説明

接着剤組成物、並びにそれを用いた接着シート及びカバーレイフィルム

【課題】優れた保存安定性、接着性、半田耐熱性及び加工性を有する接着剤組成物、並びに該組成物を用いた接着シート及びカバーレイフィルムを提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂:100質量部、(B)カルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム:5〜200質量部、(C)アミン系硬化剤:1〜80質量部、(D)ホウフッ化型硬化促進剤:0.1〜10質量部、及び(E)無機充填剤:(A)〜(D)成分の合計に対して5〜100質量%、を含有してなる接着剤組成物であって、該接着剤組成物中に含まれる(C)成分のモル数及び(D)成分のモル数をそれぞれ、m1及びm2としたとき、m1/m2=5〜20となることを特徴とする接着剤組成物;前記接着剤組成物からなる層と、該接着剤組成物からなる層を被覆する離型基材層とを有する接着シート;並びに電気絶縁性フィルムと、該電気絶縁性フィルムに設けられた前記接着剤組成物からなる層とを有するカバーレイフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた保存安定性、接着性、半田耐熱性及び加工性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与えることができる接着剤組成物、並びにそれを用いた接着剤シート及びカバーレイフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野の発展が目覚ましく、特に通信用・民生用の電子機器の小型化、軽量化、高密度化が進み、これらの性能に対する要求がますます高度なものとなっている。このような要求に対して、フレキシブル印刷回路基板(以下、FPCと記載する)は可撓性を有し、繰り返し屈曲に耐えるため、狭い空間に立体的に高密度の実装が可能であり、電子機器への配線、ケーブル、コネクター機能等を付与した複合部品として、その用途が拡大しつつある。
【0003】
複数のFPCを貼り合わせて多層FPCを製造する場合や、FPCと補強板を貼り合わせる場合等には、接着材料として接着シートが使用される。この接着シートは離型基材の片面に半硬化状態の接着剤を塗布したもの、或いは離型基材の片面に半硬化状態の接着剤を塗布し、別の離型基材と貼り合わせたものであり、例えば、接着性、半田耐熱性、ガラス転移温度、加工性、電気特性、ハンドリング性及び保存安定性等の特性が求められる。
【0004】
また、FPCには、電気絶縁性の基材フィルムの片面に半硬化状態の接着剤を塗布したものと離型材とを貼り合わせたカバーレイフィルムが用いられる。このカバーレイフィルムは、FPCの回路保護や屈曲性の向上等を目的とするものであり、例えば、接着性、半田耐熱性、ガラス転移温度、加工性、電気特性、ハンドリング性及び保存安定性等の特性が求められる。
【0005】
しかしながら、上述の接着シート及びカバーレイフィルムは、反応性官能基を有するゴム成分、エポキシ樹脂、及びその硬化剤を含む半硬化状態状態の熱硬化性樹脂から成ることが多く、反応性が高いために、保存期間が長くなるにつれて、接着剤の流動性が低下し、接着性、半田耐熱性等の特性が低下するという問題があった。このため、上述の接着シート及びカバーレイフィルムは、低温保管をする必要があり、また、保存寿命が短いために、購入後、早期に使用しなければならず、保存安定性に問題があった。
【0006】
この問題に対して、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、カルボキシ基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム、潜在性硬化剤、及びこれらを組み合わせたものからなる接着シートやカバーレイフィルムが提案されているが(例えば、特許文献1、2及び3)、いずれも保存性、接着性、半田耐熱性及び加工性を同時に十分満足させるものではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2002−12841号公報
【特許文献2】特開2005−244138号公報
【特許文献3】特開2002−76583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた保存安定性、接着性、半田耐熱性及び加工性を有する接着剤組成物、並びに該組成物を用いた接着シート及びカバーレイフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は第一に、
(A)エポキシ樹脂:100質量部、
(B)カルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム:5〜200質量部、
(C)アミン系硬化剤:0.1〜80質量部、
(D)ホウフッ化型硬化促進剤:0.1〜10質量部、及び
(E)無機充填剤:(A)〜(D)成分の合計に対して5〜100質量%となる量、
を含有してなる接着剤組成物であって、該接着剤組成物中に含まれる(C)成分のモル数及び(D)成分のモル数をそれぞれ、m1及びm2としたとき、m1/m2=5〜20となることを特徴とする接着剤組成物を提供する。
【0010】
本発明は第二に、前記接着剤組成物からなる層と、該接着剤組成物からなる接着剤層を被覆する離型基材層とを有する接着シートを提供する。
【0011】
本発明は第三に、電気絶縁性フィルムと、該電気絶縁性フィルムに設けられた前記接着剤組成物からなる接着剤層とを有するカバーレイフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の接着剤組成物は、優れた保存安定性、接着性、半田耐熱性及び加工性を有する。したがって、この組成物を用いて作製した接着シート及びカバーレイフィルムも、優れた保存安定性、接着性、半田耐熱性及び加工性を有するため、特にフレキシブル印刷回路基板等の分野で好適に利用及び応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、熱硬化性接着剤組成物であり、例えば、接着シート及びカバーレイフィルムの製造等に用いられる。また、本発明の接着剤組成物は、上記の(A)〜(E)成分を有してなるものであり、必要に応じて、溶剤等の任意成分を有していてもよい。なお、本発明の接着剤組成物は、場合によっては加えられる成分を更に含み得、該組成物が溶剤を含む場合には、通常、溶剤は有機樹脂成分に含めない。
【0014】
以下、上記の(A)〜(E)成分について、詳しく説明する。
【0015】
〔(A)エポキシ樹脂〕
(A)成分であるエポキシ樹脂は、通常、重量平均分子量が10,000未満のエポキシ樹脂が好ましく、具体的には、1分子中に2個又は3個以上のエポキシ基を有するものであれば特に限定されず、シリコーン、ウレタン、ポリイミド、ポリアミド等で変性されてもよい。また、難燃性を付与させるために臭素化エポキシ樹脂を使用することも可能である。さらに、分子骨格内にリン原子、硫黄原子、窒素原子等を含んでいてもよい。
【0016】
そのようなエポキシ樹脂のうち、1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、スチルベンゼン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。市販品では、例えば、非臭素化エポキシ樹脂としては、商品名で、エピコート828、871、1001、1256(ジャパンエポキシレジン製)、スミエポキシELA115、127(住友化学工業製)等が挙げられ、臭素化エポキシとしては、商品名で、エピコート5050、5048、5046(ジャパンエポキシレジン製)等が挙げられる。
【0017】
1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリフェニルメタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。市販品では、例えば、非臭素化エポキシ樹脂としては、商品名で、エピコート604(ジャパンエポキシレジン製)、スミエポキシESCN195X、ELM120(住友化学工業製)、EOCN103S、EPPN502H(日本化薬製)等が挙げられ、臭素化エポキシ樹脂としては、商品名で、BREN−S(日本化薬製)等が挙げられる。
【0018】
1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂は、柔軟性及び接着性の向上に効果があり、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂は、耐熱性及び硬化後接着剤のガラス転移温度の向上に効果がある。エポキシ樹脂はこれらの特徴を考慮した上で使用されるが、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
〔(B)カルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム〕
(B)成分であるカルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム(以下、「カルボキシル基含有NBR」という)は、本成分中のアクリロニトリル含有量が好ましくは20〜50質量%、更に好ましくは25〜45質量%であり、かつ、カルボキシル基含有量が好ましくは0.001〜10質量、更に好ましくは0.005〜5質量%である。アクリロニトリル含有量が、20質量%未満である場合には、硬化物の接着性が低下することがあり、50質量%を超える場合には、硬化物の電気特性が著しく低下し、さらに、他成分(特に樹脂、および、場合により配合される有機溶剤)との相溶性が悪くなるため、硬化物の保存性が悪くなることがある。カルボキシル基含有量が0.001質量%未満である場合には、組成物の反応性が低下するため、硬化物の耐溶剤性及び半田耐熱性が劣ることがあり、10質量%を超える場合には、硬化物の接着性および電気特性が低下することがある。
【0020】
前記カルボキシル基含有NBRとしては、例えば、アクリロニトリルとブタジエンとを共重合させた共重合ゴムの分子鎖末端をカルボキシル化したものや、アクリロニトリルとブタジエンと重合性不飽和二重結合を有するカルボン酸モノマーとの三元共重合ゴム等が挙げられる。このカルボン酸モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。前記カルボキシル化にも、これらのカルボン酸モノマーとして例示したものを用いることができる。また、カルボキシル基含有NBRは、アクリロニトリルとブタジエンと重合性不飽和二重結合を有するカルボン酸モノマーとの三元共重合段階で、架橋性モノマーを添加して部分的に架橋させた架橋ゴムや、必要に応じて、架橋後に粒子状にした架橋ゴムであっても良い。
【0021】
上記三元共重合ゴムとしては、例えば、アクリロニトリルと、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン等の炭素原子数3〜5の共役ジオレフィンと、アクリル酸もしくはメタクリル酸等のカルボキシル基含有重合性単量体との三元共重合ゴムが挙げられ、その市販品としては、例えば、商品名で、ニポール1072、同1072B、同1072J、同DN631、同DN601(日本ゼオン社製)、ハイカーCTBN(グッドリッチ社製)等が挙げられる。また、上記架橋ゴムとしては、例えば、商品名で、XER-91(JSR社製)等が挙げられる。
【0022】
(B)成分であるカルボキシル基含有NBRの配合量は、前記(A)成分100質量部に対して、通常、5〜200質量部であり、好ましくは10〜150質量部、より好ましくは10〜100質量部である。この配合量が5質量部未満である場合には、カバーレイフィルムおよび接着シートを加工する際に接着剤層(硬化物)に折れ・欠け等が生じやすくなり、200質量部を超える場合には、硬化物のガラス転移温度が低下することがある。
【0023】
(B)成分であるカルボキシル基含有NBRは、一種単独で用いても、二種類以上を併用してもよい。
【0024】
〔(C)アミン系硬化剤〕
(C)成分であるアミン系硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる公知のものでよい。かかる硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、テトラエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラメチルヘキサンジアミン、ジメチルベンジルアミン等の脂肪族アミン系硬化剤;イソホロンジアミン等の脂環式アミン系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン等の芳香族アミン系硬化剤等が挙げられ、好ましくは、脂肪族アミン系硬化剤、又は芳香族アミン系硬化剤、特に好ましくは、芳香族アミン系硬化剤が挙げられる。
【0025】
(C)成分であるアミン系硬化剤の配合量は、(A)成分のエポキシ当量および接着剤の硬化状態、硬化物の特性のバランス等を考慮して決められるが、(A)成分100質量部に対して、通常、0.1〜80質量部であり、好ましくは0.5〜40質量部、より好ましくは1〜20質量部である。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の接着性、耐熱接着性、半田耐熱性、耐溶剤性、ガラス転移点、電気特性がより良好なものとなる。
【0026】
(C)成分であるアミン系硬化剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0027】
〔(D)ホウフッ化型硬化促進剤〕
(D)成分であるホウフッ化型硬化促進剤は、(A)エポキシ樹脂と(C)アミン系硬化剤との反応を促進するものであり、例えば、ホウフッ化亜鉛、ホウフッ化ニッケル、ホウフッ化錫等が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくは、ホウフッ化錫が挙げられる。
【0028】
(D)成分であるホウフッ化型硬化促進剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部であり、好ましくは0.5〜8質量部であり、特に好ましくは1〜5質量部である。
【0029】
接着剤組成物中に含まれる(D)成分であるホウフッ化型硬化促進剤のモル数(m2)は、(C)成分であるアミン系硬化剤のモル数(m1)に対して、m1/m2 =5〜20であり、好ましくはm1/m2 =7〜15、より好ましくはm1/m2 =7〜12である。m1/m2の値がかかる範囲にある場合には、室温以下において、アミン系硬化剤がホウフッ化型硬化促進剤による接着剤組成物の硬化を阻害するため接着剤組成物の室温での保存安定性が向上し、かつ、硬化物の接着性及び半田耐熱性が優れたものとなる。アミン系硬化剤がホウフッ化型硬化促進剤による接着剤組成物の硬化を阻害し、室温以下での接着剤組成物の保存安定性が向上する機構は明らかではないが、本発明者は、ルイス酸であるホウフッ化型硬化促進剤とルイス塩基であるアミン系硬化剤が錯体を形成し、この錯体が潜在性の硬化剤として機能することによって、接着剤組成物の保存安定性が向上するものと推測している。m1/m2の値が5未満の場合には、接着剤組成物中に、ホウフッ化型硬化促進剤と錯形成するのに十分な数のアミン系硬化剤が存在しないため、アミン系硬化剤と錯形成しないホウフッ化型硬化促進剤の触媒作用により、室温以下であっても硬化反応が進み、接着剤組成物の保存安定性が低下することがある。また、m1/m2の値が20を超える場合には、接着剤組成物の硬化が不良となり、この硬化物の接着性及び半田耐熱性が劣ることがある。
【0030】
(D)成分であるホウフッ化型硬化促進剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0031】
〔(E)無機充填剤〕
(E)成分である無機充填剤は、硬化物の難燃性の補助、剥離状態の安定性(接着剤の凝集剥離)の向上、耐吸湿性の安定化等を目的として配合される成分である。この無機充填剤は、従来、カバーレイフィルムまたは接着シートに使用されているものであれば特に限定されない。無機充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化モリブデン等の金属酸化物;ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸化合物等が挙げられ、好ましくは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、およびホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸化合物であり、特に好ましくは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよびホウ酸亜鉛である。これらの無機充填剤の樹脂マトリックスへの密着性や耐水性を向上させ、硬化物の耐熱性、耐吸湿性等を向上させるために、該無機充填剤の表面が、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等により疎水化処理されていることが好ましい。
【0032】
(E)成分である無機充填剤の配合量は、(A)〜(D)成分の合計に対して、通常、5〜100質量%となる量であり、好ましくは10〜50質量%となる量、より好ましくは15〜40質量%となる量である。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の接着性、耐熱接着性、ハンダ耐熱性、および耐吸湿性がより良好なものとなる。
【0033】
(E)成分である無機充填剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0034】
〔その他の任意成分〕
上記(A)〜(E)成分以外にも、必要に応じて、接着剤組成物およびそれを用いた接着シート、カバーレイフィルムの特性を低下させない範囲で、溶剤、難燃剤、カップリング剤、酸化防止剤、イオン吸着剤等の任意成分を添加してもよい。
【0035】
なお、本発明の接着剤組成物に用いられる溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、N, N-ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、N-メチル2-ピロリドン、ジオキソラン等が挙げられ、好ましくは、MEK、トルエン、N, N-ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノンが挙げられる。これらの溶剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0036】
接着剤組成物を溶剤に溶解した溶液の固形成分濃度は20〜50質量%であればよく、さらに好ましくは25〜40質量%である。固形分濃度が20質量%未満では接着剤の塗工時に厚みムラが生じる可能性が高く、50質量%を超えると接着剤の粘度が高いために塗工性が悪くなるという問題が生じる。
【0037】
以上の各成分を混合する場合には、その順序は特に限定されないが、添加される成分の溶解性や得られる接着剤溶液の粘度を考慮して、適宜決められる。混合には、ポットミル、ボールミル、ホモジナイザー、スーパーミル等を用いることができる。
【0038】
<接着シート>
・構成
本発明の接着剤組成物からなる接着剤層を有する接着シートの構成は、離型基材層と、該離型基材層に設けられた該接着剤層とを有するものである。具体的には、例えば、離型基材層と接着剤層とを有する2層構造、もしくは接着剤層と、該接着剤層の両面に設けられた離型基材層とを有する3層構造等が挙げられる。接着シートの2層構造および3層構造はフレキシブル印刷配線板製造時の加工方法等により、適宜、選択すればよい。この接着剤層の厚さは、使用目的により任意の厚さを選択できるが、乾燥状態で、通常、10〜50μmが好ましく、更に好ましくは15〜35μm、特に好ましくは15〜25μmである。
【0039】
離型基材層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム;シリコーン離型剤付きPEフィルムおよびPPフィルム;PE樹脂コート紙、PP樹脂コート紙およびTPX樹脂コート紙等が挙げられる。この離型基材の厚さは、必要に応じて適宜の厚さでよいが、フィルムでは13〜75μm、コート紙では50〜200μmが好ましい。
・製造方法
次に、本発明の接着シートの製造方法について、好ましい実施形態である有機溶剤を用いた場合を一例として説明する。
まず、予め調製された有機溶剤を含有する接着剤溶液を、リバースロールコーター、コンマコーター等を用いて離型基材片面に塗布する。この接着剤組成物を塗布した離型基材をインラインドライヤーに通して40〜160℃で2〜20分間加熱処理して、接着剤組成物中の有機溶剤を除去することにより、接着剤組成物を半硬化状態とし、2層構造の接着シートとする。さらに必要に応じて、この接着シートの接着剤組成物の塗布面に別の離型基材を、加熱ロールにより、線圧0.2〜20kg/cm、温度40〜120℃の条件で圧着させ、3層構造の接着シートとする。離型基材は使用に際して剥離される。
【0040】
<カバーレイフィルム>
・構成
本発明の接着剤組成物からなる接着剤層を有するカバーレイフィルムは、電気絶縁性フィルム層と、該フィルム層上に設けられた接着剤層とを有するものである。具体的には、例えば、電気絶縁性フィルム層と、接着剤層と、該接着剤層上に設けられた離型基材層とを有する3層構造が挙げられる。この接着剤層の厚さは、使用目的により任意の厚さを選択できるが、乾燥状態で、通常、10〜50μmが好ましく、更に好ましくは15〜35μm、特に好ましくは15〜25μmである。
電気絶縁性フィルム層を構成する電気絶縁性フィルムとしては、例えば、ポリイミドフィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム;ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等をベースにして、これにマトリックスとなるエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、又はジアリルフタレート樹脂を含浸して、フィルム状またはシート状にして銅箔と貼り合わせたもの等が挙げられ、耐熱性、寸法安定性、機械特性(弾性率、伸び等)等の点から、ポリイミドフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムが好ましく、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
この電気絶縁性フィルム層の厚さは、使用目的により任意の厚さを選択してよいが、通常、12.5〜75μmが好ましく、更に好ましくは12.5〜50μm、特に好ましくは12.5〜25μmである。また、接着剤層との密着性向上、フィルム表面の洗浄、寸法安定性の向上等のために、このフィルムの片面または両面に、低温プラズマ処理、コロナ放電処理、サンドブラスト処理等の表面処理を施してもよい。
離型基材層を構成する材料は、前記接着シートの項で説明したとおりである。
【0041】
・製造方法
次に、本発明のカバーレイフィルムの製造方法について、好ましい実施形態である有機溶剤を用いた場合を一例として説明する。
まず、予め調製された有機溶剤を含有する接着剤溶液を、リバースロールコーター、コンマコーター等を用いて電気絶縁性フィルム片面に塗布する。この接着剤組成物を塗布した該フィルムをインラインドライヤーに通して40〜160℃で2〜20分間加熱処理して、接着剤組成物中の有機溶剤を除去することにより、接着剤組成物を半硬化状態とする。次いで、このフィルムの接着剤組成物の塗布面と離型基材とを、加熱ロールにより、線圧0.2〜20kg/cm、温度40〜120℃の条件で圧着させ、カバーレイフィルムとする。離型基材は使用に際して剥離される。なお、「半硬化状態」とは、組成物が乾燥した状態、乃至、その一部において硬化反応が進行している状態を意味する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて本発明について、より詳細に説明するが、これらの実施例は本発明をなんら限定するものではない。実施例および比較例で用いた(A)〜(E)成分およびその他成分としては、具体的には以下のものを用いた。
【0043】
<接着剤組成物の成分>
(A)エポキシ樹脂
・エピコート604(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、重量平均分子量:約500、エポキシ当量:約109g/eq、一分子中のエポキシ基:4個)
・エピコート828(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、重量平均分子量:約300、エポキシ当量:約189g/eq、一分子中のエポキシ基:2個)
・エピコート1001(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、重量平均分子量:約1,000、エポキシ当量:約475g/eq、一分子中のエポキシ基:2個)
・エピコート5050(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、重量平均分子量:約800、エポキシ当量:約395g/eq、臭素含有率:約50質量%、一分子中のエポキシ基:2個)
(B)カルボキシル基含有NBR
・ニポール1072B(商品名)(日本ゼオン製、アクリロニトリル含有量:約27.0質量%、カルボキシル基含有量:約3.0質量%)
・DN631(商品名)(日本ゼオン製、アクリロニトリル含有量:約33.5質量%、カルボキシル基含有量:約0.045質量%)
・XER-91(商品名)(JSR製、アクリロニトリル含有量:約20.0質量%、カルボキシル基含有量:約0.8質量%)
(C)アミン系硬化剤
・DDS(4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、重量平均分子量:約248、活性水素当量約62g/eq)
・DDM(4,4'−ジアミノジフェニルメタン、重量平均分子量:約198、活性水素当量約50g/eq)
(D)ホウフッ化型硬化促進剤
・ホウフッ化錫45質量%水溶液(ホウフッ化錫分子量:約292)
・ホウフッ化亜鉛45質量%水溶液(ホウフッ化亜鉛分子量:約239)
(E)無機充填剤
・H43STE(商品名)(昭和電工製水酸化アルミニウム)
・キスマ5A(商品名)(協和化学製水酸化マグネシウム)
(F)その他成分
・ニポール1043(商品名)(日本ゼオン製NBR、アクリロニトリル含有量:約29.0質量%)
・フェノライトJ-325(商品名)(大日本インキ化学工業製レゾール型フェノール樹脂)
・2E4MZ−CN(商品名)(四国化成製イミダゾール)
【0044】
<使用材料>
・カプトン100H(商品名)(東レデュポン製、ポリイミドフィルム、厚さ:25μm)
・Y7TF(商品名)(リンテック製、離型紙、厚さ:約130μm)
・PET38X(商品名)(リンテック製、離型フィルム、厚さ:約38μm)
・HTE(商品名)(三井金属製、電解銅箔)
・RAS22S47(商品名)(信越化学製、フレキシブル印刷配線用基板、カプトン50H/接着剤層の厚さ:13μm/圧延銅箔1/2oz(オンス))
【0045】
<実施例1〜5、比較例1〜5>
表1に示す配合比(質量部)で、接着剤組成物の各成分を混合し、混合物を調製した。この混合物を、MEK/トルエンの混合溶剤(MEK:トルエン=80:20(質量比))に溶解させ、均一になるようにボールミルを用いて十分に攪拌し、不揮発性成分の合計濃度が35質量%の接着剤組成物(溶液状態)を調製した。
次に、この接着剤組成物を、離型フィルム(商品名:PET38X)上に、乾燥後の接着剤層の厚さが25μmとなるようにリバースロールコーターを用いて塗布した。その後、140℃、10分の加熱乾燥条件でMEKおよびトルエンを除去することにより、該接着剤組成物を半硬化状態とした。この半硬化状態の該接着剤組成物の付いたフィルムの接着剤面に、離型紙(商品名:Y7TF)を温度70℃、線圧2kg/cmの条件でロールラミネーターを用いて圧着し、接着シートを作製した。
また、離型フィルムをポリイミドフィルム(商品名:カプトン100H、厚さ:25μm)に変更した以外は、接着シートの作製と同様の工程により、カバーレイフィルムを作製した。
これらの接着シートおよびカバーレイフィルムについて、下記の評価・測定方法に従って、物性の評価・測定を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
<評価・測定方法>
(評価用サンプルの構成)
以下のサンプル1及び2を、160℃、5.0MPa、60分のプレス加工条件で加熱圧着し、剥離強度、半田耐熱性およびガラス転移温度の評価用サンプルとして用いた。なお、離型基材は剥離してからサンプルの作製に用いた。
サンプル1:接着シートの両面を2枚のRAS22S47のフィルム面で被覆したもの
サンプル2:カバーレイフィルムの接着剤層とHTE箔1oz(1オンス)の光沢面とを接着したもの
(物性評価・測定方法)
1.剥離強度(JIS C6471に準ずる)
・剥離強度A:サンプル1を10mm幅にカットして試験片1を作製し、該試験片1について、25℃の条件下でRAS22S47を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に50mm引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し、剥離強度とした。
・剥離強度B:サンプル2を10mm幅にカットして試験片2を作製し、該試験片2について、25℃の条件下でHTE箔を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に50mm引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し、剥離強度とした。
2.半田耐熱性(JIS C6471に準ずる)
・常態半田耐熱性:サンプル2を25mm角にカットして試験片3を作製し、該試験片3を80℃で10分間乾燥した後、半田浴上に30秒間浮かべた。その後、該試験片3の外観を目視により確認し、膨れ、剥がれ等の有無を調べた。半田浴の温度を変えて、この操作を繰り返し、該サンプルに膨れ、剥がれ等が生じない最高温度を測定した。
・吸湿半田耐熱性:サンプル2を25mm角にカットして試験片4を作製し、該試験片4を40℃、90%RHで1時間静置した後、半田浴上に30秒間浮かべた。その後、常態半田耐熱性の項と同様にして最高温度を測定した。
3.保存安定性
接着剤シート及びカバーレイフィルムを40℃で3ヶ月間保存し、これまでと同様の方法で剥離強度と半田耐熱性を評価した。
4.加工性
接着剤シートから離型材を除去した後、該接着剤シートを180度方向に折り曲げて開いて、接着剤層の折れ、欠けを目視により確認した。接着剤層に折れおよび欠けが認められなかった場合を加工性が良好と評価して○と示し、接着剤層に折れまたは欠けの少なくとも一方が認められた場合を加工性が不良と評価して×と示した。
(m1/m2算出方法)
m1/m2の値は(C)成分であるアミン系硬化剤の分子量、(D)成分であるホウフッ化型硬化促進剤の分子量を用いて計算した。
【0047】
<評価結果>
実施例1〜5で調製した組成物は、本発明の要件を満足するものであって、優れた保存安定性、接着性、半田耐熱性及び加工性を有していた。
一方、比較例1〜5で調製した組成物は、本発明の要件を満足しないものであって、保存安定性、接着性、半田耐熱性及び加工性の少なくとも一種の特性が、実施例で調製した組成物と比べて劣っていた。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂:100質量部、
(B)カルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム:5〜200質量部、
(C)アミン系硬化剤:0.1〜80質量部、
(D)ホウフッ化型硬化促進剤:0.1〜10質量部、及び
(E)無機充填剤:(A)〜(D)成分の合計に対して5〜100質量%となる量、
を含有してなる接着剤組成物であって、該接着剤組成物中に含まれる(C)成分のモル数及び(D)成分のモル数をそれぞれ、m1及びm2としたとき、m1/m2=5〜20となることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記(C)アミン系硬化剤が脂肪族アミン系硬化剤、脂環式アミン系硬化剤、及び芳香族アミン系硬化剤から選ばれる1種又は2種以上である請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記(D)ホウフッ化型硬化促進剤がホウフッ化亜鉛、ホウフッ化ニッケル及びホウフッ化錫から選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
離型基材層と、該離型基材層に設けられた請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを有する接着シート。
【請求項5】
電気絶縁性フィルムと、該電気絶縁性フィルム上に設けられた請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを有するカバーレイフィルム。
【請求項6】
前記電気絶縁性フィルムがポリイミドフィルムである請求項5に記載のカバーレイフィルム。
【請求項7】
前記接着剤層上に設けられた離型基材層を更に有する請求項5又は6に記載のカバーレイフィルム。

【公開番号】特開2009−126925(P2009−126925A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302602(P2007−302602)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】