説明

揮発成分拡散シート

【課題】食品の味や匂いを損ない難く、多くの揮発成分を保持することができると共に、揮発成分の拡散し易さの制御が可能な揮発成分拡散シートを提供する。
【解決手段】揮発成分拡散シート10は、重ね合わされて周縁部の一部または全部で閉じ合わされた二枚のシート体1,2と、ワサビに由来する揮発成分を含む抗菌剤がシート体1にコーティングされることにより二枚の前記シート体1,2間に形成された抗菌剤層3と、二枚の前記シート体1,2の少なくとも何れか一方に切込みで形成された拡散部5とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発成分拡散シートに関するものであり、特に、食品の保存のための使用に適する揮発成分拡散シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、カラシやワサビ等に含有される揮発成分を含む抗菌剤を、不織布や発泡樹脂等の多孔性のシートに含浸させたシートや、プラスチックシート等に塗布したシートが市販されている。これらのシートを、食品が収容された弁当箱、寿司折り、重箱等の容器内で食品を覆うように載置し、或いは、食品の仕切り材として使用することにより、シートに含浸され又は塗布された抗菌剤から、抗菌成分が容器内に拡散する。これにより、菌類の繁殖が抑制され、食品の鮮度を保持することができる。
【0003】
上記の従来技術は、公然に実施されているものであり、出願人は、この従来技術が記載された文献を、本願出願時においては知見していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来のシートでは、含浸され又は塗布された抗菌剤が、食品に直接接触してしまうものであった。そのため、食品の本来の味が損なわれるという問題や、カラシやワサビの匂いが食品に移ってしまうという問題があった。また、抗菌剤が塗布されたシート面が食品と接触することにより、塗布された抗菌剤が剥離し、食品に混入してしまう恐れがあった。加えて、シートに含浸させられる抗菌剤の量や、剥離する恐れを低減してシートに塗布できる抗菌剤の厚さには、自ずと限界があるため、得られる抗菌効果が不充分であるという問題もあった。
【0005】
更に、シートに含浸された抗菌剤や、シートの外表面に塗布された抗菌剤からは、使用の初期段階で揮発成分が急速に揮発してしまい、抗菌作用を持続させることが困難であった。また、従来の抗菌シートでは、揮発成分の拡散し易さの制御を行うことはできなかった。
【0006】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、食品の味や匂いを損ない難く、多くの揮発成分を保持することができると共に、揮発成分の拡散し易さの制御が可能な揮発成分拡散シートの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる揮発成分拡散シートは、「重ね合わされて周縁部の一部または全部で閉じ合わされた二枚のシート体と、該シート体の少なくとも何れか一方にコーティングされることにより二枚の前記シート体間に形成された揮発成分含有層と、二枚の前記シート体の少なくとも何れか一方に切込み又は小孔で形成された拡散部とを」具備している。
【0008】
「シート体」としては、プラスチックシート、紙、不織布等を例示することができる。また、その形状は特に限定されず、四角形などの多角形、楕円形、円形等に形成することができる。また、シート体の「閉じ合わせ」は、シート体がプラスチックシートである場合は、加熱を伴う圧着、加熱を伴わない圧着、接着剤による接着等により行うことができ、シート体が紙や布製である場合は、接着剤による接着、縫着等により行うことができる。更に、「周縁部の一部または全部」での閉じ合わせは、重ね合わされた二枚のシート体が離れないように、周縁部の複数箇所で部分的に圧着等することにより、或いは、シート体の周縁部の全周にわたって圧着等することにより、行うことができる。例えば、シート体が四角形の場合は、四辺の全て、四辺の内の三辺、対向する二辺、或いは隣接する二辺で閉じ合わせることができる。また、長尺の帯状のシート体を二枚重ね合わせ、長手方向に沿った二辺で閉じ合わせることもできる。
【0009】
「揮発成分」としては、ワサビやカラシに含まれるイソチオシアン酸アリル、ヒノキやヒバに含まれるヒノキチオール、ニンニクに含まれるアリシン、竹に含まれるベンゾキノン、セージ・タイム・ユーカリ・セイヨウハッカ等のハーブのエキスに含まれる揮発成分など、天然由来の抗菌成分を例示することができる。また、オレンジ・レモン等の柑橘類やリンゴ等の果物、コーヒー、ラベンダー・カモミール等のハーブなど、万人に好まれ易い香りを有する、芳香成分を例示することができる。
【0010】
コーティングにより揮発成分含有層を形成するには、例えば、揮発成分を含む抽出液やその溶液を、シート体に塗布することができる。或いは、揮発成分を含む液体、粉末、顆粒等を、樹脂やデンプン質材と混合して高分子エマルションやペーストを調製し、これらをシート体に塗布することができる。また、揮発成分の急速な揮発を抑制するために、シクロデキストリンの包接体とした上で、シート体にコーティングしても良い。なお、「二枚のシート体間に」形成するため、揮発成分含有層は重ね合わされたシート体の内側の面にコーティングされるものであるが、二枚のシート体の両方にコーティングされるものであっても、一方のシート体にのみコーティングされるものであっても良い。
【0011】
「拡散部」は、例えば、Y字状、X字状、V字状、L字状、一文字状の切込みとすることができ、その場合、切込みの長さは1mm〜数cmとすることができる。或いは、直径が数百μm〜数mmの小孔とすることもできる。また、拡散部は、一枚のシート体に複数を設けることができる。なお、拡散部は、揮発成分をシート体間から外部へと拡散させるものであるが、二枚のシート体の周縁部が一部のみで閉じ合わされ、残る部分で開放されている場合、この開放された部分を介しても、揮発成分の拡散が行われる。
【0012】
上記の構成により、本発明によれば、周縁部で閉じ合わされ、重ね合わされた状態が保持された二枚のシート体間に揮発成分含有層が設けられるため、揮発成分拡散シートを食品に対して用いても、揮発成分含有層が食品に直接接触することがなく、食品の味が損なわれる恐れや、匂いが食品に移る恐れを低減することができる。
【0013】
そして、シート体には切込み又は小孔の拡散部が設けられているため、揮発成分含有層が二枚のシート体間に形成されていても、揮発成分のガスを外部の空間へと拡散させることができる。これにより、例えば、揮発成分の有する抗菌作用により、シート体の周辺の食品等における菌の繁殖を抑制し、カビの発生や腐敗の進行を抑制することができる。また、抗菌作用により、生物的消臭効果も期待される。
【0014】
また、抗菌成分と芳香成分とで揮発成分含有層を構成させることにより、一つの揮発成分拡散シートで、抗菌効果と芳香の発散効果との両方を奏させることができる。或いは、抗菌成分の有する匂いを芳香成分によってマスキング消臭し、抗菌成分の抗菌作用を有効に発揮させると共に、シート体から拡散する匂いを調整することができる。なお、抗菌成分と芳香成分とは、抗菌作用と共に芳香を有する成分を用いるものであっても、別個の成分を併用するものであっても良い。ここで、別個の成分を併用する場合は、例えば、二枚のシート体の一方に抗菌成分を含有する揮発成分含有層を形成し、他方のシート体に芳香成分を含有する揮発成分含有層を形成することができる。
【0015】
加えて、拡散部の大きさ、数、形状を変化させることにより、揮発成分の拡散のし易さを容易に制御することができる。例えば、切込みの長さや小孔の径の大きさ、設ける数の設定により、揮発成分が少しずつ拡散して、その抗菌、消臭、芳香等の作用が長時間持続する徐放性の揮発成分拡散シートとすることも、逆に、短時間に大きな抗菌等の作用を発揮させる揮発成分拡散シートとすることもできる。また、切込みの形状によっても、揮発成分の拡散のし易さを変えることができる。例えば、切込みが一文字状であれば揮発成分は拡散し難く、X字状であれば切込みで挟まれた部分のシート材が浮き易く、その開口を介して揮発成分を拡散させ易いものとなる。このように、拡散部の設定により、使用対象とする食品の種類、想定される使用環境、要求される鮮度保持期間等に応じて、揮発成分拡散シートを設計することが可能となる。
【0016】
更に、拡散部を、切込み又は小孔という機械的に設けられる構成とすることにより、揮発成分の分子の大きさのガスが透過し難い材質のシート体であっても、揮発成分をシート体の外部へ拡散させることができる。また、防湿性、透明性、強度など、ガスの透過性以外の特性に着目してシート体の材料を選択することができ、材料の選択の自由度が高いものとなる。
【0017】
また、二枚のシート間に揮発成分含有層が設けられるため、従来品のように抗菌剤をシートに含浸させる場合や、食品と接触するシートの外表面に抗菌剤を塗布する場合に比べ、より多くの揮発成分をシート体間に保持させることができる。これにより、長期間にわたって抗菌等の作用を持続させることが可能となる。
【0018】
また、本発明にかかる揮発成分拡散シートは、「前記揮発成分含有層は、ワサビに由来する揮発成分を含む」ものとすることができる。
【0019】
ここで、「ワサビに由来する」揮発成分とは、フリーズドライ製法等によりワサビを加工して得られた粉末に含有されるものであっても、ワサビからの抽出液に含有されるものであっても、化学的に合成されたイソチオシアン酸アリルであっても良い。
【0020】
上記の構成により、本発明によれば、ワサビの抗菌成分により、高い抗菌作用を発揮させることができる。また、それ自体が食品であるワサビに由来する成分を用いることにより、揮発成分拡散シートを食品に対して安心して使用することができる。また、ワサビは馴染みのある食材であるため、需要者が違和感なく使用することができる揮発成分拡散シートとなる。
【0021】
更に、本発明にかかる揮発成分拡散シートは、上記構成に加え、「前記揮発成分含有層は、銀を含有する」ものとすることができる。
【0022】
上記の構成により、本発明によれば、銀の持つ抗菌作用によって、揮発成分含有層自体の鮮度を保持し、揮発成分による抗菌等の作用を持続させることが可能となる。なお、微細な銀粒子を用いることとすれば、表面積の増大により、ごく微量の銀の添加で大きな抗菌作用を得ることができると共に、揮発成分含有層の他の成分と混合し易く、層中に銀粒子を均一に分散させることができ、好適である。例えば、直径1〜100nmのごく微細な銀粒子を用いることができる。
【0023】
また、本発明にかかる揮発成分拡散シートは、上記構成に加え、「二枚の前記シート体の少なくとも何れか一方に銀が箔押加工された銀箔押層を」具備するものとすることができる。ここで、シート体において銀の箔押加工がなされる面は、重ね合わされたシート体の内側となる面であっても、外側となる面であっても良い。
【0024】
上記の構成により、本発明によれば、例えば、重ね合わされたシート体の内側となる面に銀が箔押加工されることにより、上記と同様に、銀の持つ抗菌作用で揮発成分含有層自体の鮮度を保持し、抗菌等の作用を持続させることが可能となる。
【0025】
また、重ね合わされたシート体の外側となる面に銀が箔押加工された場合は、銀箔押層が食品と接触することにより、銀の抗菌作用を食品に対して作用させることができる。ここで、抗菌作用を有する金属としては、銀の他にも銅、亜鉛等があるが、銀は旧来より、歯科用材料や食品添加物として使用されている金属であるため、食品に直接接触する部分に銀が使用されていても、需要者が安心して使用することができる。
【0026】
更に、銀の箔押加工により、揮発成分拡散シートに関する効能等の説明などの文字情報を施すことができ、銀箔押層に、上記の抗菌作用と同時に情報伝達作用を奏させることができる。加えて、文字や図柄等を銀で箔押加工することにより、銀の持つ独特の光沢によって煌びやかな装飾性を付与することができる。これにより、例えば、本発明の揮発成分拡散シートを高級弁当や寿司など対して使用することにより、豪華な雰囲気を演出することができる。なお、重ね合わされたシート体の内側に箔押加工する場合は、シート体が透明または半透明であれば、シート体を通して箔押加工された文字等を見ることができ、好適である。
【0027】
また、本発明にかかる揮発成分拡散シートは、「前記拡散部は、二枚のシート体の一方にのみ設けられ、前記拡散部が設けられた前記シート体を内側に、他方のシート体を外側にして袋状に形成されている」ものとすることができる。
【0028】
「袋状」の形成は、例えば、二枚のシート体を圧着や接着等により閉じ合わせた上で、その両端を重ね合わせ、更に圧着や接着等することにより行うことができる。或いは、二枚のシート体の閉じ合わせを行う圧着と、シート体を袋状に形成する圧着とを、同時に行うこともできる。
【0029】
上記の構成により、本発明によれば、揮発成分拡散シート自体を、食品の包装袋として使用することができる。例えば、おにぎり、パン、生麺、バナナ等の果物を袋状の揮発成分拡散シート内に収容することができる。或いは、刺身等の生鮮食品や惣菜を、皿やトレーごと袋状の揮発成分拡散シート内に収容することができる。このようにしても、揮発成分含有層は二枚のシート体間に形成されているため、食品に直接触れることがなく、揮発成分によって食品の味や匂いが損なわれる恐れを低減することができる。そして、揮発成分含有層からは、内部側となるシート体に設けられた拡散部を介して、揮発成分が袋状の揮発成分拡散シートの内部空間に拡散するため、収容された食品では菌類の繁殖が抑制され、鮮度を保持して保存することができる。一方、袋状の揮発成分拡散シートの外側となるシート体には拡散部は設けられていないため、揮発成分拡散シートの外部には揮発成分が拡散することはなく、揮発成分の無駄な消費を防止して有効に活用することができる。
【0030】
また、従来、食品の包装袋や包装容器内には、防腐剤等が収容された小袋が入れられているものがあり、誤って食品と一緒に口に入れたり、食品と一緒に鍋に投入してしまったりすることがあった。これに対し、本発明では、揮発成分拡散シート自体を、食品を収容する包装袋として使用することができるため、食品から包装を外す際には当然ながら揮発成分拡散シートが外されることとなり、誤って食品と一緒に口に入れたり、鍋に投入してしまったりする恐れのないものとなる。なお、シート体が透明または半透明であれば、袋状の揮発成分拡散シート内に収容された食品を、外部から視認することができ、好適である。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明の効果として、食品の味や匂いを損ない難く、多くの揮発成分を保持することができると共に、揮発成分の拡散し易さの制御が可能な揮発成分拡散シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の最良の一実施形態である揮発成分拡散シートついて、図1乃至図8に基づいて説明する。本実施形態では、本発明の揮発成分拡散シートを、揮発成分として抗菌成分を用いた抗菌シートに適用した場合を例示する。ここで、図1(a)は本実施形態の抗菌シートの概略構成を示す平面図であり、図1(b)は図1(a)のX−X断面図であり、図2(a)乃至(d)は他の実施形態の抗菌シートの概略構成を示す断面図であり、図3(a)は図1の抗菌シートの製造について説明する説明図であり、図3(b)は他の実施形態の抗菌シートの製造について説明する説明図であり、図4は更に他の実施形態の抗菌シートの概略構成を示す断面図であり、図5乃至図8は図1の抗菌シートの抗菌作用に関する試験結果を示す写真である。なお、図1乃至図4の断面図では、シート体や揮発成分含有層の厚さは誇張して表されている。
【0033】
本実施形態の抗菌シート10は、図1に示すように、重ね合わされて周縁部で閉じ合わされた二枚のシート体1,2と、一方のシート体1にコーティングされることにより二枚のシート体1,2間に形成された抗菌剤層3と、二枚のシート体1,2に切込みで形成された拡散部5とを具備している。
【0034】
より詳細に説明すると、シート体1,2には、何れも長方形の透明なプラスチックシート(ポリプロピレン)を使用している。また、本実施形態の抗菌剤は、ワサビ粉末を用い、ワサビ成分をシクロデキストリン包接体化することにより、ワサビ成分の急速な揮発を抑制した上で、樹脂と混合して調製されている。なお、抗菌剤のシート体1への塗布は、例えば、コーター機、グラビア印刷機、シルク印刷機等を使用して行うことができる。ここで、ワサビ成分が本発明の「揮発成分」に相当し、抗菌剤層3が本発明の「揮発成分含有層」に相当する。
【0035】
シート体1は、抗菌剤層3が形成されている面を内側にして、他方のシート体2と重ね合わされた状態で、四辺に沿って加熱圧着されることにより、周縁部に3〜10mm幅の圧着部8が形成され、シート体1,2が互いに閉じ合わされている。このような圧着は、例えば、シール印刷機、シール機、製袋機を使用して行うことができる。
【0036】
更に、それぞれのシート体1,2には、一辺の長さが1〜3mmのY字状の切込みとして拡散部5が形成され、シート体1,2の全面に散在するように複数設けられている。なお、このような拡散部5の形成は、例えば、拡散部5の形状に合致させた刃部を圧着機に装着することにより、シート体1,2の圧着と同時に行うことができる。なお、本実施形態では、シート体1,2の両方に拡散部5が形成されているが、何れか一方のシート体にのみ拡散部5が形成されるものとすることもできる。
【0037】
なお、抗菌シート10は、例えば、図3(a)に示すように、長尺の帯状のシート体1,2を、抗菌剤層3を設けた面を内側にして重ね合わせた状態で圧着することにより、長手方向の二辺、及び長手方向に直交する方向に圧着部8を形成すると共に、長手方向に直交する方向の圧着部8の中間線9で切断して、製造することができる。或いは、中間線9をミシン目とすることにより、帯状のまま巻き取って所望の長さで切り離して使用するタイプの抗菌シートとすることもできる。もちろん、予め所定のサイズにシート体1,2を切断してから、抗菌剤の塗布や圧着等を行うこともでき、抗菌シートの製造における抗菌剤の塗布、圧着、拡散部の形成、シート体の切断等の工程の順序は、特に限定されるものではない。
【0038】
上記の構成の抗菌シート10は、例えば、弁当箱や重箱等の容器に収容された食品や、皿や器に盛られた食品に対し、食品を覆うように載置して使用することができる。或いは、料理の仕切りとして、刺身等の生魚や生肉の敷きシートとして使用することができる。
【0039】
次に、本実施形態の抗菌シート10の抗菌作用についての試験結果を示す。試験は、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、大腸菌、一般生菌の四種の菌について、それぞれ平板培地を作製し、平板培地を覆うようにシャーレの縁に抗菌シート10を載置した場合と、抗菌シート10を使用しない場合とで、所定時間後の平板培地における菌数を比較したものである。使用菌株、試験方法・条件等は、下記の通りである。
<使用菌株>
黄色ブドウ球菌:Staphylococcus aureus NBRC12732
セレウス菌 :Bacillus cereus NBRC3002
大腸菌 :Esherichia coli NBRC3972
一般生菌 :玄米由来
<試験方法・条件>
黄色ブドウ球菌:マンニット食塩卵寒天平板培養法(35℃、48hr)
セレウス菌 :NGKG寒天平板培養法(35℃、24hr)
大腸菌 :デソキシコレート寒天平板培養法 EMB寒天平板培養(35℃、24hr)
一般生菌 :標準寒天平板培養法(35℃、48hr)
【0040】
試験の結果を、表1、及び図5乃至図8に示す。ここで、図5乃至図8は、それぞれ黄色ブドウ球菌、セレウス菌、大腸菌、及び一般生菌についての試験結果を示す写真であり、各図において、それぞれ(a)は抗菌シート10を使用した場合、(b)は抗菌シート10を使用しない場合である。表1及び図5乃至図8から明らかなように、何れの菌についても、抗菌シート10の使用により菌の増殖が著しく抑制された。
【0041】
【表1】

【0042】
以上のように、本実施形態の抗菌シート10によれば、重ね合わされた二枚のシート体1,2間に抗菌剤層3が設けられるため、抗菌シート10を食品に対して用いても、抗菌剤層3が食品に直接接触することがない。そのため、抗菌剤に含まれるワサビの成分によって食品の味が損なわれる恐れや、ワサビの匂いが食品に移る恐れを低減することができる。そして、二枚のシート体1,2に設けられた拡散部5を介して、ワサビ成分がシート体1,2間から外部へと拡散するため、抗菌シート10の周辺の食品における菌類の繁殖が抑制され、腐敗の進行やカビの発生が抑制されて食品の鮮度を保持することができる。
【0043】
また、二枚のシート体1,2間に抗菌剤層3を形成することにより、抗菌剤層3を厚くすることができる。これにより、シートに抗菌剤を含浸させる従来品や、食品に接触するシート表面に抗菌剤を塗布する従来品に比べ、より多量の抗菌剤をシート体1,2間に保持させることができ、長期間にわたって抗菌作用を持続させることが可能となる。
【0044】
加えて、本実施形態では、拡散部5が一辺が1〜3mmのY字状の切込みであるため、拡散部5が大きく開口することがなく、抗菌剤層3が拡散部5から露呈して食品と直接接触することを回避できると共に、ワサビ成分を徐々に外部に拡散させることができる。
【0045】
また、それ自体が食品であるワサビに由来する成分を揮発成分として使用しているため、抗菌シート10を食品に対して安心して使用することができる。また、ワサビは非常に馴染みのある食材であるため、需要者が違和感なく使用することができる。
【0046】
更に、シート体1,2が透明であるため、食品を覆うように抗菌シート10を載置しても、抗菌シート10を通して食品を視認することができる。
【0047】
なお、抗菌シート10では、シート体1,2の四辺に沿って圧着部8が設けられる場合を例示したが、二辺のみが圧着された抗菌シートとすることもできる。例えば、図3(b)に例示するように、長尺の帯状のシート体1,2の長手方向の両外側のみを圧着し、この二辺のみに沿って圧着部8を形成することができる。この場合、長手方向に直交する切断線9’に沿って切断して、長方形の抗菌シート20としても良いし、切断線9’をミシン目として帯状のまま巻き取り、ミシン目で切り離して使用することもできる。このように適宜の長さで切断され又はミシン目で切り離された抗菌シート20では、対向する一対の辺が閉じ合わされ、他の一対の辺は開放しているため、この開放した辺を介しても揮発成分が拡散し、短時間に大きな抗菌作用を発揮するタイプの抗菌シート20となる。
【0048】
また、抗菌シート10では、二枚のシート体1,2の内、一方のシート体1にのみ抗菌剤層3が形成されているが、これに限定されず、図2(a)に例示するように、両方のシート体1,2に抗菌剤層3が形成された抗菌シート30とすることもできる。この場合は、何れのシート体1,2も、抗菌剤層3が形成された面を内側にして重ね合わされる。このような構成により、さらに多くの抗菌剤をシート体1,2間に保持させることができ、抗菌作用をより長期間持続させることができる。
【0049】
或いは、図2(b)に示すように、一方のシート体には、ワサビの抗菌成分を含む抗菌剤層3が形成され、他方のシート体には、例えば柑橘類の果物などの芳香成分を含む揮発成分含有層3’が形成された抗菌シート30’とすることができる。このような構成により、芳香成分によるマスキング消臭効果によって、ワサビのツンとする独特の匂いを調整することができる。これにより、食品へ及ぼすワサビの匂いの影響を、より一層低減することができる。
【0050】
更に、図2(c)に示すように、上記の抗菌剤に銀粒子を混合し、これを少なくとも何れか一方のシート体1,2にコーティングして形成された抗菌剤層4を具備する抗菌シート40とすることもできる。かかる構成により、銀の持つ抗菌作用で抗菌剤自体の鮮度を保持し、抗菌効果を持続させることができる。銀粒子として、直径1〜100nm程度の微細な粒子を使用すれば、表面積が極めて大きく、ごく微量の銀の添加で大きな抗菌作用を得ることができる。また、粒子が微細であるため、ワサビ成分のシクロデキストリン包接体や樹脂等、抗菌剤を構成する他の成分と混合し易く、銀粒子が均一に分散された揮発成分含有層4を形成することができる。
【0051】
その他、図2(d)に例示するように、透明なシート体1,2の少なくとも何れか一方の内側の表面に、銀の箔押加工により銀箔押層6が形成された抗菌シート50とすることもできる。かかる構成により、上記の抗菌シート40と同様に、銀の持つ抗菌作用で抗菌剤自体の鮮度を保持することができる。また、銀の箔押加工では、抗菌シート50の使用方法や効能等を表示する文字情報や図柄等の装飾を施すことができるため、銀箔押層6によって、抗菌シート50に、抗菌作用と同時に情報伝達作用、装飾作用を持たせることができる。特に、銀による煌びやかな装飾性によって、抗菌シート50を高級弁当や寿司など対して使用することにより、豪華な雰囲気を演出することができる。
【0052】
また、図2(e)に例示するように、銀の箔押加工が、シート体1,2の外側の面に施された抗菌シート60とすることもできる。かかる構成によれば、銀箔押層6が形成された面が食品に接触するように使用することにより、ワサビの抗菌作用に加えて、銀による抗菌作用を食品に対して作用させることができる。
【0053】
更に、他の実施形態として、図4に示すように、拡散部15が二枚のシート体の一方のシート体11にのみ設けられ、拡散部が設けられたシート体11を内側に、他方のシート体12を外側にして袋状に形成されている抗菌シート70として、本発明を適用することができる。ここで、二枚のシート体11,12は圧着部18を介して閉じ合わされ、更に圧着部18’を介して閉じ合わされることにより袋状に形成されている。また、二枚のシート体11,12間にはワサビ成分を含有した抗菌剤層13が形成されている。なお、本実施形態のシート体11,12にも、透明なプラスチックシートを使用している。
【0054】
上記の構成により、袋状の抗菌シート70を、食品の包装袋として使用することができる。例えば、おにぎり、パン、生麺、ハンバーグ、アイスキャンディー、バナナ等の果物を、袋状の抗菌シート70内に収容することができる。或いは、刺身等の生鮮食品や惣菜を、皿やトレーごと袋状の抗菌シート70内に収容することができる。このようにしても、抗菌剤層13は二枚のシート体11,12間に形成されているため、食品に直接触れることがない。そして、抗菌剤層13からは、袋状の内部側となるシート体11に設けられた拡散部15を介して、ワサビ成分が袋状の抗菌シート70の内部空間に拡散するため、収容された食品では菌類の繁殖が抑制され、鮮度を保持して保存することができる。一方、袋状の外側となるシート体12には拡散部は設けられていないため、抗菌シート70の外部には揮発成分が拡散することはなく、ワサビ成分の無駄な消費を防止して、有効に活用することができる。
【0055】
また、従来、食品の包装袋や包装容器内には、防腐剤等が収容された小袋が入れられているものがあり、誤って食品と一緒に口に入れたり、食品と一緒に鍋に投入してしまったりすることがあった。これに対し、本実施形態では、抗菌作用を有する抗菌シート70自体を、食品を収容する包装袋として使用することができるため、食品から包装を外す際には当然ながら抗菌シート70が外されることとなり、抗菌シート70を誤って口に入れたり、鍋に投入してしまったりする恐れのないものとなる。
【0056】
加えて、本実施形態のシート体11,12は透明であるため、袋状の抗菌シート70内に収容された食品を、外部から視認することができる。これにより、例えば、食品を袋状の抗菌シート70内に収容した状態で店頭に陳列しても、需要者が商品の選別や、食品の鮮度の確認を行う際に、支障をきたす恐れがないものとなっている。
【0057】
なお、本実施形態の袋状の抗菌シート70において、上述のように銀粒子を混合した抗菌剤を用いることも、シート体11,12に銀の箔押加工を行うこともできる。
【0058】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0059】
例えば、上記の実施形態では、抗菌成分としてワサビに由来する成分を用いる場合を例示したが、これに限定されるものではなく、例えば、カラシ、ニンニク、竹等に由来する抗菌成分も、同様に使用することができる。
【0060】
また、上記の実施形態では、抗菌シートを食品に対して使用する場合を例示したが、これに限定されず、カビが発生し易いもの、腐敗し易いもの、鮮度を長く保持したい種々のものに対して、広く使用することができる。例えば、医薬品や化粧パックの包装として、化粧用クリーム等の容器の中蓋として、本発明の揮発成分拡散シートを適用することができる。また、その際、抗菌成分を含有する揮発成分含有層と芳香成分を含有する揮発成分含有層とを共に備える構成とすることにより、或いは、ハーブエキス等のように抗菌作用と共に芳香を有する揮発成分で揮発成分含有層を構成させることにより、抗菌効果が得られると同時に芳香を発散する揮発成分拡散シートとして、化粧品等に対する使用に適したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】(a)は本実施形態の揮発成分拡散シートの概略構成を示す平面図であり、(b)は(a)のX−X断面図である。
【図2】他の実施形態の揮発成分拡散シートの概略構成を示す断面図である。
【図3】(a)は図1の揮発成分拡散シートの製造について、(b)は他の実施形態の揮発成分拡散シートの製造について説明する説明図である。
【図4】更に他の実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図5】黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用に関する試験結果を示す写真である。
【図6】セレウス菌に対する抗菌作用に関する試験結果を示す写真である。
【図7】大腸菌に対する抗菌作用に関する試験結果を示す写真である。
【図8】一般生菌に対する抗菌作用に関する試験結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0062】
1,2,11,12 シート体
3,4,13 抗菌剤層(揮発成分含有層)
3’ 揮発成分含有層
5,15 拡散部
6 銀箔押層
8,18,18’ 圧着部
10,20,30,30’,40,50,60,70 抗菌シート(揮発成分拡散シート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わされて周縁部の一部または全部で閉じ合わされた二枚のシート体と、
該シート体の少なくとも何れか一方にコーティングされることにより二枚の前記シート体間に形成された揮発成分含有層と、
二枚の前記シート体の少なくとも何れか一方に切込み又は小孔で形成された拡散部と
を具備することを特徴とする揮発成分拡散シート。
【請求項2】
前記揮発成分含有層は、ワサビに由来する揮発成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の揮発成分拡散シート。
【請求項3】
前記揮発成分含有層は、銀を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の揮発成分拡散シート。
【請求項4】
二枚の前記シート体の少なくとも何れか一方に銀が箔押加工された銀箔押層を具備することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の揮発成分拡散シート。
【請求項5】
前記拡散部は二枚のシート体の一方にのみ設けられ、前記拡散部が設けられた前記シート体を内側に、他方のシート体を外側にして袋状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の揮発成分拡散シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−118917(P2008−118917A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306150(P2006−306150)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(591091043)株式会社ツキオカ (38)
【Fターム(参考)】