説明

接合用材料及び接合方法

【課題】無加圧ないしは自重圧下でもより高い接合強度を得ることができる接合用材料を提供する。
【解決手段】平均粒径の異なる2種以上の銀系粉末を含有する接合用材料であって、(1)第1粉末として、有機成分及び銀を含む銀系粒子からなり、平均粒径が10nm未満の銀系粉末、及び(2)第2粉末として、銀を含む銀系粒子からなり、平均粒径が40nm以上である銀系粉末を含むことを特徴とする接合用材料に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な接合用材料及び接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属ナノ粒子は、粒子径が1〜数百nmの超微粒子であり、バルク金属と異なり、低融点化・低温焼結性といった特異な物性を示すことから、例えば工学的応用として配線形成用、接合用の導電ペースト等に利用されている。
【0003】
金属ナノ粒子の合成法は、バルク金属を粉砕して粒子を得る物理的方法と、金属塩や金属錯体等の前駆体からゼロ価の金属原子を生成し、それらを凝集させてナノ粒子を得る化学的方法との2つに大きく分類される。物理的方法のひとつである粉砕法は、ボールミル等の装置を用いて金属をすりつぶすことで微細化し、金属ナノ粒子を得る方法である。しかし、この手法で得られる粒子は粒子径分布が広く、数百nm以下のサイズの粒子を得ることは難しい。一方、化学的方法としては、1)レーザー合成法というCOレーザーで反応ガスを加熱して金属ナノ粒子を合成する方法、2)噴霧熱分解法という金属塩溶液を高温雰囲気中に噴霧して瞬間的な溶液の蒸発と熱分解を起こすことによって金属ナノ粒子を得る方法、3)還元法という金属塩溶液から還元反応により金属ナノ粒子を得る方法等があるが、いずれも大量合成が困難という欠点がある。
【0004】
これに対し、本発明者らは、このような既存の金属ナノ粒子合成法の問題を解決するため、金属源となる金属錯体を無溶媒で加熱するだけで金属ナノ粒子を合成できる熱分解制御法を先に開発している(特許文献1、特許文献2等)。この熱分解制御法の最大の特徴は、無溶媒で加熱するだけという簡便さであり、そのため大量合成も可能である。さらに、穏やかな還元性を有する有機化合物等を反応系に加えることによって反応条件が穏やかになり、また粒子径や形状、表面保護層の設計等が可能になることを見出している。
【0005】
一般に、金属ナノ粒子は、表面に存在する原子が非常に不安定であるために自発的に粒子間で融着を起こし、粗大化することが知られている。これに対し、上記のような熱分解制御法で得られる金属ナノ粒子は、その表面に有機保護基で覆う等の手段を講じることにより安定化することができる。このような有機保護基等で覆われた複合金属ナノ粒子は、通常の金属ナノ粒子よりも分散性等に優れるため、幅広い用途への応用に期待される。
【0006】
とりわけ、金属ナノ粒子は、鉛を大量に含む高温はんだ等の代替材料として期待され、金属ナノ粒子を用いた接合技術が盛んに研究されている。例えば、被接合部材同士を接合する接合材料であって、無機物からなる微小粒子の周囲を有機物で被覆した複合型ナノ粒子に、活性酸素を放出する酸化剤を接触または近接させた状態で介在させたことを特徴とする接合材料が提案されている(特許文献3)。このような金属ナノ粒子を用いることにより高い接合強度を得ることができるとされている。例えば、銀ナノ粒子を用いた銅板の接合では、せん断強度30MPa以上の高強度を得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−63579号
【特許文献2】特開2007−63580号
【特許文献3】特開2007−204778
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、金属の接合において金属ナノ粒子(粉末)を用いることによって、これまで以上の高い接合強度を得ることができるが、そのためには接合プロセスにおける被接合材の加圧(〜15MPa)が必要不可欠である。
【0009】
他方、特に電子部品の実装分野等においては、その製造プロセス(又は製造装置)の関係上、外部からの加圧がなくても所定の接合強度が得られなければならない。
【0010】
しかしながら、一般に、金属ナノ粒子を接合材として用いた金属どうしの接合において、無加圧(ないしは自重圧)で得られるせん断強度はせいぜい5MPa程度が限界であるが、より高い接合強度を実現するためにはさらなる改善が必要である。
【0011】
従って、本発明の主な目的は、無加圧ないしは自重圧下でもより高い接合強度を得ることができる接合用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、金属ナノ粒子からなる粉末を用いて特定の組成に制御することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記の接合用材料及び接合方法に係る。
1. 平均粒径の異なる2種以上の銀系粉末を含有する接合用材料であって、
(1)第1粉末として、有機成分及び銀を含む銀系粒子からなり、平均粒径が10nm未満の銀系粉末、及び
(2)第2粉末として、銀を含む銀系粒子からなり、平均粒径が40nm以上である銀系粉末
を含むことを特徴とする接合用材料。
2. 第2粉末の平均粒径が100〜300nmである、前記項1に記載の接合用材料。
3. 第3粉末として、銀を含む銀系粒子からなり、平均粒径が15〜45nmである銀系粉末をさらに含む、前記項1又は2に記載の接合用材料。
4. 第1粉末の平均粒径が6〜9nm、第2粉末の平均粒径が150〜250nm、第3粉末の平均粒径が25〜30nmである、前記項1〜3のいずれかに記載の接合用材料。
5. 溶剤及び粘度調整用樹脂の少なくとも1種をさらに含む、前記項1〜4のいずれかに記載の接合用材料。
6. 無加圧又は自重圧下で接合するために用いる、前記項1〜5のいずれかに記載の接合用材料。
7. 接合すべき2つの部材の間に前記項1〜6のいずれかに記載の接合用材料を介在させた後、150〜400℃で加熱する工程を含む接合方法。
8. 前記工程を無加圧又は自重圧下で行う、前記項7に記載の接合方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定の平均粒子径をもつ2種以上の銀系粉末の混合粉末を含むことから、適切な充填性、焼結性等が設定されることに起因して、より高い接合強度を得ることができる。特に、無加圧ないしは自重圧下であっても、従来技術に比して高い接合強度を発現することができる。しかも、さらに平均粒子径の異なる第3粉末を配合することにより、いっそう高い接合強度を実現することが可能となる。
【0015】
このような特徴を有する本発明の接合用材料は、一般的な接合はもとより、無加圧ないしは自重圧下での接合が要求される電子部品又は配線の接合用として好適に用いることができる。すなわち、電気的接合領域の形成のために用いる接合用材料として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】接合試験に用いたサンプル片(部材)の形状及び配置方法を示す図である。図1(a)は、各部材の形状及びサイズ、両部材の接合方法を示す。図1(b)は、接合体にせん断試験を行うときの状態を示す図である。
【図2】接合されたサンプルの接合温度と接合強度の関係を示すグラフである。
【図3】比較ペースト(接合温度300℃)によるサンプルのせん断試験後の破断面のSEM写真を示す。
【図4】ペースト2(接合温度300℃)によるサンプルのせん断試験後の破断面のSEM写真を示す。
【図5】ペースト1(接合温度300℃)によるサンプルのせん断試験後の破断面のSEM写真を示す。
【図6】ペースト1(接合温度350℃)によるサンプルのせん断試験後の破断面のSEM写真を示す。
【図7】試験例2において、200℃で接合された各サンプルのせん断強度を示すグラフである。
【図8】ペースト1(接合温度200℃)によるサンプル1(図8(a))及びサンプル4(接合温度200℃)(図8(b))のせん断試験後の破断面のSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.接合材料
本発明の接合材料(本発明材料)は、平均粒径の異なる2種以上の銀系粉末を含有する接合用材料であって、
(1)第1粉末として、有機成分及び銀を含む銀系粒子からなり、平均粒径が10nm未満の銀系粉末、及び
(2)第2粉末として、銀を含む銀系粒子からなり、平均粒径が40nm以上である銀系粉末
を含むことを特徴とする
【0018】
第1粉末
第1粉末は、有機成分及び銀を含む銀系粒子からなる粉末を用いる。有機成分の種類は特に限定されないが、通常は出発原料として用いる有機化合物又はその熱分解生成物から構成されていることが好ましい。この場合、有機成分の含有量も限定的ではないが、銀系微粒子の金属含有量が通常は60〜98重量%、特に75〜98重量%となるように調整することが好ましい。
【0019】
第1粉末(銀系粉末)の平均粒子径は、通常10nm以下であり、特に8nm以下とすることが好ましい。この範囲内に設定することにより、無加圧又は自重圧下でも高い接合強度を得ることができる。なお、平均粒子径の下限値は限定的ではないが、一般的には約1nm以上とすれば良い。
【0020】
第1粉末自体は、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製法方法で得られる銀系粉末を用いることもできる。前記製造方法としては、液相法、固相法又は気相法のいずれであっても良い。例えば、以下の方法で得られる銀系粉末を好適に用いることができる。すなわち、本発明では、例えば金属塩を含む出発材料をアミン化合物の存在下で熱処理して得られた銀系粉末を好適に使用することができる。以下、この方法(本発明製造法)を代表例として説明する。
【0021】
金属塩(Ag塩)としては、例えば硝酸塩、塩化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;ステアリン酸塩、ミリスチン酸塩等の有機酸塩のほか、金属錯体(錯塩)等も用いることができる。特に、本発明では、(1)金属炭酸塩、(2)脂肪酸塩及び(3)金属錯体の少なくとも1種の金属塩(Ag塩)を好適に使用することができる。
【0022】
脂肪酸塩としては、R−COOH又はHOOC−R−COOH(ただし、Rは、炭素数7以上(特に7〜17)であって置換基を有していても良い炭化水素基を示す。)又はHOOC−R−COOH(ただし、Rは、炭素数3以上であって置換基を有していても良い炭化水素基を示す。)で示される脂肪酸の金属塩が好ましい。上記炭化水素基R及びRは、飽和又は不飽和のいずれであっても良い。
【0023】
また、金属錯体としては、カルボキシレート配位子を含む金属錯体が好ましい。このような金属錯体としては、RCOO(ただし、Rは、炭素数7以上であって置換基を有していても良い炭化水素基を示す。)で示される単座配位子又はOOC−R−COO(ただし、Rは、炭化水素基を示す。)で示される二座配位子(キレート配位子を含む。)のいずれであっても良い。単座配位子の場合は直鎖状アルキル基が好ましい。二座配位子の場合は直鎖状メチレン基が好ましい。上記炭化水素基Rは、炭素数7〜30であることが好ましく、炭素数7〜17であることがより好ましい。また、上記炭化水素基Rは、メチレン基等の飽和炭化水素基;フェニル基、プロピレン基、ビニレン基等の不飽和炭化水素基のいずれであっても良い。上記炭化水素基Rの炭素数は限定的でないが、6〜12程度であることが好ましい。
【0024】
金属錯体は、カルボキシレート配位子を有するものであれば、それ以外にホスフィン配位子等の他の配位子を有していても良い。
【0025】
本発明における金属錯体としては、例えば一般式M(RP)(OCR’)(ただし、MはAgを示す。R〜R及びR’は、互いに同一又は別異で、シクロヘキシル基、フェニル基又は炭素数1〜30のアルキル基であって、置換基を有していても良いものを示す。)で示される金属錯体を用いることができる。上記a)における前記置換基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、スルホン基、OH基、ニトロ基、アミノ基、ハロゲン基(Cl、Br等)、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、置換基の位置及び数は特に限定されない。これらの具体例としては、例えばM(PPh)(OCC2n+1)(ただし、MはAgを示す。Phはフェニル基を示す。nは7〜17を示す。)で表わされる金属錯体を用いることもできる。
【0026】
また、本発明では、必要に応じて、出発材料に他の成分を含有させることもできる。例えば、脂肪酸又はその塩を添加することができる。好ましくは、脂肪酸としては、上記の脂肪酸塩における脂肪酸と同様のものを使用することができる。その含有量等は、用いる出発物材料の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0027】
本発明製造法では、上記のような金属成分を含む出発材料をアミン化合物の存在下において熱処理する。特に、本発明では、有機溶媒を用いることなく、金属成分を含む出発材料とアミンを反応容器に仕込んで、熱処理するだけでも良い。アミンが固体の場合は、金属成分を含む出発材料とアミンを固体のまま熱処理すれば良い。
【0028】
上記アミン化合物の種類は、1級アミン、2級アミン又は3級アミンのいずれであっても特に限定されない。
【0029】
1級アミンとしては、特に一般式RNH(ただし、Rは、炭素数8以上の炭化水素基を示す。)で示されるものが好ましい。例えば、オクチルアミンC17NH、ラウリルアミンC1225NH、ステアリルアミンC1837NH等が挙げられる。
【0030】
2級アミンとしては、特に一般式RNH(ただし、R及びRは、互いに同一又は別異であって、炭素数2〜8の炭化水素基を示す。)で示されるものが好ましい。例えば、ジエチルアミン(CNH、ジヘキシルアミン(C13NH、ジオクチルアミン(C17NH等が挙げられる。
【0031】
3級アミンとしては、特に一般式RN(ただし、R〜Rは、互いに同一又は別異であって、炭素数2〜8の炭化水素基を示す。)で示されるものが好ましい。例えば、トリエチルアミン(CN、トリプロピルアミン(CN、トリオクチルアミン(C17N等が挙げられる。
【0032】
アミン化合物の使用量は、金属成分を含む出発材料と等モル以上であれば特に限定されない。従って、必要に応じて過剰量を用いても良い。なお、アミン化合物は、あらかじめ適当な有機溶媒に溶解又は分散させた上で使用することもできる。
【0033】
熱処理温度は、金属塩がアミン化合物と反応して所定の金属ナノ粒子が得られる限り特に制限されず、用いる金属塩及びアミン化合物の種類等に応じて適宜決定することができる。一般的には50℃以上の範囲で設定すれば良く、特に、出発材料とアミン化合物との混合物が最終的に液状になる温度以上で、かつ、アミン化合物の沸点未満の温度領域とすることが好ましい。すなわち、上記混合物が最終的にすべて溶融状態になる温度以上での熱処理により、P、N及びOを少なくとも1種を含む物質で構成される金属ナノ粒子の形成をより効果的に進行させることができる。
【0034】
熱処理時間は、使用する出発材料の種類、熱処理温度等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は1〜10時間程度、好ましくは3〜8時間とすれば良い。
【0035】
熱処理雰囲気は、酸化性雰囲気中、大気中、還元性雰囲気中、不活性ガス中等のいずれであっても良く、例えば金属塩の金属種に応じて適宜設定することができる。また、前記の不活性ガスとしては、例えば窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを使用すれば良い。
【0036】
熱処理が終了した後、必要に応じて精製を行う。精製方法は、公知の精製法も適用でき、例えば洗浄、遠心分離、膜精製、溶媒抽出等により行えば良い。
【0037】
第2粉末
第2粉末は、銀を含む銀系粒子からなる。第2粉末は、第1粉末が充填される空隙を含む骨格を形成するものであり、第1粉末との併用によって所望の高強度を実現することができる。第2粉末としては、銀を含むものであれば限定的でなく、銀粒子(銀単体の粒子)からなる粉末のほか、第1粉末のような有機成分及び銀を含む銀系粒子からなる粉末であっても良い。有機成分及び銀を含む銀系粒子からなる粉末を用いる場合は、第1粉末と同様のものを使用することができ、また前記の本発明製造法により製造することもできる。
【0038】
第2粉末の平均粒子径は、通常40nm以上であり、特に100nm以上であることが好ましく、さらには150nm以上であることがより好ましい。第2粉末の平均粒子径の上限値は特に制限されないが、一般的には400nm以下とし、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下とする。
【0039】
第3粉末
また、本発明では、さらに第1粉末と第2粉末との間の平均粒子径を有する銀系粉末を第3粉末として含むことが好ましい。第3粉末を含むことにより、いっそう高い接合強度を実現することが可能となる。
【0040】
第3粉末としては、銀を含む銀系粒子からなる粉末を用いることができる。すなわち、第2粉末と同様、銀粒子(銀単体の粒子)からなる粉末のほか、第1粉末のような有機成分及び銀を含む銀系粒子からなる粉末であっても良い。有機成分及び銀を含む銀系粒子からなる粉末を用いる場合は、第1粉末と同様のものを使用することができ、また前記の本発明製造法により製造することもできる。
【0041】
第3粉末の平均粒子径は、前記の通り、用いる第1粉末と第2粉末との間の平均粒子径を有するものであれば限定されない。例えば、第2粉末の平均粒子径が100〜300nm程度である場合は、第3粉末として平均粒子径15〜45nm程度の銀系粉末を好適に用いることができる。
【0042】
なお、本発明では、第3粉末は、1種であっても良いし、2種以上(すなわち、平均粒子径の異なる2種以上)を採用しても良い。
【0043】
混合粉末の調製
本発明では、これらの銀系粉末を均一に混合することにより本発明材料を得ることができる。すなわち、少なくとも第1粉末及び第2粉末を混合してなる混合粉末を含む接合用材料として提供することができる。
【0044】
混合方法は、乾式混合であっても良いし、溶媒等を用いて湿式混合を実施しても良い。 各粉末の混合割合は限定的ではなく、所望の接合強度、粉末の平均粒子径等に応じて適宜設定することができる。例えば、第2粉末は、第1粉末100重量部に対して100〜800重量部、好ましくは150〜600重量部、より好ましくは150〜550重量部とすることができる。第3成分は、第1粉末100重量部に対して100〜300重量部、好ましくは150〜250重量部、より好ましくは150〜200重量部とすることができる。
【0045】
本発明材料は、混合粉末(固形分)のままでも良いし、液状(ペースト状)であっても良い。液状とする場合は、混合粉末と、溶剤及び粘度調整用樹脂の少なくとも1種とを含むペーストとして提供することができる。
【0046】
溶剤としては特に限定されない。例えば、テルペン系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、セロソルブ系溶剤、カルビトール系溶剤等が挙げられる。より具体的には、ターピネオール、メチルエチルケトン、アセトン、イソプロパノール、ブチルカービトール、デカン、ウンデカン、テトラデカン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ジエチルエーテル、ケロシン等の有機溶剤を用いることができる。
【0047】
また、粘度調整用樹脂としても特に制限されない。例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の硬化剤硬化性樹脂等を用いることができる。
【0048】
なお、ペーストを調製する場合、混合粉末の固形分含有量は20〜90重量%程度の範囲で適宜設定することができる。
【0049】
本発明材料は、特に接合用として好適に用いることができる。例えば、金属どうしの接合用(例えば、銅系金属−銅系金属、銀系金属−銅系金属等)として好適に用いることができる。より具体的には、本発明材料を用いて電気的接合領域を好適に形成することができる。これにより、2つの回路を接合することができる。接合方法は、例えば後記2.の方法に従って実施することができる。
【0050】
2.接合方法
本発明は、接合すべき2つの部材の間に本発明材料を介在させた後、150〜400℃で加熱する工程を含む接合方法を包含する。
【0051】
接合すべき部材としては、金属(合金、金属間化合物も含む。)のほか、セラミックス、プラスチックス、これらの複合材料等を例示できるが、本発明では特に金属(金属どうしの接合)が好ましい。また、部材の形状等も、本発明材料が部材間に適切に配置できる限り、特に限定されない。
【0052】
本発明の接合方法では、接合すべき部材の間に本発明材料(粉末状、ペースト状等)を介在させる。
【0053】
本発明材料の使用量は特に限定されず、接合面全体に亘り均一に介在できる量となるように適宜設定すれば良い。なお、溶剤を含むペーストを用いる場合は、部材間にペーストを介在させた後、熱処理に先立って、その溶剤の一部又は全部を蒸発させるための前処理を実施することが好ましい。前処理の方法としては、例えば100〜150℃程度で加熱する方法等が挙げられる。
【0054】
次いで、150〜400℃で熱処理を行う。熱処理温度は、例えば用いる混合粉末の種類、所望の接合強度、部材の材質等に応じて適宜設定することができる。熱処理雰囲気は特に限定されず、例えば酸化性雰囲気中、大気中、還元性雰囲気中、不活性ガス中のいずれでも実施することができる。
【0055】
また、熱処理する際は、接合すべき部材どうしを加圧しながら熱処理しても良いし、無加圧ないしは自重圧下で熱処理しても良い。特に、本発明では、無加圧ないしは自重圧下でも比較的高い接合強度を得ることができる点に特徴がある。加圧する場合において、その圧力としては、例えば1〜20MPa程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0056】
熱処理時間は、熱処理温度等に応じて適宜設定することができるが、通常はおよそ1秒〜60分程度とすれば良い。このようにして、部材どうしの間に本発明材料の焼成体(焼結体)が接着剤として介在した状態の接合体を得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、実施例における物性等の測定は、以下の方法に従って実施した。
【0058】
(1)定性分析
金属成分の同定は、強力X線回折装置「RINT2500V」(リガク社製)を用い、粉末X線回折分析法で行った。
(2)平均粒子径
透過型電子顕微鏡(TEM)「JEM−2100」(日本電子社製)により測定し、任意に選んだ粒子100個の直径の算術平均値を求め、その値をもって平均粒子径とした。
(3)金属成分の含有量
熱分析装置「SSC/5200」(セイコー電子工業)を用い、TG/DTA分析することにより求めた。
(4)有機成分等の分析
金属ナノ粒子におけるP(リン成分)、N(窒素成分)とO(酸素成分)の確認は、X線光電子スペクトル装置「ESCA−700」(アルバックファイ社製)、FT−IR装置「GX I−RO」(パーキンエルマー社製)により行った。有機成分の確認は、FT−NMR装置「JNM−EX270」(日本電子製)、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析)装置「5973Network MSD」(ヒューレットパッカード社製)を用いて行った。
【0059】
実施例1
(1)第1粉末等の調製
(1−1)第1粉末の調製
炭酸銀(41.4g)とオクチルアミン(40.7g)をパイレックス(登録商標)製三つ口フラスコに固体のまま入れ、大気中100℃まで徐々に加熱した。100℃で4時間保持した後、70℃まで放冷し、メタノールを加えて数回洗浄し、生成した粉末を桐山ロートでろ別し、減圧下で乾燥させ、銀系粉末を得た。得られた粉末の平均粒子径は7.9nmであり、金属含有量は72重量%であった。
(1−2)第2粉末の調製
前記(1−1)の方法に準じて銀系粉末を得た。得られた粉末の平均粒子径は200nmであり、金属含有量は97重量%であった。
(1−3)第3粉末の調製
前記(1−1)の方法に準じて銀系粉末を得た。得られた粉末の平均粒子径は28nmであり、金属含有量は94重量%であった。
【0060】
(2)混合粉末の調製
(2−1)ペースト1の調製
前記の第1粉末、第2粉末及び第3粉末をそれぞれ12.25重量%、65重量%及び22.75重量%で混合することにより混合粉末を調製した。得られた混合粉末をターピネオールに分散させて固形分濃度約70重量%のペースト1を調製した。
(2−2)ペースト2の調製
前記の第1粉末及び第2粉末をそれぞれ35重量%及び65重量%で混合することにより混合粉末を調製した。得られた混合粉末をターピネオールに分散させて固形分濃度約70重量%のペースト2を調製した。
【0061】
試験例1
実施例で得られたペーストを用いて接合試験を実施した。なお、比較のため、第1粉末のみを用いて同様に調製された比較ペーストを用い、同様の接合試験を実施した。
【0062】
接合試験に用いた無酸素銅からなる接合試験片の形状を図1(a)に示す。それぞれの試験片の接合面はRmax=3.2Sとなるように旋盤加工により仕上げ、アセトン中での超音波洗浄と塩酸中での酸洗いを行った後、水洗と乾燥を経て試験に供した。大きい方の円板試験片の接合面にペーストを一定量塗布し、小さい方の試験片を重ねて軽く圧しつけながらペーストが接合面全体に広がるように接合試験片を調整した。当該試験片を所定の保持温度まで5分間かけて昇温した後、250〜350℃の接合温度(熱処理温度)で大気中での接合試験を行なった。接合に際しては、外部からの加圧を行わず、自重圧のみとして、1)保持温度250℃×保持時間5分のサンプル、2)保持温度300℃×保持時間5分のサンプル、3)保持温度350℃×保持時間5分としてサンプルをそれぞれ作製した。
【0063】
接合試験により得られたサンプルについて、インストロン万能材料試験機を用いて図1(b)に示すようにせん断試験を行い、それぞれの接合強度を求めた。その結果を図2に示す。図2には、なお、図2中、「▲」がペースト1を用いた場合、「■」がペースト2を用いた場合、「●」印が比較ペーストを用いた場合の結果をそれぞれ示す。
【0064】
図2の結果からも明らかなように、比較ペーストでは接合温度250℃では比較的高い強度を示すものの、接合温度の上昇に伴って低下することがわかる。これに対し、ペースト2では接合温度の上昇に伴って強度が高くなり、またペースト1では接合温度350℃で約250Nに到達しており、100N(特に200N)以上の高強度を達成できることがわかる。すなわち、ペースト1のように、第1粉末の平均粒径が6〜9nm、第2粉末の平均粒径が150〜250nm、第3粉末の平均粒径が25〜30nmという特定の平均粒子径の範囲内で制御することによって、自重圧下であってもより高い接合強度が得られることがわかる。
【0065】
図3〜図6には、各種金属ナノ粒子ペーストを用いて接合したサンプルについて、せん断試験後の破断面のSEM写真を示す。図3は比較ペーストによるサンプル(接合温度:300℃)、図4はペースト2によるサンプル(接合温度:300℃)、図5はペースト1によるサンプル(接合温度:300℃)、図6はペースト1によるサンプル(接合温度350℃)をそれぞれ示す。比較ペーストによるサンプルではひび割れが目立つのに対し、ペースト1及び2によるサンプルではそのような欠陥がない一方、明瞭な伸長ディンプルが認められた。
【0066】
試験例2
接合温度を200℃(保持時間30分)としたほかは試験例1と同様にしてペースト1によるサンプル(サンプル1)を作製し、接合強度を測定した。対比のため、下記の3つのサンプルの接合強度を測定した。その結果を図7に示す。
【0067】
サンプル2:有機成分を含まない市販の銀粉末(平均粒径5μm)65重量%と前記第1粉末35重量%とをターピネオールに分散させて固形分濃度約70重量%のペーストを調製した。得られたペーストを用い、接合温度を200℃としたほかは試験例1と同様にしてサンプルを作製した。
【0068】
サンプル3:有機成分を含まない市販の銀粉末(平均粒径300nm)65重量%と前記第1粉末35重量%とをターピネオールに分散させて固形分濃度約70重量%のペーストを調製した。得られたペーストを用い、接合温度を200℃としたほかは試験例1と同様にしてサンプルを作製した。
【0069】
サンプル4:前記第1粉末のみをターピネオールに分散させて固形分濃度約70重量%のペーストを調製した。得られたペーストを用い、接合温度を200℃としたほかは試験例1と同様にしてサンプルを作製した。
【0070】
図7の結果からも明らかなように、銀系ナノ粒子単独を用いたサンプル4(比較品)では接合強度が80N程度であるのに対し、サンプル1〜3(本発明品)ではサンプル4よりも高い強度を示すことがわかる。また、サンプル2〜3のように、第2粉末として有機成分を含まない銀系粉末であっても所望の強度が達成できることがわかる。
【0071】
また、サンプル1とサンプル4について、せん断試験後の破断面のSEM写真を図8(a)及び(b)に示す。図8の結果からも明らかなように、サンプル4では破断面に多くの空隙が認められたのに対し(図8(b))、サンプル1では比較的緻密な破断面が維持されていることがわかる(図8(a))。すなわち、本発明の接合用材料では、緻密であるがゆえに高強度の接合層を形成できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径の異なる2種以上の銀系粉末を含有する接合用材料であって、
(1)第1粉末として、有機成分及び銀を含む銀系粒子からなり、平均粒径が10nm未満の銀系粉末、及び
(2)第2粉末として、銀を含む銀系粒子からなり、平均粒径が40nm以上である銀系粉末
を含むことを特徴とする接合用材料。
【請求項2】
第2粉末の平均粒径が100〜300nmである、請求項1に記載の接合用材料。
【請求項3】
第3粉末として、銀を含む銀系粒子からなり、平均粒径が15〜45nmである銀系粉末をさらに含む、請求項1又は2に記載の接合用材料。
【請求項4】
第1粉末の平均粒径が6〜9nm、第2粉末の平均粒径が150〜250nm、第3粉末の平均粒径が25〜30nmである、請求項3に記載の接合用材料。
【請求項5】
溶剤及び粘度調整用樹脂の少なくとも1種をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の接合用材料。
【請求項6】
無加圧又は自重圧下で接合するために用いる、請求項1〜5のいずれかに記載の接合用材料。
【請求項7】
接合すべき2つの部材の間に請求項1〜6のいずれかに記載の接合用材料を介在させた後、150〜400℃で加熱する工程を含む接合方法。
【請求項8】
前記工程を無加圧又は自重圧下で行う、請求項7に記載の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−175871(P2011−175871A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39267(P2010−39267)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【出願人】(591040292)大研化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】