説明

接着剤組成物、接着フィルムおよび分離方法

【課題】スチレン系モノマーを含有している単量体組成物を重合してなるポリマーを含む、溶媒に対する溶解速度が向上した接着剤組成物を提供する。
【解決手段】アルキル基またはアルコキシ基が導入されたスチレンを含有している単量体組成物を重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物。また、かかる接着剤組成物を含有している接着剤層を備えている接着フィルム。また、かかる接着剤組成物によって接着されたウェハーと支持体とを分離する分離方法であって、該接着剤組成物を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2−ヘプタノン、酢酸ブチル、N−メチルピロリドンからなる群より選ばれる溶剤によって溶解する工程を包含することを特徴とする分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、接着フィルムおよび分離方法に関するものである。さらに詳しくは、半導体ウェハーなどの半導体製品や光学系製品などに対する研削などの加工をする工程において、当該半導体製品にシートや保護基板を一時的に固定するための、接着剤組成物、および接着フィルム、ならびにその接着剤組成物を用いて接着したウェハーと支持体との分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、デジタルAV機器およびICカード等の高機能化に伴い、搭載される半導体シリコンチップ(以下、チップ)の小型化、薄型化および高集積化への要求が高まっている。例えば、CSP(chip size package) およびMCP(multi-chip package)に代表されるような複数のチップをワンパッケージ化する集積回路についてもその薄型化が求められている。その中において、一つの半導体パッケージの中に複数の半導体チップを搭載するシステム・イン・パッケージ(SiP)は、搭載されるチップを小型化、薄型化および高集積化し、電子機器を高性能化、小型化かつ軽量化を実現する上で非常に重要な技術となっている。
【0003】
薄型商品へのニーズに応えるためには、チップを150μm以下にまで薄くする必要がある。さらに、CSPおよびMCPにおいては100μm以下、ICカードにおいては50μm以下にチップを薄化加工する必要がある。
【0004】
従来、SiP製品には、積層したチップごとのバンプ(電極)と回路基板とを、ワイヤ・ボンディング技術により配線する手法が用いられている。また、このような薄型化や高集積化への要求に応えるためには、ワイヤ・ボンディング技術ではなく、貫通電極を形成したチップを積層し、チップの裏面にバンプを形成する貫通電極技術も必要となる。
【0005】
薄型のチップは、例えば、高純度シリコン単結晶などをスライスしてウェハーとした後、ウェハー表面にICなどの所定の回路パターンをエッチング形成して集積回路を組み込み、得られた半導体ウェハーの裏面を研削機により研削して、所定の厚さに研削後の半導体ウェハーをダイシングしてチップ化することにより製造されている。このとき、上記所定の厚さは、100〜600μm程度である。さらに、貫通電極を形成する場合は、厚さ50〜100μm程度にまで研削している。
【0006】
半導体チップの製造では、半導体ウェハー自体が肉薄で脆く、また回路パターンには凹凸があるので、研削工程やダイシング工程への搬送時に外力が加わると破損しやすい。また、研削工程においては、生じた研磨屑を除去したり、研磨時に発生した熱を除去するために精製水を用いて半導体ウェハー裏面を洗浄したりしながら研削処理している。このとき、洗浄に用いる上記精製水によって回路パターン面が汚染されることを防ぐ必要がある。
【0007】
そこで、半導体ウェハーの回路パターン面を保護するとともに、半導体ウェハーの破損を防止するために、回路パターン面に加工用粘着フィルムを貼着した上で、研削作業が行われている。
【0008】
また、ダイシング時には、半導体ウェハー裏面側に保護シートを貼り付けて、半導体ウェハーを接着固定した状態でダイシングし、得られたチップをフィルム基材側からニードルで突き上げてピックアップし、ダイパッド上に固定させている。
【0009】
このような加工用粘着フィルムや保護シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などの基材フィルムに接着剤組成物から形成した接着剤層が設けられたものが知られている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0010】
また、加工用粘着フィルムや保護シートの代わりに窒化アルミニウム−窒化硼素気孔焼結体にラダー型シリコーンオリゴマーを含浸せしめた保護基板を用い、この保護基板と半導体ウェハーとを熱可塑性フィルムを用いて接着する構成も開示されている(特許文献4)。また保護基板として半導体ウェハーと実質的に同一の熱膨張率のアルミナ、窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素等の材料を用い、また保護基板と半導体ウェハーとを接着する接着剤としてポリイミドなどの熱可塑性樹脂を用い、この接着剤の適用法として、10〜100μmの厚さのフィルムとする構成と、接着剤組成物をスピンコートし、乾燥させて20μm以下のフィルムにする方法が提案されている(特許文献5)。
【0011】
また、半導体素子の多層配線化に伴って、回路が形成された半導体ウェハーの表面に接着剤組成物を用いて保護基板を接着し、半導体ウェハーの裏面を研磨し、その後、研磨面をエッチングして鏡面にし、この鏡面に裏面側回路を形成するプロセスが実施されている。この場合、裏面側回路が形成されるまでは、保護基板は接着したままになっている(特許文献6)。
【0012】
ここで、接着剤組成物として、スチレン系モノマーを含有している単量体組成物を重合してなるポリマーを含むものが知られている(特許文献7、特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−173993号公報(平成15年6月20日公開)
【特許文献2】特開2001−279208号公報(平成13年10月10日公開)
【特許文献3】特開2003−292931号公報(平成15年10月15日公開)
【特許文献4】特開2002−203821号公報(平成14年7月19日公開)
【特許文献5】特開2001−77304号公報(平成13年3月23日公開)
【特許文献6】特開昭61−158145号公報(昭和61年7月17日公開)
【特許文献7】特開昭64−1782号公報(昭和64年1月16日公開)
【特許文献8】特開2001−55404号公報(平成13年2月27日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、従来の上記加工用粘着フィルム等は、貫通電極の形成のように、高温プロセス及び高真空プロセスを必要とする工程に用いるには、高温環境下における接着強度の不足や、高真空環境下におけるガスの発生等による接着不良の問題や、上記高温プロセス後における剥離時に、残渣物が残存するなどの剥離不良という問題点を有している。
【0015】
例えば、貫通電極の形成では、半導体チップにバンプを形成した後、半導体チップ間を接続するとき、200℃程度まで加熱して、さらに高真空状態にするプロセスを要する。しかし、上記特許文献1及び上記特許文献2に係る保護テープの接着剤層を構成する接着剤組成物は、200℃もの高温に対する耐性が無い。また、加熱により上記接着剤層にガスが発生するため接着不良となる。
【0016】
また、薄型の半導体ウェハーは、研削やダイシングの後、上記保護基板から剥離することが必要となる。しかし、上記特許文献3に開示される保護テープの接着剤層を構成する接着剤組成物は、エポキシ樹脂組成物であり、200℃もの高温ではエポキシ樹脂が変質して、硬化するため、剥離時に残渣物が残り、剥離不良が生じるという問題点を有する。
【0017】
さらに、上記特許文献4や上記特許文献5に係る、保護基板と半導体ウェハーとの接着に用いられる熱可塑性フィルムでは、吸湿した水分に由来するガスを生じるため、接着不良の問題が生じる。上記特許文献6に係る半導体基板の加工方法では、エッチング液による鏡面化プロセスや真空蒸着による金属膜形成が行われるため、保護基板と半導体ウェハーとを接着するための接着剤組成物には、耐熱性、剥離性が要求される。しかし、上記特許文献6には、接着剤組成物の組成について全く開示がなされていない。
【0018】
また、接着剤組成物を用いて半導体ウェハーに貼付した加工用粘着フィルム等を剥離する方法として、当該接着剤組成物を溶媒に溶解させる方法がある。この方法を採る場合には、接着剤組成物としては、溶媒に対する溶解速度がなるべく速いものが好ましい。
【0019】
ここで、スチレンは、200℃以上の高温環境下においても変質することが無いため、スチレン系モノマーを用いることにより、接着剤組成物に対して耐熱性を付与することができるかもしれない。しかし、スチレン系モノマーを用いた接着剤組成物は、溶媒に対する溶解速度が遅いものが多い。したがって、スチレン系モノマーを用いた接着剤組成物の溶媒に対する溶解速度を向上させることができれば、半導体ウェハーに加工用粘着フィルム等を貼付するための接着剤組成物として好適に用いることができるため非常に有用である。
【0020】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、スチレン系モノマーを含有している単量体組成物を重合してなるポリマーを含む、溶媒に対する溶解速度が向上した接着剤組成物を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る第1の接着剤組成物は、上記の問題を解決するために、アルキル基が導入されたスチレンを含有している単量体組成物を重合してなるポリマーを主成分とすることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る第2の接着剤組成物は、アルコキシ基が導入されたスチレンを含有している単量体組成物を重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物であって、該ポリマー100質量部に対して酸発生剤を0.1質量部以上含んでいないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る接着剤組成物は、以上のように、アルキル基またはアルコキシ基が導入されたスチレンを含有している単量体組成物を重合してなるポリマーを主成分とする。これにより、スチレン系モノマーを含有している単量体組成物を重合してなるポリマーを含む、溶媒に対する溶解速度が向上した接着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔1:接着剤組成物〕
本発明に係る接着剤組成物の一実施形態について以下に説明する。
【0025】
本発明に係る接着剤組成物は、アルキル基またはアルコキシ基が導入されたスチレンを含有している単量体組成物を重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物である。
【0026】
本発明の接着剤組成物は、接着剤としての用途に用いるのであれば、その具体的な用途は特に限定されるものではない。
【0027】
本明細書において「主成分」とは、本発明の接着剤組成物に含まれる他のいずれの成分よりも、その含量が多いことをいう。よって、主成分の含有量は、接着剤組成物中に含まれる成分のうち、最も多い量である限り、限定されるものではないが、より好ましくは、接着剤組成物の総量に対して、主成分の含有量は50質量%以上、100質量%以下が好ましく、さらに好ましくは70質量%以上、100質量%以下である。50質量%以上であれば、本発明の接着剤組成物が備える溶媒に対する溶解速度に関する効果が良好に発揮される。
【0028】
(アルキル基またはアルコキシ基が導入されたスチレン)
本実施の形態に係る接着剤組成物は、単量体組成物に、アルキル基またはアルコキシ基が導入されたスチレンを含んでいる。アルキル基またはアルコキシ基が導入されたスチレンを用いることにより、接着剤組成物の溶媒への溶解速度を向上させることができる。
【0029】
なお、本実施形態において、単量体組成物が含有するアルキル基またはアルコキシ基が導入されたスチレンは、アルキル基またはアルコキシ基の他の置換基がさらに導入されたものであってもよい。
【0030】
アルキル基またはアルコキシ基が導入されたスチレンの混合量は、特に限定されず、混合量が多くなるに従い効果も大きくなると考えられるが、単量体組成物の総量の10質量%以上、100質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上、95質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以上、80質量%以下であることが特に好ましく、50質量%以上、80質量%以下であることが最も好ましい。アルキル基またはアルコキシ基が導入されたスチレンの混合量が10質量%以上であれば、溶媒に対する溶解速度がより向上した接着剤組成物を得ることができる。
【0031】
上記スチレンに導入されるアルキル基は、炭素数1〜20のアルキル基であることがより好ましく、例えば、tert−ブチル基、イソブチル基、tert−ペンチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、イソオクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基およびイソデシル基からなる群より選ばれるアルキル基を好適に用いることができる。上記スチレンに導入されるアルキル基は、炭素数3〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数4〜10のアルキル基がさらに好ましく、その中でも分岐アルキル基であることが最も好ましい。上記アルキル基を有することにより、得られるポリマーのTgが高くなる。
【0032】
上記アルキル基は、上記スチレンのパラ位に導入されていてもよく、メタ位に導入されていてもよく、オルト位に導入されていてもよく、これらの組み合わせであってもよいが、パラ位に導入されていることがより好ましい。
【0033】
上記スチレンに導入されるアルコキシ基は、炭素数1〜20のアルコキシ基であることがより好ましく、例えば、tert−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ペンチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、ラウリルオキシ基、ステアリルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、イソオクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、イソノニルオキシ基、n−デシルオキシ基またはイソデシルオキシ基からなる群より選ばれるアルコキシ基を好適に用いることができる。上記スチレンに導入されるアルコキシ基は、炭素数3〜20のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数4〜10のアルコキシ基がさらに好ましく、その中でも分岐アルコキシ基であることが最も好ましい。上記アルコキシ基を有することにより、得られるポリマーのTgが高くなる。
【0034】
上記アルコキシ基は、上記スチレンのパラ位に導入されていてもよく、メタ位に導入されていてもよく、オルト位に導入されていてもよく、これらの組み合わせであってもよいが、パラ位に導入されていることがより好ましい。
【0035】
(ヒドロキシスチレン)
本実施の形態に係る接着剤組成物は、単量体組成物に、ヒドロキシスチレンをさらに含んでいてもよい。単量体組成物に、ヒドロキシスチレンをさらに含ませることにより、接着剤組成物のガラス転移点が向上するため、高温における流動性が高くなり、耐熱性を付与することができる。水酸基の位置は特に限定されないが、o位、m位、p位のいずれであってもよいが、p位が好ましい。単量体組成物が、ヒドロキシスチレンを含んでいる場合の当該ヒドロキシスチレンの混合量は、単量体組成物に含まれる他の化合物と共重合反応が進む限り、限定されるものではなく、目的とする接着強度、耐熱性などの接着剤組成物の性質に応じて、適宜定めればよいが、単量体組成物の総量の5質量%以上、80質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上、60質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以上、40質量%以下であることが特に好ましく、10質量%以上、25質量%以下であることが最も好ましい。ヒドロキシスチレンの混合量が、5質量%以上であれば、ガラス転移点がより向上した接着剤組成物を得ることができ、80質量%以下であれば、良好な溶解性を得ることができる。
【0036】
(スチレンブロックセグメント)
本実施の形態に係る接着剤組成物は、単量体組成物に、上述した置換基が導入されたスチレンの他にも、その他の置換基が導入されたスチレンをさらに含んでいてもよく、置換基が導入されていないスチレンをさらに含んでいてもよい。スチレンは、200℃以上の高温環境下においても変質することが無いため、これらを含むことにより、接着剤組成物の耐熱性がより向上する。
【0037】
また、本実施形態に係る接着剤組成物の主成分であるポリマーは、スチレンブロックセグメントを有していてもよい。
【0038】
スチレンブロックセグメントを有するポリマーを主成分とする接着剤組成物は、接着剤組成物と被接着物との界面におけるガスの発生を防ぐことができる。そのため、加熱時、真空時において、上記界面におけるガスの発生による接着剤組成物の層間剥離を防ぎ、高温環境下における接着強度が向上した接着剤組成物を得ることができる。
【0039】
また、高温環境下における上記接着剤組成物中の分子鎖同士の解離が抑制されるため、高温環境下における接着剤組成物の変質を防ぐことができる。よって、接着強度が向上し、さらに、高温プロセスを経た後においても、容易に剥離することができる。
【0040】
また、スチレンをブロック化することで、接着剤組成物の塗膜において擬似的な海島構造が形成され、相対的に硬い領域と相対的に柔らかい領域とが生じる。これにより熱による応力緩和を起こすことができる。結果として、接着剤組成物の高温耐性を維持しつつ、クラックの発生を抑制することができる。さらにクラックの発生を抑えることにより、クラックからの溶剤の浸入およびごみの発生を抑えることができる。これにより、工程不良が軽減し、工程内の歩留まりが向上する。
【0041】
なお、本明細書でいう「スチレンブロックセグメント」とは、ポリマーにおいて、スチレンがブロック単位で共重合した部位をいう。ここで、重合を開始させた後にスチレンを添加すると、他の成分の共重合がほぼ終了しているため、当該スチレンのみのブロック体が形成される。よって、スチレンブロックセグメントは、他の単量体成分の重合を開始させた後に添加したスチレンのみが重合したブロック共重合体であるといえる。
【0042】
スチレンによる、スチレンブロックセグメントの形成は、スチレンの全部または一部を、当該スチレンの残部と、他のモノマー成分とを混合して共重合反応を開始させた後、共重合反応を終了させる前に、一括して、または複数回に分けて、共重合反応系、すなわち共重合反応させている反応器などに混合することにより行う。
【0043】
スチレンブロックセグメントを形成するスチレンの量は、共重合反応を開始させた後に加えるスチレンの量で調整される。そして、その量は、目的とする接着強度、耐熱性等の接着剤組成物の性質に応じて適宜設定すればよいが、本実施の形態に係る接着剤組成物の製造に用いるスチレンの全量を100質量部としたとき、1質量部以上、100質量部以下であることが好ましい。
【0044】
さらに、共重合反応を開始させた後に加えるスチレンは、一括して、すなわちスチレンの全量を一度に、加えることが好ましい。また、共重合反応に要する時間の内、半分の時間が経過するより前に加えることが好ましい。このようにすれば、スチレンが密集して共重合することで、スチレンブロックセグメントが接着剤組成物中に好適に形成される。
【0045】
((メタ)アクリル酸アルキルエステル)
本発明に係る接着剤組成物は、単量体組成物に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルをさらに含んでもよい。
【0046】
本明細書において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、炭素数15〜20のアルキル基を有するアクリル系長鎖アルキルエステルおよび炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステルを意味する。
【0047】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを単量体組成物に含めることにより、接着剤組成物の主成分であるポリマー内に含まれるアルキル鎖の含有率が増加する。これにより接着剤組成物において応力緩和を起こすことが可能であり、結果として、高温耐性を維持しつつ、クラックの発生を抑制することができる。さらにクラックの発生を抑えることにより、クラックからの溶剤の浸入およびごみの発生を抑えることができる。これにより、工程不良が低減し、工程内の歩留まりが向上する。
【0048】
アクリル系長鎖アルキルエステルとしては、アルキル基がn−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基などからなるアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なお、アクリル系長鎖アルキルエステルのアルキル基は、直鎖状であってもよいし、また分岐鎖を有していてもよい。
【0049】
炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステルとしては、従来の(メタ)アクリル系接着剤に用いられている公知のエステルが挙げられる。例えば、アルキル基がメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ラウリル基、トリデシル基、トリシクロデカニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデカニル基などからなるアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルを挙げることができる。
【0050】
なお、単量体組成物に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含ませる場合、接着剤組成物の主成分であるポリマーを構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種類のみを用いてもよいし、また2種類以上を混合して用いてもよい。
【0051】
単量体組成物に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含ませる場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合量は、単量体組成物に含まれる他の化合物と共重合反応が進む限り、限定されるものではなく、目的とする接着強度、耐熱性などの接着剤組成物の性質に応じて、適宜定めればよいが、単量体組成物の総量の5質量%以上、80質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上、60質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以上、25質量%以下であることが最も好ましい。5質量部以上であれば、柔軟性およびクラック耐性がより向上した接着剤を得ることが可能であり、80質量部以下であれば、耐熱性の低下、剥離不良および吸湿性が抑制された接着剤を得ることができる。なお、本実施形態に係る単量体組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含んでいなくともよい。
【0052】
(接着剤組成物における主成分以外の成分)
本実施の形態に係る接着剤組成物には、他の添加成分として熱重合禁止剤、ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどのモルホリンなどを配合してもよい。これらの配合により、耐熱性と接着性との同時改善を期待することができる。
【0053】
ここで、熱重合禁止剤について以下に説明する。
【0054】
(熱重合禁止剤)
熱重合禁止剤は、熱によるラジカル重合反応を防止するのに有効な物質である。熱重合禁止剤は、ラジカルに対して高い反応性を示し、モノマーよりも優先的に反応するため、重合が禁止される。そのため、熱重合禁止剤を含む接着剤組成物は、高温環境下(特に250℃〜350℃)における接着剤組成物の重合反応が抑制される。これにより、250℃で1時間加熱する高温プロセスを経ても、接着剤組成物を容易に溶解できる。従って、接着剤組成物により形成された接着剤層を、高温プロセス後においても容易に剥離することができ、また残渣の発生も抑えることができる。
【0055】
熱重合禁止剤としては、熱によるラジカル重合反応を防止するのに有効であれば特に限定されるものではないが、フェノール系の熱重合禁止剤がより好ましい。
【0056】
熱重合禁止剤としては、例えばピロガロール、ベンゾキノン、ヒドロキノン、メチレンブルー、tert−ブチルカテコール、モノベンジルエーテル、メチルヒドロキノン、アミルキノン、アミロキシヒドロキノン、n−ブチルフェノール、フェノール、ヒドロキノンモノプロピルエーテル、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−[1−〔4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル〕エチリデン]ビスフェノール、4,4’,4”−エチリデントリス(2−メチルフェノール)、4,4’,4”−エチリデントリスフェノール、1,1,3−トリス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルプロパン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tertブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tertブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tertブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−tertブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−tertブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、n−オクチル−3−(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリルテトラキス[3−(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名IRGANOX1010、チバスペシャリティケミカルズ社製)、トリス(3,5−ジ−tertブチルヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジtertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられ、これらの中でもフェノール系の熱重合禁止剤がより好ましい。
【0057】
熱重合禁止剤の含有量は、主成分として含まれるポリマー、ならびに接着剤組成物の用途及び使用環境に応じて適宜決定すればよいが、主成分として含まれるポリマーに対して0.1質量%以上、10.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、0.5質量%以上、7.0質量%以下であり、最も好ましくは、1.0質量%以上、5.0質量%以下である。上記範囲内とすることにより、熱による重合を抑える効果が良好に発揮され、高温プロセス後における接着剤層の剥離をさらに容易にすることが可能である。また、上記範囲とすることにより、クラックの発生を防止することができる。
【0058】
本実施の形態に係る接着剤組成物には、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、混和性のある添加剤、例えば接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着助剤、安定剤、着色剤および界面活性剤などの慣用されているものをさらに添加することができる。
【0059】
なお、本実施形態に係る接着剤組成物は、溶媒に対する溶解速度が向上しているため、接着剤組成物を用いて接着した物体同士の分離方法として、接着剤組成物を溶媒に溶解させる方法を用いることが好ましい。このとき、本実施形態に係る接着剤組成物は、酸発生剤を含有していても含有していなくてもよく、例えば、酸発生剤を実質的に含有していないものとすることができる。なお、酸発生剤を実質的に含有していないとは、本実施形態に係る接着剤組成物において、上記ポリマー100質量部に対して酸発生剤を0.1質量部以上含んでいないことを意図している。上記酸発生剤は、酸を発生する当業者に公知の化合物であり、例えば、光の照射によって酸を発生する光酸発生剤を意図している。酸発生剤の例としては、ヨードニウム塩およびスルホニウム塩などのオニウム塩系酸発生剤、オキシムスルホネート系酸発生剤、ビスアルキルスルホニルジアゾメタン類またはビスアリールスルホニルジアゾメタン類、ポリ(ビススルホニル)ジアゾメタン類などのジアゾメタン系酸発生剤、ニトロベンジルスルホネート系酸発生剤、イミノスルホネート系酸発生剤、ならびにジスルホン系酸発生剤などが挙げられる。
【0060】
さらに、接着剤組成物は、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、粘度調整のために有機溶剤を用いて希釈してもよい。有機溶剤としては、例えば、N−メチルピロリドン;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールまたはジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルまたはモノフェニルエーテルなどの多価アルコール類およびその誘導体;ジオキサンなどの環式エーテル類;および乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。特に、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールまたはジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルまたはモノフェニルエーテルなどの多価アルコール類およびその誘導体がより好ましい。
【0061】
有機溶剤の使用量は、接着剤組成物を塗布する膜厚に応じて適宜設定されるものであり、接着剤組成物が半導体ウェハーなどの支持体上に塗布可能な濃度であればよく、特に限定されるものではない。一般的には、接着剤組成物の固形分濃度が20〜70質量%、より好ましくは25〜60質量%の範囲内となるように用いられる。
【0062】
(接着剤組成物の調製方法)
(共重合反応)
単量体組成物の共重合反応は、公知の方法により行えばよく、特に限定されるものではない。例えば、既存の攪拌装置を用いて、単量体組成物を攪拌することにより、本発明に係る接着剤組成物の主成分であるポリマーを得ることができる。
【0063】
共重合反応における温度条件は、適宜設定すればよく、限定されるものではないが、60〜150℃であることが好ましく、さらに好ましくは70〜120℃である。
【0064】
また、共重合反応においては、適宜、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、上記した有機溶剤を用いることができ、中でもプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、「PGMEA」と表記する)、2−ヘプタノン、酢酸ブチル、N−メチルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0065】
また、本実施の形態に係る共重合反応においては、適宜、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などのアゾ化合物;デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物が挙げられる。これらのうち1種類のみを用いてもよく、または適宜2種以上を混合して用いてもよい。また、重合開始剤の使用量は、単量体組成物の組み合わせや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0066】
本発明に用いるポリマーの重量平均分子量の好適な範囲としては、10000〜300000が好ましく、20000〜200000がより好ましく、30000〜150000が特に好ましい。重量平均分子量を10000以上とすることにより、良好な柔軟性を持たせることができる。また、重量平均分子量を300000以下とすることにより、耐熱性が良好となる。
【0067】
〔2:接着フィルム〕
上述した本発明に係る接着剤組成物は、用途に応じて様々な利用形態を採用することができる。例えば、液状のまま、半導体ウェハーなどの被加工体の上に塗布して接着剤層を形成する方法を用いてもよいし、本発明に係る接着フィルム、すなわち、予め可撓性フィルムなどのフィルム上に上記のいずれかの接着剤組成物を含む接着剤層を形成した後、乾燥させておき、このフィルム(接着フィルム)を、被加工体に貼り付けて使用する方法(接着フィルム法)を用いてもよい。
【0068】
このように、本発明に係る接着フィルムは、フィルム上に、上記のいずれかの接着剤組成物を含有する接着剤層を備える。
【0069】
そのため、単量体組成物が、マレイミド基含有モノマーを含有することにより、接着剤層を構成する接着剤組成物の耐熱性が向上し、耐熱性、高温環境下における接着強度の優れた接着フィルムを得ることができる。
【0070】
また、接着剤組成物が、熱重合禁止剤を含有することにより、接着剤層の溶解性が向上し、剥離が容易となる接着フィルムを得ることができる。
【0071】
接着フィルムは、接着剤層にさらに保護フィルムを被覆して用いてもよい。この場合には、接着剤層上の保護フィルムを剥離し、被加工体の上に露出した接着剤層を重ねた後、接着剤層から上記フィルムを剥離することによって被加工体上に接着剤層を容易に設けることができる。
【0072】
したがって、この接着フィルムを用いれば、被加工体の上に直接、接着剤組成物を塗布して接着剤層を形成する場合と比較して、膜厚均一性および表面平滑性の良好な接着剤層を形成することができる。
【0073】
接着フィルムの製造に使用する上記フィルムとしては、フィルム上に製膜された接着剤層を当該フィルムから剥離することができ、接着剤層を保護基板やウェハーなどの被処理面上に転写できる離型フィルムであれば限定されるものではない。例えば、膜厚15〜125μmのポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、およびポリ塩化ビニルなどの合成樹脂フィルムからなる可撓性フィルムが挙げられる。上記フィルムには、必要に応じて、転写が容易となるように離型処理が施されていることが好ましい。
【0074】
上記フィルム上に接着剤層を形成する方法としては、所望する接着剤層の膜厚や均一性に応じて適宜、公知の方法を用いて、フィルム上に接着剤層の乾燥膜厚が10〜1000μmとなるように、本発明に係る接着剤組成物を塗布する方法が挙げられる。
【0075】
また、保護フィルムを用いる場合、保護フィルムとしては、接着剤層から剥離することができる限り限定されるものではないが、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、およびポリエチレンフィルムが好ましい。また、各保護フィルムは、シリコンをコーティングまたは焼き付けしてあることが好ましい。接着剤層からの剥離が容易となるからである。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが15〜125μmが好ましい。保護フィルムを備えた接着フィルムの柔軟性を確保できるからである。
【0076】
接着フィルムの使用方法は、特に限定されるものでは無いが、例えば、保護フィルムを用いた場合には、これを剥離した上で、被加工体の上に露出した接着剤層を重ねて、フィルム上(接着剤層の形成された面の裏面)から加熱ローラを移動させることにより、接着剤層を被加工体の表面に熱圧着させる方法が挙げられる。このとき、接着フィルムから剥離した保護フィルムは、順次巻き取りローラなどのローラでロール状に巻き取れば、保存し再利用することが可能である。
【0077】
本実施形態の接着剤組成物は接着剤組成物として接着用途に用いられる限り、特に限定されるものではないが、半導体ウェハーの精密加工用保護基板を半導体ウェハーなどの基板に接着するための接着剤組成物として好適に用いることができる。本発明の接着剤組成物は、特に、半導体ウェハーなどの基板を研削して薄板化する際に、当該基板をサポートプレートに貼り付けるための接着剤組成物として、好適に用いることができる(例えば、特開2005−191550号公報)。
【0078】
〔3:分離方法〕
本実施形態に係る接着剤組成物は、フィルム(加工用粘着フィルム等)、保護シート、保護基板等の支持体と、ウェハーとを接着するために好適に用いることができる。本実施形態に係る接着剤組成物によって接着したウェハーと支持体とを分離する方法は、これに限定されるものではないが、溶媒をウェハーと支持体との間に供給し、ウェハーと支持体とを接着している接着剤組成物を当該溶媒に溶解させることによって、ウェハーと支持体とを分離する方法を好ましく用いることができる。本実施形態に係る接着剤組成物は、本明細書において示されているように、従来の接着剤組成物よりも溶解速度が向上しており、当該方法による分離を好適に実施することができる。
【0079】
本実施形態に係る接着剤組成物を取り除くための溶媒、すなわち接着剤組成物を溶解させ、本接着剤組成物より形成されている接着剤層を剥離させる剥離液としては、通常用いられる剥離液を用いることができるが、特にPGMEA、2−ヘプタノン、酢酸ブチル、またはN−メチルピロリドンを主成分とする剥離液が剥離性の点で好ましい。
【0080】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
まず、実施例1に係る接着剤組成物の具体的な調製方法について説明する。
【0082】
還流冷却器、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えた容量300mlの4つ口フラスコに、溶剤としてPGMEA111.6g、ならびに、モノマー単量体として、表1に示すように、p−(tert−ブチル)スチレン60g、p−ヒドロキシスチレン20g、およびメタクリル酸メチル20gを仕込み、Nの吹き込みを開始した。攪拌をはじめることで重合を開始させ、攪拌しながら100℃まで昇温した後、PGMEA13.33gおよびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)1gからなる混合液を滴下ノズルより、4時間かけて連続的に滴下した。滴下速度は一定とした。
【0083】
滴下終了後に得られた重合反応液を、そのまま1時間、100℃で熟成した後、PGMEA25.10gおよびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3gからなる混合液を1時間かけて滴下した。その後、重合反応液を、さらにそのまま1時間、100℃で熟成した後、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1.0gを一括投入した。次に、重合反応液を、そのまま3時間、100℃で熟成した後、溶剤の還流が認められるまで重合反応液を昇温して、1時間熟成し、重合を終了させポリマーを合成した。
【0084】
合成したポリマーをPGMEAに溶解して、ポリマーの濃度が40質量%の接着剤組成物となるように調製した。調製した接着剤組成物を6インチシリコンウェハー上に塗布した後、110℃、150℃、および200℃でそれぞれ3分間、合計9分間乾燥して、上記シリコンウェハー上に、膜厚15μmの塗膜を形成した。続いて形成した塗膜を、室温条件下において溶媒(2−ヘプタノン)に溶解し、溶解した塗膜の厚さと、溶解時間との関係から溶解速度(nm/秒)を算出した。
【0085】
比較例1に係る接着剤組成物は、モノマー単量体として、表1に示すように、p−(tert−ブチル)スチレンの代わりに置換基が導入されていないスチレンを仕込んだこと以外は、実施例1と同様の手順により得た。実施例1と同様に、2−ヘプタノンに対する溶解速度を測定した。
【0086】
実施例2に係る接着剤組成物は、モノマー単量体として、表1に示すように、メタクリル酸メチルの代わりにアダマンチルメタクリレートを仕込んだこと以外は、実施例1と同様の手順により得た。実施例1と同様に、2−ヘプタノンに対する溶解速度を測定した。
【0087】
比較例2に係る接着剤組成物は、モノマー単量体として、表1に示すように、p−(tert−ブチル)スチレンの代わりに置換基が導入されていないスチレンを仕込んだこと以外は、実施例2と同様の手順により得た。実施例1と同様に、2−ヘプタノンに対する溶解速度を測定した。
【0088】
実施例3に係る接着剤組成物は、モノマー単量体として、表1に示すように、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを仕込まなかったこと以外は、実施例1と同様の手順により得た。実施例1と同様に、2−ヘプタノンに対する溶解速度を測定した。
【0089】
実施例4に係る接着剤組成物は、実施例3と同様の組成の単量体組成物を用いてスチレンブロックセグメントを有するポリマーを合成することにより得た。具体的には、還流冷却器、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えた容量300mlの4つ口フラスコに、溶剤としてPGMEA111.6g、ならびに、モノマー単量体として、表1に示すように、p−(tert−ブチル)スチレン59gおよびp−ヒドロキシスチレン21gを仕込み、Nの吹き込みを開始した。攪拌をはじめることで重合を開始させ、攪拌しながら100℃まで昇温した後、PGMEA13.3gとp−(tert−ブチル)スチレン20gとからなる混合液、およびPGMEA13.3gとt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.6gとからなる混合液を、それぞれ別々の滴下ノズルより、4時間かけて連続的に滴下した。滴下速度は一定とした。滴下終了後に得られた重合反応液に対して実施例1と同様の処理を行い、接着剤組成物を得た。実施例1と同様に、2−ヘプタノンに対する溶解速度を測定した。
【0090】
実施例5〜7に係る接着剤組成物は、モノマー単量体を、表1に示すような組成比で仕込んだこと以外は、実施例1と同様の手順により得た。実施例1と同様に、2−ヘプタノンに対する溶解速度を測定した。
【0091】
実施例8に係る接着剤組成物は、モノマー単量体として、表2に示すように、p−(tert−ブトキシ)スチレン78gおよびp−ヒドロキシスチレン22gを仕込んだこと以外は、実施例1と同様の手順により得た。実施例1と同様に、2−ヘプタノンに対する溶解速度を測定した。また、N−メチルピロリドンに対する溶解速度を同様の手法により測定した。
【0092】
実施例9に係る接着剤組成物は、モノマー単量体として、表2に示すように、p−(tert−ブトキシ)スチレン94gおよびp−ヒドロキシスチレン6gを仕込んだこと以外は、実施例1と同様の手順により得た。実施例8と同様に、2−ヘプタノンに対する溶解速度およびN−メチルピロリドンに対する溶解速度を測定した。
【0093】
実施例10に係る接着剤組成物は、モノマー単量体として、表2に示すように、p−(tert−ブトキシ)スチレン87gおよびp−ヒドロキシスチレン13gを仕込んだこと以外は、実施例1と同様の手順により得た。実施例8と同様に、2−ヘプタノンに対する溶解速度およびN−メチルピロリドンに対する溶解速度を測定した。
【0094】
実施例11に係る接着剤組成物は、モノマー単量体として、表2に示すように、p−(tert−ブトキシ)スチレン90gおよびp−ヒドロキシスチレン10gを仕込んだこと以外は、実施例1と同様の手順により得た。実施例8と同様に、2−ヘプタノンに対する溶解速度およびN−メチルピロリドンに対する溶解速度を測定した。
【0095】
比較例3に係る接着剤組成物は、モノマー単量体として、表2に示すように、置換基が導入されていないスチレン70gおよびp−ヒドロキシスチレン30gを仕込んだこと以外は、実施例1と同様の手順により得た。実施例8と同様に、2−ヘプタノンに対する溶解速度およびN−メチルピロリドンに対する溶解速度を測定した。
【0096】
表1および表2に、実施例および比較例における単量体組成物の組成およびポリマーの重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)ならびにウェハーに塗布して乾燥させた接着剤組成物の溶媒への溶解速度の測定結果をまとめた。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
実施例と比較例(実施例1および5〜7と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3、4および8〜11と比較例3)を比較すれば判るように、単量体組成物の組成のうち、置換基のないスチレンを、アルキル基が導入されたスチレン(実施例1〜4)またはアルコキシ基が導入されたスチレン(実施例8〜11)に置き換えることにより、溶媒に対する溶解度が向上していた。
【0100】
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの有無および種類、p−ヒドロキシスチレンの含有量、スチレンがブロックセグメント構造を有しているか否かによらずに、溶媒に対する溶解速度の向上効果が得られることが示唆された。
【0101】
なお、実施例8〜11では、溶媒に対する溶解速度は飽和していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係る接着剤組成物および接着フィルムは、半導体ウェハーまたはチップの加工工程に、好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基が導入されたスチレンを含有している単量体組成物を重合してなるポリマーを主成分とすることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
上記アルキル基が、炭素数1〜20のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記アルキル基が、tert−ブチル基、イソブチル基、tert−ペンチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、イソオクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、n−デシル基およびイソデシル基からなる群より選ばれるアルキル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記アルキル基が、上記スチレンのパラ位に導入されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
アルコキシ基が導入されたスチレンを含有している単量体組成物を重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物であって、
該ポリマー100質量部に対して酸発生剤を0.1質量部以上含んでいないことを特徴とする接着剤組成物。
【請求項6】
上記アルコキシ基が、炭素数1〜20のアルコキシ基であることを特徴とする請求項5に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
上記アルコキシ基が、tert−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ペンチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、ラウリルオキシ基、ステアリルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、イソオクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、イソノニルオキシ基、n−デシルオキシ基またはイソデシルオキシ基からなる群より選ばれるアルコキシ基であることを特徴とする請求項5または6に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
上記アルコキシ基が、上記スチレンのパラ位に導入されていることを特徴とする請求項5〜7の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
上記単量体組成物における上記スチレンの含有量が、10質量%以上、100質量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
上記単量体組成物が、ヒドロキシスチレンをさらに含有していることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
上記ポリマーの重量平均分子量が、10,000以上、300,000以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項12】
フィルム上に、請求項1〜11の何れか一項に記載の接着剤組成物を含有している接着剤層を備えていることを特徴とする接着フィルム。
【請求項13】
請求項1〜11の何れか一項に記載の接着剤組成物によって接着されたウェハーと支持体とを分離する分離方法であって、
該接着剤組成物を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2−ヘプタノン、酢酸ブチル、N−メチルピロリドンからなる群より選ばれる溶剤によって溶解する工程を包含することを特徴とする分離方法。

【公開番号】特開2011−173955(P2011−173955A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37326(P2010−37326)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】