説明

探知測距装置および探知測距方法

【課題】センサアレーを用いて到来方向推定を行い、さらに複数の送信センサを用いて実効開口を拡大する探知測距装置において、スイッチの切り替えによる時分割処理の弊害をなくし、高精度の測定を可能とする。
【解決手段】変調器161,162において互いに直交する符号を用いて送信波を拡散し、送信用センサAT1,AT2から放射する。受信用センサAR1〜ARNで受信された信号のそれぞれを分岐器241,242で2分岐し、そのそれぞれについて復調器2611〜262Nにおいて送信側で用いた符号と同じ符号により逆拡散する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサアレー及び到来方向推定法を利用して信号の到来方向を推定する機能を有する探知測距装置および探知測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この様な探知測距装置の例として、被探知物体との相対距離、相対速度及び方角の全ての量を推定可能なレーダ装置を考える。レーダにおいて、センサとはアンテナを指す。三角波等で周波数変調された送信波を前方へ放射し、ターゲットによる反射波に送信信号の一部をミキサで混合してターゲットの情報を含んだベースバンド信号を取得し、このベースバンド信号からターゲットとの距離と相対速度を算出するFM−CWレーダが車載用レーダ等として実用化されている。
【0003】
ターゲットが存在する方向を決定するためには、複数のアンテナ素子を有するアレーアンテナでターゲットからの反射波を受信し、受信信号に周知のビームフォーマ(beamformer)法などの到来方向推定法を適用してターゲットの方向を決定することが考えられる。
【0004】
アレーアンテナによる到来方向推定法においては、例えばアレーアンテナのメインローブの方向を走査して出力電力が最大となる方向を到来方向とするビームフォーマ法では、メインローブのビーム幅が角度分解能を決めるので、分解能を増大して多数のターゲットの方向の決定を可能にするためには、アンテナ素子の数を増やしてアレーの開口長を広げる必要がある。アレーの受信信号の相関行列の固有値および固有ベクトルから到来方向を決定する最小ノルム(Min−Norm)法およびそれを発展させたMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)アルゴリズムやESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invarience Techniques)アルゴリズムにおいても同様で、相関行列の次数、すなわちアンテナ素子の数が検出可能なターゲットの数を決めるので、多数のターゲットの方向の決定を可能にするためには、アンテナ素子の数を増やす必要がある。
【0005】
しかしながら、アンテナの実装寸法に厳しい制限が課せられるレーダ装置、例えば車載レーダに於いては、受信電力を低下させずにアンテナ素子の数を増やすことは困難であった。
【0006】
下記特許文献1および特許文献2には、複数本の送信アンテナを使用することにより実効開口を拡大する方策が提案されている。
【0007】
この場合において、受信された電波がどの送信アンテナからの送信波の反射波であるかを区別しなければならない。特許文献1,2においては、複数の送信アンテナの1つ1つを、スイッチを用いて時分割で選択して用いることによって、受信された電波がどの送信アンテナに由来するものであるかが区別されている。また、RF回路の規模を削減してコストを削減するため、受信側においても複数の受信アンテナの1つ1つがスイッチにより時分割で選択される。
【0008】
しかしながら、スイッチによる切り替えは信号を劣化させ探知距離が短くなる等の弊害を誘発する。また、複数の送信アンテナからの送信波の反射波が複数の受信アンテナで同時に受信される、ということにはならないので、時間的なずれ、および、位相のずれを生じる、という問題がある。切り替えの速度を早くすればこの問題は軽減されるが、それには自と限界がある。
【0009】
なお、特許文献6には、本願とは対象とする分野が異なり、移動通信システムの基地局の2つのアンテナから送信された電波を移動局の1つのアンテナで受信して、その到来位相差から方位を決定する、いわゆる位相モノパルス方式による方位決定において、電波を送出した送信アンテナを受信側で区別するために、互いに直交する拡散符号で拡散することが記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開2006−98181号公報
【特許文献2】特開2000−155171号公報
【特許文献3】特開2006−29858号公報
【特許文献4】特開2004−264067号公報
【特許文献5】特開2005−257384号公報
【特許文献6】特開2001−237755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明の目的は、複数のセンサ素子を有するセンサアレーの実効開口を拡大するために複数の送信センサを用いる探知測距装置において、時分割処理による弊害をなくし、高精度の測定を可能とする探知測距装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、Mを2以上の整数として、互いに直交するM個の直交符号を用いて送信波を拡散してM個の被拡散送信波を生成するM個の拡散器と、該M個の被拡散送信波をそれぞれ送出するM個の送信センサ素子と、Nを2以上の整数として、N個の受信センサ素子と、該N個の受信センサ素子において得られたN個の受信信号のそれぞれをM個に分岐し、前記M個の直交符号をそれぞれ用いて逆拡散してM×N個の逆拡散出力を生成する受信制御手段と、該M×N個の逆拡散出力から、複数のターゲットからの反射信号の到来方向を推定する到来方向推定手段とを具備する探知測距装置が提供される。
本発明によれば、信号の到来方法を検知する探知測距方法において、Mを2以上の整数として、M個の送信センサ素子への入力信号を、互いに直交するM個の直交符号でそれぞれ拡散して該M個の送信センサ素子から同時に送信し、Nを2以上の整数として、N個の受信センサ素子の出力信号をそれぞれM個に分岐し、前記M個の直交符号をそれぞれ用いて逆拡散する、ことを特徴とする探知測距方法もまた提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の一実施例に係るレーダ装置の構成を示す。図1に示した例では、前記特許文献1と同様に、N個のアンテナ素子AR1〜ARNからなる受信用アレーアンテナとその両側に配置された2つの(M=2)アンテナ素子AT1,AT2からなる送信用アレーアンテナが用いられている。
【0014】
発振器モジュール10は、三角波等のベースバンド信号を発生する発振器12と発振器12の出力により周波数が制御されるRF(Radio Frequency)電圧制御発振器14とを含んでおり、三角波で周波数変調された送信波を生成する。符号発生器20は、互いに直交する2つのPN符号1,2を出力する。三角波で周波数変調された送信波は、変調器161,162において、PN符号1,2によって2位相偏位変調(BPSK)することにより直接拡散され、電力増幅器181,182を経てアンテナ素子AT1,AT2から送出される。
【0015】
アンテナ素子AR1〜ARNにおいて受信されたN個の信号は、低雑音増幅器201〜20Nを経て、ミキサ221〜22Nにおいて、発振器モジュール10が出力する拡散前の送信波を用いてダウンコンバートされる。N個のミキサ221〜22Nの出力はそれぞれ分岐器241〜24Nによって2分岐され、2N個の復調器2611〜262Nにより送信側で用いたPN符号1,2で逆拡散される。復調器2611〜262Nからの2N個の逆拡散結果はA/D変換器2811〜282Nにおいてデジタル信号に変換され、信号処理ユニット30へ入力される。
【0016】
ここで、後述するように、復調器2611〜261Nからは、アンテナ素子AR1〜ARNで受信されたアンテナ素子AT1からの送信波の反射波が、ミキサ221〜22Nでダウンコンバートされ、符号1で逆拡散された結果、すなわち、AT1の位置に送信アンテナを持つ一般的なレーダのベースバンド信号が出力される。同様に復調器2621〜262Nからは、アンテナ素子AR1〜ARNで受信されたアンテナ素子AT2からの送信波の反射波が、ミキサ221〜22Nでダウンコンバートされ、符号2で逆拡散された結果、すなわち、AT2の位置に送信アンテナを持つ一般的なレーダのベースバンド信号が出力される。したがって、アンテナ素子AT1から送信しアンテナ素子AR1〜ARNで受信したときの結果と、アンテナ素子AT2から送信しアンテナ素子AR1〜ARNで受信したときの結果が同時に途切れることなく得られることになる。
【0017】
信号処理ユニット30は、これらの信号に対して、FFT(Fast Fourier Transformation)演算を適用して、三角波の上り区間のFFT演算結果におけるピークの周波数と下り区間のFFT演算結果におけるピークの周波数とからターゲットとの距離および相対速度を算出する。更に、ターゲットの存在を示すFFT結果の周波数位置において、ビームフォーマ法などの到来方向推定法を適用して各ターゲットの方向を決定する。尚、方向推定を行う前にターゲット数の推定が必要ならば、AIC(Akaike‘s Information Criterion)等の目標数推定法が前処理として利用される。
【0018】
図2は変調器161,162の構成の一例を示す。線路40を経て入力される高周波信号はT字型の線路42において2つに分岐され、一方はインバータ44により正負を反転することによって位相が180°偏位されて線路46に供給され他方はそのまま線路56へ供給される。線路46は、その直流電位が高レベルであるとダイオード48,50,52,54が順バイアスとなって短絡状態となるため高周波を遮断し、直流電位が低レベルであるとダイオード48,50,52,54が逆バイアスとなってオープン状態となり高周波を伝送するものである。線路56も同様である。
【0019】
線路46には直流電位として符号発生器からのPN符号の論理値(例えば0,1)Sがバイアス電圧として適当な値に変換されて与えられ、線路56にはその論理を反転したものが与えられる。したがってPN符号の値に応じて位相が偏位しない高周波信号もしくは位相を180°偏位させた高周波信号のいずれかが選択されて出力される。
【0020】
図3は復調器26(2611〜262N)の構成の一例を示す。復調器26へは、ミキサ22(221〜22N)において拡散前の送信波によりダウンコンバートされた受信信号が入力される。すなわち、通常のFM−CWレーダにおけるいわゆるビート信号がPN符号でBPSK変調された形で入力される。乗算器58において、±1のバイポーラ信号としてのPN符号がこれに乗算され、積分器60において期間Tfにわたって積分される。ここで積分期間TfはPN符号のチップ幅(chip duration)×符号長であり、ビート信号の周期よりも充分短くなるようにチップ幅と符号長が設計される。なお、PN符号のチップレート(チップ幅の逆数)は、後述する様な符号によるフィルタリング効果の影響を軽減する為に、開口の拡大を主眼とする場合は特に、測定すべき最大遅延時間以上とする事が、また、拡散により送信波の帯域が拡がって他の機器への妨害となることを避ける為には、三角波による周波数変調の幅に対して充分に小さい値とすることが望ましい。
【0021】
本復調器において、積分器60は入力信号中の符号成分に対して相関演算を行う部品であるから、乗算器58に与えられるPN符号が入力信号に含まれるPN符号の1つと一致し、かつ、符号の位相も一致するとき、この符号成分に対する積分器60の出力は最大値1(拡散されていない信号電力で規格化した場合の表示)を取り、位相が一致していない符号成分に対する出力は−1/(符号長)となる(勿論、直交符号に対しては概ね0となる)。そこで、可変遅延器62においてPN符号の位相を1チップ(実際には1/3程度が用いられるが、説明を簡単にする為、1チップとする)ずつ変えて掃引し、積分器60の出力に設けられた判定器64において適当に設定された閾値を越える相関値が検出された場合、可変遅延器62における掃引を停止することにより、同期捕捉が達成される。カウンタ66は可変遅延器62からのパルスをカウントすることによって、可変遅延器62の遅延量を示す遅延インデックスを出力するものであり、後に説明するように、同期捕捉後の遅延インデックスからもターゲットとの距離を算出することができる。同期が確立した後、判定器64からの制御信号によりスイッチ65がオンになり、当該PN符号で拡散する前のビート信号が復調器出力として出力される。
【0022】
復調器26は同じ符号についてN個並列に使用されるので、掃引すべき範囲(通常は積分区間)をTとして、遅延量の初期値をそれぞれ0,T/N,2T/N…(N−1)T/Nと設定すれば同期捕捉までの時間を1/Nに短縮することができる。
【0023】
なお、復調器の構成の他の例として、整合フィルタ、SAWコンボルバ等を使用することも可能である。勿論、同期捕捉回路として、直/並列同期回路やDLL(Delay Lock Loop)等を用いても良い。
【0024】
送信用ICはGaAsHEMTやHBT等、出力電力を稼げる材料で作成し、受信用ICはCMOS等、出力電力は低いが後段のデジタル信号処理系と相性の良い材料で作成する事で、装置全体の性能向上が図れる。
【0025】
図4は図1の本質的な構成を抽出した図である。直交座標のX軸に沿って送受信用アンテナ素子が配置されており、受信用アレイアンテナは、原点からX軸の正方向に向かって間隔dで配置されたN個のアンテナ素子:AR1〜ARNから、送信用アレイアンテナは、その両側の最外縁に配置された2個(M=2)のアンテナ素子:AT1,AT2から、それぞれ構成される。
【0026】
図1に戻って、発振器モジュール10で生成されたシステム基準信号をvS(t)とし、互いに直交する符号を生成する符号生成器20で生成されたAT1用の変調信号をvC1(t)、AT2用の変調信号をvC2(t)とする。また、便宜上、vC(t)≡vC1(t)+vC2(t)とすると、各送信アンテナ素子からのプローブ信号はそれぞれ、vT1(t)=vS(t)vC1(t)、及びvT2(t)=vS(t)vC2(t)となる。ここで直交符号として例えば、AT1,AT2にコード長Q1,Q2のPN符号列:[c11,…,cQ11]、[c12,…,cQ22]をそれぞれ割り当てたものとすれば、コードを乗せるパルス波形p(t)、パルスのチップ幅:TC1,TC2に対し、vC1(t),vC2(t)は具体的に以下の様に表わされる。
【0027】
【数1】

【0028】
再び図4に於いて、独立した被探知目標が装置の探知範囲内にL個存在しており、その内のm(=1〜L)番目の目標が、相対視線距離dm、角度θm(Y軸の正方向を0度として時計回り方向を角度の正方向とする)、の位置に存在しているものとすれば、RF復調後のエコー信号、xm(t)は次の様に表わされる。但しτmは遅延時間であって、光速度c0に対して、τm=2dm/c0である。
【0029】
【数2】

【0030】
さて、AR1とARkに到来するxm(t)の位相差は、AR1を位相基準とした場合、
【0031】
【数3】

【0032】
と表わされるから、ARkからの出力をAT1に割り当てられたPN符号信号vC1(t)で復調して得られるベースバンド信号、v1k(t)は、雑音信号nk(t)とともに次式で表される。
【0033】
【数4】

【0034】
ここで、簡単の為、上式のm番目の信号成分に対するPN符号による復調過程のみ取り出すと、
【0035】
【数5】

【0036】
となるが、図1のDEMは例えば図3に示したような構成であり、復調用PN符号信号のシフト量:xTC1を変化させながら掛け合わせて積分を行うので、式(6)の右辺第1項は、送信符号信号と復調符号信号とが遅延分を含めて同期した時、積分区間毎に例えば1となる(ズレている時は−1/(符号長))。しかし一方で、{c1}と{c2}とは直交しているので、式(6)の右辺第2項は常に0である。
【0037】
そこで改めて、nk(t)≡vC(t)nk(t),xm(t)≡vS(t)v*S(t−τm)とおくと、復調後のAT1由来のベースバンド信号は、
【0038】
【数6】

【0039】
となり、これらをベクトルとして並べたv1(t)=[v11(t),…,v1N(t)]Tの空間位相は、図4の等位相面1を構成する。
【0040】
同様に、ARNとARkに到来するxm(t)の位相差は、ARNを位相基準とした場合、先の場合に対して、基準アンテナ間の距離が(N−1)dだけ離れているので、
【0041】
【数7】

【0042】
と表わされるから、ARkからの出力をAT2に割り当てられたPN符号信号vC2(t)で復調して得られるベースバンド信号、v2k(t)は、上記と同様に、
【0043】
【数8】

【0044】
となり、これらをベクトルとして並べたv2(t)=[v21(t),…,v2N(t)]Tの空間位相は、図4の等位相面2を構成する。
【0045】
従って、PN符号復調を行う間に発生するターゲットの角度変動が十分小さく、且つ位相原点の移動に対してシステムが安定ならば(電磁結合等の類似性を保つ為、送信アンテナ素子に対する受信アンテナ素子の基準位置を回転対象に配してある)、次式で定める拡張信号ベクトルを用いた合成開口により、本発明は2N個の復調器26の全てが同期捕捉を完了する以上の時間区間に対して、Ndの物理開口で2Ndの実効開口を実現できる。
【0046】
【数9】

【0047】
例えば、図5は、発振器モジュール10からの信号が、三角波で周波数変調された搬送波である場合に於ける、各ポートの出力信号を模式的に描いたタイミングチャートであるが、FM変調入力の1周期:TFMの間に2Ndの開口を持つアレー信号ベクトルが得られていることがわかる。
【0048】
図3に示した復調器26のカウンタ66が出力する遅延インデックスが示す遅延量は、同期捕捉後においてはターゲットとの距離に対応している。すなわち、カウンタ66が出力する遅延インデックスをm、PN符号のチップ幅をTC、ターゲットとの距離をd、光速をcとすると、
mTC=2d/c
の関係があるから、
d=cmTC/2
からもターゲットとの距離を算出することができる。従って、FM−CWを基本方式とする場合は、TCをあまり小さくすると、PN符号による距離定位を先に行って、すなわち、特定の距離に存在するターゲットからの信号を選別して、後段の処理に回す事になるので(言い換えれば入力信号を距離についてフィルタリングする事に相当)、アンテナ開口を広げる事を主眼にするなら、TCは測定すべき最大遅延時間以上(最大探知距離で定まる)に設定する事が望ましい。つまり、本発明の主目的は物理開口を符号空間上で多重化してリアルタイムで拡大する事であるが、このフィルタリング効果も付随的ではあるものの、本質的な特徴である。
【0049】
別の観点からは、PN符号のチップレートを上げれば精度良く距離を測定することができる反面、送信波の帯域も拡がるので、他の機器との干渉が問題となる長距離の測定には不向きである。そこで、好ましくは三角波による変調を停止する事によって、上記の手法によりターゲットとの距離を測定する、SS(スペクトラム拡散)レーダとして同じ装置を使用する事が可能である。この場合に、FM−CWレーダと同様にFFT演算を施してドップラー周波数を決定することにより、相対速度の測定も可能である。
【0050】
そこで例えば、図1のCPU31からの指令により、図1の発振器モジュール10内のRF電圧制御発振器14の制御入力を適宜、あるいは時分割的に切り替えれば、FM−CWレーダとしてもSSレーダとしても使用することが可能である。この場合に、符号発生器20が発生するPN符号のチップレートもこれと連動して切り替えて、遠距離のターゲットをFM−CWレーダで測定し、近距離のターゲットをSSレーダで高精度に測定する、といった使い方が可能である。
【0051】
また、発振器モジュール10については三角波で周波数変調されたものを選択させ、符号発生器20については変調器161と変調器162とで用いるPN符号のチップレートを変えれば(勿論、直交性は保たせた上で)、実効開口はNにとどまるものの、FM−CWレーダによる距離の測定とSSレーダによる距離の測定を同時に実現することができる。
【0052】
同一のターゲットに対して、FM−CWレーダとSSレーダとの切り替えによって時分割的に、または、FM−CWレーダとSSレーダとの同時使用によって同時に得られた距離をそれぞれdFM,dSSとするとき、精度が比較的低いFM−CWレーダによる距離の偏差δdを
δd=dFM−dSS
で計算し、dFMをδdにより補正する、という使い方も可能である。
【0053】
例えば、自車の前方を走行する車両が、自車で用いている符号と同じ符号で拡散されたレーダ波を後方に放射している場合、これが受信アンテナ素子AR1〜ARNに直接入射して干渉し、正常な測定ができなくなる。この場合、送信アンテナ素子AT1,AT2からの送信を停止した上で復調器2611〜262Nの出力をみることで、前方を走行する車がどの符号を使用しているかを知り、CPU31からの指令により用いる符号を変更することで干渉を回避することができる。
【0054】
図6は図1のレーダ装置の一変形例に係るレーダ装置の構成を示す。図1と同一の構成要素には同一の参照番号を付してその説明を省略する。
【0055】
変調器162と電力増幅器182との間(または変調器161と電力増幅器181との間)に設けられた移相器70は、これまでに説明した手法によりターゲットの方向を決定する通常モードでは移相量がゼロに設定されて使用されず、通常モードにおいてターゲットの方向が決定された後に送信ビームをターゲットの方向に指向させて追跡するトラッキングモードに移行した場合に使用される。トラッキングモードにおいては、通常モードにおいて決定された、追跡すべきターゲットの方向:θ、に基いて送信ビームをθ方向に指向させるための移相量φを決定し、CPU31が移相器70に設定する。2つのアンテナ素子から位相差φの送信波が出力されることにより、送信波は特定の方向:θに指向し、注目しているターゲットの追跡が容易になる。追跡を開始した後は、アンテナ素子AR1〜ARNにおける受信信号から推定されたターゲットの方向:θを用いて移相量φを更新し、CPU31が移相器70にフィードバックする。なお、通常モードとトラッキングモードの間の移行はターゲットの速度や位置に応じた危険度を算定して実施することが望ましい。
【0056】
図1および図4に示した、受信用アンテナ素子を等間隔に配置してその両側に2つの送信用アンテナ素子を配置したアレーアンテナにおいては、一方の送信アンテナに由来する受信データと他方の送信アンテナに由来する受信データとは回転不変の関係にある(1つのリニアアンテナとみなせる)。そのため、信号処理ユニット30における到来方向推定処理において、回転不変の関係を利用したESPRITアルゴリズム等の超分解能(super resolution)測角手法の適用に便利な装置となる。
【0057】
しかしながら、本発明はこのようなアンテナの配置に限らず、前記特許文献2に記載されたアンテナ配置、すなわち、図7に示すように、複数の送信用アンテナ素子AT1〜ATM(図ではM=3)を受信用アンテナ素子AR1〜ARNの片側に配置する構成に対しても適用可能である。この場合には、M本の送信用アンテナ素子AT1〜ATMの間隔dTを受信用アンテナ素子の間隔dRのN倍、すなわち、dT=N・dRとすることで受信アンテナの実効開口をM倍にすることができる。
【0058】
図7において、符号発生器20は互いに直交するM個(図ではM=3)のPN符号を出力し、M個の変調器161〜16Mに供給する。受信アンテナAR1〜ARNにおいて受信された信号はそれぞれ分岐器241〜24NでM個に分岐され、復調器2611〜26MN(図ではM=3)に供給される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置のブロック図である。
【図2】図1の変調器16(161,162)の構成の一例を示す図である。
【図3】図1の復調器26(2611〜262N)の構成の一例を示す図である。
【図4】図1の装置の動作を説明する図である。
【図5】図4の各ポートの出力信号の模式図である。
【図6】一変形例に係るレーダ装置のブロック図である。
【図7】アンテナ配置の他の例を示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mを2以上の整数として、送信波を互いに直交するM個の直交符号を用いて拡散してM個の被拡散送信波を生成するM個の拡散器と、
該M個の被拡散送信波を送出するM個の送信センサ素子と、
Nを2以上の整数として、N個の受信センサ素子と、
該N個の受信センサ素子において得られたN個の受信信号のそれぞれをM個に分岐し、前記M個の直交符号をそれぞれ用いて逆拡散してM×N個の逆拡散出力を生成する受信制御手段と、
該M×N個の逆拡散出力から、複数のターゲットからの反射信号の到来方向を推定する到来方向推定手段とを具備する探知測距装置。
【請求項2】
前記M個の拡散器の各々は、前記送信波を前記直交符号により2位相偏位変調(BPSK)することによって拡散するBPSK変調器を含む請求項1記載の探知測距装置。
【請求項3】
三角波で周波数変調された搬送波および無変調の搬送波のいずれか一方を前記送信波として選択的に生成する送信波生成器をさらに具備する請求項1または2記載の探知測距装置。
【請求項4】
前記M個の直交符号は、第1の直交符号と該第1の直交符号よりもチップレートが高い第2の直交符号とを含み、
少なくとも該第1の直交符号で拡散される送信波は三角波で周波数変調された搬送波であり、
該第1の直交符号で逆拡散した逆拡散出力について、前記三角波の上り区間における逆拡散出力の周波数と前記三角波の下り区間における逆拡散出力の周波数とからターゲットとの距離を算出する第1の距離算出手段と、
第2の直交符号で逆拡散した逆拡散出力について、逆拡散に用いた第2の直交符号の位相からターゲットとの距離を算出する第2の距離算出手段とをさらに具備する請求項1〜3のいずれか1項記載の探知測距装置。
【請求項5】
同じターゲットについて前記第1および第2の距離算出手段により算出された距離の差により第1の距離算出手段が算出した距離を補正する補正手段をさらに具備する請求項4記載の探知測距装置。
【請求項6】
前記N個の受信センサ素子は等間隔で配置され、
前記M個の送信センサ素子は、該N個の受信センサ素子の両側に配置された2個の送信用センサ素子である請求項1〜5のいずれか1項記載の探知測距装置。
【請求項7】
前記2個の送信センサ素子から放射される電波の少なくとも一方の位相を調節する移相器をさらに具備する請求項6記載の探知測距装置。
【請求項8】
前記N個の受信センサ素子は等間隔で配置され、
前記M個の送信センサ素子は、受信センサ素子の間隔のN倍の間隔で配置される請求項1〜5のいずれか1項記載の探知測距装置。
【請求項9】
信号の到来方法を検知する探知測距方法において、
Mを2以上の整数として、M個の送信センサ素子への入力信号を、互いに直交するM個の直交符号でそれぞれ拡散して該M個の送信センサ素子から同時に送信し、
Nを2以上の整数として、N個の受信センサ素子の出力信号をそれぞれM個に分岐し、前記M個の直交符号をそれぞれ用いて逆拡散する、
ことを特徴とする探知測距方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−80024(P2009−80024A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249822(P2007−249822)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】