説明

接着剤組成物

【課題】高温プロセスを経ても剥離性が良好であって、且つ製品安定性に優れた接着剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る接着剤組成物は、炭化水素樹脂と、熱重合禁止剤と、上記炭化水素樹脂を溶解するための第1の溶剤と、上記熱重合禁止剤を溶解するための溶剤であって、上記第1の溶剤とは異なる第2の溶剤とを含み、上記第1の溶剤と上記第2の溶剤とは相溶である構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤組成物に関するものであり、例えば、半導体ウエハ等の基板を加工する際に、当該基板をガラス板及びフィルム等の支持体に一時的に仮止めするにあたり、好適に使用することができる接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルAV機器及びICカード等の高機能化に伴い、搭載される半導体シリコンチップ(以下、チップ)を小型化及び薄型化することによって、パッケージ内にシリコンを高集積化する要求が高まっている。例えば、CSP(chip size package)又はMCP(multi-chip package)に代表されるような複数のチップをワンパッケージ化する集積回路において、薄型化が求められている。パッケージ内のチップの高集積化を実現するためには、チップの厚さを25〜150μmの範囲にまで薄くする必要がある。
【0003】
しかしながら、チップのベースになる半導体ウエハ(以下、ウエハ)は、研削することにより肉薄になるため、その強度は弱くなり、ウエハにクラック又は反りが生じ易くなる。また、薄板化することによって強度が弱くなったウエハを自動搬送することは困難であるため、人手によって搬送しなければならず、その取り扱いが煩雑であった。
【0004】
そのため、研削するウエハにサポートプレートと呼ばれる、ガラス、硬質プラスチック等からなるプレートを貼り合わせることによって、ウエハの強度を保持し、クラックの発生およびウエハの反りを防止するウエハハンドリングシステムが開発されている。ウエハハンドリングシステムによりウエハの強度を維持することができるため、薄板化した半導体ウエハの搬送を自動化することができる。
【0005】
ウエハハンドリングシステムにおいて、ウエハとサポートプレートとは粘着テープ、熱可塑性樹脂、接着剤等を用いて貼り合わせられる。そして、サポートプレートが貼り付けられたウエハを薄板化した後、ウエハをダイシングする前にサポートプレートを基板から剥離する。このウエハとサポートプレートとの貼り合わせに接着剤を用いた場合、接着剤を溶解してウエハをサポートプレートから剥離する。
【0006】
従来、サポートプレートが貼り付けられたウエハを加工するとき、貫通電極の形成など高温で処理を行なう工程があり、この高温プロセス後にサポートプレートを剥離するときに、接着剤の残渣物が残存するなどの剥離不良が生じていた。このような問題を解決するために、耐熱性を付与した接着剤に係る技術が特許文献1に記載されている。
【0007】
特許文献1では、アクリル系樹脂材料を主成分にした接着剤組成物に、熱重合禁止剤を添加することが記載されている。この熱重合禁止剤は高温プロセス(特に、250℃)における熱重合が抑制されるため、高温プロセスを経た後であっても接着剤組成物により形成された接着剤層を容易に剥離できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−24435号公報(2010年2月4日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、接着剤組成物の主成分として炭化水素樹脂を用いた場合、大気中において熱酸化が生じ易くなる。そのため、上述したようにサポートプレートを貼り付けたウエハの各種加工後にサポートプレートを剥離するとき、接着剤組成物の剥離液への溶解性が低下して十分に剥離することができない。
【0010】
また、熱安定性を向上させるために該接着剤組成物に熱重合禁止剤を添加する方法が考えられる。しかしながら、極性の高い熱重合禁止剤が、炭化水素樹脂を溶解するための溶剤に安定的に溶解せず、析出してくるという問題がある。
【0011】
そこで、炭化水素樹脂を主成分にしても、剥離液に対する溶解性が良好であって且つ製品安定性に優れた接着剤組成物の開発が求められている。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温プロセスを経ても剥離性が良好であって、且つ製品安定性に優れた接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る接着剤組成物は、炭化水素樹脂と、熱重合禁止剤と、上記炭化水素樹脂を溶解するための第1の溶剤と、上記熱重合禁止剤を溶解するための溶剤であって、上記第1の溶剤とは異なる第2の溶剤とを含み、上記第1の溶剤と上記第2の溶剤とは相溶であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温プロセスを経ても剥離性が良好であって、且つ製品安定性に優れた接着剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例において熱重合禁止剤が析出されているか否かの様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る接着剤組成物は、炭化水素樹脂と、熱重合禁止剤と、上記炭化水素樹脂を溶解するための第1の溶剤と、上記熱重合禁止剤を溶解するための溶剤であって、上記第1の溶剤とは異なる第2の溶剤とを含み、上記第1の溶剤と上記第2の溶剤とは相溶である構成である。
【0017】
本発明の接着剤組成物の用途は、特に限定されないが、例えば、半導体ウエハ(以下、ウエハ)の加工工程において、薄化されたウエハの破損及び汚れを防ぐために、該ウエハを支持基板(サポートプレート)に一時的に接着する用途において好適に用いることができる。
【0018】
〔炭化水素樹脂〕
炭化水素樹脂は、炭化水素骨格を有し、単量体組成物を重合してなる樹脂である。炭化水素樹脂としては、例えば、シクロオレフィンポリマー(以下、「樹脂(A)」ともいう)、ならびにテルペン系樹脂、ロジン系樹脂及び石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(以下、「樹脂(B)」ともいう)が挙げられる。
【0019】
樹脂(A)は、シクロオレフィンモノマーを含む単量体成分を重合してなる樹脂である。樹脂(A)としては、シクロオレフィンモノマーは1種類のみを用いてもよいし、2種類以上のシクロオレフィンモノマーを組み合わせてシクロオレフィンコポリマーとしてもよい。
【0020】
樹脂(A)を構成するシクロオレフィンモノマーとしては、特に限定されるものではないが、特に、ノルボルネン系モノマーであることが好ましい。ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環を有するものであればよく、例えば、ノルボルネン及びノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン及びジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、及びテトラシクロペンタジエンなどの七環体、ならびにこれら多環体のアルキル(メチル、ブチル、プロピル及びブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、及びアリール(フェニル、トリル、及びナフチルなど)置換体などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン、テトラシクロドデセンが特に好ましい。
【0021】
また、樹脂(A)に含まれる単量体組成物は、シクロオレフィンモノマーのほかに、シクロオレフィンモノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよい。他のモノマーとしては、直鎖状又は分岐鎖状のアルケンモノマーが挙げられ、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、及び1−ヘキセンなどのα−オレフィンが挙げられる。オレフィンモノマーは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、樹脂(A)を構成する単量体成分は、その5モル%以上がシクロオレフィンモノマーであることが高耐熱性(低い熱分解、熱重量減少性)の点から好ましく、10モル%以上がシクロオレフィンモノマーであることがより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、80モル%以下であることが溶解性及び溶液での経時安定性の点から好ましく、70モル%以下であることがさらに好ましい。他のモノマーとして、直鎖状又は分岐鎖状のアルケンモノマーを含有する場合、樹脂(A)を構成する単量体成分全体に対して10〜90モル%であることが溶解性及び柔軟性の点から好ましく、20〜85モル%がさらに好ましく、30〜80モル%が特に好ましい。
【0023】
樹脂(A)の重量平均分子量(Mw:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)のポリスチレン換算による測定値)は、50,000〜200,000であり、より好ましくは、50,000〜150,000であり、さらに好ましくは、60,000〜12,000である。樹脂(A)の重量平均分子量が上記範囲内であれば、高温プロセス下での耐熱性が優れ、且つ溶解性を保つことが可能となる。
【0024】
また、樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、1.0〜5.0であることが好ましく、1.0〜3.0であることがより好ましい。樹脂(A)の分子量分布が上記範囲内であれば、脱ガス量を低減させることができる。
【0025】
テルペン系樹脂としてはテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂および水添テルペンフェノール樹脂などが挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステルおよび変性ロジンなどが挙げられる。石油樹脂としては、例えば、脂肪族または芳香族石油樹脂、水添石油樹脂、変性石油樹脂、脂環族石油樹脂およびクマロン・インデン石油樹脂などが挙げられる。これらのなかでも、炭化水素剥離液に対する溶解性の観点から、水添テルペン樹脂、および水添石油樹脂が好ましい。
【0026】
樹脂(B)の重量平均分子量(Mw:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)のポリスチレン換算による測定値)は、300〜3,000であり、より好ましくは、500〜2,000であり、さらに好ましくは、700〜1,500である。樹脂(B)の重量平均分子量が300以上であれば、耐熱性がより高まり、接着剤組成物の高温環境下における脱ガス量を低減させることができる。一方、樹脂(B)の重量平均分子量が3,000以下であれば、接着剤組成物によって形成した接着剤層を剥離する際の剥離速度をより速くすることができる。
【0027】
なお、炭化水素樹脂を製造するための樹脂は、シクロオレフィンポリマーのみからなるものであってもよいし、テルペン樹脂等の他の樹脂と組み合わせたものであってもよい。炭化水素樹脂がシクロオレフィンポリマー以外の樹脂を含有している場合には、シクロオレフィンポリマーの含有量が炭化水素樹脂全体の40重量部以上であることが好ましく、60重量部以上であることがより好ましい。シクロオレフィンポリマーの含有量が炭化水素樹脂全体の40重量部以上である場合には、柔軟性とともに高い耐熱性(熱分解性)が発揮できる。
【0028】
上記の単量体組成物を重合する際の重合方法、及び重合の条件などについては、特に制限はなく、従来公知の方法に従い適宜選択すればよい。なお、炭化水素樹脂として、例えば、ポリプラスチックス社製の「TOPAS」(商品名)、三井化学社製の「APEL」(商品名)、日本ゼオン社製の「ZEONOR」(商品名)及び「ZEONEX」(商品名)、及びJSR社製の「ARTON」(商品名)などの市販の樹脂を用いてもよい。
【0029】
〔熱重合禁止剤〕
熱重合禁止剤は、熱によるラジカル重合反応を防止する。熱重合禁止剤はラジカルに対して高い反応性を示し、モノマーよりも優先的に反応するため、モノマーの重合が禁止される。そのため、本発明に係る接着剤組成物においては、高温環境下(特に250℃〜350℃)における接着剤組成物の重合反応が抑制される。
【0030】
例えば、サポートプレートが接着されたウエハを250℃で1時間加熱する高温プロセスがある。このとき、高温により接着剤組成物の重合が起こると高温プロセス後にウエハからサポートプレートを剥離する剥離液への溶解性が低下し、ウエハからサポートプレートを良好に剥離することができない。しかし、熱重合禁止剤を含有している本発明の接着剤組成物では熱による酸化及びそれに伴う重合反応が抑制されるため、高温プロセスを経たとしてもサポートプレートを容易に剥離することができ、残渣の発生を抑えることができる。
【0031】
熱重合禁止剤としては、熱によるラジカル重合反応を防止するのに有効であれば特に限定されるものではないが、フェノールを有する熱重合禁止剤が好ましい。これにより、大気下での高温処理後にも良好な溶解性が確保できる。そのような熱重合禁止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を用いることが可能であり、例えば、ピロガロール、ベンゾキノン、ヒドロキノン、メチレンブルー、tert−ブチルカテコール、モノベンジルエーテル、メチルヒドロキノン、アミルキノン、アミロキシヒドロキノン、n−ブチルフェノール、フェノール、ヒドロキノンモノプロピルエーテル、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−[1−〔4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル〕エチリデン]ビスフェノール、4,4’,4”−エチリデントリス(2−メチルフェノール)、4,4’,4”−エチリデントリスフェノール、1,1,3−トリス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルプロパン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、n−オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名IRGANOX1010、チバ・ジャパン社製)、トリス(3,5−ジ−tert−ブチルヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、IRGANOX1035(チバ・ジャパン社製)、IRGANOX1076(チバ・ジャパン社製)、IRGANOX1098(チバ・ジャパン社製)、IRGANOX1135(チバ・ジャパン社製)が挙げられる。熱重合禁止剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
熱重合禁止剤の含有量は、接着剤組成物の用途および使用環境に応じて適宜決定すればよいが、炭化水素樹脂を100重量部としたとき、0.1重量部以上、10重量部以下であることが好ましい。熱重合禁止剤の含有量が上記範囲内であれば、熱による酸化及びそれに伴う重合反応を抑える効果が良好に発揮され、高温プロセス後において、接着剤組成物の剥離液に対する溶解性の低下をさらに抑えることができる。
【0033】
〔第1の溶剤〕
第1の溶剤は、炭化水素樹脂を溶解するための溶剤である。第1の溶剤としては、例えば、非極性の炭化水素系溶剤、極性及び無極性の石油系溶剤等を用いることができる。
【0034】
炭化水素系溶剤としては、直鎖、分岐または環状の炭化水素が挙げられる。例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、メチルオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の直鎖状の炭化水素、炭素数3から15の分岐状の炭化水素;p−メンタン、o−メンタン、m−メンタン、ジフェニルメンタン、α−テルピネン、β−テルピネン、γ−テルピネン、1,4−テルピン、1,8−テルピン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン、α−ピネン、β−ピネン、ツジャン、α−ツジョン、β−ツジョン、カラン、ロンギホレン等が挙げられる、
また、石油系溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ナフタレン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレンなどが挙げられる。
【0035】
これらの溶剤の中でも、第1の溶剤としては、デカヒドロナフタレンを用いることが好ましい。これによれば、環状オレフィンポリマーに対する溶解後の安定性が得られ、具体的には透明性又は増粘に対する抑制効果が得られる。なお、第1の溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
第1の溶剤の含有量は、炭化水素樹脂を十分に溶解することが可能な量であればよいが、例えば、炭化水素樹脂を100重量部としたとき、100重量部以上、900重量部以下であることが好ましく、100重量部以上、700質量部以下であることがさらに好ましく、200重量部以上、400重量部であることが最も好ましい。第1の溶剤の含有量が上記範囲内であれば、炭化水素樹脂を十分に溶解することができる。
【0037】
〔第2の溶剤〕
第2の溶剤は、熱重合禁止剤を溶解するための溶剤である。本発明において、第2の溶剤は第1の溶剤とは異なる種類であって、且つ第1の溶剤と相溶であればよい。接着剤組成物に第2の溶剤が含まれていることにより、接着剤組成物中の熱重合禁止剤を安定的に溶解させておくことができる。
【0038】
つまり、熱重合禁止剤は熱安定性を向上させることができるが、高い極性を有するために炭化水素樹脂を溶解する用途で含有される第1の溶剤に対して、安定的に溶解せずに析出することがある。そこで、第1の溶剤と相溶であって、熱重合禁止剤を溶解する第2の溶剤を添加することにより、熱重合禁止剤の析出を抑え、製品安定性を向上させることができる。
【0039】
なお、本明細書において非相溶とは、常温で静置した際に液が2層に分離している場合、ゲル化して非ニュートン流体になる(チクソ性がでる)場合、又は透明な液同士を混合して白濁する場合を基準として判断すればよい。すなわち、常温で静置した際に液が2層に分離していない場合、ゲル化して非ニュートン流体にならない場合、又は透明な液同士を混合して白濁しない場合には、相溶であると判断すればよい。また、白濁の有無を相溶の判断基準としたとき、その測定方法としては、例えば、射光顕微鏡を用いて接着剤組成物を観察する方法が挙げられる。この場合、所定の大きさ(例えば1μm)以上の析出物が観察されなければ相溶であり、所定の大きさ以上の析出物が観察されれば非相溶であると判断すればよい。
【0040】
第2の溶剤としては、熱重合禁止剤を溶解することが可能であって、かつ第1の溶剤と相溶であれば特に限定されないが、極性基を有する溶剤であることが好ましい。第2の溶剤が極性基を有する溶剤であれば、さらに安定的に熱重合禁止剤を溶解させて析出を防ぎ、製品安定性を向上させることができる。
【0041】
そのような溶剤としては、極性基として酸素原子、カルボニル基又はアセトキシ基等を有する溶剤が挙げられ、例えば、ゲラニオール、ネロール、リナロール、シトラール、シトロネロール、メントール、イソメントール、ネオメントール、リモネン、α−テルピネン、β−テルピネン、γ−テルピネン、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、テルピネン−1−オール、テルピネン−4−オール、ジヒドロターピニルアセテート、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ボルネオール、カルボン、ヨノン、ツヨン、カンファー等の極性基を有するテルペン溶剤、シクロヘキサノン、PGMEA(Propylene Glycol Monomethyl Ether Acetate)、2−ヘプタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルエチルケトン又は酢酸ブチル等が挙げられる。
【0042】
第2の溶剤の含有量は、熱重合禁止剤を十分に溶解することが可能な量であればよいが、例えば、炭化水素樹脂を100重量部としたとき、1重量部以上、200重量部以下であることが好ましく、10重量部以上、150重量部以下であることがさらに好ましく、20重量部以上、100重量部以下であることが最も好ましい。第2の溶剤の含有量が上記範囲内であれば、熱重合禁止剤を十分に溶解することができる。
【0043】
〔その他の成分〕
なお、接着剤組成物には、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、混和性のある他の物質をさらに含んでいてもよい。例えば、接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤及び界面活性剤等、慣用されている各種添加剤をさらに用いることができる。
【0044】
〔剥離液〕
本発明の接着剤組成物を、例えば上述したウエハの加工工程における一時的な接着用途に用いる場合、接着剤組成物を溶解させてウエハとサポートプレートとを剥離させる剥離液としては、上述した第1の溶剤、第2の溶剤、又は公知の剥離液を用いればよい。
【0045】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0046】
〔接着剤組成物の作製〕
以下に示す表1〜4の組成で、接着剤組成物を作製した。
【0047】
炭化水素樹脂としては、ノルボルネンとエチレンとをメタロセン触媒にて共重合したシクロオレフィンコポリマー(ポリプラスチックス社製「TOPAS(商品名)8007X10」)を単独、又は該シクロオレフィンコポリマーとテルペン樹脂A(水添テルペン樹脂 クリアロンP135(ヤスハラケミカル社製))とを1:1の重量比で組み合わせたものを使用した。
【0048】
なお、上記シクロオレフィンコポリマーは、以下の化学式(I)に示すエチレン及び一般式(II)に示すノルボルネンの繰り返し単位を、x:y=35:65で含むCOC A(Mw=95,000、Mw/Mn=1.9)、x:y=24:76で含むCOC B(Mw=70,000、Mw/Mn=1.6)、x:y=20:80で含むCOC C(Mw=60,000、Mw/Mn=1.5)の3種類を用意した。
【0049】
【化1】

【0050】
【化2】

【0051】
熱重合禁止剤としては、所定の濃度のヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・ジャパン社製「IRGANOX(商品名)1010」、「IRGANOX1035」、「IRGANOX1076」、「IRGANOX1098」、「IRGANOX1135」)を用いた。
【0052】
主溶剤としては、ヤスハラケミカル社製のp−メンタンを用いた。また、添加溶剤としては、所定の濃度のジヒドロターピニルアセテート(日本テルペン社製)、1,4−シネオール、1,8−シネオール、PGMEA(Propylene Glycol Monomethyl Ether Acetate)、協和発酵ケミカル社製の「MAK(商品名)、2−ヘプタノン」及び酢酸ブチルのいずれかを用いた。
【0053】
〔実施例1〜16〕
実施例1〜16では、以下の表1〜3に示す組み合わせで接着剤組成物を作製し、作製した接着剤組成物に対して剥離性及び製品安定性について評価した。なお、括弧内の数値の単位は「重量部」である。「non」とは使用していないことを意味する。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
具体的には、実施例1では、COC A及びテルペン樹脂Aの混合物(質量比1:1)100重量部、p−メンタンを250重量部、3重量部のIRGANOX1010、及び45重量部のジヒドロターピニルアセテートを混合し、接着剤組成物を作製した。また、実施例2では、熱重合禁止剤を5重量部のIRGANOX1010に変更した以外は実施例1と同じ組み合わせで接着剤組成物を作製した。
【0058】
実施例3〜5は、添加溶剤の添加量を20重量部、60重量部、100重量部に変更した以外は、実施例2と同じ組み合わせで接着剤組成物を作製した。また、実施例6及び実施例7では添加溶剤の種類をジヒドロターピニルアセテートから1,4−シネオール又は1,8−シネオールにそれぞれ変更した以外は、実施例2と同じ組み合わせで接着剤組成物を作製した。
【0059】
実施例8〜10では、炭化水素樹脂としてCOC Aのみを単独で使用すると共に、添加溶剤の種類をPGMEA、MAK又は酢酸ブチルに変更した以外は、実施例2と同じ組み合わせで接着剤組成物を作製した。なお、実施例10では熱重合禁止剤の濃度を6重量%にした。
【0060】
実施例11では、炭化水素樹脂としてCOC Aのみを使用した以外は、実施例2と同じ組み合わせで接着剤組成物を作製した。また、実施例12では実施例11におけるCOC AをCOC Bに変更し、実施例13では実施例11におけるCOC AをCOC Cに変更すると共に、熱重合禁止剤としてIRGANOX1035を用いた。
【0061】
実施例14〜16は、熱重合禁止剤としてIRGANOX1076、IRGANOX1098、又はIRGANOX1135を用いた以外は実施例11と同じ組み合わせで接着剤組成物を作製した。
【0062】
(剥離性の評価)
本実施例では、次の方法で接着剤組成物の剥離性を評価した。
【0063】
まず、表1〜3に示す組み合わせでそれぞれ作製した実施例1〜16の接着剤組成物を用いて、6インチのシリコンウエハ上に、乾燥膜厚が20μmとなるように、前記接着剤組成物を塗布した後、110℃で3分間、次いで150℃で3分間、次いで200℃で3分間の条件で乾燥することにより接着層を作製した。次に、当該接着剤層にサポートプレートを貼り合せて積層体を形成した。
【0064】
上記手順にて形成した積層体において、「加熱なし」、「200℃で1時間加熱」、「240℃で1時間加熱」、及び「250℃で1時間加熱」の4パターンを用意し、これらを剥離液としてp−メンタンに23℃において30分間浸漬した。浸漬後、剥離液に対する接着剤組成物の剥離性を評価した。
【0065】
剥離性の評価は乾燥後のウエハ表面を顕微鏡で観察することによって行ない、接着剤が表層に確認されなければ「○」とし、接着剤残り(有機残渣物)が確認されれば「×」とした。
【0066】
その結果、「加熱なし」(成膜後)の接着剤の剥離性は、実施例1〜16のすべてにおいて良好であった。また、「200℃で1時間加熱」及び「240℃で1時間加熱」においても実施例1〜16のすべてにおいて剥離性は良好であった。「250℃で1時間加熱」した場合には、実施例2〜16において剥離性は良好であった。
【0067】
(製品安定性の評価)
製品安定性の評価は、容器に各実施例において作製した接着剤組成物を貯留し、5℃で1週間放置した後、熱重合禁止剤が析出するか否かによって評価した。図3の(a)は容器に貯留した接着剤組成物において熱重合禁止剤が析出している(白濁する)様子を示し、図3の(b)は容器に貯留した接着剤組成物において熱重合禁止剤が析出していない(透明な)様子を示す。
【0068】
析出の判断基準は射光顕微鏡を用いて1μm以上の析出物が観察されなければ「○」と評価し、1μm以上の析出物が観察されれば「×」と評価した。その結果、実施例1〜16のすべてにおいて析出物は観察されなかった。
【0069】
〔比較例1〜5〕
実施例1と同様に接着剤組成物を作製し、作製した接着剤組成物に対して剥離性及び製品安定性について評価した。なお、括弧内の数値の単位は「重量部」である。
【0070】
但し、比較例1では熱重合禁止剤及び添加溶剤は加えず、比較例2では添加溶剤を加えなかった。また、比較例3〜5では添加溶剤として、45重量部のリモネン、45重量部のピネン、45重量部のピナンをそれぞれ用いた。結果を表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
表4に示すように、比較例1では熱重合禁止剤を加えていないため、240℃以上で加熱すると剥離性が低下した。また、比較例2では250℃で加熱すると剥離性が低下し、さらに添加溶剤を加えていないために熱重合禁止剤の析出が見られた。比較例3〜5において用いた添加溶剤(リモネン、ピネン、ピナン)は主溶剤と相溶ではあるが、極性が高くないために熱重合禁止剤を長時間安定的に溶解させることができず、熱重合禁止剤の析出が見られた。
【0073】
〔実施例17〜19〕
実施例17〜19では、実施例1〜16および比較例1〜5の接着剤組成物において使用した炭化水素樹脂とは異なる種類の炭化水素樹脂を使用した。具体的には、以下の一般式(III)に示す三井化学社製の「APEL(商品名)8008T COC、Mw=100,000、Mw/Mn=2.1、m:n=80:20(モル比)」(以下、COC1という)、「APEL(商品名)8009T COC、Mw=120,000、Mw/Mn=2.2、m:n=75:25(モル比)」(以下、COC2という)及び「APEL(商品名)6013T COC、Mw=80,000、Mw/Mn=2.0、m:n=52:48(モル比)」(以下、COC3という)を用いた。
【0074】
【化3】

【0075】
なお、実施例17〜19では、これらのシクロオレフィンコポリマーをそれぞれ単独で使用した。
【0076】
また、熱重合禁止剤としては上述した「IRGANOX1010」、「IRGANOX1035」、主溶剤としては上述したp−メンタン、添加溶剤としてはジヒドロターピニルアセテートを用意した。
【0077】
実施例17〜19ではこれらの材料を以下の表5に示す組み合わせで接着剤組成物を作製し、作製した接着剤組成物に対して実施例1〜16と同様に剥離性及び製品安定性について評価した。なお、括弧内の数値の単位は「重量部」である。
【0078】
【表5】

【0079】
その結果、上記化学式(III)で示されるシクロオレフィンコポリマーを炭化水素樹脂として使用しても、「加熱なし」(成膜後)の接着剤の剥離性は、実施例17〜19のすべてにおいて良好であった。また、「200℃で1時間加熱」、「240℃で1時間加熱」及び「250℃で1時間加熱」においても実施例17〜19のすべてにおいて剥離性は良好であった。
【0080】
また、5℃で1週間放置した後に析出物は観察されず、実施例17〜19すべてにおいて製品安定性が優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る接着剤組成物は、剥離液に対する溶解性が良好で且つ製品安定性に優れているため、例えば、微細化された半導体装置の製造に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素樹脂と、
熱重合禁止剤と、
上記炭化水素樹脂を溶解するための第1の溶剤と、
上記熱重合禁止剤を溶解するための溶剤であって、上記第1の溶剤とは異なる第2の溶剤とを含み、
上記第1の溶剤と上記第2の溶剤とは相溶であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
上記熱重合禁止剤は、フェノール系の熱重合禁止剤であり、
上記第2の溶剤は、極性基を有するテルペン溶剤であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記熱重合禁止剤の含有量は、上記炭化水素樹脂を100重量部としたとき、0.1重量部以上、10重量部以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記第1の溶剤の含有量は、上記炭化水素樹脂を100重量部としたとき、100重量部以上、900重量部以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
上記第2の溶剤の含有量は、上記炭化水素樹脂を100重量部としたとき、1重量部以上、200重量部以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72345(P2012−72345A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4952(P2011−4952)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】