説明

接合方法および接合装置ならびに接合基板

【課題】接合対象である基板を低温にて、高生産性かつ高信頼性にて密閉空間状態に接合する。
【解決手段】ガス導入口21から水蒸気を流しながら、反応室20内の真空度を所定値に保った状態で高周波電極23および上部高周波電極27に高周波を印加し、高周波電極23とアース電極33間、および上部高周波電極27とアース電極33間でプラズマ放電させ、基板12および蓋部材13に対して30秒間処理する。プラズマ中に曝された基板12および蓋部材13の接合面上にはプラズマ中にあるイオンが照射されて、接合面はスパッタ作用にて汚染物が除去され、清浄な表面となる。次に、アース電極33を外方へ移動させた後、上部高周波電極27を下方に移動させ、上部高周波電極27上の蓋部材13と高周波電極23上の基板12との接合面を接触させて、加圧接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の接合面同士を接合させるための接合方法および装置、ならびに、その方法および装置により製造される接合基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子,弾性表面波素子、その他各種の電子素子などにおいて、それらを大気中に存在する水分や酸素などの影響から保護する方法として、容器内部に電子素子を収納し、容器内部を密閉して電子素子を封止する技術が知られている。
【0003】
このような電子素子を内部空間に配置して封止した電子デバイスでは、容器内部の気密性(密閉性)を向上させて水分などの浸入を、より確実に防止するための様々な技術が提案されている。例えば従来では、底面に電子素子が実装されたキャビティ(凹部)を有するセラミック基板の開口部を金属蓋で覆い、セラミック基板と金属蓋とを、はんだやガラスパウダーなどを用いて、接合および封止することが行われている。
【0004】
一方、フリップチップボンディングにより搭載された電子素子と基板との空隙を密閉して、電子素子を封止する技術も利用されている。例えば、特許文献1では、表面弾性波デバイスの製造において、表面弾性波チップがフリップチップ接続されたパッケージ基板上を低融点ガラスを用いて封止することにより、樹脂を用いて封止する場合に比べて高い気密性を得るようにした技術が記載されている。
【0005】
ところで、特許文献1に記載されているように、低融点ガラスにより封止したり、あるいは容器を構成する部材を、はんだやガラスパウダーにて接合する場合は、高い気密性を得ることができる反面、高温にて低融点ガラスやはんだを溶融するための加熱処理が必要となり、耐熱性の低い電子素子の封止には適していない。特に、化合物半導体などの電子素子は耐熱性が低いため、高温加熱により損傷する可能性が高い。
【0006】
また、シリコン基板に電子素子を直接形成し、ガラス製の蓋を用いて、400℃で加熱して陽極接合でシリコン基板とガラス製の蓋とを接合することにより密閉する方法もある。この場合は、基板同士を直接密閉接合した後、ダイシング法により個片に分離する。しかし、陽極接合では温度が高いために、耐熱性の低い部品は熱損傷を受ける可能性がある。
【0007】
温度を低下して接合するための処理方法として、特許文献2には親水化処理して接合する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−110402号公報
【特許文献2】特開2005−294800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載されている接合方法では、真空中の加熱下で接合するため、基板前面に均一に加熱されないで接合される可能性が高く、チップの個片に分割したときに信頼性が劣り、最終製品の歩留まりが低下する。また、真空中で加熱接合するため、生産性が低下するという課題がある。
【0009】
本発明は、前記課題に鑑みなされたものであり、接合対象である基板を低温にて、高生産性かつ高信頼性にて密閉空間状態で接合することができる接合方法および接合装置、ならびに、その方法および装置にて製造される接合基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、基板の接合面同士を接合させるための接合方法であって、一方の基板の接合面と他方の基板の接合面を、水あるいは水蒸気の雰囲気中でエネルギ波を照射することにより洗浄する洗浄工程と、前記一方の基板と前記他方の基板との洗浄された接合面を加圧しながら接合する接合工程とを有することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の接合方法において、洗浄工程を大気圧より低い圧力の減圧雰囲気中で行うことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の接合方法において、洗浄工程において、圧力が120Pa〜300Paの雰囲気中で洗浄することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3いずれか1項記載の接合方法において、洗浄工程において、エネルギ波を照射するための電力を減少した後、電力をゼロにしてエネルギ波の照射を停止することを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4いずれか1項記載の接合方法において、洗浄工程の前に、アルゴンガスあるいは酸素ガスあるいはアルゴンガスと酸素ガスの混合ガスの雰囲気中でエネルギ波により洗浄することを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1記載の接合方法において、接合工程の後、接合された両基板を大気圧中で加熱する加熱工程を有することを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6記載の接合方法において、加熱工程における加熱温度が100℃以上であることを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項1,4または5記載の接合方法において、エネルギ波として、プラズマ放電、イオンビーム、原子ビーム、ラジカルビームのいずれかを用いることを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項1記載の接合方法において、各基板の接合面を、水酸基を介在した状態で接合することを特徴とする。
【0019】
請求項10に記載の発明は、基板の接合面同士を接合させるための接合装置であって、一方の基板の接合面と他方の基板の接合面を、水あるいは水蒸気の雰囲気中でエネルギ波を照射することにより洗浄する洗浄手段と、前記一方の基板と前記他方の基板との洗浄された接合面を加圧しながら接合する接合手段とを備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項11に記載の発明は、請求項10記載の接合装置において、洗浄における雰囲気を、圧力を120Pa〜300Paの雰囲気に設定する制御部を備えたことを特徴とする。
【0021】
請求項12に記載の発明は、請求項10または11記載の接合装置において、洗浄手段を、エネルギ波を照射するための電力を減少した後、電力をゼロにしてエネルギ波の照射を停止させる制御部を備えたことを特徴とする。
【0022】
請求項13に記載の発明は、請求項10〜12いずれか1項記載の接合装置において、洗浄の前に、アルゴンガスあるいは酸素ガスあるいはアルゴンガスと酸素ガスの混合ガスの雰囲気中でエネルギ波により洗浄する手段を備えたことを特徴とする。
【0023】
請求項14に記載の発明は、請求項10,12または13記載の接合装置において、エネルギ波が、プラズマ、イオンビーム、原子ビーム、ラジカルビームのいずれかであることを特徴とする。
【0024】
請求項15に記載の接合基板に係る発明は、請求項1〜9いずれか1項記載の接合方法により製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、接合対象である対向する基板の接合面を、水を用いた雰囲気中でプラズマなどのエネルギ波を照射して洗浄することにより、低温にて接合することができる。その際、事前に不活性ガスによるプラズマ処理を行ったり、前記プラズマ処理する際の電力停止を、徐々に電力を減少させるようにすることにより、より低温接合の処理効果を向上することができる。さらに、接合後に大気中にて加熱することにより、信頼性が向上する。このようにしたことにより、基板を低温にて信頼性高く、かつ強固に接合することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0027】
図1は本発明に係る接合基板の実施形態である電子素子パッケージの構成を示す断面図である。
【0028】
図1において、電子素子パッケージ1は、内部に電子素子である半導体素子11が複数個形成された一方の接合対象としての基板12と、半導体素子11を収納するための複数個のキャビティ(凹)部14を有する他方の接合対象の基板としての蓋部材13とからなる。
【0029】
蓋部材13には、キャビティ部14と、最終的に基板12と蓋部材13とを接合した後、チップにダイシング加工するための溝加工部15が施されている。基板12と蓋部材13はSi(シリコン)からなる。
【0030】
基板12には、半導体素子11からの電気信号を受発信するための電気回路(図示せず)が形成されており、銅18が埋め込まれたスルーホール16を通して外部と電気的に接続されている。17はダイシング加工した後の個片のチップを外部基板に実装するための電極である。
【0031】
図2は前記構成の電子素子パッケージの製造工程を示すフローチャートであって、電子素子パッケージ1は、基板12と蓋部材13を接合して形成される。
【0032】
図2において、まず、基板12の形成工程について説明する。基板12の基材であるSi基板に複数個の半導体素子11を形成する(S1)。次に、Si基板にドライエッチング加工でスルーホール16を形成する(S2)。次に、銅18をメッキでスルーホール16に埋め込み(S3)、最後に、スパッタ法およびレジスト塗布,露光,現像,エッチング工程を経て電極17を形成する(S4)。
【0033】
次に、蓋部材13の製造工程について説明する。蓋部材13の基材であるSi基板をレジスト塗布,露光,現像工程を経て、ドライエッチング加工によりキャビティ部14を形成する(S5)。
【0034】
前記のようにして製造した基板12と蓋部材13とに対し、接合前に後述する改質処理を施し、基板12と蓋部材13とを接合する。
【0035】
次に、本発明に係る接合方法および装置の実施形態1について図3を参照して説明する。図3は本発明に係る接合装置の実施形態1である改質/接合装置の概略構成を示す断面図である。
【0036】
図3において、反応室20は、ガス導入口21と真空排気口22を有し、かつ接地されている。高周波電極23上に、図1に示す構成の基板12が載置され、高周波発振器24からの電力が、図示しないマッチングチューナーおよび高周波電力供給部を通って、高周波電極23に供給される。高周波電極23は、絶縁リング25により反応室20に対して絶縁が保たれている。高周波電極23,絶縁リング25と反応室20は、Oリング(図示せず)により真空に保たれている。26はOリングが150℃以上に加熱されないように冷却水を流すための冷却溝である。
【0037】
27は上部高周波電極であって、図1に示す構成の蓋部材13を落下しないように保持する静電チャック28が埋め込まれている。該静電チャック28とは、静電チャック28に電圧を印加してクーロン力で蓋部材13を固定する冶具である。上部高周波電極27は高周波電極23と対向する位置に配設されており、高周波発振器29からの電力が、図示しないマッチングチューナー,高周波電力供給部を通って上部高周波電極27に供給される。
【0038】
また、上部高周波電極27は、ベローズ部材30に固定されていて、上下に移動が可能である。上部高周波電極27は、絶縁リング31により反応室20と絶縁が保たれている。上部高周波電極27,絶縁リング31と反応室20は、Oリング(図示せず)により真空に保たれている。ベローズ部材30と絶縁リング31間にもOリング(図示せず)が介在しており、反応室20の真空を保つ構造となっている。32は、Oリングが150℃以上に加熱されないように冷却水を流すための冷却溝である。
【0039】
高周波発信器29からの高周波電力が、静電チャック28の電源(図示せず)に入力されないように、静電チャック28と電源の配線間にはノイズフィルタ(図示せず)が組み込まれている。
【0040】
33はアース電極であって、アース電極用ベローズ部材34に固定されており、アース電極用ベローズ部材34により移動可能になっている。
【0041】
前記高周波電極23と前記上部高周波電極27とが、本実施形態1における洗浄手段と接合手段の主要部をなしている。
【0042】
以上のように構成された実施形態1の改質/接合装置における電子素子パッケージの製造工程について、以下説明する。
【0043】
ガス導入口21から水蒸気(水も可)を20sccm流しながら、反応室20内の真空度を20Paに保った状態で高周波電極23および上部高周波電極27に200Wの高周波を印加する。高周波電極23とアース電極33間、および上部高周波電極27とアース電極33間のそれぞれでプラズマ放電し、酸素イオン,水素イオン,酸素ラジカル,水素ラジカルと電子が発生する。
【0044】
前記プラズマ処理を基板12および蓋部材13に対して30秒間処理する。プラズマ中に曝された基板12および蓋部材13の接合面上には、プラズマ中にある酸素イオンや水素イオンが照射され、基板12および蓋部材13の接合面は、イオンの照射によりスパッタ作用にて汚染物が除去され、清浄な表面となる(洗浄工程)。
【0045】
また、酸素ラジカルや水素ラジカルにより、基板12および蓋部材13の接合面上には、水酸基(−OH)が形成される。
【0046】
プラズマ処理後、高周波発信器24,29からの高周波電力を停止し、ガス導入口21からの水蒸気の供給を停止する。
【0047】
次に、アース電極用ベローズ部材34を伸長してアース電極33を外方へ移動させ、また、ベローズ30を圧縮させて上部高周波電極27を下方に移動させ、上部高周波電極27上の蓋部材13と高周波電極23上の基板12とを接触させて、5×10N/mの圧力で加圧して接合する(接合工程)。
【0048】
以上のように実施形態1によれば、基板12および蓋部材13に対して水蒸気を供給したプラズマ処理を行うことにより、基板12および蓋部材13の表面(接合面)は、洗浄され、かつ水酸基が形成されているため、室温での接合が可能となる。
【0049】
これにより、室温で作製した電子素子パッケージ1をダイシング加工して、チップに分割した結果、良好な接合を得ることができた。この電子素子パッケージ1のシェア強度を測定した結果、3.4×10N/mとなった。また、5×10N/mの圧力で加圧しないで、接合した場合には、基板のそり状態によって、強度のばらつきが大きい結果となった。
【0050】
次に、本発明に係る接合方法および装置の実施形態2について図4を参照して説明する。図4は本発明に係る接合装置の実施形態2である改質/接合装置の概略構成を示す断面図である。
【0051】
図4において、40は反応室であって、図1に示す構成の基板12が基板台41上に載置され、蓋部材13が上部基板台42に固定される。上部基板台42には、静電チャック43が埋め込まれ、この静電チャック43に電圧を印加することにより、蓋部材13が静電チャック43に吸着される。上部基板台42は、ベローズ部材44に取り付けられている。このベローズ部材44を上下することにより、上部基板台42は上下に移動することができる。45は真空排気口である。
【0052】
46は基板12を改質するための基板用中性ビーム源であり、47は蓋部材13を改質するための蓋部材用中性ビーム源である。両中性ビーム源46,47には、それぞれガス供給配管48,49と電力供給配線50,51が接続されている。ガス供給配管48,49と電力供給配線50,51は、供給コネクター52,53により真空度が保たれている。
【0053】
前記基板用中性ビーム源46と前記蓋部材用中性ビーム源47とが本実施形態2における洗浄手段の主要部をなし、前記基板台41と前記上部基板台42とが本実施形態2における接合手段の主要部をなしている。
【0054】
以上のように構成された実施形態2の改質/接合装置における電子素子パッケージの製造工程について、以下説明する。
【0055】
反応室40を真空度10−5Paまで真空引きした後、中性ビーム源46,47それぞれにガス供給配管48,49に水蒸気を20sccm供給し、電力供給配線50,51から電圧1.2KVを印加する。反応室40は、水蒸気が供給されているため、真空度は10−2Paに保たれている。中性ビーム源46,47中にはプラズマが発生し、各中性ビーム源46,47それぞれから酸素ラジカルおよび水素ラジカルが引き出される。
【0056】
基板12は、基板用中性ビーム源46により酸素ラジカルおよび水素ラジカルが照射され、蓋部材13は、蓋部材用中性ビーム源47により酸素ラジカルおよび水素ラジカルが照射される。基板12および蓋部材13の接合面は、スパッタリング作用で洗浄され、かつ水素ラジカルや酸素ラジカルにより水酸基(−OH)が形成される(洗浄工程)。
【0057】
酸素ラジカルおよび水素ラジカルを60秒照射した後、蓋部材13を固定している上部基板台42を下降し、蓋部材13を基板12に接触させ、5×10N/mの圧力で加圧して接合する(接合工程)。
【0058】
このようにして作製した電子素子パッケージ1である接合基板のシェア強度を測定した結果、3.5×10N/mとなった。
【0059】
以上のように本実施形態2によれば、基板12および蓋部材13に対して、水蒸気を供給した中性ビーム源46,47で処理することにより、基板12および蓋部材13の接合面は、スパッタリング作用で洗浄され、かつ水酸基が形成されているため、室温での接合が可能となる。室温で形成した電子パッケージ1をダイシング加工して、チップに分割した結果、良好な接合を得ることができた。
【0060】
次に、本発明に係る接合方法および装置の実施形態3について図3を参照して説明する。なお、以下の説明において、図3にて既に説明した部材には同一符号を付して、その説明は省略し、実施形態3の改質/接合装置における電子素子パッケージの製造工程について説明する。
【0061】
ガス導入口21からアルゴンガスを10sccm流しながら、反応室20内の真空度を20Paに保った状態で高周波電極23および上部高周波電極27に200Wの高周波を印加する。これにより高周波電極23とアース電極33間、および上部高周波電極27とアース電極33間のそれぞれでプラズマ放電してアルゴンイオンを発生する。このプラズマ処理を基板12および蓋部材13に対して30秒間処理する。プラズマ中に曝された基板12および蓋部材13の接合面上には、プラズマ中にあるアルゴンイオンが照射され、基板12および蓋部材13の接合面は、イオンの照射によりスパッタ作用で汚染物が除去され、清浄な表面となる(前洗浄工程)。
【0062】
次に、ガス導入口21から水蒸気を20sccm流しながら、反応室20内の真空度を20Paに保った状態で高周波電極23および上部高周波電極27に200Wの高周波を印加する。これにより高周波電極23とアース電極33間、および上部高周波電極27とアース電極33間のそれぞれでプラズマ放電し、酸素イオン,水素イオン,酸素ラジカル,水素ラジカルと電子を発生する。このプラズマ処理を基板12および蓋部材13に対して30秒間処理する。プラズマ中に曝された基板12および蓋部材13の接合面上には、プラズマ中にある酸素イオンや水素イオンが照射され、このイオンの照射によるスパッタ作用によって、基板12および蓋部材13の接合面は、汚染物が除去されて清浄な表面となる(洗浄工程)。
【0063】
また、酸素ラジカルや水素ラジカルにより、基板12および蓋部材13の接合面上には、水酸基(−OH)が形成される。
【0064】
プラズマ処理後、高周波発信器24,29からの高周波電力を停止し、ガス導入口21からの水蒸気の供給を停止する。次に、アース電極用ベローズ部材34を伸長してアース電極33を外方へ移動させ、また、ベローズ部材30を圧縮して上部高周波電極27を下方に移動し、上部高周波電極27上の蓋部材13と高周波電極23上の基板12とを接触させて、5×10N/mの圧力で加圧して接合する(接合工程)。
【0065】
以上のように本実施形態3によれば、基板12および蓋部材13に対して、最初にアルゴンガスを供給してアルゴンイオンによりプラズマ処理して第1の洗浄を行った後、水蒸気を供給したプラズマ処理して第2の洗浄を行うことにより、基板12および蓋部材13の接合面が良好に洗浄され、かつ水酸基が形成されているため、室温での接合が可能となる。このように室温で形成した電子パッケージ1をダイシング加工して、チップに分割した結果、良好な接合を得ることができた。
【0066】
特に、実施形態1の電子パッケージに比べて、アルゴンイオンにより基板を洗浄する効果が大きく、より良好な結果が得られた。シェア強度を測定した結果、4.2×10N/mとなった。ダイシング加工してチップに分割した場合、実施形態3では、実施形態1のチップ不良率(基板と蓋部材が剥がれる状態)よりも1.2%向上した。これは、アルゴンのスパッタ率が水素イオンや酸素イオンに比べて高いため、水酸基を形成する前に、より良好な洗浄効果が得られるためと考えられる。
【0067】
次に、本発明に係る接合方法および装置の実施形態4について図3を参照して説明する。なお、以下の説明において、図3にて既に説明した部材には同一符号を付して、その説明は省略し、実施形態4の改質/接合装置における電子素子パッケージの製造工程について説明する。
【0068】
ガス導入口21から水蒸気を20sccm流しながら、反応室20内の真空度を20Paに保った状態で、高周波電極23および上部高周波電極27に200Wの高周波を印加する。これにより高周波電極23とアース電極33間、および上部高周波電極27とアース電極間のそれぞれでプラズマ放電して、酸素イオン,水素イオン,酸素ラジカル,水素ラジカルと電子を発生する。このプラズマ処理を基板12および蓋部材13に対して30秒間処理する。プラズマ中に曝された基板12および蓋部材13の接合面上には、プラズマ中にある酸素イオンや水素イオンが照射され、基板12および蓋部材13の接合面は、イオンの照射によるスパッタ作用によって汚染物が除去され、清浄な表面となる(洗浄工程)。
【0069】
また、酸素ラジカルや水素ラジカルにより、基板12および蓋部材13の接合面上には、水酸基(−OH)が形成される。
【0070】
本実施形態4では、30秒間プラズマ処理した後、電力を200Wから0Wにせずに、図5に示すように、30秒後に、高周波発信器24,29からの高周波電力を10秒かけて徐々に電圧を減少させる。そして、高周波発信器24,29からの高周波電力を停止した後、ガス導入口21からの水蒸気の供給を停止する。
【0071】
次に、アース電極用ベローズ部材34を伸長し、アース電極33を外方へ移動させ、また、ベローズ部材30を圧縮して上部高周波電極27を下方に移動し、上部高周波電極27上の蓋部材13と高周波電極23上の基板12とを接触させて、5×10N/mの圧力で加圧して接合する(接合工程)。
【0072】
以上のように本実施形態4によれば、基板12および蓋部材13に対して水蒸気を供給したプラズマ処理により、基板12および蓋部材13の接合面は洗浄され、かつ水酸基が形成される。また、高周波電力を徐々に減少させることにより、水酸基がプラズマにより、再度スパッタされることなく、実施形態1より水酸基の表面上の濃度を向上させることができ、室温での接合がより強固となる。
【0073】
本実施形態4により室温で形成した電子パッケージ1をダイシング加工して、チップに分割した結果、良好な接合を得ることができた。シェア強度を測定した結果、3.7×10N/mとなった。
【0074】
次に、本発明に係る接合方法の実施形態5について説明する。
【0075】
本実施形態5における改質/接合装置は、前記実施形態1で用いた図3に示す装置と同じである。同装置において、反応室20内の真空度の圧力を変更して接合強度を測定したところ、図6に示すように、接合強度は、圧力20Paの場合(実施形態1の場合)には3.4×10N/mであるのに対して、150Paでは4.1×10N/m、また200Paでは4.2×10N/mとなり、圧力が高いほど、接合強度は高い傾向となった。ただし、350Paでは放電が安定せずに異常放電が発生した。
【0076】
よって、圧力が120Pa〜300Paが、接合強度においては良好であることが判明した。これは、圧力が20Paのときは、イオンによる照射が多いが、100Pa以上の圧力が高い領域では、イオンよりラジカルが増加し、より水酸基が結合したためと考えられる。
【0077】
以上のように、本実施形態5によれば、接合時の圧力を120〜300Paにすることにより、より接合強度の高い信頼性ある接合を実現することができる。
【0078】
次に、本発明の実施形態6における接合方法について説明する。
【0079】
本発明の実施形態6における改質/接合装置において、前記実施形態1で用いた図3に示す装置と同じ条件で処理し、加圧接合した後、大気中にて電子素子パッケージ1をアニール炉に投入し、3時間加熱したときの接合強度の変化を測定したところ、図7に示すように、100℃以上で強度が向上していた。アニール温度は、図3を参照すれば、半導体素子11と基板12と蓋部材13の耐熱性を考慮して、決定しなければならないが、温度の高い方が、信頼性が向上することが判明した。
【0080】
以上のように、本実施形態6によれば、洗浄(改質)処理して基板12と蓋部材13との接合後に、大気中にて100℃以上の温度で加熱することにより、接合強度が向上し、かつ大気中にて加熱することにより、均一加熱が実現され信頼性ある接合を実現することができる。さらに、真空中での加熱を伴う接合に比べて、高生産性にすることができる。
【0081】
なお、実施形態1〜6において、前記方法を実施し、かつ各部をコントロールするためCPU(中央演算処理ユニット)などからなる制御部を具備する。
【0082】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0083】
例えば、実施形態3において水蒸気の処理の前にアルゴンガス雰囲気中でのプラズマ処理をしたが、アルゴンガスに代えて酸素ガス雰囲気中でプラズマ処理しても、スパッタリング効果や有機物を除去する効果があるため、同様の効果がある。
【0084】
プラズマの発生にしても、実施形態1,3,4のように平行平板の電極を用いる方法や、実施形態2のように中性ビームによる改質(洗浄)方法に限定されず、他の方法、例えばイオンビームにより改質するようにしてもよい。
【0085】
また、実施形態4において、30秒間のプラズマ処理した後、10秒かけて除々に電力を200Wから0Wに減少させるようにしたが、除々に電力を減少させることが重要であり、特に10秒に限定されない。
【0086】
また、実施形態2に対しても、水蒸気により改質処理する前に、実施形態3のようにアルゴンガス雰囲気で処理すれば、接合面に水酸基をつける前に、スパッタリング処理効果により洗浄することができるため、より良好な改質効果が得られる。
【0087】
また、実施形態2に対しても、水蒸気により改質処理する際に実施形態4のように、電力供給配線50,51への電力の供給を徐々に減少させることによって、スパッタリング処理効果を低減させながら、水酸基を供給することができ、より良好な改質効果が得られる。
【0088】
また、実施形態1,3〜6の高周波電極23と実施形態2の基板台34とに、静電チャック28,36を埋め込むことにより、より精度良く接合することができる。
【0089】
また、実施形態1〜6では、蓋部材13の材質をシリコンとしたが、セラミック,ガラス(SiO)などの他の絶縁材料を用いても適用できる。
【0090】
また、実施形態1〜6では、真空中で接合処理を行っているが、改質処理を行ってから大気圧に戻し、大気圧で接合することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、密閉された内部空間に電子素子を備えた電子素子パッケージにおける基板の接合面同士を接合させるための接合方法および装置に適用され、例えば、加速度センサ,圧力センサ,SAWフィルタなどの電子素子パッケージに用いて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に係る接合基板の実施形態である電子素子パッケージの構成を示す断面図
【図2】図1に示す構成の電子素子パッケージの製造工程を示すフローチャート
【図3】本発明に係る接合装置の実施形態1,3〜6である改質/接合装置の概略構成を示す断面図
【図4】本発明に係る接合装置の実施形態2である改質/接合装置の概略構成を示す断面図
【図5】実施形態4における改質(洗浄)処理における電力と電力供給時間との関係図
【図6】実施形態5における圧力と接合強度との関係図
【図7】実施形態6におけるアニール温度と接合強度との関係図
【符号の説明】
【0093】
1 電子素子パッケージ
11 半導体素子
12 基板
13 蓋部材
20,40 反応室
21 ガス導入口
22,45 真空排気口
23 高周波電極
24,29 高周波発振器
27 上部高周波電極
33 アース電極
41 基板台
42 上部基板台
46,47 中性ビーム源
48,49 ガス供給配管
50,51 電力供給配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の接合面同士を接合させるための接合方法であって、
一方の基板の接合面と他方の基板の接合面を、水あるいは水蒸気の雰囲気中でエネルギ波を照射することにより洗浄する洗浄工程と、
前記一方の基板と前記他方の基板との洗浄された接合面を加圧しながら接合する接合工程とを有することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記洗浄工程を大気圧より低い圧力の減圧雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1記載の接合方法。
【請求項3】
前記洗浄工程において、圧力が120Pa〜300Paの雰囲気中で洗浄することを特徴とする請求項1または2記載の接合方法。
【請求項4】
前記洗浄工程において、前記エネルギ波を照射するための電力を減少した後、前記電力をゼロにして前記エネルギ波の照射を停止することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の接合方法。
【請求項5】
前記洗浄工程の前に、アルゴンガスあるいは酸素ガスあるいはアルゴンガスと酸素ガスの混合ガスの雰囲気中で前記エネルギ波により洗浄することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の接合方法。
【請求項6】
前記接合工程の後、接合された前記両基板を大気圧中で加熱する加熱工程を有することを特徴とする請求項1記載の接合方法。
【請求項7】
前記加熱工程における加熱温度が100℃以上であることを特徴とする請求項6記載の接合方法。
【請求項8】
前記エネルギ波として、プラズマ、イオンビーム、原子ビーム、ラジカルビームのいずれかを用いることを特徴とする請求項1,4または5記載の接合方法。
【請求項9】
前記各基板の接合面を、水酸基を介在した状態で接合することを特徴とする請求項1記載の接合方法。
【請求項10】
基板の接合面同士を接合させるための接合装置であって、
一方の基板の接合面と他方の基板の接合面を、水あるいは水蒸気の雰囲気中でエネルギ波を照射することにより洗浄する洗浄手段と、
前記一方の基板と前記他方の基板との洗浄された接合面を加圧しながら接合する接合手段とを備えたことを特徴とする接合装置。
【請求項11】
前記洗浄における雰囲気を、圧力が120Pa〜300Paの雰囲気に設定する制御部を備えたことを特徴とする請求項10記載の接合装置。
【請求項12】
前記洗浄手段を、前記エネルギ波を照射するための電力を減少した後、前記電力をゼロにして前記エネルギ波の照射を停止させる制御部を備えたことを特徴とする請求項10または11記載の接合装置。
【請求項13】
前記洗浄の前に、アルゴンガスあるいは酸素ガスあるいはアルゴンガスと酸素ガスの混合ガスの雰囲気中で前記エネルギ波により洗浄する手段を備えたことを特徴とする請求項10〜12いずれか1項記載の接合装置。
【請求項14】
前記エネルギ波が、プラズマ、イオンビーム、原子ビーム、ラジカルビームのいずれかであることを特徴とする請求項10,12または13記載の接合装置。
【請求項15】
請求項1〜9いずれか1項記載の接合方法により製造されたことを特徴とする接合基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−281166(P2007−281166A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105186(P2006−105186)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】