これをAICなどの統計的指標で評価するといった計算を、部分行列のサイズを次々に変えながら、試行錯誤で行う必要があった。
【0040】
また、n次の行列を固有値分解する計算には、例えば、4n程度のオーダーの計算量が必要であり、目標数推定では、これをパラメトリックに行うので、さらに、その10倍程度の計算量が必要になる。このため、CPU(Central Processing Unit)の性能が低い車載レーダや、探知測距情報の素早い更新が要求されるモバイル機器などへの応用が困難であった。さらに、通常の信号共分散行列を固有値分解して得られた対角行列の全ての要素には、雑音電力が加算されるので、SN比の劣化に極めて脆弱であった。
【0041】
そこで、角度推定の信頼性を図るため、例えば、特許文献1に開示されるように、時間領域データベクトルXの共分散行列E[XX]=Rxxを生成し、時間領域データベクトルXにFFT(Fast Fourier Transform、高速フーリエ変換)を施して、適当な閾値以下の信号をクリップし、これにIFFT(Inverse Fast Fourier Transform、逆高速フーリエ変換)を施して、白色化されたデータベクトルYを生成し、データベクトルYの共分散行列をE[YY]=LLとCholesky分解し、相関波の抑圧された行列R=L−1xx−Hを生成し、Rを固有値分解して、AICの精度を向上させる波数推定装置が提案されている。
【0042】
また、角度推定のための計算量を軽減するために、例えば、特許文献2に開示されるように、データベクトルXの共分散行列E[XX]=Rxxを生成し、Rxx=EΛ+σと固有値分解し、雑音固有ベクトルから成る行列をE=LLとCholesky分解し、下三角行列であるLを用いて角度スペクトラムP(θ)=a(θ)a(θ)/|La(θ)|(ただし、a(θ)は、θをパラメータとする角度ベクトル(モードベクトル)をあらわす)を計算することにより、角度推定の計算負荷などを軽減する電波到来方向推定装置が提案されている。
【0043】
また、例えば、特許文献3に開示されるように、アレイアンテナで受信した到来波の個数を推定する際に、到来波に基づくアレイ共分散行列に基づく相関行列を作成し、この相関行列を用いて到来波数を推定するための推定行列を作成し、この推定行列にQR分解を施し、QR分解の結果である上三角行列の各行の要素に基づいて到来波数を推定することによって、計算負荷の高い固有値分解をおこなわず到来波数を推定する到来波推定装置が開示されている。
【0044】
【特許文献1】特開2005−181168号公報
【特許文献2】特開2002−243826号公報
【特許文献3】国際公開第2006/67869号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0045】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2に代表される従来技術では、n次の行列である場合、固有値分解に要する計算量は8n/3〜4nのオーダーである。さらに、固有ベクトルまで保存しておこうとすると、最低でも20n程度のオーダーの計算量が必要であり、処理負荷が大きかった。
【0046】
そして、上記特許文献2に代表される従来技術では、目標数mの見積もりが妥当でなければ、角度推定の結果の妥当性も保証できないので、許される範囲で空間平均行列の計算に用いる部分行列のサイズLを様々に変えて、目標数推定を何度も試みなければならなかった。すなわち、固有値計算だけでも時間が掛かる所に加えて、試行錯誤の時間も必要となり、膨大な計算量を必要とするにもかかわらず、必ずしも妥当な角度推定の結果が求まる訳ではなかった。
【0047】
さらに、上記特許文献3に代表される従来技術では、雑音の影響が極めて小さくなる擬似共分散行列にQR分解を施した結果の上三角行列Rの要素に基づく指標を用いて、より迅速かつ正確に目標数の推定をおこない得る。しかし、Qは直交行列であり、Rの対角要素が擬似共分散行列の固有値となるという特徴があるものの、n次の行列である場合には、4n/3程度の計算量が必要になり、計算負荷という点において、なお負荷が大きく、性能が低いCPUやモバイル端末への適用が困難であった。
【0048】
本発明は、上記問題点(課題)を解消するためになされたものであり、センサアレイを使用して目標の角度推定機能を実現する探知測距装置において、角度推定の前処理として行われる目標数推定の計算負荷を軽減し、更に目標数推定精度を向上させることによって角度推定精度を向上させ、SN比の劣化にも強い探知測距装置および探知測距方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0049】
上述した問題を解決し、目的を達成するため、本発明に基づく探知測距装置は、送信用センサアレイと、n個(2≦n)のセンサ素子から構成される受信用センサアレイとを有し、送信用センサアレイから送出された送信信号が目標に反射して生成される反射信号を前記受信用センサアレイで受信し、受信用センサアレイのn個の前記センサ素子の出力に基づく相関ベクトルを生成する相関ベクトル生成部と、相関ベクトル生成部によって生成された相関ベクトルに基づいて擬似前方空間平均共分散行列および/または擬似後方空間平均共分散行列を計算する擬似空間平均共分散行列計算部と、擬似空間平均共分散行列計算部によって計算された擬似前方空間平均共分散行列および/または擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて目標数推定用行列を生成する目標数推定用行列生成部と、目標数推定用行列生成部によって生成された目標数推定用行列に対してCholesky分解またはLU分解をおこなった結果の上三角行列の要素を用いて定義される指標、または、LDM分解をおこなった結果の対角行列の対角要素、若しくは、LDM分解をおこなった結果の対角行列の対角要素およびLDM分解をおこなった結果の上三角行列の行ベクトルの要素に基づく指標を用いて目標数の推定をおこなう目標数推定部を有し、前記目標数推定部で推定された目標数に基づいて、各反射信号の到来方向の推定を行う到来方向推定部とを有する事を特徴とする。
【発明の効果】
【0050】
開示の探知測距装置および探知測距方法は、目標数推定用行列に対して、計算量が少ないCholesky分解、LU分解またはLDM分解をおこない、この行列分解の結果である上三角行列の要素または対角行列の対角要素を用いて定義される指標に基づき目標数の推定をおこなうので、目標数推定処理の高速化、高精度化、アルゴリズムの簡易化、コンパクト化を図ることができ、延いては、目標数推定処理論理の実装を、ハードウェア実装およびソフトウェア実装ともにコンパクトおこなうことができるという効果を奏する。
【0051】
また、開示の探知測距装置および探知測距方法は、擬似前方空間平均共分散行列および/または擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて目標数推定用行列を生成するので、状況に応じて、目標数推定用行列のサイズをより小さくすることができ、目標数推定処理の高速化を図ることができるという効果を奏する。
【0052】
また、開示の探知測距装置および探知測距方法は、目標間の想定される相対離角および/または反射信号のSN比に応じて、擬似前方空間平均共分散行列および/または擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて目標数推定用行列を生成するので、目標間の想定される相対離角および反射信号のSN比に応じて、目標数推定用行列のサイズをより小さくすることができ、目標数推定処理の高速化を図ることができるという効果を奏する。
【0053】
また、開示の探知測距装置および探知測距方法は、目標間の想定される相対離角および/または反射信号のSN比に応じて、擬似前方空間平均共分散行列および/または擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて出力行列を生成し、前記出力行列と前記出力行列のエルミート共役との積を目標数推定用行列として生成し、前記目標数推定用行列をCholesky分解、LU分解またはLDM分解した結果の上三角行列の行ベクトル要素、または、対角行列の対角要素および上三角行列の行ベクトル要素を用いて定義される指標に基づき目標数の推定をおこなうので、目標間の想定される相対離角および/または反射信号のSN比に応じて、より計算量が少ない手法を用いて、高速に目標数推定処理をおこなうことができるという効果を奏する。
【0054】
また、開示の探知測距装置および探知測距方法は、目標間の想定される相対離角および反射信号のSN比に応じて、目標数推定用行列に対してCholesky分解、LU分解またはLDM分解のいずれかの分解方法を選択して目標数の推定をおこない、目標数の推定が正常完了しなかった場合に、他の分解方法を選択して、再度、目標数の推定をおこなうので、目標間の想定される相対離角および/または反射信号のSN比に応じて、より計算量が少ない手法を用いて、効率的かつ高速に目標数推定処理をおこなうとともに、目標数推定処理が正常完了しなかった場合には、他の手法を用いて、再度、目標数推定処理をおこない、目標数推定処理をより確実に正常完了させることが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下に添付図面を参照し、本発明の探知測距装置および探知測距方法にかかる実施例を詳細に説明する。
【実施例】
【0056】
先ず、実施例にかかる探知測距装置の構成について説明する。図1は、実施例にかかる探知測距装置の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、実施例にかかる探知測距装置100は、隣接するセンサ素子の間隔がdとなるように等間隔に並べられたセンサ素子106a〜106aと、センサ素子106a〜106aと接続されている受信部101と、ベースバンド部102と、A/D(Analog/Digital)変換部103と、制御部104とを有する。
【0057】
また、制御部104は、高速フーリエ変換およびピーク検出部104aと、擬似空間平均共分散行列計算部104bと、目標数推定用行列生成部104cと、目標数推定部104dと、射影行列生成部104eと、到来方向推定部104fとを有する。
【0058】
受信部101は、センサ素子106a〜106aを介して、m個の目標から反射されてきた独立な反射波であるエコー信号を受信する。受信部101によって受信されたエコー信号は、ベースバンド部102によって、ベースバンド信号へと変換された後に、A/D変換部103によってデジタル信号へと変換される。デジタル信号は、行列Vで表現され、サンプリング間隔をΔt、サンプル数をkとすると、次式の様になる。
【0059】
【数17】

【0060】
すなわち、デジタル信号Vは、n行k列の複素行列である。ここで、行列Vの要素である時刻tに於ける信号ベクトルV(t)は、次式に示す通りである。
【0061】
【数18】

【0062】
このデジタル信号Vは、制御部104の高速フーリエ変換およびピーク検出部104aへと入力される。高速フーリエ変換およびピーク検出部104aは、次式に示される様に、デジタル信号VにFFT処理を施し、n行k列の複素行列FFT[V]に変換する。ただし、Δωは基本周波数である。
【0063】
【数19】

【0064】
そして、高速フーリエ変換およびピーク検出部104aは、前記FFT[V]の、例えば1行目の信号ベクトルのパワースペクトラムを評価してピーク検出を行い、前記ピークの周波数インデックスγに於ける信号ベクトルV(γ)を出力する。但し、V(γ)は次式で定義される。
【0065】
【数20】

【0066】
このV(γ)は、擬似空間平均共分散行列計算部104bへと入力される。擬似空間平均共分散行列計算部104bは、上記(20)式に基づき、文献(IEEE Trans. on Signal Processing、Vol.52、No.4、2004、pp.876-893)で提案されている手法を用いて、最終的に、擬似空間平均共分散行列を求める処理部である。
【0067】
図2に示す様に、疑似空間平均共分散行列計算部104bは、相関ベクトル計算部104b−1と、行列次元決定部104b−2と、擬似前方空間平均共分散行列計算部104b−3と、擬似後方空間平均共分散行列計算部104b−4と、目標間相対離角および/またはSN比監視部104b−5と、疑似空間平均共分散行列生成部104b−6とをさらに有する。
【0068】
先ず、相関ベクトル計算部104b−1は、ベースバンド信号の相関ベクトルRv1、Rv2を、次式によって計算する。なお、先述の如く、ベースバンド信号は、FFT処理によって、周波数領域の量に変換され、信号データの周波数軸上の位置はインデックスγで識別されるものとする。ただし、v(γ)、v(γ)は、それぞれベクトルV(γ)の1行目、及びn行目の要素の複素共役値(スカラー)をあらわす。
【0069】
【数21】

【0070】
【数22】

【0071】
次に、行列次元決定部104b−2は、後述する一般化ハンケル行列(以降、単にハンケル行列と記す)Rf1、Rf2を構成する行ベクトルの次元xを、次式に基づいて事前に決定しておく。但し、[*]はガウス記号である。
【0072】
【数23】

【0073】
なお、簡単のため、次式で定義される『y』を導入する。
【0074】
【数24】

【0075】
そして、擬似前方空間平均共分散行列計算部104b−3は、y行x列のハンケル行列Rf1、Rf2を、次式に基づいて生成する。なお、Rf1、Rf2は、擬似空間の前方空間に対応する行列である。
【0076】
【数25】

【0077】
【数26】

【0078】
そして、擬似後方空間平均共分散行列計算部104b−4は、次式に示すように、反対角要素が1、それ以外の要素が0である反対角行列Jを用いて、Rf2、Rf1からRb1、Rb2をそれぞれ生成する。Rb1、Rb2は、擬似空間の後方空間に対応する行列であるから、勿論、Rf1、Rf2を構成するのと同様の手順でV(γ)から直接計算しても良い。なお、(27)式、(28)式に於いて、Rf2、Rf1に付されている上付き添え字「*」は、当該行列の各要素について複素共役を取る事を示す。
【0079】
【数27】

【0080】
【数28】

【0081】
ここで、次式に留意して多少の計算をおこなうと、Rf1=AZなる形をしていることが分かる。
【0082】
【数29】

【0083】
そして、疑似空間平均共分散行列生成部104b−6は、Rf1、Rf2、Rb1、Rb2の4つの行列を並べて、以下に示す行列Rを生成する。Rは、空間平均を適用した共分散行列と同じ情報を持つことが示されているので、これを擬似空間平均共分散行列と呼ぶ。
【0084】
【数30】

【0085】
なお、擬似空間平均共分散行列Rは、上記(30)に示したものに限られるものではない。すなわち、疑似空間平均共分散行列生成部104b−6は、目標間の相対離角および/またはSN比監視部104b−5によって監視される目標間の想定される相対離角および/または受信した反射信号のSN比に基づき、目標間の想定される相対離角および/または受信した反射信号のSN比が第1の閾値以上であれば、Rf1、Rf2、Rb1、Rb2のうちのいずれか1つを選択して、これを擬似空間平均共分散行列Rとしてもよい。
【0086】
また、目標間相対離角および/またはSN比監視部104b−5によって監視される目標間の想定される相対離角および/または受信した反射信号のSN比が第2の閾値以上かつ第1の閾値未満(ただし、第2の閾値≦第1の閾値である)であればRf1、Rf2、Rb1、Rb2のうちの少なくとも2つを選択した組み合わせを擬似空間平均共分散行列Rとしてもよい。
【0087】
また、目標間相対離角および/またはSN比監視部104b−5によって監視される目標間の想定される相対離角および/または受信した反射信号のSN比が第2の閾値未満であればRf1、Rf2、Rb1、Rb2のすべてを選択して組み合わせて、上記(30)式に示した擬似空間平均共分散行列Rを生成することとしてもよい。
【0088】
疑似空間平均共分散行列計算部104bは、以上の様にして生成された擬似空間平均共分散行列Rを、目標数推定用行列生成部104cへと出力する。
【0089】
目標数推定用行列生成部104cは、図2に示すように、疑似空間平均共分散行列エルミート共役積生成部104c−1と、目標数推定用行列分解部104c−2とをさらに有する。
【0090】
疑似空間平均共分散行列エルミート共役積生成部104c−1は、疑似空間平均共分散行列計算部104bによって生成された擬似空間平均共分散行列Rから、一旦、Rと、Rのエルミート共役Rとの積RRを、目標数推定用行列として生成する。
【0091】
次に、目標数推定用行列分解部104c−2は、疑似空間平均共分散行列エルミート共役積生成部104c−1によって生成されたRRに対して、行列のLU分解演算を施して、下三角行列Lと、上三角行列Uとに分解する。すると、次式のようになる。
【0092】
【数31】

【0093】
上記(31)式であらわされる、目標数推定用行列分解部104c−2によるRRの分解結果は、目標数推定部104dへと出力される。
【0094】
目標数推定部104dは、図2に示すように、指標生成部104d−1と、指標パラメータ走査処理部104d−2とをさらに有する。先ず、指標生成部104d−1は、事前に、上記(31)式の上三角行列Uの行ベクトルの要素を用いて以下の様な指標を定義しておく。
【0095】
【数32】

【0096】
次に、指標パラメータ走査処理部104d−2は、上記(32)式のρ±(i)を利用して、次式で与えられるpを以って、目標数mを推定する。
【0097】
【数33】

【0098】
なお、上記(33)式の『arg max[ρ(i)/ρ(i+1)]』は、パラメータiを走査して『ρ(i)/ρ(i+1)』の値が最大となるiを求める操作をあらわす。
【0099】
また、指標パラメータ走査処理部104d−2は、上記(33)式のρ(i)を利用して、次式で与えられるpを以って、目標数mを推定してもよい。
【0100】
【数34】

【0101】
なお、上記(34)式の『arg max[ρ(i)/ρ(j)]』は、パラメータiおよびj(但し、i≠j)を走査して『ρ(i)/ρ(j)』の値が最大となるiを求める操作をあらわす。
【0102】
また、上記(32)式に示した指標に代えて、次式で示される指標を用いてもよい。
【0103】
【数35】

【0104】
なお、|*|は、*のノルムを示す。例えば、|u|としてLノルムを採用すれば、その具体的な値は、上三角行列Uの第i行の成分uii、uii+1、・・・、uiyのそれぞれの絶対値自乗和(の平方根)となる。
【0105】
そして、指標パラメータ走査処理部104d−2は、上記(35)式のρ(i)を利用して、次式で与えられるpを以って、目標数mを推定する。
【0106】
【数36】

【0107】
なお、上記(36)式の『arg max[ρ(i)/ρ(i+1)]』は、パラメータiを走査して『ρ(i)/ρ(i+1)』の値が最大となるiを求める操作をあらわす。
【0108】
または、指標パラメータ走査処理部104d−2は、上記(35)式のρ(i)を利用する次式で与えられるpを以って、目標数mを推定してもよい。
【0109】
【数37】

【0110】
なお、上記(37)式の『arg max[ρ(i)/ρ(j)]』は、パラメータiおよびj(但し、i≠j)を走査して『ρ(i)/ρ(j)』の値が最大となるiを求める操作をあらわす。
【0111】
また、受信した反射信号のSN比が比較的良好で、かつ、RRが正定値エルミート行列である場合、目標数推定用行列分解部104c−2は、RRをRR=LLとCholesky分解し、上三角行列Lに対して上記と同様な指標ρ±またはρを定義して、目標数を推定することも可能である。なお、Cholesky分解とは、正定値エルミート行列を、下三角行列Lと、そのエルミート共役行列Lとの積に分解する手法である。
【0112】
また、目標数推定用行列分解部104c−2は、RRの分解に計算負荷の低い他の行列分解手法、例えば、LDM分解を用いてもよい。ただし、この場合は対角行列Dの対角要素を用いて、上記(32)式または上記(35)式と同様の指標を定義する。LDM分解とは、ある行列Aが、適切な正則行列Lについて、D=LAL−1と対角化可能である場合、M=(L−1とする事で、Aを、下三角行列L、対角行列Dおよび上三角行列Mの3つの行列の積として、A=LDMと分解する手法である。
【0113】
また、目標数推定用行列分解部104c−2は、目標間の想定される相対離角および/または受信したベースバンド信号のSN比が所定閾値以上であり、RRが正定値エルミート行列となる可能性が高い場合に、先ず、擬似空間平均共分散行列RをCholesky分解することとしてもよい。Cholesky分解は、LU分解、LDM分解に比べ、最も計算量が少ない手法である。
【0114】
目標数推定用行列生成部104cは、Cholesky分解を利用した目標数の推定結果と、前回の推定結果との差が顕著な場合(例えば、短時間で目標数が2倍となる)、またはCholesky分解が失敗した場合、次に、RRをLU分解(または、LDM分解)することとしてもよい。
【0115】
ところで、ある行列Aに対し、A=Aとしてz=0、1、…について以下の計算、即ち、A=LとLU分解し、これを用いてAz+1=Uとすること、を繰り返すと、最終的に、Aは、対角要素に固有値を持つ上三角行列に収束することが知られている。すなわち、RRを単純にLU分解して得られた上三角行列Uは、Aの一次近似である。
【0116】
よって、原理的には、上三角行列Uの対角成分を指標として、目標数の推定が可能となる。しかし、SN比が低い条件下におけるロバスト性向上の観点から、行ベクトルの大きさの比を以って目標数推定の指標とするのが望ましいことから、上記(33)式、(34)式、(36)式、(37)式に基づいて、目標数mを推定する。
【0117】
また、上記(32)式で定義した指標のうち、行ベクトルの対角要素から、該当する行ベクトルの残りの成分の大きさの和を差し引いたものは、Gershgorinの定理を念頭に置いて定めた指標である。
【0118】
すなわち、Gershgorinの定理によれば、行列の固有値は、i番目の対角要素を中心として、該当する行ベクトルの残りの成分の大きさの和で定義される半径を持つ円内の何処かに存在する。即ち、行列の固有値λはi=1、・・・、yに対して、以下の不等式の左辺に表わされる範囲に存在する。
【0119】
【数38】

【0120】
すなわち、上記(33)式、(34)式、(36)式または(37)式による評価をおこなえば、信号数の推定が可能となる。
【0121】
以上のようにして、従来と比較して、少ない計算量で目標数が推定されることから、CPU性能が低い車載レーダや、探知測距情報を素早く更新しなければならないモバイル機器などへの応用が可能になる。
【0122】
図1に戻って、射影行列生成部104eは、目標数推定部104dによって推定された目標数mに応じて、上記(30)式に示した行列Rから、例えば射影行列Qとスケーリング行列Sとを求める。射影行列生成部104eは、Rを、x行4x列の行列Rと、(y−x)行4x列の行列R(ただし、x、yは、それぞれ(23)式、(24)式に定義した数である)とに分割し、(39.1)式を用いてQを、(39.2)式を用いてSを、それぞれ計算する。
【0123】
【数39】

【0124】
但し、(39.1)式のIy−xは、(y−x)次単位行列である。また、RおよびRは、それぞれR、Rのエルミート共役を、(R−1は(R)の逆行列を表す。
【0125】
なお、目標推定用行列RRと、行列Q、Sとの関係は以下の通りである。なお、(40.1)から(40.2)への移行は、部分行列に関する逆行列の定理を用いる。
【0126】
【数40】

【0127】
到来方向推定部104fは、射影行列生成部104eによって生成された行列Qから、行列Q(QQ)-1を生成する(ただし、Qは、Qのエルミート共役をあらわす)。そして、Q(QQ)-1を用いたPROPAGATOR法(文献:IEEE Trans. on Signal Processing、Vol.39、No.3、1991、pp.746-749)によって、θをパラメータとして角度ベクトルa(θ)を走査し、(40)式がピークを示した時のパラメータθの値を求めることによって、各目標の角度θβの推定をおこなう。
【0128】
【数41】

【0129】
または、上記(41)式に代えて、下記の式を用いてもよい。この場合は、到来方向推定部104fは、射影行列生成部104eによって生成された行列QおよびSから、行列QS−1(ただし、S−1は、Sの逆行列をあらわす)を生成する。そして、QS−1を用いて、θをパラメータとして角度ベクトルa(θ)を走査し、(42)式がピークを示した時のパラメータθの値を求めることによって、各目標の角度θβの推定をおこなってもよい。
【0130】
【数42】

【0131】
目標βの方向θβの推定は、上記(41)式または(42)式に限られるものではなく、行列に含まれる角度情報を走査する方式であれば、いずれの方式であってもよい。例えば、上記(14)式を用いてもよい。
【0132】
到来方向推定部104fは、以上のようにして推定された、m個の目標βの方向θβを、出力装置200へと出力する。
【0133】
次に、実施例にかかる目標数推定処理について説明する。図3は、実施例にかかる目標数推定処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、先ず、高速フーリエ変換およびピーク検出部104aは、目標からのエコー信号のベースバンド信号が入力されたか否かを判定する(ステップS101)。
【0134】
目標からのエコー信号のベースバンド信号が入力されたと判定されば場合に(ステップS101肯定)、擬似空間平均共分散行列計算部104bでの計算処理に移行してステップS102へ移り、目標からのエコー信号のベースバンド信号が入力されたと判定されなかった場合には(ステップS102否定)、ステップS101を繰り返す(具体的には、周波数インデックス上で次のピーク位置γを探し、一セット分の測定データの何処にもピークが検出されなかった場合、再度データ測定を行う)。
【0135】
続いて、ステップS102では、相関ベクトル計算部104b−1は、ベースバンド信号の相関ベクトルRv1、Rv2を計算する。続いて、行列次元決定部104b−2は、構成するハンケル行列の次元を予め決定する(ステップS103)。
【0136】
続いて、擬似前方空間平均共分散行列計算部104b−3は、ハンケル行列Rf1、Rf2を構成する(ステップS104)。続いて、擬似後方空間平均共分散行列計算部104b−4は、擬似前方空間平均共分散行列計算部104b−3によって構成されたハンケル行列Rf1、Rf2に基づいて、ハンケル行列Rf2、Rf1に基づいて行列Rb1、Rb2を構成する(ステップS105)。
【0137】
続いて、目標間相対離角および/またはSN比監視部104b−5は、目標間の想定される相対離角および/またはエコー信号のSN比が第1の閾値以上か否かを判定する(ステップS106)。目標間の想定される相対離角および/またはエコー信号のSN比が第1の閾値以上であると判定された場合に(ステップS106肯定)、ステップS107へ移り、目標間の想定される相対離角および/またはエコー信号のSN比が第1の閾値以上であると判定されなかった場合に(ステップS106否定)、ステップS108へ移る。
【0138】
ステップS107では、擬似空間平均共分散行列生成部104b−6は、行列Rf1、Rf2、Rb1、Rb2の中から、疑似空間平均共分散行列Rとして、適切な行列を一つ選択する。この処理が終了すると、ステップS111へ移る。
【0139】
一方、ステップS108では、目標間相対離角および/またはSN比監視部104b−5は、目標間の想定される相対離角および/またはエコー信号のSN比が第2の閾値以上、第1の閾値未満か否かを判定する。目標間の想定される相対離角および/またはエコー信号のSN比が第2の閾値以上、第1の閾値未満であると判定された場合に(ステップS108肯定)、ステップS109へ移り、目標間の想定される相対離角および/またはエコー信号のSN比が第2の閾値以上、第1の閾値未満であると判定されなかった場合に、ステップS110へ移る。
【0140】
ステップS109では、擬似空間平均共分散行列生成部104b−6は、行列Rf1、Rf2、Rb1、Rb2の中から、疑似空間平均共分散行列Rとして、適切な行列を2つ以上選択して組み合わせる。この処理が終了すると、ステップS111へ移る。
【0141】
一方、ステップS110では、擬似空間平均共分散行列生成部104b−6は、行列Rf1、Rf2、Rb1、Rb2の中から、疑似空間平均共分散行列Rとして、すべての行列を選択して組み合わせる。この処理が終了すると、ステップS111へ移る。
【0142】
ステップS111では、目標数推定用行列生成部104cの擬似空間平均共分散行列エルミート共役積生成部104c−1が、擬似空間平均共分散行列Rと、Rのエルミート共役Rとの積RRを計算する。
【0143】
続いて、目標数推定用行列分解部104c−2は、RRが、正定値エルミート行列か否かを判定する(ステップS112)。RRは、正定値エルミート行列であると判定された場合に(ステップS112肯定)、ステップS113へ移り、RRは、正定値エルミート行列であると判定されなかった場合に(ステップS112否定)、ステップS116へ移る。
【0144】
ステップS113では、目標数推定用行列分解部104c−2は、RRをCholesky分解する。続いて、目標数推定用行列分解部104c−2は、ステップS113のCholesky分解が成功したか否かを判定する(ステップS114)。Cholesky分解が成功したと判定された場合に(ステップS114肯定)、ステップS115へ移り、Cholesky分解が成功したと判定されなかった場合に(ステップS114否定)、ステップS116へ移る。
【0145】
ステップS115では、目標数推定部104dの指標生成部104d−1は、RRをCholesky分解した結果の下三角行列Lのエルミート共役行列Lの行ベクトルの要素に基づく指標を生成する。この処理が終了すると、ステップS118へ移る。
【0146】
一方、ステップS116では、目標数推定用行列分解部104c−2は、RRをLU分解(またはLDM分解)する。続いて、目標数推定部104dの指標生成部104d−1は、RRをLU分解した結果の上三角行列Uの行ベクトルの要素(またはLDM分解した結果の対角行列Dの要素)に基づく指標を生成する(ステップS117)。この処理が終了すると、ステップS118へ移る。
【0147】
ステップS118では、指標パラメータ走査処理部104d−2は、指標のパラメータを走査し、最大値を求めることによって、目標数mを推定する。ここで、ステップS106等で参照される目標間の想定される相対離角とは、現在の測定データの一〜数区間前の測定期間に於いて推定された値や、現在の測定データに、より簡易な角度推定処理(例えば、FFTビームフォーマ)を適用して推定した値である。また、ステップS114等で用いられる分解計算の成功判定は、例えば、分解結果を再合成して分解前の行列の差分を取り、その大きさが計算機イプシロン程度であるか否かで行う等、計算負荷を考慮して適切な公知技術で行えば良い。
【0148】
次に、実施例にかかる探知測距装置100を使用したシミュレーション結果について説明する。図4は、目標数推定シミュレーションの前提条件を示す図である。また、図5−1および図5−2は、目標数推定シミュレーション結果を示す図である。
【0149】
図4に示すように、2個の目標β、目標βが、探知測距装置100と、相対距離40m、相対離角(目標間の相対的な離角、θLOS)1°または2°なる位置に存在しているものとする。但し、各目標と探知測距装置100との相対速度は0km/hであるものとした。
【0150】
図5−1は相対離角が1°の場合、図5−2は相対離角が2°の場合について、9個のセンサから構成されるセンサアレイを持つFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダで観測したものとして、本発明の実施例の手法と従来手法とが、それぞれ正しい目標数の推定に成功した確率を示したものである。各図とも、縦軸が推定成功確率、横軸がSN比である。試行は、各手法ごと、SN比の各点ごとに1000回ずつおこなった。
【0151】
図5−1および図5−2では、従来手法としてEG分解手法(上記(10)式の行列に対し固有値分解をおこない、上記(15)式に示したAICで評価する手法)と、実施例に示したLU分解手法(上記(31)式に示したようにRRのLU分解をおこない、上記(32)式〜(37)式に示した指標で評価する手法、同図では(33)式を用いた)と、CH分解手法(上記(30)式で求めたRからRRを生成し、RRをCholesky分解して、上三角成分について上記(32)式〜(37)式に示した指標で評価する手法、同図では(33)式を用いた)とのそれぞれについて、推定成功確率を示した。
【0152】
図5−1に示すように、θLos=1°と、目標間の相対離角が小さくなれば、目標数の推定も困難ではあるが、それでもなお、LU分解手法は、EG分解手法よりも、高い推定成功確率を実現している。また、図5−2に示すように、θLos=2°と、目標間の相対離角が大きくなれば、LU分解手法およびCH分解手法の、EG分解手法に対する優位性は変わらないものの、更に、より低いSN比から推定が成功するようになる。
【0153】
次に、実施例にかかる探知測距装置をFMCWレーダ装置に適用した場合の例を説明する。図6は、実施例にかかる探知測距装置100をFMCWレーダ装置300に適用した場合の例を示す図である。
【0154】
FMCWレーダ装置300は、送出波を出力するための送信用アンテナ301bと、アンテナ素子301a−1〜3、アンテナ素子301a−1〜3、アンテナ素子301a−1〜3、の9個のアンテナ素子からなる受信用アレイアンテナと、スイッチボックス302と、受信モジュール303と、ローパスフィルタ304と、A/Dコンバータ305と、CPU306と、ベースバンドオシレータ307と、送信モジュール308とを有する。
【0155】
スイッチボックス302は、スイッチ302aと、スイッチ302bと、スイッチ302cと、スイッチ302dとを有する。スイッチ302bは、アンテナ素子301a−1〜3のいずれか一つを選択するために切り替えるスイッチである。
【0156】
同様に、スイッチ302cは、アンテナ素子301a−1〜3のいずれか一つを選択するために切り替えるスイッチである。また、スイッチ302dは、アンテナ素子301a−1〜3のいずれか一つを選択するために切り替えるスイッチである。スイッチ302aは、スイッチ302b、スイッチ302c、スイッチ302dからの出力を一つ選択するために切り替えるスイッチである。
【0157】
受信モジュール303は、RF受信信号の出力を増幅する増幅部303aと、送信モジュール308から供給されるシステムリファレンス信号と、前記増幅部303aからの出力信号とをミキシングし、ベースバンド信号に変換するRF−MIXER303bと、増幅器等からなるベースバンド部303cとを有する。ベースバンド部303cからの出力信号は、LPF(Low Pass Filter)304で不要帯域をカットされた後、A/Dコンバータ305によってデジタル信号へと変換される。CPU306は、前記デジタル信号について目標数推定処理、到来方向推定処理などを行い、処理結果を出力装置400に送る。
【0158】
一方、ベースバンドオシレータ307は、例えば、三角波等の周期信号を変調信号として、送信モジュール308のRF−VCO(Voltage Controlled Oscillator)308aに供給し、周波数変調の掛かったシステムリファレンス信号を発生させる。RF−VCO308aからの出力信号は、HYB(HYBrid)308bによって、RF−MIXER303bに供給する信号と、増幅部308cで電力増幅した後、送信用アンテナ301bから送出波として空間に放射する信号とに分岐される。
【0159】
以上の実施例によれば、擬似空間平均共分散行列に含まれる雑音成分は、アレイを構成する各センサで受信された雑音の相互相関値のみとなり、通常のアレイ信号処理で利用する共分散行列と異なり、雑音の自己相関値が殆ど含まれない。この結果、SN比が劣悪な状況でも、目標数を正しく推定可能となる。
【0160】
また、擬似空間平均共分散行列Rから目標数推定用行列RRを生成し、これをLU分解することで、従来の固有値分解を用いた手法に比べて、最低でも2倍以上の高速化が実現できる。
【0161】
従って、上記実施例にかかる探知測距装置は、従来の探知測距装置に比べて、CPUなどの信号処理コンポーネントへの負荷が軽く、低コストで実現可能であり、かつ、探知測距装置本来の機能である目標の角度推定も高精度におこなうことが可能になる。
【0162】
上記実施例は、複雑な伝搬環境の下で低速CPUを用い、時間的に不安定な反射特性を持つ目標の個数を判別することを主眼としている。このため、擬似空間平均共分散行列から目標数推定用行列を生成し、これをLU分解またはCholesky分解して、上三角行列Uの成分から計算される量を、あらかじめ定義されている指標に代入することで、より高速な到来信号数の推定を実現することができる。
【0163】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明の実施形態はこれに限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内で、更に種々の異なる形態で実施されてもよいものである。また、実施例に記載した効果は、記載内容に限定されるものではない。
【0164】
また、上記実施例において説明した各処理のうち、自動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を、別途設けた入力装置を介してオペレータの操作により、手動的におこなうこともでき、あるいは、手動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的におこなうこともできる。この他、上記実施例で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0165】
また、図示した探知測距装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示のように構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0166】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPU(Central Processing Unit)(またはMPU(Micro Processing Unit)、MCU(Micro Controller Unit)などのマイクロ・コンピュータ)および当該CPU(またはMPU、MCUなどのマイクロ・コンピュータ)にて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現されてもよい。
【0167】
以上の実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0168】
(付記1)送信用センサアレイと、n個(2≦n)のセンサ素子から構成される受信用センサアレイとを有し、前記送信用センサアレイから送出された送信信号が目標に反射して前記受信用センサアレイに到来する反射信号に基づいて前記目標の数である目標数を推定し、前記目標数に基づいて前記反射信号が到来する角度を推定する探知測距装置であって、
前記受信用センサアレイのn個の前記センサ素子の出力に基づく相関ベクトルを生成する相関ベクトル生成部と、
前記相関ベクトル生成部によって生成された前記相関ベクトルに基づいて擬似前方空間平均共分散行列を計算する擬似空間平均共分散行列計算部と、
前記擬似空間平均共分散行列計算部によって計算された前記擬似前方空間平均共分散行列に基づいて目標数推定用行列を生成する目標数推定用行列生成部と、
前記目標数推定用行列生成部によって生成された前記目標数推定用行列に対して行列分解をおこなった結果の対角行列または上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなう目標数推定部と
を有することを特徴とする探知測距装置。
【0169】
(付記2)前記擬似空間平均共分散行列計算部は、前記相関ベクトル生成部によって生成された前記相関ベクトルと、前記擬似空間平均共分散行列計算部によって計算された前記前方擬似空間平均共分散行列とに基づいて、擬似後方空間平均共分散行列を生成し、
前記目標数推定用行列生成部は、前記擬似空間平均共分散行列計算部によって計算された前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列に基づいて前記目標数推定用行列を生成することを特徴とする付記1に記載の探知測距装置。
【0170】
(付記3)前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比を監視する監視部をさらに有し、
前記目標数推定用行列生成部は、前記監視部によって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせ、前記目標数推定用行列を生成することを特徴とする付記2に記載の探知測距装置。
【0171】
(付記4)前記目標数推定用行列生成部は、前記監視部によって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて生成した出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、前記目標数推定用行列に対してLU分解をおこない、
前記目標数推定部は、前記LU分解の結果として得られる上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなうことを特徴とする付記3に記載の探知測距装置。
【0172】
(付記5)前記目標数推定用行列生成部は、前記監視部によって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を少なくとも1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて生成した出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、前記目標数推定用行列に対してCholesky分解をおこない、
前記目標数推定部は、前記Cholesky分解の結果として得られる上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなうことを特徴とする付記3に記載の探知測距装置。
【0173】
(付記6)前記目標数推定用行列生成部は、前記監視部によって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせた出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、前記目標数推定用行列に対してLDM分解をおこない、
前記目標数推定部は、前記LDM分解の結果として得られる対角行列の対角要素、または、前記対角行列の対角要素および前記LDM分解の結果として得られる上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなうことを特徴とする付記3に記載の探知測距装置。
【0174】
(付記7)前記目標数推定用行列生成部は、前記監視部によって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせた出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、
前記目標数推定部は、前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記目標数推定用行列を、前記Cholesky分解、前記LU分解または前記LDM分解のいずれかの分解方法にて分解し、それぞれの分解方法に適した指標を用いて前記目標数の推定をおこない、前記目標数の推定が正常完了しなかった場合に、他の分解方法をおこない、前記他の分解方法に適した指標を用いて、再度、前記目標数の推定をおこなうことを特徴とする付記3に記載の探知測距装置。
【0175】
(付記8)送信用センサアレイと、n個(2≦n)のセンサ素子から構成される受信用センサアレイとを有し、前記送信用センサアレイから送出された送信信号が目標に反射して前記受信用センサアレイに到来する反射信号に基づいて前記目標の数である目標数を推定し、前記目標数に基づいて前記反射信号が到来する角度を推定する探知測距装置がおこなう探知測距方法であって、
前記受信用センサアレイのn個の前記センサ素子の出力に基づく相関ベクトルを生成する相関ベクトル生成ステップと、
前記相関ベクトル生成ステップによって生成された前記相関ベクトルに基づいて擬似前方空間平均共分散行列を計算するとともに、前記擬似前方空間平均共分散行列に基づいて擬似後方空間平均共分散行列を計算する擬似空間平均共分散行列計算ステップと、
前記擬似空間平均共分散行列計算ステップによって計算された前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて生成した出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、目標数推定用行列として生成する目標数推定用行列生成ステップと、
前記目標数推定用行列生成ステップによって生成された前記目標数推定用行列に対して行列分解をおこなった結果の対角行列または上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなう目標数推定ステップと
を含むことを特徴とする探知測距方法。
【0176】
(付記9)前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比を監視する監視ステップをさらに含み、
前記目標数推定用行列生成ステップは、前記監視ステップによって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を少なくとも1つ選択して組み合わせ、前記目標数推定用行列を生成することを特徴とする付記8に記載の探知測距方法。
【0177】
(付記10)前記目標数推定用行列生成ステップは、前記監視ステップによって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて生成した出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、前記目標数推定用行列に対してLU分解をおこない、
前記目標数推定ステップは、前記LU分解の結果として得られる上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなうことを特徴とする付記9に記載の探知測距方法。
【0178】
(付記11)前記目標数推定用行列生成ステップは、前記監視ステップによって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて生成した出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、前記目標数推定用行列に対してCholesky分解をおこない、
前記目標数推定ステップは、前記Cholesky分解の結果として得られる上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなうことを特徴とする付記9に記載の探知測距方法。
【0179】
(付記12)前記目標数推定用行列生成ステップは、前記監視ステップによって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせた出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、前記目標数推定用行列に対してLDM分解をおこない、
前記目標数推定ステップは、前記LDM分解の結果として得られる対角行列の対角要素、または、前記対角行列および前記LDM分解の結果として得られる上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定を行うことを特徴とする付記9に記載の探知測距方法。
【0180】
(付記13)前記目標数推定用行列生成ステップは、前記監視ステップによって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせた出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、
前記目標数推定ステップは、前記監視ステップによって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記目標数推定用行列を、前記Cholesky分解、前記LU分解または前記LDM分解のいずれかの分解方法にて分解し、それぞれの分解方法に適した指標を用いて前記目標数の推定をおこない、前記目標数の推定が正常完了しなかった場合に、他の分解方法をおこない、前記他の分解方法に適した指標を用いて、再度、前記目標数の推定をおこなうことを特徴とする付記9に記載の探知測距方法。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明は、センサアレイを用いて目標の角度推定機能を実現する探知測距装置において、角度推定の前段に行われる目標数推定処理を、SN比が低い環境に於いても、少ない計算負荷で、精度良く実施したい場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】実施例にかかる探知測距装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】実施例にかかる探知測距装置の制御部の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【図3】実施例にかかる目標数推定処理手順を示すフローチャートである。
【図4】目標数推定シミュレーションの前提条件を示す図である。
【図5−1】目標数推定シミュレーション結果(相対離角θLos=1°の場合)を示す図である。
【図5−2】目標数推定シミュレーション結果(相対離角θLos=2°の場合)を示す図である。
【図6】実施例にかかる探知測距装置をFMCWレーダ装置に適用した場合の例を示す図である。
【図7】センサアレイの配置と目標からの反射波との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0183】
100 探知測距装置
101 受信部
102 ベースバンド部
103 A/D変換部
104 制御部
104a 高速フーリエ変換およびピーク検出部
104b 擬似空間平均共分散行列計算部
104c 目標数推定用行列生成部
104d 目標数推定部
104e 射影行列生成部
104f 到来方向推定部
106a、・・・106a センサ素子
200 出力装置
300 FMCWレーダ装置
301a−1、301a−2、301a−3、301a−1、301a−2、301a−3、301a−1、301a−2、301a−3 アンテナ素子
301b 送信用アンテナ
302 スイッチボックス
302a、302b、302c、302d スイッチ
303 受信モジュール
303a 増幅部
303b RF−MIXER
303c BB(ベースバンド部)
304 LPF(ローパスフィルタ)
305 A/Dコンバータ
306 CPU
307 ベースバンドオシレータ
308 送信モジュール
308a RF−VCO
308b HYB(信号分岐部)
308c 増幅部
400 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信用センサアレイと、n個(2≦n)のセンサ素子から構成される受信用センサアレイとを有し、前記送信用センサアレイから送出された送信信号が目標に反射して前記受信用センサアレイに到来する反射信号に基づいて前記目標の数である目標数を推定し、前記目標数に基づいて前記反射信号が到来する角度を推定する探知測距装置であって、
前記受信用センサアレイのn個の前記センサ素子の出力に基づく相関ベクトルを生成する相関ベクトル生成部と、
前記相関ベクトル生成部によって生成された前記相関ベクトルに基づいて擬似前方空間平均共分散行列を計算する擬似空間平均共分散行列計算部と、
前記擬似空間平均共分散行列計算部によって計算された前記擬似前方空間平均共分散行列に基づいて目標数推定用行列を生成する目標数推定用行列生成部と、
前記目標数推定用行列生成部によって生成された前記目標数推定用行列に対して行列分解をおこなった結果の対角行列または上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなう目標数推定部と
を有することを特徴とする探知測距装置。
【請求項2】
前記擬似空間平均共分散行列計算部は、前記相関ベクトル生成部によって生成された前記相関ベクトルと、前記擬似空間平均共分散行列計算部によって計算された前記前方擬似空間平均共分散行列とに基づいて、擬似後方空間平均共分散行列を生成し、
前記目標数推定用行列生成部は、前記擬似空間平均共分散行列計算部によって計算された前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列に基づいて前記目標数推定用行列を生成することを特徴とする請求項1に記載の探知測距装置。
【請求項3】
前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比を監視する監視部をさらに有し、
前記目標数推定用行列生成部は、前記監視部によって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせ、前記目標数推定用行列を生成することを特徴とする請求項2に記載の探知測距装置。
【請求項4】
前記目標数推定用行列生成部は、前記監視部によって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて生成した出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、前記目標数推定用行列に対してLU分解をおこない、
前記目標数推定部は、前記LU分解の結果として得られる上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなうことを特徴とする請求項3に記載の探知測距装置。
【請求項5】
前記目標数推定用行列生成部は、前記監視部によって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を少なくとも1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて生成した出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、前記目標数推定用行列に対してCholesky分解をおこない、
前記目標数推定部は、前記Cholesky分解の結果として得られる上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなうことを特徴とする請求項3に記載の探知測距装置。
【請求項6】
前記目標数推定用行列生成部は、前記監視部によって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせた出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、前記目標数推定用行列に対してLDM分解をおこない、
前記目標数推定部は、前記LDM分解の結果として得られる対角行列の対角要素、または、前記対角行列の対角要素および前記LDM分解の結果として得られる上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなうことを特徴とする請求項3に記載の探知測距装置。
【請求項7】
前記目標数推定用行列生成部は、前記監視部によって監視される前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせた出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、前記目標数推定用行列として生成し、
前記目標数推定部は、前記目標間の想定される相対離角および/または前記反射信号のSN比に応じて、前記目標数推定用行列を、前記Cholesky分解、前記LU分解または前記LDM分解のいずれかの分解方法にて分解し、それぞれの分解方法に適した指標を用いて前記目標数の推定をおこない、前記目標数の推定が正常完了しなかった場合に、他の分解方法をおこない、前記他の分解方法に適した指標を用いて、再度、前記目標数の推定をおこなうことを特徴とする請求項3に記載の探知測距装置。
【請求項8】
送信用センサアレイと、n個(2≦n)のセンサ素子から構成される受信用センサアレイとを有し、前記送信用センサアレイから送出された送信信号が目標に反射して前記受信用センサアレイに到来する反射信号に基づいて前記目標の数である目標数を推定し、前記目標数に基づいて前記反射信号が到来する角度を推定する探知測距装置がおこなう探知測距方法であって、
前記受信用センサアレイのn個の前記センサ素子の出力に基づく相関ベクトルを生成する相関ベクトル生成ステップと、
前記相関ベクトル生成ステップによって生成された前記相関ベクトルに基づいて擬似前方空間平均共分散行列を計算するとともに、前記擬似前方空間平均共分散行列に基づいて擬似後方空間平均共分散行列を計算する擬似空間平均共分散行列計算ステップと、
前記擬似空間平均共分散行列計算ステップによって計算された前記擬似前方空間平均共分散行列および/または前記擬似後方空間平均共分散行列から適切な行列を1つ選択するか、若しくは適切な行列を2つ以上選択して組み合わせて生成した出力行列と、前記出力行列のエルミート共役との積を、目標数推定用行列として生成する目標数推定用行列生成ステップと、
前記目標数推定用行列生成ステップによって生成された前記目標数推定用行列に対して行列分解をおこなった結果の対角行列または上三角行列の要素を用いて定義される指標に基づき前記目標数の推定をおこなう目標数推定ステップと
を含むことを特徴とする探知測距方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−210410(P2009−210410A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53506(P2008−53506)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】