説明

接着向上剤、樹脂組成物、及び積層体の製造方法

【課題】多様な材質の被着体に対して十分に高い接着強度を達成することを可能にする接着向上剤及び該接着向上剤を含有する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂からなる接着向上剤であり、リン酸エステル基が、下記式(1)で表される2価の基であり、ホスホン酸エステル基が、下記式(2)で表される2価の基である。




[式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に二価の有機基を示し、R3は水素原子、アリール基又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。][式(2)中、R4及びR5はそれぞれ独立に二価の有機基を示し、R6は水素原子、アリール基又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着向上剤、樹脂組成物、及びこれらを含む接着層と被着体との積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料分野において、軽薄短小化の傾向が強くなるとともに、ハロゲンフリー、アンチモンフリー及び鉛フリー半田等が推奨されている。また、封止材、積層材、及びマウンティング材には、さらなる特性向上が必要とされている。
【0003】
例えば、半導体用封止樹脂として、従来、ノボラックエポキシ樹脂及びその硬化剤であるフェノールノボラック樹脂を含むポキシ樹脂組成物が用いられてきた。半導体装置の分野では、半導体の高集積化、パッケージの小型化及び薄型化、並びに鉛フリー半田への移行が進められている。更には、リードフレームのPPF(プリプレーティッドフレーム)の開発も進められている。このような状況にともなって、信頼性の確保のために、封止樹脂に対する要求は年々厳しいものとなっている。具体的には、チップ及びリードフレームとの密着性が良好であることが封止樹脂に求められている。特に吸湿後、半田に浸漬しても封止樹脂がクラック及び界面剥離等を生じないことが求められる。しかし、従来のエポキシ樹脂組成物によれば、これら要求特性を満足して、信頼性を確保することが困難になってきている。
【0004】
プリント配線板の絶縁材料としては、ガラス基材エポキシ積層板が最も多く使用されている。積層板用のエポキシ樹脂組成物は、ジシアンジアミドを硬化剤として含むのが一般的である。鉛フリー半田への対応等のための耐熱性向上の観点から、フェノール樹脂を硬化剤として用いたエポキシ樹脂組成物が注目されるようになってきた。しかしながら、フェノール樹脂を硬化剤として使用すると、銅箔との接着性、特に多層板における内層銅箔との接着性が、ジシアンジアミドを硬化剤として含むエポキシ樹脂組成物に比べて大幅に劣るという問題があった。
【0005】
接着性を改善する手段としては、シランカップリング剤を用いて基材等の被着体を表面処理する方法、又は、基材を構成する樹脂にシランカップリング剤を添加する方法が一般的である。エポキシ系及びアミノ系の市販のシランカップリング剤は、接着性改善の効果があり、長年使用されてきていた。しかし、近年の環境問題への対応や軽薄短小化の傾向が強まっている状況においては、シランカップリング剤を用いた方法では要求特性を十分に満足できない場合が増えてきている。
【0006】
そこで、イミダゾール基又はジメチルアミノ基を有するシランカップリング剤が開発されている(例えば、特許文献1〜4)。例えば、トリメトキシシリル基を有するシランカップリング剤は、原料の入手が容易であり、しかも従来のシランカップリング剤に比べて金属及び無機物と樹脂との密着性を大幅に向上させるこができることから、樹脂組成物の添加剤及び金属やフィラー等の表面処理剤として様々な分野で使用することができる。
【0007】
しかし、トリメトキシシリル基を有するイミダゾールシラン及びジメチルアミノシラン等のシランカップリング剤は、加水分解が速く、ゲル化しやすいため、インテグラルブレンドの際、取り扱いにくいという不都合があった。また、樹脂組成物に添加されたこれらシランカップリング剤は、揮発してモーター及びリレー等の接点に付着し、加水分解によって接点不良を起こすという問題もある。そのため、トリメトキシシリル基を有するイミダゾールシラン及びジメチルアミノシラン等のシランカップリング剤は、特性的には良好ではあるものの、使用方法や使用用途に制限があった。
【0008】
一方、電子材料の分野では、電子部品を固定したり回路接続を行ったりするために各種の接着剤が使用されている。これらの用途では、回路パターンの高密度化及び高精細化が進むとともに、接着剤に対して高い接着力及び信頼性が求められる。特に、半導体装置及び液晶ディスプレイ製品において用いられるガラス及び金属等の被着体に対する接着性の高い接着剤が望まれている。被着体の材料としては、SiO、Al、SiNx、金、銀、銅、SUS、アルミ、錫、白金族の金属、インジウム−錫酸化物及びZnO等がある。例えば、液晶ディスプレイの製造において、ガラス又は金属を含む回路部材を接続する回路接続材料として、接着剤中に導電性粒子を分散させた異方導電性接着剤が使用されている。
【0009】
更に、精密電子機器の分野では、電極幅及び電極間隔が極めて狭くなってきている。このため、従来の回路接続材料では、配線の脱落、剥離、位置ずれが生じることがある。また、生産効率向上のためには接続時間の短縮化が望まれる。そこで、低温速硬化性に優れ、かつ、適当な可使時間を有する電気・電子用の回路接続材料が開発されている(例えば、特許文献5及び6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平05−186479号公報
【特許文献2】特開平09−012683号公報
【特許文献3】特開平09−296135号公報
【特許文献4】特開2001−187836号公報
【特許文献5】国際公開第98/44067号
【特許文献6】国際公開第98/15505号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献5及び6に記載の回路接続材料の場合、電子材料の部材の材質により接着強度が異なる。特に、SiO、Al、SiNx、金、銀、銅、SUS、アルミ、錫、白金族の金属、インジウム−錫酸化物、及びZnO等の材料から形成された被着体に対して十分な接着力が得られにくく、特にガラス及びインジウム−錫酸化物に対する接着性が十分に得られない傾向にあり、信頼性に欠けることがあった。
【0012】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ガラス及びインジウム−錫酸化物に対しても十分に高い接着強度を達成することを可能にする接着向上剤及び該接着向上剤を含有する樹脂組成物を提供することを目的とする。更には、本発明は、被着体と十分に高い接着強度で接着された接着層を有する積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂からなる接着向上剤に関する。
【0014】
係る本発明の接着向上剤は、単独で接着剤として使用してもよいし、他の樹脂から構成される接着剤の接着性を向上するための添加剤として用いてもよい。あるいは、被着体を構成する樹脂等の材料に対して、被着体の接着性を向上するために本発明の接着向上剤を添加してもよい。いずれの場合でも、本発明の接着向上剤によれば、多様な材質の被着体に対して十分に高い接着強度を達成することが可能である。リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂により接着性が向上する作用は明らかではないが、本発明者らは、樹脂中に存在するリン酸エステル基又はホスホン酸エステル基が、ガラス及びインジウム−錫酸化物表面との親和性が高いことにより接着性が改善されると推測している。リン元素は、酸素元素に対して高い親和性を有することが知られており、リン元素がガラス表面の酸素原子と相互作用することで、接着性が向上すると考えられる。
【0015】
リン酸エステル基は、好ましくは、下記式(1)で表される2価の基である。ホスホン酸エステル基は、好ましくは、下記式(2)で表される2価の基である。接着向上剤が係る構成を有することにより、特に高い接着力向上の効果が得られる。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に二価の有機基を示し、Rは水素原子、アリール基又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に二価の有機基を示し、Rは水素原子、アリール基又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。
【0019】
リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂は、好ましくは、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂又はポリアミック酸(ポリアミド酸)である。これら樹脂によれば、接着性向上剤の耐熱性を更に高めることができる。
【0020】
本発明はまた、上記本発明に係る接着向上剤を含有する樹脂組成物に関する。
【0021】
係る樹脂組成物によれば、多様な材質の被着体を接着する接着剤として用いられたときに、十分に高い接着強度を達成することができる。
【0022】
本発明に係る樹脂組成物は、好ましくは、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂とは異なる少なくとも1種の他の樹脂を更に含有する。
【0023】
本発明の接着向上剤をこれらの樹脂と組み合わせることにより、樹脂組成物に熱又は光硬化性を付与して接着剤としての適用を容易にしたり、所望の物性が得られるように樹脂組成物を改質したりすることが可能となる。
【0024】
別の側面において、本発明は、被着体及び該被着体上に積層された接着層を有する積層体を製造する方法に関する。本発明に係る方法は、支持体上に形成された本発明に係る樹脂組成物からなる接着層を、被着体上に積層する工程を備える。あるいは、本発明に係る製造方法は、本発明に係る樹脂組成物を被着体に塗布する工程を備える。
【0025】
本発明に係る製造方法によれば、接着層が多様な被着体に対して十分に高い接着強度で接着した積層体を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ガラス及びインジウム−錫酸化物に対して十分に高い接着強度を達成することを可能にする接着向上剤及び該接着向上剤を含有する樹脂組成物が提供される。本発明に係る接着向上剤は、良好な耐熱性を維持できる点でも優れている。更に、シランカップリング剤と比較して、加水分解等の問題も生じ難いことから、高い信頼性を確保し易い点でも本発明は有利である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】積層体の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、必要に応じて添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
本実施形態に係る接着向上剤は、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂を含む。「リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂」は、1個以上のリン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を構成単位として含むポリマー、及び、重合により当該ポリマーを生成し得るポリマー前駆体を含む。当該樹脂は、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を主鎖中の繰り返し単位として含むことが好ましい。リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂を接着向上剤として用いることにより、多様な材質の被着体に対して十分に良好な接着強度を得ることができる。
【0030】
リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂は、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリアミック酸から選ばれる樹脂であって、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂である。なかでも、耐熱性を高める観点から、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂は、縮合系の樹脂であることが好ましい。より具体的には、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂及びポリアミック酸がより好ましい。ポリアミック酸は、ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂の前駆体である。
【0031】
上記リン酸エステル基は、下記式(1)で表される2価の基であることが好ましい。上記ホスホン酸エステル基は、下記式(2)で表される2価の基であることが好ましい。
【0032】
【化3】

【0033】
【化4】

【0034】
式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に二価の有機基を示し、Rは水素原子、アリール基又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に二価の有機基を示し、Rは水素原子、アリール基又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。R、R、R、R、R及びRは、後述の他の化学式においても同様に定義される。
【0035】
式(1)中のR又はRで示される二価の有機基は、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基等のアルキレン基、又は、フェニレン基等のアリーレン基である。R及びRは、好ましくはアリーレン基である。Rは、好ましくはアリール基であり、フェニル基が特に好ましい。
【0036】
式(2)中のR又はRで示される二価の有機基は、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基等のアルキレン基、又は、フェニレン基等のアリーレン基である。R及びRは、好ましくはアリーレン基である。Rは、好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0037】
リン酸エステル基を有するポリイミド樹脂は、例えば、下記式(3)で表される繰返し単位を有する。
【0038】
【化5】

【0039】
ホスホン酸エステル基を有するポリイミド樹脂は、例えば、下記式(4)で表される繰返し単位を有する。
【0040】
【化6】

【0041】
式(3)及び(4)中、Xは4価の有機基を示す。Xは、例えば、後述するテトラカルボン酸二無水物からカルボキシル基を除いて形成される4価の基である。
【0042】
リン酸エステル基を有するポリアミドイミド樹脂は、例えば、下記式(5)、(6)又は(7)で表される繰返し単位を有する。
【0043】
【化7】

【0044】
ホスホン酸エステル基を有するポリアミドイミド樹脂は、例えば、下記式(8)、(9)又は(10)で表される繰返し単位を有する。式(5)〜(10)中、Yは2価の有機基を示す。Yは、例えば、「リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミン」以外のジアミンからアミノ基を除いて形成される2価の基である。後述の各化学式におけるYも同様に定義される。
【0045】
【化8】

【0046】
リン酸エステル基を有するポリアミド樹脂は、下記式(11)又は(12)で表される繰返し単位を有する。式(12)中、Zは2価の有機基を示す。Zは、例えば、後述するジカルボン酸からカルボキシル基を除いて形成される2価の基である。後述の各化学式のZも同様に定義される。
【0047】
【化9】

【0048】
ホスホン酸エステル基を有するポリアミド樹脂は、例えば、下記式(13)又は(14)で表される繰返し単位を有する。
【0049】
【化10】

【0050】
リン酸エステル基を有するポリベンゾオキサゾール樹脂は、例えば、下記式(15)で表される繰返し単位を有する。
【0051】
【化11】

【0052】
ホスホン酸エステル基を有するポリベンゾオキサゾール樹脂は、例えば、下記式(16)で表される繰返し単位を有する。
【0053】
【化12】

【0054】
式(15)及び(16)中、Wは芳香環を含む四価の基を示す。Wで示される四価の基は、例えば、ジフェニル基、ジフェニル−2,2’−プロパン基、ジフェニルスルホン基、及びジフェニル−2,2’−(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン)基から選ばれる。
【0055】
リン酸エステル基を有するエポキシ樹脂は、例えば、下記式(17)で表されるモノマー、又はこれから形成される繰返し単位を有するポリマーである。
【0056】
【化13】

【0057】
ホスホン酸エステル基を有するエポキシ樹脂は、例えば、下記式(18)で表されるモノマー、又はこれから形成される繰返し単位を有するポリマーである。
【0058】
【化14】

【0059】
リン酸エステル基を有するポリエステルは、例えば、下記式(19)、(20)又は(21)で表される繰返し単位を有する。
【0060】
【化15】

【0061】
式(20)中、Y’はジオールモノマーからヒドロキシル基を除いて形成される2価の基を示す。Y’を形成するジオールモノマーは、例えば、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシフェニルメタン、3,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジイソプロピルフェニル)メタン、3,3’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、3,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、3,3’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’−ジヒドロキシジフェニルケトン、3,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、2,2−ビス(3−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’−(3,4’−ジヒドロキシジフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、3,3’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスフェノール、3,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスフェノール、4,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスフェノール、2,2−ビス(4−(3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル)プロパン、ビス(4−(3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル)スルホン、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、3,3’−ジヒドロキシジフェニルジフルオロメタン、3,4’−ジヒドロキシジフェニルジフルオロメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルジフルオロメタン、2,2−ビス(3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−(3,4’−ジヒドロキシジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン及び2,2−ビス(4−(4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ジオール、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール及び1,2−シクロヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、並びに、下記式(22)で表されるジヒドロキシポリシロキサンから選ばれる。これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンが特に好ましい。
【0062】
【化16】

【0063】
ホスホン酸エステル基を有するポリエステル樹脂は、例えば、下記式(23)、(24)又は(25)で表される繰返し単位を有する。式(24)中のY’は式(20)のY’と同義である。
【0064】
【化17】

【0065】
リン酸エステル基を有するアクリル樹脂は、例えば、下記式(26)又は(27)で表されるモノマーから形成される繰返し単位を有する。
【0066】
【化18】

【0067】
ホスホン酸エステル基を有するアクリル樹脂は、例えば、下記式(28)又は(29)で表されるモノマーから形成される繰返し単位を有する。
【0068】
【化19】

【0069】
式(26)〜(29)中、Rは水素原子、炭素数1〜10の一価のアルキル基及びアリール基等の有機基、又は、水素原子若しくは炭素数1〜10の有機基が結合したエーテル基、エステル基、カルボニル基、スルホニル基若しくはスルホネート基を示す。
【0070】
リン酸エステル基を有するポリウレタン樹脂は、例えば、下記式(30)で表される繰返し単位を有する。
【0071】
【化20】

【0072】
ホスホン酸エステル基を有するポリウレタン樹脂は、例えば、下記式(31)で表される繰返し単位を有する。
【0073】
【化21】

【0074】
リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するポリアミック酸は、上述したポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂の前駆体である。ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂を製造する際に中間体として生じるポリアミック酸を、本実施形態の接着向上剤の成分として使用することができる。
【0075】
リン酸エステル基を有するポリアミック酸は、例えば下記式(32)又は(33)で表される繰返し単位を有する。
【0076】
【化22】

【0077】
ホスホン酸エステル基を有するポリアミック酸は、例えば、下記式(34)又は(35)で表される繰り返し単位を有する。
【0078】
【化23】

【0079】
リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂又はポリアミック酸は、例えば、次のような方法により製造することができる。
【0080】
ポリイミド樹脂は、例えば、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とを反応させ、生成したポリアミック酸を脱水閉環する方法によって製造することができる。
【0081】
ポリアミドイミド樹脂は、例えば、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミンと無水トリメリット酸との反応により得られるイミドジカルボン酸をジイソシアネートと反応させる方法、あるいは、リン酸エステル又はホスホン酸エステル基を有するジアミンと無水トリメリット酸クロリドとを反応させる方法により、製造することができる。
【0082】
ポリアミド樹脂は、例えば、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミンとジカルボン酸ジハロゲン化物とを反応させる方法、あるいは、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミンとジカルボン酸とをN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等の縮合剤の存在下に反応させる方法により、製造することができる。
【0083】
ポリアミック酸は、例えば、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させる方法により、製造することができる。
【0084】
リン酸エステル基を有するジアミンとしては、例えば、ビス−(4−アミノフェニル)フェニルホスフェートが挙げられる。
【0085】
リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂又はポリアミック酸の製造に際して、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミンに加えて、これ以外のジアミンを併用することも可能である。リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミンと、それ以外のジアミンとを併用することより、樹脂のガラス転移温度及び弾性率等の物性を制御できる。
【0086】
リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミン以外のジアミンは、例えば、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−アミノ−3,5−ジイソプロピルフェニル)メタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2’−(3,4’−ジアミノジフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスアニリン、3,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスアニリン、4,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスアニリン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン及び3,5−ジアミノ安息香酸等の芳香族ジアミン、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン及び1,2−ジアミノシクロヘキサン等の脂肪族ジアミン、並びに、下記式(36)で表されるジアミノポリシロキサンから選ばれる。これらの中でも、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンが特に好ましい。
【0087】
【化24】

【0088】
リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミン以外のジアミンの例として、更に、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ポリオキシアルキレンジアミン等の脂肪族ジアミン(商品名:ジェファーミンD−230,D−400,D−2000,D−4000,ED−600,ED−900,ED−2001,EDR−148、等三井化学ファイン株式会社製)、3,3’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン、3,4’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン、4,4’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−(3,4’−ジアミノジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン及び2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせ使用することができる。
【0089】
リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミンと、それ以外のジアミンとを併用する場合、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有するジアミンの比率は特に制限されないが、多くなるほど接着力が高くなる傾向にある。
【0090】
ポリイミド樹脂又はポリアミック酸を得るために用いられるテトラカルボン酸二無水物は、例えば、1,2−(エチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,3−(トリメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,4−(テトラメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,5−(ペンタメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,6−(ヘキサメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,7−(ヘプタメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,8−(オクタメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,9−(ノナメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,10−(デカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,12−(ドデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,16−(ヘキサデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,18−(オクタデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、ピロメリット酸二無水物、3,4:3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3:2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,4:9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ベンゼン−1,2:3,4−テトラカルボン酸二無水物、3,4:3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3:2’,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3:3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2:5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,8:4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3:6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2:4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物、2,3:6,7−テトラクロロナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,10:8,9−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3:5,6−テトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3:5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,3:3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,4:3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3:2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メチルフェニルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェニルジメチルシリル)ベンゼン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1:3,3−テトラメチルジシクロヘキサン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリテート無水物)、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2:3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2:5,6−テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2:3,4−テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン−2,3:4,5−テトラカルボン酸二無水物、1,2:3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビス(エキソ−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタン−2,3−ジカルボン酸二無水物)、ビシクロ−〔2,2,2〕−オクタ−7−エン−2,3:5,6−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、テトラヒドロフラン−2,3:4,5−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸二無水物)、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(別名「4,4’−ヘキサフルオロプロピリデン酸二無水物」)、及び2,2,−ビス〔4−(3,4−ジカルボキシフェニル)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン二無水物から選ばれる。これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0091】
ポリアミド樹脂を得るために用いられるジカルボン酸は、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、メチレンジサリチル酸、パモ酸及び5,5’−チオジサリチル酸から選らばれる。これらジカルボン酸は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ジカルボン酸ジハロゲン化物は、これらジカルボン酸を一般的な方法、例えば塩化チオニル等のハロゲン化剤を用いてハロゲン化する方法により得ることができる。
【0092】
本実施形態に係る樹脂組成物は、本実施形態に係る接着向上剤を少なくとも含む接着剤である。この樹脂組成物は、接着向上剤単独で構成されていてもよいし、接着向上剤以外の他の成分を含んでいてもよい。あるいは、被着体の接着性を向上するために、本実施形態に係る接着向上剤を被着体中に添加してもよい。
【0093】
本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、本実施形態に係る接着向上剤(リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂)と、リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂とは異なる1種又は2種以上の他の樹脂とを含有する。
【0094】
リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂とは異なる他の樹脂は、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂及びこれらの前駆体からなる群より選ばれる。これら樹脂を用いることにより、樹脂組成物に熱又は光硬化性を付与することができる。また、樹脂組成物をフィルム状に成型する際、得られるフィルムの物性を容易に制御できるという利点がある。
【0095】
本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、導電性粒子等の粒子、硬化剤、硬化促進剤、増感剤、難燃剤、ゴム系エラストマ、顔料、レベリング剤、消泡剤及びイオントラップ剤等の他の成分を更に含有していてもよい。導電性粒子を含有する樹脂組成物は、回路部材同士を接続及び接着する回路接続材料である異方導電性接着剤として好適に用いられ得る。これらを樹脂組成物に配合することにより、樹脂組成物の電気特性、硬化性、線熱膨張係数及び燃焼性等を制御できる。
【0096】
本実施形態に係る樹脂組成物は、有機溶剤等の希釈剤を含有していてもよい。希釈剤を添加することで、樹脂等の成分を容易に溶解又は分散させることが可能であり、樹脂組成物の取扱い性が向上する。希釈剤は、接着向上剤の樹脂及び他の成分を良好に溶解又は分散させるものが好ましい。希釈剤は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ガンマブチロラクトン及びN−メチル−2−ピロリドン等から選ばれる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0097】
図1は、本実施形態に係る樹脂組成物からなる接着層を備える積層体を模式的に示す断面図である。図1に示す積層体100は、被着体3と、被着体3上に積層された接着層1とを有する。接着層1は、本実施形態に係る樹脂組成物を被着体3の表面上に膜状に成形して形成された層である。接着層1を介して所望の他の部材を被着体3に接着することができる。
【0098】
被着体3の具体例としては、ガラス板が挙げられる。ガラス板を形成するガラスは、例えば、SiO、Al、SiN及びソーダ石灰ガラスから選ばれる。被着体は、これらの材料のみから構成されていてもよいし、これら材料の2種以上を含む複合材であってもよい。被着体は、ガラス板上に形成されたインジウム−錫酸化物膜(例えば、ITO膜)であってもよい。被着体は、これら材料からなる層を接着層側にのみ有していてもよい。これらの材料からなる部分が被着体の接着層側の面の一部にのみ形成されていてもよい。
【0099】
被着体3の表面のうち、接着層1と接する部分が、ガラス又はインジウム−錫酸化物からなることが好ましい。ガラス又はインジウム−錫酸化物が被着体であるとき、従来の回路接続材料等の接着剤では十分な接着強度が得られない場合があった。しかし、本実施形態に係る接着向上剤を用いることにより、被着体が接着層側にこれら材質の部分を有していても、十分な接着強度が得られる。
【0100】
積層体を構成する被着体は、図1に示す実施形態のような平坦な表面を有する板状体に限定されず、例えば、基板及び該基板上に設けられた回路電極を有する回路部材であってもよい。この場合、接着層を介して、回路部材に他の回路部材及び/又はチップ部品を接着することにより、積層基板又は半導体回路基板を得ることができる。
【0101】
積層体100は、例えば、フィルム状の支持体上に樹脂組成物からなる接着層を形成する工程と、支持体上の接着層を被着体上に積層する工程とを含む方法により得ることができる。例えば、支持体に樹脂組成物を塗布し、必要に応じて塗布された樹脂組成物を乾燥することにより、支持体上に接着層を形成することができる。支持体は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、及びポリイミド(PI)フィルムから選ばれる。支持体上の接着層を、被着体に重ね合わせ、その状態でラミネート及びプレス等の方法により圧着する方法により、被着体上に接着層を積層することができる。
【0102】
あるいは、積層体100は、本実施形態に係る樹脂組成物を被着体に塗布し、必要に応じて塗布された塗布された樹脂組成物を乾燥する工程を含む方法により、得ることもできる。樹脂組成物を、必要に応じて希釈剤を含む溶液の状態で、スピンコーター及び塗工機等により被着体上に直接塗布することできる。塗布された樹脂組成物から、熱風吹き付け等の加熱により希釈剤を留去して、接着層を形成することができる。
【0103】
被着体3に接着する第2の被着体(例えば、上述した他の回路部材及びチップ部品等)を、接着層と同時に、又は順次、積層することも可能である。
【0104】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形が可能である。
【実施例】
【0105】
以下に、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0106】
<樹脂の合成>
1.リン酸エステル基を有する樹脂の合成例
(1)ポリイミド樹脂(PI−1)の調製
ディーンスターク還流冷却器、温度計及び撹拌器を装着した300mLのセパラブルフラスコに、4,4’−ヘキサフルオロプロピリデンビスフタル酸二無水物64.0mmolと、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)100gとを加えて調製した反応液を、室温(25℃)で30分間攪拌した。次いで、ジアミンであるビス−(4−アミノフェニル)フェニルホスフェート28.0mmol、2,2-ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン28.0mmol及びポリオキシプロピレンジアミン8.0mmolを加えた。その後、反応液を180℃まで昇温し、ディーンスターク還流冷却器により水とNMPの混合物を除去しながら1時間還流を行い、リン酸エステル基を有するポリイミド樹脂(以下「PI−1」という。)のNMP溶液を得た。
【0107】
PI−1のNMP溶液を水中に投入し、析出物を回収した。この析出物を粉砕及び乾燥して固形のPI−1を得た。得られたPI−1の重量平均分子量は、GPCによる測定の結果、標準ポリスチレン換算で65000であった。PI−1をMEK(メチルエチルケトン)に溶解して、濃度40質量%のMEK溶液を調製した。
【0108】
2.リン酸エステル基を有しない樹脂の合成例
(1)ポリイミド樹脂(PI−2)の調製
ディーンスターク還流冷却器、温度計及び撹拌器を装着した1000mLのセパラブルフラスコに、ジアミンとしてポリオキシプロピレンジアミン15.0mmol及び2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン105.0mmolと、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)287gとを加えて調製した反応液を、室温で30分間撹拌した。次いで、トルエン180g及び4,4’−ヘキサフルオロプロピリデンビスフタル酸二無水物114.0mmolを加えた。その後、反応液を50℃まで昇温して、その温度で1時間攪拌した後、さらに反応液を160℃まで昇温して3時間還流させた。水分定量受器に理論量の水がたまり、水の流出が見られなくなっていることを確認した後、水分定量受器中の水とトルエンを除去し、180℃まで上昇させて反応溶液中のトルエンを除去し、リン酸エステル基を有しないポリイミド樹脂(以下「PI−2」という。)のNMP溶液を得た。
【0109】
PI−2のNMP溶液をメタノールに投入し、析出物を回収した。この析出物を粉砕及び乾燥して固形のPI−2を得た。得られたPI−2の重量平均分子量は、GPCによる測定の結果、標準ポリスチレン換算で55000であった。PI−2をMEKに溶解して、濃度40質量%のMEK溶液を調製した。
【0110】
<積層体の作成>
PI−1及びPI−2のMEK溶液を、それぞれ、バーコーターを用いてソーダ石灰ガラス基板上に均一に塗布した。塗膜を60℃で15分の加熱により乾燥して、厚さ20μmの接着層を形成させた。この方法により、被着体及び被着体上に形成された接着層から構成される積層体を作製した。実施例及び比較例における、接着層と被着体との組み合わせを表1に示す。
【0111】
<接着強度の測定と評価>
各積層体について、被着体から接着層を剥離するために必要な力(剥離力)をJIS−Z0237に準じて90°剥離法(剥離速度50mm/分、測定温度25℃)により測定した。測定装置としてRTM−400(ORIENTEC社製)を使用した。測定結果を表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
表1に示されるように、リン酸エステル基を有するポリイミド樹脂PI−1により接着層を形成した実施例の積層体の場合、ソーダ石灰ガラスに対する接着強度が高かった。一方、リン酸エステル、又はホスホン酸エステル基を有しないPI−2により接着層を形成した積層体の場合、ソーダ石灰ガラスとの接着強度が低かった。
【0114】
<アクリル系熱硬化性樹脂組成物の調整>
(1)フェノキシ樹脂の準備
PKHC(ユニオンカーバイト社製商品名、平均分子量45000)40gをMEK(メチルエチルケトン)60gに溶解して、濃度40質量%のフェノキシ樹脂の溶液を得た。
【0115】
(2)ウレタンアクリレート樹脂の合成
平均重量平均分子量800のポリカプロラクトンジオール400質量部と、2−ヒドロキシプロピルアクリレート131質量部と、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.5質量部と、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル1.0質量部とを、攪拌しながら50℃に加熱して混合した。次いで、イソホロンジイソシアネート222質量部を滴下し、更に攪拌しながら80℃に昇温してウレタン化反応を行った。イソシアネート基の反応率が99%以上になったことを確認後、反応温度を下げて、重量平均分子量8500のウレタンアクリレート樹脂を得た。
【0116】
(3)リン酸エステル基を有する樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物(A−1)の調製
PI−1を15.00g、フェノキシ樹脂25.00g、ウレタンアクリレート樹脂
30.00g、二官能アクリレート(商品名:ABE−300、新中村化学社製)30.00g、及び硬化剤としてのラウロイルパーオキシド(製品名:
パーロイルL、日油製)3.00gを混合して、リン酸エステル基を有するPI−1を含むアクリル系の熱硬化性樹脂組成物(以下「A−1」という。)のMEK溶液を得た。フェノキシ樹脂及びウレタンアクリレート樹脂として、上記(1)及び(2)において準備したものを用いた。
【0117】
(4)リン酸エステル基を有しない樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物の調製
PI−1をPI−2に代えた他はA−1と同様にして、リン酸エステル基を有しないPI−2を含むアクリル系の熱硬化性樹脂組成物(以下「A−2」という。)のMEK溶液を得た。
【0118】
<積層体の作成>
熱硬化性樹脂組成物A−1及びA−2のMEK溶液を、片面を表面処理したPETフィルムにバーコーターを用いて塗布し、70℃で5分間熱風乾燥して、厚さ16μmの接着層を形成させた。この方法により、PETフィルム及びPETフィルム上に形成された接着層から構成される積層体を作成した。
【0119】
各積層体を、ガラス基板及びガラス基板上に形成された酸化インジウムの薄膜から構成されるITOガラス上に、接着剤層がITOガラスの酸化インジウム薄膜側に位置する向きで置き、熱圧着装置(加熱方式:コンスタントヒート型、東レエンジニアリング株式会社製)を用いて70℃に加熱しながら、1MPaで1秒間加圧を行った。これにより、各積層体及びこれらに接着したITOガラスを有する接続体を作製した。
【0120】
<接着強度の測定と評価>
各接続体について、ITOガラスから積層体を剥離するために必要な力(剥離力)をJIS−Z0237に準じて90°剥離法(剥離速度50mm/分、測定温度25℃)により測定した。測定装置として[テンシロンUTM−4(東洋ボールドウィン社製)]を使用した。測定結果を表2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
表2に示されるように、リン酸エステル基を有する樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物A−1を接着剤として用いて作製された実施例2の積層体では、ITOガラスと積層体との接着強度が非常に高かった。これに対して、リン酸エステル骨格を有しない樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物A−2を接着剤として用いて作製された比較例2の積層体では、ITOガラスと積層体との接着強度が低かった。
【符号の説明】
【0123】
1…接着層、3…被着体、100…積層体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂からなる接着向上剤。
【請求項2】
前記リン酸エステル基が、下記式(1)で表される2価の基であり、前記ホスホン酸エステル基が、下記式(2)で表される2価の基である、請求項1に記載の接着向上剤。
【化1】


[式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に二価の有機基を示し、Rは水素原子、アリール基又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。]
【化2】


[式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に二価の有機基を示し、Rは水素原子、アリール基又は炭素数1〜10のアルキル基を示す。]
【請求項3】
前記リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂又はポリアミック酸である、請求項1又は2に記載の接着向上剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着向上剤を含有する、樹脂組成物。
【請求項5】
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる、前記リン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を有する樹脂とは異なる少なくとも1種の他の樹脂を更に含有する、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
支持体上に形成された請求項4又は5に記載の樹脂組成物からなる接着層を、被着体上に積層する工程を備える、被着体及び該被着体上に積層された接着層を有する積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の樹脂組成物を被着体に塗布する工程を備える、被着体及び該被着体上に積層された接着層を有する積層体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−6931(P2013−6931A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139541(P2011−139541)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】