説明

推進函、トンネルおよび大断面トンネルと、トンネルおよび大断面トンネルの施工方法

【課題】直線区間と複数の曲率半径からなる曲線区間から構成されるトンネルを経済的に施工することができる推進函、トンネルおよび大断面トンネルと、トンネルおよび大断面トンネルの施工方法を提供する。
【解決手段】貫通孔12を有する推進函1において、該貫通孔12の延設方向から見た推進函1の正面視形状が矩形または正方形であり、正面視に直交する推進函1の側面視形状が六角形状であり、この六角形状は、上辺13aと、上辺13aに並行又は略並行な下辺13bと、屈曲する2つの辺部13c1,13c2からなる左右2つの側辺13c,13cとから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル構築用の推進函と、該推進函を所定の線形に沿って接続させてなるトンネルと、複数の該トンネルを小断面トンネルとして所定の輪郭を形成するように併設施工し、該輪郭の内部にて構築される大断面トンネル、該トンネルおよび大断面トンネルの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、地下道やアンダーパス、地下鉄路線などに適用される地下トンネルの大断面化が盛んになるとともに、大深度地下利用法に後押しされるように大規模地下空間への需要が益々高まっている。大断面トンネルの構築方法は多岐に亘るが、例えば、断面視矩形または正方形の小断面トンネルを併設施工することによって大断面トンネルの外郭部を形成し、大断面の本設トンネルに不要な小断面トンネル部材を撤去する方法や、小断面トンネルにて形成された輪郭内部を掘削する方法により、所望の寸法および空間形状の大断面トンネルを構築する方法が一般的な方法である。また、発進立坑と到達立坑の間に角鋼管を閉合するように元押し/牽引し、この閉合空間を掘削して大断面のトンネルを構築する方法や、パイプルーフを先行施工し、その下部に大断面トンネルを構築する方法などがあり、これらの工法は一般にエレメント推進工法と呼ばれている。
【0003】
エレメント推進工法による大断面トンネルの構築方法を図9に模式的に示している。このエレメント推進工法の適用に際しては、トンネルの線形(縦断線形および平面線形)が直線であることが前提となる。したがって、図9aに示すような曲線線形のアンダーパスaを構築する際にエレメント推進工法(例えば角鋼管b1’は発進立坑c1から到達立坑c2へ推進される)を適用する場合には、該アンダーパス空間を収容する大きめの直線トンネルb1を構築する必要が生じ、極めて不経済な施工となる。この直線トンネルb1は、図9bに示すように断面視正方形(または矩形)の複数の角鋼管b1’、b1’、…がアンダーパスaを収容可能な大断面の矩形状の外郭部を形成するように推進(および牽引)施工される。しかし、図からも明らかなように、アンダーパスaに比して不要に大きな外郭部を形成せざるを得ず、極めて不経済な施工となることは必至である。
【0004】
それに対して、上記するように、小断面トンネルを併設施工し、その内部に大断面のトンネルを構築する場合には、1つの曲率を有する曲線区間と直線区間を連結することにより、図10に示すように、トンネル線形に近似した外郭部を形成することができる。図10は、図9と同様に大断面のアンダーパスaの構築方法の概要を説明したものであるが、発進立坑c1から到達立坑c2へ小断面の推進函b2”、…、b2’、…を推進施工し、その内部にアンダーパスaを構築するものである。従来のシールド工法または推進工法では、直線区間L1ではストレートタイプの推進函b2”(またはセグメント)が使用され、曲線区間では単一のテーパータイプの推進函b2’(またはセグメント)が使用されることにより、曲線線形を有するトンネルに対応していた。しかし、ストレートタイプとテーパータイプの組み合わせには図10にも示すように多様な曲率を再現することはできず、所望の曲率に近い線形を形成するのが限界であって、少なからずも不要な掘削領域や不要な先行施工トンネル部分eの発生を許容せざるを得ない状況であった。かかる余分な掘削領域や不要な先行施工トンネル部分の発生は、トンネルが大断面化するとともにトンネル延長が長くなるにしたがって全体工費に大きく影響してくることから、かかる不要な施工領域等の発生を防止することが急務の課題となっていた。なお、小断面トンネルを併設施工し、その内部に大断面のトンネルを構築する施工方法として、例えば本出願人による鋭意研究の結果発案された特許文献1に開示の技術を挙げることができる。かかる特許文献1に開示の技術によっても、上記の課題の解決には至らない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−218333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、直線区間と曲線区間からなる線形のトンネルを経済的に構築することのできる推進函と、該推進函を使用してなるトンネルまたは大断面トンネル、該トンネルと大断面トンネルの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による推進函は、貫通孔を有する推進函において、該貫通孔の延設方向から見た該推進函の正面視形状が矩形または正方形であり、該正面視に直交する該推進函の側面視形状が六角形状であり、該六角形状は、上辺と、該上辺に並行又は略並行な下辺と、屈曲する2つの辺部からなる左右2つの側辺と、から構成されていることを特徴とする。
【0008】
推進函は、貫通孔を有する角柱体からなり、その断面寸法や厚み(長さ)は任意に設定できる。また、その素材は、例えば鋼製、鋼とコンクリートの合成構造などからなる。
【0009】
また、推進函の正面視形状(貫通孔の延設方向から見た形状)は正方形または矩形であり、それに直交する側面視形状は六角形状となっている。
【0010】
上記する側面視六角形状は、並行または略並行な2辺(上辺と下辺)と、この2辺を左右で繋ぐ側辺からなり、この側辺はその途中で屈曲する2つの辺部からそれぞれ構成されている。例えば、左右の側辺のうち、上辺に接続する2つの辺部が該上辺から所定の角度で開くように延設し、下辺に接続する2つの辺部も同様の角度で該下辺から開くように延設し、上方および下方の辺部同士が側辺の中央にて繋がることにより、屈曲する側辺を形成するような形態などがある。
【0011】
トンネルの長手方向に複数の推進函同士をその貫通孔を連通するように接続しながら推進施工する場合であって、上記する形態の推進函を使用する場合には、トンネルの直線区間では、側辺の屈曲部同士を当接させ、その上下に形成される推進函同士の隙間を任意の接続部材で繋ぐことにより、この接続部材で推力を伝達させながら直線区間の推進施工がおこなわれる。この接続部材は、隣接する推進函を構成する主桁間を繋ぐねじ込み式のボルトや、棒部材の両端部がテーパー状の楔体からなり、双方の主桁にかかる楔体が嵌め合いできる形態など、適宜の部材を適用することができる。
【0012】
一方、曲線区間では、その線形に応じて上下いずれかの辺部同士を当接させることにより、他方の辺部では直線区間に比して推進函同士の隙間が大きくなり、この隙間を任意の接続部材で繋ぐことにより、曲線区間への推進函の推進施工がおこなわれる。推進工法の場合には、トンネルの長手方向に接続された複数の推進函が直線区間と曲線区間に亘って押出されることとなるが、直線区間で推進函同士を繋いでいた接続部材を、曲線区間への移行に伴って適宜取り外し、曲線区間で隙間が形成される箇所に接続部材を盛り替えながら押出すことにより、効率的な推進施工が実現できる。
【0013】
上記するように、本発明の形態の推進函によれば、一つの形状(および寸法)の推進函を製造し、この推進函を繋いでいくことにより、直線区間および曲線区間を有するトンネル線形(縦断線形、平面線形)に追従しながら推進施工することができる。したがって、従来のように、直線区間用の推進函と曲線区間用の推進函を製造する必要がなく、製造コストの大幅な削減を図ることが可能となる。また、一種類の推進函を製造するのみでよいことから、その製造コストの低減に加えて、トンネル施工時の施工効率も高くなり、工期の短縮に繋がる。
【0014】
なお、所定長さのトンネルにおいて設けられる曲線区間は、複数の曲率からなる場合が一般的である。この場合、本発明の推進函を使用することにより、予め六角形状の側辺の角度を曲率半径の小さな曲線区間に対応できるように推進函を製造しておくことで、すべての曲線区間に対応することが可能となる。また、多様な曲率半径を有する曲線区間に対しては、ボルト等の接続部材が主桁等に螺合される長さを適宜に調整することにより、隣接する推進函同士の離隔長に応じて接続部材の長さが調整されるため、計画線形に沿った精度のよい推進施工を実現することができる。本発明の推進函によれば、計画されたトンネル線形に追従するように各推進函を設置していくことができるため、図10に示すような不要な掘削領域やトンネル施工部分の発生を防止することが可能となる。
【0015】
ここで、本発明の推進函を繋いで地中にトンネルを構築する方法は、掘進機にて地盤を切削しながら推進函を立坑等から地中に押出すことによってトンネルを構築する既述の推進工法や、地中にてセグメントを周方向に組付けて推進函を構成し、この推進函を地中に設置していくシールド工法などを適用できる。ここで、使用する掘進機は、正方形または矩形断面のトンネルを構築でき、かつ、線形が曲線のトンネルを構築可能な公知の中折れ構造の掘進機が好ましい。この矩形断面掘進機の前方掘削面には、例えば揺動式または遊星式のカッタースポークが1つ(1組)もしくは複数設けられており、正方形もしくは矩形断面の切削が可能となっている。また、該カッタースポークの先端には、外部へ伸縮自在なオーバーカッタを装備することで、未掘削領域の発生を確実に防止することができる。
【0016】
また、本発明による推進函の他の実施の形態は、前記推進函において、左右2つの側辺がともに、前記上辺または前記下辺の一方から該上辺および下辺に直交する辺部を有していることを特徴とする。
【0017】
本発明の推進函は、大きく2つの実施の形態からなる。その一つの実施の形態は、例えば、六角形状の側面の側辺において、下辺と繋がる左右2つの辺部がともに、該下辺または上辺と直交し、上辺と繋がる左右2つの辺部は上辺および下辺に対して90度以外の所定の角度にて繋がる実施の形態である。なお、この実施の形態では、上辺と繋がる左右2つの辺部が該上辺および下辺と直交し、下辺と繋がる左右2つの辺部は上辺および下辺に対して90度以外の所定の角度にて繋がる実施の形態をも含むものである。すなわち、この実施の形態では、左右2つの側辺を構成する辺部(左右それぞれ2つの辺部からなる)のうち、対向する左右の辺部の一方(の組み合わせ)が上辺および下辺に対して直交するとともに、他方の組み合わせが上辺および下辺に対して90度以外の所定の角度となっている実施の形態(六角形状が下方の矩形面と、その上方の等脚台形とから構成される形態)である。
【0018】
一方、他の実施の形態は、例えば、左側の側辺のうちの下辺と繋がる辺部、および、右側の側辺のうちの上辺と繋がる辺部がともに上辺または下辺と直交し、残りの辺部が上辺および下辺に対して90度以外の所定の角度にて繋がる実施の形態である。すなわち、この実施の形態では、左右2つの側辺を構成する辺部のうち、側面の中心に対して点対称の位置関係にある左右の辺部の一方(の組み合わせ)が上辺および下辺に対して直交するとともに、他方の組み合わせが上辺および下辺に対して90度以外の所定の角度となっている実施の形態である。
【0019】
この実施の形態のメリットを、下辺と繋がる左右2つの辺部がともに、該下辺および上辺と直交し、上辺と繋がる左右2つの辺部は上辺および下辺に対して90度以外の所定の角度にて繋がる実施の形態を例に説明する。
【0020】
トンネルの直線区間では、上辺および下辺と直交する左右2つの辺部を当接させ、側辺の上方にてできた隙間を跨ぐ接続部材を介して隣接する推進函同士を接続する。直線区間では、推進工法にて推進函に推力が作用するに際し、該推力の大半が推進函同士の当接面を介して伝達されることとなり、残りの推力は接続部材を介して伝達される。推力の大半が推進函の壁を介して伝達されることによって、接続部材に作用する外力(推力)を可及的に低減できるため、接続部材の本数低減、仕様(圧縮性能、曲げ性能など)のランク低減を実現することができ、スムーズな推力伝達メカニズムを形成することができる。
【0021】
一方、トンネルの曲線区間(例えば右肩上がりの縦断線形を有する曲線区間)では、上方に形成されていた隙間を解消するように上方の辺部同士を当接させる(同時に、下方の辺部間に隙間が生じる)。今度は、側辺の下方にてできた隙間を跨ぐ接続部材を介して隣接する推進函同士を接続する。かかる曲線区間においても、推進工法における推力の大半を推進函同士の当接面を介して伝達することができる。また、直線区間で使用した接続部材は曲線区間への移行に際して新たに形成された隙間を跨ぐように隣接推進函同士を繋ぐ部材として盛り替え使用することができる。
【0022】
また、縦断線形が直線区間と、曲線区間、直線区間が連接してなるS字形状の場合には、六角形状の側面において、左側の側辺のうちの下辺と繋がる辺部、および、右側の側辺のうちの上辺と繋がる辺部がともに上辺および下辺と直交し、残りの辺部が上辺および下辺に対して90度以外の所定の角度にて繋がる既述の形態の推進函を使用することにより、かかる線形に対応可能となる。例えば、左側から、直線(水平)区間、右肩上がりの曲線区間、直線(水平)区間からなる縦断線形のトンネルにおいて、左側の直線区間から曲線区間途中の変曲点までは、下方に形成される隙間を跨ぐように接続部材にて推進函同士を接続するとともに、推進函上方の壁面同士が当接する。一方、該変曲点から右側の直線区間までは上方に形成される隙間を跨ぐように接続部材にて推進函同士を接続し、推進函下方の壁面同士が当接する。このように、本発明の推進函を使用すれば、一種類のみの推進函を繋ぐことによって、直線区間〜曲線区間〜直線区間にて形成されるS字形状の線形をはじめとする任意の線形に追従可能となる。また、曲線区間が複数の曲率半径から構成される場合でも、隙間の長さを調整することによって線形への追従が可能となる。この場合には、既述するように、隙間を跨ぐ接続部材の長さも適宜に調整される。なお、平面的(水平面)に任意線形の曲線区間を有するトンネルに対しては、推進函の六角形状の側面が上下方向(水平面)となるようにして推進函同士を繋ぐことにより、任意の平面線形に対応することが可能となる。
【0023】
また、上記するトンネルにおいて、推進函同士の少なくとも隙間には、隙間の少なくとも一部を閉塞する閉塞部材を介在させることが好ましい。この閉塞部材は、例えば推進工法において推力を伝達するための推力伝達フォームなどである。この推力伝達フォームとしては、市販のセンプラリング(登録商標)を使用することができ、隣接する推進函と対向または当接する推進函の壁面(貫通孔を囲繞する壁面)に接着される。さらに、シリコンゴム、エチレンプロピレン共重合ゴム、クロロプレンゴムなどの素材からなるガスケット材料を上記する貫通孔を囲繞する壁面に壁面線形に沿って接着等することにより、推進函接続部の止水性を確保することができる。
【0024】
また、本発明による大断面トンネルは、複数の前記トンネルが、隣接するトンネルの一側面と当接または対向した姿勢で、かつ、トンネルの長手方向に直交する断面において所定の輪郭を形成するように併設設置されており、該輪郭の内部に相対的に大断面のトンネルが構築されることを特徴とする。
【0025】
計画線形に沿って上記する推進函からなる所定延長のトンネルを構築するとともに、このトンネルの長手方向に直交する断面において、相対的に大断面のトンネルを構築するに際し、例えば、大断面トンネルの外郭の輪郭線に沿うように複数のトンネルが構築され、隣接する小断面トンネルを利用しながら構築される大断面トンネルに関するものである。本発明の大断面トンネルは、例えば、出願人等によって鋭意研究された地下立体交差の施工技術である、いわゆる、ハーモニカ工法に適用することができる。例えば、前記推進函からなる小断面トンネルを5基程度水平方向に併設施工するとともにその上方または下方にも同基数の小断面トンネルを施工して合計10基程度のトンネルを施工し、推進函の側壁や床版、主桁等を適宜撤去しながら大断面のアンダーパスを構築することができる。
【0026】
本発明の大断面トンネルは、直線区間と曲線区間(この曲線区間は、複数の曲率半径からなる区間やクロソイド曲線などであってもよい)からなる任意の線形の小断面トンネルを適宜に隣接施工することによって構築することができるため、従来のように単に断面が大断面のトンネルというのみならず、大断面であってかつ曲線区間と直線区間からなる任意線形のトンネルを経済的に構築することが可能となる。なお、小断面トンネルの構築に際しては、2以上の中折れ式掘進機を適用して2以上の小断面トンネルを同時施工することにより、工期を短縮できることは勿論のことである。
【0027】
また、本発明によるトンネルの施工方法は、直線区間と曲線区間を有するトンネルを施工するトンネルの施工方法であって、前記推進函の間に形成される隙間を跨ぐ接続部材によって推進函同士を接続するとともに、推進函同士の接続面には少なくとも推力伝達フォームを介在させ、隣接する推進函の間に形成される隙間が直線区間と曲線区間で変化した場合に、隙間が形成された箇所に接続部材を盛り替えながら推進施工をおこなうことを特徴とする。かかる施工方法により、任意線形のトンネルを極めて効率的に施工することが可能となる。さらに、本発明による大断面トンネルの施工方法は、上記するトンネルの施工方法によって直線区間と曲線区間を有する複数の小断面トンネルを、トンネルの長手方向に直交する断面において所定の輪郭を形成するように併設施工し、該輪郭の内部に相対的に大断面のトンネルを施工することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0028】
以上の説明から理解できるように、本発明の推進函と該推進函からなるトンネル、およびその施工方法によれば、直線区間と複数の曲率半径からなる曲線区間から構成されるトンネルを経済的に施工することができる。また、上記するトンネルを併設施工して所定の輪郭を形成し、該輪郭内に構築される大断面トンネルによれば、断面規模が大断面であることのみならず、任意線形の大断面トンネルを経済的に構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の推進函の一実施の形態を示した斜視図を、図2は、図1の推進函を連接させて直線区間〜曲線区間へ推進させる施工方法の一実施の形態を説明した図であって、図2aはトンネルの直線区間を推進函が推進している状況を説明した図であり、図2bはトンネルの曲線区間を推進函が推進している状況を説明した図である。図3は、図2aのIII部の拡大図を、図4は、適用される中折れ式の掘進機の一実施の形態を示した斜視図をそれぞれ示している。図5は、図2の施工方法と対比するための施工方法の参考形態であり、図5aはトンネルの直線区間を推進函が推進している状況を説明した図であり、図5bはトンネルの曲線区間を推進函が推進している状況を説明した図である。図6は、推進函の他の実施の形態を使用してなるトンネルの施工方法の他の実施の形態を説明した図であって、図6aはトンネルの直線区間を推進函が推進している状況を説明した図であり、図6bはトンネルの曲線区間を推進函が推進している状況を説明した図であり、図7は、トンネルの施工方法のさらに他の実施の形態を説明した図であって、図7aはトンネルの直線区間を推進函が推進している状況を説明した図であり、図7bはトンネルの曲線区間を推進函が推進している状況を説明した図である。図8は、本発明の大断面トンネルの施工方法を説明した図である。なお、図示するトンネルの実施の形態では、トンネルの縦断線形が直線区間と曲線区間からなる実施の形態であるが、トンネルの平面線形がかかる線形であってもよいことは勿論のことである。
【0030】
図1は、推進函の一実施の形態を示した斜視図である。この推進函1は、隣接する別途の推進函1と対向するとともに貫通孔12が設けられた正面壁11,11と、側面視が六角形状の側壁13,13と、上壁14、下壁15とから構成されている。この推進函1は、鋼製(鋼殻)または鋼とコンクリートとの合成構造からなる。
【0031】
正面壁11の平面形状は正方形もしくは矩形である。また、六角形状の側壁13は、並行もしくは略並行な上辺13aと下辺13bと、下辺13bに直交する左右の辺部13c2,13c2、この辺部13c2から角度θ1にて上辺13aまで延びる辺部13c1,13c1とから構成される。隣接する推進函1,1同士の接続に際しては、この側壁13の側辺13が、辺部13c1と該辺部13c1に角度θ1で屈曲する辺部13c2とからなる形態であるため、後述するように任意の曲率半径の曲線区間に追従することができる。
【0032】
正面壁11は、側壁13の辺部13c1,13c2の屈曲形状に応じてその途中で屈曲する2つの面11a,11bから構成される。この面11a,11bの双方には推力伝達フォーム3,3,…が接着されており、隣接する推進函1,1間で形成される少なくとも隙間部分にこの推力伝達フォーム3が介在し、推進施工時の推力の伝達がおこなわれるようになっている。トンネルの線形に応じて、隙間の形成される面は面11aと面11bの間で変化するため、図示するように、双方の面の少なくとも一部分に推力伝達フォーム3を接着しておくのが望ましい。この推力伝達フォーム3は、隣接する推進函1,1双方の対向する正面壁11,11にて弾性変形もしくは塑性変形しながら潰されて推力伝達をおこなう。
【0033】
正面壁11には、さらに、貫通孔12を囲繞するように無端の止水用のガスケット材2が接着されている。
【0034】
図2は、推進函1,1,…を連接させて直線区間〜曲線区間へ推進させる施工方法の一実施の形態を説明した図であり、図2aはトンネルの直線区間を推進函が推進している状況を説明しており、図2bはトンネルの曲線区間を推進函が推進している状況を説明している。直線区間においては、側壁13を構成する辺部13c1が上方となるように各推進函1,1,…が推進し、この際に隣接する辺部13c1,13c1間に隙間cが形成される。この隙間cを跨ぐ接続部材のボルト4が双方の推進函1,1同士を接続し、推力の一部が隣接する推進函1へ伝達される。
【0035】
図3は、推進函同士の接続部の拡大図である。ボルト4にはその両端部に螺子きり41,41が形成されており、この螺子きり41が推進函1の主桁16に穿設された孔に螺合され、主桁16の裏面にてナット42にて締め付けられる。このナット42と主桁16の間には、不図示のワッシャが介在しているのが好ましく、主桁同士が並行でない場合には楔状のワッシャを使用するのがよい。螺子きり41を螺合調整することにより、任意の隙間長さにボルト長を調整することができる。なお、接続部材の実施の形態は、図示するボルト以外にもその両端部が楔状に成形され、主桁に嵌め合い接合される形態などであってもよい。また、隙間を跨ぐボルト4以外にも、当接する主桁間を別途のボルト61がワッシャ62を介してナット締めされることにより、隣接する推進函1,1の強固で止水性に優れた接続がおこなわれる。
【0036】
図2aに戻り、隣接する推進函1,1間の隙間cには不図示の推力伝達フォーム3とガスケット材2が介在するとともに、ボルト4が主桁同士を接続する。ここで、推進工法にて推進函1を前方へ押出す推力P1は、推進函1,1の当接面にP2、隙間に設けられた推力伝達フォーム3およびボルト4にP3の各分力に割り振られて伝達される。
【0037】
トンネルが直線区間から曲線区間に移行すると、図2bに示すように、直線区間の隙間cに適用していたボルト4を取り外し、新たに形成された隙間c(曲線区間の外周側)に盛り替え使用することにより、連接する複数の推進函1,1,…を曲線区間の線形に追従させて推進施工することができる。
【0038】
図4は、トンネルを推進施工するに際して、先行して地盤を切削する掘進機の一実施の形態を示した図である。この掘進機5は、矩形断面または正方形断面の切削孔を構築可能であり、かつ、曲線区間への掘進も可能な中折れ機構を備えた掘進機である。掘進機5は、前胴52と後胴53とが中折れ部54を構成する不図示の方向制御ジャッキ(および曲線造成補助ジャッキ)を介して相対的に屈曲可能となっている。また、掘進機5の前方面には、例えば図示する2基のブーメラン状の揺動カッタ51,51が装着されている。この揺動カッタ51を構成するスポークには、不図示の拡幅カッタが進退自在に装着されており、所望の矩形断面もしくは正方形断面の切削孔を切削不良のない状態で造成することができる。
【0039】
図5は従来の単曲線用の推進函を使用して連接する推進函をトンネルの直線区間〜曲線区間に亘って推進させる施工方法を示しており、図2に示す推進施工方法の実施の形態と対比するために示している。従来の単曲線用の推進函1Bは、側面視が例えば図示するような等脚台形(四角形)である。直線区間では図5aに示すように、側壁の上下に亘って隙間が形成されるため、上方および下方に接続部材4B,4Bが必要となる。連接する推進函1B,1B,…が曲線区間に移行すると、図5bに示すように、接続部材はすべて撤去され、推進函同士は当接壁の全面で当接することとなる。図5bと図2bを比較することによって明らかとなるが、図5bでは、一つの曲率半径からなる曲線区間にのみ追従でき、複数の曲率半径からなる曲線区間には追従することはできない。したがって、図10に示したように、不要施工領域が生じることを許容せざるを得ない。
【0040】
それに対し、図2bに図示する推進函1を連接させた形態では、該推進函1の側面形状が六角形状であることから、複数の曲率半径からなる曲線区間など、あらゆる線形の曲線区間に対して、隙間の長さや隙間の形成部位を適宜に調整することにより(同時に接続部材の長さ調整を適宜におこなうことにより)、不要施工領域を生じさせることなく経済的な推進施工を実現することができる。
【0041】
図6は、図1とは別途の推進函1Aを連接して推進させる施工方法を説明した図である。この推進函1Aは、側壁の側面視形状が、矩形の対角線上の一組の隅角(図では左上の隅角と右下の隅角)が削り取られ、上辺および下辺に直交する辺部13c2’から角度θ2で辺部13c1’が屈曲してなる側壁を有する推進函である。各推進函1A,1A,…がともに同一の側面視形状にて連接され、図6aに示す直線区間では上下に形成される隙間にボルト4,4が設けられ、図6bに示す曲線区間に移行した際には、曲率の変曲点の左右でボルト4の設置箇所を変化させながら、推進施工をおこなうものである。
【0042】
一方、図7は、図6に示す推進函1Aを使用するものの、一つおきに推進函1Aを上下反転させるようにして連接しながら推進させる別途の施工方法を説明したものである。図7aに示す直線区間では、隙間が上下交互に形成されるため、ボルト4,4,…も上下交互に設けられることとなる。しかし、この直線区間では、形成される隙間が図6に比して半分となるため、使用するボルトの本数を低減することができる。この施工方法においても、図7bに示すように、S字形状をはじめとする任意線形の曲線区間に追従しながら経済的なトンネル施工をおこなうことができる。
【0043】
図8は、図2に示す複数のトンネル10,10,…を、このトンネル10の長手方向に直交する断面において矩形の輪郭線を形成するように併設施工し(図示する実施例では、5段で各段に5基のトンネル10,10,…が隣接施工されている)、このトンネル10,10,…を利用して適宜不要なトンネル10の構成部材を撤去しながら2点鎖線で示す大断面トンネル100が施工されることを模式的に示したものである。
【0044】
この大断面トンネル100は、所望の大断面形状および寸法を有し、かつ縦断線形が直線区間と曲線区間からなる任意の線形を有している。大断面トンネルの施工に際しては、例えば図4に示す掘進機5を複数使用して同時施工することにより、工期の短縮を図ることができる。本発明の推進函1(または推進函1A)を連接させて複数の小断面トンネルを併設施工することによって大断面トンネル施工用の輪郭を形成し、この小断面トンネルにてその外部の土水圧を支保しながら輪郭内部に大断面トンネル用の本設躯体を施工する方法によれば、大断面に加えて任意線形のトンネルを極めて経済的に施工することが可能となる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。例えば、本発明の推進函は、図示する形態のほかにも、六角形状の側壁が、相互に並行でかつ長さの等しい上辺および下辺と、側辺を構成する上下の辺部が上辺および下辺からそれぞれ同じ傾斜角(90度以外)で延び、側壁の中央にて繋がるような形態(同形状の2つの等脚台形の一方を反転させて双方を繋いだ形態)などであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の推進函の一実施の形態を示した斜視図。
【図2】図1の推進函を連接させて直線区間〜曲線区間へ推進させる施工方法の一実施の形態を説明した図であって、(a)はトンネルの直線区間を推進函が推進している状況を説明した図であり、(b)はトンネルの曲線区間を推進函が推進している状況を説明した図。
【図3】図2aのIII部の拡大図。
【図4】適用される中折れ式の掘進機の一実施の形態を示した斜視図。
【図5】図2の施工方法と対比するための施工方法の参考形態であり、(a)はトンネルの直線区間を推進函が推進している状況を説明した図であり、(b)はトンネルの曲線区間を推進函が推進している状況を説明した図。
【図6】推進函の他の実施の形態を使用してなるトンネルの施工方法の他の実施の形態を説明した図であって、(a)はトンネルの直線区間を推進函が推進している状況を説明した図であり、(b)はトンネルの曲線区間を推進函が推進している状況を説明した図。
【図7】トンネルの施工方法のさらに他の実施の形態を説明した図であって、(a)はトンネルの直線区間を推進函が推進している状況を説明した図であり、(b)はトンネルの曲線区間を推進函が推進している状況を説明した図。
【図8】大断面トンネルの施工方法を説明した図。
【図9】従来の大断面トンネルの施工方法の一実施の形態を説明した図であり、(a)は施工概要を説明した側面図。(b)は(a)のb―b矢視図。
【図10】従来の大断面トンネルの施工方法の他の実施の形態を説明した図であって、施工概要を説明した側面図。
【符号の説明】
【0047】
1,1A…推進函、11…正面壁、12…貫通孔、13側壁、13a…上辺、13b…下辺、13c…側辺、13c1,13c1’,13c2,13c2’…辺部、14…上壁、15…下壁、16…主桁、2…ガスケット材、3…推力伝達フォーム(閉塞部材)、4…ボルト(接続部材)、41…螺子きり、42…ナット、5…掘進機、51…揺動カッタ、52…前胴、53…後胴、54…中折れ部、10…トンネル、100…大断面トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する推進函において、該貫通孔の延設方向から見た該推進函の正面視形状が矩形または正方形であり、
該正面視に直交する該推進函の側面視形状が六角形状であり、該六角形状は、上辺と、該上辺に並行又は略並行な下辺と、屈曲する2つの辺部からなる左右2つの側辺と、から構成されていることを特徴とする推進函。
【請求項2】
左右2つの側辺はともに、前記上辺または前記下辺の一方から該上辺または下辺に直交する辺部を有していることを特徴とする請求項1に記載の推進函。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複数の推進函が所定の線形に沿って前記貫通孔を連通するように設置されてなるトンネル。
【請求項4】
請求項3に記載のトンネルにおいて、
前記トンネルは、直線区間と曲線区間を有しており、曲線区間では、隣接する推進函同士の隙間が該曲線区間の外周側に形成されるようにそれぞれの推進函が配設されており、少なくとも該隙間には、隙間の少なくとも一部を閉塞する閉塞部材が介在していることを特徴とするトンネル。
【請求項5】
前記閉塞部材が、推進工法の際に推進函に作用する推力を伝達する推力伝達フォームである請求項4に記載のトンネル。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の複数のトンネルが、隣接するトンネルの一側面と当接または対向した姿勢で、かつ、トンネルの長手方向に直交する断面において所定の輪郭を形成するように併設設置されており、該輪郭の内部に相対的に大断面のトンネルが構築されることを特徴とする大断面トンネル。
【請求項7】
直線区間と曲線区間を有するトンネルを施工するトンネルの施工方法であって、
請求項1または2に記載の隣接する推進函の間に形成される隙間を跨ぐ接続部材によって推進函同士を接続するとともに、推進函同士の接続面には少なくとも推力伝達フォームを介在させ、隣接する推進函の間に形成される隙間が直線区間と曲線区間で変化した場合に、隙間が形成された箇所に接続部材を盛り替えながら推進施工をおこなうことを特徴とするトンネルの施工方法。
【請求項8】
請求項7に記載のトンネルの施工方法によって施工される直線区間と曲線区間を有する複数の小断面トンネルを、トンネルの長手方向に直交する断面において所定の輪郭を形成するように併設施工し、該輪郭の内部に相対的に大断面のトンネルを施工することを特徴とする大断面トンネルの施工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−2119(P2008−2119A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171427(P2006−171427)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】