説明

接着剤組成物、それを用いた基材の加工または移動方法および半導体素子

【課題】基材の加工や移動時において充分な接着性を有し、加工や移動終了後に支持体から基材を容易に剥離することができ、かつ基材に付着したとしても容易に除去される接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】(A)下記式(1)で表される化合物、および下記式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物と、(B)電子対を与える基を2つ以上有する化合物とを含有する接着剤組成物。


[式(1)中、R1は直接結合または炭素数1〜40の2価の炭化水素基を示す。
式(2)中、R2は水素原子または炭素数1〜40の1価の炭化水素基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材を加工または移動する際に、基材を支持体に固定するために用いられる接着剤組成物、それを用いた基材の加工または移動方法および半導体素子に関する。更に詳しくは、前記加工または移動におけるプロセス温度においても充分な接着性を有し、前記加工または移動終了後に支持体から基材を容易に剥離することができ、かつ基材に付着したとしても容易に除去される接着剤組成物、それを用いた基材の加工または移動方法および該加工方法によって得られる半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハなどの基材を加工(例:ダイシング、裏面研削)や移動(例:ある装置から別の装置へ基材を移動)するに際して、支持体から基材がずれて動かないように、仮止め接着剤を用いて基材と支持体とを仮固定する必要がある。そして、加工または移動終了後は、基材を支持体から剥離する必要がある。従来、基材の仮固定に用いられる仮止め接着剤がいくつか提案されている(下記特許文献1〜5参照)。
【0003】
特許文献1:アクリル酸とアクリル酸ヒドロキシアルキルとメタクリル酸アミノアルキルとアクリル酸アルキルアミドとの共重合体を主成分とし、無機または有機塩基により該共重合体の酸基が80%以上中和されている温水洗浄性液状接着剤。
【0004】
特許文献2:酸化エチレンの重合により得られるポリエチレングリコールの主鎖を親水基とし、その両端に酸化プロピレンを親油基として部分付加重合させたブロックポリマーを主成分とする温水洗浄性液状接着剤。
【0005】
特許文献3:ウレタン(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、および光重合開始剤を含有してなる接着剤組成物。
特許文献4:結晶性化合物を主成分として含むホットメルト型接着剤組成物。
【0006】
特許文献5:アイオノマー樹脂を40重量%以下の量で含む接着剤。
しかしながら、上記特許文献の仮止め接着剤では、基材を支持体から剥離した後に仮止め接着剤を基材からきれいに除去するため、溶媒を用いて基材を洗浄する必要がある。このため、工程管理の上で問題となることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−331212号公報
【特許文献2】特開平6−240224号公報
【特許文献3】特開2006−257312号公報
【特許文献4】特開2005−179654号公報
【特許文献5】特表2007−525574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、基材の加工や移動時において充分な接着性を有し、加工や移動終了後に支持体から基材を容易に剥離することができ、かつ基材に付着したとしても容易に除去される接着剤組成物を提供することを課題とする。特に、従来知られている仮止め接着剤は、基材の加工や移動終了後に溶媒などで除去されていたが、溶媒による洗浄を不要とする接着剤組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、前記接着剤組成物を用いた基材の加工または移動方法、および該基材の加工方法によって得られる半導体素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、特定の化合物(A)と、電子対を与える基を2つ以上有する化合物(B)とを用いることにより、上記課題を解決しうる接着剤組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明およびその好ましい態様は以下の[1]〜[16]に関する。
[1](A)下記式(1)で表される化合物、および下記式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物と、(B)電子対を与える基を2つ以上有する化合物とを含有する接着剤組成物。
【0011】
【化1】

[式(1)中、R1は直接結合または炭素数1〜40の2価の炭化水素基を示す。式(2)中、R2は水素原子または炭素数1〜40の1価の炭化水素基を示す。]
[2]前記(A)成分が、前記式(1)で表される化合物である前記[1]に記載の接着剤組成物。
【0012】
[3]前記(A)成分が、前記式(1)におけるR1が炭素数2〜40の直鎖状または分岐状のアルキレン基である化合物である前記[2]に記載の接着剤組成物。
[4]前記電子対を与える基が、下記式(3)〜(6)で表される基から選択される少なくとも1種である前記[1]〜[3]の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【0013】
【化2】

[式(3)〜(6)中、「−*」および「=*」は結合手を示す。但し、窒素原子と水素原子との結合を除く。]
[5]前記(B)成分が、前記式(3)で表される基を少なくとも有する化合物である前記[4]に記載の接着剤組成物。
【0014】
[6]前記(B)成分が、前記式(4)で表される基を少なくとも有する化合物である前記[4]または[5]に記載の接着剤組成物。
[7]前記(B)成分が、前記式(3)で表される基および前記式(4)で表される基をそれぞれ1つ有する化合物である前記[4]〜[6]の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【0015】
[8]前記(B)成分が、下記式(7)で表される化合物である前記[7]に記載の接着剤組成物。
【0016】
【化3】

[式(7)中、nは1〜15の整数を示し、mは1〜6の整数を示す。]
[9]前記(B)成分が、前記(A)成分100重量部に対して1〜1,000重量部の範囲で含まれる前記[1]〜[8]の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【0017】
[10]前記(A)成分の1気圧における沸点、昇華点または分解温度が、400℃以下である前記[1]〜[9]の何れか一項に記載の接着剤組成物。
[11]前記(B)成分の1気圧における沸点、昇華点または分解温度が、400℃以下である前記[1]〜[10]の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【0018】
[12](1)支持体上に接着剤を用いて基材を固定する工程、(2)該基材を加工または移動する工程、および(3)支持体から該基材を剥離する工程を順次行う基材の加工または移動方法であって、前記接着剤として前記[1]〜[11]の何れか一項に記載の接着剤組成物を用い、かつ前記工程(3)において前記接着剤を加熱処理により除去することによって前記支持体から前記基材を剥離する基材の加工または移動方法。
【0019】
[13]前記工程(3)において、加熱処理を40〜400℃で行う前記[12]に記載の基材の加工または移動方法。
[14]前記工程(2)において、基材の薄膜化、エッチング加工、スパッタ膜の形成、メッキ処理およびダイシングから選択される少なくとも1種の方法により基材を加工する前記[12]または[13]に記載の基材の加工方法。
【0020】
[15]前記[1]〜[11]の何れか一項に記載の接着剤組成物を用いて得られる半導体素子。
[16]前記[12]〜[14]の何れか一項に記載の基材の加工方法によって得られる半導体素子。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、基材の加工や移動時において充分な接着性を有し、加工や移動終了後に支持体から基材を容易に剥離することができ、かつ基材に付着したとしても容易に除去される接着剤組成物が提供される。特に、従来知られている仮止め接着剤は、基材の加工や移動終了後に溶媒などで除去されていたが、溶媒による洗浄を不要とする接着剤組成物が提供される。また、本発明によれば、前記接着剤組成物を用いた基材の加工または移動方法、および該基材の加工方法によって得られる半導体素子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の接着剤組成物、該接着剤組成物を用いた基材の加工または移動方法、および該基材の加工方法によって得られる半導体素子について、詳細に説明する。
【0023】
〔接着剤組成物〕
本発明の接着剤組成物は、(A)後述する式(1)で表される化合物、および後述する式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物と、(B)電子対を与える基を2つ以上有する化合物とを含有する。以下では、前記各成分をそれぞれ化合物(A)、化合物(B)ともいう。
【0024】
本発明の接着剤組成物が基材(加工対象物)の加工や移動時において充分な接着性を有する理由は、化合物(B)が“電子対を与える基、つまり塩基性を有する基”を2つ以上有するため、『化合物(A)−化合物(B)−化合物(A)・・・−化合物(A)』のように化合物(A)と化合物(B)とが相互作用して、接着剤として機能することにあるのではないかと推定される。特に、化合物(B)が後述する式(3)〜(6)で表される基のような弱塩基性の基を有する場合、化合物(A)と化合物(B)とが接着性を損なわない程度に弱く相互作用するため、加工や移動終了後に支持体から基材を容易に剥離することができる。
【0025】
また、本発明の接着剤組成物は、熱により気化もしくは昇華または分解して気体となる方が好ましい。このような接着剤組成物の場合、加工または移動終了後に低温の加熱処理で、支持体から基材を容易に剥離することができるとともに、基材に付着した接着剤組成物も容易に除去できる利点がある。この理由は、化合物(A)や化合物(B)が低分子化合物のため、各成分が熱により気化もしくは昇華または分解して気体となることにあると推定される。
【0026】
《化合物(A)》
化合物(A)は、下記式(1)で表される化合物、および下記式(2)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物である。化合物(B)と相互作用しやすく、接着性に優れた接着剤組成物が得られるという観点からは、下記式(1)で表される化合物が好ましい。より強い接着性が求められる用途で用いる場合は、下記式(2)で表される化合物も好ましい。
【0027】
【化4】

式(1)中、R1は直接結合または炭素数1〜40、好ましくは5〜30、より好ましくは10〜25の2価の炭化水素基を示す。式(2)中、R2は水素原子または炭素数1〜40、より好ましくは5〜30の1価の炭化水素基を示す。
【0028】
上記2価の炭化水素基としては、メチレン基、炭素数2〜40の直鎖状または分岐状のアルキレン基、炭素数2〜40の直鎖状または分岐状のアルケニレン基、炭素数4〜40のシクロアルキレン基、炭素数5〜40のシクロアルキニレン基、炭素数6〜20のアリーレン基などが挙げられる。これらの中では、化合物(B)と相互作用しやすく、接着性に優れた接着剤組成物が得られるため、炭素数2〜40の直鎖状または分岐状のアルキレン基が好ましく、炭素数5〜30の直鎖状または分岐状のアルキレン基がより好ましい。
【0029】
上記1価の炭化水素基としては、炭素数1〜40の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数2〜40の直鎖状または分岐状のアルケニル基、炭素数4〜40のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基などが挙げられる。これらの中では、アルキル基が好ましい。
【0030】
上記式(1)で表される化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナメチレンジカルボン酸、1,10−デカメチレンジカルボン酸、1,12−ドデカメチレンジカルボン酸、1,14−テトラデカメチレンジカルボン酸、1,15−ペンタデカメチレンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカメチレンジカルボン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキシンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0031】
上記式(2)で表される化合物としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバル酸、吉草酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、2−エチル酪酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、イソステアリン酸などの脂肪族カルボン酸;安息香酸、2−メチル安息香酸、3−メチル安息香酸、4−メチル安息香酸、1−ナフタレンカルボン酸などの芳香族カルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘプタンカルボン酸などの脂環族カルボン酸などが挙げられる。
【0032】
化合物(A)の1気圧における沸点、昇華点または分解温度は、400℃以下であることが好ましく、100〜400℃であることがより好ましい。沸点、昇華点または分解温度が前記範囲にある化合物(A)を用いると、接着剤組成物を除去する際に化合物(A)が基板などにダメージを与えず容易に気化あるいは昇華するため、除去性により優れた接着剤組成物が得られる。
【0033】
化合物(A)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の接着剤組成物において、化合物(A)は、通常は5〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは40〜70重量%の範囲で含まれる。化合物(A)の含有量が前記範囲にあると、接着性の点で優れる。
【0034】
《化合物(B)》
化合物(B)は、電子対を与える基を2つ以上有する化合物である。電子対を与える基とは、塩基性を有する基のことであり、更に詳しくはルイス塩基性を有する基のことである。
【0035】
化合物(B)は、電子対を与える基を2つ以上有する化合物であるが、化合物(A)と相互作用してより接着性に優れた接着剤組成物が得られることから、電子対を与える基を2〜3つ有する化合物であることが好ましい。
【0036】
上記電子対を与える基は、化合物(A)と化合物(B)とが接着性を損なわない程度に弱く相互作用し、加工や移動終了後に支持体から基材を容易に剥離することができるため、下記式(3)〜(6)で表される基から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。すなわち化合物(B)としては、下記式(3)〜(6)で表される基から選択される1種または2種以上の基を2つ以上有する化合物が特に好ましい。「2つ以上有する」とは、例えば、化合物(B)が式(3)で表される基を2つ以上有していてもよいし、式(3)で表される基と式(4)で表される基とを1つずつ有していてもよいことを意味する。
【0037】
【化5】

式(3)〜(6)中、「−*」および「=*」は結合手を表す。但し、窒素原子と水素原子との結合を除く。
【0038】
化合物(B)としては、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)、エチレンジアミンなどが挙げられる。
【0039】
化合物(B)は、上記式(3)で表される基および/または上記式(4)で表される基を少なくとも有する化合物であることが好ましく、上記式(3)で表される基および上記式(4)で表される基をそれぞれ1つ有する化合物であることがより好ましく、下記式(7)で表される化合物であることがさらに好ましい。
【0040】
【化6】

式(7)中、nは1〜15、好ましくは1〜10の整数を示し、mは1〜6、好ましくは1〜4の整数を示す。
【0041】
上記式(7)で表される化合物としては、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)などが挙げられる。
【0042】
化合物(B)の1気圧における沸点、昇華点または分解温度は、400℃以下であることが好ましく、100〜300℃であることがより好ましい。沸点、昇華点または分解温度が前記範囲にある化合物(B)を用いると、接着剤組成物を除去する際に化合物(B)が気化、昇華あるいは分解するため、除去性により優れた接着剤組成物が得られる。
【0043】
化合物(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の接着剤組成物において、化合物(B)は、化合物(A)100重量部に対して、通常は1〜1,000重量部、好ましくは1〜500重量部、より好ましくは5〜100重量部の範囲で含まれる。化合物(B)の含有量が前記範囲にあると、接着性の点でより優れた効果が発揮される。
【0044】
《溶媒(C)》
本発明の接着剤組成物は、その接着力を調整する観点から、溶媒(C)をさらに含有してもよい。溶媒(C)としては、従来公知の溶媒を用いることができる。
【0045】
溶媒(C)の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンなどのアルコール類;
フェノールなどのフェノール類;
n−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘプタン、n−オクタン、シクロオクタン、n−デカン、シクロデカン、ジシクロペンタジエン水素化物、ベンゼン、トルエン、キシレン、デュレン、インデン、デカリン、テトラリン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、スクワラン、エチルベンゼン、t−ブチルベンゼン、トリメチルベンゼンなどの炭化水素系溶媒;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;
エチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;
酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル類;
ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、Nーメチルピロリドン、ヘキサメチルホスホミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、クロロホルム、塩化メチレンなどの極性溶媒が挙げられる。
【0046】
これらの中では、アルコール類およびフェノール類などのプロトン性溶媒、ケトン類、エーテル類が好ましく、グリセリン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランがより好ましい。
【0047】
溶媒(C)の23℃での粘度は、通常は100〜1,000,000である。粘度が前記範囲にある溶媒(C)を用いると、接着性により優れる接着剤組成物が得られる。
溶媒(C)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明の接着剤組成物において溶媒(C)を用いる場合は、溶媒(C)は、化合物(A)と化合物(B)との合計量100重量部に対して、通常は10〜300重量部、好ましくは20〜200重量部、より好ましくは30〜100重量部の範囲で含まれる。
【0049】
《添加剤》
本発明の接着剤組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、添加剤をさらに含有してもよい。前記添加剤としては、非イオン系界面活性剤などの表面張力調節剤;酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素などの金属酸化物;ポリスチレン架橋粒子などが挙げられる。
【0050】
《接着剤組成物》
本発明の接着剤組成物は、従来公知の方法に従って調製することができる。
本発明の接着剤組成物は、基材の加工または移動時において充分な接着性を有する。具体的には、本発明の接着剤組成物の23℃における剪断剥離強度は、通常は1g/cm2以上、好ましくは5〜10,000g/cm2である。なお、剪断剥離強度は後述する実施例に記載の条件のもと、測定される。
【0051】
また、含有成分が熱により気化、昇華あるいは分解するため、加工または移動終了後の加熱により容易に、支持体から基材を剥離することができるとともに基材に付着した接着剤組成物を除去することができる(すなわち、溶媒による洗浄が不要である)。
【0052】
また、本発明の接着剤組成物は上記特性を有するとともに、基材の接着条件下における流動性、絶縁膜形成時やリフロー時における耐熱性、レジストの形成時や剥離時の使用溶剤に対する耐溶剤性、Cuメッキ耐性、およびスパッタリング時における耐真空性を有する。また、本発明の接着剤組成物からなる接着剤層は、強度に優れる。
【0053】
このような特性を有することから、本発明の接着剤組成物は、現代の経済活動の場面で要求される様々な加工処理など(例:半導体ウエハの極薄研削処理、各種材料表面の微細化加工処理、半導体ウエハや半導体素子の運搬)の際に、基材を仮止めする接着剤として好適である。
【0054】
〔基材の加工または移動方法〕
本発明の基材の加工または移動方法は、(1)支持体上に接着剤を用いて基材を固定する工程、(2)該基材を加工または移動する工程、および(3)支持体から該基材を剥離する工程を順次行う基材の加工または移動方法であって、前記接着剤として上述の接着剤組成物を用い、かつ前記工程(3)において前記接着剤を加熱処理により除去することによって前記支持体から前記基材を剥離することを特徴とする。以下、前記各工程をそれぞれ、工程(1)、工程(2)、工程(3)ともいう。
【0055】
《工程(1)》
工程(1)では、支持体または必要に応じて表面処理した基材の表面に接着剤組成物を塗布し、基材と支持体とを貼り合せることにより、基材を支持体に固定することができる。加工(移動)対象物である前記基材としては、半導体ウエハ、ガラス基板、樹脂基板、金属基板、金属箔、研磨パッドなどが挙げられる。半導体ウエハには、通常は配線や絶縁膜などが形成されている。
【0056】
本発明の接着剤組成物を基材に塗布するに際して、接着剤組成物の面内への広がりを均一にするため、基材表面を予め疎水化処理しておくことが好ましい。
疎水化処理の方法としては、基材表面に予め表面処理剤を塗布する方法などが挙げられる。前記表面処理剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどのカップリング剤が挙げられる。
【0057】
上述の接着剤組成物の塗布方法としては、(イ)接着剤組成物を基材へ直接塗布する方法、(ロ)接着剤組成物を、離型処理が施されたPET(Polyethylene Terephthalate)フィルム上に一定膜厚で塗布して成膜した後、基材へラミネート方式により転写する方法などが挙げられる。
【0058】
上述の接着剤組成物の塗布量は、基材の接着面のサイズ、加工処理などで要求される密着性の程度に応じて任意に選択することができるが、接着剤層の厚みが通常は0.01μm〜2mm、好ましくは0.05μm〜1mm、より好ましくは0.1μm〜0.5mmとなる量で塗布すればよい。接着剤層の厚みが前記範囲外にあると、接着力が充分ではないことがあり、接着面からの基材の剥がれが生じる場合がある。なお、接着剤層の厚みは、接着剤の塗布量および張り合わせるときの圧力で調整することができる。
【0059】
基材と支持体とを貼り合せる方法としては、基材および支持体の何れか一方または双方に上述の接着剤組成物を塗布して、両者を貼り合せる方法などが挙げられる。この際の温度は、通常は23〜200℃である。このようにして、基材と支持体とが強固に接着される。
【0060】
《工程(2)》
工程(2)は、上記のように支持体に固定された基材を加工または移動する工程である。移動工程は、基材(例:半導体ウエハ)をある装置から別の装置へ支持体とともに移動する工程である。また、上記のようにして支持体に固定された基材の加工処理としては、基材の薄膜化(裏面研削など)、エッチング加工、スパッタ膜の形成、メッキ処理およびダイシングから選択される少なくとも1種の方法を用いることができる。
【0061】
基材の加工処理は、接着剤組成物が気化あるいは昇華せずに、接着性が失われない温度で行えば特に限定されず、通常は、組成物の含有成分の沸点または昇華点温度未満で行えばよい。但し、基材の加工処理と支持体から基材を剥離する処理とを同時に行っても問題ない場合には、工程(2)の加熱条件を工程(3)の加熱条件と同様にしてもよく、つまり工程(2)終了と同時に工程(3)を完了してもよい。
【0062】
以下では、基材の加工処理として、半導体ウエハの3次元実装の際に行われる加工処理を一例として説明する。3次元実装では、半導体ウエハの表面に対して垂直方向に延びる貫通電極を形成し、その貫通電極の端部や配線上に、パッド電極やバンプなどの接続用電極を形成する。このようにして形成された接続用電極同士を接続することで、積層した半導体ウエハ相互間を接続する。
【0063】
(i)工程(1)で接着剤組成物を介して支持体上に固定された半導体ウエハからなる基材を研削する。
(ii)基材上にレジストを塗布し、露光処理および現像処理を行い、所定の形状にパターニングされたレジスト層を形成する。例えば、円形状のレジストパターンを基材上に複数形成すればよい。
【0064】
(iii)レジスト層をマスクとして、基材の所定形状にパターニングされた部分をエッチングし、開口部(ホール)を形成する。その後、レジスト層を剥離液あるいはアッシング(例:O2アッシング)などにより剥離する。エッチングにはドライエッチングやウェットエッチングを使用することができるが、ドライエッチングを使用することが好ましい。ドライエッチングとしては反応性イオンエッチング(RIE)などが挙げられる。
【0065】
(iv)基材の開口部を形成した面上に、SiO2などからなる絶縁層を形成する。
(v)絶縁層への導体の拡散を防ぐ目的で、TiWおよびTiNなどからなるバリア層をスパッタにより形成する。次に、銅などからなるシード層をスパッタにより形成する。
【0066】
(vi)基材の開口部を形成した面上にレジストを塗布し、露光処理および現像処理を行い、基材の開口部に対応した形状にパターニングされたレジスト層を形成する。次に、メッキ処理(Sn/Cuメッキなど)を施して、基材の開口部に導体を充填し、貫通電極を形成する。その後、レジスト層を除去し、バリア層およびシード層をドライエッチングにより除去する。
【0067】
(vii)このようにして加工処理がなされた基材の貫通電極上にパッド電極やバンプなどの接続用電極を形成する。次に、形成された接続用電極同士を接続することで、積層した半導体ウエハ相互間を接続することができる。
【0068】
《工程3》
基材の加工処理または移動後は、上記接着剤を加熱処理により除去することによって支持体から基材を剥離する。加熱処理は、接着剤組成物の各成分中でもっとも高い沸点または昇華点の温度程度で行えばよく、例えば、40〜400℃で行えばよい。なお、基材の加工処理と支持体から基材を剥離する処理とを同時に行っても問題ない場合には、工程(3)は工程(2)における加熱条件で行ってもよく、つまり工程(2)終了と同時に工程(3)を完了してもよい。
【0069】
〔半導体素子〕
本発明の半導体素子は、上述の接着剤組成物を用いて得られ、具体的には上述の基材の加工方法によって得られる。上述の接着剤組成物は半導体素子の剥離時に容易に除去されるため、前記半導体素子は接着剤組成物による汚染(例:シミ、焦げ)が極めて低減されたものとなっている。
【実施例】
【0070】
以下、実施例をもとに本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されない。なお、以下の実施例および比較例において、特に断らない限り、「部」および「%」はそれぞれ「重量部」および「重量%」の意味で用いる。
【0071】
[実施例1]接着剤組成物の調製
(B1)1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(1気圧における沸点:240〜245℃)10部と(A1)イソステアリン酸(1気圧における沸点:375℃)20部とを混合して、接着剤組成物を得た。
【0072】
[実施例2]接着剤組成物の調製
(B2)1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(1気圧における沸点:280〜290℃)10部と(A1)イソステアリン酸20部とを混合して、接着剤組成物を得た。
【0073】
〔接着性の評価(1)〕
上記実施例で調製した接着剤組成物を、10mm×10mmに切断したシリコンウエハ上に室温・常圧下で塗布し、厚み20μmの接着剤層を形成した。前記接着剤層上に20mm×20mmに切断したシリコンウエハを重ね、加重を500gかけて接着基板を得た。
【0074】
得られた接着基板の剪断剥離強度を、万能ボンドテスター(デイジ社製)を用いて測定した。23℃における剪断剥離強度は実施例1では30g/cm2であり、実施例2では25g/cm2であった。前記接着基板を90°および180°に傾けても二枚のシリコンウエハにズレが生ずることはなかった。このため、実施例1および2で調製した接着剤組成物は、仮止め剤として充分な接着性を有することが確認できた。
【0075】
〔剥離性の評価(2)〕
上記接着基板をホットプレート上に置き、窒素雰囲気下、ハンダ溶融温度に相当する260℃で加熱を行った。その結果、二枚のシリコンウエハを容易に分離することができた。また、分離後のシリコンウエハの表面における接着剤層の有無について目視にて評価したところ、シミや焦げなどはなかった。このため、シリコンウエハを汚染することなく、仮止め剤である上記実施例1および2の接着剤組成物を加熱により容易に除去できることも確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表される化合物、および下記式(2)で表される化合物
から選択される少なくとも1種の化合物と、
(B)電子対を与える基を2つ以上有する化合物と
を含有する接着剤組成物。
【化1】

[式(1)中、R1は直接結合または炭素数1〜40の2価の炭化水素基を示す。
式(2)中、R2は水素原子または炭素数1〜40の1価の炭化水素基を示す。]
【請求項2】
前記(A)成分が、前記式(1)で表される化合物である請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、前記式(1)におけるR1が炭素数2〜40の直鎖状または分岐状のアルキレン基である化合物である請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記電子対を与える基が、下記式(3)〜(6)で表される基から選択される少なくとも1種である請求項1〜3の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【化2】

[式(3)〜(6)中、「−*」および「=*」は結合手を示す。
但し、窒素原子と水素原子との結合を除く。]
【請求項5】
前記(B)成分が、前記式(3)で表される基を少なくとも有する化合物である請求項4に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記(B)成分が、前記式(4)で表される基を少なくとも有する化合物である請求項4または5に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記(B)成分が、前記式(3)で表される基および前記式(4)で表される基をそれぞれ1つ有する化合物である請求項4〜6の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
前記(B)成分が、下記式(7)で表される化合物である請求項7に記載の接着剤組成物。
【化3】

[式(7)中、nは1〜15の整数を示し、mは1〜6の整数を示す。]
【請求項9】
前記(B)成分が、前記(A)成分100重量部に対して1〜1,000重量部の範囲で含まれる請求項1〜8の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
前記(A)成分の1気圧における沸点、昇華点または分解温度が、400℃以下である請求項1〜9の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
前記(B)成分の1気圧における沸点、昇華点または分解温度が、400℃以下である請求項1〜10の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項12】
(1)支持体上に接着剤を用いて基材を固定する工程、(2)該基材を加工または移動する工程、および(3)支持体から該基材を剥離する工程を順次行う基材の加工または移動方法であって、
前記接着剤として請求項1〜11の何れか一項に記載の接着剤組成物を用い、かつ前記工程(3)において前記接着剤を加熱処理により除去することによって前記支持体から前記基材を剥離する基材の加工または移動方法。
【請求項13】
前記工程(3)において、加熱処理を40〜400℃で行う請求項12に記載の基材の加工または移動方法。
【請求項14】
前記工程(2)において、基材の薄膜化、エッチング加工、スパッタ膜の形成、メッキ処理およびダイシングから選択される少なくとも1種の方法により基材を加工する請求項12または13に記載の基材の加工方法。
【請求項15】
請求項1〜11の何れか一項に記載の接着剤組成物を用いて得られる半導体素子。
【請求項16】
請求項12〜14の何れか一項に記載の基材の加工方法によって得られる半導体素子。

【公開番号】特開2011−52142(P2011−52142A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203463(P2009−203463)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】