説明

接触圧力測定システム

【課題】臨床における圧力センサによる接触圧力分布の測定を生体組織に対して低侵襲的に行うことができ、内視鏡視下手術において生体組織内の接触圧力分布を直接測定することができる接触圧力測定システムを提供する。
【解決手段】接触圧力測定システムは、体組織内の接触圧力を測定する圧力センサ10と圧力センサ10が装着された取り回し部20と取り回し部20を体組織内へ導入する導入部と測定システムとを有する。導入部は中空の筒内に細い棒を挿入した構造であり、細い棒の一端に保持部22が装着され、展開部21を保持部22にロール状に巻き取ることにより全体として取り回し部20が保持部22を介して細い棒に巻き付けられている。展開部21は操作部の回転により保持部22から巻き出されスリットを通して測定対象へ展開される。展開部21は操作部の逆の回転により保持部22へ巻き取られて格納される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体組織内の接触圧力を測定する接触圧力測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
関節における骨と骨との間、腹腔における臓器と臓器との間、各種生体組織と治療器具との間等、生体内の詳細な接触圧力(分布)を直接測定することは、外科的な臨床治療において、医師が病態の検査・診断・治療を行うに際し、貴重な情報をもたらすものと言われている。このため、従来、体組織内の接触圧力(分布)の測定は、感圧紙、感圧導電インク、感圧導電ゴム等を利用した圧力センサにより行われていた(非特許文献1、2および3参照)。
【0003】
図12は、体組織内の接触圧力(分布)の測定に用いられた従来の圧力センサを例示する。図12において、符号60は従来の圧力センサにおける測定部、61はワイヤ等の取り回し部である。図12では図面の都合上、明示されていないが、測定部60は2枚の櫛目状電極板を直交するようにした構造である。このため、取り回し部61が図12に示されるように測定部60の横に広がっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、従来の圧力センサ60は取り回し部61が測定部60の横に広がっていたため、圧力センサ60を生体組織内に挿入するに際し、測定領域(測定部60の領域)よりも広く体組織の切開を行う必要があった。このため、体組織に対して低侵襲的な測定を行うことができず、従来の体組織内の接触圧力(分布)の測定は屍体による測定がほとんどであり、臨床における圧力センサでの測定はほとんど行われていないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、臨床における圧力センサによる接触圧力(分布)の測定を、生体組織に対して低侵襲的に行うことができる接触圧力測定システムを提供することにある。
【0006】
本発明の第2の目的は、内視鏡視下手術において生体組織内の接触圧力(分布)を直接測定することができる接触圧力測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の接触圧力測定システムは、体組織内の接触圧力を測定する接触圧力測定システムであって、体組織内の接触圧力を測定する接触圧力測定部と、前記接触圧力測定部が一端に装着され一径が該接触圧力測定部の外径と略同等であり他の一径方向へ展開可能な展開部と、該展開部の他端に接続された保持部とを有する取り回し部と、前記取り回し部が装着された導入部であって、該取り回し部の展開部が測定対象へ展開され且つ該導入部側へ格納される開口部と、該展開部の展開及び格納を操作する操作部とを有するものとを備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、この発明の接触圧力測定システムにおいて、前記接触圧力測定部は、柔軟性を有する絶縁フィルム上に形成された櫛目状の電極2枚で導電性フィルムを挟み込む構造を有し、2枚の各櫛目状の電極を相互に直交させることにより形成されたマトリックス状の交点を測定点とすることができる。
【0009】
ここで、この発明の接触圧力測定システムにおいて、前記導入部は中空の筒内に棒を通した構造を有し、該棒の一端に前記保持部が装着され前記展開部を該保持部に巻き取ることにより全体として前記取り回し部が該保持部を介して該棒に装着され、該棒の他端に該展開部の展開及び格納を操作する操作部が装着され、該取り回し部が装着された一端に対応する該筒の一端に開口部が設けられており、該展開部は該操作部の回転により該保持部から巻き出され該開口部を通して測定対象へ展開され、該展開部は該操作部の逆の回転により該保持部へ該開口部を通して巻き取られて格納されることができる。
【0010】
ここで、この発明の接触圧力測定システムにおいて、前記接触圧力測定部の各電極に接合されたリード線を前記導入部を通して接続した測定システムをさらに備え、該測定システムは前記接触圧力測定部のマトリックス状の測定点の抵抗値をスキャンして該抵抗値を電圧値に変換し、該電圧値と接触圧力との関係を求めることができる。
【0011】
ここで、この発明の接触圧力測定システムにおいて、前記導入部の筒は内視鏡視下手術の際に使用可能な外径を備えることができる。
【0012】
ここで、この発明の接触圧力測定システムにおいて、前記導入部の材料として生体用金属材料を用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の接触圧力測定システムの構成要素は、体組織内の接触圧力を測定する圧力センサと、圧力センサが装着された取り回し部と、取り回し部を体組織内へ導入する導入部と、圧力センサと導入部を通して接続した測定システムとから成っている。圧力センサは、柔軟性を有する絶縁フィルムおよびその上に形成された導電膜、例えば銅張ポリイミドフィルム上に形成された櫛目状の電極(例えば銅電極)2枚で導電性フィルムを挟み込む構造を有している。2枚の各櫛目状の銅電極を相互に直交させることにより形成されたマトリックス状の交点を測定点とする。このため、本発明の接触圧力測定システムによれば、測定点をマトリックス状に多数配置することができ、圧力センサにより測定される測定領域の小さな面に対しても高い分解能による測定が可能であるという効果がある。取り回し部の一径は圧力センサの外径と略同等であるため、圧力センサを生体組織内に挿入するに際し、測定領域よりも広く体組織の切開を行う必要がない。この結果、本発明の接触圧力測定システムによれば、圧力センサによる接触圧力(分布)の測定を、体組織に対して低侵襲的に行うことができるという効果がある。導入部は、取り回し部の展開部が測定対象へ展開され且つ導入部側へ格納されるスリットと、展開部の展開および格納を操作する操作部とから構成されている。取り回し部および導入部を1つのリード部とみなし、低侵襲的に圧力センサを体組織内へ導入することが可能である。この結果、臨床、特に内視鏡視下手術において、圧力センサによる接触圧力(分布)の測定を、体組織に対して低侵襲的に行うことができると共に、生体組織内の接触圧力(分布)を直接測定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の接触圧力測定システムにおける圧力センサ10を示す図である。
【図2(A)】本発明の接触圧力測定システムにおける取り回し部20を示す図である。
【図2(B)】図2(A)に示された取り回し部20の実物写真(スケール付)を示す図である。
【図3(A)】本発明の接触圧力測定システムにおける導入部(センサ導入機構)30を示す図である。
【図3(B)】導入部30で取り回し部20の展開部21が測定対象へ展開された状態を示す実物写真を示す図である。
【図3(C)】導入部30で取り回し部20の展開部21が測定対象から導入部30側へ格納された状態を示す実物写真を示す図である。
【図4】本発明の接触圧力測定システムにおける測定システム40を示す図である。
【図5】較正実験により得られた圧力の出力電圧−圧力特性を示すグラフである。
【図6】微小な個体としてクリップを用いた場合の適用実験1を示す図である。
【図7】接触圧力測定システムを用いて適用実験1の接触圧力分布の測定を行った結果を示す図である。
【図8】微小な個体としてクリップを用いた場合の適用実験2を示す図である。
【図9】接触圧力測定システムを用いて適用実験2の接触圧力分布の測定を行った結果を示す図である。
【図10】微小な個体としてクリップを用いた場合の適用実験3を示す図である。
【図11】接触圧力測定システムを用いて適用実験3の接触圧力分布の測定を行った結果を示す図である。
【図12】体組織内の接触圧力(分布)の測定に用いられた従来の圧力センサを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、各実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の接触圧力測定システムは、生体組織内の接触圧力を測定することを目的とするが、従来のように屍体組織に対しても使用できることは勿論である。以下では、体組織とは生体組織および屍体組織の両方を指すものとする。本発明の接触圧力測定システムの構成要素は、体組織内の接触圧力を測定する圧力センサ(接触圧力測定部)と、圧力センサが装着された取り回し部と、取り回し部を体組織内へ導入する導入部と、圧力センサと導入部を通して接続した測定システムとから成っている。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の接触圧力測定システムにおける圧力センサ10を示す。図1において、符号11aは圧力センサ10の一電極であり、柔軟性を有する絶縁フィルムおよびその上に形成された導電膜(好適には銅張ポリイミドフィルム)の導電膜をウェットエッチング処理により櫛目状に加工し、櫛目状の電極(好適には銅電極)a1〜a5として構成されている。符号12は圧力センサ10の圧力変換素子である導電性フィルムであり、作用圧力に応じて厚さ方向の電気抵抗値が変化する特性を有している。符号11bは圧力センサ10の他の電極であり、柔軟性を有する絶縁フィルムおよびその上に形成された導電膜(好適には銅張ポリイミドフィルム)の導電膜をウェットエッチング処理により櫛目状に加工し、櫛目状の電極(好適には銅電極)b1〜b5として構成されている。以下では、特に混乱がない限り、電極11a、11b全体も櫛目状の電極(好適には銅電極)と呼ぶ。本明細書では、柔軟性を有する絶縁フィルムおよびその上に形成された導電膜の例として銅張ポリイミドフィルムを挙げて説明するが、柔軟性を有する絶縁フィルムおよびその上に形成された導電膜は銅張ポリイミドフィルムに限定されるものではない。同様に、電極の例として銅電極を挙げて説明するが、電極は銅電極に限定されるものではない。図1に示されるように、圧力センサ10は、銅張ポリイミドフィルム上に形成された櫛目状の銅電極a1〜a5、b1〜b5(または櫛目状の銅電極11aおよび11b)の2枚で導電性フィルム12を挟み込む構造を有している。2枚の各櫛目状の銅電極a1〜a5、b1〜b5(または櫛目状の銅電極11aおよび11b)を相互に直交させることにより形成されたマトリックス状の交点を測定点としている。このように測定点をマトリックス状に多数配置することができるため、圧力センサ10により測定される測定領域の小さな面に対しても高い分解能による測定が可能である。
【0018】
図1に示される銅張ポリイミドフィルム(11a、11b)の厚さは好適には85μm、導電生フィルム12の厚さは好適には50μmである。圧力センサ10の厚さは約350μmであり、50×50μmの面積を有する測定点を90μmピッチ(図1の櫛目状の銅電極b4とb5との間隔を参照)で15×15個配置した。圧力センサ10の全体の大きさは1.3×1.3mmであり、この測定領域に225個の測定点を有している。このため、詳細な接触圧力分布の測定が可能である。以上示した数値は一例であって、本発明の接触圧力測定システムにおける圧力センサ10の仕様は上記数値に限定されるものではない。例えば、櫛目状の銅電極b1等とb2等との間隔(ピッチ)は、ウェットエッチング処理により自由に設定できるため、測定点の個数も任意個配置することができる。
【0019】
図2(A)は、本発明の接触圧力測定システムにおける取り回し部20を示す。図2(A)で図1と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図2(A)において、符号21は圧力センサ10が一端Cに装着され一径(図2(A)では短径E)が圧力センサ10の外径と略同等である展開部21である。展開部21は他の一径(図2(A)では長径F)方向へ展開可能となっている。符号22は展開部21の他端Dに接続された保持部である。図2(A)に示されるように、展開部21の長径Fの長さは好適には20mmであり、保持部22の長さ(長径)は好適には33mmである。内視鏡視下手術で圧力サンサ10を使用することを目的として、展開部21はロール状に巻き取り/巻出しができるように設計した。保持部22から見て高さ20mmに装着された圧力センサ10の部分が、後述する導入部側の細い棒にロール状に巻き取り/巻出される形状とした。符号13は図1では示されていないが、櫛目状の銅電極a1等、b1等の各々に接合されたリード線である。血液、関節液の侵入および表面摩擦の低減のため、図1に示した圧力センサ10と図2(A)に示した取り回し部20との全体をマスキングシートで包み込むように封止している。上述したように、取り回し部20の一径(図2(A)では短径E)は圧力センサ10の外径と略同等であるため、圧力センサ10を生体組織内に挿入するに際し、測定領域よりも広く体組織の切開を行う必要がない。このため、圧力センサ10による接触圧力(分布)の測定を、体組織に対して低侵襲的に行うことができる。
【0020】
図2(B)は、図2(A)に示された取り回し部20の実物写真(スケール付)である。図2(B)に示されるように、展開部21の短径Eは約5mmとなっており、保持部22の短径は約5mmである。以上示した数値は一例であって、本発明の接触圧力測定システムにおける取り回し部20の仕様は上記数値に限定されるものではない。
【0021】
図3(A)は、本発明の接触圧力測定システムにおける導入部(センサ導入機構)30を示す。図3(A)で、符号31は中空の筒であり、内視鏡視下手術の際に使用可能な大きさである短径5mm程度、長径150mm程度のサイズが好適である。符号32は取り回し部20の展開部21が測定対象へ展開され且つ導入部30側へ格納されるスリット(開口部)である(詳細は後述する図3(B)および3(C)の説明で示す。)。符号33は展開部21の展開および格納を操作する操作部であり、短径5mm程度、長径30mm程度のサイズが好適である。導入部30の材料としては、生体親和性が高く生体内で使用しても生体に影響がない生体用金属材料が好適であり、例えばチタン、チタン合金、ステンレス、コバルトクロム合金等が好適である。
【0022】
図3(B)は、導入部30で取り回し部20の展開部21が測定対象へ展開された状態を示す実物写真を示し、図3(C)は、導入部30で取り回し部20の展開部21が測定対象から導入部30側へ格納された状態を示す実物写真を示す。図3(B)、3(C)で図2(A)、2(B)、3(A)と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。導入部30は中空の筒31内に細い棒(不図示)を挿入した構造を有しており、この細い棒の一端(図3(B)では左端)に保持部22が装着され、展開部21を保持部22にロール状に巻き取る(丸める)ことにより全体として取り回し部20が保持部22を介して細い棒に巻き付けられている。この細い棒の他端(図3(B)では右端)には展開部21の展開および格納を操作する操作部33(図3(A)参照)が装着され、取り回し部20が装着された一端(図3(B)では左端)に対応する筒31の一端(同左端)にスリット32が設けられている。図3(B)に示されるように、スリット32のサイズは幅0.5mm、長さ8mmが好適である。図3(B)に示されるように、展開部21は操作部33の回転により保持部22から巻き出されスリット32を通して測定対象(図3(B)では上部)へ展開される。図3(C)に示されるように、展開部21は操作部33の逆の回転により保持部22へスリット32を通して巻き取られて格納される。以上示した数値は一例であって、本発明の接触圧力測定システムにおける導入部30の仕様は上記数値に限定されるものではない。導入部30を用いることにより、内視鏡視下手術中に、体組織中の所望の位置に圧力センサ10を導入し、体組織内の接触圧力を直接測定することができる。上述した取り回し部20および導入部30を1つのリード部とみなし、低侵襲的に圧力センサ10を体組織内へ導入することが可能である。つまり、圧力センサ10を生体組織内に挿入するに際し、測定領域よりも広く体組織の切開を行う必要がない。この結果、臨床、特に内視鏡視下手術において、圧力センサ10による接触圧力(分布)の測定を、生体組織に対して低侵襲的に行うことができると共に、生体組織内の接触圧力(分布)を直接測定することができる。
【0023】
図4は、本発明の接触圧力測定システムにおける測定システム40を示す。図4で図1および図2(A)と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。測定システム40は、圧力センサ10各櫛目状の銅電極a1等に接合されたリード線13を導入部30を通して接続したものである。図4において、符号41はリレーボードであり、導電性フィルム12上面の櫛目状の銅電極11aの1本(a1等:マトリックスの列)を選択する。選択された櫛目状の銅電極a1等に電流が供給され、導電性フィルム12の抵抗変化に応じた電圧が対面する櫛目状の銅電極11bから出力される。導電性フィルム12下面の櫛目状の銅電極11bを測定回路であるマルチプレクサ(測定回路)42により1本ずつ(b1等:マトリックスの行)順次選択し、両面の櫛目状の銅電極11aおよび11bが形成する交点(a1とb1等)の抵抗値をスキャンする。測定回路42からのデータはA/Dコンバータ43を介してパーソナルコンピュータPC44へ出力され処理される。PC44はリレーボード41、A/Dコンバータ43、測定回路42の制御を行い、測定データの処理(上記スキャンした抵抗値を電圧値に変換し、この電圧値と接触圧力との関係を求める処理)を行う。
【0024】
図4に示されるようにセンサ駆動回路に反転増幅回路を用いることにより、帰還抵抗の調整で接触圧力の感度をある程度設定することができる。図4に示されるように、選択されたリレーボード41側電極の1本に電圧Vccが作用するようになっており、選択されない電極は全て電圧がGNDに落ちるように構成されている。一方、測定回路42側では全ての電極が反転増幅回路によりGNDとイマジナリショートしている。このため、選択していない電極による回り込み回路による干渉を排除することができる。
【0025】
較正実験.
圧力センサ10からの電気信号を圧力値へ変換するためには、圧力とそれに対する抵抗値との関係をあらかじめ調べておく必要がある。発明者は以下のように較正実験を行った。まず圧力センサ10を2枚のテフロン(登録商標)シートで挟み、その両面を柔軟性を有するスポンジゴムで挟み込む。この状態で同直径の治具を介して万能材料試験機により圧縮する。図5は、以上のようにして得られた圧力の出力電圧−圧力特性を示す。図5で、横軸は接触圧力[kPa]、縦軸は出力電圧[V]である。図5に示されるように、接触圧力の増加に伴い、出力電圧が増加することがわかる。
【0026】
適用実験1.
次に、微小な個体を圧力センサ10に押し付けて接触圧力分布を測定する適用実験を行った。図6は微小な個体としてクリップを用いた場合の適用実験1を示す。図6で図1、2(A)、3(A)とおなじ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図6において、符号50は指先、51はクリップである。図6に示されるように、展開部21が筒31のスリット32から展開された状態で、クリップ51を圧力センサ10に指先50で押し付けた。図7(A)は、上述した接触圧力測定システムを用いて適用実験1の接触圧力分布の測定を行った結果を示す。当該結果はPC44による測定データの処理結果である。図7(A)で、接触圧力の強弱は濃淡により示されている。図7(B)は図7(A)の濃淡を具体的な圧力[kPa]で示す。図7(A)に示されるように、クリップ10の円弧形状を捉えることができ、詳細な接触圧力分布を計測することができた。
【0027】
適用実験2.
図8は、微小な個体としてクリップを用いた場合の適用実験2を示す。図8で図1、2(A)、3(A)、6とおなじ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図8も図6と同様に、展開部21が展開された状態で、クリップ51を圧力センサ10に指先50で押し付けた。図9(A)は、上述した接触圧力測定システムを用いて適用実験2の接触圧力分布の測定を行った結果を示す。図9(A)および(B)の表示方法は図7(A)および(B)と同様であるため、説明は省略する。図9(A)に示されるように、クリップ10の円弧形状を捉えることができ、詳細な接触圧力分布を計測することができた。
【0028】
適用実験3.
図10は、微小な個体としてクリップを用いた場合の適用実験3を示す。図10で図1、2(A)、3(A)、6とおなじ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図10も図6と同様に、展開部21が筒31のスリット32から展開された状態で、クリップ51を圧力センサ10に指先50で押し付けた。図11(A)は、上述した接触圧力測定システムを用いて適用実験3の接触圧力分布の測定を行った結果を示す。図11(A)および(B)の表示方法は図7(A)および(B)と同様であるため、説明は省略する。図11(A)に示されるように、クリップ10の円弧形状を捉えることができ、詳細な接触圧力分布を計測することができた。
【0029】
以上より、本発明の実施例1によれば、本発明の接触圧力測定システムの構成要素は、体組織内の接触圧力を測定する圧力センサ10と、圧力センサ10が装着された取り回し部20と、取り回し部20を体組織内へ導入する導入部30と、圧力センサ10と導入部30を通して接続した測定システム40とから成っている。圧力センサ10は、銅張ポリイミドフィルム上に形成された櫛目状の銅電極a1〜a5、b1〜b5(または櫛目状の銅電極11aおよび11b)の2枚で導電性フィルム12を挟み込む構造を有している。2枚の各櫛目状の銅電極a1〜a5、b1〜b5(または櫛目状の銅電極11aおよび11b)を相互に直交させることにより形成されたマトリックス状の交点を測定点とする。以上のように測定点をマトリックス状に多数配置することができ、圧力センサ10により測定される測定領域の小さな面に対しても高い分解能による測定が可能である。取り回し部20は、圧力センサ10が一端Cに装着され一径(図2(A)では短径E)が圧力センサ10の外径と略同等であり、他の一径(図2(A)では長径F)方向へ展開可能となっている展開部21と、展開部21の他端Dに接続された保持部22とから構成されている。取り回し部20の一径(図2(A)では短径E)は圧力センサ10の外径と略同等であるため、圧力センサ10を生体組織内に挿入するに際し、測定領域よりも広く体組織の切開を行う必要がない。この結果、圧力センサ10による接触圧力(分布)の測定を、生体組織に対して低侵襲的に行うことができる。導入部(センサ導入機構)30は、取り回し部20の展開部21が測定対象へ展開され且つ導入部30側へ格納されるスリット32と、展開部21の展開および格納を操作する操作部とから構成されている。導入部30は中空の筒31内に細い棒(不図示)を挿入した構造を有しており、この細い棒の一端(図3(B)では左端)に保持部22が装着され、展開部21を保持部22にロール状に巻き取る(丸める)ことにより全体として取り回し部20が保持部22を介して細い棒に巻き付けられている。この細い棒の他端(図3(B)では右端)には展開部21の展開および格納を操作する操作部33(図3(A)参照)が装着され、取り回し部20が装着された一端(図3(B)では左端)に対応する筒31の一端(同左端)にスリット32が設けられている。展開部21は操作部33の回転により保持部22から巻き出されスリット32を通して測定対象(図3(B)では上部)へ展開される。展開部21は操作部33の逆の回転により保持部22へスリット32を通して巻き取られて格納される。取り回し部20および導入部30を1つのリード部とみなし、低侵襲的に圧力センサ10を体組織内へ導入することが可能である。この結果、臨床、特に内視鏡視下手術において、圧力センサ10による接触圧力(分布)の測定を、生体組織に対して低侵襲的に行うことができると共に、生体組織内の接触圧力(分布)を直接測定することができる。測定システム40は、圧力センサ10各櫛目状の銅電極a1等に接合されたリード線13を導入部30を通して接続したものである。リレーボード41は導電性フィルム12上面の櫛目状の銅電極11aの1本(a1等:マトリックスの列)を選択する。選択された櫛目状の銅電極a1等に電流が供給され、導電性フィルム12の抵抗変化に応じた電圧が対面する櫛目状の銅電極11bから出力される。導電性フィルム12下面の櫛目状の銅電極11bを測定回路であるマルチプレクサ(測定回路)42により1本ずつ(b1等:マトリックスの行)順次選択し、両面の櫛目状の銅電極11aおよび11bが形成する交点(a1とb1等)の抵抗値をスキャンする。測定回路42からのデータはA/Dコンバータ43を介してパーソナルコンピュータPC44へ出力され処理される。PC44はリレーボード41、A/Dコンバータ43、測定回路42の制御を行い、測定データの処理(上記スキャンした抵抗値を電圧値に変換し、この電圧値と接触圧力との関係を求める処理)を行う。以上のようにして、本発明の接触圧力測定システムによれば、臨床における圧力センサによる接触圧力(分布)の測定を、体組織に対して低侵襲的に行うことができる。さらに、内視鏡視下手術において生体組織内の接触圧力(分布)を直接測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の活用例として、人間の膝関節、肩関節、肘関節における接触圧力の測定に適用することができる。加えて、血管に挿入するステントと血管との間の接触圧力の測定等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 圧力センサ、 11a、11b 櫛目状の銅電極、 12 導電性フィルム、 13 リード線、 20 取り回し部、 21 展開部、 22 保持部、 30 導入部、 31 筒、 32 スリット、 33 操作部、 40 測定システム、 41 リレーボード、 42 マルチプレクサ(測定回路)、 43 A/Dコンバータ、 44 PC、 50 指先、 51 クリップ。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】Liau, J. J., Hu, C. C., Cheng, C. K., Huang, C. H. and Lo, W. H.,The Influence of Inserting a Fuji Pressure Sensitive Film Between the Tibiofemoral Joint of Knee Prosthesis on Actual Contact Characteristics,Clinical Biomechanics, Vol. 16, (2001), pp.160-166.
【非特許文献2】Wilson, D. R., Apreleva, M. V., Eicheler, M. J. and Harrold, F. R.,Accuracy and Repeatability of Pressure Measurement System in the PatellofemoralJoint, Journal of Biomechanics, Vol. 36, (2003), pp.1909-1915.
【非特許文献3】Hara, T., Sasagawa, K.,Nakabe, N., Koga, Y. and Kanaya, K., Dynamic Measurement System for Contact Pressure Distribution in Human Joints Utilizing Pressure Sensitive Conductive Rubber, Transactions of the Japan Society of Mechanical Engineers, Series A,Vol. 58, No. 551 (1992), pp.1154-1159.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体組織内の接触圧力を測定する接触圧力測定システムであって、
体組織内の接触圧力を測定する接触圧力測定部と、
前記接触圧力測定部が一端に装着され一径が該接触圧力測定部の外径と略同等であり他の一径方向へ展開可能な展開部と、該展開部の他端に接続された保持部とを有する取り回し部と、
前記取り回し部が装着された導入部であって、該取り回し部の展開部が測定対象へ展開され且つ該導入部側へ格納される開口部と、該展開部の展開及び格納を操作する操作部とを有するものとを備えたことを特徴とする接触圧力測定システム。
【請求項2】
請求項1記載の接触圧力測定システムにおいて、前記接触圧力測定部は、柔軟性を有する絶縁フィルム上に形成された櫛目状の電極2枚で導電性フィルムを挟み込む構造を有し、2枚の各櫛目状の電極を相互に直交させることにより形成されたマトリックス状の交点を測定点とすることを特徴とする接触圧力測定システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の接触圧力測定システムにおいて、前記導入部は中空の筒内に棒を通した構造を有し、該棒の一端に前記保持部が装着され前記展開部を該保持部に巻き取ることにより全体として前記取り回し部が該保持部を介して該棒に装着され、該棒の他端に該展開部の展開及び格納を操作する操作部が装着され、該取り回し部が装着された一端に対応する該筒の一端に開口部が設けられており、
該展開部は該操作部の回転により該保持部から巻き出され該開口部を通して測定対象へ展開され、該展開部は該操作部の逆の回転により該保持部へ該開口部を通して巻き取られて格納されることを特徴とする接触圧力測定システム。
【請求項4】
請求項2又は3記載の接触圧力測定システムにおいて、前記接触圧力測定部の各電極に接合されたリード線を前記導入部を通して接続した測定システムをさらに備え、該測定システムは前記接触圧力測定部のマトリックス状の測定点の抵抗値をスキャンして該抵抗値を電圧値に変換し、該電圧値と接触圧力との関係を求めることを特徴とする接触圧力測定システム。
【請求項5】
請求項3又は4記載の接触圧力測定システムにおいて、前記導入部の筒は内視鏡視下手術の際に使用可能な外径を備えたことを特徴とする接触圧力測定システム。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の接触圧力測定システムにおいて、前記導入部の材料として生体用金属材料を用いることを特徴とする接触圧力測定システム。




【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【図3(C)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−34790(P2012−34790A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176710(P2010−176710)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本機械学会東北支部第45期総会・講演会、社団法人日本機械学会東北支部主催、平成22年3月12日開催
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、重点地域研究開発推進プログラム(シーズ発掘試験)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】