説明

揮発性有機化合物の回収プロセス

【課題】 VOCの連続回収を図るとともに、吸着剤の効率のよい使用方法および効率のよい再生方法によって、簡便な機能を用い、保守を軽減しエネルギー効率が高くかつ信頼性の高いコンパクトなVOCの回収プロセスを提供すること。
【解決手段】 吸着剤を充填した少なくとも3基の吸着塔および揮発性有機化合物を回収する冷却凝縮手段を有し、水分および揮発性有機化合物を含む空気から該揮発性有機化合物を回収するプロセスにおいて、少なくとも、所定の工程を含むとともに、前記吸着塔の内の少なくとも1基の吸着塔を再生工程に、別の少なくとも1基の吸着塔をガード工程に、少なくとも1基以上の残りの吸着塔を吸着工程に供し、これらの工程を順次切り換えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物の回収プロセスに関するもので、詳細には、各種工場において使用される溶剤などの揮発性有機化合物(以下「VOC」という。)と水分を含む空気からVOCを回収するプロセスに有用である。以下、VOCと水分を含む空気を「試料空気」という。
【0002】
ここで、VOCについて幾つかの定義がある。例えば、WHOは有機性室内汚染化学物質を沸点により、下表1のように、VVOC、VOC、SVOC、POMに分類され、VOCとしては、シクロヘキサノン、トルエン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチルなどが該当し、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類はVVOCに属し、可塑剤の多くはSVOCに分類されることとなる。しかし、一般には、これらを含めてVOCと呼ばれ、本特許においてもこの広い意味で使用する。
【0003】
〔表1〕

【背景技術】
【0004】
従来から、VOCは、各種化学工場、電気電子機器製造工場あるいは機械製造工場などにおいて試料空気として排出され、環境規制、環境保全あるいは溶剤のリサイクルなどの観点から、該試料空気を処理して回収することが強く要請されている。
【0005】
しかしながら、こうした試料空気には、VOC以外にも水分などVOCとよく似た物理的性質を有する物質が含まれることが多く、VOCを水分などと効率よく分離することは必ずしも容易ではなく、従前より種々の工夫・改善が試みられ、実施されている。
【0006】
例えば、図8に例示するように、有機物及び水分を含有するガスを、吸着剤を充填した相対的低温条件の吸着工程にある吸着塔81に導いて有機物を除去し、有機物が除去された水分含有ガスとして系外に放出し、有機物を吸着した吸着剤は再生工程において相対的高温条件で有機物を脱離させて再生し、この吸着剤再生工程から出る脱離ガスを、吸湿剤を充填した脱湿塔82において温度スイング法あるいは圧力スイング法により水分を除去し、得られる高濃度有機物含有乾燥ガスを液化器83に導いて冷却及び/又は加圧して液化させて有機物を回収する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平8−299740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年の高効率化・省エネルギー化の要請から、こうしたVOCの回収プロセスに対しても、益々選択性の高い回収あるいはパージガスなど系外からの補助材料の加熱冷却処理の効率化の要求が高まってきている。従来の方法では、こうした要求への十分な対応が困難であった。
【0009】
具体的には、上記図8に示す例にあっては、吸着剤を充填した吸着塔と吸湿剤を充填した脱湿塔の2種類が使用され、それに伴い複数の加熱手段や切換機構を要するなどシステムが複雑となる問題があった。また、系外からのパージガスを常時使用するために、加熱パージによる吸着剤の再生時に供給する空気の加熱エネルギーあるいはパージによる吸着剤の冷却時に供給する空気の冷却エネルギーが余分に必要となる。つまり、少量のガスによる効率のよいパージ方法が課題となっている。
【0010】
また、再生ガスに空気を使用する場合には、吸着剤の加熱再生つまり吸着剤からのVOCの脱離時のパージガス中に存在するVOCの濃度が高くなり、多くの場合、爆発範囲に入る危険性を回避する制約から効率的な再生が出来ないことがある。さらに、VOCの種類によっては、空気中での加熱再生による変性を避けるために加熱温度に制約が生じることから、十分な再生ができないことがある。これら問題を避けるため再生ガスとして不活性ガスの使用が有効となる。と同時に、不活性ガスの常時供給は上記のエネルギーの増大とともにコスト面での負担も大きくなり、効率のよいパージ方法が課題となる。
【0011】
本発明の目的は、水分およびVOCを含む試料空気からのVOCの回収において、VOCの連続回収を図るとともに、吸着剤の効率のよい使用方法および効率のよい再生方法によって、簡便な機能を用い、保守を軽減しエネルギー効率が高くかつ信頼性の高いコンパクトなVOCの回収プロセスを提供することである。特に、比較的に低沸点成分を多く含む場合のVOC回収においても有効なプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示すVOCの回収プロセスにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0013】
本発明は、吸着剤を充填した少なくとも3基の吸着塔および揮発性有機化合物を回収する冷却凝縮手段を有し、水分および揮発性有機化合物を含む空気から該揮発性有機化合物を回収するプロセスにおいて、少なくとも、
1)水分および揮発性有機化合物を含む空気から、主として揮発性有機化合物を吸着し、水分を含む空気を系外に放出する吸着工程(A)と、
2)ガード工程(E)にある他の吸着塔からの再生ガスを用いて、主として水分をパージし、吸着剤の加熱再生処理を行う再生工程(B)と、
3)ガード工程(F)にある他の吸着塔からの再生ガスを用いて、主として揮発性有機化合物をパージし、吸着剤の加熱再生処理を行う再生工程(C)と、
4)ガード工程(F)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させるとともに、吸着剤の冷却再生処理を行う再生工程(D)と、
5)再生工程(B)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させ、主として水分を吸着除去するとともに、吸着剤の冷却処理を行うガード工程(E)と、
6)再生工程(C)あるいは再生工程(D)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させ、主として揮発性有機化合物を吸着除去するガード工程(F)と、
を含むとともに、前記吸着塔の内の少なくとも1基の吸着塔を再生工程に、別の少なくとも1基の吸着塔をガード工程に、少なくとも1基以上の残りの吸着塔を吸着工程に供し、これらの工程を順次切り換えることを特徴とする。
【0014】
VOCのような多様な物質が混在する連続的回収プロセスにおいては、回収効率を上げるために上述のような種々の改善が必要とされるが、本発明においては、さらに、十分な吸着塔の再生処理、つまり吸着工程に入る時点で、吸着塔の入口附近を除き、VOCの残留が殆どない状態を作ることが、回収効率の向上に非常に有効であることを見出したもので、少なくとも3基の吸着塔を準備し、吸着工程、再生工程、ガード工程を1つの組み合せとして循環的に作動させるとともに、再生ガスの循環使用における循環経路を工夫することによって、飛躍的に高い回収効率が可能となった。
つまり、吸着工程、再生工程、ガード工程を担う吸着塔を順に入れ替えることによって、ガード工程に導入された再生ガスは、別の吸着塔での再生工程にそのまま利用できることによって、再生ガスの使用量も大幅に軽減し、加熱手段の配置と相俟って、エネルギー効率の大幅な向上を図ることが可能となった。
さらに、ガード工程は、吸着塔の冷却の後半処理を行うと同時に再生ガスの精製を行い、再生工程にある吸着塔へのVOCを殆ど含まない清浄なガスを供給することにより、上記のように十分な吸着塔の再生処理が可能となった。また、後述するように、吸着塔の加熱再生を工夫することにより、水分とVOCを選択的に脱着することができることに注目し、加熱再生処理を再生工程(B)と再生工程(C)の2つの工程に分ける工夫をしている。なお、「再生ガス」とは、上記再生工程(B)〜(F)において、吸着塔のいずれかを流通したガスをいい、試料空気を用いる場合や系外から導入される不活性ガスなどのガスを用いる場合がある。また「冷却凝縮手段」とは、冷却して凝縮機能を有する手段のみならず、広く、冷却機能を有する手段とさらに冷却して凝縮機能を有する手段を組合せて使用する手段、あるいは、それぞれを独立して使用可能な手段を含むものとする。
従って、VOCの連続回収を図るとともに、吸着剤の効率のよい使用方法および効率のよい再生方法によって、簡便な機能を用い、保守を軽減しエネルギー効率が高くかつ信頼性の高いコンパクトなVOCの回収プロセスを提供することが可能となった。
【0015】
本発明は、吸着剤を充填した少なくとも3基の吸着塔および揮発性有機化合物を回収する冷却凝縮手段を有し、水分および揮発性有機化合物を含む空気から該揮発性有機化合物を回収するプロセスにおいて、少なくとも、
1)水分および揮発性有機化合物を含む空気から、主として揮発性有機化合物を吸着し、除去処理を行う吸着工程(A)と、
2)ガード工程(E)にある他の吸着塔からの再生ガスを用いて、主として水分をパージし、吸着剤の加熱再生処理を行う再生工程(B)と、
3)ガード工程(G)にある他の吸着塔を迂回する流路を循環する再生ガスを用いて、主として揮発性有機化合物をパージし、吸着剤の加熱再生処理を行う再生工程(C)と、
4)ガード工程(F)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させるとともに、吸着剤の冷却再生処理を行う再生工程(D)と、
5)再生工程(B)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させ、主として水分を吸着除去するとともに、吸着剤の冷却処理を行うガード工程(E)と、
6)他の吸着塔が再生工程(C)にある間、再生ガスの流通を停止し、該再生ガスを前記迂回路を循環させるガード工程(G)と、
7)再生工程(D)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させ、主として揮発性有機化合物を吸着除去するガード工程(F)と、
を含むとともに、前記吸着塔の内の少なくとも1基の吸着塔を再生工程に、別の少なくとも1基の吸着塔をガード工程に、少なくとも1基以上の残りの吸着塔を吸着工程に供し、これらの工程を順次切り換えることを特徴とする。
【0016】
上記のように、少なくとも3基の吸着塔を、吸着工程、再生工程、ガード工程を1つの組み合せとして循環的に作動させるとともに、再生ガスの循環使用における循環経路を工夫することによって、VOCの回収プロセスにおいて、飛躍的に高い回収効率およびエネルギー効率の大幅な向上を図ることが可能となった。本発明では、ガード工程にある吸着塔への再生ガスの供給を、流通あるいは迂回制御することによって、再生工程への清浄ガスの供給機能を維持したまま、効率の改善が可能となる。
つまり、循環する再生ガスにおいて、VOC凝縮手段で除去しきれず残るVOCの濃度はVOCの沸点に依存し、低沸点成分ほど濃度が高くなる。再生工程(C)の間、再生ガスをガード工程(G)にある塔をバイパスすると、この間にガード塔に吸着していたであろうVOC量分が吸着せずにVOC凝縮手段で回収することができるので、その分回収効率がよくなる。併せて、ガード工程にある吸着塔へのVOCの再吸着量を少なく押さえることができ、その分吸着塔への吸着剤の充填量を少なくすることができるというメリットがある。
従って、VOCの連続回収を図るとともに、一層吸着剤の効率のよい使用方法および効率のよい再生方法が可能となり、簡便な機能の、エネルギー効率が高くかつ信頼性の高いコンパクトなVOCの回収プロセスを提供することが可能となった。
【0017】
本発明は、上記揮発性有機化合物の回収プロセスであって、加熱手段を流通した再生ガスの加熱により前記加熱再生工程にある吸着塔の加熱が可能なように、前記3基以上の吸着塔の並びの中央に該加熱手段を配置することを特徴とする。
【0018】
上記のように、本発明は、各吸着塔について吸着工程、再生工程、ガード工程という3つの工程を順次循環的に移行することを特徴とする一方、吸着法によるVOCの回収においては、必ず加熱処理工程とともに、冷却処理工程をも必要となる。ここで、加熱手段を各吸着塔に設ける構成も可能であるが、装置の大型化、コストの上昇を招くことから、必要な再生ガスのみ加熱処理を行うことが好ましい。
また、本発明は、再生工程にある吸着塔とガード工程にある吸着塔との間での再生ガスの循環使用を行うことを特徴とする。本発明は、さらに各吸着塔を2つのグループに分け、その一方に少なくとも1つの再生工程を有し、他方に少なくとも1つのガード工程を有するように該吸着塔を機能させるとともに、これら2つのグループを結ぶ流路の中間に加熱手段を配設し、1つの加熱手段で供給される再生ガスを予め加熱することによって、複数の吸着塔含むVOC回収プロセス全体のコンパクト化を図るとともに、接続する流路を設定することによって任意の構成が可能となり汎用性のあるVOC回収プロセスを形成することが可能となる。
【0019】
本発明は、上記揮発性有機化合物の回収プロセスであって、前記吸着剤として疎水性吸着剤を使用し、再生ガスとして不活性ガスを使用することを特徴とする。
【0020】
吸着法によるVOCの回収効率は、吸着剤の特性と個々のVOCの多くの物性に依存する。吸着剤の一般的傾向として、吸着能は温度の関数で低温ほど大きく高温では低い。一方、VOCの物性からは、一般に沸点が吸着温度に比較して高い程吸着は容易である。この基準によれば、水分(沸点100℃)が共存する場合には、MEK(沸点80℃)や酢酸エチル(沸点77℃)などに比較して水分の方が吸着し易いことになる。本発明は水分が極性分子であることを利用し、VOCの吸着能が大きく水分を殆ど吸着することのない疎水性の吸着剤を選定することによって、VOCの選択的吸着分離を可能にしたものである。さらに、疎水性吸着剤は、脱着においても優先的に水分を脱着する特性を有することから、再生工程にこうした特性を活かすことによって、一層のVOCの選択的吸着分離が可能となる。また、再生ガスとしては清浄化した試料空気を利用することも可能であるが、吸着剤の加熱再生つまり吸着剤からのVOCの脱離時のパージガス中に存在するVOCの濃度が高くなり、多くの場合、爆発範囲に入る危険性を回避する制約から効率的な再生ができないことがある。さらに、VOCの種類によっては、空気中での加熱再生による変性を避けるために加熱温度に制約が生じることから、十分な再生ができないことがある。これら問題を避けるため、再生ガスとして不活性ガスを用いることが好ましい。こうした選定を行うことによって、VOCの回収プロセスの一層の安全性確保を図るものである。
【0021】
本発明は、上記揮発性有機化合物の回収プロセスであって、前記冷却凝縮手段において、前記再生工程(C)にある吸着塔からの再生ガスを冷却器で冷却後、冷熱回収手段を経由して凝縮器に導入し、該再生ガス中に含まれる揮発性有機化合物を回収除去することを特徴とする。
【0022】
吸着によるVOC回収方法は、多量の空気中に含まれたVOCを吸着剤に固定し、別途再生ガスで脱着させ、より濃度の高いガスに濃縮し、冷却凝縮法などと組み合わせ除去するとの方式である。特に、VOCとともに水分が共存する場合には、脱着に際しては、吸着剤を比較的低温の再生ガスで加熱するとはじめに水分が選択に脱着し、再生工程(B)において、ほとんどの水分は脱着し終わる。これに、僅かのVOCが同伴するが、再生工程(C)におけるVOCの冷却凝縮により、殆ど水分を含まないVOCの回収ができる。また、冷熱回収手段を経由することにより、冷却に要するエネルギーを軽減できる。このような巧妙な方法によって、VOCと水分が含まれた空気であっても、非常に選択性が高くエネルギー効率の高いVOCの分離回収が可能となる。
【0023】
本発明は、上記揮発性有機化合物の回収プロセスであって、前記再生工程(B)の少なくとも一部あるいは全てにおいて、再生工程(B)にある吸着塔からの再生ガスに含まれる水分を水分凝縮器で除去することを特徴とする。
【0024】
上記のように、本発明のVOC回収プロセスにおいては、VOCとともに水分が共存する場合であっても、効率的にVOCを選択分離することが可能である。しかしながら、VOCの組成によっては、水分のガード工程の塔での吸着に負担となったり、再生ガス中に含まれる水分が無視できず、冷却凝縮手段におけるVOCの回収効率に影響を及ぼす場合がある。本発明は、こうした場合が想定される場合に、水分凝縮器を設けることによって、未然にこうした状態を回避し、高いVOCの回収効率を保持することが可能となる。なお「水分凝縮器」とは、冷却して、液化のみならず固化を含む方法により水分を除去をするものをいう。
【0025】
本発明は、上記揮発性有機化合物の回収プロセスであって、吸着工程およびガード工程のガス流れ方向を下から上へ再生工程のガスの流れ方向を上から下へとることを特徴とする。
【0026】
吸着法による精製において吸着塔出口寄りの部分が充分に再生されていることは重要である。十分に再生されたときは、吸着塔は入り口から出口に向け飽和領域が進行し僅かな遷移領域を介して殆ど不純ガス成分を含まない精製されたガスが吸着塔を出て行くので、吸着塔は全体的に有効に利用される。一方、吸着塔出口側よりの部分が充分に再生されていないときは、吸着塔の中間部が未使用であっても精製されたガスが吸着塔上部の残留不純物を脱着し、出口に不純ガス成分が出現するともはや吸着塔の使用ができなくなり吸着塔全体が有効に使用されない可能性がある。このことは低沸点成分の多いVOCの回収において特に、重要である。一般に、吸着工程において被精製ガスは、下方から上方にとられるのは一般的である。これは、後続の再生初期などで脱着不純物が液体状態に戻ることがあり、重力の影響で下部に流れ落ちたときこれが出口側に回り込むことを避ける配慮からである。吸着を利用しての分離においては、低温ほど吸着能は高く、吸着塔下部は上部に比較し温度が低い。また、吸着分離においては、加熱による再生工程が必須となる。このとき、吸着塔上部は下部に比較し温度が高く十分に加温されることから、ガス流れ方向を上方から下方にすると、上記吸着時の出口(上方)寄りの部分の再生を十分に行うことが可能となる。従って、加熱工程は上から下に向けた再生ガスの流れ方向が有効である。また、冷却の初期にも、十分に冷却されたガード塔を通り、十分に精製された再生ガスを上から下に向けた再生ガスの流れ方向が有効である。冷却の後半以降は、ガード工程に切り替わり水分やVOCの再吸着に使用されるので、下から上に向けた再生ガスの流れ方向が有効である。本発明においては、これらの機能を利用し、一層迅速なかつ均一な吸着機能および脱着機能の実現を図ることができる。
【0027】
本発明は、上記揮発性有機化合物の回収プロセスであって、加熱手段を用いた前記加熱再生処理において、廃熱回収熱交換器を介して再生ガスを前記冷却凝縮手段へ導入し、該冷却凝縮手段からの再生ガスを前記廃熱回収熱交換器に導入するとともに、該再生ガスを前記加熱手段に導入することを特徴とする。
【0028】
再生工程において用いる再生ガスは、加熱再生処理を行う吸着塔においては、高温状態で多量のVOCを脱着させる一方、VOC凝縮器においては極低温状態にまで低下させることによって大半のVOCを回収する。つまり、循環する再生ガスに対しては、その循環流路において、こうした大きな温度差を付加するために用いる大きなエネルギーの授受が行われる。本発明は、廃熱回収熱交換器を、冷却凝縮手段と加熱手段の中間の最適位置に設けて、こうしたエルギーの授受を効率的にかつ簡便に行うことによって、両者の負荷を軽減することが可能となる。ひいては、VOCの回収システム全体のエネルギー効率を大幅に向上させることができる。特に、工程の切り換え時の両方の工程が交差するときには一層効果的である。
【発明の効果】
【0029】
このように、本発明によれば、水分およびVOCを含む試料空気からのVOCの回収において、VOCの連続回収を図るとともに、吸着剤の効率のよい使用方法および効率のよい再生方法によって、簡便な機能を用い、保守を軽減しエネルギー効率が高くかつ信頼性の高いVOCの回収プロセスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は様々な試料空気の条件(流量やVOCの種類やその組成など)に適用可能であるので、操作温度などの数値例は典型的な値を示す。
本発明に係るVOCの回収プロセスは、吸着剤を充填した少なくとも3基の吸着塔および揮発性有機化合物を回収する冷却凝縮手段を有し、その内の少なくとも1基を再生工程(B)、(C)または(D)のいずれかに、別の少なくとも1基をガード工程(E)、(F)または(G)のいずれかに、少なくとも1基以上の残りを吸着工程(A)に供し、これらの工程を順次切り換えることによって、再生工程において循環使用される再生ガス中の濃縮された揮発性有機化合物を効果的に回収することを特徴とする。
【0031】
<本発明に係るVOCの回収プロセスの1の構成例>
図1に、本発明に係るVOCの回収プロセスの1の構成を例示する(第1構成例)。
ここでは、吸着塔を4基設け加熱手段をその中央に配置した場合について説明する。この配置方法に限定するものではないが、このような配置は切換弁の数を減らすことができて好ましい。特に試料空気の流量が多いときには、多数の吸着塔を使用するほど、吸着工程にある吸着塔の割合が多くなり、より効率的なVOCの回収プロセスを構成することが可能となる。
【0032】
S1〜S4は内部に吸着剤が充填された吸着塔、1は試料空気を系内に導入する第一ブロア、2は再生ガスを冷却する冷却器、3は主としてVOCを凝縮し回収するVOC凝縮器、4は再生ガスを移送する第二ブロア、5は吸着工程における吸着塔S1〜S4からの試料空気を集合管から排出するスタック、6は再生工程における再生ガス加熱用の再生ガス加熱器を示している。また、V1a〜V1e、V2a〜V2e、V3a〜V3e、V4a〜V4eは、各吸着塔を吸着・再生・ガードの各工程に対応して試料空気あるいは再生ガスの流路の切り換えを行う制御弁、Vaは別途系外から再生ガス(パージガス)を用いる場合に導入する制御弁、VbおよびVcは再生ガスの供給に際しVOC凝縮器を通過するかバイパスするかの切換を行う制御弁、VdおよびVeは再生ガスの供給に際し再生ガス加熱器6を通過するかバイパスするかの制御を行う制御弁を示している。
【0033】
このとき、上記各手段及び付帯する配管及び弁などの試料流路を構成する部材は断熱構造を形成し、所定の温度に保持されることが好ましい。また、第一ブロア、第二ブロアの駆動用電動機を回転数制御するとその風量を変更でき、その結果、再生ガスの昇圧、加熱、冷却などに要するエネルギーの節約ができて好ましい。なお、本実施例では、加熱手段にバイパス弁Veを付ける例を示しているが、これを用いないで、加熱手段の機能を停止すること、つまり、電気あるいはスチーム等の供給を停止することで代えてもよい。
【0034】
また、これらの各要素は、試料空気の吸着工程、再生ガスによる再生工程およびガード工程に対応して、所定のシーケンスに従い、所定の制御手段(図示せず)によって、その作動を管理・制御する。なお、図1では図示していないが、本システムの安定な稼動を確保するために、所定の位置に、温度計、圧力計、分析計および流量計などの測定手段、冷却流体や加熱流体および圧力調整器を適宜配設し、これらの出力および機能を上記同様、制御手段によって管理・制御している。
【0035】
図1の構成例においては、吸着塔S1と吸着塔S3を対とし、吸着塔S2と吸着塔S4を対とするとともに、その中間に加熱用流路を設けた点に特徴がある。制御弁V1cからの流路と制御弁V3cからの流路を、制御弁V2cからの流路と制御弁V4cからの流路とを接続する流路を分岐し、一方を加熱用流路として再生ガス加熱器6および制御弁Vdを設け、他方をバイパス流路として制御弁Veを設けている。つまり、制御弁Vdを開とすることで加熱用流路を形成し、制御弁Veを開とすることでバイパス流路を形成する。
【0036】
後述する回収プロセスの機能から分るように、本構成例においては、吸着工程にある吸着塔と再生工程にある吸着塔のグループと、吸着工程にある吸着塔とガード工程にある吸着塔のグループに分けることによって非常に効率的に機能する。つまり、一方のグループの再生工程と他方のグループのガード工程が、循環的に入れ替えを行われることによって、その中間にある加熱用流路を共有することが可能となり、エネルギー効率の向上を図ることができる。また、2つの吸着塔を吸着工程に利用することができることから、試料空気から多量のVOCの回収を行うことができ、再生機能およびガード機能をも有効に利用することが可能となる。
【0037】
また、2つのグループ分けは、次の如くすることが好ましい。吸着塔の数をnとするとき、nが偶数・奇数の場合に分けて述べる。
(1)先ず、偶数(n=2m)の時は、m基ずつの2つのグループに分ける。各々の吸着塔の再生工程の再生ガス入口とガード工程の再生ガス出口を再生ガス中間口と呼ぶと、再生ガス中間口から延ばしてヘッダー管(図1における6aおよび6bに該当)に制御弁Vdを介して接続する。ヘッダー管の中間に加熱手段6を配置する。
(2)また、奇数(n=2m+1)の時は、内2m基は上記、偶数の時と同様に配置し、残り1基はその再生ガス中間口からの再生ガス配管を2つに分岐し、各々を延ばしてヘッダー管の上記加熱手段の両側に弁を介して接続する。特に、3基の場合は、後程より詳しく説明する。
【0038】
吸着剤としては、基本的にVOCの吸着能力が高く水分の吸着能力が低ければ特に限定はされないが、比較的こうした能力の差の大きい活性炭を用いることが好ましい。さらにこうした能力の差の大きい、いわゆる疎水性吸着剤が好ましく、具体的には、疎水性ゼオライトが該当する。ここで、疎水性ゼオライトとは、一般にシリカ/アルミナ(SiO/Al)比が大きいものをいい、水を吸着しにくい特性を有する。例えば、SiO/Al比が15以上のもの、特には50〜500程度のものが好ましい。また、吸着剤の形状は、一般には、径3〜5mm程度のペレット状、粒状体あるいはハニカム形状などにより圧力損失が小さく、かつ吸着面積の大きな条件で使用することが好ましい。
【0039】
また、吸着剤として疎水性吸着剤を選択することによって、本発明特有の効果を得ることが可能となる。一般に、吸着法によるVOCの回収効率は、吸着剤の特性と個々のVOCの多くの物性に依存する。例えば、吸着剤の吸着能は、吸着分子のサイズと細孔分布の関係、吸着剤と吸着分子の化学的親和性またこれと関連するが吸着分子の極性などに依存する。また、吸着剤の一般的傾向として、吸着能は温度の関数で低温ほど大きく、高温では低い。一方VOCの物性からは、一般に沸点が吸着温度に比較して高い程吸着は容易である。代表的なVOCとして沸点を記すと、シクロヘキサノン:156℃、トルエン:111℃、MIBK:116℃、MEK:80℃、酢酸エチル:77℃、などとなる。シクロヘキサノン、トルエンあるいはMIBKなどは吸着による精製は容易である。また、MEKや酢酸エチルなどは精製が比較的難しいことが分かる。しかし、後者のVOCを沸点のみで比較すれば水分(沸点100℃)の方が吸着し易いことになるが、水分が極性分子であることから、疎水性の吸着剤を選べば、VOCの吸着能が大きく水分を殆ど吸着することなく、VOCの吸着分離ができる。脱着においても優先的に水分を脱着する特性を有することから、再生工程にこうした特性を活かすことによって、一層のVOCの選択的吸着分離が可能となる。本発明はこうした特性を利用することによって、効率的なVOCの回収を図ったものである。
【0040】
吸着塔S1〜S4は、内部に上記吸着剤が充填され、低温条件(通常約20〜40℃程度)での主としてVOCの吸着、中温条件(通常約100〜130℃程度)での僅かな水分などの脱着、および高温条件(通常約140〜200℃程度)でのVOCの脱着を繰り返し行われる。吸着塔S1〜S4の温度調整方法は、塔内部に加熱部あるいは冷却部を有して自己完結的に温度調整を行う方法、外部から加熱媒体あるいは冷却媒体を供給する方法、あるいは再生ガス流路に加熱器や冷却器を設けて吸着塔の再生時に加熱された再生ガスや冷却された再生ガスを導入することによって温度調整する方法などがある。
【0041】
図1においては、吸着塔S1〜S4のいずれにも繋がる流路同士を、再生ガス加熱器を有する加熱用流路あるいはバイパス流路を介して接続し、加熱用流路とバイパス流路の切換機能を有することを特徴とする方法を例示している。
【0042】
つまり、加熱手段を各吸着塔に設ける構成も可能であるが、装置の大型化、コストの上昇を招くことから、必要な再生ガスのみ加熱処理を行うことが好ましい。本発明は、再生工程にある吸着塔とガード工程にある吸着塔との間に再生ガス加熱器を配設し、1つの加熱手段で供給される再生ガスを予め加熱することによって、吸着塔自体に加熱機能を有する必要をなくし、複数の吸着塔含むVOC回収プロセス全体のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0043】
また、吸着塔S1〜S4への試料空気あるいは再生ガスの流れ方向に関し、図1に例示するように、吸着工程およびガード工程にある吸着塔については下から上とし、再生工程にある吸着塔については、上から下とすることが好ましい。
【0044】
つまり、一般に吸着塔内部における再生工程直前の吸着しているVOCの分布状態は、図2(a)のような試料空気入口側に高濃度のVOCが吸着していることから、図2(b)のように、試料空気と逆方向から再生ガスを流すことによって先に高濃度VOCを脱着することができ短時間に処理することが可能となる。また、吸着を利用しての分離では、一般にVOCが下方から上方に流される。VOCの吸着は、下方の入り口から上方の出口に向かって進行し、最終的に吸着塔が破過し、VOCが出口から問題となる濃度で出て行くようになると使用限界となる。ただし、吸着塔の再生工程において吸着塔の上部が十分に再生されていないと、吸着塔の破過が早期に起こり吸着塔の吸着剤が十分に使用できないことがある。これは再生ガスの冷却凝縮後残留するVOC分の濃度とも関連し、比較的低沸点のVOCが含まれる場合に顕著である。つまり、吸着塔の上部が十分に加温され再生が十分になされるので、加熱工程は上から下に向けた再生ガスの流れ方向が有効である。また、冷却の初期にも、十分に冷却されたガード塔を通り、十分に精製された再生ガスを上から下に向けた再生ガスの流れ方向が有効である。冷却の後半以降は、ガード工程に切り替わり水分やVOCの再吸着に使用されるので、下から上に向けた再生ガスの流れ方向が有効である。従って、本構成によって、これらの機能を利用することが可能となり、より完全な吸着塔の再生により効率的なVOC回収を図ることができる。特に、比較的低沸点のVOCが含まれる場合には、多くの点に配慮した、本発明の再生方法が有効となる。
【0045】
冷却器2は、再生ガスを20〜40℃程度に冷却するもので、水冷式の熱交換器を用いることができる。また、本構成の吸着工程においては、吸着剤での水分の吸着量が少なく、大部分の水分がスタック5から排出されることから、VOCの回収効率の面では、凝縮排水処理を行う必要はなく、図1において例示したように、冷却器2を介してVOC凝縮器3に再生ガスが導入することによって、十分水分の影響もなくVOCの回収機能が働く点においても優れている。つまり、多量の空気中に含まれたVOCを吸着剤に固定し、再生ガスで脱着させて、より濃度の高いガスに濃縮し、冷却凝縮手段と組み合わせ除去する本方式においては、VOCとともに水分が共存する場合であっても、脱着に際しては、吸着剤を加熱するとはじめに水分が選択的に脱着し、これに僅かのVOCが同伴するが、再生工程(B)において、ほとんどの水分は脱着し終わり、冷却器2を介した循環流路において処理される。従って、再生工程(C)におけるVOCの冷却凝縮により、殆ど水分を含まないVOCの回収ができる。このような方法によって、VOCと水分が含まれた空気であっても非常に選択性の高い、VOCの分離回収が可能となる。
【0046】
また、冷却器2の後で分岐して凝縮器3と並列に、水分凝縮器を設けることも可能である。約10℃程度まで冷却し、再生ガス中の水分を凝縮トラップして排水除去することによって、ガード工程にある吸着塔への水分再吸着量を減らすことが可能となる。
【0047】
上記のように、本発明のVOC回収プロセスにおいては、VOCとともに水分が共存する場合であっても、効率的にVOCを選択分離することが可能である。
【0048】
VOC凝縮器3は、再生ガスを−40〜−10℃程度にフレオン冷凍機で冷却される。凝縮されたVOCを凝縮器3内の流路からトラップして取り出すことによって、VOCの回収を行うことができる。回収されたVOCは、その後精製され再度各種溶剤の原料として利用することが可能である。また、一旦冷却された再生ガスは10℃程度に戻すことが好ましいことから、図1に例示するような循環される冷媒によるか、あるいは冷却器2からの再生ガスと熱交換することによって冷熱回収し、エネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【0049】
再生ガス加熱器6は、再生ガスを中温状態(約150℃程度)、あるいは高温状態(約220℃程度)に加熱するもので、発熱抵抗体式やスチームなど熱媒体による熱交換式などを適用することが可能である。加熱状態の切り換えは、印加電圧の切り換えや熱媒体の温度あるいは供給量の切り換えなどによって行われる。
再生工程にある吸着塔に供給される再生ガスを予め加熱することによって、吸着塔自体に加熱機能を有する必要をなくし、複数の吸着塔含むVOC回収プロセス全体のコンパクト化を図るとともに、接続する流路を設定することによって任意の構成が可能となり汎用性のあるVOC回収プロセスを形成することができる。
【0050】
なお、図1では、制御弁Vaを介して別途系外から再生ガス(パージガス)を用いる場合を例示した。一般には、プロセスの運転条件を、こうした限界を超える条件で操作しないことから、系外からのパージガスの導入をせずに、試料空気をそのまま再生ガスとして利用することも可能であるが、VOCの種類によっては、再生ガス中のVOC濃度が爆発限界あるいはその他の許限界を超える可能性がある場合があり、プロセスの安全性の確保の観点から再生ガスとして窒素ガスのような不活性ガスを用いることが好ましい。
【0051】
<第1構成例に基づくVOCの回収プロセスの動作手順>
(1)上記第1構成例に基づくVOCの回収プロセスの動作について、まず、1つの吸着塔(「該吸着塔」という。)における各工程の内容を説明する。
【0052】
(1−1)吸着工程(A)
回収プロセス稼動時においては、図1に示す第一ブロア1で昇圧した試料空気を回収プロセスに導入する。このとき、VOCおよび水分を含む試料空気は、まずフィルタ(図示せず)によって清浄され、また必要なら水冷却器(図示せず)により冷却された後、吸着塔S1〜S4のいずれか2基の該吸着塔に導入され、主としてVOCを吸着分離して大気に放出される。該吸着塔においては、温度約20〜40℃程度、圧力約2〜8kPaG程度に設定される。
【0053】
(1−2)再生工程(B)
次に、回収プロセス稼動時には、第二ブロア4で昇圧した再生ガスを回収プロセスにおいて機能させる。ここで、再生ガスは、系外から導入するか、上記VOCを吸着処理した試料空気を使用するかを問わないが、系外から導入する場合は不活性ガスが好ましい。不活性ガスを用いるときは、再生工程の最初に吸着塔内の残留空気を不活性ガスで置換する操作を行うこと多いが、一般的に良く知られたことであるので詳述しない。
このとき、再生ガスを冷却器2に導入し、第二ブロア4で昇圧し、後述するガード工程(E)にある吸着塔に導入して主として水分を除去した後、それを再生ガス用加熱器6によって中温状態約150℃にして該吸着塔に導入することによって、該吸着塔の再生を行う。再生ガスは、回収プロセス内部において循環使用される。なお、加熱状態は図1のように加熱器を通過させることが好ましいが、処理量の少ない場合には、該吸着塔自体を加熱することも可能である。
【0054】
(1−3)再生工程(C)
次に、冷却器2を介して再生ガスをVOC凝縮器3に導入して大半のVOCを除去し、第二ブロア4で昇圧し、約10℃の低温状態でガード工程(F)にある吸着塔において微量の残留VOCを除去された後、その再生ガスを再生ガス用加熱器6によって高温状態約220℃にして該吸着塔に導入することによって、該吸着塔の高度の再生を行う。
このとき、極低温(約−40〜−10℃程度)のVOC凝縮器3においてVOCを凝縮液化させ、溶剤として回収する。また、再生ガスは、上記(1−2)同様、回収プロセス内部において循環使用される。
【0055】
(1−4)再生工程(D)
次に、再生工程(C)と同様に、再生ガスを冷却器2、VOC凝縮器3、第二ブロア4、ガード工程(F)にある吸着塔に導入した後、本工程においては低温状態にして該吸着塔に導入することによって、該吸着塔の冷却を行う。
【0056】
(1−5)ガード工程(E)
上記(1−4)によって該吸着塔の再生工程は完了し、該吸着塔はガード工程に移行する。つまり、再生工程(B)にある吸着塔からの再生ガスを、冷却器2に導入した後、該吸着塔に導入して主として残留した水分を除去することによって、再生工程(B)にある吸着塔への清浄な再生ガスの供給を行っている。
上記の機能からみると、ガード工程は、特定の吸着塔における次なる吸着工程の準備段階であるとともに、他の吸着塔の再生工程の補助的機能の役割を果たすものである。
【0057】
(1−6)ガード工程(F)
次に、再生ガスは、冷却器2を介してVOC凝縮器3に導入されて大半のVOCが除去された状態で、低温条件で該吸着塔に導入される。ここで、微量の残留VOCを除去された後、それを再生ガス用加熱器6によって中温状態で再生工程にある吸着塔に清浄な再生ガスの供給を行っている。
上記(1−5)同様、特定の吸着塔における次なる吸着工程の準備段階であるとともに、他の吸着塔の再生工程の補助的機能の役割を果たしている。
【0058】
以上の回収プロセスにおいて、1サイクルの時間および各工程の個々の時間については、処理する試料空気に含まれるVOCの成分の種類や組成などによって大きく異なるが、各工程の時間比率として、4基の場合、吸着工程を200とした場合再生工程全体およびガード工程全体が100となり、[B]=[E]=30、[C]=45、[D]=25、[F]=[C]+[D]=70が代表的な値である。
【0059】
なお、以上の回収プロセスでの再生工程(C)を複数の工程に分解し加熱手段の設定値を変更するような拡張も可能である。
【0060】
また、吸着工程(A)から再生工程(B)への切り替えは、単純に前もってタイマで設定しておき、それに従うようにすることもできるが、吸着工程(A)にある塔の出口の、あるいはスタックへの集合管において、集合後のVOC濃度を分析計でモニタしておき、規定値になるまで、吸着工程(A)を続ける方式も可能である。この方式を採用すると再生の頻度を少なくでき、エネルギーを節約できて好ましい。
【0061】
以上のように、本発明に係るVOC回収方法は、多量の空気中に含まれたVOCを吸着剤に固定し、別途再生ガスで脱着させ、より濃度の高いガスに濃縮し、冷却凝縮法などと組み合わせ除去するとの方式である。このとき、疎水性吸着剤を用いた場合であっても、VOCの吸着固定ができると同時に僅かの水分も吸着される。しかしながら、脱着に際しても疎水性の特性から、吸着剤を加熱するとはじめに水分が選択に脱着し始め、初期段階でほとんどの水分は脱着し終わる。その後、さらに高い温度で加熱することあるいは加熱を継続することによって、高濃度のVOCの脱着が生じることから、この再生ガスを冷却凝縮することにより、殆ど水分を含まないVOCの回収ができる。こうしたメカニズムに注目して編み出された巧妙な方法が本発明の要点である。
【0062】
(2)上記各工程の内容については、特定の吸着塔を中心に説明したが、回収プロセス全体としての吸着塔の循環的切換えが可能なことが、図3(1)〜(6)および表2に基づいて理解される。図3では試験空気および再生ガスの流れが、表2は、回収プロセスにおける吸着塔S1〜S4の機能別の工程が相互の関係とともに例示される。
【0063】
〔表2〕

【0064】
システム全体としては第1〜12プロセス(P1〜P12)が循環的に実行される。
加熱手段を中央に配置し、吸着塔の並びにS1、S3,S2,S4と名づけることにより、奇数番と偶数番がグループ分けされ、吸着塔S1〜S4が順次循環的に切換え可能であることが理解できる。つまり、P1〜P3のプロセスでは、S3のガード工程(E,F)とS2の再生工程(B,C,D)が対となり、3プロセスの単位でS4とS3、S1とS4、S2とS1と順次循環的に実行される。
【0065】
以上の第1〜12プロセスによって、各吸着塔S1〜S4での吸着工程、再生工程、ガード工程を全て完了することになり、本回収プロセスの機能単位となる。実際の回収プロセスの実行にあっては、試料空気の性状に合せて、こうしたプロセスの機能単位を繰り返す回数、吸着工程の時間、あるいは再生工程やガード工程の時間比率、などを設定することによって、最も効率的なVOCの回収を行うことができる。また、加熱用流路の共有によるエネルギー効率の向上および2つの吸着塔の利用による多量のVOCの回収を行うことが可能となる。
【0066】
<本発明に係るVOCの回収プロセスの他の1の構成例>
次に、本発明に係るVOCの回収プロセスの他の1の構成例として、再生ガスの循環流路に2つの迂回路を設けた場合を図4に例示する(第2構成例)。
【0067】
基本的な構成は、第1構成例と同様であるが、吸着塔S1およびS3を再生ガス加熱器6と繋ぐ流路と吸着塔S1およびS3をブロア4と繋ぐ流路を、制御弁Vfを介して接続し、吸着塔S2およびS4を再生ガス加熱器6と繋ぐ流路と吸着塔S2およびS4をブロア4と繋ぐ流路を、制御弁Vgを介して接続することによって、再生工程(C)にある吸着塔からの再生ガスを、ガード工程(G)にある吸着塔を経由せずに循環的に再生工程(C)にある吸着塔に導入できるようした点に特徴がある。
【0068】
<第2構成例に基づくVOCの回収プロセスの動作手順>
(1)上記第2構成例に基づくVOCの回収プロセスの動作について、まず、1つの吸着塔(「該吸着塔」という。)における各工程の内容を説明する。
【0069】
(1−1)吸着工程(A)
第1構成例における吸着工程(A)と同様である。
【0070】
(1−2)再生工程(B)
第1構成例における再生工程(B)と同様である。
【0071】
(1−3)再生工程(C)
次に、冷却器2を介して再生ガスをVOC凝縮器3に導入して大半のVOCを除去した後、制御弁VfまたはVgを作動させてガード工程(G)にある吸着塔を迂回するバイパスを形成し、その再生ガスを再生ガス用加熱器6によって高温状態にして該吸着塔に導入することによって、該吸着塔の高度の再生を行う。多量のVOCを含む再生ガスが冷却器2を介してVOC凝縮器3に導入され、ここでVOC凝縮器3においてVOCを凝縮液化させ、溶剤として回収する。また、再生ガスは、上記(1−2)同様、回収プロセス内部において循環使用される。
【0072】
(1−4)再生工程(D)
第1構成例における再生工程(D)と同様である。
【0073】
(1−5)ガード工程(E)
第1構成例におけるガード工程(E)と同様である。
【0074】
(1−6)ガード工程(G)
次に、制御弁VfまたはVgを作動させて、ガード工程(E)にあった該吸着塔に流通していた再生ガスを停止する状態を作る。つまり、制御弁VfまたはVgを作動させて該吸着塔を迂回するバイパスを形成し、(1−3)に述べたように他塔の再生工程(C)が実行される。
【0075】
(1−7)ガード工程(F)
第1構成例におけるガード工程(F)と同様である。
【0076】
以上のように再生ガスをガード工程(G)にある吸着塔を迂回して、再生工程(C)の加温再生を行う。VOC凝縮手段3で除去しきれず残るVOCの濃度はVOCの沸点に依存し、低沸点成分ほど濃度が高くなる。構成例1においては、この再生工程(C)の間にガード塔に吸着していたであろうVOC量分が、この構成例2では、吸着せずにVOC凝縮手段で回収することができる。従って、その分回収効率がよくなるとともに、ガード工程にある吸着塔へのVOCの再吸着量を少なくすることができ、その結果吸着剤の量を少なくすることができる。
【0077】
(2)次に、回収プロセス全体として吸着塔の循環的切換えが可能なことが、図5(1)〜(6)および表3に基づいて第1構成例と同様に理解される。図5では試験空気および再生ガスの流れが、表3では、回収プロセスにおける吸着塔S1〜S4の機能別の工程が相互の関係とともに例示される。
【0078】
〔表3〕

【0079】
システム全体としては第1〜12プロセス(P1〜P12)が循環的に実行される。
【0080】
以上の第1〜12プロセスによって、各吸着塔S1〜S4での吸着工程、再生工程、ガード工程を全て完了することになり、第1構成例と同様、本回収プロセスの機能単位となり、効率的なVOCの回収を行うことができる。また、加熱用流路の共有によるエネルギー効率の向上および2つの吸着塔の利用による多量のVOCの回収を行うことが可能となる。
【0081】
<その他の構成例>
(1)本発明に係るVOCの回収プロセスにおいて、最少である3基の吸着塔を用いた場合の構成を、図6に例示する(第3構成例)。
【0082】
基本的な構成および機能は、第1構成例と同様であるが、中央の吸着塔S2の上部の流路を分岐し、一方を、制御弁Vfを介して再生ガス加熱器6および制御弁Vdを有する加熱用流路に接続し、他方を、制御弁Veを有するバイパス流路に接続することによって、3基の吸着塔の任意の2つを組み合わせた循環流路を形成することができる点に特徴がある。
【0083】
こうした構成を第1構成例と同様に他の要素を作動することによって、最少の3基の吸着塔S1〜S3において、吸着工程、再生工程、ガード工程を1つの組み合せとして循環的に作動させることが可能となる。従って、小容量のVOCの回収プロセス向けの、簡便で、エネルギー効率が高くかつコンパクトな装置などに好適である。
【0084】
(2)本発明に係るVOCの回収プロセスにおいて、4基の吸着塔廃熱回収熱交換器7を用いた場合の構成を、図7に例示する(第4構成例)。
【0085】
基本的な構成および機能は、第2構成例と同様であるが、工程(C)にある吸着塔からの再生ガスの廃熱を、上記廃熱回収熱交換器7を通して回収し、第二ブロア4からの再生ガスの予熱を行い、加熱器6の熱負荷を軽減することができる点に特徴がある。
【0086】
こうした構成を第2構成例と同様に他の要素を作動することによって、簡便で、エネルギー効率が高くかつコンパクトな装置などに好適である。
【0087】
(3)本発明に係るVOCの回収プロセスを構成する吸着塔としては、3基またはそれ以上の吸着塔の機能を1つまたはそれ以上の円筒状の回転式吸着体として集合し、動作させることも可能である(第5構成例)。
【0088】
基本的な構成は、第1構成例と同様であるが、回転式吸着体を放射状の境界線で仕切った6つの領域に分け、それぞれに、工程(A)〜(F)の機能を持たせるよう接続し、該回転式吸着体を一定速度で回転することによって、上記各工程を順次循環的に切換することを特徴とする。複数の吸着塔を一体化し、流路の簡素化、制御弁の低減を図ることによって、VOCの回収プロセス全体の簡素化およびコンパクト化を図ることができる。なお、大容量の試料空気を処理する場合には複数の回転式吸着体の組合せも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明に係るVOCの回収プロセスの基本構成を例示する説明図。
【図2】本発明に係る吸着塔内部におけるVOCの分布状態を例示する説明図。
【図3A】第1構成例に基づくVOCの回収プロセスの動作手順を例示する説明図。
【図3B】第1構成例に基づくVOCの回収プロセスの動作手順を例示する説明図。
【図4】本発明に係るVOCの回収プロセスの第2構成例を示す説明図。
【図5A】第2構成例に基づくVOCの回収プロセスの動作手順を例示する説明図。
【図5B】第2構成例に基づくVOCの回収プロセスの動作手順を例示する説明図。
【図6】本発明に係るVOCの回収プロセスの第3構成例を示す説明図。
【図7】本発明に係るVOCの回収プロセスの第4構成例を示す説明図。
【図8】従来技術に係るVOCの回収方法を例示する説明図。
【符号の説明】
【0090】
1 第一ブロア
2 冷却器
3 VOC凝縮器
4 第二ブロア
5 スタック
6 再生ガス用加熱器
7 廃熱回収熱交換器
S1〜S4 吸着塔
V1a〜V1e、V2a〜V2e、V3a〜V3e、V4a〜V4e、Va〜Vg 制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤を充填した少なくとも3基の吸着塔および揮発性有機化合物を回収する冷却凝縮手段を有し、水分および揮発性有機化合物を含む空気から該揮発性有機化合物を回収するプロセスにおいて、少なくとも、
1)水分および揮発性有機化合物を含む空気から、主として揮発性有機化合物を吸着し、水分を含む空気を系外に放出する吸着工程(A)と、
2)ガード工程(E)にある他の吸着塔からの再生ガスを用いて、主として水分をパージし、吸着剤の加熱再生処理を行う再生工程(B)と、
3)ガード工程(F)にある他の吸着塔からの再生ガスを用いて、主として揮発性有機化合物をパージし、吸着剤の加熱再生処理を行う再生工程(C)と、
4)ガード工程(F)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させるとともに、吸着剤の冷却再生処理を行う再生工程(D)と、
5)再生工程(B)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させ、主として水分を吸着除去するとともに、吸着剤の冷却処理を行うガード工程(E)と、
6)再生工程(C)あるいは再生工程(D)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させ、主として揮発性有機化合物を吸着除去するガード工程(F)と、
を含むとともに、前記吸着塔の内の少なくとも1基の吸着塔を再生工程に、別の少なくとも1基の吸着塔をガード工程に、少なくとも1基以上の残りの吸着塔を吸着工程に供し、これらの工程を順次切り換えることを特徴とする揮発性有機化合物の回収プロセス。
【請求項2】
吸着剤を充填した少なくとも3基の吸着塔および揮発性有機化合物を回収する冷却凝縮手段を有し、水分および揮発性有機化合物を含む空気から該揮発性有機化合物を回収するプロセスにおいて、少なくとも、
1)水分および揮発性有機化合物を含む空気から、主として揮発性有機化合物を吸着し、除去処理を行う吸着工程(A)と、
2)ガード工程(E)にある他の吸着塔からの再生ガスを用いて、主として水分をパージし、吸着剤の加熱再生処理を行う再生工程(B)と、
3)ガード工程(G)にある他の吸着塔を迂回する流路を循環する再生ガスを用いて、主として揮発性有機化合物をパージし、吸着剤の加熱再生処理を行う再生工程(C)と、
4)ガード工程(F)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させるとともに、吸着剤の冷却再生処理を行う再生工程(D)と、
5)再生工程(B)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させ、主として水分を吸着除去するとともに、吸着剤の冷却処理を行うガード工程(E)と、
6)他の吸着塔が再生工程(C)にある間、再生ガスの流通を停止し、該再生ガスを前記迂回路を循環させるガード工程(G)と、
7)再生工程(D)にある他の吸着塔からの再生ガスを流通させ、主として揮発性有機化合物を吸着除去するガード工程(F)と、
を含むとともに、前記吸着塔の内の少なくとも1基の吸着塔を再生工程に、別の少なくとも1基の吸着塔をガード工程に、少なくとも1基以上の残りの吸着塔を吸着工程に供し、これらの工程を順次切り換えることを特徴とする揮発性有機化合物の回収プロセス。
【請求項3】
加熱手段を流通した再生ガスの加熱により前記加熱再生工程にある吸着塔の加熱が可能なように、前記3基以上の吸着塔の並びの中央に該加熱手段を配置することを特徴とする請求項1または2記載の揮発性有機化合物の回収プロセス。
【請求項4】
前記吸着剤として疎水性吸着剤を使用し、再生ガスとして不活性ガスを使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の揮発性有機化合物の回収プロセス。
【請求項5】
前記冷却凝縮手段において、前記再生工程(C)にある吸着塔からの再生ガスを冷却器で冷却後、冷熱回収手段を経由して凝縮器に導入し、該再生ガス中に含まれる揮発性有機化合物を回収除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の揮発性有機化合物の回収プロセス。
【請求項6】
前記再生工程(B)の少なくとも一部あるいは全てにおいて、再生工程(B)にある吸着塔からの再生ガスに含まれる水分を水分凝縮器で除去することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の揮発性有機化合物の回収プロセス。
【請求項7】
吸着工程およびガード工程のガス流れ方向を下から上へ再生工程のガスの流れ方向を上から下へとることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の揮発性有機化合物の回収プロセス。
【請求項8】
加熱手段を用いた前記加熱再生処理において、廃熱回収熱交換器を介して再生ガスを前記冷却凝縮手段へ導入し、該冷却凝縮手段からの再生ガスを前記廃熱回収熱交換器に導入するとともに、該再生ガスを前記加熱手段に導入することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の揮発性有機化合物の回収プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−50378(P2007−50378A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238653(P2005−238653)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】