説明

接着剤層付き半導体チップの製造方法

【課題】バイトを用いた切削加工時にはバイトの磨耗を抑制し、ダイシング時には半導体チップの端部で生じる接着剤層の浮き及び欠けを抑制して、半導体装置の高信頼性を実現することのできる接着剤層付き半導体チップの製造方法を提供する。
【解決手段】フリップチップ実装に用いるための接着剤層付き半導体チップの製造方法であって、ウエハ上のバンプが埋もれるように接着剤層を形成する工程と、前記バンプの表面と前記接着剤層の表面とが連続して平坦となるように、バイトを用いた切削加工により前記バンプ及び前記接着剤層を表面平坦化する工程と、表面平坦化された前記接着剤層を有する前記ウエハをダイシングする工程とを有し、前記表面平坦化する工程を、該表面平坦化する工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの前記接着剤層の弾性率が5MPa以上となる条件下で行い、前記ダイシングする工程を、該ダイシングする工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの前記接着剤層の弾性率が300MPa以下となる条件下で行う接着剤層付き半導体チップの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイトを用いた切削加工時にはバイトの磨耗を抑制し、ダイシング時には半導体チップの端部で生じる接着剤層の浮き及び欠けを抑制して、半導体装置の高信頼性を実現することのできる接着剤層付き半導体チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ますます進展する半導体装置の小型化、高集積化に対応するために、ハンダ等からなる接続端子(バンプ)を有する半導体チップを用いたフリップチップ実装が多用されている。
フリップチップ実装に用いるための半導体チップの製造方法においては、複数のバンプを有するウエハが用いられ、例えば、ウエハ上のバンプが埋もれるように予め接着剤層を形成し、バンプ及び接着剤層の表面を平坦化した後、ウエハを接着剤層ごとダイシングして個々の接着剤層付き半導体チップに分割する工程が行われる。ダイシングにより個別化された接着剤層付き半導体チップは、基板又は他の半導体チップにボンディングされるとともにバンプを介して電気的に接続される。
【0003】
フリップチップ実装において、バンプ接続の信頼性を高めるためには、バンプ及び接着剤層の表面平坦化が重要である。バンプ及び接着剤層の表面平坦化には、従来、化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing、CMP)法が用いられてきた。CMP法とは、平坦な研磨パッドをバンプ及び接着剤層に押しあて、スラリーを用いて、化学的、機械的に平坦化する方法である。しかしながら、CMP法では、バンプと接着剤層との研磨速度の違いに起因して、ディッシングと呼ばれる窪みが生じることが問題である。
【0004】
そこで、CMP法に替わる方法として、ダイヤモンド等からなるバイトを用いた切削加工が提案されている。例えば、特許文献1には、基板の表面に外部と電気的接続を行うためのバンプを形成する方法であって、前記基板の表面に、複数の前記バンプ及び前記バンプ間に絶縁膜を形成する工程と、バイトを用いた切削加工により、前記各バンプの表面及び前記絶縁膜表面が連続して平坦となるように平坦化処理する工程と、前記絶縁膜を除去する工程とを含むバンプの形成方法が記載されている。
特許文献1には、同文献に記載の方法は、バンプの表面を安価に高速で平坦化し、バンプ同士の接続を、ディッシング等の不都合を発生させることなく容易かつ確実に行うことを可能とすることが記載されている。
【0005】
しかしながら、バイトを用いた切削加工では、バイトに接着剤が付着しやすく、バイトに堆積した付着物によって生じる摩擦熱によりダイヤモンド等からなるバイトが激しく磨耗してしまうことが問題である。また、バンプ及び接着剤層の表面を充分に平坦化することができても、その後のダイシング工程、ボンディング工程等を通じてバンプ及び接着剤層の性能等が低下してしまうと、高信頼性の半導体装置を製造することは困難である。従来、ダイシング時には、半導体チップの端部で接着剤層の浮き、欠け等が生じることがあり、このような浮き、欠け等の生じた接着剤層付き半導体チップを用いると接着剤未充填部分を有する半導体装置が得られ、半導体装置の信頼性にばらつきが生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第04/061935号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、バイトを用いた切削加工時にはバイトの磨耗を抑制し、ダイシング時には半導体チップの端部で生じる接着剤層の浮き及び欠けを抑制して、半導体装置の高信頼性を実現することのできる接着剤層付き半導体チップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フリップチップ実装に用いるための接着剤層付き半導体チップの製造方法であって、ウエハ上のバンプが埋もれるように接着剤層を形成する工程と、前記バンプの表面と前記接着剤層の表面とが連続して平坦となるように、バイトを用いた切削加工により前記バンプ及び前記接着剤層を表面平坦化する工程と、表面平坦化された前記接着剤層を有する前記ウエハをダイシングする工程とを有し、前記表面平坦化する工程を、該表面平坦化する工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの前記接着剤層の弾性率が5MPa以上となる条件下で行い、前記ダイシングする工程を、該ダイシングする工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの前記接着剤層の弾性率が300MPa以下となる条件下で行う接着剤層付き半導体チップの製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、バイトを用いた切削加工時にバイトの磨耗を抑制しながら良好に切削加工を行うためには、接着剤層の弾性率が所定の値以上となる条件下で切削加工を行う必要があること、一方で、ダイシング時に半導体チップの端部で生じる接着剤層の浮き及び欠けを抑制するためには、接着剤層の弾性率が所定の値以下となる条件下でダイシングを行う必要があることを見出した。更に、本発明者らは、切削加工時及びダイシング時には、加工熱が生じることにより、加工ステージ、切削水等の加工環境温度よりも接着剤層の温度は25℃程度高くなっており、従って、加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの接着剤層の弾性率を所定の値とすることが重要であることを見出した。
【0010】
本発明者らは、フリップチップ実装に用いるための接着剤層付き半導体チップの製造方法であって、ウエハ上のバンプが埋もれるように接着剤層を形成する工程と、前記バンプの表面と前記接着剤層の表面とが連続して平坦となるように、バイトを用いた切削加工により前記バンプ及び前記接着剤層を表面平坦化する工程と、表面平坦化された前記接着剤層を有する前記ウエハをダイシングする工程を有する接着剤層付き半導体チップの製造方法において、前記表面平坦化する工程を、該表面平坦化する工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの接着剤層の弾性率が所定の値以上となる条件下で行い、前記ダイシングする工程を、該ダイシングする工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの接着剤層の弾性率が所定の値以下となる条件下で行うことにより、バイトを用いた切削加工時にはバイトの磨耗を抑制し、ダイシング時には半導体チップの端部で生じる接着剤層の浮き及び欠けを抑制して、半導体装置の高信頼性を実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法は、フリップチップ実装に用いるための接着剤層付き半導体チップの製造方法である。本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法では、まず、ウエハ上のバンプが埋もれるように接着剤層を形成する工程を行う。
【0012】
上記ウエハは、表面に複数のバンプが形成されており、フリップチップ実装に用いるための半導体チップの製造に通常用いられるウエハであれば特に限定されず、例えば、シリコン、ガリウム砒素等の半導体からなるウエハが挙げられる。
上記バンプは特に限定されないが、特に、金、銅、銀−錫ハンダ等からなるバンプが好ましい。
【0013】
上記接着剤層は特に限定されないが、熱硬化性化合物、熱硬化剤等を含有する熱硬化性接着剤組成物からなることが好ましい。
上記熱硬化性化合物は特に限定されないが、エポキシ樹脂を含有することが好ましい。上記エポキシ樹脂は特に限定されないが、得られる熱硬化性接着剤組成物の製膜性、及び、得られる接着剤層のせん断弾性率調整のために、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、固形ビスフェノール型エポキシ樹脂等の固形エポキシ樹脂、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂等の液状エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、結晶性ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂が好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0014】
上記熱硬化性化合物は、更に、上記エポキシ樹脂と反応する官能基を有する固形ポリマーを含有してもよい。
上記エポキシ樹脂と反応する官能基を有する固形ポリマーは特に限定されず、例えば、アミノ基、ウレタン基、イミド基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等を有する樹脂が挙げられる。なかでも、エポキシ基を有する高分子ポリマーが好ましい。上記熱硬化性化合物が上記エポキシ基を有する高分子ポリマーを含有することで、得られる接着剤層の硬化物は、該エポキシ基を有する高分子ポリマーと上記エポキシ樹脂とが硬化時に架橋することにより、優れた耐熱性を有することができる。
【0015】
上記エポキシ基を有する高分子ポリマーは、末端及び/又は側鎖(ペンダント位)にエポキシ基を有する高分子ポリマーであれば特に限定されず、例えば、エポキシ基含有アクリルゴム、エポキシ基含有ブタジエンゴム、ビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂、エポキシ基含有フェノキシ樹脂、エポキシ基含有アクリル樹脂、エポキシ基含有ウレタン樹脂、エポキシ基含有ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ基を有する高分子ポリマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、エポキシ基を多く含み、得られる接着剤層の硬化物の機械的強度、耐熱性等をより高められることから、エポキシ基含有アクリル樹脂が好ましい。
【0016】
上記エポキシ基含有アクリル樹脂は特に限定されず、例えば、グリシジルアクリレートとアルキルアクリレートとからなる共重合体等が挙げられる。なかでも、グリシジルアクリレートとアルキルアクリレートとからなり、エポキシ当量が約100〜10000g/eqである共重合体が好ましい。
【0017】
上記エポキシ含有アクリル樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限は1万、好ましい上限は100万である。上記エポキシ含有アクリル樹脂の重量平均分子量が1万未満であると、得られる熱硬化性接着剤組成物は製膜性に劣ることがあり、例えば、熱硬化性接着剤組成物をフィルム化する場合に、フィルム化が困難となることがある。上記エポキシ含有アクリル樹脂の重量平均分子量が100万を超えると、得られる接着剤層は、接着工程での表面濡れ姓が劣り、接着強度に劣ることがある。
【0018】
上記熱硬化性化合物が上記エポキシ樹脂と反応する官能基を有する固形ポリマーを含有する場合、上記エポキシ樹脂と反応する官能基を有する固形ポリマーの配合量は特に限定されないが、上記エポキシ樹脂100重量部に対する好ましい下限が5重量部、好ましい上限が400重量部である。上記エポキシ樹脂と反応する官能基を有する固形ポリマーの配合量が5重量部未満であると、得られる熱硬化性接着剤組成物は、製膜性に劣ることがある。上記エポキシ樹脂と反応する官能基を有する固形ポリマーの配合量が400重量部を超えると、得られる接着剤層の硬化物は、機械的強度、耐熱性及び耐湿性が低下し、高い接着信頼性及び導通信頼性が得られないことがある。
【0019】
上記熱硬化剤は特に限定されず、例えば、上記熱硬化性化合物がエポキシ樹脂を含有する場合には、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸等の加熱硬化型酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、ジシアンジアミド等の潜在性硬化剤、カチオン系触媒型硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、酸無水物系硬化剤が好ましい。
上記酸無水物系硬化剤を用いることで、得られる接着剤層の硬化物の酸性度を中和することができ、電極の信頼性を高めることができる。また、上記酸無水物系硬化剤は熱硬化速度が速いため、得られる接着剤層の硬化物におけるボイドの発生を効果的に低減することができ、高い接着信頼性を実現することができる。
【0020】
上記熱硬化剤の配合量は特に限定されないが、上記熱硬化性化合物の官能基と等量反応する熱硬化剤を用いる場合には、上記熱硬化性化合物の官能基量に対する好ましい下限が30当量、好ましい上限が140当量である。上記熱硬化剤の配合量が30当量未満であると、得られる接着剤層は、充分に硬化しないことがある。上記熱硬化剤の配合量が140当量を超えても特に接着剤層の硬化性に寄与しない。
また、触媒として機能する熱硬化剤を用いる場合には、上記熱硬化剤の配合量は、上記熱硬化性化合物100重量部に対する好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。上記熱硬化剤の配合量が1重量部未満であると、得られる接着剤層は、充分に硬化しないことがある。上記熱硬化剤の配合量が20重量部を超えても特に接着剤層の硬化性に寄与しない。
【0021】
上記熱硬化性接着剤組成物は、得られる接着剤層の硬化速度や硬化物の物性等を調整する目的で、更に、硬化促進剤を含有してもよい。
上記硬化促進剤は特に限定されず、例えば、イミダゾール系硬化促進剤、3級アミン系硬化促進剤等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、硬化速度や硬化物の物性等の調整をするための反応系の制御をしやすいことから、イミダゾール系硬化促進剤が好ましい。
【0022】
上記イミダゾール系硬化促進剤は特に限定されず、例えば、イミダゾールの1位をシアノエチル基で保護した1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、イソシアヌル酸で塩基性を保護したイミダゾール系硬化促進剤(商品名「2MA−OK」、四国化成工業社製)等が挙げられる。これらのイミダゾール系硬化促進剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
また、上記接着剤層は、上記熱硬化性化合物、上記熱硬化剤等に加えて更に光硬化性化合物、光重合開始剤等を含有する光熱硬化性接着剤組成物からなっていてもよい。上記接着剤層が上記光熱硬化性接着剤組成物からなる場合には、例えば、上記光熱硬化性接着剤組成物をスピンコート等により上記ウエハ上に塗工して乾燥した後、エネルギー線を照射することにより半硬化させて、上記接着剤層を得てもよい。
【0024】
上記光硬化性化合物は特に限定されず、例えば、エネルギー線の刺激により架橋反応を起こす反応基を分子内に有する化合物が挙げられる。上記エネルギー線の刺激により架橋反応を起こす反応基を分子内に有する化合物は特に限定されず、例えば、ラジカルにより架橋可能な二重結合を有するアクリル樹脂等が挙げられる。
【0025】
上記ラジカルにより架橋可能な二重結合を有するアクリル樹脂は特に限定されず、例えば、イソボロニルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート等からなる重合体又は共重合体に、二重結合で反応するようにメタクリレート基をウレタン結合で結合させた樹脂等が挙げられる。なかでも、二重結合の量が約1meq/gであるアクリレート、メタクリレートの重合体又は共重合体が好ましい。これらのラジカルにより架橋可能な二重結合を有するアクリル樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
上記接着剤層が上記光熱硬化性接着剤組成物からなる場合、上記光硬化性化合物の配合量は特に限定されないが、上記熱硬化性化合物100重量部に対する好ましい下限は20重量部、好ましい上限は40重量部である。上記光硬化性化合物の配合量が20重量部未満であると、上記光硬化性化合物を配合する効果を充分に得ることができず、例えば、得られる光熱硬化性接着剤組成物をスピンコート等により上記ウエハ上に塗工して乾燥した後、エネルギー線を照射しても、接着剤層が充分に半硬化されないことがある。上記光硬化性化合物の配合量が40重量部を超えると、得られる接着剤層の硬化物の耐熱性が不足することがある。上記光硬化性化合物の配合量は、上記熱硬化性化合物100重量部に対するより好ましい下限は25重量部、より好ましい上限は30重量部である。
【0027】
上記光重合開始剤は特に限定されず、例えば、250〜800nmの波長の光を照射することにより活性化される光重合開始剤が挙げられる。
上記250〜800nmの波長の光を照射することにより活性化される光重合開始剤として、例えば、メトキシアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体化合物や、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物や、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール等のケタール誘導体化合物や、フォスフィンオキシド誘導体化合物や、ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタノセン誘導体化合物、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、クロロチオキサントン、トデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシメチルフェニルプロパン等の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
上記光重合開始剤の配合量は特に限定されないが、上記光硬化性化合物100重量部に対する好ましい下限は0.05重量部、好ましい上限は5重量部である。上記光重合開始剤の配合量が0.05重量部未満であると、例えば、得られる光熱硬化性接着剤組成物をスピンコート等により上記ウエハ上に塗工して乾燥した後、エネルギー線を照射しても、充分に半硬化されず後述する表面平坦化する工程において良好に切削加工されないことがある。上記光重合開始剤の配合量が5重量部を超えても特に接着剤層の光硬化性に寄与しない。
【0029】
上記接着剤層を形成する方法は特に限定されず、例えば、上記熱硬化性接着剤組成物を調製し、該熱硬化性接着剤組成物をスピンコート等により上記ウエハ上に塗工して乾燥する方法、上記光熱硬化性接着剤組成物を調製し、該光熱硬化性接着剤組成物をスピンコート等により上記ウエハ上に塗工して乾燥した後、エネルギー線を照射することにより半硬化させる方法等が挙げられる。
【0030】
本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法では、次いで、上記バンプの表面と上記接着剤層の表面とが連続して平坦となるように、バイトを用いた切削加工により上記バンプ及び上記接着剤層を表面平坦化する工程を行う。
【0031】
本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法では、上記表面平坦化する工程を、該表面平坦化する工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率が5MPa以上となる条件下で行う。上記弾性率が5MPa未満であると、バイトに接着剤が付着しやすくなり、バイトに堆積した付着物によって生じる摩擦熱によりバイトが激しく磨耗してしまい、良好に切削加工を行うことができない。そのため、連続して大量のウエハを処理することが困難となり、生産性が低下する。本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法では、上記表面平坦化する工程を、該表面平坦化する工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率が10MPa以上となる条件下で行うことが好ましく、50MPa以上となる条件下で行うことがより好ましい。
【0032】
なお、本明細書中、接着剤層の弾性率とは、接着剤層について、粘弾性測定機(型式「DVA−200」、アイティー計測制御社製)を用いて、昇温速度5℃/分、せん断、せん断長さ10mm、せん断幅6mm、せん断厚み0.5mm、10Hzで−30℃から90℃まで昇温しながら測定して得られるせん断貯蔵弾性率(MPa)を意味する。
また、本明細書中、表面平坦化する工程における加工環境温度とは、表面平坦化する工程における加工ステージ、切削水等の温度を意味する。上記表面平坦化する工程においては、加工熱が生じることによって上記接着剤層の温度は加工環境温度よりも25℃程度高くなっていることから、バイトの磨耗を抑制するためには、加工環境温度ではなく、加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率を調整する必要がある。
【0033】
上記表面平坦化する工程において、該表面平坦化する工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率を5MPa以上とする方法は特に限定されない。例えば、上記接着剤層の組成を決定した後、該接着剤層の温度と弾性率との関係を調べ、該接着剤層の弾性率が5MPa以上となる温度領域において上記表面平坦化する工程における加工環境温度よりも25℃高い温度を選択し、上記表面平坦化する工程における加工環境温度を設定する方法が挙げられる。
この際、上記表面平坦化する工程における加工環境温度として−20〜60℃の範囲内で温度条件を設定することが好ましい。加工環境温度が−20℃未満であると、凍結防止剤を含有する切削水を用いても凍結することがある。加工環境温度が60℃を超えると、ステージの平坦度が安定して得られないことがある。
【0034】
また、上記表面平坦化する工程における加工環境温度として−20〜60℃の範囲内の温度条件を選択した後、該加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率が5MPa以上となるように上記接着剤層の組成を調整する方法を用いてもよい。なお、上記接着剤層の弾性率は、上記エポキシ樹脂、上記エポキシ基含有アクリル樹脂、上記熱硬化剤等の種類及び配合量により調整することができる。
上記接着剤層の弾性率が、上記表面平坦化する工程を行う際に既に上述した範囲内に入っている場合には、必ずしも、改めて上記接着剤層の弾性率を再調整する必要はない。
【0035】
本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法では、上記表面平坦化する工程を、該表面平坦化する工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率が1000MPa以下となる条件下で行うことが好ましい。上記弾性率が1000MPaを超えると、上記接着剤層が硬すぎることにより、バイトが磨耗したり欠けたりすることがある。
【0036】
上記バイトは特に限定されず、例えば、ダイヤモンド等からなる切削工具等が挙げられる。
上記切削加工する方法は特に限定されず、例えば、サーフェースプレーナー DFS8910(DISCO社製)等のバンプの表面平坦化に通常用いられる切削加工装置を用いる方法等が挙げられる。
なお、上記表面平坦化を行う前は、上記バンプは上記接着剤層に埋もれているが、上記表面平坦化を行うことで、上記接着剤層が切削されるとともに上記バンプも切削され、上記バンプの表面と上記接着剤層の表面とが連続して平坦となる。本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法においては、上記表面平坦化する工程を上記接着剤層の弾性率が5MPa以上となる条件下で行うことで、バイトの磨耗を抑制しながら上記バンプ及び上記接着剤層を一括して良好に切削加工し、表面平坦化することができる。更に、上記表面平坦化する工程を上記接着剤層の弾性率が1000MPa以下となる条件下で行うことで、上記接着剤層が硬すぎることによるバイトの磨耗及び欠けを抑制することができる。
【0037】
本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法では、次いで、表面平坦化された上記接着剤層を有する上記ウエハをダイシングする工程を行う。
【0038】
本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法では、上記ダイシングする工程を、該ダイシングする工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率が300MPa以下となる条件下で行う。上記弾性率が300MPaを超えると、半導体チップの端部で上記接着剤層の浮き、欠け等が生じ、このような接着剤層付き半導体チップでは高信頼性の半導体装置を製造することができない。本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法では、上記ダイシングする工程を、該ダイシングする工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率が200MPa以下となる条件下で行うことが好ましい。
【0039】
なお、本明細書中、接着剤層の弾性率とは、接着剤層について、粘弾性測定機(型式「DVA−200」、アイティー計測制御社製)を用いて、昇温速度5℃/分、せん断、せん断長さ10mm、せん断幅6mm、せん断厚み0.5mm、10Hzで−30℃から90℃まで昇温しながら測定して得られるせん断貯蔵弾性率(MPa)を意味する。
また、本明細書中、ダイシングする工程における加工環境温度とは、ダイシングする工程における加工ステージ、切削水等の温度を意味する。上記ダイシングする工程においては、加工熱が生じることによって上記接着剤層の温度は加工環境温度よりも25℃程度高くなっていることから、半導体チップの端部で生じる接着剤層の浮き及び欠けを抑制するためには、加工環境温度ではなく、加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率を調整する必要がある。
【0040】
上記ダイシングする工程において、該ダイシングする工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率を300MPa以下とする方法は特に限定されない。例えば、上記接着剤層の組成を決定した後、該接着剤層の温度と弾性率との関係を調べ、該接着剤層の弾性率が300MPa以下となる温度領域において上記ダイシングする工程における加工環境温度よりも25℃高い温度を選択し、上記ダイシングする工程における加工環境温度を設定する方法が挙げられる。
この際、上記ダイシングする工程における加工環境温度として−20〜60℃の範囲内で温度条件を設定することが好ましい。加工環境温度が−20℃未満であると、凍結防止剤を含有する切削水を用いても凍結することがある。加工環境温度が60℃を超えると、ステージの平坦度が安定して得られないことがある。
【0041】
また、上記ダイシングする工程における加工環境温度として−20〜60℃の範囲内の温度条件を選択した後、該加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率が300MPa以下となるように上記接着剤層の組成を調整する方法を用いてもよい。なお、上記接着剤層の弾性率は、上記エポキシ樹脂、上記エポキシ基含有アクリル樹脂、上記熱硬化剤等の種類及び配合量により調整することができる。
上記接着剤層の弾性率が、上記ダイシングする工程を行う際に既に上述した範囲内に入っている場合には、必ずしも、改めて上記接着剤層の弾性率を再調整する必要はない。
【0042】
本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法では、上記表面平坦化する工程を、該表面平坦化する工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率が5MPa以上となる条件下で行い、同時に、上記ダイシングする工程を、該ダイシングする工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの上記接着剤層の弾性率が300MPa以下となる条件下で行う。そのため、上記表面平坦化する工程における加工環境温度、上記ダイシングする工程における加工環境温度、及び、上記接着剤層の組成は、上記2つの工程におけるいずれの条件も満たすように、互いに関連して調整される必要がある。
【0043】
上記ダイシングする方法は特に限定されず、例えば、ダイシングソー DFD6362(DISCO社製)等の半導体チップの製造に通常用いられるダイシング装置を用いる方法が挙げられる。
また、表面平坦化された上記接着剤層を有する上記ウエハをダイシングする際には、ダイシングテープを用いることが好ましい。上記ダイシングテープは、上記ウエハを固定又は保護することを目的として、上記ウエハの裏面側に貼付されて用いられる。
【0044】
表面平坦化された上記接着剤層を有する上記ウエハをダイシングすることで、表面平坦化された上記接着剤層を有する半導体チップが得られる。
本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法においては、上記ダイシングする工程を上記接着剤層の弾性率が300MPa以下となる条件下で行うことで、ダイシング時に半導体チップの端部で生じる接着剤層の浮き、欠け等が抑制される。そのため、得られる半導体装置において接着剤未充填部分が生じることがなく、半導体装置の高信頼性を実現することができる。
【0045】
本発明の接着剤層付き半導体チップの製造方法により得られた接着剤層付き半導体チップは、フリップチップ実装に用いられ、基板又は他の半導体チップにボンディングされるとともに表面平坦化された上記バンプを介して電気的に接続される。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、バイトを用いた切削加工時にはバイトの磨耗を抑制し、ダイシング時には半導体チップの端部で生じる接着剤層の浮き及び欠けを抑制して、半導体装置の高信頼性を実現することのできる接着剤層付き半導体チップの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0048】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
(1)接着剤層の形成
下記の材料を用いて、表1に示す熱硬化性接着剤組成物を調製した。
【0049】
(硬化性化合物)
BPA(ビスフェノールA)型エポキシ(1004AF、ジャパンエポキシレジン社製)
ビフェニル型エポキシ(YX−4000H、ジャパンエポキシレジン社製)
(エポキシ樹脂と反応する官能基を有する固形ポリマー(固形ポリマー))
MMA(メチルメタクリレート)、GMA(グリシジルメタクリレート)の共重合体(分子量20万)(G−2050M、日油社製)
(熱硬化剤)
3,4−ジメチル−6−(2−メチル−1−プロペニル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物(YH−306、ジャパンエポキシレジン社製)
(硬化促進剤)
2,4−ジアミノ−6−[2’メチルイミダゾリン−(1’)]−エチルs−トリアジンイソシアヌル酸付加物(2MAOK、四国化成工業社製)
(その他)
シランカップリング材(KBM−573、信越化学工業社製)
溶剤(PEGMEA、和光純薬工業社製)
【0050】
得られた熱硬化性接着剤組成物を、バンプ(Sn/3Ag/0.5Cu 75umt)を有するシリコンウエハ(直径20.4cm、厚さ約750μm、フルアレイ)のバンプが形成されている面に、乾燥被膜の厚さが約90μmとなり、かつ、バンプが埋もれるようにスピンコートにより塗工し、80℃30分間加熱して溶剤を揮発させ、接着剤層を得た。
【0051】
(2)表面平坦化
切削加工装置(DFS8910、DISCO社製)を用いて、表1に示す加工環境温度にて、切削深さ5μmで100枚のシリコンウエハのバンプ及び接着剤層を連続して表面平坦化した。
なお、表面平坦化する工程における加工環境温度、及び、該加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの接着剤層の弾性率は、表1に示すとおりであった。
【0052】
(3)ダイシング
表面平坦化された接着剤層を有するバンプが形成されているシリコンウエハの裏面をダイシングテープで補強した後、ダイシング装置(DFD6362、DISCO社製)に取りつけ、表1に示す加工環境温度にて、ステップカット(ファーストカット深さ=シリコンウエハ表面から80μm、セカンドカット深さ=ウエハフルカット)にて、シリコンウエハを半導体チップの大きさに切削した。
なお、ダイシングする工程における加工環境温度、及び、該加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの接着剤層の弾性率は、表1に示すとおりであった。
【0053】
(評価)
実施例、比較例で得られた接着剤層付き半導体チップについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(1)バイトの磨耗評価
表面平坦化する工程を行った後、レーザー顕微鏡を用いて切削加工装置(DFS8910、DISCO社製)のダイヤモンドバイトの加工部を観察し、チッピングの有無、及び、磨耗の有無を評価した。
【0055】
(2)接着剤層の浮き、欠け
ダイシングする工程を行った後、光学顕微鏡を用いて接着剤層を観察し、シリコンウエハからの接着剤層の浮き、欠けを評価した。
【0056】
(3)リフロー試験
得られた接着剤層付き半導体チップと、基板(表面に上記接着剤層付き半導体チップに形成されたバンプと同配列のハンダプリコートが施されてあり、基板内部及び上記接着剤層付き半導体チップ内部の配線によりデイジーチェインを形成する基板)とを用いてフリップチップ実装(250℃、10秒、5N)を行った。190℃30分にて完全硬化を行った後、60℃、60%RHで40時間吸湿させ、ピーク温度260℃のリフローオーブンに3回通し、半導体チップ−接着剤層−基板の剥がれの評価及び導通試験を行った。なお、8つのサンプルについて上記剥がれ評価及び導通試験を行い、剥がれ及び導通不良が見られた積層体の個数を評価した。上記導通試験については、導通抵抗値が10%以上変化したものを不良とした。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、バイトを用いた切削加工時にはバイトの磨耗を抑制し、ダイシング時には半導体チップの端部で生じる接着剤層の浮き及び欠けを抑制して、半導体装置の高信頼性を実現することのできる接着剤層付き半導体チップの製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリップチップ実装に用いるための接着剤層付き半導体チップの製造方法であって、
ウエハ上のバンプが埋もれるように接着剤層を形成する工程と、
前記バンプの表面と前記接着剤層の表面とが連続して平坦となるように、バイトを用いた切削加工により前記バンプ及び前記接着剤層を表面平坦化する工程と、
表面平坦化された前記接着剤層を有する前記ウエハをダイシングする工程とを有し、
前記表面平坦化する工程を、該表面平坦化する工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの前記接着剤層の弾性率が5MPa以上となる条件下で行い、
前記ダイシングする工程を、該ダイシングする工程における加工環境温度よりも25℃高い温度に置いたときの前記接着剤層の弾性率が300MPa以下となる条件下で行う
ことを特徴とする接着剤層付き半導体チップの製造方法。

【公開番号】特開2011−71427(P2011−71427A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222937(P2009−222937)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】