説明

描画データ補正方法および描画データ補正装置

【課題】ワークの温度変化による膨張・収縮を正確に認識し、ワークに描画する描画データを正しく補正する描画データ補正方法等を提供する。
【解決手段】ワークWの温度を測定する温度測定工程S11と、ワークW上の離間した2点間の距離を測定する距離測定工程S12と、温度測定工程S11で測定した測定温度と、予め記憶されている描画時の基準温度D2とを比較し、ワークWが高温状態にあるか低温状態にあるかを判定する温度判定工程S13と、距離測定工程S12で測定した測定距離と、予め記憶されている2点間の設計上の基準距離とを比較し、ワークWが膨張状態にあるか収縮状態にあるかを判定する距離判定工程S14と、温度判定工程S13での判定結果および距離判定工程S14での判定結果が、高温状態且つ膨張状態にある場合および低温状態且つ収縮状態にある場合にのみ、描画データD1を補正するデータ補正工程S15と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式により機能液滴を吐出して、ワーク上に画像を描画する液滴吐出装置における描画データ補正方法および描画データ補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット方式により機能液滴を吐出して、ワーク上に描画を行う液滴吐出装置において、ワーク認識カメラ(撮像手段)を用いてワーク上に形成された一対のアライメントマークの間隔を測定する工程と、測定された間隔と制御部(制御手段)が格納した設計値情報(基準距離)とを比較して、ワークの伸縮率を確認する工程と、その伸縮率に基づいてワークへの描画に用いる液滴吐出ヘッドが搭載されたキャリッジユニットの位置を調整する工程と、備えた伸縮率補正方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−130605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した伸縮率補正方法では、ワーク認識カメラ(撮像手段)を用いてワーク上の各アライメントマークを撮像しているため、実測された間隔と基準距離とのずれが、温度変化による膨張(または収縮)なのか、各アライメントマークの形成時の誤差なのかを判断することができない。このため、各アライメントマークの形成時の誤差であるにもかかわらず、熱膨張していると判定され、誤った補正が行われる虞があった。この場合、ワークに対して、誤った位置へ機能液滴が吐出されるため、描画不良が生じる。
【0005】
本発明は、ワークの温度変化による膨張または収縮を正確に認識することで、ワークに描画する描画データを正しく補正することのできる描画データ補正方法および描画データ補正装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の描画データ補正方法は、描画データに基づいて、インクジェット方式により機能液滴を吐出して、ワーク上に描画を行う液滴吐出装置における描画データ補正方法であって、ワークの温度を測定する温度測定工程と、ワーク上の離間した2点間の距離を測定する距離測定工程と、温度測定工程で測定した測定温度と、予め記憶されている描画時の基準温度とを比較し、ワークが高温状態にあるか低温状態にあるかを判定する温度判定工程と、距離測定工程で測定した測定距離と、予め記憶されている2点間の設計上の基準距離とを比較し、ワークが膨張状態にあるか収縮状態にあるかを判定する距離判定工程と、温度判定工程での判定結果および距離判定工程での判定結果が、高温状態且つ膨張状態にある場合および低温状態且つ収縮状態にある場合にのみ、描画データを補正するデータ補正工程と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、ワークの温度変化による膨張または収縮を正確に認識することができる。例えば、実測したワーク上の2点間の距離が基準距離より長く且つ実測した温度が基準温度よりも高ければ、ワーク形成時の誤差ではなく、確実にワークが熱により膨張していると確定することができる。逆に、2点間の距離が基準距離より長くなっているにもかかわらず、実測した温度が基準温度と同等或いは低い場合には、温度変化に起因した膨張ではないと考えられる。つまり、ワークが、温度変化により、膨張または収縮のどちらの傾向にあるのかを正確に把握することができる。これにより、ワークに描画する描画データを正しく補正することができる。なお、ワーク形成時の誤差として、ワークがガラス基板等の場合には、フォトリソグラフィー技術におけるマスク移動に伴う誤差が考えられる。
【0008】
この場合、データ補正工程では、測定温度と基準温度との温度差、および測定距離と基準距離との寸法差、の少なくとも一方のパラメーターに基づいて、描画データを補正することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、実測値に基づいて、描画データの補正を行うことができる。これにより、膨張または収縮の傾向にあるワークに対し、適切な描画を行うことができる。
【0010】
この場合、温度差のパラメーターと寸法差のパラメーターとを所定の割合で案分した値をパラメーターとすることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、温度差によるパラメーターと、寸法差によるパラメーターと、に誤差が生じたとしても、その誤差をある程度吸収した形で描画データを補正することができる。これにより、理想的な描画データからのズレを最小限に抑えた補正を行なうことができ、描画処理の正確性を担保することができる。
【0012】
この場合、パラメーターと描画データの補正値とを対応付けた補正テーブルが定められ、データ補正工程では、補正テーブルに基づいて、描画データを補正することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、簡単な手順(処理)で、すなわち短時間で描画データを適切に補正することができる。
【0014】
また、この場合、温度測定工程では、ワークの複数箇所の温度を計測し、温度判定工程では、複数箇所の温度の平均値を用いて比較、判定を行うことが好ましい。
【0015】
この構成によれば、ワーク上の各位置において温度差が生じていても、その差をある程度吸収し、描画データに対し、平均的な補正を行うことができる。
【0016】
この場合、距離測定工程では、ワーク上の平面内で任意の1の方向であるX軸方向において離間した2点間の距離と、X軸方向に直交するY軸方向において離間した2点間の距離と、を各々計測し、距離判定工程では、ワークのX軸方向について膨張状態か収縮状態かを判定すると共に、ワークのY軸方向について膨張状態か収縮状態かを判定し、描画補正工程では、X軸方向とY軸方向とについて描画データを補正することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、ワークのX軸方向とY軸方向との膨張状態(または収縮状態)が異なる場合であっても、適切な補正を行うことができる。
【0018】
また、この場合、温度測定工程では、ワークに代えて、ワークをセットするテーブルの温度を測定することが好ましい。
【0019】
液滴吐出装置では、描画処理の開始・終了によってワークの給除材が頻繁に行われる。このため、ワークの温度を把握するために、ワークに対して温度計測手段を取り付けることは現実的ではない。
しかし、この構成によれば、ワークの給除材を妨げることなく、間接的にワークの温度を簡単に確認することができる。
【0020】
本発明の描画データ補正装置は、描画データに基づいて、インクジェット方式により機能液滴を吐出して、ワーク上に描画を行う液滴吐出装置における描画データ補正装置であって、ワークの温度を測定する温度測定手段と、ワーク上の離間した2点間の距離を測定する距離測定手段と、温度測定手段が測定した測定温度と、予め記憶されている描画時の基準温度とを比較し、ワークが高温状態にあるか低温状態にあるかを判定する温度判定手段と、距離測定手段が測定した測定距離と、予め記憶されている描画時の基準距離とを比較し、ワークが膨張状態にあるか収縮状態にあるかを判定する距離判定手段と、温度判定手段の判定結果および距離判定手段の判定結果が、高温状態且つ膨張状態にある場合および低温状態且つ収縮状態にある場合にのみ、描画データを補正するデータ補正手段と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、ワーク形成時のワーク自体の誤差ではなく、確実にワークが熱の影響により膨張(または収縮)していると確定することができる。これにより、ワークが、膨張または収縮のどちらの傾向にあるのかを正しく見定めることができるため、描画データの補正の傾向を誤ることが無い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ワーク上に形成されたパネル部を模式的に示した平面図(a)、パネル部の一部拡大図(b)およびワークおよびマスクの側面図(c)である。
【図2】第1実施形態に係る液滴吐出装置を模式的に示した斜視図である。
【図3】第1実施形態に係る液滴吐出装置を模式的に示した平面図である。
【図4】第1実施形態に係る液滴吐出装置を模式的に示した側面図である。
【図5】キャリッジユニットを模式的に示した平面図である。
【図6】機能液滴吐出ヘッドの表裏外観斜視図である。
【図7】制御装置のブロック図である。
【図8】第1実施形態に係る描画データ補正方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係る描画データ補正方法を適用した液滴吐出装置について説明する。この液滴吐出装置は、フラットパネルディスプレイの製造ラインに組み込まれており、例えば、特殊なインクや発光性の樹脂液である機能液を導入した機能液滴吐出ヘッドを用い、有機EL装置の各画素となる発光層やカラーフィルターのフィルターエレメント等を形成するものである。
【0024】
先ず、液滴吐出装置1の説明に先立ち、図1を参照して、ワークWについて簡単に説明する。ワークWは、例えば、大型液晶テレビ用のカラーフィルターパネルを複数枚取りする、いわゆるマザー基板であり、その表面には、カラーフィルターパネルとなるパネル部100が、マトリクス状に複数作り込まれている(図1(a)参照)。各パネル部100には、ブラックマトリクスとなる格子状のバンク部101により仕切られた多数の画素領域102がマトリクス状に形成されている(図1(b)参照)。各画素領域102は、バンク部101に対し窪入形成されている。すなわち、ワークWには、格子状の非描画部で区画するようにして、複数のパネル部100が形成されており、各パネル部100には、格子状のバンク部101で区画するようにして、複数の画素領域102が形成されている。一方、ワークWの4隅には、非描画部に位置して、4つのアライメントマークAMが形成されている(図1(a)参照)。
【0025】
そして、本実施形態の液滴吐出装置1は、アライメントマークAMを基準に、ワークWを位置決めセットし、全パネル部100の複数の画素領域102に対し、R・G・Bの各色の機能液を所定の描画パターンに従って描画し、R・G・Bのフィルターエレメントを形成する。
【0026】
マザー基板としてのワークWは、フォトリソグラフィー法を主体とする半導体製造技術により製造されるものであり、半導体製造技術の分野では破格の大きさとなる。このため、本実施形態のワークWでは、寸法精度を加味した大きさのマスクMを用い、これを複数回移動(図1(c)では、左右2回)してワークWの全域に対して、フォトリソグラフィー法によるレジストの除去(画素領域102の形成)を実施している。
【0027】
(第1実施形態)
続いて、図2ないし図4を参照して、第1実施形態に係る液滴吐出装置1について説明する。液滴吐出装置1は、石定盤に支持されたX軸支持ベース21上に配設され、主走査方向となるX軸方向に延在して、ワークWをX軸方向に移動させるX軸テーブル2と、複数本の支柱33を介してX軸テーブル2を跨ぐように架け渡された一対のY軸支持ベース31上に配設され、副走査方向となるY軸方向に延在するY軸テーブル3と、複数の機能液滴吐出ヘッド44が搭載された10個のキャリッジユニット4と、X軸テーブル2に給材されたワークWの位置校正(アライメント)を行うアライメントユニット5と、を備えている。また、液滴吐出装置1は、これらの装置を、温度および湿度が管理された雰囲気内に収容するチャンバー(図示省略)と、チャンバーを貫通して各機能液滴吐出ヘッド44に機能液を供給する機能液供給ユニット(図示省略)と、装置全体を統括制御する制御装置6と、を備えている。チャンバーの側壁の一部には、機能液供給ユニットの主要部を為す複数のメインタンクユニット(図示省略)が配設されている。
【0028】
さらに、液滴吐出装置1には、フラッシングユニット71、吸引ユニット72、ワイピングユニット73および吐出性能検査ユニット74を有するメンテナンス装置7が設けられている。機能液滴吐出ヘッド44は、メンテナンス装置7により、その機能維持・機能回復を図るようになっている。
【0029】
この液滴吐出装置1では、X軸テーブル2およびY軸テーブル3が交わる部分(描画エリアA1)において、X軸テーブル2とY軸テーブル3とを同期駆動して、機能液供給ユニットから供給された複数色の機能液を各機能液滴吐出ヘッド44から吐出させ、ワークWに所定の描画パターンを描画する。また、Y軸テーブル3およびメンテナンス装置7(吸引ユニット72、ワイピングユニット73)が交わる部分にキャリッジユニット4を臨ませて、各機能液滴吐出ヘッド44の機能維持・機能回復を行う。
【0030】
X軸テーブル2は、ワークWを吸着セットすると共に、θ軸方向に補正可能な機構を有するセットテーブル22と、セットテーブル22をX軸方向に移動自在に支持するX軸第1スライダー23と、上記のフラッシングユニット71および吐出性能検査ユニット74をX軸方向に移動自在に支持するX軸第2スライダー24と、X軸方向に延在し、X軸第1スライダー23およびX軸第2スライダー24のX軸方向への移動をガイドする左右一対のガイドレール25と、X軸第1スライダー23およびX軸第2スライダー24をX軸方向に移動させるX軸リニアモーター(図示省略)と、を備えている。
【0031】
セットテーブル22のY軸方向の両側面には、セットテーブル22の温度を測定するための熱電対26(温度測定手段)が配設されている。各熱電対26は、セットテーブル22のY軸方向の両側面において、X軸方向略中央部分に埋め込まれている。詳細は後述するが、本実施形態において描画処理前に実施される描画データ補正方法では、2つの熱電対26を用いて、セットテーブル22の温度を測定することにより、セットテーブル22上に吸着固定されたワークWの温度を間接的に計測している。これは、描画処理の開始・終了によってワークWの給除材が頻繁に行われることを考慮し、ワークWの給除材を妨げることのないようにしたものである。なお、熱電対26の配設数、配設場所は、任意である。
【0032】
Y軸テーブル3は、各キャリッジユニット4を吊設した10個のブリッジプレート32と、各ブリッジプレート32を両持ちで支持する10組のY軸スライダー(図示省略)と、一対のY軸支持ベース31上に設置されたY軸ステーター(Y軸リニアモーター(図示省略))と、を備えている。Y軸テーブル3は、描画時に、各キャリッジユニット4(各機能液滴吐出ヘッド44)を個別に副走査させる。また、メンテナンス装置7に臨ませる。
【0033】
図4および図5に示すように、各キャリッジユニット4は、12個の機能液滴吐出ヘッド44を搭載したヘッドユニット40と、ヘッドユニット40をθ回転自在に支持するθ回転機構41と、θ回転機構41を介して、ヘッドユニット40をY軸テーブル3に支持させる昇降機構付の吊設部材42と、を備えている。各キャリッジユニット4を吊設した各ブリッジプレート32上には、各メインタンクユニットに連なるサブタンクユニット(図示省略)が配設されている。サブタンクユニットは、自然水頭を利用して各機能液滴吐出ヘッド44に機能液を供給するようになっている。
【0034】
図5に示すように、ヘッドユニット40は、略方形のキャリッジプレート43に対し、機能液滴吐出ヘッド44が、左右に6個ずつ二分して組み付けられている。左右1組(2個)の機能液滴吐出ヘッド44は、同一種類の機能液を吐出し、上下に6組の機能液滴吐出ヘッド44が相互に階段状に位置ずれして配設されている。なお、各組内の同色の2つの機能液滴吐出ヘッド44は、そのノズル列NLがY軸方向に連続して1の部分描画ラインを構成している。なお、キャリッジユニット4の個数およびキャリッジユニット4に搭載される機能液滴吐出ヘッド44の数は任意である。
【0035】
図6に示すように、機能液滴吐出ヘッド44は、いわゆる2連のインクジェットヘッドであり、2連の接続針45aを有する機能液導入部45と、機能液導入部45の側方に連なる2連のヘッド基板46と、ヘッド基板46の下方に連なる2連のポンプ部47と、ポンプ部47に連なるノズルプレート48と、を備えている。各接続針45aには、上記したサブタンクユニットに連なる供給チューブ(図示省略)が接続されており、機能液滴吐出ヘッド44には、この供給チューブを介して機能液が供給される。ノズルプレート48のノズル面NFには、2列のノズル列NLが相互に平行に列設されており、各ノズル列NLは、等ピッチで並べた複数の吐出ノズル49で構成されている(図6(b)参照)。ヘッド基板46は、フレキシブルフラットケーブル(図示省略)を介して上記した制御装置6が接続されており、制御装置6から出力された駆動波形が各ポンプ部47(の圧電素子)に印加されることで、各吐出ノズル49から機能液が吐出される。
【0036】
図2ないし図4に示すように、アライメントユニット5は、図3において下側(給除材エリアA2)から、X軸テーブル2(のセットテーブル22)上に給材されたワークWのX軸方向、Y軸方向およびθ軸方向の各々のずれを認識、修正するものであり、給除材エリアA2においてX軸テーブル2を跨ぐように設けられたブリッジフレーム51と、ブリッジフレーム51に支持された2台のアライメントカメラ52と、を備えている。
【0037】
ブリッジフレーム51は、X軸支持ベース21から立設した一対の橋脚部53と、一対の橋脚部53に水平に架け渡されたカメラ支持部54と、を備えている。
【0038】
2台のアライメントカメラ52は、カメラ支持部54のY軸方向両端において描画エリアA1方向(図3において上側)に向けた状態で、ワークWを撮像可能に支持されている。つまり、2台のアライメントカメラ52は、セットテーブル22上のワークWに形成されたブリッジフレーム51側の2つのアライメントマークAMに対応するように配設されており、各アライメントマークAMを撮像することができるように位置調整(アライメント)されている。
【0039】
ワークWのアライメントを行うには、ワークWがセットテーブル22上に吸着固定された状態で、2台のアライメントカメラ52を用いて2つのアライメントマークAMを画像認識する。そして、制御装置6は、その認識結果のずれ量に応じて、X軸テーブル2、Y軸テーブル3およびセットテーブル22を各々駆動してX軸方向、Y軸方向およびθ軸方向の各々のずれを修正する。なお、セットテーブル22には、給材されたワークWをプリアライメントするための一対の位置規制突起(図示省略)が配設されている。
【0040】
また、他のアライメントの方法(手段)として、上記した2台のアライメントカメラ52と、図3において下側のY軸支持ベース31に支持された5台のサンプル撮像カメラ83のうち、Y軸方向両端のサンプル撮像カメラ83(2台)と、を用いて、ワークWに形成された4つのアライメントマークAMを同時に画像認識するようにしてもよい。そして、制御装置6は、4箇所の認識結果を用いてセットテーブル22上のワークWをアライメントする。なお、詳細な説明は省略するが、5台のサンプル撮像カメラ83は、パネル部100相互間の位置ずれの有無を抜き打ち的に判定する際に用いるものである。
また、他のプリアライメントの方法(手段)として、視野角の広いプリアライメントカメラ(図示省略)を、ブリッジフレーム51またはY軸支時ベース31等に配設し、このカメラでの画像認識結果を用いてプリアライメントを実施してもよい。
【0041】
図7に示すように、制御装置6は、各ユニット等を駆動制御する各種ドライバーを有する駆動部61と、駆動部61に接続され、液滴吐出装置1全体の制御を行う制御部62と、を備えている。
【0042】
制御部62には、駆動部61に接続するためのインターフェース63と、制御処理の作業領域であるRAM64と、制御プログラムやデータ等を記憶するROM65と、描画データD1等の処理プログラム等を記憶するHDD66と、ROM65やHDD66に記憶されたプログラム等に従い、各種データを演算処理するCPU67と、これらを互いに接続するバス68と、が備えられている。そして、制御部62は、各手段からの各種データを、インターフェース63を介して入力すると共に、HDD66に記憶されたプログラムに従ってCPU67に演算処理させ、その処理結果を、駆動部61を介して各ユニット等に出力する。これにより、液滴吐出装置1の各種処理が行われる。
【0043】
また、HDD66には、ワークWに描画する描画データD1と、描画時の理想的な温度である基準温度D2と、X軸方向の一対2組のアライメントマークAM間の設計上の距離であるX軸基準距離D3と、Y軸方向の一対2組のアライメントマークAM間の設計上の距離であるY軸基準距離D4と、後述する、特定の温度差とワークWの伸縮距離(変換寸法差)とを対応付けた温度距離変換テーブルD5と、後述する、特定のパラメーターと描画データD1の補正値とを対応付けた補正テーブルD6と、が記憶されている。詳細は後述するが、HDD66に記憶された各種データは、RAM64上に展開されて、CPU67による各種演算処理に供される。なお、基準温度D2は、上記したチャンバーにより管理される描画エリアA1の目標温度である。また、X軸基準距離D3およびY軸基準距離D4は、基準温度D2におけるマスタワーク(図示省略)、すなわちアライメントマスク(図示省略)におけるものである。
【0044】
ところで、上述したように、ワークWは、大型液晶テレビのカラーフィルターパネル等に用いられるものであり、近年の液晶テレビの大型化に伴い、ワークWの大型化も進んでいる。このため、僅かな温度変化であっても、ワークWの膨張または収縮による誤差が無視できないものとなっている。例えば、±0.1℃の温度変化が生じた場合、3m角のワークW(線膨張係数8μm/m℃)では、±2.4μmの伸縮が生じる。このようなワークWに対して適切な描画を行うためには、その伸縮に合わせて、伸縮(膨張または収縮)させた描画データD1(ビットマップデータ)に基づき描画を行えばよい。その伸縮を認識する方法としては、各アライメントマークAMを画像認識するものが考えられる。
しかし、画像認識では、例えば、各アライメントマークAMの形成時(ワークW製造時)の誤差を、温度変化による伸縮であると、誤った判断がされる虞があった。この場合、誤った描画データD1の補正が行われ、ワークWに対する描画処理は不良となる。
【0045】
そこで、本実施形態に係る描画データ補正方法では、ワークWの温度の計測およびワークWに形成された各アライメントマークAM間の距離を計測することで、ワークWの温度変化による膨張または収縮を正確に認識することを可能としている。これにより、ワークWに描画する描画データD1の補正を正しく行うことができる。
【0046】
図8に示すように、描画データ補正方法は、ワークWの温度を測定する温度測定工程S11と、ワークW上に形成された複数のアライメントマークAM相互間の距離を測定する距離測定工程S12と、ワークWが高温状態にあるか低温状態にあるかを判定する温度判定工程S13と、ワークWが膨張状態にあるか収縮状態にあるかを判定する距離判定工程S14と、温度判定工程S13での判定結果および距離判定工程S14での判定結果に基づき描画データD1を補正するデータ補正工程S15と、を備えている。
【0047】
温度測定工程S11では、セットテーブル22に設けられた2つの熱電対26を用いてセットテーブル22の温度を計測し、計測した2つの温度値を制御装置6に送る。制御装置6は、2つの温度値の平均値を計算し、この平均値をワークWの測定温度として設定する。複数箇所の温度を計測することで、ワークW上において温度斑が生じていても、その斑(差)をある程度平均化できるため、この後の工程において、平均的な描画データD1の補正を行うことができる。なお、ワークWは、給材されてから温度計測までの間にセットテーブル22の温度に馴染むため、セットテーブル22の温度を、ワークWの温度とみなすことができる。
【0048】
距離測定工程S12では、ワークWの四隅に形成されたアライメントマークAMを2台のアライメントカメラ52および2台のサンプル撮像カメラ83(Y軸方向両端の2台)で画像認識し、その画像認識結果を制御装置6に送る。制御装置6は、各アライメントマークAMの画像認識結果と設計上の位置座標(XY座標)との差を計測し、X軸方向およびY軸方向の各アライメントマークAM間のそれぞれの距離を算出する。つまり、4つのアライメントマークAMを結んでできる四角形の各辺の長さが計測される。制御装置6は、X軸方向に並んだ一対2組のアライメントマークAM間の距離の平均値をワークWのX軸方向の測定距離(X軸測定距離)として設定する。同様に、制御装置6は、Y軸方向に並んだ一対2組のアライメントマークAM間の距離の平均値をワークWのY軸方向の測定距離(Y軸測定距離)として設定する。
なお、位置座標とは、X座標およびY座標の直交座標を指すものであり、各座標の値は、1つのアライメントマークAMからのX軸方向およびY軸方向の差をいうものとする。本実施形態では図2または図3において左上のアライメントマークAMを基準としている。
【0049】
温度判定工程S13では、制御装置6において、温度測定工程S11により測定(設定)された測定温度と、RAM64に展開された基準温度D2と、を比較する。制御装置6は、測定温度が基準温度D2よりも高いときは高温状態にあると判定し、一方、測定温度が基準温度D2よりも低いときには低温状態にあると判定する。また、測定温度と基準温度D2との温度差は、RAM64に一時記録される。
【0050】
距離判定工程S14では、制御装置6において、距離測定工程S12により測定(設定)されたX軸測定距離およびY軸測定距離と、RAM64に展開されたX軸基準距離D3およびY軸基準距離D4と、を各々比較する。X軸を例に説明すると、制御装置6は、X軸測定距離がX軸基準距離D3よりも長いときはX軸方向に膨張状態にあると判定し、一方、X軸測定距離がX軸基準距離D3よりも短いときはX軸方向に収縮状態にあると判定する。Y軸方向に関しても同様である。また、X軸測定距離とX軸基準距離D3とのX軸寸法差およびY軸測定距離とY軸基準距離D4とのY軸寸法差は、RAM64に一時記録される。
【0051】
データ補正工程S15では、温度判定工程S13での判定結果および距離判定工程S14での判定結果が、高温状態且つ膨張状態にある場合および低温状態且つ収縮状態にある場合にのみ描画データD1を補正する。詳細には、データ補正工程S15は、温度判定工程S13での判定結果が高温状態で、且つ距離判定工程S14での判定結果が、X軸方向およびY軸方向共に膨張状態である場合には、ワークWは確実に温度変化により膨張していると判断する(膨張傾向)。一方、温度判定工程S13での判定結果が低温状態で、且つ距離判定工程S14での判定結果が、両方向において収縮状態である場合には、ワークWは確実に温度変化により収縮していると判断する(収縮傾向)。これにより、アライメントマークAMの形成時の誤差ではなく、確実にワークWが温度変化により膨張または収縮していると確定することができる。つまり、ワークWが、膨張または収縮のどちらの傾向にあるのかを正確に把握することができる。
【0052】
ところで、高温状態で且つ両軸方向またはいずれか一方の軸方向が収縮状態である場合および低温状態で且つ両軸方向またはいずれか一方の軸方向が膨張状態である場合には、温度変化に起因した膨張または収縮ではないと考えられるため、データ補正工程S15において、描画データD1の補正は行わない。
【0053】
上記のようにワークWが、膨張または収縮していると判断された場合、制御装置6(CPU67)は、HDD66に記憶されている温度距離変換テーブルD5を参照して、RAM64に一時記憶された温度差に対応する変換寸法差をパラメーターAとしてRAM64上に展開する。
一方、制御装置6(CPU67)は、X軸寸法差とY軸寸法差との平均値(寸法差)をパラメーターBとして算出し、これをRAM64に一時記録する。これにより、ワークWのX軸方向とY軸方向との膨張状態または収縮状態が異なる場合であっても、平均的な補正を行うことができる。
【0054】
そして、制御装置6は、パラメーターAとパラメーターBとの平均値をパラメーターCとして算出した後、HDD66に記憶されている補正テーブルD6を参照して、パラメーターCに対応する補正値をRAM64上に展開する。最後に、この補正値を用いて描画データD1(ビットマップデータ)を補正(膨張または伸縮)する。具体的な描画データD1の補正方法としては、各機能液滴吐出ヘッド44からの機能液滴の吐出タイミングを補正することでX軸方向(主走査方向)の位置ずれ量を補正している。また、各キャリッジユニット4(機能液滴吐出ヘッド44)のY軸方向(副走査方向)の位置を移動することでY軸方向の位置ずれ量を補正している。また、ある特定の吐出ノズル49から吐出した機能液滴が、1の画素領域102からはみ出し、バンク部101に乗り上げてしまう虞がある場合には、その吐出ノズル49から機能液の吐出を停止し、乗り上げの虞のない他の吐出ノズル49により補完する。すなわち、他の吐出ノズル49は、自らが吐出すべき量の機能液と、吐出を停止した吐出ノズル49が吐出するはずだった量の機能液と、を合わせた量の機能液を吐出する。以上により、実測値との温度差に基づくパラメーターAと、実測値との寸法差に基づくパラメーターBと、に誤差が生じたとしても、その誤差をある程度吸収した形で描画データD1を補正することができるため、理想的な描画データD1からの誤差を最小限に抑えた補正を行なうことができ、描画処理の正確性を担保することができる。また、補正テーブルD6を参照するという簡単な手順(処理)で補正値の算出が可能であるため、短時間で適切な描画データD1の補正が可能となる。
【0055】
なお、本実施形態では、補正テーブルD6を参照するにあたり、パラメーターAとパラメーターBとの平均値(パラメーターC)を用いたが、パラメーターAまたはパラメーターBのいずれかを用いて補正テーブルD6を参照した補正値を使用してもよい。また、補正テーブルD6を省略して、補正値の参照ではなく、パラメーターCを用いて新たな描画データD1を生成してもよい。
【0056】
以上の構成によれば、ワークW形成時のワークW自体の誤差ではなく、確実にワークWが熱の影響により膨張(または収縮)していると確定することができる。これにより、ワークWが、膨張または収縮のどちらの傾向にあるのかを正しく見定めることができるため、描画データD1の補正の傾向を誤ることが無い。
【0057】
なお、請求項に言う「距離測定手段」は、各アライメントカメラ52および制御装置6を指し、請求項に言う「温度判定手段」、「距離判定手段」および「データ補正手段」は、制御装置6を指す。すなわち、請求項に言う「描画データ補正装置」とは、各熱電対26、各アライメントカメラ52および制御装置6が相互に作用して構成されている。
【0058】
(第2実施形態)
また、第1実施形態では、パラメーターAとパラメーターBとの単純な平均値をパラメーターCとしているが、パラメーターAおよびパラメーターBに各々重み付けをしてパラメーターCを算出してもよい。すなわち、所定の割合で案分した値をパラメーターCと設定してもよい。例えば、寸法差に基づくパラメーターBを重視するのであれば、重み付けを、パラメーターBを「6」、パラメーターAを「4」の割合に案分して算出したパラメーターCを用いて描画データD1を補正する。これにより、熱電対26やアライメントカメラ52の精度に応じてパラメーターCを算出することができ、より正確な描画データD1の補正を担保することができる。
【0059】
(第3実施形態)
第3実施形態では、X軸寸法差とY軸寸法差との平均値であるパラメーターBを算出せず、X軸寸法差をパラメーターB1とし、Y軸寸法差をパラメーターB2としている。また、パラメーターB1(X軸方向)用およびパラメーターB2(Y軸方向)用の補正テーブルD6が個別に用意されている。この場合、制御装置6は、温度差に基づくパラメーターAとパラメーターB1とからパラメーターC1を算出すると共に、パラメーターAとパラメーターB2とからパラメーターC2を算出する。そして、制御装置6は、パラメーターC1に対応する補正値により描画データD1のX軸方向の補正を行い、パラメーターC2に対応する補正値により描画データD1のY軸方向の補正を行う。これにより、X軸方向およびY軸方向について個別に補正を行うことができるため、より精密な描画データD1の補正を行うことができる。
【符号の説明】
【0060】
1:液滴吐出装置、22:セットテーブル、26:熱電対、44:機能液滴吐出ヘッド、52:アライメントカメラ、AM:アライメントマーク、D2:基準温度、D3:X軸基準距離、D4:Y軸基準距離、D6:補正テーブル、W:ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
描画データに基づいて、インクジェット方式により機能液滴を吐出して、ワーク上に描画を行う液滴吐出装置における描画データ補正方法であって、
前記ワークの温度を測定する温度測定工程と、
前記ワーク上の離間した2点間の距離を測定する距離測定工程と、
前記温度測定工程で測定した測定温度と、予め記憶されている描画時の基準温度とを比較し、前記ワークが高温状態にあるか低温状態にあるかを判定する温度判定工程と、
前記距離測定工程で測定した測定距離と、予め記憶されている2点間の設計上の基準距離とを比較し、前記ワークが膨張状態にあるか収縮状態にあるかを判定する距離判定工程と、
前記温度判定工程での判定結果および前記距離判定工程での判定結果が、
前記高温状態且つ前記膨張状態にある場合および前記低温状態且つ前記収縮状態にある場合にのみ、前記描画データを補正するデータ補正工程と、を備えたことを特徴とする描画データ補正方法。
【請求項2】
前記データ補正工程では、前記測定温度と前記基準温度との温度差、および前記測定距離と前記基準距離との寸法差、の少なくとも一方のパラメーターに基づいて、前記描画データを補正することを特徴とする請求項1に記載の描画データ補正方法。
【請求項3】
前記温度差の前記パラメーターと前記寸法差の前記パラメーターとを所定の割合で案分した値を前記パラメーターとすることを特徴とする請求項2に記載の描画データ方法。
【請求項4】
前記パラメーターと前記描画データの補正値とを対応付けた補正テーブルが定められ、
前記データ補正工程では、前記補正テーブルに基づいて、前記描画データを補正することを特徴とする請求項2に記載の描画データ補正方法。
【請求項5】
前記温度測定工程では、前記ワークの複数箇所の温度を計測し、
前記温度判定工程では、前記複数箇所の温度の平均値を用いて比較、判定を行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の描画データ補正方法。
【請求項6】
前記距離測定工程では、前記ワーク上の平面内で任意の1の方向であるX軸方向において離間した2点間の距離と、前記X軸方向に直交するY軸方向において離間した2点間の距離と、を各々計測し、
前記距離判定工程では、前記ワークの前記X軸方向について前記膨張状態か前記収縮状態かを判定すると共に、前記ワークの前記Y軸方向について前記膨張状態か前記収縮状態かを判定し、
前記描画補正工程では、前記X軸方向と前記Y軸方向とについて前記描画データを補正することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の描画データ補正方法。
【請求項7】
前記温度測定工程では、前記ワークに代えて、前記ワークをセットするテーブルの温度を測定することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の描画データ補正方法。
【請求項8】
描画データに基づいて、インクジェット方式により機能液滴を吐出して、ワーク上に描画を行う液滴吐出装置における描画データ補正装置であって、
前記ワークの温度を測定する温度測定手段と、
前記ワーク上の離間した2点間の距離を測定する距離測定手段と、
前記温度測定手段が測定した測定温度と、予め記憶されている描画時の基準温度とを比較し、前記ワークが高温状態にあるか低温状態にあるかを判定する温度判定手段と、
前記距離測定手段が測定した測定距離と、予め記憶されている描画時の基準距離とを比較し、前記ワークが膨張状態にあるか収縮状態にあるかを判定する距離判定手段と、
前記温度判定手段の判定結果および前記距離判定手段の判定結果が、
前記高温状態且つ前記膨張状態にある場合および前記低温状態且つ前記収縮状態にある場合にのみ、前記描画データを補正するデータ補正手段と、を備えたことを特徴とする描画データ補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−131157(P2011−131157A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292666(P2009−292666)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】