説明

揺動型減衰装置およびそれを備えたベルトテンショナ装置

【課題】ケーシング10の内部空間に揺動ピストン51を配置して該内部空間を揺動方向に分割された2つの流体室C1,C2に区画する一方、それら両流体室C1,C2間を互いに連通する連通路を形成し、これら流体室C1,C2および連通路に磁気粘性流体Fを充填し、連通路内の磁気粘性流体Fに磁界を印加して剪断応力を変化させることで、揺動ピストン51の相対揺動に対する減衰力を変化させるようにした揺動型減衰装置において、部品点数およびシール箇所を減らして、製造コストの低減化および信頼性ならびに耐久性の向上に寄与できるようにする。
【解決手段】揺動ピストン51とケーシング10との間の隙間の全ての領域のうち、少なくとも一部の隙間領域により連通路52を構成し、その揺動ピストン51との間に、連通路52内の磁気粘性流体Fに磁界を印加する磁気回路Mを形成するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印加される磁界に応じて剪断応力が変化する磁気粘性流体を用いてケーシングと揺動ピストンとの間の相対揺動に対する減衰力を変化させるようにした揺動型減衰装置に関し、特に剪断応力による減衰力を十分に活用するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、磁気粘性流体を用いた従来の揺動型減衰装置としては、特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
このものは、円筒状をなすケーシングの内部空間に、円筒状要素およびピストン羽根からなる揺動ピストンを配置して該内部空間を第1および第2の2つの流体室に区画する一方、円筒状要素の周りに断面円弧状のスリーブおよび絶縁層を配置してケーシングに一体に設けることで、スリーブとケーシングとの間に両流体室同士を連通する断面円弧状の隙間からなる連通路を形成し、これら第1および第2流体室ならびに連通路に、液圧流体としての磁気レオロジー液体(磁気粘性流体)を充填するようになされている。
【0004】
そして、連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加することで、該連通路内の磁気粘性流体の剪断応力を増加させて見掛け上の粘度を高くし、これにより、連通路内における磁気粘性流体の通過抵抗を大きくすることで、ケーシングに対する揺動ピストンの相対回動を減衰させるようになされている。
【特許文献1】特表2002−524703号公報(第6〜7頁,図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の場合には、磁気回路を形成するのにスリーブおよび絶縁層という2つの部品と、それらの部品をケーシングに組み付ける工程とが必要であるために、その分だけ、製造コストがかさむ。
【0006】
また、ケーシング内にスリーブおよび絶縁層の配置スペースを確保する必要があるために、コンパクト化が困難である。
【0007】
さらに、揺動ピストン周りの全ての隙間領域をシールしなければならず、減衰特性に対する信頼性や耐久性の点で改良の余地がある。
【0008】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ケーシング内に揺動ピストンを配置して内部空間を2つの流体室に区画する一方、それら両流体室同士を連通路により連通させ、これら流体室および連通路に磁気粘性流体を充填し、連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加することでケーシングに対する揺動ピストンの相対揺動を減衰させるようにした揺動型減衰装置において、連通路の配置に見直しを加えることで、部品点数およびシール箇所を減らし、もって、製造コストの低減化ならびに信頼性および耐久性の向上に寄与できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成すべく、本発明では、揺動ピストンとケーシングとの間に生じる隙間に着目し、この隙間の全ての領域のうち、少なくとも一部の隙間を連通路に利用するとともに、その揺動ピストンとの間に磁気回路を形成するようにすることで、部品点数およびシール箇所を減らすようにした。
【0010】
具体的には、本発明は、軸心側から半径方向外方に向かって延びかつ周方向に拡がるように形成された断面略扇形状の内部空間を有するケーシングと、このケーシングの内部空間に上記軸心回りの2つの回動方向において揺動可能に配置されていて、該内部空間を周方向に分割された第1流体室と第2流体室とに区画する揺動ピストンと、上記第1流体室と上記第2流体室とを互いに連通する1つ以上の連通路と、上記第1流体室,第2流体室および連通路に充填されていて、印加された磁界に応じて剪断応力を変化させる磁気粘性流体と、上記1つ以上の連通路のうち、少なくとも1つの連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加する磁気回路を形成するための磁力を発生する磁力発生手段とを備え、上記磁力発生手段が発生する磁力を用いて形成した磁気回路により上記少なくとも1つの連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加して該磁気粘性流体の剪断応力を変化させることで上記ケーシングに対する揺動ピストンの相対回動を減衰させるようにした揺動型減衰装置を前提としている。
【0011】
そして、上記少なくとも1つの連通路は、上記揺動ピストンと上記ケーシングとの間の全隙間領域のうちの少なくとも一部の隙間領域により構成されており、上記の磁力発生手段は、上記揺動ピストンとの間に上記磁気回路を形成するように設けられているものとする。
【0012】
尚、上記の構成において、少なくとも1つの連通路を、揺動ピストンとケーシングとの間の全隙間領域のうち、該揺動ピストンの軸心側部位周りに位置する隙間領域により構成するとともに、磁力発生手段を、上記揺動ピストンの上記軸心側部位との間に磁気回路を形成するように設けることができる。
【0013】
また、揺動ピストンが、軸心上に軸方向に延びるように配置された軸心部位を有する場合には、少なくとも1つの連通路を、上記揺動ピストンとケーシングとの間の全隙間領域のうち、該揺動ピストンの上記軸心部位周りに位置する隙間領域により構成するとともに、磁気発生手段を、上記揺動ピストンの上記軸心部位との間に磁気回路を形成するように設けることもできる。
【0014】
また、揺動ピストンを、該揺動ピストンが一方向に相対回動したときに、該揺動ピストン周りの全隙間領域のうちの少なくとも一部の隙間領域において該ケーシングとの間の隙間幅寸法が大きくなり、他方向に相対回動したときに上記隙間幅寸法が小さくなるように設けてもよい。この場合、上記少なくとも一部の隙間領域を、揺動ピストン周りの全隙間領域のうち、連通路を構成する隙間領域以外とするようにしてもよい。
【0015】
さらに、上記の揺動型減衰装置により、ベルトテンショナ装置の減衰手段を構成するようにしてもよい。つまり、固定側に固定される固定部と、ベルトを押圧するための押圧部を有していて、該押圧部がベルトを押圧する方向と該押圧方向とは反対の方向との間で揺動可能に上記固定部に支持された揺動部と、上記固定部に対し揺動部をベルト押圧方向に向かって付勢する付勢手段と、上記揺動部の回動を減衰させる減衰手段とを備えたベルトテンショナ装置において、上記の減衰手段を、上記の揺動型減衰装置により構成することができる。この場合、揺動型減衰装置のケーシングは、上記固定部および上記揺動部のうちの一方に連結され、揺動型減衰装置の揺動ピストンは、上記固定部および上記揺動部のうちの他方に連結されることになる。
【0016】
また、上記のベルトテンショナ装置において、固定部に対する揺動部の相対揺動位置を検出する検出手段と、この検出手段により検出された相対揺動位置に基づいて、揺動型減衰装置の連通路内の磁気粘性流体に印加される磁界が変化するように磁力発生手段を制御する制御手段とを備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ケーシングの内部空間に揺動ピストンを配置して該内部空間を2つの流体室に区画する一方、それら両流体室間を互いに連通する連通路を形成し、これら流体室および連通路に磁気粘性流体を充填し、磁気回路により連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加して剪断応力を変化させることで、ケーシングに対する揺動ピストンの相対揺動を減衰させるようにした揺動型減衰装置において、揺動ピストンとケーシングとの間に生じる隙間の全領域のうちの少なくとも一部の隙間領域を上記連通路として利用し、さらに、その揺動ピストンとの間に上記磁気回路を形成するようにしたので、揺動ピストン周りの隙間以外に新たな隙間を設け、その隙間により連通路を構成するようにする従来の場合に比べ、部品点数および部品組付工程を少なくして製造コストの低減に寄与することができるとともに、揺動ピストン周りのシール領域を少なくして信頼性および耐久性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係るベルトテンショナ装置の全体構成を示しており、このベルトテンショナ装置は、自動車用エンジンの出力トルクの一部を1本の伝動ベルトを介して複数の補機に伝達するようにしたサーペンタインレイアウトのベルト伝動装置において伝動ベルトに所定の張力を付与するために使用される。
【0020】
このベルトテンショナ装置は、エンジン側に固定される固定部10と、この固定部10に、所定の揺動軸心P回りの2つの回動方向において揺動可能に支持された揺動部20とを備えている。揺動部20には、伝動ベルト(図示せず)を押圧するためのテンションプーリ30が取り付けられている。このテンションプーリ30は、揺動軸心Pに平行な軸心Q回りに回転可能に揺動部20に支持されている。
【0021】
固定部10と揺動部20との間には、テンションプーリ30が伝動ベルトを押圧する回動方向に向かって固定部10に対し揺動部20を常時付勢する捻りコイルばね40が介装されている。また、固定部10と揺動部20との間には、図2および図3にも示すように、固定部10に対する揺動部20の揺動を減衰させるための揺動型ダンパ50が設けられている。
【0022】
固定部10は、円板状の第1部材11と、この第1部材11に重ねられた第2部材12とからなっている。第1部材11の周縁部の複数箇所には、それぞれ、雌ねじが形成されたボルト螺着孔11aが軸方向に貫通するように設けられている。また、第1部材11における揺動部20側の面(図2および図3の各下側の面)の中央部分には、断面円形状の軸受穴11bが設けられている。
【0023】
第2部材12は、外周縁が第1部材11の外周縁に一致する第1側板部13と、この第1側板部13の内周縁から軸心に沿って固定部10とは反対の方向(図2および図3の各下方向)に延びる筒部14と、この筒部14の先端開口縁から半径方向外方に向かって突出するように周設された第2側板部15とからなっている。第2側板部15の揺動軸心P部分には、軸方向に貫通する断面円形状の軸孔15aが設けられている。第1側板部13の周縁部の複数箇所には、それぞれ、ボルト挿通孔13aが第1部材11のボルト螺着孔11aに対応するように設けられており、各ボルト挿通孔13aに挿通したボルト16の軸部先端を第1部材11のボルト螺着孔11aに螺着させることで、第1部材11と第2部材12とが一体に連結されている。
【0024】
一方、揺動部20は、外周縁が固定部10の第1部材11の外周縁よりも半径方向内方に位置する円形平板状の円板部21と、この円板部21の周縁に固定部10の側(図2の上側)に向かって突出するように周設された周壁部22と、円板部21の外周から半径方向外方に向かって突出するように設けられたアーム部23とを有する。アーム部23の突出端には、揺動軸心Pに平行でかつ固定部10側に向かって延びる枢支部23aが設けられており、テンションプーリ30は、この枢支部23aに揺動軸心Pに平行な軸心Q回りに回転可能に枢支されている。
【0025】
上記揺動部20の円板部21の中央部分には、揺動軸心Pに沿って延びるように配置された軸部材24が固定部10の側(図2の上側)に向かって突出する状態に揺動一体に取り付けられている。この軸部材24は、固定部10の第2部材12の第2側板部15の軸孔15aと、該第2部材12の筒部14とを順に貫通している。軸部材24の先端部(図2および図3の上端部)は、断面テーパ状に形成されていて、固定部10の第1部材11の軸受穴11b内に係入している。一方、第2側板部15の軸孔15a内には、内輪と外輪との間に複数個のボールが介装されてなるボールベアリング25が外輪において圧入されている。そして、軸部材24は、このボールベアリング25の内輪に回転一体に連結されており、このことで、軸部材24は、揺動軸心P回りに揺動可能なようにラジアル方向において固定部10に支承されている。また、軸受穴11b内には、軸部材24の先端部のテーパ面に摺接する摺動材からなる円環状のスラスト軸受26が配置されている。そして、軸部材24は、このスラスト軸受26を介して、揺動軸心P回りに揺動可能なようにスラスト方向において固定部10に支承されている。これらにより、揺動部20は、固定部10に軸部材24を介して揺動軸心P回りに揺動可能に支持されている。
【0026】
さらに、固定部10の第2部材12の第1側板部13と、揺動部20の円板部21との間には、固定部10に対し揺動部20をテンションプーリ30がベルトを押圧する回動方向に向かって常時付勢する捻りコイルばね40が介装されている。この捻りコイルばね40は、コイル部が固定部10の第2部材12の筒部14上に外嵌合している。コイル部の固定部10側のタングは固定部10に設けられた図外の係止部により周方向において移動不能に係止されている。コイル部の揺動部20側端部は揺動部20の円板部21上における周壁部22の半径方向内方に位置しており、揺動部20側のタングは、揺動部20に設けられた図外の係止部により周方向において移動不能に係止されている。図示する例では、捻りコイルばね40のコイル部は左巻きとされており、テンションプーリ30が図2の奥側から同図の手前側に向かう回動方向(図1の時計回り方向)に揺動部を付勢するようになっている。
【0027】
そして、本実施形態では、固定部10と揺動部20との間に、揺動部20の揺動を減衰する揺動型ダンパ50が設けられている。
【0028】
具体的には、この揺動型ダンパ50は、図1および図3にも示すように、固定部10(より正確には、第1部材11および第2部材12の筒部14ならびに第2側板部15)をケーシングとしている。このケーシングとしての固定部10内には、揺動軸心Pから半径方向外方に向かって延びかつ周方向に拡がる断面略扇形状の内部空間が形成されている。尚、図4に示すように、内部空間の周長さ中心角θ1は、少なくとも15°以上(θ1≧15°)であることが望ましい。図示する例では、略180°(θ1≒180°)としている。
【0029】
また、上記の内部空間には、該内部空間を周方向に分割された第1流体室C1および第2流体室C2に区画する揺動ピストン51が配置されている。この揺動ピストン51は、内部空間に位置する軸部材24の部位からなっていて揺動軸心P上に同軸状に配置された断面円形状の軸心部位51aと、この軸心部位51aに一体に設けられていて、該軸心部位51aから第1流体室C1と第2流体室C2とを区画するように半径方向外方に向かって延びる区画部51bとを有する。
【0030】
さらに、内部空間の側周壁面(筒部の内周壁面)における揺動軸心P周りの部分は、該揺動軸心Pを中心としかつ半径が軸心部位51aの半径よりも僅かに大きい断面円弧状に凹設されていて、揺動ピストン51の軸心部位51aの外周面との間に、断面円弧状の隙間を形成するようになされている。この隙間は、軸心部位51aの軸方向長さと略同じ寸法を軸方向における幅寸法とされていて、第1流体室C1と第2流体室C2とを互いに連通する連通路52とされている。尚、連通路52の周長さ中心角θ2は、少なくとも10°以上(θ2≧10°)であることが望ましい。図示する例では、略180°(θ2=180°)としている。
【0031】
その上で、第1流体室C1,第2流体室C2および連通路52には、印加された磁界に応じて剪断応力を変化させる磁気粘性流体Fが充填されている。また、第2側板部15の軸孔15a内には、磁気粘性流体Fが軸孔15aを通って外部空間に漏出しないように軸部材24に摺接してシールするシール材27が配置されている。また、さらに、揺動ピストン51と固定部10との間に形成される隙間の全ての領域のうち、揺動ピストン51の軸心部位51a周りに位置する隙間領域以外の隙間領域では、第1および第2流体室C1,C2間における磁気粘性流体Fの洩れを抑えるシール装置(図示せず)が設けられている。ここで、「磁気粘性流体」とは、粒子径が0.5〜100μmである磁性粒子を炭化水素系やシリコーン系などの媒体に分散含有させてなるものであり、粒子径が1〜100nmと相対的に小さい磁性粒子を媒体に分散含有させてなる「磁性流体」とは、分散のさせ方や減衰特性が大きく異なっており、また、適用分野も大きく異なっている。
【0032】
一方、揺動軸心Pに対し、固定部10の内部空間とは反対の側(図1〜図3の各左側)であって、固定部10の第2部材12における第1側板部13と第2側板部15との間に挟まれた断面略半円形状の外部空間には、連通路52内の磁気粘性流体Fに磁界を印加する磁気回路Mを形成するための磁力を発生する電磁石53が設けられている。この電磁石53は、略U字状の鉄心53aと、この鉄心53aに巻き付けられた電線からなるコイル部53bとからなっている。この電磁石53は、断面L字状のブラケット54を介して固定部10に取り付けられている。具体的には、ブラケット54は、ボルト挿通孔54aとボルト螺着孔54bとを有していて、第1部材11と第2部材12とを連結するボルト16によりボルト挿通孔54aにおいて共締めされている。そして、電磁石53の鉄心53aを貫通したボルト55がその先端ねじ部においてブラケット54のボルト螺着孔54bに螺着されている。
【0033】
上記鉄心53aの2箇所の端面は、固定部10の第2部材12の筒部14の外周壁面に略密着している。この電磁石53のコイル部53bは、該コイル部53bに電流を供給する電源部56に接続されている。そして、電源部56から給電されて電磁石53が磁力を発生することにより、揺動軸心Pに略直交する平面内において、連通路52における第1流体室C1側の部位と、揺動ピストン51の軸心部位51aと、連通路52における第2流体室C2側の部位とを通る磁気回路Mが形成され、この磁気回路Mにより、連通路52内の磁気粘性流体Fに磁界が印加されるようになっている。ここで、電磁石53および電源部56は、本発明における磁力発生手段を構成している。
【0034】
ここで、本ベルトテンショナ装置において、電磁石53に対し、電源部56による給電がON・OFFされたとき、つまり、揺動型ダンパ50の連通路52内の磁気粘性流体Fに対する磁界の印加がON・OFFされたときに揺動部20の揺動に作用する揺動型ダンパ50の減衰力の変化を、図5(a)に模式的に示す変位量(回動量)と減衰力との関係を示す特性図に基づいて説明する。
【0035】
尚、図5では、変位の変化を示す横軸については、揺動部20が反ベルト押圧方向に回動するときの変位量を「プラス」、ベルト押圧方向に回動するときの変位量を「マイナス」とし、一方、減衰力の変化を示す縦軸については、揺動部20が反ベルト押圧方向に回動するときの減衰力を「プラス」、ベルト押圧方向に回動するときの減衰力を「マイナス」(したがって、その絶対値が、ベルト押圧方向に回動するときの減衰力となる)としてそれぞれ示している。また、特性を表す実線(太い実線および細い実線)中の矢印は、その特性の経時的変化の方向を示している。つまり、特性は、揺動部20が反ベルト押圧方向に回動するときには変位の「プラス」側(同図の右側)に向かって経時的に変化し、一方、揺動部20がベルト押圧方向に回動するときには変位の「マイナス」側(同図の左側)に向かって経時的に変化する。
【0036】
磁界の印加がONであるとき、揺動型ダンパ50の連通路52内における磁気粘性流体Fは、その剪断応力を増加させ、その結果、見掛け上の粘度が高くなる。これにより、連通路52における磁気粘性流体Fの通過抵抗は、磁界の印加がOFFであるときに比べて大きくなるので、その分だけ、揺動ピストン51は、該揺動ピストン51の回動方向前側に位置する流体室C1,C2内の磁気粘性流体Fの圧力を受ける。具体的には、揺動部20がベルト押圧方向に回動するときには第2流体室C2内の磁気粘性流体Fの圧力を受け、一方、揺動部20が反ベルト押圧方向に回動するときには第1流体室C1内の磁気粘性流体Fの圧力を受ける。よって、図5(a)に細い実線で示すように、磁界の印加がONであるときの揺動部20の揺動に対する揺動型ダンパ50の減衰力は、同図(a)に太い実線で示す磁界の印加がOFFであるときの減衰力に比べて、何れの回動方向においても大きくなる。
【0037】
さらに、本ベルトテンショナ装置は、揺動部20の揺動位置を検出する検出手段としての検出センサ60と、この検出センサ60により検出された揺動部20の揺動位置に関するデータに基づいて、揺動部20の回動方向,回動速度,回動角度などを演算し、その演算結果に基づいて、電磁石53に対する電源部56の給電量を制御する制御手段としての制御部61とを備えている。具体的には、制御部61は、図5(b)に模式的に示すように、揺動部20がベルト押圧方向(図1の時計回り方向)に回動するときには、該揺動部20の回動に対する揺動型ダンパ50の減衰力が小さくなるように電源部56を制御(電源OFF)し、一方、揺動部20が反ベルト押圧方向(同図の反時計回り方向)に回動するときには、該揺動部20の回動に対する揺動型ダンパ50の減衰力が大きくなるように電源部56を制御(電源ON)する。
【0038】
次に、上記のように構成されたベルトテンショナ装置の作動について説明する。
【0039】
ベルトテンショナ装置の揺動部20は、捻りコイルばね40の付勢力により、テンションプーリ30がベルトを押圧する方向に常時付勢されているので、基本的には、ベルト張力が低下したときにベルト押圧方向に回動してベルト張力を回復させ、ベルト張力が増加したときに反ベルト押圧方向に回動してそのベルト張力の増加分を吸収するように作動する。つまり、ベルト張力の増減に応じて揺動する。ところが、その際に、揺動部20は、ベルト張力の増減変化に僅かに遅れて回動することから、単にベルト張力の変動に追従して作動するだけでは、ベルト張力の変動を逆に増幅する虞がある。
【0040】
そこで、本ベルトテンショナ装置では、揺動部20がベルト押圧方向に回動するときには、その回動に対する揺動型ダンパ50の減衰力が小さくなり、一方、揺動部20が反ベルト押圧方向に回動するときには、その回動に対する揺動型ダンパ50の減衰力が大きくなるように作動する。
【0041】
具体的には、制御部61では、検出センサ60の検出信号に基づいて揺動部20の回動方向を算出し、揺動部20がベルト押圧方向に回動していると判定したときには、電磁石53に対する電源部56の給電をOFFにする。これにより、電磁石53は磁力を発生せず、連通路52内の磁気粘性流体Fに磁界が印加されないので、連通路52内における磁気粘性流体Fの通過抵抗は最小になる。よって、揺動部20のベルト押圧方向への回動に伴い、揺動ピストン51が第1流体室C1の容積を減少させるとともに、第2流体室C2の容積を増加させる方向(図1の時計回り方向)の回動は比較的速やかに行われることとなる。
【0042】
一方、揺動部20が反ベルト押圧方向(図1の反時計回り方向)に回動していると判定したときには、電磁石53に対する電源部56の給電をONにする。これにより、電磁石53が磁力を発生し、連通路52内の磁気粘性流体Fに磁界が印加されるので、連通路52内における磁気粘性流体Fの剪断応力が大きくなり、連通路52内における磁気粘性流体Fの通過抵抗は最大になる。よって、揺動部20の反ベルト押圧方向への回動に伴い、揺動ピストン51が第2流体室C2の容積を減少させるとともに、第1流体室C1の容積を増加させる方向の回動は比較的緩慢に行われることとなる。
【0043】
したがって、本実施形態によれば、固定部10に対し揺動部20をテンションプーリ30がベルトを押圧する方向に捻りコイルばね40により回動付勢するようにしたベルトテンショナ装置において、揺動部20の揺動を減衰するために、固定部10の内部空間に、揺動部20に揺動一体に連結された揺動ピストン51を配置して該内部空間を揺動方向に分割された2つの流体室C1,C2に区画する一方、それら両流体室C1,C2間を互いに連通する連通路52を形成した上で、これら流体室C1,C2および連通路52に磁気粘性流体Fを充填し、連通路52内の磁気粘性流体Fに磁界を印加して剪断応力を変化させて固定部10に対する揺動ピストン51の揺動を減衰するようにした揺動型ダンパ50を用いる際に、揺動ピストン51と固定部10との間に生じる隙間の全ての領域のうち、該揺動ピストン51の軸心部位51a周りに位置する周方向寸法の比較的小さい断面円弧状の隙間領域を連通路52として利用し、その連通路52内の磁気粘性流体Fに磁界を印加するための磁気回路Mを軸心部位51aとの間に形成するようにしたので、揺動ピストン51周りの隙間以外に比較的周方向寸法の大きい隙間を形成し、その隙間により連通路を構成するようにする従来の場合に比べて、部品点数および部品組付工程を少なくして製造コストの低減に寄与することができるとともに、揺動ピストン51周りにおける固定部10との間のシール領域を少なくして信頼性および耐久性の向上を図ることができ、しかも、磁気粘性流体Fの剪断応力の特性を十分に活かした減衰特性を無理なく得ることができる。
【0044】
尚、上記の実施形態では、電磁石53を、揺動軸心Pに略直交する平面内に磁気回路Mが形成されるように配置しているが、図6の変形例1に示すように、揺動軸心Pを含む平面内に磁気回路Mが形成されるように配置するなど、連通路52を横断する面内に磁気回路Mを形成するようにしてもよい。
【0045】
また、上記の実施形態では、揺動ピストン51の軸心部位51a周りの隙間領域により連通路52を構成するようにしているが、揺動ピストン51が揺動軸心Pから離れた位置に位置していて軸心部位を有していない場合には、揺動軸心Pに近い部位である軸心側部位周りの隙間領域により連通路を構成するようにしてもよいし、さらには、揺動ピストン51が軸心部位を有するか否かに拘わらず、揺動ピストン51周りの隙間の全領域のうち、少なくとも一部の任意の隙間領域により連通路を構成するようにしてもよい。
【0046】
また、上記の実施形態では、揺動ピストン51の軸心部位51a周りの隙間(連通路52)以外の隙間(ケーシングとの間の隙間)を一定にするようにしているが、揺動ピストン51周りの隙間の全ての領域のうち、少なくとも一部の隙間領域において、その隙間寸法が揺動ピストン51の回動方向に応じて変化するようにしてもよい。具体的には、図7の変形例2に示すように、軸方向における区画部51bの基端側部位51b1に対し該区画部51bの先端側部位51b2を揺動軸心Pに平行な軸心R回りに揺動可能に設け、揺動ピストン51がベルト押圧方向(同図の時計回り方向)に回動したときには、先端側部位51b2が第2流体室C2の磁気粘性流体Fの圧力を受けて、ケーシングとの間の隙間幅寸法が大きくなるように軸心R回りに回動し、一方、揺動ピストン51が反ベルト押圧方向(同図の反時計回り方向)に回動したときには、先端側部位51b2が第1流体室C1の磁気粘性流体Fの圧力を受けて、ケーシングとの間の隙間幅村法が小さくなって該隙間がシールされるように回動する構成とすることができる。このようにすれば、揺動ピストン51の回動方向に拘わらず磁界を常にON又は常にOFFにしておくようにしたときに、上記の実施形態の場合には、図8(a)に示すように、それぞれ回動方向に拘わらず常に一定の減衰力が作用することになるのに対し、同図(b)に示すように、それぞれ回動方向に依存して大きく変化する減衰特性を得ることができる。
【0047】
また、上記の実施形態では、揺動部20の揺動に対する減衰特性に異方性(回動方向によって減衰力が異なる特性)を持たせる際に、ベルト押圧方向に回動したときには減衰力を小さくする一方、反ベルト押圧方向に回動したときには減衰力を大きくするようにしているが、このような減衰特性は必要に応じて適宜設定することができる。
【0048】
また、上記の実施形態では、揺動部20が一方向に回動したときに、その回動期間の全体を通じて減衰力を略一定にするようにしているが、回動期間中の各時期や回動位置などに応じて減衰力を変化させるようにしてもよい。
【0049】
また、上記の実施形態では、磁力発生手段として電磁石53を用いるようにしているが、例えば一定の磁界を常に印加するような場合には、磁力発生手段として永久磁石を用いるようにしてもよい。
【0050】
また、上記の実施形態では、固定部10側にケーシングを設定し、そのケーシング内に配置した揺動ピストン51を揺動部20に揺動一体に連結するようにしているが、揺動部20側にケーシングを設定する一方、固定部10に揺動ピストン51を連結するようにしてもよい。
【0051】
さらに、上記の実施形態では、本発明に係る揺動型減衰装置が組み込まれてなるベルトテンショナ装置の場合について説明しているが、本発明は、それ以外の種々の装置における揺動型減衰装置として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図3のI−I線断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るベルトテンショナ装置の全体構成を示す縦断面図である。
【図3】ベルトテンショナ装置における揺動型ダンパの全体構成を示す縦断面図である。
【図4】揺動型ダンパにおける内部空間および連通路の各周長さ角度を示す図3相当図である。
【図5】磁界を常にON又はOFFにしたとき(a)および磁界をON/OFF制御したとき(b)の揺動部の回動量と該揺動部の回動に対する減衰力との間の各特性を対比して示す特性図である。
【図6】本実施形態の変形例1における磁気回路を示す図3相当図である。
【図7】本実施形態の変形例2における揺動ピストンを示す図1相当図である。
【図8】本実施形態(a)および変形例2(b)においてそれぞれ磁界が常にON又はOFFであるときの揺動の回動量と該揺動部の回動に対する減衰力との間の各特性を対比して示す図5相当図である。
【符号の説明】
【0053】
10 固定部(ケーシング)
20 揺動部
30 テンションプーリ(押圧部)
40 捻りコイルばね(付勢手段)
50 揺動型ダンパ(減衰手段)
51 揺動ピストン
51a 軸心部位
51b 区画部
52 連通路
53 電磁石(磁力発生手段)
56 電源部(磁力発生手段)
60 検出センサ(検出手段)
61 制御部(制御手段)
C1 第1流体室
C2 第2流体室
F 磁気粘性流体
M 磁気回路
P 揺動軸心(軸心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心側から半径方向外方に向かって延びかつ周方向に拡がるように形成された断面略扇形状の内部空間を有するケーシングと、
上記ケーシングの内部空間に上記軸心回りの2つの回動方向において揺動可能に配置され、該内部空間を周方向に分割された第1流体室と第2流体室とに区画する揺動ピストンと、
上記第1流体室と上記第2流体室とを互いに連通する1つ以上の連通路と、
上記第1流体室,上記第2流体室および上記連通路に充填され、印加された磁界に応じて剪断応力を変化させる磁気粘性流体と、
上記1つ以上の連通路のうち、少なくとも1つの連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加する磁気回路を形成するための磁力を発生する磁力発生手段とを備え、
上記磁力発生手段が発生する磁力を用いて形成した磁気回路により上記少なくとも1つの連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加して該磁気粘性流体の剪断応力を変化させることで上記ケーシングに対する上記揺動ピストンの相対回動を減衰させるようにした揺動型減衰装置であって、
上記少なくとも1つの連通路は、上記揺動ピストンと上記ケーシングとの間の全隙間領域のうちの少なくとも一部の隙間領域により構成され、
上記磁力発生手段は、上記揺動ピストンとの間に上記磁気回路を形成するように設けられていることを特徴とする揺動型減衰装置。
【請求項2】
請求項1に記載の揺動型減衰装置において、
少なくとも1つの連通路は、揺動ピストンとケーシングとの間の全隙間領域のうち、該揺動ピストンの軸心側部位周りに位置する隙間領域により構成され、
磁力発生手段は、上記揺動ピストンの上記軸心側部位との間に磁気回路を形成するように設けられていることを特徴とする揺動型減衰装置。
【請求項3】
請求項2に記載の揺動型減衰装置において、
揺動ピストンは、軸心上に軸方向に延びるように配置された軸心部位を有し、
少なくとも1つの連通路は、上記揺動ピストンとケーシングとの間の全隙間領域のうち、該揺動ピストンの上記軸心部位周りに位置する隙間領域により構成され、
磁気発生手段は、上記揺動ピストンの上記軸心部位との間に磁気回路を形成するように設けられていることを特徴とする揺動型減衰装置。
【請求項4】
請求項1に記載の揺動型減衰装置において、
揺動ピストンは、該揺動ピストンが一方向に相対回動したときに、該揺動ピストン周りの全隙間領域のうちの少なくとも一部の隙間領域において該ケーシングとの間の隙間幅寸法が大きくなり、他方向に相対回動したときに上記隙間幅寸法が小さくなるように設けられていることを特徴とする揺動型減衰装置。
【請求項5】
請求項1に記載の揺動型減衰装置において、
揺動ピストンは、該揺動ピストンが一方向に相対回動したときに、該揺動ピストン周りの全隙間領域のうち、連通路を構成する隙間領域以外の少なくとも一部の隙間領域において該ケーシングとの間の隙間幅寸法が大きくなり、他方向に相対回動したときに上記隙間幅寸法が小さくなるように設けられていることを特徴とする揺動型減衰装置。
【請求項6】
固定側に固定される固定部と、
ベルトを押圧するための押圧部を有し、該押圧部がベルトを押圧する方向と該押圧方向とは反対の方向との間で揺動可能に上記固定部に支持された揺動部と、
上記固定部に対し、上記揺動部を上記ベルト押圧方向に向かって付勢する付勢手段と、 上記揺動部の回動を減衰させる減衰手段とを備えたベルトテンショナ装置であって、
上記減衰手段は、請求項1,2,3,4,5のうちの何れか1項に記載の揺動型減衰装置により構成され、
上記揺動型減衰装置のケーシングは、上記固定部および上記揺動部のうちの一方に連結され、
上記揺動型減衰装置の揺動ピストンは、上記固定部および上記揺動部のうちの他方に連結されていることを特徴とするベルトテンショナ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のベルトテンショナ装置において、
固定部に対する揺動部の相対揺動位置を検出する検出手段と、
上記検出手段により検出された相対揺動位置に基づき、揺動型減衰装置の連通路内の磁気粘性流体に印加される磁界が変化するように磁力発生手段を制御する制御手段とを備えていることを特徴とするベルトテンショナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−207671(P2006−207671A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19511(P2005−19511)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】