説明

接着シート、半導体装置及びその製造方法

【課題】 半導体装置の製造プロセスにおいて外部から混入する陽イオンを捕捉することにより、製造される半導体装置の電気特性の低下を防止して製品信頼性を向上させることができる接着シートを提供すること。
【解決手段】 以下の(a)成分〜(c)成分を含み、かつ有機成分のみにより構成される接着シート。
(a)重量平均分子量80万以上のアクリル樹脂
(b)エポキシ樹脂及びフェノール樹脂のうちの少なくとも1種
(c)金属イオンと錯体を形成する錯化剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着シート、半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や、携帯オーディオ機器用のメモリパッケージチップを多段に積層したスタックドMCP(Multi Chip Package)が普及している。また、画像処理技術や携帯電話等の多機能化に伴い、パッケージの高密度化・高集積化・薄型化が推し進められている。半導体チップを基板等に固定する方法としては、熱硬化性ペースト樹脂を用いる方法や、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを併用した接着シートを用いる方法が提案されている。
【0003】
一方、半導体製造のプロセス中に外部から、ウェハの結晶基板に金属イオン(例えば、銅イオンや鉄イオン)が混入し、この金属イオンがウェハ上に形成された回路形成面に到達すると、電気特性が低下することがある。また、製品使用中に回路やボンディングワイヤーから金属イオンが発生し、同様に電気特性が低下することがある。
【0004】
これに対して、ウェハの裏面を加工して破砕層(歪み)を形成し、この破砕層により金属イオンを捕捉して除去するエクストリンシック・ゲッタリング(以下、「EG」ともいう)や、ウェハの結晶基板中に酸素析出欠陥を形成し、この酸素析出欠陥により金属イオンを捕捉して除去するイントリンシック・ゲッタリング(以下、「IG」ともいう)が試みられている。
【0005】
しかしながら、近年の半導体装置の高容量化のためのウェハの薄型化に伴い、IGの効果が小さくなるとともに、ウェハの割れや反りの原因となる裏面歪みが除去されることにより、EGの効果が得られなくなり、ゲッタリング効果を充分に発揮しにくい状況になりつつある。
【0006】
そこで、ゲッタリング効果を補完するための方策が種々提案されている。特許文献1には、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を含有する銅イオン吸着層を備えるフィルム状接着剤が記載されている。また、銅イオン吸着層の樹脂内部に銅イオンを化学的に吸着させることができ、銅を素材とする部材から発生する銅イオンの影響を従来よりも大幅に低減することができる、と記載されている。また、特許文献2、3には、イオン捕捉剤を含有する粘接着剤組成物が記載されており、このイオン捕捉剤は、塩素イオン等を捕捉する効果を有することが開示されている。また、特許文献4には、イオントラップ剤を含有するフィルム状接着剤が記載されており、このイオントラップ剤は、ハロゲン元素を捕捉することが記載されている。また、特許文献5には、陰イオン交換体を含む接着シートが記載されている。また、特許文献6には、キレート変性エポキシ樹脂を含み、内部のイオン性不純物を捕捉することが可能のシート状接着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−52109号公報
【特許文献2】特開2009−203337号公報
【特許文献3】特開2009−203338号公報
【特許文献4】特開2010−116453号公報
【特許文献5】特開2009−256630号公報
【特許文献6】特開2011−105875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の接着シートには、低温領域での貼り付き性を良好にするために熱可塑性樹脂が添加されている。しかし、熱可塑性樹脂自体のガラス転移温度(Tg)が低いことから、接着シートの高温での弾性率が低下し、ダイボンディング後のワイヤーボンディングの際に半導体チップがずれたり、半導体チップを実装するためのリフロー工程で剥離が生じたりすることがある。そこで、接着シートにシリカ等のフィラーを添加することで高温での弾性率を高くするという方策が採られている。
【0009】
しかしながら、フィラーを用いると、半導体チップがフィラーとの接触により欠けてしまったり、場合によっては割れてしまったりする。上述の半導体装置の高容量化には、ウェハの薄型化だけでなく、半導体チップの固定のための接着シートも薄型化する必要があるところ、接着シートが薄くなればなるほど、フィラーによる半導体チップの欠けや割れの頻度が上がる。また、近年の薄型化によって半導体チップ自体の強度も低下してきていることから、半導体チップの欠けや割れの発生が顕在化する傾向にある。なお、上記従来の技術ではいずれも無機フィラーが用いられており、この課題を解決することができない。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、製造される半導体装置の電気特性の低下を防止して製品信頼性を高めることができるとともに、薄型化を進めてもウェハないし半導体チップへの機械的損傷を防止可能な接着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、半導体装置製造用の接着シートについて鋭意検討したところ、以下の構成を採用することにより上記課題を解決することができることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る接着シートは、以下の(a)成分〜(c)成分を含み、かつ有機成分のみにより構成される。
(a)重量平均分子量80万以上のアクリル樹脂
(b)エポキシ樹脂及びフェノール樹脂のうちの少なくとも1種
(c)金属イオンと錯体を形成する錯化剤
【0013】
当該接着シートは有機成分のみにより構成されており、換言すると、シリカ等の無機成分で構成されたフィラーを含まないことから、フィラーとの接触による半導体チップ又はウェハ(以下、「半導体チップ等」と称する場合がある。)の欠けや割れといった機械的損傷を防止することができる。また、(a)成分及び(b)成分の採用によりガラス転移温度の低下を防止することができるので、フィラーを含まなくても高温下での接着シートの弾性率を維持することができ、その結果、高温で十分なせん断接着力が得られるのでワイヤーボンディング工程を良好に行うことができ、リフロー工程で接着シートと被着体の間で剥離が発生することを抑制できる。さらに、当該接着シートは(c)成分を含んでいることから、半導体装置の製造プロセス中で半導体チップ等に混入してくる金属イオンを効率的に捕捉し、製品信頼性の高い半導体装置を製造することができる。なお、有機成分のみにより構成されるとは、接着シートの構成成分として積極的に無機成分を採用しないという意味であって、各構成性成分に無機成分が不純物として不可避的に含まれる場合は本発明の範囲内である。
【0014】
当該接着シートでは、10ppmの銅イオンを有する水溶液50ml中に、重さ2.5gの接着シートを浸漬し、120℃で20時間放置した後の上記水溶液中の銅イオン濃度が、0〜9.9ppmであることが好ましい。接着シートがこのような銅イオン捕集性を有することにより、半導体装置の製造プロセスにおいて半導体チップ等に混入してくる金属イオンを補足することができる。その結果、外部から混入する陽イオンがウェハ上に形成された回路形成面に到達し難くなり、電気特性の低下が抑えられて製品信頼性を向上させることができる。
【0015】
当該接着シートでは、175℃で1時間熱硬化させた後の175℃での引張貯蔵弾性率が0.1MPa以上1000MPa以下であることが好ましい。これにより、高温での引張貯蔵弾性率を確保することができ、ワイヤーボンディング工程やリフロー工程を良好に行うことができる。
【0016】
当該接着シートでは、上記(a)成分と上記(b)成分とが互いに架橋可能であることが好ましい。(a)成分と(b)成分とが架橋することにより、高温(例えば、175〜260℃)での接着力がより高まり、リフロー工程等における剥離等を防止することができ、その結果、半導体装置の製造の歩留まりを向上させることができる。
【0017】
上記(a)成分と(b)成分とを架橋させるために、上記(a)成分が具体的にエポキシ基を有すると、好適に(b)成分との架橋反応を進行させることができる。
【0018】
当該接着シートでは、上記(c)成分が、3級窒素原子を有する複素環化合物、及び1つの芳香環に水酸基を2つ以上有する化合物のうちの少なくとも1種であることが好ましい。このように有機系の錯化剤を用いることにより、接着シートを構成する樹脂成分との親和性が高まり、接着シート中で偏りなく存在することができ、金属イオンの効率的な捕捉が可能となる。また、上記特定の構造の錯化剤を用いることで、錯形成能を向上させることができ、金属イオンのさらなる効率的な捕捉が可能となる。
【0019】
当該接着シートは有機成分のみにより構成されているので、接着シートの厚さは、半導体装置の高容量化に対応するべく、3〜20μmまで薄型化することができる。
【0020】
当該接着シートはフィラー成分を含まないことが好ましい。これにより、フィラー成分が半導体チップ等に機械的損傷を与えることを回避でき、接着シートや半導体チップの更なる薄型化が可能となり、結果として、半導体装置の高容量化や小型化が可能となる。フィラーは、それぞれ有機成分で構成される場合と、無機成分から構成される場合があり、当該接着シートはどちらのフィラーも含有しないことが好ましい。
【0021】
本発明には、被着体と、
上記被着体上に積層された当該接着シートと、
上記接着シート上に配置された半導体チップと
を備える半導体装置も含まれる。
【0022】
当該半導体装置は、当該接着シートを介して半導体チップを被着体上に固定する工程を含む半導体装置の製造方法により効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る接着シートをダイボンドフィルムとして用いたダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。
【図2】前記ダイシング・ダイボンドフィルムにおけるダイボンドフィルムを介して半導体チップを実装した例を示す断面模式図である。
【図3】前記ダイシング・ダイボンドフィルムにおけるダイボンドフィルムを介して半導体チップを3次元実装した例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る接着シート、並びに半導体装置及びその製造方法について図面を参照しつつ説明する。
【0025】
[接着シート]
本実施形態に係る接着シートは、以下の(a)成分〜(c)成分を含み、かつ有機成分のみにより構成される。
(a)重量平均分子量80万以上のアクリル樹脂
(b)エポキシ樹脂及びフェノール樹脂のうちの少なくとも1種
(c)金属イオンと錯体を形成する錯化剤
【0026】
当該接着シートは有機成分のみにより構成されている。言い換えると、シリカフィラーに代表されるフィラー成分を含まないことから、フィラーとの接触による半導体チップ等の欠けや割れといった機械的損傷を防止することができる。また、上記(a)成分及び上記(b)成分の採用によりガラス転移温度の低下を防止することができるので、フィラーを含まなくても高温下での接着シートの弾性率、ひいてはせん断接着力を維持することができ、ワイヤーボンディング工程やリフロー工程を良好に行うことができる。さらに、当該接着シートは上記(c)成分を含んでいることから、半導体装置の製造プロセス中で半導体チップ等に混入してくる金属イオンを効率的に捕捉し、製品信頼性の高い半導体装置を製造することができる。
【0027】
当該接着シートでは、10ppmの銅イオンを有する水溶液50ml中に、重さ2.5gの半導体装置製造用の接着シートを浸漬し、120℃で20時間放置した後の上記水溶液中の銅イオン濃度が、0〜9.9ppmであることが好ましく、0〜9.5ppmであることがより好ましく、0〜9.0ppmであることがさらに好ましい。接着シートがこのような範囲の銅イオン捕集性を有することにより、半導体装置の製造プロセスにおいて半導体チップ等に混入してくる金属イオンを補足することができる。その結果、外部から混入する陽イオンがウェハ上に形成された回路形成面に到達しにくくなり、電気特性の低下が抑えられて製品信頼性を向上させることができる。銅イオン捕捉後の銅イオン濃度を0〜9.9ppmとする方法としては、上述したように、錯化剤を接着シートに含有させる方法に加え、使用する樹脂成分にカルボン酸基等の金属イオンを捕捉する官能基を導入する方法などが挙げられる。
【0028】
当該接着シートでは、175℃で1時間熱硬化させた後の175℃での引張貯蔵弾性率が0.1MPa以上1000MPa以下であることが好ましく、0.3MPa以上800MPa以下であることがより好ましく、0.5MPa以上500MPa以下であることがさらに好ましい。接着シートの引張貯蔵弾性率を上記範囲とすることにより、高温での引張貯蔵弾性率を確保することができ、ワイヤーボンディング工程やリフロー工程を良好に行うことができる。
【0029】
当該接着シートの厚さは特に限定されないが、当該接着シートは有機成分のみにより構成されているので、半導体装置の高容量化に対応するべく容易に薄型化を図ることができる。接着シートの厚さは、好ましくは3〜20μmまで薄型化することができ、より好ましくは3〜15μmまで、さらに好ましくは3〜10μmまで薄型化を進めることができる。
【0030】
当該接着シートは、フィラーを含まないことが好ましい。これにより、無機フィラーや有機フィラーといった半導体チップ等に機械的損傷を与え得る分散相を排除することができるので、接着シートのさらなる薄型化にも対応可能となる。
【0031】
当該接着シートは、85℃、85%RHの雰囲気下で120時間放置したときの吸水率が3重量%以下であることが好ましく、2重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることがさらに好ましい。上記吸水率が3重量%以下であると、半導体パッケージ中において、接着シート中の金属イオンの運動が抑制され、より好適に金属イオンを捕捉することができる。
【0032】
当該接着シートは、支持部材に対する熱硬化後(175℃×1時間)のせん断接着力が、175℃の条件下において、0.05MPa以上1GPa以下であることが好ましく、0.1MPa以上0.8GPa以下であることがより好ましく、0.2MPa以上0.5GPa以下であることがさらに好ましい。上記せん断接着力が、175℃の条件下において、0.05MPa以上であると、半導体パッケージ中において、金属イオンが支持部材(例えば、ウェハ等)から接着シートへと拡散し易くなり、金属イオンをより好適に捕捉することができる。
【0033】
<(a)成分>
当該接着シートは、(a)成分として重量平均分子量80万以上のアクリル樹脂を含む。アクリル樹脂は、イオン性不純物が少なく耐熱性が高く、半導体素子の信頼性を確保できるので好ましい。(a)成分の重量平均分子量としては80万以上であれば特に限定されないが、80万以上200万以下であることが好ましく、100万以上180万以下であることがより好ましく、120万以上150万以下であることがさらに好ましい。(a)成分の重量平均分子量を80万以上とすることで、接着シートの低温下での接着性を維持しつつ、高温下での弾性率の低下を防止することができる。アクリル樹脂の重量平均分子量の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0034】
上記アクリル樹脂としては、特に限定されるものではなく、炭素数30以下、特に炭素数4〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のエステルの1種又は2種以上を成分とする重合体(アクリル共重合体)等が挙げられる。上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、へプチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、又はドデシル基等が挙げられる。
【0035】
上記接着シートでは、上記(a)成分と上記(b)成分とが互いに架橋可能であることが好ましい。(a)成分と(b)成分とが架橋することにより、高温(例えば、175〜260℃)での接着力がより高まり、リフロー工程等における剥離等を防止することができ、その結果、半導体装置の製造の歩留まりを向上させることができる。上記(a)成分と上記(b)成分とが互いに架橋可能となるようにする手段として、例えば両成分に互いに架橋可能な官能基を導入すること等が挙げられる。互いに架橋可能な官能基の組み合わせとしては、例えばエポキシ基と水酸基、エポキシ基とカルボキシル基、エポキシ基とアミノ基等が挙げられる。これらの官能基の組み合わせの一方を上記(a)成分に導入し、残りの官能基を上記(b)成分に導入することで上記(a)成分と上記(b)成分とが互いに架橋可能とすることができる。
【0036】
上記(a)成分と(b)成分とを架橋させるために、上記(a)成分が具体的にエポキシ基を有すると、好適に(b)成分との架橋反応を進行させることができる。この場合、上記接着シートは、(b)成分としてフェノール樹脂を含むことが好ましい。(a)成分のエポキシ基と(b)成分のフェノール樹脂の水酸基とで好適に架橋反応させることができる。上記(a)成分にエポキシ基を導入するには、上記アクリル共重合体の構成モノマーとしてエポキシ基含有モノマーを採用することができる。エポキシ基含有モノマーとしてはエポキシ基を有する限り特に限定されず、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0037】
上記アクリル樹脂のなかでも、酸価が5〜150のものが好ましく、10〜145のものがより好ましく、20〜140のものがさらに好ましく、20〜40のものが特に好ましい。上記接着シートに、酸価が5〜150のアクリル樹脂が含まれると、アクリル樹脂のカルボン酸基が錯体形成に寄与してイオン捕捉剤の捕捉効果を促進するという相乗効果により、さらに良好に金属イオンを捕捉することができる。本発明におけるアクリル樹脂の酸価とは、試料1g中に含有する遊離脂肪酸、樹脂酸などを中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数のことをいう。
【0038】
また、上記重合体を形成する他のモノマーとしては、特に限定されるものではなく、例えばアクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸若しくはクロトン酸等の様なカルボキシル基含有モノマー、無水マレイン酸若しくは無水イタコン酸等の様な酸無水物モノマー、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル若しくは(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレート等の様なヒドロキシル基含有モノマー、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート若しくは(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等の様なスルホン酸基含有モノマー、又は2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等の様な燐酸基含有モノマーが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0039】
<(b)成分>
上記接着シートは、(b)成分としてエポキシ樹脂及びフェノール樹脂のうちの少なくとも1種を含む。硬化剤としてエポキシ樹脂を含有すると、高温において、接着シートとウェハとの高い接着力が得られる。その結果、接着シートとウェハとの接着界面に水が入りにくくなり、イオンが移動し難くなる。これにより、信頼性が向上する。
【0040】
上記エポキシ樹脂は、接着剤組成物として一般に用いられるものであれば特に限定は無く、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオンレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型等の二官能エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂、又はヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型若しくはグリシジルアミン型等のエポキシ樹脂が用いられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。これらのエポキシ樹脂のうちノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型樹脂又はテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が特に好ましい。これらのエポキシ樹脂は、硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み、耐熱性等に優れるからである。
【0041】
上記フェノール樹脂は、上記エポキシ樹脂の硬化剤として作用し、また、上述のように(a)成分にエポキシ基が導入されている場合は(a)成分との架橋の相手方としても作用する。フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。これらのフェノール樹脂のうちフェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂が特に好ましい。半導体装置の接続信頼性を向上させることができるからである。
【0042】
上記接着シートが上記エポキシ樹脂とフェノール樹脂とを含む場合の両者の配合割合は、例えば、上記エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たりフェノール樹脂中の水酸基が0.5〜2.0当量になるように配合することが好適である。より好適なのは、0.8〜1.2当量である。すなわち、両者の配合割合が上記範囲を外れると、十分な硬化反応が進まず、エポキシ樹脂硬化物の特性が劣化し易くなるからである。
【0043】
上記(b)成分の配合割合としては、所定条件下で加熱した際に接着シートが熱硬化型としての機能を発揮する程度であれば特に限定されないが、接着シートを構成する接着剤組成物において1〜50重量%の範囲内であることが好ましく、1〜30重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0044】
上記接着シートの構成成分として、上記(a)成分としてエポキシ基含有アクリル樹脂、及び(b)成分としてフェノール樹脂を含有し、(a)成分及び(b)成分の合計量に対する(b)成分の割合が1〜50重量%であることが好ましく、1〜30重量%であることがより好ましく、1〜10重量%であることがさらに好ましい。(a)成分及び(b)成分の合計量に対する(b)成分の割合を1重量%以上とすることにより、硬化による接着効果が得られ、剥離を抑制することができ、50重量%以下とすることより、フィルムが脆弱化して作業性が低下することを抑制することができる。
【0045】
<(c)成分>
上記接着シートは、(c)成分として金属と錯体を形成する錯化剤を含む。上記接着シートに、(c)成分を含有させると、半導体装置の製造における各種プロセス中に外部から混入する金属イオンを効率的に捕捉することができる。
【0046】
本発明において、上記錯化剤により捕捉する金属イオンとしては、金属イオンであれば特に制限されないが、例えば、Na、K、Ni、Cu、Cr、Co、Hf、Pt、Ca、Ba、Sr、Fe、Al、Ti、Zn、Mo、Mn、V等のイオンを挙げることができる。
【0047】
上記錯化剤は、金属イオンと錯体を形成するものであれば、特に制限されるものではないが、有機系錯化剤であることが好ましく、好適に金属イオンを捕捉できるという観点から、窒素含有化合物、水酸基含有化合物、カルボン酸基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0048】
(窒素含有化合物)
上記窒素含有化合物としては、微粉末状のもの、有機溶媒に溶解し易いもの、又は、液状のものが好ましい。このような窒素含有化合物としては、より好適に金属イオンを捕捉できる観点から、3級の窒素原子を有する複素環化合物が好ましく、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、又は、ビピリジル化合物を挙げることができるが、銅イオンとの間で形成される錯体の安定性の観点から、トリアゾール化合物がより好ましい。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0049】
上記トリアゾール化合物としては、特に制限されないが、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−{N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル}ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル}ベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’、5’−ジ−t−ブチルフェニル}−5−クロロベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル}−5−クロロベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’、5’−ジ−t−アミルフェニル}ベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル}ベンゾトリアゾール、6−(2−ベンゾトリアゾリル)−4−t−オクチル−6’−t−ブチル−4’−メチル−2,2’−メチレンビスフェノール、1−(2’、3’−ヒドロキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1−(1’、2’−ジカルボキシジエチル)ベンゾトリアゾール、1−(2−エチルヘキシアミノメチル)ベンゾトリアゾール、2,4−ジ−t−ベンチル−6−{(H−ベンゾトリアゾール−1−イル)メチル}フェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ、オクチル−3−[3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネート、2−エチルヘキシル−3−[3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネート、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチル−1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−t−ブチルフェノール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(3’−t−ブチル−2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロ−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3,5−ジ(1,1−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−メトラメチルブチル)フェノール]、(2‐[2‐ヒドロキシ‐3,5‐ビス(α,α‐ジメチルベンジル)フェニル]‐2H‐ベンゾトリアゾール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等があげられる。
【0050】
上記トリアゾール化合物の市販品としては、特に制限はされないが、城北化学株式会社製の商品名:BT−120、BT−LX、CBT−1、JF−77、JF−78、JF−79、JF−80、JF83、JAST−500、BT−GL、BT−M、BT−260、BT−365、BASF社の商品名:TINUVIN PS、TINUVIN P、TINUVIN P FL、TINUVIN 99−2、TINUVIN 109、TINUVIN 900、TINUVIN 928、TINUVIN 234、TINUVIN 329、TINUVIN 329 FL、TINUVIN 326、TINUVIN 326 FL、TINUVIN 571、TINUVIN 213、台湾永光化学公司製の製品名:EVESORB 81、EVESORB109、EVESORB 70、EVESORB 71、EVESORB 72、EVESORB 73、EVESORB 74、EVESORB 75、EVESORB 76、EVESORB 78、EVESORB 80等を挙げることができる。トリアゾール化合物は、防錆剤としても使用される。
【0051】
上記テトラゾール化合物としては、特に限定されないが、5−アミノ−1H−テトラゾール等が挙げられる。
【0052】
上記ビピリジル化合物としては、特に限定されないが、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリンなどが挙げられる。
【0053】
(水酸基含有化合物)
上記水酸基含有化合物としては、特に制限されないが、微粉末状のもの、有機溶媒に溶解し易いもの、又は、液状のものが好ましい。このような水酸基含有化合物としては、より好適に金属イオンを捕捉できる観点から、1つの芳香環上に水酸基を2つ以上有する化合物が好ましく、具体的にはキノール化合物、ヒドロキシアントラキノン化合物、又は、ポリフェノール化合物を挙げることができるが、銅イオンとの間で形成される錯体の安定性の観点から、ポリフェノール化合物がより好ましい。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。なお、芳香環とは、π電子系が非局在化した共役環構造をいい、縮合していない芳香環(例えば、ベンゼン環)だけでなく、縮合している芳香環(例えば、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ピレン環等)、アントラキノン環等が含まれる。
【0054】
上記キノール化合物としては、特に限定されないが、1,2−ベンゼンジオールなどが挙げられる。
【0055】
上記ヒドロキシアントラキノン化合物としては、特に限定されないが、アリザリン、アントラルフィンなどが挙げられる。
【0056】
上記ポリフェノール化合物としては、特に限定されないが、タンニン、タンニン誘導体(没食子酸、没食子酸アルキルエステル(アルキル基として、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等)、ピロガロール)などが挙げられる。
【0057】
(カルボン酸基含有化合物)
上記カルボン酸基含有化合物としては、特に限定されないが、カルボキシル基含有芳香族化合物、カルボキシル基含有脂肪酸化合物等が挙げられる。
【0058】
上記カルボキシル基含有芳香族化合物としては、特に限定されないが、フタル酸、ピコリン酸、ピロール-2-カルボン酸等が挙げられる。
【0059】
上記カルボキシル基含有脂肪酸化合物としては、特に限定されないが、高級脂肪酸、カルボン酸系キレート試薬等が挙げられる。
【0060】
上記カルボキシル酸系キレート試薬の市販品としては、特に制限はされないが、キレスト株式会社製の製品名:キレストA、キレスト110、キレストB、キレスト200、キレストC、キレストD、キレスト400、キレスト40、キレスト0D、キレストNTA、キレスト700、キレストPA、キレストHA、キレストMZ−2、キレストMZ−4A、キレストMZ−8を挙げることができる。
【0061】
上記錯化剤の含有量は、上記接着シートを構成する樹脂成分100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、0.1〜5重量部であることがより好ましく、0.3〜5重量部であることがさらに好ましい。0.1重量部以上とすることにより、陽イオン(特に、銅イオン)を効果的に捕捉することができ、10重量部以下とすることにより、耐熱性の低下やコストの増加を抑制することができる。
【0062】
<その他の成分>
(架橋剤)
上記接着剤組成物を用いて作成する接着シートを予めある程度架橋をさせておく場合には、重合体の分子鎖末端の官能基等と反応する多官能性化合物を架橋剤として添加させておくのがよい。これにより、高温下での接着特性を向上させ、耐熱性の改善を図ることができる。
【0063】
上記架橋剤としては、従来公知のものを採用することができる。特に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、多価アルコールとジイソシアネートの付加物等のポリイソシアネート化合物がより好ましい。架橋剤の添加量としては、上記の重合体100重量部に対し、通常0.05〜7重量部とするのが好ましい。架橋剤の量が7重量部より多いと、接着力が低下するので好ましくない。その一方、0.05重量部より少ないと、凝集力が不足するので好ましくない。また、このようなポリイソシアネート化合物と共に、必要に応じて、エポキシ樹脂等の他の多官能性化合物を一緒に含ませるようにしてもよい。
【0064】
(他の熱可塑性樹脂)
上記(a)成分以外の熱可塑性樹脂としては、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、又はフッ素樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0065】
(他の熱硬化性樹脂)
上記(b)成分以外の熱硬化性樹脂としては、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、又は熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0066】
(他の添加剤)
なお、上記接着シートには、これまで列挙した任意成分以外に、必要に応じて他の添加剤を適宜に配合することができる。他の添加剤としては、陰イオン捕捉剤、分散剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、硬化促進剤などが挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0067】
上記接着シートは、熱硬化前における60℃での引張貯蔵弾性率が、0.01MPa以上1000MPa以下であることが好ましく、0.05MPa以上100MPa以下であることがより好ましく、0.1MPa以上50MPa以下であることがさらに好ましい。また、上記接着シートは、熱硬化後における260℃での引張貯蔵弾性率が、0.01MPa以上500MPa以下であることが好ましく、0.03MPa以上500MPa以下であることがより好ましく、0.05MPa以上100MPa以下であることがさらに好ましく、0.1MPa以上50MPa以下であることがさらにより好ましい。熱硬化前における60℃での引張貯蔵弾性率を、0.01MPa以上とすることにより、フィルムとしての形状を維持し、良好な作業性を付与することができる。また、熱硬化前における60℃での引張貯蔵弾性率を、1000MPa以下とすることにより、被着体に対する良好な濡れ性を付与することができる。一方、熱硬化後における260℃での引張貯蔵弾性率を、0.01MPa以上とすることにより、リフロークラックの発生を抑制することができる。また、熱硬化後における260℃での引張貯蔵弾性率を、500MPa以下とすることにより、半導体チップと配線基板であるインターポーザとの熱膨張係数の差によって発生する熱応力を緩和することができる。
【0068】
[接着剤組成物の調製方法]
上記接着シートを構成する接着剤組成物の調製方法としては、特に限定されず、例えば、上記の(a)成分〜(c)成分と、必要に応じて、他の熱硬化性樹脂、他の熱可塑性樹脂、他の添加剤を容器に投入して、有機溶媒に溶解させ、均一になるように攪拌することによって接着剤組成物溶液として得ることができる。
【0069】
上記有機溶媒としては、接着シートを構成する成分を均一に溶解、混練又は分散できるものであれば制限はなく、従来公知のものを使用することができる。このような溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、トルエン、キシレン等が挙げられる。乾燥速度が速く、安価で入手できる点でメチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどを使用することが好ましい。
【0070】
[接着シートの製造方法]
本実施形態に係る接着シートは、例えば、次の通りにして作製される。まず、上記接着剤組成物溶液を作製する。次に、接着剤組成物溶液を基材セパレータ上に所定厚みとなる様に塗布して塗布膜を形成した後、該塗布膜を所定条件下で乾燥させる。基材セパレータとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレンや、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙等が使用可能である。また、塗布方法としては特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。また、乾燥条件としては、例えば乾燥温度70〜160℃、乾燥時間1〜5分間の範囲内で行われる。これにより、本実施形態に係る接着シートが得られる。
【0071】
このようにして得られた接着シートは、錯化剤が含有されているため、半導体装置の製造における各種プロセス中に外部から混入する陽イオンを捕捉することができる。その結果、混入した陽イオンがウェハ上に形成された回路形成面に到達し難くなり、電気特性の低下が抑えられて製品信頼性を向上させることができる。
【0072】
[半導体装置]
本実施形態に係る半導体装置について図2を参照しつつ説明する。半導体装置は、被着体6と、上記被着体6上に積層された上記接着シート3と、上記接着シート3上に配置された半導体チップ5とを備える。被着体6としては、基板でもよく他の半導体チップであってもよい。図2では基板を被着体として用いている。図2に示した半導体装置では、さらに半導体チップ5と被着体6との電気的接続を担うボンディングワイヤー7が、被着体6の端子部(インナーリード)の先端と半導体チップ5上の電極パッド(図示しない)とを接続するように設けられ、ボンディングワイヤー7も含めて半導体チップ5が封止樹脂8により覆われている。
【0073】
本実施形態に係る半導体装置では、半導体チップの被着体への固定に当該接着シートを用いているので、その製造プロセスにおいて混入してくる金属イオンを効率的に捕捉することができ、その結果、優れた製品信頼性を確保することができる。また、当該接着シートを用いることにより、半導体チップ等へのフィラー等による機械的損傷を防止することができるので、製品信頼性の向上とともに、製品歩留まりの向上によるコストダウンも図ることができる。
【0074】
[半導体装置の製造方法]
次に、上記接着シートをダイボンドフィルムとして使用した場合における半導体装置の製造方法の一実施形態について説明する。以下では、従来公知のダイシングフィルムに、本実施形態に係る接着シート3(以下、ダイボンドフィルム3ともいう)が積層されたダイシング・ダイボンドフィルム10を用いた半導体装置の製造方法について説明する。なお、本実施形態に係るダイシングフィルムは、基材1上に粘着剤層2が積層された構造である。図1は、本発明の一実施形態に係る接着シートをダイボンドフィルムとして用いたダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。図2は、上記ダイシング・ダイボンドフィルムにおけるダイボンドフィルムを介して半導体チップを実装した例を示す断面模式図である。
【0075】
まず、図1に示すように、ダイシング・ダイボンドフィルム10におけるダイボンドフィルム3の半導体ウェハ貼り付け部分3a上に半導体ウェハ4を圧着し、これを接着保持させて固定する(マウント工程)。本工程は、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。ダイボンドフィルム(接着シート)3は有機成分のみで構成されており、フィラー等を含まないので、半導体ウェハ4に対する機械的損傷を防止することができる。
【0076】
次に、半導体ウェハ4のダイシングを行う。これにより、半導体ウェハ4を所定のサイズに切断して個片化し、半導体チップ5を製造する。ダイシングは、例えば半導体ウェハ4の回路面側から常法に従い行われる。また、本工程では、例えばダイシング・ダイボンドフィルム10まで切込みを行なうフルカットと呼ばれる切断方式等を採用できる。本工程で用いるダイシング装置としては特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。また、半導体ウェハは、ダイシング・ダイボンドフィルム10により接着固定されているので、チップ欠けやチップ飛びを抑制できると共に、半導体ウェハ4の破損も抑制できる。
【0077】
ダイシング・ダイボンドフィルム10に接着固定された半導体チップを剥離するために、半導体チップ5のピックアップを行う。ピックアップの方法としては特に限定されず、従来公知の種々の方法を採用できる。例えば、個々の半導体チップ5をダイシング・ダイボンドフィルム10側からニードルによって突き上げ、突き上げられた半導体チップ5をピックアップ装置によってピックアップする方法等が挙げられる。
【0078】
ここでピックアップは、粘着剤層2が紫外線硬化型の場合、該粘着剤層2に紫外線を照射した後に行う。これにより、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する粘着力が低下し、半導体チップ5の剥離が容易になる。その結果、半導体チップを損傷させることなくピックアップが可能となる。
【0079】
次に、図2に示すように、ダイシングにより形成された半導体チップ5を、ダイボンドフィルム3を介して被着体6にダイボンドする。ダイボンドは圧着により行われる。ダイボンドの条件としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。具体的には、例えば、ダイボンド温度80〜160℃、ボンディング圧力5N〜15N、ボンディング時間1〜10秒の範囲内で行うことができる。本工程でもマウント工程と同様、ダイボンドフィルム(接着シート)3は有機成分のみで構成されており、フィラー等を含まないので、圧着によりダイボンドを行っても半導体チップ5に対する機械的損傷を防止することができる。
【0080】
次に、被着体6の端子部(インナーリード)の先端と半導体チップ5上の電極パッド(図示しない)とをボンディングワイヤー7で電気的に接続するワイヤーボンディング工程を行う。上記ボンディングワイヤー7としては、例えば金線、アルミニウム線又は銅線等が用いられる。ワイヤーボンディングを行う際の温度は、80〜250℃、好ましくは80〜220℃の範囲内で行われる。また、その加熱時間は数秒〜数分間行われる。結線は、上記温度範囲内となる様に加熱された状態で、超音波による振動エネルギーと印加加圧による圧着エネルギーの併用により行われる。
【0081】
なお、ワイヤーボンディング工程は、加熱処理によりダイボンドフィルム3を熱硬化させることなく行う。この場合、ダイボンドフィルム3の25℃におけるせん断接着力は、被着体6に対し0.2MPa以上であることが好ましく、0.2〜10MPaであることがより好ましい。上記せん断接着力を0.2MPa以上にすることにより、ダイボンドフィルム3を熱硬化させることなくワイヤーボンディング工程を行っても、当該工程における超音波振動や加熱により、ダイボンドフィルム3と半導体チップ5又は被着体6との接着面でずり変形を生じることがない。すなわち、ワイヤーボンディングの際の超音波振動により半導体素子が動くことがなく、これにより、ワイヤーボンディングの成功率が低下するのを防止する。
【0082】
続いて、封止樹脂8により半導体チップ5を封止する封止工程を行う。本工程は、被着体6に搭載された半導体チップ5やボンディングワイヤー7を保護するために行われる。本工程は、封止用の樹脂を金型で成型することにより行う。封止樹脂8としては、例えばエポキシ系の樹脂を使用する。樹脂封止の際の加熱温度は、通常175℃で60〜90秒間行われるが、本発明はこれに限定されず、例えば165〜185℃で、数分間キュアすることができる。以下の後硬化工程においてダイボンドフィルム3が熱硬化されない場合でも、本工程において封止樹脂8の硬化と共にダイボンドフィルム3を熱硬化させて接着固定が可能になる。
【0083】
次に、後硬化工程において、上記封止工程で硬化不足の封止樹脂8を完全に硬化させる。封止工程においてダイボンドフィルム3が熱硬化されない場合でも、本工程において封止樹脂8の硬化と共にダイボンドフィルム3を熱硬化させて接着固定が可能になる。本工程における加熱温度は、封止樹脂の種類により異なるが、例えば165〜185℃の範囲内であり、加熱時間は0.5〜8時間程度である。
【0084】
次に、プリント配線板上に、上記半導体パッケージを表面実装する。表面実装の方法としては、例えば、プリント配線板上に予めハンダを供給した後、温風などにより加熱溶融しハンダ付けを行うリフローハンダ付けが挙げられる。加熱方法としては、熱風リフロー、赤外線リフロー等が挙げられる。また、全体加熱、局部加熱の何れの方式でもよい。加熱温度は240〜265℃、加熱時間は1〜60秒の範囲内であることが好ましい。
【0085】
また、接着シート(ダイボンドフィルム)は、図3に示すように、複数の半導体チップを積層して3次元実装をする場合にも好適に用いることができる。図3は、ダイボンドフィルムを介して半導体チップを3次元実装した例を示す断面模式図である。図3に示す3次元実装の場合、まず半導体チップと同サイズとなる様に切り出した少なくとも1つのダイボンドフィルム3を被着体6上に貼り付けた後、ダイボンドフィルム3を介して半導体チップ5を、そのワイヤーボンド面が上側となる様にして貼り付ける。次に、ダイボンドフィルム13を半導体チップ5の電極パッド部分を避けて貼り付ける。さらに、他の半導体チップ15をダイボンドフィルム13上に、そのワイヤーボンド面が上側となる様にしてダイボンドする。
【0086】
次に、ワイヤーボンディング工程を行う。これにより、半導体チップ5及び他の半導体チップ15におけるそれぞれの電極パッドと、被着体6とをボンディングワイヤー7で電気的に接続する。なお、本工程は、ダイボンドフィルム3、13の加熱工程を経ることなく実施される。
【0087】
続いて、封止樹脂8により半導体チップ5等を封止する封止工程を行い、封止樹脂を硬化させる。次に、後硬化工程において、上記封止工程で封止樹脂8が硬化不足であれば完全に硬化させる。このようにして得られる半導体パッケージは、その後、上述のようなリフロー工程を経てプリント配線板に表面実装される。
【0088】
上述した実施形態では、上記接着シートがダイボンドフィルムである場合について説明したが、上記接着シートは、半導体装置の製造に用いられるものであれば特に制限されない。フリップチップ型半導体装置の半導体チップの裏面を保護する保護フィルムや、フリップチップ型半導体装置の半導体チップの表面と被着体との間を封止するための封止シートであってもよい。
【実施例】
【0089】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の要旨をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、以下において、部とあるのは重量部を意味する。
【0090】
(実施例1)
下記(a)〜(c)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度20重量%の接着剤組成物溶液を得た。
(a)エポキシ基含有アクリル樹脂(ナガセケムテックス(株)製、SG−P3、重量平均分子量85万) 90部
(b)フェノール樹脂(明和化成(株)製、MEH−7851SS) 10部
(c)錯化剤(東京化成工業(株)製、没食子酸ドデシル) 0.3部
【0091】
前記接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ5μmの実施例1に係る接着シートを作製した。
【0092】
(実施例2)
下記(a)〜(c)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度20重量%の接着剤組成物溶液を得た。
(a)エポキシ基含有アクリル樹脂(根上工業(株)社製、NDシリーズ、重量平均分子量120万) 90部
(b)フェノール樹脂(明和化成(株)製、MEH−7851SS) 10部
(c)錯化剤(東京化成工業(株)製、没食子酸ドデシル) 1部
【0093】
前記接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ5μmの実施例2に係る接着シートを作製した。
【0094】
(実施例3)
下記(a)〜(c)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度20重量%の接着剤組成物溶液を得た。
(a)エポキシ基含有アクリル樹脂(根上工業(株)社製、NDシリーズ、重量平均分子量120万) 85部
(b−1)エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製、YDF−8125) 5部
(b−2)フェノール樹脂(明和化成(株)製、MEH−7851SS) 10部
(c)錯化剤(東京化成工業(株)製、没食子酸ドデシル) 3部
【0095】
前記接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ15μmの実施例3に係る接着シートを作製した。
【0096】
(比較例1)
下記(a)〜(d)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度20重量%の接着剤組成物溶液を得た。
(a)エポキシ基含有アクリル樹脂(ナガセケムテックス(株)製、SG−P3、重量平均分子量85万) 54部
(b)フェノール樹脂(明和化成(株)製、MEH−7851SS) 6部
(c)錯化剤(東京化成工業(株)製、没食子酸ドデシル) 3部
(d)シリカフィラー((株)アドマテックス製、SC−2050、平均粒径0.5μm)
40部
【0097】
前記接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ5μmの比較例1に係る接着シートを作製した。
【0098】
(比較例2)
下記(a)〜(d)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度20重量%の接着剤組成物溶液を得た。
(a)エポキシ基含有アクリル樹脂(ナガセケムテックス(株)製、SG−P3、重量平均分子量85万) 54部
(b)フェノール樹脂(明和化成(株)製、MEH−7851SS) 6部
(c)錯化剤(東京化成工業(株)製、没食子酸ドデシル) 3部
(d)シリカフィラー((株)アドマテックス製、SC−2050、平均粒径0.5μm)
40部
【0099】
前記接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ20μmの比較例2に係る接着シートを作製した。
【0100】
(比較例3)
下記(a)及び(b)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度20重量%の接着剤組成物溶液を得た。
(a)エポキシ基含有アクリル樹脂(ナガセケムテックス(株)製、SG−P3、重量平均分子量85万) 90部
(b)フェノール樹脂(明和化成(株)製、MEH−7851SS) 10部
【0101】
前記接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ5μmの比較例3に係る接着シートを作製した。
【0102】
(比較例4)
下記(a)及び(c)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度20重量%の接着剤組成物溶液を得た。
(a)エポキシ基含有アクリル樹脂(ナガセケムテックス(株)製、SG−P3、重量平均分子量85万) 90部
(c)錯化剤(東京化成工業(株)製、没食子酸ドデシル) 3部
【0103】
前記接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ5μmの比較例4に係る接着シートを作製した。
【0104】
(比較例5)
下記(a)〜(c)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度20重量%の接着剤組成物溶液を得た。
(a)エポキシ基含有アクリル樹脂(ナガセケムテックス(株)製、SG−80H、重量平均分子量35万) 90部
(b)フェノール樹脂(明和化成(株)製、MEH−7851SS) 10部
(c)錯化剤(東京化成工業(株)製、没食子酸ドデシル) 3部
【0105】
前記接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ5μmの比較例5に係る接着シートを作製した。
【0106】
(比較例6)
下記(a)〜(c)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度20重量%の接着剤組成物溶液を得た。
(a)水酸基含有アクリル樹脂(ナガセケムテックス(株)製、SG−600TEA、重量平均分子量90万) 90部
(b)フェノール樹脂(明和化成(株)製、MEH−7851SS) 10部
(c)錯化剤(東京化成工業(株)製、没食子酸ドデシル) 3部
【0107】
前記接着剤組成物溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ5μmの比較例6に係る接着シートを作製した。
【0108】
実施例及び比較例でそれぞれ用いた(a)成分について表1にまとめる。また、実施例及び比較例における各成分の配合量を表2にまとめる。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
((a)成分の重量平均分子量の測定)
実施例及び比較例でそれぞれ用いた(a)成分について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより重量平均分子量を測定した。重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロトマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値を意味する。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーは、TSK G2000H HR、G3000H HR、G4000H HR、及びGMH−H HRの4本のカラム(いずれも東ソー株式会社製)を直列に接続して使用し、溶雛液にテトラヒドロフランを用いて、流速1ml/分、温度40℃、サンプル濃度0.1重量%テトラヒドロフラン溶液、サンプル注入量500μlの条件で行い、検出器には示差屈折計を用いた。
【0112】
(銅イオン捕捉性評価)
実施例、及び比較例の各接着シートを重さ約2.5gとなるように切り出し、切り出したサンプルを直径58mm、高さ37mmの円柱状の密閉式テフロン(登録商標)製容器にいれ、10ppmの銅(II)イオン水溶液50mlを加えた。その後、恒温乾燥機(エスペック(株)製、PV−231)に120℃で20時間放置した。フィルムを取り出した後、ICP−AES(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、SPS−1700HVR)を用いて水溶液中の銅イオンの濃度を測定した。水溶液中の銅イオンの濃度が0〜9.8ppmの場合を「○」とし、9.8ppmより大きい場合を「×」とした。結果を表3に示す。
【0113】
(ダイボンディング時のチップ損傷評価)
実施例、及び比較例の各接着シートを厚さ500μmのミラーウェハに60℃で貼り合わせた後、ダイシングを行い、接着シートが貼り合わされた5mm×5mmのチップを作製した。作製した接着シート付きのチップを120℃、0.25kg、1sの条件で10mm×10mmのウェハチップ上にダイボンディングした。ダイボンディングは、120℃の温度下で荷重(0.25MPa)をかけ、1秒間加熱するという条件下で、ダイボンダー((株)新川製SPA−300)を用いて行った。ダイボンディングしたチップ50個中、全く損傷が生じなかった場合を「○」、1個でも欠けや割れ等の損傷が生じた場合を「×」として評価した。結果を表3に示す。
【0114】
(熱硬化後の175℃でのせん断接着力の測定)
上記チップ損傷評価におけるダイボンディング後のサンプルに対し175℃で1時間加熱して接着シートを硬化させた。せん断試験機(Dage社製、Dage4000)を用いて、接着シートとウェハチップとのせん断接着力を測定した。せん断試験の条件は、測定速度500μm/s、測定ギャップ100μm、ステージ温度175℃とした。せん断接着力が0.02MPa以上の場合を「○」、0.02MPa未満の場合を「×」として評価した。結果を表3に示す。
【0115】
(耐湿リフロー性)
実施例、及び比較例の各接着シートを温度40℃の条件下で10mm角の半導体チップに貼り付け、更に各接着シートを介して半導体チップをBGA基板にマウントした。マウント条件は、温度120℃、圧力0.1MPa、1秒とした。次に、半導体チップがマウントされたBGA基板を、乾燥機にて175℃で30分間熱処理し、その後封止樹脂(日東電工(株)社製、GE−100)でパッケージングした。封止条件は加熱温度175℃、90秒とした。その後、85℃、60%Rh、168時間の条件下で吸湿を行い、更に260℃以上で10秒間保持する様に設定したIRリフロー炉に、前記半導体チップをマウントしたBGA基板を載置した。その後、封止後の半導体装置をガラスカッターで切断し、その断面を超音波顕微鏡で観察して、各熱硬化型ダイボンドフィルムとBGA基板の境界における剥離の有無を確認した。確認は半導体チップ9個に対し行い、剥離が生じている半導体チップが3個以下の場合を○、4個以上の場合を×とした。結果を表3に示す。
【0116】
【表3】

【0117】
表3から明らかなように、実施例に係る接着シートでは、銅イオン捕捉性、ダイボンディング時のチップ損傷性、せん断接着力、及び耐湿リフロー性のいずれにおいても良好な結果となった。一方、比較例1、2の接着シートはシリカを含むので、ダイボンディング時に欠けや割れが生じた。比較例3の接着シートは錯化剤を含まないことから、銅イオンを捕捉できなかった。比較例4の接着シートは(b)成分を含まないことから、加熱硬化処理を行っても接着シートは硬化せず、そのため高温下での接着力が低下し、耐湿リフロー試験において半導体チップのBGA基板からの剥離が生じた。比較例5の接着シートでは、(a)成分の重量平均分子量が低いため、高温での弾性率が低く、十分な高温せん断接着力が得られず、また、同様の理由から、耐湿リフロー試験において剥離が生じた。比較例6の接着シートでは、(a)成分が十分な重量平均分子量を有しているため高温でのせん断接着力は得られた。しかし、(a)成分と(b)成分とが互いに架橋可能な官能基がなかったため、加熱硬化処理によって(a)成分と(b)成分とが架橋せず、そのため高温下での接着力が低下し、耐湿リフロー試験において剥離が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)成分〜(c)成分を含み、かつ有機成分のみにより構成される接着シート。
(a)重量平均分子量80万以上のアクリル樹脂
(b)エポキシ樹脂及びフェノール樹脂のうちの少なくとも1種
(c)金属イオンと錯体を形成する錯化剤
【請求項2】
10ppmの銅イオンを有する水溶液50ml中に、重さ2.5gの接着シートを浸漬し、120℃で20時間放置した後の上記水溶液中の銅イオン濃度が、0〜9.9ppmである請求項1に記載の接着シート。
【請求項3】
175℃で1時間熱硬化させた後の175℃での引張貯蔵弾性率が0.1MPa以上1000MPa以下である請求項1又は2に記載の接着シート。
【請求項4】
上記(a)成分と上記(b)成分とが互いに架橋可能である請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項5】
上記(a)成分がエポキシ基を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項6】
上記(c)成分が、3級窒素原子を有する複素環化合物、及び1つの芳香環に水酸基を2つ以上有する化合物のうちの少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項7】
厚さが3〜20μmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項8】
フィラーを含まない請求項1〜7のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項9】
被着体と、
上記被着体上に積層された請求項1〜8のいずれか1項に記載の接着シートと、
上記接着シート上に配置された半導体チップと
を備える半導体装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の接着シートを介して半導体チップを被着体上に固定する工程を含む半導体装置の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−23685(P2013−23685A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163385(P2011−163385)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】