説明

揺動ファン

【課題】低電圧での駆動を可能にした揺動ファンを提供する。
【解決手段】この揺動ファン1において、形状記憶合金11にオン/オフのパルス電圧を印加すると、形状記憶合金11自体の温度が変動し、変態温度を境にして形状記憶合金11は面方向に揺動する。さらに、形状記憶合金11には、電気絶縁性の接着剤13を介して板バネ12が固定されているので、パルス電圧印加時での通電時に、形状記憶合金11が加熱されて変態温度以上になると、板バネ12の付勢力に抗して形状記憶合金11は変態する。また、パルス電圧印加時での無通電時に、形状記憶合金11が冷えて変態温度以下になると、外力として作用する板バネの付勢力によって形状記憶合金11は、板バネ12の元の形状に素早く戻される。このように、形状記憶合金11に対し通電/無通電を順次繰り返すと、低電圧で平板状の団扇部3を団扇のように素早く揺動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種モバイル機器内の電子部品(例えばICチップ)の冷却や、芳香剤や殺虫剤の拡散に利用される小型で省電力の揺動ファンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電セラミックを用いた冷却ファンが知られている。例えば特許文献1には、圧電セラミックからなる圧電振動子と、この圧電振動子に対して直立する複数のブレードとを備えた冷却ファンが開示されている。そして、圧電振動子の屈曲運動により複数のブレードが振動することで、風量の増加が図られている。また、特許文献2には、長尺状の弾性金属板と、この弾性金属板の長さの中央部で弾性金属板を挟むように設けられた2枚の圧電セラミック板とを備えた冷却ファンが開示されている。圧電セラミック板に交流電圧を印加することで、弾性金属板の両自由端が振動して風を起し、冷却ファンに隣接した電子部品の冷却が図られている。
【特許文献1】特開平3−33500号公報
【特許文献2】特開2000−323882号公報
【特許文献3】特開2002−130198号公報
【特許文献4】特開2004−64991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
最近では、携帯通信機器の低電圧化の促進に伴い、これらの携帯通信機器の駆動電圧は
数V程度まで低下している。従って、携帯通信機器に用いられる冷却ファンも低電圧での
駆動が要求されている。また、上記の文献に開示されている冷却ファンは、圧電セラミックを振動させるために数十Vの交流電圧を必要とするので、低電圧で駆動させるには不向きであるといった問題点があった。
【0004】
本発明は、低電圧での駆動を可能にした揺動ファンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る揺動ファンは、平板状の団扇部と、通電可能な平板状の形状記憶合金と板バネとを電気絶縁性の接着剤によって貼り合わせたアクチュエータとを備え、
団扇部の基端には、アクチュエータの前端部分が電気絶縁性の接着剤によって固定されていることを特徴とする。
【0006】
この揺動ファンにおいて、形状記憶合金にパルス電圧を印加すると、形状記憶合金自体の温度が変動し、変態温度を境にして形状記憶合金は面方向に揺動する。さらに、形状記憶合金には、電気絶縁性の接着剤を介して板バネが固定されているので、パルス電圧印加時での通電時に、形状記憶合金が加熱されて変態温度以上になると、板バネの付勢力に抗して形状記憶合金は変態する。また、パルス電圧印加時での無通電時に、形状記憶合金が冷えて変態温度以下になると、外力として作用する板バネの付勢力によって形状記憶合金は、板バネの元の形状に素早く戻される。このように、形状記憶合金に対し通電/無通電を順次繰り返すと、低電圧で平板状の団扇部を団扇のように素早く揺動させることができる。さらに、形状記憶合金を利用した揺動ファンは、モータ駆動のファンに比べて極めて静音である。
【0007】
また、団扇部を収容する筐体を更に備え、筐体には、団扇部の先端に対峙する吹出し口と、団扇部の揺動軸線に対して直交する平面内に位置する吸込み口とが設けられていると好適である。
このような構成を採用すると、筐体を扁平にすることができ、揺動ファンの薄型化を可能にして、様々な機種への適用が容易になる。
【0008】
また、団扇部は、基端側から前方に向かって広がるように複数枚に分岐していると好適である。
このような構成を採用すると、複数枚の団扇部の揺動によって空気の吹出し効率や空気の攪拌効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る揺動ファンは、低電圧での駆動を可能にし、電池駆動も可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る揺動ファンの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1に示すように、揺動ファン1は、各種モバイル機器内の電子部品(例えばICチップ)の冷却や、芳香剤や殺虫剤の拡散に利用され、小型で省電力である。この揺動ファン1は、プラスチック製の筐体2と、団扇風発生手段A1とを備え、団扇風発生手段A1は、筐体2内に収容される団扇部3と、団扇部3の駆動源として利用されるアクチュエータ10とからなる。
【0012】
図2に示すように、プラスチック製の団扇部3は、厚み0.01〜0.2mm、幅4〜5mm、長さ10mmで、長方形に成形されている。団扇部3の基端には、板状のアクチュエータ10の前端部分が固定されている。図3に示すように、このアクチュエータ10は、厚さ数μmの薄板によって形成されると共に、高温処理によってフラットな状態を形状記憶させた形状記憶合金11と、厚さ0.01mmのバネ材(リン青銅又はステンレス鋼)によって形成されると共に、「へ」の字状にプレス加工された板バネ12と、形状記憶合金11と板バネとを貼り合わせる電気絶縁性の接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)13とからなる。そして、形状記憶合金11を「へ」の字状の板バネ12に貼り合わせることで、電源オフ時に、形状記憶合金11は、板バネ12の形状に倣って「へ」の字状に維持されている。
【0013】
また、形状記憶合金11の基端には、二股形状の端子部11a,11b(図2参照)が形成され、端子部11a,11bには、パルス電圧を発生させる外部電源のプラス側及びマイナス側がリード線を介して接続される。このような構成のアクチュエータ10の前端部分は、団扇部3の基端に電気絶縁性の接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)14によって固定されている。
【0014】
この団扇風発生手段A1において、外部電源が接続された形状記憶合金11の端子部11a,11bに、オン/オフ制御された数十Hzのパルス電圧を印加すると、形状記憶合金11自体の温度が変動し、変態温度を境にして形状記憶合金11は面方向に揺動する。すなわち、パルス電圧印加時での通電時あって、形状記憶合金11が加熱されて変態温度(例えば60°C)以上になると、板バネ12の付勢力に抗して形状記憶合金11は一文字状に変態する(図4参照)。また、パルス電圧印加時での無通電時にあって、形状記憶合金11が冷えて変態温度以下になると、外力として作用する板バネ12の付勢力によって形状記憶合金11は、板バネ12の元の形状(へ」の字状)に素早く戻される。
【0015】
このように、形状記憶合金11に対しパルス電圧の印加によって通電/無通電を順次繰り返すと、低電圧(数ボルト)で平板状の団扇部3を団扇のように素早く揺動させることができる。さらに、形状記憶合金11を利用した揺動ファン1は、モータ駆動のファンに比べて極めて静音である。また、アクチュエータ10の駆動電圧が数ボルトであるので、携帯機器への組み込みも容易になり、電池駆動も可能である。
【0016】
この団扇風発生手段A1は、筐体内に収容されていなくても様々な機器への適用が可能ではあるが、図1に示すように、筐体2内に収容することで、電子部品(例えばICチップ)の冷却や、芳香剤や殺虫剤の拡散にユニットとして適用させることが可能となる。
【0017】
図1に示すように、筐体2は、団扇部3を挟み込むように平行に配置された10mm×10mmの正方形状の2枚の側板16,17と、側板16と側板17との間に設けられたスペーサ18とを備えている。このスペーサ18は、団扇部3の幅より僅かに大きな厚みを有し、スペーサ18の厚みは、団扇部3が揺動する際に、団扇部3と側板16,17との接触が起きない厚みに設定されている。さらに、このスペーサ18によって、側板16,17間にV字状の団扇収容空間2aが形成され、この団扇収容空間2a内で団扇部3が揺動軸線L(図3及び図4参照)を中心にして団扇のように揺動する。
【0018】
さらに、筐体2には、団扇部3の先端に対峙する位置でスペーサ18と側板16,17によって作り出された「L」字状の吹出し口19が設けられている。また、筐体2の側板16,17には、団扇部3の揺動軸線L(図3及び図4参照)に対して直交する平面内に位置して、団扇収容空間2aに連通する扇形の吸込み口20,21が設けられている。従って、揺動軸線L方向から吸引された空気は、揺動軸線Lに対して直交する方向に排出させることができる。
【0019】
このような形状の筐体2は、揺動軸線L方向に扁平な薄型化が達成されており、細長い長方形状の団扇部3によって広い振り角度で素早い揺動を可能にしている。さらに、対峙しているそれぞれの吸込み口20,21から団扇収容空間2aに空気が同時に流入するので、団扇収容空間2a内で空気の乱流を生じさせ、吹出し口19から乱流の風を放出させることができる。このような風は、空気の攪乱作用を有し、空冷効果を格段に高めることができる。
【0020】
なお、アクチュエータ10の略中間部分は、筐体2に設けられた2本の起立ピン22(図3参照)で挟み込むようにして筐体2に固定され、起立ピン22より前方にはアクチュエータ10の屈曲部10aが配置され、起立ピン22より後方にはアクチュエータ10の端子部11a,11bが配置されることになる。
【0021】
[第2の実施形態]
図5及び図6に示すように、略正方形状をなす団扇部31の基端側の中央には、アクチュエータ10が電気絶縁性の接着剤によって固定され、団扇風発生手段A2を構成している。また、揺動ファン30において、団扇部31を収容する筐体32は、4枚の側板33,34,35,36によって形成され、筐体32には、4枚の側板33,34,35,36によって作り出された吹出し口37が団扇部31の先端に対峙する位置に設けられている。さらに、筐体32の揺動軸線L方向で対面する側板33,34には、団扇部31の揺動軸線Lに対して直交する平面内に位置して、団扇収容空間32aに連通する扇形の吸込み口38,39が設けられている。従って、揺動軸線L方向から吸引された空気を、揺動軸線Lに対して直交する方向に排出させることができる。
【0022】
このような形状の筐体32は、揺動軸線Lに対して直交する方向に扁平な薄型化が達成されており、略正方形状の大型の団扇部31によって一度に大きな風量を発生させることができる。さらに、対峙しているそれぞれの吸込み口38,39から団扇収容空間32aに空気が同時に流入するので、団扇収容空間32a内で空気の乱流を生じさせ、吹出し口37から乱流の風を放出させることができる。このような風は、空気の攪拌作用を有し、空冷効果を格段に高めることができる。なお、アクチュエータ10の略中間部分が、筐体32に固定され、その固定位置は、第1の実施形態と同様である。
【0023】
[第3の実施形態]
図7に示すように、団扇風発生手段A1は、LSIチップ40の表面に貼り付けられたアルミ製のヒートシンク41に適用されている。ヒートシンク41のベース板41aの上面には多数のフィン41bが設けられているが、ベース板41a上において、揺動ファン1の団扇部3が揺動する領域Sには、フィン41bが設けられていない。そして、ベース板41aのコーナにアクチュエータ10が固定され、団扇部3は、パルス電圧によってベース板41a上の領域S内で揺動する。
【0024】
このような構成にあっては、LSIチップ40の内部で発生した熱がフィン41bを伝わって空気中へと拡散してゆく際、揺動ファン1の団扇部3の揺動によって、フィン41bの間を流れる空気に強制的な対流を発生させることで、ヒートシンク41の放熱効果をより一層高めている。
【0025】
本発明は、前述した実施形態に限定されないことは言うまでもない。例えば、図8に示すように、団扇風発生手段A3における団扇部50は、2枚の団扇片50a,50bによって、扇子部50の基端側から前方に向かって広がるように2つに分岐していてもよく、図9に示すように、団扇風発生手段A4における団扇部60は、3枚の団扇片60a,60b,60cによって、扇子部60の基端側から前方に向かって広がるように3つに分岐していてもよい。このような構成によって、空気の吹出し効率や空気の攪拌効率を更に向上させることができる。
【0026】
また、本発明の揺動ファンに適用されるアクチュエータは、高温処理によって「へ」の字状に形状記憶させた形状記憶合金と、フラットな板バネとを電気絶縁性の接着剤によって貼り合わせたものであってもよい。この場合、電源オフ時に、形状記憶合金は、板バネの形状に倣ってフラットな状態に維持されている。なお、アクチュエータは、電源オフ時に略「L」字状の屈曲状態であってもよい。
【0027】
また、芳香剤や殺虫剤の拡散の適用にあっては、薬剤の放出口に団扇風発生手段又は揺動ファンを配置させると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る揺動ファンの第1の実施形態を示す斜視図である。
【図2】団扇風発生手段を示す斜視図である。
【図3】図1のII−II線に沿う拡大断面図である。
【図4】通電時のアクチュエータの状態を示す拡大断面図である。
【図5】本発明に係る揺動ファンの第2の実施形態を示す斜視図である。
【図6】団扇風発生手段を示す斜視図である。
【図7】ヒートシンクに団扇風発生手段を適用した第3の実施形態を示す斜視図である。
【図8】団扇風発生手段の変形例を示す斜視図である。
【図9】図8に示された団扇風発生手段の側面図である。
【図10】団扇風発生手段の他の変形例を示す斜視図である。
【図11】図10に示された団扇風発生手段の側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1,30…揺動ファン、2,32…筐体、3,31,50,60…団扇部、10…アクチュエータ、11…形状記憶合金、12…板バネ、13,14…接着剤、19,37…吹出し口、20,21,38,39…吸込み口、A1,A2,A3,A4…団扇風発生手段、L…揺動軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の団扇部と、
通電可能な平板状の形状記憶合金と板バネとを電気絶縁性の接着剤によって貼り合わせたアクチュエータとを備え、
前記団扇部の基端には、前記アクチュエータの前端部分が電気絶縁性の接着剤によって固定されていることを特徴とする揺動ファン。
【請求項2】
前記団扇部を収容する筐体を更に備え、
前記筐体には、前記団扇部の先端に対峙する吹出し口と、前記団扇部の揺動軸線に対して直交する平面内に位置する吸込み口とが設けられていることを特徴とする請求項1記載の揺動ファン。
【請求項3】
前記団扇部は、前記基端側から前方に向かって広がるように複数枚に分岐していることを特徴とする請求項1又は2記載の揺動ファン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−297915(P2008−297915A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141945(P2007−141945)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000001225)日本電産コパル株式会社 (755)
【Fターム(参考)】