説明

接着系アンカーの施工方法

【課題】アンカー接着用の接着材料について適切量の確保を簡単かつ確実に行え、施工作業全体も熟練度の要求を低減して高い作業性を確保できる接着系アンカーの施工方法の提供。
【解決手段】アンカー接着用の接着材料4を、計量用のマーキング1bを付したアンカー用スリーブ1に注入して計量し、接着材料4を収納したままアンカー用スリーブ1を下孔2aに挿入し、このアンカー用スリーブ1にアンカー3を内挿して、接着材料4の固化によってアンカー3をアンカー用スリーブ1とともに母材2に固定する接着系アンカーの施工方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着系アンカーの施工方法に係り、特に、母材に穿孔した下孔に挿入したアンカーを、該アンカーに外挿したアンカー用スリーブとともに、接着固定用の接着材料によって母材に固定する接着系アンカーの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート等の母材に棒状のアンカーを接着用の樹脂材料によって固定する接着系アンカーの施工(接着系アンカーの施工方法)にあっては、母材の下孔に適量の樹脂材料を入れるために、シーブ等のアンカー用スリーブを利用する技術が幾つか提案されている(例えば、特許文献1、2)。
特許文献1には、アンカー(アンカーボルト)先端をアンカー用スリーブ(筒状のメッシュ体)の軸方向中央部まで内挿してアンカー先端にアンカー用スリーブを取り付け、アンカー用スリーブのアンカー先端から突出した部分の内側に液状の樹脂材料を注入した後、アンカー用スリーブが取り付けられているアンカー先端をアンカー用スリーブとともに母材の下孔(但し、非貫通孔)に挿入し、下孔の孔底に突き当てたアンカー用スリーブに対してアンカーを押し込んで、樹脂材料をアンカー用スリーブの外側に押し出すようにして流出せしめる、技術が開示されている。樹脂材料が固化することで、アンカー先端とアンカー用スリーブとが、母材に固定される。
特許文献2には、アンカー用スリーブ(筒部材)内に樹脂材料を注入し、樹脂材料を注入済みのアンカー用スリーブを母材の下孔に挿入した後、ピストンロッドのような加圧部材をアンカー用スリーブの内側に押し込みつつ、下孔からアンカー用スリーブを抜き去り、その後、下孔にアンカー(アンカーボルト等)を挿入する、技術が開示されている。樹脂材料が固化することで、アンカーが母材に固定される。
なお、上記特許文献1、2に係るアンカー用スリーブは、いずれも、両端が開口されている筒状体である。
また、アンカー用スリーブへの樹脂材料の注入には、必要量の樹脂材料を注入のために、カートリッジ型の注入器を用いることが広く行われている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開2003−261989号公報
【特許文献2】特開2004−353235号公報
【特許文献3】特開2003−290694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来の接着系アンカーの施工にあっては、施工者の感覚や熟練度に拠る所が大きい。特に、アンカー接着用の樹脂材料の量については、母材に対するアンカーの固定力の安定確保のために、安定化を図りたい、という要求がある。
しかしながら、アンカー接着用の樹脂材料について適切量の確保を簡単かつ確実に行え、施工作業全体も熟練度の要求を低減して高い作業性を確保できる、適切な技術がこれまでに無く、その開発が求められていた。
【0004】
例えば、特許文献1の(0014)〜(0023)、図1〜図4の開示技術では、アンカー先端に対するアンカー用スリーブの位置がずれやすく、樹脂材料の量の安定化が難しい。アンカー用スリーブの内側に樹脂材料を注入するために、アンカー用スリーブを取り付けたアンカー(アンカーボルト)の姿勢を、アンカー用スリーブが上側に開口するように、安定に保つ必要があり、作業性が良好とは言えない。
また、特許文献1の(0024)〜(0026)、図5、図6には、アンカー先端のネジ無し部分にアンカー用スリーブの端部を外嵌めして、アンカー用スリーブのアンカーの軸方向への押し込みを規制して、アンカー用スリーブを位置決めする技術が開示されている。しかしながら、この開示技術の場合は、(0026)、図6に説明されているように、アンカー用スリーブを装着したアンカー先端を下孔に挿入したときに、アンカー用スリーブのアンカー先端から突出した部分を下孔の孔底に押し付けて押し潰すことになり、下孔内に樹脂材料が充填されない空隙部が生じやすい。樹脂材料への気泡の混入も発生しやすい。空隙部や、樹脂材料への気泡混入は、施工不良の原因になる。また、この開示技術においても、アンカー用スリーブの内側に樹脂材料を注入するために、アンカー用スリーブを取り付けたアンカー(アンカーボルト)の姿勢を、アンカー用スリーブが上側に開口するように、安定に保つ必要があり、作業性が良好とは言えない。
【0005】
特許文献2では、アンカー用スリーブ内に樹脂材料を注入してから、アンカー用スリーブを母材の下孔に入れるが、両端が開口されているアンカー用スリーブへの樹脂材料の注入では、アンカー用スリーブの開口部から樹脂材料が漏出するなど、現場作業において注入失敗が生じやすく、結果的に、注入量の安定化が難しい。
また、樹脂材料を注入済みのアンカー用スリーブを母材の下孔に挿入した後、加圧部材をアンカー用スリーブの内側に押し込みつつ、下孔からアンカー用スリーブを抜き去る際に、樹脂材料に、施工不良の原因になるような大きい気泡を混入させてしまう虞があり、作業に熟練を要する、といった問題がある。また、アンカー用スリーブから下孔へ樹脂材料を押し込んだ後、加圧部材を下孔から抜き去る際にも、樹脂材料への気泡混入が発生しやすい。
【0006】
また、アンカー用スリーブへの樹脂材料の注入にカートリッジ型注入器を用いて、樹脂材料の注入量の安定化を図る案があるが、アンカー径、アンカー用スリーブのサイズ等に応じて注入量を調整するとなると、調整に手間が掛かる。樹脂押し出し用の操作ハンドルの可動範囲の調整等によって、押し出し量を調節できるカートリッジ型注入器が提供されているものの、樹脂押し出し量を精度良く調整できる注入器は少なく、また、使用者が注入器を傾けて使用した場合など、現場作業における注入器の扱い方によって、樹脂押し出し量が変動してしまうことがあり、実際の現場作業において所望の注入量の安定確保を実現することは容易では無い。
【0007】
本発明は、前記課題に鑑みて、アンカー接着用の接着材料について適切量の確保を簡単かつ確実に行え、施工作業全体も熟練度の要求を低減して高い作業性を確保できる接着系アンカーの施工方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では以下の構成を提供する。
第1の発明では、母材に穿設された下孔に挿入したアンカーを、前記下孔に挿入され前記アンカーが内挿されたアンカー用スリーブとともに、接着固定用の接着材料によって母材に固定する接着系アンカーの施工方法であって、軸方向片端が開口された有底筒状に形成され前記接着材料の計量用のマーキングが付された前記アンカー用スリーブに液状の前記接着材料を注入して前記接着材料を計量した後、前記アンカー用スリーブを前記接着材料を収納したままの状態で前記下孔に挿入し、次いで、前記アンカー用スリーブにアンカーを内挿して、前記アンカー用スリーブ内の前記接着材料を前記アンカー用スリーブに形成されている流出孔からアンカー用スリーブの外側へ流出せしめることを特徴とする接着系アンカーの施工方法を提供する。
また、第2の発明では、前記アンカー用スリーブが、金属線によって網状に形成されたものであることを特徴とする第1の発明の接着系アンカーの施工方法を提供する。
また、第3の発明では、前記アンカー用スリーブの内側に、該アンカー用スリーブに内挿されたアンカーに当接されることで前記アンカー用スリーブからのアンカーの脱落を防止するための内側弾性片が、アンカー用スリーブのアンカー受け入れ口とは反対の奥側に向けて斜めに傾斜させて突設されていることを特徴とする第1又は第2の発明の接着系アンカーの施工方法を提供する。
また、第4の発明では、前記アンカー用スリーブのアンカー受け入れ口の内側に、1又は複数の前記内側弾性片が、前記アンカー用スリーブの内側空間であるアンカー孔の外周に設けられていることを特徴とする第3の発明の接着系アンカーの施工方法を提供する。
第5の発明では、前記アンカー用スリーブの外側の複数箇所に、該アンカー用スリーブを挿入した前記下孔の内面に当接されることで、前記アンカー用スリーブを前記下孔と同軸上に位置決めする外側弾性片が、前記アンカー用スリーブのアンカー受け入れ口側に向けて斜めに傾斜させて突設されていることを特徴とする第1〜第4のいずれかの発明の接着系アンカーの施工方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、母材の下孔に挿入前のアンカー用スリーブに接着材料を注入する際に、アンカー用スリーブに付しておいた計量用マーキングによって、接着材料の量を正確に計量できる。このため、アンカー用スリーブに注入する接着材料の量の安定化を実現できる。
そして、接着材料の注入を完了したアンカー用スリーブを、母材の下孔に挿入した後、このアンカー用スリーブに、アンカーを押し込むように内挿するだけで、簡単に施工を行える。このため、良好な作業性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の1実施形態について、図面を参照して説明する。
図1(a)〜(d)は、本発明に係る接着系アンカーの施工方法を工程順に説明する図、図2(a)、(b)、(c)はアンカー用スリーブを示す図である。
図1において、符号1はアンカー用スリーブ、2は母材、3はアンカー(図1では、金属製のアンカーボルトを例示)である。
【0011】
図2(a)、(b)、(c)に示すように、図示例のアンカー用スリーブ1は、金属線によって筒状(図示例では円筒状)に形成された網体(シーブ)である。
このアンカー用スリーブ1は、軸方向片端のみが開口された有底筒状に形成されている。アンカー用スリーブ1の内側空間は、軸方向片端の開口部であるアンカー受け入れ口1aから内挿されるアンカー3を収納するアンカー孔1bとなっている。アンカー用スリーブ1の軸方向において前記アンカー受け入れ口1aと反対側の端部(閉塞端。底部1c)は、アンカー孔1bの孔底を形成する。
円筒状のアンカー用スリーブ1は、アンカー孔1b内径が、アンカー3外径に対して、同じか、僅かに大きい程度に設定されたものである。アンカー用スリーブ1の外径、すなわち、アンカー孔1bを取り囲む筒状(具体的には円筒)部分である外周壁1eの外径は、母材2に穿設した下孔2aの内径よりも僅かに小さい。
【0012】
また、このアンカー用スリーブ1は、アンカー受け入れ口1a付近に、塗料等によって、アンカー接着用の接着材料4(図1(b)〜(d)参照)の計量用のマーキング1dが付されている。マーキング1dは、塗料の塗布によって形成したものの他、例えば、着色された線材の編み込み、接着などによって形成することも可能である。
図示例のアンカー用スリーブ1のマーキング1dは、アンカー用スリーブ1のアンカー受け入れ口1a付近に、アンカー用スリーブ1の外周全周にわたって線状に周設されているが、マーキング1dとしてはこれに限定されず、例えば、アンカー用スリーブ1の外周に沿って全周に達しない長さの線状に設けたもの、点状に設けたもの等であっても良い。
また、マーキングとしては、アンカー用スリーブ1の内、計量する所望量の接着材料が収納される部分と、これよりもアンカー受け入れ口1a側の部分とを色分けする着色などであっても良い。
【0013】
アンカー用スリーブ1におけるマーキングの位置は、母材2に形成する下孔2a(図1(c)等参照)の内径や穿孔深さ、アンカー3外径等に鑑みて、母材2に対するアンカー3の必要固定力の確保に要する接着材料4の量に応じて決められる。
したがって、サイズやマーキングの位置が互いに異なる複数種類のアンカー用スリーブ1を、下孔2aの内径や穿孔深さ、アンカー3外径等に応じて選択使用することで、適切量の接着材料4の計量が可能となる。
【0014】
アンカー接着用の接着材料4は、液状の状態から固化することでアンカー3を母材2に固定するものであり、エポキシ樹脂(例えば、2液混合型のもの)等、コンクリート製の母材2に対する金属製アンカー3の固定に用いられる周知のものを採用できる。また、接着材料4としては、上述のエポキシ樹脂等の有機系のものに限定されず、セメント系のもの(主剤がセメント、硬化剤が水あるいは水ガラス)も採用可能である。
コンクリート製の母材2に対する金属製アンカー3の固定に用いられる周知の接着材料4は、固化前は、ゲル状あるいはパテ状の、ある程度の粘性を有する液状である。アンカー用スリーブ1は、注入された接着材料4を、接着材料4に加圧等の外力が与えられていない状態で、内側に収納した状態を保てるメッシュ体(網体)であることは言うまでも無い。
但し、接着材料は、母材2及びアンカー3の材質によって選択されるものであり、母材2及びアンカー3の材質に応じて適宜変更可能である。
【0015】
図1(c)、(d)において、母材2は、ここではコンクリート製母材であり、例えば、建物の壁、天井、柱、コンクリート製パネル等である。
【0016】
アンカー3としては、ここでは金属製のアンカーボルトであるが、異形棒鋼等であっても良い。また、例えば、プラスチック製、FRP(繊維強化プラスチック)製等の、棒状に形成された各種構成のものを採用できる。
【0017】
本発明に係る接着系アンカーの施工方法は、まず、用意したアンカー用スリーブ1内に、液状の接着材料4を注入する(図1(a)、(b)参照)。アンカー用スリーブ1への接着材料4の注入は、アンカー用スリーブ1を、アンカー受け入れ口1aが上、底部1cが下となる姿勢で行う。
接着材料4は、液面(上面)が、アンカー用スリーブ1のマーキング1dに揃うように注入することで、所望量を計量できる。
また、接着材料4の液面が、マーキング1dよりも若干上側になることも構わない。
但し、接着材料4の液面が、マーキング1dよりも上側になると、後述のように、母材2の下孔2a内に収めたアンカー用スリーブ1にアンカー3を内挿したときに、母材2の外面2bに開口する下孔2aの開口部から溢れ出す余剰接着材料4の量が多くなるため、場合によっては、下孔2aの開口部から溢れ出した余剰接着材料4の除去処理が必要となる。
【0018】
接着材料4の計量が完了したら、アンカー用スリーブ1を前記接着材料4を収納したままの状態で前記下孔2aに挿入し(図1(c)参照)、次いで、前記アンカー用スリーブ1にアンカー3を内挿する(図1(d)参照)。アンカー用スリーブ1は、底部1c側から下孔2aに挿入して、下孔2a内に収納する。
これにより、アンカー3からの押圧力によって、アンカー用スリーブ1内の接着材料4が、前記アンカー用スリーブ1に形成されている流出孔(ここでは、シーブであるアンカー用スリーブ1の網目)からアンカー用スリーブ1の外側へ押し出されるようにして流出し、下孔2a内を接着材料4で満たすことができる。なお、このとき、アンカー用スリーブ1は、アンカー3からの押圧力によって、下孔2aの孔底2cに押し付けられる。
【0019】
アンカー用スリーブ1にアンカー3を内挿した後、接着材料4が固化することで、接着材料4によって、アンカー用スリーブ1及びアンカー3が母材2に対して強固に固定され、アンカー3の施工が完了する。
金属線によって形成されたシーブであるアンカー用スリーブ1は、接着材料4内に埋設されて、鉄筋の如く、補強効果を発揮する。
これにより、シーブが接着材料4中に埋設されることで、接着材料4の付着性が高まり、シーブを埋設しないでアンカー3を施工した場合に比べて、アンカー3の剛性及び耐力の向上が可能となる。
母材2に固定されたアンカー3の内、母材2の外面2bから母材2の外側に突出させた部分3aは、器物の取り付け等に利用できる。
【0020】
本発明に係る接着系アンカーの施工方法によれば、母材2の下孔2aに挿入前のアンカー用スリーブ1に接着材料4を注入して計量するので、所望量の接着材料4を正確かつ簡単に計量できる。これにより、接着材料4の不足による施工不良を確実に防止でき、母材に対するアンカーの固定力の安定確保を実現できる。
接着材料4を計量した後、接着材料4を収納したままのアンカー用スリーブ1を母材2の下孔2aに挿入し、アンカー3をアンカー用スリーブ1に内挿すれば良いので、アンカー3の施工は極めて簡単に行える。既述の通り、アンカー用スリーブ1に接着材料4を注入して計量する作業も簡単であり、このため、本発明に係る接着系アンカーの施工方法は、熟練度の要求が低く、作業性を向上できるものであり、しかも、母材に対するアンカーの固定力の安定確保を実現できるものと言える。
【0021】
(アンカー用スリーブの別態様)
図3(a)、(b)は、別態様のアンカー用スリーブ11を示す。
図3(a)、(b)に例示したアンカー用スリーブ11は、図2(a)、(b)、(c)を参照して説明した既述のアンカー用スリーブ1に、内側弾性片12と、外側弾性片13とを設けたものである。
このアンカー用スリーブ11は、図2(a)、(b)、(c)に例示したアンカー用スリーブ1に替えて、既述の接着系アンカーの施工方法に適用できる。
【0022】
内側弾性片12は、前記アンカー用スリーブ1(以下、スリーブ本体とも言う)の内側に、突設されている小片である。
図示例のアンカー用スリーブ11において、前記内側弾性片12は、具体的には、スリーブ本体1から金属線を内側に突出させたものであり、アンカー受け入れ口1a及びスリーブ本体1の底部1c付近(アンカー受け入れ口1aと底部1cとの間であり、かつ、底部1c寄りの位置)にて、アンカー孔1bを取り囲むスリーブ本体1の外周壁1eの周方向複数箇所に突設されている。また、この内側弾性片12は、スリーブ本体1(詳細には外周壁1e)から該スリーブ本体1の底部1cに向けて斜めに傾斜させて突設されているため、スリーブ本体1へのアンカー3の挿入の障害にならず、スリーブ本体1に内挿されたアンカー3の外周面に当接されることで、アンカー用スリーブ11からのアンカー3の脱落を防止する脱落防止片としての機能を果たす。また、スリーブ本体1に内挿されたアンカー3に当接されることで、アンカー3を、スリーブ本体1と同軸上に位置合わせする機能も果たす。
スリーブ本体1に複数突設された内側弾性片12は、スリーブ本体1に内挿されたアンカー3を位置決めする機能を果たす点から、スリーブ本体1の外周壁1eからスリーブ本体1内側へ突出する先端位置が、位置決め対象のアンカー3の外周面に沿って配列されるようにする。
【0023】
外側弾性片13は、スリーブ本体1の外側に突設されている小片である。
図示例のアンカー用スリーブ11において、前記外側弾性片13は、具体的には、スリーブ本体1の外周壁1eから金属線を外側に突出させたものであり、スリーブ本体1の外周壁1e全体にわたって多数箇所に分散配置されている。
この外側弾性片13は、スリーブ本体1(詳細には外周壁1e)からスリーブ本体1のアンカー受け入れ口1aに向けて斜めに傾斜させて突設されているため、アンカー用スリーブ11の下孔2aへの挿入の支障にならない。また、外側弾性片13は、アンカー用スリーブ11を挿入した下孔2aの内面(ここでは、特に、内周面)に当接されることで、前記アンカー用スリーブ11を下孔2aと同軸上に位置決めする機能を果たす。また、下孔2aに挿入したアンカー用スリーブ11の下孔2aからの脱落防止の機能も果たす。
スリーブ本体1に複数突設された外側弾性片13は、下孔2aに内挿されたスリーブ本体1を位置決めする機能を果たす点から、スリーブ本体1の外周壁1eからスリーブ本体1外側へ突出する先端位置が、外周壁1eの外側の仮想円筒面(アンカー孔1b中心軸線からの距離が一定の仮想円筒面)に沿って配列されるようにする。
【0024】
上述のようなアンカー用スリーブ11であれば、例えば、横向き、上向きの施工であっても、アンカー用スリーブ11の内側弾性片12及び外側弾性片13によって、下孔2aに対するアンカー用スリーブ11、アンカー3の位置決め、脱落防止が実現されるため、良好な作業性を確保できる。
【0025】
なお、上述のアンカー用スリーブ11の内側弾性片12及び外側弾性片13を構成する金属線としては、例えば、シーブを構成する金属線自体を利用することが可能である。つまり、シーブを構成する金属線の一部を、スリーブ本体1の外周壁1eから突出させて、内側弾性片12あるいは外側弾性片13として機能させた構成を採用できる。
また、内側弾性片12及び外側弾性片13としては、これに限定されず、シーブを構成する金属線とは別に、別途、スリーブ本体1に取り付けた金属線によって、構成しても良い。
さらに、内側弾性片12及び外側弾性片13としては、金属線に限定されず、例えば、スリーブ本体1に取り付けた板状弾性片であっても良い。
【0026】
上述の実施形態は、円筒状の外周壁1eを具備するアンカー用スリーブ1、11を利用した例を例示したが、本発明は、これに限定されず、例えば、断面楕円形、断面矩形等の、断面形状が円形以外の外周壁1eを有するアンカー用スリーブを用いることも可能である。
また、アンカー用スリーブとしては、必ずしも、金属線からなるシーブである必要は無く、例えば、接着材料の流出を可能にするための流出孔を形成した金属筒や、樹脂製の筒状体(但し、スリーブ内側から外側への接着材料の流出を可能にするための流出孔を形成したもの)などであっても良い(但し、いずれも、軸方向一端側にアンカー受け入れ口を具備する有底筒)。
本発明に係るアンカー用スリーブとしては、既述のアンカー用スリーブ1に、内側弾性片12及び外側弾性片13の内、片方のみを設けたものも採用可能である。また、内側弾性片12としては、図3(b)に例示したように、アンカー用スリーブの軸方向両端に突設した構成に限定されず、例えば、アンカー用スリーブの外周壁の内面全体にわたって、多数の内側弾性片を突設した構成等も採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)〜(d)は、本発明に係る接着系アンカーの施工方法を工程順に説明する図である。
【図2】本発明に係る接着系アンカーの施工方法に適用するアンカー用スリーブの一例を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は斜視図である。
【図3】本発明に係る接着系アンカーの施工方法に適用するアンカー用スリーブの別態様を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【符号の説明】
【0028】
1…アンカー用スリーブ、1a…アンカー受け入れ口、1b…アンカー孔、1c…底部、1d…マーキング、1e…外周壁、2…母材、2a…下孔、2b…外面、2c…孔底、3…アンカー(アンカーボルト)、4…接着材料、11…アンカー用スリーブ、12…内側弾性片、13…外側弾性片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材に穿設された下孔に挿入したアンカーを、前記下孔に挿入され前記アンカーが内挿されたアンカー用スリーブとともに、接着固定用の接着材料によって母材に固定する接着系アンカーの施工方法であって、
軸方向片端が開口された有底筒状に形成され前記接着材料の計量用のマーキングが付された前記アンカー用スリーブに液状の前記接着材料を注入して前記接着材料を計量した後、前記アンカー用スリーブを前記接着材料を収納したままの状態で前記下孔に挿入し、次いで、前記アンカー用スリーブにアンカーを内挿して、前記アンカー用スリーブ内の前記接着材料を前記アンカー用スリーブに形成されている流出孔からアンカー用スリーブの外側へ流出せしめることを特徴とする接着系アンカーの施工方法。
【請求項2】
前記アンカー用スリーブが、金属線によって網状に形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の接着系アンカーの施工方法。
【請求項3】
前記アンカー用スリーブの内側に、該アンカー用スリーブに内挿されたアンカーに当接されることで前記アンカー用スリーブからのアンカーの脱落を防止するための内側弾性片が、アンカー用スリーブのアンカー受け入れ口とは反対の奥側に向けて斜めに傾斜させて突設されていることを特徴とする請求項1又は2記載の接着系アンカーの施工方法。
【請求項4】
前記アンカー用スリーブのアンカー受け入れ口の内側に、1又は複数の前記内側弾性片が、前記アンカー用スリーブの内側空間であるアンカー孔の外周に設けられていることを特徴とする請求項3記載の接着系アンカーの施工方法。
【請求項5】
前記アンカー用スリーブの外側の複数箇所に、該アンカー用スリーブを挿入した前記下孔の内面に当接されることで、前記アンカー用スリーブを前記下孔と同軸上に位置決めする外側弾性片が、前記アンカー用スリーブのアンカー受け入れ口側に向けて斜めに傾斜させて突設されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の接着系アンカーの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−95835(P2008−95835A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278477(P2006−278477)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(390022389)サンコーテクノ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】